(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5710813
(24)【登録日】2015年3月13日
(45)【発行日】2015年4月30日
(54)【発明の名称】射出成形機のスクリュおよび射出成形機
(51)【国際特許分類】
B29C 45/50 20060101AFI20150409BHJP
B29C 45/60 20060101ALI20150409BHJP
【FI】
B29C45/50
B29C45/60
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-42373(P2014-42373)
(22)【出願日】2014年3月5日
【審査請求日】2014年3月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(73)【特許権者】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】日立マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097696
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 嘉昭
(74)【代理人】
【識別番号】100147072
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 裕通
(72)【発明者】
【氏名】上園 裕正
(72)【発明者】
【氏名】遊佐 敦
【審査官】
宮本 靖史
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−298838(JP,A)
【文献】
特開2007−230087(JP,A)
【文献】
特開2006−056265(JP,A)
【文献】
特開2005−001388(JP,A)
【文献】
特開2004−155134(JP,A)
【文献】
特開2003−305757(JP,A)
【文献】
特開2003−154526(JP,A)
【文献】
特表2001−516297(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00 − 45/24
B29C 45/46 − 45/63
B29C 45/70 − 45/72
B29C 45/74 − 45/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクリュの所定の位置に設けられているシール構造によって加熱シリンダ内が後方寄りの高圧エリアと前方寄りの低圧エリアとに仕切られ、溶融樹脂は高圧エリアにおいて不活性ガスが注入された後に低圧エリアに送られ、低圧エリアにおいて不活性ガスが脱気されるようになっている射出成形機のスクリュであって、
前記スクリュには、前記シール構造の下流側に所定の降圧緩和区間が設けられ、前記降圧緩和区間はフライト間のスクリュ溝が深い深溝部と浅い浅溝部とが少なくとも軸方向にそれぞれ2カ所以上形成され、不活性ガスは前記降圧緩和区間の下流側で脱気されるようになっていることを特徴とする射出成形機のスクリュ。
【請求項2】
請求項1に記載のスクリュにおいて、前記降圧緩和区間は2条以上の多条フライトから構成されていることを特徴とする射出成形機のスクリュ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のスクリュにおいて、前記シール構造は、前記スクリュが縮径している縮径部と、所定の隙間を開けて前記縮径部に嵌合されていると共に前記加熱シリンダのボアに対して液密的に摺動されるシールリングとからなり、前記縮径部には前記シールリングが着座するテーパ面が形成され、前記スクリュを所定の方向に回転すると前記シールリングは前記テーパ面から離間して前記隙間を介して前記高圧エリアと前記低圧エリアが連通し、逆方向に回転すると前記シールリングが前記テーパ面に着座して前記高圧エリアと前記低圧エリアの連通が遮断されるようになっていることを特徴とする射出成形機のスクリュ。
【請求項4】
請求項1または2に記載のスクリュにおいて、前記シール構造は、前記高圧エリアと前記低圧エリアを液密的に仕切るシールと、前記高圧エリアと前記低圧エリアとを連通する連通路と、該連通路を閉鎖し前記高圧エリアの溶融樹脂が所定の圧力を超えると溶融樹脂を前記低圧エリアに流動させる弁機構とを備えていることを特徴とする射出成形機のスクリュ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のスクリュを備え、
前記加熱シリンダは、前記高圧エリアに対応する所定の位置に、添加剤が溶解した超臨界状態の不活性ガスを注入する注入孔が明けられ、前記低圧エリアに対応する所定の位置に不活性ガスを脱気する脱気孔が明けられていることを特徴とする射出成形機。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載のスクリュを備え、
前記加熱シリンダは、前記高圧エリアに対応する所定の位置に、高圧の不活性ガスを注入する注入孔が明けられ、前記低圧エリアに対応する所定の位置に不活性ガスを脱気する脱気孔が明けられ、該脱気孔には所定の圧力で開放される弁が設けられていることを特徴とする射出成形機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形機のスクリュの所定の位置に設けられているシール構造によって加熱シリンダ内が後方寄りの高圧エリアと前方寄りの低圧エリアとに仕切られ、高圧エリアにおいて溶融樹脂に不活性ガスが注入され、低圧エリアにおいて不活性ガスが脱気されるようになっている射出成形機のスクリュに関するものである。
【背景技術】
【0002】
射出成形により成形されるプラスチック成形品に対して、無電解メッキ法を実施する場合、成形品の表面を改質するために成形品の脱脂、エッチング、湿潤化、キャタリスト、アクセレータ等の複雑な前処理工程が必要であり、表面の改質後、メッキ処理が実施される。このような前処理工程は有害物質を使用するので廃液の処理の問題があるし、工程が多くコストが高いという問題がある。近年、射出成形するだけで表面が改質された成形品を得る射出方法が提案されており、このような前処理工程を省略して無電解メッキ法を実施できるようになってきている。具体的には、金属錯体等の表面改質物質が添加された溶融樹脂を射出して成形品を得る方法であり、得られる成形品は表面が改質された状態になる。この方法においては、溶融樹脂に対して添加する表面改質物質は少量であるので、表面改質物質が溶融樹脂に均一に浸透・分散するように、超臨界状態にした不活性ガスも射出成形機の加熱シリンダ内に注入する。表面改質物質が溶融樹脂に均一に浸透・分散したら、加熱シリンダから不活性ガスを脱気する。このようにして得られた、表面改質物質が浸透・分散した溶融樹脂を金型に射出する。このような射出方法に適したスクリュと射出成形機が、特許文献1、2によって提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4804557号公報
【特許文献2】特許第4939623号公報
【0004】
特許文献1に記載のスクリュおよび射出成形機も、特許文献2に記載のスクリュおよび射出成形機も、スクリュの所定の位置にシールと所定の流動制御機構とからなるシール構造が設けられ、このシールによって加熱シリンダ内が2つのエリアに分割されている。特許文献1に記載のスクリュと特許文献2に記載のスクリュは、流動制御機構の構造が若干相違しているだけでその作用はほぼ同じであり、流動制御機構以外の他の構成について差異はない。そこで、特許文献1に記載のスクリュ51および射出成形機50について、
図3によって簡略的に説明する。スクリュ51は、加熱シリンダ53内に回転方向と軸方向とに駆動可能に入れられており、所定の位置において外周面にシール54が設けられている。またスクリュ51の後方寄りはフライト溝が浅くなっていてシール作用を奏するシール部52が形成されている。このシール54とシール部52とによって、加熱シリンダ53内には後方寄りつまり上流側に第1のエリア55が形成されている。そして前方寄りつまり下流側に第2のエリア56が形成されている。シール54の近傍のスクリュ51の内部には、流動制御機構58が設けられている。流動制御機構58は第1、2のエリア55、56を連通する連通路と、連通路を開閉する弁構造とからなり、第1のエリア55内の溶融樹脂の圧力を所定の圧力に維持し、圧力がそれより高くなると弁が開いて溶融樹脂が第2のエリア56に流れるようになっている。この弁構造によって第1のエリア55は高圧エリアに、第2のエリアは低圧エリアになっている。また、第2のエリア56から第1のエリア55への逆流は防止されている。スクリュ51は、第1のエリア55の所定の位置において溝が深くなっており、加熱シリンダ53には、この部分に注入口59が設けられ、注入口59には超臨界流体供給装置60が設けられ、二酸化炭素等の不活性ガスを高温高圧にして超臨界状態とし、これに表面改質物質が添加されて加熱シリンダ53内に注入されるようになっている。第2のエリア56に対応する加熱シリンダ53の所定の部分には、ベント部62が設けられ、弁63を開くと不活性ガスが脱気されるようになっている。
【0005】
このような射出成形機50は、例えば添加剤として表面改質物質を選定し、次のようにして射出成形することができる。すなわち、加熱シリンダ53を加熱してスクリュ51を回転し、後方のホッパ64から樹脂材料を供給すると、樹脂材料は溶融して第1のエリア55内にためられる。超臨界流体供給装置60によって表面改質物質が添加された超臨界状態の不活性ガスを生成し、これを注入口59から供給する。そうすると超臨界状態の不活性ガスによって第1のエリア55内の溶融樹脂は流動性が高くなり表面改質物質が溶融樹脂内に速やかにかつ均一に浸透・分散する。このとき第1のエリア55内は、流動制御機構58によって高圧に維持されるので、不活性ガスは超臨界状態を維持してガス化しない。第1のエリア55内の溶融樹脂の圧力が所定の圧力を超えると、流動制御機構58の弁が開いて溶融樹脂が第2のエリア56、つまり低圧エリアに流れる。第2のエリア56において減圧されると不活性ガスは気化する。弁63を開いて気化した不活性ガスを脱気する。そうすると表面改質物質が均一に浸透・分散した溶融樹脂が得られる。このような溶融樹脂がスクリュ51の先端に計量されたら、従来周知のようにスクリュ51を軸方向に駆動して、図示されない金型に射出する。冷却固化を待って金型を開くと、表面が改質された成形品が得られる。
【0006】
このようなスクリュを備えた射出成形機は、物理発泡剤つまり不活性ガスを使用した発泡成形にも好適である。発泡成形は所定の圧力下の溶融樹脂中に飽和溶解度に達するように不活性ガスを注入しておき、これを金型内のキャビティに射出し、キャビティ内のコアを駆動したり所定量だけ型開してキャビティの容積を大きくする。あるいはキャビティ内に少量の溶融樹脂を射出する。そうするとキャビティ内で溶融樹脂内の不活性ガスが発泡し、発泡成形品が得られる。このような発泡成形では、製品の品質にバラツキがでないように、射出する溶融樹脂中に正確に飽和溶解度になるように不活性ガスを注入する必要がある。しかしながら注入する不活性ガスを過不足無く正確に計量するのは難しい。これを
図3に示されているような射出成形機を使えば、正確に飽和溶解度の不活性ガスが注入された溶融樹脂を得ることができる。具体的には、
図3に示されている射出成形機50を次のように変形する。まず、超臨界流体供給装置60の代わりに、注入口59に不活性ガス供給装置を設け、二酸化炭素、窒素等の不活性ガスを10MPa等の高圧で第1のエリア55に注入できるようにする。そしてベント部62には、所定の圧力、例えば5MPaで開放されるように設定された背圧弁を設ける。このような射出成形機において、高圧エリアである第1のエリア55において溶融樹脂中に不活性ガスを若干過剰になるように注入する。そして低圧エリアである第2のエリア56において所定の圧力に減圧されて余分な不活性ガスが気化し、ベント部62から脱気される。そうすると、第2のエリア56において溶融樹脂中には所定の圧力下における飽和溶解度の不活性ガスが溶融した状態になる。これを射出すると、品質が均一な発泡成形品が得られる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の射出成形機50によっても、そして特許文献2に記載の射出成形機によっても、金属錯体からなる表面改質物質のような所望の添加剤を溶融樹脂に浸透・分散させることができ、所望の性質を備えた成形品を得ることはできる。特に、添加剤が少量であっても、第1のエリアにおいて超臨界状態の不活性ガスを注入することによって添加剤を効率よくかつ均一に溶融樹脂に浸透・分散させることができ、第2のエリアにおいては不要となった不活性ガスを適切に脱気でき、優れていると言える。また、このような射出成形機によって物理発泡剤を使用した発泡成形も実施でき、品質の高い発泡成形品が得られる。つまり第1、2のエリアを備えた射出成形機は、その基本的な構造については格別に問題はない。しかしながら、解決すべき問題も見受けられる。具体的には、第2のエリアにおける不活性ガスの脱気について問題が見受けられる。特許文献1、あるいは特許文献2に記載の射出成形機においては、ベント部において大気圧に開放されているので第2のエリアでは不活性ガスが速やかに気化してベント部から脱気される。しかしながらこのときに溶融樹脂がベント部においてベントアップしてしまい、ベント部を閉鎖したり外部に流出する可能性がある。これは、流動制御機構の弁構造が開いて第1のエリアの高圧の溶融樹脂が第2のエリアに流れるとき、その圧力差が大きいことによって溶融樹脂がベント部方向に強く押し出されて引き起こされる。また溶融樹脂から気化したガスの圧力で押し出される可能性もある。ベント部から溶融樹脂が流出しない場合でも、ベント部において溶融樹脂が盛り上がると、溶融樹脂がこの部分で固化してしまう。そうすると脱気の効率が低下して品質が低下する。仮に、第2のエリアにおいてベント部を可及的に下流方向に設けるようにすれば、溶融樹脂のベントアップは防止することができる。つまり、シール54から離間した位置にベント部を設けるようにすれば、溶融樹脂は第2のエリアを所定の距離送られた後にベント部に達するので、圧力は徐々に低下してベントアップは防止できる。しかしながら、このようにするとスクリュ長や機械長が長くなってコストが高くなる。そうすると有効な解決方法とは言えない。発泡成形をする場合においても同様の問題がある。第2のエリアにおいて所定の圧力が維持されるようになってはいるが、第2のエリアは第1のエリアに比して低圧になっているので、ベント部においてベントアップしてしまうことがあるからである。
【0008】
本発明は、上記したような問題点を解決した射出成形機のスクリュ、および射出成形機を提供することを目的としており、具体的には、スクリュに設けられているシール構造によって加熱シリンダ内が高圧エリアと低圧エリアとに仕切られ、高圧エリアにおいて不活性ガスが注入され、そして低圧エリアにおいて不活性ガスが脱気されるようになっている射出成形機において、不活性ガスを脱気するときに安全かつ確実にベントアップを防止できる射出成形機のスクリュ、および射出成形機を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記目的を達成するために、所定の位置にシール構造を備え、それによって加熱シリンダ内が後方寄りの高圧エリアと前方寄りの低圧エリアとに仕切られ、溶融樹脂が高圧エリアにおいて不活性ガスが注入された後に低圧エリアに送られ、低圧エリアにおいて不活性ガスが脱気されるようになっている射出成形機のスクリュを対象として構成される。本発明は、このようなスクリュにおいてシール構造の下流側に、フライト間のスクリュ溝が浅い浅溝部
と深い深溝部とが少なくとも軸方向に
それぞれ2カ所以上形成された降圧緩和区間を設ける。またこの降圧緩和区間は2条以上の多条フライトから構成する。そして不活性ガスは、このような降圧緩和区間の下流側で脱気されるように構成する。
【0010】
かくして、請求項1記載の発明は、上記目的を達成するために、スクリュの所定の位置に設けられているシール構造によって加熱シリンダ内が後方寄りの高圧エリアと前方寄りの低圧エリアとに仕切られ、溶融樹脂は高圧エリアにおいて不活性ガスが注入された後に低圧エリアに送られ、低圧エリアにおいて不活性ガスが脱気されるようになっている射出成形機のスクリュであって、前記スクリュには、前記シール構造の下流側に
所定の降圧緩和区間が設けられ、前記降圧緩和区間はフライト間のスクリュ溝が
深い深溝部と浅い浅溝部
とが少なくとも軸方向に
それぞれ2カ所以上形成され
、不活性ガスは
前記降圧緩和区間の下流側で脱気されるようになっていることを特徴とする射出成形機のスクリュとして構成される。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のスクリュにおいて、前記降圧緩和区間は2条以上の多条フライトから構成されていることを特徴とする射出成形機のスクリュとして構成される。
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載のスクリュにおいて、前記シール構造は、前記スクリュが縮径している縮径部と、所定の隙間を開けて前記縮径部に嵌合されていると共に前記加熱シリンダのボアに対して液密的に摺動されるシールリングとからなり、前記縮径部には前記シールリングが着座するテーパ面が形成され、前記スクリュを所定の方向に回転すると前記シールリングは前記テーパ面から離間して前記隙間を介して前記高圧エリアと前記低圧エリアが連通し、逆方向に回転すると前記シールリングが前記テーパ面に着座して前記高圧エリアと前記低圧エリアの連通が遮断されるようになっていることを特徴とする射出成形機のスクリュとして構成される。
請求項4に記載の発明は、請求項1または2に記載のスクリュにおいて、前記シール構造は、前記高圧エリアと前記低圧エリアを液密的に仕切るシールと、前記高圧エリアと前記低圧エリアとを連通する連通路と、該連通路を閉鎖し前記高圧エリアの溶融樹脂が所定の圧力を超えると溶融樹脂を前記低圧エリアに流動させる弁機構とを備えていることを特徴とする射出成形機のスクリュとして構成される。
【0011】
そして請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれかに記載のスクリュを備え、前記加熱シリンダは、前記高圧エリアに対応する所定の位置に、添加剤が溶解した超臨界状態の不活性ガスを注入する注入孔が明けられ、前記低圧エリアに対応する所定の位置に不活性ガスを脱気する脱気孔が明けられていることを特徴とする射出成形機として構成される。
請求項6に記載の発明は、請求項1〜4のいずれかに記載のスクリュを備え、前記加熱シリンダは、前記高圧エリアに対応する所定の位置に、高圧の不活性ガスを注入する注入孔が明けられ、前記低圧エリアに対応する所定の位置に不活性ガスを脱気する脱気孔が明けられ、該脱気孔には所定の圧力で開放される弁が設けられていることを特徴とする射出成形機として構成される。
【発明の効果】
【0012】
以上によると本発明は、スクリュの所定の位置に設けられているシール構造によって加熱シリンダ内が後方寄りの高圧エリアと前方寄りの低圧エリアとに仕切られ、溶融樹脂は高圧エリアにおいて不活性ガスが注入された後に低圧エリアに送られ、低圧エリアにおいて不活性ガスが脱気されるようになっている射出成形機のスクリュを対象としている。つまり金属錯体からなる表面改質物質等の添加剤を、溶融樹脂中に効率よく浸透・分散することができる射出成形機のスクリュ、あるいは不活性ガスからなる物理発泡剤による発泡成形を実施できる射出成形機のスクリュを対象としている。そして本発明によると、スクリュには、シール構造の下流側に
所定の降圧緩和区間が設けられ、降圧緩和区間はフライト間のスクリュ溝が
深い深溝部と浅い浅溝部
とが少なくとも軸方向に
それぞれ2カ所以上形成され
、不活性ガスは降圧緩和区間の下流側で脱気されるように構成されている。つまり降圧緩和区間は、低圧エリアに位置することになり、絞り作用によって圧力を降下させることができる浅溝部が軸方向に2カ所以上設けられていることになる。このように構成されているので、高圧エリアから低圧エリアに溶融樹脂が流動するときも、溶融樹脂は降圧緩和区間を流れて樹脂圧力が徐々に降下することになる。そしてその後不活性ガスが脱気されるようになっているので、ベント部、つまり加熱シリンダに設けられている脱気孔におけるベントアップを確実に防止することができる。また他の発明によると、降圧緩和区間は2条以上の多条フライトから構成されている。不活性ガスが高圧で注入されている溶融樹脂は、特に超臨界状態の不活性ガスが注入されている溶融樹脂は、粘性が低く流動性が高い。この降圧緩和区間が2条以上の多条フライトから構成された発明によって、流動性の高い溶融樹脂であっても逆流することなく適切にスクリュの下流に送られることになり、降圧緩和区間において滑らかに樹脂圧力が降下することが保証される。これによって確実にベントアップを防止することができることになる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施の形態に係るスクリュを備えた、第1の実施の形態に係る射出成形機を示す図で、その(ア)は射出成形機の側面断面図、その(イ)(ウ)は、それぞれ(ア)における符号X、Yで示される部分を拡大した、スクリュの一部側面図とスクリュの一部側面断面図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係るスクリュを備えた、第2の実施の形態に係る射出成形機を示す側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について説明する。本発明の第1の実施の形態に係る射出成形機は、溶融樹脂に所望の添加剤を浸透・分散させるとき、超臨界状態の不活性ガスを利用して効率的に浸透・分散させる射出成形機として構成されている。従って、特許文献1や特許文献2に記載の射出成形機とその構成が類似している。すなわち、本実施の形態に係る射出成形機1も、
図1の(ア)に示されているように、加熱シリンダ2と、この加熱シリンダ2内で回転方向と軸方向とに駆動可能に設けられているスクリュ3とから構成されている。加熱シリンダ2の外周面には、複数枚のバンドヒータが巻かれているが、これらは図に示されていない。
【0015】
本実施の形態に係るスクリュ3も、特許文献1に記載のスクリュと同様に、超臨界状態の不活性ガスを利用するのに適した特定の構造を備えている。すなわち、スクリュ3には所定の位置に第1のシール構造7と第2のシール構造27とが設けられている。これによって後で説明するように加熱シリンダ2内が3つのエリアに区分されることになり、不活性ガスを注入するための高圧エリアと不活性ガスを脱気するための低圧エリアが形成されている。
【0016】
第1のシール構造7は、シール5と、圧力の調整作用を奏する流動制御機構6とからなる。シール5は、
図1の(ウ)に詳しく示されているように、スクリュ3の外周面に形成されている所定幅の溝に設けられており、加熱シリンダ2のボアに滑らかに接して摺動するようになっており、この外周面において溶融樹脂が流動することを防止している。つまり加熱シリンダ2内は、このシール5によって、上流側の第1のエリア8と下流側の第2のエリア9とに液密的に仕切られている。第1のシール構造7には流動制御機構6が1個あるいは複数個設けられているが、1個の流動制御機構6は、第1、2のエリア8、9を連通するようにスクリュ3内に明けられている連通路10と、この連通路10を開閉する弁機構11とから構成されている。連通路10は途中の部分がテーパ状に縮径されており、それによってテーパ状の着座面13が形成されている。この着座面13に、弁機構11を構成しているポペット弁14の頭部15が着座すると連通路10が閉鎖されるようになっている。ポペット弁14は、傘状の頭部15と軸部16とから構成されており、軸部16には複数枚の皿バネ18、18、…が設けられている。このように皿バネ18、18、…が設けられたポペット弁14は、有底の穴が開けられているリティナ19に入れられている。そしてリティナ19はその外周面に形成されている雄ねじによって連通路10の内周面に形成されている雌ねじに螺合され、固定されている。従ってポペット弁14は、皿バネ18、18、…によって付勢されて頭部15が着座面13に押しつけられ、連通路10を閉鎖している。このポペット弁14は、第1のエリア8内の溶融樹脂が所定の圧力になると皿バネ18、18、…の付勢に抗して後退し、第1、2のエリア8、9が連通して溶融樹脂が第2のエリア9に流動することになる。なお、リティナ19には樹脂路20が明けられていて、第1、2のエリア8、9が連通すると溶融樹脂はこの樹脂路20から第2のエリア9に流動するようになっている。第1、2のエリア8、9の溶融樹脂の圧力が等しいとき、あるいは第2のエリア9の圧力の方が高いときには、ポペット弁14は着座面13に着座して連通が遮断されるので、第2のエリア9から第1のエリア8への溶融樹脂の逆流は完全に防止されるようになっている。
【0017】
第2のシール構造27は、
図1の(イ)に詳しく示されているように、スクリュ3を縮径した縮径部28と、この縮径部28に所定の隙間を空けて設けられているシールリング29とから構成されている。シールリング29はその外周面が加熱シリンダ2のボアに滑らかに接していて外周面から溶融樹脂が流動することはない。つまり、このシールリング29によって加熱シリンダ2内は上流側の第2のエリア9と下流側の第3のエリア30とに液密的に仕切られている。シールリング29が隙間を空けて嵌合している縮径部28はその上流側において拡径されてテーパ面31が形成されており、シールリング29の上流側の端部もテーパ状に形成されている。このシールリング29のテーパ状の端部がテーパ面31から離間しているときは、縮径部28とシールリング29の隙間を介して第2、3のエリア9、30が連通して溶融樹脂が下流に流動することになり、シールリング29の端部がテーパ面31に着座していると、連通は遮断されて溶融樹脂の流動は阻害される。縮径部28にはピン32が設けれており、シールリング29に形成されている係止部が係止されるようになっている。計量工程においてスクリュ3を順方向に回転するときには、シールリング29がピン32に係止されて溶融樹脂の流路が確保され、溶融樹脂は第3のエリア30に送られるが、スクリュ3を半周程度逆回転させると係止状態が解除されてシールリング29はテーパ面31に着座する。すなわち連通が遮断される。そうすると第2のエリア9の溶融樹脂の圧力が高くなっても第3のエリア30への溶融樹脂の流動を確実に防止できる。また射出時等に第3のエリア30から第2のエリア9への溶融樹脂の逆流も防止することができる。
【0018】
このように第1、2のシール構造7、27によって加熱シリンダ2内は第1〜3のエリア8、9、30に仕切られているが、第1のエリア8は材料の樹脂を溶融する溶融エリアになっている。そして特許請求の範囲における高圧エリアは溶融樹脂に不活性ガスを高圧で注入するようになっている第2のエリア9に、そして低圧エリアは溶融樹脂から不活性ガスを脱気させる第3のエリア27が、それぞれ該当している。また特許請求の範囲におけるシール構造は、高圧エリアと低圧エリアとを分割しているシール構造である、第2のシール構造27が該当している。
【0019】
次に本実施の形態に係るスクリュ3のフライトについて説明する。スクリュ3の第1のエリア8、つまり第1のシール構造7より上流側は、一般的なピッチとリードのシングルフライトが形成され、材料の樹脂を溶融して前方に送り出すようになっている。スクリュ3の第2のエリア9、つまり高圧エリアは、ミキシング区間34になっており、いわゆるバリアー形と呼ばれる多条フライトから形成され、効率よくミキシングされるようになっている。このような第2のエリア9に対応するように、加熱シリンダ2には注入孔21が設けられている。そして注入孔21には添加剤注入装置23が接続されている。添加剤注入装置23は、ガスボンベ24から供給される二酸化炭素等の不活性ガスを超臨界状態にし、添加剤供給槽25から供給される表面改質物質等の添加剤をこの超臨界状態の不活性ガスに溶解させて、加熱シリンダ2に供給する装置である。
【0020】
スクリュ3の第3のエリア30つまり低圧エリアには、本発明に特有のフライトを備えた降圧緩和区間35が設けられている。降圧緩和区間35のフライトは、リードが一般的なフライトと同じであるが、複数条のフライトからなる多条フライトからなる。本実施の形態においては2条フライトから構成されている。このように複数条のフライトから構成されているので、降圧緩和区間35において送り出される溶融樹脂は、粘性が小さくても流れが乱れたり逆流することなく、滑らかに下流に送られることになる。このような降圧緩和区間35は、スクリュ溝が深い深溝部37、37と、浅い浅溝部38、38が軸方向に少なくとも2カ所以上形成されている。つまり浅溝部38、38が2カ所以上形成されている。この浅溝部38、38が絞り作用を奏し、溶融樹脂が流れるときに圧力を適切に降下させることになる。
【0021】
低圧エリアに対応するスクリュ3の降圧緩和区間35の下流側は、一般的なシングルフライトに形成されている。加熱シリンダ2には、このシングルフライトに対応する部分に不活性ガスを脱気する脱気孔40が設けられている。つまり不活性ガスは降圧緩和区間35の下流側で脱気されることになる。なお、脱気孔40は脱気弁41によって開閉するようになっている。
【0022】
本発明の第1の実施の形態に係る射出成形機1の作用を説明する。加熱シリンダ2を加熱してスクリュ3を順方向に回転し、図に示されていないホッパから樹脂材料を供給する。供給された樹脂材料は、第1のエリア8において加熱シリンダ2の熱とスクリュ3の回転の剪断力による熱によって溶融し、第2のエリア9すなわち高圧エリアに送られる。
【0023】
第2のエリア9に送られる溶融樹脂が所定量に達したら、スクリュ3の回転を停止して約半周分逆回転させる。そうすると第2のシール構造27においてピン32による係止が解除されてシールリング29がスクリュ3に対して相対的に半周分回転する。そうするとシールリング29がテーパ面31に着座して第2、3のエリア9、30の連通が遮断される。添加剤注入装置23によって、金属錯体からなる表面改質物質等の添加剤と、超臨界状態にされた不活性ガスを加熱シリンダ2の第2のエリア9、つまり高圧エリアに注入する。高圧エリアは第1、2のシール構造7、27によって完全にシーリングされているので、不活性ガスが注入されて高圧になっても溶融樹脂は第1のエリア8にも、そして低圧エリアである第3のエリア30にも漏れない。超臨界状態の不活性ガスが注入されると溶融樹脂の粘性は小さくなって流動性が高くなり、添加剤は速やかに溶融樹脂に浸透・分散する。
【0024】
スクリュ3を順方向に回転する。そうすると第2のシール構造27においてシールリング29がテーパ面31から離間して第2、3のエリア9、30、つまり高圧エリアと低圧エリアが連通する。脱気弁41を開にしているので、低圧エリアの脱気孔40の近傍は大気圧に近い。そうすると、高圧エリアの溶融樹脂は低圧エリア側に強く押し流されることになる。しかしながら溶融樹脂が高圧エリアから低圧エリアに送られるときに、溶融樹脂は降圧緩和区間35を流れるので、脱気孔40において不活性ガスが脱気されるときにベントアップは発生しない。詳しく説明すると、降圧緩和区間35では2条のフライトによって、溶融樹脂は滑らかに下流に送られる。そして2カ所の溝浅部38、38によって溶融樹脂の圧力は低下する。換言すると2カ所の溝浅部38、38が溶融樹脂の流動抵抗となって、流動の速度が大きくなるのが抑制される。このように本実施の形態に係るスクリュ3では、降圧緩和区間35によって溶融樹脂の圧力が徐々に低下し、そして流動の速度が抑制されるので、溶融樹脂は緩やかに下流に送られることになり、これによって脱気孔40における溶融樹脂のベントアップが防止される。脱気孔40から不活性ガスが脱気されて表面改質物質等の添加剤が均一に分散した溶融樹脂が得られる。所定量の溶融樹脂が計量されたら、従来周知のようにスクリュ3を軸方向に駆動して射出する。
【0025】
次に第2の実施の形態に係る射出成形機1’について説明する。第2の実施の形態に係る射出成形機1’は、不活性ガスからなる物理発泡剤を使って発泡成形品を得る射出成形機として構成されている。射出成形機1’は
図2に示されているように、第1の実施の形態に係る射出成形機1とほぼ同様に構成されている。第1の実施の形態に係る射出成形機1と同様の部材については同じ符号を付して説明を省略する。第2の実施の形態に係る射出成形機1’は、注入孔21は不活性ガスを注入する不活性ガス注入装置43が設けられている。そして脱気孔40には背圧弁44が設けられ、脱気孔40における圧力が所定の圧力、例えば5MPa以上になると弁が開くようになっている。つまり脱気孔40近傍を一定の圧力に維持するようになっている。
【0026】
当業者であれば容易に理解できるので詳しくは説明しないが、第2の実施の形態に係る射出成形機1’によって発泡成形品を得るには次のようにする。スクリュを回転して溶融樹脂を第2のエリア9、つまり高圧エリアに送る。スクリュを約半周分だけ逆回転して第2のシール構造27における連通を遮断する。この状態で高圧エリアに若干多めに不活性ガスを注入する。そうすると溶融樹脂の圧力は、例えば10MPa等に上昇する。スクリュを順方向に回転すると第2のシール構造27が連通し、溶融樹脂はミキシング区間34において混練されながら第3のエリア30つまり低圧エリアに送られる。低圧エリアは背圧弁44によって5MPaになるように制御されているので、溶融樹脂は高圧エリアから低圧エリアに強く送り出されるが、降圧緩和区間35によって流動が抑制され圧力は滑らかに降下して脱気孔40におけるベントアップが抑制される。脱気孔40から不活性ガスが脱気されると、第2のエリア30には、5MPaの圧力下における飽和溶解度で不活性ガスが溶解した溶融樹脂が得られる。これを射出すると発泡成形品が得られる。
【0027】
本実施の形態は色々な変形が可能である。例えば、第1、2のシール構造7、27は、シール作用を奏すると共に所定の条件によって溶融樹脂を流動させることができれば、他の構造から構成されていてもよい。例えば、第2のシール構造27に、第1のシール構造7と同じものを採用してもよい。他の点についても変形が可能である。例えば第1、2エリア8、9のフライトは、本実施の形態に限定される必要はなく、他の種類のフライトに換えることもできる。
【符号の説明】
【0028】
1 射出成形機 2 加熱シリンダ
3 スクリュ 5 シール
6 流動制御機構 7 第1のシール構造
8 第1のエリア 9 第2のエリア
10 連通路 11 弁機構
13 着座面 14 ポペット弁
21 注入孔 23 添加剤供給装置
27 第2のシール構造 30 第3のエリア
34 ミキシング区間 35 降圧緩和区間
37 深溝部 38 浅溝部
40 脱気孔 44 背圧弁
【要約】
【課題】溶融樹脂に不活性ガスを注入し、余分な不活性ガスを脱気して射出する射出成形機において、ベントアップを防止するスクリュを提供する。
【解決手段】スクリュ(3)に設けられているシール構造(27)によって加熱シリンダ(2)内が、上流側で不活性ガスが注入される高圧エリア(9)とこの下流側で不活性ガスが脱気される低圧エリア(30)とに仕切られた射出成形機(1)のスクリュ(3)を対象とする。本発明は、このスクリュ(3)のシール構造(27)より下流側に降圧緩和区間(35)を設ける。降圧緩和区間(35)は2条以上の多条フライトから構成し、スクリュ溝が浅い浅溝部(38)が軸方向に2カ所以上形成されるようにする。不活性ガスはこの降圧緩和区間(35)の下流側で脱気する。
【選択図】
図1