特許第5710822号(P5710822)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5710822
(24)【登録日】2015年3月13日
(45)【発行日】2015年4月30日
(54)【発明の名称】高分散性アルカリ土類金属炭酸塩微粉末
(51)【国際特許分類】
   C01F 11/18 20060101AFI20150409BHJP
【FI】
   C01F11/18 M
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-96566(P2014-96566)
(22)【出願日】2014年5月8日
(62)【分割の表示】特願2009-504068(P2009-504068)の分割
【原出願日】2008年3月12日
(65)【公開番号】特開2014-193809(P2014-193809A)
(43)【公開日】2014年10月9日
【審査請求日】2014年5月30日
(31)【優先権主張番号】特願2007-63764(P2007-63764)
(32)【優先日】2007年3月13日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000119988
【氏名又は名称】宇部マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074675
【弁理士】
【氏名又は名称】柳川 泰男
(72)【発明者】
【氏名】市村 洋二郎
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 孝志
(72)【発明者】
【氏名】岡田 文夫
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−59372(JP,A)
【文献】 特表平11−514961(JP,A)
【文献】 特開平7−25611(JP,A)
【文献】 特開平7−196305(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 11/00 − 11/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸バリウムの微粉末であって、一次粒子の投影面積円相当径の平均が30〜90nmの範囲にあり、細孔径10〜20nmの細孔の累積細孔容積が5×10-2cm3/g以上である炭酸バリウム微粉末。
【請求項2】
細孔径10〜20nmの細孔の累積細孔容積が5×10-2〜15×10-2cm3/gの範囲にある請求項1に記載の炭酸バリウム微粉末。
【請求項3】
細孔径10nm未満の細孔の累積細孔容積が4×10-2cm3/g以下である請求項1に記載の炭酸バリウム微粉末。
【請求項4】
アスペクト比の平均が2以下である請求項1に記載の炭酸バリウム微粉末。
【請求項5】
表面に、ポリカルボン酸もしくはその無水物またはその塩からなるポリマーが付着している請求項1に記載の炭酸バリウム微粉末。
【請求項6】
測定対象の粉末0.5gを濃度0.2質量%のヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液50mLに投入し、次いで出力55Wの超音波バスで6分間分散処理することにより調製した懸濁液に含まれる粒子のレーザー回折散乱法によって測定された体積基準の粒度分布から求められる体積基準の平均粒子径が500nm以下であって、粒子径が1000nm以上の粒子の含有率が5体積%以下である請求項1に記載の炭酸バリウム微粉末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭酸バリウム、炭酸ストロンチウム及び炭酸カルシウムからなる群より選ばれるアルカリ土類金属炭酸塩の高分散性の微粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
炭酸バリウム粉末、炭酸ストロンチウム粉末及び炭酸カルシウム粉末などのアルカリ土類金属炭酸塩粉末の用途の一つとして、誘電体セラミックス粉末の製造原料の用途がある。例えば、炭酸バリウム粉末はチタン酸バリウムの製造原料として、炭酸ストロンチウム粉末はチタン酸ストロンチウム粉末の製造原料として、炭酸バリウム粉末と炭酸カルシウム粉末とはチタン酸バリウムカルシウム粉末の製造原料として用いられている。これらの誘電体セラミックス粉末は、積層セラミックコンデンサの誘電体セラミック層の構成材料として利用されている。
【0003】
電子機器の小型化に伴って、積層セラミックコンデンサにおいても小型化が求められている。積層セラミックコンデンサの小型化のためには、積層セラミックコンデンサの誘電体セラミック層の薄層化が必要となる。この誘電体セラミック層の薄層化のためには、微細で、かつ組成が均一な誘電体セラミックス粉末が不可欠である。
【0004】
微細なチタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム粉末及びチタン酸バリウムカルシウムなどの誘電体セラミックス粉末を製造するには、炭酸バリウム粉末、炭酸ストロンチウム粉末、炭酸カルシウム粉末及び二酸化チタン粉末などの原料粉末が微細であることが必要となる。このため微細な炭酸ストロンチウム粉末、炭酸バリウム粉末、炭酸カルシウム粉末及び二酸化チタン粉末を製造するための方法が検討されており、次に述べるような方法が開示されている。
【0005】
特許文献1には、微細なアルカリ土類金属炭酸塩粉末の製造方法として、アルカリ土類金属の水酸化物溶液に、好ましくは特定のカルボン酸のアンモニウム塩及びアルキルアンモニウム塩を含む群から選択された結晶成長防止剤の存在下にて、二酸化炭素ガスを導入して、アルカリ土類金属粒子を生成させ、生成したアルカリ土類金属炭酸塩粒子に撹拌反応器(ホモジナイザー)を用いて、互いにかみ合う手段の剪断力及び摩擦力を高い相対速度で加えた後に、分離して、乾燥することからなる方法が開示されている。この特許文献1によれば、上記の方法を利用することによって、炭酸ストロンチウムの場合には、BET比表面積が3〜50m2/gの範囲にあって、粒子の少なくとも90%以上が0.1〜1.0μmの範囲、有利には0.2〜1.0μmの範囲の直径を有する微粉末が得られ、炭酸バリウムの場合には、BET比表面積が3〜30m2/g、有利には3〜20m2/g、特に8〜15m2/gの範囲にあって、粒子の少なくとも90%以上が0.2〜0.7μmの範囲の直径を有する微粉末が得られるとされている。なお、特許文献1には、結晶成長防止剤の具体例として、クエン酸、リンゴ酸、アジピン酸、グルコン酸、グルカル酸、グルクロン酸、酒石酸及びマレイン酸のアンモニウム塩及びアルキルアンモニウム塩の記載がある。
【0006】
特許文献2には、微細な炭酸バリウム粉末を製造する方法として、炭酸バリウムスラリーと粒状媒体との混合物を、好ましくは多価アルコール、アスコルビン酸、ピロリン酸、カルボン酸及びカルボン酸塩から選ばれる粒子成長抑制剤の存在下にて粒状媒体が高速で流動する状態で流動処理する方法が開示されている。この特許文献2には、上記の方法を利用することによって、BET比表面積が5〜50m2/g、レーザー回折法により求められる平均粒径が0.01〜1.0μmの炭酸バリウム粉末が得られる旨の記載がある。なお、特許文献2には、粒子成長抑制剤として用いることができるカルボン酸及びカルボン酸塩の例として、クエン酸、カルボキシメチルセルロース、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、リンゴ酸、マレイン酸、酒石酸、アジピン酸、アクリル酸、ポリカルボン酸、ポリアクリル酸、及びこれらのナトリウム塩、アンモニウム塩の記載がある。
【0007】
特許文献3には、微細なアルカリ土類金属炭酸粉末を製造する方法として、アルカリ土類金属粉末と、好ましくは重量分子量が1000〜20000のポリカルボン酸及びそれらの塩から選ばれる少なくとも一種からなる分散剤を含む溶液を湿式解砕し、次いで得られた分散液を噴霧乾燥する方法が開示されている。この特許文献3によれば、この方法を利用することによって、BET比表面積が10〜150m2/gの範囲にあって、一次粒子径が10〜80nmの範囲にある炭酸カルシウム粉末が得られるとされている。
【0008】
一方、微細な二酸化チタン粉末の製造方法としては、特許文献4に硫酸チタニルを水とアルコールとの混合溶液に溶解した後、その溶液を加熱還流する方法が開示されている。この特許文献4によれば、この方法を利用することによって、平均粒子径で5.5〜12.0nmのナノオーダーの二酸化チタン粉末が得られるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表平11−514961号公報
【特許文献2】特開2004−59372号公報
【特許文献3】特開2006−206425号公報
【特許文献4】特開平11−1321号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述のように、微細なチタン酸バリウム粉末、チタン酸ストロンチウム粉末及びチタン酸バリウムカルシウムなどの誘電体セラミックス粉末を製造するためには、炭酸バリウム粉末、炭酸ストロンチウム粉末、炭酸カルシウム粉末及び二酸化チタン粉末などの原料粉末が微細であることが必要となる。また、誘電体セラミックス粉末の工業的な生産工程においては、原料粉末を湿式混合法により混合するのが一般的である。このため、原料粉末は、工業的に実用性の高い分散方法を用いて水性媒体に一次粒子もしくはそれに近い微粒子として分散させることができることも重要となる。
【0011】
二酸化チタン粉末については、上記のように、非常に微細な粉末を得る方法が知られている。しかし、特許文献1に記載されている方法で得られる炭酸ストロンチウム粉末や炭酸バリウム粉末は、二酸化チタン粉末と比べると粒子径がかなり大きい。
【0012】
一方、特許文献2や特許文献3に記載されているように、アルカリ土類金属炭酸塩粉末を水性媒体中にて粒状媒体を用いて粉砕処理することによって、微細なアルカリ土類金属炭酸塩粒子を得ることは可能である。しかしながら、一般に無機物粉末は微細になる程、粒子間のファンデルワールス力が大きくなるため、凝集性が強くなり、水性媒体中にて得られた微細な粒子を一旦乾燥して粉末にすると、微細な微粒子として水性溶媒に再分散させることが難しくなることがある。
【0013】
従って、本発明の目的は、工業的に実用性の高い分散方法で一次粒子もしくはそれに近い微粒子として水性媒体に分散させることができる高分散性のアルカリ土類金属塩の微粉末を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、アルカリ土類金属炭酸塩粉末の細孔容積と分散性との関係性に検討した結果、一次粒子の投影面積円相当径の平均が30〜90nmの範囲にあるアルカリ土類金属炭酸塩微粉末については、細孔径10〜20nmの細孔の累積細孔容積が5×10-2cm3/g以上であると水性媒体への分散性が向上することを見出して、本発明を完成した。
【0015】
従って、本発明は、炭酸バリウム、炭酸ストロンチウム及び炭酸カルシウムからなる群より選ばれるアルカリ土類金属炭酸塩の微粉末であって、一次粒子の投影面積円相当径の平均が30〜90nmの範囲にあり、細孔径10〜20nmの細孔の累積細孔容積が5×10-2cm3/g以上である高分散性アルカリ土類金属炭酸塩微粉末にある。細孔径10〜20nmの細孔の累積細孔容積は、例えば、細孔径が10nm未満の細孔を基準細孔として、該基準細孔から細孔径が20nmまでの細孔の累積細孔容積値と、該基準細孔から細孔径が10nmまでの累積細孔容積値とを求め、細孔径が20nmまでの細孔の累積細孔容積値から細孔径が10nmまでの累積細孔容積値を減じることによって求めることができる。
【0016】
本発明の高分散性アルカリ土類金属炭酸塩微粉末の好ましい態様は次の通りである。
(1)投影面積円相当径の平均が40〜80nmの範囲にある。
(2)細孔径10〜20nmの細孔の累積細孔容積が5×10-2〜15×10-2cm3/gの範囲にある。
(3)細孔径10nm未満の細孔の累積細孔容積が4×10-2cm3/g以下である。
(4)アスペクト比の平均が2以下である。
(5)炭酸バリウムの微粉末である。
(6)炭酸ストロンチウムの微粉末である。
(7)表面に、ポリカルボン酸もしくはその無水物またはその塩からなるポリマーが付着している。
(8)測定対象の粉末0.5gを濃度0.2質量%のヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液50mLに投入し、次いで出力55Wの超音波バスで6分間分散処理することにより調製した懸濁液に含まれる粒子のレーザー回折散乱法によって測定された体積基準の粒度分布から求められる体積基準の平均粒子径が500nm以下であって、粒子径が1000nm以上の粒子の含有率が5体積%以下である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の高分散性アルカリ土類金属炭酸塩微粉末は、微細で、かつ工業的に実用性の高い分散方法を用いて、一次粒子もしくはそれに近い微粒子として水性媒体に分散させることがきる。従って、本発明の高分散性アルカリ土類金属炭酸塩微粉末を、湿式混合法を用いて、他の無機物微粉末と混合することにより、工業的に有利に均一な粉末混合物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の高分散性アルカリ土類金属炭酸塩微粉末は、一次粒子の投影面積円相当径の平均が30〜90nmの範囲、好ましくは40〜80nmの範囲にある。投影面積円相当径は、粒子の投影面積と同じ面積を持つ円の直径を意味する。本発明において、投影面積円相当径(ヘイウッド径ともいう)は、粒子の投影面積と同じ面積を持つ円の直径を意味する。一次粒子の投影面積円相当径は、電子顕微鏡写真の画像解析、すなわち電子顕微鏡写真に写された個々の一次粒子毎に、投影面積を求めて、その投影面積と同じ面積を持つ円の直径を算出することにより求めることができる。
【0019】
本発明の高分散性アルカリ土類金属炭酸塩微粉末は、一次粒子の投影面積円相当径の平均に対する変動係数が40%以内にあることが好ましく、35%以内にあることが特に好ましい。変動係数は、投影面積円相当径の標準偏差を投影面積円相当径の平均値で割った値である。
【0020】
本発明の高分散性アルカリ土類金属炭酸塩微粉末は、細孔径10〜20nmの細孔の累積細孔容積が5×10-2cm3/g以上、好ましくは5×10-2〜15×10-2cm3/gの範囲、より好ましくは7×10-2〜15×10-2cm3/gの範囲にある。細孔径10〜20nmの細孔は、アルカリ土類金属炭酸塩の凝集粒子を構成する一次粒子間の空隙に相当すると考えられる。すなわち、本発明の高分散性アルカリ土類金属炭酸塩微粉末は、凝集粒子を構成する一次粒子間の空隙が大きく、水性媒体に分散させる際には、一次粒子間の空隙に水性媒体が浸入し易いために、水性媒体中において微粒子として分散し易くなると考えられる。
【0021】
本発明の高分散性アルカリ土類金属炭酸塩微粉末は、細孔径10nm未満の微細な細孔の累積細孔容積が、4×10-2cm3/g以下、特に0.1×10-2〜3×10-2cm3/gの範囲にあることが好ましい。
【0022】
本発明の高分散性アルカリ土類金属炭酸塩微粉末は、一次粒子が立方体状もしくは球状又はこれらに近い形状であることが好ましい。一次粒子のアスペクト比(長径/短径)の平均は、2以下であることが好ましい。アスペクト比は、粒子の外郭に接するように、かつその面積が最も小さくなるように描いた直角四角形の長辺と短辺との比を意味する。
【0023】
本発明の高分散性アルカリ土類金属炭酸塩微粉末は、アルカリ土類金属の水酸化物の水溶液もしくは懸濁液を撹拌しながら、該水溶液もしくは懸濁液に二酸化炭素ガスを導入することにより、アルカリ土類金属の水酸化物を炭酸化させてアルカリ土類金属炭酸塩粒子を得る工程、そして該アルカリ土類金属炭酸粒子を水性媒体中にて平均粒子径が10〜1000μmのセラミック製ビーズを用いて粉砕し、次いで乾燥する工程を含む方法により製造することができる。
【0024】
アルカリ土類金属炭酸塩粒子の製造に用いるアルカリ土類金属水酸化物の水溶液もしくは懸濁液は、アルカリ土類金属水酸化物濃度が水溶液もしくは懸濁液の全体量に対して1〜20質量%の範囲にあることが好ましく、2〜10質量%の範囲にあることが特に好ましい。
【0025】
アルカリ土類金属水酸化物の水溶液もしくは懸濁液には、結晶成長抑制剤を添加してもよい。結晶成長抑制剤としては、カルボン酸、カルボン酸塩及びアスコルビン酸などの有機酸又は有機酸塩を用いることができる。結晶成長抑制剤の添加量は、生成するアルカリ土類金属炭酸塩粒子に対して0.01〜20質量%の範囲となる量であることが好ましい。カルボン酸の例としては、シュウ酸、コハク酸、マロン酸、クエン酸、リンゴ酸、アジピン酸、グルコン酸、グルカル酸、グルクロン酸、酒石酸及びマレイン酸を挙げることができる。カルボン酸塩の例としては、それらカルボン酸のマグネシウム塩、カルシウム塩、ストロンチウム塩、バリウム塩を挙げることができる。結晶成長抑制剤は、カルボン酸又はアスコルビン酸であることが好ましく、特にクエン酸が好ましい。
【0026】
アルカリ土類金属水酸化物の水溶液もしくは懸濁液に導入する二酸化炭素ガスの流量は、水溶液もしくは懸濁液中のアルカリ土類金属水酸化物1gに対して0.5〜200mL/分の範囲となる流量であることが好ましく、0.5〜100mL/分の範囲となる流量であることが特に好ましい。二酸化炭素ガスは、単独でアルカリ土類金属水酸化物の水溶液もしくは懸濁液に導入してもよいし、窒素、アルゴン、酸素及び空気などのアルカリ土類金属水酸化物に対して不活性なガスとの混合ガスとしてアルカリ土類金属水酸化物の水溶液もしくは懸濁液に導入してもよい。アルカリ土類金属水酸化物の炭酸化の終点は、アルカリ土類金属水酸化物の水溶液もしくは懸濁液のpHが7以下となった時点とすることができる。
【0027】
アルカリ土類金属水酸化物を炭酸化させる際のアルカリ土類金属水酸化物の水溶液もしくは懸濁液の液温は、2℃以上であることが好ましく、5〜100℃の範囲にあることがより好ましく、5〜50℃の範囲が特に好ましい。
【0028】
上記のようにして得られるアルカリ土類金属炭酸塩の一次粒子の形状は、立方体状、球状、もしくは針状である。アルカリ土類金属炭酸塩の一次粒子のサイズは、投影面積円相当径の平均として90nmよりも大きくてもよい。
【0029】
本発明では、上記のようにして得たアルカリ土類金属炭酸塩粒子を水性媒体中にて平均粒子径が10〜1000μmのセラミック製ビーズを用いて粉砕し、次いで乾燥することによって、微細なアルカリ土類金属炭酸塩粉末を製造する。
アルカリ土類金属炭酸塩粒子の粉砕に用いるアルカリ土類金属炭酸塩懸濁液は、アルカリ土類金属炭酸塩粒子が水性媒体に、全体量に対する固形分量として10〜40質量%の範囲となる量にて分散されていることが好ましい。アルカリ土類金属炭酸塩懸濁液の固形分量が低くなりすぎると得られるアルカリ土類金属炭酸塩微粉末の高分散性が低下する傾向にある。一方、固形分量が高くなりすぎると懸濁液の粘度が上昇し、アルカリ土類金属炭酸塩粒子の粉砕が困難となる傾向にある。
【0030】
粉砕の前、もしくは粉砕の途中で、アルカリ土類金属炭酸塩懸濁液に分散剤を添加して、粉砕により生成するアルカリ土類金属炭酸塩微粒子の表面に分散剤を付着させることが好ましい。分散剤としては、ポリカルボン酸もしくはその無水物またはその塩からなるポリマーを含むポリカルボン酸系分散剤が好ましい。ポリカルボン酸系分散剤は、電子材料用に有害なNaを含まないポリカルボン酸アンモニウム塩や、カチオンで中和されていない酸性タイプのものが好ましい。具体的には、サンノプコ株式会社製のSNディスパーサント5020、SNディスパーサント5468、花王株式会社製のポイズ532A、ポイズ2100、日本油脂株式会社製のマリアリムAKM−0531、マリアリムAKM−1511−60、マリアリムHKM−50A、マリアリムHKM−150Aなどを挙げることができる。分散剤の添加量は、水性媒体中の固形分に対して0.5〜20質量%、特に1〜10質量%となる範囲であることが好ましい。分散剤のアルカリ土類金属炭酸塩懸濁液への添加は、粉砕の途中で行なうことが好ましく、全粉砕時間の1/2の時間が経過した後、全粉砕時間の9/10の時間が経過する前に行なうことが好ましい。
【0031】
アルカリ土類金属炭酸塩粒子の粉砕に用いるアルカリ土類金属炭酸塩懸濁液は、アルカリ土類金属水酸化物の水溶液もしくは懸濁液の炭酸化により得られたアルカリ土類金属炭酸塩懸濁液をそのまま、あるいは濃縮して用いてもよい。また、アルカリ土類金属水酸化物もしくは懸濁液の炭酸化により得られたアルカリ土類金属炭酸塩懸濁液を一旦乾燥させ、アルカリ土類金属炭酸塩粉末として、このアルカリ土類金属炭酸塩粉末を再度水性媒体に分散させて調製してもよい。
【0032】
セラミック製ビーズとしては、酸化ジルコニウムビーズや酸化アルミニウムビーズなどの通常の粉砕操作に用いられる公知のビーズを用いることができる。ビーズの平均粒子径は、10〜1000μm、特に30〜500μmの範囲にあることが好ましい。
【0033】
粉砕装置には、通常の粒子の粉砕に用いられる公知のメディアミルを用いることができる。メディアミルを用いてアルカリ土類金属炭酸塩粒子を粉砕する際のビーズ撹拌羽根の周速は3〜15m/分の範囲にあることが好ましく、5〜9m/分の範囲にあることが特に好ましい。
【0034】
粉砕時間は、アルカリ土類金属炭酸塩懸濁液のアルカリ土類金属炭酸塩濃度やセラミック製ビーズの平均粒子径などの要因により異なるが、ミル内の滞留時間で通常は1〜200分、好ましくは10〜100分である。
【0035】
粉砕後のアルカリ土類金属炭酸塩懸濁液は、スプレードライヤやドラムドライヤなどの懸濁液の乾燥に通常用いられる装置を用いて乾燥することができる。スプレードライヤを用いて乾燥することがより好ましい。
【0036】
本発明の高分散性アルカリ土類金属炭酸塩微粉末は、撹拌や低出力の超音波バスによる超音波の付与などの工業的に実用性の高い分散方法を用いて、一次粒子もしくはそれに近い微粒子として水性媒体に分散させることができる。本発明の高分散性アルカリ土類金属炭酸塩微粉末は、レーザー回折散乱法によって測定された体積基準の粒度分布(測定対象の粉末0.5gを濃度0.2質量%のヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液50mLに投入し、次いで出力55Wの超音波バスで6分間分散処理することにより調製した懸濁液に含まれる粒子のレーザー回折散乱法によって測定された体積基準の粒度分布を意味する)から求められた、体積基準の平均粒子径が通常は500nm以下、特に300nm以下で、粒子径が1000nm以上の粒子の含有率が通常は5体積%以下、特に1体積%以下である。体積基準の平均粒子径は、通常は、電子顕微鏡写真の画像解析によって求められた一次粒子の投影面積円相当径の平均の1〜10倍の範囲、特に1〜5倍の範囲にある。
【実施例】
【0037】
[実施例1(本発明の実施例ではない。)]
内容積5Lのテフロン製反応容器に、イオン交換水4200gと水酸化ストロンチウム・八水和物(カルシウム含有量:0.001質量%以下、バリウム含有量:0.001質量%以下、硫黄含有量:0.001質量%以下)450gを投入して、水酸化ストロンチウム濃度4.43質量%の水酸化ストロンチウム懸濁液を調製した。反応容器を温浴して、懸濁液の液温を40℃に調節した後、撹拌機にて懸濁液を撹拌しながら、空気と二酸化炭素ガスとの混合ガスを、空気5L/分、二酸化炭素ガス5L/分(懸濁液中の水酸化ストロンチウム1gに対して、空気約24mL/分、二酸化炭素ガス約24mL/分)となる流量にて導入して水酸化ストロンチウムを炭酸化させて炭酸ストロンチウム粒子を生成させた。炭酸化中は、懸濁液のpHの測定を行ない、懸濁液のpHが7を下回った時点で二酸化炭素ガスの導入を停止した。
【0038】
得られた炭酸ストロンチウム懸濁液の固形分濃度を13質量%に調整した後、該炭酸ストロンチウム懸濁液をメディアミル(型式:AMC12.5、有効容量:9.0L、アシザワ・ファインテック(株)製)に投入し、直径300μmの酸化ジルコニウム製ビーズを用いて、ビーズ充填量80体積%、周速7m/秒、滞留時間69分の条件にて、該懸濁液中の炭酸ストロンチウム粒子を粉砕した。粉砕開始後、滞留時間35分間経過後に、炭酸ストロンチウム懸濁液に、ポリカルボン酸アンモニウム塩としてSNディスパーサント5468(サンノプコ株式会社製)を固形分に対して6質量%となる量にて添加した。
【0039】
粉砕後の炭酸ストロンチウム懸濁液を、スプレードライヤを用いて乾燥して炭酸ストロンチウム微粉末を得た。得られた炭酸ストロンチウム粉末のBET比表面積は38.0m2/gであった。得られた炭酸ストロンチウム微粉末の粒子形状を電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)により観察したところ、微細な粒状であることが確認された。FE−SEM写真から画像解析ソフトウェア((株)マウンテック製、MacView ver3.5)を用いて、一次粒子の投影面積円相当径とアスペクト比を測定した結果、投影面積円相当径の平均は60nm、その投影面積円相当径の平均に対する変動係数25%、そしてアスペクト比の平均は1.30であった。
【0040】
得られた炭酸ストロンチウム微粉末の細孔分布を下記の方法により測定した。その結果、細孔径10nm未満の細孔の累積細孔容積は2.52×10-2cm3/g、細孔径10〜20nmの細孔の累積細孔容積は7.11×10-2cm3/gであった。
【0041】
得られた炭酸ストロンチウム微粉末のレーザー回折散乱法による体積基準の粒度分布を下記の方法により測定した。その結果、体積基準の平均粒子径は156nmであり、粒子径が1000nm以上の粒子は見られなかった。体積基準の平均粒子径(156nm)は、電子顕微鏡写真の画像解析によって求められた一次粒子の投影面積円相当径の平均(60nm)の約2.6倍であり、得られた炭酸ストロンチウム微粉末は高い分散性を示すことが確認された。
【0042】
[細孔径分布の測定方法]
Quantachrome(株)製、全自動ガス吸着量測定装置(Autosorb−3B)を用いて、窒素ガス吸着法により、脱離等温線を測定し、その脱離等温線のデータからBJH法により累積細孔容積の分布を求める。なお、等温吸着線の測定に際しては、測定対象粉末の量を0.2〜0.3gとし、前処理として真空ポンプで脱気しながら200℃で1時間乾燥する。
【0043】
[レーザー回折散乱法による体積基準の粒度分布の測定方法]
測定対象粉末0.5gと濃度0.2質量%のヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液50mLとを、容量100mLのガラス製ビーカに投入し、出力55Wの超音波バス(アズワン(株)製、US−1A)を用いて、6分間分散処理を行なって炭酸ストロンチウム懸濁液を調製する。次いで該炭酸ストロンチウム懸濁液に含まれる炭酸ストロンチウム粒子の体積基準の粒度分布を、レーザー回折散乱法粒度分布計(Microtrac HRA、日機装(株)製)を用いて測定する。
【0044】
[実施例2(本発明の実施例ではない。)]
内容積5Lのテフロン製反応容器に、イオン交換水4200gと水酸化ストロンチウム・八水和物(カルシウム含有量:0.001質量%以下、バリウム含有量0.001質量%以下、硫黄含有量:0.001質量%以下)500gを投入して、水酸化ストロンチウム濃度4.87質量%の水酸化ストロンチウム懸濁液を調製した。該水酸化ストロンチウム懸濁液にクエン酸・一水和物1.3gを添加して室温にて撹拌機で10分間撹拌して溶解した後、撹拌しながら二酸化炭素ガスを5L/分(懸濁液中の水酸化ストロンチウム1gに対して約22mL/分)となる流量にて導入して、水酸化ストロンチウムを炭酸化させて炭酸ストロンチウム粒子を生成させた。炭酸化中は、懸濁液のpHの測定を行ない、懸濁液のpHが7を下回った時点で二酸化炭素ガスの導入を停止した。
【0045】
得られた炭酸ストロンチウム懸濁液の固形分濃度を11質量%に調整した後、該炭酸ストロンチウム懸濁液を実施例1と同じメディアミルに投入し、平均粒子径300μmの酸化ジルコニウム製ビーズを用いて、ビーズ充填量80体積%、周速7m/秒、滞留時間60分の条件にて、該懸濁液中の炭酸ストロンチウム粒子を粉砕した。粉砕開始後、滞留時間30分間経過後に、炭酸ストロンチウム懸濁液にマリアリムAKM−1511−60(日本油脂株式会社製)を固形分に対して8質量%となる量にて添加した。
【0046】
粉砕後の炭酸ストロンチウム懸濁液を、スプレードライヤを用いて乾燥して炭酸ストロンチウム微粉末を得た。得られた炭酸ストロンチウム微粉末のBET比表面積は15.6m2/gであった。得られた炭酸ストロンチウム微粉末の粒子形状をFE−SEMにより観察したところ、微細な粒状であることが確認された。FE−SEM写真から画像解析ソフトウェアを用いて一次粒子の投影面積円相当径とアスペクト比を測定した結果、投影面積円相当径の平均は47nm、その投影面積円相当径の平均に対する変動係数は28%、そしてアスペクト比の平均は1.37であった。
【0047】
得られた炭酸ストロンチウム微粉末の細孔分布を実施例1と同様に測定した。その結果、細孔径10nm未満の細孔の累積細孔容積は2.75×10-2cm3/g、細孔径10〜20nmの細孔の累積細孔容積は9.15×10-2cm3/gであった。
【0048】
得られた炭酸ストロンチウム微粉末のレーザー回折散乱法による体積基準の粒度分布を実施例1と同様に測定した。その結果、体積基準の平均粒子径は144nmであり、粒子径が1000nm以上の粒子は見られなかった。体積基準の平均粒子径(144nm)は、電子顕微鏡写真の画像解析によって求められた一次粒子の投影面積円相当径の平均(47nm)の約3.1倍であり、得られた炭酸ストロンチウム微粉末は高い分散性を示すことが確認された。
【0049】
[参考例1]
内容積5Lのテフロン(ポリテトラフルオロエチレン)製反応容器に、イオン交換水4200gと水酸化ストロンチウム・八水和物(カルシウム含有量:0.001質量%以下、バリウム含有量:0.001質量%以下、硫黄含有量:0.001質量%以下)500gを投入して、水酸化ストロンチウム濃度4.87質量%の水酸化ストロンチウム懸濁液を調製した。反応容器を温浴して、懸濁液の液温を50℃に調節した後、撹拌機にて懸濁液を撹拌しながら、二酸化炭素ガスを5L/分(懸濁液中の水酸化ストロンチウム1gに対して約22mL/分)となる流量にて導入して、水酸化ストロンチウムを炭酸化させて炭酸ストロンチウム粒子を生成させた。炭酸化中は、懸濁液のpHの測定を行ない、懸濁液のpHが7を下回った時点で二酸化炭素ガスの導入を停止した。
【0050】
得られた炭酸ストロンチウム懸濁液の固形分濃度を7質量%に調整した後、該炭酸ストロンチウム懸濁液を実施例1と同じメディアミルに投入し、平均粒子径300μmの酸化ジルコニウム製ビーズを用いて、ビーズ充填量80体積%、周速7m/秒、滞留時間53分の条件にて、該懸濁液中の炭酸ストロンチウム粒子を粉砕した。粉砕開始後、滞留時間20分間経過後に、炭酸ストロンチウム懸濁液に、ポリカルボン酸アンモニウム塩としてポイズ2100(花王株式会社製)を固形分に対して8質量%となる量にて添加した。
【0051】
粉砕後の炭酸ストロンチウム懸濁液を、スプレードライヤを用いて乾燥して炭酸ストロンチウム微粉末を得た。得られた炭酸ストロンチウム微粉末のBET比表面積は40.2m2/gであった。得られた炭酸ストロンチウム微粉末の粒子形状をFE−SEMにより観察したところ、微細な粒状であることが確認された。FE−SEM写真から画像解析ソフトウェアを用いて一次粒子の投影面積円相当径とアスペクト比を測定した結果、投影面積円相当径の平均は63nm、その投影面積円相当径の平均に対する変動係数32%、そしてアスペクト比の平均は1.28であった。
【0052】
得られた炭酸ストロンチウム微粉末の細孔分布を実施例1と同様に測定した。その結果、細孔径10nm未満の細孔の累積細孔容積は1.98×10-2cm3/g、細孔径10〜20nmの細孔の累積細孔容積は4.89×10-2cm3/gであった。
【0053】
得られた炭酸ストロンチウム微粉末のレーザー回折散乱法による体積基準の粒度分布を実施例1と同様に測定した。体積基準の粒度分布から求められた体積基準の平均粒子径は3337nmであり、電子顕微鏡写真の画像解析によって求められた一次粒子の投影面積円相当径の平均(63nm)の約53倍と、実施例1及び実施例2の炭酸ストロンチウム微粉末と比べて大きい値を示した。
【0054】
[実施例3]
内容積5Lのテフロン製反応容器に、イオン交換水3000gと水酸化バリウム・八水和物404.5gを投入して、水酸化バリウム濃度5.17質量%の水酸化バリウム懸濁液を調製した。水酸化バリウム懸濁液にクエン酸・一水和物4.2gを添加し、懸濁液を撹拌機にて撹拌しながら、反応容器を冷却し、懸濁液の液温を10℃に調節した後、二酸化炭素ガスを0.5L/分(懸濁液中の水酸化バリウム1gに対して約2.8mL/分)となる流量にて導入して、水酸化バリウムを炭酸化させて、炭酸バリウム粒子を生成させた。炭酸化中は、懸濁液のpHの測定を行ない、懸濁液のpHが7を下回った時点で、二酸化炭素ガスの導入と撹拌を停止した。
【0055】
合成した炭酸バリウム懸濁液の固形分濃度を9質量%に調整した。この炭酸バリウム懸濁液を、ビーズ(酸化ジルコニウム製、直径300μm)が容器の全容積に対して70体積%充填されているポリプロピレン容器に、該容器内の内容物量が容器の全容積に対して81.5体積%になるように投入し、該容器中に投入した懸濁液中の炭酸バリウム粒子を、ロッキングミルを用いて粉砕した。粉砕開始から30分経過後に、炭酸バリウム懸濁液にマリアリムAKM−1511−60(日本油脂株式会社製)を固形分に対して6質量%となる量にて添加し、さらに20分間ロッキングミルにて、該懸濁液中の炭酸バリウム粒子を粉砕した。
【0056】
粉砕後の炭酸バリウム懸濁液を、ドラムドライヤを用いて乾燥して炭酸バリウム微粉末を得た。得られた炭酸バリウム微粉末の粒子形状をFE−SEMにより観察したところ、微細な粒状であることが確認された。FE−SEM写真から画像解析ソフトウェアを用いて一次粒子の投影面積円相当径とアスペクト比を測定した結果、投影面積円相当径の平均は61nm、その投影面積円相当径の平均に対する変動係数は22%、そしてアスペクト比の平均は1.58であった。
【0057】
得られた炭酸バリウム微粉末の細孔分布を実施例1と同様に測定した。その結果、細孔径10nm未満の細孔の累積細孔容積は2.18×10-2cm3/g、細孔径10〜20nmの細孔の累積細孔容積は10.2×10-2cm3/gであった。
【0058】
得られた炭酸バリウム微粉末のレーザー回折散乱法による体積基準の粒度分布を実施例1と同様に測定した。その結果、体積基準の平均粒子径は252nmであり、粒子径が1000nm以上の粒子の含有率は4体積%であった。体積基準の平均粒子径(252nm)は、電子顕微鏡写真の画像解析によって求められた一次粒子の投影面積円相当径の平均(61nm)の約4.1倍であり、得られた炭酸バリウム微粉末は高い分散性を示すことが確認された。