(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記有機カルボン酸および/または前記有機カルボン酸塩が、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、アクリル酸、メタクリル酸、プロピオル酸、オレイン酸、マレイン酸、フマル酸、蓚酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、グルコン酸、乳酸から選択された1種類以上の有機カルボン酸および/または選択された1種類以上の有機カルボン酸の塩である請求項6に記載の石膏硬化体。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明するが、本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
(石膏硬化体、石膏板)
本実施形態の石膏硬化体、石膏板の一構成例について説明する。
【0013】
本実施形態の石膏硬化体は焼石膏と、リン酸水素カルシウム二水和物と、水と、泡と、を混練した石膏スラリーを硬化させることにより得られ、比重を0.3以上0.8以下とすることができる。
【0014】
ここで石膏硬化体、石膏スラリーの原料となる各成分について以下に説明する。
【0015】
焼石膏は硫酸カルシウム・1/2水和物ともいい、水硬性を有する無機組成物である。焼石膏としては、天然石膏、副産石膏及び排煙脱硫石膏等の単独若しくは混合した石膏を大気中又は水中(蒸気中を含む)で焼成して得られるβ型、α型焼石膏のいずれか単独、若しくは両者の混合品を使用することができる。また、焼石膏を得る際に微量に生成するIII型無水石膏を含んでも問題ない。
【0016】
ただし、本実施形態の石膏硬化体においては、原料に用いる焼石膏がβ型焼石膏を含むことが好ましく、石膏硬化体の原料に用いる焼石膏の主成分が、β型焼石膏であることがより好ましい。なお、石膏硬化体の原料に用いる焼石膏の主成分がβ型焼石膏とは、石膏硬化体の原料に用いる焼石膏のうちβ型焼石膏が質量比率で50%より多く占めていることを意味している。本実施形態の石膏硬化体においては原料に用いる焼石膏がβ型焼石膏のみから構成されていてもよい。
【0017】
α型焼石膏は天然石膏等の二水石膏をオートクレーブを用い、水中又は水蒸気中で加圧焼成する必要がある。これに対して、β型焼石膏は天然石膏等の二水石膏を大気中で常圧焼成することにより製造でき、β型焼石膏の方がα型焼石膏よりも生産性良く製造できる。
【0018】
また、本発明の発明者らの検討によると、石膏硬化体の原料に用いる焼石膏がβ型焼石膏を含む場合に、特にリン酸水素カルシウム二水和物を添加した際の強度向上効果が大きくなる。特に、β型焼石膏の比率が高い方がリン酸水素カルシウム二水和物を添加した際の強度向上効果が大きくなる。
【0019】
これらの理由から、本実施形態の石膏硬化体においては、原料に用いる焼石膏が上述のようにβ型焼石膏を含んでいることが好ましく、特にβ型焼石膏の比率が高いことがより好ましい。
【0020】
次に、リン酸水素カルシウム二水和物(CaHPO
4・2H
2O)について説明する。
【0021】
本発明の発明者らは、比重の小さい石膏硬化体において強度(例えば圧縮強度)を向上できる無機材料の強度向上剤について検討を行った。
【0022】
そして、石膏硬化体の原料に無機材料であるリン酸水素カルシウム二水和物を添加することにより、リン酸水素カルシウム二水和物を添加していない場合と比較して石膏硬化体の強度が高くなることを見出し、本発明を完成させた。
【0023】
このようにリン酸水素カルシウム二水和物は、石膏硬化体の強度を向上させるが、無機材料であるため石膏硬化体の難燃性を低下させない。このため、リン酸水素カルシウム二水和物を添加することにより、難燃性と強度の向上とを両立した比重の小さい石膏硬化体とすることができる。
【0024】
リン酸水素カルシウムは、無水物、一水和物、二水和物が知られているが、本発明の発明者らの検討によると、二水和物が石膏硬化体の強度を高める働きを有している。
【0025】
リン酸水素カルシウム二水和物の添加量は特に限定されるものではないが、石膏スラリーは、焼石膏100質量部に対して、リン酸水素カルシウム二水和物を0.01質量部以上5質量部以下の割合で含むことが好ましい。すなわち、石膏スラリーを調製する際、焼石膏100質量部に対して、リン酸水素カルシウム二水和物を0.01質量部以上5質量部以下の割合で添加することが好ましい。これはリン酸水素カルシウム二水和物の含有量が焼石膏100質量部に対して0.01質量部未満の場合、リン酸水素カルシウム二水和物を添加したことによる石膏硬化体の強度向上効果が十分ではない場合があるためである。また、リン酸水素カルシウム二水和物の含有量が焼石膏100質量部に対して5質量部より多く添加した場合、石膏硬化体中の石膏純度が低下し、またコストが高くなる恐れがあるためである。特に、石膏スラリーは、焼石膏100質量部に対して、リン酸水素カルシウム二水和物を0.05質量部以上1質量部以下の割合で含むことがより好ましい。
【0026】
リン酸水素カルシウム二水和物の添加方法は特に限定されるものではない。例えば、リン酸水素カルシウム二水和物を予め焼石膏と混合して石膏組成物とし、該石膏組成物と、水と泡とを混練して石膏スラリーを形成することもできる。また、水とリン酸水素カルシウム二水和物を懸濁させておき、焼石膏と、リン酸水素カルシウム二水和物と水との懸濁液と、泡とを混練することで石膏スラリーを形成することもできる。
【0027】
また、本発明の発明者らがさらに検討を進めたところ、リン酸水素カルシウム二水和物を添加することにより、石膏硬化体にたわみが生じることを抑制する効果や、寸法安定性を高める効果があることも見出した。以下に、リン酸水素カルシウム二水和物のたわみ抑制効果や、寸法安定性を高める効果について説明する。
【0028】
既述のように施工性、取扱い性等の向上のため、比重が小さく軽量な石膏硬化体に対するニーズが近年高まっている。そして、天井板等の用途に用いることができる板状の石膏硬化体、具体的には例えば石膏硬化体を芯材として用いる石膏板(例えば石膏ボード等)等において、比重が小さく軽量な石膏硬化体が特に求められている。
【0029】
ところで、天井板は一般的に天井板の周縁に沿って、間隔を空けて複数のビスを打ち、ビスにより天井の留め具に固定される。しかしながら、天井板として従来の比重が小さく軽量な石膏硬化体を含む石膏板を用いた場合、ビス間で天井板にたわみが生じ、外観上問題があった。
【0030】
これに対して、本実施形態のリン酸水素カルシウム二水和物を添加した石膏硬化体においては、リン酸水素カルシウム二水和物を添加していない従来の石膏硬化体と比較してたわみの発生を抑制でき、外観上の問題を生じない。たわみの発生を抑制できる理由については明らかではないが、上述のようにリン酸水素カルシウム二水和物の石膏硬化体の強度を高める働きや、後述する寸法安定性を高める働きに関連しているものと推認される。
【0031】
なお、上述のように石膏板とした場合にたわみの発生が特に問題となりやすいところ、本実施形態の石膏硬化体においてはたわみの発生を抑制できる。このため、本実施形態の石膏硬化体は、該石膏硬化体を芯材とする石膏板に適用する場合に特に効果を発揮することができる。なお、石膏硬化体を芯材とする石膏板の形態は特に限定されるものではないが、例えば該石膏板は石膏ボードであることが好ましい。
【0032】
そして、上述のように本実施形態の石膏硬化体はリン酸水素カルシウム二水和物を添加することにより寸法安定性も高めることができる。
【0033】
石膏硬化体を例えば水回り等の湿度の高い環境に置いた場合、石膏硬化体は水分を吸って膨張し、寸法が変化することが知られている。このように寸法が変化すると石膏硬化体や、その周辺の部材に力がかかるため、石膏硬化体やその周辺の部材に亀裂や膨らみ等を生じる場合があり問題があった。これに対して本実施形態の石膏硬化体はリン酸水素カルシウム二水和物を添加することにより、湿度の高い環境に置いていてもその寸法が変化することを抑制できる。すなわち、吸水膨張率を抑制できる。このため、本実施形態の石膏硬化体は例えば湿度の高い環境でも用いることが可能になる。
【0034】
次に、石膏スラリーとする際に添加する水について説明する。本実施形態の石膏硬化体は上述のように石膏スラリーを硬化することにより得られるが、焼石膏やリン酸水素カルシウム二水和物等を混練して石膏スラリーとするため、水を添加することができる。石膏スラリーを形成する際の水の添加量は特に限定されるものではなく、要求される流動性等に応じて任意の添加量とすることができる。
【0035】
また、石膏スラリーを形成する際には泡を添加することができる。泡の添加量を調整することにより得られる石膏硬化体の比重を所望の範囲とすることができる。
【0036】
石膏スラリーを形成する際に泡を添加する方法は特に限定されず、任意の方法により添加することができる。例えば予め発泡剤(起泡剤)を水(泡形成用の水)に添加し、空気を取り込みながら撹拌することで泡を形成し、形成した泡を、焼石膏、リン酸水素カルシウム二水和物や水(石膏スラリーの練水)と一緒に混合することにより、泡を添加した石膏スラリーを形成できる。または、焼石膏とリン酸水素カルシウム二水和物と水等とを予め混合して形成した石膏スラリーに、形成した泡を添加することにより、泡を添加した石膏スラリーとすることもできる。
【0037】
泡を形成する際に使用する発泡剤としては特に限定されるものではないが、例えば、アルキル硫酸ソーダ、アルキルエーテル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸ソーダ、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩などが挙げられる。
【0038】
泡の添加量は特に限定されるものではなく、作製する石膏硬化体に要求される比重に応じて任意に選択することができる。
【0039】
本実施形態の石膏硬化体の比重は特に限定されるものではないが、例えば0.3以上0.8以下であることが好ましい。このため、比重が係る範囲となるように泡の添加量を選択することが好ましい。また、本実施形態の石膏硬化体は、上述のようにリン酸水素カルシウム二水和物を添加することにより強度を高めることができるため、強度が弱い比重の小さい石膏ボードにおいて特に効果を発揮できる。このため、本実施形態の石膏硬化体の比重は0.3以上0.7以下であることがより好ましく、0.3以上0.5以下であることが更に好ましい。石膏硬化体の比重を上述の範囲とする場合には、比重が係る範囲となるように泡の添加量を調整することが好ましい。
【0040】
また、石膏スラリーには上述した焼石膏、リン酸水素カルシウム二水和物、水、泡等以外にも任意の成分を添加することができる。
【0041】
具体的には例えば石膏スラリーは有機カルボン酸および/または有機カルボン酸塩をさらに含むことができる。
【0042】
有機カルボン酸および/または有機カルボン酸塩は石膏硬化体の寸法安定性を高める働きを有している。上述のようにリン酸水素カルシウム二水和物も石膏スラリーに添加することにより、得られる石膏硬化体の寸法安定性を高める働きを有している。しかし、リン酸水素カルシウム二水和物と、有機カルボン酸および/または有機カルボン酸塩を同時に添加することで、その相乗効果により、どちらか一方を単独で添加した場合よりも寸法安定性を特に高めることができるため好ましい。
【0043】
有機カルボン酸および/または有機カルボン酸塩の種類は特に限定されるものではなく任意に選択することができる。例えば、有機カルボン酸は、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、アクリル酸、メタクリル酸、プロピオル酸、オレイン酸、マレイン酸、フマル酸、蓚酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、グルコン酸、乳酸から選択された1種類以上の有機カルボン酸であることが好ましい。また、有機カルボン酸塩は蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、アクリル酸、メタクリル酸、プロピオル酸、オレイン酸、マレイン酸、フマル酸、蓚酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、グルコン酸、乳酸から選択された1種類以上の有機カルボン酸の塩であることが好ましい。
【0044】
有機カルボン酸および/または有機カルボン酸塩の添加量は特に限定されるものではないが、石膏スラリーが、焼石膏100質量部に対して、有機カルボン酸および/または有機カルボン酸塩を0.005質量部以上0.2質量部以下含有するように添加することが好ましい。特に石膏スラリーが、焼石膏100質量部に対して、有機カルボン酸および/または有機カルボン酸塩を0.01質量部以上0.1質量部以下含有するように添加することがより好ましい。
【0045】
また、石膏スラリーには上述の成分以外にも、澱粉やポリビニルアルコール等の、被覆材と石膏硬化体との接着性を向上させる接着性向上剤や、ガラス繊維等の無機繊維及び軽量骨材、バーミキュライト等の耐火材、凝結調整剤、凝結促進剤、減水剤、スルホコハク酸塩型界面活性剤等の泡径調整剤、シリコーンやパラフィン等の撥水剤等の従来から石膏硬化体の原料に添加される各種添加剤を添加することもできる。なお、リン酸水素カルシウム二水和物以外にも公知の強度向上剤を添加することもできる。
【0046】
上述の任意の添加成分は石膏スラリーを調製する際、任意のタイミングで添加できる。例えば、上述の任意の添加成分と、焼石膏と、場合によってはさらにリン酸水素カルシウム二水和物と、混合して石膏組成物を形成してから水や泡と混合して石膏スラリーとすることもできる。また、石膏スラリーを形成する際に焼石膏や、リン酸水素カルシウム二水和物、水、泡等とあわせて混合することもできる。
【0047】
次に上述した各成分を混練して得られた石膏スラリーを硬化した石膏硬化体について説明する。
【0048】
本実施形態の石膏硬化体は、上述の石膏スラリー中の焼石膏(半水石膏)が、水和反応により二水石膏の針状結晶が生じて凝結、凝固することにより得られる。そして、凝固する前に所望の形状に成形しておくことにより、所望の形状を有する石膏硬化体を得ることができる。
【0049】
本実施形態の石膏硬化体は、その形状については特に限定されるものではなく、任意の形状とすることができる。石膏硬化体を建材等に用いる場合、例えば板状や、ブロック形状に成形することができる。また、石膏スラリーの粘度を調整して石膏スラリーをパテ状とし、目地処理材として用いた場合には、部材間の空隙に充填、硬化することもできる。すなわち、部材間の空隙に対応した形状とすることもできる。
【0050】
また、本実施形態の石膏硬化体を用いて、石膏硬化体を含む石膏系建材とすることができる。石膏硬化体を含む石膏系建材としては特に限定されるものではなく、板状の石膏系建材や、ブロック形状の石膏系建材等任意の形状の石膏系建材とすることができる。ただし、本実施形態の石膏硬化体は上述のようにリン酸水素カルシウム二水和物を添加することによりたわみの発生も抑制することができる。そして、たわみの発生が問題となるのは主に天井板等に用いられる石膏板である。このため、本実施形態の石膏硬化体は、該石膏硬化体を芯材とする石膏板とすることが好ましい。
【0051】
石膏板の具体的な形態は特に限定されるものではないが、例えば石膏ボード、ガラスマット石膏ボード、ガラス繊維不織布入石膏板、スラグ石膏板等が挙げられる。特に天井板等に広く用いられることから、石膏板は石膏ボードであることが好ましい。
【0052】
本実施形態の石膏板においては、リン酸水素カルシウム二水和物を添加しているため、上述のようにたわみ量を抑制することができる。本実施形態の石膏板のたわみ量は特に限定されるものではないが、たわみ量は石膏板の厚みに拘らず100mm以下であることが好ましく、75mm以下であることがより好ましい。たわみ量の下限値は特に限定されるものではないが、たわみ量は少ないほど好ましいことから例えば0mm以上とすることができる。
【0053】
なお、本特許請求の範囲及び本明細書で言うたわみ量とは、以下の手順により評価したたわみ量を言う。たわみ量の評価方法について
図1を用いて説明する。
図1はたわみ量試験を行っている際の様子を模式的に示した斜視図である。
【0054】
まず、評価を行う石膏板を縦10cm、横50cmにカットし、評価用の石膏板1を作製する。
【0055】
次に、
図1に示すように評価用の石膏板1の長辺の一方の端部、すなわち一方の短辺を含む端部を固定具2により固定する。この際、固定具2は、評価用の石膏板1の表面1aが水平であり、かつ表面1aが下方に、裏面1bが上方になるように固定する。また、評価用の石膏板1の長辺の他方の端部は固定せず、石膏板1の自重により高さ方向に変位するようになっている。
【0056】
なお、固定具2は評価用の石膏板1を水平に保持できるように構成されていればよく具体的な構成は特に限定されない。固定具2は例えば
図1に示したように、評価用の石膏板1の一方の端部について、上下面から保持できるように構成する。また、固定具2が評価用の石膏板1を固定する範囲wは
図1に示すように評価用の石膏板1の長辺の一方の端部から50mm幅を固定する。すなわち
図1中wを50mmとする。固定具2は例えば恒温室(恒温槽)の壁面等、鉛直な面を有する支持部材3に設けることができる。
【0057】
そして、固定した評価用の石膏板1を温度40℃、相対湿度95%の環境下で24時間放置する。24時間経過後、評価用の石膏板にたわみが生じた場合、
図1中点線で示した24時間経過後の評価用の石膏板1´のように、固定具2により固定していない他方の端部が下方に変位する。そこで、温度40℃、相対湿度95%の環境下に24時間放置する前の評価用の石膏板1の他方の端部の位置と、24時間放置後の評価用の石膏板1´の他方の端部の位置の高さ方向の変位量hを測定する。そして、係る高さ方向の変位量h、すなわち固定側端部の反対側の端部(他方の端部)の下方向への変位量を該石膏板のたわみ量と評価することができる。
【0058】
本実施形態の石膏硬化体によれば、比重の小さい石膏硬化体においても難燃性と強度の向上とを両立させることができる。このため、本実施形態の石膏硬化体の比重は一般的に用いられる石膏硬化体よりも小さいことが好ましい。本実施形態の石膏硬化体の具体的な比重は特に限定されるものではないが、既述のように例えば0.3以上0.8以下であることが好ましく、0.3以上0.7以下であることがより好ましく、0.3以上0.5以下であることが更に好ましい。
【0059】
このため、本実施形態の石膏硬化体を芯材とする石膏板は軽量な石膏板とすることができ、特に軽量石膏ボードとすることもできる。
【0060】
以上に説明した本実施形態の石膏硬化体、石膏板は、強度向上剤として無機材料であるリン酸水素カルシウム二水和物を含む比重の小さい石膏硬化体、石膏板とすることができる。特に、リン酸水素カルシウム二水和物は無機物であるため、難燃性と強度の向上とを両立した比重の小さい石膏硬化体、石膏板を提供できる。
【0061】
また、石膏硬化体、石膏板にたわみが発生することを抑制し、石膏硬化体、石膏板の寸法安定性を高めることもできる。
(石膏硬化体の製造方法、石膏ボードの製造方法)
次に本実施形態の石膏硬化体の製造方法、及び石膏ボードの製造方法について説明する。なお、石膏硬化体、石膏板、石膏ボードに関して既に説明した点については同様の構成とすることができるため、説明を省略する。
【0062】
本実施形態の石膏硬化体の製造方法は以下の工程を有することができる。
焼石膏と、リン酸水素カルシウム二水和物と、水と、泡と、を混練して石膏スラリーを製造する石膏スラリー製造工程。
石膏スラリーを成形する成形工程。
成形工程で得られた成形体を硬化させる硬化工程。
そして、硬化工程後に得られる石膏硬化体の比重は0.3以上0.8以下とすることができる。
【0063】
また、本実施形態の石膏ボードの製造方法は以下の工程を有することができる。
焼石膏と、リン酸水素カルシウム二水和物と、水と、泡と、を混練して石膏スラリーを製造する石膏スラリー製造工程。
石膏スラリーをボード用原紙間に配置し、成形する成形工程。
成形工程で得られた成形体を硬化させる硬化工程。
そして、硬化工程後に得られる石膏硬化体の比重は0.3以上0.8以下とすることができる。
【0064】
石膏スラリー製造工程は、上述の焼石膏、リン酸水素カルシウム二水和物と、水と、泡と、を混練して石膏スラリーを製造する工程である。石膏スラリー製造工程は、石膏硬化体の製造方法、石膏ボードの製造方法いずれにおいても同様にして実施することができる。
【0065】
リン酸水素カルシウム二水和物は予め焼石膏と混合して石膏組成物とし、該石膏組成物と、水と泡とを混練して石膏スラリーを形成することもできる。また、水にリン酸水素カルシウム二水和物を懸濁させておき、焼石膏と、リン酸水素カルシウム二水和物と水との懸濁液と、泡とを混練することで石膏スラリーを形成することもできる。
【0066】
石膏スラリー製造工程においては、既述のように有機カルボン酸および/または有機カルボン酸塩を添加することもできる。有機カルボン酸および/または有機カルボン酸塩を添加することにより、得られる石膏硬化体の寸法安定性を特に高めることができる。
【0067】
さらに石膏スラリー製造工程においては、上述した焼石膏、リン酸水素カルシウム二水和物、水、泡以外にも澱粉やポリビニルアルコール等の石膏硬化体とボード用原紙との接着性を向上させる接着性向上剤や、ガラス繊維等の無機繊維及び軽量骨材、バーミキュライト等の耐火材、凝結調整剤、凝結促進剤、減水剤、スルホコハク酸塩型界面活性剤等の泡径調整剤、シリコーンやパラフィン等の撥水剤等の従来から石膏硬化体の原料に添加される各種添加剤を添加することもできる。なお、リン酸水素カルシウム二水和物以外にも公知の強度向上剤を添加することもできる。
【0068】
これらの任意の添加成分は石膏スラリーを調製する際、任意のタイミングで添加することができる。例えば、任意の添加成分を、焼石膏と、場合によってはさらにリン酸水素カルシウム二水和物と混合し、石膏組成物を形成してから水や泡と混合して石膏スラリーとすることもできる。また、石膏スラリーを形成する際に任意の添加成分を、焼石膏や、リン酸水素カルシウム二水和物、水、泡等とあわせて混合することもできる。
【0069】
石膏スラリー製造工程で用いる各成分や、各成分の好適な添加量等に関しては既に説明したため、ここでは説明を省略する。
【0070】
成形工程は石膏スラリー製造工程で得られた石膏スラリーを所望の形状に成形する工程である。
【0071】
例えば石膏硬化体を製造する場合、成形工程において形成する成形体の形状は特に限定されるものではなく、任意の形状とすることができる。例えば成形工程においては石膏スラリーを板状や、ブロック形状に成形することができる。また、石膏スラリーの粘度を調整して石膏スラリーをパテ状とし、目地処理材として用いた場合には、部材間の空隙に充填、硬化することもできる。すなわち、石膏スラリーを部材間の空隙に対応した形状に成形することもできる。
【0072】
また、石膏ボードを製造する場合、成形工程は石膏スラリーをボード用原紙間に配置し成形する工程とすることができる。
【0073】
ここで、石膏ボードを製造する際の成形工程の構成例について
図2を用いて説明する。
図2は、石膏ボードを成形する装置の構成例を部分的且つ概略的に示す側面図である。
【0074】
図中右側から左側へと表面材である表面カバー原紙(ボード用原紙)11が、生産ラインに沿って搬送される。
【0075】
ミキサー12は、搬送ラインと関連する所定の位置、例えば、搬送ラインの上方または横に配置することができる。そして、単一のミキサー12において、石膏スラリーの原料である焼石膏と、リン酸水素カルシウム二水和物と、水と、場合によってはさらに、有機カルボン酸および/または有機カルボン酸塩や、各種添加剤とを混練し、石膏スラリーを製造する。添加剤としては例えば、澱粉やポリビニルアルコール等の石膏硬化体とボード用原紙との接着性を向上させる接着性向上剤、ガラス繊維等の無機繊維及び軽量骨材、バーミキュライト等の耐火材、凝結調整剤、凝結促進剤、減水剤、スルホコハク酸塩型界面活性剤等の泡径調整剤、シリコーンやパラフィン等の撥水剤等の従来から石膏硬化体に添加される各種添加剤が挙げられる。また、リン酸水素カルシウム二水和物以外に公知の強度向上剤を添加することもできる。
【0076】
なお、上述のように、焼石膏と、リン酸水素カルシウム二水和物等の固体は予め混合撹拌して混合物である石膏組成物としてからミキサー12に供給することもできる。
【0077】
また、泡を石膏スラリーの分取口121、122、125より添加し、泡の添加量を調整することにより任意の密度の石膏スラリーとすることができる。例えば分取口121、122からは泡を添加しない、または泡を少量添加し、高密度の石膏スラリー13を調製できる。そして、分取口125からは高密度の石膏スラリーよりも多く泡を添加し、低密度の石膏スラリー14を調製できる。
【0078】
そして、得られた高密度の石膏スラリー13を、送出管123、124を通じて、ロールコーター15の搬送方向における上流側で表面カバー原紙(ボード用原紙)11及び裏面カバー原紙(ボード用原紙)16上に供給する。
【0079】
ここで、171、172及び173は、それぞれ、塗布ロール、受けロール、及び粕取りロールを示す。表面カバー原紙11及び裏面カバー原紙16上の高密度の石膏スラリー13は、それぞれ、ロールコーター15の延展部に至り、延展部で延展される。高密度の石膏スラリー13の薄層と縁部領域との両方が、表面カバー原紙11上に形成される。また、同様に高密度の石膏スラリー13の薄層が、裏面カバー原紙16上に形成される。なお、
図2ではロールコーター15を用いて高密度の石膏スラリー13を表面カバー原紙11及び裏面カバー原紙16に塗布する例を示しているが、係る形態に限定されるものではない。例えば、ロールコーター15を用いて高密度の石膏スラリー13を表面カバー原紙11、または裏面カバー原紙16のいずれか一方のみに塗布してもよい。また、高密度の石膏スラリー13を表面カバー原紙11の側端部のみに配置することもできる。
【0080】
表面カバー原紙11は、そのまま搬送され、裏面カバー原紙16は、転向ローラ18によって表面カバー原紙11の搬送ライン方向に転向される。そして、表面カバー原紙11及び裏面カバー原紙16の両方は、成形機19に達する。ここで、表面カバー原紙11、裏面カバー原紙16の上に形成された薄層の間に、ミキサー12から管路126を通じて低密度の石膏スラリー14が供給される。表面カバー原紙11、低密度の石膏スラリー14、裏面カバー原紙16からなる三層構造を有する連続的な積層体が形成される。
【0081】
図2では1台のミキサー12により低密度の石膏スラリーと、高密度の石膏スラリーと、を製造した例を示したが、ミキサーを2台設け、各ミキサーで高密度の石膏スラリーと、低密度の石膏スラリーと、を製造してもよい。
【0082】
また、高密度の石膏スラリーと、低密度の石膏スラリーと、を用いる形態に限定されるものではなく、例えば一種類の密度の石膏スラリーを製造し、これをボード用原紙上に供給する形態であっても良い。
【0083】
具体的には例えば、連続して搬送される表面カバー原紙(ボード用原紙)上に所定の密度とした石膏スラリーを供給、堆積する。そして、当該石膏スラリーを巻き込むように下紙をその両端縁部にそれぞれつけられた刻線に沿って織り込む。この際、石膏スラリーの層の上に同速で搬送される裏面カバー原紙(ボード用原紙)を重ねる。次いで、石膏ボードの厚みと幅とを決定する成形機を通過させて成形する。以上の手順により石膏ボードを成形することもできる。
【0084】
なお、ここでは、石膏ボードを例に説明したが、表面材であるボード用原紙をガラス繊維不織布(ガラスティッシュ)や、ガラスマット等に変更し、これを表面に、若しくは表面近くに埋没させるように配置するなどして、各種石膏板を製造することもできる。
【0085】
次に、硬化工程を実施できる。硬化工程は、成形工程で得られた成形体を硬化させる工程である。
【0086】
硬化工程は、石膏スラリー中の焼石膏(半水石膏)が、水和反応により二水石膏の針状結晶が生じて凝結、凝固することにより実施できる。このため、石膏硬化体の製造方法、石膏ボードの製造方法いずれにおいても成形工程で形成した成形体内で石膏スラリーに添加した焼石膏と水との間で反応し、焼石膏の水和反応が進行することにより硬化工程を実施することができる。
【0087】
また、本実施形態の石膏硬化体の製造方法、石膏ボードの製造方法は、さらに必要に応じて、粗切断工程や、乾燥工程、裁断工程、積込工程等の任意の工程を設けることができる。
【0088】
例えば上記成形工程の後、硬化工程の進行中または硬化工程が終了した後に、成形工程で成形した成形体を粗切断カッターにより粗切断する粗切断工程を実施してもよい。粗切断工程では粗切断カッターにより、成形工程で形成された連続的な成形体を所定の長さに切断することができる。
【0089】
また、成形工程で成形した成形体、または粗切断工程で粗切断された成形体について余剰な水分を乾燥させる乾燥工程を実施できる。なお、乾燥工程には、硬化工程が終了した成形体を供給することができる。乾燥工程では乾燥機を用いて成形体を強制乾燥することにより実施できる。
【0090】
乾燥機により成形体を強制乾燥する方法は特に限定されるものではないが、例えば成形体の搬送経路上に乾燥機を設け、成形体が乾燥機内を通過することにより連続的に成形体を乾燥することができる。また、乾燥機内に成形体を搬入しバッチごとに成形体を乾燥することもできる。
【0091】
またさらに、例えば成形体を乾燥した後に、所定の長さの製品に裁断する裁断工程や、得られた石膏硬化体、または石膏ボードをリフター等により積み重ね、倉庫内に保管したり、出荷したりするためにトラック等へ積み込む積込工程等を実施することができる。
【0092】
以上に説明した本実施形態の石膏硬化体の製造方法、石膏ボードの製造方法によれば、強度向上剤として無機材料であるリン酸水素カルシウム二水和物を含む比重の小さい石膏硬化体、石膏ボードを製造できる。特に、石膏スラリーに添加したリン酸水素カルシウム二水和物は無機物であるため、難燃性と強度の向上とを両立した比重の小さい石膏硬化体、石膏ボードを提供できる。
【0093】
また、本実施形態の石膏硬化体の製造方法、石膏ボードの製造方法により得られる石膏硬化体、石膏ボードでは、たわみが発生することを抑制することができる。さらに、本実施形態の石膏硬化体の製造方法、石膏ボードの製造方法により得られる石膏硬化体、石膏ボードでは、寸法安定性も高めることができる。
【実施例】
【0094】
以下に具体的な実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実験例1]
実験例1では、リン酸水素カルシウム二水和物の添加の有無と、石膏硬化体の比重の異なる石膏硬化体を以下に説明する条件で作製し、評価を行った。
【0095】
まず、実験例1−1−1〜実験例1−1−6、実験例1−2−1〜実験例1−2−6の石膏硬化体の作製方法について説明する。
(実験例1−1−1〜実験例1−1−6)
実験例1−1−1〜実験例1−1−6では、以下の手順に従いリン酸水素カルシウム二水和物を添加した石膏硬化体を作製した。
【0096】
実験例1−1−1〜実験例1−1−6はいずれも実施例となっている。
【0097】
まず、焼石膏(β型)100質量部に対し、凝結促進剤2質量部と、リン酸水素カルシウム二水和物0.5質量部とを配合した石膏組成物を調製した。そして、該石膏組成物に対して、前記焼石膏100質量部に対し100質量部の割合の水を添加、混練し、更に発泡剤(主成分:アルキルエーテル硫酸塩)を発泡させて作製した泡を添加、混練して石膏スラリーを調製した。
【0098】
実験例1−1−1〜実験例1−1−6では表1に示すように、比重が0.3〜0.8の石膏硬化体の試験体を作製しており、石膏スラリーを調製する際に各実験例について表1に示した所定の比重となるように泡の添加量を調整した。つまり、例えば実験例1−1−1の石膏スラリーを調製する際には、得られる石膏硬化体の比重が0.3となるように泡の添加量を調整した。
【0099】
そして、調製した石膏スラリーを2cm×2cm×2cmの型枠に流しこみ、石膏スラリーが硬化したことを確認後、脱型し、40℃に設定した乾燥機内で恒量となるまで乾燥した。
(実験例1−2−1〜実験例1−2−6)
石膏組成物を作製する際にリン酸水素カルシウム二水和物を添加しなかった点以外は実験例1−1−1〜実験例1−1−6と同様にして石膏硬化体を作製した。本実験例においても、石膏スラリーを調製する際に泡の添加量を調整することにより実験例1−2−1〜実験例1−2−6の各試料について表1に示した比重としている。
【0100】
実験例1−2−1〜実験例1−2−6はいずれも比較例となる。
【0101】
次に、実験例1−1−1〜実験例1−1−6、実験例1−2−1〜実験例1−2−6において得られた石膏硬化体の評価方法について説明する。
(圧縮強度)
オートグラフ(島津製作所製 型式:AG−10NKI)を用いて、作製した2cm×2cm×2cmの石膏硬化体の圧縮強度を測定した。石膏硬化体にかける荷重は3mm/minとした。圧縮強度試験の結果を表1に示す。また、表1の結果をグラフにしたものを
図3に示す。
【0102】
【表1】
リン酸水素カルシウム二水和物を添加しない実験例1−2−1〜実験例1−2−6の石膏硬化体のうち、比重が0.3の実験例1−2−1の石膏硬化体は、型枠から脱型することができたものの、乾燥中に激しく収縮して形状を維持できなかった。このことから実験例1−2−1の比重が0.3の試験体は特に強度が低いことが確認できた。
【0103】
表1、
図3に示したように、比重が同じで、リン酸水素カルシウム二水和物の添加の有無だけが異なる試験体について圧縮強度の測定結果を比較すると、リン酸水素カルシウム二水和物の添加により、圧縮強度が約10〜20%上昇することを確認できた。すなわち、リン酸水素カルシウム二水和物を添加することによる、石膏硬化体の強度向上効果を確認することができた。
[実験例2]
実験例2では、リン酸水素カルシウム二水和物の添加の有無と焼石膏の種類、比率の異なる石膏硬化体を以下に説明する条件で作製し、評価を行った。
【0104】
実験例2−1〜実験例2−3が実施例、実験例2−4〜実験例2−6が比較例となる。
(実験例2−1)
本実験例では焼石膏としてβ型のみを用い、リン酸水素カルシウム二水和物を添加した石膏硬化体を作製した。
【0105】
具体的には、焼石膏(β型)100質量部に対し、凝結促進剤2質量部と、リン酸水素カルシウム二水和物0.5質量部を配合した石膏組成物を作製した。そして、該石膏組成物に対して、焼石膏100質量部に対し100質量部の割合の水を添加、混練し、更に発泡剤(主成分:アルキルエーテル硫酸塩)を発泡させて作製した泡を添加、混練して石膏スラリーを調製した。なお、泡は石膏硬化体の比重が0.5となるように添加した。
【0106】
そして、作製した石膏スラリーを2cm×2cm×2cmの型枠に流しこみ、石膏スラリーが硬化したことを確認後に脱型し、40℃に設定した乾燥機内で恒量となるまで乾燥した。
【0107】
得られた試験体について実験例1の場合と同様にして圧縮強度の測定を行った。結果を表2に示す。
(実験例2−2)
焼石膏として、β型を90質量部、α型を10質量部含む焼石膏を用いた点以外は実験例2−1と同様にして試験体を作製し、評価を行った。結果を表2に示す。
(実験例2−3)
焼石膏として、α型を100質量部含む焼石膏、すなわちα型の焼石膏のみを用いた点以外は実験例2−1と同様にして試験体を作製し、評価を行った。結果を表2に示す。
(実験例2−4〜実験例2−6)
表2に示すようにリン酸水素カルシウム二水和物を添加しなかった点以外は、実験例2−4〜実験例2−6について、それぞれ実験例2−1〜実験例2−3と同様にして試験体を作製し評価を行った。結果を表2に示す。
【0108】
【表2】
実験例2−3と実験例2−6との比較から、焼石膏がα型のみの場合のリン酸水素カルシウム二水和物の添加による圧縮強度の向上率は約5%であることを確認できた。
【0109】
これに対して、実験例2−1と実験例2−4とを比較すると焼石膏がβ型のみの場合のリン酸水素カルシウム二水和物の添加による圧縮強度の向上率は約12%であることを確認できた。また、実験例2−2と実験例2−5とを比較すると焼石膏がβ型を90質量部含む場合、リン酸水素カルシウム二水和物の添加による圧縮強度の向上率は約11%であることを確認できた。
【0110】
これらの結果から、焼石膏中のβ型焼石膏の比率が高い方がリン酸水素カルシウム二水和物の添加による圧縮強度の向上率が高いことを確認できた。
[実験例3]
実験例3では、芯材となる石膏硬化体についてリン酸水素カルシウム二水和物の添加の有無と、比重の異なる石膏ボードを以下に説明する条件、手順により作製し、評価を行った。
【0111】
まず、実験例3−1−1〜実験例3−1−7、実験例3−2−1〜実験例3−2−7の石膏ボードの作製方法について説明する。
(実験例3−1−1〜実験例3−1−7)
実験例3−1−1〜実験例3−1−6が実施例であり、実験例3−1−7が比較例である。
【0112】
石膏ボードの作製手順について
図2を用いて説明する。
【0113】
図2中右側から左側へとボード用原紙(表面カバー原紙)11を、生産ラインに沿って連続的に搬送する。なお、本実験例においてボード用原紙は、表面カバー原紙11、及び後述する裏面カバー原紙16ともに200g/m
2のものを用いた。
【0114】
ミキサー12により石膏スラリーを調製し、ボード用原紙間に供給した。ミキサー12は、
図2に示すように搬送ラインの上方または横に配置されている。ミキサー12では、石膏組成物と、水と、を混練して石膏スラリー(石膏泥漿)を調製した。なお、石膏組成物は、焼石膏(β型)100質量部に対して、リン酸水素カルシウム二水和物0.5質量部と、凝結促進剤2質量部と、接着性向上剤0.5質量部と、を含むように予め混合したものを用いた。そして、石膏スラリーとする際に、石膏組成物中の焼石膏100質量部に対して、100質量部の割合の水と、0.3質量部の減水剤(ナフタレンスルホン酸系)を添加した。
【0115】
そして、ミキサー12において得られた石膏スラリーについて、泡を添加していない高密度の石膏スラリー13を、分取口121、122を経由し、送出管123、124を通じて、ロールコーター15の搬送方向における上流側で表面カバー原紙11及び裏面カバー原紙16上に供給した。
【0116】
表面カバー原紙11及び裏面カバー原紙16上の高密度の石膏スラリー13は、それぞれ、ロールコーター15の延展部に至り、延展部で延展される。高密度の石膏スラリー13の薄層と縁部領域との両方が、表面カバー原紙11上に形成される。また、同様に高密度の石膏スラリー13の薄層が、裏面カバー原紙16上に形成される。
【0117】
表面カバー原紙11は、そのまま搬送され、裏面カバー原紙16は、転向ローラ18によって表面カバー原紙11の搬送ライン方向に転向される。
【0118】
そして、表面カバー原紙11及び裏面カバー原紙16の両方は、成形機19に達する。ここで、各ボード用原紙11、16の上に形成された薄層の間に、ミキサー12から分取口125にて泡を添加して調製された低密度の石膏スラリー14が、管路126を通じて供給される。なお、各実験例について石膏硬化体全体が、表3に示した石膏硬化体比重となるように、低密度の石膏スラリー14には泡を添加した。また、泡は発泡剤(主成分:アルキルエーテル硫酸塩)を発泡して作製した。
【0119】
そして、成形機19を通過することにより、表面カバー原紙11、低密度の石膏スラリー14、裏面カバー原紙16からなる三層構造を有する連続的な積層体が形成される。この際、石膏ボードの厚みが9.5mmとなるように成形した。
【0120】
成形した積層体は、硬化すると共に図示しない粗切断カッターに至る。粗切断カッターは、連続的な積層体を所定の長さの板状体に切断し、原紙で被覆された石膏を主体とする芯材からなる板状体、すなわち、石膏ボードの半製品が形成される。
【0121】
粗切断された積層体は、更に、乾燥機(図示せず)を通過し、強制乾燥されて余分な水分を除去した。その後、所定の長さの製品に裁断して石膏ボードを製造した。
(実験例3−2−1〜実験例3−2−7)
石膏組成物を作製する際にリン酸水素カルシウム二水和物を添加しなかった点以外は実験例3−1−1〜実験例3−1−7と同様にして石膏硬化体を作製した。本実験例においても、低密度の石膏スラリー14を調製する際、実験例3−2−1〜実験例3−2−7の各試料について石膏硬化体全体の比重が表3に示した比重となるように泡の添加量を調整した。
【0122】
実験例3−2−1〜実験例3−2−7はいずれも比較例となる。
【0123】
次に、得られた石膏ボードの評価方法について説明する。
(圧縮強度)
作製した石膏ボードの中央部を4cm×4cmにカットし、カットしたボード片を4枚重ねたものを試験体とした。
【0124】
測定の際の条件としては、実験例1の試験と同様にして行った。具体的にはオートグラフ(株式会社島津製作所製 型番:AG−10KNI)を用いて、オートグラフの荷重速度を3mm/minとして測定を行った。結果を表3に示す。
(たわみ量試験)
たわみ量試験は発明を実施するための形態で
図1を用いて説明した手順により実施した。
【0125】
具体的には作製した石膏ボードを縦10cm、横50cmにカットし評価用の石膏ボード1を作製した。次に評価用の石膏ボード1の長辺の一方の端部を、評価用の石膏ボード1の表面1aが水平かつ下方になるように、固定具2により固定した。なお、固定具2が、評価用の石膏ボード1の長辺の一方の端部を固定する範囲wは、50mmとなるようにした。
【0126】
次に、評価用の石膏ボード1を温度40℃、相対湿度95%の環境下で24時間放置し、24時間経過後の評価用の石膏ボード1´の他方の端部の位置の高さ方向の変位量h(固定側端部の反対側の端部(他方の端部)の下方向への変位量)を測定した。そして係る高さ方向の変位量hをたわみ量とした。結果を表3に示す。
(発熱性試験)
JIS A 6901:2009発熱性試験に準拠して行い、加熱時間20分における
総発熱量と最高発熱速度について測定した。この試験は実験例3−1−3及び実験例3−2−3について行った。結果を表3に示す。
【0127】
【表3】
リン酸水素カルシウム二水和物を添加しなかった実験例3−2−1〜実験例3−2−7の石膏ボードのうち、実験例3−2−1の比重が0.3の石膏ボードは、乾燥中に激しく収縮し形状を維持できなかった。このことから実験例3−2−1の比重が0.3の石膏ボードの芯材である石膏硬化体は特に強度が低いことが確認できた。
【0128】
表3に示したように、比重が同じで、リン酸水素カルシウム二水和物の添加の有無だけが異なる石膏ボードについて圧縮強度の測定結果を比較すると、リン酸水素カルシウム二水和物の添加により、圧縮強度が約10〜20%上昇することを確認できた。
【0129】
また、リン酸水素カルシウム二水和物の添加によりたわみ量が小さくなることも確認できた。
【0130】
ただし、石膏硬化体の比重が高くなるにつれてリン酸水素カルシウム二水和物の添加によるたわみの抑制効果は小さくなり、比重が0.9程度で頭打ちになることが確認できる。このことから、リン酸水素カルシウム二水和物によるたわみ量の抑制効果は石膏硬化体の比重が小さいとき、例えば比重が0.9未満の時に特に効果を発揮することを確認できた。
【0131】
なお、リン酸水素カルシウム二水和物の添加によるたわみの抑制効果とは、比重が同じで、リン酸水素カルシウム二水和物の添加の有無だけが異なる試料(例えば実験例3−1−2と実験例3−2−2)のたわみ量の差により算出できる。
【0132】
更に、リン酸水素カルシウム二水和物を添加した実験例3−1−3について発熱性試験を実施したところ、表3に示したようにリン酸水素カルシウム二水和物を添加していない実験例3−2−3と加熱時間20分における総発熱量、及び最高発熱速度は同程度であった。そして、実験例3−1−3は、加熱時間20分における総発熱量が8MJ/m
2以下であり、かつ、最高発熱速度が200kW/m
2未満であり、発熱性試験の加熱時間内に石膏ボードに貫通孔が発生しないことを確認できた。すなわち、リン酸水素カルシウム二水和物を添加しても難燃性が維持され、JIS A 6901:2009に規定する発熱性1級の規格を満たすことを確認できた。
[実験例4]
(実験例4−1〜実験例4−8)
実験例4では、以下の手順により、芯材となる石膏硬化体についてリン酸水素カルシウム二水和物の添加量の異なる石膏ボードを製造し、評価を行った。
【0133】
実験例4−1〜実験例4−8では、各実験例について石膏組成物を調製する際のリン酸水素カルシウム二水和物の添加量を表4に示した量とした点と、低密度の石膏スラリー14を調製する際に石膏硬化体全体の比重が0.5となるように泡を添加した点以外は実験例3と同様にして石膏ボードを製造した。
【0134】
表4中、実験例4−2〜実験例4−8が実施例であり、実験例4−1が比較例である。
【0135】
石膏ボードの具体的な製造方法については上述のように実験例3の場合と同様にして実施したため、ここでは説明を省略する。
【0136】
得られた石膏ボードについて圧縮強度、たわみ量試験を実施した。これらの評価についても実験例3と同様にして実施したため説明を省略する。
【0137】
結果を表4に、またリン酸水素カルシウム二水和物の添加量に対するたわみ量の変化をグラフ化したものを
図4に示す。
【0138】
【表4】
表4の結果から、リン酸水素カルシウム二水和物を添加量が0.01重量部以上となるように添加することにより、圧縮強度の向上や、たわみ量を抑制する効果があることを確認できた。特に、リン酸水素カルシウム二水和物の添加量が増えるに従い圧縮強度は上昇し、たわみ量が小さくなることを確認できた。また、
図4からたわみ量はリン酸水素カルシウム二水和物の添加量が多くなるに従って小さくなることを確認できた。ただし、リン酸水素カルシウム二水和物の添加量を5質量部より多くしても、すなわち焼石膏に対して5%より多く添加してもたわみ量には大きな変化が見られないことを確認できた。このことから、リン酸水素カルシウム二水和物の添加量は焼石膏100質量部に対して5質量部以下が好ましいことを確認できた。
[実験例5]
実験例5では、以下の手順により、芯材となる石膏硬化体についてリン酸水素カルシウム二水和物、及び酒石酸の添加量の異なる石膏ボードを製造し、評価を行った。
【0139】
焼石膏(β型)100質量部と、各実験例について表5に示した量のリン酸水素カルシウム二水和物及び酒石酸と、凝結促進剤2質量部と、接着性向上剤0.5質量部と、を含む石膏組成物を用いた点と、低密度の石膏スラリー14を調製する際に石膏硬化体全体の比重が0.5となるように泡を添加した点以外は実験例3と同様にして石膏ボードを製造した。
【0140】
表5中、実験例5−3〜実験例5−8が実施例であり、実験例5−1、実験例5−2が比較例である。
【0141】
石膏ボードの製造方法については実験例3の場合と同様にして実施したため、ここでは説明を省略する。
【0142】
得られた石膏ボードについてたわみ量試験、及び吸水膨張率試験、圧縮強度試験を実施した。たわみ量試験、圧縮強度試験の評価方法については実験例3と同様にして実施したため説明を省略する。
【0143】
吸水膨張率試験は、まず、作製した石膏ボードを縦5cm、横30cmにカットし、カットした石膏ボードの長辺の両端部にアクリル板を貼付けた。両アクリル板にダイヤルゲージの先端を軽くあてて、長辺の長さを測定できるように固定した。この際の長辺の長さ、すなわち吸水膨張率試験前の長辺の長さを以下、単に長辺の長さとする。次いで、20℃の水を注入した容器に、石膏ボードの長辺の一方の端部から約5mm浸漬するように石膏ボードを入れ24時間放置した。そして、石膏ボードの一部を水に浸漬し始めてから24時間後の長辺の長さを測定し(24時間放置後の長辺の長さ)、下記計算式から吸水膨張率を測定した。
【0144】
吸水膨張率(%)=(24時間放置後の長辺の長さ−長辺の長さ)/長辺の長さ
評価結果を表5に示す。
【0145】
【表5】
表5の結果から、例えば、実験例5−3〜実験例5−7を比較すると、リン酸水素カルシウム二水和物に加えて、酒石酸を併用して添加することにより石膏ボードのたわみ量や吸水膨張率を大幅に低減できることを確認できた。また、圧縮強度も高くなっていることを確認できた。特に酒石酸の添加量が0.005重量部程度でも吸水膨張率を抑制できることが確認できた。なお、吸水膨張率が低減するとは、石膏硬化体の寸法安定性を高められていることを意味している。
【0146】
また、実験例5−3と実験例5−8を比較した場合、酒石酸を添加していない実験例5−3と、酒石酸を添加した実験例5−8の吸水膨張率は0.18%と同じになったが、たわみ量は実験例5−8の方が大幅に低減できていることを確認できた。
[実験例6]
実験例6では、以下の手順により、芯材となる石膏硬化体について有機カルボン酸又は有機カルボン酸塩を添加した石膏ボードを作製し、その評価を行った。
【0147】
焼石膏(β型)100質量部と、リン酸水素カルシウム二水和物0.5質量部と、表6に示すように各実験例について酒石酸、クエン酸、コハク酸のいずれか1種を0.05質量部と、凝結促進剤2質量部と、接着性向上剤0.5質量部と、を含む石膏組成物を用いた点。さらに、低密度の石膏スラリー14を調製する際に石膏硬化体全体の比重が0.5となるように泡を添加した点。以上の2点以外は実験例3と同様にして石膏ボードを製造した。
【0148】
表6中、実験例6−1〜実験例6−3のいずれもが実施例である。
【0149】
石膏ボードの製造方法については実験例3の場合と同様にして実施したため、ここでは説明を省略する。
【0150】
得られた石膏ボードについてたわみ量試験、吸水膨張率試験、圧縮強度試験を実施した。たわみ量試験、圧縮強度試験については実験例3と同様にして実施したため説明を省略する。また、吸水膨張率試験の評価方法については実験例5と同様にして実施したため説明を省略する。
【0151】
評価結果を表6に示す。
【0152】
【表6】
表6に示した実験例6−1〜実験例6−3の結果と、実験例5−1や実験例5−3の結果を比較すると明らかなように、酒石酸に限られず、クエン酸やコハク酸においても石膏ボードのたわみ量や、吸水膨張率を大幅に低減できることを確認できた。すなわち石膏硬化体の寸法安定性を高める効果、たわみ量を抑制する効果を確認できた。
【0153】
また、リン酸水素カルシウム二水和物に加えて、クエン酸やコハク酸を併用して添加した場合についても圧縮強度を向上させる効果を確認できた。
【解決手段】焼石膏と、リン酸水素カルシウム二水和物と、水と、泡と、を混練して石膏スラリーを製造する石膏スラリー製造工程と、前記石膏スラリーを成形する成形工程と、前記成形工程で得られた成形体を硬化させる硬化工程とを含む石膏硬化体の製造方法により、比重が0.3〜0.8である石膏硬化体を製造する方法。前記石膏スラリーは、前記焼石膏100質量部に対して、前記リン酸水素カルシウム二水和物を0.01〜5質量部の割合で含み、有機カルボン酸及び/又は有機カルボン酸塩をさらに含む石膏硬化体。