(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明に係る燃料電池システムの好適な実施形態を図面を用いて説明する。
図1は、燃料電池システムの構成を示す概念図である。
【0025】
<燃料電池システムの概要>
図1に示すように、燃料電池システムは、燃料ガスである水素ガスを発生させて燃料電池20へ供給する燃料発生部10と、この燃料発生部10から供給される水素ガスにより発電して電気出力を行う燃料電池20と、この燃料電池20の出力電圧を所定の電圧に変換して出力する回路部30を有する。回路部30の出力コネクター32(
図4参照)は、
図1に図示するように、例えば、携帯電話50の電源コネクタ51に接続される。
【0026】
携帯電話50は、充電回路52を介してリチウムイオン二次電池53等を充電する構成になっており、電源コネクタ51を介して、回路部30の出力コネクタからの電力が携帯電話50に供給される。
【0027】
本発明に係る燃料電池システムにより供給される電力は、好適には二次電池を充電するために利用することができ、各種二次電池や大容量のキャパシタ等への充電電力として供給される。例えば、上記リチウムイオン二次電池の他、ニッケルカドミウム二次電池、ニッケル水素二次電池等の二次電池の充電用として本システムを用いることができる。
【0028】
なお、充電機器としては、上記の携帯電話50に限定されるものではなく、種々の携帯機器やノートパソコン等に対しても用いることができる。
【0029】
本発明における燃料発生部10は、例えば、水素発生剤や水素吸蔵合金を用いた構成が採用されるが、水素を収容する圧力容器などを用いてもよく、メタノール改質型の水素ガス供給手段を用いてもよい。
【0030】
携帯機器への充電用として用いる場合、水素発生剤を用いた燃料発生部10を用いるのが好ましい。例えば、
図1に示すように、水等の反応液14との反応により水素ガスを発生する水素発生剤11を収容する反応容器12と、反応液14の供給部13を備える。
【0031】
反応液14の供給部13には、貯液部15を有していてもよく、反応容器12に直接、水などの反応液14を供給できる構造にしてもよい。貯液部15を設ける場合、注水口を設けて、水の消費量に応じて、水を追加供給できるようにしてもよい。貯液部15には、繊維集合体や多孔質体を配置して、毛管現象によって所定の部分に水が保持されるようにしてもよい。反応液14の供給部には、貯液部15の反応液14を輸送する圧送手段を有していてもよい。
【0032】
水素ガス発生手段としては、水分(水又は水蒸気)との反応で水素ガスを発生させる水素発生剤11などを反応容器12内に備え、これにより燃料電池20に水素ガスを供給することができる。水素発生剤11の反応が加熱を要する場合、加熱手段が設けられる。
【0033】
水素発生剤11としては、水分と反応して水素を生成する金属粒子が好ましく、Fe、Al、Mg、Zn、Siなどから選ばれる1種以上の金属の粒子や、これらが部分的に酸化された金属の粒子が挙げられる。また、酸化反応を促進するための金属触媒などを添加することで、より低温で水素ガスを発生させることができる。更に、MgH
2等の水素化金属を単独又は上記と併用して用いることも可能である。水素発生剤11は、反応容器12内に金属粒子のまま充填することも可能であるが、金属粒子を結着させた多孔質体を使用することもできる。
【0034】
このような水素ガス発生手段によって、水素組成が略100%(水分は除く)の水素ガスを発生させることができる。燃料発生部10と燃料電池20とは、水素供給管16で連結されており、発生した水素ガス(H
2)が燃料電池20の単位セルのアノード側空間に供給される。
【0035】
<燃料電池の構成>
本発明の燃料電池は、
図2に示すように、複数の単位セルC1〜C4(以下、各単位セルを区別する必要がない場合は、単位セルCと表記する。)を備え、いずれかの単位セルCと他の単位セルCの導電層同士を、接続部により電気的に接続している。本実施形態では、例えば、単位セルC1の第1導電層(第1金属層4)と、それに隣接する単位セルC2の第2導電層(第2金属層5)とを電気的に接続(直列接続)する例を示すが、本発明では、何れかの単位セルCと他の単位セルCとを並列接続することも可能である。その場合、何れかの単位セルCと他の単位セルCの第1導電層同士及び第2導電層同士が電気的に接続される。もちろん、並列接続と直列接続とを組み合わせることも可能である。
【0036】
なお、接続する単位セルCの数としては、要求される電圧又は電流に応じて、設定することが可能である。本実施形態では4つの単位セルC1〜C4を接続する例を示すが、単位セルCは1つでもよく、5つ以上であってもよい。例えば、8つの単位セルを用いて、2個ずつペアで並列接続して4つのペアを作り、各ペアを直列接続することができる。この場合、4つの単位セルを直列接続する構成に対して、電圧は同じであるが電流量を2倍にすることができる。
【0037】
本発明における各々の単位セルCは、固体高分子電解質層1と、この固体高分子電解質層1の両側に設けられた第1電極層2及び第2電極層3と、これら電極層2,3の更に外側に各々配置された第1導電層及び第2導電層とを有する。本実施形態では、第1導電層及び第2導電層が、第1電極層2及び第2電極層3を部分的に露出させる露出部を有する第1金属層4及び第2金属層5とからなる例を示す。
【0038】
なお、導電層の材質としては、金属、導電性高分子、導電性ゴム、導電性繊維、導電性ペースト、導電性塗料などが挙げられる。
【0039】
固体高分子電解質層1としては、従来の固体高分子膜型の燃料電池に用いられるものであれば何れでもよいが、化学的安定性及び導電性の点から、超強酸であるスルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体からなる陽イオン交換膜が好適に用いられる。このような陽イオン交換膜としては、ナフィオン(登録商標)が好適に用いられる。その他、例えば、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂からなる多孔質膜に上記ナフィオンや他のイオン伝導性物質を含浸させたものや、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂からなる多孔質膜や不織布に上記ナフィオンや他のイオン伝導性物質を担持させたものでもよい。
【0040】
固体高分子電解質層1の厚みは、薄くするほど全体の薄型化に有効であるが、イオン伝導機能、強度、ハンドリング性などを考慮すると、10〜300μmが使用可能であるが、25〜50μmが好ましい。
【0041】
電極層2,3は、固体高分子電解質層1の表面付近でアノード側およびカソード側の電極反応を生じさせるものであれば何れでもよい。なかでも、ガス拡散層としての機能を発揮して、燃料ガス、燃料液、酸化ガス及び水蒸気の供給・排出を行なうと同時に、集電の機能を発揮するものが好適に使用できる。電極層2,3としては、同一又は異なるものが使用でき、その基材には電極触媒作用を有する触媒を担持させることが好ましい。触媒は、固体高分子電解質層1と接する内面側に少なくとも担持させるのが好ましい。
【0042】
電極層2,3の電極基材としては、例えば、カーボンペーパー、カーボン繊維不織布などの繊維質カーボン、導電性高分子繊維の集合体などの電導性多孔質材が使用できる。また、固体高分子電解質層1に触媒を直接付着させたり、カーボンブラックなどの導電性粒子に担持させて固体高分子電解質層1に付着させた電極層2,3を用いることも可能である。
【0043】
一般に、電極層2,3は、このような電導性多孔質材にフッ素樹脂等の撥水性物質を添加して作製されるものであって、触媒を担持させる場合、白金微粒子などの触媒とフッ素樹脂等の撥水性物質とを混合し、これに溶媒を混合して、ペースト状或いはインク状とした後、これを固体高分子電解質膜と対向すべき電極基材の片面に塗布して形成される。
【0044】
一般に、電極層2,3や固体高分子電解質層1は、燃料電池に供給される還元ガスと酸化ガスに応じた設計がなされる。本発明では、酸化ガスとして空気が用いられると共に、還元ガスとして水素ガスを用いるのが好ましい。なお、還元ガスの代わりにメタノール等の燃料液を使用することも可能である。
【0045】
例えば、水素ガスと空気を使用する場合、空気が自然供給される側のカソード側の第2電極層3(本明細書では、アノード側を第1電極層、カソード側を第2電極層と仮定する)では、酸素と水素イオンの反応が生じて水が生成するため、かかる電極反応に応じた設計をするのが好ましい。特に、低作動温度、高電流密度及び高ガス利用率の運転条件では、特に水が生成する空気極において水蒸気の凝縮による電極多孔体の閉塞(フラッディング)現象が起こりやすい。したがって、長期にわたって燃料電池の安定な特性を得るためには、フラッディング現象が起こらないように電極の撥水性を確保することが有効である。
【0046】
触媒としては、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、銀、ニッケル、鉄、銅、コバルト及びモリブデンから選ばれる少なくとも1種の金属か、又はその酸化物が使用でき、これらの触媒をカーボンブラック等に予め担持させたものも使用できる。
【0047】
電極層2,3の厚みは、薄くするほど全体の薄型化に有効であるが、電極反応、強度、ハンドリング性などを考慮すると、1〜500μmが好ましく、100〜300μmがより好ましい。電極層2,3と固体高分子電解質層1とは、予め接着、融着、又は塗布形成等を行って積層一体化しておいてもよいが、単に積層配置されているだけでもよい。このような積層体は、膜/電極接合体(Membrane Electrode Assembly:MEA)として入手することもでき、これを使用してもよい。
【0048】
本発明では、第1電極層2及び第2電極層3の外形が固体高分子電解質層1の外形より小さいものでもよいが、第1電極層2及び第2電極層3の外形と固体高分子電解質層1の外形とが同じであることが好ましい。電極層の外形と固体高分子電解質層の外形とが同じであると、電極板と固体高分子電解質の積層体を打ち抜いて、固体高分子電解質・電極・接合体を製造することができ、量産効果により当該接合体のコストを低減することができる。また、電極層の外周より金属層の外周が内側に形成されていることで、電極層の外周及び固体高分子電解質層の外周をより確実に封止することができる。
【0049】
アノード側電極層2の表面にはアノード側の第1金属層4が配置され、カソード側電極層3の表面にはカソード側の第2金属層5が配置される(本明細書では、アノード側を第1金属層、カソード側を第2金属層と仮定する)。第1金属層4は、第1電極層2を部分的に露出させる露出部を有するが、本実施形態では、アノード側金属層4には燃料ガス等を供給するための開孔4aが設けられている例を示す。
【0050】
第1金属層4の露出部は、アノード側電極層2が露出可能であれば、その個数、形状、大きさ、形成位置などは何れでもよい。アノード側金属層4の開孔4aは、例えば、規則的又はランダムに複数の円孔やスリット等を設けたり、または金属メッシュによって開孔4aを設けたり、第1金属層4を櫛形電極のような形状にしてアノード側電極層2を露出させてもよい。開孔4a部分の面積が締める割合(開孔率)は、電極との接触面積とガスの供給面積のバランスなどの観点から、10〜50%が好ましく、15〜30%がより好ましい。
【0051】
また、カソード側の第2金属層5は、第2電極層3を部分的に露出させる露出部を有するが、本実施形態では、カソード側金属層5には、空気中の酸素を供給(自然吸気)するための多数の開孔5aが設けられている例を示す。開孔5aは、カソード側電極層3が露出可能であれば、その個数、形状、大きさ、形成位置などは何れでもよい。カソード側金属層5の開孔5aは、例えば、規則的又はランダムに複数の円孔やスリット等を設けたり、または金属メッシュによって開孔5aを設けたり、第2金属層5を櫛形電極のような形状にしてカソード側電極層3を露出させてもよい。開孔5a部分の面積が締める割合(開孔率)は、電極との接触面積とガスの供給面積のバランスなどの観点から、10〜50%が好ましく、15〜30%がより好ましい。
【0052】
金属層4,5としては、電極反応に悪影響がないものであれば何れの金属も使用でき、例えばステンレス板、ニッケル、銅、銅合金などが挙げられる。但し、導電性、コスト、形状付与性、加圧のための強度などの観点から、銅、銅合金、ステンレス板などが好ましい。また、上記の金属に金メッキなどの金属メッキを施したものでもよい。
【0053】
なお、金属層4,5の厚みは、薄くするほど全体の薄型化に有効であるが、導電性、コスト、重量、形状付与性、加圧のための強度などを考慮すると、10〜1000μmが好ましく、50〜200μmがより好ましい。
【0054】
本発明では、電極層2,3と金属層4,5とを良好に樹脂で一体化する観点から、第1電極層2の外周より、第1金属層4の外周が内側に形成されていることが好ましく、第2電極層3の外周より、第2金属層5の外周が内側に形成されていることが好ましい。なお、第1電極層2の外周より、第1金属層4の外周が外側に形成されていてもよく、第2電極層3の外周より、第2金属層5の外周が外側に形成されていてもよい。
【0055】
金属層4及び金属層5は、少なくとも一部が樹脂から露出することにより、その部分を電極として電気を外部に取り出すことができる。このため、樹脂成形体6に対して、金属層4及び金属層5を一部露出させた端子部を設けてもよいが、本発明では、直列接続の場合には、その両端の単位セルCの金属層4又は金属層5が、単位セルCの電極となる突出部4b,5bを備え、これが樹脂成形体6から外部に出ていることが好ましい。この突出部4b,5bは、インサート成形を行う際に、金属層4,5等(積層物L)を成形型内に保持するためにも利用できる。
【0056】
金属層4及び金属層5の形成や開孔5a、4aの形成は、プレス加工(プレス打ち抜き加工)を利用して行うことができる。また、金属層4及び金属層5の突出部4b,5bには、樹脂の流動や密着性を良好にする目的で、インサート成形される部分に貫通孔を設けてもよい。更に、接続や固定を良好に行うために、突出部4b,5bの露出した部分に貫通孔を設けてもよい。
【0057】
次に、燃料電池20の構成を説明する。
図2は、本発明の燃料電池の一例を示す図であり、(a)は外観斜視図、(b)は外観正面図、(c)は金属板4,5の構成を示す斜視図である。
図3は、
図2に示す燃料電池の断面図である。
【0058】
本発明の燃料電池は、
図1に示すように、何れかの単位セルCと他の単位セルCの導電層同士を電気的に接続する接続部Jを備えているが、直列接続の場合、何れかの単位セルCの第1導電層と他の単位セルCの第2導電層とが電気的に接続される。本実施形態では、隣り合う前記単位セルCの一方の第1導電層(金属層4)と、他方の第2導電層(金属層5)と、接続部Jとが、連続する金属板(一体化した単一の金属部品)からなる金属層で形成されている例を示す。
【0059】
この実施形態では、各単位セルC1〜C4が直列に接続されているため、金属層の突出部4b,5bは、それぞれ単位セルC1と単位セルC4とにだけ設けられている。
【0060】
第1金属層4及び第2金属層5を接続部Jを介して一体化した金属板は、隣り合う単位セルC同士を直列に接続するための部材である。第1金属層4及び第2金属層5を独立して配置する代わりに、この一体化した金属板を用いることにより、これを成形型10内に配置するだけで、単位セルC1〜C4が直列に接続された燃料電池を製造することができる。
【0061】
金属板は、
図2(c)に示すように、相互に平行な面内に隣接して配置された第1金属層4及び第2金属層5が、同じ面内で外側に各々延設された延出部4j,5jを有しており、延出部4j,5jを段差部4sによって連結一体化してある。このような段差部は、金属板を板金加工することで作製することができる。なお、並列接続を行う場合、例えば、同じ面内に隣接して配置された第1金属層4同士(又は第2金属層5同士)が、延設された延出部により連結一体化した金属板を使用することができる。また、接続部Jは、部分的に樹脂成形体6の外部に突出した形状となっている。
【0062】
突出部4b,5bは、不図示の回路部に接続されて出力電圧として取り出すことができる。また、接続部Jについては、上記回路部に接続することで、中間的な電位のモニターを行うことができる。
【0063】
この実施形態では、接続部Jが部分的に樹脂成形体6の外部に突出する形状となっているが、接続部Jが中央に段差部を有する長方形となっていてもよい。後述のように、インサート形成する際には、積層物を成形型内に位置固定する必要があり、位置固定の際には接続部Jが部分的に樹脂成形体6の外部に突出する形状であることが好ましい。
【0064】
接続部Jは、隣り合う単位セルC同士を直列に接続するものであり、第1金属層4及び第2金属層5と一体化した金属板になっている。第1金属層4及び第2金属層5を独立して配置する代わりに、この金属板を用いることにより、これを成形型内に配置するだけで、単位セルCが直列に接続された燃料電池を製造することができる。
【0065】
<回路部の構成>
次に、
図1に示す回路部の具体的な構成を
図4により説明する。回路部30の主要な機能は、燃料電池20の出力電圧V
FCを接続される携帯機器に適切な電圧に変換(昇圧・降圧)することである。本実施形態では、昇圧される例として説明する。
【0066】
電圧を変換するための直流電圧変換回路として可変電圧出力のDC−DCコンバータ31が用いられる。これは、直流の入力電圧を変換して、直流のより大きな電圧を出力する回路である。本発明において、特に、小型の充電装置を構成する場合は、ステップアップ回路を利用したステップアップコンバータを用いるのが好ましい。
【0067】
ステップアップ回路の原理は、コイルに対する入力電力のオン−オフによって電流変化を生じさせ、これに応じた電圧の上昇分を、発振回路で継続的に生じさせて出力として取り出すというものである。このため、ステップアップコンバータは、発振回路と電力回路とを備え、必要に応じて、出力電圧調整回路、二次フィルタ、外部クロック同期回路などが追加される。
【0068】
ステップアップコンバータ用の集積回路(パッケージ)は、各種市販されており、推奨される標準的な回路構成によって、本発明における直流電圧変換回路を構成することができる。
【0069】
DC−DCコンバータ31は、一般に入力VIN+,VIN−、出力OUT+,OUT−、グランドGNDなどを備えている。DC−DCコンバータ31の入力VIN+,VIN−は燃料電池20の電極板4b,5b(
図1参照)に接続され、出力OUT+は出力コネクタ32の+側端子32aに接続され、出力OUT−は出力コネクタ32の−側端子32bに接続される。DC−DCコンバータ31のVIN−と出力OUT−は共にグランド(GND)される。したがって、
図4では図示を省略している。
【0070】
また、DC−DCコンバータ31の出力側にはフィードバック端子FBが設けられている。この端子FBに関しては、後述する。
【0071】
<電圧制御部の構成>
次に、燃料電池20の出力電圧V
FCが予め設定された設定電圧となるように制御を行う電圧制御部の構成を説明する。本発明では、上記出力電圧V
FCを設定電圧になるように制御することで、燃料電池20に供給される水素ガスをすべて消費できるようにし、外部に水素ガスを排出しないようにすることを目的とする。
【0072】
まず、抵抗R1,抵抗R2からなる分圧回路を用いて、出力電圧V
FCを所定の比率に分圧する。一方、制御用のオペアンプOP(差動増幅器に相当)の負入力端子(第1入力端子に相当)に抵抗R3を介して、上記分圧された出力電圧V
FCが入力される。一方、オペアンプOPの正入力端子(第2入力端子に相当)には、基準電圧(設定電圧に対応する)が入力される。基準電圧を入力するために、抵抗R4,可変抵抗R5が設けられており、これらは参照電圧Vrefが印加されている。可変抵抗R5を設けているのは、出力コネクタ32に接続される電子機器に応じて適切な基準電圧を設定するためである。なお、一度可変抵抗R5の調整を行った後は、基準電圧は固定される。したがって、オペアンプOPの正入力端子には、参照電圧Vrefを所定の分圧比で分圧した基準電圧が入力されることになる。
【0073】
オペアンプOPの出力端子は、抵抗R6を介して負入力端子に接続(フィードバック)される。また、オペアンプOPの出力端子は、ダイオードD1を介して、DC−DCコンバータ31のフィードバック端子FBにも接続される。なお、ダイオードD1のカソード側の出力は、抵抗R7,抵抗R8により分圧点に接続され、この分圧点を経由してフィードバック端子FBに接続される。
【0074】
オペアンプOPの出力端子からは、負入力端子に入力される電圧と、正入力端子に入力される電圧の差に比例した差電圧が出力され、この差がゼロになるように制御される。すなわち、燃料電池20の出力電圧V
FCの分圧値が、基準電圧に等しくなるように制御されるものであり、換言すれば、出力電圧V
FCが設定電圧に等しくなるように制御される。
【0075】
DC−DCコンバータ31は、フィードバック端子FBに入力される差電圧がゼロになるように、コンバータ31の出力電圧Voutを可変させる。このような制御機能は、市販のDC−DCコンバータ31の有するフィードバック端子FBを用いて行うことができる。また、電圧制御部を構成するためのオペアンプOPも市販のものを使用することができ、電圧制御部を簡素かつ低コストの回路で構成することができる。
【0076】
上記における参照電圧は、DC−DCコンバータ31の出力電圧Voutを抵抗RrとツェナーダイオードD2により分圧することで得られる。ツェナーダイオードD2を用いることで、安定した電圧値を創出することができ、前述の基準電圧も安定かつ精度の良い電圧値とすることができる。この参照電圧は、DC−DCコンバータ31やオペアンプOPの駆動電圧としても用いることができる。
【0077】
次に、オペアンプOPの正入力端子に入力される基準電圧をどのように設定すべきかを説明する。本発明において、燃料電池20の出力電圧V
FCが予め設定された設定電圧になるように、上記オペアンプOP等により構成される電圧制御部による制御(定電圧制御)が行われる。なお、オペアンプOPに入力されるのは出力電圧自体ではなく、これの分圧値である。分圧比をkとすれば、オペアンプOPの負入力端子に入力される電圧値は、k×出力電圧V
FC(V)であり、したがって、オペアンプOPの正入力端子に入力される基準電圧=k×設定電圧となるように調整される。
【0078】
ここで、燃料発生部10で発生可能な所定時間当たりの最大の水素ガス量を(A)とし、前記燃料電池20に(A)を供給したときの出力電流を(B)とした場合、設定電圧は、燃料電池20の出力電流−出力電圧特性から求まる(B)に対応した出力電圧よりも低い電圧に設定される。
【0079】
燃料供給部10で発生可能な所定時間当たりの最大の水素ガス量は、収容される水素発生剤の種類、形状、収容量や反応させる反応液の種類、量、燃料供給部の内部構造などにより決まるものである。所定時間当たりの量は、例えば、(cc/分)(ml/sec)などの単位で表現することができる。また、燃料電池20により流せる電流量は、供給される水素ガスの供給量により決まる。これは、燃料電池20を構成する単位セルの構造・大きさ・個数などにより一義的に定まるものである。
【0080】
さらに、燃料電池20の基本的な性能評価を行うときに出力電流−出力電圧特性(IV特性)が用いられる(
図5参照)。この特性は、燃料電池の構造が定まれば理論的あるいは実験的に求まるものである。したがって、最大の供給燃料ガス量(A)に対して決まる出力電流(B)に対応する出力電圧も上記IV特性から求められる。
図5からも分かるように、IV特性は、横軸が出力電流(I)、縦軸が出力電圧(V)で表わされる。
【0081】
そして、設定電圧は、上記IV特性から求められる電圧値よりも低い圧力値に設定する。例えば、最大の供給燃料ガス量(A)に対して決まる出力電流(B)がI1であるとする。このI1に対応する出力電圧はV1である。この出力電圧V1よりも低い電圧値V2が設定電圧として決められる。なお、V2をどの程度V1よりも小さく設定するかについては適宜決めることができる。
【0082】
燃料電池のIV特性によれば、出力電圧が低くなれば出力電流が大きくなるという特性を有しているため、設定電圧を上記のごとく低く設定するということは、もう少し電流が流せる状態に燃料電池を置くということである。
図5を見れば分かるように、V1に対応するI1よりも、V2に対応するI2の方が大きい。換言すれば、上記のように設定することで、水素ガスが少し足らない状態になるように燃料電池20が置かれるため、水素ガスを発電のために全て(できる限りすべて)を消費させることができる。これにより、水素ガスの利用効率を高めることができると共に、水素ガスを燃料電池20の外部に排出しないようにすることができ、安全性を高めることができる。
【0083】
<回路部の他の構成>
次に、
図4に戻り、回路部30の他の構成・機能について説明する。コンデンサーC1は、燃料電池20の出力電圧V
FCの変動を抑制する平滑用コンデンサーである。コイルL1は直流電圧を昇圧させるためのトランスである。
【0084】
DC−DCコンバータ31の出力側に設けられているコンデンサーC2は蓄電部として機能する。
図4に示す燃料電池システムは、好ましくは、携帯機器等の充電用に用いられるものであるが、本発明に係る燃料電池システムは機器の電源として用いることもできる。この場合、機器の負荷変動に対応しながら燃料電池システムから電力を供給する必要がある。しかし、負荷の急激な変動があった場合に必ずしも燃料電池側で対応できないことも考えられる。そこで、余分な電力の発生があった場合には蓄電部であるコンデンサーC2に蓄積しておくようにすれば、燃料電池20からの発電のみでは電力不足になる場合でもコンデンサーC2により不足分をサポート可能になる。
【0085】
コンデンサーC2としては、例えば、電気二重層コンデンサーを用いることができる。また、蓄電部としては、コンデンサーではなく、リチウムイオン電池等の二次電池を用いてもよい。なお、本発明に係る燃料電池システムを充電専用に用いる場合は、蓄電部は必ずしもなくてもよい。
【0086】
次に、出力コネクタ32における機器の着脱状態を検出する構成について説明する。例えば、出力コネクタ32に携帯電話50を接続して充電を行っているときに、不用意に、あるいは故意に携帯電話50の接続を解除することがある。その場合、突然負荷がなくなった状態になり、発生した水素ガスを消費することができず、水素ガスを外部に排出してしまう可能性がある。
【0087】
そこで、機器が突然出力コネクタ32から外された場合でも、水素ガスを排出してしまわないような構成を採用している。
【0088】
出力コネクタ32には、着脱状態を検出するための検出端子32cが設けられている。検出用端子32c(検出部に相当)は抵抗R9を介してGNDに接続されると共に、検出用トランジスタTr(検出部に相当)のベースにも接続されている。トランジスタTr(スイッチング素子)のコレクタが燃料電池20の出力側に接続され、エミッタは抵抗R10(負荷付与手段に相当)を介してGNDに接続される。また、トランジスタTrのベースは抵抗R11を介して燃料電池20の出力側に接続されている。
【0089】
この回路構成では、出力コネクタ32に携帯電話50を装着したときに、検出用端子32cと−側端子32bとを短絡させる構成になっている。したがって、GNDを0Vとした場合、出力コネクタ30への携帯電話50の装着時に、検出用端子30cの電位は0Vになり、携帯電話50を外した時には、検出用端子30cの電位は抵抗R11と抵抗R9で分圧された電圧となる。
【0090】
検出用端子30cが0Vのときは、トランジスタTrはオフの状態になる。携帯電話50を外した場合は、トランジスタTrのベースに電圧がかかり、トランジスタTrをオンさせる。これにより、抵抗R10が負荷として作用し始める。すなわち、突然、携帯電話50が出力コネクタ32から外されたとしても、負荷が抵抗R10に切り替わることができ、水素ガスを消費させて外部に排出させないようにすることができる。
【実施例1】
【0091】
次に、本発明に係る電圧一定制御の場合と、電流一定制御を行った場合の比較を行う。
図6は、本発明による実験結果を示すグラフであり、
図7は、比較例による実験結果を示すグラフである。電流制御を行う構成については、例えば、WO2007/129594に開示されている。
【0092】
<比較例の実験結果>
なお、使用した発電セルは1個であり、所定の水素発生剤(具体的には水素化カルシウム)を用いて水素ガスを発電セルに供給した。発電セルに流れた出力電流と出力電圧を時間の経過とともにプロットしたものが
図6(a)に示される。水素発生剤に水を定量供給することで水素ガスを発生させるが、およそ10〜15(cc/分)の水素ガスが発生していることを確認し、発電セルに流れる出力電流が380mAになるように定電流制御を行った。なお、380mAに対応する水素ガスの理論値は11.5cc/分であった。
【0093】
グラフからも分かるように、しばらくは11.5cc/分以上の水素ガスが供給されており、電流値は一定し、出力電圧も2.8V程度を維持して出力していた。しかし、時間の経過とともに、水素発生剤が消耗されていき、11.5cc/分の水素ガスが流せなくなり、380mAの電流が流せなくなる。
【0094】
そこで、手動で設定電流値の値を200mAに変更した。その状態を5分程度維持できたが、水素ガスの発生量が再び落ちてきたので、再度設定値を100mA、50mAと変更させた。
【0095】
図6(a)のグラフから、出力(W)と電力量(Wh)の経過を計算したものが(b)のグラフである。最初は1W程度の出力があったが、水素ガス発生量が次第に減っていくので、出力も次第に減少していく。トータルの電力量としては、約0.7Whの出力を確認することができた。
【0096】
また、
図6(c)は、(a)の実験結果に基づいて、瞬時の水素消費量と、総消費量を計算して、時間軸で表わしたグラフである。このグラフから分かるように、発生した水素ガスの約500ccが電流に変換されている。この実験で使用した水素発生剤と水との反応で、実際にどの程度の水素ガスが発生するのかを確認したところで、700〜800ccであった。従って、発生した水素ガスのうち、200〜300ccは発電に供されず外部に排出されたものと推定できる。
【0097】
<本発明の実験結果>
次に、本発明に基づいて、電圧を一定制御した場合の実験結果を
図7に示す。実験に際して、使用した発電セル、水素発生剤、反応液(水)に関する条件は比較例と場合と同じであるが、制御方法のみを変えた。このような相対的な比較を行うことで、本発明の作用・効果の優位点を実証しようとするものである。
【0098】
まず、
図7(a)に示すように発電セルの出力電圧が2.6Vの一定になるように制御した。この実験に使用した発電セルのIV特性では、初期の出力電圧は3.6Vである。従って、それよりも低い2.6Vを設定電圧とした。
【0099】
図7(a)のグラフからもわかるように、出力電流は約325mAであり、その状態が約1分間続いた後、水素ガスの発生量も徐々に低下していくので、それにあわせて出力電流も徐々に低下していく。このときの水素ガスの発生流量は計算すると約10ccである。
【0100】
図7(b)(c)は
図6と同様の計算結果を示すグラフである。(b)からも分かるように、電力量は約1Wであり、
図6の比較例に比べて大きく伸びている。また、(c)からも分かるように、水素ガスの総消費量は約700ccとなっている。従って、効率よく水素ガスを発電のために消費できていることが実証された。
【0101】
今回の実験において使用した水素発生剤と水の供給パターンは、15cc/分以下の発生量となるように設定されている。一方、発電セルのIV特性から、出力電圧を2.6Vに設定すると、15cc/分以上の水素ガスを消費可能あることは予想できる。すなわち、水素ガスが少し足らない状態になるように発電セルが置かれるため、水素ガスを発電のために全てを消費できていると考えられる。
【0102】
<別実施形態>
燃料発生部の構成については、種々の変形例が考えられ、本実施形態に限定されるものではない。燃料発生部は消耗品であるため、燃料電池に対して着脱自在なカートリッジとして構成することが好ましい。
【0103】
本発明に係る設定電圧をどの程度低い電圧に設定するかについては、適宜決めることができる。
【0104】
オペアンプの2つの入力端子のうち、どちらを基準電圧に設定するかは、回路構成に応じて適宜選択することができる。