(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5710873
(24)【登録日】2015年3月13日
(45)【発行日】2015年4月30日
(54)【発明の名称】ケーブルの処理方法
(51)【国際特許分類】
H01B 15/00 20060101AFI20150409BHJP
B09B 3/00 20060101ALI20150409BHJP
C22B 1/00 20060101ALI20150409BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20150409BHJP
C22B 15/00 20060101ALI20150409BHJP
C22B 21/00 20060101ALI20150409BHJP
【FI】
H01B15/00ZAB
B09B3/00 Z
B09B3/00 303Z
C22B1/00 601
C22B7/00 F
C22B15/00
C22B21/00
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2009-255038(P2009-255038)
(22)【出願日】2009年11月6日
(65)【公開番号】特開2011-100650(P2011-100650A)
(43)【公開日】2011年5月19日
【審査請求日】2012年9月5日
【審判番号】不服2014-9225(P2014-9225/J1)
【審判請求日】2014年5月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】506347517
【氏名又は名称】DOWAエコシステム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】502308387
【氏名又は名称】株式会社ビスキャス
(73)【特許権者】
【識別番号】502122521
【氏名又は名称】株式会社エクシム
(73)【特許権者】
【識別番号】501304803
【氏名又は名称】株式会社ジェイ・パワーシステムズ
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【弁理士】
【氏名又は名称】流 良広
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 亮嗣
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 健一
【合議体】
【審判長】
鈴木 匡明
【審判官】
松本 貢
【審判官】
飯田 清司
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−115638(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B15/00
B09B3/00
F23G7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油分を含む絶縁体を有するケーブルを切断した切断ケーブル片を開放容器内に充填し、該切断ケーブル片が充填された開放容器を焼却炉内の焼却室で焼却するケーブルの処理方法であって、
前記開放容器内に、12本の前記切断ケーブル片を略鉛直方向に立設させた状態で充填することを特徴とするケーブルの処理方法。
【請求項2】
開放容器内に、ケーブル径120mmの油分を含む絶縁体を有するケーブルを長さが0.7mとなるように切断した12本の切断ケーブル片を略鉛直方向に立設させた状態で充填する請求項1に記載のケーブルの処理方法。
【請求項3】
550℃〜850℃の温度で1時間以上焼却する請求項1から2のいずれかに記載のケーブルの処理方法。
【請求項4】
酸化雰囲気下で焼却する請求項1から3のいずれかに記載のケーブルの処理方法。
【請求項5】
ケーブルが、OFケーブル(油浸紙絶縁ケーブル)である請求項1から4のいずれかに記載のケーブルの処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、OFケーブル(油浸紙絶縁ケーブル)等の電線用ケーブルの廃棄及びリサイクル処理に用いられるケーブルの処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
OFケーブル(油浸紙絶縁ケーブル)の一例として、
図1に示すように、油通路となるメタルスパイラル1と、このメタルスパイラル1の外周には銅線等の導体2と、この導体2上にはカーボン紙を巻回してなる遮蔽層3が設けられ、この遮蔽層3上には油浸絶縁体4が設けられている。この油浸絶縁体4上には、銅、アルミニウム(Al)等のメタルテープを巻回してなる遮蔽層5が設けられる。この遮蔽層5上には鉛又はアルミニウム(Al)6が被覆され、更にポリ塩化ビニル、クロロプレンゴムなどからなる防食層7が設けられている。
前記メタルスパイラル1は、亜鉛メッキ鋼板からなる鋼帯をスパイラル状に巻き付け、波付け加工を施したパイプ状のものであって、その内部空間は絶縁油の通路となるようになっている。
前記導体2は、六分割圧縮中空撚線からなるもので、複数の銅線を撚り合せ、扇状に圧縮成形したユニットを6個上記メタルスパイラル1の外周に配置したものである。
前記油浸絶縁体4は、絶縁紙を巻回し、絶縁油を含浸してなるものである。
【0003】
このようなOFケーブルは、安全性を考慮して一定期間の経過により取り替えられている。そこで、取り替えられたOFケーブルの廃棄処理及びリサイクル処理が種々検討されている。例えば単なる焼却を行うだけでは、完全にケーブル内部まで焼却し難く、焼却を強めると金属部が脆くなるか、揮発するため金属材料の回収が困難になるという問題がある。
【0004】
また、特許文献1には、含油絶縁紙を絶縁体とする廃棄ケーブルの切断片を反応容器内で水熱処理することにより、廃棄ケーブル中の有機物を分解するとともに、分解後のケーブル残渣から有価金属を回収する廃棄ケーブルのリサイクル処理方法が提案されている。しかし、この提案では、水熱処理を行うための設備投資が増大してしまうという課題がある。
【0005】
したがって金属部品が歩留まりよく回収可能であり、作業負荷が少なく、焼却残物が無害であるケーブルの処理方法の速やかな提供が望まれているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−150246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、金属部品が歩留まりよく回収可能であり、作業負荷が少なく、残物が無害であるケーブルの処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための手段としては以下の通りである。即ち、
<1> 油分を含む絶縁体を有するケーブルを切断した切断ケーブル片を、焼却炉内の焼却室に略鉛直方向に立設させた状態で焼却することを特徴とするケーブルの処理方法である。
<2> 複数本の切断ケーブル片を開放容器内に充填して焼却を行う前記<1>に記載のケーブルの処理方法である。
<3> 550℃〜850℃の温度で1時間以上焼却する前記<1>から<2>のいずれかに記載のケーブルの処理方法である。
<4> 酸化雰囲気下で焼却する前記<1>から<3>のいずれかに記載のケーブルの処理方法である。
<5> ケーブルが、OFケーブル(油浸紙絶縁ケーブル)である前記<1>から<4>のいずれかに記載のケーブルの処理方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、従来における諸問題を解決することができ、金属部品が歩留まりよく回収可能であり、作業負荷が少なく、残物が無害であるケーブルの処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、OFケーブルの一例を示す断面図である。
【
図2】
図2は、本発明のケーブルの処理方法の一例を示す概略図である。
【
図3】
図3は、焼却炉内でのケーブル切断片及びドラム缶の配置状態を上から見た図である。
【
図4】
図4は、焼却炉内でのケーブル切断片及びドラム缶の配置状態の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のケーブルの処理方法は、油分を含む絶縁体を有するケーブルを切断した切断ケーブル片を、焼却炉内の焼却室に略鉛直方向に立設させた状態で焼却する。
ここで、略鉛直方向とは、焼却室の底面(水平面;容器の底面)に対して切断ケーブル片がほぼ90度であることを意味し、90度±10度の範囲を含むことが好ましい。
前記ケーブルは、もともと剛性が低く、多少の柔軟性があるため直線性は弱く、鉛直に立てると自重により湾曲する。このため、ケーブルは、容器の底面に切断面を対向させるように設置し、容器内にてケーブル同士がもたれかかりながら配置される。前記ケーブルを容器内に複数本以上立設する方が設置に特別な治具を要さず簡便である。また、熱処理時における変形等にも、固定されていないため柔軟に応力を緩和でき、金属類の損耗や、燃え残りを防止できる。
【0012】
−ケーブル−
前記ケーブルとしては、使用されなくなった廃棄ケーブルが用いられる。
このようなケーブルとしては油分を含む絶縁体を有すれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えばOFケーブル、SLケーブル、Hケーブル等の油浸紙絶縁ケーブルなどが挙げられる。これらの中でも、OFケーブルが特に好ましい。
前記OFケーブルとしては、上述したように、
図1に示すものなどが挙げられる。
【0013】
前記ケーブルは、所定の長さに切断した切断ケーブル片の形態で用いられる。前記ケーブルの切断は、断面が露出するようにケーブルの軸方向に垂直に切断する(輪切り切断する)。
前記切断ケーブル片の長さは、焼却炉内に略鉛直方向に立設可能であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.3m〜1.0mが好ましく、0.7mが特に好ましい。
【0014】
−容器−
ケーブルを処理する際には、容器に入れる方がよい。前記容器は、焼却炉内にて熱等に耐える材質のものが好ましく、例えば鉄等がある。切断ケーブル片を立設する容器の形状は、上方が開放され、底面と側面が形成されケーブルを立設して貯留できる形状が適している。例として上方が開放されたスチールドラム缶などがある。上方が開放されていないと熱よる発生するガスが抜けずにケーブルに残留するためである。また、作業性からも上方から投入でき、投入状態を視認でき、修正しやすく優れている。
容器内にて切断ケーブル片を焼却処理すると、焼却時の熱により容器内の切断ケーブル片から油の気化ガスが発生し、充満される。ここで容器の上方が開放されているため、前記ガス等は容器内から流出される。容器内側(切断ケーブル片が立設された領域)は、炉内の雰囲気に係わらず前記ガス等で充満により極端な酸化雰囲気となることを避けられ、切断ケーブル片の金属類の酸化損失を抑制する。
容器内にて処理をすることで、金属回収が容器毎に効率良くできるので作業面、及び回収面で有意である。
【0015】
前記切断ケーブル片は、焼却炉内の焼却室に略鉛直方向に立設させた状態で焼却される。
前記切断ケーブル片を、焼却炉内の焼却室に略鉛直方向に立設させる方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、切断ケーブル片を1本ずつ略鉛直方向に立設配置してもよいが、複数本の切断ケーブル片を開放容器(例えばドラム缶)内に略鉛直方向に立設させて充填し、該ドラム缶ごと焼却炉内で焼却することが、安定性及び作業効率の点で特に好ましい。前記ドラム缶内に充填する切断ケーブル片の数は、ケーブル径、ドラム缶の大きさなどに応じて異なり一概には規定できないが、ケーブル径が120mmの場合には1本〜12本であることが好ましい。
例えば
図3及び
図4に示すように、ドラム缶11内に12本の切断ケーブル片12(
図3中左側)、又はドラム缶11内に6本の切断ケーブル片12(
図3中右側)を鉛直方向に立設配置し、焼却炉内の焼却室13で焼却することができる。
図3及び
図4中黒丸は温度測定位置を示す。
【0016】
−焼却−
前記焼却に用いる焼却炉としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば固定床炉、雰囲気炉などを用いることができる。
前記焼却は、550℃〜850℃の温度で1時間以上であることが好ましく、550℃〜850℃の温度で4時間〜8時間であることがより好ましい。前記焼却温度が、550℃未満であると、油分などの揮発が進まないことがあり、850℃を超えると、処理費の必要以上な増大を招来してしまうことがある。
前記焼却は、酸化雰囲気下で行うことが、焼却残物の量(質量、体積)が減量する点で好ましい。炉内の酸素濃度は10%以上であることが好ましい。
【0017】
前記焼却の際には排ガス処理を行うことにより、ダイオキシン類の発生を防止することができるので好ましい。前記排ガス処理としては、例えば電気集塵機、冷却塔、洗浄塔、煙突などが挙げられ、市販されている排ガス処理装置を用いることができる。
【0018】
ここで、
図2は、OFケーブルの処理方法の一例を示す工程図である。
まず、1本のOFケーブル(ケーブル径120mm)を長さ0.7mごとに輪切りに切断してケーブル切断片とする。
次に、このケーブル切断片をドラム缶内に鉛直方向に立設させて充填し、密閉して、ドラム缶を輸送し、その後ドラム缶を開封する。そして、ドラム缶ごと焼却炉(固定床炉)に投入後、バーナーにより昇温し、炉内が550℃〜850℃になってから4時間以上を保持する。この際、炉内へのエアー投入は極力少なくし、バーナーの油燃焼分のみを投入する。
次に、空気吹き込みの冷却後、ドラム缶を取り出す。以上により、OFケーブルの処理を効率よく行うことができる。
【0019】
本発明のケーブルの処理方法によれば、焼却残物は無害であり、該焼却残物から有用な各種材料をリサイクル可能である。例えばOFケーブルの各部材(導体(銅)、アルミニウム(Al)シース被覆、絶縁紙、PVC)は人手で容易に分離可能であり、銅(Cu)及びアルミニウム(Al)は金属原料としてリサイクル可能である。また、絶縁紙については、完全に炭化しており、助燃剤としてリサイクル可能である。
【実施例】
【0020】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0021】
(実施例1)
1本のOFケーブル(ケーブル径120mm)を長さ0.7mごとに輪切りに切断したケーブル切断片を12本ドラム缶内に充填したもの(以下、「フル」と称することもある)と、ケーブル切断片を6本ドラム缶内に充填したもの(以下、「ハーフ」と称することもある)とを用意した。ドラム缶内において各ケーブル切断片は、いずれも略鉛直方向(90度±10度)に立設して配置されていた。
次に、該2つのドラム缶を固定床炉(エコシステム秋田株式会社製)に投入後、A重油バーナーにより昇温し、炉内が850℃になってから8時間温度を保持した。この際、炉内へのエアー投入は極力少なくし、バーナーの油燃焼分のみを投入した。
なお、この固定床炉の排ガスは、排ガス処理設備に接続されており、850℃以上で2秒以上の滞留時間で処理した。
処理後のドラム缶内には、ケーブルのアルミニウム(Al)シース被覆が溶融してドラム缶の底に溜まっていたが、容易に分離でき、回収のハンドリングが悪くなることはなかった。
【0022】
(実施例2)
実施例1において、炉内温度を550℃で4時間保持した以外は、実施例1と同様にして、焼却処理を行った。処理後のドラム缶内では、アルミニウム(Al)シース被覆が溶融せずに残存していた。
【0023】
【表1】
表1の結果から、OFケーブルはポリ塩化ビニル(PVC)が燃焼するため、昇温が速く、温度の高い方が残渣質量が少なくなることが分かった。
【0024】
次に、処理後の各部材(導体(銅)、アルミニウム(Al)シース被覆、絶縁紙、PVC)の残留油分、Cl濃度、及びダイオキシン類濃度を以下のようにして測定した。結果を表2に示す。
【0025】
<残留油分の測定>
試料をn−ヘキサンで抽出後、GC−FID(ガスクロマトグラム−水素炎イオン化検出器)により測定した。
【0026】
<Cl濃度の測定>
試料をアルカリ溶解後、イオンクロマトグラフィーにて測定した。
【0027】
<ダイオキシン類濃度の測定>
ガスクロマトグラフ質量分析計により、公定法により測定した。
【0028】
【表2】
表2の結果から、絶縁油については、測定したすべての部材において定量下限値(50mg/kg)以下となった。絶縁油のピークは検出されず、共存する有機物が少なかったため、<10mg/kgまで判定可能であった。
各部材は人手で容易に分離可能であり、銅(Cu)及びアルミニウム(Al)は金属原料としてリサイクル可能であった。絶縁紙については、完全に炭化しており、助燃剤としてリサイクル可能であった。
OFケーブルではダイオキシン類の再合成が懸念されたが、0.00021ng−TEQ/gと非常に低く、ダイオキシンの再合成の心配はないことが証明された。また、OFケーブルのPVC残渣(850℃でフル)のClは、55ppm程度とラボ試験(20%残留)に比べて、Clの揮発がかなり進んだため、再合成がほぼなかったと考えられる。
試験結果から、温度保持時間としては4時間程度で十分であり、OFケーブルはドラム缶にフルに充填して処理可能であることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明のケーブルの処理方法は、金属部品が歩留まりよく回収可能であり、作業負荷が少なく、残物が無害であり、OFケーブル等の電線用ケーブルのリサイクル処理に好適である。
【符号の説明】
【0030】
1 メタルスパイラル
2 導体
3 第1の遮蔽層
4 油浸絶縁体
5 第2の遮蔽層
6 鉛又はアルミニウム(Al)
7 防食層
11 ドラム缶
12 ケーブル切断片
13 焼却炉