特許第5711040号(P5711040)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5711040双方向スイッチおよびそれを利用した充放電保護装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5711040
(24)【登録日】2015年3月13日
(45)【発行日】2015年4月30日
(54)【発明の名称】双方向スイッチおよびそれを利用した充放電保護装置
(51)【国際特許分類】
   H03K 17/687 20060101AFI20150409BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20150409BHJP
【FI】
   H03K17/687 G
   H02J7/00 A
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-100356(P2011-100356)
(22)【出願日】2011年4月28日
(65)【公開番号】特開2012-235181(P2012-235181A)
(43)【公開日】2012年11月29日
【審査請求日】2014年1月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】514107233
【氏名又は名称】トランスフォーム・ジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100144325
【弁理士】
【氏名又は名称】小澁 高弘
(72)【発明者】
【氏名】庄野 健
【審査官】 栗栖 正和
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−526633(JP,A)
【文献】 特開2000−102182(JP,A)
【文献】 特開2009−124667(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03K 17/00−17/70
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
HEMTを有する双方向スイッチと、
第1の条件時に前記HEMTのソースまたはドレインの一方の端子とゲートとの間に閾値電圧未満の第1の電圧を印加して前記ソースまたはドレインの他方の端子から前記一方の端子への第1の電流パスをオフにし、第2の条件時に前記他方の端子とゲートとの間に前記閾値電圧未満の第2の電圧を印加して前記一方の端子から他方の端子への第2の電流パスをオフにし、第3の条件時に前記HEMTのソース及びドレインとゲートとの間に前記閾値電圧より高い第3の電圧を印加して前記第1、第2の電流パスをオンにする制御回路とを有する双方向スイッチ装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記双方向スイッチは、双方向の電流経路に設けられ、
前記双方向スイッチは、単一の前記HEMTを有する双方向スイッチ装置。
【請求項3】
電池セルの2端子のいずれかの電流経路に設けられ、HEMTを有する双方向スイッチと、
前記電池セルが第1の充電電圧を超える時に、前記HEMTのソースまたはドレインの一方の端子とゲートとの間に閾値電圧未満の第1の電圧を印加して前記HEMTの充電電流パス方向をオフにし、前記前記第1の充電電圧より低い第2の充電電圧未満の時に、前記HEMTのソースまたはドレインの他方の端子とゲートとの間に前記閾値電圧未満の第2の電圧を印加して前記HEMTの放電電流パス方向をオフにし、前記第1の充電電圧より低く前記第2の充電電圧より高い時に、前記HEMTのソース及びドレインとゲートとの間に前記閾値電圧より高い第3の電圧を印加し前記HEMTの充電電流パスと放電電流パスの双方向パスをオンにする制御回路とを有する充放電保護装置。
【請求項4】
HEMTを有する双方向スイッチと、
第1の条件時に前記HEMTのソースまたはドレインの一方の端子とゲートとの間に閾値電圧以上の第1の電圧を印加して前記ソースまたはドレインの他方の端子から前記一方の端子への第1の電流パスをオンにし、第2の条件時に前記一方の端子とゲートとの間と前記他方の端子とゲートとの間とに前記閾値電圧未満の第2の電圧を印加して前記第1の電流パスと前記一方の端子から他方の端子への第2の電流パスとをオフにし、第3の条件時に前記HEMTのソース及びドレインとゲートとの間に前記閾値電圧より高い第3の電圧を印加して前記第1、第2の電流パスをオンにする制御回路とを有する双方向スイッチ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,双方向スイッチ装置およびそれを利用した充放電保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
パワーMOSFETは,半導体基板のチャネル領域内に形成されたソース,ドレイン領域と,それらの間に形成されたゲート電極とを有する。N型MOSFETの場合,チャネル領域は最も低い電位のソース領域に接続され,フローティング状態にならないようにされている。そのため,ソース領域及びそれに接続されたチャネル領域からドレイン領域へに向かって寄生的なボディ・ダイオードが形成される。つまり,通常の回路において,N型MOSFETは,ドレイン領域からソース領域方向の電流パスがオンオフ制御されるが,ソース領域からドレイン領域へ向かう電流パスは,ボディ・ダイオードにより常時形成されており,遮断されることはない。
【0003】
したがって,パワーMOSFETにより双方向スイッチを構成するためには,2個のパワーMOSFETを組み合わせる必要があり,コストアップになる。
【0004】
一方,Liイオン電池は,過充電や過放電を防止するために,電池パック内に電池のセルに加えて,その過充電や過放電を防止する充放電保護装置を有する。この充放電保護装置は,双方向スイッチを有する。この双方向性スイッチは,双方向の電流についてオンオフ制御を行う必要があり,2個のパワーMOSFETで構成される。
【0005】
そこで,SIT(STATIC INDUCTION TRANSISTOR)を双方向スイッチ素子に利用して,双方向の電流をオンオフ制御することが提案されている。たとえば,特許文献1などである。しかし,この双方向スイッチ素子は,双方向の電流をオンにするかオフにするかの2つの状態しか取りえない。
【0006】
また,USB機器では,自身の内部電源に加えて,USBバス経由の電源供給も行われる。そのため,内部電源とUSBバス電源とを切り替える必要があり,双方向スイッチ素子が必要になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−251772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
SITを双方向スイッチにした場合は,双方向の電流パスをオンにするかオフにするかしかできず,一方向は導通し,他の方向は遮断するといった制御はできない。
【0009】
そこで,本発明の目的は,少ない素子で構成できる双方向スイッチ装置およびそれを利用した充放電保護装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
双方向スイッチ装置の第1の側面は,HEMTを有する双方向スイッチと,第1の条件時に前記HEMTのソースまたはドレインの一方の端子とゲートとの間に閾値電圧未満の第1の電圧を印加して前記ソースまたはドレインの他方の端子から前記一方の端子への第1の電流パスをオフにし,第2の条件時に前記他方の端子とゲートとの間に前記閾値電圧未満の第2の電圧を印加して前記一方の端子から他方の端子への第2の電流パスをオフにし,第3の条件時に前記HEMTのソース及びドレインとゲートとの間に前記閾値電圧より高い第3の電圧を印加して前記第1,第2の電流パスをオンにする制御回路とを有する。
【発明の効果】
【0011】
第1の側面によれば,少ないトランジスタ数で構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】二次電池とそれに接続される負荷または充電器の構成を示す図である。
図2】パワーMOSFETの断面構造を示す図である。
図3】本実施の形態における二次電池とそれに接続される負荷または充電器の構成を示す図である。
図4】HEMTの断面図である。
図5】本実施の形態における制御回路110の回路の一例を示す図である。
図6】本実施の形態における双方向スイッチの動作特性を示す図である。
図7】第2の実施の形態における双方向スイッチ装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
二次電池は自動車や,ノートパソコンや携帯電話などさまざまな機器に利用される蓄電池または充電式電池である。
【0014】
図1は,二次電池とそれに接続される負荷または充電器の構成を示す図である。二次電池100内には,電池を蓄積する電池セルCELLと,その電池セルCELLの2端子V1+,V1−と外部端子101,102のいずれかの端子との間の電流路(図1の例では電池セルCELLの負端子V1−と外部端子102との間の電流路)に設けられた双方向スイッチQ10,Q11と,それを制御する制御回路110とを有する。双方向スイッチは,2つのMOSFETであるトランジスタQ10,Q11を有し,それらのソース・ドレイン端子S,Dが逆方向になるように直列に接続されている。
【0015】
二次電池100の外部端子101,102が充電器200に接続されると,正の外部端子101から負の外部端子102に向かう充電電流パスに充電電流が流れて,電池セルCELLに充電が行われ,充電電圧V1(2端子V1+,V1−間の電圧)が上昇する。一方,二次電池100の外部端子101,102が負荷200に接続されると,負の外部端子102から正の外部端子101に向かう放電電流パスに放電電流が流れて,電池セルCELLが放電され,充電電圧V1が低下する。
【0016】
リチウムイオン電池の場合,規格上,2端子間の充電電圧V1が第1の電圧(例えば4.3V)を超えて充電することと,第1の電圧より低い第2の電圧(例えば2.3V)未満に放電することが禁止されている。そこで,制御回路110は,電池セルCELLの両端子間の充電電圧V1を監視し,(1)V1>4.3Vの場合は,トランジスタQ11のゲートの電圧Coutを閾値電圧未満のLレベルにしてトランジスタQ11をオフにして充電パスを遮断し,(2)V1<2.3Vの場合は,トランジスタQ10のゲート電圧Doutを閾値電圧未満のLレベルにしてトランジスタQ10をオフにして放電パスを遮断する。さらに,制御回路110は,(3)2.3V<V1<4.3Vの場合は,両トランジスタQ10,Q11のゲート電圧Dout,Coutを閾値電圧以上のHレベルにし,両トランジスタを導通状態にして,充電パスも放電パスも導通状態にする。
【0017】
上記(1)V1>4.3Vの場合は,トランジスタQ10のゲート電圧Doutは閾値電圧以上のHレベルでありトランジスタQ10はオンとなり,トランジスタQ11の寄生ダイオードD11とトランジスタQ10のドレイン・ソース間のオンにより,放電パスは導通状態になる。ただし,トランジスタQ11は,ゲート電圧Coutが閾値電圧未満となりドレイン・ソース間がオフになり,充電パスは非導通状態になる。
【0018】
同様に,(2)V1<2.3Vの場合は,トランジスタQ11のゲート電圧Coutは閾値電圧以上のHレベルでありトランジスタQ11はオンとなり,トランジスタQ10の寄生ダイオードD10とトランジスタQ11のドレイン・ソース間のオンにより,充電パスは導通状態になる。ただし,トランジスタQ10は,ゲート電圧Doutが閾値電圧未満となりドレイン・ソース間がオフになり,放電パスは非導通状態になる。
【0019】
このように,パワーMOSFETには,ソース,ドレイン領域とチャネル領域間にPN接合があるので,ソースからドレイン方向に寄生のボディ・ダイオードが形成される。そして,この寄生ボディ・ダイオードが存在するため,パワーMOSFETは,ドレインからソース方向の電流パスのオンオフしか制御できない。パワーMOSFETだけでなく,高耐圧ではない通常のMOSFETも同様である。
【0020】
図2は,パワーMOSFETの断面構造を示す図である。このパワーMOSFETは,P型のシリコン基板10の表面部に形成されたP型のチャネル領域11と,チャネル領域11内に設けられたN型のソース領域12と,N型のドレイン領域14と,ドレイン領域14の周りのN型の低濃度ドレイン領域13と,ゲート電極16と,ソース電極15と,ドレイン電極17と,絶縁膜18とを有する。
【0021】
チャネル領域11は,フローティング状態にならないように,最も電位が低いソース電極15に接続されている。そのため,ソース電極15からドレイン電極15との間に,PN接合からなるボディ・ダイオードD10が形成されている。このボディ・ダイオードD10により,MOSFETは,ソースからドレイン方向の電流パスをゲート電圧によって制御することはできない。ゲート電圧で制御できるのは,ドレインからソース方向の電流パスだけである。
【0022】
このような,パワーMOSFETの構造上の理由から形成されているボディ・ダイオードD10の存在に起因して,図1のように,双方向スイッチは,2個のパワーMOSFETを直列に接続して構成することが必要になる。
【0023】
[本実施の形態]
図3は,本実施の形態における二次電池とそれに接続される負荷または充電器の構成を示す図である。二次電池100内には,電池を蓄積する電池セルCELLと,その電池セルCELLの2端子V1+,V1−のいずれかの電流路(図3の例では電池セルCELLの負端子V1−と外部端子102との間の電流路)に設けられた双方向スイッチQ0と,それを制御する制御回路110とを有する。双方向スイッチQ0は,電池セルCELLの正端子V1+と外部端子101との間の電流路に設けられてもよい。
【0024】
外部端子101,102に充電器200が接続されると,外部端子101から電池セルCELL,外部端子102の充電電流パスにより電池セルCELLに電荷が充電され,外部端子101,102に負荷回路が接続されると,外部端子102から電池セルCELL,外部端子101の放電電流パスにより電池セルCELL内の電荷が放電される。
【0025】
双方向スイッチQ0は,1個のノーマリオフ型のNチャネルHEMTを有する。そして,このHEMTQ0のゲートG,ソースS,ドレインDが制御回路120に接続され,制御回路120は,電池セルCELLの両端子間の充電電圧にしたがって,HEMTQ0のゲート・ソース間電圧,ゲート・ドレイン間電圧を制御する。
【0026】
図4は,HEMTの断面図である。このHEMTは,シリコン基板20上にバッファ層21を介してノンドープGaN層を有する電子走行層22と,電子走行層22とヘテロ接合されたn型のAlGaN層を有する電子供給層23と,n型のGaN層を有するキャップ層24と,ノンドープのSiN層を有する絶縁層25とを有する。そして,ゲート電極Gがキャップ層24上に,ソース,ドレイン電極S,Dが電子供給層23上にそれぞれ設けられている。そして,電子供給層23と電子走行層22とのヘテロ接合の電子走行層22内に電子のチャネル層が形成される。
【0027】
通常はゲート・ソース間よりもゲート・ドレイン間のほうが大きな電圧が印加されるので,ゲート電極はソース側に偏って設けられている。ただし,双方向の電流パスを利用する場合は,必ずしもゲート電極がソース側に偏って設けられる必要はない。
【0028】
このHEMTは,ゲート・ソース間電圧を閾値電圧未満にするとドレインDからソースS方向の電流パスが遮断され,ゲート・ドレイン間電圧を閾値電圧未満にするとソースSからドレインD方向の電流パスが遮断される。また,ゲート・ソース間電圧を閾値電圧以上にするとドレインDからソースS方向の電流が流れ,ゲート・ドレイン間電圧を閾値電圧以上にするとソースSからドレインD方向の電流が流れる。そして,ゲート・ソース間とゲート・ドレイン間の両方を閾値電圧以上にすると双方向に電流が流れる。
【0029】
そこで,図3における制御回路120は,電池セルCELLの2端子間の充電電圧V1を監視し,(1)V1<2.3Vの時は,ゲートGとソースS間電圧を閾値電圧未満にして,ドレインDからソースS方向の放電パスを遮断し,ゲートGとドレインD間電圧を閾値電圧以上にしてソースSからドレインD方向の充電パスは導通状態にする。また,制御回路120は,(2)4.3V<V1の時は,ゲートGとドレインDとの間の電圧を閾値電圧未満にして,ソースSからドレインD方向の充電パスを遮断し,ゲートGとソースS間電圧を閾値電圧以上にして,ドレインDからソースS方向の放電パスを導通状態にする。さらに,制御回路120は,(3)2.3V<V1<4.3Vの時は,ゲート・ソース間電圧とゲート・ドレイン間電圧を閾値電圧以上にして,放電パス,充電パスの両方の電流パスをオン(導通状態)にする。
【0030】
図4が示すとおり,N型のHEMTにはP型層がないので,パワーMOSFETのような寄生のボディ・ダイオードを構成するPN接合を有していない。したがって,1個のHEMTは,一方向の電流パスだけをオフ,オンする動作ではなく,両方向の電流パスに対して,個別にオン,オフにすることができ,さらに両方向の電流パスをオン,オフにすることができる。
【0031】
さらに,HEMTの場合は,双方向の電流パスのオンとオフとを制御できるため,ソースをドレインより高い電位側に接続すると,電流パスがソースからドレイン方向に形成される。このように,ソース領域が常にトランジスタのソースになるわけではなく,ソースとドレインは,電位の状態に応じて,ソースおよびドレインの一方がドレインとして機能し,他方がソースとして機能したり,一方がソースとして機能し,他方がドレインとして機能したりする。以下は,便宜的にソースおよびドレインの一方をソースS,他方をドレインDと称する。
【0032】
図5は,本実施の形態における制御回路110の回路の一例を示す図である。NPNトランジスタQ1は,ソースSに接続された定電圧VaとゲートGとの間を接続または非接続するスイッチング素子であり,コンパレータCMP1の出力がHレベルの時にオンし,HEMTQ0のゲート・ソース間をその閾値電圧Vth(例えば1.5V)より低いVa=1.1Vにクランプし,Lレベルの時にオフになる。
【0033】
コンパレータCMP1は,ツェナーダイオードZ1のカソードが正極入力に接続され,電池セルCELLの両端子間の電圧V1((V1+)−(V1−))を抵抗R1,R2で抵抗分割したノードN1が負極入力に接続される。そして,抵抗R1,R2は,電池セルCELLの両端子間電圧V1が2.3Vを超えるとノードN1がツェナーダイオードの電圧を超えるようにその抵抗値が設定されている。したがって,コンパレータCMP1の出力は,電池セルの両端子間電圧V1がV1<2.3VになるとHレベルになり,トランジスタQ1を導通させ,HEMTQ0のゲート・ソース間電圧を定電圧Va=1.1Vにクランプする。その結果,HEMTのドレインDからソースS方向の放電パスは遮断される。
【0034】
ただし,トランジスタQ2はオフ状態であり,ゲートGとドレインD間には閾値電圧Vthより高い低電圧Vc=3.5Vが印加されて,ソースSからドレインD方向の充電パスはオン状態である。
【0035】
一方,NPNトランジスタQ2は,ドレインDに接続された定電圧VbとゲートGとの間を接続,非接続するスイッチング素子であり,コンパレータCMP2の出力がHレベルの時にオンし,HEMTQ0のゲート・ドレイン間をその閾値電圧Vthより低いVb=1.1Vにクランプし,Lレベルの時にオフになる。
【0036】
コンパレータCMP2は,ツェナーダイオードZ2のカソードが負極入力に接続され,電池セルCELLの両端子間の電圧V1((V1+)−(V1−))を抵抗R3,R4で抵抗分割したノードN2が正極入力に接続される。そして,抵抗R3,R4は,電池セルCELLの両端子間電圧V1が4.3Vを超えるとノードN2がツェナーダイオードの電圧を超えるようにその抵抗値が設定されている。したがって,コンパレータCMP2の出力は,電池セルの両端子間電圧V1が4.3V<V1になるとHレベルになり,トランジスタQ2を導通させ,HEMTQ0のゲート・ドレイン間電圧を定電圧Va=1.1Vにクランプする。その結果,HEMTのソースSからドレインD方向の充電パスは遮断される。
【0037】
ただし,トランジスタQ1はオフ状態であり,ゲートGとソースS間には閾値電圧Vthより高い低電圧Vc=3.5Vが印加されて,ドレインDからソースS方向の放電パスはオン状態である。
【0038】
そして,電池セルCELLの両端子間の電圧V1が2.3V<V1<4.3Vの場合は,コンパレータCMP1,CMP2の出力が共にLレベルになる。その結果,トランジスタQ1,Q2は共にオフになり,ゲートGには抵抗R5,R6を介して定電圧Vc(=3.5V)が印加される。そのため,ソースS,ドレインDがグランド電位VSS近傍であれば,HEMTQ0は,充電パス方向も放電パス方向も導通する双方向導通状態になる。つまり,電池セルCELLは,充電器による充電パスも,負荷機器に対する放電パスも両方オン状態になる。
【0039】
なお,コンパレータCMP1,CMP2の電源は,図示しない定電圧が使用される。
【0040】
また,GaNのHEMTは,オフ状態における逆方向,つまりオフ状態のソース・ドレイン間またはドレイン・ソース間とは逆方向の電圧降下が大きい。このような大きな電圧降下はスイッチトしては好ましくない。そこで,ゲート電圧をソースまたはドレインに対してゼロ電圧まで下げるのではなく,閾値電圧Vthよりもやや低い電圧(Va,Vb=1.1V)までしか下げないようにして,オフ状態とは逆方向の電圧降下を小さくしている。もし,低電圧Va,VbがゼロVとすると,オフ状態と逆方向の電圧差が大きくなりすぎるからである。
【0041】
双方向スイッチのHEMTは,電子走行層がGaNに限定されず,GaAsやInGaAsであっても同様に,寄生ボディ・ダイオードを有していないので,本実施の形態に適用できる。ただし,GaNの場合は,そのバンドギャップが大きく,高耐圧であるので,パワートランジスタとして適している。
【0042】
図6は,本実施の形態における双方向スイッチの動作特性を示す図である。横軸は二次電池100の外部端子101に接続される負荷/充電器200の電圧Vddを,縦軸は,二次電池100に流れる充電および放電電流を示す。縦軸の0.0Aよりプラス側が充電電流を,マイナス側が放電電流を示している。そして,Vssは0Vとする。また,図6には,二次電池内の電池セルCELLの2端子間電圧V1が,2.3Vの場合,3.0Vの場合,4.0Vの場合,4.3Vの場合について,それぞれの充放電電流特性が示されている。
【0043】
V1=3.0Vの場合は,双方向スイッチのHEMTQ0が双方向に導通状態にあるので,負荷/充電器200の電圧Vddが3.0Vを超えると充電電流が流れ,3.0V未満だと放電電流が流れる。V2=4.0Vの場合も,HEMTQ0が双方向に導通状態にあるので,同様である。
【0044】
V1が2.3Vの場合は,双方向スイッチのHEMTQ0は,放電パスがオフになり,充電パスはオンになっている。すなわち,ゲート・ソース間はVa=1.1Vでクランプされているが,充電パスではゲート・ドレイン間がVc=3.5Vと閾値電圧Vthを越えてオンする。よって,電圧Vddが2.3Vを超えれば充電電流が流れ,2.3V未満では放電電流は流れない。V1が2.3V未満の場合は,電圧Vddに係わらず充電電流は流れるが放電電流は流れない。
【0045】
逆に,V1が4.3Vの場合は,双方向スイッチのHEMTQ0は,充電パスがオフになり,放電パスはオンになっている。すなわち,ゲート・ドレイン間はVb=1.1Vでクランプされているが,放電パスではゲート・ソース間はVc=3.5Vと閾値電圧を越えてオンする。よって,電圧Vddが4.3Vを超えれば充電電流は流れず,4.3V未満では放電電流が流れる。V1が4.3Vを超える場合は,電圧Vddに係わらず充電電流は流れず放電電流は流れる。
【0046】
このように,本実施の形態の双方向スイッチは,双方向に電流パスがオンする状態と,ソースからドレインの一方向のみの電流パスがオフになる状態と,ドレインからソースの一方向のみの電流パスがオフになる状態の3つの状態を有する。もちろん,ゲート・ソース間とゲート・ドレイン間を1.1Vでクランプすることで,双方向の電流パスを共にオフにすることもできる。
【0047】
本実施の形態では,双方向スイッチを構成する1個のHEMTは,一方方向の電流を遮断して過充電を防止し,他方方向の電流を遮断して過放電を防止し,双方向の電流を流して充電と放電を許可する。
【0048】
図7は,第2の実施の形態における双方向スイッチ装置を示す図である。この例では,USB接続可能なUSB機器300が,USBバスの電流パスと内部電源の電流パスとを制御するために双方向スイッチQ21,Q22を有する。
【0049】
USB機器300の内部回路302は,電源VddをUSBバス電源端子306または内部電源端子308のいずれから供給される。内部電源は,例えばACアダプタや内蔵電池の電源である。そのために,1個のHEMTからなる双方向スイッチQ21,Q22が両電源端子306,308と電源Vddとの間に設けられ,制御回路304によりそれらのHEMTのゲート・ソース間電圧及びゲート・ドレイン間電圧が制御される。
【0050】
USB機器では,2つの電源端子306,308のうち,例えば,内部電源端子308の電源が優先される。つまり,(1)内部電源端子308に規定の電圧が印加されている場合は,USBバス電源端子306の電圧状態にかかわらず内部電源端子308側の電圧が内部回路302の電源Vddに供給される。一方,(2)内部電源端子308に規定の電圧が印加されておらず(0Vまたはオープン),USBバス電源端子306に規定の電圧が印加されている場合は,USBバス電源端子306の電圧が内部回路302の電源Vddに供給される。
【0051】
したがって,上記の(1)の場合は,HEMTQ22の少なくともドレインDからソースS方向の電流パスはオンにされ,HEMTQ21は双方向の電流パスがオフにされる。これにより,内部電源端子308からの電源電流がUSBバス電源端子306側に流れないようにされる。HEMTQ22の少なくともドレインDからソースS方向の電流パスをオンにするため,制御回路304は,ゲート・ソース間電圧を閾値電圧以上に制御する。また,制御回路304は,HEMTQ21のゲート・ソース間及びゲート・ドレイン間電圧を閾値電圧未満に制御する。この閾値電圧未満の電圧は,前述のとおり,閾値電圧Vthよりやや低い低電圧,例えば1.1Vにすることが望ましい。それにより,オフ状態における逆方向の電圧降下を小さくすることができる。
【0052】
また,上記の(2)の場合は,HEMTQ21の少なくともドレインDからソースS方向の電流パスはオンにされ,HEMTQ22は双方向の電流パスがオフにされる。これにより,USBバス電源端子306からの電源電流が内部電源端子308側に流れないようにされる。HEMTQ21の少なくともドレインDからソースS方向の電流パスをオンにするため,制御回路304は,ゲート・ソース間電圧を閾値電圧以上に制御する。また,制御回路304は,HEMTQ22のゲート・ソース間及びゲート・ドレイン間電圧を閾値電圧未満に制御する。
【0053】
第2の実施の形態においても,双方向の電流パスを制御可能なスイッチとしてHEMTを使用して,スイッチ素子の数を減らしている。
【0054】
以上の実施の形態をまとめると,次の付記のとおりである。
【0055】
(付記1)
HEMTを有する双方向スイッチと,
第1の条件時に前記HEMTのソースまたはドレインの一方の端子とゲートとの間に閾値電圧未満の第1の電圧を印加して前記ソースまたはドレインの他方の端子から前記一方の端子への第1の電流パスをオフにし,第2の条件時に前記他方の端子とゲートとの間に前記閾値電圧未満の第2の電圧を印加して前記一方の端子から他方の端子への第2の電流パスをオフにし,第3の条件時に前記HEMTのソース及びドレインとゲートとの間に前記閾値電圧より高い第3の電圧を印加して前記第1,第2の電流パスをオンにする制御回路とを有する双方向スイッチ装置。
【0056】
(付記2)
付記1において,
前記双方向スイッチは,双方向の電流経路に設けられ,
前記双方向スイッチは,単一の前記HEMTを有する双方向スイッチ装置。
【0057】
(付記3)
電池セルの2端子のいずれかの電流経路に設けられ,HEMTを有する双方向スイッチと,
前記電池セルが第1の充電電圧を超える時に,前記HEMTのソースまたはドレインの一方の端子とゲートとの間に閾値電圧未満の第1の電圧を印加して前記HEMTの充電電流パス方向をオフにし,前記前記第1の充電電圧より低い第2の充電電圧未満の時に,前記HEMTのソースまたはドレインの他方の端子とゲートとの間に前記閾値電圧未満の第2の電圧を印加して前記HEMTの放電電流パス方向をオフにし,前記第1の充電電圧より低く前記第2の充電電圧より高い時に,前記HEMTのソース及びドレインとゲートとの間に前記閾値電圧より高い第3の電圧を印加し前記HEMTの充電電流パスと放電電流パスの双方向パスをオンにする制御回路とを有する充放電保護装置。
【0058】
(付記4)
付記3において,
前記制御回路は,前記電池セルの2端子間の充電電圧を監視する回路を有する充放電保護装置。
【0059】
(付記5)
HEMTを有する双方向スイッチと,
第1の条件時に前記HEMTのソースまたはドレインの一方の端子とゲートとの間に閾値電圧以上の第1の電圧を印加して前記ソースまたはドレインの他方の端子から前記一方の端子への第1の電流パスをオンにし,第2の条件時に前記一方の端子とゲートとの間と前記他方の端子とゲートとの間とに前記閾値電圧未満の第2の電圧を印加して前記第1の電流パスと前記一方の端子から他方の端子への第2の電流パスとをオフにする制御回路とを有する双方向スイッチ装置。
【0060】
(付記6)
外部バス電源と内部回路との間に設けられ第1のHEMTを有する第1の双方向スイッチと,
内部電源と前記内部回路との間に設けられ第2のHEMTを有する第2の双方向スイッチと,
前記外部バス電源が規定の電圧を有し,前記内部電源が規定の電圧を有さない第1の条件のときに,前記第1のHEMTのソースまたはドレインの一方の端子とゲートとの間に閾値電圧以上の第1の電圧を印加して前記第1のHEMTのソースまたはドレインの他方の端子から前記一方の端子への電流パスをオンにし,前記第2のHEMTのソース及びドレインとゲートとの間に閾値電圧未満の電圧を印加して双方向の電流パスをオフにし,前記内部電源が規定の電圧を有する第2の条件のときに,前記第1のHEMTのソース及びドレインとゲートとの間に閾値電圧未満の電圧を印加して双方向の電流パスをオフにし,前記第2のHEMTのソースまたはドレインの一方の端子とゲートとの間に閾値電圧以上の第1の電圧を印加して前記第2のHEMTのソースまたはドレインの他方の端子から前記一方の端子への電流パスをオンにする制御回路とを有する双方向スイッチ装置。
【0061】
(付記7)
付記6において,
前記外部バス電源は,USBバスの電源である双方向スイッチ装置。
【0062】
(付記8)
付記1〜7のいずれかにおいて,
前記閾値電圧未満の第1または第2の定電圧は,ゼロ電圧より高く前記閾値電圧よりも低い電圧である双方向スイッチ装置。
【0063】
(付記9)
付記1〜7のいずれかにおいて,
前記HEMTは,GaN半導体層の電子走行層を有する双方向スイッチ装置。
【符号の説明】
【0064】
100:二次電池 120:制御回路
Q0:双方向スイッチ,HEMT CELL:電池セル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7