【実施例】
【0035】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0036】
〔実施例1:玄米一粒中のTAG含量の定量〕
1.粗脂質の抽出
(1) 玄米一粒を秤量した後凍結乾燥処理し、ろ紙に包んで、薬さじにて押しつぶした。
(2) 押しつぶした試料をろ紙ごと抽出用円筒ガラスフィルターに入れ、セミ・ミクロ脂肪抽出器セットを用いて、エーテル25mLを用いて、加温機を100℃に設定し、6時間ソックスレー抽出を行った。
(3) 抽出液をナシ型フラスコに移し、ロータリーエバポレーターにより乾固した。
(4) ナシ型フラスコの粗脂質をクロロホルム1.2mLに溶解し、脂質のクロロホルム溶液を2mLバイアル瓶に移し、遠心エバポレーターにより濃縮乾固することで玄米一粒の粗脂質を得た。
【0037】
2.TAG含量の測定
(2−a)直接法によるTAG含量の測定
(1)米サラダ油(築野食品工業(株))のクロロホルム溶液(0〜2.0mg/mL)を調製し、標準溶液とした。
(2) 上記1.(4)で濃縮乾固した玄米粗脂質に500μLのクロロホルムを加えて攪拌し、次いで超音波処理(50℃、30秒)を行って完全に溶解させ、試料溶液とした。
(3) 反応容器に標準溶液または試料溶液を25μLずつ分注し、遠心エバポレーターを用いて乾固した。
(4) TAG含量の測定には、デタミナーL TGII(協和メデックス)を用いた。デタミナーL TGIIは以下の成分を持つ二つの試薬(試薬R1、R2)から構成される。
[試薬R1]
・グリセロールキナーゼ
・グリセロール−3−リン酸オキシダーゼ
・カタラーゼ
・N−(3、5−ジメトキシフェニル)−N’−サクシニルエチレンジアミンNa塩(DOSE)
・アデノシン−5’−三リン酸二ナトリウム(ATP)
[試薬R2]
・リポプロテインリパーゼ
・パーオキシダーゼ
・4−アミノアンチピリン(4−AA)
(5) 乾固した粗脂質が入った反応容器に上記試薬R1を240μL加えて混和し、素早く超音波処理(37℃、30秒)を行って均質な溶液とし、37℃の水浴にて5分間静置した。
(6) 続いて、上記試薬R2を80μL加えて混和し、素早く超音波処理(37℃、30秒)を行って均質な溶液とし、37℃の水浴にて10分間静置した。
(7) 反応溶液を遠心分離し、上清をシリンジフィルターでろ過した後、分光光度計にて585nmの吸光度を測定した。
(8) 各濃度の標準溶液の吸光度から検量線(
図1(A))を作成し、本検量線を用いて玄米一粒中のTAG含量を米サラダ油換算で定量した。
【0038】
(2−b)溶媒法(ヘキサン)によるTAG含量の測定
(1) 米サラダ油のヘキサン溶液(0〜5.0mg/mL)を調製し、標準溶液とした。
(2) 上記1.(4)で濃縮乾固した玄米粗脂質に500μLのヘキサンを加えて攪拌し、次いで超音波処理(50℃、30秒)を行って完全に溶解させ、試料溶液とした。
(3) デタミナーL TGII(協和メデックス)を用いて、TAG含量を測定した。
(4)反応容器に上記試薬R1を240μL入れ、試料溶液10μLを加えて混和し、素早く超音波処理(37℃、30秒)を行って均質な溶液とし、37℃の水浴にて5分間静置した。
(5) 続いて、上記試薬R2を80μL加えて混和し、素早く超音波処理(37℃、30秒)を行って均質な溶液とし、37℃の水浴にて10分間静置した。
(6) 反応溶液を遠心分離し、上清をシリンジフィルターでろ過した後、分光光度計にて585nmの吸光度を測定した。
(7) 各濃度の標準溶液の吸光度から検量線(
図1(B))を作成し、本検量線を用いて玄米一粒中のTAG含量を米サラダ油換算で定量した。
【0039】
(2−c)溶媒法(t-BtOH)によるTAG含量の測定
上記(2−b)のヘキサンをt-BtOHに変えて同様の処理を行い、検量線(
図1(C))を作成し、本検量線を用いて玄米一粒中のTAG含量を定量した。
【0040】
(比較例1)溶媒法(クロロホルム)によるTAG含量の測定
上記(2−b)のヘキサンをクロロホルムに変えて同様の処理を行い、検量線(
図1(D))を作成し、本検量線を用いて玄米一粒中のTAG含量を定量した。
【0041】
図1(A)〜(D)において、縦軸は585nmの吸光度、横軸はTAG量(米サラダ油の量、μg)を表す。ここでのTAG量は標品の米サラダ油の重量で示している。
図1(A)、(B)、(C)からわかるように、直接法、溶媒法(ヘキサン)および溶媒法(t-BtOH)で得られたTAGの検量線の傾きに有意な差はなかった。一方、
図1(D)から明らかなように、比較例1の溶媒法(クロロホルム)で得られたTAGの検量線の傾きは顕著に小さくなった。この原因はクロロホルムが試薬中の酵素の活性を低下させているためと推測された。
表1に、直接法、溶媒法(ヘキサン)、溶媒法(t-BtOH)および溶媒法(クロロホルム、比較例1)によりキヌヒカリ玄米一粒中のTAG含量の測定結果を示した。表1から、直接法、溶媒法(ヘキサン)および溶媒法(t-BtOH)の定量結果には有意な差はなかったが、比較例1の溶媒法(クロロホルム)では測定誤差が大きくなっていることが示された。これらの結果から、クロロホルムのように試薬中の酵素の活性に影響を及ぼす溶媒は、本発明に適していないことが明らかとなった。
【0042】
【表1】
【0043】
〔実施例2:水分含量検量線回帰式の作成〕
(1) 19品種のイネの玄米を各15粒用意した。
(2) 水分含量の範囲を広げるため、乾燥器を用いて40℃にて0〜360分間乾燥した。
(3) 分析装置としてFT型近赤外分析計MPA(ブルカー・オプティクス社)を用いた。玄米試料のNIR拡散反射光を1000nmから2500nm(10000〜4000cm
−1)の範囲で測定した。
(4) スペクトルを取得した各玄米の水分含量を、乾燥減量法(135℃、15時間)で測定した。
(5) 得られた原スペクトルの前処理(SNV補正)を行い、前処理スペクトル(1333〜1836nm)の波長データを説明変数とし、測定した水分含量を目的変数とするPLS回帰分析により、玄米一粒の水分検量モデルを作成した。NIRによる予測値(定量値)と化学分析値(実測値)の相関を
図2に示した。ここでのNIRによる予測値(%、定量値)は水分の検量線回帰式とNIRスペクトルのデータから測定装置によって導出される計算値である。
【0044】
〔実施例3:TAG含量検量線回帰式の作成〕
(1) 20品種のイネの玄米を各三粒用意した。
(2) 実施例2の(3)と同様に、玄米試料のNIR拡散反射光を測定した。
(3) スペクトルを取得した玄米について、実施例1のTAG含量の測定法(直接法)を用いて、各玄米一粒中のTAG含量を定量した。
(4) 得られた原スペクトルの前処理(二次微分処理)を行い、種々の波長範囲の前処理スペクトルの波長データを説明変数とし、測定したTAG含量を目的変数とするPLS回帰分析により、玄米一粒のTAG検量モデルを作成した。
【0045】
得られた検量モデルの全条件の決定係数R2を表2に示した。波長は用いた波長範囲を示しており、最小波長と最大波長で区切られた1区間(条件No.5、8以外)ないし2区間(条件No.5、8)のデータを用いて解析を行った。表2からわかるように各条件でNIR予測値(定量値)と化学分析値には高い相関関係が見られた。中でも、条件No.1、2、3、4、5、6、7)のような、TAGに関連するA群(1725±10、1764±10、2317±10nm)の領域を2つ以上含み、かつ、TAG以外の成分に関連するB群(1860±10、1961±10、2276±10nm)の領域を1つ以上含む検量線にて相関係数が高くなり、最も高い相関(R2=0.926)が得られた波長範囲は、条件No.1の1638.8〜2354.8nmであった。
【0046】
【表2】
【0047】
至適条件(条件No.1)および最大範囲の1000〜2500nm(条件No.6)におけるNIRによる予測値(定量値)と化学分析値(実測値)の相関を、それぞれ
図3(A)および(B)に示した。なお、ここでの実測値は、
実測値=玄米粗脂質の中のTAG重量(mg)/玄米一粒の重量(mg)×100(%)
として算出している。また、NIRによる予測値(%、定量値)はTAGの検量線回帰式とNIRスペクトルのデータから測定装置によって導出される計算値である。
【0048】
〔実施例4:玄米一粒中のTAG含量の定量〕
(1) FT型近赤外分析計MPA(ブルカー・オプティクス社)を用いて、玄米試料のNIR拡散反射光を1000nmから2500nm(10000〜4000cm
−1)の範囲で測定した。
(2) 実施例2で作成した水分検量モデルに(1)で測定したNIRスペクトルデータを当てはめて、水分含量を定量した。
(3) 実施例3で作成したTAG検量モデルに(1)で測定したNIRスペクトルデータを当てはめて、TAG含量を定量した。
(4) (2)で定量した水分含量および(3)で定量したTAG含量に基づいて、玄米試料の乾物重量当たりのTAG含量を得た。
【0049】
なお本発明は上述した各実施形態および実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。