(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
伝動ベルトに使用されるアラミド心線を製造する方法であって、アラミド心線の原糸を、レゾルシンとホルムアルデヒドとの縮合物とラテックスと水溶性エポキシ化合物とを含む第1の処理剤で被覆又は含浸する工程を含み、かつ前記ラテックスが、アクリロニトリルブタジエンゴム、ブタジエンゴム及びクロロスルホン化ポリエチレンゴムからなる群より選択された少なくとも1種であるアラミド心線の製造方法。
水溶性エポキシ化合物が、アルカンポリオールポリグリシジルエーテル及びポリアルカンポリオールポリグリシジルエーテルから選択された少なくとも一種である請求項1記載の方法。
水溶性エポキシ化合物の固形分質量を、レゾルシンとホルムアルデヒドとの縮合物の固形分質量と、ラテックスの固形分質量と、水溶性エポキシ化合物の固形分質量との合計質量で除したエポキシ化合物固形分濃度が、5〜25質量%である請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
一対の未加硫ゴムシートの間に、請求項11記載のアラミド心線を挟持させた円筒状の積層体を加硫して加硫ベルトスリーブを形成し、この円筒状の加硫ベルトスリーブを周方向にカッティングすることにより伝動ベルトを製造する方法。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[アラミド心線の製造方法]
伝動ベルト用アラミド心線の製造方法は、少なくとも、アラミド心線の原糸(アラミド心線本体)を特定の処理剤で処理(被覆又は含浸)する工程を含んでいる。
【0022】
アラミド心線の原糸としては、伝動ベルトの走行に耐えうる強度を有する限り特に制限されず、例えば、アラミド繊維(芳香族ポリアミド繊維)のモノフィラメント糸を含むマルチフィラメント糸(アラミド系マルチフィラメント糸)などが例示できる。
【0023】
アラミド繊維としては、例えば、パラ系アラミド繊維、メタ系アラミド繊維などが例示できる。パラ系アラミド繊維としては、例えば、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(例えば、帝人(株)の「トワロン」、東レ・デュポン(株)の「ケブラー」など)、ポリパラフェニレンテレフタルアミドと3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドとの共重合体繊維(例えば、帝人(株)の「テクノーラ」など)などが例示できる。メタ系アラミド繊維としては、例えば、ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維(例えば、帝人(株)の「コーネックス」など)などが例示できる。これらのアラミド繊維は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのアラミド繊維のうち、高モジュラス性を有する点から、パラ系アラミド繊維が好ましい。
【0024】
アラミド系マルチフィラメント糸は、アラミド繊維のモノフィラメント糸を含んでいればよく、必要であれば、他の繊維(ポリエステル繊維など)のモノフィラメント糸を含んでいてもよい。本発明では、特定の処理剤で原糸を処理するため、原糸がアラミド繊維のマルチフィラメント糸(アラミド繊維のモノフィラメント糸のみからなるマルチフィラメント糸)であっても伝動ベルト側面でのホツレを防止でき、かつ伝動ベルトの耐屈曲疲労性を向上できる。
【0025】
アラミド系マルチフィラメント糸は、複数のモノフィラメント糸を含んでいればよく、伝動ベルトの耐久性の点から、例えば、100〜5000本、好ましくは500〜4000本、さらに好ましくは1000〜3000本程度のモノフィラメント糸を含んでいるのが好ましい。
【0026】
モノフィラメント糸の平均繊度は、例えば、1〜10dtex、好ましくは1.2〜8dtex、さらに好ましくは1.5〜5dtex程度であってもよい。
【0027】
アラミド系マルチフィラメント糸は、モノフィラメント糸同士を集束させることなく(例えば、無撚りで)使用してもよく、複数のモノフィラメント糸を集束手段(例えば、加撚、交絡、結束など)により集束して使用してもよい。本発明では、アラミド系マルチフィラメント糸が集束されていても(特に、アラミド系マルチフィラメント糸が撚糸であっても)、特定の処理剤で処理するため、モノフィラメント糸同士の隙間に処理剤を効率よく浸透でき、アラミド心線の耐ホツレ性と耐屈曲疲労性とを両立できる。このように、本発明では、アラミド心線の原糸を予め集束(加撚など)できるため、複数の種類の処理剤を処理する場合でも、連続して処理することができ、生産性にも優れている。
【0028】
撚糸(又はコード)は、複数のモノフィラメント糸を単糸として、少なくとも1本の単糸を右撚り(S撚り)又は左撚り(Z撚り)した方撚糸であってもよい。単糸は、強度の点から、例えば、10〜2000本、好ましくは100〜1800本、さらに好ましくは500〜1500本程度のモノフィラメント糸を含んでいてもよい。単糸の平均繊度は、例えば、500〜3000dtex、好ましくは1000〜2500dtex、さらに好ましくは1500〜2000dtex程度であってもよい。
【0029】
方撚糸は、通常、1〜6本、好ましくは1〜4本、さらに好ましくは1〜3本(例えば、1〜2本)程度の単糸を含んでいる場合が多い。なお、方撚糸が複数の単糸を含む場合、複数の単糸を束ねて(引き揃えて)加撚されている場合が多い。
【0030】
方撚糸は、例えば、甘撚糸又は中撚糸(特に、甘撚糸)であってもよい。方撚糸の撚り数は、例えば、20〜50回/m、好ましくは25〜45回/m、さらに好ましくは30〜40回/m程度であってもよい。方撚糸において、下記式(1)で表される撚り係数(T.F.)は、例えば、0.01〜1、好ましくは0.1〜0.8程度であってもよい。
【0031】
撚り係数=[撚り数(回/m)×√トータル繊度(tex)]/960 (1)
撚糸は、さらに強度を向上させる点から、複数の方撚糸を下撚り糸として上撚りした糸(例えば、諸撚糸、駒撚糸、ラング撚糸など)であってもよく、方撚糸と単糸とを下撚り糸として上撚りした撚糸(例えば、壁撚糸など)であってもよい。これらの撚糸を構成する下撚り糸の数は、例えば、2〜5本、好ましくは2〜4本、さらに好ましくは2〜3本程度であってもよい。また、方撚り方向(下撚り方向)と上撚り方向とは、同一方向及び逆方向のいずれであってもよく、耐屈曲疲労性の点から、同一方向(ラング撚り)が好ましい。
【0032】
上撚りの撚り数は、特に制限されず、例えば、50〜200回/m、好ましくは80〜180回/m、さらに好ましくは100〜150回/m程度であってもよい。上撚りにおいて、式(1)で表される撚り係数は、例えば、0.5〜6.5、好ましくは0.8〜5、さらに好ましくは1〜4程度であってもよい。
【0033】
アラミド心線の原糸の平均径は、例えば、0.2〜2.5mm、好ましくは0.4〜2mm、さらに好ましくは0.5〜1.5mm程度であってもよい。
【0034】
処理剤(未加硫のゴム組成物又はRFL液)は、アラミド心線に耐ホツレ性及び耐屈曲疲労性を付与することができる。処理剤としては、少なくとも、レゾルシン(R)とホルムアルデヒド(F)との縮合物(RF縮合物)とゴム又はラテックス(L)と水溶性エポキシ化合物(又は水溶性エポキシ樹脂)とを含んでいる。
【0035】
RF縮合物としては、水溶性エポキシ化合物とともにアラミド繊維の集束性を向上できる限り特に制限されず、例えば、ノボラック型、レゾール型、これらの組み合わせなどが例示できる。RF縮合物は、メチロール基濃度が高く、エポキシ化合物との反応性に優れる点から、レゾール型であるのが好ましい。
【0036】
RF縮合物は、例えば、水及び塩基触媒(水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属塩;アルカリ土類金属塩;アンモニアなど)の存在下、レゾルシンとホルムアルデヒドとを反応することにより得られる反応生成物(例えば、初期縮合物又はプレポリマー)であってもよい。なお、本発明の効果を阻害しない限り、レゾルシンと共に、フェノール、クレゾールなどの芳香族モノオールを併用してもよく、カテコール、ハイドロキノンなどの芳香族ジ又はポリオールを併用してもよい。また、ホルムアルデヒドとしては、ホルムアルデヒドの縮合体(例えば、トリオキサン、パラホルムアルデヒドなど)を使用してもよく、ホルムアルデヒドの水溶液(ホルマリンなど)を使用してもよい。
【0037】
レゾルシンとホルムアルデヒドとの割合(使用割合)は、例えば、前者/後者(モル比)=1/0.5〜1/3、好ましくは1/0.7〜1/2.5、さらに好ましくは1/0.8〜1/2.2程度であってもよい。なお、レゾルシンに対してホルムアルデヒド類を過剰に用いると、レゾール型を効率よく得ることができる。
【0038】
ラテックスを構成するゴムとしては、アラミド心線に柔軟性を付与できる限り特に制限されず、例えば、ジエン系ゴム[例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム(ニトリルゴム)、これらのジエン系ゴムの水添物など]、オレフィン系ゴム[例えば、エチレン−α−オレフィン系ゴム(エチレン−α−オレフィンエラストマー)、ポリオクテニレンゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体ゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、アルキル化クロロスルホン化ポリエチレンゴムなど]、アクリル系ゴム、シリコーン系ゴム、ウレタン系ゴム、エピクロルヒドリンゴム、フッ素ゴム、これらの組み合わせなどが例示できる。
【0039】
ラテックスを構成するゴムは、後述する第3の処理剤のゴムの種類、伝動ベルトにおいて心線を埋設するゴム層のゴムの種類などに応じて適宜選択することもできる。例えば、第3の処理剤のゴム又は伝動ベルトのゴム層のゴムが、オレフィン系ゴム(例えば、エチレン−α−オレフィン系ゴム)を含んでいる場合、ニトリルゴム、ブタジエンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴムが好ましい。
【0040】
RF縮合物100質量部に対して、ラテックスの割合は、固形分換算で、40〜700質量部程度の範囲から選択でき、例えば、45〜600質量部、好ましくは50〜500質量部、さらに好ましくは55〜400質量部程度であってもよい。
【0041】
本発明では、エポキシ化合物が水溶性であるため、アラミド心線の原糸の内部(フィラメント同士の隙間)まで均一かつ効率よくエポキシ化合物を含浸できるとともに、アラミド繊維の残存アミノ基及び/又はカルボキシル基や、RF縮合物のヒドロキシル基と均一に反応するためか、アラミド繊維の集束性が顕著に向上しホツレを有効に防止できる。これに対して、エポキシ化合物が水に不溶な粒子であると、アラミド心線の原糸の内部までエポキシ化合物を浸透できないうえ、粒子が脆弱な核となり、不均一な構造となるためか、ベルトカット時の引き裂きにより繊維がバラバラになりやすく、ベルト切断面でのホツレを防止できない。
【0042】
エポキシ化合物は、通常、2以上(例えば、2〜6、好ましくは2〜4、さらに好ましくは2〜3)のエポキシ基を有している。
【0043】
2以上のエポキシ基を有する化合物としては、水溶性である限り特に制限されず、アラミド糸の集束性と柔軟性とを両立する点から、鎖状脂肪族ポリオールポリグリシジルエーテル(例えば、アルカンポリオールポリグリシジルエーテル、ポリアルカンポリオールポリグリシジルエーテルなど)が汎用される。
【0044】
アルカンポリオールポリグリシジルエーテルとしては、アルカンジ乃至ヘキサオールポリグリシジルエーテル、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテルなどのC
2−4アルキレングリコールジグリシジルエーテル;グリセリンポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテルなどのC
3−10アルカントリ乃至ヘキサオールポリグリシジルエーテルなどが例示できる。
【0045】
ポリアルカンポリオールポリグリシジルエーテルとしては、ポリアルカンジ乃至テトラオールポリグリシジルエーテル、例えば、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテルなどのポリC
2−4アルキレングリコールジグリシジルエーテル;ジグリセリンポリグリシジルエーテル、ジペンタエリスリトールポリグリシジルエーテルなどのC
6−12ポリアルカントリ乃至テトラオールポリグリシジルエーテルなどが例示できる。なお、ポリアルカンポリオールポリグリシジルエーテルにおいて、オキシアルキレン基の数(平均付加モル数)は、特に制限されず、例えば、2〜15、好ましくは2〜12、さらに好ましくは2〜10程度であってもよい。
【0046】
エポキシ化合物は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。エポキシ化合物の中でも、アルカントリ乃至ヘキサオールポリグリシジルエーテル、ポリC
2−4アルキレングリコールジグリシジルエーテル、C
6−8ポリアルカントリ乃至テトラオールポリグリシジルエーテルが好ましい。
【0047】
エポキシ化合物において、炭素原子の数と酸素原子の数との割合は、例えば、前者/後者=1/2〜3/1、好ましくは1/2〜2.5/1、さらに好ましくは1/1.5〜2/1(例えば、1/1〜2/1)程度であってもよい。酸素原子の割合が大きいほど、水溶性が高く、アラミド心線の原糸に対するエポキシ化合物の含有率又は付着率を向上でき、アラミド心線の耐ホツレ性と耐屈曲疲労性とを両立できる。
【0048】
エポキシ化合物のエポキシ当量(エポキシ基1個当たりの分子量、g/eq)は、例えば、300以下(例えば、100〜280程度)、好ましくは250以下(例えば、110〜220程度)、さらに好ましくは200以下(例えば、120〜200程度)であってもよい。エポキシ当量が大きすぎると、RF縮合物に対する反応性が低くなり、反応点間の距離も長くなるため、処理剤により形成される被膜が柔らかくなり、加硫ベルトスリーブを切断するときに十分な硬さがなくなり、アラミド糸がホツレ易くなるとともに、伝動ベルトのゴム層との接着力も低下する。
【0049】
エポキシ化合物の水に対する溶解率(水溶率)は、25℃において、例えば、50%以上の範囲から選択でき、80%以上、好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上(例えば、90〜100%、特に95〜100%程度)であってもよい。なお、水溶率とは、水90gにエポキシ化合物10gを加え、撹拌したときの溶解量(g)を百分率で表した値である。エポキシ化合物の水溶率が小さすぎると、処理剤に不溶分の沈殿物が多く生成するため、フィラメント同士の隙間まで十分に含浸できず、アラミド心線のホツレが抑制できないうえ、伝動ベルトのゴム層との接着力も十分ではなくなる。
【0050】
RF縮合物100質量部に対して、水溶性エポキシ化合物の割合は、例えば、0.1〜200質量部、好ましくは1〜190質量部、さらに好ましくは5〜180質量部程度であってもよい。
【0051】
水溶性エポキシ化合物の固形分質量を、RF縮合物の固形分質量とラテックスの固形分質量と水溶性エポキシ化合物の固形分質量との合計質量(又は処理剤の全固形分質量)で除したエポキシ化合物固形分濃度は、例えば、0.1〜50質量%、好ましくは0.5〜40質量%、さらに好ましくは1〜30質量%(例えば、5〜25質量%)程度であってもよい。
【0052】
水溶性エポキシ化合物の割合が小さすぎると、アラミド繊維フィラメント群の集束性が十分ではなくなり、アラミド心線がホツレ易くなったり、伝動ベルトのゴム層との接着性が低くなる。また、水溶性エポキシ化合物の割合が大きすぎても、処理剤の安定性が低下し、処理剤中でRF縮合物と水溶性エポキシ化合物との反応が進行し、不溶分沈殿量が多くなるため、アラミド心線の原糸に処理剤を適用するのが困難になる。
【0053】
処理剤は、通常、水を含んでいる場合が多い。また、処理剤は、必要であれば、慣用の添加剤(例えば、加硫剤、加硫促進剤、共加硫剤、充填剤、老化防止剤、滑剤など)を含んでいてもよい。
【0054】
処理剤の全固形分濃度(水溶性エポキシ化合物の固形分質量とRF縮合物の固形分質量とラテックスの固形分質量との合計質量を、処理剤の質量で除した濃度)は、例えば、5〜35質量%、好ましくは10〜30質量%、さらに好ましくは12〜28質量%(例えば、15〜25質量%)程度であってもよい。処理剤の全固形分濃度が小さすぎると、アラミド繊維のフィラメント糸の結束性が低下し、アラミド心線がホツレ易くなる。また、処理剤の全固形分濃度が大きすぎると、アラミド繊維間に処理剤を十分に浸透できないし、アラミド心線が硬くなりすぎて耐屈曲疲労性が低下する。
【0055】
なお、上記のように、エポキシ化合物の水溶率、RF縮合物(又はRF縮合物とラテックスと水溶性エポキシ化合物との合計)に対する水溶性エポキシ化合物の割合、及び処理剤の全固形分濃度が調整されていると、処理剤の安定性が優れ、ポットライフが長くなる。
【0056】
アラミド心線の原糸に処理剤を処理する方法としては、特に制限されず、例えば、噴霧、塗布、浸漬などが例示できる。これらの処理方法のうち、浸漬が汎用される。浸漬時間は、例えば、1〜10秒、好ましくは2〜5秒程度であってもよい。
【0057】
アラミド心線の原糸を処理剤で処理した後、必要に応じて乾燥してもよい。乾燥温度は、例えば、70〜150℃、好ましくは80〜140℃、さらに好ましくは90〜130℃程度であってもよい。乾燥時間は、例えば、10秒〜30分、好ましくは30秒〜10分、さらに好ましくは1〜5分程度であってもよい。さらに、乾燥は、アラミド心線の原糸に対して張力を作用させて行ってもよい。張力は、例えば、5〜15N、好ましくは10〜15N程度であってもよい。張力の作用下で乾燥させると、アラミド心線の原糸に対して処理剤が馴染み易くなり、アラミド心線の原糸が撚糸である場合、撚りムラを低減でき、撚りムラによって生じる撚糸の径のばらつきを小さくすることができる。
【0058】
処理剤とアラミド心線の原糸との合計100質量部に対して、処理剤の割合(含有率又は付着率)は、固形分換算で、例えば、1〜20質量部、好ましくは5〜15質量部程度であってもよい。
【0059】
伝動ベルト用アラミド心線の製造方法は、さらに、上記の処理剤(第1の処理剤)で処理されたアラミド心線の原糸を、RF縮合物とゴム又はラテックス(L)とを含む第2の処理剤(未加硫のゴム組成物又はRFL液)で処理する工程を含んでいてもよい。
【0060】
第2の処理剤に含有させるRF縮合物及びラテックスとしては、それぞれ、第1の処理剤のRF縮合物及びラテックスと同様の成分が例示でき、好ましい成分も同様である。第2の処理剤のRF縮合物及びラテックスは、それぞれ、第1の処理剤のRF縮合物及びラテックスと同種であってもよく、異種であってもよい。また、第2の処理剤のRF縮合物とラテックスとの割合は、第1の処理剤の割合と同様の範囲から選択できる。
【0061】
第2の処理剤は、RF縮合物及びラテックスに加えて、エポキシ化合物(又はエポキシ樹脂)を含んでいてもよい。エポキシ化合物としては、第1の処理剤の項で例示したエポキシ化合物と同様の成分が例示できる。なお、第2の処理剤のエポキシ化合物のエポキシ当量は、第1の処理剤のエポキシ化合物のエポキシ当量と同様の範囲から選択してもよく、300g/eqを超える(例えば、350〜1000g/eq程度の)範囲から選択してもよい。また、第2の処理剤のエポキシ化合物の水溶率は、第1の処理剤のエポキシ化合物の水溶率と同様の範囲から選択してもよく、50%未満(例えば、0〜40%程度)の範囲から選択してもよい。
【0062】
第2の処理剤の前記水溶性エポキシ化合物固形分濃度は、第1の処理剤の濃度と同一であるか、第1の処理剤の濃度よりも小さければよく、例えば、30質量%以下、好ましくは25質量%以下(例えば、10質量%以下)であってもよい。上記濃度が高すぎると、耐屈曲疲労性及び伝動ベルトのゴム層との接着性が低下する。そのため、第2の処理剤はエポキシ化合物(水溶性エポキシ化合物及び非水溶性エポキシ化合物)を含んでいなくてもよい。
【0063】
第2の処理剤は、通常、水を含んでいる場合が多い。また、第2の処理剤は、必要に応じて、慣用の添加剤(例えば、加硫剤、加硫促進剤、共加硫剤、充填剤、老化防止剤、滑剤など)を含んでいてもよい。
【0064】
第2の処理剤の全固形分濃度は、第1の処理剤の全固形分濃度よりも小さければよく、例えば、0.1〜20質量%、好ましくは0.5〜15質量%(例えば、1〜11質量%)、さらに好ましくは1.5〜10質量%(例えば、2〜10質量%)程度であってもよい。第2の処理剤の全固形分濃度が小さすぎると、アラミド心線の原糸に対する固形分付着量が低減し、アラミド心線の特性を十分に改善できなくなる。また、第2の処理剤の全固形分濃度が大きすぎても、アラミド心線の原糸に対する固形分付着量が多くなり、アラミド心線が硬くなりすぎて、耐屈曲疲労性が低下する。
【0065】
第2の処理剤の処理方法は、第1の処理剤の処理方法と同様であり、好ましい方法も同様である。
【0066】
第1の処理剤と第2の処理剤とアラミド心線の原糸との合計100質量部に対して、第2の処理剤の割合(含有率又は付着率)は、固形分換算で、例えば、0.1〜2質量部、好ましくは0.5〜1質量部程度であってもよい。
【0067】
第1の処理剤の付着量と、第2の処理剤の付着量の比率は、固形分換算で、例えば、前者/後者=20/1〜5/1、好ましくは15/1〜7/1(例えば、10/1〜8/1)程度であってもよい。
【0068】
伝動ベルト用アラミド心線の製造方法は、さらに、第1の処理剤と必要により第2の処理剤とで処理したアラミド心線の原糸を、ゴム(又はゴム糊)を含む第3の処理剤(未加硫のゴム組成物)で処理する工程を含んでいてもよい。ゴムとしては、第1の処理剤又は第2の処理剤に含有されるゴムの種類、伝動ベルトでアラミド心線を埋設するゴム層のゴムの種類などに応じて適宜選択でき、第1の処理剤の項で例示したゴム、例えば、オレフィン系ゴム(例えば、エチレン−α−オレフィンエラストマー(エチレン−α−オレフィン系ゴム)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、アルキル化クロロスルホン化ポリエチレンゴムなど)、ジエン系ゴム(例えば、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴムなど)などが例示できる。これらのゴムは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのゴムのうち、オレフィン系ゴム(例えば、エチレン−α−オレフィンエラストマー)が汎用される。
【0069】
エチレン−α−オレフィンエラストマーとしては、例えば、エチレン−α−オレフィンゴム、エチレン−α−オレフィン−ジエンゴムなどが挙げられる。
【0070】
α−オレフィンとしては、例えば、プロピレン、ブテン、ペンテン、メチルペンテン、ヘキセン、オクテンなどの鎖状α−C
3−12オレフィンなどが挙げられる。α−オレフィンは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。α−オレフィンのうち、プロピレンなどのα−C
3−4オレフィン(特にプロピレン)が好ましい。
【0071】
エチレンとα−オレフィンとの割合は、例えば、前者/後者(質量比)=40/60〜90/10、好ましくは45/55〜85/15(例えば、50/50〜82/18)、さらに好ましくは55/45〜80/20(例えば、55/45〜75/25)程度であってもよい。
【0072】
ジエン成分としては、通常、非共役ジエン系単量体、例えば、ジシクロペンタジエン、メチレンノルボルネン、エチリデンノルボルネン、1,4−ヘキサジエン、シクロオクタジエンなどのC
5−15非共役ジエン系単量体などが例示できる。これらのジエン成分は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0073】
ジエン成分の割合は、4〜15質量%程度の範囲から選択でき、例えば、4.2〜13質量%(例えば、4.3〜12質量%)、好ましくは4.4〜11.5質量%(例えば、4.5〜11質量%)程度であってもよい。
【0074】
代表的なエチレン−α−オレフィンエラストマーとしては、例えば、エチレン−α−オレフィンゴム[エチレン−プロピレンゴム(EPR)]、エチレン−α−オレフィン−ジエンゴム[エチレン−プロピレン−ジエン共重合体(EPDMなど)]などが例示できる。
【0075】
エチレン−α−オレフィンエラストマーは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。エチレン−α−オレフィンエラストマーの中でも、エチレン−α−オレフィン−ジエンゴム(例えば、EPDM)が好ましい。なお、エチレン−α−オレフィン−ジエンゴムにおいて、ヨウ素価は、例えば、3〜40、好ましくは5〜30、さらに好ましくは10〜20程度であってもよい。また、エチレン−α−オレフィン−ジエンゴムにおいて、JISK6300−1に準じて100℃で測定したときのムーニ粘度は、例えば、25〜120、好ましくは30〜110程度であってもよい。
【0076】
第3の処理剤は、ゴムに加えて、必要により、慣用の添加剤、例えば、加硫剤(又は架橋剤)、共加硫剤(又は共架橋剤)、加硫促進剤(又は架橋助剤)、加硫遅延剤、接着性改善剤、充填剤、老化防止剤、粘着付与剤、安定剤、カップリング剤、可塑剤、滑剤、着色剤、溶媒などを含んでいてもよい。添加剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。添加剤のうち、加硫剤、共加硫剤、加硫促進剤、接着性改善剤、充填剤、老化防止剤、滑剤、溶媒などが汎用される。
【0077】
加硫剤は、硫黄系加硫剤と非硫黄系加硫剤とに分類できる。硫黄系加硫剤としては、例えば、硫黄(例えば、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄など)、硫黄化合物(例えば、一塩化硫黄、二塩化硫黄などの塩化硫黄など)などが例示できる。
【0078】
非硫黄系加硫剤としては、例えば、有機過酸化物[例えば、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル、ジアルキルパーオキサイド(例えば、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、1,1−ジ−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)−ヘキサン、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシ−イソプロピル)ベンゼン、ジ−t−ブチルパーオキサイドなど)など]、オキシム類[例えば、キノンジオキシムなど]、マレイミド類[例えば、ビスマレイミド、フェニルマレイミド、N−N’−m−フェニレンビスマレイミドなど]、アリルエステル類[例えば、DAF(ジアリルフマレート)、DAP(ジアリルフタレート)、TAC(トリアリルシアヌレート)、TAIC(トリアリルイソシアヌレート)、TMAIC(トリメタリルイソシアヌレート)など]、(メタ)アクリレート類[例えば、メチル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート;エチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどのアルカンジ乃至テトラオールのジ乃至テトラ(メタ)アクリレートなど]などが例示できる。
【0079】
加硫剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。加硫剤の中でも、硫黄系加硫剤(例えば、硫黄)が好ましい。加硫剤の割合は、ゴム100質量部に対して、例えば、30質量部以下、好ましくは0.01〜20質量部、さらに好ましくは0.1〜10質量部(例えば、0.5〜5質量部)程度であってもよい。
【0080】
共加硫剤としては、金属酸化物、例えば、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化鉄、酸化銅、酸化チタン、酸化アルミニウムなどが例示できる。共加硫剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。共加硫剤の割合は、ゴム100質量部に対して、例えば、30質量部以下、好ましくは0.1〜20質量部、さらに好ましくは0.5〜15質量部(例えば、1〜10質量部)程度であってもよい。
【0081】
加硫促進剤としては、例えば、チウラム系促進剤(例えば、テトラメチルチウラム・モノスルフィド(TMTM)、テトラメチルチウラム・ジスルフィド(TMTD)、テトラエチルチウラム・ジスルフィド(TETD)、テトラブチルチウラム・ジスルフィド(TBTD)、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド(DPTT)など)、チアゾ−ル系促進剤(例えば、2−メルカプトベンゾチアゾ−ル又はその塩など)、スルフェンアミド系促進剤(例えば、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミドなど)、ウレア系促進剤(例えば、エチレンチオウレアなど)、これらの組み合わせなどが例示できる。
【0082】
加硫促進剤の割合は、ゴム100質量部に対して、例えば、30質量部以下、好ましくは0.1〜20質量部、さらに好ましくは0.5〜15質量部(例えば、1〜10質量部)程度であってもよい。
【0083】
接着性改善剤としては、例えば、第1の処理剤の項で例示したRF縮合物、メラミン類とアルデヒド類との縮合物(例えば、メラミン−ホルムアルデヒド縮合物、ヘキサC
1−4アルコキシメチロールメラミンなど)、第1の処理剤の項で例示したエポキシ樹脂、イソシアネート樹脂(例えば、ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネートなど)、これらの組み合わせなどが例示できる。なお、接着性改善剤は、市販の接着剤、例えば、ロード社製の「ケムロック402」などを使用してもよい。
【0084】
接着性改善剤の割合は、ゴム100質量部に対して、例えば、50質量部以下、好ましくは0.1〜40質量部、さらに好ましくは0.5〜30質量部(例えば、1〜20質量部)程度であってもよい。
【0085】
充填剤(補強剤も含む)としては、有機又は無機充填剤、例えば、粉粒状充填剤[例えば、カーボンブラック(例えば、SAF、ISAF、HAF、MAF、FEF、GPF、SRFなどのファーネスブラックなど)、シリカ(乾式シリカ、湿式シリカ)、炭酸カルシウム、タルクなど]、繊維状充填剤[例えば、ポリアミド繊維、ガラス繊維、炭素繊維などの短繊維など]、これらの組合せなどが例示できる。充填剤のうち、無機充填剤(例えば、カーボンブラック、シリカなどの粉粒状充填剤)が汎用される。
【0086】
充填剤の割合は、ゴム100質量部に対して、例えば、1〜80質量部、好ましくは5〜50質量部、さらに好ましくは10〜40質量部程度であってもよい。
【0087】
老化防止剤としては、例えば、アミン系老化防止剤[例えば、芳香族第2級アミン類(例えば、N−フェニル−1−ナフチルアミン、オクチル化ジフェニルアミン、4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジナフチル−p−フェニレンジアミンなど)、ケトン−アミン反応生成物(例えば、2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン重合物、アセトンとジフェニルアミンとの縮合物、アセトンとN−フェニル−2−ナフチルアミンとの縮合物など)など]、フェノール系老化防止剤[例えば、モノフェノール類(例えば、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノールなど)、ビスフェノール類(例えば、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)など]、これらの組み合わせなどが例示できる。
【0088】
老化防止剤の割合は、ゴム100質量部に対して、例えば、30質量部以下、好ましくは0.1〜20質量部、さらに好ましくは0.5〜15質量部(例えば、1〜10質量部)程度であってもよい。
【0089】
滑剤としては、例えば、高級飽和脂肪酸又はその塩(例えば、ステアリン酸、ステアリン酸金属塩など)、ワックス、パラフィン、これらの組み合わせなどが例示できる。滑剤の割合は、ゴム100質量部に対して、例えば、30質量部以下、好ましくは0.1〜20質量部、さらに好ましくは0.5〜15質量部(例えば、1〜10質量部)程度であってもよい。
【0090】
溶媒としては、炭化水素類(例えば、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類)、ハロゲン化炭化水素類(例えば、塩化メチレン、クロロホルムなどのハロアルカン類)、アルコール類(エタノール、プロパノール、イソプロパノールなどのアルカノール類)、エーテル類(例えば、ジオキサン、テトラヒドロフランなどの環状エーテル類)、エステル類(例えば、酢酸エチルなど)、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトンなどの鎖状ケトン、シクロヘキサノンなどの環状ケトン)、セロソルブ類、カルビトール類などが例示できる。溶媒は、単独で又は混合溶媒として使用してもよい。
【0091】
溶媒の割合は、ゴム1質量部に対して、例えば、0.5〜50質量部、好ましくは1〜20質量部程度であってもよい。
【0092】
代表的な第3の処理剤としては、ゴムとRF縮合物と添加剤(例えば、加硫剤、共加硫剤、加硫促進剤、接着性改善剤、充填剤、老化防止剤、滑剤)とを含む組成物を溶媒に溶解させたゴム糊などが挙げられる。なお、ゴム糊に対するゴム濃度は、特に限定されず、例えば、1〜15質量%、好ましくは2〜10質量%程度であってもよい。
【0093】
第1の処理剤と必要により第2の処理剤と第3の処理剤とアラミド心線の原糸との合計100質量部に対して、第3の処理剤の割合(含有率又は付着率)は、例えば、1〜20質量部、好ましくは5〜15質量部程度であってもよい。第3の処理剤の割合が小さすぎると、伝動ベルトのゴム層とアラミド心線との接着力が低下し、第3の処理剤の割合が大きすぎても、第3の処理剤による被膜の厚みが大きくなり、被膜が破損しやすくなり、接着力が低下し易い。
【0094】
第3の処理剤により形成される被膜の平均厚みは、特に制限されず、例えば、1〜20μm、好ましくは5〜15μm程度であってもよい。
【0095】
[アラミド心線]
本発明のアラミド心線は、耐ホツレ性と耐屈曲疲労性とを両立できるため、伝動ベルト用途に適しており、通常、伝動ベルトのゴム層[例えば、オレフィン系ゴム(例えば、エチレン−α−オレフィンエラストマーなど)を含むゴム層]に埋設して利用される。
【0096】
伝動ベルト用アラミド心線は、前記の製造方法により得られるアラミド心線であってもよい。すなわち、伝動ベルト用アラミド心線は、RF縮合物とラテックスと水溶性エポキシ化合物とを含む処理剤(第1の処理剤)と、必要により、RF縮合物とラテックスとを含む処理剤(第2の処理剤)及び/又はゴム(例えば、エチレン−α−オレフィンエラストマーなどのオレフィン系ゴム)を含む処理剤(第3の処理剤)で被覆又は含浸されたアラミド系マルチフィラメント糸(例えば、撚糸)であってもよい。さらに、伝動ベルト用アラミド心線は、第1の処理剤と、必要により第2の処理剤及び/又は第3の処理剤とで被覆又は含浸した後、加硫されたアラミド系マルチフィラメント糸であってもよい。
【0097】
アラミド心線の平均径は、例えば、0.3〜3mm、好ましくは0.5〜2.5mm、さらに好ましくは0.6〜2mm程度であってもよい。
【0098】
[伝動ベルト]
伝動ベルトは、上記のアラミド心線を含んでいればよく、通常、ベルトの長手方向(又は周方向)に複数のアラミド心線を埋設したゴム層を備えた伝動ベルトである場合が多い。隣接する心線の間隔(スピニングピッチ)は、例えば、0.5〜3mm、好ましくは0.6〜1.5mm、さらに好ましくは0.7〜1.3mm程度であってもよい。
【0099】
図1は、本発明の伝動ベルトの一例であるVリブドベルトを示す概略断面図である。この例では、ベルトの長手方向にアラミド心線1を埋設した接着ゴム層2と、この接着ゴム層の一方の面(内周面)に形成された圧縮ゴム層3と、前記接着ゴム層の他方の面(外周面又は背面)に形成された伸張ゴム層4とを備えており、圧縮ゴム層3にV字状溝が切削されてリブ5が形成されている。圧縮ゴム層3には、伝動ベルトの耐側圧性を向上させるため、ポリアミド短繊維6が含有されている。なお、接着ゴム層2、圧縮ゴム層3及び伸張ゴム層4は、それぞれ、第3の処理剤に含有する成分と同様の成分を含有するゴム組成物[オレフィン系ゴム(例えば、エチレン−α−オレフィンエラストマー)を含むゴム組成物]で形成されている場合が多い。また、伸張ゴム層4の背面には、織物、不織布、編物などで形成された補強布を積層してもよい。
【0100】
図2は、本発明の伝動ベルトの他の例であるローエッジVベルトを示す概略断面図である。
図2に示すベルトは、圧縮ゴム層3にリブ5が形成されていない点及び外周面から内周面に向かってベルト幅が小さくなる台形状である点を除き、
図1と同様に構成されている。なお、圧縮ゴム層3には、ベルトの長手方向に沿って、複数のコグ(凸部)を所定の間隔をおいて形成してもよい。また、圧縮ゴム層3の面(内周面)及び伸張ゴム層4の面(外周面)には、織物、不織布、編物などで形成された補強布を積層してもよい。
【0101】
これらの伝動ベルトは、円筒状の成形ドラムに、圧縮ゴム層用シートと第1の接着ゴム層用シートとを順次巻き付け、この上にアラミド心線を螺旋状にスピニングし、さらに、第2の接着ゴム層用シートと伸張ゴム層用シートとを順次巻き付けて積層体を形成し、この積層体を加硫して加硫ベルトスリーブを作製し、この円筒状の加硫ベルトスリーブを周方向に切断して形成される。この切断の際、周方向に配列又は配向したアラミド心線も切断され、アラミド心線が伝動ベルトの側面(切断面)に露出する。アラミド心線が伝動ベルトの側面に露出していると、アラミド糸が解れ易くなり、伝動ベルトの側面から解れたアラミド糸を起点として、アラミド心線が伝動ベルトの側面から突出するポップアウトが生じ、ポップアウトしたアラミド心線が回転するプーリの軸に巻き付いて伝動ベルトが破断するおそれがある。しかし、
図1及び
図2に示す伝動ベルトでは、接着ゴム層に特定の処理剤で処理されたアラミド心線を埋設しており、アラミド心線のフィラメント同士の結束性が高いため、伝動ベルトの側面でアラミド心線が解れることがなく、アラミド心線のポップアウトを有効に防止でき、伝動ベルトの耐久性を著しく向上できる。
【0102】
伝動ベルトは、前記Vリブドベルト及びローエッジVベルトに限定されず、歯付ベルト、平ベルトなどにも利用できる。
【0103】
[伝動ベルトの製造方法]
伝動ベルトは、慣用の方法、例えば、一対の未加硫ゴムシート(未加硫の積層ゴムシートを含む)の間に、特定の処理剤で処理したアラミド心線を挟持させた円筒状の積層体を加硫して伝動ベルト前駆体(加硫ベルトスリーブ)を作製し、この円筒状の伝動ベルト前駆体を周方向にカッティングすることにより作製できる。このようにカッティングしても、伝動ベルトの側面において、アラミド心線の毛羽立ちやホツレが生成しない。なお、一対の未加硫ゴムシートは、同一又は異なって、第3の処理剤の項で例示した成分(例えば、エチレン−α−オレフィンエラストマーなどのオレフィン系ゴムなど)を含むゴム組成物で形成されている場合が多い。
【実施例】
【0104】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0105】
(1)原料
(1-1)ゴム
EPDM:デュポン・ダウエラストマージャパン(株)製「IP3640」、ムーニー粘度40(100℃)
(1-2)エポキシ化合物
デナコールEX313(ナガセケムテックス社製、グリセロールポリグリシジルエーテル、2〜3官能、エポキシ当量141、水溶率99%)
デナコールEX941(ナガセケムテックス社製、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、2官能、オキシプロピレン基の数(平均付加モル数)2、エポキシ当量173、水溶率89%)
デナコールEX614B(ナガセケムテックス社製、ソルビトールポリグリシジルエーテル、4官能以上、エポキシ当量173、水溶率94%)
デナコールEX521(ナガセケムテックス社製、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、3官能、エポキシ当量183、水溶率100%)
デナコールEX830(ナガセケムテックス社製、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、2官能、オキシエチレン基の数(平均付加モル数)9、エポキシ当量268、水溶率100%)
デナコールEX212(ナガセケムテックス社製、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、2官能、エポキシ当量151、水溶率0%)
(1-3)RF縮合物
レゾルシン・ホルマリン共重合体(レゾルシノール樹脂):レゾルシノール20%未満、ホルマリン0.1%未満のレゾルシン・ホルマリン共重合物
(1-4)添加剤
有機過酸化物:化薬アクゾ(株)製「パーカドックス14RP」
加硫促進剤MBTS:2−メルカプトチアゾリン、ジベンゾチアジル・ジスルフィド
加硫促進剤DM:ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド 含水シリカ:東ソー・シリカ(株)製「Nipsil VN3」、比表面積240m
2/g
カーボンHAF:東海カーボン(株)製「シースト3」
老化防止剤:精工化学(株)製「ノンフレックスOD3」
パラフィン系軟化剤:出光興産(株)製「ダイアナプロセスオイル」
ポリアミド短繊維:旭化成(株)製「66ナイロン」
【0106】
(2)ホツレ試験
アラミド心線のホツレ性を評価するため、次の方法でVリブドベルトを作製した。まず、表面が平滑な円筒状の成形モールドの外周に、1プライのゴム付綿帆布を巻き付け、この綿帆布の外側に、表1に示すゴム組成物で形成された未加硫の接着ゴム層用シートを巻き付けた。次に、接着ゴム層用シートの上からアラミド心線をスピニングして巻き付け、さらにこの上に、表1に示すゴム組成物で形成された未加硫の接着ゴム層用シート及び表2に示すゴム組成物で形成された未加硫の圧縮ゴム層用シートをこの順に巻き付けた。圧縮ゴム層用シートの外側に加硫用ジャケットを配置した状態で、成形モールドを加硫缶に入れて加硫した。加硫して得られた筒状の加硫ゴムスリーブを成形モールドから取り出し、加硫ゴムスリーブの圧縮ゴム層をグラインダーにより複数のV字状溝を同時に研削した後、加硫ゴムスリーブを輪切りするようにカッターで周方向に切断することによって、3つのリブを形成したVリブドベルトを得た。
【0107】
上記のように作製したVリブドベルトについて、カッターで周方向に切断したベルト側面におけるアラミド心線のホツレの状態を以下の基準で評価した。なお、評価が「○」以上の場合を良好と判定した。
【0108】
◎:ベルトカット時に端面にホツレはなく、端面を擦ってもベルトを走行させてもホツレが生成しない
○:ベルトカット時に端面にホツレはなく、端面を擦ってもベルトを走行させてもホツレが殆ど生成しない
△:ベルトカット時に端面にホツレはないが、端面を擦ったりベルトを走行させるとホツレが生成する
×:ベルトカット時に端面にホツレが生成する。
【0109】
なお、上記評価において、擦過時のホツレ状態は、Vリブドベルトのベルトカット面を長さ方向10cmの範囲で一方向に沿って鉄製の金属板を押し当てて移動させ、この操作を10回繰り返した後、ベルトカット面に露出した心線を観察することにより評価した。
【0110】
また、ベルト走行後のホツレ状態は、
図4に示すように、Vリブドベルト21を、駆動プーリ22(直径60mm)、2つのテンションプーリ23(直径50mm)、2つのアイドラープーリ24(直径50mm)に巻き付け、駆動プーリ22に400N/3リブの荷重を作用させ、130℃の雰囲気下で、駆動プーリ22を回転数3300rpmで回転させて100時間走行させ後、ベルトカット面に露出した心線を観察することにより評価した。
【0111】
【表1】
【0112】
【表2】
【0113】
(3)剥離試験
表1に示す組成の未加硫ゴムシート(厚み4mm)の一方の面に、
図3(a)に示すように、長さ150mmのアラミド心線を25mm幅となるように複数本平行に揃えて並べ、未加硫ゴムシートの他方の面に帆布を重ねて、プレス板で0.2MPa(2kgf/cm
2)の圧力をかけてプレスし、さらに160℃で30分間加熱して加硫することによって、剥離試験用の短冊試験片(幅25mm、長さ150mm、厚み4mm)を作製した。この試験片を用いて、JIS K6256に準拠して、引張速度50mm/分で剥離試験を行い、アラミド心線とゴムとの接着力(加硫接着力)を室温雰囲気下で測定した。接着力が500N以上であれば「◎」、400N以上500N未満であれば「○」、250N以上400N未満であれば「△」、250N未満であれば「×」と評価し、評価が「○」以上であれば接着性は良好と判定した。
【0114】
(4)屈曲疲労試験
屈曲疲労試験用の試験片を次のようにして作製した。まず、表1に示す組成の未加硫のゴムシート(厚み0.5mm)を円筒状の金型に巻き付け、この上にアラミド心線をスパイラル状に巻き付け、さらにこの上に表1に示す組成の未加硫ゴムシート(厚み0.5mm)を巻き付け、このゴムシートにジャケットを被せて加熱することよって加硫し、加硫ゴムスリーブを作製した。アラミド心線が2本埋設され、かつカットした側面にアラミド心線が露出しないように加硫ゴムスリーブを周方向にカッターでカットし、幅3mm、長さ50cm、厚み1.5mmの試験片11を作製した。
【0115】
屈曲疲労試験は、
図3(b)に示すように、上記のように作製した試験片11を、上下に配置した一対の円柱形の回転バー(直径30mm)12a,12bに屈曲させて巻き掛け、試験片11の一端をフレーム13に固定すると共に、試験片11の他端に2kgの荷重14を作用させ、一対の回転バー12a,12bを相対距離を一定に保ったまま、上下方向に30万回往復(ストローク:100mm、サイクル:100回/分)させることによって、回転バー12a,12bへの試験片11の巻き付け・巻き戻しを繰り返し、屈曲疲労させた。オートグラフ((株)島津製作所製「AGS−J10kN」)を用いて、屈曲後の試験片を引張速度50mm/分の条件で引張り、試験片の破断時の強力を測定した。一方、屈曲前の試験片の破断時の強力を予め測定しておき、下記式に基づいて強力保持率を算出した。
強力保持率(%)=(屈曲後の強力/屈曲前の強力)×100
【0116】
(5)処理液の安定性
処理液の安定性は不溶分の沈殿量により評価した。なお、72時間経過しても沈殿が生成しない場合を「○」と評価した。
【0117】
実施例1〜11及び比較例1〜8
(アラミド繊維コードの作製)
1670dtex(フィラメント数1000本)のアラミド繊維(帝人(株)製「テクノーラ」)からなる無撚りでリボン状に引き揃えたアラミド繊維フィラメントの束(アラミド繊維単糸という)1本を、下撚り数を3.7回/10cmで下撚り(Z撚り)し、この下撚り糸を2本束ね、上撚り数を13.1回/10cmで下撚りと同じ方向に上撚り(Z撚り)し、アラミド繊維コードを作製した。
【0118】
(第1処理液及び第2処理液の作製)
表3に示す組成のRFL液に、所定量の水溶性エポキシ化合物を混合し、室温で10分攪拌して、表4及び表5に示す組成の第1処理液及び第2処理液(RFL1〜16)を作製した。
【0119】
【表3】
【0120】
【表4】
【0121】
【表5】
【0122】
(アラミド繊維コードのRFL処理)
アラミド繊維コードを、第1処理液[実施例1〜12(RFL1〜7)、比較例1(ビスフェノールA型エポキシ樹脂)、比較例2(イソシアネート)、比較例3〜5(RFL13〜14)]に浸漬して、乾燥処理した。なお、浸漬は、アラミド繊維コードを第1処理液に3秒間通過させることによって行い、乾燥は230℃、1.5分間の条件で行った。なお、実施例2では、第1処理液の付着率[(処理後の質量−処理前の質量)/処理後の質量×100]が9質量%であった。
【0123】
第1処理液で処理したアラミド繊維コードを、第2処理液[実施例1〜12(RFL8〜12、15)、比較例1〜5(RFL8、10、16)]に浸漬して、乾燥処理した。なお、浸漬条件及び乾燥条件は、第1処理液の場合と同じである。
【0124】
(アラミド繊維コードのゴム糊処理)
第2処理液で処理したアラミド繊維コードをゴム糊に浸漬して、乾燥処理することによって、アラミド心線(RFL固形分付着量:10質量%)を得た。なお、ゴム糊としては、表6に示すEPDM配合ゴム組成物をトルエンに溶解し、ポリメリックイソシアネートを添加した溶液(表7に示す組成の溶液)を用いた。また、浸漬は、アラミド繊維コードをゴム糊に3秒間通過させることによって行い、乾燥は170℃、1.5分間の条件で行った。
【0125】
【表6】
【0126】
【表7】
【0127】
実施例1〜12及び比較例1〜5で得られたアラミド心線について、耐ホツレ試験、剥離試験(接着力試験)、屈曲疲労試験、処理液の安定性を評価した結果を表8〜10に示す。また、実施例1、実施例2及び比較例1で得られたアラミド心線のホツレ状態を
図5に示す。
【0128】
【表8】
【0129】
【表9】
【0130】
【表10】
【0131】
なお、表8〜10中、エポキシ化合物固形分濃度及び処理液濃度は、下記式に基づいて算出した。
【0132】
エポキシ化合物固形分濃度(質量%)=エポキシ化合物の量(質量部)/[エポキシ化合物の量(質量部)+RFL液の固形分量(質量部)]×100
処理液濃度(質量%)=[エポキシ化合物の量(質量部)+RFL液の固形分量(質量部)]/処理液量(質量部)×100
【0133】
表8〜10から明らかなように、比較例に比べ、実施例では、ホツレを防止できるとともに、強力保持率が高く耐屈曲疲労性に優れている。また、実施例では、ゴムに対する接着性にも優れている。