【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は、バッキングプレート上に、複数のターゲット部材を低融点ハンダにより接合して形成される分割スパッタリングターゲットにおいて、接合されたターゲット部材間に形成される間隙に沿って、バッキングプレートに保護体を設けたことを特徴とするものとした。本発明によれば、バッキングプレート上に接合されたターゲット部材間に形成される間隙には、バッキングプレート表面が露出することが無く、バッキングプレートの構成材料がスパッタリングされることを効果的に防止することが可能となる。
【0009】
本発明における保護体とは、バッキングプレート上に接合されたターゲット部材間に形成される間隙に露出するバッキングプレート表面を覆うものであって、成膜する薄膜に悪影響を与えるような物質を、スパッタリング時に間隙から発生させない作用を有するものをいう。このような保護体としては、バッキングプレート表面に、テープ状の保護部材を配置したり、保護体となる物質を塗布、めっき、スパッタリングなどにより設けたり、バッキングプレート自体の表面を酸化して酸化被膜を形成することで設けることができる。特に、本発明において、保護体はテープ状の保護部材を配置することが好ましい。
【0010】
このような保護体の材質としては、成膜する薄膜に混入しても悪影響を与えない物質、例えば、ターゲット部材の組成を構成する元素の全部或いはその一部、これらの元素を含む合金や酸化物などを用いることができる。
【0011】
また、別の材質としては、スパッタリング時に間隙内部でのスパッタリング現象を抑制できる物質、例えば、ターゲット部材よりもその体積抵抗が大きな物質を、即ち高抵抗物質を保護体として用いることができる。このような高抵抗物質を保護体として用いる場合、高抵抗物質の体積抵抗率(Ω・cm)がターゲット部材の体積抵抗率の10倍以上の値を有するものであることが好ましい。
【0012】
尚、上記した保護体の材質に関しては、その材質の化学組成が、バッキングプレートに接合するために用いる低融点ハンダの化学組成とは実質的に異なるものである。例えば、金属インジウムを低融点ハンダとして用いる場合、その際の保護体は金属インジウムではないことを意味する。また、ターゲット部材間の間隙に、低融点ハンダの金属インジウムが残存する場合があるが、この間隙に残存するインジウムが固化した際には、その表面が酸化することがある。このように接合に用いる低融点ハンダの金属インジウムが間隙において固化する場合、そのインジウム表面には均一な酸化膜を形成することが困難であるため、上記した本発明の保護体としての高抵抗物質と同様な効果を奏することはできない。
【0013】
本発明における分割スパッタリングターゲットは、板状、円筒状のものが対象となる。板状のスパッタリングターゲットは、板状バッキングプレート上に、方形面を有する板状のターゲット部材を複数平面配置して接合したものが対象となる。また、円筒状のスパッタリングターゲットは、円筒状バッキングプレートに、円筒状ターゲット部材(中空円柱)を複数貫通させて、円筒状バッキングプレートの円柱軸方向に多段状に配置して接合したもの、或いは、中空円柱を円柱軸方向に縦割りした湾曲状ターゲット部材を、円筒状バッキングプレートの外側面へ、円周方向に複数並べて、接合したものが対象となる。この板状または円筒状の分割スパッタリングターゲットは、大面積のスパッタリング装置に多用されている。尚、本発明は、板状、円筒状の形状を対象としているが、他の形状の分割スパッタリングターゲットへの適用を妨げるものではなく、ターゲット部材についてもその形状に制限はない。そして、ターゲット部材の組成についても、IGZOやZTOなどの酸化物半導体や透明電極(ITO)やAlなどの金属に適用でき、ターゲット部材の組成にも制限はない。
【0014】
本発明における保護体は、Zn、Ti、Snいずれかの金属箔、或いはZn、Ti、Snのいずれか一種以上を80質量%以上含む合金箔、もしくはセラミックシート或いは高分子シートであることが好ましい。このような金属箔やセラミックシートであれば、In系やSn系金属の低融点ハンダとの反応性が低く、酸化物半導体を成膜する場合では、成膜された酸化物半導体薄膜中へ微量に混入しても、Cuに比べ、TFT素子特性への影響を少なくすることができる。
【0015】
また、高分子シートは、高抵抗物質であるため、スパッタリング時に、ターゲット部材間の間隙におけるスパッタリング現象が抑制され、成膜する薄膜への悪影響を防止することができる。セラミックシートとしては、アルミナやシリカ系のシートを用いることができる。本発明における高分子シートの材質としては、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの合成樹脂材料や、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリスチレンなどの汎用プラスチック材料、ポリ酢酸ビニル、ABS樹脂、AS樹脂、アクリル樹脂などの準汎用プラスチック材料などが挙げられる。さらに、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリブチレンテレフタレートなどのエンジニアリングプラスチックやポリアリレート、ポリスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂などのスーパーエンジニアリングプラスチックも使用できる。特に、ポリイミド樹脂などはテープ状の材料もあり、耐熱性、絶縁性も高いため、本願発明に適したものである。
【0016】
金属箔またはセラミックシート、或いは高分子シートの厚みは0.0001mm〜1.0mmが好ましい。金属箔またはセラミックシートの幅はターゲット部材間に形成される間隙と同じ、またはそれ以上に広いことが好ましく、作業性などを考慮すると、5.0mm〜20mm幅にすることが好ましい。また、バッキングプレート上にZn、Ti、Snいずれかの金属箔や、Zn、Ti、Snのいずれか一種以上を80質量%以上含む合金箔、もしくはセラミックシート或いは高分子シートを配置する場合、低融点ハンダや導電性両面テープなどを用いて貼付することができる。
【0017】
本発明における保護体は、テープ状の第1保護部材とテープ状の第2保護部材とを積層した構造であることが好ましい。このようなテープ状の保護部材を積層した構造であると、本発明に係る分割スパッタリングターゲットを製造することが容易に行え、ターゲット部材やバッキングプレートの材質にあわせて第1保護部材と第2保護部材との材質を適宜選択して適用することができる。この第1保護部材と第2保護部材とのテープ幅は同等であっても、相違していてもよい。尚、この積層構造の保護体は、第1保護部材がターゲット部材側になり、第2保護部材がバッキングプレート側になる状態で、接合されたターゲット部材間に形成される間隙に沿って配置されることになる。
【0018】
本発明における保護体をテープ状の保護部材により設ける場合、狭幅の第1保護部材と広幅の第2保護部材とを積層し、第1保護部材の両端側に第2保護部材が露出した構造とすることができる。この構造では、広幅の第2保護部材の上に、狭幅の第1保護部材が積層した二層構造となる。ターゲット部材とバッキングプレートとの接合はInやSnなどの低融点ハンダにより行われるが、接合時の加熱処理により保護部材と低融点ハンダとが反応して合金化することが予想される。この接合のための低融点ハンダは繰り返し使用するため、使用頻度が高くなると、保護部材との合金化により、低融点ハンダの組成の変動が生じることになり、ターゲット部材とバッキングプレートとの接合が不十分になったり、接合強度や接合面積に悪影響を及ぼすことが考えられる。そこで、第2保護部材を低融点ハンダと反応しない材料を選択し、その上に低融点ハンダと反応しやすい材料による第1保護部材を設けることで、第1保護部材と低融点ハンダとの接触を抑制して、低融点ハンダの組成変動を防止することが可能となる。
【0019】
本発明において、テープ状の保護部材を積層して保護体を設ける場合、第1保護部材の厚みは0.0001mm〜0.3mmが好ましく、第2保護部材の厚みは0.1mm〜0.7mmが好ましい。第1保護部材と第2保護部材との合計厚みは、0.3mm〜1.0mmとすることが好ましい。また、同幅の第1保護部材と第2保護部材を積層する場合、保護部材の幅は5mm〜30mmにすることが好ましい。そして、狭幅の第1保護部材と広幅の第2保護部材とを積層する場合、第1保護部材の幅はターゲット部材間に形成される間隙と同じ、またはそれ以上に広いことが好ましく、作業性などを考慮すると、5mm〜20mmが好ましい。広幅の第2保護部材の幅は第1保護部材の幅よりも3mm〜10mm広くすることが好ましい。
【0020】
また、本発明における保護体は、第1保護部材と、第1保護部材の両端側に並列配置された第2保護部材とからなる三列構造にすることもできる。このように、第1保護部材の両側に第2保護部材を並列に配置すると、上記した狭幅と広幅の保護部材を積層した二層構造の保護体と同様の効果を奏するものとなる。尚、第1保護部材の両端側とは、テープ状の第1保護部材の長手方向に延びる両端辺のことをいう。この三列構造の保護体とする場合、第1保護部材及び第2保護部材の厚みは、0.0001mm〜1.0mmが好ましい。また、第1保護部材の幅はターゲット部材間に形成される間隙と同じ、またはそれ以上に広いことが好ましく、作業性などを考慮すると、5mm〜20mmが好ましく、第2保護部材の幅は3mm〜10mmが好ましい。
【0021】
本発明における保護体が上記した二層構造或いは三列構造とする場合、第2保護部材を、Cu、Al、Ti、Ni、Zn、Cr、Feのいずれかの単金属またはこれらのいずれかを含む合金からなる金属箔として、第1保護部材を、ターゲット部材に含まれる元素の一種以上を含む単金属または合金もしくはセラミック材料で形成することが好ましい。本発明におけるターゲット部材が酸化物半導体により構成されている場合、ターゲット部材を構成する酸化物半導体に含まれる元素の一種からなる単金属または合金もしくはセラミック材料で第1保護部材を形成することが好ましい。
【0022】
また、本発明における保護体が、上記した二層構造或いは三列構造とする場合、第1保護部材はIn、Zn、Al、Ga、Zr、Ti、Sn、Mgのいずれか一種以上を含む酸化物又は窒化物からなるセラミック材料により形成することが好ましい。これらセラミック材料であれば、ターゲット部材と同組成か、或いは一部の組成がターゲット部材と同じとなるので、成膜した際に膜中に混入したとしても、TFT素子特性への影響が小さいからである。また、ZrO
2、Al
2O
3、などのセラミック材料であれば、抵抗が高いため、スパッタリングの際に分割部分へのプラズマの進入が抑制され、ZrやAlのスパッタリングが効果的に防止できる。このセラミック材料としては、例えば、In
2O
3、ZnO、Al
2O
3、ZrO
2、TiO
2、IZO、IGZOなどや、ZrN、TiN、AlN、GaN、ZnN、InNなどが挙げられる。尚、これらセラミック材料は、金属のように箔としての加工が難しいため、蒸着法、スパッタリング法、プラズマ溶射法、塗布法などを利用して第1保護部材を形成することで本発明を適用できる。
【0023】
本発明におけるターゲット部材が酸化物半導体である場合、その酸化物半導体は、In、Zn、Gaのいずれか一種以上を含む酸化物からなるものを用いることができる。具体的には、IGZO(In−Ga−Zn−O)、GZO(Ga−Zn−O)、IZO(In−Zn−O)、ZnOが挙げられる。
【0024】
また、本発明におけるターゲット部材が酸化物半導体である場合、その酸化物半導体はSn、Ti、Ba、Ca、Zn、Mg、Ge、Y、La、Al、Si、Gaのいずれか一種以上を含む酸化物からなるものを用いることができる。具体的には、Sn−Ba−O、Sn−Zn−O、Sn−Ti−O、Sn−Ca−O、Sn−Mg−O、Zn−Mg−O、Zn−Ge−O、Zn−Ca−O、Zn−Sn−Ge−O、または、これらの酸化物のGeをMg、Y、La、Al、Si、Gaに変更した酸化物が挙げられる。
【0025】
そして、本発明におけるターゲット部材が酸化物半導体である場合、その酸化物半導体は、Cu、Al、Ga、Inのいずれか一種以上を含む酸化物からなるものを用いることができる。具体的にはCu
2O、CuAlO
2、CuGaO
2、CuInO
2が挙げられる。