特許第5711212号(P5711212)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5711212-チップヒューズ 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5711212
(24)【登録日】2015年3月13日
(45)【発行日】2015年4月30日
(54)【発明の名称】チップヒューズ
(51)【国際特許分類】
   H01H 85/06 20060101AFI20150409BHJP
   H01H 85/11 20060101ALI20150409BHJP
【FI】
   H01H85/06
   H01H85/11
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-504474(P2012-504474)
(86)(22)【出願日】2011年3月8日
(86)【国際出願番号】JP2011055370
(87)【国際公開番号】WO2011111700
(87)【国際公開日】20110915
【審査請求日】2013年10月28日
(31)【優先権主張番号】特願2010-51975(P2010-51975)
(32)【優先日】2010年3月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000242633
【氏名又は名称】北陸電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091443
【弁理士】
【氏名又は名称】西浦 ▲嗣▼晴
(74)【代理人】
【識別番号】100130720
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼見 良貴
(74)【代理人】
【識別番号】100173657
【弁理士】
【氏名又は名称】瀬沼 宗一郎
(72)【発明者】
【氏名】竹内 勝己
(72)【発明者】
【氏名】黒川 寛幸
【審査官】 佐藤 吉信
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−279883(JP,A)
【文献】 特開平07−122406(JP,A)
【文献】 特公昭55−005847(JP,B1)
【文献】 特開2006−164639(JP,A)
【文献】 特開2006−237008(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 37/76
H01H 69/02
H01H 85/00−85/62
H01H 87/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁基板と、
前記絶縁基板の基板表面の両端に形成された一対の表面電極と、
前記一対の表面電極間に跨るように前記基板表面上に形成されたNi−P−Feのメッキ層と、
前記Ni−P−Feのメッキ層の上に形成されたSnのメッキ層と、
前記Snのメッキ層の上に形成された絶縁樹脂材料からなるオーバーコート層とを備え
前記Ni−P−Feのメッキ層の膜厚が0.4〜0.8μmであり、前記Snのメッキ層の膜厚が1.0〜2.0μmであり、
前記Ni−P−Feのメッキ層の組成は、Fe:11〜13重量%、P:7〜13重量%、残部がNiであることを特徴とするチップヒューズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チップヒューズに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特公昭55−5847号公報(特許文献1)及び特開平7−122406号公報(特許文献2)には、絶縁基板上に無電解メッキによりNi−P−Fe膜を形成したチップ状ヒューズ抵抗器及び抵抗器の従来例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公昭55−5847号公報
【特許文献2】特開平7−122406号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
Ni−P−Fe膜の溶融温度は約800℃〜1000℃と非常に高温である。そのため、特許文献1に記載の回路保護素子において、小さい電流値ではNi−P−Fe膜(ヒューズ素子)が溶断しないことがあり、ヒューズの溶断条件の設定が難しい問題があった。また特許文献2に記載の回路保護素子では、Ni−P−Fe膜に微量のタングステンまたはモリブデンを添加することにより、メッキ皮膜の応力を高めて、メッキ皮膜にクラックが入りやすくなるようにしている。しかしながら、特許文献2の回路保護素子では、Ni−P−Fe膜(ヒューズ素子)に必要十分なクラックが入らない場合があり、Ni−P−Fe膜が確実に破断しないという問題点があった。
【0005】
本発明の目的は、Ni−P−Feのメッキ層を利用するチップヒューズにおいて、従来よりも確実に溶断するチップヒューズを提供することにある。
【0006】
本発明の他の目的は、Ni−P−Feのメッキ層を利用するチップヒューズにおいて、従来よりも小さい電流で溶断することが可能なヒューズ素子を使用したチップヒューズを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のチップヒューズは、絶縁基板と、絶縁基板の基板表面の両端に形成される一対の表面電極と、Ni−P−Feのメッキ層と、Snのメッキ層と、オーバーコート層とを備える。Ni−P−Feのメッキ層は、一対の表面電極間に跨るように基板表面上に無電解メッキ法により形成される。スズのメッキ層は、Ni−P−Feのメッキ層の上に電解メッキ法により形成される。本発明では、Ni−P−Feのメッキ層及びSnのメッキ層によりヒューズ素子が構成されている。Ni−P−Feのメッキ層は、単独で溶断させるには、かなり高い温度まで発熱させる必要がある。そこで本発明では、Ni−P−Feのメッキ層の上にSnのメッキを形成することにより、Ni−P−Feのメッキ層を利用するヒューズ素子の溶断温度を従来よりも低くする。溶断温度が低下する原理は、完全には解明されていないが、Ni−P−Feのメッキ層は、Snのメッキ層よりも抵抗値が高いため、Ni−P−Feのメッキ層の温度が高くなって、Ni−P−Feのメッキ層で発生した熱で最初にSnのメッキ層が溶融し、溶融したSnのメッキ層が、Ni−P−Feのメッキ層中のNi及びFeに触れることにより、特にFeとSnとが触れることにより融点が約500℃台の合金が形成される。そのため単独では1000℃以上でしか溶融しなかったNi−P−Feのメッキ層の溶断温度を低下させることができるようになったものと推測する。オーバーコート層は、エポキシ、シリコン等の絶縁樹脂材料により、Snのメッキ層を覆うように形成される。
【0008】
具体的には、Ni−P−Feのメッキ層の膜厚を0.4〜0.8μmとして、Snのメッキ層の膜厚を1.0〜5.0μmとし、Ni−P−Feのメッキ層を、Fe:11〜13重量%、P:7〜13重量%、残部をNiの組成とするのが好ましい。
【0009】
このように構成すると例えば、定格電流0.35A、内部最大抵抗650mΩ、定格電圧24VDC、遮断電流35Aとした長さ1.0mmで幅0.5mmの1005サイズのチップヒューズにおいて、溶断性能を定格電流の200%で、かつ5秒以内の溶断時間とすることができる。なお、本発明はのチップヒューズは、上述した規格に限定されるものではなく、例えば抵抗値範囲300〜1000mΩ、定格電流0.3〜0.5A、定格電圧24VCD、遮断電流35Aとすることができる。なお、チップヒューズのサイズは、長さ1.6mmで幅0.8mmの1608サイズとしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施の形態のチップヒューズの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。図1は本発明のチップヒューズの実施の形態の一例の断面図である。なお、理解を容易にするため、図1においては各部の厚み寸法を誇張して描いている。図1に示すように、このチップヒューズ20は、ほぼ矩形の絶縁基板1を有している。本実施の形態では、チップ状の絶縁基板1を、アルミナ基板(セラミック基板)により形成している。
【0012】
絶縁基板1の基板表面1aには、ガラスペーストにAgとPdの粉末を混練して形成したAg−Pd含有グレーズペーストを用いて、絶縁基板1の長手方向に沿う幅寸法がほぼ等しい一対の表面電極3,3が形成されている。この例では、Ag−Pd含有グレーズペーストを用いて、スクリ−ン印刷により厚みが約8μmの表面電極3,3を形成した。Ag−Pd含有グレーズペーストの焼成温度は、約850℃である。
【0013】
絶縁基板1の基板裏面1bには、Ag含有グレーズペーストを用いて、絶縁基板1の長手方向に沿う幅寸法がほぼ等しい一対の裏面電極5,5が形成されている。裏面電極5,5は、スクリーン印刷により形成されており、厚みは、表面電極と同じ約8μmである。Ag含有グレーズペーストの焼成温度は、約850℃である。
【0014】
側面電極7,7は、表面電極3,3の一部及び裏面電極5,5の一部を覆い且つ表面電極3,3と裏面電極5,5とに跨がって形成される。その結果、絶縁基板1の長手方向の両端面1cも側面電極7,7によって覆われている。側面電極7,7は、ニッケル−クロム合金を含有するニッケル−クロム合金薄膜と銅薄膜とを用いて形成されている。この薄膜はスパッタにより形成されている。但し、Agレジンペースト(約200℃焼成)で側面電極7,7を形成してもよい。
【0015】
側面電極7,7は、図1に示すように、表面電極3,3の一部及び裏面電極5,5の一部ともに、ニッケルメッキ層(内部メッキ)9に覆われている。そしてニッケルメッキ層9は、Snのメッキ層11(外部メッキ)により全体的に覆われている。
【0016】
基板表面1aには、Ni−P−Feからなるメッキ層15が形成されている。Ni−P−Feは高い結合性を有している。そのため、ヒューズ素子としてNi−P−Feを使用すると、対パルス性の高いチップヒューズを得ることができる。Ni−P−Feからなるメッキ層15は、無電解メッキ法により、0.4〜0.8μmの膜厚に形成される。本実施例においては、Ni−P−Feの組成は、Fe:11〜13重量%、P:7〜13重量%、残部がNiとなるようにしてある。なお、Ni−P−Feのメッキ層15の膜厚及び組成は、これらに限定されるものではないが、Feの組成比が高いと、抵抗値が大きくなると共にメッキ皮膜が酸化し易くなる。メッキ皮膜が酸化すると次工程でのマスキングの密着力の劣化、Sn着膜の不安定化、マスキング剥離不足等の問題を伴う。また、Feの組成比が低いと充分な溶断特性が得られなくなる。そのため、Feの組成比と抵抗値は、適正な範囲とする必要がある。Ni−P−Feからなるメッキ層15は、無電解メッキ法で形成された後、270℃〜310℃で熱処理される。
【0017】
Ni−P−Feのメッキ層15の上には、Snからなるメッキ層17が形成されている。Snのメッキ層17は、電解メッキ法により、1.0〜2.0μmの膜厚に形成される。なお、Snのメッキ層17を形成する前に、チップヒューズ20のユニットのエッジ部分にマスキングをしておくことが好ましい。マスキングにより、エッジ部分にSnが着膜することを防止することが可能となる。エッジ部分にSnが着膜すると、導体上にSnが付着することとなる。そのため、リフローをしたときに導体が切れてしまうことがおきる。マスキングをすることにより、これを防止することができる。
【0018】
本発明では、Ni−P−Feのメッキ層15と、Snのメッキ層17とによりヒューズ素子18が構成されている。表面電極3,3間に電圧が印加されると、Ni−P−Feのメッキ層15及びSnのメッキ層17の両方に電流が流れる。Ni−P−Feのメッキ層15は、単独で溶融させるには、1000℃にする必要がある。Ni−P−Feのメッキ層15は、Snのメッキ層17よりも抵抗値が高いため、Ni−P−Feのメッキ層15の温度が高くなり、Ni−P−Feのメッキ層15で発生した熱がSnのメッキ層17に伝達する。Snのメッキ層17は、約230℃程度で溶融するため、Ni−P−Feのメッキ層15から伝達された熱により溶融する。溶融したSnのメッキ層17が、Ni−P−Feのメッキ層15と接触すると、Ni及びFeが溶け出す。特にFeとSnとが混ざることにより融点が約500℃の合金が形成されるものと推測される。そのため本実施の形態においては、単独では1000℃でしか溶融しなかったNi−P−Feのメッキ層15は、約500℃で溶融する。従って本実施の形態のヒューズ素子18は、約500℃で溶断する。
【0019】
特に本実施の形態においては、Ni−P−Feのメッキ層15の膜厚を0.4〜0.8μmとし、Snのメッキ層17の膜厚を1.0〜5.0μmとしている。また、Ni−P−Feのメッキ層15の組成を、Fe:11〜13重量%、P:7〜13重量%、残部がNiとしている。そのため、本実施の形態のチップヒューズを、定格電流0.35A、内部最大抵抗650mΩ、定格電圧24VDC、遮断電流35A、長さ1.0mmで幅0.5mmの1005サイズとした場合には、溶断性能を定格電流の200%で、かつ5秒以内の溶断時間とすることができる。なお、本発明はのチップヒューズは、上述した規格に限定されるものではなく、例えば抵抗値範囲300〜1000mΩ、定格電流0.3〜0.5A、定格電圧24VDC、遮断電流35Aとすることができる。また、チップヒューズのサイズは、長さ1.6mmで幅0.8mmの1608サイズとしてもよい。
【0020】
電解メッキ法により形成したSnのメッキ層17の上には、オーバーコート層19が形成されている。本実施の形態においては、無電解メッキ法により形成したNi−P−Feのメッキ層15の熱処理温度よりも焼成温度が低い絶縁樹脂材料であるエポキシを用いて、オーバーコート層19を形成している。使用したエポキシの焼成温度は、約200℃である。オーバーコート層19もスクリーン印刷した後に、焼成を行って形成される。
【0021】
上記実施の形態のチップヒューズ20は次のような順番で製造すればよい。まず絶縁基板1の基板表面及び裏面の両端に一対の表面電極3,3及び一対の裏面電極5,5を形成する。次に側面電極7,7を形成する。次に、一対の表面電極3,3及び一対の表面電極3,3の間に位置する基板表面上に無電解メッキ法により形成されるメッキ層を着膜させるために、基板表面上の一対の表面電極の3,3間に、無電解着膜用下地を形成する。無電解着膜用下地は、無電解メッキを着膜するためのベースとして機能するものであり、スクリーン印刷と焼成により形成される。無電解着膜用下地の材質は任意であり、この例では導電物としてのPdを含有するグレーズペースト材料(キャタペースト)により形成している。Pdを含有するグレーズペースト材料からなる無電解着膜用下地の焼成温度は、約600℃である。無電解着膜用下地は、一対の表面電極3,3を形成した後に、表面電極3,3間に全面的に形成されている。なお、無電解着膜用下地は、本発明のチップヒューズの完成品においては、セラミック基板上に0.1μm以下のPdが微少量点在するのみであり、層を形成していない。
【0022】
次に、基板表面上の一対の表面電極3,3及びキャタペーストの上に、Ni−P−Feのメッキ層15を無電解メッキ法により形成する。次にNi−P−Feのメッキ層15を熱処理する。次にマスキングペーストを印刷して焼成する。次にNi−P−Feのメッキ層15上にSnのメッキ層17を電解メッキ法により形成する。その後、マスキングを除去する。そして、必要な抵抗値を得るために必要に応じてトリミングをする。なおトリミングは必ずしも必要なものではない。最後に、絶縁樹脂材料で、Snのメッキ層17を覆うオーバーコート層19を形成する。そしてオーバーコート層19を形成した後に、側面電極7,7と表面電極3,3と裏面電極5,5とに跨ってメッキ層9,11を形成する。
【0023】
本実施の形態においては、絶縁基板をセラミック基板から構成し、オーバーコート層をエポキシから形成し、アンダーコート層をPdを含むメタルグレーズペーストを使用しているが、本発明を適用する場合に使用する基板材料、オーバーコート材料及びアンダーコート層は、これらの材料に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明によれば、ヒューズ素子を従来よりも低い温度で確実に溶断することができる。
【符号の説明】
【0025】
1 絶縁基板
3 表面電極
5 裏面電極
7 側面電極
9 内部メッキ
11 外部メッキ
15 Ni−P−Feのメッキ層
17 Snのメッキ層
18 ヒューズ素子
19 オーバーコート層
20 チップヒューズ
図1