(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
ワイヤドラム式のウインドウレギュレータは、ドアパネルの内部に配置したワイヤドラムとワイヤガイドの間にワイヤを掛け渡し、ワイヤに取り付けたガラス支持部材(キャリア)により窓ガラスを支持した構造であり、駆動回転されるワイヤドラムによってワイヤを往復移動させ、窓ガラスを開閉するのが一般的である。
【0003】
このようなウインドウレギュレータでは、ワイヤの張力が十分でないと、昇降時に窓ガラスに上下方向のガタつき(ジャダー)が発生する。特に、ガラス支持部材をガイドするレールの無い、所謂レールレスタイプのものは、部材をドアパネル内へ組み付けながらレギュレータとして構成していくので、あらかじめワイヤに張力を加えた状態でドアパネルに組み込むことがむつかしい。これを解決するためにワイヤを一旦、軽く配索した後にワイヤの張力を調整する手法が採用される。
【0004】
ワイヤ経路にスプリングを配置しておき、ワイヤを軽く配索した後にスプリングの弾力を利用してワイヤの張力を調整する手段もその一つであり、従来、種々提案されている。例えば;
特許文献1には、両側のワイヤ(41,42)のワイヤエンド(52)をそれぞれスプリング(57)を介してハウジング(50)へスライド可能に装着しておき、前記両側のワイヤエンド間にストッパ手段(101)を介在させてコイルばねを両側へ圧縮することでワイヤを弛ませ、配索後にストッパ手段(101)を撤去してワイヤの弛みを取ると共にスプリングの弾力でワイヤに張力を付与する構成が記載されている。
特許文献2には、ワイヤ経路に中間ガイド体(41、42)をスプリング(43)が圧縮された状態で配置し、ワイヤ(w)にワイヤの軸線方向に張力を付与してワイヤ(w)の緩みや伸びを効率よく除去する構成が記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の技術はストッパ手段(101)によりスプリングの弾力を抑制し、これによりワイヤを軽く弛ませた状態で配索し、配索後にストッパ手段を除去してスプリングによりワイヤに張力を付与する技術であるが、弾力を解放されたスプリングによるワイヤ張力をさらに増強する手段は備えていない。
【0007】
特許文献2の技術は、ワイヤ経路に配置した中間ガイド体(41、42)をスプリング(43)で間隔が拡張される方向に付勢することにより、ワイヤ(w)の緩みや伸びを効率よく除去しようとするもので、ワイヤの張力はやはり弾力を解放されたスプリングによるもので、その張力を増強することはできない。
【0008】
この発明は、ワイヤドラム式のウインドウレギュレータに関し、車両組み立て工場において、ウインドウレギュレータへの配索が容易であると共に、配索後、キャリアに窓ガラスを固定する際に、窓ガラス固定の操作と同時に、すでに配索されているワイヤの張力を増強できるワイヤ張力増強手段を備えたウインドウレギュレータの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上方のワイヤガイドと下方のワイヤドラム間にワイヤを配索し、ワイヤに取り付けたキャリアに窓ガラスを支持させたウインドウレギュレータであって、
キャリアの窓ガラス固定装置にワイヤ張力増強手段を設ける。
【0010】
ワイヤ張力増強手段は、キャリアに設けた傾斜面に沿って移動可能な可動部材と可動部材を前記の傾斜面に沿って移動させる定着ボルトを備え、
可動部材は先端部にキャリアに係合されたワイヤエンドをワイヤの張力が増加する方向に変位させる駆動面を備えたものとする。
定着ボルトは、締めこむことによって前記の可動部材をキャリア側に引き寄せ、可動部材を前記の傾斜面に沿ってワイヤの配索方向と交差する方向に移動させる。
可動部材が移動されると、可動部材の駆動面によって前記のワイヤエンドが張力増加方向に変位される構成とする。
ワイヤエンドが張力増加方向に変位される構成は、ワイヤの端部に挿通したブッシュと、ブッシュとワイヤエンドの間に介在させたスプリングを介して行われる構成とすることがある。
【発明の効果】
【0011】
車両組み立て工場において、ドアパネルに対するウインドウレギュレータの取付けが一応終了し、このウインドウレギュレータのガラス保持部へ定着ボルトで窓ガラスを取り付けるとき、定着ボルトを締め付ける作業に伴って、ワイヤ張力が自動的に増強される。このため、窓ガラス取付け後にワイヤ張力を増強するための作業を行う必要がなく、ドアパネルに対するウインドウレギュレータ及び窓ガラスの取り付け作業の工程を少なくすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
〔1〕全体構成
ウインドウレギュレータ1(
図1、以下、レギュレータ1という)は、車両のドアパネル2(内パネル2aと外パネル2bからなり両パネル間に空間を有する)の内部に取付けられている。レギュレータ1は、ワイヤガイド3、ガラスを保持するキャリア4、ワイヤ5、ベースプレート6、ワイヤドラム7及び駆動装置8を備え、これらが製造工場で組まれ、アセンブリとして車両取付け工場に搬入される。
【0014】
ワイヤガイド3とベースプレート6は内パネル2aの定位置に取付けられる部材であり、ドアパネル2の内部で上下に間隔を取って配置されている。ベースプレート6には前記のワイヤドラム7及び駆動装置8が取り付けられ、また、キャリア4は窓ガラス固定装置9を有し、窓ガラス固定装置9はワイヤ張力増強手段10を有している。
【0015】
そして、ワイヤガイド3と前記のワイヤドラム7との間に、レールレス方式でワイヤ5が配索され、ワイヤ経路が構成される。
ワイヤ5はキャリア4からワイヤドラム7に至る部分ワイヤ5aとキャリア4からワイヤガイド3を巻回してワイヤドラム7にいたる部分ワイヤ5bとからなる。
ワイヤ5aの一端はキャリア4にワイヤエンド11で取り付けられ(
図1)、他端はワイヤドラム7に巻回の後、ワイヤドラム7に固定されている。また、ワイヤ5bの一端はキャリア4にワイヤエンド46で取り付けられ、他端はワイヤガイド3を転回してワイヤドラム7に巻回の後、ワイヤドラム7に固定されている。部分ワイヤ5aと部分ワイヤ5bのワイヤドラム7に対する巻回方向は相互に反対方向となっている。したがって、ワイヤドラム7が往復駆動されると部分ワイヤ5aと部分ワイヤ5bとは背反して往復移動する。
【0016】
なお、キャリア4は室外側にガラス保持部12a,12bを有し(
図3)、この部分に窓ガラス13がガラスチャンネル14a,14bを介して支持され、定着用ボルト15a、15bが前記のキャリア4側からガラスチャンネル14a,14bに螺合されて固定される。
ここで、部分ワイヤ5aがワイヤドラム7から引かれると、キャリア4は下降して窓が開くので、部分ワイヤ5aを下降ワイヤ5aとし、同様に部分ワイヤ5bが引かれるとキャリア4は上昇して窓が開くので、部分ワイヤ5bを上昇ワイヤ5bとする。
【0017】
〔2〕窓ガラス固定装置
窓ガラス固定装置9は、前記の定着用ボルト15a、15b、可動部材16、キャリア4の傾斜壁17、ガラス保持部12及び窓ガラス13の下辺に固定された前記のガラスチャンネル14a,14bとで構成され、キャリア4のガラス保持部12a,12bに支持された窓ガラス13のガラスチャンネル14a,14bに対して内側からキャリア4に貫通させた定着用ボルト15a,15bをねじ込むことにより、窓ガラス13をキャリア4に固定する。
このとき、一方の定着用ボルト15aは、可動部材16をキャリア4の傾斜壁17に内外方向で当接させ、可動部材16をワッシャのようにして締め付けを行う。
【0018】
〔2−1〕キャリアの構造
キャリア4は、POMなどの合成樹脂成形品であり(
図4)、前後方向の両側に前記定着用ボルト15a,15bが内外方向に貫通するボルト貫通孔18a,18bを有し、中央部に前記下降ワイヤ5aの係止部19aと上昇ワイヤ5bの係止部19bを有する(
図5)。係止部19aは、ここから下方へワイヤ通路20aが形成され、ワイヤ通路20aが係止部19aに開口する箇所は漏斗状の円錐凹部21とされている。また、係止部19aの上方には円筒空間22aが形成されている。係止部19bでは、上方へワイヤ通路20bが、また、下方へ円筒空間22bが形成されている。
【0019】
そして、係止部19aとボルト貫通孔18aとの間に前後方向で前方へ深くなる三角形空間23が形成され(
図4)、三角形の斜辺に相当する傾斜壁17の内側面がキャリア側の傾斜面(第2の傾斜面)24とされている。三角形空間23の前方壁25は、前記の係止部19aへ通じる挿通路26を有している。挿通路26は、この実施例において
図4のように、内側に開放されている。また、三角形空間23の上方壁27と下方壁28には初期位置ランス係合孔29(29a,29b)と終了位置ランス係合孔30(30a,30b)が、それぞれ対向して同じ位置に形成されている(
図5)。
【0020】
〔2−2〕可動部材の構造
可動部材16は、本体部31と駆動部32とからなる(
図6)。
本体部31は、外面側に前方へ厚くなる可動部材側の傾斜面(第1の傾斜面)33を備え、内面側は平坦な面であり、内外方向に貫通した長孔34を有する。
本体部31の上面と下面の前方寄りには対称位置に位置保持用ランス35a,35bが上方及び下方へ突出して形成されている。ランスは上下方向から押されると沈み、押圧から解放されると突出して元に戻る構成部分である。
【0021】
本体部31の前方には深溝36が前面から後方へ、また、内外方向に貫通して形成されている。深溝36の対向した内面にはガイド突条37が内外方向に形成されている。
駆動部32は、後部を前記の深溝36へ内外方向から挿通し、本体部31へ装着できる平坦な部材である(
図7,8)。この部分の上面と下面には前記のガイド突条37に対応したガイド溝38が形成されている。深溝36とこれに勘合する駆動部32の後部は寸法を合わせて、内外方向からぴったりと嵌合する寸法とされている。
駆動部32の前部は、駆動部32を本体部31へ装着したときに、本体部31の前面から前方へ突出する部分であり、前端部に前記の円錐凹部21とすくい上げ部39を有する。
【0022】
円錐凹部21は上方から下方へ漏斗状に形成され下端で前記のワイヤ通路20aに通じる部分である。
すくい上げ部39は、駆動部32の上面に前記円錐凹部21に一部が係るように引いた内外方向の線40(
図6)から前方部分を、前記の線40から前記前方部分の前端縁へ向けて低くした傾斜面を、平面視において内外の側面が前方へ向けてすぼまり、また、緩やかに尖った形状にし、前記円錐凹部21の下端から前端へ向けて幅広くなるすくい上げ切欠き41を設けた構造となっている。すくい上げ切欠き41は前端から円錐凹部21の下端へ向けて前記の様に幅が狭くなると共に、両側の壁にすくい上げ切欠き41の中央部へ向けて低くなるガイド傾斜面42を備えている。
【0023】
下降ワイヤ5aの上端(
図2)には、ブッシュ43とスプリング44が挿通されると共に先端に前記のワイヤエンド11が固定されている。ブッシュ43の下部は円錐に形成されている。下端は前記の様に、ワイヤドラム7に巻回の後ワイヤドラム7に固定されている。上昇ワイヤ5aはワイヤガイド3を巻回してキャリア4に固定される側である上端にスプリング45が挿通されると共に先端にワイヤエンド46が固定されている。
【0024】
〔2−3〕キャリアに対する可動部材の取り付け
可動部材16の本体部31に駆動部32を組み付ける。組み付け手順は、
図6〜
図8に示すように、この実施例においては、外側から駆動部32を本体部31の深溝36に嵌合し、一体化する。駆動部32はそのガイド溝38が本体部31のガイド突条37と係合するので、キャリア4を取扱い中に脱落してしまうことがない。
【0025】
完成した可動部材16は、その第1の傾斜面33を外側に向けてキャリア4の三角形空間23へ嵌め込み、位置保持用ランス35a,35bを初期位置ランス係合孔29a,29bへ係合させる。可動部材16の第1の傾斜面33はキャリア4の前記傾斜壁17における第2の傾斜面24に一部が当接される。キャリア4に組み付けられた可動部材16は前記位置保持用ランス35a,35bと初期位置ランス係合孔29a,29bとの係合により、一体に組み付けた状態となり、取り扱い中に分解してしまうなどのことがない。
このとき、可動部材16の駆動部32は、挿通路26に納まって、前部の下面、すなわち、すくい上げ部39の下面を前記係止部19aに載せている。そして、駆動部32の前端は円錐凹部21にかからない手前に位置している(
図9)。
この状態でキャリア4はワイヤガイド3、ワイヤ5、ベースプレート6などと合わせ、レギュレータアセンブリとして組立工場に出荷される。
【0026】
〔3〕ワイヤ張力の増強
車両組み立て工場では、前記のレギュレータアセンブリからレギュレータ1をドアパネルに取り付け、ワイヤ5の配索をし、レギュレータ1のキャリア4に窓ガラス13を取り付ける。
このとき、配索後、窓ガラス13を取り付ける前の状態では、キャリア4に対して下降ワイヤ5aの上端はブッシュ43が係止部19aの円錐凹部21に嵌り、その上面とワイヤエンド11との間にスプリング44が少し圧縮された状態で位置し、上昇ワイヤ5bの端部は、ワイヤエンド46と係止部19bとの間にスプリング45が少し圧縮された状態で位置している。配索されたワイヤ5は前記のスプリング44,45によりワイヤ5に弛みがない程度に張力が付与された状態である。このため、組み立て工場での配索は容易である。
【0027】
ついで、窓ガラス13下辺のガラスチャンネル14a,14bをキャリア4のガラス保持部12a,12bに支持させ、定着用ボルト15a,15bを内側から貫通させ、先端を前記のガラスチャンネル14a,14bにねじ込む。定着用ボルト15aは、可動部材16の長孔34を内外方向に貫通してガラスチャンネル14aにねじ込まれる。
定着ボルト15aをねじ込むにしたがって、可動部材16の第1の傾斜面33がキャリア4の傾斜壁17における第2の傾斜面24に当接し、ついで、締め付けの分力によって、可動部材16が前記第2の傾斜面24を前方へ滑る。このため、可動部材16のすくい上げ部39の先端はブッシュ43側へ移動し係止部19aの円錐凹部21まで突出する(
図10)。そして、ここに嵌合係止されていたブッシュ43を、そのすくい上げ切欠き41にはさみ込むようにして、さらに、上方へのガイド傾斜面42によって、上方へ持ち上げる(
図11)。その持ち上げ量は駆動部32の厚さ分であり、この実施例において約4mmである。これによって、スプリング44は圧縮され、ワイヤ張力が増強される。
【0028】
移動後の可動部材16は上下面の位置保持用ランス35a,35bがキャリア4側の初期位置ランス係合孔29を抜け出して終了位置ランス係合孔30に係合しており、その終了位置が維持される。
すなわち、窓ガラス固定装置9における、一方の定着用ボルト15a、可動部材16、キャリア4の傾斜壁17における第2の傾斜面24及びブッシュ43は、前記のようにして、キャリアに窓ガラスを定着する際、同時にワイヤ張力を増強するワイヤ張力増強手段を構成している。
【0029】
以上は実施例である。
実施例では、ワイヤ張力増強手段を定着用ボルト15a、可動部材16、キャリア4の傾斜壁17における第2の傾斜面24及びブッシュ43で構成しているが、この発明の技術思想において、ワイヤ張力増強手段は、キャリアに設けた傾斜面に沿って移動可能な可動部材と可動部材を前記の傾斜面に沿って移動させる定着ボルトを備え、可動部材16の先端部にキャリアに係合されたワイヤエンドをワイヤの張力が増加する方向に変位させる駆動面を備え、定着ボルトを締めこむことによって可動部材をキャリア側に引き寄せ、可動部材を前記の傾斜面に沿ってワイヤの配索方向と交差する方向に移動させ、そして、可動部材の駆動面によって前記のワイヤエンドを張力増加方向に変位させるものであればよい。
【0030】
したがって、次のような構成をとることもできる。
ブッシュ43を用いず、直接にワイヤエンド11を可動部材16で変位させる構成。
可動部材16の構造や具体的な形態は実施例に限定されない。
可動部材16は、本体部31と駆動部32とからなるものを説明したが、一体の構造であってもよい。この場合、駆動部32はブッシュ43に対して前後方向と内外方向を合わせた移動が可能な構成とする必要がある。
【0031】
駆動部32のすくい上げ部39は、ワイヤエンド11を変位させる部位なので、駆動部32の駆動面と言える。駆動面は可動部材16の駆動部32がワイヤ5aと交差する方向に移動したときワイヤエンド11を上方へ変位させることができる構造であればよい。
ブッシュ43を持ち上げる量は4mmに限らない。駆動部32の厚さ寸法を変えることで調整することができる。
【0032】
実施例は、下降ワイヤ5a側にワイヤ張力増強手段を配置したが、窓ガラス固定装置9の配置を前後逆にして上昇ワイヤ5bの側でも適用できる。また、キャリア4に設ける挿通路26(
図4)は、内側に開放された構造を示したが駆動部32が移動できる形状あれば良い。
可動部材16をキャリア4に対して初期位置や移動終了位置を定める位置保持ランスは位置保持用のボルトであってもよい。