(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記樹脂フィルムが、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエチレンナフタレートおよびポリフッ化ビニリデンから選ばれる少なくとも1種の樹脂から構成される、請求項1〜4のいずれかに記載の防水通音膜。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について図面を参照しながら説明する。
【0016】
[防水通音膜]
図1Aに、本発明の防水通音膜の一例を示す。
図1Aに示す防水通音膜1は、非多孔質の樹脂フィルム2と、樹脂フィルム2の主面上に形成された撥液層3とを備える。樹脂フィルム2には、厚さ方向に貫通する複数の貫通孔21が形成されている。撥液層3は、樹脂フィルム2の貫通孔21に対応する位置に開口31を有する。樹脂フィルム2は、貫通孔21以外に、その厚さ方向に通気可能となる経路を有さない非多孔質の樹脂フィルムであり、典型的には、当該貫通孔21を除いて無孔の(中実の)樹脂フィルムである。貫通孔21は、樹脂フィルム2の双方の主面に開口を有する。
【0017】
貫通孔21の形状は特に限定されない。貫通孔21の開口の形状は、例えば、円形であってもよいし、不定形であってもよい。貫通孔21は、例えば、直線状に樹脂フィルム2を貫通するストレート孔である。このとき、貫通孔21の径が、樹脂フィルム2の一方の主面から他方の主面に至るまでほぼ変化しないストレート孔であってもよい。ストレート孔である貫通孔21は、例えば、原フィルムである樹脂フィルムへのイオンビーム照射およびエッチングにより形成できる。イオンビーム照射およびエッチングでは、開口径および軸線の方向(貫通孔が延びる方向)が揃った多数の貫通孔21を樹脂フィルム2に形成できる。
【0018】
図1Aに示す例において貫通孔21が延びる方向は、樹脂フィルム2の主面に垂直な方向である。樹脂フィルム2の厚さ方向に貫通している限り、貫通孔21が延びる方向は、樹脂フィルム2の主面に垂直な方向から傾いていてもよい。
図1Bに示すように、樹脂フィルム2が当該フィルムの主面に垂直な方向に対して傾いた方向に延びる貫通孔21(21a〜21g)を有しており、当該傾いて延びる方向が異なる貫通孔21a〜21gが樹脂フィルム2に混在していてもよい。
図1Bに示す例では、貫通孔21が樹脂フィルム2の主面に垂直な方向に対して傾いて延びて(樹脂フィルム2を貫通して)おり、延びる方向が互いに異なる貫通孔21の組み合わせがある。このとき樹脂フィルム2には、延びる方向が同一の貫通孔21の組み合わせがあってもよい(
図1Bに示す例では、貫通孔21a,21dおよび21gの延びる方向が同一である)。このような防水通音膜1とすることにより、音響特性および耐水圧を従来よりも高いレベルで両立できる。樹脂フィルム2は、当該フィルムの主面に垂直な方向に延びる貫通孔21と、当該方向に対して傾いた方向に延びる貫通孔21との双方を有していてもよい。
【0019】
貫通孔21の径(開口径)は、4.0μm以上12.0μm以下である。外部からの水の浸入を防ぎながら、有効面積を減少させた場合においても当該膜を伝達される音の特性が確保された防水通音膜を得るためには、貫通孔21の径がこの範囲にあることが必要である。貫通孔21の径が4.0μm未満になると、防水通音膜の有効面積を減少させた場合に当該膜を伝達される音の特性が確保できない。一方、貫通孔21の径が12.0μmを超えると、外部からの水の浸入を防げない。貫通孔21の径は、4.5μm以上12.0μm以下が好ましく、5.0μm以上11.0μm以下がより好ましい。
【0020】
貫通孔21の径とは、貫通孔21の断面形状(例えば開口形状)を円とみなしたときの当該円の直径をいう。なお、樹脂フィルム2の主面に垂直な方向に対して傾いた方向に延びる貫通孔21では、その開口形状が典型的には楕円となる。しかし、この場合においても、樹脂フィルム2内の当該貫通孔21の断面形状(その延びる方向に垂直に切断した断面形状)は、樹脂フィルム2の主面に垂直な方向に延びる貫通孔21と同様に円とみなすことができ、この円の直径は、開口形状である楕円の最小径と等しい。このため、傾いた方向に延びる貫通孔21については、当該最小径を貫通孔の径とすることができる。貫通孔21の径は、樹脂フィルム2に存在する全ての貫通孔21において一致している必要はないが、樹脂フィルム2の有効部分では、実質的に同じ値とみなすことができる程度(例えば、標準偏差が平均値の10%以下)に貫通孔21の径が一致していることが好ましい。貫通孔21の径は、原フィルムをエッチングする時間および/またはエッチング処理液の濃度などにより、調整できる。
【0021】
防水通音膜1は、JIS L1096の規定に準拠して測定したフラジール数(以下、単に「フラジール数」)で示して、2.0cm
3/(cm
2・秒)以上50cm
3/(cm
2・秒)以下の通気度を、その厚さ方向に有する。撥液層3が当該通気度にほぼ影響を与えないことを考慮すると、樹脂フィルム2は、フラジール数で示して2.0cm
3/(cm
2・秒)以上50cm
3/(cm
2・秒)以下の通気度をその厚さ方向に有しうる。外部からの水の浸入を防ぎながら、有効面積を減少させた場合においても当該膜を伝達される音の特性が確保された防水通音膜を得るためには、樹脂フィルム2の貫通孔21の径が特定の範囲にあることと併せて、防水通音膜1の厚さ方向の通気度が上記範囲にあることが必要である。フラジール数で示した通気度が2.0cm
3/(cm
2・秒)未満になると、防水通音膜の有効面積を減少させた場合に当該膜を伝達される音の特性が確保できない。一方、当該通気度が50cm
3/(cm
2・秒)を超えると、防水通音膜の気孔率にもよるが、外部から水が浸入する危険性が増す。通気度は、フラジール数で示して、5.0cm
3/(cm
2・秒)以上50cm
3/(cm
2・秒)以下が好ましく、11cm
3/(cm
2・秒)以上50cm
3/(cm
2・秒)以下がより好ましい。
【0022】
樹脂フィルム2の気孔率は25%以上45%以下が好ましく、30%以上40%以下がより好ましい。貫通孔21の径と厚さ方向の通気度とを上述した範囲としながら、さらに気孔率をこの範囲とすることによって、外部からの水の浸入を防ぎながら、有効面積を減少させた場合においても当該膜を伝達される音の特性が確保された防水通音膜の提供がより確実となる。樹脂フィルム2は、厚さ方向に貫通する複数の貫通孔が形成された非多孔質フィルムであるため、その気孔率は、樹脂フィルム2の主面の面積に対する、当該主面に開口した貫通孔21の開口面積の合計の割合となる。
【0023】
樹脂フィルム2における貫通孔21の密度(孔密度)は、3×10
5個/cm
2以上4×10
6個/cm
2以下が好ましく、5×10
5個以上2×10
6個/cm
2以下がより好ましい。本発明の防水通音膜1は、例えば、同じ気孔率の防水通音膜とする場合においても、従来よりも貫通孔21の径を大きくし、孔密度を低くした防水通音膜である。孔密度は、樹脂フィルム2の全体にわたって一定である必要はないが、樹脂フィルム2の有効部分では、最大の孔密度が最小の孔密度の1.5倍以下となる程度に一定であることが好ましい。孔密度は、原フィルムにイオンビームを照射する際のイオン照射量により、調整できる。
【0024】
樹脂フィルム2の厚さは、例えば10μm以上100μm以下であり、15μm以上50μm以下が好ましい。
【0025】
樹脂フィルム2を構成する材料は、非多孔質の樹脂フィルムである原フィルムに貫通孔21を形成できる材料である限り限定されない。樹脂フィルム2は、例えば、アルカリ溶液、酸性溶液、または酸化剤、有機溶剤および界面活性剤から選ばれる少なくとも1種を添加したアルカリ溶液もしくは酸性溶液により分解する樹脂から構成される。この場合、イオンビーム照射およびエッチングによる原フィルムへの貫通孔21の形成がより容易となる。別の側面から見ると、樹脂フィルム2は、例えば、加水分解または酸化分解によるエッチング可能な樹脂から構成される。樹脂フィルム2は、アルカリ溶液または酸化剤溶液によってエッチング可能な樹脂から構成されうる。原フィルムには、市販のフィルムを使用することができる。
【0026】
樹脂フィルム2は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエチレンナフタレートおよびポリフッ化ビニリデンから選ばれる少なくとも1種の樹脂から構成される。
【0027】
貫通孔21を形成するためのエッチングでは、樹脂フィルム2を構成する材料に応じたエッチング処理液が選択される。エッチング処理液は、例えば、アルカリ溶液、酸性溶液、または酸化剤、有機溶剤および界面活性剤から選ばれる少なくとも1種を添加したアルカリ溶液もしくは酸性溶液である。エッチング処理液は、アルカリ溶液および酸化剤溶液でありうる。アルカリ溶液は、例えば、水酸化カリウムおよび/または水酸化ナトリウムを主成分として含む溶液であり、酸化剤をさらに含んでいてもよい。アルカリ溶液の使用によって、原フィルムを構成する樹脂は加水分解されうる。酸化剤溶液は、例えば、亜塩素酸、亜塩素酸塩、次亜塩素酸、次亜塩素酸塩、過酸化水素および過マンガン酸カリウムから選ばれる少なくとも1種を主成分として含む溶液である。酸化剤溶液の使用によって、原フィルムを構成する樹脂は酸化分解されうる。樹脂フィルム2および原フィルムを構成する樹脂とエッチング処理液との組み合わせの例は、PET、ポリカーボネートおよびポリエチレンナフタレートについてアルカリ溶液(例えば、水酸化ナトリウムを主成分とする溶液)であり、ポリイミドおよびポリフッ化ビニリデンについて酸化剤溶液(例えば、次亜塩素酸ナトリウムを主成分とする溶液)である。
【0028】
貫通孔21を有する樹脂フィルム2として、市販のフィルムを使用することができる。市販のフィルムは、例えば、オキシフェン社およびミリポア社から、メンブレンフィルタとして販売されている。
【0029】
防水通音膜1は、2層以上の樹脂フィルム2を有していてもよい。このような防水通音膜1は、例えば、2層以上の原フィルムを有する積層体にイオンビーム照射およびエッチングして形成できる。
【0030】
撥液層3は、撥水性を有する層であり、撥油性を併せて有することが好ましい。また、撥液層3は、樹脂フィルム2の貫通孔21と対応する位置に開口31を有する。
【0031】
撥液層3は、樹脂フィルム2の主面上に形成されている。撥液層3は、樹脂フィルム2の少なくとも一方の主面上に形成されていればよい。
【0032】
このような撥液層3は、例えば、撥水剤または疎水性の撥油剤を希釈剤で希釈して調製した処理液を、樹脂フィルム2上に薄く塗布して乾燥させることにより形成できる。撥水剤および疎水性の撥油剤は、例えば、パーフルオロアルキルアクリレート、パーフルオロアルキルメタクリレートである。撥液層3の厚さは、貫通孔21の径の1/2未満が好ましい。
【0033】
樹脂フィルム2上に処理液を薄く塗布して撥液層3を形成する場合、貫通孔21の径にもよるが、貫通孔21の内周面も、撥液層3と連続する撥液層で被覆することが可能である(
図1A,1B,2に示す例では、このようになっている)。この場合、貫通孔21の径は、本来の径よりも撥液層の厚さに応じて小さくなる。
【0034】
防水通音膜1は、本発明の効果が得られる限り、樹脂フィルム2および撥液層3以外の任意の部材を備えていてもよい。当該部材は、例えば、
図2に示す通気性支持層4である。
図2に示す防水通音膜1は、
図1Aに示す防水通音膜1の樹脂フィルム2における一方の主面に、通気性支持層4が配置されている。通気性支持層4の配置により、防水通音膜1としての強度が向上し、また、取扱性も向上する。
【0035】
通気性支持層4は、樹脂フィルム2に比べて厚さ方向の通気度が高い層である。通気性支持層4には、例えば、織布、不織布、ネット、メッシュを用いることができる。通気性支持層4を構成する材料は、例えば、ポリエステル、ポリエチレン、アラミド樹脂である。通気性支持層4は、
図2に示すように、撥液層3が形成されている樹脂フィルム2の主面に、撥液層3を介して配置されていてもよい。通気性支持層4の形状は、樹脂フィルム2の形状と同一であってもよいし、異なっていてもよい。例えば、樹脂フィルム2の周縁部のみに配置される形状を有する(具体的に、樹脂フィルムが円形である場合には、その周縁部のみに配置されるリング状の)通気性支持層4でありうる。通気性支持層4は、例えば、樹脂フィルム2との熱溶着、接着剤による接着などの手法により配置される。
【0036】
通気性支持層4は、樹脂フィルム2の一方の主面に配置されていても、双方の主面に配置されていてもよい。
【0037】
防水通音膜1は、例えば、電子機器の筐体の開口を塞ぐように配置されて、当該開口から筐体の内部に水が浸入することを防ぐとともに、筐体の外部と内部との間で音を伝達する。より具体的な例として、防水通音膜1は、電子機器がスピーカーなどの発音部および/またはマイクロフォンなどの受音部といった音響部を有しており、当該音響部に音を伝達できる開口(開口部)が筐体に設けられている場合に、当該開口を塞ぐように配置されて、当該開口から電子機器の内部に水が浸入することを防ぐとともに、電子機器の外部と音響部との間で音を伝達する膜である。
【0038】
防水通音膜1では、その有効面積を減少させた場合においても、当該膜を伝達される音の特性が確保される。例えば、防水通音膜1の有効面積は4.9mm
2以下であってもよく、この場合においても、当該膜を伝達される音の特性が確保される。この有利な特徴は、例えば、防水通音膜1を備える電子機器の小型化、薄型化ならびにデザインおよび設計の自由度の向上に寄与する。防水通音膜1の有効面積とは、筐体の開口を塞ぐように当該膜が配置された際に、実際に音が当該膜に入力し、当該膜を伝わって当該膜から音が出力される部分(有効部分)の面積であり、例えば、防水通音膜1を配置するために当該膜の周縁部に配置、形成された支持体や接着部などの面積分を含まない。有効面積は、典型的には、当該膜が配置された開口の面積、あるいは、防水通音膜の周縁部に支持体が配置された防水通音部材では、当該支持体の開口部の面積でありうる。
【0039】
具体的に、防水通音膜1は、その有効面積が4.9mm
2のとき(例えば、直径2.5mmの円形であるとき)に、100Hz以上3kHz以下の音域における音圧損失が1dB以下でありうる。100Hz以上3kHz以下の音域は、人間が通常の発声、会話に使用している音域であるとともに、音楽などの再生時にも、最も敏感に感じとることができる音域に相当する。この音域における音圧損失が小さいことは、防水通音膜1を備える電子機器の市場における訴求力を向上させる。
【0040】
有効面積が小さくなればなるほど、防水通音膜を伝達する音の特性が低下し、より具体的には、例えば音圧損失が上昇する。しかし、防水通音膜1は、有効面積が0.8mm
2(例えば、直径1mmの円形であるとき)またはそれ未満のときに、100Hz以上3kHz以下の音域における音圧損失が10dB以下を確保しうる。
【0041】
もちろん、防水通音膜1の有効面積が小さい場合だけではなく大きい場合においても、外部からの水の浸入を防ぎながら当該膜を伝達される音の特性を確保できるが、防水通音膜の有効面積が小さい場合、または小さくせざるを得ない場合に、本発明の防水通音膜1は特に有利となる。
【0042】
防水通音膜1は、JIS L1092の耐水度試験B法(高水圧法)の規定に準拠して測定した耐水圧が5kPa以上であることが好ましく、10kPa以上であることがより好ましい。耐水圧10kPaは水深1mにおける水圧に耐えられることを意味しており、この場合、JIS C0920に定められた「水に対する保護等級7(IPX7)」に相当する耐水性が確保される。IPX7相当の電子機器は、誤って水中に落とされた場合にも、所定の水深および時間内であれば、機器内部への浸水を避けることができる。耐水圧が5kPa程度であると、JIS C0920に定められた「水に対する保護等級4(IPX4)」に相当する防水性が確保されることが経験的にわかっている。IPX4も、近年、電子機器において求められる防水性の1つである。防水通音膜1の上記耐水圧が5kPa以上または10kPa以上の場合、IPX4またはIPX7相当の防水性と、優れた音響特性とを両立させることができ、例えば、音響部の開口のスペースの制約が少なく、小型化および/または薄型化が可能など、デザインおよび設計の自由度が高い電子機器が得られる。
【0043】
防水通音膜1の面密度は、当該膜の強度、取扱性および音響特性の観点から、5〜100g/m
2が好ましく、10〜50g/m
2がより好ましい。なお、特許文献1に開示されているような、延伸により生じた無数の細孔の分散構造を有する延伸多孔質膜では、音響特性を確保する観点から、防水通音膜としての面密度を小さくする必要がある。反面、面密度が小さい膜は、強度、ならびに生産歩留まりおよび取付精度を含む取扱性が低下するため、この点からも防水通音膜1は有利である。
【0044】
防水通音膜1の厚さは、例えば、10〜100μmであり、15〜50μmが好ましい。
【0045】
防水通音膜1には、着色処理が施されていてもよい。樹脂フィルム2を構成する材料の種類によるが、着色処理を施していない防水通音膜1の色は、例えば、透明または白色である。このような防水通音膜1が電子機器の筐体の開口を塞ぐように配置された場合、当該膜1が目立つことがある。目立つ膜は、電子機器のユーザーの好奇心を刺激し、針などによる突き刺しによって防水通音膜としての機能が損なわれることがある。防水通音膜1に着色処理が施されていると、例えば、筐体の色と同色または近似の色を有する膜1とすることにより、相対的にユーザーの注目を抑えることができる。また、電子機器などの筐体のデザイン上、着色された防水通音膜が求められることがあり、着色処理により、このようなデザインの要求に応えることができる。
【0046】
着色処理は、例えば、樹脂フィルム2を染色処理したり、樹脂フィルム2に着色剤を含ませたりすることで実施できる。着色処理は、例えば、波長380nm以上500nm以下の波長域に含まれる光が吸収されるように実施してもよい。すなわち、防水通音膜1は、波長380nm以上500nm以下の波長域に含まれる光を吸収する着色処理が施されていてもよい。そのためには、例えば、樹脂フィルム2が、波長380nm以上500nm以下の波長域に含まれる光を吸収する能力を有する着色剤を含む、あるいは波長380nm以上500nm以下の波長域に含まれる光を吸収する能力を有する染料によって染色されている。この場合、防水通音膜1を、青色、灰色、茶色、桃色、緑色、黄色などに着色できる。防水通音膜1は、黒色、灰色、茶色または桃色に着色処理されていてもよい。
【0047】
防水通音膜1は様々な用途、例えば、防水通音部材、電子機器、電子機器用ケース、防水通音構造に使用できる。
【0048】
[防水通音部材]
本発明の防水通音部材の一例を、
図3に示す。
図3に示す防水通音部材5は、膜の主面に垂直な方向から見た形状が円形である防水通音膜1と、当該膜1の周縁部に接合されたリング状のシートである支持体51とを備える。防水通音膜1に支持体51が接合された形態により、防水通音膜1が補強されるとともに、その取扱性が向上する。また、支持体51が、筐体の開口など、防水通音部材5が配置される部分への取り付けしろとなるため、防水通音膜1の取り付け作業が容易となる。
【0049】
支持体51の形状は限定されない。例えば、
図4に示すように、膜の主面に垂直な方向から見た形状が矩形である防水通音膜1の周縁部に接合された、額縁状のシートである支持体51であってもよい。
図3,4に示すように、支持体51の形状を防水通音膜1の周縁部の形状とすることによって、支持体51の配置による防水通音膜1の音響特性の低下が抑制される。また、シート状の支持体51が、防水通音部材5の取扱性および筐体への配置性の観点から、特に筐体内への配置性が向上する観点から、好ましい。
【0050】
支持体51を構成する材料は、例えば、樹脂、金属およびこれらの複合材料である。樹脂は、例えばポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン;PET、ポリカーボネートなどのポリエステル;ポリイミドあるいはこれらの複合材である。金属は、例えばステンレスやアルミニウムのような耐蝕性に優れる金属である。
【0051】
支持体51の厚さは、例えば5〜500μmであり、25〜200μmが好ましい。また、取り付けしろとしての機能に着目すると、リング幅(額縁幅:外形と内径との差)は0.5〜2mm程度が適当である。支持体51には、上記樹脂からなる発泡体を使用してもよい。
【0052】
防水通音膜1と支持体51との接合方法は特に限定されず、例えば、加熱溶着、超音波溶着、接着剤による接着、両面テープによる接着などの方法を採用できる。
【0053】
防水通音部材5は、2層以上の防水通音膜1および/または2層以上の支持体51を備えていてもよい。
【0054】
防水通音部材5は、従来の防水通音部材と同様の用途に使用することができる。
【0055】
[電子機器]
本発明の電子機器の一例を
図5Aに示す。
図5Aに示す電子機器は、携帯電話の一種であるスマートフォンである。スマートフォン6の筐体61は、発音部および受音部の一種であるトランスデューサーに近接して設けられた開口62aと、受音部の一種であるマイクに近接して設けられた開口62bと、発音部の一種であるスピーカーに近接して設けられた開口62cとを有する。各開口62a〜62cを介して、スマートフォン6の外部と、筐体61内に収容された各音響部(トランスデューサー、マイクおよびスピーカー)との間で音が伝達される。
図5Bに示すように、スマートフォン6では、これらの開口62a〜62cを塞ぐように、防水通音膜1が内側から筐体61に取り付けられている。これにより、スマートフォン6の外部と音響部との間で音を伝達できるとともに、外部から開口を介して筐体61内に水が浸入することを防ぐことができる。また、防水通音膜1により、有効面積が小さい場合においても当該膜を伝達される音の特性を確保できるため、スマートフォン6の小型化、薄型化ならびに設計およびデザインの自由度の向上を達成できる。
【0056】
本発明の電子機器6において防水通音膜1を配置する場所および方法は、防水通音膜1によって当該機器6の筐体61に設けられた開口(開口部)が塞がれる限り、限定されない。
図5Bに示す例では、防水通音膜1は、支持体51を介して(すなわち、防水通音部材として)筐体61に接合されている。電子機器6内への防水通音膜1の配置には、両面テープを用いた貼付、熱溶着、高周波溶着、超音波溶着などの手法を採用できる。
【0057】
筐体61は、樹脂、金属、ガラスおよびこれらの複合材料により構成される。スマートフォンおよびタブレットコンピューターのように、電子機器6の表示部が筐体61の一部を構成していてもよい。
【0058】
本発明の電子機器は、スマートフォン6に限られない。音響部を備え、外部と音響部との間で音を伝達する開口が筐体に設けられ、当該開口を介した水の内部への浸入を防ぐことが必要であり、防水通音膜1を当該開口を塞ぐように配置できる全ての種類の電子機器がこれに該当する。本発明の電子機器は、例えば、フィーチャーフォンおよびスマートフォンなどの携帯電話、タブレットコンピューター、ウェアラブルコンピューター、PDA、ゲーム機器、ノート型コンピューターなどのモバイルコンピューター、電子手帳、デジタルカメラ、ビデオカメラ、電子ブックリーダーである。
【0059】
[電子機器用ケース]
本発明の電子機器用ケースの一例を
図6Aに示す。
図6Aに示すケース7には、当該ケース7に収容する電子機器の音響部とケース7の外部との間で音を伝達する開口71a〜71cが設けられている。
図6Aに示すケース7は、
図5Aに示すスマートフォン6とは異なるタイプのスマートフォンのケースであり、開口71aはスマートフォンの受話部に音を伝達するために、開口71bはスマートフォンの送話部に音を伝達するために、開口71cはスマートフォンのスピーカーから音を外部に伝達するために、それぞれ設けられている。
図6Bに示すように、ケース7は、さらに、開口71a(71b、71c)を塞ぐように配置された防水通音膜1を備えている。この防水通音膜1により、ケース7の内部72に収容した電子機器の音響部と外部との間で音が伝達されるとともに、外部から開口71a(71b、71c)を介したケース7の内部72、ひいては電子機器内への水の浸入を防ぐことができる。また、防水通音膜1により、有効面積が小さい場合においても当該膜を伝達される音の特性を確保できるため、小型化および/または薄型化が達成された設計およびデザインの自由度が高い電子機器に対応した電子機器用ケース7とすることができる。また、開口71a(71b、71c)の面積が小さい電子機器用ケース7とすることができ、ケース7自体の小型化、薄型化ならびに設計およびデザインの自由度の向上を達成できる。
【0060】
本発明の電子機器用ケース7において防水通音膜1を配置する方法は、当該膜1によって開口(開口部)71a(71b、71c)が塞がれる限り、限定されない。
図6Bに示す例では、防水通音膜1は、支持体51を介して(すなわち、防水通音部材として)ケース7に、その内部72から接合されている。ケース7への防水通音膜1の配置には、両面テープを用いた貼付、熱溶着、高周波溶着、超音波溶着などの手法を採用できる。ケース7の外部から防水通音膜1を配置することも可能である。
【0061】
電子機器用ケース7は、樹脂、金属、ガラスおよびこれらの複合材料により構成される。電子機器用ケース7は、本発明の効果が得られる限り、任意の構成を有することができる。例えば、
図6Aに示すケース7は、スマートフォン用のケースであり、内部に収容するスマートフォンのタッチパネルを外部から操作できるフィルム73を備える。
【0062】
[防水通音構造]
本発明の防水通音構造の一例を
図7に示す。
図7に示す防水通音構造8は、内部83と外部との間で音を伝達する開口82が設けられた筐体81と、開口(開口部)82を塞ぐように配置された防水通音膜1とを備える。この防水通音膜1により、筐体81の外部と内部83との間で音が伝達されるとともに、外部から開口82を介した筐体81内への水の浸入を防ぐことができる。また、防水通音膜1により、有効面積が小さい場合においても当該膜を伝達される音の特性を確保できるため、防水通音構造8自体の小型化を達成できる。
【0063】
このような防水通音構造8は、様々な用途に応用可能である。特に、防水通音構造に使用できるスペースに制約がある用途、あるいは外部からの水の浸入を防ぎながらも伝達される音の特性の確保が望まれる用途への使用が効果的である。
【0064】
図7に示す例では、支持体51を介して防水通音膜1が筐体81に接合されている。換言すれば、防水通音膜1と支持体51とを備える防水通音部材5が筐体81に接合されている。また、
図7に示す例では、筐体81の内部83から防水通音膜1が筐体81に接合されているが、筐体81の外部から接合されていてもよい。
【0065】
筐体81は、樹脂、金属、ガラスおよびこれらの複合材料により構成される。
【0066】
防水通音膜1の配置には、両面テープを用いた貼付、熱溶着、高周波溶着、超音波溶着などの手法を採用できる。支持体51が両面テープであってもよい。
【0067】
防水通音構造8を有する部品、装置、機器、製品などは限定されない。
【0068】
防水通音構造12は、従来の防水通音構造と同様、様々な用途に適用可能である。
【実施例】
【0069】
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0070】
最初に、実施例および比較例で作製した樹脂フィルムおよび防水通音膜の評価方法を説明する。
【0071】
[貫通孔の径]
樹脂フィルムの双方の主面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察し、得られたSEM像から任意に選択した10の貫通孔の径(開口径)を各々当該像から求め、その平均値を樹脂フィルムの貫通孔の径とした。
【0072】
[平均孔径]
比較例4,5の防水通音膜に用いた延伸多孔質膜の平均孔径は、JIS K3832の規定に準拠して求めた。
【0073】
[通気度]
防水通音膜の厚さ方向の通気度は、JIS L1096の規定(通気性測定A法:フラジール形法)に準拠して求めた。
【0074】
[耐水圧]
防水通音膜の耐水圧は、JIS L1092の耐水度試験B法(高水圧法)の規定に準拠して求めた。ただし、この規定に示された試験片の面積では膜が著しく変形するため、ステンレスメッシュ(開口径2mm)を膜の加圧面の反対側に設置し、当該膜の変形をある程度抑制した状態で測定した。
【0075】
[面密度]
防水通音膜の面密度は、当該膜をポンチで直径20mmの円形に打ち抜いた後、打ち抜かれた膜の質量を測定し、これを1m
2あたりの質量に換算して求めた。
【0076】
[気孔率]
樹脂フィルムおよび比較例4,5の延伸多孔質膜の気孔率は、求めた面密度に防水通音膜の厚さを乗じて当該膜の見かけ密度を求め、この見かけ密度と材料密度とから、以下の式(1)に基づいて求めた。なお、実施例および比較例で作製した防水通音膜は通気性支持層を有さず、単層の樹脂フィルムまたは延伸多孔質膜と、撥液層とから構成される。
気孔率={1−(見かけ密度/材料密度)}×100(%) (1)
材料密度は、PETが1.4g/cm
3、PTFEが2.2g/cm
3とした。
【0077】
[孔密度]
樹脂フィルムの孔密度は、樹脂フィルムの双方の主面をSEMにより観察し、得られたSEM像にある貫通孔の数を目視にて数え、これを単位面積あたりの値に変換して求めた。
【0078】
[撥油性]
防水通音膜の撥油性は、以下のように評価した。防水通音膜とコピー用紙(普通紙)とを、防水通音膜が上、コピー用紙が下になるように重ねて置き、スポイトを用いて防水通音膜にひまし油を1滴垂らした後、1分間放置した。その後、防水通音膜を取り除いてコピー用紙の状態を確認し、コピー用紙がひまし油で濡れている場合を防水通音膜の撥油性なし、濡れていない場合を撥油性有りとした。
【0079】
[音響特性]
作製した防水通音膜の音響特性(音圧損失)は、以下のように評価した。
【0080】
最初に、
図8Aに示すように、携帯電話の筐体を模した模擬筐体91(ポリスチレン製、外形60mm×50mm×28mm)を準備した。模擬筐体91には、スピーカーから出力した音を筐体の外部へと伝える開口となるスピーカー取付穴92(径が2.5mmの円形)と、スピーカーケーブルの導通孔93とが各々1箇所設けられている以外は開口がない。次に、径が5mmの円形である通音孔が形成されたウレタンスポンジ製の充填材94にスピーカー95(スター精密製、SCG-16A)を埋め込んで、筐体91の内部に収容した。スピーカー95のスピーカーケーブル96は導通孔93から筐体91の外部に導き出し、その後、導通孔93はパテで塞いだ。
【0081】
次に、ポリエチレン系の発泡体からなる両面テープ97(日東電工製、No.57120B、厚さ0.2mm)、PETフィルム98(厚さ0.1mm)およびPETからなる両面テープ99(日東電工製、No.5603、厚さ0.03mm)を準備し、それぞれ、内径2.5mmおよび外径5.8mmのリング状と、内径1.0mmおよび外径5.8mmのリング状との2種類のリングに打ち抜き加工した。これとは別に、各実施例および比較例で作製した防水通音膜100を直径5.8mmの円形に打ち抜いた。次に、内径2.5mmのリング状の両面テープ97、円形の防水通音膜100、内径2.5mmのリング状の両面テープ99、および内径2.5mmのリング状のPETフィルム98を、この順に、外形を揃えて積層し、音響特性評価用の防水通音部材A(防水通音膜の有効面積が4.9mm
2)を作製した。これとは別に、内径1.0mmのリング状の両面テープ97、円形の防水通音膜100、内径1.0mmのリング状の両面テープ99、および内径1.0mmのリング状のPETフィルム98を、この順に、外形を揃えて積層し、音響特性評価用の防水通音部材B(防水通音膜の有効面積が0.8mm
2)を作製した。
【0082】
次に、作製した防水通音部材を、当該部材が備えるポリエチレン系発泡体の両面テープ97を用いて、模擬筐体91の外側に、開口92を防水通音膜100が完全に覆うように取り付けた。その際、防水通音膜100と両面テープ97との間、および両面テープ97と模擬筐体91との間に隙間ができないようにした。
【0083】
次に、スピーカーケーブル96とマイク(Knowles Acoustic製、Spm0405Hd4H-W8)とを音響評価装置(B&K製、Multi-analyzer System 3560-B-030)に接続し、模擬筐体91のスピーカー95から21mm離れた位置にマイクを配置した。次に、評価方式としてSSR分析(試験信号20Hz〜10kHz、sweep)を選択、実行し、防水通音膜100の音響特性(THD、音圧損失)を評価した。音圧損失は、音響評価装置からスピーカー95に入力した信号と、マイクロフォンを介して検出された信号とから、自動的に求められる。これとは別に、防水通音膜を配置しない状態で、同様にしてブランクの音圧損失を求めておき、防水通音膜を配置した際の音圧損失からブランクの音圧損失を引いたものを、当該防水通音膜の特性である音圧損失(挿入損失)とした。挿入損失が小さいほど、防水通音膜を伝達される音の特性が確保されていると判断できる。これを、実施例および比較例で作製した防水通音膜について、当該膜の有効面積が異なる防水通音部材A,Bのそれぞれについて実施した。
【0084】
(実施例1)
厚さ方向に貫通する複数の貫通孔が形成された非多孔質の市販のPETフィルム(it4ip製、Track etched membrane)を準備した。当該フィルムの膜厚は20μm、貫通孔の径は3.0μm、貫通孔の密度(孔密度)は1.6×10
6個/cm
2であった。
【0085】
次に、準備した当該フィルムを、温度を80℃に保持した水酸化カリウム(濃度5重量%)/エタノール(濃度20重量%)水溶液に70分間浸漬することで貫通孔の径を拡張した後、当該水溶液から取り出して水洗し、乾燥させた。この段階で、フィルムの膜厚は18μm、貫通孔の径は5.0μmであった(孔密度は変化なし)。
【0086】
次に、乾燥後のフィルムを黒色染料を用いて染色し、黒色フィルムとした。次に、作製した黒色フィルムを撥液処理液中に3秒間浸漬した後、処理液から引き上げて常温で30分間放置して乾燥させ、樹脂フィルムの表面に撥液層を形成して防水通音膜を得た。撥液処理液は、撥液剤(信越化学製、X−70−029C)を濃度0.7重量%となるように希釈剤(信越化学製、FSシンナー)で希釈して調製した。
【0087】
このようにして得た防水通音膜における樹脂フィルムの貫通孔の径は5.0μm、気孔率は31.4%、孔密度は1.6×10
6個/cm
2、防水通音膜の面密度は17.1g/m
2、通気度は6.1cm
3/(cm
2・秒)、耐水圧は22kPa、厚さは18μm、撥油性は「有り」であった。
【0088】
(実施例2)
黒色染料の代わりに桃色染料を用いることで樹脂フィルムを桃色に着色した以外は、実施例1と同様にして、防水通音膜を得た。
【0089】
このようにして得た防水通音膜における樹脂フィルムの貫通孔の径は5.0μm、気孔率は31.4%、孔密度は1.6×10
6個/cm
2、防水通音膜の面密度は17.1g/m
2、通気度は6.1cm
3/(cm
2・秒)、耐水圧は22kPa、厚さは18μm、撥油性は「有り」であった。
【0090】
(実施例3)
厚さ方向に貫通する複数の貫通孔が形成された非多孔質の市販のPETフィルム(it4ip製、Track etched membrane)を準備した。当該フィルムの膜厚は20μm、貫通孔の径は3.0μm、貫通孔の密度(孔密度)は1.0×10
6個/cm
2であった。なお、実施例3で用いたフィルムは、貫通孔が当該フィルムの主面に垂直な方向に対して傾いた方向に延び、当該傾いて延びる方向が異なる貫通孔が混在したフィルムであった。他の実施例および比較例1〜3で使用したフィルムは、貫通孔が当該フィルムの主面に垂直な方向に延びるフィルムであった。
【0091】
次に、準備した当該フィルムを、温度を80℃に保持した水酸化カリウム(濃度5重量%)/エタノール(濃度20重量%)水溶液に150分間浸漬することで貫通孔の径を拡張した後、当該水溶液から取り出して水洗し、乾燥させた。この段階で、フィルムの膜厚は16μm、貫通孔の径は7.0μmであった(孔密度は変化なし)。
【0092】
次に、乾燥後のフィルムを黒色染料を用いて染色し、黒色フィルムとした。次に、作製した黒色フィルムを撥液処理液中に3秒間浸漬した後、処理液から引き上げて常温で30分間放置して乾燥させ、樹脂フィルムの表面に撥液層を形成して防水通音膜を得た。撥液処理液は、撥液剤(信越化学製、X−70−029C)を濃度0.8重量%となるように希釈剤(信越化学製、FSシンナー)で希釈して調製した。
【0093】
このようにして得た防水通音膜における樹脂フィルムの貫通孔の径は7.0μm、気孔率は38.5%、孔密度は1.0×10
6個/cm
2、防水通音膜の面密度は13.6g/m
2、通気度は15cm
3/(cm
2・秒)、耐水圧は15kPa、厚さは16μm、撥油性は「有り」であった。
【0094】
(実施例4)
厚さ方向に貫通する複数の貫通孔が形成された非多孔質の市販のPETフィルム(it4ip製、Track etched membrane)を準備した。当該フィルムの膜厚は41μm、貫通孔の径は10.0μm、貫通孔の密度(孔密度)は5.0×10
5個/cm
2であった。
【0095】
次に、準備したフィルムを黒色染料を用いて染色し、黒色フィルムとした。次に、作製した黒色フィルムを撥液処理液中に3秒間浸漬した後、処理液から引き上げて常温で30分間放置して乾燥させ、樹脂フィルムの表面に撥液層を形成して防水通音膜を得た。撥液処理液は、撥液剤(信越化学製、X−70−029C)を濃度1.0重量%となるように希釈剤(信越化学製、FSシンナー)で希釈して調製した。
【0096】
このようにして得た防水通音膜における樹脂フィルムの貫通孔の径は10.0μm、気孔率は39.3%、孔密度は5.0×10
5個/cm
2、防水通音膜の面密度は37.2g/m
2、通気度は12cm
3/(cm
2・秒)、耐水圧は12kPa、厚さは41μm、撥油性は「有り」であった。
【0097】
(比較例1)
厚さ方向に貫通する複数の貫通孔が形成された非多孔質の市販のPETフィルム(オキシフェン製、Oxydisk)を準備した。当該フィルムの膜厚は25μm、貫通孔の径は1.0μm、貫通孔の密度(孔密度)は3.5×10
7個/cm
2であった。
【0098】
次に、準備したフィルムを撥液処理液中に3秒間浸漬した後、処理液から引き上げて常温で1時間放置して乾燥させ、樹脂フィルムの表面に撥液層を形成して防水通音膜を得た。撥液処理液は、撥液剤(信越化学製、X−70−029C)を濃度2.5重量%となるように希釈剤(信越化学製、FSシンナー)で希釈して調製した。
【0099】
このようにして得た防水通音膜における樹脂フィルムの貫通孔の径は1.0μm、気孔率は27.0%、孔密度は3.5×10
7個/cm
2、防水通音膜の面密度は26.0g/m
2、通気度は0.4cm
3/(cm
2・秒)、耐水圧は105kPa、厚さは25μm、撥油性は「有り」であった。
【0100】
(比較例2)
厚さ方向に貫通する複数の貫通孔が形成された非多孔質の市販のPETフィルム(it4ip製、Track etched membrane)を準備した。当該フィルムの膜厚は20μm、貫通孔の径は2.8μm、貫通孔の密度(孔密度)は4.9×10
6個/cm
2であった。
【0101】
次に、準備したフィルムを撥液処理液中に3秒間浸漬した後、処理液から引き上げて常温で1時間放置して乾燥させ、樹脂フィルムの表面に撥液層を形成して防水通音膜を得た。撥液処理液は、撥液剤(信越化学製、X−70−029C)を濃度2.5重量%となるように希釈剤(信越化学製、FSシンナー)で希釈して調製した。
【0102】
このようにして得た防水通音膜における樹脂フィルムの貫通孔の径は2.8μm、気孔率は30.0%、孔密度は4.9×10
6個/cm
2、防水通音膜の面密度は19.3g/m
2、通気度は1.8cm
3/(cm
2・秒)、耐水圧は35kPa、厚さは20μm、撥油性は「有り」であった。
【0103】
(比較例3)
厚さ方向に貫通する複数の貫通孔が形成された非多孔質の市販のPETフィルム(it4ip製、Track etched membrane)を準備した。当該フィルムの膜厚は41μm、貫通孔の径は10.0μm、貫通孔の密度(孔密度)は2.2×10
5個/cm
2であった。
【0104】
次に、準備した当該フィルムを、温度を80℃に保持した水酸化カリウム(濃度5重量%)/エタノール(濃度20重量%)水溶液に180分間浸漬することで貫通孔の径を拡張した後、当該水溶液から取り出して水洗し、乾燥させた。この段階で、フィルムの膜厚は35μm、貫通孔の径は15.0μmであった(孔密度は変化なし)。
【0105】
次に、乾燥後のフィルムを黒色染料を用いて染色し、黒色フィルムとした。次に、作製した黒色フィルムを撥液処理液中に3秒間浸漬した後、処理液から引き上げて常温で30分間放置して乾燥させ、樹脂フィルムの表面に撥液層を形成して防水通音膜を得た。撥液処理液は、撥液剤(信越化学製、X−70−029C)を濃度1.2重量%となるように希釈剤(信越化学製、FSシンナー)で希釈して調製した。
【0106】
このようにして得た防水通音膜における樹脂フィルムの貫通孔の径は15.0μm、気孔率は35.3%、孔密度は2.2×10
5個/cm
2、防水通音膜の面密度は31.3g/m
2、通気度は30cm
3/(cm
2・秒)、耐水圧は3kPa、厚さは35μm、撥油性は「有り」であった。
【0107】
(比較例4)
比較例4では、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の延伸多孔質膜(日東電工製、NTF1033)を、そのまま防水通音膜とした。この防水通音膜の平均孔径は3.0μm、気孔率は85.0%、面密度は4.0g/m
2、通気度は6.0cm
3/(cm
2・秒)、耐水圧は8kPa、厚さは20μm、撥油性は「なし」であった。
【0108】
(比較例5)
比較例5では、PTFEの延伸多孔質膜から構成される防水通音膜を作製した。
【0109】
最初に、PTFEファインパウダー(ダイキン工業製、F−104)100重量部と、成形助剤であるn−ドデカン(ジャパンエナジー製)20重量部とを均一に混合し、得られた混合物をシリンダーで圧縮した後にラム押出しして、シート状とした。次に、得られたシート状の混合物を一対の金属ロールを通して厚さ0.16mmに圧延した後、150℃で加熱することにより成形助剤を乾燥、除去して、PTFEのシート成形体を得た。
【0110】
次に、得られたシート成形体を、その長手方向(圧延方向)に延伸温度260℃、延伸倍率10倍で延伸し、PTFE多孔質膜を得た。次に、得られたPTFE多孔質膜を、黒色染料(オリエント化学工業製、SP BLACK 91-Lエタノール希釈溶液25重量%)20重量部と、染料の溶剤であるエタノール(純度95%)80重量部とを混合した染色液に数秒間浸漬した後、100℃に加熱することにより溶剤を乾燥、除去して、黒色に着色した。
【0111】
次に、作製した黒色の多孔質膜を撥液処理液中に数秒間浸漬した後、処理液から引き上げて100℃で加熱することにより溶剤を乾燥、除去して、撥液処理した。撥液処理液は、以下のように調製した。最初に、以下の式(2)に示す、直鎖状フルオロアルキル基含有化合物100gと、重合開始剤であるアゾビスイソブチロニトリル0.1gと、溶媒(信越化学製、FSシンナー)300gとを、窒素導入管、温度計および攪拌機を備えるフラスコに投入した。次に、フラスコ内に窒素ガスを導入して70℃で撹拌しながら16時間、上記化合物の付加重合を進行させて、上記化合物の重合体(フッ素含有重合体、数平均分子量100000)80gを得た。次に、得られた重合体を、当該重合体の濃度が3.0重量%となるように希釈剤(信越化学製、FSシンナー)で希釈して、撥液処理液を得た。
CH
2=CHCOOCH
2CH
2C
6F
13 (2)
【0112】
次に、撥液処理されたPTFE多孔質膜を、延伸温度150℃、延伸倍率10倍で幅方向に延伸し、さらに全体をPTFEの融点(327℃)を超える温度である360℃で焼成して、PTFEの延伸樹脂多孔質膜である防水通音膜を得た。
【0113】
このようにして得た防水通音膜の平均孔径は0.5μm、面密度は5g/m
2、気孔率は88.0%、通気度は3.2cm
3/(cm
2・秒)、耐水圧は80kPa、厚さは15μm、撥油性は「有り」であった。
【0114】
各実施例および比較例で作製した防水通音膜の特性を、以下の表1にまとめる。また、各実施例および比較例で作製した防水通音膜の音響特性(音圧損失)を、
図9A〜
図10Cに示すとともに、周波数1KHzの音に対する音圧損失、周波数3kHzの音に対する音圧損失および100Hz以上3kHz以下の音域における音圧損失の最大値を、以下の表2に示す。ただし、表1における比較例4,5の「貫通孔の径」の欄について、比較例4,5で作製した防水通音膜は延伸多孔質膜により構成されるため、その平均孔径(μm)を示す。また、比較例4,5の孔密度は評価できないため、「−(未測定)」で示す。また、
図9A〜
図9Cは、防水通音膜の有効面積が4.9mm
2のとき(防水通音部材Aとしたとき)の結果であり、
図9Aは実施例および比較例の双方を、
図9Bは実施例のみを、
図9Cは比較例のみを、それぞれ示す。
図10A〜
図10Cは、防水通音膜の有効面積が0.8mm
2のとき(防水通音部材Bとしたとき)の結果であり、
図10Aは実施例および比較例の双方を、
図10Bは実施例のみを、
図10Cは比較例のみを、それぞれ示す。
【0115】
【表1】
【0116】
【表2】
【0117】
表1,2および
図9A〜
図10Cに示すように、実施例1〜4の防水通音膜では、貫通孔の径が4.0μm未満であり、通気度が2.0cm
3/(cm
2・秒)未満である比較例1,2の防水通音膜に比べて、著しく音圧損失が改善した。特に、有効面積が4.9mm
2のときに、100Hz〜3kHzの音域において音圧損失がほぼゼロ、かつフラット(最大0.3dB)となった。これと同時に、実施例1〜4の防水通音膜では10kPa以上の耐水圧(IPX7相当)を確保できた。一方、貫通孔の径が12.0μmを超える比較例3では、耐水圧が3kPaと小さかった。また、延伸多孔質膜から構成される比較例4,5の防水通音膜は、比較例4について音響特性および耐水圧が実施例1〜4の防水通音膜よりも劣り、比較例5について、耐水圧は大きいものの、音響特性が実施例1〜4の防水通音膜よりも劣っていた。