(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について詳述する。但し、本発明の範囲が以下の実施形態に限定されるものではない。
【0016】
<本銅粉の特徴>
本実施形態に係る銅粉(「本銅粉」と称する)は、デンドライト状銅粉粒子(「本銅粉粒子」と称する)を含有する銅粉である。
【0017】
本銅粉において「デンドライト状銅粉粒子」とは、電子顕微鏡(500〜20、000倍)で観察した際に、
図1に示されるように、一本の主軸を備えており、該主軸から複数の枝が垂直若しくは斜めに分岐して、二次元的或いは三次元的に成長した形状を呈する銅粉粒子である。この際、主軸とは、複数の枝がそこから分岐している基となる棒状部分を示す。
【0018】
中でも、本銅粉粒子を電子顕微鏡(500〜20,000倍)で観察した際、次のような所定の特徴を有するデンドライト状を呈するのが特に好ましい。
【0019】
・主軸の太さaは0.3μm〜5.0μmであることが好ましく、中でも0.4μm以上或いは4.5μm以下、その中でも特に0.5μm以上或いは4.0μm以下であるのがさらに好ましい。デンドライトにおける主軸の太さaが0.3μm以下では、主軸がしっかりとしていないために枝が成長し難くなる可能性がある一方、5.0μmよりも太くなると、粒子が凝集し易くなり、松ぼっくり状になりやすくなる可能性がある。
【0020】
・主軸から伸びた枝の中で最も長い枝の長さb(「枝長b」と称する)は、デンドライトの成長度合いを示しており、0.8μm〜12.0μmであることが好ましいこの。中でも1.0μm以上或いは10.0μm以下、その中でも1.2μm以上或いは8.0μm以下であるのがさらに好ましい。枝長bが0.8μm未満では、デンドライトが十分に成長しているとは言えない。一方、枝長bが12.0μmを超えると、銅粉の流動性が低下して取り扱いが難しくなる可能性がある。
【0021】
・主軸の長径Lに対する枝の本数(枝本数/長径L)は、デンドライトの枝の多さを示しており、0.5本/μm〜4.0本/μmであるのが好ましく、中でも0.6本/μm以上或いは3.5本/μm以下、その中でも特に0.8本/μm以上或いは3.0本/μm以下であるのがさらに好ましい。枝本数/長径Lが0.5本/μm以上であれば、枝の数は十分に多く、接点を十分に確保できる一方、枝本数/長径Lが4.0本/μm以下であれば、枝の数が多過ぎて銅粉の流動性が劣るようになることを防ぐことができる。
【0022】
但し、電子顕微鏡(500〜20,000倍)で観察した際、多くが上記の如きデンドライト状粒子で占められていれば、それ以外の形状の粒子が混じっていても、上記の如きデンドライト状粒子のみからなる銅粉と同様の効果を得ることができる。よって、かかる観点から、本銅粉は、電子顕微鏡(500〜20,000倍)で観察した際、デンドライト状の銅粉粒子が全銅粉粒子のうちの80個数%以上、好ましくは90個数%以上を占めていれば、デンドライト状とは認められない非デンドライト状の銅粉粒子が含まれていてもよい。
【0023】
上記のように、銅粉粒子のデンドライト形状を発達させるためには、後述する電解装置を使用して所定の電解条件下で、電解液に塩素を添加して電解を行うことが好ましい。
【0024】
(含有塩素濃度)
本銅粉は、銅粉中に含まれる塩素の濃度、すなわち含有塩素濃度が5wtppm〜250wtppmであるのが好ましく、中でも10wtppm以上或いは220wtppm以下、その中でも20wtppm以上或いは200wtppm以下、その中でも特に30wtppm以上或いは180wtppm以下であるのがさらに好ましい。
本銅粉の含有塩素濃度が250wtppm以下であれば、残留塩素による悪影響を効果的に抑制することができるため、例えば銅粉粒子に銀を被覆する際に均一な厚さに被覆させることができる。なお、本銅粉の含有塩素濃度は5wtppm未満でも構わないが、5wtppm程度が含有塩素濃度の検出限界である。
【0025】
本銅粉の含有塩素濃度を5wtppm〜250wtppmとするには、電解して得られた直後の銅粉を、pH8以上のアルカリ溶液と接触させるアルカリ処理を行うのが好ましい。すなわち、上記のようなデンドライト状銅粉粒子を含有する銅粉を製造するためには、塩素を添加した電解液を用いて電解を行うのが好ましい。しかし、その場合、単に純水で洗浄しただけでは、粒子内部に塩素が残留してしまうため、残留塩素による悪影響を効果的に抑制することができない。そこで、前述のようにアルカリ処理することによって、粒子内部、少なくとも悪影響を及ぼす表面近傍内部の塩素までも除去することによって、本銅粉の含有塩素濃度を5wtppm〜250wtppmとすることで、残留塩素による悪影響を効果的に抑制することができ、例えば銅粉粒子に銀を被覆する際に均一な厚さに被覆させることができる。
ちなみに、pH8以上のアルカリ溶液によりアルカリ処理の代わりに、純水を用いて洗浄した結果、銅粉中の含有塩素濃度を5wtppm〜250wtppmとすることはできないことが確認されている。
【0026】
(粉体pH)
本銅粉の粉体pH(JIS K 5101-17-2に準拠して測定)は5〜9であるのが好ましく、中でも5.5以上或いは8以下、その中でも6以上或いは7.5以下であるのがさらに好ましい。
本銅粉の粉体pHが5〜9であると、銅粉表面の酸化および腐食による経時劣化を効果的に抑制することができる。
【0027】
本銅粉の粉体pHを5〜9に調整する方法としては、例えば、電解して得られた直後の銅粉を、上記のようにアルカリ処理する方法を挙げることができる。
【0028】
(D50)
本銅粉のD50、すなわちレーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定される体積累積粒径D50は、3μm〜30μmであるのが好ましく、中でも5μm以上或いは25μm以下、その中でも7μm以上或いは20μm以下、その中でも特に15μm以下であるのがより一層好ましい。D50が3μm以上であれば粘度調整が容易であり、他方、30μm以下であれば様々な導電性ペーストに適用可能となり、好ましい。
【0029】
(比表面積)
本銅粉のBET一点法で測定される比表面積は0.30〜1.50m
2/gであるのが好ましい。0.30m
2/gより著しく小さいと、枝が発達しておらず、松ぼっくり〜球状に近づくため、デンドライト状銅粉が奏する効果を得られ難くなる。他方、1.50m
2/gよりも著しく大きくなると、デンドライトの枝が細くなりすぎて、ペースト加工工程で枝が折れるなどの不具合が発生して、かえって導電性を阻害する可能性がある。
よって、本銅粉のBET一点法で測定される比表面積は0.30〜1.50m
2/gであるのが好しく、中でも0.40m
2/g以上或いは1.40m
2/g以下、その中でも特に1.00m
2/g以下であるのがさらに好ましい。
【0030】
(酸素濃度)
本銅粉の酸素濃度は0.20質量%以下であるのが好ましい。
本銅粉の酸素濃度が0.20質量%以下であれば、導電性をさらに良好にすることができる。かかる観点から、本銅粉の酸素濃度は0.18質量%以下であるのがさらに好ましく、中でも0.15質量%以下であるのが特に好ましい。
本銅粉粒子の酸素濃度を0.20質量%以下とするためには、乾燥雰囲気の酸素濃度や乾燥温度を制御したり、或いは、上記のようにアルカリ処理したりする方法を挙げることができる。但し、この方法に限定するものではない。
【0031】
<本銅粉の製造方法>
本銅粉は、所定の電解法によって製造することができる。
電解法としては、例えば、銅イオンを含む硫酸酸性の電解液に陽極と陰極を浸漬し、これに直流電流を流して電気分解を行い、陰極表面に粉末状に銅を析出させ、機械的又は電気的方法により掻き落として回収し、洗浄し、乾燥し、必要に応じて篩別工程などを経て電解銅粉を製造する方法を例示できる。
【0032】
電解に際しては、電解液に塩素を添加して、電解液の塩素濃度を3〜300mg/L、中でも5〜200mg/Lに調整するのが好ましい。
【0033】
また、電解法で銅粉を製造する場合、銅の析出に伴って電解液中の銅イオンが消費されるため、電極板付近の電解液の銅イオン濃度は薄くなり、そのままでは電解効率が低下してしまう。そのため、通常は電解効率を高めるために、電解槽内の電解液の循環を行って電極間の電解液の銅イオン濃度が薄くならないようにするのが好ましい。
しかし、各銅粉粒子のデンドライトを発達させるためには、言い換えれば主軸から伸びる枝の成長を促すためには、電極付近の電解液の銅イオン濃度が低い方が好ましいことが分かってきた。そこで、本銅粉の製造においては、電解槽の大きさ、電極枚数、電極間距離及び電解液の循環量を調整し、電極付近の電解液の銅イオン濃度を低く調整する。この際、少なくとも電解槽の底部の電解液の銅イオン濃度よりも、電極間の電解液の銅イオン濃度が常に薄くなるように調整するのが好ましい。
【0034】
デンドライト状銅粉粒子の粒子径を調整するには、上記条件の範囲内で技術常識に基づいて適宜条件を設定すればよい。例えば、大きな粒径のデンドライト状銅粉粒子を得ようとするならば、銅濃度は上記好ましい範囲内で比較的高い濃度に設定するのが好ましく、電流密度は、上記好ましい範囲内で比較的低い密度に設定するのが好ましく、電解時間は、上記好ましい範囲内で比較的長い時間に設定するのが好ましい。小さな粒径のデンドライト状銅粉粒子を得ようとするならば、前記の逆の考え方で各条件を設定するのが好ましい。一例としては銅濃度を1g/L〜10g/Lとし、電流密度を100A/m
2〜3000A/m
2とし、電解時間を3分〜3時間とすればよい。
【0035】
このように電解した後、電解析出した銅粉を、必要に応じて水で洗浄した後、水と混合してスラリーとするか、或いは、銅粉ケーキとした後、pH8以上のアルカリ溶液を混合して、必要に応じて撹拌して、銅粉とアルカリ溶液とを接触させるアルカリ処理を行い、水などで洗浄することにより、銅粉の含有塩素濃度を低減させるのが好ましい。
アルカリ処理においては、電解銅粉析出後のスラリー又は銅粉ケーキのpHを8以上、中でも9以上或いは12以下、その中でも10以上或いは11以下となるように調整するのが好ましい。
また、このようなアルカリ処理に用いるアルカリ剤としては、例えば炭酸アンモニウム溶液、苛性ソーダ溶液、重炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水などを挙げることができる。
【0036】
また、電解銅粉粒子の表面は、必要に応じて、有機物を用いて耐酸化処理を施し、銅粉粒子表面に有機物層を形成するようにしてもよい。必ずしも有機物層を形成する必要はないが、銅粉粒子表面の酸化による経時変化を考慮すると形成した方がより好ましい。
この耐酸化処理に用いる有機物は、特にその種類を限定するものではなく、例えば膠、ゼラチン、有機脂肪酸、カップリング剤等を挙げることができる。
耐酸化処理の方法、すなわち有機物層の形成方法は、乾式法でも湿式法でもよい。乾式法であれば、有機物と銅粉粒子をV型混合器等で混合する方法、湿式法であれば水−銅粉粒子スラリーに有機物を添加し表面に吸着させる方法等を挙げることができる。但し、これらに限ったものではない。
例えば、電解銅粉析出後にアルカリ処理した後、銅粉ケーキ及び所望の有機物を含んだ水溶液と、有機溶媒とを混合して、銅粉表面に有機物を付着させる方法は好ましい一例である。
【0037】
<用途>
本銅粉は導電特性に優れているため、本銅粉を用いて導電性ペーストや導電性接着剤などの導電性樹脂組成物、さらには導電性塗料など、各種導電性材料の主要構成材料として好適に用いることができる。
また、本銅粉に他の銅粉を混合して、導電性ペーストや導電性接着剤などの導電性樹脂組成物など、各種導電性材料の主要構成材料として用いることもできる。
【0038】
例えば導電性ペーストを作製するには、本銅粉をバインダ及び溶剤、さらに必要に応じて硬化剤やカップリング剤、腐食抑制剤などと混合して導電性ペーストを作製することができる。
この際、バインダとしては、液状のエポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等を挙げることができるが、これらに限定するものではない。
溶剤としては、テルピネオール、エチルカルビトール、カルビトールアセテート、ブチルセロソルブ等が挙げることができる。
硬化剤としては、2−エチル−4−メチルイミダゾールなどを挙げることができる。
腐食抑制剤としては、ベンゾチアゾール、ベンゾイミダゾール等を挙げることができる。
【0039】
導電性ペーストは、これを用いて基板上に回路パターンを形成して各種電気回路を形成することができる。例えば焼成済み基板或いは未焼成基板に塗布又は印刷し、加熱し、必要に応じて加圧して焼き付けることでプリント配線板や各種電子部品の電気回路や外部電極などを形成することができる。
特に本銅粉の銅粉粒子はデンドライトが特に発達しており、粒子同士の接点の数が多くなり、導電性粉末の含有量を少なくしても優れた導電特性を得ることができるため、例えば半導体デバイスを製造する際に配線接続孔内などを埋め込む用途に用いる導電性ペースト材料として好適である。
【0040】
半導体デバイスを製造する際、素子間を接続する配線溝(トレンチ)や、多層配線間を電気的に接続する配線接続孔(ビアホール或いはコンタクトホール)が多数設けられる。これら配線溝や配線接続孔内に埋め込む導電性材料として、従来、アルミニウムが使用されてきたが、半導体デバイスの高集積化、微細化に伴い、これまでのアルミニウムに代わり、電気抵抗率が低く、エレクトロマイグレーション耐性にも優れた銅が注目され実用化が進められており、電材として銅粉を含む導電性ペーストが配線接続孔内などに埋め込むために用いられている。この種の用途では、大量の電流を通電する必要はなく、電気信号を通電することができれは十分であるため、特に本銅粉には好適である。
【0041】
また、本銅粉粒子を芯材としてこれらの表面の一部又は全部を異種導電性材料、例えば金、銀、ニッケル、スズなどで被覆することができる。
この際、本銅粉は、残留塩素を低減しているため、例えば置換法によって銅粉粒子に銀を被覆する際に、銀を均一に被覆させることができる。
【0042】
<用語の説明>
本明細書において「X〜Y」(X,Yは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」或いは「好ましくYより小さい」の意も包含する。
また、「X以上」(Xは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「好ましくはXより大きい」の意を包含し、「Y以下」(Yは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「好ましくYより小さい」の意を包含する。
【実施例】
【0043】
以下、本発明の実施例について説明する。但し、本発明が以下の実施例に限定されるものではない。
【0044】
(実施例1)
2.5m×1.1m×1.5mの大きさ(約4m
3)の電解槽内に、それぞれ大きさ(1.0m×1.0m)9枚のSUS製陰極板と不溶性陽極板(DSE(ペルメレック電極社製))とを電極間距離5cmとなるように吊設し、電解液としての硫酸銅溶液を30L/分で循環させて、この電解液に陽極と陰極を浸漬し、これに直流電流を流して電気分解を行い、陰極表面に粉末状の銅を析出させた。
この際、循環させる電解液のCu濃度を10g/L、硫酸(H
2SO
4)濃度を100g/L、塩素濃度を50mg/Lとし、且つ、電流密度を800A/m
2に調整して30分間電解を実施した。この時の溶液のpHは1であった。
電解中、電解槽の底部の電解液の銅イオン濃度よりも、電極間の電解液の銅イオン濃度が常に薄く維持されていた。
【0045】
そして、陰極表面に析出した銅を、機械的に掻き落として回収し、その後、洗浄し、銅粉1kg相当の含水銅粉ケーキを得た。このケーキを水3Lに分散させてスラリーとし、pH9になるまで炭酸アンモニウム溶液を添加し、撹拌してアルカリ化処理を行った。その後、純水で洗浄して不純物を取り除いた。
次に、工業用ゼラチン(新田ゼラチン社製)10g/Lの水溶液1Lを加えて撹拌した後、減圧状態(1×10
-3Pa)で80℃、6時間乾燥させ、電解銅粉(サンプル)を得た。
こうして得られた電解銅粉(サンプル)を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察したところ、少なくとも90%以上の銅粉粒子は、一本の主軸を備えており、該主軸から複数の枝が垂直若しくは斜めに分岐して三次元的に成長したデンドライト状を呈していることを確認できた。
【0046】
(実施例2、3)
実施例1のアルカリ処理において、pH9になるまで炭酸アンモニウム溶液を添加してアルカリ処理を行った代わりに、実施例2では、pH11になるまでアンモニア水を添加してアルカリ処理を行い、実施例3では、pH14になるまで苛性ソーダを添加してアルカリ処理を行った。この点以外は、実施例1と同様に電解銅粉(サンプル)を得た。
こうして得られた電解銅粉(サンプル)を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察したところ、少なくとも90%以上の銅粉粒子は、一本の主軸を備えており、該主軸から複数の枝が垂直若しくは斜めに分岐して三次元的に成長したデンドライト状を呈していることを確認できた。
【0047】
(実施例4)
2.5m×1.1m×1.5mの大きさ(約4m
3)の電解槽内に、それぞれ大きさ(1.0m×1.0m)9枚のSUS製陰極板と不溶性陽極板(DSE(ペルメレック電極社製))とを電極間距離5cmとなるように吊設し、電解液としての硫酸銅溶液を30L/分で循環させて、この電解液に陽極と陰極を浸漬し、これに直流電流を流して電気分解を行い、陰極表面に粉末状の銅を析出させた。
この際、循環させる電解液のCu濃度を5g/L、硫酸(H
2SO
4)濃度を80g/L、塩素濃度を100mg/Lとし、且つ、電流密度を1200A/m
2に調整して10分間電解を実施した。この時の溶液のpHは1であった。
電解中、電解槽の底部の電解液の銅イオン濃度よりも、電極間の電解液の銅イオン濃度が常に薄く維持されていた。
【0048】
そして、陰極表面に析出した銅を、機械的に掻き落として回収し、その後、洗浄し、銅粉1kg相当の含水銅粉ケーキを得た。このケーキを水3Lに分散させてスラリーとし、pH9になるまで炭酸アンモニウム溶液を添加し、撹拌してアルカリ化処理を行った。その後、純水で洗浄して不純物を取り除いた。
次に、工業用ゼラチン(新田ゼラチン社製)10g/Lの水溶液1Lを加えて撹拌した後、減圧状態(1×10
-3Pa)で80℃、6時間乾燥させ、電解銅粉(サンプル)を得た。
こうして得られた電解銅粉(サンプル)を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察したところ、少なくとも90%以上の銅粉粒子は、一本の主軸を備えており、該主軸から複数の枝が垂直若しくは斜めに分岐して三次元的に成長したデンドライト状を呈していることを確認できた。
【0049】
(実施例5、6)
実施例4のアルカリ処理において、pH9になるまで炭酸アンモニウム溶液を添加してアルカリ処理を行った代わりに、実施例5では、pH11になるまでアンモニア水を添加してアルカリ処理を行い、実施例6では、pH14になるまで苛性ソーダを添加してアルカリ処理を行った。この点以外は、実施例4と同様に電解銅粉(サンプル)を得た。
こうして得られた電解銅粉(サンプル)を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察したところ、少なくとも90%以上の銅粉粒子は、一本の主軸を備えており、該主軸から複数の枝が垂直若しくは斜めに分岐して三次元的に成長したデンドライト状を呈していることを確認できた。
【0050】
(実施例7)
2.5m×1.1m×1.5mの大きさ(約4m
3)の電解槽内に、それぞれ大きさ(1.0m×1.0m)9枚のSUS製陰極板と不溶性陽極板(DSE(ペルメレック電極社製))とを電極間距離5cmとなるように吊設し、電解液としての硫酸銅溶液を30L/分で循環させて、この電解液に陽極と陰極を浸漬し、これに直流電流を流して電気分解を行い、陰極表面に粉末状の銅を析出させた。
この際、循環させる電解液のCu濃度を20g/L、硫酸(H
2SO
4)濃度を80g/L、塩素濃度を20mg/Lとし、且つ、電流密度を500A/m
2に調整して10分間電解を実施した。この時の溶液のpHは1であった。
電解中、電解槽の底部の電解液の銅イオン濃度よりも、電極間の電解液の銅イオン濃度が常に薄く維持されていた。
【0051】
そして、陰極表面に析出した銅を、機械的に掻き落として回収し、その後、洗浄し、銅粉1kg相当の含水銅粉ケーキを得た。このケーキを水3Lに分散させてスラリーとし、pH9になるまで炭酸アンモニウム溶液を添加し、撹拌してアルカリ化処理を行った。その後、純水で洗浄して不純物を取り除いた。
次に、工業用ゼラチン(新田ゼラチン社製)10g/Lの水溶液1Lを加えて撹拌した後、減圧状態(1×10
-3Pa)で80℃、6時間乾燥させ、電解銅粉(サンプル)を得た。
こうして得られた電解銅粉(サンプル)を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察したところ、少なくとも90%以上の銅粉粒子は、一本の主軸を備えており、該主軸から複数の枝が垂直若しくは斜めに分岐して三次元的に成長したデンドライト状を呈していることを確認できた。
【0052】
(実施例8、9)
実施例4のアルカリ処理において、pH9になるまで炭酸アンモニウム溶液を添加してアルカリ処理を行った代わりに、実施例8では、pH8.5になるまで炭酸アンモニウム溶液を添加してアルカリ処理を行い、実施例9では、pH8.0になるまで炭酸アンモニウム溶液を添加してアルカリ処理を行った。この点以外は、実施例1と同様に電解銅粉(サンプル)を得た。
こうして得られた電解銅粉(サンプル)を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察したところ、少なくとも90%以上の銅粉粒子は、一本の主軸を備えており、該主軸から複数の枝が垂直若しくは斜めに分岐して三次元的に成長したデンドライト状を呈していることを確認できた。
【0053】
(比較例1)
実施例1において、陰極表面に析出した銅を、機械的に掻き落として回収し、その後、洗浄し、銅粉1kg相当の含水銅粉ケーキを得た。このケーキを純水で洗浄して不純物を取り除いた後、工業用ゼラチン(新田ゼラチン社製)10g/Lの水溶液1Lを加えて撹拌した後、減圧状態(1×10
-3Pa)で80℃、6時間乾燥させ、電解銅粉(サンプル)を得た。これ以外の点は、実施例1と同様に製造した。
【0054】
こうして得られた電解銅粉(サンプル)を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察したところ、少なくとも90%以上の銅粉粒子は、一本の主軸を備えており、該主軸から複数の枝が垂直若しくは斜めに分岐して三次元的に成長したデンドライト状を呈していることを確認できた。
【0055】
(比較例2)
実施例4において、陰極表面に析出した銅を、機械的に掻き落として回収し、その後、洗浄し、銅粉1kg相当の含水銅粉ケーキを得た。このケーキを純水で洗浄して不純物を取り除いた後、工業用ゼラチン(新田ゼラチン社製)10g/Lの水溶液1Lを加えて撹拌した後、減圧状態(1×10
-3Pa)で80℃、6時間乾燥させ、電解銅粉(サンプル)を得た。これ以外の点は、実施例4と同様に製造した。
【0056】
こうして得られた電解銅粉(サンプル)を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察したところ、少なくとも90%以上の銅粉粒子は、一本の主軸を備えており、該主軸から複数の枝が斜めに分岐して三次元的に成長したデンドライト状を呈していることを確認できた。
【0057】
=評価方法=
実施例・比較例で得られた銅粉(サンプル)を次のように評価した。
【0058】
<粒子形状の観察>
走査型電子顕微鏡(2,000倍)にて、任意の100視野において、それぞれ500個の粒子の形状を観察し、主軸の太さa(「主軸太さa」)、主軸から伸びた枝の中で最も長い枝の長さb(「枝長b」)、主軸の長径に対する枝の本数(「枝本数/長径L」)を測定し、その平均値を表1に示した。
【0059】
<粒度測定>
測定サンプル(銅粉)を少量ビーカーに取り、3%トリトンX溶液(関東化学製)を2、3滴添加し、粉末になじませてから、0.1%SNディスパーサント41溶液(サンノプコ製)50mLを添加し、その後、超音波分散器TIPφ20(日本精機製作所製)を用いて2分間分散処理して測定用サンプルを調製した。
この測定用サンプルを、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置MT3300(日機装製)を用いて、体積累積基準D50を測定し、表1に示した。
【0060】
<比表面積の測定>
比表面積は、マウンテック社製モノソーブにて、BET一点法で測定し、BETとして表1に示した。
【0061】
<含有塩素濃度の測定>
実施例・比較例で得た銅粉を硝酸で全溶解し、得られた溶液中の塩素濃度を分光光度計で測定することにより、含有塩素濃度を測定した。
【0062】
<酸素濃度の測定>
実施例・比較例で得た銅粉(試料)を、堀場製作所社製「EMGA-820ST」を用いてHe雰囲気中で加熱溶融し、酸素濃度(wt%)を測定した。
【0063】
<粉体pHの測定>
JIS K 5101−17−2に規定された測定方法に準拠し、実施例・比較例で得た銅粉の粉体pHを測定した。
【0064】
<銀被覆評価>
実施例・比較例で得られた電解銅粉25kgを、50℃に保温した純水50L中に投入してよく攪拌させた。これとは別に、純水10Lに硝酸銀9.0kg投入して硝酸銀溶液を作製した。先ほど銅粉を溶解した溶液に硝酸銀溶液を一括添加した。この状態で2時間攪拌を行い、銀被覆銅粉スラリーを得た。
次に、真空ろ過にて銀被覆銅粉スラリーのろ過を行い、ろ過が終わった後、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)1200gを純水12Lに溶解させた溶液を用いて洗浄し、続いて6.0Lの純水で残留EDTAを洗浄した。その後、120℃で3時間乾燥させて銀被覆銅粉を得た。
そして、このように得られた銀被覆銅粉の表面をオージェ電子分装置で観察して、均一な厚さに銀が被覆されているかを評価した。この際、銀が全体に被覆されており、銅が露出した部分が認められない場合を「均一」と評価し、銀が被覆されておらず、銅が露出している部分が認められた場合を「不均一」と評価した。
【0065】
<酸化性評価>
実施例・比較例で得られた電解銅粉を、85℃、85RH%で100時間の高温高湿試験にて酸化性劣化及び腐食性劣化を評価した。これにより、経時的に酸化乃至腐食し易いかどうかを評価することができる。
【0066】
【表1】
【0067】
(考察)
上記実施例及び比較例、並びにこれまで行ってきた試験結果から、銅粉中の含有塩素濃度が5wtppm〜250wtppmであれば、残留塩素による悪影響を効果的に抑制することができ、銅粉粒子に銀を被覆する際に均一な厚さに被覆させることができることが分かった。
また、銅粉の紛体pHが5〜9であれば、経時的な酸化劣化及ぶ腐食劣化を抑えることができることも分かった。