(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態を
図1ないし
図10によって説明する。
<埋設ケーブルまでの距離Lを推定する推定方法>
変電所構内には、
図1に示すように、配電用(6.6kV級)の埋設ケーブル1a〜1cが埋設されている。埋設ケーブル1a〜1cは3相3線式であり、単芯ケーブルとなっている。埋設ケーブル1a〜1cは通常、放熱を考慮し、距離を500mm程度離して横並び状に埋設されている。尚、変電所の構内に埋設された埋設ケーブル1a〜1cは、法律により埋設深さが定められており車両等の重量物の圧力を受ける場合であれば、埋設深さは1200mm以上に決められている。
【0013】
出願人は、地面から埋設ケーブル1a〜1cまでの距離Lを推定する推定方法を確立するにあたり、まず、ケーブル周囲の磁束密度Bに着目した。そして、埋設ケーブル周囲の磁束密度Bを測定する代わりに、
図2に示すように、地表面GLに置かれた電力ケーブル10a〜10c周囲の磁束密度Bを磁界測定器20にて測定した。尚、電力ケーブル10a〜10cは、埋設ケーブル1a〜1cと同じく、距離を500mm程度離して横並び状に配置されている。
【0014】
測定に使用した磁界測定器20はX軸検出コイル、Y軸検出コイル、Z軸検出コイルを備えたものである。係る磁界測定器20は、各検出コイルにて検出した各軸方向の磁束密度Bx、By、Bzを表示すると共に、各軸方向の磁束密度Bx、By、Bzを合成した合成値を表示する。以下、磁束密度Bとは、Bx、By、Bzの合成値を指すものとする。
【0015】
出願人は上記の磁界測定器20にて、電力ケーブル10a〜10cのうち中央に位置する電力ケーブル10aから上方に100mmづつ離れた地点において磁束密度Bを計測し、そのような計測を電力ケーブル10a〜10cに流れる電流値が異なる状況下でそれぞれ行った。
【0016】
図3は、測定結果をまとめたグラフであり、横軸がケーブル10a〜10cからの距離L、縦軸が磁束密度Bとなっている。磁束密度Bは、距離Lが800mm以上では、概ね収束する傾向となり、電流値に関係なくほぼ同じ数値となった。一方、ケーブル10a〜10cからの距離Lが600mm以下では、電流値が大きくなるに連れ、磁束密度Bは大きくなった。従って、距離Lが600mm以下の領域では、磁束密度Bだけでは、電力ケーブル10までの距離を推定出来ないことが分かった。
【0017】
次に、出願人は、ケーブル10a〜10c上方の各地点における磁束密度Bの変化率Wを、以下の(1)式に従って算出した。
X=B1/B2・・・・・(1)
B1・・・・距離Lmmにおける磁束密度(
図4参照)
B2・・・・距離L+Δmmにおける磁束密度(
図4参照)
尚、ここではΔを100mmとした。
【0018】
図5は、距離Lと磁束密度Bの変化率Wの関係をグラフ化したものであり、横軸が距離L、縦軸が磁束密度Bの変化率Wとなっている。磁束密度Bの変化率Wは、電力ケーブル10a〜10cからの距離Lが短くなるに連れ増加する傾向となった。そして、磁束密度の変化率Wは、電流値に関係なく、距離Lが同じであれば概ね同じ数値となった。
【0019】
距離Lが同じであれば、磁束密度の変化率Wが電流値に関係なく概ね同じ数値となる理由は、次のように考えられる。
【0020】
一般に、無限に長い線状電流Iから距離Lの地点における磁束密度B1は、電流値をIとすると以下の(2)式となる。また、距離L+Δの地点における強る磁束密度B2は、電流値をIとすると以下の(3)式となる(
図6を参照)。
B1=μI/(2π×L)・・・・・・(2)
B2=μI/{2π×(L+Δ)}・・・(3)
μ・・・透磁率
Δ・・・定数
【0021】
そのため、(1)式を用いて、線状電流Iから距離Lの地点における磁束密度Bの変化率Wを求めると、下記(4)式に示すように距離Lのみを変数に持つ数式となる。
W=(L+Δ)/L・・・・・・・・・(4)
【0022】
そして、電流が3相であったとしても、各相それぞれを発生源とする磁界の磁束密度Bの変化率Wが、電流値に関係なく、距離Lにのみ依存することに変わりはない。従って、
図4に示すように、ケーブル10a〜10cからの距離が同じであれば、磁束密度の変化率Wは定数になるものと、考えられる。
【0023】
以上のことから、次の方法で、3相3線の埋設ケーブルまでの距離Lを推定することが可能となる。
(a)埋設ケーブル上方の第一地点と前記第一地点からΔmm離れた第二地点の2地点で磁束密度Bをそれぞれ測定する。
(b)測定した2地点の磁束密度Bの比を計算することによって前記第一地点における磁界の変化率Wを算出する。
(c)算出した磁束密度変化率Wに基づいて前記第一地点から埋設ケーブルまでの距離を推定する。
【0024】
例えば、
図7に示すように地面(第一地点)と、地面からΔmm上方に離れた地点(第二地点)で、磁束密度B1、B2をそれぞれ測定する。そして、測定した2地点の磁束密度B1、B2の比を計算する。これにて、地面(第一地点)における磁束密度Bの変化率Wが求まる。
【0025】
あとは、
図5のグラフ(距離Lと磁束密度Bの変化率Wの相関特性)から、埋設ケーブル1a〜1cまでの距離Lを推定できる。すなわち、求めた変化率Wが、例えば「1.2」であれば、埋設ケーブル1a〜1cまでの距離Lは「約750」mmと推定出来る。また、求めた変化率Wが、「1.3」であれば、距離Lは「約500」mmと推定出来る。
【0026】
また、磁束密度Bの計測場所は、
図7に示すA範囲内にあれば、距離Lの推定に影響を与えない。というのも、磁束密度Bの計測場所を、
図4に示す電力ケーブル10bの真上と電力ケーブル10cの真上に変えて、磁束密度Bの変化率Wを調査したところ、距離Lと変化率Wの相関特性曲線は、計測場所が違っても、
図8に示すように概ね一致する結果が得られたからである。
【0027】
尚、
図5のグラフ(距離Lと変化率Wの相関特性)は、電力ケーブル10a、10b、10cの配置が500mmずつ間隔を空けて水平に配置された時のものである。電力ケーブル10a、10b、10cの配置が異なれば、3相電流を発生源とする各磁界の相対関係(影響の及ぼし方)が変わる。
【0028】
従って、電力ケーブル10a〜10cの配置が異なる場合には、事前試験を行って、その配置に対応する
図5のグラフ(距離Lと変化率Wの相関特性)を得ておき、それに基づいて埋設ケーブル1a〜1cまでの距離Lを推定することが好ましい。
【0029】
以上説明したように、本推定方法では、埋設ケーブル1a〜1cまでの距離Lを、電流値の影響を受けずに推定できる。そのため、埋設ケーブル1a〜1cまでの距離Lを正確に推定できる。
【0030】
また、本推定方法では、2地点の磁束密度Bを測定し、その比から磁束密度Bの変化率Wを求めるだけで、埋設ケーブル1a〜1cまでの距離Lを推定できる。よって、高価な測定器を用いた測定や、高価な演算装置を用いた複雑な計算をする必要がなく、埋設ケーブル1a〜1cまでの距離Lを、簡単かつ安価に推定できる。
【0031】
<埋設ケーブルの位置を特定するために行う試掘方法>
次に、変電所構内に埋設された埋設ケーブル1a〜1cを例にとって、本発明の試掘方法について説明を行う。
本試掘方法は、油圧ショベル等の掘削機械により地面を掘削し、埋設ケーブル1a〜1cまでの距離Lが切替距離(一例として500mm)に達したら、スコップ等を使用した手堀りに切り替える方法をとっている。
【0032】
このように、掘削機械と手堀りの2段階作業にしているのは、掘削面Fから埋設ケーブル1a〜1cがある程度離れている間は、掘削機械を使用して効率的に掘削作業を進め、埋設ケーブル1a〜1cが近くなったら、埋設ケーブル1a〜1cを傷付けないように手掘りで少しずつ掘削作業を進めるためである。
【0033】
そして、本掘削方法では、以下説明するように、埋設ケーブル1a〜1cまでの距離が切替距離に達したかどうかを、磁界密度Bの変化率Wを利用して判定する。
【0034】
さて、試掘を開始するにあたり、埋設ケーブル1a〜1cが、
図1のX方向(埋設ケーブルを横断する方向)のどこに埋設されているのか特定する必要がある。これには地表面GLの磁界密度BをX方向に沿って複数点計測し、X方向における磁界密度Bの分布Qを求めてやればよい。
【0035】
磁界密度Bの分布Qは、
図9に示すように山形の曲線になり、ピーク位置Pは中央の埋設ケーブル1aの真上に概ね位置する。そのため、分布QのピークPの位置からX方向における埋設ケーブル1a〜1cの位置を特定できる。
【0036】
次に、X方向における埋設ケーブル1a〜1cの位置が特定出来たら、地表面GLから埋設ケーブル1a〜1cまで距離Lを計測(推定)する。これは、埋設ケーブル1a〜1bが、何らかの理由で地表面GLの近くに埋まっていると、試掘を行った際に、掘削機械が埋設ケーブル1a〜1cを傷付ける恐れがあるからである。
【0037】
地表面GLから埋設ケーブル1a〜1cまで距離Lを計測(推定)するには、
図10の(a)に示すように、埋設ケーブル1a〜1cの真上の位置にて、地表面GLにおける磁束密度Bの変化率Wを算出する。具体的には、地表面GLと地表面GLからΔmm離れた地点で、磁束密度B1、B2をそれぞれ測定し、磁束密度B1、B2の比を計算する。これにて、地表面GLにおける磁束密度Bの変化率Wが求まる。尚、Δ=100mmとしている。以下に行う計測も同様。
【0038】
あとは、求めた変化率Wと
図5のグラフ(距離Lと変化率Wの相関特性)から、地表面GLから埋設ケーブル1a〜1cまでの距離Lが推定できる。通常であれば、埋設ケーブル1a〜1bは1200mm〜1400mmに埋まっており、磁束密度の変化率Wは「1.1」となる。ここでは、埋設ケーブル1a〜1bが1200mm〜1400mmに埋まっているものとして説明を続ける。
【0039】
埋設ケーブル1a〜1cまでの距離Lが確認できたら、試掘を開始し、埋設ケーブル1a〜1cの真上の地表面GLを掘削機械にて掘削する。そして、掘削機械による試掘の途中で、掘削面Fから埋設ケーブル1a〜1cまで距離Lを計測(推定)する。すなわち、
図10の(b)に示すように、掘削面Fと、掘削面FからΔmm離れた地点で磁束密度B1、B2をそれぞれ測定し、磁束密度B1、B2の比を計算する。
【0040】
これにて、掘削面Fにおける磁束密度Bの変化率Wが求まる。あとは、求めた変化率Wと
図5のグラフ(距離Lと変化率Wの相関特性)から、掘削面Fから埋設ケーブル1a〜1cまでの距離Lが推定できる。
【0041】
そして、掘削面Fから埋設ケーブル1a〜1cまでの距離Lが、切替距離(一例として500mm)より長ければ、更に、掘削機械による掘削を進める。そして、一定距離(一例として200mm)堀り込む度に、掘削面Fと掘削面FからΔmm離れた地点で磁束密度B1、B2をそれぞれ測定し、磁束密度B1、B2の比を計算して掘削面Fにおける磁束密度の変化率Wを求める。
【0042】
このように、一定距離堀り進む度に、磁束密度Bの変化率Wを求めて、距離Lを推定しているのは、精度を上げるためである。すなわち、
図5に示すように、磁束密度Bの変化率Wは、埋設ケーブル1a〜1cに遠い領域Lfでは横ばいになるのに対して、埋設ケーブル1a〜1cに近い領域Lnでは立ち上がる。そのため、埋設ケーブル1a〜1cに近い領域で磁束密度Bの変化率Wを調べれば、距離Lの推定精度が高くなる。
【0043】
そして、掘削機械により地面を掘り進めてゆくと、埋設ケーブル1a〜1cまでの距離Lが次第に短くなってゆく。そのため、磁束密度の変化率Wは「1.1」から次第に大きくなってゆき、やがて「1.3」になる。
【0044】
図5のグラフ(距離Lと変化率Wの相関特性)から明らかなように、変化率Wが「1.3」であれば、掘削面Fから埋設ケーブルLまでの距離Lは「500」であると推定できる。よって、切替距離(一例として500mm)に達したと判断できる。
【0045】
かくして、切替距離に達したと判断できたら、あとは、作業者の手掘りにより掘削が行われ、試掘が続けられる。やがて、埋設ケーブル1a〜1bは露出する。これにて、変電所の構内に埋設された埋設ケーブル1a〜1cの位置を特定することが出来る。
【0046】
以上説明したように、本試掘方法では、掘削機械と手堀りの2段階作業にしているので作業効率がよい。また、磁束密度Bの変化率Wに基づいて距離Lを推定しているので、切替距離に達したかどうかを正確に判断できる。よって、埋設ケーブル1a〜1cに対する掘削機械の接触を確実に回避することが可能となる。
【0047】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0048】
(1)上記実施形態では、変電所構内に埋設された埋設ケーブルを例示したが、単心の埋設ケーブルであれば適用可能であり、例えば、発電所構内等、電力の発受送変電設備設置箇所において埋設された埋設ケーブルに適用することが可能である。尚、埋設ケーブルには3線をよりあわせたトリプレックス型のケーブルがあるが、係るケーブルは磁束が打ち消されるので、適用できない。
【0049】
(2)上記実施形態では、距離Lと変化率Wの相関特性(
図5のグラフ)を、埋設ケーブル1a〜1cを模擬した電力ケーブル10a〜10cを用いて、その周囲の磁界密度Bを実測することにより得たが、これを計算により算出することも無論可能である。
【0050】
(3)上記実施形態では、Δ=100mmとした例を挙げたが、例えば200mmなど決められた数値であればよく、100mmに限定されない。尚、Δを変更した場合には、距離Lと変化率Wの相関特性について、変更したΔに対応したものを使用して判定を行う必要がある。