特許第5711517号(P5711517)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ヒルティ アクチエンゲゼルシャフトの特許一覧

<>
  • 特許5711517-手持ち式工具機械の制御方法 図000002
  • 特許5711517-手持ち式工具機械の制御方法 図000003
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5711517
(24)【登録日】2015年3月13日
(45)【発行日】2015年4月30日
(54)【発明の名称】手持ち式工具機械の制御方法
(51)【国際特許分類】
   B25F 5/00 20060101AFI20150409BHJP
   B23B 45/02 20060101ALI20150409BHJP
【FI】
   B25F5/00 C
   B23B45/02
【請求項の数】7
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2010-279635(P2010-279635)
(22)【出願日】2010年12月15日
(65)【公開番号】特開2011-126001(P2011-126001A)
(43)【公開日】2011年6月30日
【審査請求日】2013年11月21日
(31)【優先権主張番号】10 2009 054 762.2
(32)【優先日】2009年12月16日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】591010170
【氏名又は名称】ヒルティ アクチエンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100134005
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 達也
(74)【代理人】
【識別番号】100149249
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 達也
(72)【発明者】
【氏名】マヌエル グート
(72)【発明者】
【氏名】ホープ アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル ヴィーラー
(72)【発明者】
【氏名】ディーター プロフンザー
(72)【発明者】
【氏名】ハンス ベーニ
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ フレイシュラーガー
【審査官】 石田 智樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−190118(JP,A)
【文献】 特開平07−075974(JP,A)
【文献】 特開昭56−015983(JP,A)
【文献】 特表2008−516789(JP,A)
【文献】 特開2007−196362(JP,A)
【文献】 特開平07−253192(JP,A)
【文献】 米国特許第04273198(US,A)
【文献】 特開昭51−057096(JP,A)
【文献】 特開昭50−048597(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25F 5/00
B23B 45/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転型の手持ち式工具機械(10)の制御方法において、
工具(24)の回転遮断の検出に応答して、駆動している電動モータ(19)を、遮断前の回転方向(20)に対して逆の回転方向に所定の継続時間にわたって逆転させ、次いで再び遮断前の回転方向(20)に回転させ
前記工具機械(10)のハウジング(11)またはグリップ(12)の回転加速度を遮断時に検出し、検出した回転加速度に基づいて継続時間を決定することを特徴とする制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載の制御方法において、
前記継続時間を25ms〜1000msとすることを特徴とする制御方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の制御方法において、
センサ装置(28,29)により、前記回転方向(20)とは逆方向への前記工具(19)の回転を検出し、検出に応答して、遮断前の回転方向(20)に電動モータ(14)を回転させることを特徴とする制御方法。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか一項に記載の制御方法において、
センサ装置(27)が、前記電動モータ(14)の消費出力に基づいて工具の遮断を検出することを特徴とする制御方法。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか一項に記載の制御方法において、
センサ装置が、前記工具機械(10)の回転加速度に基づいて前記工具の遮断を検出することを特徴とする制御方法。
【請求項6】
請求項1からまでのいずれか一項に記載の制御方法において、
一回目の遮断発生後に、遮断発生を検出するための閾値を第2の継続時間にわたって低減することを特徴とする制御方法。
【請求項7】
請求項1からまでのいずれか一項に記載の制御方法において、
一回目の遮断発生後に回転方向を少なくとも5回、周期的に変更することを特徴とする制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手持ち式工具機械の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1(米国特許第5584619号明細書)により、穿孔機のための安全装置が既知である。この安全装置は、ドリルの回転遮断時に使用者を過剰な負荷から保護する。遮断が検出された場合、または予想される場合、すぐに穿孔機が作動停止される。ドリルの継続的なひっかかりが生じる場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第5584619号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、使用者を確実に保護し、ドリルの継続的なひっかかりに対処する制御方法を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明による手持ち式工具装置の制御方法では、遮断が検出された場合、駆動する電動モータを遮断前の回転方向とは逆の回転方向に所定継続時間にわたって回転させる。この所定継続時間に続いて、電動モータを再び遮断前の回転方向に回転させる。本発明においては、さらに、遮断時のハウジングの回転加速度を検出し、検出した回転加速度に基づいて継続時間を決定する。
【発明の効果】
【0006】
驚くべきことに、この制御方法は、遮断時の滑りクラッチによる動力伝達機構の短時間の中断および継続的な遮断時の周期的な中断とは質的に異なることが判明した。この場合、使用者は同様に電動モータの支援により工具を解除しようと引き続き試みるが、回転方向を能動的に反転させた場合よりも成果が得られる率は遙かに低いことが試験によって確認された。ドリルは遮断時には大抵は少なくとも前進方向にのみならず、後退方向にもひっかかっているので、これは特に驚くべきことである。回転方向反転時にドリルが弛緩することが、より積極的な影響を及ぼす要因となっているものと推定される。標準的な回転方向とは逆方向に回転させた場合に穿孔機には高い負荷が加えられ、歯車および連結部はこのような高い負荷に対して設計されておらず、多大なコストをかけてのみ設計可能であるという明らかな欠点をも凌ぐ利点が得られる。
【0007】
回転型の手持ち式工具機械、例えば穿孔機は、工具を回転駆動するための電動モータと、工具の回転遮断を検出するためのセンサ装置と、センサ装置によって検出された遮断に応答して遮断前の電動モータの回転方向を所定時間にわたって反転させ、これに続いて電動モータを再びもとの回転方向に回転させる制御装置と備える。したがって、回転方向は遮断後に短時間だけ前進方向から後退方向に切り換わり、すぐに続いて再び前進方向に切り換わる。この間、モータはスイッチオフされるのではなく、交互に減速および加速される。回転方向の切換は複数回にわたって繰り返してもよい。
【0008】
一実施形態では、継続時間は25ms〜1000msである。
【0009】
一実施形態では、センサ装置は作動方向とは反対方向の工具収容部の回転を検出し、これに応答して、遮断前の回転方向に電動モータを回転させる。
【0010】
一実施形態では、センサ装置は、電動モータの消費出力、例えば消費電力に基づいてドリルの遮断を検出する。
【0011】
上述したとおり、本発明では遮断時のハウジングの回転加速度を検出し、検出した回転加速度に基づいて継続時間を決定する。ドリルの当接時における回転加速度が小さい程、使用者は遮断にもかかわらず機械を安定的に操作できる。使用者が機械を良好に操作できる場合、すなわち、回転加速度が小さい場合に継続時間を延ばすことが有利であることが示された。
【0012】
一実施形態では、最初の遮断発生後に遮断発生を検出するための閾値が第2継続時間にわたって低減される。最初に遮断が検出された後に、ドリルを前進方向に回転させた場合、直後の遮断を前もって予想することができる。これにより、有利には反応時間が減じられる。第2継続時間は、第1継続時間の2倍から5倍であってよい。
【0013】
次に本発明を例示的な実施形態および図面に基づき説明する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係る制御方法を適用可能な手持ち式穿孔機を示すブロック線図である。
図2】本発明に係る制御方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は手持ち式穿孔機10を示す。穿孔機10は、機械ハウジング11と、使用者が穿孔機10を保持するための1個または2個のグリップ12とを備える。グリップ12は機械ハウジング11に堅固に直結されていてもよいし、振動減衰素子13を介して機械ハウジング11に配置されていてもよい。
【0016】
機械ハウジング11の内部で、電動モータ14はスピンドル15を駆動する。電動モータ14は、例えば機械式または電子式に整流される直流モータまたは非同期式交流モータである。スピンドル15と電動モータ14との間の動力伝達経路には、ギア16および/または過負荷防止クラッチ17、例えば滑りクラッチを配置してもよい。スピンドル15は、工具収容部18よって回転運動をドリル19に伝達する。
【0017】
穿孔機10において、スピンドル15、ひいては電動モータ14の回転運動方向は、概してあらかじめ規定されており、ドリル19の形態に適合されている。以下では標準的な作動時の回転方向を作動方向20または前進方向と呼ぶ。他の手持ち式工具機械、例えば、ねじ込み機では、使用者が作動方向20を調整することができる。
【0018】
穿孔機10を作動するための操作ボタン21は、有利にはグリップ12または機械ハウジング11に配置されている。一実施形態では、操作ボタン21は、電源22、例えばアキュムレータまたは給電部と電動モータ14との間の電気回路に配置されている。穿孔機10は、使用者が操作ボタン21を解放した場合にスイッチオフされる。操作ボタン21は、操作ボタン21を持続的に操作しなくても穿孔機10の継続的な作動を可能とするロック機構を含んでいてもよい。
【0019】
操作ボタン21は、押圧されるとすぐに電動モータ14のための制御装置23を作動する。制御装置23は、電動モータ14の回転方向を制御し、場合によっては電動モータ14の出力も制御する。電動モータ14の種類に応じて、制御装置23は様々な方式で電動モータ14の回転方向を制御する。機械式に整流する直流モータ、例えばユニバーサルモータでは、電流方向は、望ましい回転方向に関係して巻き線によって調整される。非同期式の交流モータまたは電気式に整流する直流モータでは、回転方向は、電動モータ14の巻き線に電流が供給される時間的順序によってあらかじめ規定される。
【0020】
穿孔機10は、ドリル10から加工部に伝達されるトルクに応答して反作用として生じるトルクを使用者に伝達する。加工部が穿孔されている場合には、反作用トルクは小さい。加工部においてドリルが遮断された場合、回転状態にあったドリルアセンブリが急激に制動されることにより高い反作用トルクが生じる。使用者は、この反作用トルクに対してもはや十分に支持力を加えることができず、グリップ12を含む穿孔機10は全体としてドリル19の回転軸線を中心として回動し始める。使用者の負傷を防止するためには、回転するドリルアセンブリの全体また少なくとも一部からグリップ12を分離し、および/または制動することが好ましい。
【0021】
図2は、ドリル19の遮断を考慮した穿孔機10の制御方法を示す。使用者が操作ボタン21を操作した場合(スイッチオン100)、制御装置23が作動または解除される(始動101)。制御装置23の制御信号に応答して電動モータ14が電源22に接続され、作動方向20に回転する(作動102)。スピンドル15および工具収容部18に挿入されたドリル19は、前進方向、すなわち、作動方向20に回転する。使用者が作動ボタン21を解放した場合(スイッチオフ103)、電動モータ14は電源22からすぐに分離される(停止104)。付加的に、制御装置23は電動モータ14を能動的に制動する。このために、例えば巻き線を短絡させてもよい。
【0022】
穿孔機10が作動している間、すなわち、使用者が操作ボタン21を操作している間は、センサ装置24がドリル19の遮断に対する作動特性を監視する(監視105)。センサ装置24が遮断を検出した場合(遮断発生106、時点tO)、電動モータ14の回転方向は反転される。このために電動モータ14は、停止状態まで能動的に制動される(安全装置作動107)。電動モータ14が停止されるまでの第1継続時間T1は、とりわけ電動モータ14のトルクに関係している。電動モータ14の停止状態が得られた場合、電動モータは、すぐに後退方向に、それまでの作動方向20とは反対方向に加速する(反転108)。例えば25ms〜1000ms、有利には25ms〜200msの範囲の第2継続時間T2には、電動モータ14は後退方向に回転する。遮断が検出された時点に対して、電動モータ14は所定角度だけ後退方向に回転される。スピンドル15およびドリル19は、電動モータ14の後退方向の回転運動に少なくとも部分的に追従する。構成部材の慣性および弾性に基づき、スピンドル15およびドリル19は動力伝達経路で遮断時には穿孔を行わず、電動モータ14の後退方向回転時には弛緩する。回転方向は、上記第2継続時間T2に続いて変更され、電動モータ14は、再び前進方向に回転する(作動109)。後退方向回転時に目的に応じて作動停止された場合には、センサ装置24は再び作動特性を監視する。
【0023】
遮断の原因は、安全装置作動107、反転108および引き続く作動109によって電動モータ14を所定角度だけ一回戻した後に取り除かれない場合が多い。センサ装置24は遮断(遮断時106、時点t1)をあらたに検出し、この場合、電動モータ14の戻し動作、すなわち、安全装置作動107、反転108および引き続く作動109があらたに開始される。したがって、電動モータ14の回転方向は複数周期にわたってほぼ周期的に変更される。電動モータ14は、複数周期の間継続的に作動している。電動モータによって加えられるトルクの回転方向のみが、作動方向20から反対方向(安全装置作動107、反転108)に切り換えられ、再び作動方向(作動109)に切り換えられる。電動モータ14は、使用者が操作ボタン21を解除した場合にのみスイッチオフされる(スイッチオフ103)。
【0024】
一実施形態では、センサ装置24は、機械ハウジング11またはグリップ12に1つ以上の加速度センサ25を有し、これらの加速度センサは、有利には、スピンドル15の回転軸線26に沿ってずらして配置されている。加速度センサ25は、機械ハウジング11の回転運動を検出する。検出された加速度値は処理され、遮断に特徴的な基準値と比較される。基準値は、例えば、実際の加速度値および加速度時の履歴に基づいていてもよい。基準値が閾値を超過した場合、センサ装置24はこれを遮断として検出する(遮断発生105)。20ms〜2000ms以内のあらたな遮断の検出を、以前の遮断の検出とは異なる基準に基づいて行うことができる。特により小さい閾値を適用することができる。
【0025】
別の実施形態では、センサ装置24は、電動モータ14の消費出力を検出する1つ以上の電流センサ27を有している。消費出力は、ドリル19が遮断直前に重く回転した場合には概して飛躍的に上昇する。電流センサ27は、例えば電気式に整流する電動モータのモータ制御部に含まれていてもよい。遮断を検出するための基準値は、電流値および/または上記加速度値に基づいていてもよい。
【0026】
電動モータ14が後退方向に回転する第2継続時間T2を穿孔機10のためにあらかじめ規定することもできる。一構成では、工具収容部18の回転方向を検出するセンサ装置28が設けられている。工具収容部18が、例えば2°〜5°の角度だけ後退方向に回転した後、第2継続時間T2は終了し、電動モータ14は再び前進方向に回転する。センサ装置28は、例えば誘導式センサによって工具収容部18の回転を検出する。
【0027】
別の構成では、スピンドル15に作用するトルク、すなわち、電動モータ14によって出力されたトルクを第2継続時間T2の間に検出する。トルクが閾値を下回った場合、すぐに第2継続時間T2を終了する。電動モータ14は負荷の低減に伴いより小さいトルクを出力すると想定される。負荷は、ドリル19および他の回転素子15,16,17,18が慣性モーメントに抗して加速され、後退方向に回転するとすぐに低減される。
【0028】
別の構成では、センサ装置29は歪みゲージによってスピンドル15の歪みを検出する。センサ装置29が閾値を下回る歪みの低下を検出した場合、第2継続時間T2が終了する。歪みは、ドリル19が後退方向に回転し、さらに加速されないか、またはわずかにのみ加速した場合に低下する。
【0029】
第2継続時間T2の終了を誘起する方法およびセンサ装置は、様々な形式で組み合わせることができる。付加的に、第2継続時間T2は、例えば10ms〜25msのあらかじめ規定された最大値に限定してもよい。
【0030】
これらの実施形態は、本発明の実施例を明らかにするものである。これらの実施形態は、限定的に解釈されるべきものではなく、特に、他に明示的に要求されていない限りにおいては、多様な実施形態が可能である。
【符号の説明】
【0031】
10 工具機械
11 ハウジング
12 グリップ
14 電動モータ
19 ドリル
20 回転方向
24 工具
25 加速度センサ
27,28,29 センサ装置
図1
図2