(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面に基づいて、本発明の第1の実施の形態について詳細に説明する。
図1は地下水の浄化システム1の垂直断面図を、
図2は、敷地23の水平断面図を示す。
図1は、
図2に示す矢印F−Fによる断面図である。
【0020】
図1および
図2に示すように、浄化システム1は、所定の敷地23の境界付近の地盤5に設置される。浄化システム1は、複数の井戸3、砂7、遮水材9、ポンプ11、パイプ13、活性剤注入ポンプ15等からなる。浄化システム1は、揮発性有機塩素化合物(以下、VOCとする)を浄化の対象とする。
【0021】
複数の井戸3は、地盤5内に所定の間隔(例えば10m程度)をおいて垂直に設置される。このとき、複数の井戸3を含む面(井戸の並列方向)が、
図2の矢印Gに示す汚染地下水19の流れの方向と略垂直となるようにする。複数の井戸3は、井戸3aおよび井戸3bからなり、井戸3aと井戸3bとは交互に配置される。井戸3は、難透水層17まで掘削される。井戸3の周囲には、砂7が充填される。
【0022】
遮水材9は、1つの地下水層18に対して、井戸3を深さ方向に2つ以上に区分するように設けられる。地下水層とは、地下水を有する砂層である。井戸3aは、遮水材9により、井戸上部3a−1と井戸下部3a−2とに区分される。井戸3bは、遮水材9により、井戸上部3b−1と井戸下部3b−2とに区分される。
【0023】
ポンプ11は、遮水材9に設けられる。ポンプ11は、送水方向を上下に制御可能である。ポンプ11の流量は、例えば、毎分10L程度とする。複数の井戸3のうち井戸3aに設置されたポンプ11と、井戸3aに隣接する井戸3bに設置されたポンプ11とは、送水方向が逆になるように制御される。
【0024】
図1では、井戸3aに設置されたポンプ11は、矢印Aに示すように、上向きに送水するように制御される。また、井戸3bに設置されたポンプ11は、矢印Bに示すように、下向きに送水するように制御される。このとき、
図2に示す複数の井戸3aに設置されたポンプ11は、それぞれ上向きに送水するように制御される。また、複数の井戸3bに設置されたポンプ11は、それぞれ下向きに送水するように制御される。
【0025】
パイプ13は、一端が井戸3に、他端が活性剤注入ポンプ15に接続される。活性剤注入ポンプ15は、地盤5上に設置される。活性剤注入ポンプ15は、パイプ13を介して、井戸3に嫌気性微生物を活性化させる活性剤を添加する。活性剤注入ポンプ15の流量は、井戸3に設置されるポンプ11の流量の1/100以下であり、望ましくは1/1000程度とする。
【0026】
活性剤は、例えば、乳酸、グルコース、エタノール、グリセロール、酢酸、酪酸、プロピオン酸、蟻酸、ソルビトール、オリゴ乳酸、シュークロース、ポリ乳酸、大豆油、エマルジョン油等を用いる。
【0027】
井戸3に添加された活性剤は、井戸3の地下水に混ざる。井戸3の地下水中の活性剤の濃度は、ポンプ11の送水による作用で均一となる。井戸3の地下水は、必要に応じて、ポンプ11を稼働させた状態で活性剤注入ポンプ15を一旦停止して採取され、計測装置(図示せず)を用いて活性剤の濃度が計測される。活性剤注入ポンプ15の運転を再開し、活性剤注入ポンプ15から井戸3内の地下水に活性剤を添加する際には、地下水中の活性剤の濃度が所定の管理値となるように、添加する活性剤の量が調整される。
【0028】
地下水層18での地下水の流れの一般的な特徴として、水平方向への透水性が鉛直方向への透水性よりも大きいことがある。浄化システム1では、ポンプ11を稼働させることにより、地盤5内に
図1の矢印C、矢印D、矢印Eに示す流れが生じる。これにより、
図2に示す汚染地下水19の流れの方向(矢印Gに示す方向)に対して垂直な方向に地下水が移動し、井戸3の周囲の地盤5に活性剤が均一に拡散する。
図2に示すように、活性剤が拡散した部分は浄化壁25として機能する。浄化壁25に流入した汚染地下水19中のVOCは、浄化壁25を透過する間に、活性剤により活性化された嫌気性微生物の働きによって分解され、浄化された地下水21として浄化壁25から流出する。
【0029】
次に、
図1および
図2に示す浄化システム1を用いて地下水を浄化する方法について説明する。
図3は、ポンプ11の運転開始からの経過時間と活性剤濃度との関係を示す模式的な図である。
図3において、実線29は活性剤濃度の変化を示す。また、破線31は活性剤濃度の管理値を示す。
【0030】
(ステージ27−1)
図3に示すステージ27−1は、ポンプ11を稼動すると同時に、活性剤注入ポンプ15により活性剤を井戸3に添加し、地下水の活性剤の濃度を調整する期間である。
【0031】
ステージ27−1では、まず、浄化システム1を構築する。浄化システム1を構築するには、地盤5内に複数の井戸3を所定の間隔をおいて垂直に設置する。このとき、複数の井戸3を含む面が、
図2の矢印Gに示す汚染地下水19の流れの方向と垂直となるようにする。また、井戸3aと井戸3bとを交互に配置する。井戸3の周囲には、砂7を充填する。井戸3の内部には、井戸3を深さ方向に区分する遮水材9を設置する。遮水材9には、ポンプ11を設置する。さらに、パイプ13および活性剤注入ポンプ15を設置して、浄化システム1を完成する。
【0032】
浄化システム1を構築した後、井戸3aに設置したポンプ11を、送水方向が上向きとなるように制御して稼働させる。同時に、井戸3bに設置したポンプ11を、送水方向が下向きとなるように制御して稼働させる。そして、それぞれの井戸3から地下水を採取し、計測装置(図示せず)により活性剤の濃度を計測する。ポンプ11の稼働中は、それぞれの井戸3の地下水中の活性剤濃度は深さによらず一定となるので、地下水はそれぞれの井戸3の作業しやすい箇所から採取すればよい。
【0033】
次に、活性剤注入ポンプ15から、パイプ13を介して、井戸3内の地下水に嫌気性微生物を活性化させる活性剤を添加する。このとき、地下水中の活性剤の濃度が
図3の破線31に示す所定の管理値となるようにする。すなわち、破線31と実線29との濃度差に相当する量の活性剤を算出して添加する。
【0034】
ステージ27−1では、井戸3に設置したポンプ11を常に稼働させる。そして、ポンプ11が稼働した状態で、活性剤注入ポンプ15を停止して地下水を採取して活性剤濃度を計測する作業と、活性剤注入ポンプ15を稼働して活性剤を添加する作業とを繰り返す。
【0035】
ステージ27−1では、隣接する井戸3に設置されたポンプ11を、送水方向が逆になるように制御して稼働させることにより、
図1に示すように、井戸上部3a−1と井戸上部3b−1との間の地盤5中に、矢印Cに示すような地下水の流れが生じる。また、井戸下部3a−2と井戸下部3b−2との間の地盤5中に、矢印Dに示すような地下水の流れが生じる。さらに、ポンプ11の周辺の地盤5中に、矢印Eに示すような地下水の流れが生じる。
【0036】
図4は、地盤5中の活性剤濃度の分布状況を示す図である。
図1に示す地盤5の領域32における地下水中の活性剤濃度の分布状況は、矢印C、矢印D、矢印Eに示すような地下水の流れにより、時間が経過するにつれて、
図4の(a)図、
図4の(b)図、
図4の(c)図、
図4の(d)図に示すように変化する。ステージ27−1では、
図2の矢印Gに示す汚染地下水19の流れの方向に対して垂直な方向に活性剤を含む地下水が均一に拡散し、
図2に示すような浄化壁25が形成される。
【0037】
(ステージ27−1の終了)ステージ27−1では、上述したように、井戸3に設置したポンプ11を稼働させた状態で、活性剤注入ポンプ15を停止して地下水を採取して活性剤濃度を計測する。このとき、計測した活性剤の濃度が所定の管理値に達したか否かを判定する。活性剤濃度(
図3の実線29で示す値)が所定の管理値(
図3の破線31で示す値)に達していない場合は、引き続き活性剤注入ポンプ15を稼働させて活性剤を添加する作業を繰り返す。活性剤濃度(
図3の実線29で示す値)が所定の管理値(
図3の破線31で示す値)に達した場合は、活性剤注入ポンプ15を稼働させる作業を終了し、ステージ27−2に進む。
【0038】
(ステージ27−2)
図3に示すステージ27−2は、浄化壁25内の地下水の活性剤の濃度が維持されていることを確認する期間である。ステージ27−2では、複数の井戸3に設置したポンプ11を引き続き稼働させるが、井戸3への活性剤の添加は行なわない。ステージ27−2では、井戸3に設置したポンプ11を稼働させた状態で、所定の時間ごとに地下水を採取し、計測装置(図示せず)により、活性剤濃度を計測する。
【0039】
(ステージ27−2の終了)ステージ27−2では、上述したように、所定の時間ごとに地下水の活性剤濃度を計測する。このとき、計測した活性剤の濃度が所定の期間維持されているか否かを判定する。活性剤濃度(
図3の実線29で示す値)が所定の管理値(
図3の破線31で示す値)に維持された期間が所定の長さに達していない場合は、複数の井戸3に設置したポンプ11を引き続き稼働させる。活性剤濃度(
図3の実線29で示す値)が所定の管理値(
図3の破線31で示す値)に維持された期間が所定の長さに達した場合は、ステージ27−2を終了する。
【0040】
(ステージ27−3)
図3に示すステージ27−3は、浄化システム1による維持管理を行なわず、浄化壁25を微生物分解バリアとして用いる期間である。ステージ27−2までの工程を一定期間実施して、VOC濃度が十分に低下し、活性剤濃度を適切な管理値に維持した状態で浄化システム1の稼働を止めれば、その後はメンテナンスフリーの微生物分解バリアにより、コストをかけずに汚染地下水の流入を防止できる。
【0041】
図3に示すステージ27−1およびステージ27−2では、必要に応じて、計測装置(図示せず)により計測した活性剤の濃度の情報を記憶装置等に記憶させておき、コンピュータ等でこれらの値の変化予測を行うことができる。また、活性剤の濃度の計測値や予測値、これらの値と活性剤の濃度の管理値との関係等を、表示装置で適宜表示することができる。
【0042】
ステージ27−1およびステージ27−2では、活性剤濃度を計測する際に、VOCの濃度を合わせて計測してもよい。地下水中のVOCは、地盤5内の浄化壁中の嫌気性微生物の働きにより分解処理される。VOCの濃度を計測することにより、VOCの分解状況を確実に把握できる。ステージ27−1およびステージ27−2では、VOCの濃度の計測値や予測値、これらの値とVOCの濃度の管理値との関係等を、表示装置で適宜表示してもよい。
【0043】
このように、第1の実施の形態によれば、隣接する井戸3にそれぞれ設置されたポンプ11の送水方向が逆になるように制御することにより、隣接する井戸3同士の間に、汚染地下水19の流れに略垂直となるような水平方向の流れが生じる。そのため、汚染地下水19の周辺への拡散促進を低減できる。また、活性剤を添加した地下水が汚染地下水19の流れに垂直な方向に対しても速く動いて活性剤を均質に拡散させることができ、浄化壁25中に微生物活性が不良な場所が発生しない。さらに、地下水中の活性剤の濃度を適宜計測することにより、活性剤の拡散状況を確実に把握できる。
【0044】
第1の実施の形態では、地下水中の活性剤濃度が微生物活性に良好な一定に近い状態となるように井戸3に活性剤を添加しながらポンプ11を稼働させ、微生物活性を持続して高める。これにより、地盤5内において速い速度での微生物分解が早期に可能となり、短期間で高性能の浄化壁25を作成できる。浄化壁25は、従来の浄化壁よりも汚染物質の分解が速いため、壁厚が薄くても、流速が速いまたは汚染物質の濃度が高い汚染地下水を処理することができる。例えば、従来であれば浄化壁厚さを厚くするために2列の注入井戸が必要な場合でも、第1の実施の形態によれば、揚水井戸・注水井戸を1列に配置したもので対応でき、工期短縮および工費削減が可能である。
【0045】
第1の実施の形態では、活性剤濃度が所定の管理値に達した後、活性剤の添加を省略することにより、浄化にかかる経費を削減することができる。本発明では、所定の期間、活性剤の濃度が所定の管理値に維持されていることを確認し、ポンプ11の稼働を停止した後にも、維持管理を行なうことなく浄化壁25の微生物分解バリアが機能する。また、第1の実施の形態では、地上でのVOC処理を行わないため、浄化システム1の構築にあたり、省スペース化および経費削減が可能である。
【0046】
なお、第1の実施の形態では、ポンプ11の送水方向を常に一定としたが送水方向は切り替えが可能である。
図5は、送水方向を反転させた状態を示す図である。
図5に示すように、井戸3aに設置されたポンプ11を下向きに、井戸3bに設置されたポンプ11を上向きに切り替えることも可能である。この場合、地盤5内には、矢印に示すように、
図1とは逆方向の地下水の流れが生じる。
【0047】
また、第1の実施の形態では、遮水材9によって井戸3を深さ方向に2つに区分したが、区分数は2つに限らない。
図6は、井戸3の2箇所に遮水材9を設置した例を示す。
図6に示す浄化システム1aでは、1本の井戸3の2箇所に遮水材9およびポンプ11を設置し、1つの地下水層18aに対して井戸3を深さ方向に3つに区分する。浄化システム1aにおいても、井戸3cに設置されたポンプ11と井戸3dに設置されたポンプ11とを、送水方向が逆になるように制御する。これにより、地盤5内に、矢印に示すような、活性剤の拡散に適した水の流れが生じる。
【0048】
さらに、第1の実施の形態では、
図2に示すように、敷地23内の地盤5に汚染地下水19が流入するのを防ぐために浄化システム1を設置したが、浄化壁25の用途はこれに限らない。敷地内の地盤を流れる汚染地下水が敷地の外部に流出するのを防ぐため、第1の実施の形態で述べた浄化システム1を敷地の下流側の境界部分に設置してもよい。また、第1の実施の形態で述べた浄化システム1を敷地の全体に設置してもよい。
【0049】
図8は、敷地23a全体に浄化システム1を設置した例を示す図である。
図8に示す例では、第1の実施の形態の
図1に示す浄化システム1による浄化壁25−1、浄化壁25−2、…、浄化壁25−nを、矢印Hに示す方向の地下水の流れに対して略垂直に形成する。浄化壁25−1、浄化壁25−2、…、浄化壁25−nは、地下水の流れの上流側または下流側から順に順次形成される。
図8に示す例では、浄化壁25−1、浄化壁25−2、…、浄化壁25−nにより、敷地23aの全体を浄化する。
【0050】
次に、第2の実施の形態について説明する。
図7は地下水の浄化システム41の垂直断面図を示す。
図7に示すように、浄化システム41は、第1の実施の形態に示す浄化システム1とほぼ同様の構成であるが、パイプ13および活性剤注入ポンプ15の代わりに、パイプ39および栄養塩注入ポンプ33を有する。栄養塩注入ポンプ33は、活性剤注入ポンプに相当する。また、コンプレッサ35およびパイプ37をさらに有する。コンプレッサ35は、地下水の溶存酸素濃度を高める手段に相当する。浄化システム41は、ベンゼンや油等の有機物を浄化の対象とする。浄化システム41は、用途に応じて、所定の敷地の上流側または下流側の境界付近や、所定の敷地全体の地盤5に設置される。
【0051】
図7に示す浄化システム41において、複数の井戸3、砂7、遮水材9、ポンプ11は、第1の実施の形態と同様に設置される。
図7では、井戸3aに設置されたポンプ11は、矢印Lに示すように、上向きに送水するように制御される。また、井戸3bに設置されたポンプ11は、矢印Mに示すように、下向きに送水するように制御される。
【0052】
パイプ39は、一端が井戸3に、他端が栄養塩注入ポンプ33に接続される。栄養塩注入ポンプ33は、地盤5上に設置される。栄養塩注入ポンプ33は、パイプ39を介して、井戸3に好気性微生物を活性化させる栄養塩を添加する。栄養塩注入ポンプ33の流量は、井戸3に設置されるポンプ11の流量の1/100以下であり、望ましくは1/1000程度とする。栄養塩は、活性剤に相当する。栄養塩は、例えば、リン酸アンモニウム等の、窒素とリンとを含む水溶液とする。
【0053】
井戸3に添加された栄養塩は、井戸3の地下水に混ざる。井戸3の地下水中の栄養塩の濃度は、ポンプ11の送水による作用で均一となる。井戸3の地下水は、必要に応じて、ポンプ11を稼働させた状態で栄養塩注入ポンプ33を一旦停止して採取され、計測装置(図示せず)を用いて栄養塩の濃度が計測される。その後、栄養塩注入ポンプ33の運転を再開し、栄養塩注入ポンプ33から井戸3内の地下水に栄養塩を添加する際には、地下水中の栄養塩の濃度が所定の管理値となるように、添加する栄養塩の量が調整される。
【0054】
パイプ37は、一端が井戸3に、他端がコンプレッサ35に接続される。コンプレッサ35は、地盤5上に設置される。コンプレッサ35は、パイプ37を介して井戸3に空気を送る。井戸3に空気を送ることにより、井戸3内の地下水中の溶存酸素濃度が上昇する。
【0055】
地下水層での地下水の流れの一般的な特徴として、水平方向への透水性が鉛直方向への透水性よりも大きいことがある。浄化システム41では、ポンプ11を稼働させることにより、地盤5内に
図7の矢印N、矢印O、矢印Pに示す流れが生じる。これにより、汚染地下水の流れの方向に対して垂直な方向に地下水が移動し、井戸3の周囲の地盤5に栄養塩が均一に拡散する。栄養塩が拡散した部分は浄化壁として機能する。浄化壁に流入した汚染地下水中のベンゼンや油等は、浄化壁を透過する間に、栄養塩や溶存酸素により活性化された好気性微生物の働きによって分解され、浄化された地下水が浄化壁から流出する。
【0056】
次に、
図7に示す浄化システム41を用いて地下水を浄化する方法について説明する。浄化システム41を用いた地下水の浄化方法は、浄化システム1を用いた地下水の浄化方法と略同様である。
図3は、ポンプ11の運転開始からの経過時間と栄養塩濃度との関係を示す模式的な図である。
図3において、実線29は栄養塩濃度の変化を示す。また、破線31は栄養塩濃度の管理値を示す。
【0057】
(ステージ27−1)
図3に示すステージ27−1は、ポンプ11を稼動すると同時に、栄養塩注入ポンプ33により栄養塩を井戸3に添加し、地下水の栄養塩の濃度を調整する期間である。
【0058】
ステージ27−1では、まず、浄化システム41を構築する。浄化システム41を構築するには、複数の井戸3、砂7、遮水材9、ポンプ11を、第1の実施の形態と同様にして設置する。さらに、パイプ39および栄養塩注入ポンプ33、パイプ37およびコンプレッサ35を設置して、浄化システム41を完成する。
【0059】
浄化システム41を構築した後、井戸3aに設置したポンプ11を、送水方向が上向きとなるように制御して稼働させる。また、井戸3bに設置したポンプ11を、送水方向が下向きとなるように制御して稼働させる。そして、それぞれの井戸3から地下水を採取し、計測装置(図示せず)により栄養塩濃度および溶存酸素濃度を計測する。ポンプ11の稼働中は、それぞれの井戸3の地下水中の栄養塩濃度および溶存酸素濃度は深さによらず一定となるので、地下水はそれぞれの井戸3の作業しやすい箇所から採取すればよい。
【0060】
次に、栄養塩注入ポンプ33から、パイプ39を介して、井戸3内の地下水に好気性微生物を活性化させる栄養塩を添加する。このとき、地下水中の栄養塩の濃度が
図3の破線31に示す所定の管理値となるようにする。すなわち、破線31と実線29との濃度差に相当する量の栄養塩を算出して添加する。また、コンプレッサ35から、パイプ37を介して、井戸3内の地下水に空気を送り、地下水中の溶存酸素濃度を高める。
【0061】
ステージ27−1では、井戸3に設置したポンプ11を常に稼動させる。そして、ポンプ11が稼働した状態で、栄養塩注入ポンプ33およびコンプレッサ35を停止して地下水を採取し、栄養塩濃度および溶存酸素濃度を計測する作業と、栄養塩注入ポンプ33およびコンプレッサ35を稼働させて地下水に栄養塩および空気を添加する作業とを繰り返す。
【0062】
ステージ27−1では、隣接する井戸3に設置されたポンプ11を、送水方向が逆になるように制御して稼働させることにより、
図7に示すように、井戸上部3a−1と井戸上部3b−1との間の地盤5中に、矢印Nに示すような地下水の流れが生じる。また、井戸下部3a−2と井戸下部3b−2との間の地盤5中に、矢印Oに示すような地下水の流れが生じる。さらに、ポンプ11の周辺の地盤5中に、矢印Pに示すような地下水の流れが生じる。
【0063】
このような地下水の流れにより、時間が経過するにつれて、汚染地下水の流れの方向に対して垂直な方向に栄養塩および溶存酸素を含む地下水が均一に拡散し、浄化壁が形成される。
【0064】
(ステージ27−1の終了)ステージ27−1では、上述したように、井戸3に設置したポンプ11を稼働させた状態で、栄養塩注入ポンプ33およびコンプレッサ35を停止して地下水を採取し、栄養塩濃度および溶存酸素濃度を計測する。このとき、計測した栄養塩の濃度が所定の管理値に達したか否かを判定する。栄養塩濃度(
図3の実線29で示す値)が所定の管理値(
図3の破線31で示す値)に達していない場合は、引き続き栄養塩注入ポンプ33およびコンプレッサ35を稼働させて栄養塩および空気を井戸3に添加する作業を繰り返す。栄養塩濃度(
図3の実線29で示す値)が所定の管理値(
図3の破線31で示す値)に達した場合は、コンプレッサのみを稼働させて栄養塩注入ポンプ33の稼働を終了し、ステージ27−2に進む。
【0065】
(ステージ27−2)
図3に示すステージ27−2は、浄化壁内の地下水の栄養塩の濃度が維持されていることを確認する期間である。ステージ27−2では、複数の井戸3に設置したポンプ11およびコンプレッサ35を引き続き稼働させ、井戸3に空気を送るが、井戸3への栄養塩の添加は行なわない。ステージ27−2では、井戸3に設置したポンプ11を稼働させた状態で、所定の時間ごとにコンプレッサ35を停止して地下水を採取し、計測装置(図示せず)により、栄養塩濃度および溶存酸素濃度を計測する。
【0066】
(ステージ27−2の終了)ステージ27−2では、上述したように、所定の時間ごとに地下水の栄養塩濃度および溶存酸素濃度を計測する。このとき、計測した栄養塩の濃度が所定の期間維持されているか否かを判定する。栄養塩濃度(
図3の実線29で示す値)が所定の管理値(
図3の破線31で示す値)に維持された期間が所定の長さに達していない場合は、複数の井戸3に設置したポンプ11およびコンプレッサ35を引き続き稼働させる。栄養塩濃度(
図3の実線29で示す値)が所定の管理値(
図3の破線31で示す値)に維持された期間が所定の長さに達した場合は、ポンプ11およびコンプレッサ35を停止してステージ27−2を終了する。
【0067】
(ステージ27−3)
図3に示すステージ27−3は、浄化システム41による維持管理を行なわず、浄化壁を微生物分解バリアとして用いる期間である。ステージ27−2までの工程を一定期間実施して、対象となる汚染物質の濃度が十分に低下し、栄養塩濃度を適切な管理値に維持した状態で浄化システム41の稼働を止めれば、その後はメンテナンスフリーの微生物分解バリアにより、コストをかけずに汚染地下水の流入を防止できる。
【0068】
図3に示すステージ27−1およびステージ27−2では、必要に応じて、計測装置(図示せず)により計測した栄養塩濃度や溶存酸素濃度の情報を記憶装置等に記憶させておき、コンピュータ等でこれらの値の変化予測を行うことができる。また、栄養塩の濃度の計測値や予測値、これらの値と栄養塩の濃度の管理値との関係等を、表示装置で適宜表示することができる。
【0069】
27−1およびステージ27−2では、栄養塩濃度を計測する際に、対象となる有機物の濃度を合わせて計測してもよい。地下水中のベンゼンや油等の有機物は、地盤5内の浄化壁中の好気性微生物の働きにより分解処理される。有機物の濃度を計測することにより、有機物の分解状況を確実に把握できる。27−1およびステージ27−2では、有機物の濃度の計測値や予測値、これらの値と有機物の濃度の管理値との関係等を、表示装置で適宜表示してもよい。
【0070】
このように、第2の実施の形態においても、隣接する井戸3にそれぞれ設置されたポンプ11の送水方向が逆になるように制御することにより、隣接する井戸3同士の間に、汚染地下水の流れに略垂直となるような水平方向の流れが生じる。そのため、汚染地下水の周辺への拡散促進を低減できる。また、栄養塩および溶存酸素を添加した地下水が汚染地下水の流れに垂直な方向に対しても速く動いて栄養塩および溶存酸素を均質に拡散させることができ、浄化壁中に微生物活性が不良な場所が発生しない。さらに、地下水中の栄養塩および溶存酸素の濃度を適宜計測することにより、栄養塩および溶存酸素の拡散状況を確実に把握できる。
【0071】
第2の実施の形態では、地下水中の栄養塩濃度や溶存酸素濃度が微生物活性に良好な状態となるように井戸3に栄養塩および空気を添加しながらポンプ11を稼働させ、微生物活性を持続して高める。これにより、地盤5内において速い速度での微生物分解が早期に可能となり、短期間で高性能の浄化壁を作成できる。浄化壁は、従来の浄化壁よりも汚染物質の分解が速いため、壁厚が薄くても、流速が速いまたは汚染物質の濃度が高い汚染地下水を処理することができる。例えば、従来であれば浄化壁厚さを厚くするために2列の注入井戸が必要な場合でも、第2の実施の形態によれば、揚水井戸・注水井戸を1列に配置したもので対応でき、工期短縮および工費削減が可能である。
【0072】
第2の実施の形態では、栄養塩濃度が所定の管理値に達した後、栄養塩の添加を省略することにより、浄化にかかる経費を削減することができる。本発明では、所定の期間、栄養塩の濃度が所定の管理値に維持されていることを確認し、ポンプ11の稼働を停止した後にも、維持管理を行なうことなく浄化壁の微生物分解バリアが機能する。
【0073】
なお、第2の実施の形態では、地下水中の溶存酸素を高める手段として、コンプレッサ35を用いたが、他の設備を用いて地下水中の溶存酸素を高めてもよい。例えば、酸素を井戸3に送る設備や、溶存酸素濃度の高い水を井戸3に送る設備を用いてもよい。
【0074】
第2の実施の形態においても、ポンプ11の送水方向は切り替えが可能である。また、遮水材9によって、井戸3を深さ方向に3つ以上に区分してもよい。
【0075】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。