【実施例】
【0052】
[オリゴマーの合成]
(合成例1)
アクリル酸95質量部、2−(パーフルオロブチル)エチルアクリレート(ユニマッテクス株式会社製、CHEMINOX FAAC−4)3.07質量部、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン(日本油脂(株)製、商品名:ノフマーMSD)1質量部を混合して、混合液を調製した。
【0053】
還流冷却器、滴下漏斗、温度計、窒素導入管および攪拌機が取り付けられたフラスコに、イソプロパノールを290質量部仕込んだ。このイソプロパノールを、窒素雰囲気下、80℃まで昇温し、続いてこのフラスコ中に上記混合液を滴下漏斗から1時間かけて滴下した。この混合液の滴下開始と同時に2,2’−アゾビスイソブチロニトリル6質量部もイソプロパノール10質量部とともに、フラスコ内に投入した。これにより、アクリル酸と2−(パーフルオロブチル)エチルアクリレートとの共重合反応を進行させた。重合反応時間の合計は6時間とした。
【0054】
これにより、R
F=C
4F9のオリゴマーのイソプロパノール溶液(濃度25質量%)を得た。
【0055】
(合成例2)
アクリル酸95質量部、2−(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレート(ユニマッテクス株式会社製、CHEMINOX FAAC−6)4.04質量部を混合して、混合液を調製した。
【0056】
還流冷却器、滴下漏斗、温度計、窒素導入管および攪拌機が取り付けられたフラスコに、イソプロパノールを290質量部仕込んだ。このイソプロパノールを、窒素雰囲気下、80℃まで昇温し、続いてこのフラスコ中に上記混合液を滴下漏斗から1時間かけて滴下した。この混合液の滴下開始と同時に2,2’−アゾビスイソブチロニトリル6質量部もイソプロパノール10質量部とともに、フラスコ内に投入した。これにより、アクリル酸と2−(パーフルオロブチル)エチルアクリレートとの共重合反応を進行させた。重合反応時間の合計は6時間とした。
【0057】
これにより、R
F=C
6F13のオリゴマーのイソプロパノール溶液(濃度25質量%)を得た。
【0058】
(合成例3)
アクリル酸95質量部、2−(パーフルオロオクチル)エチルアクリレート(共栄社化学株式会社製、ライトアクリレートFA−108)5質量部、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン1質量部を混合して、混合液を調製した。
【0059】
還流冷却器、滴下漏斗、温度計、窒素導入管および攪拌機が取り付けられたフラスコに、イソプロパノールを290質量部仕込んだ。このイソプロパノールを、窒素雰囲気下、80℃まで昇温し、続いてこのフラスコ中に上記混合液を滴下漏斗から1時間かけて滴下した。この混合液の滴下開始と同時に2,2’−アゾビスイソブチロニトリル6質量部もイソプロパノール10質量部とともに、フラスコ内に投入した。これにより、アクリル酸と2−(パーフルオロブチル)エチルアクリレートとの共重合反応を進行させた。重合反応時間の合計は6時間とした。
【0060】
これにより、R
F=C
8F
17のオリゴマーのイソプロパノール溶液(濃度25質量%)を得た。
【0061】
(合成例4)
合成例2で得られたR
F=C
6F13のオリゴマーのイソプロパノール溶液(濃度25質量%)10gを、容量が半分程度になるまでエバポレーションした。この溶液を酢酸エチル中に加えることで、分散液を得た。この分散液中には白色沈殿が生じ、白濁していた。この分散液の上澄みを捨て、続いて白色沈殿物を酢酸エチルで二回洗浄した。続いて、洗浄後の白色沈殿物をオーブンで1日間乾燥した後、真空乾燥機で更に乾燥した。これにより、オリゴマーを得た。オリゴマーの収率は67質量%であった。
【0062】
(合成例5)
アクリル酸95質量部、2−(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレート(ユニマッテクス株式会社製、CHEMINOX FAAC−6)4.04質量部を混合して、混合液を調製した。
【0063】
還流冷却器、滴下漏斗、温度計、窒素導入管および攪拌機が取り付けられたフラスコに、蒸留水120質量部、加硫酸アンモニウム0.06質量部仕込んだ。この水を、窒素雰囲気下、80℃まで昇温し、続いてこのフラスコ中に上記混合液を滴下漏斗から1時間かけて滴下した。この混合液の滴下開始と同時に過硫酸アンモニウム0.24質量部も蒸留水24質量部とともに、フラスコ内に投入した。これにより、アクリル酸と2−(パーフルオロブチル)エチルアクリレートとの共重合反応を進行させた。重合反応時間の合計は2時間とした。重合終了後、蒸留水256質量部を加えた。
【0064】
これにより、R
F=C
6F13のポリマーの水溶液(濃度19質量%)を得た。
【0065】
(オリゴマーの評価)
合成例1〜4で得られたオリゴマーの数平均分子量及び分散度を、ゲル浸透クロマトグラフィ(溶離液:THF、ポリスチレン換算)による測定結果に基づいて導出した。合成例5で得られたオリゴマーの数平均分子量及び分散度も、ゲル浸透クロマトグラフィ(溶離液:30mM−LiBr+10mM−リン酸/DMF、ポリスチレン換算)による測定結果に基づいて導出した。
【0066】
また各オリゴマーの
1H,
19FNMR測定を行い、組成比(x:y)の値を
1HNMR測定による測定結果の積分比から算出した。
【0067】
この結果を下記表1に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
合成例1〜3でそれぞれ得られたオリゴマーの、FT−IR測定を行った。合成例1についての結果を
図1(a)に、合成例2についての結果を
図1(b)に、合成例3についての結果を
図1(c)に、それぞれ示す。
【0070】
図1に示すように、合成例1〜3でそれぞれ得られたオリゴマーについてのスペクトルには、3000cm
−1付近にカルボン酸のOH基に起因したピークが存在すると共に、1716cm
−1にエステルのカルボニル基に起因したピークが存在した。
【0071】
[フルオロアルキル基含有オリゴマー/シリカナノコンポジット]
(実施例1〜3)
金属酸化物粒子として平均粒径11nmのシリカ粒子(SiO
2粒子)を用意した。平均粒径は動的光散乱法により測定した値である。金属アルコキシドとしてテトラエトキシシラン(Si(OEt)
4)を用意した。実施例1では合成例1、実施例2では合成例2、実施例3では合成例3でそれぞれ得られたオリゴマーを使用した。
【0072】
オリゴマーの25質量%イソプロパノール溶液1gと、シリカ粒子の30質量%メタノール分散液1.667gと、メタノール20mLとを混合して混合液を得た。この混合液を30分間攪拌してから、この混合液にテトラエトキシシラン0.25mLを加え、更に攪拌した。続いてこの混合液に25質量%アンモニア水溶液0.25mLを加えると、この混合液が直ちに白濁した。続いて、この混合液を攪拌しながら5時間反応させた。
【0073】
次に、この混合液からエバポレーションにより溶媒を除去し、得られた残留物にメタノール20mLを加えて1日攪拌した。これにより得られた混合液中では前記残留物が良好に分散した。この混合液を遠心分離し、更にメタノールで数回リンスした。これによりコンポジット(無機質粒子)の白色沈殿と上澄み液とを得た。コンポジットの白色沈殿はオーブンで乾燥させた。上澄み液は、リンスしても白濁していたため、エバポレーションにより溶媒を除去することで、上澄み液からもコンポジットを取り出し、このコンポジットもオーブンで乾燥した。
【0074】
これにより得られたコンポジットの収率は、実施例1では37%、実施例2では42%、実施例3では42%であった。
【0075】
本実施例におけるコンポジットの合成スキームを下記[化5]に示す。
【0076】
【化5】
【0077】
(実施例4)
金属酸化物粒子として平均粒径11nmのシリカ粒子(SiO
2粒子)を用意した。平均粒径は動的光散乱法により測定した値である。金属アルコキシドとしてテトラエトキシシラン(Si(OEt)
4)を用意した。また、オリゴマーとして合成例4で得られたオリゴマーを使用した。
【0078】
オリゴマー0.25gと、シリカ粒子の30質量%メタノール分散液1.667gと、メタノール20mLとを混合して混合液を得た。この混合液を30分間攪拌してから、この混合液にテトラエトキシシラン0.25mLを加え、更に攪拌した。続いてこの混合液に25質量%アンモニア水溶液0.25mLを加えた。この混合液は、はっきりとは白濁しなかった。続いて、この混合液を攪拌しながら5時間反応させた。
【0079】
次に、この混合液からエバポレーションにより溶媒を除去すると、白色の結晶が得られた。この白色の結晶にメタノール20mLを加えて1日攪拌した。これにより得られた混合液中では前記白色の結晶の分散性が悪かった。この混合液を遠心分離し、更にメタノールで数回リンスした。これによりコンポジットの白色沈殿と上澄み液とを得た。コンポジットの白色沈殿はオーブンで乾燥させた。これにより得られたコンポジットの収率は56%であった。
【0080】
(評価)
実施例1〜4で得られたコンポジットは、アルカリ性条件下におけるゾルーゲル反応により、ナノサイズに制御された微粒子であると考えられる。
【0081】
このコンポジットの平均粒子径を測定するために、動的光散乱(DLS)測定を行った。その結果は、実施例1で32.8±7.9nm、実施例2で35.4±8.7nm、実施例3で91.0±15.6nm、実施例4で25.0±2.4nmであった。フルオロアルキル基の炭素数が8である実施例3ではコンポジットの平均粒径が他のコンポジットよりも大きかった。これは、フルオロアルキル基の炭素数が多いためにフッ素同士の相互作用によって集合体のサイズが大きくなったためと考えられる。調製時にメタノール中での分散性の悪かった実施例4では、平均粒子径が他のコンポジットに比べて小さかった。
【0082】
各実施例において使用したオリゴマー、コンポジットの収率、及び平均粒径の測定結果を、下記表2に示す。
【0083】
【表2】
【0084】
各実施例で得られたコンポジットの熱重量分析(TGA)測定を行った。その結果を
図2に示す。
【0085】
図2に示すように、800℃で焼成されると、それぞれのコンポジットの熱重量減少量は、同じ条件で焼成されたシリカを基準にすると、実施例1で14%、実施例2で22%、実施例3で20%、実施例4で22%であった。このことから、コンポジットは、実施例1ではオリゴマーに由来する部分を14%、実施例2ではオリゴマーに由来する部分を22%、実施例3ではオリゴマーに由来する部分を20%、実施例4ではオリゴマーに由来する部分を22%の各割合で、含有していることがわかった。
【0086】
この熱重量減少は、オリゴマーによってシリカがカプセル化されてコア/コロナ型のナノ粒子となっているコンポジット中のオリゴマーが燃焼したことに起因すると考えられる。実施例2及び実施例4では両方とも同様の熱重量減少を示し、且つ熱重量減少量が最も大きかった。これは、合成例2のオリゴマー、及びこのオリゴマーの再沈殿により得られた合成例4のオリゴマーによりシリカがカプセル化されやすいことを示していると考えられる。一方、実施例1では最も熱重量減少量が少なかった。これは、実施例1のコンポジットの収率が最も低いため、シリカをカプセル化しているオリゴマーが他のコンポジットと比べて少なくなったものと考えられる。
【0087】
実施例1〜4でそれぞれ得られたコンポジットの、FT−IR測定を行った。実施例1についての結果を
図3(a)に、実施例2についての結果を
図3(b)に、実施例3についての結果を
図3(c)に、実施例4についての結果を
図3(d)に、それぞれ示す。
【0088】
図1に示すように、合成例1〜3でそれぞれ得られたオリゴマーについてのスペクトルには、3000cm
−1付近にカルボン酸のOH基に起因したピークが存在すると共に、1716cm
−1にエステルのカルボニル基に起因したピークが存在したが、
図3に示す各実施例のコンポジットについてのスペクトルにも、同様のピークが存在した。このことから、これらのコンポジットが、オリゴマーに由来する構造を備えていることが確認できた。
【0089】
実施例1〜4で得られたコンポジットを水、メタノール、THFに加え、これを2日間攪拌しながら放置することで分散液を得た。この分散液を観察し、コンポジットの分散性が非常に良い場合を◎、分散性が良い場合を○、分散性が悪い場合を△と評価した。この結果を下記表3に示す。
【0090】
【表3】
【0091】
この表3に示すように、いずれのコンポジットも水中での分散性がよいが、THFにはあまり分散しなかった。実施例3で得られたコンポジットは、いずれの液体中でも、分散安定性は比較的低かった。
【0092】
また、コンポジットの分散安定性は、液体が水の場合、メタノールの場合、THFの場合の順に、低くなった。これは三種の各液体の分極の大きさに起因すると考えられる。水、メタノール、THFはすべて極性溶媒である。このうち水は分極が最も大きく、THFは分極が最も小さい。実施例1〜4で用いられたオリゴマーは側鎖にカルボキシル基が存在していることから、分極の大きい水中で溶媒和しやすく、このため水中での分散安定性が高くなったと考えられる。実施例3のコンポジットの分散安定性が比較的よくなかった原因は、平均粒子径が他のコンポジットよりも大きいためと考えられる。
【0093】
[フルオロアルキル基含有オリゴマー/TiO
2ナノコンポジット]
(実施例5〜7)
金属酸化物粒子として平均粒径20nmのチタニア粒子(TiO
2粒子)を用意した。平均粒子径は動的光散乱法により測定した値である。金属アルコキシドは使用しなかった。また、実施例5では合成例1、実施例6では合成例2、実施例7では合成例3でそれぞれ得られたオリゴマーを使用した。
【0094】
オリゴマーの25質量%イソプロパノール溶液1gと、チタニア粒子156mgと、テトラヒロドキシフラン20mLとを混合して混合液を得た。この混合液を30分間攪拌した後、この混合液に25質量%アンモニア水溶液0.25mLを加え、攪拌しながら実施例5では5時間、実施例6では7時間、実施例7では5時間反応させた。
【0095】
次に、この混合液をフラスコ中に移した後、この混合液からエバポレーションにより溶媒を除去した。フラスコ中の残留物をフラスコの壁面からスパチュラで掻き取った。得られた残留物にメタノール20mLを加えて1日攪拌した。これにより得られた混合液を遠心分離し、メタノールで数回リンスした。これによりコンポジットの白色沈殿と上澄み液とを得た。コンポジットの白色沈殿をオーブン及び真空乾燥機で乾燥した。更に、上澄み液からエバポレーションにより溶媒を除去することで、上澄み液からもコンポジットを取り出し、このコンポジットもオーブン及び真空乾燥機で乾燥した。
【0096】
これにより得られたコンポジットの収率は、実施例5では65%、実施例6では82%、実施例7では76%であった。
【0097】
本実施例におけるコンポジットの合成スキームを下記[化6]に示す。
【0098】
【化6】
【0099】
(実施例8)
金属酸化物粒子として平均粒径20nmのチタニア粒子(TiO
2粒子)を用意した。平均粒子径は動的光散乱法により測定した値である。金属アルコキシドは使用しなかった。また、オリゴマーとして合成例4で得られたオリゴマーを使用した。
【0100】
オリゴマー0.25gと、チタニア粒子156mgと、テトラヒロドキシフラン20mLとを混合して混合液を得た。この混合液を30分間攪拌した後、この混合液に25質量%アンモニア水溶液0.25mLを加え、攪拌しながら5時間反応させた。
【0101】
次に、この混合液をフラスコ中に移した後、この混合液からエバポレーションにより溶媒を除去した。フラスコ中の残留物をフラスコの壁面からスパチュラで掻き取った。得られた残留物にメタノール20mLを加えて1日攪拌した。これにより得られた混合液を遠心分離し、メタノールで数回リンスした。これによりコンポジットの白色沈殿と上澄み液とを得た。コンポジットの白色沈殿をオーブン及び真空乾燥機で乾燥した。更に、上澄み液からエバポレーションにより溶媒を除去することで、上澄み液からもコンポジットを取り出し、このコンポジットもオーブン及び真空乾燥機で乾燥した。
【0102】
これにより得られたコンポジットの収率は、65%であった。
【0103】
本実施例におけるコンポジットの合成スキームを下記[化7]に示す。
【0104】
【化7】
【0105】
(評価)
実施例5〜8で得られたコンポジットの平均粒子径を測定するために、動的光散乱(DLS)測定を行った。その結果は、実施例5で18.4±4.2nm、実施例6で16.4±4.2nm、実施例7で17.0±3.9nm、実施例8で19.1±5.1nmであった。
【0106】
このように、コンポジットの平均粒子径は、オリゴマーのフルオロアルキル基の長さに関わらず、ほぼ20nmのサイズに収まった。
【0107】
各実施例において使用したオリゴマー、コンポジットの収率、及び平均粒径の測定結果を、下記表4に示す。
【0108】
【表4】
【0109】
各実施例で得られたコンポジットの熱重量分析(TGA)測定を行った。その結果を
図4に示す。実施例5,8では重量減少量が小さく、実施例6,7では重量減少量が大きかった。
【0110】
実施例6と実施例8との相違は、反応時間の違いと、調製時のIPAの有無である。反応時間が長いとより多くのチタニア粒子がコンポジット化されるはずであるが、実際はそれとは異なる結果が生じているので、IPAの有無によってチタニア粒子の含有量に差が生じたと考えられる。チタニア粒子は超親水性を発揮することから、IPAに対しては分散性が悪く、凝集が生じやすいものと考えられ、IPAの存在によってチタニア粒子のサイズが比較的大きくなって、コンポジット化しにくいのではないかと考えられる。但し、IPAの量はTHFに比べ非常に少ないので、他に原因がある可能性も高い。
【0111】
また、実施例5〜8でコンポジットのサイズはほとんど変わることなく、コンポジット中のチタニア粒子の量が異なること、並びにフルオロアルキル基が長いとコンポジット中のチタニア粒子の量が少なくなることから、フッ素と酸化チタンの間に斥力が働いているとも考えられ、この相互作用はフッ素の撥水性、及び酸化チタンの超親水性に起因するものと考えられる。
【0112】
合成例1〜3でそれぞれ得られたオリゴマー、並びに実施例5〜8でそれぞれ得られたコンポジットの、FT−IR測定を行った。その結果を
図5に示す。
【0113】
図1に示すように、合成例1〜3でそれぞれ得られたオリゴマーについてのスペクトルには、3200cm
−1付近のカルボン酸のOH基に起因した幅広いピークが存在すると共に、1700cm
−1付近にエステルのカルボニル基に起因した鋭いピークが存在したが、
図5に示すように各実施例のコンポジットについてのスペクトルにも、同様のピークが存在した。このことから、これらのコンポジットが、オリゴマーに由来する構造を備えていることが確認できた。また、各実施例のコンポジットについてのスペクトルには、チタニア粒子に起因した500cm
−1付近の強いピークもみられた。
【0114】
実施例5〜7でそれぞれ得られたコンポジット、並びにチタニア粒子(TiO
2粒子)の、XRD測定を行った。その結果を
図6に示す。
【0115】
図6に示されるように、実施例5〜7でそれぞれ得られたコンポジットでは、チタニア粒子の場合と同様のピークの存在が確認された。これにより、各コンポジットでは、チタニア粒子がコンポジット化されていることが確認された。
【0116】
実施例5〜8で得られたコンポジットを水、メタノール、THFに加え、これを2日間攪拌しながら放置することで分散液を得た。この分散液を観察し、コンポジットの分散性が非常に良い場合を◎、分散性が良い場合を○、分散性が悪い場合を△と評価した。この結果を下記表5に示す。
【0117】
【表5】
【0118】
実施例5〜8のいずれの場合でも、水中における分散性安定性が最も高かった。水分散液を振ると、泡立ちが生じやすかったことから、コンポジットは外側に超親水性のチタニア粒子が、内側に撥水性のチタニア粒子が配列したミセルを形成していると考えられる。
【0119】
尚、いずれの場合も、分散液は白濁していたが、液体がメタノール、THFの場合は2分ほどで少し沈殿が生じ始め、液体が水の場合は30分ほどで少し沈殿が生じ始めた。
【0120】
[フルオロアルキル基含有オリゴマー/酸化亜鉛ナノコンポジット]
(実施例9〜11)
金属酸化物粒子として平均粒径26.7nmの酸化亜鉛粒子(ZnO粒子)を用意した。平均粒子径は動的光散乱法により測定した値である。金属アルコキシドは使用しなかった。実施例1では合成例1、実施例2では合成例2、実施例3では合成例3でそれぞれ得られたオリゴマーを使用した。
【0121】
オリゴマーの25質量%イソプロパノール溶液0.32gと、酸化亜鉛粒子100mgと、イソプロパノール10mLとを混合して混合液を得た。この混合液を30分間攪拌した後、攪拌しながら5時間反応させた。これにより、混合液は白色となった。
【0122】
次に、この混合液からエバポレーションにより溶媒を除去し、白色の生成物を得た。この白色の生成物にメタノール10mLを加えて白色の混合液を得た。この混合液を1日攪拌した。その結果、白色の生成物はきれいに分散した。続いて、この混合液を約15分間遠心分離し、更にメタノールで数回リンスした。これによりコンポジットの白色沈殿と、僅かに白濁した上澄み液とを得た。コンポジットの白色沈殿をメタノールで5回リンスし、続いてこのコンポジットの白色沈殿をアルミニウム箔で包んでオーブンで1日乾燥させた。これによりコンポジットの白色粉末を得た。
【0123】
コンポジットの収量は、実施例9では100.8mg、実施例10では78.7mg、実施例11では82.9mgであった。
【0124】
本実施例におけるコンポジットの合成スキームを下記[化8]に示す。
【0125】
【化8】
【0126】
(実施例12)
合成例4で得られたオリゴマー0.08gと、酸化亜鉛粒子100mgと、イソプロパノール10mLとを混合して混合液を得た。この混合液を30分間攪拌した後、攪拌しながら5時間反応させた。これにより、混合液は白色となった。
【0127】
次に、この混合液からエバポレーションにより溶媒を除去し、白色の生成物を得た。この白色の生成物にメタノール10mLを加えて白色の混合液を得た。この混合液を1日攪拌した。その結果、白色の生成物はきれいに分散した。続いて、この混合液を約15分間遠心分離し、更にメタノールで数回リンスした。これによりコンポジットの白色沈殿と、僅かに白濁した上澄み液とを得た。コンポジットの白色沈殿をメタノールで5回リンスし、続いてこのコンポジットの白色沈殿をアルミニウム箔で包んでオーブンで1日乾燥させた。これによりコンポジットの白色粉末を得た。コンポジットの収量は148.9mgであった。
【0128】
(評価)
実施例9〜12のコンポジットの平均粒子径を測定するために、動的光散乱(DLS)測定を行った。その結果は、実施例9で32.1±7.7nm、実施例10で57.3±15.3nm、実施例11で72.7±13.1nm、実施例12で299.7±66.9nmであった。これらの結果からは、粒子サイズは酸化亜鉛単独が一番小さく、コンポジットでは側鎖が長くなるにつれて粒子サイズが大きくなることがわかった。これは、側鎖が長いとフッ素同士の相互作用が大きくなり、それによって粒子サイズも大きくなったものと考えられる。
【0129】
各実施例で得られたコンポジットの熱重量分析(TGA)測定を行った。その結果を
図7に示す。
【0130】
図7に示すように、熱重量減少量は、酸化亜鉛粒子のみでの7%、実施例9では43%、実施例10では28%、実施例11では28%、実施例12では43%であった、このことから、コンポジット中の酸化亜鉛含有量は実施例10と実施例11では79%、実施例9と実施例12では64%と確認できた。熱重量減少量に差が生じた原因の一つとして、コンポジットを調整する際のリンスの仕方が違うことが考えられる。
【0131】
酸化亜鉛単独、並びに実施例9〜12でそれぞれ得られたコンポジットの、FT−IR測定を行った。実施例9についての結果を
図8(a)に、実施例10についての結果を
図8(b)に、実施例11についての結果を
図8(c)に、実施例12についての結果を
図8(d)に、酸化亜鉛単独についての結果を
図8(e)に、それぞれ示す。
【0132】
図8に示すように、酸化亜鉛単独の場合と、実施例9〜12の場合とで、スペクトルのピークに目立った違いはみられなかった。また
図1に示すように合成例1〜3でそれぞれ得られたオリゴマーについてのスペクトルには、3000cm
−1付近に非常にブロードなカルボン酸のOH基に起因したピークが存在すると共に、1700cm
−1にエステルのカルボニル基に起因したピークが存在したが、
図8に示すように実施例9〜12の各コンポジットについてのスペクトルにも、同様のピークが存在した。このことから、これらのコンポジットが、オリゴマーに由来する構造を備えていることが確認できた。
【0133】
実施例9〜11でそれぞれ得られたコンポジット、並びに酸化亜鉛粒子の、XRD測定を行った。その結果を
図9に示す。
【0134】
図9に示されるように、実施例9〜11でそれぞれ得られたコンポジットでは、酸化亜鉛粒子の場合と同様のピークの存在が確認された。これにより、各コンポジットでは、酸化亜鉛粒子がコンポジット化されていることが確認された。
【0135】
各実施例において使用したオリゴマー、コンポジットの収率、平均粒径、及びコンポジット中の亜鉛粒子の割合を、下記表6にまとめて示す。
【0136】
【表6】
【0137】
実施例9〜12で得られたコンポジットを水、メタノール、THFに加え、これを2日間攪拌しながら放置することで分散液を得た。この分散液を観察し、コンポジットの分散性が非常に良い場合を◎、分散性が良い場合を○、分散性が悪い場合を△と評価した。この結果を下記表7に示す。
【0138】
【表7】
【0139】
この表7に示すように、いずれのコンポジットも特に水中での分散性が良好であった。実施例11で得られたコンポジットは、特に高い分散安定性を示した。分散性に違いが生じるのは、液体の極性の違いによるものと考えられる。
【0140】
[フルオロアルキル基含有オリゴマー/Al
2O
3コンポジット]
(実施例13)
金属酸化物粒子として平均粒径23.3±6.1nmのアルミナ粒子(Al
2O
3粒子)を用意した。平均粒子径は動的光散乱法により測定した値である。金属アルコキシドは使用しなかった。オリゴマーとしては合成例1で得られたオリゴマーを使用した。
【0141】
オリゴマーの25質量%イソプロパノール溶液1gと、アルミナ粒子156mgと、テトラヒロドキシフラン20mLと、25質量%アンモニア水溶液0.25mLとを加え、攪拌しながら5時間反応させることで、混合液を得た。この混合液は白濁した溶液であり、容器の底には固形物が分散せずに沈んでいた。
【0142】
次に、この混合液からエバポレーションにより溶媒を除去することで、白色固体を得た。この白色固体にメタノールを加え、一晩攪拌することで、白色固体をメタノール中に分散させることで、混合液を得た。この混合液には、少量の白色固体が沈んで残っていた。この混合液を遠心分離し、白色の固形状の沈殿物と薄い白色の上澄み液とを得た。固形状の沈殿物をメタノールで数回リンスし、更にオーブンで乾燥させた。これによりコンポジットの白色粉末を得た。収量を測定したところ、0.2286gであった。
【0143】
本実施例におけるコンポジットの合成スキームを下記[化9]に示す。
【0144】
【化9】
【0145】
(実施例14)
金属酸化物粒子として平均粒径23.3±6.1nmのアルミナ粒子(Al
2O
3粒子)を用意した。平均粒子径は動的光散乱法により測定した値である。金属アルコキシドは使用しなかった。オリゴマーとしては合成例2で得られたオリゴマーを使用した。
【0146】
オリゴマーの25質量%イソプロパノール溶液1gと、アルミナ粒子156mgと、テトラヒロドキシフラン20mLと、25質量%アンモニア水溶液0.25mLとを加え、攪拌しながら5時間反応させることで、混合液を得た。この混合液は白濁した溶液であり、容器の底には固形物が分散せずに沈んでいた。
【0147】
次に、この混合液からエバポレーションにより溶媒を除去することで、白色固体を得た。この白色固体にメタノールを加え、一晩攪拌した。このとき、始めのうちはメタノール中に大きめの白色固体の塊が存在していたが、この塊は徐々に小さくなっていき、最終的には少量の白色固体が沈んで残っていた。このようにして得られた混合液を遠心分離し、白色の固形状の沈殿物と無色透明の上澄み液とを得た。固形状の沈殿物をメタノールで数回リンスし、更にオーブンで乾燥させた。これによりコンポジットの白色粉末を得た。収量を測定したところ、0.330gであった。
【0148】
本実施例におけるコンポジットの合成スキームを下記[化10]に示す。
【0149】
【化10】
【0150】
(実施例15)
金属酸化物粒子として平均粒径23.3±6.1nmのアルミナ粒子(Al
2O
3粒子)を用意した。平均粒子径は動的光散乱法により測定した値である。金属アルコキシドは使用しなかった。オリゴマーとしては合成例3で得られたオリゴマーを使用した。
【0151】
オリゴマーの25質量%イソプロパノール溶液1gと、アルミナ粒子156mgと、テトラヒロドキシフラン20mLと、25質量%アンモニア水溶液0.25mLとを加え、攪拌しながら5時間反応させることで、混合液を得た。この混合液は白濁した溶液であり、容器の底には固形物が分散せずに沈んでいた。
【0152】
次に、この混合液からエバポレーションにより溶媒を除去することで、白色固体を得た。この白色固体にメタノールを加え、一晩攪拌することで、白色固体をメタノール中に分散させることで、混合液を得た。この混合液には、少量の白色固体が沈んで残っていた。この混合液を遠心分離し、白色の固形状の沈殿物と上澄み液とを得た。固形状の沈殿物をメタノールで数回リンスし、更にオーブンで乾燥させた。これによりコンポジットの白色粉末を得た。収量を測定したところ、0.2207gであった。
【0153】
本実施例におけるコンポジットの合成スキームを下記[化11]に示す。
【0154】
【化11】
【0155】
(実施例16)
金属酸化物粒子として平均粒径23.3±6.1nmのアルミナ粒子(Al
2O
3粒子)を用意した。平均粒子径は動的光散乱法により測定した値である。金属アルコキシドは使用しなかった。オリゴマーとしては合成例4で得られたオリゴマーを使用した。
【0156】
オリゴマー0.25gと、アルミナ粒子156mgと、テトラヒロドキシフラン20mLと、25質量%アンモニア水溶液0.25mLとを加え、攪拌しながら5時間反応させることで、混合液を得た。この混合液は白濁した溶液であり、容器の底には固形物が分散せずに沈んでいた。
【0157】
次に、この混合液からエバポレーションにより溶媒を除去することで、白色固体を得た。この白色固体にメタノールを加え、一晩攪拌することで、白色固体をメタノール中に分散させることで、混合液を得た。この混合液には、少量の白色固体が沈んで残っていた。この混合液を遠心分離し、白色の固形状の沈殿物と上澄み液とを得た。固形状の沈殿物をメタノールで数回リンスし、更にオーブンで乾燥させた。これによりコンポジットの白色粉末を得た。収量を測定したところ、0.2514gであった。
【0158】
本実施例におけるコンポジットの合成スキームを下記[化12]に示す。
【0159】
【化12】
【0160】
(評価)
実施例13〜16で得られたコンポジットの平均粒子径を測定するために、動的光散乱(DLS)測定を行った。その結果は、実施例13で24.0±5.6nm、実施例14で30.4±7.7nm、実施例15で76.2±15.7nm、実施例16で25.7±5.2nmであった。フルオロアルキル基の炭素鎖が長いほど粒子サイズが大きくなるのは、炭素鎖の分だけ分子量が増えるためだと考えられる。
【0161】
各実施例において使用したオリゴマー、コンポジットの収率、及び平均粒径を、下記表8にまとめて示す。
【0162】
【表8】
【0163】
各実施例で得られたコンポジットの熱重量分析(TGA)測定を行った。その結果を
図10に示す。
【0164】
図10に示すように、800℃で焼成されると、それぞれのコンポジットの熱重量減少量は、実施例13で21%、実施例14で51%、実施例15で32%、実施例16で47%であった。フルオロアルキル基の炭素鎖が長いほど熱重量減少量が多かった。
【0165】
各実施例でそれぞれ得られたコンポジットの、FT−IR測定を行った。その結果を
図11に示す。
【0166】
図11に示すように、いずれのコンポジットにおいても似たような位置にピークが確認され、このことから、これらのコンポジットはきちんとカプセル化されているものと考えられる。
【0167】
各実施例で得られたコンポジットを水、メタノール、THFに加え、これを30分間攪拌しながら放置することで分散液を得た。この分散液を観察し、コンポジットの分散性が非常に良い場合を◎、分散性が良い場合を○、分散性が悪い場合を△と評価した。この結果を下記表9に示す。
【0168】
【表9】
【0169】
この表9に示すように、いずれのコンポジットも水中での分散性がよかった。
【0170】
(比較例1)
金属酸化物粒子として平均粒径10nmのシリカ粒子(SiO
2粒子)を用意した。平均粒径は動的光散乱法により測定した値である。金属アルコキシドとしてテトラエトキシシラン(Si(OEt)
4)を用意した。オリゴマーとしては合成例5で得られたオリゴマーを使用した。
【0171】
オリゴマーの20質量%水溶液1gと、シリカ粒子の30質量%メタノール分散液1.667gと、メタノール20mLとを混合して混合液を得た。この混合液を30分間攪拌してから、この混合液にテトラエトキシシラン0.25mLを加え、更に攪拌した。続いてこの混合液に25質量%アンモニア水溶液0.25mLを加えると、この混合液が直ちに白濁した。続いて、この混合液を攪拌しながら5時間反応させた。
【0172】
次に、この混合液からエバポレーションにより溶媒を除去し、得られた残留物にメタノール20mLを加えて1日攪拌した。続いて、この混合液を遠心分離し、更にメタノールで数回リンスした。これにより分離したコンポジット(無機質粒子)をオーブンで乾燥した。
【0173】
本比較例におけるコンポジットの合成スキームを下記[化13]に示す。
【0174】
【化13】
【0175】
(評価)
コンポジットの収率は、94.0%であった。コンポジットの調製中にコンポジットをメタノール中で分散させた際、攪拌していない状態ではコンポジットがメタノール中で速やかに沈降してしまった。このため、このコンポジットのメタノール中での分散性は低いものと判断される。尚、比較例1で得られたコンポジットの粒径は過大であることから、測定することができなかった。
【0176】
(比較例2)
金属酸化物粒子として平均粒径23nmのアルミナ粒子(Al
2O
3粒子)を用意した。平均粒子径は動的光散乱法により測定した値である。金属アルコキシドは使用しなかった。オリゴマーとしては合成例5で得られたオリゴマーを使用した。
【0177】
オリゴマーの20質量%水溶液1gと、アルミナ粒子156mgと、テトラヒロドキシフラン20mLと、25質量%アンモニア水溶液0.25mLとを加え、攪拌しながら5時間反応させることで、混合液を得た。この混合液には、アンモニア水溶液を加えた直後に白濁が生じていた。
【0178】
次に、この混合液からエバポレーションにより溶媒を除去することで、固形分を得た。この固形分にメタノールを加え、これにより得られた混合液を遠心分離し、更に混合液から分子した固形分をオーブンで乾燥させた。これによりコンポジットを得た。
【0179】
本比較例におけるコンポジットの合成スキームを下記[化14]に示す。
【0180】
【化14】
【0181】
(評価)
比較例2ではコンポジットの収率は63.2%であった。
【0182】
比較例2で得られたコンポジットを蒸留水、メタノール、THFに加え、これを30分間攪拌しながら放置することで分散液を得た。この分散液を観察し、コンポジットの分散性が非常に良い場合を◎、分散性が良い場合を○、分散性が悪い場合を△と評価した。この結果を下記表10に示す。
【0183】
【表10】
【0184】
上記のとおり、比較例2で得られたコンポジットの分散性は悪かった。尚、比較例2で得られたコンポジットの粒径は過大であることから測定できなかった。