(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記複数の容器のうちの少なくとも1つから液体が溢れていると判断された場合に、液体が溢れていることを示す警報を表示するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【背景技術】
【0002】
従来から、検体と試薬とを反応容器に分注し、この反応容器内で生じる反応液の吸光度を測定することによって検体を分析する分析装置が知られている。この分析装置は、光源と受光部とを有する測光部を備えており、光源が反応液を収容した反応容器に光を照射した後、受光部が受光した反応容器内の反応液を透過した光量をもとに吸光度を算出することによって検体の分析を行っている。
【0003】
ところで、吸光度を算出する方法の一つとして、反応容器が測光部を通過するごとに、測光部が反応容器上における複数の測定ポイントに対して光を連続照射し、反応液を透過した光をそれぞれ受光し、受光した光を平均化することによって反応液の吸光度を算出する方法がある。この方法は、測定ポイントごとの光量のばらつきを防止し、吸光度を算出することができる。しかし、検体と試薬との混ざり具合が不十分な測定ポイント、あるいは反応液に異物等が混入している測定ポイントが存在する場合、この測定ポイントによって反応液を透過する光が遮断されるため、この測定ポイントの光量が低くなり、吸光度が本来の値よりも高い値として算出される場合があった。
【0004】
このため、誤測定と考えられる吸光度測定データを分析対象から除外して、信頼性の高い吸光度測定データのみを用いて分析を行なう分析装置が知られている。
【0005】
複数の測定ポイント内で通常の化学反応の光量とは異なる突出した測定ポイントの光量を除外する分析装置は、例えば特許文献1に記載されている。
【0006】
複数の測定ポイントにおける吸光度データを測定し、複数の測定ポイントについて吸光度データ変化率を算出し、算出した吸光度データ変化率が許容範囲外の吸光度データを除外する分析装置は、例えば特許文献2に記載されている。
【0007】
複数の測定ポイントにおける吸光度データを測定し、複数の測定ポイントについての吸光度データ変化率の標準偏差を算出し、算出した標準偏差を用いて、傷や汚れを有する反応容器を判別し、その反応容器の吸光度データを除外する分析装置は、例えば特許文献3に記載されている。
【0008】
これらの分析装置は、誤測定と考えられる吸光測定データを分析対象から除外するというものであるが、液溢れを検知することはできない。また、従来の液溢れ検知方法では、追加の検知装置を据え付ける必要があった。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の方法は、液体が収容されている複数の容器を備える分析装置において、前記複数の容器のうちの少なくとも1つから液体が溢れていることを検知する方法であって、
前記方法は、
時刻T1において、前記複数の容器のうちの1つの容器の複数の箇所で前記1つの容器に収容されている液体の吸光度を測定するステップと、
時刻T1において前記1つの容器の複数の箇所で測定された液体の吸光度の標準偏差を第1の標準偏差として算出するステップと、
時刻T2において、前記1つの容器に収容されている液体の吸光度を測定するステップと、
時刻T2において前記1つの容器の複数の箇所で測定された液体の吸光度の標準偏差を第2の標準偏差として算出するステップと、
前記第1の標準偏差と前記第2の標準偏差との差が所定閾値よりも大きいか否かを判断するステップと、
前記第1の標準偏差と前記第2の標準偏差との差が前記所定閾値よりも大きいと判断された場合に、前記複数の容器のうちの少なくとも1つから液体が溢れていると判断するステップと
を含み、容器から液体が溢れていると判断することができる。
【0011】
前記方法は、
時刻T3において、前記複数の容器のうちの別の1つの容器の複数の箇所で前記別の1つの容器に収容されている液体の吸光度を測定するステップと、
時刻T3において前記別の1つの容器の複数の箇所で測定された液体の吸光度の標準偏差を第3の標準偏差として算出するステップと、
時刻T4において、前記別の1つの容器に収容されている液体の吸光度を測定するステップと、
時刻T4において前記別の1つの容器の複数の箇所で測定された液体の吸光度の標準偏差を第4の標準偏差として算出するステップと、
前記第3の標準偏差と前記第4の標準偏差との差が前記所定閾値よりも大きいか否かを判断するステップと
をさらに含んでもよく、
前記複数の容器のうちの少なくとも1つから液体が溢れていると判断するステップは、
前記第1の標準偏差と前記第2の標準偏差との差が前記所定閾値よりも大きいと判断され、かつ、前記第3の標準偏差と前記第4の標準偏差との差が前記所定閾値よりも大きいと判断された場合に、前記複数の容器のうちの少なくとも1つから液体が溢れていると判断してもよい。
【0012】
前記方法は、前記複数の容器のうちの少なくとも1つから液体が溢れていると判断された場合に、前記分析装置を停止するステップをさらに含んでもよい。
【0013】
前記方法は、前記複数の容器のうちの少なくとも1つから液体が溢れていると判断された場合に、液体が溢れていることを示す警報を表示するステップをさらに含んでもよい。
【0014】
本発明の検知装置は、液体が収容されている複数の容器を備える分析装置において、前記複数の容器のうちの少なくとも1つから液体が溢れていることを検知する検知装置であって、
前記検知装置は、
時刻T1において、前記複数の容器のうちの1つの容器の複数の箇所で前記1つの容器に収容されている液体の吸光度を測定する手段と、
時刻T1において前記1つの容器の複数の箇所で測定された液体の吸光度の標準偏差を第1の標準偏差として算出する手段と、
時刻T2において、前記1つの容器に収容されている液体の吸光度を測定する手段と、
時刻T2において前記1つの容器の複数の箇所で測定された液体の吸光度の標準偏差を第2の標準偏差として算出する手段と、
前記第1の標準偏差と前記第2の標準偏差との差が所定閾値よりも大きいか否かを判断する手段と、
前記第1の標準偏差と前記第2の標準偏差との差が前記所定閾値よりも大きいと判断された場合に、前記複数の容器のうちの少なくとも1つから液体が溢れていると判断する手段と
を備える、検知装置であり、容器から液体が溢れていると判断することができる。
【0015】
前記検知装置は、
時刻T3において、前記複数の容器のうちの別の1つの容器の複数の箇所で前記別の1つの容器に収容されている液体の吸光度を測定する手段と、
時刻T3において前記別の1つの容器の複数の箇所で測定された液体の吸光度の標準偏差を第3の標準偏差として算出する手段と、
時刻T4において、前記別の1つの容器に収容されている液体の吸光度を測定する手段と、
時刻T4において前記別の1つの容器の複数の箇所で測定された液体の吸光度の標準偏差を第4の標準偏差として算出する手段と、
前記第3の標準偏差と前記第4の標準偏差との差が前記所定閾値よりも大きいか否かを判断する手段と
をさらに備えてもよく、
前記複数の容器のうちの少なくとも1つから液体が溢れていると判断する手段は、
前記第1の標準偏差と前記第2の標準偏差との差が前記所定閾値よりも大きいと判断され、かつ、前記第3の標準偏差と前記第4の標準偏差との差が前記所定閾値よりも大きいと判断された場合に、前記複数の容器のうちの少なくとも1つから液体が溢れていると判断してもよい。
【0016】
本発明の分析装置は、
液体が収容されている複数の容器と、
前記複数の容器のうちの少なくとも1つの容器に収容されている液体を分析する手段と、
前記複数の容器のうちの少なくとも1つから液体が溢れていることを検知する検知装置と
を備える分析装置であって、
前記検知装置は、
時刻T1において、前記複数の容器のうちの1つの容器の複数の箇所で前記1つの容器に収容されている液体の吸光度を測定する手段と、
時刻T1において前記1つの容器の複数の箇所で測定された液体の吸光度の標準偏差を第1の標準偏差として算出する手段と、
時刻T2において、前記1つの容器に収容されている液体の吸光度を測定する手段と、
時刻T2において前記1つの容器の複数の箇所で測定された液体の吸光度の標準偏差を第2の標準偏差として算出する手段と、
前記第1の標準偏差と前記第2の標準偏差との差が所定閾値よりも大きいか否かを判断する手段と、
前記第1の標準偏差と前記第2の標準偏差との差が前記所定閾値よりも大きいと判断された場合に、前記複数の容器のうちの少なくとも1つから液体が溢れていると判断する手段と
を備える、分析装置であり、容器から液体が溢れていると判断することができる。
【0017】
前記検知装置は、
時刻T3において、前記複数の容器のうちの別の1つの容器の複数の箇所で前記別の1つの容器に収容されている液体の吸光度を測定する手段と、
時刻T3において前記別の1つの容器の複数の箇所で測定された液体の吸光度の標準偏差を第3の標準偏差として算出する手段と、
時刻T4において、前記別の1つの容器に収容されている液体の吸光度を測定する手段と、
時刻T4において前記別の1つの容器の複数の箇所で測定された液体の吸光度の標準偏差を第4の標準偏差として算出する手段と、
前記第3の標準偏差と前記第4の標準偏差との差が前記所定閾値よりも大きいか否かを判断する手段と、
をさらに備えてもよく、
前記複数の容器のうちの少なくとも1つから液体が溢れていると判断する手段は、
前記第1の標準偏差と前記第2の標準偏差との差が前記所定閾値よりも大きいと判断され、かつ、前記第3の標準偏差と前記第4の標準偏差との差が前記所定閾値よりも大きいと判断された場合に、前記複数の容器のうちの少なくとも1つから液体が溢れていると判断してもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、分析装置が備える容器から液体が溢れていることを検知することができる。また、本発明により、検知後に分析装置をすぐに停止することができ、液溢れによる被害を食い止めることができる。また、本発明により、分析装置が備える容器から液体が溢れていることをユーザーに知らせることができ、誤報告を防止することができる。さらに、本発明による機能を分析装置に搭載しても原価を上げずにすませることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
【0021】
図1は、本発明の実施の形態の分析装置1の構成の一例を示す。
図1に示すように、分析装置1は、反応容器20に収容されている液体の吸光度を測定する測定機構2と、測定機構2を含む分析装置1全体の制御を行うとともに測定機構2における測定結果の分析を行う制御機構3とを備える。分析装置1は、これらの二つの機構が連携することによって、分析装置1が備える反応容器から液体が溢れていることの検知、および検体の分析を自動的に行う。
【0022】
まず、測定機構2について説明する。
図1に示すように、測定機構2は、血液や尿等の検体を収容した複数の検体容器11aを保持する検体ラック11bを図中の矢印方向に順次移送する検体移送部11と、検体移送部11の所定の位置で静止している検体容器11aが収容する検体を反応容器20に分注する検体分注機構12と、複数の反応容器20を円周方向に沿って保持し、図中の矢印方向に周回することにより反応容器20を所定の位置まで移送する反応テーブル13と、反応容器20内に分注される試薬が収容された試薬容器15を複数収容する試薬庫14と、試薬庫14内の所定の位置で静止している試薬容器15が収容する試薬を反応容器20に分注する試薬分注機構16と、反応容器20に分注された検体と試薬とを攪拌する攪拌部17と、反応容器20に収容されている液体の吸光度を測定する測光部18と、反応容器20を洗浄する洗浄部19とを備える。
【0023】
つぎに、制御機構3について説明する。制御機構3は、制御部31、入力部32、分析部33、液溢れ検知部34、記憶部35、出力部36および送受信部37を備える。入力部32、分析部33、液溢れ検知部34、記憶部35、出力部36および送受信部37は、制御部31に電気的に接続されている。
【0024】
制御部31は、CPU等によって実現され、分析装置1の各部の処理および動作を制御する。制御部31は、分析装置1の各構成部から入力される情報について所定の処理を行い、かつ、これらの各構成部に所定の処理を行った情報を出力する。
【0025】
入力部32は、キーボード、マウス、入出力機能を備えたタッチパネル等によって実現され、検体の分析に必要な諸情報や分析動作の指示情報等を外部から取得する。
【0026】
分析部33は、測光部18によって測定された吸光度の測定結果に基づいて検体の成分分析等を行う。
【0027】
液溢れ検知部34は、反応容器20の洗浄工程中に、測光部18によって測定された反応容器20に収容されている液体の吸光度に基づいて反応容器20のうちの少なくとも1つから液体が溢れていることを検知する。液溢れ検知部34は、標準偏差算出部34a、標準偏差判断部34bおよび液溢れ判断部34cを備える、液溢れ検知部34は、報知処理部34dをさらに備えていてもよい。標準偏差算出部34aは、反応容器20が測光部18を1回通過する間に測光部18が反応容器20の複数の箇所で測定した複数の液体の吸光度の標準偏差を、反応容器20が測光部18を通過するごとに算出する。標準偏差判断部34bは、反応容器20のうちの特定の反応容器のそれぞれについて、ある時刻においてその反応容器が測光部18を1回通過する間に測光部18が測定した複数の液体の吸光度の標準偏差算出部34aが算出した標準偏差と、別の時刻においてその反応容器が測光部18を1回通過する間に測光部18が測定した複数の液体の吸光度の標準偏差算出部34aが算出した標準偏差との差(絶対値)が所定閾値より大きいか否かを判断する。液溢れ判断部34cは、一つの実施の形態では、標準偏差判断部34bが標準偏差の差が所定閾値より大きいと判断した場合に、反応容器20のうちの少なくとも1つから液体が溢れていると判断する。報知処理部34dは、液溢れ判断部34cが反応容器20のうちの少なくとも1つから液体が溢れていると判断した場合に、液体が溢れていることを示す警報を、制御部31を介して出力部36に出力する。
【0028】
記憶部35は、情報を磁気的に記憶するハードディスクと、分析装置1が処理を実行する際に、この処理にかかる各種プログラムをハードディスクからロードして電気的に記憶するメモリとを用いて実現され、検体の分析結果等を含む諸情報を記憶する。記憶部35は、CD−ROM、DVD−ROM、PCカード等の記憶媒体に記憶された情報を読み取ることができる補助記憶装置を備えてもよい。
【0029】
出力部36は、ディスプレイ、プリンタおよびスピーカ等によって実現され、各種情報を出力する。
【0030】
送受信部37は、図示しない通信ネットワークを介して所定の形式にしたがって情報の送受信を行うインターフェースとしての機能を有する。
【0031】
以上のように構成された分析装置1では、反応テーブル13上で順次移送される複数の反応容器20の洗浄部19による洗浄工程中に、測光部18が反応容器20に収容されている液体の吸光度を測定し、この測定結果をもとに液溢れ検知部34が分析することによって、反応容器20のうちの少なくとも1つから液体が溢れているかどうかの検知が行なわれる。また、以上のように構成された分析装置1で検体の成分分析等を行なう場合には、反応テーブル13上で順次移送される複数の反応容器20に対して、試薬分注機構16が試薬庫14の試薬容器15から試薬を分注した後、検体分注機構12が検体吸引位置の検体容器11aから検体を分注する。その後、測光部18が試薬と検体とを反応させた状態の反応液の吸光度を測定し、この測定結果をもとに分析部33が分析することによって、検体の成分分析等が自動的に行われる。その後、洗浄部19が測光部18による測定が終了した後に搬送される反応容器20を搬送させながら洗浄する。
【0032】
つぎに、測光部18および反応容器20について説明する。
図2は、測光部18の概略構成を示す模式図である。
図3は、反応容器20の斜視図である。測光部18は、
図2に示すように、光源18a、受光部18bおよびA/Dコンバータ18cを備える。光源18aおよび受光部18bは、反応テーブル13が保持する反応容器20を挟んで向かい合う位置に配置される。光源18aは、反応テーブル13の内周側に配置される。受光部18bは、反応テーブル13の外周側に配置される。光源18aは、ハロゲンランプ等によって実現され、分析用の光を反応容器20に照射する。受光部18bは、凹面回折格子等の回折格子と、回折格子によって分光された光を測定項目によって決まるスペクトルごとに測定し、この光量に対応する信号を出力する受光素子アレイ、CCDセンサ、CMOSセンサ等の受光センサとを有している。A/Dコンバータ18cは、受光部18bから出力される信号をデジタル値に変換し、制御部31に出力する。
【0033】
反応容器20は、
図3に示すように、例えば容量が数nL〜数mL程度の微少な容器であり、側壁20a、側壁20bおよび底壁20cによって液体を保持する液体保持部20dが形成され、液体保持部20dの上部に開口部20eを有する。反応容器20は、測光部18の光源18aから照射される分析光BL(例えば、340〜800nmの波長の分析光)に含まれる光の80%以上を透過する透明素材、たとえば、耐熱ガラスを含むガラス、環状オレフィンやポリスチレン等の合成樹脂が使用される。反応容器20は、側壁20bを反応テーブル13の半径方向に向けて配置される。また、反応容器20は、一つの実施の形態では、反応テーブル13の回転に伴って測光部18の光源が照射する分析光BLを通過する際に、分析光BLが透過する測光領域Amとして側壁20bの下部が利用される。なお、反応容器20の形状は、反応容器20の複数の箇所での吸光度の測定のばらつきがないようになっておればよく、
図3に示すように直方体の形状である必要はなく、反応容器の側壁のうち分析光が当たる2つの面が平行であればよい。
【0034】
図4は、反応容器20が測光部18を1回通過する間に反応容器20の11箇所で反応容器20に収容されている液体の吸光度を測定する場合の正常時(左側の図:液溢れがない場合)と異常時(右側の図:液溢れがある場合)における反応容器20の模式図である。
図4の測光サンプリングの細長い領域のそれぞれが、液体の吸光度を測定する箇所に対応する。正常時では、測光面に洗浄水または洗剤が付着していないので、測光サンプリングデータのばらつきは小さく、吸光度の標準偏差は小さい。正常時の測光サンプリングデータのばらつきが測光面の汚れや傷の影響によるものなので、この吸光度の標準偏差は、反応容器毎、波長毎に固有の値になる。従って、正常時に同一反応容器の液体の吸光度を同一波長で測定した場合の吸光度の標準偏差の再現性は高い。このように、正常時では、同一反応容器の液体の吸光度を同一波長で測定した場合の吸光度の標準偏差の再現性が高いので、2つの時刻において同一波長で測定した同一反応容器の液体のそれぞれの時刻での吸光度の標準偏差の差は小さい。一方、異常時では、測光面に溢れた洗浄水または洗剤が付着しているので、測光サンプリングデータのばらつきが大きく、吸光度の標準偏差は大きい。異常時において測光サンプリングデータのばらつきが大きくなる理由を
図4の右側の図に示される例で説明する。左側から1番目〜2番目の測光サンプリングにおいて測定される吸光度は、正常時の吸光度と同じであるが、左側から3番目〜11番目の測光サンプリングにおいて測定される吸光度は、正常時の吸光度に、測光面に付着した洗浄水または洗剤の吸光度を加えたものとなる。従って、異常時において測光サンプリングデータのばらつきは大きくなる。また、測光面に溢れた洗浄水または洗剤の付着の仕方により測光サンプリングデータのばらつきが変わるので、正常時とは対照的に異常時では、同一反応容器の液体の吸光度を同一波長で測定した場合の吸光度の再現性は低い。このように、異常時では、同一反応容器の液体の吸光度を同一波長で測定した場合の吸光度の標準偏差の再現性が低いので、2つの時刻において同一波長で測定した同一反応容器の液体のそれぞれの時刻での吸光度の標準偏差の差は大きい。
【0035】
本発明では、正常時では、2つの時刻において同一波長で測定した同一反応容器の液体のそれぞれの時刻での吸光度の標準偏差の差は小さく、異常時では、2つの時刻において同一波長で測定した同一反応容器の液体のそれぞれの時刻での吸光度の標準偏差の差は大きいというこの特徴を利用して、液溢れを検知する。
【0036】
具体的には、一つの実施の形態では、2つの時刻において同一波長で測定した同一反応容器の液体のそれぞれの時刻での吸光度の標準偏差の差と所定閾値との大小を比較して、液溢れの有無を検知する。標準偏差の差が所定閾値未満である場合には、正常時に該当するので、液溢れが無いと判断し、標準偏差の差が所定閾値以上である場合には、異常時に該当するので、液溢れが有ると判断する。
【0037】
図5は、分析装置1が備える複数の反応容器のうちの少なくとも1つから液体が溢れていることを検知するための処理手順の一例を示す。この処理手順は、反応容器20の洗浄工程中に行われる。なお、この処理手順では、吸光度は同一波長で測定する。
【0038】
ステップS501:反応テーブル13により移送されて複数の反応容器20のうちの特定の1つの反応容器が測光部18を通過する時刻T1において、測光部18により、前記特定の1つの反応容器に収容されている液体の吸光度を所定数の箇所で測定する。
【0039】
ステップS502:標準偏差算出部34aにおいて、ステップS501で測定された吸光度から、時刻T1において前記特定の1つの反応容器の所定数の箇所で測定された液体の吸光度の標準偏差を算出する。算出された標準偏差は記憶部35に記憶される。
【0040】
ステップS503:反応テーブル13により移送されて前記特定の1つの反応容器が再度測光部18を通過する時刻T2において、測光部18により、前記特定の1つの反応容器に収容されている液体の吸光度を所定数の箇所で測定する。
【0041】
ステップS504:標準偏差算出部34aにおいて、ステップS503で測定された吸光度から、時刻T2において前記特定の1つの反応容器の所定数の箇所で測定された液体の吸光度の標準偏差を算出する。算出された標準偏差は記憶部35に記憶される。
【0042】
ステップS505:ステップS502において算出されて記憶部35に記憶された標準偏差と、ステップS504において算出されて記憶部35に記憶された標準偏差との差が所定閾値よりも大きいか否かを判断する。なお、所定閾値は記憶部35に予め記憶されている。
【0043】
ステップS506:ステップS505において標準偏差の差が所定閾値よりも大きいと判断された場合に、反応容器20のうちの少なくとも1つの反応容器から液体が溢れていると判断する。
【0044】
液体が溢れていると判断された場合に、分析装置1を停止してもよく、報知処理部34dにより、出力部36を介して、液体が溢れていることを示す警報を表示してもよい。
【0045】
図5の処理手順では、ステップS505において標準偏差の差が所定閾値以下であると判断された場合に、反応テーブル13により移送されて前記特定の1つの反応容器が再度測光部18を通過する時刻T3において、測光部18により、前記特定の1つの反応容器に収容されている液体の吸光度を所定数の箇所で測定し、標準偏差算出部34aにおいて、測定された吸光度から、時刻T3において前記特定の1つの反応容器の所定数の箇所で測定された液体の吸光度の標準偏差を算出し、算出された標準偏差を記憶部35に記憶し、時刻T2について算出されて記憶部35に記憶された標準偏差と、時刻T3について算出されて記憶部35に記憶された標準偏差との差が所定閾値よりも大きいか否かを判断するというようにステップS503〜S505を繰り返し、所定閾値より大きいと判断された場合にはステップS506に進み、所定閾値以下であると判断された場合には再度S503〜S505を繰り返してもよい。
【0046】
前記特定の1つの反応容器は、複数の反応容器20のうちのどれでもよい。
【0047】
時刻T1、時刻T2は、前記特定の1つの反応容器に収容されている液体の吸光度を測定可能な時刻、つまり、前記特定の1つの反応容器が測光部18を通過する間であればどの時刻でもよく、時刻T1と時刻T2との差も任意である。
【0048】
時刻T2は、時刻T1の次に前記特定の1つの反応容器が測光部18を通過する時刻であってもよい。
【0049】
例えば洗浄工程が、洗剤洗浄工程1、洗剤洗浄工程2、洗浄水洗浄工程1、洗浄水洗浄工程2、洗浄水洗浄工程3、洗浄水洗浄工程4、吸引工程1、乾燥工程1、乾燥工程2という順序で行われる場合に、ステップS501またはステップS503のいずれかの測光ステップを洗浄水洗浄工程4の後に毎回行なってもよく、ステップS501またはステップS503のいずれかの測光ステップを各洗浄工程(洗剤洗浄工程1〜2、洗浄水洗浄工程1〜4)の後に毎回行なってもよい。洗浄水洗浄工程4の後に測光ステップを毎回行うことには、洗浄水洗浄工程4の後の状態が、反応容器が十分洗浄された状態であるので、汚れや検液残りによって誤検知する可能性が低いという利点があり、各洗浄工程の後に測光ステップを毎回行うことには、判断する部分が増えるので検知感度が高くなるという利点がある。
【0050】
図5の処理手順では、吸光度を同一波長で測定するようにしているが、複数の波長で測定してもよい。ただし、ステップS505において用いられる2つの標準偏差および所定閾値の3つの値は同一波長に対するものである必要がある。
【0051】
図6は、分析装置1が備える複数の反応容器のうちの少なくとも1つから液体が溢れていることを検知するための処理手順の別の一例を示す。この処理手順は、反応容器20の洗浄工程中に行われる。なお、この処理手順では、吸光度は同一波長で測定する。
【0052】
ステップS601:反応テーブル13により移送されて複数の反応容器20のうちの特定の1つの反応容器が測光部18を通過する時刻T1において、測光部18により、前記特定の1つの反応容器に収容されている液体の吸光度を所定数の箇所で測定する。
【0053】
ステップS602:標準偏差算出部34aにおいて、ステップS601で測定された吸光度から、時刻T1において前記特定の1つの反応容器の所定数の箇所で測定された液体の吸光度の標準偏差を算出する。算出された標準偏差は記憶部35に記憶される。
【0054】
ステップS603:反応テーブル13により移送されて前記特定の1つの反応容器が再度測光部18を通過する時刻T2において、測光部18により、前記特定の1つの反応容器に収容されている液体の吸光度を所定数の箇所で測定する。
【0055】
ステップS604:標準偏差算出部34aにおいて、ステップS603で測定された吸光度から、時刻T2において前記特定の1つの反応容器の所定数の箇所で測定された液体の吸光度の標準偏差を算出する。算出された標準偏差は記憶部35に記憶される。
【0056】
ステップS605:ステップS602において算出されて記憶部35に記憶された標準偏差と、ステップS604において算出されて記憶部35に記憶された標準偏差との差が所定閾値よりも大きいか否かを判断する。なお、所定閾値は記憶部35に予め記憶されている。
【0057】
ステップS606:反応テーブル13により移送されて複数の反応容器20のうちの特定の別の1つの反応容器が測光部18を通過する時刻T3において、測光部18により、前記特定の別の1つの反応容器に収容されている液体の吸光度を所定数の箇所で測定する。
【0058】
ステップS607:標準偏差算出部34aにおいて、ステップS606で測定された吸光度から、時刻T3において前記特定の別の1つの反応容器の所定数の箇所で測定された液体の吸光度の標準偏差を算出する。算出された標準偏差は記憶部35に記憶される。
【0059】
ステップS608:反応テーブル13により移送されて前記特定の別の1つ反応容器が再度測光部18を通過する時刻T4において、測光部18により、前記特定の別の1つの反応容器に収容されている液体の吸光度を所定数の箇所で測定する。
【0060】
ステップS609:標準偏差算出部34aにおいて、ステップS608で測定された吸光度から、時刻T4において前記特定の別の1つの反応容器の所定数の箇所で測定された液体の吸光度の標準偏差を算出する。算出された標準偏差は記憶部35に記憶される。
【0061】
ステップS610:ステップS607において算出されて記憶部35に記憶された標準偏差と、ステップS609において算出されて記憶部35に記憶された標準偏差との差が所定閾値よりも大きいか否かを判断する。なお、所定閾値は、ステップS605で用いられる所定閾値と同じである。
【0062】
ステップS611:ステップS605において標準偏差の差が所定閾値よりも大きいと判断され、かつ、ステップS610において標準偏差の差が所定閾値よりも大きいと判断された場合に、反応容器20のうちの少なくとも1つの反応容器から液体が溢れていると判断する。
【0063】
液体が溢れていると判断された場合に、分析装置1を停止してもよく、報知処理部34dにより、出力部36を介して、液体が溢れていることを示す警報を表示してもよい。
【0064】
ステップS605またはステップS610において標準偏差の差のいずれかが所定閾値以下であると判断された場合に、反応テーブル13により移送されて前記特定の1つの反応容器が再度測光部18を通過する時刻T5において、測光部18により、前記特定の1つの反応容器に収容されている液体の吸光度を所定数の箇所で測定し、標準偏差算出部34aにおいて、測定された吸光度から、時刻T5において前記特定の1つの反応容器の所定数の箇所で測定された液体の吸光度の標準偏差を算出し、算出された標準偏差を記憶部35に記憶し、時刻T2について算出されて記憶部35に記憶された標準偏差と、時刻T5について算出されて記憶部35に記憶された標準偏差との差が所定閾値よりも大きいか否かを判断し、反応テーブル13により移送されて前記特定の別の1つ反応容器が再度測光部18を通過する時刻T6において、測光部18により、前記特定の別の1つの反応容器に収容されている液体の吸光度を所定数の箇所で測定し、標準偏差算出部34aにおいて、測定された吸光度から、時刻T6において前記特定の別の1つの反応容器の所定数の箇所で測定された液体の吸光度の標準偏差を算出し、算出された標準偏差を記憶部35に記憶し、時刻T4について算出されて記憶部35に記憶された標準偏差と、時刻T6について算出されて記憶部35に記憶された標準偏差との差が所定閾値よりも大きいか否かを判断するというようにステップS603〜S605、S608〜S610を繰り返し、前記特定の1つの反応容器についての標準偏差の差および前記特定の別の1つの反応容器についての標準偏差の差がともに所定閾値より大きいと判断された場合にはステップS611に進み、いずれかが所定閾値以下であると判断された場合には再度S603〜S605、S608〜S610を繰り返してもよい。
【0065】
前記特定の1つの反応容器および前記特定の別の1つの反応容器は、複数の反応容器20のうちのどれでもよい。前記特定の1つの反応容器と前記特定の別の1つの反応容器との関係も任意である。前記特定の1つの反応容器と前記特定の別の1つの反応容器との関係は、5分の1周分だけ離れているという関係であってもよく、2分の1周分だけ離れているという関係であってもよい。
【0066】
時刻T1、時刻T2は、前記特定の1つの反応容器に収容されている液体の吸光度を測定可能な時刻、つまり、前記特定の1つの反応容器が測光部18を通過する間であればどの時刻でもよく、時刻T1と時刻T2との差も任意である。
【0067】
時刻T2は、時刻T1の次に前記特定の1つの反応容器が測光部18を通過する時刻であってもよい。
【0068】
同様に、時刻T3、時刻T4は、前記特定の別の1つの反応容器に収容されている液体の吸光度を測定可能な時刻、つまり、前記特定の別の1つの反応容器が測光部18を通過する間であればどの時刻でもよく、時刻T3と時刻T4との差も任意である。
【0069】
時刻T4は、時刻T3の次に前記特定の別の1つの反応容器が測光部18を通過する時刻であってもよい。
【0070】
例えば洗浄工程が、洗剤洗浄工程1、洗剤洗浄工程2、洗浄水洗浄工程1、洗浄水洗浄工程2、洗浄水洗浄工程3、洗浄水洗浄工程4、吸引工程1、乾燥工程1、乾燥工程2という順序で行われる場合に、ステップS601、ステップS603、ステップS606、またはステップS608のいずれかの測光ステップを洗浄水洗浄工程4の後に毎回行なってもよく、ステップS601、ステップS603、ステップS606、またはステップS608のいずれかの測光ステップを全洗浄工程(洗剤洗浄工程1〜2、洗浄水洗浄工程1〜4)の後に毎回行なってもよい。洗浄水洗浄工程4の後に測光ステップを毎回行うことには、洗浄水洗浄工程4の後の状態が、反応容器が十分洗浄された状態であり、汚れや検液残りによって誤検知する可能性が低いという利点があり、各洗浄工程の後に測光ステップを毎回行うことには、判断する部分が増えるので検知感度が高くなるという利点がある。
【0071】
また、
図6の処理手順では、吸光度を同一波長で測定するようにしているが、複数の波長で測定してもよい。ただし、ステップS605、ステップS610において用いられる2つの標準偏差および所定閾値の3つの値は同一波長に対するものである必要がある。
【0072】
図6に示す実施の形態では、液体が溢れていること以外の理由(時刻T1と時刻T2との間で反応容器の気泡が移動したという理由等)から標準偏差の差が所定閾値以上となったことにより
図5に示す実施の形態では生じ得る誤判断が生じる可能性を下げることができる。液体が溢れていること以外の理由から標準偏差の差が所定閾値以上になることは、極めてまれなことなので、そのような極めてまれなことが2回連続して起こる可能性が極めて低いからである。
【0073】
図5に示す実施の形態では、1つの反応容器についての標準偏差の差が所定閾値より大きいかどうかの判断に基づいて、反応容器20のうちの少なくとも1つの反応容器から液体が溢れていると判断し、
図6に示す実施の形態では、2つの反応容器についての標準偏差の差が共に所定閾値より大きいかどうかの判断に基づいて、反応容器20のうちの少なくとも1つの反応容器から液体が溢れていると判断しているが、反応容器から液体が溢れていると判断するために用いる反応容器の数は、
図5、
図6に示される実施の形態の1個または2個に限定されない。3個以上であってもよい。
【0074】
また、反応容器20が円状に配置されていて反応テーブル13により円周方向に移送される構成を有する分析装置1を記載したが、この構成は説明を目的としたものであり、本発明はこの構成には限定されない。本発明では、測定対象の反応容器が測光部18により測定可能なように測定対象の反応容器または測光部18が移動可能な構成であればよい。このような構成においても本発明による液体が溢れていることを検知することが可能であることは明らかである。
【0075】
また、測光部18と液溢れ検知部34とが離れている構成を有する分析装置1を記載したが、この構成は説明を目的としたものであり、本発明はこの構成には限定されない。本発明では、測光部18と液溢れ検知部34を検知装置という1つの装置として構成してもよい。このような構成においても本発明による液体が溢れていることを検知することが可能であることは明らかである。
【0076】
図5、
図6に示す実施の形態において用いられる所定閾値は所定の閾値であり、記憶部35に記憶されているものであるが、以下、
図6に示す実施の形態について、その所定閾値の決定方法の一例を説明する。
【0077】
所定閾値は、十分な数の標準偏差データ(
図6に示す実施の形態のステップS604、ステップS609において算出される標準偏差の差のデータ)を収集し、そのデータと誤検知の発生確率から求める。
【0078】
装置寿命7年間の間に装置が1回誤検知する頻度に設定すると、その確率は、1日に5時間、1月に25日間、1時間1ユニットあたり1000回のテストを行う場合には、
総テスト:5(時間/日)×1000(テスト/時間/ユニット)×25(日/月)×12(月/年)×7(年)=1050万テスト/ユニットであるので、
誤検知確率:1/1050万≒9.52×10
−8となる。
【0079】
つまり、
図6に示す実施の形態において標準偏差の差が2回連続して閾値を超える確率が9.52×10
−8ということになる。
【0080】
この時、標準偏差の差が1回閾値を超える確率は、二項分布を利用することによって求められる。
【0081】
一般に、ある事象が起こる確率がpの試行をn回行った時にその事象がx回起こる確率P(x)は、二項分布に従うと、P(x)=
nC
xp
x(1−p)
n−x (式1)となる。
【0082】
ここで考えている状況下では、
pは、正常時に標準偏差の差が1回閾値を超える確率に対応し、
P(x)は、標準偏差の差が2回連続して閾値を超える確率に対応するので、約9.52×10
−8であり、
nは、判断回数に対応するので、2であり、
xは、閾値を超える回数に対応するので、2である。
【0083】
上記(式1)にこれらの値を代入すると、p=309×10
−6となる。従って、閾値は、標準偏差の差データの中で、上記で求めたpの確率となる位置である。つまり、100万個のデータがある場合には、所定閾値は、差の大きい方から309番目の差の値と決定される。
【0084】
ここでは
図6に示す実施の形態の場合について説明したが、他の実施の形態の場合についても同様に所定閾値を求めることができる。
【0085】
以上のように、本発明の好ましい実施の形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施の形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施の形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。