特許第5711646号(P5711646)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5711646
(24)【登録日】2015年3月13日
(45)【発行日】2015年5月7日
(54)【発明の名称】ダイオード
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/861 20060101AFI20150416BHJP
   H01L 29/868 20060101ALI20150416BHJP
   H01L 29/06 20060101ALI20150416BHJP
【FI】
   H01L29/91 C
   H01L29/91 K
   H01L29/06 301F
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2011-224879(P2011-224879)
(22)【出願日】2011年10月12日
(65)【公開番号】特開2012-124464(P2012-124464A)
(43)【公開日】2012年6月28日
【審査請求日】2014年1月9日
(31)【優先権主張番号】特願2010-256107(P2010-256107)
(32)【優先日】2010年11月16日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 隆司
(72)【発明者】
【氏名】戸倉 規仁
(72)【発明者】
【氏名】白木 聡
(72)【発明者】
【氏名】高橋 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 晋也
【審査官】 須原 宏光
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−535812(JP,A)
【文献】 特開平08−316480(JP,A)
【文献】 特開平11−233795(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体層と、
前記半導体層の表面に設けられているカソード電極と、
前記半導体層の表面に設けられており、前記カソード電極から離れているアノード電極と、を備えており、
前記半導体層は、前記半導体層の表層部に設けられているとともに前記カソード電極に接する第1導電型のカソード領域と、前記半導体層の表層部に設けられているとともに前記アノード電極に接する第2導電型のアノード領域とを有しており、
前記アノード領域は、前記半導体層の表面から第1深さまで拡散しているとともに第1濃度の表面濃度を有する第1拡散領域と、前記半導体層の表面から前記第1深さよりも深い第2深さまで拡散しているとともに前記第1濃度よりも薄い第2濃度の表面濃度を有する第2拡散領域と、前記半導体層の表面から前記第2深さよりも深い第3深さまで拡散しているとともに前記第2濃度よりも薄い第3濃度の表面濃度を有する第3拡散領域と、を有しており、
前記第1拡散領域は、前記第2拡散領域と前記第3拡散領域で覆われており、
前記第2拡散領域は、前記カソード領域側の第1側面と、前記カソード領域側とは反対側の第2側面と、前記第1側面と前記第2側面の間を伸びる底面を有しており、
前記第3拡散領域は、前記第2拡散領域の前記第1側面と前記底面の間の第1コーナー部と前記第2側面と前記底面の間の第2コーナー部の少なくともいずれか一方を覆っており、
前記第2拡散領域の前記底面の一部は、前記第3拡散領域で覆われており、
前記第2拡散領域の前記底面の他の一部は、前記第3拡散領域で覆われていないダイオード。
【請求項2】
前記第3拡散領域は、前記第2拡散領域の前記第1コーナー部と前記第2コーナー部の双方を覆っている請求項1に記載のダイオード。
【請求項3】
前記アノード電極は、前記第1拡散領域とオーミック接触しており、前記第2拡散領域とショットキー接触している請求項1又は2に記載のダイオード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイオードに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、絶縁分離技術を利用して、SOI(Silicon on Insulator)基板に複数種類の半導体素子を集積した高耐圧ICの開発が進められている。このような高耐圧ICには、ダイオードが組み込まれている。このようなSOI基板に形成されるダイオードは、横型で構成されていることが多い。特許文献1及び2には、横型ダイオードの一例が開示されている。
【0003】
横型ダイオードは、n型のカソード領域と、p型のアノード領域と、カソード領域とアノード領域を隔てているn型のドリフト領域を備えている。アノード領域は、高濃度な第1拡散領域とその高濃度な第1拡散領域を覆っているとともに第1拡散領域よりも不純物濃度が薄い第2拡散領域を備えている。アノード領域は、2種類の拡散領域で構成されていることが多い。一般的に、高濃度な第1拡散領域は、アノード電極との電気的な接続を良好とするために、及び順バイアス時の正孔の注入量を調整するために、その不純物濃度及び拡散深さが設定されている。また、第1拡散領域を覆っている第2拡散領域は、第1拡散領域とともに順バイアス時の正孔の注入量を調整するために、及び逆回復時において第1拡散領域に向けて流れる正孔の集中を緩和するために、その不純物濃度及び拡散深さが設定されている。
【0004】
例えば、高濃度な第1拡散領域を覆っている第2拡散領域の不純物濃度が濃いと、順バイアス時のオン抵抗は低下するものの、ドリフト領域に注入される正孔量が増加して逆回復電荷量が増加し、スイッチング損失が増加してしまう。一方、第2拡散領域の不純物濃度が薄いと、ドリフト領域に注入される正孔量が低下してスイッチング損失は低下するものの、順バイアス時のオン抵抗が増加してしまう。このため、第2拡散領域の不純物濃度は、ある程度の濃度に設定されるのが望ましい。また、第2拡散領域の拡散深さが深いと、順バイアス時のオン抵抗は低下するものの、ドリフト領域に注入される正孔量が増加して逆回復電荷量が増加し、スイッチング損失が増加してしまう。一方、第2拡散領域の拡散深さが浅いと、ドリフト領域に注入される正孔量が低下してスイッチング損失は低下するものの、順バイアス時のオン抵抗が増加してしまう。このため、第2拡散領域の拡散深さも、ある程度の深さに設定されるのが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−233795号公報
【特許文献2】特開2006−270034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記したように、2種類の拡散領域で構成されたアノード領域では、アノード領域の輪郭を画定する第2拡散領域が、ある程度の不純物濃度と拡散深さで構成されていることから、アノード領域にはある程度の曲率を有するコーナー部が形成される。このアノード領域のコーナー部には、逆回復時において高電界が加わるとともに逆回復電流の正孔が流れ込む。このため、逆回復時には、そのコーナー部近傍でダイナミックアバランシェ現象が発生し、逆回復時のキャリア量が増加する。この結果、逆回復電荷量が増加してスイッチング損失が増加してしまう。
【0007】
本明細書で開示される技術は、逆回復特性に優れた横型ダイオードを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書で開示されるダイオードでは、アノード領域が少なくとも3つの拡散領域で構成されていることを特徴としている。第3の拡散領域は、極めて薄い不純物濃度を有しており、アノード領域のコーナー部を構成している。第3拡散領域の不純物濃度は極めて薄いので、第3拡散領域が設けられていても、順バイアス時のキャリアの注入量の増加は抑えられる。一方、不純物濃度の薄い第3拡散領域がアノード領域のコーナー部を構成しているので、逆回復時のコーナー部の電界強度が緩和され、逆回復時のダイナミックアバランシェ現象を抑えることができる。このため、逆回復時のダイナミックアバランシェ現象に起因するキャリア量の増加が抑えられるので、逆回復時の逆回復電荷量が低く抑えられ、スイッチング損失が低下する。
【0009】
本明細書で開示されるダイオードは、半導体層とカソード電極とアノード電極を備えている。カソード電極とアノード電極は、半導体層の表面に設けられており、両者間に距離を置いて離れて設けられている。半導体層は、第1導電型のカソード領域と第2導電型のアノード領域を有している。カソード領域は、半導体層の表層部に設けられているとともにカソード電極に接している。アノード領域は、半導体層の表層部に設けられているとともに、アノード電極に接している。アノード領域は、3つの拡散領域で構成されており、第1拡散領域と第2拡散領域と第3拡散領域を有している。第1拡散領域は、半導体層の表面から第1深さまで拡散しており、第1濃度の表面濃度を有している。第2拡散領域は、半導体層の表面から第1深さよりも深い第2深さまで拡散しており、第1濃度よりも薄い第2濃度の表面濃度を有している。第3拡散領域は、半導体層の表面から第2深さよりも深い第3深さまで拡散しており、第2濃度よりも薄い第3濃度の表面濃度を有している。第1拡散領域は、第2拡散領域と第3拡散領域で覆われている。第1拡散領域は、全体が第2拡散領域のみで覆われており、その第2拡散領域を第3拡散領域が覆うような形態でもよい。あるいは、第1拡散領域は、一部が第2拡散領域で覆われており、他の一部が第3拡散領域で覆われていてもよい。第2拡散領域は、カソード領域側の第1側面と、カソード領域側とは反対側の第2側面と、第1側面と第2側面の間を伸びる底面を有している。第3拡散領域は、第2拡散領域の第1コーナー部と第2コーナー部の少なくともいずれか一方を覆っている。第2拡散領域の第1コーナー部は、第1側面と底面の間に存在している。第2拡散領域の第2コーナー部は、第2側面と底面の間に存在している。
【0010】
本明細書で開示されるダイオードでは、第3拡散領域が、第2拡散領域の第1コーナー部と第2コーナー部の双方を覆っているのが望ましい。この形態によると、第1コーナー部と第2コーナー部の双方の電界強度が緩和され、逆回復時のダイナミックアバランシェ現象が顕著に抑制される。
【0011】
本明細書で開示されるダイオードでは、第2拡散領域の底面の一部は、第3拡散領域で覆われていないのが望ましい。この形態によると、キャリアの注入量の増加を抑えながら、逆回復時のダイナミックアバランシェ現象を抑制することができる。
【0012】
本明細書で開示されるダイオードでは、アノード電極は、第1拡散領域とオーミック接触しており、第2拡散領域とショットキー接触しているのが望ましい。この形態によると、順バイアス時のキャリアの注入量が抑えられるので、逆回復電荷量が抑えられる。
【発明の効果】
【0013】
本明細書で開示される技術によると、逆回復特性に優れた横型ダイオードを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、図2のI-I線に対応した要部断面図であり、ダイオード1Aの構成を示す。
図2図2は、ダイオード1Aが形成されているSOI基板の要部平面図を示す(なお、SOI基板上の電極等は削除した状態で図示されている)。
図3図3は、カソード領域のレイアウトが異なるダイオード1Aの変形例を示す。
図4図4は、カソード領域のレイアウトが異なるダイオード1Aの他の変形例を示す。
図5図5は、アノード領域の拡大要部断面図を示す。
図6図6は、アノード領域を製造する過程の拡大要部断面図を示す(1)。
図7図7は、アノード領域を製造する過程の拡大要部断面図を示す(2)。
図8図8は、アノード領域を製造する過程の拡大要部断面図を示す(3)。
図9図9は、ダイオードの逆回復電流と電圧の関係を示す。
図10図10は、複数のダイオード1Aが配置された構成の一例を示す。
図11図11は、複数のダイオード1Aが配置された構成の他の一例を示す。
図12図12は、ダイオード1Bの要部平面図を示す。
図13図13は、ダイオード1Cの要部平面図を示す。
図14図14は、ダイオード1Dの要部断面図を示す。
図15図15は、ダイオード1Eの要部断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書で開示される技術の特徴を整理しておく。
(第1特徴)ダイオードは、半導体下層と埋込み絶縁層と半導体上層が積層した積層基板に形成されている。前記積層基板は、SOI基板であるのが望ましい。
(第2特徴)第1特徴において、ダイオードは、半導体上層を一巡する絶縁分離トレンチで囲まれる島領域に形成されている。
(第3特徴)第2特徴において、ダイオードのアノード領域は、絶縁分離トレンチに沿って島領域の周縁を一巡している。ダイオードのアノード領域は、絶縁分離トレンチの側面に接しているのが望ましい。
(第4特徴)ダイオードのアノード領域では、高濃度アノード拡散領域が低濃度アノード拡散領域に接触するのが望ましい。
(第5特徴)ダイオードのアノード領域では、カソード領域側の第1コーナー部を覆う低濃度アノード拡散領域とカソード領域とは反対側の第2コーナー部を覆う低濃度アノード拡散領域が形成されているのが望ましい。この場合、第1コーナー部を覆う低濃度アノード拡散領域の拡散深さが第2コーナー部を覆う低濃度アノード拡散領域の拡散深さよりも深いのが望ましい。
【実施例1】
【0016】
図1に示されるように、横型のダイオード1Aは、n型又はp型の半導体下層2と埋込み絶縁層3とn-型の半導体上層4が積層したSOI(Silicon On Insulator)基板5に形成されている。図2に示されるように、ダイオード1Aは、絶縁分離トレンチ8で囲まれた半導体上層4の島領域内に形成されている。絶縁分離トレンチ8は、半導体上層4の表面から半導体上層4を貫通して埋込み絶縁層3まで達しており、平面視したときに半導体上層4を一巡している。一例では、半導体下層2と半導体上層4の材料には単結晶シリコンが用いられており、埋込み絶縁層3の材料には酸化シリコンが用いられている。埋込み絶縁層3は、耐圧500V以上を実現するために、その厚みが約3μm以上に設定されている。半導体上層4は、耐圧500V以上を実現するために、その不純物濃度が約7×1014cm−3であり、厚みが約10〜20μmである。
【0017】
図1に示されるように、ダイオード1Aは、半導体上層4の表面に設けられているカソード電極6とアノード電極7とLOCOS酸化膜32と抵抗性フィールドプレート34を備えている。カソード電極6とアノード電極7は、半導体上層4の表面において、両者間に距離を置いて配置されているとともに、電気的に絶縁している。カソード電極6とアノード電極7の材料にはチタン(Ti)/窒化チタン(TiN)/アルミニウム(Al)の積層電極が用いられており、チタンが半導体上層4に接触している。そのチタン部分では、必要に応じて、チタンにシリコンが混入したシリサイドが用いられてもよい。LOCOS酸化膜32は、カソード電極6とアノード電極7の間に設けられている。抵抗性フィールドプレート34は、LOCOS酸化膜32の表面に設けられており、一端がカソード電極6に電気的に接続されており、他端がアノード電極7に電気的に接続されている。LOCOS酸化膜32と抵抗性フィールドプレート34は、半導体上層4の表層部において、カソード電極6とアノード電極7の間の電位分布を均一化する。
【0018】
半導体上層4の表層部には、n型のカソード領域10とp型のアノード領域20が形成されている。カソード領域10は、カソード電極6に接している。アノード領域20は、アノード電極7に接している。カソード領域10とアノード領域20の間には、ドリフト領域30が形成されている。ドリフト領域30は、半導体上層4にカソード領域10とアノード領域20を形成した残部である。ドリフト領域30には、必要に応じて、高耐圧化のための半導体領域(例えば、リサーフ領域)が形成されていてもよい。
【0019】
カソード領域10は、n+型の高濃度カソード拡散領域10aとn型の低濃度カソード拡散領域10bを備えている。低濃度カソード拡散領域10bの拡散深さは、高濃度カソード拡散領域10aの拡散深さよりも深い。このため、高濃度カソード拡散領域10aの全体は、低濃度カソード拡散領域10bで覆われている。なお、低濃度カソード拡散領域10bは、必要に応じて設けられていなくてもよい。図2に示されるように、カソード領域10は、絶縁分離トレンチ8で囲まれる島領域の中央に配置されており、略矩形の形状を有している。また、高濃度カソード拡散領域10aは、複数個に分断されており、各高濃度カソード拡散領域10aの間にp+型のコンタクト調整領域10cが形成されている。このように、高濃度カソード拡散領域10aとコンタクト調整領域10cが、カソード領域10の長手方向に沿って繰り返し形成されている。コンタクト調整領域10cは、カソード領域10とカソード電極6の接触面積を減らし、順バイアス時に注入される電子量を調整するために形成されている。高濃度カソード拡散領域10aとコンタクト調整領域10cはカソード電極6にオーミック接触しており、低濃度カソード拡散領域10bはカソード電極6にオーミック接触している。一例では、高濃度カソード拡散領域10aの表面濃度は約6×1020cm−3であり、拡散深さは約0.1〜0.5μmである。低濃度カソード拡散領域10bの表面濃度は約1.8×1017cm−3であり、拡散深さは約3〜7μmである。コンタクト調整領域10cの表面濃度は約1×1020cm−3であり、拡散深さは約0.3〜0.6μmである。なお、図3に示されるように、コンタクト調整領域10cは、必要に応じて設けられていなくてもよい。あるいは、図4に示されるように、高濃度カソード拡散領域10aとコンタクト調整領域10cの繰り返し構造の間に、低濃度カソード拡散領域10bが介在してもよい。なお、これらのレイアウトは一例であり、必要に応じて、高濃度カソード拡散領域10aと低濃度カソード拡散領域10bとコンタクト調整領域10cの組合せには、様々なレイアウトを採用することができる。
【0020】
図5に、アノード領域20の拡大断面図を示す。アノード領域20は、p+型の高濃度アノード拡散領域20aとp型の中濃度アノード拡散領域20bとp-型の低濃度アノード拡散領域20cを備えている。中濃度アノード拡散領域20bの拡散深さは、高濃度アノード拡散領域20aの拡散深さよりも深い。低濃度アノード拡散領域20cの拡散深さは、高濃度アノード拡散領域20a及び中濃度アノード拡散領域20bの拡散深さよりも深い。高濃度アノード拡散領域20aはアノード電極7にオーミック接触しており、中濃度アノード拡散領域20b及び低濃度アノード拡散領域20cはアノード電極7にショットキー接触している。図2に示されるように、高濃度アノード拡散領域20aと中濃度アノード拡散領域20bと低濃度アノード拡散領域20cは、平面視したときに、絶縁分離トレンチ8に沿って島領域の周縁を一巡している。なお、必要に応じて、高濃度アノード拡散領域20aの直線部分のみが設けられていてもよい(すなわち、高濃度アノード拡散領域20aのコーナー部分が設けられていない)。
【0021】
図5に示されるように、高濃度アノード拡散領域20aは、中濃度アノード拡散領域20bと低濃度アノード拡散領域20cによって覆われている。ここで、中濃度アノード拡散領域20bは、カソード領域10側の第1側面20Aと、カソード領域10とは反対側の第2側面20Eと、第1側面20Aと第2側面20Eの間を伸びる底面20Cを有している。第1側面20Aと底面20Cの間には、第1コーナー部20Bが存在している。第2側面20Eと底面20Cの間には、第2コーナー部20Dが存在している。
【0022】
低濃度アノード拡散領域20cは、中濃度アノード拡散領域20bの第2コーナー部20Dを覆っている。中濃度アノード拡散領域20bの底面20Cの一部は低濃度アノード拡散領域20cで覆われていない。また、低濃度アノード拡散領域20cは、絶縁分離トレンチ8の側面に接している。高濃度アノード拡散領域20aと中濃度アノード拡散領域20bと低濃度アノード拡散領域20cの表面濃度は、概ね2桁毎に異なるのが望ましい。一例では、高濃度アノード拡散領域20aの表面濃度は約1×1020cm−3であり、拡散深さは約0.2〜0.6μmである。中濃度アノード拡散領域20bの表面濃度は約9×1017cm−3であり、拡散深さは1〜2μmである。低濃度アノード拡散領域20cの表面濃度は約1.2×1016cm−3であり、拡散深さは3〜5μmである。
【0023】
一例では、図6図8に示す製造工程を利用して、アノード領域20を形成することができる。まず、図6に示されるように、低濃度アノード拡散領域20cに対応した開口部を有するレジスト42を半導体上層4の表面にパターニングする。次に、イオン注入技術を利用して、その開口部を介して半導体上層4の表層部にボロンを注入する。この低濃度アノード拡散領域20cを形成する工程は、例えば、SOI基板5の他の領域に形成されるMOSFET用のウェル領域を形成する工程と兼用させることができる。次に、レジスト42を除去した後に、熱処理技術を利用して、注入したボロンの拡散及び活性化を実施し、低濃度アノード拡散領域20cを形成する。
【0024】
次に、図7に示されるように、中濃度アノード拡散領域20bに対応した開口部を有するレジスト44を半導体上層4の表面にパターニングする。次に、イオン注入技術を利用して、その開口部を介して半導体上層4の表層部にボロンを注入する。この中濃度アノード拡散領域20bを形成する工程は、例えば、SOI基板5の他の領域に形成されるMOSFET又はIGBT用のボディ領域を形成する工程と兼用させることができる。次に、レジスト44を除去した後に、熱処理技術を利用して、注入したボロンの拡散及び活性化を実施し、中濃度アノード領域20bを形成する。
【0025】
次に、図8に示されるように、高濃度アノード拡散領域20aに対応した開口部を有するレジスト46を半導体上層4の表面にパターニングする。次に、イオン注入技術を利用して、その開口部を介して半導体上層4の表層部にボロンを注入する。この高濃度アノード拡散領域20aを形成する工程は、例えば、SOI基板5の他の領域に形成されるMOSFET又はIGBT用のボディコンタクト領域を形成する工程と兼用させることができる。次に、レジスト46を除去した後に、熱処理技術を利用して、注入したボロンの拡散及び活性化を実施し、高濃度アノード拡散領域20aを形成する。
【0026】
次に、ダイオード1Aの動作を説明する。アノード電極7にカソード電極6よりも高電位が加わると、ダイオード1Aは順バイアスされる。これにより、カソード領域10からドリフト領域30に電子が注入され、アノード領域20からドリフト領域30に正孔が注入される。これにより、ダイオード1Aでは、アノード電極7からカソード電極6に向けて電流が流れる。
【0027】
次に、カソード電極6にアノード電極7よりも高電位が加わると、ダイオード1Aは逆バイアスされる。これにより、順バイアス時にドリフト領域30に注入されていた電子はカソード領域10から排出され、正孔はアノード領域20から排出される。このように、順バイアスから逆バイアスに移行する遷移期間において、ダイオード1Aには逆回復電流が流れる。この逆回復電流の逆回復電荷量は、スイッチング損失となることから、低く抑えることが肝要である。逆回復電荷量を低く抑えるためには、順バイアス時に注入されるキャリア量を低下させること、さらに、逆回復時のダイナミックアバランシェ現象に起因するキャリアの発生量を抑えることが肝要である。ダイナミックアバランシェ現象とは、逆回復時において、アノード領域20に流入する正孔が、アノード領域20とドリフト領域30のpn接合に加わる高電界によってアバランシェ現象を起こすことをいう。
【0028】
ダイオード1Aのアノード領域20は、濃度が異なる3つの拡散領域20a,20b,20cで構成されていることを特徴としている。このうち、低濃度アノード拡散領域20cの不純物濃度は極めて薄いので、低濃度アノード拡散領域20cが設けられていても、順バイアス時に注入される正孔量はほとんど増加しない。アノード領域20から注入される正孔量は、高濃度アノード拡散領域20aと中濃度アノード拡散領域20bによって決定される。すなわち、ダイオード1Aでは、順バイアス時に注入される正孔量が従来構造と同等である。
【0029】
一方、低濃度アノード拡散領域20cが設けられていることによって、逆回復時の第2コーナー部20Dの電界強度は顕著に低下する。これにより、第2コーナー部20D近傍で発生するダイナミックアバランシェ現象が抑えられる。図9に、ダイオード1Aの逆回復電流と、その時にカソード電極6とアノード電極7の間に加わる電圧を示す。実線が本実施例のダイオード1Aの場合であり、破線が低濃度アノード拡散領域20cが設けられていない場合(アノード領域20が高濃度アノード拡散領域20aと中濃度アノード拡散領域20bのみで構成されている場合)の比較例の結果を示す。図9に示されるように、比較例では、逆回復電流に2つのピーク波形が現れる。特に、後半のピーク時において、第2コーナー部20D近傍で電界が集中し、ダイナミックアバランシェ現象に伴うホール電流密度が高いことが確認されている。一方、本実施例では、2つのピーク波形が現れていない。換言すると、本実施例では、後半のピーク波形が消失したとも評価できる。本実施例では、第2コーナー部20D近傍での電界集中が緩和され、ダイナミックアバランシェ現象に伴うホール電流密度が顕著に低下していることが確認されている。この結果、本実施例では、逆回復電荷量が低下していることが分かる。このように、本実施例のダイオード1Aは、逆回復電荷量が低く、スイッチング損失が小さい逆回復特性を有する。
【0030】
ダイオード1Aの他の特徴を列記する。
(1)図1に示されるように、アノード領域20の低濃度アノード拡散領域20cは、絶縁分離トレンチ8の側面に接している。このため、低濃度アノード拡散領域20cと絶縁分離トレンチ8の界面における表面再結合効果を利用した電流経路が形成されるので、逆回復時において、逆回復電流の一部がこの界面に形成される電流経路を流れる。この結果、逆回復電流の電流集中が緩和されるので、ダイナミックアバランシェ現象の発生が抑えられる。
【0031】
(2)本実施例のダイオード1Aのカソード電極6及びアノード電極7の材料には、チタンが用いられている。このため、アノード領域20においては、高濃度アノード拡散領域20aとアノード電極7がオーミック接触し、中濃度アノード拡散領域20bとアノード電極7がショットキー接触している。このため、順バイアス時において、アノード領域20から注入される正孔量を抑えることができる。また、中濃度アノード拡散領域20bの不純物濃度を薄くすることで、逆回復時の電流集中を抑制することができ、さらに、低濃度アノード拡散領域20cの拡散深さを深く形成することで正孔排出後の逆バイアス印加によるダイナミックアバランシェ現象によるキャリア発生を抑えることができる。なお、中濃度アノード拡散領域20bとアノード電極7がショットキー接触するためには、アノード電極7に用いられる材料の仕事関数が5.16eV以下であればよい。このため、アノード電極7の材料は、チタンに代えて、ニッケル又は銅等を用いてもよい。
【0032】
(3)図5に示されるように、ダイオード1Aでは、高濃度アノード拡散領域20aが低濃度アノード拡散領域20cに接触するように、中濃度アノード拡散領域20b内においてカソード領域10とは反対側に偏在して設けられている。この構成によると、順バイアス時の電流経路が、アノード領域20において広がるので、ドリフト領域30の広い範囲を電流経路として利用することができ、オン抵抗を低下させることができる。また、逆バイアス時の電流経路も、アノード領域20において広がるので、ダイナミックアバランシェ現象の発生を抑えることができる。
【0033】
(4)図5に示されるように、本実施例のダイオード1Aでは、中濃度アノード拡散領域20bの底面20Cの一部が低濃度アノード拡散領域20cによって覆われていない。例えば、低濃度アノード拡散領域20cが中濃度アノード拡散領域20bを完全に覆うように形成されていても、中濃度アノード拡散領域20bのコーナー部20B,20Dにおけるダイナミックアバランシェ現象を抑えることができるという点で有益である。しかしながら、そのような大きな低濃度アノード拡散領域20cが設けられていると、不純物濃度が薄く調整されていても、順バイアス時の正孔の注入量が増加する虞がある。本実施例のダイオード1のように、低濃度アノード拡散領域20cが中濃度アノード拡散領域20bのコーナー部のみを選択的に被覆することで、低濃度アノード拡散領域20cの形成範囲を大きくすることなく、ダイナミックアバランシェ現象の発生を効果的に抑えることができる。
【0034】
(5)図10及び図11に、複数のダイオード1AがSOI基板5に並んで配置された例を示す。図10及び図11では、2つのダイオード1Aが搭載された例を示しているが、この例に限らず、2つ以上のダイオード1AがSOI基板5に並んで配置されていてもよい。図10の例では、各ダイオード1Aのトラック形状の絶縁分離トレンチ8が連結し、1つの島領域を形成している。連結部50には、p型の中濃度連結拡散領域52とp型の低濃度連結拡散領域54が形成されている。中濃度連結拡散領域52は、中濃度アノード拡散領域20bと共通の工程で作成され、中濃度アノード拡散領域20bと同一の濃度プロファイルを有する。なお、中濃度連結拡散領域52は、必要に応じて設けられていなくてもよい。低濃度連結拡散領域54は、低濃度アノード拡散領域20cと共通の工程で作成され、低濃度アノード拡散領域20cと同一の濃度プロファイルを有する。低濃度連結拡散領域54は、絶縁分離トレンチ8に接触して形成されているとともに、中濃度連結拡散領域52のコーナー部を覆っている。この例では、連結部においても、電界集中が緩和されている。図11の例では、矩形状の絶縁分離トレンチ8が1つの島領域を形成している。この例では、中濃度アノード拡散領域20bが、トラック形状のダイオード部の外側範囲に広く形成されている。低濃度アノード拡散領域20cは、絶縁分離トレンチ8に接触して形成されているとともに、中濃度連結拡散領域52のコーナー部を覆っている。この例でも、中濃度アノード拡散領域20bのコーナー部における電界集中が緩和されている。
【0035】
(6)図12に、本実施例の変形例のダイオード1Bを示す。この変形例のダイオード1Bでは、中濃度アノード拡散領域20bの第1コーナー部20Bを覆うように低濃度アノード拡散領域20dが形成されている。この構成によると、中濃度アノード拡散領域20bの第1コーナー部20Bと第2コーナー部20Dの双方が低濃度アノード拡散領域20c,20dで覆われているので、第1コーナー部20Bと第2コーナー部20Dの双方におけるダイナミックアバランシェ現象が抑えられる。なお、第1コーナー部20Bを覆う低濃度アノード拡散領域20dの拡散深さは、第2コーナー部20Dを覆う低濃度アノード拡散領域20cよりも深いのが望ましい。第1コーナー部20Bを覆う低濃度アノード拡散領域20dは、埋込み絶縁層3に接していてもよい。第1コーナー部20Bを覆う低濃度アノード拡散領域20dの拡散深さが深いほど、逆回復電荷量が低減される。
【実施例2】
【0036】
図13に、エピタキシャル基板15を用いて形成されたダイオード1Cを示す。エピタキシャル基板15は、p型の半導体下層12上に半導体上層4がエピタキシャル成長して形成される。半導体下層12と半導体上層4の間にpn接合が形成されている。半導体下層12は、接地電圧に固定されている。この例でも、絶縁分離トレンチ8を利用して素子分離されている。なお、図14に示されるダイオード1Dのように、絶縁分離トレンチ8に代えて、p型の拡散分離領域18を利用して素子分離されてもよい。本明細書で開示される技術は、エピタキシャル基板15を用いて形成されるダイオード1C,1Dにも有用である。
【実施例3】
【0037】
図15に、多結晶シリコン基板25を用いて形成されたダイオード1Eを示す。多結晶シリコン基板25は、多結晶シリコン層22の表面部に溝を形成し、その溝の内表面を陽極酸化して酸化シリコンの誘電体膜28を形成し、次いで、溝内に単結晶シリコン層24を充填することで形成される。多結晶シリコン層22は、接地電圧に固定されている。この例では、誘電体膜28を利用して素子分離されている。本明細書で開示される技術は、多結晶シリコン基板25を用いて形成されるダイオード1Eにも有用である。
【0038】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
例えば、上記実施例では半導体材料にシリコンを用いたものを例示したが、この例に代えて、ワイドギャップ半導体を用いてもよい。
また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0039】
2:半導体下層
3:埋込み絶縁層
4:半導体上層
5:SOI基板
6:カソード電極
7:アノード電極
8:絶縁分離トレンチ
10:カソード領域
20:アノード領域
20a:高濃度アノード拡散領域
20b:中濃度アノード拡散領域
20c:低濃度アノード拡散領域
図1
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