【実施例1】
【0016】
図1に示されるように、横型のダイオード1Aは、n型又はp型の半導体下層2と埋込み絶縁層3とn
-型の半導体上層4が積層したSOI(Silicon On Insulator)基板5に形成されている。
図2に示されるように、ダイオード1Aは、絶縁分離トレンチ8で囲まれた半導体上層4の島領域内に形成されている。絶縁分離トレンチ8は、半導体上層4の表面から半導体上層4を貫通して埋込み絶縁層3まで達しており、平面視したときに半導体上層4を一巡している。一例では、半導体下層2と半導体上層4の材料には単結晶シリコンが用いられており、埋込み絶縁層3の材料には酸化シリコンが用いられている。埋込み絶縁層3は、耐圧500V以上を実現するために、その厚みが約3μm以上に設定されている。半導体上層4は、耐圧500V以上を実現するために、その不純物濃度が約7×10
14cm
−3であり、厚みが約10〜20μmである。
【0017】
図1に示されるように、ダイオード1Aは、半導体上層4の表面に設けられているカソード電極6とアノード電極7とLOCOS酸化膜32と抵抗性フィールドプレート34を備えている。カソード電極6とアノード電極7は、半導体上層4の表面において、両者間に距離を置いて配置されているとともに、電気的に絶縁している。カソード電極6とアノード電極7の材料にはチタン(Ti)/窒化チタン(TiN)/アルミニウム(Al)の積層電極が用いられており、チタンが半導体上層4に接触している。そのチタン部分では、必要に応じて、チタンにシリコンが混入したシリサイドが用いられてもよい。LOCOS酸化膜32は、カソード電極6とアノード電極7の間に設けられている。抵抗性フィールドプレート34は、LOCOS酸化膜32の表面に設けられており、一端がカソード電極6に電気的に接続されており、他端がアノード電極7に電気的に接続されている。LOCOS酸化膜32と抵抗性フィールドプレート34は、半導体上層4の表層部において、カソード電極6とアノード電極7の間の電位分布を均一化する。
【0018】
半導体上層4の表層部には、n型のカソード領域10とp型のアノード領域20が形成されている。カソード領域10は、カソード電極6に接している。アノード領域20は、アノード電極7に接している。カソード領域10とアノード領域20の間には、ドリフト領域30が形成されている。ドリフト領域30は、半導体上層4にカソード領域10とアノード領域20を形成した残部である。ドリフト領域30には、必要に応じて、高耐圧化のための半導体領域(例えば、リサーフ領域)が形成されていてもよい。
【0019】
カソード領域10は、n
+型の高濃度カソード拡散領域10aとn型の低濃度カソード拡散領域10bを備えている。低濃度カソード拡散領域10bの拡散深さは、高濃度カソード拡散領域10aの拡散深さよりも深い。このため、高濃度カソード拡散領域10aの全体は、低濃度カソード拡散領域10bで覆われている。なお、低濃度カソード拡散領域10bは、必要に応じて設けられていなくてもよい。
図2に示されるように、カソード領域10は、絶縁分離トレンチ8で囲まれる島領域の中央に配置されており、略矩形の形状を有している。また、高濃度カソード拡散領域10aは、複数個に分断されており、各高濃度カソード拡散領域10aの間にp
+型のコンタクト調整領域10cが形成されている。このように、高濃度カソード拡散領域10aとコンタクト調整領域10cが、カソード領域10の長手方向に沿って繰り返し形成されている。コンタクト調整領域10cは、カソード領域10とカソード電極6の接触面積を減らし、順バイアス時に注入される電子量を調整するために形成されている。高濃度カソード拡散領域10aとコンタクト調整領域10cはカソード電極6にオーミック接触しており、低濃度カソード拡散領域10bはカソード電極6にオーミック接触している。一例では、高濃度カソード拡散領域10aの表面濃度は約6×10
20cm
−3であり、拡散深さは約0.1〜0.5μmである。低濃度カソード拡散領域10bの表面濃度は約1.8×10
17cm
−3であり、拡散深さは約3〜7μmである。コンタクト調整領域10cの表面濃度は約1×10
20cm
−3であり、拡散深さは約0.3〜0.6μmである。なお、
図3に示されるように、コンタクト調整領域10cは、必要に応じて設けられていなくてもよい。あるいは、
図4に示されるように、高濃度カソード拡散領域10aとコンタクト調整領域10cの繰り返し構造の間に、低濃度カソード拡散領域10bが介在してもよい。なお、これらのレイアウトは一例であり、必要に応じて、高濃度カソード拡散領域10aと低濃度カソード拡散領域10bとコンタクト調整領域10cの組合せには、様々なレイアウトを採用することができる。
【0020】
図5に、アノード領域20の拡大断面図を示す。アノード領域20は、p
+型の高濃度アノード拡散領域20aとp型の中濃度アノード拡散領域20bとp
-型の低濃度アノード拡散領域20cを備えている。中濃度アノード拡散領域20bの拡散深さは、高濃度アノード拡散領域20aの拡散深さよりも深い。低濃度アノード拡散領域20cの拡散深さは、高濃度アノード拡散領域20a及び中濃度アノード拡散領域20bの拡散深さよりも深い。高濃度アノード拡散領域20aはアノード電極7にオーミック接触しており、中濃度アノード拡散領域20b及び低濃度アノード拡散領域20cはアノード電極7にショットキー接触している。
図2に示されるように、高濃度アノード拡散領域20aと中濃度アノード拡散領域20bと低濃度アノード拡散領域20cは、平面視したときに、絶縁分離トレンチ8に沿って島領域の周縁を一巡している。なお、必要に応じて、高濃度アノード拡散領域20aの直線部分のみが設けられていてもよい(すなわち、高濃度アノード拡散領域20aのコーナー部分が設けられていない)。
【0021】
図5に示されるように、高濃度アノード拡散領域20aは、中濃度アノード拡散領域20bと低濃度アノード拡散領域20cによって覆われている。ここで、中濃度アノード拡散領域20bは、カソード領域10側の第1側面20Aと、カソード領域10とは反対側の第2側面20Eと、第1側面20Aと第2側面20Eの間を伸びる底面20Cを有している。第1側面20Aと底面20Cの間には、第1コーナー部20Bが存在している。第2側面20Eと底面20Cの間には、第2コーナー部20Dが存在している。
【0022】
低濃度アノード拡散領域20cは、中濃度アノード拡散領域20bの第2コーナー部20Dを覆っている。中濃度アノード拡散領域20bの底面20Cの一部は低濃度アノード拡散領域20cで覆われていない。また、低濃度アノード拡散領域20cは、絶縁分離トレンチ8の側面に接している。高濃度アノード拡散領域20aと中濃度アノード拡散領域20bと低濃度アノード拡散領域20cの表面濃度は、概ね2桁毎に異なるのが望ましい。一例では、高濃度アノード拡散領域20aの表面濃度は約1×10
20cm
−3であり、拡散深さは約0.2〜0.6μmである。中濃度アノード拡散領域20bの表面濃度は約9×10
17cm
−3であり、拡散深さは1〜2μmである。低濃度アノード拡散領域20cの表面濃度は約1.2×10
16cm
−3であり、拡散深さは3〜5μmである。
【0023】
一例では、
図6〜
図8に示す製造工程を利用して、アノード領域20を形成することができる。まず、
図6に示されるように、低濃度アノード拡散領域20cに対応した開口部を有するレジスト42を半導体上層4の表面にパターニングする。次に、イオン注入技術を利用して、その開口部を介して半導体上層4の表層部にボロンを注入する。この低濃度アノード拡散領域20cを形成する工程は、例えば、SOI基板5の他の領域に形成されるMOSFET用のウェル領域を形成する工程と兼用させることができる。次に、レジスト42を除去した後に、熱処理技術を利用して、注入したボロンの拡散及び活性化を実施し、低濃度アノード拡散領域20cを形成する。
【0024】
次に、
図7に示されるように、中濃度アノード拡散領域20bに対応した開口部を有するレジスト44を半導体上層4の表面にパターニングする。次に、イオン注入技術を利用して、その開口部を介して半導体上層4の表層部にボロンを注入する。この中濃度アノード拡散領域20bを形成する工程は、例えば、SOI基板5の他の領域に形成されるMOSFET又はIGBT用のボディ領域を形成する工程と兼用させることができる。次に、レジスト44を除去した後に、熱処理技術を利用して、注入したボロンの拡散及び活性化を実施し、中濃度アノード領域20bを形成する。
【0025】
次に、
図8に示されるように、高濃度アノード拡散領域20aに対応した開口部を有するレジスト46を半導体上層4の表面にパターニングする。次に、イオン注入技術を利用して、その開口部を介して半導体上層4の表層部にボロンを注入する。この高濃度アノード拡散領域20aを形成する工程は、例えば、SOI基板5の他の領域に形成されるMOSFET又はIGBT用のボディコンタクト領域を形成する工程と兼用させることができる。次に、レジスト46を除去した後に、熱処理技術を利用して、注入したボロンの拡散及び活性化を実施し、高濃度アノード拡散領域20aを形成する。
【0026】
次に、ダイオード1Aの動作を説明する。アノード電極7にカソード電極6よりも高電位が加わると、ダイオード1Aは順バイアスされる。これにより、カソード領域10からドリフト領域30に電子が注入され、アノード領域20からドリフト領域30に正孔が注入される。これにより、ダイオード1Aでは、アノード電極7からカソード電極6に向けて電流が流れる。
【0027】
次に、カソード電極6にアノード電極7よりも高電位が加わると、ダイオード1Aは逆バイアスされる。これにより、順バイアス時にドリフト領域30に注入されていた電子はカソード領域10から排出され、正孔はアノード領域20から排出される。このように、順バイアスから逆バイアスに移行する遷移期間において、ダイオード1Aには逆回復電流が流れる。この逆回復電流の逆回復電荷量は、スイッチング損失となることから、低く抑えることが肝要である。逆回復電荷量を低く抑えるためには、順バイアス時に注入されるキャリア量を低下させること、さらに、逆回復時のダイナミックアバランシェ現象に起因するキャリアの発生量を抑えることが肝要である。ダイナミックアバランシェ現象とは、逆回復時において、アノード領域20に流入する正孔が、アノード領域20とドリフト領域30のpn接合に加わる高電界によってアバランシェ現象を起こすことをいう。
【0028】
ダイオード1Aのアノード領域20は、濃度が異なる3つの拡散領域20a,20b,20cで構成されていることを特徴としている。このうち、低濃度アノード拡散領域20cの不純物濃度は極めて薄いので、低濃度アノード拡散領域20cが設けられていても、順バイアス時に注入される正孔量はほとんど増加しない。アノード領域20から注入される正孔量は、高濃度アノード拡散領域20aと中濃度アノード拡散領域20bによって決定される。すなわち、ダイオード1Aでは、順バイアス時に注入される正孔量が従来構造と同等である。
【0029】
一方、低濃度アノード拡散領域20cが設けられていることによって、逆回復時の第2コーナー部20Dの電界強度は顕著に低下する。これにより、第2コーナー部20D近傍で発生するダイナミックアバランシェ現象が抑えられる。
図9に、ダイオード1Aの逆回復電流と、その時にカソード電極6とアノード電極7の間に加わる電圧を示す。実線が本実施例のダイオード1Aの場合であり、破線が低濃度アノード拡散領域20cが設けられていない場合(アノード領域20が高濃度アノード拡散領域20aと中濃度アノード拡散領域20bのみで構成されている場合)の比較例の結果を示す。
図9に示されるように、比較例では、逆回復電流に2つのピーク波形が現れる。特に、後半のピーク時において、第2コーナー部20D近傍で電界が集中し、ダイナミックアバランシェ現象に伴うホール電流密度が高いことが確認されている。一方、本実施例では、2つのピーク波形が現れていない。換言すると、本実施例では、後半のピーク波形が消失したとも評価できる。本実施例では、第2コーナー部20D近傍での電界集中が緩和され、ダイナミックアバランシェ現象に伴うホール電流密度が顕著に低下していることが確認されている。この結果、本実施例では、逆回復電荷量が低下していることが分かる。このように、本実施例のダイオード1Aは、逆回復電荷量が低く、スイッチング損失が小さい逆回復特性を有する。
【0030】
ダイオード1Aの他の特徴を列記する。
(1)
図1に示されるように、アノード領域20の低濃度アノード拡散領域20cは、絶縁分離トレンチ8の側面に接している。このため、低濃度アノード拡散領域20cと絶縁分離トレンチ8の界面における表面再結合効果を利用した電流経路が形成されるので、逆回復時において、逆回復電流の一部がこの界面に形成される電流経路を流れる。この結果、逆回復電流の電流集中が緩和されるので、ダイナミックアバランシェ現象の発生が抑えられる。
【0031】
(2)本実施例のダイオード1Aのカソード電極6及びアノード電極7の材料には、チタンが用いられている。このため、アノード領域20においては、高濃度アノード拡散領域20aとアノード電極7がオーミック接触し、中濃度アノード拡散領域20bとアノード電極7がショットキー接触している。このため、順バイアス時において、アノード領域20から注入される正孔量を抑えることができる。また、中濃度アノード拡散領域20bの不純物濃度を薄くすることで、逆回復時の電流集中を抑制することができ、さらに、低濃度アノード拡散領域20cの拡散深さを深く形成することで正孔排出後の逆バイアス印加によるダイナミックアバランシェ現象によるキャリア発生を抑えることができる。なお、中濃度アノード拡散領域20bとアノード電極7がショットキー接触するためには、アノード電極7に用いられる材料の仕事関数が5.16eV以下であればよい。このため、アノード電極7の材料は、チタンに代えて、ニッケル又は銅等を用いてもよい。
【0032】
(3)
図5に示されるように、ダイオード1Aでは、高濃度アノード拡散領域20aが低濃度アノード拡散領域20cに接触するように、中濃度アノード拡散領域20b内においてカソード領域10とは反対側に偏在して設けられている。この構成によると、順バイアス時の電流経路が、アノード領域20において広がるので、ドリフト領域30の広い範囲を電流経路として利用することができ、オン抵抗を低下させることができる。また、逆バイアス時の電流経路も、アノード領域20において広がるので、ダイナミックアバランシェ現象の発生を抑えることができる。
【0033】
(4)
図5に示されるように、本実施例のダイオード1Aでは、中濃度アノード拡散領域20bの底面20Cの一部が低濃度アノード拡散領域20cによって覆われていない。例えば、低濃度アノード拡散領域20cが中濃度アノード拡散領域20bを完全に覆うように形成されていても、中濃度アノード拡散領域20bのコーナー部20B,20Dにおけるダイナミックアバランシェ現象を抑えることができるという点で有益である。しかしながら、そのような大きな低濃度アノード拡散領域20cが設けられていると、不純物濃度が薄く調整されていても、順バイアス時の正孔の注入量が増加する虞がある。本実施例のダイオード1のように、低濃度アノード拡散領域20cが中濃度アノード拡散領域20bのコーナー部のみを選択的に被覆することで、低濃度アノード拡散領域20cの形成範囲を大きくすることなく、ダイナミックアバランシェ現象の発生を効果的に抑えることができる。
【0034】
(5)
図10及び
図11に、複数のダイオード1AがSOI基板5に並んで配置された例を示す。
図10及び
図11では、2つのダイオード1Aが搭載された例を示しているが、この例に限らず、2つ以上のダイオード1AがSOI基板5に並んで配置されていてもよい。
図10の例では、各ダイオード1Aのトラック形状の絶縁分離トレンチ8が連結し、1つの島領域を形成している。連結部50には、p型の中濃度連結拡散領域52とp
−型の低濃度連結拡散領域54が形成されている。中濃度連結拡散領域52は、中濃度アノード拡散領域20bと共通の工程で作成され、中濃度アノード拡散領域20bと同一の濃度プロファイルを有する。なお、中濃度連結拡散領域52は、必要に応じて設けられていなくてもよい。低濃度連結拡散領域54は、低濃度アノード拡散領域20cと共通の工程で作成され、低濃度アノード拡散領域20cと同一の濃度プロファイルを有する。低濃度連結拡散領域54は、絶縁分離トレンチ8に接触して形成されているとともに、中濃度連結拡散領域52のコーナー部を覆っている。この例では、連結部においても、電界集中が緩和されている。
図11の例では、矩形状の絶縁分離トレンチ8が1つの島領域を形成している。この例では、中濃度アノード拡散領域20bが、トラック形状のダイオード部の外側範囲に広く形成されている。低濃度アノード拡散領域20cは、絶縁分離トレンチ8に接触して形成されているとともに、中濃度連結拡散領域52のコーナー部を覆っている。この例でも、中濃度アノード拡散領域20bのコーナー部における電界集中が緩和されている。
【0035】
(6)
図12に、本実施例の変形例のダイオード1Bを示す。この変形例のダイオード1Bでは、中濃度アノード拡散領域20bの第1コーナー部20Bを覆うように低濃度アノード拡散領域20dが形成されている。この構成によると、中濃度アノード拡散領域20bの第1コーナー部20Bと第2コーナー部20Dの双方が低濃度アノード拡散領域20c,20dで覆われているので、第1コーナー部20Bと第2コーナー部20Dの双方におけるダイナミックアバランシェ現象が抑えられる。なお、第1コーナー部20Bを覆う低濃度アノード拡散領域20dの拡散深さは、第2コーナー部20Dを覆う低濃度アノード拡散領域20cよりも深いのが望ましい。第1コーナー部20Bを覆う低濃度アノード拡散領域20dは、埋込み絶縁層3に接していてもよい。第1コーナー部20Bを覆う低濃度アノード拡散領域20dの拡散深さが深いほど、逆回復電荷量が低減される。