特許第5711691号(P5711691)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5711691-自動二輪車用タイヤ 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5711691
(24)【登録日】2015年3月13日
(45)【発行日】2015年5月7日
(54)【発明の名称】自動二輪車用タイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/00 20060101AFI20150416BHJP
   B60C 11/03 20060101ALI20150416BHJP
【FI】
   B60C11/00 C
   B60C11/00 D
   B60C11/03 E
   B60C11/03 Z
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-106953(P2012-106953)
(22)【出願日】2012年5月8日
(65)【公開番号】特開2013-233847(P2013-233847A)
(43)【公開日】2013年11月21日
【審査請求日】2013年8月19日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】芝本 昇平
【審査官】 倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−035228(JP,A)
【文献】 特開平10−119513(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/00
B60C 11/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部の外面がタイヤ半径方向外側に凸で円弧状に湾曲してのびる自動二輪車用タイヤであって、
前記トレッド部に配されたトレッドゴムは、タイヤ赤道を中心とする領域に配されるセンター部、トレッド端側に配されるショルダー部、及び該センター部とショルダー部との間に配されるミドル部を含み、
前記センター部の複素弾性率E*1、前記ミドル部の複素弾性率E*2、及び前記ショルダー部の複素弾性率E*3は、下記式(1)を満たすとともに、
前記センター部の損失正接tanδ1、前記ミドル部の損失正接tanδ2、及び前記ショルダー部の損失正接tanδ3は、下記式(2)及び下記式(3)を満たし、かつ、
前記センター部のランド比LF1、前記ミドル部のランド比LF2、及び前記ショルダー部のランド比LF3は、下記式(10)を満たすことを特徴とする自動二輪車用タイヤ。
E*1<E*2<E*3…(1)
0.9≦tanδ1/tanδ2≦1.1…(2)
0.9≦tanδ2/tanδ3≦1.1…(3)
LF1<LF2<LF3…(10)
【請求項2】
前記センター部は、前記複素弾性率E*1が4.0〜5.5MPaであり、かつ
損失正接tanδ1が0.20〜0.24である請求項1に記載の自動二輪車用タイヤ。
【請求項3】
前記ミドル部は、前記センター部側に配される内側ミドル部と、前記ショルダー部側に配される外側ミドル部とを含み、
前記内側ミドル部の複素弾性率E*2は、前記外側ミドル部の複素弾性率E*2よりも小さく、かつ、
前記外側ミドル部の損失正接tanδ2に対する前記内側ミドル部の損失正接tanδ2の比は、0.9〜1.1である請求項1又は2に記載の自動二輪車用タイヤ。
【請求項4】
前記センター部からショルダー部にかけて、ロスコンプライアンスが漸減する請求項1乃至3のいずれかに記載の自動二輪車用タイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、旋回安定性能及び乗り心地を向上しうる自動二輪車用タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車用タイヤは、キャンバーアングルが大きい旋回時においても十分な接地面積が得られるように、トレッド部の外面が、タイヤ半径方向外側に凸の円弧状に湾曲してのびる。
【0003】
従来、このようなトレッド部のトレッドゴムを、タイヤ赤道を中心とする領域に配されるセンター部と、該センター部の両側に配されるショルダー部とに区分し、かつショルダー部の損失正接を、センター部の損失正接よりも大きくした自動二輪車用タイヤが、下記特許文献1で提案されている。
【0004】
このような自動二輪車用タイヤは、ショルダー部が、路面との摩擦力が大きい高ヒステリシスロスのゴムで形成されるため、旋回時のグリップを向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−131112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の特許文献1の自動二輪車用タイヤのように、ショルダー部のゴムの損失正接を大きくすると、該ショルダー部の剛性が小さくなる傾向があるため、旋回時にいわゆる「腰」が伴わず、旋回安定性能を十分に向上できないという問題があった。
【0007】
また、センター部の剛性が高くなると、直進時において、路面からの振動を十分に吸収することができず、乗り心地が低下するという問題もあった。
【0008】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、トレッド部に配されたトレッドゴムのセンタ−部、ショルダー部、及びミドル部の複素弾性率および損失正接を所定の範囲に限定することを基本として、旋回安定性能及び乗り心地を向上しうる自動二輪車用タイヤを提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のうち請求項1記載の発明は、トレッド部の外面がタイヤ半径方向外側に凸で円弧状に湾曲してのびる自動二輪車用タイヤであって、前記トレッド部に配されたトレッドゴムは、タイヤ赤道を中心とする領域に配されるセンター部、トレッド端側に配されるショルダー部、及び該センター部とショルダー部との間に配されるミドル部を含み、前記センター部の複素弾性率E*1、前記ミドル部の複素弾性率E*2、及び前記ショルダー部の複素弾性率E*3は、下記式(1)を満たすとともに、前記センター部の損失正接tanδ1、前記ミドル部の損失正接tanδ2、及び前記ショルダー部の損失正接tanδ3は、下記式(2)及び下記式(3)を満たし、かつ、前記センター部のランド比LF1、前記ミドル部のランド比LF2、及び前記ショルダー部のランド比LF3は、下記式(10)を満たすことを特徴とする。
E*1<E*2<E*3…(1)
0.9≦tanδ1/tanδ2≦1.1…(2)
0.9≦tanδ2/tanδ3≦1.1…(3)
LF1<LF2<LF3…(10)
【0010】
また、請求項2記載の発明は、前記センター部は、前記複素弾性率E*1が4.0〜5.5MPaであり、かつ損失正接tanδ1が0.20〜0.24である請求項1に記載の自動二輪車用タイヤである。
【0012】
また、請求項3記載の発明は、前記ミドル部は、前記センター部側に配される内側ミドル部と、前記ショルダー部側に配される外側ミドル部とを含み、前記内側ミドル部の複素弾性率E*2は、前記外側ミドル部の複素弾性率E*2よりも小さく、かつ、
前記外側ミドル部の損失正接tanδ2に対する前記内側ミドル部の損失正接tanδ2の比は、0.9〜1.1である請求項1又は2に記載の自動二輪車用タイヤである。
また、請求項4記載の発明は、前記センター部からショルダー部にかけて、ロスコンプライアンスが漸減する請求項1乃至のいずれかに記載の自動二輪車用タイヤである。
【0013】
本明細書では、特に断りがない限り、タイヤの各部の寸法等は、正規リムにリム組みされかつ正規内圧が充填された無負荷の正規状態において特定される値とする。
【0014】
なお前記「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えばJATMAであれば "標準リム" 、TRAであれば "Design Rim" 、ETRTOであれば "Measuring Rim" とする。
【0015】
また、「正規内圧」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば "最高空気圧" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の自動二輪車用タイヤは、トレッド部の外面がタイヤ半径方向外側に凸で円弧状に湾曲してのびる。このような自動二輪車用タイヤは、キャンバーアングルが大きい旋回時においても十分な接地面積を得ることができる。
【0017】
また、トレッド部に配されたトレッドゴムは、タイヤ赤道を中心とする領域に配されるセンター部、トレッド端側に配されるショルダー部、及び該センター部とショルダー部との間に配されるミドル部を含み、しかも、センター部の複素弾性率E*1、ミドル部の複素弾性率E*2、及びショルダー部の複素弾性率E*3は、下記式(1)を満たすとともに、センター部の損失正接tanδ1、ミドル部の損失正接tanδ2、及びショルダー部の損失正接tanδ3は、下記式(2)及び下記式(3)を満たす。
E*1<E*2<E*3…(1)
0.9≦tanδ1/tanδ2≦1.1…(2)
0.9≦tanδ2/tanδ3≦1.1…(3)
【0018】
このような自動二輪車用タイヤは、センター部からショルダー部にかけて複素弾性率を漸増させて、旋回時にいわゆる「腰」を伴なわせつつ、損失正接を略同一にして直進時から旋回時にかけてグリップを維持させることができ、旋回安定性能及び過渡特性を向上しうる。
【0019】
さらに、センター部の剛性が相対的に低く設定されるため、直進時において、路面からの振動を効果的に吸収することができ、乗り心地も向上しうる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本実施形態の自動二輪車用タイヤを示す断面図である。
図2図1のトレッド部の展開図である。
図3】他の実施形態の自動二輪車用タイヤを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図1に示されるように、本実施形態の自動二輪車用タイヤ(以下、単に「タイヤ」ということがある)1は、トレッド部2からサイドウォール部3を経てビード部4のビードコア5に至るカーカス6と、このカーカス6のタイヤ半径方向外側かつトレッド部2の内方に配されたベルト層7と、このベルト層7の外側に配されたトレッドゴム2Gとを具える。
【0022】
また、前記タイヤ1は、キャンバーアングルが大きい旋回時においても十分な接地面積が得られるように、トレッド部2のトレッド端2t、2t間の外面2Sが、タイヤ半径方向外側に凸の円弧状に湾曲してのびるとともに、トレッド端2t、2t間のタイヤ軸方向距離であるトレッド幅TWがタイヤ最大幅をなしている。
【0023】
前記カーカス6は、少なくとも1枚、本実施形態では1枚のカーカスプライ6Aにより構成される。このカーカスプライ6Aは、トレッド部2からサイドウォール部3を経てビード部4に埋設されたビードコア5に至る本体部6aと、本体部6aに連なりかつビードコア5の回りで折り返される折返し部6bとを含む。
【0024】
また、前記カーカスプライ6Aは、タイヤ赤道Cに対して、例えば65〜90度の角度で傾けて配列されたカーカスコードを有する。このカーカスコードには、例えば、ナイロン、ポリエステル又はレーヨン等の有機繊維コード等が好適に採用される。なお、カーカスプライ6Aの本体部6aと折返し部6bとの間には、硬質のゴムからなるビードエーペックス8が配される。
【0025】
前記ベルト層7は、例えば、平行に配列されたベルトコードを有する複数枚、本実施形態では2枚のベルトプライ7A、7Bからなる。これらのベルトプライ7A、7Bは、ベルトコードが互いに交差するように重ねられる。また、ベルトコードとしては、レーヨン又は芳香族ポリアミド等の有機繊維又はスチールコードが好ましい。
【0026】
本実施形態のトレッドゴム2Gは、タイヤ赤道Cを中心とする領域に配されるセンター部CR、トレッド端2t側に配される一対のショルダー部SH、及び該センター部CRと該ショルダー部SHとの間に配される一対のミドル部MDからなる。これらのセンター部CR、ショルダー部SH及びミドル部MDは、それぞれ配合が異なるゴム材からなる。
【0027】
また、本実施形態のセンター部CRのタイヤ外面に現れる展開幅W1は、タイヤ赤道Cを中心とするトレッド展開幅TWeの28〜40%程度に設定される。これにより、センター部CRの展開幅W1は、直進走行時の接地面のタイヤ軸方向の幅(トレッド展開幅TWeの25%程度)よりも大きくでき、該センター部CRとミドル部MDとの間で生じがちな段差摩耗や、偏摩耗を効果的に抑制しうる。
【0028】
なお、前記接地面の幅は、前記正規状態のタイヤ1に正規荷重を負荷してキャンバー角0度で平面に接地させた正規荷重負荷状態において、その接地面のタイヤ軸方向の最大長さとする。
【0029】
前記「正規荷重」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば最大負荷能力、TRAであれば表"TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES"に記載の最大値、ETRTOであれば"LOAD CAPACITY"とする。なお、いずれの規格も存在しない場合、タイヤメーカの推奨値が適用される。
【0030】
また、本実施形態のトレッドゴム2Gは、センター部CRとミドル部MDとの境界線B1、及びミドル部MDとショルダー部SHとの境界線B2が、トレッド部2の外面2Sからベルト層7に向かって、タイヤ軸方向外側に傾斜してのびている。
【0031】
このようなトレッドゴム2Gは、センター部CRからショルダー部SHにかけて、ゴム物性の変化をスムーズにでき、過渡特性を向上しうる。なお、各境界線B1、B2は、例えば、トレッド部2の外面2S、又はベルト層7に立てた法線上をのびるものや、タイヤ軸方向内側に傾斜するものでも良いのは言うまでもない。
【0032】
さらに、センター部CRの複素弾性率E*1、ミドル部MDの複素弾性率E*2、及びショルダー部SHの複素弾性率E*3は、下記式(1)を満たすとともに、センター部CRの損失正接tanδ1、ミドル部MDの損失正接tanδ2、及びショルダー部SHの損失正接tanδ3は、下記式(2)及び下記式(3)を満たす。
E*1<E*2<E*3…(1)
0.9≦tanδ1/tanδ2≦1.1…(2)
0.9≦tanδ2/tanδ3≦1.1…(3)
【0033】
ここで、前記複素弾性率E*、及び前記損失正接tanδは、JIS−K6394の規定に準拠して、次に示される条件で(株)岩本製作所製の粘弾性スペクトロメータを用いて測定した値である。
初期歪:10%
振幅:±2%
周波数:10Hz
変形モード:引張
温度:70℃
【0034】
一般に、複素弾性率E*と損失正接tanδとは、下記式(6)、(7)から求められる下記式(8)において、相関がある。この下記式(8)において、センター部CRからショルダー部SHにかけて、貯蔵弾性率E'を維持させて、ロスコンプライアンスLCを漸減させることにより、損失正接tanδを維持しつつ、複素弾性率E*を漸増させることができる。
E*2=E"/LC…(6)
tanδ=E"/E'…(7)
E*2=(tanδ×E')/LC…(8)
ここで、
E*:複素弾性率
E″:損失弾性率
LC:ロスコンプライアンス
tanδ:損失正接
E':貯蔵弾性率
【0035】
なお、損失弾性率E"、及び貯蔵弾性率E'は、前記複素弾性率E*、及び前記損失正接tanδと同一の条件で測定されるとともに、ロスコンプライアンスLCは、上記式(6)で求められる。
【0036】
このように、本実施形態のタイヤ1は、センター部CRからショルダー部SHにかけて、複素弾性率E*1〜E*3を漸増させて、旋回時の剛性感である、いわゆる「腰」を伴わせつつ、損失正接tanδ1〜tanδ3を略同一にして、直進時から旋回時にかけてグリップを維持させることができ、旋回安定性能及び過渡特性を向上しうる。
【0037】
しかも、センター部CRの剛性が相対的に低く設定されるため、直進時において、路面からの振動を吸収することができ、乗り心地も向上しうる。
【0038】
なお、前記tanδ1/tanδ2が0.9未満であると、センター部CRとミドル部MDとのグリップの差が大きくなり、過渡特性及び耐偏摩耗性能を十分に向上させることができないおそれがある。逆に、前記tanδ1/tanδ2が1.1を超えると、ミドル部MDにおけるグリップを発揮させることができず、旋回安定性能を十分に維持できなくなるおそれがある。このような観点より、前記tanδ1/tanδ2は、より好ましくは0.95以上が望ましく、また、より好ましくは1.05以下が望ましい。
【0039】
同様に、前記tanδ2/tanδ3は、より好ましくは0.95以上が望ましく、また、より好ましくは1.05以下が望ましい。
【0040】
さらに、上記作用を効果的に発揮させるために、センター部CRの損失正接tanδ1は、0.20〜0.24が望ましい。なお、前記損失正接tanδ1が0.20未満であると、グリップを十分に発揮できなくなるおそれがある。逆に、前記損失正接tanδ1が0.24を超えると、トレッドゴム2Gの摩耗が大きくなるおそれがある。このような観点より、前記損失正接tanδ1は、より好ましくは0.21以上が望ましく、また、より好ましくは0.23以下が望ましい。
【0041】
また、センター部CRの複素弾性率E*1は、4.0〜5.5MPaに設定されるのが望ましい。なお、前記複素弾性率E*1が5.5MPaを超えると、センター部CRの剛性が過度に高くなり、乗り心地を維持することができないおそれがある。逆に、前記複素弾性率E*1が4.0MPa未満であると、ミドル部MDの複素弾性率E*2、及びショルダー部SHの複素弾性率E*3を大きくできず、旋回安定性能を十分に向上させることができないおそれがある。このような観点より、前記複素弾性率E*1は、より好ましくは4.9MPa以下が望ましく、また、より好ましくは4.3MPa以上が望ましい。
【0042】
さらに、前記ミドル部MDの複素弾性率E*2とセンター部CRの複素弾性率E*1との差(E*2−E*1)、及び該複素弾性率E*1の比(E*2−E*1)/E*1は、1〜20%が望ましい。なお、前記比(E*2−E*1)/E*1が1%未満であると、センター部CRからミドル部MDにかけて、トレッドゴム2Gの剛性を十分に大きくできず、旋回安定性能を向上できないおそれがある。逆に、前記比(E*2−E*1)/E*1が20%を超えても、センター部CRとミドル部MDとの剛性差が過度に大きくなり、過渡特性が低下するおそれがある。このような観点より、前記比(E*2−E*1)/E*1は、より好ましくは5%以上が望ましく、また、より好ましくは7%以下が望ましい。
【0043】
同様に、前記ショルダー部SHの複素弾性率E*3とミドル部MDの複素弾性率E*2との差(E*3−E*2)、及び該複素弾性率E*2の比(E*3−E*2)/E*2は、好ましくは1%以上、さらに好ましくは5%以上が望ましく、また、好ましくは20%以下、さらに好ましくは7%以下が望ましい。
【0044】
図2に示されるように、前記トレッドゴム2Gの外面2Sには、タイヤ赤道C側からタイヤ軸方向外側へ傾斜してのび、かつタイヤ周方向に隔設される傾斜主溝11、及びタイヤ周方向で隣り合う傾斜主溝11、11間に、該傾斜主溝11と逆方向に傾いてのびる複数の傾斜副溝12が設けられる。
【0045】
前記傾斜主溝11は、タイヤ赤道C側から一方のトレッド端2ta側にのびる第1傾斜主溝11Aと、タイヤ赤道C側から他方のトレッド端2tb側にのびる第2傾斜主溝11Bとを含む。これらの第1、第2傾斜主溝11A、11Bは、タイヤ周方向に間隔をあけて交互に配置される。
【0046】
また、前記第1傾斜主溝11Aは、タイヤ赤道Cよりも他方のトレッド端2tb側に内端11Aiを有し、かつセンター部CR内に外端11Aoを有して終端する。一方、第2傾斜主溝11Bも、タイヤ赤道Cよりも一方のトレッド端2ta側に内端11Biを有し、かつセンター部CR内に外端11Boを有して終端する。
【0047】
このような第1、第2傾斜主溝11A、11Bは、ミドル部MD及びショルダー部SHの剛性低下を抑制しつつ、センター部CRと路面との間の水膜を円滑に案内でき、直進時の排水性能を向上させることができる。なお、第1、第2傾斜主溝11A、11Bは、その最大溝幅W2が、好ましくはトレッド展開幅TWeの2〜4%程度、また、最大溝深さD2(図1に示す)がトレッド展開幅TWeの2〜5%程度が望ましい。
【0048】
さらに、本実施形態の第1傾斜主溝11A及び第2傾斜主溝11Bは、前記内端11Ai、11Biからタイヤ周方向に対して8〜12度の角度α1aで傾斜してのびる内側傾斜部13A、13B、及び該内側傾斜部13A、13Bに屈曲点15A、15Bを介して連続し、かつタイヤ周方向に対して18〜22度の角度α1bで傾斜してのびる外側傾斜部14A、14Bを有し、略へ字状に形成される。
【0049】
このような第1傾斜主溝11A及び第2傾斜主溝11Bは、タイヤ赤道C側からミドル部MD側に向かって、その溝角度を相対的に大きくしてねじり剛性を高めることができ、過渡特性を向上しうる。
【0050】
前記傾斜副溝12は、センター部CRに配される内端12Aiからタイヤ軸方向外側へのび、かつショルダー部SH内に配される外端12Aoで終端する第1傾斜副溝12A、及びミドル部MD内に配される内端12Biからタイヤ軸方向外側へのび、該ミドル部MD内に配される外端12Bo終端する第2傾斜副溝12Bが設けられる。
【0051】
前記第1傾斜副溝12Aも、前記内端12Aiからタイヤ周方向に対して30〜40度の角度α2aで傾斜してのびる内側傾斜部15、及び該内側傾斜部15に屈曲点17を介して連続し、かつタイヤ周方向に対して50〜60度の角度α2bで傾斜してのびる外側傾斜部16を有し、略へ字状に形成される。さらに、屈曲点17は、ミドル部MDとショルダー部SHとの境界線B2付近に配される。
【0052】
このような第1傾斜副溝12Aは、センター部CRからショルダー部SHの広範囲に亘って、トレッド部2と路面との間の水膜を円滑に案内でき、排水性能を向上しうる。また、第1傾斜副溝12Aは、ミドル部MDからショルダー部SHにかけて溝角度を相対的に大きくでき、ショルダー部SHでのねじり剛性を高めることができるため、過渡特性を向上しうる。なお、第1傾斜副溝12Aの最大溝幅W3及び最大溝深さD3(図1に示す)は、第1、第2傾斜主溝11A、11Bの前記最大溝幅W2及び前記最大溝深さD2と同一範囲に設定されるのが望ましい。
【0053】
前記第2傾斜副溝12Bは、前記内端12Biから前記外端12Boにかけて、タイヤ周方向に対して15〜25度の角度α3で傾斜してのびる。このような第2傾斜副溝12Bは、ョルダー部SHの剛性低下を抑制しつつ、排水性能を向上させることができる。なお、第2傾斜副溝12Bの最大溝幅W4及び最大溝深さD4(図1に示す)は、第1、第2傾斜主溝11A、11Bの前記最大溝幅W2、及び前記最大溝深さD2と同一範囲が望ましい。
【0054】
そして、本実施形態では、センター部CRのランド比LF1、ミドル部MDのランド比
LF2、及びショルダー部SHのランド比LF3は、下記式(10)を満たす。
LF1<LF2<LF3…(10)
【0055】
ここで、各ランド比LF1、LF2、LF3は、各センター部CR、ミドル部MD、及びショルダー部SHにおいて、トレッド部2の外面2Sの全ての溝を埋めた状態で測定される表面積に対する陸部分の接地面積の割合で表される。
【0056】
これにより、本実施形態のタイヤ1は、センター部CRからショルダー部SHにかけて、トレッド部2の剛性を漸増させることができるため、過渡特性を向上しうるとともに、上記式(1)との相乗効果により、旋回時に「腰」を効果的に伴なわせることができ、旋回安定性能をさらに向上しうる。さらに、センター部CRのランド比LF1を相対的に小さく設定されるため、直進時の排水性能を向上しうる。
【0057】
上記のような作用を効果的に発揮させるために、前記ミドル部MDのランド比LF2とセンター部CRのランド比LF1との比LF2/LF1は、101〜106%が望ましい。なお、前記比LF2/LF1が101%未満であると、上記のような作用を効果的に発揮させることができないおそれがある。逆に、前記比LF2/LF1が106%を超えても、センター部CRとミドル部MDとの剛性差が大きくなり、過渡特性を維持できなくなるおそれがある。このような観点より、前記比LF2/LF1は、好ましくは102%以上が望ましく、また、好ましくは105%以下が望ましい。
【0058】
同様に、前記ショルダー部SHのランド比LF3とミドル部MDのランド比LF2との比LF3/LF2は、前記比LF2/LF1と同一範囲が望ましい。
【0059】
図3には、本発明の他の実施形態のタイヤ1が示される。
この実施形態のタイヤ1は、トレッドゴム2Gのミドル部MDが、センター部CR側に配される内側ミドル部MDiと、ショルダー部SH側に配される外側ミドル部MDoとを含んで構成される。
【0060】
また、内側ミドル部MDiの複素弾性率E*2i、及び外側ミドル部MDoの複素弾性率E*2oが、下記式(4)を満たすとともに、内側ミドル部MDiの損失正接tanδ2i、及び外側ミドル部MDoの損失正接tanδ2oは、下記式(5)を満たす。
E*2i<E*2o…(4)
0.9≦tanδ2i/tanδ2o≦1.1…(5)
【0061】
これにより、この実施形態のタイヤ1は、センター部CRからショルダー部SHにかけて、損失正接tanδを維持しつつ、複素弾性率E*をより細分化して漸増させることができるため、旋回安定性能及び過渡特性を大幅に向上しうる。
【0062】
なお、前記外側ミドル部MDoの複素弾性率E*2oと内側ミドル部MDiの複素弾性率E*2iとの差(E*2o−E*2i)及び該複素弾性率E*2iの比E*2o−E*2i)/E*2iは、前記比(E*2−E*1)/E*1及び前記比(E*3−E*2)/E*2と同一範囲が望ましい。
【0063】
また、内側ミドル部MDiのランド比LF2iと、外側ミドル部MDoのランド比LF2oは、下記式(9)を満たすのが望ましい。
LF2i<LF2o…(9)
【0064】
これにより、センター部CRからショルダー部SHにかけて、それらの剛性を、より細分化して漸増させることができるため、過渡特性を大幅に向上しうる。
【0065】
また、この実施形態のタイヤ1では、内側ミドル部MDiと外側ミドル部MDoとの境界線B3、及び各境界線B1、B2が、トレッド部2の外面2Sからベルト層7に向かって、タイヤ軸方向内側に傾斜している。このようなトレッドゴム2Gは、センター部CRからショルダー部SHにかけて、ゴム物性の変化をスムーズにでき、過渡特性を向上しうる。
【0066】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例1】
【0067】
図1及び図2の基本構造を有し、かつ表1の仕様としたセンター部、ミドル部、及びショルダー部を有する自動二輪車用タイヤが製造され、それらの性能がテストされた。また、比較のために、トレッドゴムに、センター部、ミドル部及びショルダー部を有しないタイヤ(比較例1)についても同様にテストされた。なお、共通仕様は以下のとおりである。
タイヤサイズ:
前輪:120/90ZR17
後輪:180/55ZR17
リムサイズ:
前輪:MT3.50×17
後輪:MT5.50×17
トレッド展開幅TWe:225mm
トレッド幅TW:180mm
センター部の展開幅W1:45mm
比W1/TWe:20%
【0068】
また、センター部、ミドル部、及びショルダー部の各配合については、表2に示した。詳細は次のとおりである。
スチレンブタジエンゴム(SBR):旭化成(株)製のT4850
カーボンブラック:昭和キャボット社製のカーボンブラックN110
プロセスオイル:出光興産(株)製のダイアナプロセスPS32
老化防止剤:住友化学工業(株)製のアンチゲン6C(N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン)
ステアリン酸:日本油脂(株)製の椿
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の酸化亜鉛2種
硫黄:軽井沢硫黄(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤(1):大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS(N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
シリカ:デグッサ社製のVN3
カップリング剤:デグッサ社製のSi75
ワックス:大内新興化学(株)製のサンノックN
加硫促進剤(2):住友化学(株)製のソクシトルD
テスト方法は、次の通りである。
【0069】
<旋回安定性能、過渡特性、乗り心地>
各供試タイヤを、上記リムにリム組みし、内圧(前輪:250kPa、後輪:290kPa)充填して、排気量600ccの自動二輪車に装着し、ドライアスファルト路面のテストコースを周回したときの「旋回安定性能」、「過渡特性」及び「乗り心地」を、ドライバーによる官能評価により、10点法で評価した。数値が大きいほど良好である。
【0070】
<排水性能>
各供試タイヤを上記条件でリム組みし、かつ上記車両に装着して、散水した舗装道路を実車走行し、直進時及び旋回時の路面グリップ性能を、ドライバーによる官能評価により比較例1を100とする指数で表示している。数値が大きいほど良好である。
【0071】
<耐偏摩耗性能>
各供試タイヤを上記条件でリム組みし、かつ上記車両に装着して、ドライアスファルト路面を1000km走行し、タイヤ周上の3箇所において、センター部とミドル部との間、及びミドル部とショルダー部との間の最大摩耗量の平均が測定された。評価は、各平均値の逆数を、比較例1を100とする指数で表示している。数値が大きいほど良好である。
テストの結果を表1に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
【表2】
【0074】
テストの結果、実施例のタイヤは、旋回安定性能及び乗り心地を向上しうることが確認できた。
【実施例2】
【0075】
図3の基本構造を有し、かつ表1の仕様としたセンター部、内側ミドル部、外側ミドル部、及びショルダー部を有する自動二輪車用タイヤが製造され、それらの性能がテストされた。また、比較のために、センター部、内側ミドル部、外側ミドル部、及びショルダー部を有しないタイヤ(比較例1)についても同様にテストされた。
なお、共通仕様、テスト方法は、実施例1と同一であり、テストの結果を表3に示す。
【0076】
【表3】
【0077】
テストの結果、実施例のタイヤは、旋回安定性能及び乗り心地を向上しうることが確認できた。
【符号の説明】
【0078】
1 自動二輪車用タイヤ
2 トレッド部
2G トレッドゴム
CR センター部
MD ミドル部
SH ショルダー部
図1
図2
図3