(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5711897
(24)【登録日】2015年3月13日
(45)【発行日】2015年5月7日
(54)【発明の名称】既存建物の耐震補強工法および耐震補強フレーム
(51)【国際特許分類】
E04G 23/02 20060101AFI20150416BHJP
【FI】
E04G23/02 D
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2010-82064(P2010-82064)
(22)【出願日】2010年3月31日
(65)【公開番号】特開2011-214280(P2011-214280A)
(43)【公開日】2011年10月27日
【審査請求日】2013年3月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(74)【代理人】
【識別番号】100089875
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】平野 勝識
(72)【発明者】
【氏名】シング ウペンド ラヴィンドラ
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 幸博
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 仁
【審査官】
津熊 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−138472(JP,A)
【文献】
特開2005−350859(JP,A)
【文献】
特開2010−047926(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋コンクリート造もしくは鉄骨鉄筋コンクリート造ラーメン構造の既存建物の1階の隣り合う複数本の既存柱に対向しその上部が既存柱に連結された複数本の第1補強柱を含む1階フレーム部分を構築し、
1階フレーム部分を構築したならば、前記複数本の第1補強柱のうちの隣り合う2本以上の第1補強柱の上部に立設され既存建物の2階の既存柱に対向しその上部が既存柱に連結された2本以上の第2補強柱を含む2階フレーム部分を構築し、
このように1階から2階以上の上層階へと1階分のフレーム部分を順次既存建物に連結しつつ既存建物の構面に隣接させて耐震補強フレームを構築していくに際して、
Nを1以上の整数としてN階に設ける第N補強柱の高さを、N階の既存柱の上部をなす柱梁接合部の高さよりも大きい寸法に設定し、
N階の既存柱の柱梁接合部に対向する第N補強柱の箇所を、前記柱梁接合部に連結するとともに、第N補強柱の上端を前記柱梁接合部よりも上方に位置する既存柱の箇所に、該箇所へ近づく方向へ移動不能に接合し、N階の既存柱がせん断破壊を起こして軸方向に変位した際の第N補強柱の外側への曲げ変形を抑制する、
ことを特徴とする耐震補強工法。
【請求項2】
鉄筋コンクリート造もしくは鉄骨鉄筋コンクリート造ラーメン構造の既存建物の1階の隣り合う複数本の既存柱に対向する第1補強柱を複数立設すると共に、それら隣り合う第1補強柱の上部間を、既存建物の1階の既存梁に対向する第1補強梁で連結し、第1補強柱と既存柱の上部とを連結することで、既存建物に連結された1階フレーム部分を構築し、
1階フレーム部分を構築したならば、前記複数本の第1補強柱のうちの隣り合う2本以上の第1補強柱の上部に既存建物の2階の既存柱に対向する第2補強柱を立設すると共に、それら隣り合う第2補強柱の上部間を、2階の既存梁に対向する第2補強梁で連結し、第2補強柱と2階の既存柱の上部とを連結することで、既存建物に連結された2階フレーム部分を構築し、
このように1階から2階以上の上層階へと1階分のフレーム部分を順次既存建物に連結しつつ既存建物の構面に隣接させて耐震補強フレームを構築していくに際して、
Nを1以上の整数としてN階に設ける第N補強柱の高さを、N階の既存柱の上部をなす柱梁接合部の高さよりも大きい寸法に設定し、
N階の既存柱の柱梁接合部に対向する第N補強柱の箇所を、前記柱梁接合部に連結するとともに、第N補強柱の上端を前記柱梁接合部よりも上方に位置する既存柱の箇所に、該箇所へ近づく方向へ移動不能に接合し、N階の既存柱がせん断破壊を起こして軸方向に変位した際の前記第N補強柱の外側への曲げ変形を抑制する、
ことを特徴とする耐震補強工法。
【請求項3】
第N補強柱の上端の、N階の既存柱よりも上方に位置する既存柱の箇所への接合は、モルタルを介してなされる、
ことを特徴とする請求項1または2記載の耐震補強工法。
【請求項4】
第N補強柱の高さは、N階の既存柱の高さに、(N+1)階の既存柱の高さを加えた寸法であり、
第N補強柱の上端が接合されるN階の既存柱よりも上方に位置する既存柱の箇所は、(N+1)階の既存柱の上端である、
ことを特徴とする請求項1乃至3に何れか1項記載の耐震補強工法。
【請求項5】
既存柱を支える既存基礎に接合する補強基礎がさらに設けられ、
第1補強柱は、前記補強基礎および既存基礎から立設され、第1補強柱の下部は複数のアンカーを介してそれら基礎に連結されている、
ことを特徴とする請求項1乃至4に何れか1項記載の耐震補強工法。
【請求項6】
鉄筋コンクリート造もしくは鉄骨鉄筋コンクリート造ラーメン構造の既存建物の1階の隣り合う複数本の既存柱に対向しその上部が既存柱に連結された複数本の第1補強柱を含んで構築された1階フレーム部分と、
前記複数本の第1補強柱のうちの隣り合う2本以上の第1補強柱の上部に立設され既存建物の2階の既存柱に対向しその上部が既存柱に連結された2本以上の第2補強柱を含んで構築された2階フレーム部分と、
このように1階から2階以上の上層階へと1階分のフレーム部分を順次既存建物に連結しつつ既存建物の構面に隣接させて構築された耐震補強フレームであって、
Nを1以上の整数としてN階に設ける第N補強柱の高さは、N階の既存柱の上部をなす柱梁接合部の高さよりも大きい寸法に設定され、
N階の既存柱の柱梁接合部に対向する第N補強柱の箇所が、前記柱梁接合部に連結されるとともに、第N補強柱の上端が前記柱梁接合部よりも上方に位置する既存柱の箇所に、該箇所へ近づく方向へ移動不能に接合され、N階の既存柱がせん断破壊を起こして軸方向に変位した際の前記第N補強柱の外側への曲げ変形が抑制される、
ことを特徴とする耐震補強フレーム。
【請求項7】
鉄筋コンクリート造もしくは鉄骨鉄筋コンクリート造ラーメン構造の既存建物の1階の隣り合う複数本の既存柱に対向する第1補強柱を複数立設すると共に、それら隣り合う第1補強柱の上部間を、既存建物の1階の既存梁に対向する第1補強梁で連結し、第1補強柱と既存柱の上部とを連結することで構築された1階フレーム部分と、
前記複数本の第1補強柱のうちの隣り合う2本以上の第1補強柱の上部に既存建物の2階の既存柱に対向する第2補強柱を立設すると共に、それら隣り合う第2補強柱の上部間を、2階の既存梁に対向する第2補強梁で連結し、第2補強柱と2階の既存柱の上部とを連結することで構築された2階フレーム部分と、
このように1階から2階以上の上層階へと1階分のフレーム部分を順次既存建物に連結しつつ既存建物の構面に隣接させて構築された耐震補強フレームであって、
Nを1以上の整数としてN階に設ける第N補強柱の高さは、N階の既存柱の上部をなす柱梁接合部の高さよりも大きい寸法に設定され、
N階の既存柱の柱梁接合部に対向する第N補強柱の箇所が、前記柱梁接合部に連結されるとともに、第N補強柱の上端が前記柱梁接合部よりも上方に位置する既存柱の箇所に、該箇所へ近づく方向へ移動不能に接合され、N階の既存柱がせん断破壊を起こして軸方向に変位した際の前記第N補強柱の外側への曲げ変形が抑制される、
ことを特徴とする耐震補強フレーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋コンクリート造(RC造)もしくは鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)ラーメン構造の既存建物の耐震補強工法および耐震補強フレームに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の耐震補強工法は既存躯体を補強することが一般的である。最も一般的な手法は耐震壁、もしくは補強ブレースの構築である。
この手法の場合、開放的な空間が閉鎖的になることから嫌われることが多い。
他に、柱の靱性を確保するために、鋼板、炭素繊維シートなどを巻きつけたりする工法や、柱の耐力を確保するために柱断面そのものを大きくすることがある。梁に関しても同様である。
このような従来技術による耐震補強の場合、建物内部での施工が主となり、建物を使いながらの施工が困難である。これは建物の使用者に多大な負担をかけることとなり、耐震補強が普及する妨げとなっている。
【0003】
また、外側からの施工であっても、耐震壁、ブレースによる補強であれば、居ながら施工は可能となるものの、耐震補強後の採光性、外観、内部からの景色が問題となる。
そこで、本出願人は、耐震補強後の採光性、外観性に優れ、また、内部からの景色にも問題の生じない耐震補強構造、工法を提供している。
【0004】
より詳細に説明すると、例えば
図1に示すように、既存建物10が鉄筋コンクリート造(RC造)ラーメン構造の4階建ての校舎とすると、既存建物10は、複数の既存柱12と、各階に設けられた既存梁14とを含んで構成され、
図1において符号16Aは垂壁、16Bは腰壁、16Cは窓(散在点で示す)であり、
図9、
図10において符号16Dは既存梁である。
図8に示すように、耐震補強フレーム80は、既存建物10の構面に隣接して構築されている。
耐震補強フレーム80は、1階フレーム部分80Aと、2階フレーム部分80Bとを含んでいる。
2階フレーム部分80Bは、既存建物10の全ての2階に対応させておらず、2階のうちの補強すべき箇所のみに設けられている。
各フレーム部分80A、80Bは、補強柱82と補強梁84とを含んで構成され、各階の補強柱82の上部は、両端の補強梁84が結合された柱梁接合部88となっている。また、各階の既存柱12の上部も、両端の既存梁14とこの既存柱12とが結合された柱梁接合部18となっている。
【0005】
図8、
図9に示すように、1階フレーム部分80Aは、1階の既存柱12の高さに相当する高さの第1補強柱82Aと、第1補強柱82Aの上部間を連結し既存梁14に対向する第1補強梁84Aとからなる。
第1補強柱82Aの上部の柱梁接合部88は、既存建物10の1階の既存柱12の上部の柱梁接合部18に、スタッドジベル90A、後施工アンカー90B、モルタル(またはコンクリート)90Cなどを介して連結されている。
図8、
図10に示すように、2階フレーム部分80Bは、2階の既存柱12の高さに相当する高さの第2補強柱82Bと、第2補強柱82Bの上部間を連結し既存梁14に対向する第2補強梁84Bとからなる。
第2補強柱82Bは第1補強柱82Aの上部の柱梁接合部88から立設され、第2補強柱82Bの上部の柱梁接合部88は、既存建物10の2階の既存柱12の上部の柱梁接合部18に、スタッドジベル90A、後施工アンカー90B、モルタル(またはコンクリート)90Cなどを介して連結されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−248592
【特許文献2】特開2009−249851
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、
図11に示すように、既存建物10の1階の既存柱12に対向して第1補強柱82Aが設けられている場合、地震による被災で1階の既存柱12がせん断破壊を起こし崩壊して軸方向に変位を生じると、第1補強柱82Aは既存建物10の重量である偏心軸力を受けて外側に曲げ変形を起こし、第1補強柱82Aの上部と既存柱12の上部との間に目開きが生じ、耐震補強フレーム80による補強効果が低減する。
また、
図12に示すように、既存建物10の1階の既存柱12に対向して第1補強柱80Aが、2階の既存柱12に対向して第2補強柱80Bが設けられている場合、地震による被災で2階の既存柱12がせん断破壊を起こし崩壊して軸方向に変位を生じると、2階の第2補強柱80Bは偏心軸力を受けて外側に曲げ変形を起こし、第2補強柱80Bの上部と2階の既存柱12の上部との間、および第2補強柱80Bと第1補強柱80Aとの接合部に目開きが生じ、耐震補強フレーム80による補強効果が低減する。
本発明はかかる事情に鑑み成されたものであり、本発明の目的は、地震による被災で、既存の柱がせん断破壊を起こし軸方向に変位を生じた場合、この柱に対向する補強柱の外側への曲げ変形を抑制し、補強効果を維持できる耐震補強工法および耐震補強フレームを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の耐震補強工法は、鉄筋コンクリート造もしくは鉄骨鉄筋コンクリート造ラーメン構造の既存建物の1階の隣り合う複数本の既存柱に対向しその上部が既存柱に連結された複数本の第1補強柱を含む1階フレーム部分を構築し、1階フレーム部分を構築したならば、前記複数本の第1補強柱のうちの隣り合う2本以上の第1補強柱の上部に立設され既存建物の2階の既存柱に対向しその上部が既存柱に連結された2本以上の第2補強柱を含む2階フレーム部分を構築し、このように
1階から2階以上の上層階へと1階分のフレーム部分を順次既存建物に連結しつつ既存建物の構面に隣接させて耐震補強フレームを構築していくに際して、Nを1以上の整数とし
てN階に設ける第N補強柱の高さを、N階の既存柱
の上部をなす柱梁接合部の高さよりも大きい寸法に設定し、N階の既存柱の
柱梁接合部に対向する第N補強柱の箇所を、
前記柱梁接合部に連結するとともに、第N補強柱の上端を
前記柱梁接合部よりも上方に位置する既存柱の箇所に、該箇所へ近づく方向へ移動不能に接合し、N階の既存柱がせん断破壊を起こして軸方向に変位した際の第N補強柱の外側への曲げ変形を抑制することを特徴とする。
また、本発明の耐震補強工法は、鉄筋コンクリート造もしくは鉄骨鉄筋コンクリート造ラーメン構造の既存建物の1階の隣り合う複数本の既存柱に対向する第1補強柱を複数立設すると共に、それら隣り合う第1補強柱の上部間を、既存建物の1階の既存梁に対向する第1補強梁で連結し、第1補強柱と既存柱の上部とを連結することで、既存建物に連結された1階フレーム部分を構築し、1階フレーム部分を構築したならば、前記複数本の第1補強柱のうちの隣り合う2本以上の第1補強柱の上部に既存建物の2階の既存柱に対向する第2補強柱を立設すると共に、それら隣り合う第2補強柱の上部間を、2階の既存梁に対向する第2補強梁で連結し、第2補強柱と2階の既存柱の上部とを連結することで、既存建物に連結された2階フレーム部分を構築し、このように
1階から2階以上の上層階へと1階分のフレーム部分を順次既存建物に連結しつつ既存建物の構面に隣接させて耐震補強フレームを構築していくに際して、Nを1以上の整数とし
てN階に設ける第N補強柱の高さを、N階の既存柱
の上部をなす柱梁接合部の高さよりも大きい寸法に設定し、N階の既存柱の
柱梁接合部に対向する第N補強柱の箇所を、
前記柱梁接合部に連結するとともに、第N補強柱の上端を
前記柱梁接合部よりも上方に位置する既存柱の箇所に、該箇所へ近づく方向へ移動不能に接合し、N階の既存柱がせん断破壊を起こして軸方向に変位した際の前記第N補強柱の外側への曲げ変形を抑制することを特徴とする。
また、本発明は、鉄筋コンクリート造もしくは鉄骨鉄筋コンクリート造ラーメン構造の既存建物の1階の隣り合う複数本の既存柱に対向しその上部が既存柱に連結された複数本の第1補強柱を含んで構築された1階フレーム部分と、前記複数本の第1補強柱のうちの隣り合う2本以上の第1補強柱の上部に立設され既存建物の2階の既存柱に対向しその上部が既存柱に連結された2本以上の第2補強柱を含んで構築された2階フレーム部分と、このように
1階から2階以上の上層階へと1階分のフレーム部分を順次既存建物に連結しつつ既存建物の構面に隣接させて構築された耐震補強フレームであって、Nを1以上の整数とし
てN階に設ける第N補強柱の高さは、N階の既存柱
の上部をなす柱梁接合部の高さよりも大きい寸法に設定され、N階の既存柱の
柱梁接合部に対向する第N補強柱の箇所が、
前記柱梁接合部に連結されるとともに、第N補強柱の上端が
前記柱梁接合部よりも上方に位置する既存柱の箇所に、該箇所へ近づく方向へ移動不能に接合され、N階の既存柱がせん断破壊を起こして軸方向に変位した際の前記第N補強柱の外側への曲げ変形が抑制されることを特徴とする。
また、本発明は、鉄筋コンクリート造もしくは鉄骨鉄筋コンクリート造ラーメン構造の既存建物の1階の隣り合う複数本の既存柱に対向する第1補強柱を複数立設すると共に、それら隣り合う第1補強柱の上部間を、既存建物の1階の既存梁に対向する第1補強梁で連結し、第1補強柱と既存柱の上部とを連結することで構築された1階フレーム部分と、前記複数本の第1補強柱のうちの隣り合う2本以上の第1補強柱の上部に既存建物の2階の既存柱に対向する第2補強柱を立設すると共に、それら隣り合う第2補強柱の上部間を、2階の既存梁に対向する第2補強梁で連結し、第2補強柱と2階の既存柱の上部とを連結することで構築された2階フレーム部分と、このように
1階から2階以上の上層階へと1階分のフレーム部分を順次既存建物に連結しつつ既存建物の構面に隣接させて構築された耐震補強フレームであって、Nを1以上の整数とし
てN階に設ける第N補強柱の高さは、N階の既存柱
の上部をなす柱梁接合部の高さよりも大きい寸法に設定され、N階の既存柱の
柱梁接合部に対向する第N補強柱の箇所が、
前記柱梁接合部に連結されるとともに、第N補強柱の上端が
前記柱梁接合部よりも上方に位置する既存柱の箇所に、該箇所へ近づく方向へ移動不能に接合され、N階の既存柱がせん断破壊を起こして軸方向に変位した際の前記第N補強柱の外側への曲げ変形が抑制されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、地震による被災で既存建物のN階の既存柱がせん断破壊を起こして軸方向に変位し、第N補強柱が偏心軸力を受けて外側に曲げ変形しようとすると、第N補強柱の上端が、N階の既存柱よりも上方に位置する既存柱の箇所にあたり、第N補強柱の外側への曲げ変形が抑制される。
したがって、第N補強柱と第(N−1)補強柱との接合部における目開きや、第N補強柱と既存柱との接合部の目開きを抑制でき、耐震補強フレームによる補強効果を維持する上で有利となる。
また、第N補強柱の外側への曲げ変形が抑制されるので、第N補強柱の上部とN階の既存柱の上部とを連結するための部材への負担を軽減できる。したがって、それら部材の数量を減少でき、コストダウンを図る上でも有利となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】耐震補強の対象となる既存建物の正面図である。
【
図2】第1の実施の形態の耐震補強フレームを構築した状態の耐震補強フレームと既存建物の正面図である。
【
図3】第1補強柱と既存建物の連結関係の説明図である。
【
図4】第1、第2補強柱と既存建物の連結関係の説明図である。
【
図5】第2の実施の形態の耐震補強フレームを構築した状態の耐震補強フレームと既存建物の正面図である。
【
図6】第1補強柱と既存建物の連結関係の説明図である。
【
図7】第1、第2補強柱と既存建物の連結関係の説明図である。
【
図8】従来の耐震補強フレームを構築した状態の耐震補強フレームと既存建物の正面図である。
【
図9】従来の第1補強柱と既存建物の連結関係の説明図である。
【
図10】従来の第1、第2補強柱と既存建物の連結関係の説明図である。
【
図11】1階の既存柱がせん断破壊した際の従来の第1補強柱の説明図である。
【
図12】2階の既存柱がせん断破壊した際の従来の第1補強柱の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の実施の形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は本発明の耐震補強工法の対象となる建物の具体例を示した正面図を示し、既存建物10の構成は前記と同様であり、既存柱12、既存梁14、垂壁16A、腰壁16B、窓(斜線で示す)16Cなどを含んで構成されている。
図2は、構築された第1の実施の形態の耐震補強フレーム20の正面図を示している。
図3、
図4に示すように、耐震補強フレーム20は、既存建物10の構面に隣接して(近接して)構築されている。
耐震補強フレーム20は既存建物10の構面と平行する面上に位置しており、1階フレーム部分20Aと、2階フレーム部分20Bとを含んでいる。
各フレーム部分20A、20Bは、補強柱22と補強梁24とを含んで構成され、補強柱22と補強梁24は、鉄骨鉄筋コンクリート製、あるいは鉄筋コンクリート製、あるいは鉄骨製である。
各階の補強柱22の上部は、両端の補強梁24とこの補強柱22とが結合された柱梁接合部28となっている。また、各階の既存柱12の上部も、両端の既存梁14とこの既存柱12とが結合された柱梁接合部18となっている。
【0012】
図2に示すように、1階フレーム部分20Aは、1階の既存柱12に対向する第1補強柱22Aと、第1補強柱22Aの上部間を連結し1階の既存梁14に対向する第1補強梁24Aとを含んでいる。
なお、
図3、
図4に示すように、既存柱12の既存基礎19に接合させて補強用基礎29が設けられ、第1補強柱22Aはそれら基礎19,29の上から立設され、複数本の柱脚アンカー29Aの一部が第1補強柱22Aの下部から既存基礎19に打ち込まれ、残りの柱脚アンカー29Aが第1補強柱22Aの下部から補強用基礎29に打ち込まれ、それら基礎19、29に連結されている。
第1補強柱22Aが並べられた方向において両端の2本の第1補強柱22Aを除いた残りの第1補強柱22Aは、その高さが、1階の既存柱12と同じ寸法で設定されている。
また、両端に位置する2本の第1補強柱22Aは、その高さが、1階の既存柱12のよりも大きい寸法に設定されている。
【0013】
図3に示すように、両端の2本の第1補強柱22Aの上部をなす柱梁接合部28は、1階の既存柱12の上部をなす柱梁接合部18にスタッドジベル90A、後施工アンカー90B、モルタル(またはコンクリート)90Cなどを介して連結されている。本実施の形態では、柱梁接合部28の両側に位置する第1補強梁24Aの箇所も1階の既存梁14に連結されている。
また、柱梁接合部28から突出する第1補強柱22Aの上端2202はモルタルMを介して1階の既存柱12の上方の既存柱12の箇所に、すなわち、2階の既存柱12の箇所に、該箇所へ近づく方向へ移動不能
にモルタルMにより接合されている。
また、両端の2本の第1補強柱22Aを除いた残りの第1補強柱22Aの上端の柱梁接合部28は、1階の既存柱12の上端の柱梁接合部18に、スタッドジベル90A、後施工アンカー90B、モルタル(またはコンクリート)90Cなどを介して連結されている。本実施の形態では、柱梁接合部28に近接する第1補強梁24Aの箇所も1階の既存梁14に連結されている。
【0014】
2階フレーム部分
20Bは1階フレーム部分が構築された後に構築されており、2階フレーム部分は、既存建物10の全ての2階に対応させておらず、2階のうちの補強すべき箇所のみに設けられている。
図2に示すように、2階フレーム部分は、2階の既存柱12に対向する第2補強柱22Bと、第2補強柱22Bの上部間を連結し2階の既存梁14に対向する第2補強梁24Bとを含んでいる。
【0015】
第2補強柱22Bは第1補強柱22Aの上部をなす柱梁接合部28から立設されている。
図4に示すように、第2補強柱22Bは、その高さが、2階の既存柱12のよりも大きい寸法に設定されている。
各第2補強柱22Bの上部をなす柱梁接合部28は、2階の既存柱12の上部をなす柱梁接合部18にスタッドジベル90A、後施工アンカー90B、モルタル(またはコンクリート)90Cなどを介して連結している。本実施の形態では、柱梁接合部28に近接する第2補強梁24Bの箇所も2階の既存梁14に連結されている。
また、柱梁接合部28から突出する第2補強柱22Bの上端2204は、モルタルMを介して2階の既存柱12の上方の既存の既存柱12の箇所に、すなわち、3階の既存柱12の箇所に、該箇所へ近づく方向へ移動不能
にモルタルMにより接合されている。
【0016】
本実施の形態によれば次の効果が奏される。
まず、1階の両端に位置する2本の第1補強柱22Aについて説明する。
例えば、地震による被災で、
図3に示す既存建物10の1階の既存柱12が、
図11に示すように崩壊しせん断破壊を起こすことで軸方向に変位し、第1補強柱22Aが既存建物10の重量である偏心軸力を受け外側に曲げ変形しようとすると、第1補強柱22Aの上端2202がモルタルMを介して2階の既存柱12にあたり、第1補強柱22Aの外側への曲げ変形が抑制される。したがって、柱梁接合部18、28間の目開きを抑制でき、耐震補強フレーム20による補強効果を維持する上で有利となる。
また、第1補強柱22Aの外側への曲げ変形が抑制されるので、第1補強柱22Aの上部と1階の既存柱12の上部とを連結するための部材90A、90Bへの負担を軽減できる。したがって、第1補強柱22Aの上部と1階の既存柱12の上部とを連結するために用いる、本実施の形態では、第1補強柱22Aに近接する第1補強梁24A箇所と既存梁14とを連結するためにも用いる打設作業が困難な後施工アンカー90Bの数量を減少でき、コストダウンを図る上でも有利となる。
【0017】
次に、第2補強柱22Bについて説明する。
例えば、地震による被災で、
図4に示す既存建物10の2階の既存柱12が、
図12に示すようにせん断破壊を起こして軸方向に変位し、第2補強柱22Bが偏心軸力受け外側に曲げ変形しようとすると、第2補強柱22Bの上端2204がモルタルMを介して3階の既存柱12にあたり、第2補強柱22Bの外側への曲げ変形が抑制される。したがって、2階における柱梁接合部18、28間の目開き、および第2補強柱22Bと第1補強柱22Aとの接合部における目開きを抑制でき、耐震補強フレーム20による補強効果を維持する上で有利となる。
また、前記と同様に、第2補強柱22Aの上部と2階の既存柱12の上部とを連結するために用いる、本実施の形態では、第2補強柱22Aに近接する第1補強梁24A箇所と既存梁とを連結するためにも用いる打設作業が困難な後施工アンカー90Bの数量を減少でき、コストダウンを図る上でも有利となる。
【0018】
次に、第2の実施の形態について説明する。
図5は、構築された第2の実施の形態の耐震補強フレーム30の正面図を示している。
図6、
図7に示すように、耐震補強フレーム30は、既存建物10の構面に近接して構築されている。
第1の実施の形態と同様な箇所、部材に同一の符号を付し、その説明を省略すると、耐震補強フレーム30は既存建物10の構面と平行する面上に位置しており、1階フレーム部分30Aと、2階フレーム部分30Bとを含んでいる。
【0019】
図5に示すように、1階フレーム部分30Aは、1階の既存柱12に対向する第1補強柱22Cと、第1補強柱22Cの上部間を連結し1階の既存梁14に対向する第1補強梁24Cとを含んでおり、第1補強柱22Cが並べられた方向において両端の2本の第1補強柱22Cを除いた残りの第1補強柱22Cは、その高さが、1階の既存柱12と同じ寸法で設定されている。
また、両端に位置する2本の第1補強柱22Cは、その高さが、1階の既存柱12のよりも大きい寸法に設定されている。本実施の形態では、2本の第1補強柱22Cの高さは、1階の既存柱12の高さに2階の既存柱12の高さを加えた寸法で形成されている。
【0020】
図6に示すように、両端の2本の第1補強柱22Cの上下中間部をなす柱梁接合部28は、1階の既存柱12の上部をなす柱梁接合部18にスタッドジベル90A、後施工アンカー90B、モルタル(またはコンクリート)90Cなどを介して連結されている。本実施の形態では、柱梁接合部28に近接する第1補強梁24Cの箇所も1階の既存梁14に連結されている。
また、柱梁接合部28から突出する第1補強柱22Cの上端2206はモルタルMを介して1階の既存柱12の上方の既存柱12の箇所に、すなわち、2階の既存柱12の上部をなす柱梁接合部18に、該柱梁接合部18へ近づく方向へ移動不能
にモルタルMにより接合されている。
また、両端の2本の第1補強柱22Cを除いた残りの第1補強柱22Cの上部の柱梁接合部28は、1階の既存柱12の上端の柱梁接合部18に、スタッドジベル90A、後施工アンカー90B、モルタル(またはコンクリート)90Cなどを介して連結されている。本実施の形態では、柱梁接合部28に近接する第1補強梁24Cの箇所も1階の既存梁14に連結されている。
【0021】
2階フレーム部分30Bは1階フレーム部分30Aが構築された後に構築されており、2階フレーム部分30Bは、既存建物10の全ての2階に対応させておらず、2階のうちの補強すべき箇所のみに設けられている。
図5、
図7に示すように、2階フレーム部分30Bは、2階の既存柱12に対向する第2補強柱22Dと、第2補強柱22Dの上部間を連結し2階の既存梁14に対向する第2補強梁24Dとを含んでいる。
【0022】
第2補強柱22Dは第1補強柱22Cの上部をなす柱梁接合部28から立設されている。
図7に示すように、第2補強柱22Dは、その高さが、2階の既存柱12のよりも大きい寸法に設定されている。本実施の形態では、第2補強柱22Dの高さは、2階の既存柱12の高さに3階の既存柱12の高さを加えた寸法で形成されている。
2階の既存柱12の上部をなす柱梁接合部18に対向する各第2補強柱22Dの上下中間部の柱梁接合部28は、2階の既存柱12の上部をなす柱梁接合部18にスタッドジベル90A、後施工アンカー90B、モルタル(またはコンクリート)90Cなどを介して連結している。本実施の形態では、柱梁接合部28に近接する第2補強梁24Dの箇所も2階の既存梁14に連結されている。
また、柱梁接合部28から突出する第2補強柱22Dの上端2208は、モルタルMを介して3階の既存柱12の上部をなす柱梁接合部18に、該柱梁接合部18へ近づく方向へ移動不能
にモルタルMにより接合されている。
【0023】
本実施の形態によれば次の効果が奏される。
まず、1階の両端に位置する2本の第1補強柱22Cについて説明する。
例えば、地震による被災で、
図6に示す既存建物10の1階の既存柱12が、
図11に示すように崩壊し断破壊を起こして軸方向に変位し、偏心軸力を受けて第1補強柱22Cが外側に曲げ変形しようとすると、第1補強柱22Cの上端2206がモルタルMを介して2階の既存柱12の上端にあたり、第1補強柱22Cの外側への曲げ変形が抑制される。したがって、1階における柱梁接合部18、28間の目開きを抑制でき、耐震補強フレーム30による補強効果を維持する上で有利となる。
また、第1補強柱22Cの外側への曲げ変形が抑制されるので、第1補強柱22Cの上部と1階の既存柱12の上部とを連結するための部材50A、50Bへの負担を軽減できる。したがって、第1補強柱22Cの上部と1階の既存柱12の上部とを連結するために用いる、本実施の形態では、第1補強柱22Cに近接する第1補強梁24C箇所と既存梁14とを連結するためにも用いる打設作業が困難な後施工アンカー50Bの数量を減少でき、コストダウンを図る上でも有利となる。
【0024】
次に、第2補強柱22Dについて説明する。
例えば、地震による被災で、
図7に示す既存建物10の2階の既存柱12が、
図12に示すようにせん断破壊を起こして軸方向に変位し、第2補強柱22Dが外側に曲げ変形しようとすると、第2補強柱22Dの上端2208がモルタルMを介して3階の既存柱12の上端にあたり、第2補強柱22Dの外側への曲げ変形が抑制される。したがって、2階における柱梁接合部18、28間の目開き、第2補強柱22Dと第1補強柱22Cとの接合部における目開きを抑制でき、耐震補強フレーム30による補強効果を維持する上で有利となる。
また、前記と同様に、第2補強柱22Dの上部と2階の既存柱12の上部とを連結するために用いる、本実施の形態では、第2補強柱22Dに近接する第2補強梁24D箇所と既存梁14とを連結するためにも用いる打設作業が困難な後施工アンカー50Bの数量を減少でき、コストダウンを図る上でも有利となる。
【符号の説明】
【0025】
10……既存建物10、12……既存柱、14……既存梁、20、30……耐震補強フレーム、22A、22C……第1補強柱、22B、22D……第2補強柱、24A、24C……第1補強梁、24B、24D……第2補強梁。