【実施例1】
【0026】
図1は本実施例における撮像装置の撮影光学系の構成図である。光軸上に、前玉レンズ11、光量絞り装置12、レンズ13〜15、赤外カット機能を有するローパスフィルタ16、CCD等から成り被写体像を光電変換する撮像素子17が順次に配列されている。光量調節のための光量絞り装置12は、絞り羽根支持板18に設け開口部の大きさを可変する一対の絞り部材であり、相対的に駆動される絞り羽根19a、19bが取り付けられている。絞り羽根19aにはNDフィルタ20が、開口部の少なくとも一部を覆う位置に貼り付けられている。
【0027】
光量絞り装置12では、絞り羽根19a、19bにより形成される略菱形形状の開口部を通過する可視光領域の透過光量を、NDフィルタ20により略均一に減衰させて制限することができる。また、NDフィルタ20は絞り羽根19aに取り付けずに、単独で開口部に対し挿脱することも可能である。
【0028】
このような撮影光学系において、前玉レンズ11を通過した被写体像は、光量絞り装置12を介して光量調整がなされ、撮像素子17の表面に結像して電気信号に変換される。
【0029】
図2はグラデーションNDフィルタ20の断面模式図を示しており、透明基板31としてPET(ポリエチレンテレフタレート)を用いている。しかしPET以外にも、透明性及び機械的強度を有するPEN(ポリエチレンナフタレート)、アクリル系樹脂、ポリカーボネート、ポリイミド系樹脂、ノルボルネン系樹脂、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド等のフィルム状から成る合成樹脂製基板を使用することも可能である。
【0030】
また透明基板31の板厚は、NDフィルタ20としての剛性を保持しつつ、可能な限り薄いことが好ましい。具体的には、厚さ300μm以下とすることが好適であり、より好ましくは20〜100μmである。
【0031】
透明基板31の一方の第1面には、膜厚を連続的に変化させた第1のND膜32の積層膜が成膜され、透明基板31の他方の第2面には、膜厚が一定で均一な光学濃度を有する第2のND膜33の積層膜が成膜されている。
【0032】
第1のND膜32としては、透明基板31側から第1、3、5層に反射防止の役割を果たす誘電体層としてAl
2O
3膜32aと、第2、4、6層に光吸収層としてTiOx膜32bとを光学濃度勾配を設けながら交互に積層されている。そして、最表層の第7層目に反射防止層としてMgF
2膜32cが一定の膜厚で成膜されている。
【0033】
NDフィルタ20の透過率は、TiOx膜32bの総膜厚によって変化し、総膜厚が厚くなるほど透過率は低下する。また、400〜700nmの波長範囲内における透過率の平坦性は、TiOx膜32bのx値(0<x<2)によって変化し、構成層数や使用材によって適切に選択することにより透過率分布は平坦となる。
【0034】
また、反射防止層としては透明誘電体が使用することができ、可視光波長領域で光吸収性を有する材料が使用でき、実施例のAl
2O
3の他に、SiO
2、SiO、MgF
2、ZrO
2、TiO
2、CeO
2、CeF
3、Na
3AlF
6、ZnS等が使用できる。また、光吸収層としては、実施例のTiOxの他に、Ti、Ni、Cr、NiCr、NiFe、Nb等の金属、合金、酸化物が使用可能である。そして、最表層の反射防止層にはMgF
2以外にも、屈折率が比較的小さいSiO
2を使用することができる。
【0035】
図3はNDフィルタ20の表面反射によるゴーストの発生メカニズムの説明図であり、撮像光学系を簡略化して図示している。ゴーストの発生の1つの例は、前玉レンズ11を介して入射した入射光L1が撮像素子17面で反射し、その反射光がNDフィルタ20の面で再び反射することにより、反射光L1’として再び撮像素子17に入射する。
【0036】
また、別の例として、前玉レンズ11を介して入射した入射光L2がNDフィルタ20の面で反射し、その反射光が前玉レンズ11で反射することにより反射光L2’として、再び撮像素子17に入射する場合もある。
【0037】
このように、NDフィルタ20の両面何れの反射もゴーストの発生の原因となる。このことはNDフィルタ20に限らず、赤外カットフィルタや紫外カットフィルタ等の光学フィルタにおいても同様である。
【0038】
図4は透明基板31の第2面に、第2のND膜33を成膜したことによる反射防止効果の説明図を示している。
図4(a)に示すグラデーションNDフィルタ20において、第2のND膜33側から入射した入射光P0は、透過率T1の第2のND膜33を透過し、反射率Rbの第1のND膜32で反射し、再び第2のND膜33を透過する。第1のND膜32と第2のND膜33間の多重反射を無視すると、第1のND膜32の裏面反射強度R2はR2=P0・T1・Rb・T1となる。
【0039】
ここで、
図4(b)に示すように、第2のND膜33の代りに透過率T2の反射防止膜34を成膜すると、第1のND膜32の裏面反射強度R4はR4=P0・T2・Rb・T2となる。例えば、T1=63%、T2=95%とすると、2つの裏面反射強度R2、R4は、R2=P0・Rb・0.4、R4=P0・Rb・0.9となり、大きな差が生ずる。
【0040】
本実施例1においては、真空蒸着法によりグラデーションNDフィルタ20を作製されているが、真空蒸着法以外のスパッタ法、イオンプレーティング法等により作製することもできる。
【0041】
グラデーションNDフィルタ20の作製に際しては、先ず、
図5に示すように蒸着治具41に透明基板31を固定し、図示しないスペーサを介して透明基板31と間隔を設けて蒸着マスク42を配置する。
【0042】
図6はNDフィルタ20を製造するための真空蒸着装置の概略図を示し、蒸着チャンバ43内には回転自在な回転ドーム44が設けられ、この回転ドーム44にNDフィルタ20の基材となる透明基板31を保持した蒸着治具41が配置されている。また、蒸着チャンバ43内には、蒸着するND膜の材料となる蒸着源45が設けられている。蒸着チャンバ43の上部には蒸着膜の膜厚を測定するための光学モニタ46が配置されている。
【0043】
そして、透明基板31を取り付けた蒸着治具41を蒸着チャンバ43の回転ドーム44に配置し、蒸着チャンバ43内を真空にする。続いて、蒸着チャンバ43内の回転ドーム44を回転させながら、蒸着源45を加熱し、
図7(a)に示すように、
図2に示すAl
2O
3膜32a、TiOx膜32bを順次に蒸着する。この際に、必要な材料は蒸着源45に配置され、必要に応じ切換えられる。
【0044】
また、透明基板31と蒸着マスク42の間隔が離れているため、積層したAl
2O
3膜32aとTiOx膜32bの膜厚には膜厚分布が生じ、これにより第1のND膜32の光学濃度勾配を形成することができる。この状態において、第6層目のTiOx膜32bまで成膜する。
【0045】
第6層のTiOx膜32bの成膜が終了すると、一旦蒸着チャンバ43の真空を開放し、蒸着マスク42を取り外した後に、再度蒸着チャンバ43内の真空引きを行う。そして、
図7(b)に示すように透明基板31全面にMgF
2膜32cを成膜する。蒸着マスク42を取り外したことにより、最表層であるMgF
2膜32cの膜厚は全面に渡り均一な膜厚となる。
【0046】
第1のND膜32の成膜が完了すると、蒸着チャンバ43から一旦蒸着治具41を取り出す。続いて、
図7(c)に示すように、第1のND膜32が積層された透明基板31を裏返して蒸着治具41に配置し、別の蒸着マスク47を蒸着チャンバ43に配置し、蒸着チャンバ43を真空引きし、
図2に示す第2のND膜33を成膜する。
【0047】
第2のND膜33の成膜が完了すると、蒸着チャンバ43から透明基板31を取り出し、
図7(d)に示すように透明基板31上に形成された複数のグラデーションNDフィルタ20を個々の形状に外形をプレス抜きする。
【0048】
図8(a)は上述の方法により作製したNDフィルタ20の断面図を示している。透明基板31の第1面に最低光学濃度0〜最高光学濃度1.2の光学濃度勾配を有する第1のND膜32を成膜し、第1のND膜32の対向面である第2面に均一濃度で光学濃度0.2の第2のND膜33を成膜している。
【0049】
図8(b)はこのグラデーションNDフィルタ20の光学濃度分布図を示し、第1のND膜32と第2のND膜33の合計の光学濃度は、最低光学濃度が0.2、最高光学濃度は1.4である。
図8(c)は第1のND膜32側の低光学濃度部、高光学濃度部、その中間部の反射率、
図8(d)は第2のND膜33側の低光学濃度部、高光学濃度部、その中間部の反射率を示している。
【実施例3】
【0053】
実施例3においては、
図10(a)に示すように、透明基板31の第1面に最低光学濃度0.1〜最高光学濃度1.3の光学濃度勾配を有する第1のND膜32を成膜し、対向面である第2面に均一濃度で光学濃度0.1の第2のND膜33を成膜している。
【0054】
図10(b)はこのグラデーションNDフィルタ20の光学濃度分布図を示し、第1のND膜32と第2のND膜33の合計の光学濃度は、最低光学濃度が0.2、最高光学濃度が1.4である。
【0055】
図10(c)は第1のND膜32側の低光学濃度部、高光学濃度部、その中間部の反射率を、
図10(d)は第2のND膜33側の低光学濃度部、高光学濃度部、その中間部の反射率を示している。
[比較例1]
比較例1においては、
図11(a)に示すように、透明基板31の第1面に最低光学濃度0.2〜最高光学濃度1.4の光学濃度勾配を有する第1のND膜32を成膜している。また、対向面である第2面に第2のND膜33の代りにTiO
2とSiO
2の交互層から成る4層の反射防止膜34を成膜している。
【0056】
図11(b)はこのグラデーションNDフィルタ20の光学濃度分布図を示し、第1のND膜32と反射防止膜34の合計の光学濃度は、最低光学濃度が0.2、最高光学濃度が1.4である。
【0057】
図11(c)は第1のND膜32側の低光学濃度部、高光学濃度部、その中間部の反射率を、
図11(d)は反射防止膜34の低光学濃度部、高光学濃度部、その中間部の反射率を示している。
【0058】
表1は実施例1〜3及び比較例1で作製したグラデーションNDフィルタ20をビデオカメラに組み込み、画像評価を行った結果を示している。
【0059】
透明基板31の第2面に成膜する均一濃度の第2のND膜33の光学濃度が高い方がゴーストが目立たなくなり、光学濃度0.05でも反射防止膜34より改善効果が見られた。これは実施例1〜3の第2のND膜33の反射率が、比較例1と比べて大幅に低減されているためと考えられる。
【0060】
しかし、第2面に均一濃度の第2のND膜33を形成すると、第1面の第1のND膜32側の低光学濃度部の光学濃度を0としても、第2のND膜33の光学濃度が実質的に最低光学濃度となり、この最低光学濃度が高くなるほどシェーディングが発生し易くなる。シェーディングとはNDフィルタの先端部が絞り開口内に存在する半掛かりの状態で、NDフィルタの光学濃度の濃い部分とNDフィルタの無い部分ができるため、光学濃度の濃い部分が影になり、撮影画像に光量むらが出る現象である。
【実施例5】
【0063】
実施例5においては、透明基板31の第1面に最低光学濃度0.2〜最高光学濃度1.1の光学濃度勾配を有する第1のND膜32を成膜し、対向面である第2面に均一濃度で光学濃度0.3の第2のND膜33を成膜している。
【0064】
図13はこのグラデーションNDフィルタ20の光学濃度分布図を示し、第1のND膜32と第2のND膜33の合計の光学濃度は、最低光学濃度が0.5、最高光学濃度が1.4である。
[比較例2]
比較例2においては、透明基板31の第1面に最低光学濃度0.2〜最高光学濃度1.0の光学濃度勾配を有する第1のND膜32を成膜し、対向面である第2面に均一濃度で光学濃度0.4の第2のND膜33を成膜している。
【0065】
図14はこのグラデーションNDフィルタ20の光学濃度分布図を示し、第1のND膜32と第2のND膜33の合計の光学濃度は、最低光学濃度が0.6、最高光学濃度が1.4である。
【0066】
表2は実施例4、5及び比較例2で作製した最低光学濃度の光学濃度を変えたグラデーションNDフィルタをそれぞれビデオカメラに組み込み、実際の撮影画像からNDフィルタの最低光学濃度とシェーディングの相関を実験的に調べた結果を示している。
【0067】
この結果から、第1のND膜32と第2のND膜33の光学濃度を合計した最低光学濃度が、0.6以上ではシェーディングが目立つ結果となり、グラデーションNDフィルタ20においては、最低光学濃度は0.5以下が好ましいと云える。
【0068】
従って、光学フィルタの内、グラデーションNDフィルタでは第2のND膜33の光学濃度は0.05以上であり、最低光学濃度部の光学濃度は0.5以下であることが特に好ましい。