(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0038】
本明細書中で引用される次の特許、特許出願、および刊行物、すなわち米国特許出願第11/265761号明細書(2005年11月2日に出願)、米国仮特許出願第60/977,174号明細書(2007年10月3日に出願)および米国仮特許出願第60/977,177号明細書(2007年10月3日に出願)はそれら全体が参照により援用される。
【0039】
25%超のエイコサペンタエン酸(EPA;20:5ω−3)を生成可能なヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)の生成宿主株が本明細書中に記載される。この特定の多価不飽和脂肪酸[「PUFA」]の蓄積が、Δ9エロンガーゼ、Δ8デサチュラーゼ、Δ5デサチュラーゼ、Δ17デサチュラーゼ、Δ12デサチュラーゼおよびC
16/18エロンガーゼ活性を有するタンパク質を含む機能的ω−3/ω−6脂肪酸生合成経路の導入によって行われ、それによりγ−リノレン酸[「GLA」]が欠如したEPAオイルの生成が可能になる。したがって、本開示は、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)の改変によってEPAおよびその誘導体の商業的生産が可能であることを示す。生成の方法についても権利請求される。
【0040】
PUFAまたはその誘導体は、経静脈栄養を受けている患者のためかまたは栄養失調を予防または治療するため、代用食品またはサプリメント、特に乳児用調乳(infant
formula)として用いられる。あるいは、精製PUFA(またはその誘導体)は、常用でのレシピエントであれば栄養補助にとって望ましい量を受けることになるように調合された調理油、油脂、またはマーガリンに含有されうる。PUFAはまた、乳児用調乳、栄養補給食品、または他の食品に含有され、抗炎症剤またはコレステロール低下剤としての用途が見出されうる。場合により、組成物は医薬用途(ヒトまたは獣医のいずれか)に用いられうる。
【0041】
ヒトまたは動物に組換え手段により生成されたPUFAを補助する結果、添加されたPUFAおよびその代謝子孫(metabolic progeny)のレベルが上昇しうる。例えば、EPAでの治療の結果、EPAだけでなくエイコサノイド(すなわち、プロスタグランジン、ロイコトリエン、トロンボキサン)、ドコサペンタエン酸[「DPA」]およびドコサヘキサエン酸[「DHA」]などのEPAの下流生成物のレベルが上昇しうる。複雑な調節機構により、個体内でかかる機構を阻止、制御または克服し、所望のレ
ベルの特定のPUFAを得るため、様々なPUFAを結合させるかまたはPUFAの異なる複合体を添加することが望ましくなりうる。
【0042】
あるいは、本明細書中に開示される方法によって製造されるPUFAまたはその誘導体は、動物および養殖飼料、例えば乾燥飼料、半湿飼料(semi−moist feed)および湿飼料(wet feed)の合成において、これら製剤が一般的にω−3および/またはω−6 PUFAとなる栄養組成物の少なくとも1〜2%を必要とすることから使用されうる。
【0043】
定義
本開示において、多数の用語および略語が用いられる。以下の定義が提供される。
【0044】
「オープンリーディングフレーム」は「ORF」と略される。
【0045】
「ポリメラーゼ連鎖反応」は「PCR」と略される。
【0046】
「American Type Culture Collection」は「ATCC」と略される。
【0047】
「多価不飽和脂肪酸」は「PUFA」と略される。
【0048】
「ジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ」は「DAG AT」または「DGAT」と略される。
【0049】
「トリアシルグリセロール」は「TAG」と略される。
【0050】
「補酵素A」は「CoA」と略される。
【0051】
「全脂肪酸」は「TFA」と略される。
【0052】
「脂肪酸メチルエステル」は「FAME」と略される。
【0053】
「乾燥細胞重量」は「DCW」と略される。
【0054】
本明細書で使用される用語「発明」または「本発明」は、本文中の特許請求の範囲および明細書に記載の本発明のすべての態様および実施形態を示すように意図され、任意の特定の実施形態または態様に限定されるように解釈されるべきではない。
【0055】
用語「食品」は、一般的にヒトの消費に適する任意の食品を示す。典型的な食品は、限定はされないが、肉製品、穀物製品、焼成食品、スナック食品、乳製品、飲料などを含む。用語「類似食品」、「機能食品」、「医療食品」および「医療用栄養食品」は米国特許出願公開第2006−0115881−A1号明細書に定義されている。
【0056】
本明細書で使用される用語「医薬品」は、米国内で販売される場合、連邦食品薬品化粧品法(Federal Food,Drug and Cosmetic Act)のセクション503または505によって規制されることになる化合物または物質を意味する。
【0057】
用語「調製粉乳」は、ヒト母乳に対するその擬似性を理由に、特にヒト幼児による消費向けに設計された食品である。調製粉乳の典型的な市販例として、限定はされないが、Similac(登録商標)およびIsomil(登録商標)が挙げられる。
【0058】
用語「栄養補助食品」は、(i)ダイエットを補助することが意図され、それにより食事またはダイエットの従来食または唯一の品目としての使用を示さず、(ii)(例えば、ビタミン、ミネラル、ハーブまたは他の植物、アミノ酸、酵素および腺を含む)1種以上の食品成分またはそれらの構成成分を含有し、(iii)錠剤、カプセル、タブレットまたは液体としての経口摂取が意図され、また(iv)栄養補助食品であるものと称される製品を示す。
【0059】
用語「臨床症状」は、ヒトまたは動物の健康および幸福感を損なわせ、かつPUFAおよび特にω−3および/またはω−6脂肪酸の補給によって改善されうるヒトまたは動物における症状を意味することになる。臨床症状は、冠動脈心疾患などの十分に実証された病状または乏しい栄養調節によってもたらされる健康不安の一般的状態の形態をとりうる。
【0060】
用語「動物飼料」は、特に、ペット、家畜などの家畜動物を含む動物による消費または食品の生成用に飼育された動物、例えば養魚業などを目的とした飼料を示す。用語「養殖飼料」、「アクアフィード(aquafeed)」および「飼料栄養素」は、米国特許出願公開第2006−0115881−A1号明細書に定義されている。
【0061】
本明細書で使用される用語「バイオマス」は、詳細には、商業的に有意な量でのEPAを生成する組換え生成宿主の発酵から得られる消費または使用される酵母細胞材料を示し、ここで好ましい生成宿主は油性酵母ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)の組換え株である。バイオマスは、全細胞、全細胞溶解液、均質化細胞、部分加水分解された細胞材料、および/または部分精製細胞材料(例えば、微生物によって生成されたオイル)の形態でありうる。
【0062】
用語「脂質」は、任意の脂肪溶解性(すなわち親油性)の天然分子を示す。脂質は、多数の主要な生物学的機能を有する多様な化合物群、例えば細胞膜の構造成分、エネルギー貯蔵源およびシグナル伝達経路における中間体である。脂質は、全体的または部分的にケトアシルまたはイソプレン基のいずれかに由来する疎水性または両親媒性小分子として広義に規定されうる。Lipid Metabolites and Pathways Strategy(LIPID MAPS)分類系(National Institute of General Medical Sciences(Bethesda,MD))に基づく脂質の概要が下の表2に示される。
【0064】
本明細書中の細胞の用語「全脂質画分」は、細胞のすべてのエステル化脂肪酸を示す。全脂質画分内部での様々な置換物が単離されうる(トリアシルグリセロール[「オイル」]画分、ホスファチジルコリン画分およびホスファチジルエタノールアミン画分を含むが、これには決してすべての部分画分が含まれない)。
【0065】
「脂質体」は、リン脂質の単層および通常は特定のタンパク質によって結合される脂質滴を示す。これらのオルガネラは、大部分の生物が中性脂質を輸送/貯蔵する部位である。脂質体は、TAG生合成酵素を有する小胞体のミクロドメインから生じると考えられる。その合成およびサイズは、特定のタンパク質成分によって制御されるように見られる。
【0066】
「中性脂質」は、貯蔵脂肪およびオイルとして脂質体中の細胞内に一般的に見出される脂質を示し、細胞pHで脂質が荷電基を全く担持しないことからそのように称される。一般的に、それらは完全に非極性であると共に水に対する親和性を有しない。中性脂質は、一般的にグリセロールと脂肪酸のモノ−、ジ−、および/またはトリエステル(個別にモノアシルグリセロール、ジアシルグリセロールまたはトリアシルグリセロールまたは総称的にアシルグリセロールとも称される)を示す。アシルグリセロールから遊離脂肪酸を放出するため、加水分解反応が生じる必要がある。
【0067】
用語「トリアシルグリセロール」[「TAG」]および「オイル」は同義であり、グリセロール分子にエステル化された3つの脂肪酸アシル残基からなる中性脂質を示す。TAGは、長鎖PUFA、ならびにより短い飽和および不飽和脂肪酸とより長い鎖の飽和脂肪酸を有しうる。細胞のTAG画分は「オイル画分」とも称され、かつ「オイル生合成」は一般的に細胞内でのTAGの合成を示す。オイルまたはTAG画分は全脂質画分の部分画分であるが、さらにそれは、油性生物中で、乾燥細胞重量のパーセントとして細胞内の全脂肪酸の重量として測定される[下記参照]全脂質含量の主要部分を構成する。オイル[「TAG」]画分中の脂肪酸組成物および全脂質画分の脂肪酸組成物は一般的に類似している。したがって、全脂質画分中でのPUFAの濃度の増加または減少は、オイル[「TAG」]画分中でのPUFAの濃度の増加または減少に対応することになり、また逆もいえる。
【0068】
用語「ホスファチジルコリン」または「PC」は、細胞膜の主要成分であるリン脂質を示す。PCの化学構造は、一般的に以下のもの、すなわちコリン分子、リン酸基およびグリセロールを含むものとして記述可能であり、ここで脂肪酸アシル鎖は、グリセロール分子のsn−1およびsn−2位置上のR基として結合される。
【0069】
本明細書中の用語「全脂肪酸」[「TFA」]は、例えば全脂質画分またはオイル画分でありうる所与の試料中で(当該技術分野で既知の)塩基エステル交換方法によって脂肪酸メチルエステル[「FAME」]に誘導体化されうるすべての細胞脂肪酸の総体を示す。したがって、全脂肪酸は、ホスファチジルコリン画分、ホスファチジルエタノールアミン画分およびジアシルグリセロール、モノアシルグリセロールおよびトリアシルグリセロール[「TAGまたはオイル」]画分を含む、中性および極性脂質画分に由来する脂肪酸を含むが、遊離脂肪酸を含まない。
【0070】
細胞の用語「全脂質含量」は、乾燥細胞重量[「DCW」]のパーセントとしてのTFAの尺度である。したがって、全脂質含量[「TFA%DCW」]は、例えば100ミリグラムのDCWあたりの全脂肪酸のミリグラムに等しい。
【0071】
一般的に、脂肪酸の濃度は、本明細書中で、TFAの重量パーセント[「%TFA」]、例えば100ミリグラムのTFAあたりの所与の脂肪酸のミリグラムとして表される。本明細書中の開示では他に特に指定のない限り、全脂質に対する所与の脂肪酸のパーセントについては、%TFAとしての脂肪酸の濃度に等しい(例えば全脂質の%EPAはEPA%TFAに等しい)。
【0072】
場合によっては、細胞内の所与の脂肪酸の含量を乾燥細胞重量のそのパーセント[「%DCW」]として表すことは有用である。したがって、例えばエイコサペンタエン酸%DCWであれば、次の式、すなわち(エイコサペンタエン酸%TFA)*(TFA%DCW)]/100に従って決定されることになる。
【0073】
用語「脂質特性」および「脂質組成物」は同義であり、特定の脂質画分中、例えば全脂質画分またはオイル[「TAG」]画分に含有される個々の脂肪酸の量を示し、ここでその量はTFAのパーセントとして表される。混合物中に存在する各個別の脂肪酸の合計は100である必要がある。
【0074】
用語「脂肪酸」は、約C
12〜C
22の可変鎖長の長鎖脂肪族酸(アルカン酸)を示すが、鎖長が長い方の酸および鎖長が短い方の酸の双方は既知である。主要な鎖長はC
16〜C
22である。脂肪酸の構造は、「X:Y」(式中、Xは特定の脂肪酸における炭素[「C」]原子の総数であり、かつYは二重結合の数である)の簡易な表記法によって表される。「飽和脂肪酸」対「不飽和脂肪酸」、「モノ不飽和脂肪酸」対「多価不飽和脂肪酸」[「PUFA」]、および「ω−6脂肪酸」[「ω−6」または「n−6」]対「ω−3脂肪酸」[「ω−3」または「n−3」]の間の区別についてのさらなる詳細は、米国特許第7,238,482号明細書(ここでは参照により本明細書中に援用される)中に提供される。
【0075】
本明細書中のPUFAを記述するのに使用される命名法は表3に与えられる。「簡便な
表記法」という表題の列では、ω参照系を使用し、炭素の数、二重結合の数およびω炭素に最も近い二重結合の位置が示される(この目的のため、1と番号付けしたω炭素から数える)。表の残りは、ω−3およびω−6脂肪酸およびそれらの前駆体の一般名、本明細書を通して使用されることになる略語、ならびに各化合物の化学名がまとめられている。
【0077】
用語「高レベルEPAの生成」は、微生物宿主の全脂質中で少なくとも約25%のEPA、好ましくは全脂質中で少なくとも約30%のEPA、より好ましくは全脂質中で少なくとも約35%のEPA、より好ましくは全脂質中で少なくとも約40%のEPA、より好ましくは全脂質中で少なくとも約40〜45%のEPA、より好ましくは全脂質中で少なくとも約45〜50%のEPA、より好ましくは少なくとも約50〜60%、および最も好ましくは全脂質中で少なくとも約60〜70%のEPAの生成を示す。したがって、EPAの構造的形態は限定的ではなく、例えばEPAは、遊離脂肪酸として全脂質において、またはアシルグリセロール、リン脂質、硫脂質もしくは糖脂質などのエステル化形態で存在しうる。
【0078】
用語「GLAが欠如する」は、約0.1%までの検出可能なレベルを有する機器を使用するGC分析によって測定される場合での、微生物宿主の全脂質における約1%未満の検
出可能なGLAを示す。
【0079】
用語「任意のDHAが欠如した」は、約0.1%までの検出可能なレベルを有する機器を使用するGC分析によって測定される場合での、微生物宿主の全脂質における任意の検出可能なDHAの欠如を示す。
【0080】
生化学的な意味での代謝経路または生合成経路は、細胞により使用または保存されるべき代謝生成物の形成あるいは別の代謝経路(ここではフラックス生成ステップと称される)の開始のいずれかが生じるという酵素により触媒されて細胞内で順次生じる一連の化学反応として見なされうる。これらの経路の多数は複雑であり、初期物質を段階的に修飾し、それを所望の正確な化学構造を有する生成物に形成するステップを含む。
【0081】
「PUFA生合成経路」という用語は、オレイン酸をLA、EDA、GLA、DGLA、ARA、DRA、DTA、およびDPAn−6などのω−6脂肪酸、ならびにALA、STA、ETrA、ETA、EPA、DPAおよびDHAなどのω−3脂肪酸に変換する代謝プロセスを示す。このプロセスは文献において十分な記載がなされている(例えばPCT公開の国際公開第2006/052870号パンフレットを参照)。このプロセスは、小胞体膜内に存在する「PUFA生合成経路酵素」と呼ばれる一連の特定の伸長および脱飽和酵素を介する、炭素原子の付加による炭素鎖の伸長および二重結合の付加による分子の脱飽和を含む。より詳細には、「PUFA生合成経路酵素」は、Δ4デサチュラーゼ、Δ5デサチュラーゼ、Δ6デサチュラーゼ、Δ12デサチュラーゼ、Δ15デサチュラーゼ、Δ17デサチュラーゼ、Δ9デサチュラーゼ、Δ8デサチュラーゼ、Δ9エロンガーゼ、C
14/16エロンガーゼ、C
16/18エロンガーゼ、C
18/20エロンガーゼ、および/またはC
20/22エロンガーゼを含む、PUFAの生合成に関連した酵素(および前記酵素をコードする遺伝子)のいずれかを示す。
【0082】
「ω−3/ω−6脂肪酸生合成経路」という用語は、適切な条件下で発現される場合、ω−3およびω−6脂肪酸の一方または両方の生成を触媒する酵素をコードする遺伝子セットを示す。典型的には、ω−3/ω−6脂肪酸生合成経路に関与する遺伝子はPUFA生合成経路酵素をコードする。ミリスチン酸の様々な中間体を介したDHAへの変換をもたらす代表的な経路が
図1Aおよび
図1Bに図示され、それはω−3およびω−6脂肪酸の双方が共通の供給源からいかに生成されうるかを示す。経路は、一方の部分がω−3脂肪酸を生成しかつ他方の部分がω−6脂肪酸を生成することになる場合の2つの部分に必然的に分かれる。ω−3脂肪酸のみを生成する部分は本明細書中でω−3脂肪酸生合成経路と称される一方、ω−6脂肪酸のみを生成する部分は本明細書中でω−6脂肪酸生合成経路と称されることになる。
【0083】
ω−3/ω−6脂肪酸生合成経路と関連して本明細書で用いられる「機能的」という用語は、経路内の遺伝子の一部(または全部)が活性酵素を発現し、インビボでの触媒作用または基質変換をもたらすことを意味する。「ω−3/ω−6脂肪酸生合成経路」または「機能的ω−3/ω−6脂肪酸生合成経路」が、多数の脂肪酸生成物がこの経路の遺伝子のサブセットの発現のみを必要とすることから、上の段落中のPUFA生合成経路遺伝子のすべてが必要とされることを示唆しないことは理解されるべきである。
【0084】
用語「Δ9エロンガーゼ/Δ8デサチュラーゼ経路」は、少なくとも1つのΔ9エロンガーゼおよび少なくとも1つのΔ8デサチュラーゼを最小限に含むことで、LAおよびALAに由来するDGLAおよび/またはETAの、中間体脂肪酸としてのそれぞれEDAおよび/またはETrAとの生合成を可能にするPUFA生合成経路を示すことになる。他のデサチュラーゼおよびエロンガーゼの発現と共に、ARA、DTA、DPAn−6、EPA、DPAおよびDHAもまた合成されうる。
【0085】
用語「Δ6デサチュラーゼ/Δ6エロンガーゼ経路」は、少なくとも1つのΔ6デサチュラーゼおよび少なくとも1つのC
18/20エロンガーゼを最小限に含むことで、LAおよびALAに由来するDGLAおよび/またはETAの、中間体脂肪酸としてのそれぞれGLAおよび/またはSTAとの生合成を可能にするPUFA生合成経路を示すことになる。他のデサチュラーゼおよびエロンガーゼの発現と共に、ARA、DTA、DPAn−6、EPA、DPAおよびDHAもまた合成されうる。
【0086】
「中間体脂肪酸」という用語は、脂肪酸代謝経路内で生成される、この経路において意図される生成物脂肪酸に他の代謝経路酵素の作用によりさらに変換可能な任意の脂肪酸を示す。例えば、Δ9エロンガーゼ/Δ8デサチュラーゼ経路を用いてEPAが生成される場合、EDA、ETrA、DGLA、ETAおよびARAが生成可能であり、これらの脂肪酸は他の代謝経路酵素の作用を介してEPAにさらに変換されうることから「中間体脂肪酸」と考えられる。
【0087】
「副産物脂肪酸」という用語は、脂肪酸代謝経路内で生成される、経路で意図された脂肪酸生成物でも経路の「中間体脂肪酸」でもない任意の脂肪酸を示す。例えば、Δ9エロンガーゼ/Δ8デサチュラーゼ経路を用いてEPAが生成される場合、シアドン酸およびジュニペロン酸もまたΔ5デサチュラーゼのEDAまたはEtrAのいずれかに対する作用によりそれぞれ生成されうる。それらは、いずれも他の代謝経路酵素の作用によりEPAにさらに変換され得ないことから「副産物脂肪酸」と考えられる。
【0088】
用語「デサチュラーゼ」は、脱飽和し、すなわち1種以上の脂肪酸において二重結合を導入し、目的の脂肪酸または前駆体を生成しうるポリペプチドを示す。特定の脂肪酸を参照するのに本明細書を通してω参照系を用いるにもかかわらず、Δ系を用いて基質のカルボキシル末端から数えることによってデサチュラーゼの活性を示すことはより便利である。本明細書中では、1)EDAからDGLAおよび/またはETrAからETAの変換を触媒するΔ8デサチュラーゼ;2)DGLAからARAおよび/またはETAからEPAの変換を触媒するΔ5デサチュラーゼ;3)分子のカルボキシル末端から数えて17番目および18番目の炭素原子の間の脂肪酸を脱飽和し、例えばARAからEPAおよび/またはDGLAからETAの変換を触媒するΔ17デサチュラーゼ;ならびに4)オレイン酸からLAの変換を触媒するΔ12デサチュラーゼが特に興味深い。
【0089】
Δ−17(Δ17)デサチュラーゼとさらにΔ15デサチュラーゼはまた、場合により、ω−6脂肪酸をそのω−3対応物に変換する(例えば、それぞれLAからALAまたはDGLAからETAおよびARAからEPAの変換)その能力に基づき、「オメガ−3デサチュラーゼ」、「w−3デサチュラーゼ」、および/または「ω−3デサチュラーゼ」と称される。
【0090】
一部のデサチュラーゼは、2つ以上の基質に対して活性を有する。この能力に基づき、これらの酵素は、「単機能性」または「二機能性」のいずれかであるそれらのデサチュラーゼ活性に対してさらに分類されうる。脂肪酸デサチュラーゼの特異性を、適切な宿主を脂肪酸デサチュラーゼにおける遺伝子で形質転換し、かつ宿主の脂肪酸特性に対するその効果を測定することにより、経験的に判定することが望ましい場合がある。「酵素基質」とは、デサチュラーゼポリペプチドが活性部位で基質に結合し、ある反応様式でそれに作用することを意味する。
【0091】
用語「EgD8」はユーグレナ・グラシリス(Euglena gracilis)から単離されるΔ8デサチュラーゼ(配列番号18および19)であり、EgD8は米国特許第7,256,033号明細書に記載される「Eg5」と称されるタンパク質に対して
100%同一でかつ機能的に等価である。用語「EgD8S」は、「EgD8」として同定されるユーグレナ・グラシリス(Euglena gracilis)Δ8デサチュラーゼに由来する合成Δ8デサチュラーゼ(配列番号20および21)を示し、ここでEgD8Sは、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)における発現のためにコドン最適化された。EgD8Sは、米国特許第7,256,033号明細書に記載される「D8SF」に対して100%同一でかつ機能的に等価である。
【0092】
用語「EgD8M」は、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)における発現のためにコドン最適化された、ユーグレナ・グラシリス(Euglena gracilis)由来の合成Δ8デサチュラーゼ(すなわちEgD8S)に対して少なくとも1つの突然変異を有する突然変異体Δ8デサチュラーゼ(配列番号22および23)を示す。より詳細には、「変異」は任意の欠失、挿入および点突然変異(またはそれらの組み合わせ)を含みうるが、好ましい実施形態では、突然変異体EgD8Mは突然変異体EgD8S−23(配列番号23)として記述される。詳細には、突然変異体EgD8S−23(米国特許出願公開第2008−0138868A1号明細書に記載)は、配列番号21として示される合成コドン最適化EgD8S配列に対して次の24個のアミノ酸変異、すなわち、4SからA、5KからS、12TからV、16TからK、17TからV、66PからQ、67SからA、108SからL、117GからA、118YからF、120LからM、121MからL、125QからH、126MからL、132VからL、133LからV、162LからV、163VからL、293LからM、407AからS、408VからQ、418AからG、419GからAおよび422LからQを含む。Vector NTI(登録商標)のAlignXプログラム(Invitrogen Corporation(Carlsbad,CA))のデフォルトパラメータを使用する、配列番号21の合成コドン最適化配列に対する突然変異体EgD8S−23アミノ酸配列(配列番号23)のペアワイズアラインメントによると、422個のアミノ酸長にわたる2つのタンパク質の間での94.3%の配列同一性および97.9%のコンセンサスが示された。突然変異体EgD8S−23(配列番号23)のΔ8デサチュラーゼ活性は、合成コドン最適化EgD8S(配列番号21)のΔ8デサチュラーゼ活性に対して少なくともほぼ機能的に等価である。
【0093】
用語「EaD8」は、本明細書中で配列番号24によってコードされる、ユーグレナ・アナベナ(Euglena anabaena)UTEX373から単離されるΔ8デサチュラーゼ酵素(配列番号25)を示す。同様に、用語「EaD8S」は、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)における発現のためにコドン最適化された、ユーグレナ・アナベナ(Euglena anabaena)UTEX373に由来する合成Δ8デサチュラーゼを示す(すなわち配列番号26および27)。EaD8およびEaD8Sは米国特許出願第12/099811号明細書(2008年4月9日出願)に記載され、EaD8はその中で「EaD8Des3」と称された。
【0094】
用語「EgD5」は、本明細書中で配列番号34によってコードされる、ユーグレナ・グラシリス(Euglena gracilis)から単離されるΔ5デサチュラーゼ酵素(配列番号35)を示す。同様に、用語「EgD5S」は、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)における発現のためにコドン最適化された、ユーグレナ・グラシリス(Euglena gracilis)に由来する合成Δ5デサチュラーゼを示す(すなわち配列番号36および37)。EgD5およびEgD5Sは、PCT公開の国際公開第2007/136671号パンフレットに記載されている。
【0095】
本明細書における目的として、用語「RD5」は、本明細書中で配列番号38によってコードされる、ペリディニウム属(Peridinium sp.)CCMP626から単離されるΔ5デサチュラーゼ酵素(配列番号39)を示す。同様に、用語「RD5S」
は、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)における発現のためにコドン最適化された、ペリディニウム属(Peridinium sp.)CCMP626に由来する合成Δ5デサチュラーゼを示す(すなわち配列番号40および41)。RD5およびRD5Sは、米国特許出願第11/748637号明細書(2007年5月15日出願)に記載されている。
【0096】
用語「EaD5」は、本明細書中で配列番号42によってコードされる、ユーグレナ・アナベナ(Euglena anabaena)UTEX373から単離されるΔ5デサチュラーゼ酵素(配列番号43)を示す。同様に、用語「EaD5S」は、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)における発現のためにコドン最適化された、ユーグレナ・アナベナ(Euglena anabaena)UTEX373に由来する合成Δ5デサチュラーゼを示す(すなわち配列番号44および45)。EaD5およびEaD5Sは米国特許出願第12/111237号明細書(2008年4月29日出願)に記載され、EaD5はその中で「EaD5Des1」と称された。
【0097】
用語「突然変異体Δ5デサチュラーゼ」は、チトクロームb
5ドメインのHis−Pro−Gly−Gly(HPGG;配列番号182)モチーフ内部に少なくとも1つの突然変異を有する、本明細書中に記載のΔ5デサチュラーゼを示し、ここでは前記突然変異によってアミノ酸置換(保存的または非保存的のいずれか)がもたらされる。変異が任意のアミノ酸置換を含みうるが、突然変異体Δ5デサチュラーゼは好ましくは、His−Xaa−Gly−Gly(配列番号182)およびHis−Pro−Gly−Xaa(配列番号184)からなる群から選択される少なくとも1つの突然変異体モチーフを含み、かつ突然変異体Δ5デサチュラーゼのΔ5デサチュラーゼ活性は野生型Δ5デサチュラーゼのΔ5デサチュラーゼ活性に対して少なくともほぼ機能的に等価である。より好ましい突然変異体モチーフは、His−Gly−Gly−Gly(HGGG;配列番号185)、His−His−Gly−Gly(HHGG;配列番号186)、His−Cys−Gly−Gly(HCGG;配列番号188)、His−Trp−Gly−Gly(HWGG;配列番号189)およびHis−Pro−Gly−Ser(HPGS;配列番号187)からなる群から選択され、例えば、配列番号122、配列番号124、配列番号125、配列番号126、配列番号196、配列番号197、配列番号198、配列番号199、配列番号200および配列番号201として示されるΔ5デサチュラーゼを参照のこと。
【0098】
各「突然変異体Δ5デサチュラーゼ」は、「対応する野生型Δ5デサチュラーゼ」を有する。詳細には、突然変異体Δ5デサチュラーゼおよび対応する野生型Δ5デサチュラーゼは、(上記のように)野生型がチトクロームb
5ドメイン内部にHPGG(配列番号182)モチーフを含むことになる一方、突然変異体がこのモチーフ内部に少なくとも1つの突然変異を含むことになる点を除いては同一のアミノ酸配列を共有する。
【0099】
突然変異体Δ5配列の酵素活性および特異的選択性が対応する野生型Δ5デサチュラーゼの場合と比較可能である(または活性が増大する)場合、突然変異体Δ5デサチュラーゼは対応する野生型Δ5デサチュラーゼに対して「少なくともほぼ機能的に等価で」ある。したがって、機能的に等価な突然変異体Δ5デサチュラーゼは、対応する野生型Δ5デサチュラーゼの場合に対し、各酵素の「変換効率」が比較される場合、実質的に低下しないΔ5デサチュラーゼ活性を有することになる(すなわち、突然変異体Δ5デサチュラーゼは、野生型Δ5デサチュラーゼの酵素活性の少なくとも約50%、好ましくは少なくとも約75%、より好ましくは少なくとも約85%、および最も好ましくは少なくとも約95%有することになる)。2つのポリペプチドのΔ5デサチュラーゼ活性は実質的に同一でありうる。好ましくは、突然変異体Δ5デサチュラーゼは、対応する野生型Δ5デサチュラーゼの場合と比較される場合、増大した酵素活性および特異的選択性を有する、すなわち野生型Δ5デサチュラーゼの酵素活性の少なくとも約101〜105%、より好ましくは少なくとも約106〜115%および最も好ましくは少なくとも約116〜125%を有することになる。
【0100】
用語「PaD17」は、配列番号50によってコードされるピチウム・アファニデルマツム(Pythium aphanidermatum)から単離されるΔ17デサチュラーゼ酵素(配列番号51)を示す。同様に、用語「PaD17S」は、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)における発現のためにコドン最適化された、ピチウム・アファニデルマツム(Pythium aphanidermatum)に由来する合成Δ17デサチュラーゼを示す(すなわち配列番号52および53)。米国特許出願第11/779915号明細書(2007年7月19日出願)に記載の分析に基づき、PaD17およびPaD17Sは二機能性Δ17デサチュラーゼとしてさらに分類される。詳細には、「二機能性Δ17デサチュラーゼ」、「二機能性Δ17デサチュラーゼ活性」または「一次Δ17デサチュラーゼ活性」は、ARAをEPAおよび/またはDGLAをETAに優先的に変換するが、LAをALAに変換する限られた能力をさらに有する(それ故、主にΔ17デサチュラーゼ活性および限られたΔ15デサチュラーゼ活性を示す)Δ17デサチュラーゼを示す。それに対し、「単機能性Δ17デサチュラーゼ」、「単機能性Δ17デサチュラーゼ活性」または「排他的なΔ17デサチュラーゼ活性」は、ARAをEPAおよび/またはDGLAをETAに変換できるがLAをALAに変換できないΔ17デサチュラーゼを示す。
【0101】
用語「PrD17」は、配列番号46によってコードされるフィトフトラ・ラモラム(Phytophthora ramorum)から同定されるΔ17デサチュラーゼ酵素(配列番号47)を示す。それに対し、用語「PrD17S」は、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)における発現のためにコドン最適化された、フィトフトラ・ラモラム(Phytophthora ramorum)に由来する合成Δ17デサチュラーゼを示す(すなわち配列番号48および49)。PrD17およびPrD17Sは二機能性Δ17デサチュラーゼとして同定され、それらは米国特許出願第11/787772号明細書(2007年4月18日出願)および米国特許出願第11/779915号明細書(2007年7月19日出願)に記載されている。
【0102】
用語「フザリウム・モニリフォルメ(Fusarium moniliforme)」は、「フザリウム・ベルチシリオイデス(Fusarium verticillioides)」と同義であり、また「イネ馬鹿苗病菌(Gibberella fujikuroi)」と同義である。用語「FmD12」は、配列番号54によってコードされるフザリウム・モニリフォルメ(Fusarium moniliforme)から単離されるΔ12デサチュラーゼ酵素(配列番号55)を示す。FmD12は、GenBank登録番号DQ272515として記載されるイネ馬鹿苗病菌(Gibberella fujikuroi)Δ12デサチュラーゼに一致する。同様に、用語「FmD12S」は、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)における発現のためにコドン最適化された、フザリウム・モニリフォルメ(Fusarium moniliforme)に由来する合成Δ12デサチュラーゼを示す(すなわち配列番号56および57)。FmD12は、PCT公開の国際公開第2005/047485号パンフレットに記載されている。
【0103】
本明細書中での特定の目的の他のデサチュラーゼは、1)LAからALAおよび/またはGLAからSTAへの変換を触媒するΔ15デサチュラーゼ、ならびに2)パルミチン酸塩からパルミトオレイン酸(16:1)および/またはステアリン酸からオレイン酸(18:1)への変換を触媒するΔ9デサチュラーゼを含む。
【0104】
用語「FmD15」は、配列番号62によってコードされるフザリウム・モニリフォルメ(Fusarium moniliforme)から単離されるΔ15デサチュラーゼ酵素(配列番号63)を示す。FmD15は、GenBank登録番号DQ272516として記載されるイネ馬鹿苗病菌(Gibberella fujikuroi)Δ15デサチュラーゼに一致する。同様に、用語「FmD15S」は、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)における発現のためにコドン最適化された、フザリウム・モニリフォルメ(Fusarium moniliforme)に由来する合成Δ15デサチュラーゼを示す(すなわち配列番号64および65)。PCT公開の国際公開第2005/047480号パンフレットに記載の分析に基づくと、FmD15は二機能性Δ15デサチュラーゼとしてさらに分類され、FmD15Sは同様に機能することが想定される。詳細には、「二機能性Δ15デサチュラーゼ」、「二機能性Δ15デサチュラーゼ活性」または「一次Δ15デサチュラーゼ活性」は、LAをALAに選択的に変換するが、オレイン酸をLAに変換する限られた能力をさらに有する(それ故、主にΔ15デサチュラーゼ活性および限られたΔ12デサチュラーゼ活性を示す)Δ15デサチュラーゼを示す。それに対し、「単機能性Δ15デサチュラーゼ」、「単機能性Δ15デサチュラーゼ活性」または「排他的Δ15デサチュラーゼ活性」は、LAをALAに変換できるがオレイン酸をLAに変換できないΔ15デサチュラーゼを示す。
【0105】
用語「YlD9」は、配列番号66(GenBank登録番号XM_501496も参照)によってコードされるヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)から単離されるΔ9デサチュラーゼ酵素(配列番号67)を示す。
【0106】
他の有用なPUFAデサチュラーゼは、1)LAからGLAおよび/またはALAからSTAへの変換を触媒するΔ6デサチュラーゼ、ならびに2)DPAからDHAおよび/またはDTAからDPAn−6への変換を触媒するΔ4デサチュラーゼを含む。
【0107】
用語「エロンガーゼ」は、脂肪酸炭素鎖を伸長し、エロンガーゼが作用する脂肪酸基質より2炭素分長い酸を生成可能であるポリペプチドを示す。この伸長プロセスは、PCT公開の国際公開第2005/047480号パンフレットに記載のように、脂肪酸シンターゼと関連して多段階機構で行われる。エロンガーゼ系によって触媒される反応の例が、GLAからDGLA、STAからETA、ARAからDTAおよびEPAからDPAへの変換である。一般的に、エロンガーゼの基質選択性はやや広範であるが、鎖長ならびに不飽和の程度およびタイプの双方によって区別される。例えば、C
14/16エロンガーゼはC
14基質(例えばミリスチン酸)を使用し、C
16/18エロンガーゼはC
16基質(例えばパルミチン酸塩)を使用し、C
18/20エロンガーゼ(同義に使用可能であることからΔ6エロンガーゼとしても知られる)はC
18基質(例えばGLA、STA)を使用し、またC
20/22エロンガーゼはC
20基質(例えばARA、EPA)を使用することになる。同様に、Δ9エロンガーゼは、LAおよびALAのそれぞれEDAおよびETrAへの変換を触媒可能である。
【0108】
一部のエロンガーゼが広範な特異性を有し、それ故に単一の酵素がいくつかのエロンガーゼ反応を触媒(例えばそれからC
16/18エロンガーゼおよびC
18/20エロンガーゼの双方として作用)可能でありうることに着目することは重要である。適切な宿主を脂肪酸エロンガーゼにおける遺伝子で形質転換し、宿主の脂肪酸特性に対するその効果を測定することによって脂肪酸エロンガーゼの特異性を経験的に判定することが望ましい場合がある。
【0109】
用語「EgD9e」は、配列番号4によってコードされるユーグレナ・グラシリス(Euglena gracilis)から単離されるΔ9エロンガーゼ酵素(配列番号5)を示す。それに対し、用語「EgD9eS」は、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)における発現のためにコドン最適化された、ユーグレナ・グラシリス(Euglena gracilis)に由来する合成Δ9エロンガーゼを示す(すなわち配列番号6および7)。EgD9eおよびEgD9eSはPCT公開の国際公開第2007/061742号パンフレットに記載されている。
【0110】
用語「E389D9e」は、配列番号8によってコードされるユートレプティエラ属(Eutreptiella sp.)CCMP389から単離されるΔ9エロンガーゼ酵素(配列番号9)を示す。それに対し、用語「E389D9eS」は、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)における発現のためにコドン最適化された、ユートレプティエラ属(Eutreptiella sp.)CCMP389に由来する合成Δ9エロンガーゼを示す(すなわち配列番号10および11)。E389D9eおよびE389D9eSはPCT公開の国際公開第2007/061742号パンフレットに記載されている。
【0111】
用語「EaD9e」は、配列番号12によってコードされるユーグレナ・アナベナ(Euglena anabaena)UTEX373から単離されるΔ9エロンガーゼ酵素(配列番号13)を示す。同様に、用語「EaD9eS」は、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)における発現のためにコドン最適化された、ユーグレナ・アナベナ(Euglena anabaena)UTEX373に由来する合成Δ9エロンガーゼを示す(すなわち配列番号14および15)。EaD9eおよびEaD9eSは米国特許出願第12/102879号明細書(2008年4月15日出願)に記載され、EaD9eはその中で「EaD9Elo1」と称された。
【0112】
用語「ELO3」は、パルミチン酸塩(16:0)からステアリン酸(18:0)への変換を優先的に触媒するelo3遺伝子(配列番号58)によってコードされるモルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)C
16/18脂肪酸エロンガーゼ酵素(配列番号59)を示す。ELO3はPCT公開の国際公開第2007/046817号パンフレットに記載されている。それに関連し、用語「ME3S」は、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)における発現のためにコドン最適化された、モルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)に由来する合成C
16/18脂肪酸エロンガーゼを示す(すなわち配列番号60および61)。
【0113】
用語「変換効率」および「パーセント基質変換」は、特定の酵素、例えばデサチュラーゼまたはエロンガーゼが基質を産物に変換しうる効率を示す。変換効率は、次の式、すなわち([産物]/[基質+産物])*100(式中、「産物」はそれに由来する経路内での中間産物および全産物を含む)に従って測定される。
【0114】
用語「アシルトランスフェラーゼ」は、アミノ−アシル基以外の基の移動に関与する酵素(EC2.3.1.−)を示す。
【0115】
用語「DAG AT」は、ジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ(アシル−CoA−ジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼまたはジアシルグリセロールO−アシルトランスフェラーゼとしても知られる)(EC2.3.1.20)を示す。この酵素は、アシル−CoAおよび1,2−ジアシルグリセロールのTAGおよびCoAへの変換に関与し、それ故にTAG生合成の最終ステップに関与する。DAG AT酵素の2つのファミリーDGAT1およびDGAT2が存在する。前者のファミリーはアシル−CoA:コレステロールアシルトランスフェラーゼ[「ACAT」]遺伝子ファミリーと相同性を共有する一方、後者のファミリーは関連性がない(Lardizabalら、J.Biol.Chem.、276(42):38862−38869頁(2001年))。
【0116】
用語「YlDGAT2」は、配列番号93によってコードされるヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)から単離されるDGAT2酵素(配列番号94)を示す。YlDGAT2は米国特許第7,267,976号明細書に記載されている。YlDGAT2タンパク質が(配列番号93のヌクレオチド+291〜+1835に対応する)514アミノ酸残基長であり、それ故に配列番号93内部の2つの追加的なネスト化ORFが切断形態の完全タンパク質のみをコードすることが判定されている。
【0117】
用語「ジアシルグリセロールコリンホスホトランスフェラーゼ」は、CDP−コリン由来のホスファチジルコリンおよび1,2−ジアシルグリセロールの合成を触媒する酵素(EC2.7.8.2)を示す。この酵素はホスファチジルコリン[「PC」]生合成に関与するCDP−コリン経路の一部である。
【0118】
用語「YlCPT1」は、配列番号68によってコードされるヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)から単離されるジアシルグリセロールコリンホスホトランスフェラーゼ酵素(配列番号69)を示す。YlCPT1はPCT公開の国際公開第2006/052870号パンフレットにおいて記載されている(GenBank登録番号XM_501703(YALI0C10989g)も参照)。
【0119】
用語「ペルオキシソーム」は、すべての真核細胞内に見出される遍在オルガネラを示す。それは、その内容物を細胞質ゾルから分離しかつ下記の機能に必須の様々な膜タンパク質を含有する単一の脂質二重層膜を有する。ペルオキシソームは、タンパク質を「拡張シャトル機構(extended shuttle mechanism)」を介して選択的に取り込む。より詳細には、ペルオキシンと称される少なくとも32の既知のペルオキシソームタンパク質が存在し、それらはペルオキシソーム膜を介したATP加水分解によってタンパク質を取り込むプロセスに関与する。一部のペルオキシンは、N末端またはC末端のいずれかに、ペルオキシソーム膜を介した取り込みが生じるというシグナルを送る、特定のタンパク質シグナルすなわちペルオキシソーム標的化シグナルすなわち「PTS」を含む。一旦、細胞タンパク質がペルオキシソーム内に取り込まれると、それらは典型的にはいくつかの分解手段に従う。例えば、ペルオキシソームは、細胞に対して毒性がある物質の分解を可能にする酸化酵素、例えばカタラーゼ、D−アミノ酸オキシダーゼおよび尿酸オキシダーゼなどを有する。あるいは、ペルオキシソームは、β酸化と称されるプロセスにおいて、脂肪酸分子を分解し、細胞質ゾルに再び輸送されるアセチル−CoAの遊離分子を生成する。
【0120】
用語「ペルオキシソーム生合成因子タンパク質」、「ペルオキシン」および「Pexタンパク質」は同義であり、ペルオキシソーム生合成に関与し、および/またはペルオキシソーム膜を介したATP加水分解によって細胞タンパク質を取り込むプロセスに関与するタンパク質を示す。これらのタンパク質のいずれかをコードする遺伝子の頭文字は「Pex遺伝子」である。命名法については、Distelら、J.Cell Biol.、135:1−3頁(1996年)による記載がなされている。少なくとも32の異なるPex遺伝子が、これまで様々な真核生物内で同定されている。多数のPex遺伝子が、異常なペルオキシソーム機能または構造を示した突然変異体の分析から単離されている。17の異なる真菌種のゲノム配列のインシリコ分析が行われたKiel J.A.K.W.ら(Traffic、7:1291−1303頁(2006年))による概説に基づくと、次のPexタンパク質、すなわちPex1p、Pex2p、Pex3p、Pex3Bp、Pex4p、Pex5p、Pex5Bp、Pex5Cp、Pex5/20p、Pex6p、Pex7p、Pex8p、Pex10p、Pex12p、Pex13p、Pex14p、Pex15p、Pex16p、Pex17p、Pex14/17p、Pex18p、Pex19p、Pex20p、Pex21p、Pex21Bp、Pex22p、Pex22p様およびPex26pが同定された。まとめると、これらのタンパク質は、本明細書中で「Pex遺伝子」によってコードされる「Pexタンパク質」と称されることになる。
【0121】
「保存ドメイン」または「モチーフ」という用語は、進化的に関連したタンパク質の整列された配列に沿う特定の位置に保存されたアミノ酸セットを意味する。他の位置でのアミノ酸が相同タンパク質間で異なりうる一方、特定の位置で高度に保存されたアミノ酸は、タンパク質の構造、安定性、または活性において必須のアミノ酸を示す。それらがタンパク質相同体のファミリーの整列された配列内でのそれらの高度な保存によって同定されることから、それらを識別子または「署名」として使用し、新しく決定された配列を有するタンパク質が予め同定されたタンパク質ファミリーに属するか否かが判定されうる。本明細書において関連性がある、Δ5デサチュラーゼ酵素(すなわち動物、植物および真菌)中で見出されるモチーフは、3つのヒスチジンボックス(すなわちH(X)
3−4H[配列番号190および191]、H(X)
2−3HH[配列番号192および193]およびH/Q(X)
2−3HH[配列番号194および195])、ならびにN末端で融合されたチトクロームb
5ドメイン内部のヘム結合モチーフ(すなわちHis−Pro−Gly−GlyまたはHPGG;配列番号182)を含む。同様に、Pex2p、Pex10pおよびPex12pの全部が、C
3HC
4ジンクリングフィンガーモチーフとして知られる、それらのカルボキシル末端近傍のシステインリッチモチーフを共有する。このモチーフは、タンパク質ドッキングおよびペルオキシソームへの転位置(Kiel J.A.K.W.ら、Traffic,7:1291−1303頁(2006年))に関与するそれらの活性にとって必要とされるように見られる。
【0122】
用語「C
3HC
4ジンクリングフィンガーモチーフ」または「C
3HC
4モチーフ」は、一般的に、式I、すなわち
式I:CX
2CX
9−27CX
1−3HX
2CX
2CX
4−48CX
2C
に示されるアミノ酸の配列の存在によって同定される、2個の亜鉛イオンに結合する保存されたシステインリッチモチーフを示す。ペルオキシソーム生合成因子10タンパク質(すなわちYlPex10p)をコードするヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)遺伝子内部のC
3HC
4ジンクリングフィンガーモチーフは、配列番号104のアミノ酸327〜364の間に位置し、CX
2CX
11CX
1HX
2CX
2CX
10CX
2Cモチーフ(配列番号119)によって規定される。ペルオキシソーム生合成因子2タンパク質(すなわちYlPex2p)をコードするヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)遺伝子内部のC
3HC
4ジンクリングフィンガーモチーフは、配列番号96のアミノ酸266〜323の間に位置する。ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ペルオキシソーム生合成因子12タンパク質(すなわちYlPex12p)は、配列番号105のアミノ酸342〜391の間に位置する不完全なC
3HC
4リングフィンガーモチーフを有する。YlPex10、YlPex2およびYlPex12のC
3HC
4ジンクリングフィンガーモチーフに対応するタンパク質配列は
図2A中に整列され、アスターリスクはモチーフの保存されたシステインまたはヒスチジン残基に対応する。
【0123】
YlPex10、YlPex2およびYlPex12は、タンパク質−タンパク質相互作用によってリングフィンガー複合体を形成すると考えられる。2個の亜鉛残基を有するYlPex10p C
3HC
4フィンガーモチーフのシスチンおよびヒスチジン残基の間での提示される相互作用が
図2B中に略図化される。
【0124】
用語「Pex10」は、ペルオキシソーム生合成因子10タンパク質またはペルオキシソームアセンブリタンパク質Peroxin10をコードする遺伝子を示し、ここでペルオキシンタンパク質は以降「Pex10p」と称されることになる。Pex10pの機能は明確に解明されていないが、他の生物における研究によると、Pex10産物がペルオキシソーム膜内に局在化され、オルガネラの正常な機能に不可欠であることが示されている。C
3HC
4ジンクリングフィンガーモチーフは、Pex10pのC末端領域内に保存されるように見られ(Kalish J.E.ら、Mol.Cell Biol.、15:6406−6419頁(1995年);Tan X.ら、J.Cell Biol.、128:307−319頁(1995年);Warren D.S.ら、Am.J.Hum.Genet.、63:347−359頁(1998年))、酵素活性にとって必要とされる。
【0125】
用語「YlPex10」は、ペルオキシソーム生合成因子10タンパク質をコードするヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)遺伝子を示し、ここで同タンパク質は以降「YlPex10p」と称されることになる。この特定のペルオキシンは最近Sumitaらによって研究された(FEMS Microbiol.Lett.、214:31−38頁(2002年))。YlPex10のヌクレオチド配列は、GenBank登録番号CAG81606(配列番号104)、AB036770(配列番号114、115および116)およびAJ012084(配列番号117および118)を含む複数の登録番号の下でGenBankに登録された。配列番号118に示されるYlPex10p配列は354アミノ酸長である。それに対し、100%相同な配列が(GenBank登録番号AJ012084(配列番号118)で同定された開始コドンとは異なるものに対応する)タンパク質のN末端に追加的な23個のアミノ酸を有することから、配列番号104および配列番号116に示されるYlPex10p配列はそれぞれ377アミノ酸長である。
【0126】
天然Pex遺伝子におけるまたはそれに関連した用語「破壊」は、遺伝子の一部の内部での挿入、欠失、または標的化突然変異を示し、その結果、遺伝子がゲノムから欠失されかつタンパク質が全く翻訳されないような完全遺伝子ノックアウトか、あるいは挿入、欠失、アミノ酸置換または他の標的化突然変異を有する翻訳されたPexタンパク質が生じる。タンパク質における破壊の位置は、例えばタンパク質のN末端部分の内部またはタンパク質のC末端部分の内部でありうる。破壊されたPexタンパク質は、破壊されなかったPexタンパク質に対して低下した活性を有することになり、非機能的でありうる。Pexタンパク質をコードする天然遺伝子における破壊はまた、Pexタンパク質の発現の低下または欠如をもたらす代替手段を含む例えばそれは調節配列、転写および翻訳因子、および/またはシグナル形質導入経路の操作を介してかあるいはセンス、アンチセンスまたはRNAi技術などの使用によって生じうる。
【0127】
用語「油性である」は、エネルギー源をオイルの形態で保存する傾向がある生物を示す(Weete「In:Fungal Lipid Biochemistry」、第2版、Plenum、1980年)。用語「油性酵母」は、オイルすなわちTAGを生成しうる酵母として分類される微生物を示す。一般的に、油性微生物の細胞のオイルまたはTAG含量はS字形曲線に従い、ここで脂質の濃度は、後期対数または早期静止成長期で最大に達するまで増加し、次いで後期静止および死滅期の間に漸減する(YongmanitchaiおよびWard、Appl.Environ.Microbiol.、57:419−25頁(1991年))。油性微生物においては、オイルとしてその乾燥細胞重量の約25%超で蓄積することはまれではない。油性酵母の例として、決して限定されないが、次の属、すなわちヤロウィア(Yarrowia)、カンジダ(Candida)、ロドトルラ(Rhodotorula)、ロドスポリジウム(Rhodosporidium)、クリプトコッカス(Cryptococcus)、トリコスポロン(Trichosporon)およびリポマイセス(Lipomyces)が挙げられる。
【0128】
用語「発酵性炭素源」は、微生物が代謝によってエネルギーを生じさせることになる炭素源を意味する。典型的な炭素源は、限定はされないが、単糖類、オリゴ糖、多糖類、アルカン、脂肪酸、脂肪酸のエステル、モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリド、
二酸化炭素、メタノール、ホルムアルデヒド、ギ酸塩および炭素含有アミンを含む。
【0129】
本明細書で使用される用語「単離核酸断片」、「単離核酸分子」および「遺伝子コンストラクト」は、同義に使用され、場合により合成、非天然または改変ヌクレオチド塩基を有する一本鎖または二本鎖のRNAまたはDNAのポリマーを示すことになる。DNAのポリマーの形態での単離核酸断片は、cDNA、ゲノムDNAまたは合成DNAの1つ以上のセグメントを含みうる。
【0130】
アミノ酸またはヌクレオチド配列の「大部分」は、当業者による配列のマニュアル評価またはBLAST(Basic Local Alignment Search Tool;Altschul S.F.ら、J.Mol.Biol.、215:403−410頁(1993年))などのアルゴリズムを使用するコンピュータによる自動化された配列比較および同定のいずれかによってポリペプチドまたは遺伝子を推定的に同定するためのポリペプチドのアミノ酸配列または遺伝子のヌクレオチド配列を十分に含む部分である。一般的に、10以上の隣接アミノ酸または30以上のヌクレオチドの配列はポリペプチドまたは核酸配列を既知のタンパク質または遺伝子に対して相同なものとして推定的に同定するために必要である。さらに、ヌクレオチド配列に関しては、20〜30個の隣接ヌクレオチドを含む遺伝子に特異的なオリゴヌクレオチドプローブが、遺伝子同定(例えばサザンハイブリダイゼーション)および単離、例えば細菌コロニーまたはバクテリオファージプラークのインサイチュハイブリダイゼーションの配列に依存した方法で使用されうる。さらに、12〜15塩基の短いオリゴヌクレオチドが、プライマーを含む特定の核酸断片を得るためのPCRにおける増幅プライマーとして使用されうる。したがって、ヌクレオチド配列の「大部分」は、同配列を含む核酸断片の特異的同定および/または単離を行うのに十分な配列を含む。
【0131】
用語「相補的」は、互いにハイブリダイズ可能なヌクレオチド塩基間の関係を記述するのに用いられる。例えば、DNAに関しては、アデノシンはチミンに対して相補的であり、かつシトシンはグアニンに対して相補的である。
【0132】
「コドン縮重」は、コードされたポリペプチドのアミノ酸配列をもたらすことなくヌクレオチド配列の変異を許容する遺伝子コードにおける性質を示す。当業者は、所与のアミノ酸を特定するためのヌクレオチドコドンを使用する場合での特定の宿主細胞によって示される「コドンバイアス」について十分に理解している。したがって、宿主細胞内での改善された発現を意図して遺伝子を合成する場合、遺伝子をそのコドン使用の頻度が宿主細胞の好ましいコドン使用の頻度に近づくように設計することが望ましい。
【0133】
「合成遺伝子」は、当業者に既知の方法を用いて化学合成されるオリゴヌクレオチドビルディングブロックから構築されうる。これらのオリゴヌクレオチドビルディングブロックはアニールされ、次いでライゲートされ、遺伝子セグメントが形成され、次いでそれは酵素的に構築され、全遺伝子が作成される。したがって、遺伝子は、宿主細胞のコドンバイアスに反映させるためのヌクレオチド配列の最適化に基づく最適な遺伝子発現に対して適合されうる。当業者は、コドン使用が宿主によって好まれるコドンに向けてバイアスされる場合、遺伝子発現が奏功する可能性を理解している。好ましいコドンの決定は、配列情報が入手可能な場合、宿主細胞に由来する遺伝子の調査に基づきうる。例えば、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)におけるコドン使用特性は米国特許第7,125,672号明細書中に提供される。
【0134】
「遺伝子」は、特定のタンパク質を発現する核酸断片を示し、コード領域単独を示すか、またはコード配列の上流の調節配列(5’非コード配列)および下流の調節配列(3’非コード配列)を含みうる。「天然遺伝子」は、それ自体の調節配列を有する天然に見出される遺伝子を示す。「キメラ遺伝子」は、天然に見出されない調節およびコード配列を含む、天然遺伝子でない任意の遺伝子を示す。したがって、キメラ遺伝子は、異なる供給源由来の調節配列およびコード配列、または同じ供給源に由来するが天然に見出される場合とは異なる様式で配列された調節配列およびコード配列を含みうる。「内因性遺伝子」は、生物のゲノム内の天然の位置に存在する天然遺伝子を示す。「外来」遺伝子は、遺伝子導入により宿主生物に導入される遺伝子を示す。外来遺伝子は、非天然生物に導入される天然遺伝子、天然宿主内の新たな位置に導入される天然遺伝子、またはキメラ遺伝子を含みうる。「トランス遺伝子」は、形質転換手順によりゲノム内に導入されている遺伝子である。「コドン最適化遺伝子」は、宿主細胞の好ましいコドン使用の頻度を再現するように設計されたコドン使用の頻度を有する遺伝子である。
【0135】
「コード配列」は、特定のアミノ酸配列をコードするDNA配列を示す。「適切な調節配列」は、コード配列の上流(5’非コード配列)、内部、または下流(3’非コード配列)に位置し、かつ転写、RNAプロセシングまたは安定性、または関連コード配列の翻訳に影響を与えるヌクレオチド配列を示す。調節配列は、プロモーター、エンハンサー、サイレンサー、5’未翻訳リーダー配列(例えば転写開始部位および翻訳開始コドンの間)、イントロン、ポリアデニル化認識配列、RNAプロセシング部位、エフェクター結合部位およびステムループ構造を含みうる。
【0136】
「プロモーター」は、コード配列または機能RNAの発現を制御可能なDNA配列を示す。一般に、コード配列は、プロモーター配列に対して3’に位置する。プロモーターは、その全体が天然遺伝子に由来しうるか、または天然に見出される異なるプロモーター由来の異なる因子からなり得るか、またはさらに合成DNAセグメントを含みうる。異なるプロモーターが、異なる組織内もしくは細胞種内で、または発生の異なるステージで、または異なる環境もしくは生理学的条件に応答して、遺伝子の発現を誘導しうることは当業者により理解されている。。ほぼ常に大部分の細胞種内で遺伝子の発現を引き起こすプロモーターは、一般に「構成プロモーター」と称される。たいていの場合、調節配列の正確な境界が完全に画定されていないことから、異なる長さのDNA断片が同一のプロモーター活性を有しうることがさらに理解される。
【0137】
用語「GPDプロモーター」または「GPDプロモーター領域」は、gpd遺伝子によってコードされるグリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ酵素(E.C.1.2.1.12)の「ATG」翻訳開始コドンの前の、発現にとって必要な5’上流未翻訳領域を示す。適切なヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)GPDプロモーター領域の例が米国特許第7,259,255号明細書に記載されている。
【0138】
用語「GPDINプロモーター」または「GPDINプロモーター領域」は、gpd遺伝子の「ATG」翻訳開始コドンの前の、発現にとって必要な5’上流未翻訳領域+gpd遺伝子のイントロンを有する5’コード領域の一部を示す。適切なヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)GPDINプロモーター領域の例が米国特許出願公開第2006/0019297−A1号明細書に記載されている。
【0139】
用語「GPMプロモーター」または「GPMプロモーター領域」は、gpm遺伝子によってコードされるホスホグリセレートムターゼ酵素(EC5.4.2.1)の「ATG」翻訳開始コドンの前の、発現にとって必要な5’上流未翻訳領域を示す。適切なヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)GPMプロモーター領域の例が米国特許第7,259,255号明細書に記載されている。
【0140】
用語「GPM/FBAINプロモーター」または「GPM/FBAINプロモーター領
域」は、「GPMプロモーター」およびFBAINプロモーター(下記)内部に含まれるイントロンの融合体を含むキメラプロモーターを示す。適切なヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)GPM/FBAINプロモーター領域の例が米国特許第7,202,356号明細書に記載されている。
【0141】
用語「FBAプロモーター」または「FBAプロモーター領域」は、fba1遺伝子によってコードされるフルクトース二リン酸アルドラーゼ酵素(E.C.4.1.2.13)の「ATG」翻訳開始コドンの前の、発現にとって必要な5’上流未翻訳領域を示す。適切なヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)FBAプロモーター領域の例が米国特許第7,202,356号明細書に記載されている。
【0142】
用語「FBAINプロモーター」または「FBAINプロモーター領域」は、fba1遺伝子の「ATG」翻訳開始コドンの前の、発現にとって必要な5’上流未翻訳領域+fba1遺伝子のイントロンを有する5’コード領域の一部を示す。適切なヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)FBAINプロモーター領域の例が米国特許第7,202,356号明細書に記載されている。
【0143】
用語「FBAINmプロモーター」または「FBAINmプロモーター領域」は、FBAINプロモーターの改良バージョンを示し、ここでFBAINmはFBAINプロモーターのATG翻訳開始コドンとイントロンの間に52bpの欠失(それによりN末端の22個のみのアミノ酸を含む)およびイントロンの後に新しい翻訳コンセンサスモチーフを有する。さらに、FBAINプロモーターが発現されるべき遺伝子のコード領域と融合される場合に融合タンパク質を生成する一方、FBAINmプロモーターはかかる融合タンパク質を生成しない。適切なヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)FBAINmプロモーター領域の例が米国特許第7,202,356号明細書に記載されている。
【0144】
用語「GPATプロモーター」または「GPATプロモーター領域」は、gpat遺伝子によってコードされるグリセロール−3−リン酸−O−アシルトランスフェラーゼ酵素(E.C.2.3.1.15)の「ATG」翻訳開始コドンの前の、発現にとって必要な5’上流未翻訳領域を示す。適切なヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)GPATプロモーター領域の例が米国特許第7,264,949号明細書に記載されている。
【0145】
用語「YAT1プロモーター」または「YAT1プロモーター領域」は、yat1遺伝子によってコードされるアンモニウムトランスポーター酵素(TC2.A.49;GenBank登録番号XM_504457)の「ATG」翻訳開始コドンの前の、発現にとって必要な5’上流未翻訳領域を示す。適切なヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)YAT1プロモーター領域の例が米国特許出願公開第2006/0094102−A1号明細書に記載されている。
【0146】
用語「EXP1プロモーター」または「EXP1プロモーター領域」は、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)「YALI0C12034g」遺伝子(GenBank登録番号XM_501745)によってコードされるタンパク質の「ATG」翻訳開始コドンの前の、発現にとって必要な5’上流未翻訳領域を示す。「YALI0C12034g」のsp|Q12207サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)非古典的輸送タンパク質2(その機能は切断可能なシグナル配列のないタンパク質の輸送の新規経路に関与する)に対する有意な相同性に基づき、この遺伝子は本明細書中でEXP1と称されるタンパク質をコードするexp1遺伝子と称される。適切なヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)EXP1プロモーター領域の例がPCT公開の国際公開第2006/052870号パンフレットに記載されている。
【0147】
「イントロン」は、大部分の真核生物において(コード領域、5’非コード領域、または3’非コード領域のいずれかにおける)遺伝子配列内に見出される非コードDNAの配列である。それらの全機能は未知であるが、一部のエンハンサーがイントロン内に位置する(Giacopelli F.ら、Gene Expr.、11:95−104頁(2003年))。これらのイントロン配列は転写されるが、mRNAがタンパク質に翻訳される前にプレmRNA転写産物内部から除去される。このイントロン除去のプロセスは、イントロンのいずれかの側上の配列、すなわちエクソンの自己スプライシングによって生じる。
【0148】
用語「エンハンサー」は、隣接真核プロモーターからの転写のレベルを上昇させ、それにより遺伝子の転写を高めうるシス調節配列を示す。エンハンサーは、数十キロベースものDNAにわたってプロモーターに作用し、それらが調節するプロモーターに対する5’または3’側でありうる。エンハンサーはまた、イントロン内部に位置しうる。
【0149】
「3’非コード配列」および「転写ターミネーター」という用語は、コード配列の下流に位置するDNA配列を示す。これは、ポリアデニル化認識配列およびmRNAプロセシングまたは遺伝子発現に作用可能な調節シグナルをコードする他の配列を含む。ポリアデニル化シグナルは、通常、ポリアデニル酸経路のmRNA前駆体の3’末端への付加に作用することにより特徴づけられる。3’領域は、転写、RNAプロセシングもしくは安定性、または関連コード配列の翻訳に影響を与えうる。
【0150】
「RNA転写産物」は、DNA配列のRNAポリメラーゼに触媒される転写から生じる産物を示す。RNA転写産物がDNA配列の完全な相補的コピーである場合、それは一次転写産物と称されるか、またはそれは一次転写産物の転写後プロセシングから誘導されるRNA配列であり得、成熟RNAと称される。「メッセンジャーRNA」または「mRNA」は、イントロン内部に存在しかつ細胞によってタンパク質に翻訳されうるRNAを示す。「cDNA」は、mRNAに対して相補的でありかつそれから誘導される二本鎖DNAを示す。「センス」RNAは、mRNAを含むことから細胞によってタンパク質に翻訳されうるRNA転写産物を示す。「アンチセンスRNA」は、標的一次転写産物またはmRNAの全部または一部に対して相補的でありかつ標的遺伝子の発現を遮断するRNA転写産物を示す(米国特許第5,107,065号明細書;PCT公開の国際公開第99/28508号パンフレット)。アンチセンスRNAの相補性は、特定の遺伝子転写産物の任意の部分で、すなわち5’非コード配列、3’非コード配列、またはコード配列で生じうる。「機能的RNA」は、アンチセンスRNA、リボザイムRNA、または翻訳されなくても細胞プロセスに対して効果を有する他のRNAを示す。
【0151】
「作動可能に連結される」という用語は、単一の核酸断片上での核酸配列の、一方の機能が他方から作用を受けるような結合を示す。例えば、プロモーターは、コード配列の発現に作用可能である(すなわちコード配列がプロモーターの転写調節下にある)場合、コード配列に作動可能に連結される。コード配列は、センスまたはアンチセンス方向で調節配列に作動可能に連結されうる。
【0152】
本明細書で使用される用語「発現」は、センス(mRNA)またはアンチセンスRNAの転写および安定な蓄積を示す。発現はまた、mRNAのポリペプチドへの翻訳を示しうる。
【0153】
「成熟」タンパク質は、翻訳後にプロセシングを受けたポリペプチド、すなわち一次翻訳産物中に存在する任意のプレまたはプロペプチドが除去されているものを示す。「前駆体」タンパク質はmRNAの翻訳の一次産物を示す、すなわちそこではプレおよびプロペプチドが依然として存在する。プレおよびプロペプチドは、限定はされないが細胞内局在化シグナルでありうる。
【0154】
用語「リコンビナーゼ」は、部位特異的組換えを行い、DNA構造を改変する酵素を示し、トランスポーゼース、ラムダ組み込み/切断酵素、ならびに部位特異的リコンビナーゼを含む。
【0155】
「リコンビナーゼ部位」または「部位特異的リコンビナーゼ配列」は、リコンビナーゼが認識しかつ結合することになるDNA配列を意味する。機能性が維持され、かつリコンビナーゼ酵素がさらにリコンビナーゼ部位を認識し、DNA配列に結合し、また2つの隣接リコンビナーゼ部位の間の組換えを触媒しうる限り、これが野生型または突然変異体のリコンビナーゼ部位でありうることは理解されるであろう。
【0156】
「形質転換」は、遺伝学的に安定な遺伝的形質をもたらす、核酸分子の宿主生物への移動を示す。核酸分子は例えば自己複製するプラスミドであり得るか、または宿主生物のゲノムに組み込まれうる。形質転換された核酸断片を有する宿主生物は、「トランスジェニック」または「組換え」または「形質転換」生物と称される。
【0157】
「プラスミド」および「ベクター」という用語は、細胞の中央代謝の一部でない遺伝子を運ぶことが多く、通常は環状二本鎖DNA断片の形態をとる余分な染色体因子を示す。かかる因子は、自己複製配列、ゲノム組み込み配列、ファージ、あるいは任意の供給源に由来する一本鎖または二本鎖のDNAまたはRNAの線状または環状のヌクレオチド配列であり得、ここでは、多数のヌクレオチド配列に対し、発現カセットを細胞に導入可能な固有の作成物への連結または組換えが施されている。
【0158】
用語「発現カセット」は、選択される遺伝子のコード配列ならびに選択される遺伝子産物の発現に必要とされるコード配列の前(5’非コード配列)および後(3’非コード配列)の調節配列を含むDNAの断片を示す。したがって、発現カセットは、典型的には1)プロモーター配列、2)コード配列(すなわちORF)、および3)真核生物においては通常ポリアデニル化部位を有する3’未翻訳領域(すなわちターミネーター)で構成される。発現カセットは通常ベクター内部に含まれ、クローニングおよび形質転換を促進する。異なる発現カセットは、細菌、酵母、植物および哺乳類細胞を含む異なる生物に、正確な調節配列が各宿主に対して使用される限り、形質転換されうる。
【0159】
用語「相同組換え」は、(クロスオーバーの間での)2つのDNA分子間でのDNA断片の交換を示す。交換される断片は、2つのDNA分子間での同一のヌクレオチド配列の部位(すなわち「相同性の領域」)に隣接される。用語「相同性の領域」は、相互に相同性を有する、相同組換えに関与する核酸断片に対するヌクレオチド配列のストレッチを示す。有効な相同組換えは、一般的には、これらの相同性の領域が少なくとも約10bp長である場合、少なくとも約50bp長が好ましい場合に生じることになる。典型的には、組換えが意図される断片は、標的化される遺伝子破壊または置換が所望される場合、少なくとも2つの相同性の領域を有する。
【0160】
用語「配列分析ソフトウェア」は、ヌクレオチドまたはアミノ酸配列の分析にとって有用な任意のコンピュータアルゴリズムまたはソフトウェアプログラムを示す。「配列分析ソフトウェア」は市販されるかまたは独立に開発される場合がある。典型的な配列分析ソフトウェアは、限定はされないが、1)一連のGCGプログラム(Wisconsin Package Version 9.0、Genetics Computer Group(GCG)(Madison,WI));2)BLASTP、BLASTN、BLASTX(Altschulら、J.Mol.Biol.、215:403−410頁(1990年));3)DNASTAR(DNASTAR,Inc.(Madison,WI));4)Sequencher(Gene Codes Corporation(Ann Arbor,MI));および5)Smith−Watermanアルゴリズムを内蔵したFASTAプログラム(W.R.Pearson、Comput.Methods Genome Res.、[Proc.Int.Symp.](1994年)、Meeting Date 1992,111−20頁.Editor:Suhai、Sandor.Plenum(New York,NY)を含むことになる。本願との関連の中で、配列分析ソフトウェアが分析に使用される場合、他に規定がなければ、分析の結果が参照されるプログラムの「デフォルト値」に基づくことになることが理解されるであろう。本明細書で使用される「デフォルト値」は、最初に初期化される場合、ソフトウェアに最初に読み込まれる任意の値またはパラメータのセットを意味することになる。
【0161】
本明細書で用いられる標準の組換えDNAおよび分子クローニング技術は、当該技術分野で周知であり、Sambrook J.、Fritsch E.F.およびManiatis T.、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory(Cold Spring Harbor,NY)(1989年)(以降「Maniatis」);Silhavy T.J.、Bennan M.L.およびEnquist L.W.、「Experiments with Gene Fusions」、Cold Spring Harbor Laboratory(Cold Spring Harbor,NY)(1984年);およびAusubel F.M.ら、「Current Protocols in Molecular Biology」、Greene Publishing Assoc.and Wiley Interscience(Hoboken,NJ)発行(1987年)「An Overview:Microbial Biosynthesis Of Fatty Acids and Triacylglycerols」によって記載されている。
【0162】
一般に、油性微生物内での脂質蓄積が、成長培地中に存在する全体的な炭素対窒素比に応答して誘発される。油性微生物内での遊離パルミチン酸塩(16:0)のデノボ合成をもたらすこのプロセスは、米国特許第7,238,482号明細書中に詳細に記載されている。パルミチン酸塩は、エロンガーゼおよびデサチュラーゼの作用を通じて形成される、より長鎖の飽和および不飽和脂肪酸誘導体の前駆体である(
図1Aおよび
図1B)。
【0163】
TAG(脂肪酸の主要な蓄積単位(storage unit))は、1)リゾホスファチジン酸を生成するための、アシルトランスフェラーゼを介した1分子のアシル−CoAからグリセロール−3−リン酸塩へのエステル化;2)(一般にホスファチジン酸として同定される)1,2−ジアシルグリセロールリン酸塩を生成するための、アシルトランスフェラーゼを介した第2の分子のアシル−CoAのエステル化;3)1,2−ジアシルグリセロール[「DAG」]を生成するための、ホスファチジン酸ホスファターゼによるリン酸塩の除去;および4)TAGを形成するための、アシルトランスフェラーゼの作用による第3の脂肪酸の付加、を含む一連の反応により形成される。
【0164】
広域スペクトルの脂肪酸が、飽和および不飽和脂肪酸ならびに短鎖および長鎖脂肪酸を含むTAGに取り込まれうる。アシルトランスフェラーゼによってTAGに取り込まれうる脂肪酸のいくつかの非限定例として、カプリン酸(10:0)、ラウリン酸(12:0)、ミリスチン酸(14:0)、パルミチン酸(16:0)、パルミトレイン酸(16:1)、ステアリン酸(18:0)、オレイン酸(18:1)、バクセン酸(18:1)、LA、エレオステアリン酸(18:3)、ALA、GLA、アラキン酸(20:0)、EDA、ETrA、DGLA、ETA、ARA、EPA、ベヘン酸(22:0)、DPA、DHA、リグノセリン酸(24:0)、ネルボン酸(24:1)、セロチン酸(26:0)およびモンタン酸(28:0)の脂肪酸が挙げられる。本明細書中に記載の方法および宿主細胞においては、EPAのTAGへの取り込みが最も望ましい。
【0165】
大部分のPUFAが中性脂質としてTAGに取り込まれ、脂質体中に貯蔵されるが、油性生物内部での全PUFAの測定にはホスファチジルコリン画分、ホスファチジル−エタノールアミン画分、および(TAGまたはオイルとしても知られる)トリアシルグリセロール画分中に位置するPUFAが含まれる必要があることに注目することは重要である。
【0166】
EPA、ω−3脂肪酸の最適化された生合成
オレイン酸がEPAに変換される代謝過程は、炭素原子の付加を介した炭素鎖の伸長および二重結合の付加を介した分子の脱飽和を含む。これは小胞体膜内に存在する一連の特別な脱飽和および伸長酵素を必要とする。しかし、
図1Aおよび
図1Bならびに下記に見られるように、EPAの生成においては複数の代替経路が存在する。
【0167】
詳細には、
図1Aおよび
図1Bは下記の経路を示す。すべての経路が、Δ12デサチュラーゼによるオレイン酸からω−6脂肪酸の最初のリノール酸[「LA」]への初期変換を必要とする。次いで、「Δ9エロンガーゼ/Δ8デサチュラーゼ経路」および基質としてLAを使用し、長鎖ω−6脂肪酸が次のようにして形成される。すなわち、1)LAはΔ9エロンガーゼによってエイコサジエン酸[「EDA」]に変換され、2)EDAはΔ8デサチュラーゼによってジホモ−γ−リノレン酸[「DGLA」]に変換され、3)DGLAはΔ5デサチュラーゼによってアラキドン酸[「ARA」]に変換され、4)ARAはC
20/22エロンガーゼによってドコサテトラエン酸[「DTA」]に変換され、また5)DTAはΔ4デサチュラーゼによってドコサペンタエン酸[「DPAn−6」]に変換される。
【0168】
「Δ9エロンガーゼ/Δ8デサチュラーゼ経路」はまた、基質としてα−リノレン酸[「ALA」]を使用し、次のようにして長鎖ω−3脂肪酸を生成しうる。すなわち、1)LAはΔ15デサチュラーゼによってω−3脂肪酸の最初のALAに変換され、2)ALAはΔ9エロンガーゼによってエイコサトリエン酸[「ETrA」]に変換され、3)ETrAはΔ8デサチュラーゼによってエイコサテトラエン酸[「ETA」]に変換され、4)ETAはΔ5デサチュラーゼによってエイコサペンタエン酸[「EPA」]に変換され、5)EPAはC
20/22エロンガーゼによってドコサペンタエン酸[「DPA」]に変換され、また6)DPAはΔ4デサチュラーゼによってドコサヘキサエン酸[「DHA」]に変換される。場合により、ω−6脂肪酸はω−3脂肪酸に変換されうる。例えば、ETAおよびEPAは、Δ17デサチュラーゼ活性により、それぞれDGLAおよびARAから生成される。本明細書における目的として有利には、Δ9エロンガーゼ/Δ8デサチュラーゼ経路は、有意な量のγ−リノレン酸[「GLA」]が欠如したEPAオイルの生成を可能にする。
【0169】
ω−3/ω−6脂肪酸の生合成のための代替経路として、Δ6デサチュラーゼおよびC
18/20エロンガーゼ、すなわち「Δ6デサチュラーゼ/Δ6エロンガーゼ経路」が使用される。より詳細には、LAおよびALAは、Δ6デサチュラーゼにより、それぞれGLAおよびステアリドン酸[「STA」]に変換可能であり、次いでC
18/20エロンガーゼはGLAをDGLAおよび/またはSTAをETAに変換する。
【0170】
EPAの生成にとって好ましい微生物宿主:ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)
EPAの生成を意図してヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipoly
tica)への導入が必要とされる特定の機能性が、宿主細胞およびその天然PUFA特性および/またはデサチュラーゼ/エロンガーゼ特性、基質の可用性、ならびに所望される最終産物に依存することになると考えられる。天然宿主細胞については、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)が18:2脂肪酸を天然に生成可能であり、それ故に天然Δ12デサチュラーゼ(配列番号1および2;米国特許第7,214,491号明細書を参照)を有することが知られている。
【0171】
PCT公開の国際公開第2006/052870号パンフレットに記載のように、GLAの同時合成を伴わずに高濃度のEPAを生成可能な組換えヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)株の生成には、最低限、次の遺伝子、すなわちΔ9エロンガーゼ、Δ8デサチュラーゼ、Δ5デサチュラーゼおよびΔ17デサチュラーゼまたはΔ15デサチュラーゼの片方(または双方)の発現が必要とされ、ここでは次の遺伝子、すなわちΔ9デサチュラーゼ、Δ12デサチュラーゼ、C
14/16エロンガーゼおよびC
16/18エロンガーゼの中の少なくとも1つが場合によってさらに発現されうる。デサチュラーゼまたはエロンガーゼ活性を有する特定のポリペプチドを選択するためのその中に提示される検討事項は、1)ポリペプチドの基質特異性、2)ポリペプチドまたはその成分が律速酵素であるか否か、3)デサチュラーゼまたはエロンガーゼが所望されるPUFAの合成にとって必須であるか否か、4)ポリペプチドによって必要とされる共同因子、5)ポリペプチドがその生成後に例えばキナーゼまたはプレニルトランスフェラーゼによって修飾されるか否か、および/または6)特定の各デサチュラーゼおよび/またはエロンガーゼの変換効率を含んだ。
【0172】
全脂質画分中で例えば14%〜53.2%超のEPAを生成する能力を有する最適化された組換えヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)の株が生成される本出願では、株は最低限、次のω−3/ω−6脂肪酸生合成経路の遺伝子、すなわち
a)Δ9エロンガーゼをコードする少なくとも1つの遺伝子、
b)Δ8デサチュラーゼをコードする少なくとも1つの遺伝子、
c)Δ5デサチュラーゼをコードする少なくとも1つの遺伝子、
d)Δ17デサチュラーゼをコードする少なくとも1つの遺伝子、
e)Δ12デサチュラーゼをコードする少なくとも1つの遺伝子、および
f)C
16/18エロンガーゼをコードする少なくとも1つの遺伝子
を含む。
【0173】
より好ましい組換えヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)株は、ジアシルグリセロールコリンホスホトランスフェラーゼ(CPT1)をコードする少なくとも1つの遺伝子をさらに含む。より好ましい組換えヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)株は、Δ15デサチュラーゼをコードする少なくとも1つの遺伝子、および/またはΔ9デサチュラーゼをコードする少なくとも1つの遺伝子をさらに含む。高レベルでEPAを生成可能な最適化されたヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)の株において必要とされる要素のさらなる態様が下記に詳述され、ここで最適化された株は、組換えヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)宿主細胞の、全脂質中で少なくとも約25%のEPA、好ましくは全脂質中で少なくとも約30%のEPA、より好ましくは全脂質中で少なくとも約35%のEPA、より好ましくは全脂質中で少なくとも約40%のEPA、より好ましくは全脂質中で少なくとも約40〜45%のEPA、より好ましくは全脂質中で少なくとも約45〜50%のEPA、より好ましくは少なくとも約50〜60%、および最も好ましくは少なくとも約60〜70%のEPAを生成することになる。
【0174】
他の実施形態では、本明細書中に記載の最適化された組換えヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)株は、全脂質中で少なくとも約25%のEPAを含有し、かつ全脂質中で約1%未満のGLAを含有し、かつDHAを全く含有しない微生物オイルを生成することになる。
【0175】
別の実施形態では、本明細書中に記載の最適化された組換えヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)株は、全脂質中で少なくとも約30%のEPAを含有し、かつ全脂質中で約25%未満のLAを含有する微生物オイルを生成することになる。
【0176】
好ましい一実施形態では、本明細書中に記載の最適化された組換えヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)株は、乾燥細胞重量に対して少なくとも約12%の微生物オイルを生成することになる。
【0177】
別の好ましい実施形態では、本明細書中に記載の最適化された組換えヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)株は、全脂肪酸のパーセントとしての少なくとも約50%のω−3 PUFAを生成することになる。
【0178】
最適化されたEPA生合成における好ましいデサチュラーゼおよびエロンガーゼ遺伝子
出願人は、様々なΔ9エロンガーゼ、Δ8デサチュラーゼ、Δ5デサチュラーゼ、Δ17デサチュラーゼ、Δ12デサチュラーゼおよびC
16/18エロンガーゼの徹底した分析を行い、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)において発現される場合に最適な基質特異性および/または基質選択性を有する酵素を判定している。これらの分析に基づき、表4中に記載のそれに由来する遺伝子およびコドン最適化遺伝子は、本明細書中で、高レベルのEPA生合成を可能にするω−3/ω−6脂肪酸生合成経路の作成におけるヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)での発現にとって好ましいものとして同定されている。各遺伝子に関するさらなる詳細は後に詳述される。
【0179】
下の表4に示されるように、記述される多数の好ましいEPA生合成遺伝子は、米国特許第7,125,672号明細書に記載のように、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)における発現のためにコドン最適化されている。当業者に周知のように、異種遺伝子の発現は、選択される宿主微生物内での最適な遺伝子発現を目的とする場合、天然遺伝子におけるコドンの置換によるコードされるmRNAの翻訳効率の向上によって促進されうる。さらに、効率的な酵母翻訳開始配列を含めることで最適な遺伝子発現を得るため、合成コドン最適化遺伝子の翻訳開始コドン「ATG」周囲のヌクレオチド配列は、「ATG」開始コドンの周囲に次の共通配列、すなわち「MAMMATGNHS」(配列番号3)を含むように改変されることが多く、ここで使用される核酸縮重コードは次の通りである。M=A/C;S=C/G;H=A/C/T;およびN=A/C/G/T。
【0183】
LAからEDAおよび/またはALAからETrAへの変換のためのΔ9エロンガーゼ
をコードする少なくとも1つの遺伝子:ユーグレナ・グラシリス(Euglena gracilis)由来のΔ9エロンガーゼが米国特許出願公開第2007−0117190A1号明細書およびPCT公開の国際公開第2007/061742号パンフレットにおいて単離され、特徴づけられた。その中でEgD9eと称されたコード領域は777bp長であり(配列番号4)、258個のアミノ酸(配列番号5)のタンパク質をコードする。引用された刊行物に記載のように、EgD9eのΔ9エロンガーゼ活性は、イソクリシス・ガルバナ(Isochrysis galbana)由来の合成Δ9エロンガーゼ遺伝子[「IgD9eS」]と比較され(IgD9e;NCBI登録番号AAL37626[GI17226123]、遺伝子座AAL37626、CDS AF390174;GenBank登録番号AF390174)(CDS=ヌクレオチド2〜793))、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)における発現のためにコドン最適化された。EgD9eは、LAからEDAへの変換時、IgD9eSより高い基質変換効率で機能した(10.0%対6.9%)。
【0184】
EgD9eのコドン最適化の結果、EgD9eS(配列番号6)が得られた。翻訳開始部位の修飾に加え、777bpの中の117bpのコード領域が修飾され(15.1%)、106のコドンが最適化された(しかし、コドン最適化遺伝子によってコードされるタンパク質配列[すなわち配列番号7]は野生型タンパク質配列[すなわち配列番号5]の場合に一致する)。EgD9eSは、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)において発現される場合、LAをEDAに伸長するのに野生型EgD9eより約16.2%効率的であった。
【0185】
ユートレプティエラ属(Eutreptiella sp.)CCMP389Δ9エロンガーゼの単離および特徴づけについても米国特許出願公開第2007−0117190A1号明細書およびPCT公開の国際公開第2007/061742号パンフレットに記載されている。E389D9eコード領域は792bp長であり(配列番号8)、263個のアミノ酸(配列番号9)のタンパク質をコードする。E389D9eおよびEgD9eタンパク質配列は、ペアワイズアラインメントにおけるデフォルトパラメータ(KTUPLE=1、ギャップペナルティ=3、ウインドウ(WINDOW)=5およびダイアゴナルズセイブド(DIAGONALS SAVED)=5およびギャップ長ペナルティ=10)を有するLASERGENEバイオインフォマティクスコンピューティングスイートのMegAlign(商標)v6.1プログラム(DNASTAR Inc.(Madison,WI))を使用するClustal V分析法(Higgins D.G.およびSharp P.M.、Comput.Appl.Biosci.、5:151−153頁(1989年);Higginsら、Comput.Appl.Biosci.、8:189−191頁(1992年))を用いると、65.1%の同一性を共有する。E389D9eは、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)において発現される場合、約11%のLAをEDAに変換した。
【0186】
E389D9eのコドン最適化の結果、792bpの中の128bpのコード領域が修飾され(16.2%)、113のコドンが最適化された。これにより、GC含量がE389D9e内部の45.7%からE389D9eS(配列番号10)内部の50.1%に増加した。コドン最適化遺伝子によってコードされるタンパク質配列(すなわち配列番号11)は、野生型タンパク質配列(すなわち配列番号9)の場合に一致する。E389D9eSは、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)内で発現される場合、12%LAをEDAに伸長させた。
【0187】
最近では、ユーグレナ・アナベナ(Euglena anabaena)UTEX373Δ9エロンガーゼ(EaD9e)の単離および特徴づけについては米国特許出願第12/102879号明細書に記載された(またその中でEaD9Elo1と称された)。EaD9eコード領域は774bpであり(配列番号12)、258個のアミノ酸(配列番号13)のタンパク質をコードする。EaD9eは、ペアワイズアラインメントにおけるデフォルトパラメータ(上記)を有するLASERGENEバイオインフォマティクスコンピューティングスイートのMegAlign(商標)v6.1プログラム(DNASTAR Inc.)を使用するClustalV分析法(上記)によると、IgD9eと32.9%の配列同一性およびEgD9eと77.1%の配列同一性を共有する。ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)におけるEaD9eの発現時、22.7%Δ9伸長の平均が、次の式、すなわち([EDA]/[LA+EDA])*100に基づいて報告された。その後、出願人の実験室において他のクローニングベクター内でヤロウィア・リポリティカ(Y.lipolytica)におけるEaD9eの発現を行った結果、12%Δ9伸長が得られた。
【0188】
EaD9eS(配列番号14)の合成の間、翻訳開始部位の修飾に加え、774bpの中の106bpのEaD9eコード領域が修飾され(13.7%)、98のコドンが最適化された(38.0%)。コドン最適化遺伝子によってコードされるタンパク質配列(すなわち配列番号15)は、野生型タンパク質配列(すなわち配列番号13)の場合に一致する。EaD9eSは、ヤロウィア・リポリティカ(Y.lipolytica)において発現される場合、13%LAをEDAに伸長させた。
【0189】
EDAからDGLAおよび/またはETrAからETAへの変換のためのΔ8デサチュラーゼをコードする少なくとも1つの遺伝子:
ユーグレナ・グラシリス(Euglena gracilis)から単離され、誘導されるいくつかのΔ8デサチュラーゼは本明細書において好ましい。米国特許第7,256,033号明細書は、EDAおよびEtrA(その中で「Eg5」と称される)を脱飽和可能なユーグレナ・グラシリス(E.gracilis)Δ8デサチュラーゼについて開示している。野生型ユーグレナ・グラシリス(E.gracilis)Δ8デサチュラーゼは、Eg5のヌクレオチドおよびアミノ酸配列と100%同一でかつ機能的に等価であるが、本明細書中で「EgD8」と称されることになる。EgD8コード領域は1263bp長(すなわち配列番号18のヌクレオチド4〜1269)であり、421個のアミノ酸(配列番号19)のタンパク質をコードする。
【0190】
米国特許第7,256,033号明細書はまた、EgD8に由来しかつヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)における発現のためにコドン最適化された合成Δ8デサチュラーゼを開示している(その中で「D8SF」と称される)。コドン最適化されたユーグレナ・グラシリス(E.gracilis)Δ8デサチュラーゼは、D8SFのヌクレオチドおよびアミノ酸配列と100%同一でかつ機能的に等価であるが、本明細書中で「EgD8S」と称されることになる(配列番号20および21)。詳細には、1263bpの中の207bp(16.4%)のEgD8のコード領域は修飾され、それは192のコドンのコドン最適化に対応した。さらに、EgD8Sは野生型EgD8のアミノ酸残基1および2の間に挿入された1個の追加的なバリンアミノ酸を有し、それ故、EgD8Sの全長は422個のアミノ酸である(配列番号21)。ヤロウィア・リポリティカ(Y.lipolytica)におけるEgD8Sの発現は、EgD8より効率的なEDAからDGLAへの脱飽和を示した。
【0191】
EgD8およびEgD8Sが有用であるにもかかわらず、本明細書中でEgD8Mとして同定された合成的に改変された突然変異体Δ8デサチュラーゼ(配列番号22および23)は、本明細書中に記載のヤロウィア(Yarrowia)の改変株において優先的に使用される。米国特許出願公開第2008−0138868A1号明細書中で詳述されるように、(その中で「EgD8S−23」として同定された)EgD8Mは、EgD8S内部で複数回の標的化変異を行うことによって生成された。得られた突然変異体のΔ8デサチュラーゼ活性に対する各突然変異の効果はスクリーニングされ、EgD8S(配列番号21)のΔ8デサチュラーゼ活性との機能的等価性が確認された。この操作の結果として、突然変異体EgD8M(配列番号23)は、配列番号21として示される合成コドン最適化EgD8S配列に対して次の24のアミノ酸変異、すなわち4SからA、5KからS、12TからV、16TからK、17TからV、66PからQ、67SからA、108SからL、117GからA、118YからF、120LからM、121MからL、125QからH、126MからL、132VからL、133LからV、162LからV、163VからL、293LからM、407AからS、408VからQ、418AからG、419GからAおよび422LからQを含む。Vector NTI(登録商標)のAlignXプログラム(Invitrogen Corporation(Carlsbad,CA))のデフォルトパラメータを使用したEgD8MおよびEgD8Sタンパク質配列のペアワイズアラインメントによると、422個のアミノ酸長にわたる2つのタンパク質の間で94.3%の配列同一性および97.9%のコンセンサスが示された。
【0192】
最近では、ユーグレナ・アナベナ(Euglena anabaena)UTEX373Δ8デサチュラーゼ(「EaD8」)の単離および特徴づけについては米国特許出願第12/099811号明細書に記載された(その中でEaD8Des3として同定された)。EaD8コード領域は1260bp長であり(配列番号24)、420個のアミノ酸(配列番号25)のタンパク質をコードする。EaD8は、ペアワイズアラインメントにおけるデフォルトパラメータ(上記)を有するLASERGENEバイオインフォマティクスコンピューティングスイートのMegAlign(商標)v6.1プログラム(DNASTAR Inc.)を使用するClustalV分析法(上記)によると、EgD8と71.9%の配列同一性を共有する。ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)におけるEaD8の発現時、酵素が基質としてDGLAと共に提示される場合にC20脱飽和の平均52.3%が報告された一方、基質としてETrAと共に提示される場合にC20脱飽和の平均45.5%が報告された。
【0193】
EaD8のΔ8デサチュラーゼ活性の確認後、EaD8S(配列番号26)がEaD8のコード配列に基づいて設計された。翻訳開始部位の修飾に加え、1260bpの中の231bpのコード領域が修飾され(18.3%)、208のコドンが最適化された(49.5%)。GC含量は、EaD8内部の56.8%からEaD8S内部の54.8%まで減少した。コドン最適化遺伝子によってコードされるタンパク質配列(すなわち配列番号27)は、野生型タンパク質配列(すなわち配列番号25)の場合に一致する。
【0194】
DGLAからARAおよび/またはETAからEPAへの変換のためのΔ5デサチュラーゼをコードする少なくとも1つの遺伝子:
PCT公開の国際公開第2007/136671号パンフレットにおいては、ユーグレナ・グラシリス(Euglena gracilis)由来のΔ5デサチュラーゼ(すなわちEgD5)が単離され、特徴づけられた。配列番号34として示されるEgD5の1350bpのコード領域は、約33%の平均変換効率でDGLAをARAに変換する449個のアミノ酸(配列番号35)のタンパク質をコードする。
【0195】
EgD5のΔ5デサチュラーゼ活性は、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia
lipolytica)における発現時、十分に特徴づけられたモルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)Δ5デサチュラーゼ(すなわち「MaD5」;米国特許第6,075,183号明細書およびPCT公開の国際公開第2004/071467号パンフレットおよび国際公開第2005/047479号パンフレット)と比較された。EgD5は、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)において、DGLA、EDAおよびETAが基質として使用される場合、MaD5よりも約2.6倍〜2.9倍活性が高かったが、デサチュラーゼはETrAに対し
てほぼ同じ活性を有した(活性は特定の基質上でのEgD5における%Δ5脱飽和を同じ基質上でのMaD5における%Δ5脱飽和で除することによって計算された)。DGLA(対EDA)に対するEgD5およびMaD5の基質特異性はヤロウィア(Yarrowia)においてほぼ同じであったが、ETA(対ETrA)に対してはEgD5はMaD5よりも約2.5倍優位性があり、ここで基質特異性は、DGLAまたはETAにおける%Δ5脱飽和をそれぞれEDAまたはETrAにおける%Δ5脱飽和で除することによって計算された。EgD5はまた、ω−6基質(すなわちEDAおよびDGLA)に対し、それぞれω−3基質(すなわちETrAおよびETA)よりも優位性を有した。これらの結果にかかわらず、インビボでの基質を使用する場合、EgD5の活性において何らかの変化が観察可能であり、さらなる実験が必要とされうる。
【0196】
EgD5のコドン最適化の結果、1350bpの中の196bpのコード領域が修飾され(14.5%)、全部で449のコドンの中の189のコドンが最適化された(42%)。コドン最適化EgD5S遺伝子によってコードされるタンパク質配列(すなわち配列番号37)は、野生型タンパク質配列(すなわち配列番号35)の場合に一致する。EgD5Sとして同定されるコドン最適化遺伝子(配列番号36)は、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)内で発現される場合、DGLAからARAへの脱飽和化で野生型遺伝子より36%効率的であった。
【0197】
ペリディニウム属(Peridinium sp.)CCMP626Δ5デサチュラーゼ(RD5)は、PCT公開の国際公開第2007/136646号パンフレットにおいて単離され、特徴づけられた。RD5の1392bpのコード配列は配列番号38に示される一方、コードされるタンパク質は463個のアミノ酸(配列番号39)である。このΔ5デサチュラーゼは、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)において、約35%の(平均)変換効率でDGLAをARAに変換する。RD5はまた、モルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)Δ5デサチュラーゼ(MaD5;上記)と比較された。RD5は、ヤロウィア(Yarrowia)において、DGLA、EDA、ETrAおよびETAが基質として使用される場合、MaD5より約3.0倍〜9.7倍活性が高い。RD5の正確なω−6基質(すなわちDGLA対EDA)に対する基質特異性はMaD5に対して約0.4であり、ω−3基質(すなわちETA対ETrA)に対しては約0.6である。RD5はまた、ω−6基質(すなわちEDAおよびDGLA)に対し、それぞれω−3基質(すなわちETrAおよびETA)よりも約1.4倍の優位性を有する。EgD5と同様、インビボでの基質を使用する場合、RD5の活性における何らかの変化が観察可能であり、さらなる実験が必要とされうる。
【0198】
RD5のコドン最適化の結果、翻訳開始部位の修飾に加え、1392bpの中の247bpのコード領域が修飾され(17.7%)、229のコドンが最適化された(49.4%)。GC含量は、RD5内部の49.3%から合成遺伝子(すなわちRD5S)内部の54.2%に増加した。NcoI部位およびNotI部位がそれぞれ翻訳開始コドンの近辺およびRD5S(配列番号40)の停止コドンの後に組み込まれた。コドン最適化遺伝子によってコードされるタンパク質配列(すなわち配列番号41)は、野生型タンパク質配列(すなわち配列番号39)の場合に一致する。RD5Sは、DGLAからARAへの変換で野生型RD5より約8.9%効率的であった。
【0199】
ユーグレナ・アナベナ(Euglena anabaena)UTEX373Δ5デサチュラーゼ(EaD5)は、米国特許出願第12/111237号明細書において単離され、特徴づけられた(その中でEaD5Des1として同定された)。コード領域は1362bp(配列番号42)であり、454個のアミノ酸(配列番号43)のタンパク質をコードし、ペアワイズアラインメントにおけるデフォルトパラメータ(上記)を有するLASERGENEバイオインフォマティクスコンピューティングスイートのMegAlign(商標)v6.1プログラム(DNASTAR Inc.)を使用するClustal V分析法(上記)によると、EgD5と77.1%の配列同一性を共有する。EaD5は、DGLAまたはETAに対し、それぞれEDAまたはETrAよりも約3.5倍優位のΔ5デサチュラーゼ活性を有することが示された。さらに、EaD5にとってはω−3基質よりもω−6基質の方が好ましい。
【0200】
EaD5のΔ5デサチュラーゼ活性の確認後、EaD5S(配列番号44)がEaD5のコード配列に基づいて設計された。翻訳開始部位の修飾に加え、1362bpの中の183bpのコード領域が修飾され(13.4%)、174のコドンが最適化された(38.3%)。GC含量は、野生型遺伝子(すなわちEaD5)内部の57.6%からEaD5S内部の54.6%へ減少した。NcoI部位およびNotI部位がそれぞれ翻訳開始コドンの近辺およびEaD5S(配列番号44)の停止コドンの後に組み込まれた。コドン最適化遺伝子によってコードされるタンパク質配列(すなわち配列番号45)は、野生型タンパク質配列(すなわち配列番号43)の場合に一致する。
【0201】
最近では、米国仮特許出願第61/098333号明細書(参照により本明細書中に援用される)では、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)において異種的に発現される場合での突然変異体Δ5デサチュラーゼ(そのEgD5S、EaD5SおよびRD5S対応物に対して改善された酵素活性を有する)について記載されている。Δ5デサチュラーゼはいくつかの保存された配列(すなわち3つのヒスチジンボックス[配列番号190〜195]およびチトクロームb
5ドメイン)を有するが、ヘム結合モチーフ(すなわちHis−Pro−Gly−GlyまたはHPGG;配列番号182)が突然変異試験における標的として選択された。結果は、EgD5S、EaD5SまたはRD5SにおけるHPGGモチーフのプロリン残基も2番目のグリシン残基もΔ5デサチュラーゼ機能にとって必須でないことを示した。しかし、より意外なことが、非突然変異デサチュラーゼに対して増大したΔ5デサチュラーゼ活性を有する数種の突然変異体酵素の同定であった。EgD5S−HXGG(配列番号122)は、HGGG(配列番号185)モチーフおよびEgD5Sに対して104.6%のΔ5デサチュラーゼ活性か、またはHHGG(配列番号186)モチーフおよびEgD5Sに対して103.6%のΔ5デサチュラーゼ活性のいずれかを有した。HPGS(配列番号187)モチーフを含むEgD5S−HPGS(配列番号124)は、EgD5Sに対して106.9%のΔ5デサチュラーゼ活性を有した。RD5S−HXGG(配列番号126)は、(RD5S−HXGGの結果は最初のアッセイ結果であって定量分析に基づくものではないが)HCGG(配列番号188)モチーフおよびRD5Sに対して138.6%のΔ5デサチュラーゼ活性か、またはHWGG(配列番号189)モチーフおよびRD5Sに対して113.5%のΔ5デサチュラーゼ活性のいずれかを有した。また、HCGG(配列番号188)モチーフを含むEaD5S−HCGG(配列番号125)は、EaD5Sに対して107.9%のΔ5デサチュラーゼ活性を示した。好ましい突然変異体Δ5デサチュラーゼは、(配列番号122として示されるアミノ酸配列に対応する)配列番号196、(配列番号122として示されるアミノ酸配列に対応する)配列番号197、(配列番号124として示されるアミノ酸配列に対応する)配列番号198、(配列番号125として示されるアミノ酸配列に対応する)配列番号199、(配列番号126として示されるアミノ酸配列に対応する)配列番号200および(配列番号126として示されるアミノ酸配列に対応する)配列番号201として示される核酸配列を有する。
【0202】
ARAからEPAおよび/またはDGLAからETAへの変換のためのΔ17デサチュラーゼをコードする少なくとも1つの遺伝子:
米国特許出願第11/787772号明細書は、フィトフトラ・ラモラム(Phytophthora ramorum)Δ17デサチュラーゼ(「PrD17」)の単離および特徴づけについての詳細を提供する。PrD17は、配列番号46で示される1086bpのORFによってコードされる361個のアミノ酸(配列番号47)の酵素である。PrD17は、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)における発現のために最適化され、詳細には、翻訳開始部位の修飾に加え、168bpのコード領域が修飾され(15.5%)、160のコドンが最適化された(44.2%)。GC含量は、PrD17内部の64.4%から合成遺伝子(すなわちPrD17S)内部の54.5%に減少した。NcoI部位およびNotI部位がそれぞれ翻訳開始コドンの近辺およびPrD17S(配列番号48)の停止コドンの後に組み込まれた。コドン最適化遺伝子によってコードされるタンパク質配列(すなわち配列番号49)は、野生型タンパク質配列(すなわち配列番号47)の場合に一致する。
【0203】
ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)におけるPrD17Sの発現時、ARAはEPAに約49%の平均レート(average rate)で変換された。米国特許出願第11/779915号明細書におけるPrD17Sの基質特異性のさらなる分析によると、PrD17Sにおいて有効な基質としてEDAおよびDGLAを使用する結果、各場合において25%を超える変換効率が得られうることも判定された。
【0204】
ピチウム・アファニデルマツム(Pythium aphanidermatum)由来のΔ17デサチュラーゼが、米国特許出願第11/779915号明細書において単離され、特徴づけられた。PaD17コード領域は1080bp長(配列番号50)であり、359個のアミノ酸(配列番号51)のタンパク質をコードする。デフォルトパラメータを有するLASERGENEバイオインフォマティクスコンピューティングスイートのMegAlign(商標)v6.1プログラム(DNASTAR Inc.)中で見出される(HigginsおよびSharp、CABIOS、5:151−153頁(1989年);Higgins D.G.ら、Comput.Appl.Biosci.、8:189−191頁(1992年)に記載の)Clustal W分析を使用する、フィトフトラ・インフェスタンス(Phytophthora infestans)(PiD17;GenBank登録番号CAJ30870;PCT公開の国際公開第2005/083053号パンフレット)、フィトフトラ・ソジャエ(Phytophthora sojae)(PsD17;PCT公開の国際公開第2006/100241号パンフレット;PCT公開の国際公開第2007/123999号パンフレット)、フィトフトラ・ラモラム(Phytophthora ramorum)(PrD17;配列番号47;上記)およびPaD17に由来するΔ17デサチュラーゼタンパク質の間および中でのペアワイズ比較の結果、次のパーセント類似性、すなわちPiD17およびPaD17の間で74.5%;PrD17およびPaD17の間での75.0%;ならびにPsD17およびPaD17の間で75.3%が得られた。
【0205】
PaD17の最適化の結果、翻訳開始部位の修飾に加え、(停止コドンを含む)1080bpの中の188bpのコード領域(17.4%)が修飾され、175のコドンが最適化された(48.6%)。GC含量は、PaD17内部の61.8%からPaD17S(配列番号52)内部の54.5%に減少した。NcoI部位およびNotI部位がそれぞれ翻訳開始コドンの近辺およびPaD17Sの停止コドンの後に組み込まれた。コドン最適化遺伝子によってコードされるタンパク質配列(すなわち配列番号53)は、野生型タンパク質配列(すなわち配列番号51)の場合に一致する。PaD17Sの変換効率は、野生型PaD17における18.4%〜19.5%の変換効率に対し、54.1%〜55.6%の間の範囲であった。
【0206】
PaD17S(配列番号52)の基質特異性が、PsD17S(PsD17に由来し、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)における発現の
ためにコドン最適化された合成Δ17デサチュラーゼ;米国特許出願第11/787772号明細書)およびPrD17S(配列番号48)に対してさらに評価された。すべての3つのΔ17デサチュラーゼがARAにおける最高の優位性、EDAおよびDGLAに対する比較的低い活性、およびGLAに対する最低限の活性を有したが、PaD17SがARAに対する最高の全体的活性を有することが見出された。さらに、PaD17SはC18基質LAに対して有意なΔ15デサチュラーゼ活性を有し、ここで活性はC20基質EDAおよびDGLAに対するΔ17デサチュラーゼ活性に匹敵した。
【0207】
オレイン酸からLAへの変換のためのΔ12デサチュラーゼをコードする少なくとも1つの遺伝子:
ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)は米国特許第7,214,491号明細書で同定され、特徴づけられた、Δ12デサチュラーゼをコードする天然遺伝子を保有する(「YlD12」;配列番号1および2)。しかし、PCT公開の国際公開第2005/047485号パンフレットおよび国際公開第2006/052870号パンフレットに記載のように、フザリウム・モニリフォルメ(Fusarium moniliforme)Δ12デサチュラーゼ(「FmD12」;配列番号54および55によってコードされる)は、ヤロウィア・リポリティカ(Y.lipolytica)における18:2の生成において、YlD12より高い効率で機能する。より詳細には、両方のΔ12デサチュラーゼはオレイン酸からLAへの変換を触媒するが、2種の酵素はそれらの全体的な特異性が異なる(それにより各酵素のパーセント基質変換に作用する)。FmD12は、LAのホスファチジルコリン基質のsn−2位置に対し、YlD12より高い負荷能力を有する。これは、ヤロウィア・リポリティカ(Y.lipolytica)における翻訳伸長因子EF1−αプロモーター(TEF;米国特許第6,265,185号明細書)の制御下でのFmD12の発現時、TEFプロモーターの制御下でYlD12をコードするキメラ遺伝子の発現によって先に達成できた場合(LAの59%の産物蓄積)より高いレベルの18:2の生成(LAの68%の産物蓄積)が測定されることが示された。これはパーセント基質変換の差異(それぞれ85%対74%の([18:2+18:3]/[18:1+18:2+18:3])*100)として計算される)に対応する。これらの結果に基づき、真菌FmD12の発現は、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)の高EPA生成株を改変するための手段として、天然YlD12に対して好ましい。さらに、YlD12のノックアウトを伴うFmD12の過剰発現は、産物LAのΔ9伸長を促進するのに特に有利でありうる。
【0208】
FmD12の最適化の結果、1434bpの中の182bpのコード領域(12.7%)が修飾され、172のコドン(36%)が最適化され、それによりFmD12S(配列番号56)として示される遺伝子が得られた。コドン最適化FmD12S遺伝子によってコードされるタンパク質配列(すなわち配列番号57)は野生型タンパク質配列(すなわち配列番号55)の場合に一致する。
【0209】
パルミチン酸塩からステアリン酸(18:0)への変換のためのC
16/18エロンガーゼをコードする少なくとも1つの遺伝子:
ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)は(PCT公開の国際公開第2006/052870号パンフレットにおいて「YE2」として同定され、特徴づけられた)天然C
16/18エロンガーゼを確かに保有するが、本出願における好ましいC
16/18エロンガーゼはモルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)C
16/18エロンガーゼ(ELO3)である。275個のアミノ酸の酵素であり、配列番号58で示される828bpのORFによってコードされるELO3(配列番号59)が、米国特許出願公開第2007−0087420A1号明細書およびPCT公開の国際公開第2007/046817号パンフレットにおいて単離され、特徴づけられた。それらの中で記載のように、ELO3は、強力な天然プロモーター(す
なわちFBAIN)の制御下でヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)において過剰発現され、それにより、ELO3を含有しない対照株よりも35%多いC18脂肪酸(すなわち18:0、C18:1、C18:2およびGLA)および31%少ないC16脂肪酸を生成する形質転換体が得られた。これらのデータにより、ELO3が基質としてC16脂肪酸を使用し、C18脂肪酸を生成することが示された。
【0210】
ELO3の最適化の結果、828bpの中の114bpのコード領域(13.8%)が修飾され、111のコドン(40.2%)が最適化され、それによりME3S(配列番号60)と称される遺伝子が生成された。コドン最適化ME3S遺伝子によってコードされるタンパク質配列(すなわち配列番号61)は野生型タンパク質配列(すなわち配列番号59)の場合に一致する。
【0211】
LAからALAおよび/またはGLAからSTAへの変換のためのΔ15デサチュラーゼをコードする少なくとも1つの遺伝子:
配列番号62および63としての本明細書中に記載のフザリウム・モニリフォルメ(Fusarium moniliforme)Δ15デサチュラーゼ(FmD15)は、ALAの生成を増大させるのに好ましいΔ15デサチュラーゼである。この酵素は、1209bpのコード配列によってコードされる402個のアミノ酸を含む。
【0212】
この特定のΔ15デサチュラーゼは、予め知られたΔ15デサチュラーゼ(PCT公開の国際公開第2005/047480号パンフレットおよび国際公開第2006/052870号パンフレット)に対していくつかの固有の特性を有する。第一に、FmD15はその有意なΔ12デサチュラーゼ活性によって区別される(それ故、酵素が二機能性として特徴づけられる)。先行試験によると、配列番号62をコードするキメラ遺伝子で形質転換されたヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)のΔ12デサチュラーゼ破壊株が、96%のLAのALAへの変換([18:3]/[18:2+18:3]*100として計算されるパーセント基質変換)に加え、24%のオレイン酸をLAに変換(([18:2+18:3]/[18:1+18:2+18:3])*100として計算されるパーセント基質変換))可能であることが判定された。第二に、FmD15は、ヤロウィア・リポリティカ(Y.lipolytica)において発現される場合、他の異種的に発現されたΔ15デサチュラーゼについて記載されたものに対し、非常に高いALAの合成を可能にする[すなわち、配列番号62をコードするキメラ遺伝子で形質転換されたヤロウィア・リポリティカ(Y.lipolytica)は、形質転換宿主細胞内での全脂肪酸に対し、ALAの31%の産物蓄積を示すことができ、それは([18:3]/[18:2+18:3]*100として計算された)83%のALAへの変換効率に相当する。]。例えば、非油性酵母サッカロミセス・セレビシエ(Sacchromyces cerevisiae)においてシー・エレガンス(C.elegans)Δ15デサチュラーゼを発現する場合でのALAの%産物蓄積が4.1%に過ぎなかった一方(Meesapyodsukら、Biochem.、39:11948−11954頁(2000年))、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)において西洋ナタネ(B.napus)Δ15デサチュラーゼを発現する場合でのALAの%産物蓄積は1.3%に過ぎなかった(Reed.D.W.ら、Plant Physiol.、122:715−720頁(2000年))。最後に、FmD15は、下流の18:2のω−6誘導体に対して比較的広範な基質特異性を有する。詳細には、Δ15デサチュラーゼは、GLAからSTA、DGLAからETA、およびARAからEPAへの変換を触媒可能である。
【0213】
FmD15の最適化の結果、配列番号64のFmD15S遺伝子内に示される、1209bpの中の135bpのコード領域(11.2%)が修飾され、128のコドン(31.8%)が最適化された。コドン最適化遺伝子によってコードされる得られたFmD15Sタンパク質配列(すなわち配列番号65)は野生型タンパク質配列(すなわち配列番号63)の場合に一致する。
【0214】
パルミチン酸塩からパルミトオレイン酸(16:1)および/またはステアリン酸からオレイン酸(18:1)への変換のためのΔ9デサチュラーゼをコードする少なくとも1つの遺伝子:
ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)CLIB122(GenBank登録番号XM_501496)のゲノム配列内部での遺伝子座タグYALI0C05951gは、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)Δ9デサチュラーゼとして同定される。YlD9は、配列番号66で示される1449bpのORFによってコードされる482個のアミノ酸(配列番号67)の酵素である。YlD9がYAT1プロモーターの制御下でヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)において過剰発現された時、形質転換体中のオイルは対照DNA断片で形質転換された宿主細胞内のオイルに対して約6%増加した。
【0215】
ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)におけるEPA生成に適するPUFA生合成経路酵素をコードする好ましいデサチュラーゼおよびエロンガーゼ遺伝子の配列が提示されるが、これらの遺伝子は限定的であることは意図されていない。本明細書における目的に適するPUFA生合成経路酵素をコードする極めて多数の他の遺伝子であれば、種々の供給源から単離され、例えば細菌、藻類、真菌、植物、動物などの天然源から単離され、半合成経路を介して生成されるかまたはデノボで合成されうる。さらに、代替酵素であれば、適切なデサチュラーゼまたはエロンガーゼ活性を有する野生型、コドン最適化、融合、合成および/または突然変異体酵素でありうる。これらの代替酵素であれば、1)LAをEDAおよび/またはALAをETrAに伸長し(Δ9エロンガーゼ)、2)EDAからDGLAおよび/またはETrAからETAへの変換を触媒し(Δ8デサチュラーゼ)、3)DGLAからARAおよび/またはETAからEPAへの変換を触媒し(Δ5デサチュラーゼ)、4)ARAからEPAおよび/またはDGLAからETAへの変換を触媒し(Δ17デサチュラーゼ)、5)オレイン酸からLAへの変換を触媒し(Δ12デサチュラーゼ)、6)C16基質を伸長し、C18産物を生成し(C
16/18エロンガーゼ)、7)LAからALAへの変換を触媒し(Δ15デサチュラーゼ)、ならびに/あるいは8)パルミチン酸塩からパルミトオレイン酸および/またはステアリン酸からオレイン酸への変換を触媒する(Δ9デサチュラーゼ)能力によって特徴づけられることになる。
【0216】
あるいは、表4に示されるデサチュラーゼおよびエロンガーゼと実質的に同一である他のDNAは、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)におけるEPAの生成に使用されうる。「実質的に同一」は、選択されるポリペプチドまたはアミノ酸配列をコードする核酸配列に対して少なくとも80%、90%もしくは95%の相同性を優位性が高まる順序で示すアミノ酸配列または核酸配列が意図されている。ポリペプチドにおいては、比較配列の長さは、一般的に少なくとも16個のアミノ酸、好ましくは少なくとも20個のアミノ酸または最も好ましくは35個のアミノ酸である。核酸においては、比較配列の長さは、一般的に少なくとも50個のヌクレオチド、好ましくは少なくとも60個のヌクレオチド、より好ましくは少なくとも75個のヌクレオチド、および最も好ましくは110個のヌクレオチドである。
【0217】
相同性は、典型的には配列分析ソフトウェアを使用して測定され、ここで用語「配列分析ソフトウェア」はヌクレオチドまたはアミノ酸配列の分析に有用な任意のコンピュータアルゴリズムまたはソフトウェアプログラムを示す。「配列分析ソフトウェア」は、市販されているかまたは独立に開発されている。典型的な配列分析ソフトウェアは、限定はされないが、1)一連のGCGプログラム(Wisconsin Package Version 9.0、Genetics Computer Group(GCG)(Madison,WI));2)BLASTP、BLASTN、BLASTX(Altschulら、J.Mol.Biol.、215:403−410頁(1990年));3)DNASTAR(DNASTAR,Inc.(Madison,WI));および4)Smith−Watermanアルゴリズムを組み込んだFASTAプログラム(W.R.Pearson,「Comput.Methods Genome Res.」[Proc.Int.Symp.](1994年)、Meeting Date 1992年、111−20頁、Suhai、Sandor編、Plenum:New York,NY)を含むことになる。この記述の中では、配列分析ソフトウェアが分析に使用される場合には常に、分析結果は、他に特に規定がなければ参照されるプログラムの「デフォルト値」に基づくものである。本明細書で使用される「デフォルト値」は、最初に初期化される場合に最初にソフトウェアに読み込まれる任意の値またはパラメータのセットを意味することになる。一般的に、かかるコンピュータソフトウェアは、様々な置換、欠失、および他の修飾に対して様々な相同度を割り当てることによって類似配列に一致する。
【0218】
他のDNAは、表4中に提示される好ましいデサチュラーゼおよびエロンガーゼに対して実質的に同一でないが、前記代替デサチュラーゼおよびエロンガーゼが上記の好ましいデサチュラーゼおよびエロンガーゼと実質的に同様に機能する場合、本明細書における目的のためにさらに使用されうる。
【0219】
当業者であれば二機能性または三機能性活性を有するキメラ融合タンパク質を作製できると考えられる。したがって、エロンガーゼおよびデサチュラーゼ活性の双方(例えば、2008年4月3日に出願された米国特許出願第12/061738号明細書に記載のΔ9エロンガーゼ−Δ8デサチュラーゼ遺伝子融合体);二または三機能性エロンガーゼ活性(例えばC
16/18エロンガーゼ−Δ9エロンガーゼ遺伝子融合体);または二または三機能性デサチュラーゼ活性(例えばΔ5デサチュラーゼ−Δ12デサチュラーゼ遺伝子融合体)を有するキメラ融合タンパク質が作製されうると思われる。例えば、本明細書における目的に適するΔ12デサチュラーゼおよびΔ5デサチュラーゼ活性の双方を有するキメラ融合タンパク質が、Δ12デサチュラーゼおよびΔ5デサチュラーゼを共に隣接するリンカーと融合することによって合成されうると思われる。Δ12デサチュラーゼまたはΔ5デサチュラーゼのいずれかであれば、融合タンパク質のN末端部分に存在しうる。適切なリンカー分子を設計し、合成するための手段は当業者によって容易に理解され、例えばリンカーはアラニンまたはリジンアミノ酸のストレッチであり得、かつ融合酵素の活性に作用しないことになる。共に融合されうる好ましいデサチュラーゼおよびエロンガーゼ遺伝子であれば、上の表4に記載のものから選択されることになる。
【0220】
最後に、配列を合成しかつ配列を共に接合するための方法は文献において十分に確立されていることは当該技術分野で周知である。したがって、インビトロでの突然変異誘発および選択、部位特異的突然変異誘発、化学的突然変異誘発、「遺伝子シャッフリング」の方法または他の手段を用い、天然デサチュラーゼおよび/またはエロンガーゼ遺伝子の変異、例えば表4に記載のものが得られうる。これを仮定すると、宿主細胞内で機能するためのより望ましい物理学的および動力学的パラメータ(例えば所望されるPUFAの生成のより長い半減期またはより高い速度)を伴う、インビボでのデサチュラーゼまたはエロンガーゼ活性をそれぞれ有するポリペプチドの生成が可能となる。
【0221】
最適化されたEPA生合成のためのジアシルグリセロールコリンホスホトランスフェラーゼの発現
例えば全脂質中で25%超のEPAを生成する能力を有する、本明細書中に記載の最適化された組換えヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)株は、最低限、Δ9エロンガーゼ、Δ8デサチュラーゼ、Δ5デサチュラーゼ、Δ17デサチュラーゼ、Δ12デサチュラーゼおよびC
16/18エロンガーゼを含む。しかし、それらデサチュラーゼおよびエロンガーゼに加え、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)の好ましい株は、ジアシルグリセロールコリンホスホトランスフェラーゼ[「CPT1」]をコードする少なくとも1つの遺伝子をさらに含む。
【0222】
ジアシルグリセロールコリンホスホトランスフェラーゼ(EC2.7.8.2)は、ホスファチジルコリン生合成に関与するCDP−コリン経路内部の次の反応、すなわちCDP−コリン+1,2−ジアシルグリセロール=シチジン−5’−一リン酸(CMP)+ホスファチジルコリンを触媒する酵素である。ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)のジアシルグリセロールコリンホスホトランスフェラーゼ(YlCPT1)はGenBank登録番号XM_501703(YALI0C10989g)として示され、394個のアミノ酸(配列番号69)のこの酵素は配列番号68の1185bpのコード配列によってコードされる。国際公開第2006/052870号パンフレット中に前述のように、強力なヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)プロモーターの制御下でのYlCPT1の過剰発現が、天然YlCPT1が過剰発現されない親株と比較し、EPA生成株中で全脂肪酸に対するEPAの百分率の増加をもたらすことが示された。
【0223】
最適化されたEPA株中での好ましい遺伝子ノックアウト
組換えヤロウィア属(Yarrowia sp.)において、様々な好ましいデサチュラーゼ、エロンガーゼおよびジアシルグリセロールコリンホスホトランスフェラーゼ遺伝子(上記)の発現の調節に加え、様々な天然酵素活性が同時に欠如することが有用でありうる。これは、線形DNAの宿主のゲノムへの組み込みの間になされる標的化遺伝子ノックアウトによって行われることが多い。当然のことながら、好ましいノックアウトは、形質転換体(例えば、オロチジン−5’−リン酸デカルボキシラーゼ[Ura3−]、サッカロピンデヒドロゲナーゼ[Lys5−]、イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼ[Leu2−])および脂肪酸分解およびTAG分解を低減するもの(例えば、アシル−CoAオキシダーゼアイソザイム[POX1−、Pox2−、Pox3−、Pox4−およびPOX5−]、リパーゼ[Lip1−、Lip2−、Lip3−、Lip4a−])の選択にとって有用なものを含む。他の好ましい遺伝子ノックアウトは表現型的に「中立の」突然変異をもたらすように見られるものであり、ここでヤロウィア(Yarrowia)宿主細胞は作用を受けないように思われる(例えば、YALI0F24167g[GenBank登録番号XM_505819]、YALI0C18711g−[GenBank登録番号XP_501987]、SCP2−[YALI0E01298g;GenBank登録番号XM_503410])。それに対し、一部の好ましい遺伝子ノックアウトが、全脂肪酸のパーセントとして全オイル含量および/またはEPAの増加をもたらすことが示されている(例えば、ジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ2[DGAT2−]、ペルオキシソーム生合成因子タンパク質3[Pex3p−]、ペルオキシソーム生合成因子タンパク質10[Pex10p−]、ペルオキシソーム生合成因子タンパク質16[Pex16p−])。遺伝子ノックアウトのこれらの広範なカテゴリの各々は、下記にさらに詳細に記述されることになる(ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)Δ12デサチュラーゼのノックアウトの有用性については下記に再び記述されることはなく、というのはこの理由はフザリウム・モニリフォルメ(F.moniliforme)Δ12デサチュラーゼの説明中に予め提示された)。
【0224】
特定の遺伝子における下記に提供される典型的な配列番号にもかかわらず、遺伝子ノックアウトについての考察が本明細書中に提供される特定の配列に決して限定されないことに着目することは重要である。下記のコード配列に対して実質的に同一な他のDNAが有用でありうる(したがって、例えば異なる株および宿主の間でのわずかな配列の変異が想定されるべきである)ことは当該技術分野で周知である。
【0225】
形質転換体の選択のための遺伝子ノックアウト:
PCT公開の国際公開第2006/052870号パンフレット中に前述のように、発現カセットを含むプラスミドDNAを、オロチジン−5’−リン酸デカルボキシラーゼ遺伝子座(Ura3;GenBank登録番号AJ306421[配列番号70])、イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼ遺伝子座(Leu2;GenBank登録番号AF260230[配列番号72])およびサッカロピンデヒドロゲナーゼ遺伝子座(Lys5;GenBank登録番号M34929[配列番号74])に組み込むことは可能である。典型的には、この結果、組み込み遺伝子座で遺伝子ノックアウトがもたらされ、それは、ウラシル、ロイシンまたはリジンが欠如した培地上で成長するその能力に基づき、形質転換細胞と非形質転換細胞とを区別するための手段として容易に用いられうる。
【0226】
一部の好ましい方法では、Ura3遺伝子は、5−フルオロオロチン酸(5−フルオロウラシル−6−カルボキシル酸一水和物または「5−FOA」)の選択と組み合わせて繰り返し使用されうる。5−FOAは、オロチジン5’−一リン酸デカルボキシラーゼ(OMPデカルボキシラーゼ)をコードする機能性URA3遺伝子を有する酵母細胞に対して毒性を示す。この毒性に基づき、5−FOAはUra−突然変異酵母株の選択および同定にとって特に有用である(Bartel P.L.およびFields S.、Yeast 2−Hybrid System、Oxford University(New York)、第7巻、109−147頁、1997年)。より詳細には、最初に天然Ura3遺伝子をノックアウトし、Ura−表現型を有する株を生成でき、ここでは選択が5−FOA耐性に基づいて行われる。次いで、複数のキメラ遺伝子のクラスタおよび新しいUra3遺伝子であれば、ヤロウィア(Yarrowia)ゲノムの異なる遺伝子座に組み込まれ、それによりUra+表現型を有する新しい株が生成されうる。その後の組み込みにより、導入されたUra3遺伝子がノックアウトされる場合、(5−FOAの選択を使用して再び同定された)新しいUra3−株が生成されることになる。したがって、Ura3遺伝子は(5−FOAの選択と組み合わせて)複数回の形質転換で選択マーカーとして使用可能であり、それにより手軽な方法でヤロウィア(Yarrowia)ゲノムへの遺伝子組換えの組み込みが容易に可能である。
【0227】
脂肪酸およびTAGの分解を低減するための遺伝子ノックアウト:
本明細書中に記載の最適化されたヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)において(例えば様々な発現カセットを細胞に組み込む場合)脂肪酸分解およびTAG分解に作用する経路を意図的に破壊することも有用である。これはアシル−CoAプールまたは細胞のTAG画分のいずれかの中での蓄積されたEPAの分解を最小化する(PCT公開の国際公開第2006/052870号パンフレット)。これらの経路は、それぞれアシル−CoAオキシダーゼおよびリパーゼ遺伝子によって表される。より詳細には、アシル−CoAオキシダーゼ(EC1.3.3.6)はペルオキシソームβ酸化反応を触媒し、ここで分解の各サイクルでは、脂肪酸基質より2個の炭素原子分短いアセチル−CoA分子および脂肪酸が得られる。5つのアシル−CoAオキシダーゼアイソザイムが、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)において存在し、POX1、POX2、POX3、POX4およびPOX5遺伝子(Aco1、Aco2、Aco3、Aco4およびAco5遺伝子としても知られる)(それぞれGenBank登録番号AJ001299−AJ001303に対応)(対応するGenBank登録番号XP_504703[配列番号75]、XP_505264[配列番号76]、XP_503244[配列番号77]、XP_504475[配列番号78]およびXP_502199[配列番号79]も参照)によってコードされる。アイソザイムの各々は異なる基質特異性を有する。例えば、POX3遺伝子は、短鎖脂肪酸に対して活性があるアシル−CoAオキシダーゼをコードする一方、POX2遺伝子はより長鎖の脂肪酸に対して活性があるアシル−CoAオキシダーゼをコードする(Wang H.J.ら、J.Bacteriol.、181:5140−5148頁(1999年))。何らかの混乱を回避するため、出願人は上記のアシル−CoAオキシダーゼをPOX遺伝子と称することになるが、この用語は、一部の一般に公開されている文献によると、命名のAco遺伝子と同義に使用されうる。
【0228】
同様に、細胞内、膜結合および細胞外酵素を含むいくつかのリパーゼ(EC3.1.1.3)が、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)において検出されている(Choupina A.ら、Curr.Genet.、35:297頁(1999年);Pignede G.ら、J.Bacteriol.、182:2802−2810頁(2000年))。例えば、Lip1(GenBank登録番号Z50020[配列番号80])およびLip3(GenBank登録番号AJ249751[配列番号84])が細胞内または膜結合である一方、Lip2(GenBank登録番号AJ012632[配列番号82])は細胞外リパーゼをコードする。Lip4a(GenBank登録番号XP_503825[配列番号86])はヤロウィア(Yarrowia)リパーゼ4(GenBank登録番号XP_503697)相同体である。それはカンジダ・デフォルマンス(Candida deformans)の細胞外トリアシルグリセロールリパーゼ(GenBank登録番号CAD21430)と高い相同性を有する。これらリパーゼの各々は、酵素がTAGおよび水がDAGおよび脂肪酸アニオンまで直接分解される反応を触媒することから破壊のための適切な標的である。
【0229】
したがって、PCT公開の国際公開第2006/052870号パンフレット中に前述のように、発現カセットを含むプラスミドDNAを、次の遺伝子座、すなわちPox1(Aco1)、Pox2(Aco2)、Pox3(Aco3)、Pox4(Aco4)、Pox5(Aco5)、Lip1、Lip2、Lip3およびLip4aのいずれかに組み込み、それにより遺伝子ノックアウトをもたらすことは有利である。
【0230】
他の遺伝子ノックアウト:
ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)における相同組換えの頻度が比較的低いことから、発現カセットのヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)のゲノムへの組み込みが時として生じ、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)遺伝子で最初に標的化されたもの以外を意図せずに破壊しうる。これは、形質転換体中でのEPA生成の促進についてスクリーニングし、さらなる有用な遺伝子ノックアウトを同定するのを可能にする。次の3つのノックアウトならびに下記のPex10−ノックアウトがこれらの手段によって同定された。
【0231】
ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)SCP2(YALI0E01298g[配列番号87])は、脂質の輸送および代謝に関与するステロール担体タンパク質をコードする(Ferreyra R.G.ら、Arch.Biochem.Biophys.、453:197−206頁(2006年))。SCP2タンパク質がペルオキシソームに局在化し、酵素と基質の相互作用を促進することによって長鎖脂肪酸の酸化に関与することが示唆される。SCP2は、脂肪酸およびそのCoAエステルの双方に結合することが示されている。したがって、この遺伝子を破壊し、EPAおよび経路の他の中間体の酸化のレベルを低下させることは有益でありうる。本明細書中の実施例においては、SCP2−ノックアウトが株Y4305中で同定された。
【0232】
ORF YALI0C18711g(GenBank登録番号XP_501987[配列番号89])はまた、その翻訳開始コドン内部への発現カセットの挿入時、遺伝子破壊に耐性があることが見出された。YALI0C18711gは、サッカロミセス・セレビシエ(Sacchromyces cerevisiae)遺伝子YLR050C(その遺伝子の機能は未知である)に対して相同である。GFPおよびYLR050Cからなるキメラタンパク質は小胞体領域に局在化することが示されたが(Huh W.K.ら、Nature、425(6959):686−691頁(2003年))、それは脂肪酸の脱飽和または脂質の生成に関連しうることを示唆している。本明細書中の実施例においては、YALI0C18711g−ノックアウトが株Y4217中で最初に同定された。
【0233】
時として、発現カセットの組み込みは、その特定のコード配列の前(5’非コード配列)および後(3’非コード配列)の調節配列内部以外の遺伝子のコード領域の外側で生じる。このタイプの挿入はORFの発現に作用しうる。本出願では、発現カセットは、開始コドンの154bp上流の、株Y4086におけるYALI0F24167g(GenBank登録番号XM_505819[配列番号91])の5’領域に挿入された。YALI0F24167gは、(正確な機能は不明確であるが)胞子形成の間に発現されるように見られるサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)SPS4遺伝子に対して相同である(Hepworth S.R.ら、Mol.Cell.Biol.、15(7):3934−3944頁(1995年))。
【0234】
ジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ遺伝子ノックアウト:
TAGの生合成におけるアシルトランスフェラーゼの密接な関与および4つの真核生物のアシルトランスフェラーゼ遺伝子ファミリーについては、PCT公開の国際公開第2006/052870号パンフレットに記載されている。これらは、一般的にステロールアシルトランスフェラーゼ;レシチン:コレステロールアシルトランスフェラーゼ[「LCAT」]ファミリー;グリセロール−3−リン酸アシルトランスフェラーゼおよびアシル−CoAリソホスファチジン酸アシルトランスフェラーゼ[「GPAT/LPAAT」]ファミリー;およびジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ[「DAG AT」]ファミリーとして知られるアシル−CoA:コレステロールアシルトランスフェラーゼ[「ACAT」]ファミリーを含む。また、D.SorgerおよびG.Daum、Appl.Microbiol.Biotechnol.、61:289−299頁(2003年)ならびにH.MuellnerおよびG.Daum、Acta Biochimica Polonica、51(2):323−347頁(2004年)による引用される概説を参照のこと。DGAT2を含むDAG ATファミリー(EC2.3.1.20)はTAG生合成の最終ステップに関与し、詳細には酵素は第3の脂肪酸の1,2−ジアシルグリセロール[「DAG」]のsn−3位置への付加を触媒し、TAGを形成する。
【0235】
DGAT1(PCT公開の国際公開第2006/052914号パンフレットにおいて特徴づけられる)、DGAT2(配列番号93および94;米国特許第7,267,976号明細書において特徴づけられる)およびPDAT(米国特許第7,267,976号明細書において特徴づけられる)をコードする天然ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)遺伝子のノックアウトについてはPCT公開の国際公開第2006/052870号パンフレットに記載されている(その中の実施例29および30を参照)。詳細には、破壊されたDGAT2および/またはDGAT1および/またはPDAT遺伝子を含む株において全オイル含量が減少し、かつパーセントEPAが増加することが見出された。例えば、DGAT2のノックアウトの結果、天然DGAT2が破壊されていない親株に対し、(全脂肪酸[「TFA」]の)%EPAが2倍になり、かつ(%乾燥細胞重量のTFAとして)脂質含量が半分になった。PCT公開の国際公開第2006/052912号パンフレットにおいて詳述されるように、さらなる実験により、宿主生物の天然DAG ATの活性を調節でき、それにより宿主の脂質およびオイル内部のPUFAのパーセントを操作可能であるという仮説が導かれた。詳細には、オイル生合成がオレアジニー(oleaginy)の間に多価不飽和と競合することが想定されることから、生物の1種以上のアシルトランスフェラーゼ(例えばPDATおよび/またはDGAT1および/またはDGAT2)の活性を低下または不活性化させ、それによりオイル生合成の全体レートを減少させると同時に、脂質およびオイル画分に取り込まれた(全脂肪酸に対する)PUFAのパーセントを増加させることが可能である。多価不飽和がより効率的にまたは換言すれば特定のDAG ATの活性のダウンレギュレーションによって生じうることからこれが生じ、オイル生合成および多価不飽和の間での基質の競合がオレアジニー(oleaginy)の間に多価不飽和故に低下する。
【0236】
上でまとめられたデータに基づき、組換えヤロウィア(Yarrowia)生成宿主にとってDGAT2をコードするその天然遺伝子(配列番号93)が欠如することが望ましい場合がある。
【0237】
ペルオキシソーム生合成因子タンパク質(PEX)遺伝子ノックアウト:
ペルオキシソームは、すべての真核細胞内で見出される遍在オルガネラである。その主要な役割は、細胞の局在化オルガネラ内部の様々な物質、例えば毒性化合物、脂肪酸などの分解である。例えば、脂肪酸分子が分解され、最終的にアセチル−CoAの遊離分子(これらは細胞質ゾルに再び輸送される)を生成するβ酸化のプロセスがペルオキシソーム内で生じうる。ミトコンドリア内でのβ酸化のプロセスがATP合成をもたらすが、ペルオキシソーム内でのβ酸化が高電位電子のO
2への移動を引き起こし、H
2O
2の形成をもたらし、それはその後にペルオキシソームカタラーゼによって水およびO
2に変換される。C
18〜C
22などの非常に長い鎖の脂肪酸がペルオキシソーム内で初期のβ酸化、その後にミトコンドリアβ酸化を受ける。
【0238】
ペルオキシソーム膜を介したATP加水分解によるタンパク質の取り込みに関与するタンパク質は、ペルオキシソーム生合成因子タンパク質または「ペルオキシン」として知られる。これらのペルオキシソーム生合成因子タンパク質はまた、ペルオキシソーム生合成/構築に関与するタンパク質を含む。ペルオキシソーム生合成因子タンパク質における遺伝子の頭文字はPexであり、命名法はDistelら、J.Cell Biol.、135:1−3頁(1996年)に記載されている。これまで少なくとも32の異なるPex遺伝子が様々な真核生物において同定されている。しかし、真菌においては、Kielら(Traffic、7:1291−1303頁(2006年))の最近の概説は、ペルオキシソーム生合成/マトリックスタンパク質の取り込みのための最低限の要件は17と番号付けられ、それ故にPex1p、Pex2p、Pex3p、Pex4p、Pex5p、Pex6p、Pex7p、Pex8p、Pex10p、Pex12p、Pex13p、Pex14p、Pex17p、Pex19p、Pex20p、Pex22pおよびPex26pのみが必要とされることを示唆している。これらのタンパク質は、調整された方法で作用し、ペルオキシソームの増殖(複製)およびペルオキシソームへの転位置を介するタンパク質取り込みを行う(Waterham H.R.およびJ.M.Cregg.BioEssays、19(1):57−66頁(1996年)中に概説されている)。
【0239】
酵母ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)内で、種々の異なるPex遺伝子が相同性およびペルオキシソーム生合成機構の強力な保存(Kielら、上記)に基づいて同定されており、それらにはYlPex1p(GenBank登録番号CAG82178[配列番号95])、YlPex2p(GenBank登録番号CAG77647[配列番号96])、YlPex3p(GenBank登録番号CAG78565[配列番号97])、YlPex3Bp(GenBank登録番号CAG83356[配列番号98])、YlPex4p(GenBank登録番号CAG79130[配列番号99])、YlPex5p(GenBank登録番号CAG78803[配列番号100])、YlPex6p(GenBank登録番号CAG82306[配列番号101])、YlPex7p(GenBank登録番号CAG78389[配列番号102])、YlPex8p(GenBank登録番号CAG80447[配列番号103])、YlPex10p(GenBank登録番号CAG81606[配列番号104])、YlPex12p(GenBank登録番号CAG81532[配列番号105])、YlPex13p(GenBank登録番号CAG81789[配列番号106])、YlPex14p(GenBank登録番号CAG79323[配列番号107])、YlPex16p(GenBank登録番号CAG79622[配列番号108])、YlPex17p(GenBank登録番号CAG84025[配列番号109])、YlPex19p(GenBank登録番号AAK84827[配列番号110])、YlPex20p(GenBank登録番号CAG79226[配列番号111])、YlPex22p(GenBank登録番号CAG77876[配列番号112])およびYlPex26p(GenBank登録番号NC_006072、ヌクレオチド117230−118387[配列番号113]のアンチセンス翻訳)が含まれる。さらに、これら遺伝子の一部もまた単離され、特徴づけられている。Bascom R.A.ら(Mol.Biol.Cell、14:939−957頁(2003年))はYlPex3pについて記載し、Szilard R.K.ら(J.Cell Biol.、131:1453−1469頁(1995年))はYlPex5pについて記載し、Nuttley W.M.ら(J.Biol.Chem.、269:556−566頁(1994年))はYlPex6pについて記載し、Elizen G.A.ら(J.Biol.Chem.、270:1429−1436頁(1995年))はYlPex9pについて記載し、Elizen G.A.ら(J.Cell Biol.、137:1265−1278頁(1997年))およびTitorenko V.I.ら(Mol.Cell Biol.、17:5210−5226頁(1997年))はYlPex16pについて記載し、Lambkin G.R.およびR.A Rachubinski(Mol.Biol.Cell.、12(11):3353−3364頁(2001年))はYlPex19について記載し、またTitorenkoV.I.ら(J.Cell Biol.、142:403−420頁(1998年))およびSmith J.J.およびR.A.Rachubinski(J.Cell Biol.、276:1618−1625頁(2001年))はYlPex20pについて記載している。しかし、YlPex10p(GenBank登録番号CAG81606、登録番号AB036770および登録番号AJ012084)が本明細書中の当初の目的であった。Sumitaら(FEMS Microbiol.Lett.、214:31−38頁(2002年))での特徴づけによると、1)YlPex10pがペルオキシソームの成分として機能し、かつ2)YlPex10pのC
3HC
4ジンクリングフィンガーモチーフがタンパク質の機能にとって必須であることが示され、それはC341S、C346SおよびH343W点突然変異の生成とそれに続く成長の分析を介して判定された。
【0240】
ペルオキシソームが異化および同化での脂質代謝の双方にとって必要とされることが示唆されているが(Lin Y.ら、Plant Physiology、135:814−827頁(2004年))、この仮説はPex16pの相同体を用いる試験に基づくものであった。より具体的には、Lin Y.ら(上記)は、アラビドプシス(Arabidopsis)Shrunken Seed 1(sse1)突然変異体が、sse1種における野生型の約10〜16%へのオイルの低下に基づき、異常なペルオキシソーム生合成および脂肪酸合成の双方を有することを報告した。それに関し、Binns D.ら(J.Cell Biol.、173(5):719−731頁(2006年))は、サッカロミセス・セレビシエ(Sacchromyces cerevisiae)におけるペルオキシソーム−脂質体相互作用について検討し、2つのオルガネラ間での広域の物理的接触が、脂質体内部でのリポリーシスのペルオキシソーム脂肪酸酸化との共役を促進することを判定した。より詳細には、遊離脂肪酸対TAGの比が様々なPexノックアウトにおいて検討され、野生型に対して増加することが見出された。しかし、Pexノックアウトを使用する試験は、出願人の譲受人による研究に先立ち、PUFAを生成する生物において過去に実施されていなかった。
【0241】
本明細書中に記載の一部の好ましい組換えヤロウィア(Yarrowia)生成宿主においては、宿主は、Pex1p、Pex2p、Pex3p、Pex3Bp、Pex4p、Pex5p、Pex5Bp、Pex5Cp、Pex5/20p、Pex6p、Pex7p、Pex8p、Pex10p、Pex12p、Pex13p、Pex14p、Pex15p、Pex16p、Pex17p、Pex14/17p、Pex18p、Pex19p、Pex20p、Pex21p、Pex21B、Pex22p、Pex22p様およびPex26pからなる群から選択されるペルオキシソーム生合成因子タンパク質をコードする天然遺伝子が欠如している。より好ましい破壊されたペルオキシソーム生合成因子タンパク質はPex2p、Pex10pおよび/またはPex12pであり、ここでこれら3つのPexタンパク質すべては、それらのC末端近傍にそれらの活性にとって必要とされることが予測される類似のC
3HC
4ジンクリングフィンガーモチーフを有する(
図2A)。あるいは、破壊されたペルオキシソーム生合成因子タンパク質は、Pex3p、Pex10pおよびPex16pからなる群から選択される。
【0242】
ペルオキシソーム生合成因子タンパク質をコードする天然遺伝子の破壊は、遺伝子の一部の内部、例えばタンパク質のN末端部分の内部またはタンパク質のC末端部分の内部での挿入、欠失、または標的化突然変異でありうる。あるいは、破壊の結果、完全な遺伝子ノックアウトが遺伝子が宿主細胞ゲノムから除去される程度に生じうる。あるいは、破壊は、場合により、非機能的タンパク質をもたらす標的化突然変異でありうる。いずれの場合でも、破壊は、天然ペルオキシソーム生合成因子タンパク質が破壊されていない親株に対し、組換えヤロウィア(Yarrowia)生成宿主の全脂質画分中およびオイル画分中で、全脂肪酸のパーセントとしてのPUFAの量の増加をもたらす。
【0243】
下記、実施例に示され、また表5にまとめられるように、YlPex10pのC
3HC
4ジンクリングフィンガーモチーフのC末端部分における破壊(実施例4および5)または全染色体YlPex10遺伝子の欠失(実施例8)の双方により、天然Pex10pが破壊されていない親株に対し、全脂質画分中およびオイル画分中で全脂肪酸のパーセントとしてPUFAの増加量を有するヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)の改変EPA生成株が得られた。さらに、ゲノムPex10p内での破壊を有する、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)の改変EPA生成株における染色体外YlPex10pの発現および全脂質画分中およびオイル画分中でのPUFAの量の増加により、効果が失われた(実施例6)。
【0244】
より詳細には、表5は、Pex10pの破壊またはノックアウトの存在または不在に基づき、全脂質含量[「TFA%DCW」]、所与の脂肪酸の全脂肪酸の重量パーセント[「%TFA」]として表される濃度、および所与の脂肪酸の乾燥細胞重量のそのパーセント[「%DCW」]としての含量に関する傾向が推定されうるように、実施例4、5、6および8の中に含められるデータをまとめたものである。「所望されるPUFA%TFA」および「所望されるPUFA%DCW」は、改変されたPUFA生合成経路が生成するように設計された所望されるPUFA産物(すなわちEPA)の特定の濃度または含量をそれぞれ定量化する。「全PUFA」は、LA、ALA、EDA、DGLA、ETrA、ETAおよびEPAを含む一方、「C20PUFA」はEDA、DGLA、ETrA、ETAおよびEPAに限定される。
【0246】
次の結論が、(天然Pexタンパク質が破壊されていない親株または破壊された天然Pexタンパク質の「置換」コピーを発現していた親株に対して)導かれうる。すなわち、
1)PUFAを生成するヤロウィア(Yarrowia)におけるPexの破壊により、全脂質画分中およびオイル画分中で全脂肪酸の重量パーセント(%TFA)に対する単一のPUFA、例えばEPAまたはDLGAの重量パーセントの増加がもたらされ、
2)PUFAを生成するヤロウィア(Yarrowia)におけるPexの破壊により、全脂質画分中およびオイル画分中で全脂肪酸の重量パーセントに対するC
20PUFAの重量パーセントの増加がもたらされ、
3)ポイント1)を拡張し、PUFAを生成するヤロウィア(Yarrowia)におけるPexの破壊により、全脂質画分中およびオイル画分中で全脂肪酸の重量パーセントに対するあらゆる組み合わせのPUFAの量の増加がもたらされ、かつ
4)PUFAを生成するヤロウィア(Yarrowia)におけるPexの破壊により、乾燥細胞重量に対する単一のPUFA、例えばEPAまたはDLGAのパーセントの増加がもたらされる。
【0247】
「全PUFA%DCW」、「C20PUFA%DCW」およびTFA%DCWにおけるPexの破壊の効果を比較する場合、様々な結果が認められる。詳細には、場合によっては、PUFAを生成するヤロウィア(Yarrowia)におけるPexの破壊により、(天然Pexタンパク質が破壊されていない親株に対する)全脂質画分中およびオイル画分中で乾燥細胞重量のパーセントとしてのC
20PUFAまたは全PUFAの量の増加がもたらされる。他の場合、(天然Pexタンパク質が破壊されていない親株に対する)全脂質画分中およびオイル画分中で乾燥細胞重量のパーセントとしてのC
20PUFAまたは全PUFAの量が減少する。全脂質含量(TFA%DCW)については、Pexの破壊の効果が全脂質含量の増加または減少をいずれかもたらしうる点で同様の結果が認められる。
【0248】
ペルオキシソーム生合成因子タンパク質の、細胞内部の調整された機能性と作用する能力に基づき、任意の特定の説明または理論に拘束されたくないが、油性酵母細胞内部でのPex遺伝子の破壊またはノックアウトが、ペルオキシソーム内で天然に生じるかまたはペルオキシソームによる作用を受ける異化および同化での脂質代謝の双方に作用すると仮定される。破壊またはノックアウトにより、天然ペルオキシソーム生合成因子タンパク質が破壊されていない油性酵母に対し、全脂肪酸のパーセントとしての全脂質画分中およびオイル画分中でのPUFAの量の増加がもたらされる。場合によっては、乾燥細胞重量のパーセントとしての全脂質画分中およびオイル画分中でのPUFAの量の増加、および/または乾燥細胞重量のパーセントとしての全脂質含量の増加もまた認められる。この一般化機構は、すべての真核生物、例えば藻類、真菌、卵菌、酵母、鞭毛虫、ストラメノパイル、植物および一部の哺乳動物系の内部に、すべてがペルオキシソームを含むことから適用可能であると仮定される。
【0249】
遺伝子ノックアウトのための破壊方法
当業者にとって、Ura3、Lys5、Leu2、Pox1、Pox2、Pox3、Pox4、Pox5、Lip1、Lip2、Lip3、Lip4a、YALI0F24167g、YALI0C18711g、SCP2[YALI0E01298g]、DGAT2、Pex1p、Pex2p、Pex3p、Pex3BpPex4p、Pex5p、Pex5Bp、Pex5Cp、Pex5/20p、Pex6p、Pex7p、Pex8p、Pex10p、Pex12p、Pex13p、Pex14p、Pex15p、Pex16p、Pex17p、Pex14/17p、Pex18p、Pex19p、Pex20p、Pex21p、Pex21B、Pex22p、Pex22p様、Pex26pおよびΔ12デサチュラーゼからなる群から選択される天然ヤロウィア(Yarrowia)遺伝子の破壊を行うための極めて多数の技術が利用可能であるが、一般的に特定の遺伝子の内因性活性は、次の技術、例えば、1)標的遺伝子の全部または一部の挿入、置換および/または欠失を介する遺伝子の破壊、または2)タンパク質の発現を制御する調節配列の操作、によって低下または除去されうる。これら技術の双方は下記に簡単に説明されるが、当業者であれば、これらが既存の文献において十分に記載がなされており、本明細書中に記載の方法、宿主細胞、および産物が限定されないことを理解するであろう。当業者はまた、任意の特定の油性酵母での使用にとって最適な技術を理解するであろう。
【0250】
挿入、置換および/または欠失を介する破壊:
遺伝子破壊においては、外来DNA断片(典型的には選択可能マーカー遺伝子であるが、場合により発現時に所望の表現型を伝えるキメラ遺伝子またはキメラ遺伝子クラスタ)が標的化遺伝子にそのコード領域またはプロモーター配列を中断するために挿入され、そ
れにより遺伝子を機能的に不活性化する。破壊カセットの宿主細胞への形質転換の結果、外来DNA断片との相同組換えによって機能的天然遺伝子の置換が行われる(例えば、Hamiltonら、J.Bacteriol.、171:4617−4622頁(1989年);Balbasら、Gene、136:211−213頁(1993年);Gueldenerら、Nucleic Acids Res.、24:2519−2524頁(1996年);およびSmithら、Methods Mol.Cell.Biol.、5:270−277頁(1996年)を参照)。当業者は、陽性または陰性選択、遺伝子ノックアウトの作製、ならびに外因性DNA配列の、例えば哺乳動物系、植物細胞、糸状真菌および/または微生物系における特定のゲノム部位への挿入を可能にする、遺伝子標的化の一般的方法の多数の変形を理解するであろう。この方法は、出願人によっては、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)において遺伝子破壊をもたらすための手段として好ましい(例えば、Leu−およびUra−をコードする天然遺伝子が、上記の手段を介し、本明細書中の実施例における様々な高EPA生成組換え株中で破壊された)。
【0251】
しかし、上記のように、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)は比較的低頻度の相同組換えを示し、それ故、発現カセットは、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)のゲノムの、ベクター内部に標的化遺伝子座が存在するにしても当初の標的化される位置以外に挿入されることが多い。この結果、本明細書中に示されるように、ランダムなヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)遺伝子の破壊が、例えばYALI0C18711g、SCP2およびPex10pをコードする天然遺伝子の破壊によってなされうる。
【0252】
遺伝子破壊の他の非特異的な方法は、転位因子またはトランスポゾンの使用である。トランスポゾンはランダムにDNAに挿入する遺伝要素であるが、後に配列に基づく検索によって挿入の遺伝子座が判定されうる。インビボおよびインビトロでの転位技術の双方は既知であり、転位因子のトランスポーゼースとの併用を含む。転位因子またはトランスポゾンがトランスポーゼースの存在下で核酸断片と接触される場合、転位因子は核酸断片にランダムに挿入することになる。破壊された遺伝子が転位因子の配列に基づいて同定されうることから、この技術はランダム突然変異誘発および遺伝子単離にとって有用である。インビトロ転位のためのキットは市販されており、1)酵母Ty1因子に基づく、Perkin Elmer Applied Biosystems(Branchburg,NJ)から入手可能なPrimer Island Trandposition Kit、2)細菌性トランスポゾンTn7に基づく、New England Biolabs(Beverly,MA)から入手可能なGenome Primimg System、および3)Tn5細菌転位因子に基づく、Epicentre Technologies(Madison,WI)から入手可能なEZ::TN Transposon Insertion Systemsを含む。
【0253】
調節配列の操作:
特定の遺伝子の内因性活性はまた、タンパク質の発現を制御する調節配列の操作によって低下または除去されうる。当該技術分野で周知のように、コード配列に関連した調節配列は、コード配列の上流(5’非コード配列)、内部、または下流(3’非コード配列)に位置する転写および翻訳「制御」ヌクレオチド配列を含み、関連コード配列の転写、RNAプロセシングまたは安定性、または翻訳に影響を与える。したがって、遺伝子の調節配列の操作は、特定の遺伝子の遺伝子プロモーター、サイレンサー、5’未翻訳リーダー配列(転写開始部位と翻訳開始コドンの間)、イントロン、エンハンサー、開始制御領域、ポリアデニル化認識配列、RNAプロセシング部位、エフェクター結合部位およびステムループ構造の操作を示しうる。しかし、すべての場合、操作の結果は遺伝子の発現のダウンレギュレーションである。
【0254】
したがって、例えば、YALI0F24167gとして同定されたヤロウィア(Yarrowia)ORFのプロモーターは、本明細書中に記載の最適化された高EPA生成株の一部において破壊された。同様の操作であれば、Ura3、Lys5、Leu2、Pox1、Pox2、Pox3、Pox4、Pox5、Lip1、Lip2、Lip3、Lip4a、YALI0C18711g、SCP2[YALI0E01298g]、DGAT2、Pex1p、Pex2p、Pex3p、Pex3BpPex4p、Pex5p、Pex5Bp、Pex5Cp、Pex5/20p、Pex6p、Pex7p、Pex8p、Pex10p、Pex12p、Pex13p、Pex14p、Pex15p、Pex16p、Pex17p、Pex14/17p、Pex18p、Pex19p、Pex20p、Pex21p、Pex21B、Pex22p、Pex22p様、Pex26pおよび/またはΔ12デサチュラーゼをコードするヤロウィア(Yarrowia)遺伝子に対応する調節配列内部で行われ、その結果、遺伝子がダウンレギュレーションまたはノックアウトされうることは明らかであろう。あるいは、上記の遺伝子の中の1つの発現を駆動する天然プロモーターであれば、天然プロモーターに対して低減されたプロモーター活性を有する異種プロモーターと置換されうる。調節配列の操作にとって有用な方法は当業者に周知である。
【0255】
当業者は、当該技術分野で周知のこれらや他の方法を使用し、油性酵母細胞内部で、天然Ura3、Lys5、Leu2、Pox1、Pox2、Pox3、Pox4、Pox5、Lip1、Lip2、Lip3、Lip4a、YALI0F24167g、YALI0C18711g、SCP2[YALI0E01298g]、DGAT2、Pex1p、Pex2p、Pex3p、Pex3BpPex4p、Pex5p、Pex5Bp、Pex5Cp、Pex5/20p、Pex6p、Pex7p、Pex8p、Pex10p、Pex12p、Pex13p、Pex14p、Pex15p、Pex16p、Pex17p、Pex14/17p、Pex18p、Pex19p、Pex20p、Pex21p、Pex21B、Pex22p、Pex22p様、Pex26pおよび/またはΔ12デサチュラーゼを破壊できるであろう。
【0256】
外来遺伝子の発現のための一般的発現系、カセット、ベクターおよび形質転換
外来タンパク質の高レベル発現を誘導する調節配列を有する微生物発現系および発現ベクターは当業者に周知である。これらのいずれかを使用すれば、好ましいデサチュラーゼ、エロンガーゼおよびCPT1タンパク質をコードするキメラ遺伝子が作成されうる。次いで、これらのキメラ遺伝子を、形質転換の標準的方法を用いてヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)に導入することで、コードされた酵素の高レベル発現が提供されうる。
【0257】
ヤロウィア(Yarrowia)宿主細胞の形質転換に有用なベクター(例えば、コンストラクト、プラスミド)は当該技術分野で周知である。コンストラクト内に存在する配列の特定の選択は、所望の発現産物、宿主細胞の性質および形質転換細胞と非形質転換細胞を分離する手段案に依存している。しかし典型的には、ベクターは、少なくとも1つの発現カセット、選択可能マーカーおよび自己複製または染色体組み込みを可能にする配列を有する。適切な発現カセットは、典型的には、転写開始を制御する遺伝子の領域5’(例えばプロモーター)、遺伝子コード配列、転写終結を制御するDNA断片の領域3’(すなわちターミネーター)を含む。両制御領域が形質転換宿主細胞由来の遺伝子に由来する場合が最も好ましいが、それらが生成宿主(例えばヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica))として選択される特定種に固有の遺伝子に由来する必要はない。
【0258】
2種以上の遺伝子が別々の複製ベクターから発現される場合、各ベクターが異なる選択手段を有し、かつ、安定な発現を維持しかつコンストラクト内での因子の再組み合わせ(reassortment)を阻止するように他のコンストラクトに対する相同性が欠如することが望ましい。調節領域、選択手段および導入コンストラクトの増幅方法の選択が賢明か否かは実験的に判定可能であることから、すべての導入遺伝子が所望の産物の合成をもたらすための必要なレベルで発現される。
【0259】
目的の遺伝子を含むコンストラクトまたはベクターは、任意の標準技術によりヤロウィア(Yarrowia)などの宿主細胞に導入されうる。これらの技術は、形質転換(例えば酢酸リチウムの形質転換[Methods in Enzymology、194:186−187頁(1991年)])、原形質融合、微粒子銃衝撃(biolistic impact)、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、または目的の遺伝子を宿主細胞に導入する任意の他の方法を含む。ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)において、米国特許第4,880,741号明細書および米国特許第5,071,764号明細書およびChen D.C.ら(Appl.Microbiol.Biotechnol.、48(2):232−235頁(1997年))に記載のようなDNAの線状化断片に基づく組み込み技術が本明細書中でより好ましい。
【0260】
便宜上、DNA配列(例えば発現カセット)を用いるための任意の方法により操作されている宿主細胞は、本明細書中で「形質転換」、「形質転換体」または「組換え」と称される。形質転換宿主は発現カセットの少なくとも1つのコピーを有することになり、発現カセットがゲノムに組み込まれるかまたは複数のコピー数を有する染色体外因子上に存在するかに依存して2つ以上を有しうる。形質転換宿主細胞は、米国特許第7,238,482号明細書および米国特許第7,259,255号明細書に記載のように、様々な選択技術により同定されうる。
【0261】
本明細書において用いられる好ましい選択方法は、カナマイシン、ハイグロマイシン、およびアミノ配糖体G418に対する耐性とともに、ウラシル、ロイシン、リジン、トリプトファンまたはヒスチジン欠損培地上で成長する能力である。他の実施形態では、5−フルオロオロチン酸(5−フルオロウラシル−6−カルボキシル酸一水和物;「5−FOA」)は、酵母Ura−突然変異体を選択するために用いられる。化合物はオロチジン5’−一リン酸デカルボキシラーゼ(OMPデカルボキシラーゼ)をコードする機能性URA3遺伝子を有する酵母細胞に対して毒性がある(Bartel P.L.およびFields S.、「Yeast2−Hybrid System」、Oxford University(New York)、第7巻、109−147頁、1997年)。
【0262】
より詳細には、最初に天然Ura3遺伝子をノックアウトし、Ura−表現型を有する株を生成でき、ここで選択性は5−FOAの耐性に基づいて生じる。次いで、複数のキメラ遺伝子群および新しいUra3遺伝子をヤロウィア(Yarrowia)ゲノムの異なる遺伝子座に組み込み、それによってUra+表現型を有する新しい株を生成しうる。導入Ura3遺伝子がノックアウトされる場合、その後の組み込みにより、(再び5−FOAの選択性を用いて同定された)新しいUra3−株が生成されうる。したがって、Ura3遺伝子は、5−FOAの選択性と組み合わせて、複数回の形質転換での選択マーカーとして使用可能であることから、容易な方法で、ヤロウィア(Yarrowia)ゲノムに組み込まれるように容易に遺伝的修飾がなされうる。
【0263】
本明細書中で用いられる他の好ましい選択方法は、スルホニル尿素耐性に基づくヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)における主要な非抗生物質マーカーに依存する。より詳細には、マーカー遺伝子は、スルホニル尿素除草剤耐性を付与する単一のアミノ酸変化すなわちW497Lを有する天然アセトヒドロキシ酸シンターゼである(「AHAS」またはアセト乳酸シンターゼ;E.C.4.1.3.18)(配列番号121;PCT公開の国際公開第2006/052870号パンフレット)。AHASは分岐鎖アミノ酸の生合成における経路内の第1の共通の酵素であり、それはスルホニル尿素およびイミダゾリノン除草剤の標的である。
【0264】
選択マーカーを再生するためのヤロウィア(Yarrowia)における本明細書で用いられる追加的方法は、部位特異的リコンビナーゼ系に依存する。つまり、部位特異的組換え系は、2つの要素、すなわち1)特徴的なDNA配列を有する組換え部位[例えばLoxP]、および2)組換え部位の2つ以上が同じDNA分子上で所与の間隔で同じ方向に方向づけられる場合、DNA配列に特異的に結合し、DNA配列間の組換え(すなわち切除)を触媒するリコンビナーゼ酵素[例えばCre]からなる。この方法は、1対の好ましい選択マーカーを複数の逐次形質転換でのその使用において「再生する」ことが可能であることから、選択の手段としての有用性を有する。
【0265】
より詳細には、ヤロウィア(Yarrowia)ゲノムへの挿入に対して望ましい標的遺伝子(例えば、デサチュラーゼ、エロンガーゼ、CPT1)および組換え部位に隣接される第1の選択マーカー(例えば、Ura3、ハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ[HPT])を含む組み込みコンストラクトが作成される。形質転換体の形質転換および選択の後、第1の選択マーカーは、第2の選択マーカー(例えばAHAS)およびゲノムに導入される部位特異的組換え部位を認識するのに適切なリコンビナーゼを有する複製プラスミドの導入により、染色体から切除される。第2のマーカーを有するそれら形質転換体を選択し、ヤロウィア(Yarrowia)ゲノムからの第1の選択マーカーの切除を確認する時、複製プラスミドは選択の不在下で宿主から回復される。これにより第1でも第2でもない選択マーカーを有する形質転換体が生成され、それ故に回復された株は別のラウンドの形質転換に使用可能である。当業者は、本方法が本明細書で使用される特定の選択マーカーまたは部位特異的組換え系に限定されないことを理解するであろう。
【0266】
ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)における外来遺伝子の過剰発現
当業者に周知であるように、単に遺伝子(例えば、デサチュラーゼ、エロンガーゼ、CPT1)をクローニングベクターに挿入することは、所望される速度、濃度、量などでその発現を保証するものではない。宿主細胞からの転写、RNA安定性、翻訳、タンパク質の安定性および位置、酸素制限ならびに分泌に関する態様を制御する多数の異なる遺伝要素を操作することが望ましい場合がある。より詳細には、遺伝子発現は、次の事柄、すなわち関連転写プロモーターおよびターミネーター配列の性質;クローン化遺伝子のコピーの数;遺伝子がプラスミドに担持されるかまたは宿主細胞のゲノムに組み込まれるか;合成された外来タンパク質の最終の細胞位置;宿主生物における翻訳の効率;宿主細胞内部のクローン化遺伝子/タンパク質の固有安定性;およびクローン化遺伝子内部でのコドン使用を、その頻度が宿主細胞の好ましいコドン使用の頻度に近づくように改変することによって制御されうる。過剰発現のこれら方法のいくつかは下記に考察されることになり、例えば、デサチュラーゼ、エロンガーゼおよびCPT1タンパク質を過剰発現するための手段として、組換えヤロウィア(Yarrowia)宿主細胞において有用である。
【0267】
所望される遺伝子の発現は、mRNAまたはコードされたタンパク質のいずれかからの不安定化配列の除去/欠失または安定化配列のmRNAへの付加により、発現の増大を引き起こすより強力なプロモーター(調節性または構成的のいずれか)の使用を介し、転写レベルで増大しうる(米国特許第4,910,141号明細書)。
【0268】
ヤロウィア(Yarrowia)宿主細胞における異種遺伝子またはその一部の発現を駆動するのに有用な開始制御領域またはプロモーターは極めて多数あり、当業者に既知である。発現は誘導的または構成的になされうる。誘導的発現は目的の遺伝子に作動可能に連結される調節可能なプロモーターの活性を誘導することによってなされうる一方、構成的発現は目的の遺伝子に作動可能に連結される構成的プロモーターの使用によってなされうる。ヤロウィア(Yarrowia)におけるデサチュラーゼ、エロンガーゼおよびCPT1遺伝子の発現を指令可能な仮想的に任意のプロモーター(すなわち、天然、合成、またはキメラ)が適切となるが、宿主種に由来する転写および翻訳領域は特に有用である。(例えば、構成的または誘導的転写のいずれが所望されるか、目的のORFの発現におけるプロモーターの効率、作成の容易性などに依存し)ヤロウィア(Yarrowia)における遺伝子の発現にとって使用可能な多数の調節配列が存在するのに反し、好ましい実施形態では、プロモーターは下の表6に示されるもの(またはそれらの誘導体)から選択される。下記プロモーターの活性の比較が、PCT公開の国際公開第2006/052870号パンフレットに提供される。
【0270】
当然のことながら、他の実施形態では、表6に記載のプロモーター領域のいずれかに由来する他のプロモーターをヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)における異種発現においても使用し、TAG中および全脂質画分中でのEPAの高レベルの生成および蓄積が促進されうる。特に、上記のプロモーターのいずれかの長さの修飾により、同一のまたは改変された活性を有する突然変異体プロモーターが得られうるが、プロモーターはヤロウィア(Yarrowia)における遺伝子発現を駆動するようにさらに機能的となる。
【0271】
一般的に、終結領域は、開始領域が得られた元の遺伝子の3’領域または異なる遺伝子に由来しうる。多数の終結領域は既知であり、同じ属および異なる属とそれらが得られた元の種の双方において用いられる場合、種々の宿主内で十分に機能する。終結領域は通常、任意の特定の性質が理由というよりも便宜上選択される。好ましくは、終結領域は、酵母遺伝子、特にサッカロミセス(Saccharomyces)、スキゾサッカロミセス(Schizosaccharomyces)、カンジダ(Candida)、ヤロウィア(Yarrowia)またはクリベロミセス(Kluyveromyces)に由来する。γ−インターフェロンおよびα−2インターフェロンをコードする哺乳類遺伝子の3’領域はまた、酵母内で機能することが知られている。3’領域はまた、当業者が入手可能な情報を利用し、転写ターミネーターとして機能する3’領域配列を設計し、合成しうることから合成でありうる。終結部位は不要でありうるが、それは極めて好ましい。
【0272】
本明細書中での開示において有用な終結領域は、限定を意図されていないが、ヤロウィア(Yarrowia)に特有の様々な遺伝子に由来し、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)細胞外プロテアーゼ(XPR;GenBank登録番号M17741);アシル−coAオキシダーゼ(Aco3:GenBank登録番号AJ001301および登録番号CAA04661;Pox3:GenBank登録番号XP_503244)ターミネーター;Pex20(GenBank登録番号AF054613)ターミネーター;Pex16(GenBank登録番号U75433)ターミネーター;Lip1(GenBank登録番号Z50020)ターミネーター;Lip2(GenBank登録番号AJ012632)ターミネーター;および3−オキソアシル−coAチオラーゼ(OCT;GenBank登録番号X69988)ターミネーターの約100bpの3’領域を含む。
【0273】
PUFA生合成経路デサチュラーゼおよびエロンガーゼ遺伝子および/またはCPT1遺伝子のさらなるコピー(すなわち2つ以上のコピー)をヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)に導入することで、EPAの生成および蓄積が増大しうる。詳細には、遺伝子のさらなるコピーが単一の発現コンストラクト内部にクローン化され、および/または、クローン化遺伝子のさらなるコピーがプラスミドコピー数の増加またはクローン化遺伝子のゲノムへの複数の組み込みによって宿主細胞に導入されうる(下記)。例えば、一実施形態では、Δ9エロンガーゼの4コピー、Δ8デサチュラーゼの4コピー、Δ5デサチュラーゼの3コピー、Δ17デサチュラーゼの3コピー、Δ12デサチュラーゼの3コピーおよびC
16/18エロンガーゼの1コピーを含むキメラ遺伝子のヤロウィア(Yarrowia)ゲノムへの導入および組み込みにより、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)の株(すなわち株Y4128)を改変し、全脂肪酸のパーセントとして37.6%超のEPAが生成された。
【0274】
同様に、他の実施形態では、Δ9エロンガーゼの7コピー、Δ8デサチュラーゼの7コピー、Δ5デサチュラーゼの5コピー、Δ17デサチュラーゼの3コピー、Δ12デサチュラーゼの5コピー、C
16/18エロンガーゼの3コピーおよびジアシルグリセロールコリンホスホトランスフェラーゼ(CPT1)の2コピーを含むキメラ遺伝子のヤロウィア(Yarrowia)ゲノムへの導入および組み込みにより、ヤロウィア・リポリティカ(Y.lipolytica)の株Y4305を改変し、全脂肪酸のパーセントとして53.2%超のEPAが生成された。
【0275】
本明細書中の方法に従い、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)の最適化株を調製する場合、様々なデサチュラーゼ、エロンガーゼ、およびCPT1のコピーは次のように称されることが多いことに留意することが重要である。例えばΔ9エロンガーゼの2コピーが必要とされる場合、これは1)単一種から単離される特定のΔ9エロンガーゼにおける同一のコード配列の2つのコピー、または2)種「A」から単離されるΔ9エロンガーゼにおける1つのコード配列および種「B」から単離されるΔ9エロンガーゼにおける1つのコード配列(それ故、集合的に2つのΔ9エロンガーゼをもたらす)を示しうる。
【0276】
一般的に、一旦、油性酵母における発現に適する(例えば、プロモーター、ORFおよびターミネーターを含むキメラ遺伝子を含む)DNAカセットが得られていると、それは宿主細胞内で自律複製可能なプラスミドベクターに配置されるかまたは宿主細胞のゲノムに直接組み込まれる。発現カセットの組み込みは、宿主ゲノム内部にランダムに生じうるか、または宿主遺伝子座での組換えの標的化に十分な宿主ゲノムと相同性がある領域を有するコンストラクトの使用によって標的化されうる。本明細書中に左右されないが、転写および翻訳調節領域の全部または一部が、コンストラクトが内因性遺伝子座に対して標的化される場合での内因性遺伝子座によって提供されうる。
【0277】
ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)内で遺伝子を発現する好ましい方法は、線形DNA断片の宿主のゲノムへの組み込みによるものである。ゲノム内部の複数の位置への組み込みは、遺伝子の高レベル発現が所望される場合に特に有用でありうる。このような目的で、複数のコピー中に存在するゲノム内部の配列、例えば、少なくとも35コピー/ゲノムおよび50〜60コピー/ゲノムでヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)の一部の株のゲノム全体にわたって分散的様式で存在するYlt1および単独のζ(zeta)因子を同定することは望ましい(Schmid−Bergerら、J.Bact.、176(9):2477−2482頁(1994年))。しかし残念なことに、zeta領域を有するヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)の株は全部ではない(例えばATCC#20362として同定された株)。株においてかかる領域が欠損している場合、発現カセットを有する線状化DNA断片を他の遺伝子座に組み込み、所望されるコピー数にすることも可能である。例えば、好ましい他の遺伝子座は、Ura3遺伝子座(GenBank登録番号AJ306421)、Leu2遺伝子座(GenBank登録番号AF260230)、Lys5遺伝子座(GenBank登録番号M34929)、Aco2遺伝子座(GenBank登録番号AJ001300)、Pox3遺伝子座(Pox3:GenBank登録番号XP_503244;またはAco3:GenBank登録番号AJ001301)、Δ12デサチュラーゼ遺伝子座(米国特許第7,214,491号明細書)、Lip1遺伝子座(GenBank登録番号Z50020)および/またはLip2遺伝子座(GenBank登録番号AJ012632)を含む。他の実施形態では、Pox1、Pox4、Pox5、Lip3、Lip4a、YALI0F24167g、YALI0C18711g、SCP2[YALI0E01298g]、DGAT2、Pex1p、Pex2p、Pex3p、Pex3Bp
、Pex4p、Pex5p、Pex5Bp、Pex5Cp、Pex5/20p、Pex6p、Pex7p、Pex8p、Pex10p、Pex12p、Pex13p、Pex14p、Pex15p、Pex16p、Pex17p、Pex14/17p、Pex18p、Pex19p、Pex20p、Pex21p、Pex21B、Pex22p、Pex22p様、Pex26pおよびΔ12デサチュラーゼ遺伝子座は、上記のようにコンストラクトの組み込みにとって有用でありうる。
【0278】
Juretzekら(Yeast、18:97−113頁(2001年))は、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)内での組み込まれたDNA断片の安定性が、使用される個別の形質転換体、レシピエント株および標的化プラットフォームに依存することに言及している。したがって、当業者は、複数の形質転換体が、所望される発現レベルおよびパターンを示す株を得るためにスクリーニングされる必要があることを理解するであろう。かかるスクリーニングはDNAブロットのサザン分析(Southern J.Mol.Biol.、98:503頁(1975年))、mRNA発現のノーザン分析(Kroczek J.Chromatogr.Biomed.Appl.、618(1−2):133−145頁(1993年))、タンパク質発現のウエスタン分析、表現型分析またはPUFA産物のGC分析によって行われうる。
【0279】
EPA生成のための発酵プロセス
形質転換微生物宿主細胞は、キメラ遺伝子(例えば、デサチュラーゼ、エロンガーゼ、CPT1などをコードする)の発現を最適化し、最大でかつ最も経済的な収量のEPAを生成する条件下で成長させる。一般に、培地条件は、炭素供給源のタイプおよび量、窒素供給源のタイプおよび量、炭素対窒素比、異なるミネラルイオンの量、酸素レベル、成長温度、pH、バイオマス生成段階の長さ、オイル蓄積段階の長さ、ならびに細胞採取の時間および方法を変更することによって最適化可能である。ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)は、一般に、酵母抽出物−ペプトン−デキストロース培養液(YPD)などの複合培地中、または成長にとって必要な成分が欠如することから所望の発現カセット(例えばYeast Nitrogen Base(DIFCO Laboratories(Detroit,MI))の選択が強いられる化学的組成の明らかな(defined)最少培地中で成長させる。
【0280】
本明細書に記載の方法および宿主細胞のための発酵培地は、米国特許第7,238,482号明細書中に教示されるような適切な炭素供給源を含有する必要がある。本発明において用いられる炭素の供給源が多種多様な炭素を有する供給源を包含しうると考えられるが、好ましい炭素供給源は糖類、グリセロールおよび/または脂肪酸である。グルコースおよび/または10〜22個の炭素を有する脂肪酸が最も好ましい。
【0281】
窒素は、無機(例えば(NH
4)
2SO
4)または有機(例えば尿素またはグルタミン酸塩)供給源から供給されうる。発酵培地はまた、適切な炭素および窒素供給源に加え、適切なミネラル、塩、共同因子、緩衝液、ビタミンおよびEPA生産性の高い油性酵母の成長やEPA生成用の酵素経路の促進に適する当業者に既知の他の成分を含有する必要がある。脂質およびPUFAの合成を促進する数種の金属イオン(Fe
+2、Cu
+2、Mn
+2、Co
+2、Zn
+2、およびMg
+2など)に対して特別な注意が払われる(Nakahara T.ら、Ind.Appl.Single Cell Oils、D.J.KyleおよびR.Colin編 61−97頁(1992年))。
【0282】
本明細書に記載の方法および宿主細胞に好ましい成長培地は、一般的な商業的に調製された培地、例えばYeast Nitrogen Base(DIFCO Laboratories(Detroit,MI))である。他の限定または合成された成長培地の使用も可能であり、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)の成長に適する培地について微生物学または発酵科学における当業者は知っているであろう。発酵に適するpH範囲は、典型的には約pH4.0〜pH8.0であり、ここではpH5.5〜pH7.5が初期成長条件における範囲として好ましい。発酵は好気性または嫌気性条件下で実施可能であり、ここでは微好気条件が好ましい。
【0283】
典型的には、代謝状態が脂肪の成長および合成/保存の間で「均衡化」されなければならないことから、油性酵母細胞内での高レベルのPUFAの蓄積には2段階のプロセスが必要である。したがって、最も好ましくは、2段階発酵プロセスはヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)内でのEPAの生成にとって必要である。このアプローチは、様々な適切な発酵プロセスの設計(すなわち、バッチ、供給バッチおよび連続)および成長の間での検討事項として、米国特許第7,238,482号明細書中に記載されている。
【0284】
EPAの精製およびプロセシング
本明細書中の一部の態様では、一次産物は油性酵母バイオマスである。したがって、バイオマス由来のEPA含有オイルの単離および精製が必要でありうる(すなわちここでは全細胞バイオマスが産物である)。
【0285】
しかし、特定の最終使用および/または産物形態では、バイオマス由来のEPA含有オイルの部分的および/または完全な単離/精製により、部分精製バイオマス、精製オイル、および/または精製EPAを得ることが必要でありうる。EPAを含むPUFAは、遊離脂肪酸としてかまたはアシルグリセロール、リン脂質、硫脂質または糖脂質などのエステル化形態で宿主微生物(例えばヤロウィア(Yarrowia))において見出されうる。これらの脂肪酸は、当該技術分野で周知の種々の手段を介して宿主細胞から抽出されうる。酵母脂質における抽出技術、品質分析、および合格基準(acceptability standards)に関する1つのレビューがZ.Jacobsのものである(Critical Reviews in Biotechnology、12(5/6):463−491頁(1992年))。下流加工に関する簡単なレビューについてもA.SinghおよびO.Wardによるものが入手可能である(Adv.Appl.Microbiol.、45:271−312頁(1997年))。
【0286】
一般に、ヤロウィア(Yarrowia)バイオマス由来のEPAおよび他のPUFAを精製するための手段は、有機溶媒での抽出(例えば、米国特許第6,797,303号明細書および米国特許第5,648,564号明細書)、超音波処理、超臨界流体抽出(例えば二酸化炭素を使用)、鹸化およびプレス、ビードビーターなどの物理的手段、またはこれらの組み合わせを含みうる。さらなる詳細については、米国特許第7,238,482号明細書の教示内容が参照のこと。
【0287】
精錬および/または精製されているEPA含有オイルは水素添加され、それにより様々な融解特性およびテクスチャを有する脂肪が得られうる。スプレッド、製菓用脂肪(confectionary fat)、硬質バター、マーガリン、ベーキングショートニングなどを含む多数の加工脂肪は、室温で異なる程度の固形性を必要とし、油源の物理特性の改変のみを介して製造されうる。これは最も一般的には触媒水素添加を介して行われる(さらなる詳細および参照についてはPCT公開の国際公開第2006/052870号パンフレットを参照)。
【0288】
EPAを含有する組成物の使用
EPAを含む油性酵母バイオマスを含有する、食品、調製粉乳、機能食品、医療食品、医療用栄養食品、栄養補助食品、医薬組成物、動物飼料、およびパーソナルケア製品が本明細書中に提供される。同様に、EPAまたは組換え油性酵母バイオマスから単離されるEPAを含む微生物オイルを含有する、食品、調製粉乳、栄養補助食品、医薬組成物、動物飼料、およびパーソナルケア製品もまた提供される。
【0289】
加工および製剤の当業者は、バイオマス、部分精製バイオマス、精製オイル、および/または精製EPAのいかなる量および組成物が標的種および/または最終使用に応じて特定の産物に添加されうるかを理解するであろう。より詳細には、「有効」量が製剤に取り込まれる必要があるが、この量は、食品または飼料製品、製品による補助が意図された食事、あるいは医療食品または医療用栄養食品による是正または治療が意図された病状に依存することになる。
【0290】
最も望ましくは、EPAの有効量はω−3/ω−6 PUFAの消費に関連した所望の健康特性をもたらすのに十分となる。典型的には、製品に取り込まれるEPAの量においては、数例を挙げると、加工条件、典型的な処理および貯蔵条件、製品におけるEPAの安定性、および標的種の場合でのバイオアベイラビリティ/生体吸収効率に関連した減少が考慮される。
【0291】
加工および製剤の当業者は、本明細書中に記載の組換えヤロウィア(Yarrowia)生成宿主細胞から生成されるオイルを濃縮し、それにより全脂質画分中のEPAの濃度をそれが少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%もしくはさらに少なくとも約90%のEPAを含有するように増加させるためのプロセスに精通しているであろう。本明細書中に記載の精製オイルを他の精製脂肪酸(例えば、LA、GLA、EDA、DGLA、ARA、DTA、DPAn−6、ALA、STA、ETrA、ETA、DPAおよびDHA)または代替脂肪酸を含有するオイルと好ましい濃度で混和するための手段はまた、当業者に周知である。これらの技術により、独自に調整された脂肪特性を含むオイルを容易に製造可能である。
【0292】
パーソナルケア製品:
パーソナルケア製品との関連の中で、ω−3脂肪酸は、スキンコンディショニング効果を高めるために使用されうる場合、皮膚製剤における特定の用途を有する。当業者は、関連のω−3脂肪酸またはそれを含むオイルの有効量をスキンケア組成物にいかに提供するかを理解するであろう。PUFAオイルまたはω−3脂肪酸に加え、スキンケア組成物は、スキンケア組成物にとって美容上許容可能な媒体をさらに含有する場合があり、その例がPhilippeら、米国特許第6,280,747号明細書に記載されている。例えば、美容上許容可能な媒体は、脂肪相が少なくとも1つの液体、固体または半固体脂肪物質を含有する場合、一般的に組成物の全重量に対する約10重量%〜約90重量%の割合で脂肪物質を含有する無水組成物でありうる。脂肪物質は、限定はされないが、オイル、ワックス、ガム、およびいわゆる粥状脂肪物質を含む。あるいは、組成物は、油中水または水中油エマルジョンなどの安定な分散剤の形態でありうる。さらに、組成物は、限定はされないが、抗酸化剤、保存料、充填剤、界面活性剤、UVAおよび/またはUVBサンスクリーン、香料、増粘剤、浸潤剤およびアニオン性、非イオン性もしくは両性ポリマー、ならびに色素を含む、1種以上の従来の化粧品または皮膚用添加剤(dermatological additives)またはアジュバントを含有しうる。
【0293】
食品:
市場は、現行ではω−3および/またはω−6脂肪酸(特にLA、GLA、ARA、EPA、DPAおよびDHA)を取り入れた多種多様な食品および飼料製品を支持している。本明細書中に記載の酵母バイオマス、部分精製バイオマス、精製オイル、および/または精製EPAが、食品中で、現行の製剤の健康上の利点をもたらすように機能すると考えられる。
【0294】
本明細書中に記載の酵母宿主によって生成されるヤロウィア(Yarrowia)バイオマス、部分精製バイオマス、精製オイル、および/または精製EPAは、限定はされないが、食品類似体、飲料、肉製品、穀物製品、焼成食品、スナック食品および乳製品を含む種々の食品中での使用に適することとなる。
【0295】
食品類似物は当業者に周知のプロセスを用いて製造されうる。肉類似物、チーズ類似物、ミルク類似品などについても言及可能である。大豆から作られる肉類似品は、種々の肉を模倣するため、大豆タンパク質または豆腐および一緒に混合される他の原料を含有する。これらの肉代替品は冷凍、缶詰または乾燥食品として販売される。通常、それらはその代替食品と同様に用いられうる。肉代替品の例として、限定はされないが、ハム類似品、ソーセージ類似品、ベーコン類似品などが挙げられる。
【0296】
食品類似物は、その機能および組成特性に応じて模倣物または代替物として分類されうる。例えば、イミテーションチーズはその代替用に設計されたチーズにあくまで類似する必要がある。しかし、製品は一般に、それが代替しているチーズに対して栄養的に等価であり、かつそのチーズにおける最低限の組成要件を満たす場合に限って代替チーズと称されうる。したがって、代替チーズは、イミテーションチーズよりも高いタンパク質レベルを有し、ビタミンおよびミネラルで強化されることが多くなる。
【0297】
ミルク類似品または非乳食品として、限定はされないが、イミテーションミルクおよび非乳食品の冷凍デザート(例えば大豆から作られるものおよび/または大豆タンパク質製品)が挙げられる。
【0298】
肉製品は多種多様な製品を包含する。米国では、「肉」は牛、豚および羊から生産される「赤肉」を含む。赤肉に加え、鶏、七面鳥、ガチョウ、ホロホロ鳥、アヒルや魚および貝を含む家禽製品がある。加工された調味肉製品には、新鮮肉、塩漬け肉および揚げ肉や塩漬けされ調理された肉といった幅広い品揃えがある。ソーセージおよびホットドックは加工肉製品の例である。したがって、本明細書で用いられる「肉製品」という用語は、限定はされないが加工肉製品を含む。
【0299】
穀物食品は穀物の加工から得られる食品である。穀物は食用穀物(種子)を生成するイネ科由来の任意の植物を含む。最も有名な穀物は、大麦、トウモロコシ、キビ、オート麦、キノア、米、ライ麦、サトウモロコシ、ライ小麦、小麦およびワイルドライスである。穀物食品の例として、限定はされないが、全粒、破砕穀物(crushed grain)、グリット、小麦粉、ぬか、胚芽、朝食用シリアル、押出食品(extruded foods)、パスタなどが挙げられる。
【0300】
焼き食品(baked goods product)は、上記の穀物食品のいずれかを含み、ベーキング(すなわち加熱による乾燥または硬化)と同様の方法での焼き付けまたは加工がなされている。焼き食品の例として、限定はされないが、パン、ケーキ、ドーナツ、棒状の食品(bars)、パスタ、パン粉、ベークドスナック(baked snacks)、ミニビスケット、ミニクラッカー、ミニクッキー、およびミニプレッツェルが挙げられる。上記のように、組換えEPA生成宿主細胞由来のオイルは原料として用いられうる。
【0301】
スナック食品は、上記または下記の食品のいずれかを含む。
【0302】
フライ食品は、揚げられている上記または下記の食品のいずれかを含む。
【0303】
飲料は、液体中にかまたは乾燥粉末形態で存在しうる。例えば、非炭酸飲料;フルーツジュース、フレッシュジュース、冷凍ジュース、缶ジュースまたは濃縮ジュース;フレーバーまたはプレーンの乳飲料についての言及が可能である。成人用および乳児用栄養製剤は当該技術分野で周知であり、市販されている(例えば、Ross Products Division、Abbott Laboratories製のSimilac(登録商標)、Ensure(登録商標)、Jevity(登録商標)、およびAlimentum(登録商標))。
【0304】
乳製品はミルクから得られる製品である。ミルク類似品または非乳製品、例えば豆乳は、上で考察したようにミルク以外の供給源から得られる。これらの製品として、限定はされないが、全乳、スキムミルク、ヨーグルトまたは酸乳などの発酵乳製品、クリーム、バター、濃縮ミルク、粉ミルク、コーヒーホワイトナー、コーヒークリーマ、アイスクリーム、チーズなどが挙げられる。
【0305】
ヤロウィア(Yarrowia)バイオマス、部分精製バイオマス、精製オイル、および/または精製EPAが含有されうるさらなる食品として、例えば、チューイングガム、菓子およびフロスティング、ゼラチンおよびプディング、ハードおよびソフトキャンデー、ジャムおよびゼリー、白グラニュー糖、糖代替物、スイートソース、トッピングおよびシロップ、ならびにドライブレンドされた粉体混合物が挙げられる。
【0306】
調製粉乳:
調製粉乳は幼児および若年小児に供給される液体または再構成粉乳である。「調製粉乳」は、本明細書中で幼児への供給においてヒト母乳と代替可能な経腸栄養製剤と規定され、典型的には、水溶液中で所望される百分率の炭水化物およびタンパク質と混合された所望される百分率の脂肪からなる(例えば米国特許第4,670,285号明細書を参照)。世界的な組成物の研究ならびに専門家集団によって特定されるレベルに基づき、平均のヒト母乳は典型的には(脂肪から約50%のカロリーを仮定すると)約0.20%〜0.40%の全脂肪酸を含有し、一般的にはDHA対ARAの比であれば約1:1〜1:2の範囲となる(例えば、Enfamil LIPIL(商標)[Mead Johnson & Company]およびSimilac Advance(商標)[Ross Products Division、Abbott Laboratories]の製剤を参照)。調製粉乳は、幼児にとっての唯一の栄養源であることが多いことから、幼児の食事において果たすべき特別な役割を果たす。依然として授乳が幼児における最良の栄養であるが、調製粉乳は乳児が生存するだけでなく成長する上での第2の同等物である。
【0307】
健康食品および医薬品:
本バイオマス、部分精製バイオマス、精製オイル、および/または精製EPAは、機能食品、医療食品、医療用栄養食品および栄養補助食品を含む健康食品において健康上の利点を与えるように製剤中で使用されうる。さらに、本発明のヤロウィア(Yarrowia)バイオマス、部分精製バイオマス、精製オイル、および/または精製EPAは、標準の医薬組成物中で使用されうる。EPAを含有するヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)の本改変株またはそれから生成される微生物オイルであれば、上記食品のいずれかに容易に取り込まれ、それにより例えば機能または医療食品の生産が可能である。例えば、EPAを含有するより濃縮された製剤は、ヒトまたはヒト以外の動物における栄養補助食品として使用可能な、カプセル、粉末、タブレット、ソフトゲル、ジェルキャップ、液体濃縮物およびエマルジョンを含む。
【0308】
動物飼料製品:
動物飼料は、一般的に、ヒト以外の動物における飼料としての使用または飼料中での混合が意図された製品として本明細書中で規定される。本明細書中に記載のヤロウィア(Yarrowia)バイオマス、部分精製バイオマス、精製オイル、および/または精製EPAは、様々な動物飼料中の原料として使用されうる。
【0309】
より詳細には、限定されるものと解釈されないが、組換えヤロウィア(Yarrowia)宿主細胞由来のEPA生成物がペット食品、反芻動物および家禽食品ならびに養殖食品の中で使用可能であると想定される。ペット食品は、犬、猫、鳥、爬虫類、齧歯類などのペットへの給与が意図された食品である。これらの食品は、上記の穀物および健康食品、ならびに肉および肉副産物、大豆タンパク質製品、アルファルファ、オオアワガエリ、オートまたはスズメノチャヒキ、野菜などの、生草および乾草製品を含みうる。反芻動物および家禽食品は、例えば、七面鳥、チキン、牛、および豚への給与が意図された食品である。上記ペット食品と同様、これらの食品は、上に列挙される穀物および健康食品、大豆タンパク質製品、肉および肉副産物、および生草および乾草製品を含みうる。養殖食品(または「養殖飼料」)は養殖での使用が意図された食品であり、それは増殖、培養または水生生物および/または動物の淡水または海水中での飼育に関する。
【0310】
高濃度のEPAを生成するヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)の本改変株を大部分の動物飼料製剤中に含めることが特に有用となると考えられる。必要なω−3 PUFAの提供に加え、酵母自体は、動物の健康および栄養全体に寄与するとともに製剤の嗜好性を高めうるタンパク質および他の栄養素(例えば、ビタミン、ミネラル、核酸、複合炭水化物など)の有用な供給源である。したがって、組換えヤロウィア(Yarrowia)生成宿主を含む酵母バイオマスの添加が動物飼料製剤中の飼料栄養素の優れた追加的供給源となると考えられる。より詳細には、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)(ATCC#20362)は、乾燥細胞重量に対するパーセントとして次の大体の化学組成、すなわち35%のタンパク質、40%の脂質、10%の炭水化物、5%の核酸、5%の灰分および5%の水分を有する。さらに、炭水化物画分中で、β−グルカンを約45.6mg/g含有し、マンナンを約11.4mg/g含有し、またキチンを約52.6mg/gを含有する(一方、トレハロースは微量成分である[約0.7mg/g])。
【0311】
多数の文献において、β−グルカン、マンナンおよびキチンの免疫調節効果が検討されている(PCT公開の国際公開第2006/052870号パンフレット中で概説されている)。ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)の固有のタンパク質:脂質:炭水化物組成物および(マンナン:β−グルカン:キチンの約1:4:4.6の比を含む)固有の複合炭水化物特性に基づき、本明細書中に記載の遺伝子組換えされた酵母細胞(またはその一部)であれば、動物飼料製剤に対する有用な添加物となる。これは、例えば全[凍結乾燥]酵母細胞、精製細胞壁、精製酵母炭水化物の添加または様々な他の断片化形態の添加によって生じうると思われる。
【0312】
養殖業に関しては、様々な魚種における栄養上の要件および飼料製造における技術的進歩に対する理解の深まりにより、製造または人工飼料(調合飼料)の開発および使用から、天然飼料を補助するかまたは置き換えることが可能になっている。しかし、一般的には、養殖魚用飼料中に含まれる一般的割合の様々な栄養素は、(乾燥飼料によるパーセントについては):32〜45%のタンパク質、4〜28%の脂肪(ここでは少なくとも1〜2%がω−3および/またはω−6 PUFAである)、10〜30%の炭水化物、1.0〜2.5%のミネラルおよび1.0〜2.5%のビタミンを含む。種々の他の原料が、場合によって製剤に添加されうる。これらは、1)肉および皮膚の着色をそれぞれ促進するための、特にサケ科および装飾用の「観賞」魚におけるカロチノイド;2)ペレットに安定性をもたらしかつ栄養素の水への浸出を低減するための結合剤(例えば、牛の心臓肉、デンプン、セルロース、ペクチン、ゼラチン、アラビアゴム、イナゴマメ、寒天、カラゲニンおよび他のアルギン酸塩);3)魚飼料の貯蔵寿命を延長しかつ脂肪の酸敗臭を低減するための保存料、例えば抗菌剤および抗酸化剤(例えば、ビタミンE、ブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン、エトキシキン、ならびにプロピオン酸、安息香酸またはソルビン酸のナトリウムおよびカリウム塩);4)飼料の嗜好性およびその摂取を促進するための化学誘引物質および香味料;ならびに5)他の飼料を含む。これらの他の飼料は、飼料の栄養価を高め、魚によるその許容性を高めるための、繊維質および灰分(充填剤として、またそれぞれカルシウムおよびリンの供給源として使用される)などの原料、ならびに植物質および/または魚もしくはスクイッドミール(例えば、生きた藻、凍った藻もしくは乾いた藻、ブラインシュリンプ、クルマムシまたは他の動物性プランクトン)を含みうる。Nutrient Requirements of Fish(National Research Council、National Academy(Washington D.C.)、1993年)は、魚における必須栄養素および様々な原料の栄養素含量についての詳細な説明を提供する。
【0313】
アクアフィード製剤の製造では、完全な飼料が、栄養的にバランスがとれ、味が良く、耐水性があり、かつ適切なサイズおよびテクスチャを有する必要があることから、種々の要素を考慮する必要がある。アクアフィードの栄養組成物に関しては、「Handbook on Ingredients for Aquaculture Feeds」(Hertrampf J.W.およびF Piedad−Pascual.Kluwer Academic(Dordrecht,The Netherlands)、2000年)および「Standard Methods for the Nutrition and Feeding of Farmed Fish and Shrimp」(Tacon A.G.J.Argent Laboratories(Redmond)、1990年)が参照される。一般的に、飼料は、乾燥(すなわち6〜10%の最終含水率)、半湿潤(すなわち35〜40%の含水率)または湿潤(すなわち50〜70%の含水率)であるように調合される。乾燥飼料は、次のもの、すなわち乾燥原料の単純な遊離混合物(すなわち「マッシュ」または「ミール」);圧縮ペレット、クランブルまたは顆粒;およびフレークを含む。魚の給餌要件に依存し、ペレットは沈殿または浮遊するように作製されうる。半湿潤および湿潤飼料は、単一または混合原料、例えば雑魚または調理されたレグメ(legumes)から作製され、ケーキ状またはボール状に形作られうる。
【0314】
そこでは高濃度のEPAを生成するヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)の本改変株を大部分の養殖飼料中に含めることが特に有用となることは明らかである。必要なω−3および/またはω−6 PUFAの提供に加え、酵母自体は製剤の嗜好性を高めうるタンパク質の有用な供給源である。他の実施形態であれば、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)の本株によって生成されるオイルは、細胞塊からの抽出および精製後、養殖飼料製剤に直接導入されうる。
【0315】
EPAの補給から得られる臨床健康上の利点
EPAの栄養補助食品が血清コレステロールおよびトリグリセリドの低下に有用であることが示されているが、例えば、冠動脈心疾患、高血圧、炎症性疾患(例えば関節リウマチ)、肺および腎疾患、II型糖尿病、肥満、潰瘍性大腸炎、クローン病、拒食症、やけど、骨関節炎、骨粗鬆症、注意欠陥/多動性障害、結腸直腸癌の初期ステージおよび精神障害(例えば統合失調症)(例えば、McColl J.、NutraCos、2(4):35−40頁(2003年);Sinclair A.ら、In Healthful Lipids;C.C.AkohおよびO.−M.Lai編;AOCS(Champaign,IL)(2005年)、第16章の概説を参照)において有益な効果を有するが、これらの臨床観察の根底にある分子的および生化学的機構は依然として解明されていない。特に、多数の先行研究では、個別の長鎖ω−3脂肪酸(例えばEPAおよびDHA)が代謝的かつ機能的に互いに明確に分かれており、それ故に各々が特定の生理的機能を有しうることが把握できていなかった。このような機構的な明確さの欠如は、臨床研究における純粋なEPAまたは純粋なDHAの使用とは対照的に、主にPUFAの供給源としての魚油の使用の結果である[メンハーデン、タラの肝臓、イワシおよびアンチョビーに由来するオイルの脂肪酸組成物は、(「The Lipid Handbook」、第2版;F.D.Gunstone、J.L.HarwoodおよびF.B.Padley編;Chapman and Hall、1994年の中のデータに基づくと)例えば約0.9:1〜1.6:1のEPA:DHA比を有するオイルを含む]。それに反し、EPAがそれ自体重要なω−3脂肪酸であるという認識が高まりつつある。その結果、本明細書中で、本明細書中に記載の組換えヤロウィア(Yarrowia)生成宿主のEPAリッチオイルが、種々の治療用途、例えば、炎症、心臓血管疾患、遺伝子発現の栄養調節および脂質異常症において、また詳細には冠動脈心疾患、高血圧、炎症性疾患、II型糖尿病、潰瘍性大腸炎、クローン病、拒食症、やけど、骨関節炎、骨粗鬆症、および注意欠陥/多動性障害を含む臨床症状の治療において極めて広範な有用性を有することが想定される。
【0316】
これら用途の各々に関する下記の結果はヒトの臨床研究に基づくが、これは限定的なものとして解釈されるべきではなく、具体的には、出願人は種々の他の動物(例えば、家庭のペット類、反すう動物、家禽、魚など)における類似の健康不安の治療のためのEPAリッチオイルの使用を予見している。
【0317】
EPAおよび炎症:
多数の生化学的機構は、魚油によって伝えられる抗炎症特性を説明することを提示している。現在、周知の機構によると、ω−3脂肪酸が炎症性細胞膜内でのω−6脂肪酸の量を減少させ、かつω−6脂肪酸に由来する炎症誘発性メディエーター(例えばシリーズ2プロスタグランジンおよびシリーズ4ロイコトリエン)の合成を可能にするω−6脂肪酸代謝を阻害することが示唆される。さらに、ω−3脂肪酸は、強力な炎症性メディエーター(例えばシリーズ3プロスタグランジンおよびシリーズ5ロイコトリエン)を生じさせる。しかし、最近の研究によると、今ではレゾルビン(「回復期相互作用産物」)と称される脂質抗炎症メディエーターの新しいファミリーが同定されており、それは低いナノモル範囲内でのその生物学的活性で示されるように非常に強力である。このファミリー内には、EPA由来のレゾルビン(すなわちEシリーズレゾルビンまたは「RvEs」)およびDHA由来のレゾルビン(すなわち、Dシリーズレゾルビンまたは「RvDs」)の双方が存在する(Serhan C.N.、Pharma.& Therapeutics、105:7−21頁(2005年)中に概説)。Arita M.ら(Proc.Natl Acad.Sci.U.S.A.、102(21):7671−7676頁(2005年))中に示されるRvE1(5S、12R、18R−トリヒドロキシ−6Z、8E、10E、14Z、16E−EPA)の明確な役割は、ヒトの健康および疾患におけるEPAの有利な作用の一部における基礎を形成しうる機構的証拠をもたらす。
【0318】
この新しい生物学は、炎症性プロセスの栄養的および医学的管理の双方におけるEPAリッチ産物の潜在的な有用性を強調する。さらに、炎症が心臓血管疾患から代謝性疾患(例えば、メタボリックシンドロームX、肥満、糖尿病)、さらに神経疾患(例えばアルツハイマー)にわたる範囲の多数の疾患の根底をなすことから、EPAリッチオイル(本明細書中に記載のものなど)が極めて広範な有用性を有することが想定される。医学的有用性が1)医療食品における生体活性剤としてのEPAまたはRvEの使用;および/または、2)補助療法としてのEPAの店頭または処方医薬品への添加から得られうることが想定される。最後に、EPAには、RvEおよび薬学的に最適化された新しい化学的実体の合成における前駆体としての有用性が見出されうる。
【0319】
EPAおよび心臓血管疾患:
魚油およびその関連ω−3脂肪酸が、二次予防における心臓血管疾患の管理において著しい心臓保護を示している(すなわち被験体が心臓血管症状を既に呈するかまたは心臓血管イベントを患っていたという設定)。しかし、これらの試験が有望であると共に、回答がなされていない主要な課題、特にEPA対DHAの相対的重要性および[例えば、1)心筋梗塞または狭心症の病歴がなくかつ血管形成術/ステント植込み術も冠動脈バイパスグラフトも受けておらず、また2)狭心症の臨床徴候または心電計の異常がない場合の患者における]一次予防の設定におけるこれら脂肪酸の有効性といった課題が数多く残っている。
【0320】
Japanese EPA Lipid Intervention Study(「JELIS」)は、98%超の精製EPA−エチルエステルをスタチンと併用した大規模無作為化対照試験において、これら課題に対処しようと努めた(Yokoyama M.およびH.Origasa、Amer.Heart J.、146:613−620頁(2003年);Yokoyama M.ら、Lancet、369:1090−1098頁(2007年))。予測によると、筆者らは、EPA+スタチンの投与を受ける患者における心臓血管イベントがスタチン単独の投与を受ける患者に対して19%減少することを発見した。これは、EPAが本質的に心保護薬であり、それ故、EPAリッチオイルの市場への参入に役立つはずであることを強く裏付けるものである。それはまた、EPA/レゾルビン型混合物をスタチンと併用するための機会、および/または、本明細書中に記載の組換えヤロウィア(Yarrowia)に由来するオイルが、現在魚油から供給され、製造されるEPA−エチルエステル薬(例えばMochida Pharmaceutical Co.,Ltd.(Tokyo,Japan)製のEPADEL)の生産におけるEPAの高純度供給源として使用されるための機会を提供しうる。
【0321】
C反応性タンパク質(CRP)が、様々な炎症性および代謝状態、例えば心臓代謝疾患(例えば、メタボリックシンドローム、非アルコール性脂肪性肝炎、非アルコール性脂肪肝疾患、「インスリン抵抗性」などの前糖尿病状態(pre−diabetic condition)、糖尿病)、神経行動学的症状(例えば、アルツハイマー病、注意欠陥/多動性障害、うつ病、双極性障害、統合失調症、分娩後うつ病、更年期障害、例えば体熱感)、炎症性障害、例えば、大腸炎、クローン病、過敏性腸疾患、およびレゾルビン関連疾患(resolvin−related disorder)(CRPの血清濃度の上昇が疾患リスクの増大に関連する場合)の追跡における有用なバイオマーカーであることが長年にわたって確立されてきた(N.Engl.J.Med.、343(7):512頁(2000年);「Diabetes Care」、28:878−881頁(2005年);「Digestive and Liver Disease」、40(3):194−199頁(2008年);「Applied Physiology,Nutrition,and Metabolism」、32(6):1008−1024頁(2007年);American Journal of Physiology、294(1,Pt.1):G27−G38頁(2008年);「Progress in Nutrition」、9(2):124−133頁(2007年);「Nutrients,Stress,and Medical Disorders」、317−324頁(2006年).Editor:Yehuda、Shlomo;Mostofsky、David I.、Publisher:Humania Press Inc.(Totowa,NJ))。C反応性タンパク質の血清濃度を試験するための方法は高度化し、十分に特徴づけられている。多数の試験では、ω−3脂肪酸の投与がC反応性タンパク質の血清レベルの低下と相関しうることが結論づけられている(Nutrition Research(New York,NY,United States)、28(5):309−314頁(2008年);Journal of Biological Sciences(Faisalabad,Pakistan)、7(8):1368−1374頁(2007年);「Nephrology,Dialysis,Transplantation」、22(12):3561−3567頁(2007年))。したがって、例えば上記の臨床症状を治療するための方法、および摂取可能な形態での本明細書中に記載の組換え微生物オイルの投与を介したC反応性タンパク質の血清レベルを低下させるための方法を提供することで、臨床症状が治療されるかまたはC反応性タンパク質のレベルが低下することは本発明の範囲内にある。
【0322】
ω−3 PUFAおよび遺伝子発現の栄養調節:
長鎖ω−3 PUFAが1)脂肪酸生合成から分離され、グリコーゲン貯蔵に向けられるグルコースと、2)トリグリセリド合成から分離され、酸化に向けられる脂肪酸と、を誘導可能な燃料のパーティショナー(partitioners)として機能することが周知である。この再区分の正味効果は、循環するトリグリセリドの減少と、一部の種では脂肪沈着の低下である。これらの長鎖ω−3 PUFAが代謝に対するそれらの効果を発揮する分子機構が順に遺伝子発現を調節する様々なリガンド活性化転写因子との相互作用の結果であるという科学的証拠が増加している。
【0323】
今日まで、脂肪酸による遺伝子転写の調節は、少なくとも4つの転写因子ファミリー、すなわちPPAR(ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体)、LXR(肝臓x受容体)、HNF−4α(肝核因子4)およびSREBP(ステロール調節因子結合タンパク質)の活性の変化または豊富さに起因すると思われる(Clarke S.D.、J Nutr.、131(4):1129−1132頁(2001年)およびCurr.Opin.Lipidology、15:13−18頁(2004年);Pegorier J.−P.ら、J Nutr.、134:2444S−2449S頁(2004年))。この相互作用の例としては、EPAが血清トリグリセリドを肝臓内のPPARαの活性化を介して低下させ、かつ(特に血管壁のレベルでの)その抗炎症活性の一部がまた動脈性マクロファージにおけるPPARの生物機構によって媒介されうると考えられる。
【0324】
脂肪酸が特定の遺伝子発現を制御する機構についての知識は、全身脂質代謝のよりよい管理のための新しい治療法の開発ならびに冠動脈心疾患および他の慢性疾患における確立されたリスク因子であるトリグリセリドおよびコレステロールの血清レベルの制御への洞察を提供しうる。同様に、将来の研究では、EPA対DHAで最適なヒト健康の維持および促進における栄養素−遺伝子相互作用の調節因子として異なる役割を発揮することが理解されると予想される。
【0325】
ω−3 PUFAおよび脂質異常症:
魚油の摂取は、心臓疾患のリスクの増大をもたらす不都合なイベントである低密度リポタンパク質(LDL)コレステロールの微増に関連していることが多い。Theobald H.E.ら(Amer.J.Clinical Nutrition、79:558−563頁(2004年))の最近の試験によると、LDLコレステロールのこの増加が実際には(EPAとは対照的な)DHAに起因しうることが示唆される。具体的には、中年男性および女性において、約0.7gのDHAの日常摂取が3か月にわたりLDLコレステロールを7%増加させ、それに対し、精製EPAまたはEPAリッチオイルを使用した試験では、一般的にはLDLコレステロールでの同様の増加は報告されていない(Harris W.S.、Amer.J.Clinical Nutrition、65(付録):1645S−1654S(1997年))。低用量のDHAに起因してLDLコレステロールが増加する理由を明らかにするにはさらなる試験が必要であるが、潜在的にDHAを含有しない本発明のEPAリッチオイルの有用性は有意な臨床上の利点を有しうる。
【0326】
本明細書中に記載の組換え微生物オイルを精製し、比較的純粋なEPAを含有するオイルを得ることが望ましい場合があるが、他の実施形態では、EPAおよび少なくとも1つの他のPUFAが豊富に含まれる最終オイル産物の使用によって認められる利点がありうる。例えば、証拠によると、EPAおよびGLAの組み合わせの補給が血清脂質に対して好ましい効果を有しうることが示される。詳細には、M.LaidlawおよびB.J.Holub(Amer.J.Clinical Nutrition、77:37−42頁(2003年))での報告によると、健常女性において、EPAおよびDHA(全部で4g)とGLA(2g)の混合物を含む日常的補給により、血液脂質および脂肪酸特性が28日間で好ましく改変された。EPA、DHAおよびGLAの投与を受けた患者においては、患者のLDLコレステロールが11.3%低下したことに加え、心筋梗塞の10年リスク計算値が43%低下した。したがって、GLAの添加が、EPAおよびDHAがLDLコレステロールの微増を引き起こす傾向を打ち消した(Theobaldら、上記)。総合すれば、LaidlawおよびHolubおよびTheobaldらによる試験によると、DHAではなくEPAおよびGLAの双方が豊富に含まれるオイルにおいて臨床効果があることが示唆されうる。
【0327】
GLAおよびEPAサプリメントの組み合わせの有用性はまた、慢性炎症が関節炎、糖尿病および心臓疾患などの疾患に関することからそれを低減し、治療するための手段として幅広く普及している(F.ChiltonおよびL.Tucker、「Inflammation Nation:The First Clinically Proven Eating Plan to End Our Nation’s Secret Epidemic.」 Fireside Books)。具体的には、GLAの補給が炎症の脂質メディエーターの生成を低下させ、かつ慢性炎症性疾患(例えば関節リウマチ)の臨床徴候を軽減することが予め示されたが、この同じ脂肪酸の補給がまた、潜在的に有害な副作用である血清ARAレベルの著明な上昇を引き起こすことが知られた。これらの二分効果における理論的根拠は肝臓におけるΔ5デサチュラーゼ活性の存在に帰着され、それは(ω−6 Δ6デサチュラーゼ/Δ6エロンガーゼ経路を介して、またGLAおよびDGLA中間体を介して)必須ω−6脂肪酸LAからARAへの完全な変換を可能にした一方、好中球などの炎症性細胞においてDGLAをARAに変換する代謝能力が欠如した。したがって、EPAとの同時補給を行えば、肝臓におけるARAの合成が遮断される一方、DGLAの合成が可能になると仮定された。J.B.Barhamら(J.Nutr.、130:1925−1931頁(2000年))によるヒト摂食試験において、原則の臨床的証拠が確立され、ここでは(血清ARAレベルの上昇を引き起こすことなく)脂質メディエーターを低下させるGLAの能力を維持する補給方法ではEPAの添加が必要であることが示された。したがって、炎症に関するこれらの試験は、GLAおよびEPAを含有するオイルの有用性におけるさらなる裏付けを提供する(一方で、EPA補給の不在下でのGLAの使用は禁忌でありうる)。ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)においてGLAを生成するための方法は、PCT公開の国際公開第2006/033723号パンフレット中に教示される。
【0328】
好ましい実施形態の説明
油性酵母ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)の全脂質画分中の全脂肪酸のパーセントとしての53.2%超のEPAの合成が本明細書中に示される。
図3に示されるように、極めて多数のヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)の株を様々な遺伝子を野生型ATCC#20362ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)に統合させることによって作成し、ここで各形質転換体株は様々な量の(EPAを含む)PUFAを生成できた。Δ9エロンガーゼ/Δ8デサチュラーゼ経路を発現するいくつかの代表的な形質転換生物の遺伝子型および完全な脂質特性は下記の表7および8に示される。脂肪酸は16:0、16:1、18:0、18:1(オレイン酸)、18:2(LA)、18:3(ALA)、GLA、20:2(EDA)、DGLA、ARA、ETAおよびEPAとして同定され、それぞれの組成物は全脂肪酸の%として示される。「TFA%DCW」は、乾燥細胞重量のパーセントとしての細胞内の全脂肪酸を示す。
【0329】
オイル特性を、発酵培地(FM)中で2日間および高グルコース培地(HGM)中で5日間成長させたヤロウィア(Yarrowia)株からGC分析によって得た(培地レシピにおける一般的方法を参照)。GC特性は、異なる成長条件に基づき、実施例中に提供されるものとやや異なりうる(例えば、異なる培地、フラスコまたはチューブでの成長、および成長時間の長さなど)。
【0332】
上の表中に見られるように、Δ9エロンガーゼ/Δ8デサチュラーゼ経路を発現しかつ大部分のEPA生成する株は、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)の組換え株Y4305であった。この生物において得られるGCクロマトグラムを
図4に示す。株Y4305内部に含まれる遺伝子組換えのより詳細な概要について下記に説明する(ここで完全な詳細は実施例に提供される)。
(1)GPD::FmD12::Pex20およびYAT1::FmD12::OCTキメラ遺伝子内部でのフザリウム・モニリフォルメ(Fusarium moniliforme)Δ12デサチュラーゼの2つのコピーの発現、
(2)GPM/FBAIN::FmD12S::OCT、EXP1::FmD12S::AcoおよびYAT1::FmD12S::Lip2キメラ遺伝子内部でのフザリウム・モニリフォルメ(Fusarium moniliforme)Δ12デサチュラーゼに由来する(ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)における発現のためにコドン最適化された)合成Δ12デサチュラーゼ遺伝子の3つのコピーの発現、
(3)YAT1::ME3S::Pex16およびEXP1::ME3S::Pex20キメラ遺伝子内部でのモルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)C
16/18エロンガーゼに由来する(ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)における発現のためにコドン最適化された)合成C
16/18エロンガーゼ遺伝子の3つのコピーの発現、
(4)GPAT::EgD9e::Lip2キメラ遺伝子内部でのユーグレナ・グラシリス(Euglena gracilis)Δ9エロンガーゼの1つのコピーの発現、
(5)EXP1::EgD9eS::Lip1、FBAINm::EgD9eS::Lip2、FBA::EgD9eS::Pex20、GPD::EgD9eS::Lip2およびYAT1::EgD9eS::Lip2キメラ遺伝子内部でのユーグレナ・グラシリス(Euglena gracilis)Δ9エロンガーゼに由来する(ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)における発現のためにコドン最適化された)合成Δ9エロンガーゼ遺伝子の5つのコピーの発現、
(6)YAT1::E389D9eS::Octキメラ遺伝子内部でのユートレプティエラ属(Eutreptiella sp.)CCMP389Δ9エロンガーゼに由来する(ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)における発現のためにコドン最適化された)合成Δ9エロンガーゼ遺伝子の1つのコピーの発現、
(7)FBAINm::EgD8M::Pex20、EXP1::EgD8M::Pex16、GPDIN::EgD8M::Lip1、YAT1::EgD8M::Aco、およびFBAIN::EgD8M::Lip1キメラ遺伝子内部での(ユーグレナ・グラシリス(Euglena gracilis)Δ8デサチュラーゼに由来し、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica))における発現のためにコドン最適化された)合成Δ8デサチュラーゼに由来する突然変異体Δ8デサチュラーゼ遺伝子の7つのコピーの発現、
(8)FBAIN::EgD5::Acoキメラ遺伝子内部でのユーグレナ・グラシリス(Euglena gracilis)Δ5デサチュラーゼの1つのコピーの発現、
(9)EXP1::EgD5S::Pex20、YAT1::RD5S::OCT、YAT1::EgD5S::AcoおよびEXP1::EgD5S::Acoキメラ遺伝子内部でのユーグレナ・グラシリス(Euglena gracilis)Δ5デサチュラーゼに由来する(ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)における発現のためにコドン最適化された)合成Δ5デサチュラーゼ遺伝子の3つのコピーの発現、
(10)YAT1::RD5S::OCTキメラ遺伝子内部でのペリディニウム属(Peridinium sp.)CCMP626Δ5デサチュラーゼに由来する(ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)における発現のためにコドン最適化された)合成Δ5デサチュラーゼ遺伝子の1つのコピーの発現、
(11)EXP1::PaD17::Pex16およびFBAINm::PaD17::Acoキメラ遺伝子内部でのピチウム・アファニデルマツム(Pythium aphanidermatum)Δ17デサチュラーゼの2つのコピーの発現、
(12)YAT1::PaD17S::Lip1キメラ遺伝子内部でのピチウム・アファニデルマツム(Pythium aphanidermatum)Δ17デサチュラーゼに由来する(ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)における発現のためにコドン最適化された)合成Δ17デサチュラーゼ遺伝子の1つのコピーの発現、
(13)YAT1::YlCPT1::AcoおよびGPD::YlCPT1::Acoキメラ遺伝子内部でのヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ジアシルグリセロールコリンホスホトランスフェラーゼの2つのコピーの発現、
(14)ペルオキシソーム生合成因子10タンパク質(PEX10)をコードする天然ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)遺伝子の破壊、
(15)SCP2(YALI0E01298g;GenBank登録番号XM_503410)をコードする天然ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)遺伝子の破壊、
(16)YALI0C18711g(GenBank登録番号XP_501987をコードする天然ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)遺伝子の破壊)、および
(17)YALI0F24167g(GenBank登録番号XM_505819)をコードする天然ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)遺伝子の破壊。
【0333】
したがって、次の脂肪酸濃度を有する微生物オイルが全脂肪酸の重量パーセントとして次のように記載される。
a)約48%〜約55%EPA;
b)約1.5%〜約3.0%ETA;
c)約0.1%〜0.7%ARA;
d)約1.0%〜約2.5%DGLA;
e)約2.0%〜約3.5%EDA;
f)約2.0%〜約3.0%ALA;
g)約17.0%〜約20.0%リノール酸(18:2);
h)約3.5%〜約6.5%オレイン酸(18:1);
i)約1.0%〜約2.0%ステアリン酸(18:0);
j)約0.5%〜約3.5%パルミトレイン酸(16:1);および
k)約2.5%〜約4.5%パルミチン酸(16:0)。
【0334】
他の実施形態では、微生物オイルは本明細書中に提供され、ここで前記オイルは全脂肪酸の重量パーセントとして次の脂肪酸濃度を有する。
a)少なくとも約43.3%EPA;
b)約23.6%未満のLA(18:2);および
c)約9.4%未満のオレイン酸(18:1)。
【0335】
より好ましい実施形態では、微生物オイルは、全脂肪酸の重量パーセントとして約4.2%未満のEDAをさらに含む。
【0336】
出願人が全脂肪酸の重量パーセントとして最大で55.6%のEPAの生成を示すが、これら特定のヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)の組換え株では、本明細書に記載のように、宿主細胞内でのEPAの濃度であればさらなる遺伝子組換えを介して有意に修飾されうると考えられる。この結果としては、EPAの生成あるいはEPAと少なくとも1つの他のω−3および/またはω−6PUFAとを含むヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)オイルの生成が増大しうる。さらに、本明細書中に記載の教示および結果に基づき、当業者が、実現可能性および商業的有用性がΔ9エロンガーゼ/Δ8デサチュラーゼ経路を使用した種々のω−3および/またはω−6 PUFAの合成のための製造プラットフォームとしての油性酵母の使用によりもたらされることを理解することが期待される。
【実施例】
【0337】
本発明は、以下の実施例においてさらに定義される。これらの実施例が本発明の好ましい実施形態を示す一方であくまで例示目的で与えられることは理解されるべきである。上の考察およびこれらの実施例から、当業者は本発明の本質的特性をその主旨および範囲から逸脱することなく確認でき、本発明の様々な変更および改良を行い、それを様々な用法および条件に適合させることができる。
【0338】
一般的方法
実施例において使用される標準の組換えDNAおよび分子クローニング技術は当該技術分野で周知であり、1)Sambrook J.、Fritsch E.F.およびManiatis T. 「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」;Cold Spring Harbor Laboratory(Cold Spring Harbor,NY)(1989年)(Maniatis);2)T.J.Silhavy、M.L.Bennan、およびL.W.Enquist,「Experiments with Gene Fusions」;Cold Spring Harbor Laboratory(Cold Spring Harbor,NY)(1984年);および3)Ausubel F.M.ら、「Current Protocols in Molecular Biology」、Greene Publishing Assoc.およびWiley−Interscience(Hoboken,NJ)発行(1987)に記載されている。
【0339】
微生物培養物の維持および成長に適する材料および方法は当該技術分野で周知である。次の例における使用に適する技術は、「Manual of Methods for General Bacteriology」(Phillipp Gerhardt R.G.E.Murray、Ralph N.Costilow、Eugene W.Nester,WIllis A.Wood、Noel R.KriegおよびG.Briggs Phillips編)、American Society for Microbiology(Washington,D.C.)(1994年));またはThomas D.Brock「Biotechnology:A Textbook of Industrial Microbiology、第2版、Sinauer Associates(Sunderland,MA)(1989年)に示される場合に応じて見出されうる。微生物細胞の成長および維持において使用されるすべての試薬、制限酵素および材料は、他に規定がなければ、Aldrich Chemicals(Milwaukee,WI)、DIFCO Laboratories(Detroit,MI)、New England Biolabs,Inc.(Beverly,MA)、GIBCO/BRL(Gaithersburg,MD)、またはSigma Chemical Company(St.Louis,MO)から入手した。大腸菌(E.coli)株は、典型的にはLuria Bertani(LB)プレート上で37℃で成長させた。
【0340】
一般的な分子クローニングを標準的方法(Sambrookら、上記)に従って実施した。オリゴヌクレオチドをSigma−Genosys(Spring,TX)によって合成した。個別のPCR増幅反応は、他に規定がなければ、PCR緩衝液(10mM KCl、10mM (NH
4)
2SO
4、20mMトリス−HCl(pH8.75)、2mM MgSO
4、0.1%Triton X−100)、100μg/mLのBSA(最終濃度)、200μMの各デオキシリボヌクレオチド三リン酸、10pモルの各プライマーおよび1μlのPfu DNAポリメラーゼ(Stratagene(San Diego,CA))を含む50μlの全容量で行った。部位特異的突然変異誘発は、製造業者の使用説明書により、StratageneのQuickChange(商標)Site−Directed Mutagenesisキットを使用して行った。PCRまたは部位特異的突然変異誘発がサブクローン化に関与する場合、コンストラクトを配列決定し、配列に誤りが全く導入されていないことを確認した。PCR産物をPromegaのpGEM−T−easyベクター(Madison,WI)にクローン化した。
【0341】
DNA配列を、ベクターおよび挿入物に特異的なプライマーの組み合わせを使用する染料ターミネーター技術(米国特許第5,366,860号明細書;欧州特許第272,007号明細書)を使用してABI Automaticシーケンサ上で生成した。配列編集をSequencher(Gene Codes Corporation(Ann Arbor,MI))で行った。すべての配列が、両方向で少なくとも2倍の範囲を示す。遺伝子配列の比較をDNASTARソフトウェア(DNA Star,Inc.)を使用して行った。あるいは、遺伝子配列の操作を、Genetics Computer Group Inc.から入手可能な一連のプログラムを使用して行った(Wisconsin Package Version 9.0、Genetics Computer Group(GCG)(Madison,WI))。GCGプログラム「Pileup」は、12のギャップ作成デフォルト値および4のギャップ伸長デフォルト値の場合で使用した。GCG「ギャップ(Gap)」または「ベストフィット(Bestfit)」プログラムは、50のデフォルトギャップ作成ペナルティおよび3のデフォルトギャップ伸長ペナルティの場合で使用した。他に規定されない限り、他のすべての場合、GCGプログラムデフォルトパラメータを使用した。
【0342】
BLAST(Basic Local Alignment Search Tool;Altschul S.F.ら、J.Mol.Biol.、215:403−410頁(1993年)およびNucleic Acids Res.、25:3389−3402頁(1997年))探索を行い、(すべての非冗長GenBank CDS翻訳、三次元構造Brookhaven Protein Data Bank、SWISS−PROTタンパク質配列データベース、EMBLおよびDDBJデータベースから得られる配列を含む)BLAST「nr」データベース中に含まれる配列に対して類似性を有する単離配列を同定した。配列をすべてのリーディングフレームにおいて翻訳し、NCBIによって提供されるBLASTXアルゴリズム(Gish W.およびStates D.J. Nature Genetics、3:266−272頁(1993年))を使用し、「nr」データベース中に含まれるすべての一般に公開されているタンパク質配列との類似性について比較した。
【0343】
クエリー配列が最高の類似性を有した配列を要約するBLAST比較の結果を、%同一性、%類似性、および期待値によって報告する。「%同一性」は、2つのタンパク質間で一致するアミノ酸の百分率として規定される。「%類似性」は、2つのタンパク質間で一致するかまたは保存されるアミノ酸の百分率として規定される。「期待値」は、このサイズのデータベースの探索において全く偶然に期待される、所与のスコアとの一致の統計的有意性を推定し、一致の数を特定する。
【0344】
略語の意味は以下のとおりである。「sec」は秒を意味し、「min」は分を意味し、「h」は時間を意味し、「d」は日を意味し、「μL」はマイクロリットルを意味し、「mL」はミリリットルを意味し、「L」はリットルを意味し、「μM」はマイクロモル濃度を意味し、「mM」はミリモル濃度を意味し、「M」はモル濃度を意味し、「mmol」はミリモルを意味し、「μmole」はマイクロモルを意味し、「g」はグラムを意味し、「μg」はマイクログラムを意味し、「ng」はナノグラムを意味し、「U」は単位を意味し、「bp」は塩基対を意味し、「kB」はキロベースを意味し、「DCW」は乾燥細胞重量を意味し、「TFA」は全脂肪酸を意味する。
【0345】
発現カセットにおける命名法
発現カセットの構造は「X::Y::Z」の単純な表記法により示されることになり、ここでXはプロモーター断片を記述し、Yは遺伝子コード領域断片を記述し、Zはターミネーター断片を記述し、それらはすべて互いに作動可能に連結される。
【0346】
ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)の形質転換および培養
ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)株ATCC#20362をAmerican Type Culture Collection(Rockville,MD)から購入した。ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)株を、慣例的には下記の手法に従い、いくつかの培地中、28〜30℃で成長させた。寒天プレートは20g/Lの寒天の各液体培地への添加によって必要であることから、標準的方法に従って調製した。
【0347】
YPD寒天培地(1リットル当たり):10gの酵母抽出物[Difco]、20gのBactoペプトン[Difco]、および20gのグルコース
【0348】
基本最少培地(MM)(1リットル当たり):20gのグルコース、1.7gのアミノ酸を有しない酵母窒素塩基、1.0gのプロリン、およびpH6.1(調節なし)
【0349】
最少培地+ウラシル(MM+ウラシルまたはMMU)(1リットル当たり):上記のようにMM培地を調製し、0.1gのウラシルおよび0.1gのウリジンを添加する。
【0350】
最少培地+ウラシル+スルホニル尿素(MMU+SU)(1リットル当たり):上記のようにMMU培地を調製し、280mgのスルホニル尿素を添加する。
【0351】
最少培地+ロイシン+リシン(MMLeuLys)(1リットル当たり):上記のようにMM培地を調製し、0.1gのロイシンを添加する。
【0352】
最少培地+5−フルオロオロチン酸(MM+5−FOA)(1リットル当たり):(供給者から受け取った各バッチ内部でばらつきが生じることから)100mg/L〜1000mg/Lの濃度範囲に対するFOA活性試験に基づく、20gのグルコース、6.7gの酵母窒素塩基、75mgのウラシル、75mgのウリジンおよび適量のFOA(Zymo Research Corp.(Orange,CA))。
【0353】
高グルコース培地(HGM)(1リットル当たり):80グルコース、2.58gのKH
2PO
4および5.36gのK
2HPO
4、pH7.5(調節を必要としない)
【0354】
酵母抽出物を有しない発酵培地(YEを有しないFM)(1リットル当たり):6.70g/Lの酵母窒素塩基、6.00gのKH
2PO
4、2.00gのK
2HPO
4、1.50gのMgSO
4*7H
2O、および20gのグルコース
【0355】
発酵培地(FM)(1リットル当たり):上記のようにYEを有しないFM培地を調製し、5.00gの酵母抽出物(BBL)を添加する。
【0356】
特に断りのない限り、ヤロウィア・リポリティカ(Y.lipolytica)の形質転換を、Chen D.C.ら(Appl.Microbiol.Biotechnol.,48(2):232−235頁(1997年))の方法に従って行った。つまり、ヤ
ロウィア(Yarrowia)をYPDプレート上に画線培養し、30℃で約18時間成長させた。多量の数白金耳の細胞をプレートからこすり、50%PEG2.25mL、平均分子量3350;2M酢酸Li0.125mL、pH6.0;および2M DTT0.125mLを含有する形質転換緩衝液1mL中に再懸濁した。次いで、約500ngの線状化プラスミドDNAを再懸濁細胞100μl中でインキュベートし、15分間隔でボルテックス混合しながら39℃で1時間維持した。細胞を選択培地プレート上に播種し、30℃で2〜3日間維持した。
【0357】
ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)の脂肪酸分析
脂肪酸分析においては、細胞を遠心分離により回収し、脂質をBligh E.G.およびDyer W.J.(Can.J.Biochem.Physiol.,37:911−917頁(1959年))に記載のように抽出した。脂肪酸メチルエステル[「FAME」]を脂質抽出物とナトリウムメトキシドとのエステル交換により調製し(Roughan G.、およびNishida I.、Arch Biochem Biophys.,276(1):38−46頁(1990年))、次いで30m×0.25mm(内径) HP−INNOWAX(Hewlett−Packard)カラムを具備するHewlett−Packard 6890GCを用いて分析した。オーブン温度は、3.5℃/分で170℃(25分間保持)〜185℃であった。
【0358】
直接の塩基エステル交換においては、ヤロウィア(Yarrowia)培養物(3mL)を採取し、蒸留水で1回洗浄し、真空下、Speed−Vacで5〜10分間乾燥した。ナトリウムメトキシド(1%の100μl)を試料に添加し、次いで試料をボルテックスし、20分間振とうした。3滴の1M NaClおよびヘキサン400μlの添加後、試料をボルテックスし、回転した。上部層を除去し、上記のようにGCにより分析した。
【0359】
実施例1
全脂質の約14%のEPAをΔ9エロンガーゼ/Δ8デサチュラーゼ経路を介して生成するためのヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)株Y4086の作成
本実施例では、Δ9エロンガーゼ/Δ8デサチュラーゼ経路の発現を介して全脂質に対して約14%のEPAを生成可能なヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ATCC#20362に由来する株Y4086の作成について記載する(
図3)。
【0360】
株Y4086の作成には、株Y2224(野生型ヤロウィア(Yarrowia)株ATCC#20362のUra3遺伝子の自発的突然変異からのFOA耐性突然変異体)、(Leu−表現型で17%EDAを生成する)株Y4001、株Y4001U(Leu−およびUra−表現型)、(Leu−表現型で18%DGLAを生成する)株Y4036、株Y4036U(Leu−およびUra−表現型)および(Ura−表現型で12%ARAを生成する)株Y4070の作成が必要であった。株Y2224、Y4001、Y4001U、Y4036、Y4036UおよびY4070の作成についてのさらなる詳細は、(ここで参照により本明細書中に援用される)PCT公開の国際公開第2008/073367号パンフレットの実施例7に記載されている。
【0361】
野生型ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ATCC#20362についての株Y4070の最終的な遺伝子型は、Ura−、未知の1−、未知の3−、Leu+、Lys+、GPD::FmD12::Pex20、YAT1::FmD12::OCT、YAT1::ME3S::Pex16、GPAT::EgD9e::Lip2、EXP1::EgD9eS::Lip1、FBAINm::EgD9eS::Lip2、FBAINm::EgD8M::Pex20、EXP1::EgD8M::Pex16、FBAIN::EgD5::Aco、EXP1::EgD5S::Pex20、YAT1::RD5S::OCTであった。
【0362】
全脂質の約14%のEPAを生成するためのY4086株の作成
コンストラクトpZP3−Pa777U(
図5A;配列番号127)を作成し、3種のΔ17デサチュラーゼ遺伝子を株Y4070のPox3遺伝子座(GenBank登録番号AJ001301)に組み込み、それによりEPAの生成を可能にした。pZP3−Pa777Uプラスミドは以下の成分を有した。
【0363】
【表17】
【0364】
pZP3−Pa777UプラスミドをAscI/SphIで消化し、次いで一般的方法による株Y4070の形質転換のために用いた。形質転換体細胞をMMプレート上に播種
し、30℃で2〜3日間維持した。次いで、単一のコロニーをMMプレート上に再度画線培養し、次いで30℃で液体MMLeuLysに接種し、250rpm/分で2日間振とうした。細胞を遠心分離により回収し、脂質を抽出し、FAMEをエステル交換により調製し、次いでHewlett−Packard 6890GCを用いて分析した。
【0365】
GC分析によると、EPAがpZP3−Pa777Uの3種のキメラ遺伝子を有する形質転換体中に存在するが親Y4070株中に存在しないことが示された。選択された96株の大部分が全脂質の10〜13%のEPAを生成した。それぞれ全脂質の約14.2%および約13.8%のEPAを生成した2つの株(すなわち#58および#79)があった。これらの2つの株は、それぞれY4085およびY4086と称された。
【0366】
野生型ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ATCC#20362についての株Y4086の最終的な遺伝子型は、Ura3+、Leu+、Lys+、未知の1−、未知の2−、YALI0F24167g−、GPD::FmD12::Pex20、YAT1::FmD12::OCT、YAT1::ME3S::Pex16、GPAT::EgD9e::Lip2、EXP1::EgD9eS::Lip1、FBAINm::EgD9eS::Lip2、FBAINm::EgD8M::Pex20、EXP1::EgD8M::Pex16、FBAIN::EgD5::Aco、EXP1::EgD5S::Pex20、YAT1::RD5S::OCT、YAT1::PaD17S::Lip1、EXP1::PaD17::Pex16、FBAINm::PaD17::Acoであった。
【0367】
実施例2
Δ9エロンガーゼ/Δ8デサチュラーゼ経路を介して全脂質の約37%EPAを生成するためのヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)株Y4128の作成
本実施例では、全脂質に対して約37.6%のEPA(すなわちY4086に対して全脂肪酸のパーセントとしてEPA濃度の2倍超の増加)を生成可能なヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ATCC#20362に由来する株Y4128の作成について記載する。
【0368】
株Y4128の作成には、(実施例1に記載の)株Y2224、Y4001、Y4001U、Y4036、Y4036U、Y4070およびY4086の作成ならびに株Y4086U1(Ura−)の作成が必要であった。
【0369】
株Y4086U1(Ura−)の作成
株Y4086U1を、株Y4086内部のコンストラクトpY117(
図5B;配列番号128;PCT公開の国際公開第2008/073367号パンフレット中に記載)におけるCreリコンビナーゼ酵素の一時的発現を介して作成し、Ura−表現型を生成した。これによりゲノムからLoxPサンドイッチ型Ura3遺伝子が放出された。プラスミドpY117内の突然変異したヤロウィア(Yarrowia)アセトヒドロキシ酸シンターゼ酵素(すなわち、配列番号121で示されるW497L突然変異を含む「AHAS」;E.C.4.1.3.18;GenBank登録番号XP_501277;PCT公開の国際公開第2006/052870号パンフレットを参照)にスルホニル尿素除草剤耐性(SU
R)を付与し、それを陽性スクリーニングマーカーとして使用した。
【0370】
プラスミドpY117をプラスミドpY116(PCT公開の国際公開第2008/073367号パンフレットの実施例7に記載)から、PacI−SwaI部位に隣接される突然変異AHAS遺伝子のPacI−SwaIで消化されたpY116への挿入により誘導し、それによりLEU選択可能マーカーをスルホニル尿素マーカーと交換した。した
がって、コンストラクトpY117は以下の成分を有した。
【0371】
【表18】
【0372】
プラスミドpY117を用い、株Y4086を一般的方法に従って形質転換した。形質転換後、細胞をMMU+SU(280μg/mLのスルホニル尿素;クロリムロンエチルとしても知られる、E.I.duPont de Nemours & Co.,Inc.(Wilmington,DE))プレート上に播種し、30℃で2〜3日間維持した。MMU+SUプレート上で成長させた各SU
Rコロニーを採取し、30℃でYPD液体培地に画線培養し、250rpm/分で1日間振とうし、pY117プラスミドを救済した。成長させた培養物をMMUプレート上に画線培養した。30℃で2日後、各コロニーをMMおよびMMUプレート上に再度画線培養した。MMU上で成長できるがMMプレート上で成長できないコロニーを選択した。Ura−表現型を有するこれらの株の中の2つをY4086U1およびY4086U2と称した。
【0373】
全脂質の約37%のEPAを生成するためのY4128株の作成
コンストラクトpZP2−2988(
図6A;配列番号129)を作成し、1種のΔ12デサチュラーゼ遺伝子、2種のΔ8デサチュラーゼ遺伝子、および1種のΔ9エロンガーゼ遺伝子を株Y4086U1のPox2遺伝子座(GenBank登録番号AJ001300)に組み込み、それによりEPAのより高レベルの生成を可能にした。pZP2−2988プラスミドは以下の成分を有した。
【0374】
【表19】
【0375】
pZP2−2988プラスミドをAscI/SphIで消化し、次いで一般的方法に従って株Y4086U1の形質転換用に使用した。形質転換体細胞をMMプレート上に播種し、30℃で2〜3日間維持した。単一のコロニーをMMプレート上に再度画線培養し、次いで液体MMLeuLysに30℃で接種し、250rpm/分で2日間振とうした。
細胞を遠心分離によって回収し、HGM中に再懸濁し、次いで250rpm/分で5日間振とうした。細胞を遠心分離遠心分離によって回収し、脂質を抽出し、FAMEをエステル交換によって調製し、次いでHewlett−Packard 6890GCで分析した。
【0376】
GC分析によると、選択した96株の大部分が全脂質の12〜15.6%EPAを生成することが示された。全脂質の約37.6%および16.3%EPAを生成する2つの株(すなわち、グループI内の#37およびグループII内の#33)があった。これら2つの株はそれぞれY4128およびY4129と称した。
【0377】
野生型ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ATCC#20362についての株Y4128の最終的な遺伝子型は、YALI0F24167g−、Pex10−、未知の1−、未知の2−、GPD::FmD12::Pex20、YAT1::FmD12::OCT、GPM/FBAIN::FmD12S::OCT、YAT1::ME3S::Pex16、GPAT::EgD9e::Lip2、EXP1::EgD9eS::Lip1、FBAINm::EgD9eS::Lip2、FBA::EgD9eS::Pex20、FBAINm::EgD8M::Pex20、EXP1::EgD8M::Pex16、GPDIN::EgD8M::Lip1、YAT1::EgD8M::Aco、FBAIN::EgD5::Aco、EXP1::EgD5S::Pex20、YAT1::RD5S::OCT、YAT1::PaD17S::Lip1、EXP1::PaD17::Pex16、FBAINm::PaD17::Acoであった。2007年8月23日にAmerican Type Culture Collectionに寄託したヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)株Y4128が有する名称はATCC PTA−8614である。
【0378】
実施例3
全脂質の53%超のEPAをΔ9エロンガーゼ/Δ8デサチュラーゼ経路を介して生成するための最適化されたヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)株Y4305の作成
本実施例では、Δ9エロンガーゼ/Δ8デサチュラーゼ経路の発現を介し、全脂質に対して53%超のEPAを生成可能なヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ATCC#20362に由来する株Y4305の作成について記載する(
図3)。
【0379】
株Y4305の作成には、(実施例1に記載の)株Y2224、Y4001、Y4001U、Y4036、Y4036U、Y4070およびY4086、(実施例2に記載の)株Y4086U1およびY4128、ならびに株Y4128U3(Ura−)、(全脂質の42%EPAを生成する)Y4217、Y4217U2(Ura−)、(全脂質の46.5%EPAを生成する)Y4259およびY4259U2(Ura−)の作成が必要であった。
【0380】
Y4128U株の作成
株Y4128中のUra3遺伝子を破壊するため、コンストラクトpZKUE3S(
図6B;配列番号130)を作成し、EXP1::ME3S::Pex20キメラ遺伝子を株Y4128のUra3遺伝子に組み込んだ。プラスミドpZKUE3Sは以下の成分を有した。
【0381】
【表20】
【0382】
プラスミドpZKUE3SをSphI/PacIで消化し、次いで一般的方法による株Y4128の形質転換のために用いた。形質転換後、細胞をMM+5−FOA選択プレート上に播種し、30℃で2〜3日間維持した。
【0383】
MM+5−FOA選択プレート上で成長させた全部で24の形質転換体を採取し、新しいMM+5−FOAプレート上に再度画線培養した。細胞をプレートから掻き取り、脂質を抽出し、FAMEをエステル交換により調製し、次いでHewlett−Packard 6890GCを用いて分析した。
【0384】
GC分析によると、プレートからのpZKUE3Sによる形質転換体のすべてにおいて全脂質の10〜15%EPAの存在が示された。全脂質の12.9%、14.4%、15.2%、15.4%、14%および10.9%EPAを生成した#3、#4、#10、#12、#19および#21として同定された株をそれぞれY4128U1、Y4128U2、Y4128U3、Y4128U4、Y4128U5およびY4128U6(集合的にY4128U)と称した。
【0385】
Y4128(実施例2に記載のように37.6%)対Y4128U(平均13.8%、上記)での定量された%EPAの相違は成長条件の違いに基づく。詳細には、前者の培養物を液体培養物中で2日成長させた後に分析する一方、後者の培養物を寒天プレート上での成長後に分析した。出願人は、寒天プレートからの結果を液体培養物中での結果と比較する場合、全脂質中の%EPAが2〜3倍増加することを観察している。したがって、結果は直接的に比較し難いが、Y4128およびY4128U株の双方はEPAを多量に生成することが示される。
【0386】
全脂質の約42%のEPAを生成するためのY4217株の作成:コンストラクトpZKL2−5U89GC(
図7A;配列番号131)を作成し、1種のΔ9エロンガーゼ遺伝子、1種のΔ8デサチュラーゼ遺伝子、1種のΔ5デサチュラーゼ遺伝子、および1種のヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ジアシルグリセロールコリンホスホトランスフェラーゼ遺伝子(CPT1)を株Y4128U3のLip2遺伝子座(GenBank登録番号AJ012632)に組み込み、それによりEPAのより高レベルの生成を可能にした。pZKL2−5U89GCプラスミドは以下の成分を有した。
【0387】
【表21】
【0388】
pZKL2−5U89GCプラスミドをAscI/SphIで消化し、次いで一般的方法による株Y4128U3の形質転換のために用いた。形質転換体細胞をMMプレート上に播種し、30℃で3〜4日間維持した。単一のコロニーをMMプレート上に再度画線培養し、次いで30℃で液体MMに接種し、250rpm/分で2日間振とうした。細胞を遠心分離により回収し、HGM中に再懸濁し、次いで250rpm/分で5日間振とうした。細胞を遠心分離により回収し、脂質を抽出し、FAMEをエステル交換により調製し、次いでHewlett−Packard 6890GCを用いて分析した。
【0389】
GC分析によると、選択した96株の大部分が全脂質の32〜39.9%EPAを生成することが示された。全脂質の約41.1%、41.8%、41.7%、41.1%、41%および41.1%EPAを生成する6つの株(すなわち、第2群の#35、#38、#40、#71、#76および#81)があった。これら6つの株をそれぞれY4215、Y4216、Y4217、Y4218、Y4219およびY4220と称した。
【0390】
野生型ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ATCC#20362についての株Y4215、Y4216、Y4217、Y4218、Y4219およびY4220の最終的な遺伝子型は、YALI0C18711g−、Pex10−、YALI0F24167g−、未知の1−、未知の3−、GPD::FmD12::Pex20、YAT1::FmD12::OCT、GPM/FBAIN::FmD12S::OCT、YAT1::ME3S::Pex16、EXP1::ME3S::Pex20、GPAT::EgD9e::Lip2、EXP1::EgD9eS::Lip1、FBAINm::EgD9eS::Lip2、FBA::EgD9eS::Pex20、GPD::EgD9eS::Lip2、FBAINm::EgD8M::Pex20、FBAIN::EgD8M::Lip1、EXP1::EgD8M::Pex16、GPDIN::EgD8M::Lip1、YAT1::EgD8M::Aco、FBAIN::EgD5::Aco、EXP1::EgD5S::Pex20、YAT1::EgD5S::Aco、YAT1::RD5S::OCT、YAT1::PaD17S::Lip1、EXP1::PaD17::Pex16、FBAINm::PaD17::Aco、YAT1::YlCPT1::ACOであった。
【0391】
株Y4217U2(Ura−)の生成:株Y4217中のUra3遺伝子を破壊するため、コンストラクトpZKUE3S(
図6B;配列番号130)を用い、キメラEXP1::ME3S::Pex20遺伝子を株Y4217のUra3遺伝子に組み込んだ。形質転換後、細胞をMM+5−FOA選択プレート上に播種し、30℃で3〜4日間維持した。
【0392】
MM+5−FOAプレート上で成長させた全部で6種の形質転換体を採取し、MMプレートおよびMM+5−FOAプレート上に別々に再度画線培養した。6つ全部の株がUra−表現型を有した(すなわち細胞がMM+5−FOAプレート上で成長できたがMMプレート上で成長できなかった)。細胞をMM+5−FOAプレートから擦り取り、脂質を抽出し、FAMEをエステル交換により調製し、次いでHewlett−Packard
6890GCを用いて分析した。
【0393】
GC分析によると、MM+5−FOAプレート上で成長したpZKUE3Sによる形質転換体のすべてにおいて、全脂質の18.7%〜28.6%EPAの存在が示された。全脂質の22.5%および28.6%EPAを生成する2つの株(すなわち#4および#5)をそれぞれ株Y4217U1およびY4217U2と称した。
【0394】
全脂質の約46.5%のEPAを生成するためのY4259株の作成
コンストラクトpZKL1−2SP98C(
図7B;配列番号132)を作成し、1種のΔ9エロンガーゼ遺伝子、1種のΔ8デサチュラーゼ遺伝子、1種のΔ12デサチュラーゼ遺伝子、および1種のヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ジアシルグリセロールコリンホスホトランスフェラーゼ遺伝子(CPT1)を株Y4217U2のLip1遺伝子座(GenBank登録番号Z50020)に組み込み、それによりEPAのより高レベルの生成を可能にした。pZKL1−2SP98Cプラスミドは以下の成分を含有した。
【0395】
【表22】
【0396】
pZKL1−2SP98CプラスミドをAscI/SphIで消化し、次いで一般的方法による株Y4217U2の形質転換のために用いた。形質体転換細胞をMMプレート上に播種し、30℃で3〜4日間維持した。単一のコロニーをMMプレート上に再度画線培養し、次いで30℃で液体MMに接種し、250rpm/分で2日間振とうした。細胞を遠心分離により回収し、HGM中に再懸濁し、次いで250rpm/分で5日間振とうした。細胞を遠心分離により回収し、脂質を抽出し、FAMEをエステル交換により調製し、次いでHewlett−Packard 6890GCを用いて分析した。
【0397】
GC分析によると、選択した72株の大部分が全脂質の40〜44%を生成することが示された。全脂質の約46.5%、44.5%、44.5%、44.8%、44.5%および44.3%EPAを生成する6つの株(すなわち、#2、#4、#8、#9、#48および#58)があった。これら6つの株をそれぞれY4259、Y4260、Y4261、Y4262、Y4263およびY4264と称した。
【0398】
野生型ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ATCC#20362についての株Y4259の最終的な遺伝子型は、YALI0C18711g−、Pex10−、YALI0F24167g−、未知の1−、未知の3−、未知の8−、GPD::FmD12::Pex20、YAT1::FmD12::OCT、GPM/FBAIN::FmD12S::OCT、EXP1::FmD12S::Aco、YAT1::ME3S::Pex16、EXP1::ME3S::Pex20(2コピー)、GPAT::EgD9e::Lip2、EXP1::EgD9eS::Lip1、FBAINm::EgD9eS::Lip2、FBA::EgD9eS::Pex20、GPD::EgD9eS::Lip2、YAT1::EgD9eS::Lip2、FBAINm::EgD8M::Pex20、FBAIN::EgD8M::Lip1(2コピー)、EXP1::EgD8M::Pex16、GPDIN::EgD8M::Lip1、YAT1::EgD8M::Aco、FBAIN::EgD5::Aco、EXP1::EgD5S::Pex20、YAT1::EgD5S::Aco、YAT1::RD5S::OCT、YAT1::PaD17S::Lip1、EXP1::PaD17::Pex16、FBAINm::PaD17::Aco、YAT1::YlCPT1::ACO、GPD::YlCPT1::ACOであった。
【0399】
株Y4259U2(Ura−)の作成
Y4259株中のUra3遺伝子を破壊するため、コンストラクトpZKUM(
図8A;配列番号133)を用い、Ura3突然変異遺伝子を株Y4259のUra3遺伝子に組み込んだ。プラスミドpZKUMは以下の成分を有した。
【0400】
【表23】
【0401】
MM+5−FOAプレート上で成長させた全部で3種の形質転換体を採取し、MMプレートおよびMM+5−FOAプレート上に別々に再度画線培養した。3つ全部の株は、Ura−表現型を有した(すなわち、細胞はMM+5−FOAプレート上では成長できたがMMプレート上では成長できなかった)。細胞をMM+5−FOAプレートから掻き取り、脂質を抽出し、FAMEをエステル交換により調製し、次いでHewlett−Packard 6890GCを用いて分析した。
【0402】
GC分析によると、MM+5−FOAプレート上で成長させたpZKUMでの#1、#2および#3形質転換体中に全脂質中31.4%、31%および31.3%のEPAが存在することが示された。これら3つの株をそれぞれ株Y4259U1、Y4259U2およびY4259U3と称した(集合的にY4259U)。
【0403】
全脂質の約53%超のEPAを生成するためのY4305株の作成
コンストラクトpZKD2−5U89A2(
図8B;配列番号135)を作成し、1種のΔ9エロンガーゼ遺伝子、1種のΔ5デサチュラーゼ遺伝子、1種のΔ8デサチュラーゼ遺伝子および1種のΔ12デサチュラーゼ遺伝子を株Y4259U2のジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ(DGAT2)遺伝子座に組み込み、それによりEPAのより高レベルの生成を可能にした。pZKD2−5U89A2プラスミドは以下の成分を含有した。
【0404】
【表24】
【0405】
pZKD2−5U89A2プラスミドをAscI/SphIで消化し、次いで一般的方法による株Y4259U2の形質転換のために用いた。形質転換体細胞をMMプレート上に播種し、30℃で3〜4日間維持した。単一のコロニーをMMプレート上に再度画線培養し、次いで30℃で液体MMに接種し、250rpm/分で2日間振とうした。細胞を遠心分離により回収し、HGM中に再懸濁し、次いで250rpm/分で5日間振とうした。細胞を遠心分離により回収し、脂質を抽出し、FAMEをエステル交換により調製し、次いでHewlett−Packard 6890GCを用いて分析した。
【0406】
GC分析によると、選択した96株の大部分が全脂質の40〜46%EPAを生成することが示された。全脂質の約53.2%、46.4%、46.8%および47.8%EPAをそれぞれ生成する4つの株(すなわち、#12、#44、#56および#93)があった。これら4つの株をそれぞれY4305、Y4306、Y4307およびY4308と称した。
【0407】
野生型ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ATCC#20362についての株Y4305の最終的な遺伝子型は、SCP2−(YALI0E01298g)、YALI0C18711g−、Pex10−、YALI0F24167g−、未知の1−、未知の3−、未知の8−、GPD::FmD12::Pex20、YAT1::FmD12::OCT、GPM/FBAIN::FmD12S::OCT、EXP1::FmD12S::Aco、YAT1::FmD12S::Lip2、YAT1::ME3S::Pex16、EXP1::ME3S::Pex20(3コピー)、GPAT::EgD9e::Lip2、EXP1::EgD9eS::Lip1、FBAINm::EgD9eS::Lip2、FBA::EgD9eS::Pex20、GPD::EgD9eS::Lip2、YAT1::EgD9eS::Lip2、YAT1::E389D9eS::OCT、FBAINm::EgD8M::Pex20、FBAIN::EgD8M::Lip1(2コピー)、EXP1::EgD8M::Pex16、GPDIN::EgD8M::Lip1、YAT1::EgD8M::Aco、FBAIN::EgD5::Aco、EXP1::EgD5S::Pex20、YAT1::EgD5S::Aco、EXP1::EgD5S::ACO、YAT1::RD5S::OCT、YAT1::PaD17S::Lip1、EXP1::PaD17::Pex16、FBAINm::PaD17::Aco、YAT1::YlCPT1::ACO、GPD::YlCPT1::ACOであった。
【0408】
実施例4
ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)株Y4128の全脂質含量の測定
株Y4128によって生成される脂質の総量および脂質中の各脂肪酸種の百分率をGC分析によって測定した。具体的には、一般的方法に記載のように、全脂質を抽出し、エステル交換によってFAMEを調製し、次いでHewlett−Packard 6890GCで分析した。
【0409】
乾燥細胞重量を、10mLの培養物から細胞を遠心分離によって回収し、細胞を水で1回洗浄し、残留培地を除去し、細胞を80℃での真空オーブン下で一晩乾燥し、乾燥細胞を秤量することによって測定した。試料中のFAMEの総量を、GC特性におけるすべてのピークの領域を添加される既知の量の国内標準C15:0脂肪酸のピーク領域と比較することによって判定した。
【0410】
上記分析に基づき、乾燥細胞重量(DCW)の百分率としての脂質含量および脂質組成物を株Y4086およびY4128について測定した。株Y4128は株Y4086に対して減少した脂質含量を有した(11.2TFA%DCW対28.6TFA%DCW)。それに対し、下の表17に示されるように、株Y4128は脂質中で株Y4086に対して増加したEPA濃度を有した。脂肪酸は18:0(ステアリン酸)、18:1(オレイン酸)、LA、ALA、EDA、DGLA、ETrA、ETAおよびEPAとして同定しており、脂肪酸組成物は全脂肪酸(TFA)の重量パーセント(wt.%)として表した。
【0411】
【表25】
【0412】
mg EPA/g乾燥細胞として表され、次の式、すなわち(EPA/脂質の%)*(脂質/乾燥細胞重量の%)*0.1に従って計算される細胞内のEPA含量は、株Y4086中の28mg EPA/g DCWから株Y4128中の47.9mg EPA/g DCWに増加した。
【0413】
したがって、表17に示される結果によると、株Y4128は、親株Y4086と比較し、より低い全脂質含量(TFA%DCW)(11.2%対28.6%)、より高いEPA%TFA(42.8%対9.8%)、およびより高いEPA%DCW(4.8%対2.8%)を有することが示された。さらに、株Y4128は、EPAの量で全PUFAに対する3.3倍の増加(54%のPUFA[%TFAとして]対16.3%のPUFA[%TFAとして])およびC20PUFAの量で全PUFAに対する1.7倍の増加(73%のPUFA[%TFAとして]対42%のPUFA[%TFAとして])を有した。
【0414】
実施例5
Pex10の組み込みとしてのヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)株Y4128のpZP2−2988の組み込み部位の判定
株Y4128中のpZP2−2988のゲノム組み込み部位を、Clontech(Palo Alto,CA)製のUniversal GenomeWalker(商標)Kitを使用し、製造業者の推奨プロトコルに従い、ゲノム歩行によって判定した。プラスミドの配列に基づき、次のプライマー、すなわちpZP−GW−5−1(配列番号136)、pZP−GW−5−2(配列番号137)、pZP−GW−5−3(配列番号138)、pZP−GW−5−4(配列番号139)、pZP−GW−3−1(配列番号140)、pZP−GW−3−2(配列番号141)、pZP−GW−3−3(配列番号142)およびpZP−GW−3−4(配列番号143)をゲノム歩行用に設計した。
【0415】
ゲノムDNAを、改良されたプロトコルを有するQiagen Miniprepキットを使用し、株Y4128から調製した。細胞をYPD培地プレートからこすって1.5mLのマイクロチューブに入れた。細胞ペレット(100μl)を0.125Mのβ−メルカプトエタノールおよび1mg/mLのzymolyase 20T(MP Biomedicals,Inc.(Solon,OH))を含有する緩衝液P1 250μlで再懸濁した。細胞懸濁液を37℃で30分間インキュベートした。次いで、緩衝液P2(250μl)をチューブに添加した。チューブに数回挿入することによって混合後、緩衝液N3 350μlを添加した。次いで、混合物を、微量遠心管中で、14,000rpmで5分間遠心した。上清をQiagen miniprepスピンカラムに注ぎ、1分間遠心した。カラムを緩衝液PE0.75mLの添加によって1回洗浄後、14,000rpmで1分間遠心した。カラムを14,000rpmで1分間のさらなる遠心分離によって乾燥させた。ゲノムDNAを緩衝液EB50μlのカラムへの添加によって溶出し、1分間静置させておき、14,000rpmで1分間遠心した。
【0416】
精製ゲノムDNAをゲノム歩行用に使用した。DNAを、GenomeWalkerキットのプロトコルに従い、制限酵素DraI、EcoRV、PvuIIおよびStuIで別々に消化した。各消化においては、反応混合物は全容量100μl中に10×制限緩衝液10μl、適切な制限酵素10μlおよび8μgのゲノムDNAを含有した。反応混合物を37℃で4時間インキュベートした。次いで、消化DNA試料を、製造業者のプロトコルに正確に従い、Qiagen PCR精製キットを使用して精製した。DNA試料を水16μl中に溶出した。次いで、精製し、消化したゲノムDNA試料をGenome Walkerアダプターにライゲートした(下記)。各ライゲーション混合物は、Genome Walkerアダプター1.9μl、10×ライゲーション緩衝液1.6μl、T4 DNAリガーゼ0.5μlおよび消化されたDNA4μlを含有した。反応混合物を16℃で一晩インキュベートした。次いで、50mM トリスHCl72μl、1mM EDTA、pH7.5を各ライゲーション混合物に添加した。
【0417】
5’末端ゲノム歩行においては、各ライゲーション混合物1μlを鋳型として個別に使用し、4つのPCR反応を行った。さらに、各反応混合物は、10μMプライマーpZP−GW−5−1(配列番号136)1μl、10μMのキットに供給されたGenome Walkerアダプター1μl、水41μl、10×cDNA PCR反応緩衝液5μlおよびClontech製のAdvantage cDNAポリメラーゼミックス1μlを含有した。Genome Walkerアダプターの配列(配列番号144[上鎖]および145[下鎖])を下記に示す。
5’−GTAATACGACTCACTATAGGGCACGCGTGGTCGACGGCCCGGGCTGGT−3’
3’−H2N−CCCGACCA−5’
PCR条件は次の通りであった。95℃で1分間、その後に95℃で20秒間および68℃で3分間の30サイクル、その後に68℃で7分間の最終の伸長。PCR産物をそれぞれ1:100に希釈し、希釈PCR産物1μlを2回目のPCRにおける鋳型として使用した。条件は、pZP−GW−5−2(配列番号137)がpZP−GW−5−1(配列番号136)の代わりに使用される以外は全く同じであった。
【0418】
3’末端のゲノム歩行においては、4つのPCR反応を、プライマーpZP−GW−3−1(配列番号140)およびネスト化アダプタープライマー(配列番号146)を使用した点を除き、上記のように行った。PCR産物を同様に希釈し、2回目のPCRにおける鋳型として使用し、pZP−GW−3−2(配列番号141)を使用し、pZP−GW−3−1(配列番号140)と置換した。
【0419】
PCR産物をゲル電気泳動によって分析した。1つの反応産物が、鋳型としてEcoRVで消化されたゲノムDNAとプライマーpZP−GW−3−2およびネスト化アダプタープライマーを使用し、約1.6kBの断片を生成した。この断片を単離し、Qiagenゲル精製キットで精製し、pCR2.1−TOPOにクローン化した。配列分析によると、断片がプラスミドpZP2−2988の一部およびヤロウィア(Yarrowia)の染色体C由来のゲノムDNAを含むことが示された。それらの間の接合部は、染色体Cのヌクレオチド位置139826にあった。これはPex10遺伝子(GenBank登録番号CAG81606)のコード領域内部であった。
【0420】
接合部の5’末端を決定するため、PCR増幅を、鋳型として株Y4128由来のゲノムDNAおよびプライマーPer10F1(配列番号147)およびZPGW−5−5(配列番号148)を使用して実施した。反応混合物は、1μlずつの20μMプライマー、ゲノムDNA1μl、水22μlおよびTaKaRa ExTaq 2×プレミックス(TaKaRa Bio Inc.(Otsu Shiga,Japan))25μlを含有した。熱サイクラー条件は、94℃で1分間、その後に94℃で20秒間、55℃で20秒間、および72℃で2分間の30サイクル、その後に72℃で7分間の最終の伸長であった。1.6kBのDNA断片を増幅し、pCR2.1−TOPOにクローン化した。配列分析によると、それがヤロウィア(Yarrowia)の染色体C由来のゲノムDNAとpZP2−2988の間のキメラ断片であることが示された。接合部は染色体Cのヌクレオチド位置139817にあった。したがって、染色体Cの10のヌクレオチドセグメントを、株Y4128中のpZP2−2988(
図6A)に由来するAscI/SphI断片で置換した。その結果、株Y4128中のPex10にはコードされたタンパク質(配列番号120)の最後の32個のアミノ酸が欠如していた。
【0421】
上記結論に基づき、実施例3(上記)で単離されたY4128U株は、以降でΔpex10株と称されることになる。明確にするため、株Y4128U1は株Y4128U1(Δpex10)に等しい。
【0422】
実施例6
ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)株Y4128U1(Δpex10)におけるPex10のプラスミド発現
ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)Pex10遺伝子を有する3つのプラスミド、すなわち1)FBAINmプロモーターの制御下でのPex10 ORFの発現を可能にするpFBAIn−PEX10、ならびに2)天然Pex10プロモーターの制御下でのPex10の発現を可能にするpPEX10−1およびpPEX10−2を作成したが、pPEX10−1ではプロモーターのより短いバージョン(約500bp)を使用した一方、pPEX10−2ではより長いバージョン(約900bp)を使用した。これらの発現プラスミドの作成および形質転換の後、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)株Y4128U1(Δpex10)における全オイルおよびEPAレベルに対するPex10プラスミド発現の効果を判定した。Pex10の欠失の結果、細胞内でTFAのパーセントとしてのEPAの量は増加したが、DCWのパーセントとしての全脂質の量は減少した。
【0423】
pFBAIn−PEX10、pPEX10−1およびpPEX10−2の作成
pFBAIn−PEX10を作成するため、プライマーPer10 F1(配列番号147)およびPer10R(配列番号149)を使用し、鋳型としてヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ゲノムDNAを使用してPex10遺伝子のコード領域を増幅した。PCR反応混合物は、1μlずつの20μMプライマー、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ゲノムDNA(約100ng)1μl、ExTaq 2×プレミックス25μlおよび水22μlを含有した。反応を、94℃で1分間、その後に94℃で20秒間、55℃で20秒間、および72℃で90秒間の30サイクル、その後に72℃で7分間の最終の伸長に従って行った。PCR産物である1168bpのDNA断片を、Qiagen PCR精製キットで精製し、NcoIおよびNotIで消化し、pFBAIn−MOD−1(配列番号150;
図9A)にクローン化し、同じ2種の制限酵素で消化した。
【0424】
配列分析を施した8つの個別のクローンの中の2つがPex10の正確な配列を有し、全くエラーを有しなかった。pFBAIn−PEX10(配列番号151;
図9B)の成分を下の表18に列挙する。
【0425】
【表26】
【0426】
pPEX10−1およびpPEX10−2を作成するため、プライマーPEX10−R−BsiWI(配列番号152)、PEX10−F1−SalI(配列番号153)およびPEX10−F2−SalI(配列番号154)を設計し、合成した。ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ゲノムDNAとプライマーPEX10−R−BsiWIおよびPEX10−F1−SalIを使用するPCR増幅により、いずれかの末端でSalIおよびBsiWI制限部位によって隣接された、Pex10遺伝子のPex10 ORF、500bpの5’上流領域および215bpの3’下流領域を有する1873bpの断片が生成された。この断片をQiagen PCR精製キットで精製し、SalIおよびBsiWIで消化し、同じ2種の酵素で消化されたpEXP−MOD−1(配列番号155;
図10A)にクローン化し、pPEX10−1(配列番号156;
図12B)を作成した。プラスミドpEXP−MOD1はpFBAIn−MOD−1(配列番号150;
図9A)に、後者におけるFBAINmプロモーターをEXP1プロモーターで置換した以外では類似する。表19はpPEX10−1の成分を列挙する。
【0427】
【表27】
【0428】
PEX10−R−BsiWI(配列番号152)およびPEX10−F2−SalI(配列番号154)を使用するヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ゲノムDNAのPCR増幅により、いずれかの末端でSalIおよびBsiWI制限部位によって隣接されたPex10遺伝子のPEX10 ORF、991bpの5’上流領域および215bpの3’下流領域を有する2365bpの断片が生成された。この断片をQiagen PCR精製キットで精製し、SalIおよびBsiWIで消化し、同様に消化されたpEXP−MOD−1にクローン化した。この結果、キメラPex10−5’::Pex10::PEX10−3’遺伝子における長い方のPex10−5’プロモーターを除いて作成がプラスミドpPEX10−1(表19、上記)のそれに類似したpPEX10−2(配列番号157)が合成された。
【0429】
株Y4128U1(Δpex10)におけるPex10の発現
プラスミドpFBAIN−MOD−1(対照;配列番号150)、pFBAIn−PEX10(配列番号151)、pPEX10−1(配列番号156)およびpPEX10−2(配列番号157)を、一般的方法におけるプロトコルに従ってY4128U1(Δpex10)に形質転換した。形質転換体をMMプレート上に播種した。上記プラスミドを有する形質転換体の全脂質含量および脂肪酸組成物を実施例4に記載のように分析した。
【0430】
乾燥細胞重量の百分率としての脂質含量(TFA%DCW)および脂質組成物を下の表20に示す。詳細には、脂肪酸は18:0(ステアリン酸)、18:1(オレイン酸)、LA、ALA、EDA、DGLA、ETrA、ETAおよびEPAとして同定しており、脂肪酸組成物は全脂肪酸の重量パーセント(wt.%)として表した。
【0431】
【表28】
【0432】
表20における結果は、天然ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)Pex10プロモーターまたはヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)FBAINmプロモーターのいずれかからのY4128U1(Δpex10)におけるPex10の発現により、EPAのパーセントが減少してY4086のレベルまで戻る一方、全脂質量(TFA%DCW)がY4086のレベルまで増加することを示した(比較のための表17のデータを参照)。乾燥細胞1グラムあたりのEPA含量は、対照試料(すなわちpFBAIn−MOD−1を有する細胞)の場合での63.2mgから、pFBAIn−PEX10を有する細胞内での31.5mg、pPEX10−1を有する細胞内での29mgおよびpPEX10−2を有する細胞内での30.8mgまで変化した。これらの結果は、Pex10のリングフィンガードメインの破壊が、細胞内でのEPAの量を増加させるが、全脂質の量を減少させることを示した。
【0433】
したがって、表20における結果は、対照プラスミドでのY4128U1(Δpex10)形質転換体に対し、Pex10を発現するプラスミドでのすべての形質転換体は、より高い脂質含量(TFA%DCW)(>27%対22.8%)、より低いEPA%TFA(約10.8%対27.7%)、およびより低いEPA%DCW(<3.1%対6.3%)を示した。さらに、Pex10を発現するプラスミドでの形質転換体に対する対照プラスミドでの株Y4128U1(Δpex10)形質転換体は、全PUFAに対してEPAの量で2.5倍の増加([%TFAとして]PUFAの44%対[%TFAとして]PUFAの17.5%(平均))と、全PUFAに対してC20PUFAの量で1.5倍の増加を有した([%TFAとして]PUFAの67%対[%TFAとして]PUFAの44%(平均))。
【0434】
実施例7
EPAを生成するためのヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)株Y4184Uの作成
ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)株Y4184Uを以下、実施例8における宿主として使用した。株Y4184Uはヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ATCC#20362から誘導されたものであり、Δ9エロンガーゼ/Δ8デサチュラーゼ経路の発現を介し、全脂質に対して高EPAを生成可能である。株はUra−表現型を有し、その作成はPCT公開の国際公開第2008/073367号パンフレット(ここで参照により本明細書中に援用される)の実施例7に記載されている。
【0435】
しかし、まとめると、株Y4184Uの作成には、株Y2224、株Y4001、株Y4001U、株Y4036、株Y4036Uおよび株Y4069の作成が必要であった(上記、実施例1)。(
図11Bに図示される)株Y4184Uのさらなる作成には、株Y4084、株Y4084U1、(2007年11月29日にAmerican Type Culture Collectionに登録番号ATCC PTA−8802下で寄託された)株Y4127、株Y4127U2、株Y4158、株Y4158U1および株Y4184の作成が必要であった。
【0436】
野生型ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ATCC#20362についての株Y4184(全脂質中31%のEPAを生成する)の最終的な遺伝子型は、未知の1−、未知の2−、未知の4−、未知の5−、未知の6−、未知の7−、YAT1::ME3S::Pex16、EXP1::ME3S::Pex20(2コピー)、GPAT::EgD9e::Lip2、FBAINm::EgD9eS::Lip2、EXP1::EgD9eS::Lip1、FBA::EgD9eS::Pex20、YAT1::EgD9eS::Lip2、GPD::EgD9eS::Lip2、GPDIN::EgD8M::Lip1、YAT1::EgD8M::Aco、EXP1::EgD8M::Pex16、FBAINm::EgD8M::Pex20、FBAIN::EgD8M::Lip1(2コピー)、GPM/FBAIN::FmD12S::Oct、EXP1::FmD12S::Aco、YAT1::FmD12::Oct、GPD::FmD12::Pex20、EXP1::EgD5S::Pex20、YAT1::EgD5S::Aco、YAT1::Rd5S::Oct、FBAIN::EgD5::Aco、FBAINm::PaD17::Aco、EXP1::PaD17::Pex16、YAT1::PaD17S::Lip1、YAT1::YlCPT1::Aco、GPD::YlCPT1::Acoであった。
【0437】
最後に、株Y4184中のUra3遺伝子を破壊するため、コンストラクトpZKUE3S(
図6B;配列番号130)を使用し、EXP1::ME3S::Pex20キメラ遺伝子を株Y4184のUra3遺伝子に組み込んだ結果、それぞれ株Y4184U1(全脂質の11.2%EPA)、Y4184U2(全脂質の10.6%EPA)およびY4184U4(全脂質の15.5%EPA)(集合的にY4184U)が得られた。
【0438】
実施例8
ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)株Y4184U4におけるPex10の染色体欠失によってEPAおよび全脂質含有物の蓄積が増大する コンストラクトpYPS161(
図11B、配列番号158)を使用し、EPAを生成するヤロウィア(Yarrowia)株Y4184U4(実施例7)に由来する染色体Pex10遺伝子をノックアウトした。ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)株Y4184U4のPex10ノックアウトコンストラクトでの形質転換の結果、株Y4184(Δpex10)が生成した。全オイルおよびEPAレベルに対するPex10ノックアウトの効果を測定し、比較した。詳細には、Pex10のノックアウトの結果、(%TFAおよび%DCWとしての)EPAの百分率が増加し、細胞内の全脂質の量が増加した。
【0439】
コンストラクトpYSP161
コンストラクトpYPS161は次の成分を含有した。
【0440】
【表29】
【0441】
ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ノックアウト株Y4184(ΔPex10)の作成
一般的方法に記載の標準プロトコルを使用し、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)株Y4184U4(実施例7)をPex10ノックアウトコンストラクトpYPS161の5.3kBの精製AscI/SphI断片で形質転換し(上記)、細胞単独対照も調製した。形質転換実験の各々において約200〜250のコロニーが存在した一方、細胞単独プレート上には全くコロニーが存在しなかった(期待値あたり)。
【0442】
コロニーPCRを使用し、Pex10欠失を有する細胞についてスクリーニングした。詳細には、PCR反応を、PCRプライマーPex−10del1 3’.Forward(配列番号159)およびPex−10del2 5’.Reverse(配列番号160)を使用する標準プロトコルに従い、MasterAmp Taqポリメラーゼ(Epicentre Technologies(Madison,WI))を使用して実施した。PCR反応条件は、94℃で5分間、その後に94℃で30秒間、60℃で30秒間、および72℃で2分間の30サイクル、その後に72℃で6分間の最終の伸長であった。次いで、反応物を4℃で保持した。Pex10ノックアウトコンストラクトがPex10領域内部に組み込まれる場合、サイズが2.8kBの単一のPCR産物が生成されることが期待された。それに対し、株におけるPex10領域以外の染色体領域内にPex10ノックアウトコンストラクトが組み込まれる場合、2つのPCR断片、すなわち2.8kBおよび1.1kBが生成されることになる。スクリーニングされた288の中の大部分のコロニーが、ランダム部位に組み込まれたPex10ノックアウトコンストラクトを有した。288の中に1つのコロニーだけがPex10ノックアウトを有した。この株をY4184(Δpex10)と称した。
【0443】
全オイルおよびEPAの生成のためのヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)株Y4184およびY4184(ΔPex10)の評価
全脂質画分中のPUFAのパーセントに対するPex10ノックアウトの効果および細胞内の全脂質含量を評価するため、株Y4184およびY4184(Δpex10)を比較可能な油性条件下で成長させた。特に、培養物を、250mLのフラスコ内で25mLの発酵培地(FM)または酵母抽出物を有しないFM培地(YEを有しないFM)のいずれかの中で、約0.1の開始OD
600で48時間成長させた。細胞を、50mLの円錐管内、8000rpmで10分間の遠心分離によって回収した。上清を廃棄し、細胞を25mLのHGM中に再懸濁し、新しい250mLのフラスコに移した。細胞を、通気下、30℃でさらに120時間インキュベートした。
【0444】
乾燥細胞重量(DCW)を測定するため、5mLのFM成長培地および10mLのYEを有しないFM成長培地に由来する細胞を処理した。培養細胞を4300rpmで10分間遠心した。ペレットを、生理食塩水10mLを使用して再懸濁し、同じ条件下で再度遠心した。次いで、ペレットを無菌H
2O 1mLを使用して再懸濁し(3回)、予め秤量した(pre−weighed)アルミニウムパンに移した。細胞を80℃超での真空オーブン内で一晩乾燥した。細胞の重量を測定した。
【0445】
上記プラスミドを有する形質転換体の全脂質含量および脂肪酸組成物を実施例4に記載のように分析した。
【0446】
DCW、全脂質含量(TFA%DCW)、全EPA%TFA、およびEPA%DCWを下の表22に示す。
【0447】
【表30】
【0448】
表22における結果は、Y4184(ΔPex10)中の染色体Pex10遺伝子のノックアウトにより、天然Pex10pがノックアウトされていない株Y4184中のEPAのパーセントおよび全オイル含量に対し、(%TFAおよび%DCWとしての)EPAのパーセントが増加し、全オイル含量が増加することを示した。より詳細には、FM培地中では、EPA(%TFA)が約109%増加し、EPAの生産性(%DCW)が約216%増加し、全オイル(TFA%DCW)が約49%増加した。YEを有しないFM培地中では、EPA(%TFA)が約100%増加し、EPAの生産性(%DCW)が約205%増加し、全オイル(TFA%DCW)が約50%増加した。
【0449】
したがって、表22における結果は、FM培地が、親株Y4184、Y4184(ΔPex10)株に対し、より高い脂質含量(TFA%DCW)(17.6%対11.8%)、より高いEPA%TFA(43.2%対20.6%)、およびより高いEPA%DCW(7.6%対2.4%)を有することを示した。同様に、YEを有しないFM培地は、親株Y4184、Y4184(ΔPex10)株に対し、より高い脂質含量(TFA%DCW)(13.2%対8.8%)、より高いEPA%TFA(46.1%対23.2%)、およびより高いEPA%DCW(6.1%対2.0%)を有した。
【0450】
当業者であれば、pYPS161と同様、親ヤロウィア・リポリティカ(Y.lipolytica)株への形質転換時、他の染色体Pex遺伝子のノックアウトをもたらすのに適切なノックアウトコンストラクトを容易に設計できる。好ましいPex遺伝子であれば、Pex1p(GenBank登録番号CAG82178;配列番号95)、Pex2p(GenBank登録番号CAG77647;配列番号96)、Pex3p(GenBank登録番号CAG78565;配列番号97)、Pex3Bp(GenBank登録番号CAG83356;配列番号98)、Pex4p(GenBank登録番号CAG79130;配列番号99)、Pex5p(GenBank登録番号CAG78803;配列番号100)、Pex6p(GenBank登録番号CAG82306;配列番号101)、Pex7p(GenBank登録番号CAG78389;配列番号102)、Pex8p(GenBank登録番号CAG80447;配列番号103)、Pex12p(GenBank登録番号CAG81532;配列番号105)、Pex13p(GenBank登録番号CAG81789;配列番号106)、Pex14p(GenBank登録番号CAG79323;配列番号107)、Pex16p(GenBank登録番号CAG79622;配列番号108)、Pex17p(GenBank登録番号CAG84025;配列番号109)、Pex19p(GenBank登録番号AAK84827;配列番号110)、Pex20p(GenBank登録番号CAG79226;配列番号111)、Pex22p(GenBank登録番号CAG77876;配列番号112)およびPex26p(GenBank登録番号NC_006072、ヌクレオチド117230〜118387のアンチセンス翻訳;配列番号113)を含むことになる。
【0451】
Pexの染色体破壊が生じれば、天然ペルオキシソーム生合成因子タンパク質が破壊されていない真核生物に対し、全脂肪酸のパーセントとして全脂質画分中およびオイル画分中のPUFAの量が増加することが想定されることになり、ここでPUFAの量は、1)PUFA中間体または副産物(例えばEPA)ではなく所望される機能的PUFA生合成経路の最終産物であるPUFA、2)C
20およびC
22 PUFA、および/または3)全PUFAでありうる。好ましい結果は、全脂肪酸のパーセントとしてのPUFAの量の増加をもたらすだけでなく、天然ペルオキシソーム生合成因子タンパク質が破壊されていない真核生物に対し、乾燥細胞重量のパーセントとしてのPUFAの量の増加をもたらす。また、PUFAの量は、1)PUFA中間体または副産物ではなく機能的PUFA生合成経路の所望される最終産物であるPUFA、2)C
20およびC
22 PUFA、および/または3)全PUFAでありうる。場合によっては、全脂質含量もまた、天然ペルオキシソーム生合成因子タンパク質が破壊されていない真核生物のそれに対して増加することになる。
【0452】
実施例9
ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)株Y4305におけるpZKD2−5U89A2、pZP3−PA777UおよびpZKL2−5U89GCの組み込み部位の判定
ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)株Y4305におけるpZKD2−5U89A2、pZP3−PA777UおよびpZKL2−5U89GCのゲノム組み込み部位を、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)株Y4128におけるpZP2−2988の組み込み部位の同定のための実施例5に記載の方法と同様の方法で、Clontech製のUniversal GenomeWalker(商標)Kitを使用し、ゲノム歩行によって判定した。
【0453】
pZKD2−5U89A2組み込み部位を同定するためのゲノム歩行
プライマーKL2−3−1(配列番号161)およびKD2−3−2(配列番号162)をpZKD2−5U89A2配列(配列番号135)に基づいて設計し、組み込みコンストラクトの3’末端の組み込み部位(すなわちヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)DGAT2遺伝子[配列番号93]の3’隣接領域)を同定した。
【0454】
ゲノムDNAを、実施例5に記載の改良されたプロトコルでQiagen Miniprepキットを使用し、株Y4305から調製した。ゲノムDNAの単離後、DraI、EcoRV、PvuIIおよびStuIでの制限酵素消化物を実施例5の方法に従って調製し、次いで精製し、Genome Walkerアダプター(配列番号144および145)にライゲートした。
【0455】
ゲノム歩行においては、4つのPCR反応を、鋳型として各ライゲーション混合物1μlを個別に使用して実施した。さらに、各反応混合物は、10μMプライマーKL2−3−1(配列番号161)1μl、キットからの10μMアダプタープライマー(配列番号144および145)1μl、水41μl、10×cDNA PCR反応緩衝液5μlおよびClontech製のAdvantage cDNAポリメラーゼミックス1μlを含有した。PCR条件は、95℃で1分間、その後に95℃で20秒間および68℃で3分間の30サイクル、その後に68℃で7分間の最終の伸長であった。PCR産物をそれぞれ1:100に希釈し、希釈PCR産物1μlを2回目のPCRにおける鋳型として使用した。条件は、KD2−3−2(配列番号162)でKL2−3−1(配列番号161)を置換したこと以外は正確に同じであった。
【0456】
2回目からのPCR産物をゲル電気泳動によって分析した。1つの反応産物は約560bpの断片を含有した。この断片を単離し、Qiagenゲル精製キットで精製し、pCR2.1−TOPO(Invitrogen)にクローン化した。配列分析によると、断片がプラスミドpZKD2−5U89A2の一部およびヤロウィア・リポリティカ(Y.lipolytica)の染色体E由来のゲノムDNAの一部を含むことが示された。それらの間の接合部は染色体Eのヌクレオチド位置150905にあった。これはSCP2遺伝子(配列番号87;GenBank登録番号XM_503410)のコード領域内部であった。
【0457】
接合部の5’末端を決定するため、PCR増幅を鋳型として株Y4305由来のゲノムDNAとプライマーSCP−5−2(配列番号163)およびKD2−5−3(配列番号164)を使用して実行した。反応混合物は、1μlずつの20μMプライマー、ゲノムDNA1μl、水22μlおよびTaKaRa ExTaq 2×プレミックス(Takara Bio.Inc.(Shiga,Japan))25μlを含有した。熱サイクラー条件は、94℃で1分間、その後に94℃で20秒間、55℃で20秒間、および72℃で1分間の30サイクル、その後に72℃で7分間の最終の伸長であった。約900bpのDNA断片を増幅し、pCR2.1−TOPOにクローン化した。
【0458】
配列分析によると、1)染色体E由来のヤロウィア・リポリティカ(Y.lipolytica)ゲノムDNAの一部;2)NCBIデータベース中の任意の既知の配列との相同性を全く有しない、303ヌクレオチド長の未知のDNAのストレッチ(配列番号174);および3)pZKD2−5U89A2(配列番号135)由来のAscI/SphI断片の5’末端を含む844bpのキメラ断片(配列番号173)が示された。接合部は染色体Eのヌクレオチド位置150901にあった。したがって、3bpの染色体Eのヌクレオチドセグメントを、株Y4305における未知のDNA断片およびpZD2−5U89A2由来のAscI/SphI断片で置換した。その結果、SCP2遺伝子は129アミノ酸長のタンパク質のコドン71の後で中断された。得られた切断型SCP2 ORFではC末端で58のコドンが欠如している。
【0459】
pZP3−PA777U組み込み部位を同定するためのゲノム歩行
pZP3−PA777Uにおいては、次のプライマー、すなわち79−5−POX−1(配列番号165)および79−5−POX−2(配列番号166)を設計した。5’挿入接合部(insertion junction)におけるゲノム歩行を、1)PCRの1回目においてプライマー79−5−POX−1がKL2−3−1の代わりに使用され、かつ2)PCRの2回目においてプライマー79−POX−5−2がKD2−3−2の代わりに使用される以外では同一条件を用い、pZKD2−5U89A2の場合に上記と同じY4305ゲノムDNAライゲーション混合物セットを使用して実行した。約2350bpの断片をPCR反応物の1つ(配列番号175)から得た。この断片は配列決定され、ヤロウィア・リポリティカ(Y.lipolytica)の染色体F由来のゲノムDNA、未知のDNAの1729bpの断片(配列番号176)、およびpZP3−PA777U(配列番号127)の5’末端由来のDNAを有することが示された。挿入接合部は染色体F上のヌクレオチド位置3159605にあった。挿入部位は、胞子形成に特異的なタンパク質をコードするサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)ORF YOR313C(SPS4)にわずかに類似するORFであるORF YALi0F24167g(配列番号91)の開始コドンの154bp上流であった。
【0460】
3’末端接合部を、プライマー4305ZP3−3−2(配列番号167)および79−3−POX−3(配列番号168)を使用するPCRによって得た。反応混合物は、1μlずつの20μMプライマー、ゲノムDNA1μl、水22μlおよびTaKaRa ExTaq 2×プレミックス(TaKaRa Bio Inc.(Shiga,Jap
an))25μlを含有した。熱サイクラー条件は、94℃で1分間、その後に94℃で20秒間、55℃で20秒間、および72℃で1分間の30サイクル、その後に72℃で7分間の最終の伸長であった。約300bpのDNA断片を増幅し、pCR2.1−TOPOにクローン化した。
【0461】
配列分析によると、それはヤロウィア・リポリティカ(Y.lipolytica)の染色体F由来のゲノムDNAとpZP3−PA777U(配列番号127)の間での326bpのキメラ断片(配列番号177)であることが示された。接合部は染色体Fのヌクレオチド位置3159605にあった。
【0462】
5’および3’の分析に基づき、pZP3−PA777UのAscI/PacI断片を有するDNA断片および1729bpの未知のDNAを、YALi0F24167g ORF(配列番号91)の154bp上流の位置3159605で染色体Fに挿入した。
【0463】
pZKL2−5U89GC組み込み部位を同定するためのゲノム歩行
pZKL2−5U89GCにおいては、次のプライマー、すなわちKL2−5−2(配列番号169)、KL2−5−3(配列番号170)、KL2−3−2(配列番号171)、およびKL2−3−3(配列番号172)をゲノム歩行のために設計した。5’挿入接合部におけるゲノム歩行を、1)PCRの1回目においてプライマーKL2−5−2がKL2−3−1の代わりに使用され、かつ2)PCRの2回目においてプライマーKL2−5−3がKD2−3−2の代わりに使用される以外では同一条件を用い、pZKD2−5U89A2における記載と同じY4305ゲノムDNAライゲーション混合物セットを使用して実行した。反応産物の中の1つに由来する519bpの断片をpCR2.1−TOPOにクローン化し、配列決定した。BLAST分析によると、この519bpの断片(配列番号178)がヤロウィア・リポリティカ(Y.lipolytica)の染色体Cに由来するDNAおよびpZKL2−5U89GCのAscI/SphI断片の5’末端を有することが示された。接合部は位置2568793にあった。より詳細には、66bpの未知のDNA(配列番号179)を染色体CとpZKL2−5U89GC(配列番号131)の間に挿入した。
【0464】
3’挿入接合部におけるゲノム歩行を、1)PCRの1回目においてプライマーKL2−3−2がKL2−5−2の代わりに使用され、かつ2)PCRの2回目においてプライマーKL2−3−3がKL2−5−3の代わりに使用される以外では5’挿入接合部における場合と全く同様に実行した。PCR産物の中の1つに由来する711bpの断片をpCR2.1−TOPOにクローン化し、配列決定した。BLAST分析によると、この711bpの断片(配列番号180)がヤロウィア・リポリティカ(Y.lipolytica)の染色体Cに由来するDNAおよびpZKL2−5U89GCを有することが示された。接合部は位置2568787にあった。したがって、65bpの未知のDNA(配列番号181)を染色体CとpZKL2−5U89GCの間に挿入した。
【0465】
5’および3’接合部の分析に基づき、pZKL2−5U89GC由来のAscI/SphI断片をヤロウィア・リポリティカ(Y.lipolytica)の染色体Cに挿入した。それを2568787と2568793の間の染色体Cの5bpのヌクレオチドセグメントと置換した。66bpの未知のDNAを位置2568793とpZKL2−5U89GCのAscI/SphI断片の5’末端の間に挿入し、66bpの未知のDNAを位置2568787とpZKL2−5U89GCのAscI/SphI断片の3’末端の間に挿入した。挿入により、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)遺伝子YLR050Cの相同体であるORF YALi0C18711g(配列番号89)における翻訳開始コドンの最初のヌクレオチド「A」が欠失した。それ故、挿入により、開始コドンが破壊され、プロモーター領域が非機能的ORFから分離された。
【0466】
実施例10
ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)株Y4305の発酵
本実施例では、162時間の期間にわたるヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)株Y4305(実施例3)の2Lの発酵について記載する。脂質特性を4〜15時間ごとに監視した。最大EPAは148時間後に生成された全脂質の55.6%であり、それは12.1EPA%DCWに対応した。
【0467】
種培養物:
振盪フラスコ内で種培養物を調製するため、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)Y4305の遺伝子組換え株の解凍したグリセロールストック(0.1mL)を、D−グルコース(20g/L)、アミノ酸を有しない酵母窒素塩基(3.4g/L)、KH
2PO
4(6.0g/L)、Na
2HPO
4・12H
2O(3.3g/L)、MgSO
4・7H
2O(1.5g/L)およびチアミン・HCl(1.5mg/L)を含有する複合培地50mLを有する500mLの振盪フラスコに移した。フラスコ培養物を、600nmでの光学密度(OD
600)が約2になるまで、30℃で48時間インキュベートした。
【0468】
発酵:
2−リットルのBiostat(登録商標)B発酵糖(B.Braun Biotech International(Germany))を発酵実験に使用した。上記の振盪フラスコ種培養(50mL、約2のOD
600)を2−リットルのBiostat(登録商標)B発酵糖に移し、新しい発酵培地950mLを含有する発酵を開始した(t=0時間)。新しい発酵培地は、酵母抽出物(5.0g)、アミノ酸を有しない酵母窒素塩基(6.7g)、KH
2PO
4(6.0g)、Na
2HPO
4・12H
2O(3.3g)、MgSO
4・7H
2O(1.5g)、チアミン・HCl(1.5mg)、D−グルコース(50g)、微量金属溶液(100×)(24mL)、およびアンチフォーム(antiform)204(0.2mL;Sigma Aldrich(St.Louis,MO))を含有した。微量金属溶液(100×)は、クエン酸(10g/L)、CaCl
2・2H
2O(1.5g/L)、FeSO
4・7H
2O(10g/L)、ZnSO
4・7H
2O(0.39g/L)、CuSO
4・5H
2O(0.38g/L)、CoCl
2・6H
2O(0.20g/L)、およびMnCl
2・4H
2O(0.30g/L)を含有した。溶存酸素濃度(pO
2)を、80〜1200rpmのインペラ速度のカスケード制御によって0超で制御した。通気速度を1.0L/分〜2.0L/分で制御した。グルコース(600g/L)の供給を、培地中のその濃度が20g/L未満に減少した時、開始した。グルコース濃度を、全発酵プロセスの間、20〜60g/L以内に維持した。
【0469】
pH制御のための酸はH
3PO
4(20%、w/v)であった。pH制御のための塩基は成長相でのNH
4OH(28%NH
3、w/v)であり、次いでそれを脂質生成相でのKOH(56%、w/v)に交換した。それぞれ、温度を30〜32℃に制御し、pH値を5〜7に制御した。
【0470】
発酵実験を162時間行った。発酵試料(10〜20mL)を4〜15時間ごとに採取し、細胞内脂質濃度、脂質特性、細胞の光学密度、乾燥細胞重量(DCW)、グルコース、大部分のカチオン、および有機酸の濃度を測定した。一般的方法における方法に従い、ヤロウィア(Yarrowia)細胞の細胞内脂質をメタノールおよびクロロホルムによって抽出し、その濃度および特性をGCによって判定した。
【0471】
結果:
全脂肪酸の%として示される、乾燥細胞重量(DCW)、全脂質(TFA%DCW)および各個別の脂肪酸の組成物を162時間の発酵の間での15の各時点で下の表23に示す。
【0472】
【表31】
【0473】
したがって、発酵中の89.9時間経過時の結果は、少なくとも約43.3%のEPA、約23.6%未満のLA(18:2)および約9.4%未満のオレイン酸(18:1)を有する微生物オイルの生成を示し、ここでは各脂肪酸はTFAの%として示される。微生物オイルは、TFAの%として約4.2%未満のEDAをさらに含みうる。
【0474】
%TFAとしての全ω−3含量は、ALA、ETrA、ジュニペロン酸(シス5,11,14,17−エイコサテトラエン酸、20:4)、ETAおよびEPAにおける%TFAの合計によって判定される。ω−3含量は、発酵の89.9時間から162.1時間にかけてTFAのパーセントとして50.7%超であり、最大レベルが61%に達する(147.8時間)。
【0475】
同様に、各時点でのEPA%DCWを式:[(エイコサペンタエン酸%TFA)*(TFA%DCW)]/100を用いて計算した。発酵中の89.9時間経過時、EPA%DCWは9.35であり、発酵を通じてのその後の他の全時点で、EPA%DCWは増加し、137.9時間後に12.13のEPA%DCWの最大レベルであった。
発酵の当業者は、(表23に示されるように)特定のヤロウィア(Yarrowia)株(例えばY4305)のオイル特性において、発酵作業自体、培地条件、プロセスパラメータ、スケールアップなどに依存し、また培養物がサンプリングされる特定の時点で、変動性が生じることを理解するであろう。結果として、例えば、株Y4305の発酵から生じる微生物オイルが少なくとも約43%のEPA、約24%未満のLA(18:2)、約10%未満のオレイン酸(18:1)、約4%未満のEDA、約2%未満のETA、約1%未満のARA、約4%未満のステアリン酸(18:0)および約4%未満のパルミチン酸(16:0)(ここで各脂肪酸はTFAの%に相当する)を含有しうることが想定されうる。
【0476】
以上、本発明を要約すると下記のとおりである。
1.エイコサペンタエン酸を生産するための組換えヤロウィア属エスピー生産宿主細胞であって、
a)配列番号5、7、9、11、13、15および17からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するΔ9エロンガーゼをコードする少なくとも1つの遺伝子、
b)配列番号19、21、23、25、27、29、31および33からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するΔ8デサチュラーゼをコードする少なくとも1つの遺伝子を含み、ここで上記ヤロウィア属エスピー生産宿主細胞は、該生産宿主細胞における総脂肪酸の質量パーセントとして測定された少なくとも約43.3質量パーセントのエイコサペンタエン酸を生産する、組換えヤロウィア属エスピー生成宿主細胞。
2.Δ9エロンガーゼをコードする少なくとも1つの遺伝子またはΔ8デサチュラーゼを
コードする少なくとも1つの遺伝子が、ヤロウィア・リポリティカプロモーターの制御下にある、上記1に記載の組換え生産宿主。
3.ヤロウィア・リポリティカプロモーターが、GPD、GPDIN、GPM、GPM/FBAIN、FBA、FBAIN、FBAINm、GPAT、YAT1およびEXP1からなる群から選択される、上記2に記載の組換え生産宿主。
4.Δ9エロンガーゼをコードする少なくとも1つの遺伝子またはΔ8デサチュラーゼをコードする少なくとも1つの遺伝子が、Aco3、Pox3、Pex20、Pex16、Lip1、Lip2およびOCTからなる群から選択されるヤロウィアターミネーターの制御下にある、上記1に記載の組換え生産宿主。
5.Δ9エロンガーゼをコードする少なくとも1つの遺伝子が少なくとも5つのコピー内に存在する、上記1に記載の組換えヤロウィア属エスピー生産宿主細胞。
6.Δ8デサチュラーゼをコードする少なくとも1つの遺伝子が少なくとも5つのコピー内に存在する、上記1に記載の組換えヤロウィア属エスピー生産宿主細胞。
7.エイコサペンタエン酸を含む微生物オイルを生産するための方法であって、
a)エイコサペンタエン酸を含む微生物オイルを生産させる、上記1に記載の生産宿主を培養するステップ;および
b)場合により、ステップ(a)の微生物オイルを回収するステップ
を含む、上記方法。
8.総脂肪酸の質量パーセントとして少なくとも約25質量パーセントのエイコサペンタエン酸を含有する微生物オイル。
9.総脂肪酸の質量パーセントとして1質量パーセント未満のγ−リノレン酸を含有する、上記8に記載の微生物オイル。
10.総脂肪酸の質量パーセントとして少なくとも約30質量パーセントのエイコサペンタエン酸および約25質量パーセント未満のリノール酸を含む微生物オイル。
11.総脂肪酸の質量パーセントとして少なくとも約50質量パーセントのω−3多価不飽和脂肪酸を含む微生物オイル。
12.総脂肪酸の質量パーセントとして、次の脂肪酸濃度、すなわち
a)約48〜約55質量パーセントのエイコサペンタエン酸、
b)約1.5〜約3.0質量パーセントのエイコサテトラエン酸、
c)約0.1〜0.7質量パーセントのアラキドン酸、
d)約1.0〜約2.5質量パーセントのジホモ−γ−リノレン酸、
e)約2.0〜約3.5質量パーセントのエイコサジエン酸、
f)約2.0〜約3.0質量パーセントのα−リノレン酸、
g)約17.0〜約20.0質量パーセントのリノール酸(18:2)、
h)約3.5〜約6.5質量パーセントのオレイン酸(18:1)、
i)約1.0〜約2.0質量パーセントのステアリン酸(18:0)、
j)約0.5〜約3.5質量パーセントのパルミトレイン酸(16:1)、および
k)約2.5〜約4.5質量パーセントのパルミチン酸(16:0)
を含む微生物オイル。
13.総脂肪酸の質量パーセントとして、次の脂肪酸濃度、すなわち
a)少なくとも約43.3質量パーセントのエイコサペンタエン酸、
b)約23.6質量パーセント未満のリノール酸(18:2)、および
c)約9.4質量パーセント未満のオレイン酸(18:1)
を含む微生物オイル。
14.総脂肪酸の質量パーセントとして約4.2質量パーセント未満のエイコサジエン酸をさらに含む、上記13に記載の微生物オイル。
15.上記13に記載のオイルに由来するオイル濃縮物。
16.オイルが、総脂肪酸の質量パーセントとして少なくとも約60質量パーセントのエイコサペンタエン酸を含む、上記15に記載のオイル濃縮物。
17.オイルが、総脂肪酸の質量パーセントとして少なくとも約70質量パーセントのエ
イコサペンタエン酸を含む、上記15に記載のオイル濃縮物。
18.オイルが、総脂肪酸の質量パーセントとして少なくとも約80質量パーセントのエイコサペンタエン酸を含む、上記15に記載のオイル濃縮物。
19.オイルが、総脂肪酸の質量パーセントとして少なくとも約90質量パーセントのエイコサペンタエン酸を含む、上記15に記載のオイル濃縮物。
20.上記13に記載のオイル、ならびにリノール酸、γ−リノレン酸、エイコサジエン酸、ジホモ−γ−−リノール酸、アラキドン酸、ドコサテトラエン酸、ω−6ドコサペンタエン酸、α−リノレン酸、ステアリドン酸、エイコサトリエン酸、エイコサテトラエン酸、ω−3ドコサペンタエン酸およびドコサヘキサエン酸からなる群から選択される追加量の脂肪酸を含むブレンドオイル。
21.上記15に記載のオイル濃縮物、ならびにリノール酸、γ−リノレン酸、エイコサジエン酸、ジホモ−γ−リノール酸、アラキドン酸、ドコサテトラエン酸、ω−6ドコサペンタエン酸、α−リノレン酸、ステアリドン酸、エイコサトリエン酸、エイコサテトラエン酸、ω−3ドコサペンタエン酸およびドコサヘキサエン酸からなる群から選択される追加量の脂肪酸を含むブレンドオイル。
22.上記13に記載のオイルまたはその誘導体を含む食品。
23.食品類似体、機能性食品、医療用食品および医療用栄養剤からなる群から選択される、上記22に記載の食品。
24.上記13に記載のオイルまたはその誘導体を含む薬剤組成物。
25.上記13に記載のオイルまたはその誘導体を含む調製粉乳。
26.上記13に記載のオイルまたはその誘導体を含む栄養補助食品。
27.上記13に記載のオイルまたはその誘導体を含む医療用食品。
28.上記13に記載のオイルまたはその誘導体を含む動物飼料。
29.上記13に記載のオイルを含む微生物バイオマス。
30.上記29に記載の微生物バイオマスを含む動物飼料。
31.飼料が養殖飼料である、上記30に記載の動物飼料。
32.飼料が、次の改良、すなわち
a)32〜45%のタンパク質、
b)4〜28%の脂肪、
c)10〜30%の炭水化物、
d)1.0〜2.5%のミネラル、および
e)1.0〜2.5%のビタミン
を含む、上記31に記載の養殖飼料。
33.場合により、
a)カロチノイド、
b)結合剤、
c)保存料、
d)化学誘引剤、および
e)香味料
からなる群から選択される改良を含む、上記32に記載の養殖飼料。
34.上記13に記載のオイルまたはその誘導体を含有するパーソナルケア製品。
35.製品がスキンコンディショナーである、上記34に記載のパーソナルケア製品。
36.エイコサペンタエン酸に富むヒト、動物または養殖生物用の栄養補助食品を提供するための方法であって、ヒトまたは動物によって摂取または使用可能な形態でエイコサペンタエン酸を含有する上記13に記載の微生物オイルを備えるステップを含む、方法。
37.ヒトまたは動物における臨床状態を処置するための方法であって、該臨床状態が処置されるヒトまたは動物に摂取可能な形態で上記13に記載のオイルを与えるステップを含む、方法。
38.臨床状態が、心臓代謝疾患、神経行動学的状態、および炎症性障害からなる群から選択される、上記37に記載の方法。
39.臨床状態が、代謝症候群、非アルコール性脂肪性肝炎、非アルコール性脂肪肝疾患、前糖尿病状態、冠動脈心疾患、高血圧、炎症性疾患、II型糖尿病、潰瘍性大腸炎、クローン病、過敏性腸疾患、神経性食欲不振、やけど、骨関節炎、骨粗鬆症、脂質異常症、レゾルビン関連疾患、アルツハイマー病、注意欠陥/多動性障害、うつ病、双極性障害、統合失調症、分娩後うつ病、および更年期障害からなる群から選択される、上記38に記載の方法。
40.ヒトまたは動物におけるC反応性タンパク質の血清レベルを変化させるための方法であって、C反応性タンパク質のレベルを変化させるヒトまたは動物に摂取可能な形態で上記13に記載のオイルを与えるステップを含む、方法。
41.臨床状態を治すための上記13に記載のオイルの使用。
42.臨床状態を治すための上記15に記載の濃縮物の使用。
43.臨床状態を治すための上記20に記載のブレンドオイルの使用。
44.臨床状態を治すための上記21に記載のブレンドオイルの使用。
45.動物またはヒトにおけるエイコサペンタエン酸の欠乏を処置するための方法であって、該欠乏を処置するため、ヒトまたは動物によって摂取または使用可能な形態で、エイコサペンタエン酸を含有する、上記30に記載の方法によって生産される微生物オイルを与えるステップを含む、方法。
46.ATCC PTA−8802で示されるヤロウィア属エスピー生産宿主。