【実施例1】
【0026】
以下、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。まず、本実施の形態の構成を説明する。
図1は、本発明の実施例1のポンプ制御システムの構成例を示すブロック図である。本実施例のポンプ制御システムは、熱延ラインを代表例として、デスケーリング、ロール冷却、ランアウトテーブル等、製品品質を確保するためにスラブに使用する水を循環させる循環水設備においてポンプ制御を行うものであり、
図1に示すように、上位計算機1、制御装置2、インバータ3、電動機4、上位タンク5、ポンプ6、下位タンク7、ポンプ8、及び貯水タンク9により構成される。
【0027】
すなわち、本実施例のポンプ制御システムは、鉄鋼水処理設備において、スラブに使用した水を上位タンク5に貯水し、下位タンク7において再処理を行った後、水を循環させて貯水タンク9に水を戻すことでスラブに再使用する水循環設備において、上位タンク5に貯水された水を排出するポンプ6の消費電力を低減することを目的としたシステムである。
【0028】
上位計算機1は、本発明の情報収集部に対応し、投入されるスラブの特徴に関するスラブ情報を収集する。具体的には、上位計算機1は、投入される予定のスラブに関する情報を外部から受信する。本発明を実現するために、情報収集部は、投入されるスラブの特徴に関するスラブ情報として、各スラブの厚み、長さ、幅、温度、投入タイミングのうち少なくとも1つを収集する。本実施例における上位計算機1は、各スラブの厚み、長さ、幅、及び投入タイミングを収集するものとする。すなわち、上位計算機1は、スラブ情報のうち、水位変動に関連するパラメータを収集、統計処理する。
【0029】
制御装置2は、本発明のモータ回転数算出部に対応し、上位計算機1により収集されたスラブ情報に基づいて、上位タンク5の水位を所定範囲内に保つようにポンプ6のモータ回転数と稼働時間とを算出する。言い換えれば、制御装置2は、上位計算機1により収集、統計処理された水位変動関連情報に基づいて、上位タンク5の水位を所定範囲内に保つようにポンプ6のモータ回転数と稼働時間とを算出する。
【0030】
具体的には、制御装置2は、過去の運転実績と上位計算機1により収集されたスラブ情報とに基づいて上位タンク5の水位変動を予測するとともに、上位タンク5の水位を所定範囲内に保ちつつポンプ6
の消費電力が最小になるようにポンプ6のモータ回転数と稼働時間とを算出する。
【0031】
インバータ3は、本発明の回転数制御部に対応し、制御装置2により算出されたモータ回転数と稼動時間とに基づいて、ポンプ6(すなわち電動機4)のモータ回転数と稼働時間とを制御する。
【0032】
上位タンク5は、本発明のタンクに対応し、スラブに使用した水を貯めるためのタンクである。また、ポンプ6は、本発明のポンプに対応し、循環路上に設けられ、上位タンク5に貯められた水を循環させるためのポンプであり、インバータ3により電動機4を介してモータ回転数と稼働時間とを制御される。ポンプ6により上位タンク5から排出された水は、バルブを介して上位タンク7に流れ込む。
【0033】
下位タンク7は、ポンプ6により上位タンク5から排出された水を貯めるためのタンクであり、水を再使用可能にするために必要な水処理等を行う。また、ポンプ8は、下位タンク7から水を吸入し、貯水タンク9に水を戻す。
【0034】
貯水タンク9は、スラブに使用する水を貯めるためのタンクである。
【0035】
次に、上述のように構成された本実施の形態の作用を説明する。まず、上位計算機1は、投入されるスラブの特徴に関するスラブ情報を収集する。具体的には、上位計算機1は、投入される予定のスラブの特徴に関するスラブ情報を外部から受信し、制御装置2に出力する。このスラブ情報は、例えば、投入される個々のスラブについての厚さ、長さ、幅、抽出温度、投入タイミング等であり、本実施例においては少なくとも、厚さ、長さ、幅、及び投入タイミング(一つ前のスラブが投入されてから当該スラブが投入されるまでの時間)を含むものとする。
【0036】
制御装置2は、上述したように、過去の運転実績と上位計算機1により収集されたスラブ情報とに基づいて上位タンク5の水位変動を予測する。なお、制御装置2は、過去の運転実績を蓄積し、データマイニングにより水位変動予測に活用することができる。
【0037】
前提として、圧延用投入スラブは、1)厚さ、2)長さ、3)幅、4)炉出口抽出温度等の特性を持っている。また、圧延ピッチに応じて、スラブは加熱炉から抽出される。このとき、これらのデータと水処理設備における水位変化を統計処理、データベース化する。基準としては、当該スラブに必要な流量と、投入ピッチと対応して変化する水位変化をグループ化して対応つける。なお,グループ化手法については基本概要を後述する。
【0038】
図2は、本実施例のポンプ制御システムの制御装置2において処理される水位変動ベクトルグループを示す図である。
図2に示す水位変動ベクトルグループは、p個のベクトルグループが存在することを示しており、pは任意である。例えば、10個の水位変動ベクトルグループ(p=10)を使用する場合には、水位変動ベクトルグループΔH(1),ΔH(2),ΔH(3),ΔH(4),…,ΔH(10)ができる。制御装置2は、過去の運転実績に基づいて、投入流量に対する水位変動量を統計処理しグループ化する。例えば、流量がこの範囲内であればベクトルグループΔH(1)、この範囲内であればベクトルグループΔH(2)、…というように、流量に対応するベクトルグループが決定される。
【0039】
制御装置2は、流量(投入されるスラブに対する水量)に加えて、投入タイミングについてもグループ化を行う。投入されるスラブに対する水量と投入タイミングがグループ化されるということは、対応する水位変化が予見されることを意味する。また、異なるグループに推移する場合、推移したグループに対応した水位変化の大きさが予見されるが、このときも投入タイミングがグループ化のパラメータとなる。
【0040】
図3は、本実施例のポンプ制御システムの制御装置2において処理されるグループ化の様子を示す図である。
図3の最上段のグラフは、上位タンク5における過去の実変動を表しており、横軸が時間で縦軸が水位を表す。時間軸にところどころ記載されている三角形のマークは、そのタイミングでスラブが投入されたことを示す。このグラフが示すように、水位変動は、水位変動ベクトルの合成であると考えることができる。
【0041】
投入時間間隔も予めグループ分けしておく。例えば、投入時間間隔がこの範囲内であればT1、この範囲内であればT2、…というように、投入時間間隔に対応する時間グループが決定される。本実施例において、制御装置2は、T1,T2,…,T5までの5つの時間グループを用意しているものとする。
【0042】
制御装置2は、
図3に示すように過去の運転実績をグループ分けし、スラブ情報と関連付けて記憶しておく。例えば、
図3の上から2番目のグラフが示すように、T1時間経過後にスラブが投入され、投入直後から水位が変動した場合には、制御装置2は、水位変動ベクトルに対応した流量G(Q1,T1)をスラブ情報(投入したスラブの厚さ、幅、長さ)と投入タイミング(この場合では時間T1)と関連付けて記憶しておく。次に、T2時間経過後にスラブが投入され、投入直後から水位が変動した場合には、制御装置2は、水位変動ベクトルに対応した流量G(Q2,T2)をスラブ情報(投入したスラブの厚さ、幅、長さ)と投入タイミング(この場合では時間T2)と関連付けて記憶しておく。
【0043】
このように、制御装置2は、例えば1年分の過去の運転実績を蓄積し、グループ化して統計処理することで、新たに上位計算機1により収集されたスラブ情報を入手した場合にも未来の上位タンク5の水位変動を予測できるようにする。グループ化としては、スラブ情報と水位変動を投入間隔と流量の関係として捕らえる。
【0044】
このように、制御装置2は、多量のサンプリングを採取し、データ処理することでスラブと水位変化について疎な関係から密な関係へ発展把握できる。
【0045】
図4は、本実施例のポンプ制御システムの制御装置2において処理されるスラブ情報のグループ化の様子を示す図であり、スラブ情報10−1〜10−8がどのように投入グループに割り当てられるのかを示している。スラブ情報10−1〜10−8の位置は、各スラブの厚さ、幅、及び長さを示しており、矢印に沿って記載された時間は、スラブの投入タイミングを示している。例えば、スラブ情報10−4に示すスラブは、スラブ情報10−3に示すスラブが投入されてからt5時間経過後に投入されることを示している。
【0046】
制御装置2は、
図4に示すように、上位計算機1により収集されたスラブ情報10−1〜10−8に基づいて、上位タンク5の水位変動を予測する。すなわち、
図4は、スラブ情報10−1〜10−8が持つ各スラブの厚さ、幅、長さ、及び投入タイミングと、過去の運転実績からデータマイニングにより定めたルールとに基づいて、制御装置2が各スラブ情報をいずれかの投入グループに割り当てる様子を示している。
【0047】
すなわち、制御装置2は、過去の運転実績に基づいてスラブ情報と水位変動とを関連付けた複数のグループを予め生成し、上位計算機1により収集されたスラブ情報が複数のグループのいずれに分類されるかに基づいて上位タンク5の水位変動を予測する。
【0048】
制御装置2は、これによって水位変動を予測することができるので、上位タンク5の水位を所定範囲内に保ちつつポンプ6
の消費電力が最小になるようにポンプ6のモータ回転数と稼働時間とを算出する。
【0049】
なお、このグループ数は、処理能力を考え,当初は20−30程度とする。例えば、本実施例においては、
図4に示すように、流量を4つのグループに分け、投入時間間隔を5つのグループに分けているので20のグループが存在することになる。制御装置2は、学習によって当該グループ数を増加、削減させる。また生産により、当該グループの範囲内に入らない場合もあるが、この時は省エネ運転領域とは認識せず、従来の最大周波数運転を実施する。
【0050】
すなわち、制御装置2は、上位計算機1により収集されたスラブ情報に基づいて省エネ運転領域を逸脱していると判断した場合に、ポンプ6のモータ回転数と稼働時間とを商用運転に切り替える。言い換えれば、制御装置2は、学習、予測により省エネグループに入る場合にのみ省エネを実施するといえる。
【0051】
投入スラブに対して使用される水量、投入タイミングと、処理側で変動する水位量とは時間差があるため、例えば投入側が同一水量であっても投入タイミングが異なれば処理側の水位変動は異なってくる。この場合、制御装置2は、異なる投入タイミングで、同一の水量としてグループ化する。
【0052】
投入タイミングは、当該スラブが生産される直前に決定されることが多いが、少なくとも水位変化よりも前なので、省エネ制御側(制御装置2)としては十分前に本タイミングを知ることができるので十分である。
【0053】
このように、結論として省エネ制御側(制御装置2)としては、事前に水位変化とその間隔をタイミングチャートとして予見することができるので、水位が上限まで到達する時間が予見でき、この時間内で最適の周波数でポンプ6を回転させ、水位を下限まで下げればよいことになる。
【0054】
一般に流量とポンプの消費電力には三乗則が適用でき、流量を半分にすれば消費電力は
12.5%程度ですむことになる。
【0055】
図5は、本実施例のポンプ制御システムの制御装置2によるモータ回転数と稼働時間の算出例を示す図である。まず、
図5(a)に示すように、従来の装置は、未来における水位変化を不明なものとして制御しているため、水位が上限レベルに達した場合にポンプを最大運転させて水を排出し、下限レベルまで水位を下げる。この場合のポンプエネルギーを1PUとする。
【0056】
これに対し、本実施例のポンプ制御システムは水位変動を予測できるので、
図5(b)に示すように、水位が上限レベルに達したとしても、次に水が流入するまで時間に余裕があるときには、ポンプエネルギーを抑えて水を排出することができる。
図5(a)に示す従来装置が1PUのポンプエネルギーでT秒間、水を排出しているのに対し、本実施例のポンプ制御システムは、
図5(b)に示すように
0.125PUのポンプエネルギーで4×T秒間、水を排出している。最終的に排出される水量は同量であるが、ポンプの消費電力はモータ回転数の3乗に比例するため、
図5(b)の場合の方が大幅に消費電力を低減することができ、省エネ効果を得られることがわかる。
【0057】
また、設備の処理として別途水位計を使用し、水位変化に対して省エネでのポンプ処理が少なく水位が増加しすぎた場合、省エネ運転とは別にポンプ運転を最大にすることで対応することもできる。この場合でも常に最大周波数運転で稼動させるよりエネルギーの削減が可能となる。
【0058】
上述のとおり、本発明の実施例1の形態に係るポンプ制御システムによれば、循環水設備を利用してスラブに使用した水を上位タンク5に貯蔵した場合に、実際の実績値と投入するスラブの諸元と投入時間間隔とに基づいて、上位タンク5の水位変動を予測しつつ、ポンプ6の回転数と稼動時間を制御することにより消費電力を低減することができる。
【0059】
制御装置2は、投入スラブとその投入間隔に対応した水量に応じて変動する水位とその時間を実績から学習、想定し、ポンプ回転数を最適にすることで消費電力を最小にしつつ管理水位を確保することができる。
【0060】
すなわち、本実施例のポンプ制御システムは、制御装置2を備えることにより、様々な諸元を持つスラブとその投入時間間隔を、実際の実績値を元に順次有限のグループに分類することを可能とし、同時に水位変化量をもグループ化することで、その間の関係を一義的に結びつけることで次に投入されるスラブが判明するので、上位タンク5の水位変化を推定でき、その時間に応じてポンプ6の回転数と稼動時間を決定することができ、投入スラブと間隔に最適なポンプ周波数が決定でき、水処理設備の消費電力を最小にすることができる。
【0061】
また、本実施例のポンプ制御システムにおける制御装置2は、スラブ情報から、製品タンクで必要とされる水量を確保しつつ、当該スラブに使用された水量の結果、一定時間遅れ後に流れ込むことで発生する上位タンク5での水位変動において、運転実績から統計処理、学習、予測し、次にアトランダムに投入圧延されるスラブに対してもその投入時間と水量から廃水側の水位変動を学習、予測することができる。したがって、制御装置2は、排水処理設備側の水位変動を予測し,最小のエネルギーでポンプ6を運転することができ、かつ複雑な制御ロジック、そのためのパラメータと調整を必要とする制御理論を適用することなく、同時に従来の製品の品質、生産量を確保することができる。
【0062】
このように、本実施例のポンプ制御システムによれば、循環水設備を利用してタンクに貯蔵した水をスラブに使用する場合に、実際の使用実績値、水位変動量、投入するスラブのうち水位変動関連諸元とスラブ投入時間間隔等に基づいて、タンクの水位変動を学習予測し、経験的にグループ化可能な現象についてはグループ化することにより、投入予定のスラブに対してあらかじめ水位変動を関連予測することで排水ポンプの回転数と稼働時間を制御することにより消費電力を低減することができる。
【0063】
また、関連予測不能な場合は、従来の商用運転(ポンプ周波数を商用最大で運転)にて稼働させることで、設備操業品質を確保することができる。
【0064】
関連予測不能な場合でも、操業を継続する過程で学習、予測が可能になれば、省エネ制御可能なグループに分類することで、省エネ運転制御範囲も拡大することができる。
【0065】
さらに、既設システムのうち生産量、品質のための制御が中心、省エネを目的とした制御が搭載されていない制御装置に対し、本発明は、制御装置2を追加することにより、既設システムを改造することなく、省エネを目的とした最適な機能を持ったシステムを追加することができる。
【0066】
また、本実施例のポンプ制御システムは、生産中に平均的な生産パターン以外や、緊急停止が発生したことで今回発明の省エネ運転領域を逸脱する場合、生産へ影響を与えることなく、速やかに既設商用運転に切り替えることができる。
【0067】
また、本実施例のポンプ制御システムは、省エネ制御を行うにあたり、ポンプ6のモータ回転数を適切に制御するので、従来のように常にポンプを最大周波数で運転させる場合に比して、ポンプ寿命を延ばすことができる。
【0068】
なお、本制御について必要となる投入スラブにおける水量、投入時間間隔等の省エネ関連情報、及び各タンクにおける水位変動情報のベクトル、グループ化等の関連性を数理化することになり、数理統計処理等様々ある。