(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
プライマリプーリ,セカンダリプーリ及びベルトからなる無段変速機の変速機構を収容する変速機構収容部と、前記変速機構のプライマリ軸及びセカンダリ軸に隣接し且つこれらの軸方向と平行な左右の出力軸を有する差動装置を外側から覆い、前記変速機構収容部に対し前記軸方向の一端側に偏移して配置された差動装置収容部と、車載時に下方となるハウジング下部に配置され油圧コントロールバルブユニットを装着されるバルブユニット装着部とを備えたトランスミッションケースの外側面を鋳造する鋳型構造であって、
前記トランスミッションケースは、前記偏移により前記差動装置収容部の外側面の外方に形成された凹所において、前記出力軸の下方で前記バルブユニット装着部に近接した箇所に配置されて、前記軸方向と交差する方向へ軸線を向けた筒状の電動オイルポンプ室を備えており、
前記軸方向に移動し前記トランスミッションケースの外側面の一部及び前記電動オイルポンプ室の外周面の一部を形成する第1の型と、
前記電動オイルポンプ室の軸線方向に移動し前記電動オイルポンプ室の内周面及び前記電動オイルポンプ室の前記外周面の残部並びに前記トランスミッションケースの前記外側面の残部を形成する第2の型と、を有し、
前記電動オイルポンプ室の前記外周面を形成する前記第1の型と前記第2の型との接合部に、前記外周面に前記軸線方向に沿って延びる軸方向リブを形成する第1の溝が形成されている
ことを特徴とする、トランスミッションケース用鋳型構造。
前記電動オイルポンプ室の前記奥部の前記第1油路が配置される箇所の前記軸方向リブよりも上方には、前記電動オイルポンプ室の前記外周面よりも窪んで前記凹所に連続する窪み部分が配置され、前記窪み部分には、前記差動装置の前記出力軸が配置され、
前記第1の型には、前記窪み部分を含む前記凹所,前記軸方向リブの上半部及び前記外周面の上半部を形成する箇所が設けられている
ことを特徴とする、請求項2記載のトランスミッションケース用鋳型構造。
前記電動オイルポンプ室の前記奥部には、前記第1の型の抜き方向に向いて前記第1油路の先端部に中間部が交差し先端開口部が閉塞される第2油路と、前記第2の型の抜き方向に向いて前記第2油路の中間部に中間部が交差し先端部が前記油圧コントロールバルブユニットに接続され基端開口部が閉塞される第3油路とが配置され、
前記第1の型には、前記第2油路を形成する箇所が設けられ、
前記第2の型には、前記第3油路を形成する箇所が設けられている
ことを特徴とする、請求項2又は3記載のトランスミッションケース用鋳型構造。
前記電動オイルポンプ室の前記外周面を形成する前記第1の型と前記第2の型との接合部に、前記外周面の上半部に、前記軸方向リブから連続して周方向に沿って延びる円弧状リブを形成する第2の溝が形成されている
ことを特徴とする、請求項2〜4の何れか1項に記載のトランスミッションケース用鋳型構造。
前記電動オイルポンプ室の前記奥部に対応する個所の前記トランスミッションケースの外側面を形成する前記第1の型と前記第2の型との接合部に、前記軸方向リブから連続した第1の補助リブを形成する第3の溝が形成され、
前記差動装置収容部の外側面を形成する前記第1の型と前記第2の型との接合部に、前記円弧状リブから連続した第2の補助リブを形成する第4の溝が形成されている
ことを特徴とする、請求項5記載のトランスミッションケース用鋳型構造。
プライマリプーリ,セカンダリプーリ及びベルトからなる無段変速機の変速機構を収容する変速機構収容部と、前記変速機構のプライマリ軸及びセカンダリ軸に隣接し且つこれらの軸方向と平行な左右の出力軸を有する差動装置を外側から覆い、前記変速機構収容部に対し前記軸方向の一端側に偏移して配置された差動装置収容部と、車載時に下方となるハウジング下部に配置され油圧コントロールバルブユニットを装着されるバルブユニット装着部とを備え、鋳造により形成されたトランスミッションケースであって、
前記トランスミッションケースは、前記偏移により前記差動装置収容部の外側面の外方に形成された凹所において、前記出力軸の下方で前記バルブユニット装着部に近接した箇所に配置されて、前記軸方向と交差する方向へ軸線を向けた筒状の電動オイルポンプ室を備え、
前記電動オイルポンプ室の外周面には、前記電動オイルポンプ室の軸線方向に沿って延びる軸方向リブが形成されている
ことを特徴とする、トランスミッションケース。
前記電動オイルポンプ室の前記奥部の前記第1油路が配置される箇所の前記軸方向リブよりも上方には、前記電動オイルポンプ室の前記外周面よりも窪んで前記凹所に連続する窪み部分が配置され、前記窪み部分には、前記差動装置の前記出力軸が配置されている
ことを特徴とする、請求項11記載のトランスミッションケース。
前記差動装置収容部には、前記出力軸が貫通する穴部と、前記穴部の周囲に肉盛りされたボス部と、前記ボス部の周囲に放射状に肉盛りされた放射状リブとが設けられている
ことを特徴とする、請求項10〜15の何れか1項に記載のトランスミッションケース。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の燃費向上を促進するために種々の技術が開発されている。例えば、停車時にエンジンのアイドリングを停止させるシステムを有するアイドリングストップ車両の場合には、エンジン停止により燃費向上を促進することができる。また、動力源としてエンジン(原動機)以外にモータ(電動発電機)を備えたハイブリッド車両の場合には、発進時や低速走行時には出力トルクを出し難いエンジンに替えてモータを利用し、減速時には回生ブレーキによりエネルギを回収することにより燃費向上を促進することができる。
【0003】
一方、動力源としてエンジンを用いる場合には、トルク確保や燃費向上の観点から変速機が必須である。中でも自動変速機の場合、一般に油圧制御によって各部を作動させる。例えば、ベルト式無段変速機の場合には、入出力プーリによるベルトのクランプや可動プーリの移動による変速比の調整には作動油の油圧が必要であり、トルクコンバータの動力媒体としても作動油が必要となる。このような油圧制御系には油圧供給源が必要であり、エンジンを備えた自動車の場合、ポンプ容量を確保しやすいという観点から、油圧供給源として一般にエンジン駆動式オイルポンプを用いている。
【0004】
しかし、アイドリングストップ車両がアイドリングを停止している場合や、ハイブリッド車両においてモータのみを動力源として走行している場合には、エンジンが停止しているため、エンジン駆動式オイルポンプでは変速機に必要な油圧を確保することができない。このため、エンジン駆動式オイルポンプに加えて電動オイルポンプを装備し、エンジン停止時には電動オイルポンプにより油圧を確保することができるようにした技術が開発されている。
【0005】
この場合、電動オイルポンプを変速機に対してどのように配置するかが課題となる。
例えば、特許文献1には、
図10に示すようなベルト式無段変速機の変速機ユニットが例示され、ハウジング200内には、プライマリプーリ210,セカンダリプーリ220及びベルト230からなる無段変速機の各部と、差動装置240とが収容されている。プライマリプーリ210,セカンダリプーリ220の各軸心及び差動装置240の左右の出力軸(ドライブシャフト)の軸心は、プライマリプーリ210及び差動装置240の軸心を下辺とした三角形をなすように配置されている。
【0006】
油圧コントロールバルブ250は、プライマリプーリ210及び差動装置240の下方において、プライマリプーリ210,セカンダリプーリ220の各軸と略平行な平面内に配置されている。油圧コントロールバルブ250の一端はプライマリプーリ210の側方に突出し、この突出端部の上方の凹部260に、油圧コントロールバルブユニット250への油圧供給源である電動オイルポンプ270が配置されている。
【0007】
ただし、電動オイルポンプ270の吸入口及び吐出口は、ハウジング200の外周においてハウジング200の接合面に接合されており、したがって、電動オイルポンプ270のポンプ室は、ハウジング200と別体に設けられている。
この技術によれば、電動オイルポンプ270を変速機ユニットのハウジング200外周の凹部260に油圧コントロールバルブ250と重なるように設けたので、変速機ユニットの構成をコンパクトにすることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ベルト式無段変速機のハウジングに電動オイルポンプを装備する場合、上述の特許文献1の技術のようにハウジング200外周の凹部260を利用することにより、変速機ユニットの構成をコンパクトにすることができる。また、電動オイルポンプが油圧コントロールバルブに接近した箇所に配置されるので、作動油が流通する油路を短くコンパクトに構成することができる。
【0010】
しかし、プライマリプーリ210の側方に突出した油圧コントロールバルブ250の一端上方の空間を他の部品の収容スペースに確保したい場合など、ハウジング200の周囲の他のスペースに電動オイルポンプを配置させることが要求される場合がある。
ただし、特許文献1のようなプライマリプーリ210,セカンダリプーリ220及び差動装置240や油圧コントロールバルブ250の基本的な配置を変更することなく、且つ、特許文献1の技術と同様に、変速機ユニットの構成をコンパクトにすると共に油路についてもコンパクトにすることができるように、電動オイルポンプのポンプ室を配置したい。
【0011】
そこで、
図10に示すプライマリプーリ210及び差動装置240の下方において、油圧コントロールバルブ250の他端側、即ち、差動装置240の近傍に、電動オイルポンプを配置することが考えられる。この場合、電動オイルポンプが、差動装置240からハウジングの外方に突出する出力軸(ドライブシャフト)に干渉しないように配置することが要求される。
【0012】
また、特許文献1の技術の場合、電動オイルポンプ270のポンプ室は、ハウジング200と別体に設けられているので、ポンプ室をハウジング200と接合させなくてはならず、接合箇所に油漏れを防ぐとともに加工公差を吸収するなどの工夫が必要になる。
この点では、電動オイルポンプのポンプ室を変速機のハウジングと一体に形成することが望まれている。
【0013】
ただし、変速機のハウジングは鋳造によって形成されるので、この場合、電動オイルポンプのポンプ室の配置や形状を、鋳造に適したものにすることが必要になり、この鋳造に要する鋳型もトランスミッションケースを支障なく製造できるものにしなくてはならない。
【0014】
本発明は、かかる課題に鑑みて創案されたもので、従来の変速機の基本的なレイアウトを維持しつつ、トランスミッションケースの下部の油圧コントロールバルブ近傍の差動装置側のスペースに、電動オイルポンプのポンプ室をトランスミッションケースと一体に鋳造することができるようにした、トランスミッションケース用鋳型構造及びトランスミッションケースを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
(1)上記の目標を達成するために、本発明のトランスミッションケース用鋳型構造は、プライマリプーリ,セカンダリプーリ及びベルトからなる無段変速機の変速機構を収容する変速機構収容部と、前記無段変速機構のプライマリ軸及びセカンダリ軸に隣接し且つこれらの軸方向と平行な左右の出力軸(ドライブシャフト)を有する差動装置を外側から覆い、前記変速機構収容部に対し前記軸方向の一端側に偏移して配置された差動装置収容部と、車載時に下方となるハウジング下部に配置され油圧コントロールバルブユニットを装着されるバルブユニット装着部とを備えたトランスミッションケースの外側面を鋳造する鋳型構造であって、前記トランスミッションケースは、前記偏移により前記差動装置収容部の外側面の外方に形成された凹所において、前記出力軸の下方で前記バルブユニット装着部に近接した箇所に配置されて、前記軸方向と交差する方向へ軸線を向けた筒状の電動オイルポンプ室を備えており、前記軸方向に移動し前記トランスミッションケースの外側面の一部及び前記電動オイルポンプ室の外周面の一部を形成する第1の型と、前記電動オイルポンプ室の軸線方向に移動し前記電動オイルポンプ室の内周面及び前記電動オイルポンプ室の前記外周面の残部並びに前記トランスミッションケースの前記外側面の残部を形成する第2の型と、を有し、前記電動オイルポンプ室の前記外周面を形成する前記第1の型と前記第2の型との接合部に、前記外周面に前記軸線方向に沿って延びる軸方向リブを形成する第1の溝が形成されていることを特徴としている。
【0016】
(2)前記電動オイルポンプ室の前記軸線の一端側で前記第2の型の抜き方向に、電動機が装着される電動機装着部が配置され、前記電動オイルポンプ室の前記軸線の他端側の奥部に、吐出ポート及び前記吐出ポートから続く第1油路が配置され、前記軸方向リブ、及び、前記電動オイルポンプ室の円筒状の前記外周面のうち前記軸方向リブよりも下方の下半部は、前記電動オイルポンプ室の前記奥部に対応する個所まで延設され、前記第2の型には、前記電動機装着部,前記油路,前記軸方向リブの下半部及び前記外周面の下半部を形成する箇所が設けられていることが好ましい。
【0017】
このように、電動オイルポンプ室の軸線の他端側の奥部に、油圧コントロールバルブユニットに連通接続する第1油路を一体に形成すると、第1油路を配置上や加工上で効率よく形成することができるが、この反面、第1油路の形状によっては鋳造時の湯流れに支障をきたし、鋳造後に巣の発生を生じるおそれがあるので、これを回避したい。この点、電動オイルポンプ室及び油路の外側に形成された、軸線方向に延びた部分円筒状の外周面には、軸線方向に延びた軸方向リブが突設され、この軸方向リブを形成する第1の溝が流路となって電動オイルポンプ室の奥部への湯流れが促進され、巣の発生を抑制する。
【0018】
(3)前記電動オイルポンプ室の前記奥部の前記第1油路が配置される箇所の前記軸方向リブよりも上方には、前記電動オイルポンプ室の前記外周面よりも窪んで前記凹所に連続する窪み部分が配置され、前記窪み部分には、前記差動装置の前記出力軸が配置され、前記第1の型には、前記窪み部分を含む前記凹所,前記軸方向リブの上半部及び前記外周面の上半部を形成する箇所が設けられていることが好ましい。
【0019】
この場合、電動オイルポンプ室の奥部の第1油路が配置される箇所には、電動オイルポンプ室の外周面よりも窪んで窪み部分が配置され、この窪み部分に、差動装置の出力軸が配置されるため、第1油路の配設箇所における差動装置の出力軸との干渉を回避することができる。この窪み部分は、第2の型の抜き方向と逆側において電動オイルポンプ室の外周面よりも窪んで形成されるため、第2の型では形成できないが、この部分は前記第1の型により形成するため、支障なく窪み部分を形成できる。
【0020】
(4)前記電動オイルポンプ室の前記奥部には、前記第1の型の抜き方向に向いて前記第1油路の先端部に中間部が交差し先端開口部が閉塞される第2油路と、前記第2の型の抜き方向に向いて前記第2油路の中間部に中間部が交差し先端部が前記油圧コントロールバルブユニットに接続され基端開口部が閉塞される第3油路とが配置され、前記第1の型には、前記第2油路を形成する箇所が設けられ、前記第2の型には、前記第3油路を形成する箇所が設けられていることが好ましい。
【0021】
この場合、第2油路の先端開口部や第3油路の基端開口部から、油路の内部に装備すべき内装部材(例えば、逆止弁)を挿入し配置することができ、開口部は内装部材の内装後閉塞されシールされることになるが、上記のように、軸方向リブを形成する第1の溝が流路となって電動オイルポンプ室の奥部への湯流れが促進され、巣の発生を抑制するため、巣の発生によるシール性能の低下を抑制することができる。
【0022】
(5)前記電動オイルポンプ室の前記外周面を形成する前記第1の型と前記第2の型との接合部に、前記外周面の上半部に、前記軸方向リブから連続して周方向に沿って延びる円弧状リブを形成する第2の溝が形成されていることが好ましい。
この場合、湯流れが促進されると共に、電動オイルポンプ室の剛性及び強度を確保することができ、また、鋳造時に、第2の溝が流路となって湯流れを向上させる。
【0023】
(6)前記電動オイルポンプ室の前記奥部に対応する個所の前記トランスミッションケースの外側面を形成する前記第1の型と前記第2の型との接合部に、前記軸方向リブから連続した第1の補助リブを形成する第3の溝が形成され、前記差動装置収容部の外側面を形成する前記第1の型と前記第2の型との接合部に、前記円弧状リブから連続した第2の補助リブを形成する第4の溝が形成されていることが好ましい。
この場合、電動オイルポンプ室や差動装置収容部の剛性及び強度を確保することができ、また、鋳造時に、第3の溝や第4の溝が流路となって湯流れを向上させる。
【0024】
(7)前記差動装置収容部には、前記出力軸が貫通する穴部と、前記穴部の周囲に肉盛りされたボス部と、前記ボス部の周囲に放射状に肉盛りされた放射状リブとが設けられ、前記第1の型には、前記穴部,前記ボス部及び前記放射状リブを形成する箇所が設けられていることが好ましい。
この場合、差動装置の出力軸が貫通する穴部の周りの剛性及び強度を確保することができ、穴部周りの基本肉厚を薄くすることができる。
【0025】
(8)
前記変速機構収容部には、前記プライマリ軸及び前記セカンダリ軸を支持する軸支持壁部と、前記軸支持壁部の周囲を囲繞する周壁部と、前記周壁部の外端縁部において変速機カバーが結合される外端面部が装備され、前記第1の型には、前記軸支持壁部の外側面,前記周壁部及び前記外端面部を形成する箇所が設けられていることが好ましい。
【0026】
(9)本発明の第1のトランスミッションケースは、上記のトランスミッションケース用鋳型構造を用いて鋳造により形成されたことを特徴としている。
(10)本発明の第2のトランスミッションケースは、プライマリプーリ,セカンダリプーリ及びベルトからなる無段変速機の変速機構を収容する変速機構収容部と、前記無段変速機構のプライマリ軸及びセカンダリ軸に隣接し且つこれらの軸方向と平行な左右の出力軸(ドライブシャフト)を有する差動装置を外側から覆い、前記変速機構収容部に対し前記軸方向の一端側に偏移して配置された差動装置収容部と、車載時に下方となるハウジング下部に配置され油圧コントロールバルブユニットを装着されるバルブユニット装着部とを備え、鋳造により形成されたトランスミッションケースであって、前記偏移により前記差動装置収容部の外側面の外方に形成された凹所において、前記出力軸の下方で前記バルブユニット装着部に近接した箇所に配置されて、前記軸方向と交差する方向へ軸線を向けた筒状の電動オイルポンプ室を備え、前記電動オイルポンプ室
の外周面には、
前記電動オイルポンプ室の軸線方向に沿って延びる軸方向リブが形成されていることを特徴としている。
【0027】
(11)前記電動オイルポンプ室の前記軸線の一端側で
、前記軸線方向に移動し前記電動オイルポンプ室の内周面及び前記電動オイルポンプ室の前記外周面の一部並びに前記トランスミッションケースの外側面の一部を形成する型である第2の型の抜き方向に、電動機が装着される電動機装着部が配置され、前記電動オイルポンプ室の前記軸線の他端側の奥部に、吐出ポート及び前記吐出ポートから続く第1油路が配置され、前記軸方向リブ、及び、前記電動オイルポンプ室の円筒状の前記外周面のうち前記軸方向リブよりも下方の下半部は、前記電動オイルポンプ室の前記奥部に対応する個所まで延設されていることが好ましい。
【0028】
(12)前記電動オイルポンプ室の前記奥部の前記第1油路が配置される箇所の前記軸方向リブよりも上方には、前記電動オイルポンプ室の前記外周面よりも窪んで前記凹所に連続する窪み部分が配置され、前記窪み部分には、前記差動装置の前記出力軸が配置されていることが好ましい。
(13)前記電動オイルポンプ室の前記奥部には、
前記軸方向に移動し前記トランスミッションケースの前記外側面の残部及び前記電動オイルポンプ室の前記外周面の残部を形成する型である前記第1の型の抜き方向に向いて前記第1油路の先端部に中間部が交差し先端開口部が閉塞される第2油路と、前記第2の型の抜き方向に向いて前記第2油路の中間部に中間部が交差し先端部が前記油圧コントロールバルブユニットに接続され基端開口部が閉塞される第3油路とが配置されていることが好ましい。
【0029】
(14)前記電動オイルポンプ室の前記外周面の上半部には、前記軸方向リブから連続して周方向に沿って延びる円弧状リブが形成されていることが好ましい。
(15)前記電動オイルポンプ室の前記奥部に対応する個所の外側面には、前記軸方向リブから連続した第1の補助リブが形成され、前記差動装置収容部の外側面には、前記円弧状リブから連続した第2の補助リブが形成されていることが好ましい。
【0030】
(16)前記差動装置収容部には、前記出力軸が貫通する穴部と、前記穴部の周囲に肉盛りされたボス部と、前記ボス部の周囲に放射状に肉盛りされた放射状リブとが設けられていることが好ましい。
(17)前記変速機構収容部には、前記プライマリ軸及び前記セカンダリ軸を支持する軸支持壁部と、前記軸支持壁部の周囲を囲繞する周壁部と、前記周壁部の外端縁部において変速機カバーが結合される外端面部が装備されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0031】
本発明のトランスミッションケース用鋳型構造又はトランスミッションケースによれば、トランスミッションケースの外側面の電動オイルポンプ室を一体に鋳造することが可能になる。
また、電動オイルポンプ室がトランスミッションケースの外側面に鋳造により一体に形成されているので、ポンプ室をトランスミッションケースとは別に製造する工程や、ポンプ室をトランスミッションケースに接合する工程が不要であり、また、ポンプ室をトランスミッションケースに接合する場合に要求される、接合箇所に油漏れを防ぐとともに加工公差を吸収するなどの工夫も必要がない。
【0032】
電動オイルポンプ室は、差動装置収容部の外側面の外方に形成された凹所に位置するので、トランスミッションケースをコンパクトに構成することができる。
円筒状の電動オイルポンプ室はプライマリ軸及びセカンダリ軸の軸方向と交差する方向へ軸線を向けているので、電動オイルポンプ室の軸線上に接続する電動機を無段変速機軸方向の他端側に突出させることなく配置することができ、変速機をコンパクトに構成することができる。
【0033】
電動オイルポンプ室がバルブユニット装着部に近接した位置に配置されるので、作動油の油路をコンパクトに配置する上で有利である。
電動オイルポンプ室の上方には変速機構収容部から差動装置の出力軸が突出するが、電動オイルポンプ室はその下方から変速機構収容部及び出力軸の要部を保護する。
電動オイルポンプ室の外側の外周面の軸方向リブは、電動オイルポンプ室及びその上方の変速機構収容部の剛性を向上させる。また、鋳造時に、この軸方向リブを形成する第1の溝が流路となって電動オイルポンプ室を形成する筒状の鋳造空間における湯流れが促進され、巣の発生を抑制する。
【0034】
電動オイルポンプ室自体も変速機構収容部の剛性を向上させるため、変速機構収容部の基本肉厚(ボスや軸方向リブを設けない部分の肉厚)を薄くすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、図面を用いて、本発明の実施の形態を説明する。
図1〜
図9を用いて、まず、本実施形態にかかる自動変速機の概略構成及び変速機ハウジング内の各装置の配置を説明し、次に、変速機ハウジングの構成,電動オイルポンプ室の構成及び変速機ハウジング用鋳型構造の構成を説明し、最後に、その作用及び効果を説明する。
【0037】
なお、本実施形態にかかるベルト式無段変速機は、停車時にエンジンのアイドリングを停止させるシステムを有するアイドリングストップ車両、あるいは、発進時や低速走行時には出力トルクを出し難いエンジンに替えてモータを利用し、減速時には回生ブレーキによりエネルギを回収することにより燃費向上を促進することができるハイブリッド車両に適用される。
【0038】
つまり、アイドリングストップ車両がアイドリングを停止している場合や、ハイブリッド車両においてモータのみを動力源として走行している場合には、エンジンが停止しエンジン駆動式オイルポンプでは変速機に必要な油圧を確保することができないため、エンジン駆動式オイルポンプに加えて電動オイルポンプを装備し、エンジン停止時には電動オイルポンプにより油圧を確保するものに適用される。
【0039】
[自動変速機の概略構成]
図5は、本実施形態にかかるベルト式無段変速機を示す概略断面図である。ただし、
図5に示す断面は、同一断面ではなくいくつかの断面を展開して示している。
図5に示すように、このベルト式無段変速機は、無段変速機の変速機構を収容する変速機ハウジング10が備えられている。この変速機ハウジング10は、エンジン側から順位配置された、コンバータハウジング11と本発明にかかるトランスミッションケース12とサイドカバー13とから構成される。
【0040】
このような変速機ハウジング10内には、エンジンからのトルクを増幅するトルクコンバータ21と、発進クラッチを有する前後進切換機構22と、入出力間で無段変速するベルト式無段変速機構30と、ドライブピニオン24と、ディファレンシャルギヤ(差動装置)25と、を備えている。また、各装置への圧油や潤滑油を供給する機構として、メカニカルオイルポンプであるベーンポンプ26と、オイルストレーナ27と、コントロールバルブユニット28と、オイルクーラ(図示せず)と、を備えている。
【0041】
トルクコンバータ21は、エンジン出力軸1に接続されるポンプインペラと、変速機入力軸20に接続されるタービンランナと、内部の作動油の流れを整えるステータと、高速走行時に直接動力を伝達するためのロックアップクラッチと、から構成される。
前後進切換機構22は、エンジン側と連結されると共に前進クラッチを有するサンギヤと、後進ブレーキと連結されたキャリヤと、プライマリプーリ31と連結されると共に前進クラッチを有するリングギヤと、を有する遊星歯車機構から構成されている。なお、遊星歯車機構は、シングルピニオン型又はダブルピニオン型の遊星歯車としてもよく、特に限定されない。
【0042】
ベルト式無段変速機構30は、前後進切換機構22から入力された回転と一体に回転する可動プーリ31a及び固定プーリ31bからなるプライマリプーリ31と、駆動輪を所定の減速比で一体に回転する可動プーリ32a及び固定プーリ32bからなるセカンダリプーリ32と、各プーリの溝間に巻回されたベルト33から構成されている。セカンダリプーリ32に設けられたセカンダリプーリ軸32dの端部には出力ギヤ34が固定され、ドライブピニオン24と噛合している。
【0043】
プリライマリプーリ31の可動プーリ31aと、セカンダリプーリ32の可動プーリ32aの背面にはそれぞれシリンダ室31c及びシリンダ室32cが設けられている。なお、本実施形態では、変速機ハウジング10の軸方向を短縮させるため、ドライブピニオン24を
図5中の可能な限り左方向に配置したい理由から、シリンダ室32cの断面積をシリンダ室31cのものよりも小さく形成している。セカンダリプーリ32とドライブピニオン24との軸心位置を変更して、変速機ハウジング10の軸方向を短縮させることも考えられるが、これはギヤ比が変化してしまい好ましくない。また、本実施形態では、オイルポンプとして油圧供給能力の高いベーンポンプ26を使用しているので、シリンダ室32c内の面積が縮小しても可動プーリ32aへの押圧力を十分確保することができる。
【0044】
ドライブピニオン24はピニオンシャフト24aを介して、ベアリング35に回転可能に支持されている。このドライブピニオン24にはファイナルギヤ36が噛合している。このファイナルギヤ36にはディファレンシャルギヤ25の2個のピニオンが固定され、これらのピニオンに左右からそれぞれサイドギヤが噛み合わされる。各サイドギヤにはドライブシャフト(差動装置の出力軸)25aが連結され、左右の駆動輪を駆動するように構成されている。
【0045】
ベーンポンプ26は、ロータと、このロータに偏心して取り付けられるカムリングと、ロータとカムリングにより構成される油室を仕切るベーンと、から構成されている。ベーンはロータの溝にはめ込まれ、その内側はロータ中心軸と各溝に設けられた油路に供給される作動油が、ロータ回転時の遠心力によりベーンをカムリングに押圧する。この構成により、ベーンをスプリングによりカムリングに押圧する構成のものに比べて、部品点数が少なく、また長寿命化が図れる。ロータのトルクコンバータ21側の端部にはドリブンスプロケット26aが固定され、変速機入力軸20と一体に回転するドライブスプロケット37にチェーン38を介して連結される。
【0046】
ベーンポンプ26の吸入口側にオイルストレーナ27が設けられ、ベーンポンプ26の吐出口側にはコントロールバルブユニット28が設けられる。図示しないが、コントロールバルブユニット28の上面には、複数の電磁制御弁及び各種センサ(油温センサ、液圧センサ等)である電子部品が配置される。
なお、
図4に示すオイルクーラ29の内部には、図示しないが、冷却水が供給される冷却水室と、潤滑油が供給される潤滑油室とが隣接して交互に層状に構成される。このオイルクーラ29の冷却水室には、ラジエータで冷却された冷却水が供給される供給水路と、オイルクーラ29からの冷却水をエンジンへ送水する送水水路とが接続される。また、オイルクーラ29の潤滑油室には、コントロールバルブユニット28及びオイルパン40から油を供給する油路と、冷却された油を各装置に潤滑油として供給する油路とが接続される。
【0047】
[変速機ハウジング内の各装置の配置]
図4はトランスミッションケース12をその外側(サイドカバー13側)から見た正面図である。
図4では、ベルト式無段変速機構30のプリライマリプーリ31及びセカンダリプーリ32と、ドライブピニオン24と、ディファレンシャルギヤ25と、ベーンポンプ26とを、いずれも模式的に円で表現している。また、
図4において、破線で示す円はトランスミッションケース12を隔てて逆側に収装された装置を示す。また、
図4中に前方と示す矢印は、変速機ハウジング10の車両搭載時における車両の前方方向を示す。以下、単に前方、反対側を後方と記載する。また、この前後方向を基準に、鉛直上方を単に上方、反対側を下方と記載する。
【0048】
図4に示すように、ベルト式無段変速機構30はトランスミッションケース12の第1収装室(変速機構収容部)121に収装される。ベルト式無段変速機構30はプライマリプーリ31が第1収装室121の前方側下部に収装され、セカンダリプーリ32が第1収装室121の後方側上部に収装される。また、第1収装室121の下部は開口しており、各装置を潤滑した潤滑油が開口部よりオイルパン40に排出される。
【0049】
トランスミッションケース12を隔てた逆側、即ち、コンバータハウジング11側には、図示しない第2収装室に、ドライブピニオン24とディファレンシャルギヤ25とベーンポンプ26とが収装されている。トランスミッションケース12には、この第2収装室を外側から覆い遮蔽する差動装置遮蔽壁部(差動装置収容部)122が形成されている(
図5参照)。
【0050】
ディファレンシャルギヤ25は第2収装室の後方側下部に収装される。ドライブピニオン24は、セカンダリプーリ軸32dに固定された出力ギヤ34と、ドライブピニオン24の軸上に固定されたアイドラギヤ39とが噛み合う。また、ドライブピニオン24はディファレンシャルギヤ25に固定されたファイナルギヤ36と噛み合うように配置される(
図5参照)。
【0051】
ベーンポンプ26は、プライマリプーリ31及びディファレンシャルギヤ25よりもオイルパン40側で、プライマリプーリ31と異なる軸心上に配置されている。
また、ディファレンシャルギヤ25は、プライマリプーリ31及びセカンダリプーリ32と隣接しているが、ディファレンシャルギヤ25のサイドギヤに接続されたドライブシャフト(差動装置の出力軸)25aの軸心位置は、プライマリプーリ31及びセカンダリプーリ32の軸心位置と正三角形に近い位置関係にあり、ドライブシャフト25aの軸心位置とプライマリプーリ31の軸心位置とを結んだ線が三角形の底辺をなしている。
【0052】
[トランスミッションケースの構成]
図5に示すように、トランスミッションケース12には、各装置の軸を支持する支持部により、トルコンハウジング11側とサイドカバー13側とを隔離する壁が形成される。トランスミッションケース12の第1収装室121は、プライマリプーリ軸31d及びセカンダリプーリ軸32dを支持する軸支持壁部123が形成され、プライマリプーリ31及びセカンダリプーリ32を収容する空間をトルコンハウジング11側と隔離している。
【0053】
この軸支持壁部123には、プライマリプーリ軸貫通部124及びセカンダリプーリ軸貫通部125が形成され、プライマリプーリ軸31d及びセカンダリプーリ軸32dの各一端部がこれらの貫通部124,125を軸支持壁部123のトルコンハウジング11側に貫通し、ベアリング41,43を介して支持されている。したがって、貫通部124,125は各軸31d,32dとベアリング41,43とにより密閉されている。トランスミッションケース12のトルコンハウジング11側とサイドカバー13側とが完全に遮断されている。したがって、前後進切換機構22やドライブピニオン24等で発生するゴミ等がベルト式無段変速機構30へ侵入しない構成になっている。
【0054】
また、トランスミッションケース12には、サイドカバー13が結合されることにより密閉されている。プライマリプーリ軸31d及びセカンダリプーリ軸32dの各他端部は、サイドカバー13にベアリング42,44を介して支持されている。したがって、サイドカバー13側の外部からも、ゴミ等がベルト式無段変速機構30へ侵入しない構成になっている。
【0055】
図2はトランスミッションケース12の要部をその正面側(サイドカバー13側)から斜めに見た斜視図であり、
図3はトランスミッションケースの正面図(サイドカバー13から見た図)である。
図2,
図3に示すように、トランスミッションケース12には、軸支持壁部123の周囲に、プライマリプーリ31及びセカンダリプーリ32の外周全体を囲繞する周壁部126が形成されている。この周壁部126の端面127には、サイドカバー13をボルトで締結するための多数のボルト穴127aが形成され、これらのボルト穴127aが形成される個所は、周壁部126の肉厚が部分的に増大されている。トランスミッションケース12の第1収装室121は、軸支持壁部及び周壁部126を備えて構成される。
【0056】
トランスミッションケース12の差動装置遮蔽壁部122は、変速機の軸方向(即ち、エンジン出力軸1,プライマリプーリ軸31d,セカンダリプーリ軸32d,ドライブシャフト25a等の軸方向)において軸支持壁部123と略同位置に配置されている。すなわち、差動装置遮蔽壁部122は、周壁部126を備えた第1収装室121に対し軸方向の一端側(トルコンハウジング11側)に偏移して配置されている。
【0057】
したがって、差動装置遮蔽壁部122の外側面の外方には、第1収装室121よりも凹んだ凹所128が形成されており、この凹所128に本トランスミッションケース12の特徴的な構成である電動オイルポンプ室50が形成されている。
なお、差動装置遮蔽壁部122には、ドライブシャフト25aが貫通する穴部129が形成され、穴部129の外側面には、僅かに盛り上がるように肉盛りされたボス部129aと、このボス部129aの外周から放射状に延びて肉盛りされた放射状リブ129bとが形成されている。
【0058】
また、差動装置遮蔽壁部122の外周部分には、トルコンハウジング11と結合するフランジ部130が形成され、フランジ部130には、トルコンハウジング11にボルトで締結するための多数のボルト穴131が形成され、これらのボルト穴131が形成される個所は、差動装置遮蔽壁部122の肉厚が部分的に増大されている。
また、トランスミッションケース12の車載時下方となる面132には、コントロールバルブユニット28を取り付けるバルブユニット装着部132aが設けられる。また、コントロールバルブユニット28のさらに下方にオイルパン40が装備される。
トランスミッションケース12の車載時上方となる面133には、周壁部126の外面等が形成される。
【0059】
[電動オイルポンプ室の構成]
トランスミッションケース12の差動装置遮蔽壁部122の外方の凹所128において、ドライブシャフト25aの下方でバルブユニット装着部132aに近接した箇所に配置されて、電動オイルポンプ室(以下、単にポンプ室ともいう)50が形成されている。このポンプ室50は、変速機の軸方向と交差する方向であって、車載時にほぼ水平となる方向へ軸線を向けた筒状の内部空間51を有する室であり、軸線方向の一端が開口しており、この開口部分が電動機50Mを装着する電動機装着部54として構成されている。
【0060】
電動機装着部54には、電動機50Mを取り付けるための複数の取付穴54aが、ポンプ室50の軸線方向に沿って形成されている。
ポンプ室50の円筒状の内部空間51には、ポンプの回転部(例えば、ギヤポンプの一種であるトロコイドポンプが適用されていれば、アウタロータやインナロータ)が装備され、ポンプ室50の軸線方向の他端側の奥部に設けられる吸込ポート59(
図8参照)及び吐出ポート55(
図4,
図6,
図8参照)を通じで、電動機50Mにより回転部を回転駆動して吸込ポート59から吸い込んだオイルを加圧して吐出ポート55から吐出する。
【0061】
図6,
図7,
図8に示すように、ポンプ室50のさらに奥部には、吐出ポート55から続く第1油路56が形成され、さらに、この第1油路56に交差する第2油路57と、この第2油路57に交差する第3油路58とが形成される。吐出ポート55からのオイルの吐出方向に従うと、第2油路57は第1油路56の先端部に中間部が交差して連通し、第3油路58は第2油路57の先端部に中間部が交差して連通する。
【0062】
また、第2油路57は変速機の軸方向に向き、第3油路58はポンプ室50の軸線方向に向いており、第2油路57の先端開口部はプラグ57aで閉塞されてシールされ、第3油路58の基端開口部はプラグ58aで閉塞されてシールされる。したがって、第1油路56,第2油路57,第3油路58はカギ型の流路を形成し、第3油路58の先端は、コントロールバルブユニット28に接続されている。
【0063】
このようにカギ型の流路を形成しているのは、流路に逆止弁等の内装品を装備するため、及び、
図8に示すように、ベーンポンプ26の付属部材(ここでは、可変オイルポンプとするためのソレノイド)26bとの干渉を避けるためである。
ここでは、第3油路58には、プラグ58aでの閉塞前にその開口から、図示しない逆止弁が内装され、オイルがコントロールバルブユニット28方向へのみ流通するようになっている。
【0064】
ポンプ室50の外周面は内部空間51と同心又は略同心の円筒状に形成され、差動装置遮蔽壁部122から最も離隔した母線付近には、軸方向リブ60がポンプ室50の軸線方向に沿って形成されている(
図2参照)。特に、軸方向リブ60よりも車載時下方になるポンプ室50の外周面下半部52は、ポンプ室50の奥部の第1油路56の形成箇所まで同一の部分円筒状に形成され、軸方向リブ60よりも車載時上方になるポンプ室50の外周面上半部53は、ポンプ室50の外周部近傍のみが部分円筒状に形成される。
【0065】
したがって、電動オイルポンプ室50の奥部の第1油路56が配置される箇所の軸方向リブ60よりも上方は、電動オイルポンプ室50の外周面53よりも窪んで凹所128に連続する窪み部分53aが形成される。この窪み部分53aには、ドライブシャフト25aが配置される。
第2油路57の開口は外方(サイドカバー13側)に突設され、第3油路58の開口は車載時後方になるポンプ室50の軸線方向の一端側に突設されている。これらの突設部には、外方(サイドカバー13側)に向けて補強リブ(補助リブ)61,62が突設されている。補強リブ62は軸方向リブ60と連続している。
【0066】
また、ポンプ室50の外周面上半部53にも、外周方向に向けて円弧状リブ63,64が突設され、円弧状リブ63は差動装置遮蔽壁部122の外面にまで延設され、さらにこれに連続して、外方(サイドカバー13側)に向けて補強リブ(補助リブ)65が突設されている。差動装置遮蔽壁部122の外面には、さらに、補強リブ(補助リブ)66も突設されている。
【0067】
[変速機ハウジング用鋳型構造の構成]
上記のような形状のトランスミッションケース12を鋳造によって形成するために、
図1に示すように、変速機ハウジング用鋳型を分割している。なお、分割して構成される鋳型は、ダイカスト型(金型鋳造型)であり、
図1においては、鋳型を構成する各型M1〜M6自体は図示せずに、各鋳造領域に対応した位置に、白抜き矢印により型抜き方向を示すことによって、各鋳造領域を鋳造しうる型形状の鋳型の存在を示している。このうち、第1の型M1及び第2の型M2については、各鋳造領域に模様を付している。
【0068】
つまり、トランスミッションケース12の外側面(サイドカバー13側の面)を構成するために、変速機の軸方向に移動して、トランスミッションケース12の外側面の一部及び電動オイルポンプ室50の外周面の一部を形成する第1の型M1と、電動オイルポンプ室50の軸線方向に移動して電動オイルポンプ室50の内周面及び外周面の残部並びにトランスミッションケース12の外側面の残部を形成する第2の型M2とを備え、第2の型M2の移動方向、すなわち、電動オイルポンプ室50の軸線方向は、変速機の軸方向と直交する方向に設定される。
【0069】
第1の型M1と第2の型M2との境界部分は、
図1に太線で示すように、第3油路58の開口の突設部の補強リブ(補助リブ)62の頂面と、これに続く軸方向リブ60の頂面と、これに続く円弧状リブ63の頂面と、これに続く補強リブ(補助リブ)65の頂面と、これに続く周壁部126の端面127とにわたって設定されている。
つまり、第1の型M1と第2の型M2とは、結合されるとその境界部分において、軸方向リブ60を形成する第1の溝(
図9,符号CS参照)と、円弧状リブ63を形成する第2の溝と、補強リブ(補助リブ)62を形成する第3の溝と、補強リブ(補助リブ)65を形成する第4の溝と、が形成される。
【0070】
また、トランスミッションケース12の内側面(トルコンハウジング11側の面)を構成するために変速機の軸方向で第1の型M1とは逆方向に移動する第3の型M3が、トランスミッションケース12の車載時下側の面132を構成するために第4の型M4が、トランスミッションケース12の車載時上側の面133を構成するために第5の型M5が、第2の型M2と逆側の面を構成するために第6の型M6が、用意されている。
【0071】
第6の型M6は第2の型M2と同様に電動オイルポンプ室50の軸線方向に移動し、第4の型M4及び第5の型M5は、第1の型M1及び第3の型M3の移動方向と直交し、第2の型M2及び第6の型M6の移動方向とも直交する方向に移動する。
【0072】
[作用及び効果]
本発明の一実施形態にかかる変速機ハウジング用鋳型構造は上述のように構成されるので、このトランスミッションケース用鋳型を用いて、例えばアルミ合金等の鋳造材料で鋳造することにより、トランスミッションケース12の外側面に電動オイルポンプ室50を一体に鋳造することが可能になる。
【0073】
このため、電動オイルポンプ室50をトランスミッションケース12とは別に製造する工程や、ポンプ室50をトランスミッションケース12に接合する工程が不要であり、また、ポンプ室50をトランスミッションケース12に接合する場合に要求される、接合箇所に油漏れを防ぐとともに加工公差を吸収するなどの工夫も必要がない。したがって、加工時間や加工コストの低減を図ることが可能になる。
【0074】
しかも、従来の変速機の基本的なレイアウトを維持しつつ、トランスミッションケース12の下部の油圧コントロールバルブ28のディファレンシャル25側のスペースに、電動オイルポンプ室50を配置することができる。
また、電動オイルポンプ室50は、差動装置収容部122の外側面の外方に形成された凹所128に位置するので、トランスミッションケース12がこの部分で突出することが抑えられ、トランスミッションケース12をコンパクトに構成することができる。
【0075】
また、円筒状の電動オイルポンプ室50は変速機の軸方向と交差する方向、本実施形態の場合、直角に交差する方向へ軸線を向けているので、電動オイルポンプ室50の軸線上に接続する電動機50Mを変速機の軸方向の外面側(他端側)に突出させることなく配置することができ、この点からも変速機をコンパクトに構成することができる。
さらに、電動オイルポンプ室50がバルブユニット装着部132aに近接した位置に配置されるので、作動油の油路をコンパクトに配置することができる。
【0076】
そして、電動オイルポンプ室50の上方には変速機構収容部121からドライブシャフト(ディファレンシャル25の出力軸)25aが突出するが、電動オイルポンプ室50はその下方に位置するので、変速機構収容部121及びドライブシャフト25aの要部を保護する。
そして、電動オイルポンプ室50自体が変速機構収容部121の剛性を向上させるため、変速機構収容部121の基本肉厚(ボスや軸方向リブを設けない部分の肉厚)を薄くすることができるが、電動オイルポンプ室50の外側の外周面52の軸方向リブ60は、電動オイルポンプ室50及びその上方の変速機構収容部121の剛性をさらに向上させる。また、
図9に示すように、鋳造時に、この軸方向リブ60を形成する溝状の鋳造空間(第1溝)CSが流路となって電動オイルポンプ室50を形成する筒状の鋳造空間における湯流れが促進され、巣の発生を抑制する。
【0077】
特に、鋳造時には、電動オイルポンプ室50を形成する筒状の鋳造空間を経て、つまり、電動オイルポンプ室50の開口側から奥部の流路55〜58側に向くような湯流れを利用して鋳込むことが必要になる場合があり、この場合には、電動オイルポンプ室50を形成する筒状の鋳造空間だけでは、流路が狭く湯流れが悪化するため、電動オイルポンプ室50の奥部の流路55〜58周りに、巣が発生しやすい。この箇所に巣が発生すると、油路57,58の開口部をプラグ57a,58aで閉塞しシールする際に、シール性能が低下しやすい。
【0078】
これに対して、軸方向リブ60を形成する溝状の鋳造空間CSが流路となって電動オイルポンプ室50の開口側から奥部の流路55〜58側に向くような湯流れを促進し、巣の発生を抑制するので、巣に起因したシール性能の低下を回避することができる。
また、巣の発生はシール性のみならず流路壁面の粗さが増大し、オイルの流動性能にも悪影響があるが、巣の発生を抑制することでオイルの流動性能の低下防止の効果も得られる。
【0079】
本実施形態の場合、第2の溝により軸方向リブ60から連続して周方向に沿って延びる円弧状リブ53が形成され、第3の溝により軸方向リブ60に連続する補強リブ(補助リブ)62が形成され、第4の溝により円弧状リブ53に連続する補強リブ(補助リブ)65が形成されているので、この面でも湯流れが向上し、さらに、電動オイルポンプ室の剛性及び強度を確保することができる。
【0080】
電動オイルポンプ室50の奥部の第1油路56が形成される箇所の軸方向リブ60よりも上方は、電動オイルポンプ室50の外周面53よりも窪んで凹所128に連続する窪み部分53aが形成され、この窪み部分53aには、ドライブシャフト25aが配置されるので、電動オイルポンプ室50周りがドライブシャフト25aと干渉することなくスペースが有効に利用される。
【0081】
この窪み部分53aは、第2の型M2の抜き方向と逆側において電動オイルポンプ室50の外周面51よりも窪んで形成される。第2の型M2では
図6に二点鎖線で示す(符号70)ように肉盛りしなくてはならず、窪み部分53aを形成できないが、この部分は第1の型M1により形成するため、支障なく窪み部分53aを形成できる。
さらに、トランスミッションケース12の差動装置収容部122の穴部129の外側面には、僅かに盛り上がるように肉盛りされたボス部129aと、このボス部129aの外周から放射状に延びて肉盛りされた放射状リブ129bとが形成されているので、この点からも変速機構収容部121の基本肉厚を薄くすることができる。
【0082】
[その他]
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、かかる実施形態を適宜変更して実施しうるものである。
例えば、実施形態では、トランスミッションケース12に軸方向リブ60以外に種々のリブ61〜66を設けており、鋳型M1,M2には対応する溝部を形成しているが、軸方向リブ60のみを設けるようにしても良く、その他のリブ61〜66を適宜追加しても良く、さらなるリブを適宜追加しても良い。
【0083】
また、変速機ハウジング内の各装置の配置も本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更して実施しうるものである。
さらに、実施形態ではアルミ合金を鋳造材料にしたが、鉄系の材料であってもよい。
また、上記実施形態では、金型の鋳型を例示したが、砂型等の金型以外の鋳型への適用も考えられる。