特許第5712229号(P5712229)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5712229
(24)【登録日】2015年3月13日
(45)【発行日】2015年5月7日
(54)【発明の名称】粘着剤および粘着シート
(51)【国際特許分類】
   C09J 133/14 20060101AFI20150416BHJP
   C09J 175/04 20060101ALI20150416BHJP
   C09J 7/02 20060101ALI20150416BHJP
   G06F 3/041 20060101ALI20150416BHJP
【FI】
   C09J133/14
   C09J175/04
   C09J7/02 Z
   G06F3/041 495
【請求項の数】9
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-551836(P2012-551836)
(86)(22)【出願日】2011年12月26日
(86)【国際出願番号】JP2011079997
(87)【国際公開番号】WO2012093607
(87)【国際公開日】20120712
【審査請求日】2014年3月27日
(31)【優先権主張番号】特願2011-1052(P2011-1052)
(32)【優先日】2011年1月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000202350
【氏名又は名称】綜研化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】特許業務法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金塚 洋平
(72)【発明者】
【氏名】工藤 良太
【審査官】 澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−189545(JP,A)
【文献】 特開2010−235856(JP,A)
【文献】 特開2001−123136(JP,A)
【文献】 特開2010−215923(JP,A)
【文献】 特開2010−241864(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/050527(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00−201/10
G02F 1/1335
G06F 3/041
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(a1)〜(a3)、
(a1)アルコキシアルキル(メタ)アクリレート
4596.85質量%
(a2)架橋性官能基として水酸基を有するモノマー 0.1〜10質量%
(a3)側鎖に窒素原子を含有し、該窒素上に孤立電子対を有する水素結合性モノマー
0.1〜5質量%
を共重合させて得られる、重量平均分子量が5万以上40万未満であり、カルボキシル基含有モノマーを実質的に含まないアクリル系ポリマーと、
(b)イソシアネート系架橋剤を含有することを特徴とする粘着剤。
【請求項2】
成分(a3)の側鎖に窒素原子を含有し、該窒素上に孤立電子対を有する水素結合性モノマーが、アミノ基含有モノマー、アミド基含有モノマー、窒素系複素環含有モノマー、シアノ基含有モノマーまたはイミド基含有モノマーある請求項1記載の粘着剤。
【請求項3】
光学部材貼り合わせ用である請求項1記載の粘着剤。
【請求項4】
光学部材が金属面を有し、その金属面の貼り合わせ用である請求項記載の粘着剤。
【請求項5】
支持体の少なくとも一方の面に請求項1〜の何れかに記載の粘着剤により形成される粘着剤層を設けてなることを特徴とする粘着シート。
【請求項6】
光学部材貼り合わせ用である請求項記載の粘着シート。
【請求項7】
光学部材が金属面を有し、その金属面の貼り合わせ用である請求項記載の粘着シート。
【請求項8】
粘着剤層の厚さが25〜500μmである請求項記載の粘着シート。
【請求項9】
タッチパネルを構成する光学部材を、請求項の何れかに記載の粘着シートで貼り合わせたことを特徴とするタッチパネル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タッチパネル等を構成する光学部材の貼り合わせに用いることができる粘着剤および粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
タッチパネルは各種材料の積層体であり、その貼り合わせには主にアクリル系粘着剤が用いられている。タッチパネルは画面の最表面に設置されることから、タッチパネル用粘着剤には液晶ディスプレイやプラズマディスプレイと同様の耐熱性や耐湿熱性が求められている。
【0003】
これまでタッチパネルの主流であった抵抗膜式タッチパネルにおいては、ポリカーボネート(PC)やインモールドフィルム(IMD)またはその両者の貼り付けのために種々の粘着剤が用いられている。
【0004】
しかしながら、PCの材料上の特性として高温条件でのアウトガスの発生や水分を通しやすいため、耐熱条件で発泡が起きること、湿熱条件での水分流入による粘着剤層の白化が起こることが問題となる。更に、IMDはサブミクロンオーダーの段差を持つため、その段差に粘着剤が追従できずに泡を巻き込むことが問題となる。
【0005】
従来は、上記のような問題を、粘着剤に酸成分を配合することにより解決していた。つまり、酸成分は高い水分散性を有するため、層中の水分子を広く分散させることで白化を抑え、水素結合性により凝集力も併せ持つため、耐熱発泡における泡を押さえ込んでいた。
【0006】
ところで、近年マルチタッチ化を始めとした機能の充実化に伴う静電容量式タッチパネルの成長が著しく、使用される材料の多様化によって粘着剤への要求性能も高まっている。静電容量式タッチパネル用粘着剤では、抵抗膜式タッチパネルで要求される性能に加えて、酸化インジウムスズ(ITO)等の金属面に直接粘着剤層を貼り合わせる点であり、耐金属の性能が求められるようになった。金属は粘着剤中の酸成分により腐食を引き起こし、抵抗値を上昇させてしまうことから、酸成分を含まない粘着剤を用いなければならない。
【0007】
これまで、ITO等の金属の腐食性に関してはアルコキシアルキルアクリレートを用いて分子量を限定した粘着剤を用いることで、耐熱発泡を抑える技術が報告されている(特許文献1)。
【0008】
しかしながら、この粘着剤はITO等の金属に対する耐腐食性、湿熱白化性、耐熱発泡性の性能を全ては満たしておらず、また、作業性も悪いものであった。
【0009】
また、タッチパネル用途においては、部材間の距離を広げるために膜厚の厚い粘着シートが必要とされる場合があり、粘着剤層を厚く形成することが必要とされている。
【0010】
しかしながら、従来の高分子量ポリマーを主成分とする粘着剤では、塗工時の粘度を最適化するために多量の溶剤を必要とされるために塗工液中のポリマー不揮発分濃度が低く、一度の塗工で厚い粘着剤層を形成することが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2010−77287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、本発明の課題は、ITO等の金属の耐腐食性、湿熱白化性、耐熱発泡性の性能を全て満たし、かつ、作業性の良い粘着剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、アルコキシアルキル(メタ)アクリレートに架橋性官能基を有するモノマーおよび水素結合性モノマーを特定量配合して、得られる共重合体の重量平均分子量を5万以上40万未満に調整し、これをイソシアネート系架橋剤と組み合わせることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0014】
すなわち、本発明は次の成分(a1)〜(a3)、
(a1)アルコキシアルキル(メタ)アクリレート
4596.85質量%
(a2)架橋性官能基として水酸基を有するモノマー 0.1〜10質量%
(a3)側鎖に窒素原子を含有し、該窒素上に孤立電子対を有する水素結合性モノマー
0.1〜5質量%
を共重合させて得られる、重量平均分子量が5万以上40万未満であり、カルボキシル基含有モノマーを実質的に含まないアクリル系ポリマーと、
(b)イソシアネート系架橋剤を含有することを特徴とする粘着剤である。
【0015】
また、本発明は支持体の少なくとも一方の面に上記粘着剤により形成される粘着剤層を設けてなることを特徴とする粘着シートである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の粘着剤は、実質的に酸成分を含まないためITO等の金属腐食性が低く、また、これを構成するアクリル系ポリマーの分子量が低く設定されているためアクリルポリマーの自由度を増加させ、層内に流入した水分子の可動性・相容性を高めている。これにより耐湿熱白化性を抑えることが可能となり、また流入した水分子の放散も速やかに可能であるため、湿熱白化性により有利に働く。また、本発明の粘着剤は、生産性・塗工性に悪影響を与えることなく高不揮発分化も可能となるため作業性が高く、特に厚さのある粘着層を形成する場合、厚塗りができるため少ない回数で粘着層を形成することができる。
【0017】
このように本発明の粘着剤は、ITO等の耐金属腐食性、湿熱白化性、耐熱発泡性の性能を全て満たし、かつ、作業性も良いので、特にITO等の金属面を有する光学部材の貼り合わせに好適である。また、これを利用した粘着シートも同様の効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の粘着剤に用いる成分(a1)のアルコキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチルアクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、3−メトキシプロピル(メタ)アクリレート、3−エトキシプロピル(メタ)アクリレート、4−メトキシブチル(メタ)アクリレート、4−エトキシブチル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。これらの中でも2−メトキシエチルアクリレート、2−エトキシエチルアクリレートが好ましい。この成分(a1)を本発明の粘着剤に配合することにより段差追従性と耐久性を両立することができる。
【0019】
また、成分(a2)の架橋性官能基を有するモノマーとしては、例えば、水酸基を有するモノマーを挙げることができ、具体的には、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。これらの中でも2−ヒドロキシエチルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレートが好ましい。この成分(a2)を本発明の粘着剤に配合することで、後述の架橋剤との反応による架橋構造の形成および水素結合性モノマーとの相互作用による擬似的架橋構造の形成が行われポリマー凝集力を向上し、貼り付け時にわずかに巻き込んだ気泡の膨張および材料由来のアウトガスによる発泡を抑えることができる。
【0020】
更に、成分(a3)の水素結合性モノマーとしては、例えば、側鎖に窒素原子を含有し、該窒素上に孤立電子対を有するモノマーを挙げることができ、具体的には、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有モノマー、(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド等のアミド基含有モノマー、(メタ)アクリロイルモルホリン、N−ビニルピロリドン、ビニルピリジン等の窒素系複素環含有モノマー、シクロヘキシルマレイミド、イソプロピルマレイミド等のイミド基含有モノマー、(メタ)アクリロニトリル等のシアノ基含有モノマー等を挙げることができる。これらの中でもアミノ基含有(メタ)アクリレートモノマー、アミド基含有(メタ)アクリレートモノマー、窒素系複素環含有モノマーが好ましく、更に、アクリルアミド、ジエチルアミノエチルアクリレートが好ましい。この成分(a3)を本発明の粘着剤に配合することにより粘着剤層内の水分散性を高め、飽和水分量を上昇させ、水分流入許容量を増やすことができる。そのため、湿熱環境下に置いた後、常温下に戻した際にも、粘着層中に溶解している水分は粘着剤層内で安定化され、水分の析出、液滴化による白化を起こすことがない。また、その水素結合性によって、カルボキシル基を有さないこと、および、分子量が低いことを原因とする凝集力不足を、この水素結合性モノマーが、架橋性官能基を有するモノマーやアルコキシルアルキル(メタ)アクリレートと相互作用することにより、擬似的な架橋構造を形成し補う効果も得られる。このため低い分子量とすることによって湿熱白化性を抑えつつ耐熱発泡性に必要な凝集力を両立することが可能となった。
【0021】
本発明の粘着剤に用いるアクリル系ポリマーは、上記した成分(a1)を20〜99.8質量%(以下、単に「%」という)、好ましくは45〜96.85%、更に好ましくは50〜95.3%、成分(a2)を0.1〜10%、好ましくは3〜9%、更に好ましくは4.5〜7%、成分(a3)を0.1〜5%、好ましくは0.15〜4.8%、更に好ましくは0.2〜4.5%の割合で用いて共重合させることにより得られる。これにより重量平均分子量(Mw)が5万以上40万未満、好ましくはMw10万以上40万未満のアクリル系ポリマーを得ることができる。重量平均分子量が5万未満であると十分な凝集力が得られず、また、重量平均分子量が40万以上であるとポリマー鎖が長くなるため粘着剤層中の水分の分散性が悪くなり粘着剤層が白化するおそれがあり、更に、厚膜塗工時の作業性の低下を引き起こすおそれがある。また、このアクリル系ポリマーの分散度(Mw/Mn)は10以下、好ましくは2〜8である。なお、本明細書において、重量平均分子量は実施例に記載のゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定した標準ポリスチレン換算での重量平均分子量のことをいう。
【0022】
上記アクリル系ポリマーには、必要により、炭素数1〜12の鎖状アルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート(成分(a4))を共重合させることができ、この場合には、成分(a1)〜成分(a4)の合計が、アクリル系ポリマーを構成するモノマー全量の90%以上になるようにすることが好ましい。また、上記アクリル系ポリマーには、更に必要に応じて、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート等のアリール(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等の脂環式(メタ)アクリレート、酢酸ビニル、スチレン等の成分(a1)〜(a4)と共重合可能なその他のモノマーを共重合させることもできる。
【0023】
上記アクリル系ポリマーは、公知の方法により製造することができるが、溶液重合により製造することが好ましい。溶液重合においては、重合溶媒として、例えば、酢酸エチル、メチルエチルケトン、トルエン、アセトンなどが用いられる。具体的には、反応容器中に重合溶媒、モノマーを仕込み、窒素などの不活性ガス雰囲気下で重合開始剤を添加し、反応温度50〜90℃程度で、4〜20時間程度行われる。
【0024】
溶液重合に用いる重合開始剤としては、アゾ系開始剤、過酸化物系開始剤等が挙げられる。これらの重合開始剤はモノマー100質量部に対して、0.01〜5質量部用いることが好ましい。また、上記重合反応中に、開始剤、連鎖移動剤、モノマー、溶剤等を適宜追加添加してもよい。
【0025】
上記で得られたアクリル系ポリマーはカルボキシル基含有モノマーを実質的に含まないものである。ここで実質的に含まないとは、カルボキシル基含有モノマーがアクリル系ポリマー中に0.1%以下、好ましくは0.01%以下であることをいう。更に、このアクリル系ポリマーには、金属を腐食する恐れがあるため、カルボキシル基以外のリン酸基、スルホン酸基等のその他の酸基含有モノマーも含有することは好ましくない。そのため、これらその他の酸基含有モノマーもアクリル系ポリマーに実質的に含まないことが好ましい。
【0026】
一方、本発明の粘着剤に用いる成分(b)のイソシアネート系架橋剤としては、例えば、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、クロルフェニレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、水添されたジフェニルメタンジイソシアネート等の分子中に2個のイソシアネート基を有する化合物;それらをトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の多価アルコールと付加反応させた化合物、イソシアネート化合物やイソシアヌレート化合物、ビュレット型化合物、更には公知のポリエーテルポリオールやポリエステルポリオール、アクリルポリオール、ポリブタジエンポリオール、ポリイソプレンポリオール等と付加反応させたウレタンプレポリマー型の分子内に2個以上のイソシアネート基を有する化合物等を挙げることができ、具体的には、ジイソシアネート化合物のトリメチロールプロパン付加体、イソシアヌレート化合物等を挙げることができる。これらの中でも、被着体への馴染み性を向上させ貼り合わせ時の泡の巻き込みを低減させることができ、高温下でのアウトガスを抑制できる点でトリレンジイソシアネートおよびその誘導体が、また、貼りつけ面の段差追従性を向上させ、耐熱発泡性を良好にすることができる点でヘキサメチレンジイソシアネートおよびその誘導体が好ましく、更には、トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパン付加体、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート化合物が好ましい。この成分(b)を本発明の粘着剤に配合することにより形成される粘着剤層の凝集力を向上させ、貼り付け時にわずかに巻き込んだ気泡の膨張を抑えることができる。
【0027】
本発明の粘着剤は上記した成分(a1)〜(a3)(必要により(a4))を共重合して得られるアクリル系ポリマーと、成分(b)のイソシアネート系架橋剤とを任意の量で混合するだけでもよいが、好ましくはアクリル系ポリマーの固形分100質量部に対し、イソシアネート系架橋剤を0.01〜10質量部、より好ましくは0.1〜5質量部添加し、これを0〜50℃で1日〜10日程度エージングすることによって得られる。
【0028】
また、本発明の粘着剤には、本件発明の効果を損なわない範囲で、更に、酸化防止剤、光安定剤、粘着付与樹脂、可塑剤、帯電防止剤、架橋促進剤、リワーク剤等を含有させてもよい。
【0029】
斯くして得られる本発明の粘着剤は、公知の粘着剤と同様に、適当な濃度に希釈された後、塗工・乾燥させることにより各種部材の接着に用いることができる。なお、本発明の粘着剤は粘着剤中に含まれるアクリル系ポリマーの重量平均分子量が低いため酢酸ビニル、メチルエチルケトン、アセトン、トルエン等の種々の溶剤で容易に不揮発分の濃度を調整することができる。そのため、本発明の粘着剤は塗工後の粘着剤の厚さを所望の厚さにすることが容易である。また、特に本発明の粘着剤は高不揮発分化、例えば、不揮発成分(実施例に記載の測定方法により得られる値)を10〜70%、好ましくは30〜60%とすることができるので、所望の厚さを少ない回数で形成することができる。また、このように高不揮発分化することにより、塗工・乾燥後の塗膜のレベリング性が向上し、更に、乾燥時間も短縮され作業性も向上する。更には、揮発溶剤量が少ないため環境への負荷も小さくすることができる。
【0030】
また、本発明の粘着剤は、特にITO等の耐金属腐食性、湿熱白化性、耐熱発泡性の性能を全て満たし、かつ、厚膜塗工の作業性も良いので、例えば、公知の方法に従い、光学部材の貼り合わせ、より好ましくは光学部材が金属面を有し、その金属面の貼り合わせに用いることができる。
【0031】
本発明の粘着剤で貼り合わされる光学部材とはタッチパネル等を構成するガラス、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート、トリアセチルセルロース、ポリサルフォン、ポリアリレート等からなる反射防止フィルム、偏光板、位相差板、導光板、波長板、光学補償フィルム、輝度向上フィルム、反射フィルム、透明導電フィルム、意匠フィルム、プリズムシート、カラーフィルター等であり、金属面とはインジウム錫酸化物層、銅箔、銀配線等である。
【0032】
また、本発明の粘着剤は、支持体の少なくとも一方の面に前記粘着剤により形成される粘着剤層を設けてなる粘着シートとすることができる。支持体としては、例えば上述の種々の光学部材や、剥離処理されたポリエチレンテレフタレートフィルム、ITO蒸着フィルム等が挙げられる。また、粘着剤層をこの支持体に設けるには支持体上に直接粘着剤組成物溶液を塗工、乾燥して粘着剤層を形成することも可能であるし、また、剥離処理されたフィルム上に粘着剤層を形成した後、種々の支持体上に転写することで形成することも可能である。このような粘着シートはタッチパネルを構成する光学部材を貼り合わせるのに好ましい。
【0033】
なお、本発明の粘着シートにおいて、粘着剤層の厚みは、特に制限されないが、25〜500μm、好ましくは20〜400μmである。特に100〜300μmの厚みのものは、部材間に十分な間隔が必要とされるタッチパネルを構成する光学部材の金属面の貼り合わせに好ましく利用できる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0035】
実 施 例 1
粘着シートの製造:
攪拌機、還流冷却器、温度計および窒素導入管を備えた反応装置に、アクリル酸メトキシエチル(MEA)60質量部、アクリル酸ブチル(BA)31質量部、アクリル酸2−ヒドロキシエチル(HEA)5質量部、アクリルアミド(AM)2質量部、メチルエチルケトン(MEK)100質量部を仕込み、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル0.1質量部を加え、反応容器内の空気を窒素ガスで置換した。次いで、窒素雰囲気下で攪拌しながら70℃に昇温した後、5時間反応させた。反応終了後、メチルエチルケトンで不揮発分濃度40質量%に希釈し、(メタ)アクリル系ポリマー溶液を得た。
【0036】
上記で得られた(メタ)アクリル系ポリマー溶液の固形分100質量部に対して、イソシアネート系架橋剤(TD−75:トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパン付加体:綜研化学(株)製)0.4質量部を添加し、粘着剤を得た。この粘着剤をポリエチレンテレフタレート基材上に乾燥後の厚さが175μmになるように塗工し、80℃の乾燥機で2分間乾燥し溶剤を除去した。次いで粘着剤層面に剥離処理されたポリエチレンテレフタレートフィルムを貼り合わせ、23℃、65%RHで7日間エージングを行い粘着シートを得た。
【0037】
実 施 例 2
粘着シートの製造:
実施例1において、HEAを7質量部に変更し、AMをジエチルアミノエチルアクリレート(DMAEA)2質量部に変更する以外は実施例1と同様にして粘着剤および粘着シートを製造した。
【0038】
参 考 例
粘着シートの製造:
実施例1において、MEAを25質量部に変更し、HEAを7質量部に変更し、BAを61質量部に変更する以外は実施例1と同様にして粘着剤および粘着シートを製造した。
【0039】
実 施 例 4
粘着シートの製造:
実施例1において、MEAを90質量部に変更し、BAを1質量部に変更する以外は実施例1と同様にして粘着剤および粘着シートを製造した。
【0040】
実 施 例 5
粘着シートの製造:
実施例1において、HEAを5質量部に変更し、BAを33質量部に変更する以外は実施例1と同様にして粘着剤および粘着シートを製造した。
【0041】
実 施 例 6
粘着シートの製造:
実施例1において、HEAを9質量部に変更し、BAを29質量部に変更する以外は実施例1と同様にして粘着剤および粘着シートを製造した。
【0042】
実 施 例 7
粘着シートの製造:
実施例1において、AMを0.2質量部に変更し、BAを32.8質量部に変更する以外は実施例1と同様にして粘着剤および粘着シートを製造した。
【0043】
実 施 例 8
粘着シートの製造:
実施例1において、AMを4.5質量部に変更し、BAを28.5質量部に変更する以外は実施例1と同様にして粘着剤および粘着シートを製造した。
【0044】
実 施 例 9
粘着シートの製造:
実施例1において、HEAを9質量部に変更し、BAを29質量部に変更し、連鎖移動剤であるN−ドデシルメルカプタンを0.005質量部添加して反応し、反応終了後不揮発分濃度を50%に調製した以外は実施例1と同様にして粘着剤および粘着シートを製造した。
【0045】
実 施 例 10
粘着シートの製造:
実施例1において、HEAを9質量部に変更し、BAを29質量部に変更し、MEKを95質量部に変更する以外は実施例1と同様にして粘着剤および粘着シートを製造した。
【0046】
実 施 例 11
粘着シートの製造:
実施例1において、HEAを4質量部に変更し、BAを34質量部に変更する以外は実施例1と同様にして粘着剤および粘着シートを製造した。
【0047】
実 施 例 12
粘着シートの製造:
実施例1において、HEAを0.5質量部に変更し、BAを37.5質量部に変更する以外は実施例1と同様にして粘着剤および粘着シートを製造した。
【0048】
実 施 例 13
粘着シートの製造:
実施例1において、HEAを1質量部に変更し、BAを37質量部に変更する以外は実施例1と同様にして粘着剤および粘着シートを製造した。
【0049】
実 施 例 14
粘着シートの製造:
実施例1において、HEAを2質量部に変更し、BAを36質量部に変更する以外は実施例1と同様にして粘着剤および粘着シートを製造した。
【0050】
実 施 例 15
粘着シートの製造:
実施例1において、HEAを7質量部に変更し、AMをn−ビニルピロリドン(n−VP)2質量部に変更する以外は実施例1と同様にして粘着剤および粘着シートを製造した。
【0051】
実 施 例 16
粘着シートの製造:
実施例1において、HEAを7質量部に変更し、AMをアクリロイルモルホリン(ACMO)に変更する以外は実施例1と同様にして粘着剤および粘着シートを製造した。
【0052】
実 施 例 17
粘着シートの製造:
実施例1において、HEAを7質量部に変更し、TD−75をTPA−100(ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体:旭化成(株)製)0.5質量部に変更する以外は実施例1と同様にして粘着剤および粘着シートを製造した。
【0053】
実 施 例 18
粘着シートの製造:
実施例1において、BAを33質量部に変更し、TD−75をTPA−100(旭化成(株)製)0.5質量部に変更する以外は実施例1と同様にして粘着剤および粘着シートを製造した。
【0054】
実 施 例 19
粘着シートの製造:
実施例1において、MEAを90質量部に変更し、BAを1質量部に変更し、TD−75をTPA−100(旭化成(株)製)0.5質量部に変更する以外は実施例1と同様にして粘着剤および粘着シートを製造した。
【0055】
比 較 例 1
粘着シートの製造:
実施例1において、MEAを10質量部に変更し、HEAを7質量部に変更し、BAを81質量部に変更する以外は実施例1と同様にして粘着剤および粘着シートを製造した。
【0056】
比 較 例 2
粘着シートの製造:
実施例1において、HEAを0質量部に変更し、BAを38質量部に変更する以外は実施例1と同様にして粘着剤および粘着シートを製造した。
【0057】
比 較 例 3
粘着シートの製造:
実施例1において、HEAを12質量部に変更し、BAを26質量部に変更する以外は実施例1と同様にして粘着剤および粘着シートを製造した。
【0058】
比 較 例 4
粘着シートの製造:
実施例1において、HEAを7質量部に変更し、AMを0質量部に変更し、BAを33質量部に変更し、得られた(メタ)アクリル系ポリマー溶液に、更に架橋促進剤であるEDP−300((株)ADEKA製)を0.1質量部添加する以外は実施例1と同様にして粘着剤および粘着シートを製造した。
【0059】
比 較 例 5
粘着シートの製造:
実施例1において、HEAを7質量部に変更し、AMを7質量部に変更し、BAを26質量部に変更する以外は実施例1と同様にして粘着剤および粘着シートを製造した。
【0060】
比 較 例 6
粘着シートの製造:
実施例1において、HEAを7質量部に変更し、BAを30質量部に変更し、BAにアクリル酸(AA)を1質量部添加する以外は実施例1と同様にして粘着剤および粘着シートを製造した。
【0061】
比 較 例 7
粘着シートの製造:
実施例1において、HEAを7質量部に変更し、連鎖移動剤であるN−ドデシルメルカプタンを0.01質量部添加する以外は実施例1と同様にして粘着剤および粘着シートを製造した。
【0062】
比 較 例 8
粘着シートの製造:
実施例1において、HEAを7質量部に変更し、MEKを80質量部に変更をする以外は実施例1と同様にし、反応終了後不揮発分濃度を30%に調製して粘着剤および粘着シートを製造した。
【0063】
比 較 例 9
粘着シートの製造:
実施例1において、TD−75を金属キレート架橋剤であるM−5AT(綜研化学(株)製)0.4質量部に変更する以外は実施例1と同様にして粘着剤および粘着シートを製造した。
【0064】
比 較 例 10
粘着シートの製造:
実施例1において、HEAを4−ヒドロキシブチルアクリレート(4HBA)1質量部に変更し、AMを0質量部に変更し、BAを39質量部に変更し、反応終了後不揮発分濃度を30%に調製し、更に架橋促進剤であるEDP−300(旭電化(株)製)を0.1重量添加する以外は実施例1と同様にして粘着剤および粘着シートを製造した。
【0065】
試 験 例 1
粘着剤および粘着シートの物性測定:
実施例1〜2、4〜19、参考例および比較例1〜10で得られた粘着剤の重量平均分子量を下記測定方法により測定し、更に、分散度を下記方法により算出した。また、粘着剤シートの湿熱白化性、耐熱発泡性、ITO腐食性、塗工性および作業性を下記方法により評価した。それらの結果を表1に示した。
【0066】
<不揮発分>
精秤したブリキシャーレ(n1)に(メタ)アクリル系ポリマー溶液を1g程度入れ、合計重量(n2)を精秤した後、105℃で3時間加熱した。その後、このブリキシャーレを室温のデシケータ内に1時間静置し、次いで再度精秤し、加熱後の合計重量(n3)を測定した。得られた重量測定値(n1〜n3)を用いて下記式から不揮発分を算出した。
[数1]
不揮発分(%)=100×[加熱後重量(n3−n1)/加熱前重量(n2−n1)]
【0067】
<重量平均分子量>
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、標準ポリスチレン換算による重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)を求めた。
(測定条件)
装置:HLC−8120(東ソー(株)製)
カラム:G7000HXL(東ソー(株)製)
GMHXL(東ソー(株)製)
G2500HXL(東ソー(株)製)
サンプル濃度:1.5mg/ml(テトラヒドロフランで希釈)
移動相溶媒:テトラヒドロフラン
流速:1.0ml/min
カラム濃度:40℃
【0068】
<湿熱白化性>
イソプロピルアルコールで拭いたポリカーボネート板に、50mm×60mmにカットした粘着シートを貼り付け、50℃×(5.1×10)Paで20分間オートクレーブ処理を行った。次いで、1時間室温で静置した後、60℃、90%RH環境下に500時間置き、23℃、65%RHで1時間静置した後、粘着剤層の白化をヘイズメーターHM−150(村上色彩研究所(株)製)を用いて、JIS K 7361に準拠してヘイズを測定し、その値により評価した。評価の基準は以下の通りである。
(評価) (内容)
○ :ヘイズが1%以下
△ :ヘイズが1%を超え2%以下
× :ヘイズが2%を超える
【0069】
<耐熱発泡性>
イソプロピルアルコールで拭いたポリカーボネート板に、50mm×60mmにカットした粘着シートを貼り付け、50℃×5atmで20分間オートクレーブ処理を行った。次いで、1時間室温で静置した後、(1)80℃環境下に500時間置き、または、(2)80℃、90%環境下に500時間置き、23℃、65%RHで1時間静置した後、粘着剤層の発泡をそれぞれ目視で確認した。評価の基準は以下の通りである。
(評価) (内容)
◎ :目視では粘着剤層に気泡は確認できない
○ :目視でわずかに気泡が確認できる
△ :実用可能な程度であるが、目視ではっきりと気泡が確認できる。
× :大きな気泡が確認できる。または、粘着剤層が基材または被着体から浮いている。
【0070】
<ITO腐食性>
10mm×100mmにカットしたITO蒸着PETフィルムに10mm×60mmにカットした粘着シートを貼り付け、50℃×5atmで20分間オートクレーブ処理を行った。次いで、1時間室温で静置した後、60℃、90%RH環境下に500時間置き、23℃、65%RHで1時間静置した後、ITO蒸着PETフィルムの抵抗を測定し、試験前の抵抗値と比較した((試験後の抵抗値)/(試験前の抵抗値))。評価の基準は以下の通りである。
(評価) (内容)
○ :(試験後の抵抗値)/(試験前の抵抗値)が110%未満
△ :(試験後の抵抗値)/(試験前の抵抗値)が110%〜130%未満
× :(試験後の抵抗値)/(試験前の抵抗値)が130%以上
【0071】
<塗工性>
製造例において製造した(メタ)アクリル系ポリマーに表に示された硬化剤を添加し、乾燥後の膜厚が175μmになるように塗工した際の塗工面の気泡の有無を目視で確認した。評価の基準は以下の通りである。
(評価) (内容)
○ :目視で気泡が確認できる
× :目視で気泡が確認できない
【0072】
<作業性>
製造例において製造した(メタ)アクリル系ポリマーに表に示された硬化剤を添加し、乾燥後の膜厚が175μmになるように塗工し、80℃の乾燥機で溶剤を揮発させた際の溶剤が揮発するまでの時間を測定した。評価の基準は以下の通りである。
(評価) (内容)
○ :4分未満で溶剤が揮発した
× :溶剤が揮発するまで4分以上かかった
【0073】
【表1】
【0074】
以上の結果より、アルコキシアルキル(メタ)アクリレート(a1)、架橋性官能基を有するモノマー(a2)、水素結合性モノマー(a3)を特定割合で共重合させて得られる、Mw5万以上40万未満のカルボキシル基含有モノマーを実質的に含まないアクリル系ポリマーと、イソシアネート系架橋剤(b)を含有する粘着剤は、耐湿熱白化性、耐熱発泡性、更にITO電極を腐食することなく、厚膜塗工の作業性にも優れていた。
【0075】
それに対して、アルコキシアルキル(メタ)アクリレート(a1)の共重合量の少ない比較例1では耐湿熱白化性に劣り、架橋性官能基を有するモノマー(a2)の共重合量が本願範囲から逸脱する比較例2、3では、耐熱発泡性に劣る結果となっている。また、水素結合性モノマー(a3)の共重合量が本願範囲から逸脱する比較例4、5では本願分子量範囲において耐熱発泡性が不十分となり、水素結合性モノマー(b)を含有せず、分子量が本願範囲を超える比較例10でも、同様に耐熱発泡性に劣り、更に、分子量が高いことにより水分散性能が劣るため耐湿熱白化性が十分ではなく、また、厚膜塗工の作業性にも劣っている。更に、本願分子量範囲を逸脱している比較例7、8では、分子量の低い比較例7では耐熱発泡性を不十分であり、分子量の高い比較例8では厚膜塗工の作業性が劣っている。また、カルボキシル基をアクリル系ポリマー中に有する比較例7ではITOを腐食する結果となっており、イソシアネート系架橋剤(TD−75)に変えて、金属架橋剤(M−5AT)を添加している比較例9では、耐熱発泡性に劣る結果となっている。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の粘着剤および粘着シートは、タッチパネル等を構成する光学部材の貼り合わせに用いることができる。