特許第5712306号(P5712306)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5712306
(24)【登録日】2015年3月13日
(45)【発行日】2015年5月7日
(54)【発明の名称】三次元体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 67/00 20060101AFI20150416BHJP
   B22F 3/105 20060101ALI20150416BHJP
   B22F 3/16 20060101ALI20150416BHJP
【FI】
   B29C67/00
   B22F3/105
   B22F3/16
【請求項の数】9
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2013-551939(P2013-551939)
(86)(22)【出願日】2011年1月28日
(65)【公表番号】特表2014-508668(P2014-508668A)
(43)【公表日】2014年4月10日
(86)【国際出願番号】SE2011050093
(87)【国際公開番号】WO2012102655
(87)【国際公開日】20120802
【審査請求日】2013年12月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】513089497
【氏名又は名称】ア−カム アーベー
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(72)【発明者】
【氏名】スニス,アンダース
【審査官】 関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】 特表2006−513055(JP,A)
【文献】 特開2001−113605(JP,A)
【文献】 特表2008−508129(JP,A)
【文献】 特開2004−074800(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 67/00
B22F 3/105
B22F 3/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続的に粉末層を与え、前記粉末層の選択された区域を融合することによる三次元体の製造方法であって、この区域は、前記三次元体の連続した横断面に対応し、
前記方法が前記層のうちの少なくとも1層のための以下のステップ、
作業領域上に前記少なくとも1層の粉末層を塗布するステップと、
前記少なくとも1層の粉末層の選択された区域を、放射銃から前記選択された区域にエネルギーを供給することにより融合するステップと
を備える三次元体の製造方法であって、
前記少なくとも1層の粉末層の前記選択された区域を融合する際に使用される意図されるビーム経路を確立するステップと、
前記意図されるビーム経路に沿って移動すると仮定される仮想のビームの特定のエネルギー付与の関数として、前記意図されるビーム経路に沿った前記少なくとも1層の粉末層内の温度を計算するステップと、
前記計算された温度と、前記選択された区域を前記融合するステップのために設定された条件とに因って、前記意図されるビーム経路に沿った前記仮想のビームの前記特定のエネルギー付与を調整するステップと、
前記計算および前記調整に基づき、前記少なくとも1層の前記選択された区域を融合する際に前記意図されるビーム経路において使用される実際のビームの前記特定のエネルギー付与のための操作スキームを提供するステップと
前記少なくとも1層の粉末層の前記選択された区域を融合する際に、前記特定のエネルギー付与のための操作スキームを用いるステップと、
を備えることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記特定のエネルギー付与は、単位時間および単位面積あたりに前記ビームにより付与された前記エネルギーを前記ビームの速さで除したものであり、また、前記特定のエネルギー付与は、ビームの速さ、ビーム出力またはビームスポットサイズのいずれか1つ、またはこれらの組み合わせを変化させることによって変化できることを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項3】
前記方法は、融合される材料に関連する既定のデータセットの使用を備え、前記データセットは、計算された温度および設定された条件の関数として選択される前記特定のエネルギー付与の値を備えることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記融合するステップのための前記設定された条件は、前記少なくとも1層の粉末層に対して次の条件、最大温度、作業温度、溶融深度および溶融幅のうちの1つまたは複数の条件を含むことを特徴とする、請求項1ないしのいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記温度を計算するステップは、時間依存熱伝導方程式を解くステップを含むことを特徴とする、請求項1ないしのいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記温度を計算するステップは、前記意図されるビーム経路に沿った局所的な温度を計算するステップを含むことを特徴とする、請求項1ないしのいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記温度を計算するステップは、前記意図されるビーム経路に沿って配置された多数の点の中または近傍において実行されるいくつかの計算を含むことを特徴とする、請求項1ないしのいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
隣接する計算点の間の最大距離は、前記隣接する点の間の前記特定のエネルギー付与の許容される変化のための制限値を設定することにより設定されることを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項9】
前記意図されるビーム経路を確立するステップは
複数の取り得るビーム経路に沿って前記温度の計算を行うステップと、
前記複数の取り得るビーム経路の中から前記意図されるビーム経路を選択するステップと
を含むことを特徴とする、請求項1ないしのいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続的に粉末層を与え、この粉末層の選択された区域を融合することによる三次元体の製造方法に関する。この区域は、三次元体の連続した横断面に対応する。
【背景技術】
【0002】
高エネルギーの電磁放射線または電子線を照射することによって融合され、かつ、凝固される粉末状の材料を用いて、層の上に層を重ねながら三次元の物体を製造する機器は、例えば、米国特許第4,863,538号、米国特許第5,647,931号およびスウェーデン特許第524,467号から知られている。このような装置は、例えば、粉末の供給源と、上下に調整可能な台すなわち作業領域の上に粉末層を連続的に塗布する手段と、作業領域全体にビームを向ける手段とを含む。粉末は、ビームが一層ずつ作業領域上を移動するとき焼結または溶融して凝固する。
【0003】
高エネルギービームを用いて粉末を溶融または焼結する場合、被照射材料の温度を徹底的に制御して、対象物に適切な材料特性を与えること、また、幾何学的な変形を防止することが重要である。例えば、局所的な温度が高すぎれば、生成中の対象物を破壊することもあるし、温度分布があまりに不均質であれば、クラックを引き起こすこともある。さらに、完全に融合させるためには、溶融する工程の間における粉末床の上層の温度は、通常、最小値よりも高く保たなければならない。温度を制御し続ける他、製造時間を減少するように努めること、すなわち、選択された区域にわたってビームを可能な限り効率的に掃過するように努めることが、通常は重要である。
【0004】
各粉末層の選択された部分または区域のみが、融合される。ビームは、選択された区域にわたって、この区域を完全に融合させる走査パターンまたはハッチングパターンで、特定の経路内を掃過する。多くの場合、この走査パターンは、選択された区域にわたって等間隔で配置された平行線という形態を有する。これらの選択された区域のそれぞれは、いくつかの部分区域を含んでいてもよいが、粉末床内において構築中の対象物の横断面に対応する。
【0005】
ビームを平行線状の走査パターンで掃過するには、線を順番に走査すればよい。先に走査された線に沿った加熱された材料からの熱伝導のために、これから走査される特定の線に沿った材料内の温度は、開始温度よりも高くなる(すなわち、最初の線が走査されたときの材料内の温度よりも高くなる)。少なくとも高エネルギービームを用いる際には、材料内の局所的な温度を適切に維持するために、この温度の蓄積を考慮に入れなければならない。
【0006】
これを考慮に入れる一つの方法は、温度の蓄積に応じてビームのエネルギー入力を調整することである。このことは、例えば、ビーム出力を変化させることにより、または、粉末層にわたってビームが移動する速さを変化させることによりなされてもよい。1つの例は、第1の走査線の終端が第2の走査線の始端に近接するビームの方向転換位置において、ビームの速さを増加することである。しかしながら、これを適切に行うには、材料内の温度の情報を入手する必要がある。この温度、さらに正確には、粉末床の表面温度は、サーマルカメラを用いて計測できる。しかしながら、ビームのリアルタイム補正または制御をそのようなカメラからの入力に基づいて行うことは、システムの応答時間が長いために、適切に行うことが難しい(温度上昇が検出されたときに温度を下げるように直ちに作用し始めたとしても、温度はしばらくの間増加し続ける可能性が高い)。サーマルカメラは、製造後、製造プロセス中になにか不具合が発生していないかの検査に役立つこともあろう。
【0007】
米国特許第5,904,890号は、ビームの走査速さを平行線状の走査パターン内の走査線の長さの関数として変化させる方法を開示している。ビームの速さは、より長い走査線に対してはより低く、また、より短い線に対してはより高くして、特定の区域からビームが離れているときに、冷却のされ方が多様となるのを防止する。製造された製品内の密度分布を均質にすることが目的である。この方法は、ビームの速さが走査線の長さの割に高い場合には、上述の温度の蓄積に関しては役立つかもしれない。しかしながら,走査線が長い場合、ビームの速さは、走査線の終端部分のみで調整されるべきであり、また、線が同じ粉末層のいくつかの選択された区域にわたって配置される場合、または、異なるパターンの場合、温度の蓄積は、区域のあらゆる部分で同様にはならない。さらに、ビームのエネルギーが高い場合、より複雑な走査パターンが求められることもある。そのような場合には、温度の蓄積は、ビームの速さを走査線の長さに対して単に変化させることでは適切に考慮されない。
【0008】
国際公開特許公報第2008/013483号は、平行な走査線が特定の順番で走査され、連続して走査される線どうしの間に最小安全距離を確立できるようにする方法を開示している。このように、連続して走査される線どうしの間の熱伝導の干渉の発生を妨げることにより、走査線の間での温度(および荷電粒子)の蓄積が考慮されている。この方法は、主として高いビームの速さおよび高いビーム出力での粉末層の予熱を意図しているが、粉末を溶融するステップの間、熱伝導の干渉を防止するために用いることもできる。しかしながら、これはいくぶん時間がかかり過ぎる製造プロセスとなる。
【0009】
したがって、徹底的な温度制御の他に時間効率の良い製造もまた可能にする、より精巧な走査方法が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、三次元体の製造のために上に説明したタイプの方法を提供することにあり、この方法は、温度の制御および製造の高速化の発展性が高められたことを呈する。この目的は、独立請求項に含まれた技術的特徴により規定された方法により達成される。従属請求項は、本発明の有利な実施形態、さらなる発展例および変形例を含む。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、連続的に粉末層を与え、この粉末層の選択された区域を融合することによる三次元体の製造方法に関し、この区域は、三次元体の連続した横断面に対応する。この方法は、前記層のうちの少なくとも1層のために以下のステップ、作業領域上に少なくとも1層の粉末層を塗布するステップと、放射銃から選択された区域にエネルギーを供給することにより少なくとも1層の粉末層の選択された区域を融合するステップとを備える。
【0012】
本発明は、本方法が、少なくとも1層の粉末層の選択された区域を融合する際に使用される意図されるビーム経路を確立するステップと、意図されるビーム経路に沿って移動すると仮定される仮想のビームの特定のエネルギー付与の関数として、意図されるビーム経路に沿った少なくとも1層の粉末層内の温度を計算するステップと、計算された温度と、選択された区域を融合するステップのために設定された条件とに因って、意図されるビーム経路に沿った仮想のビームの特定のエネルギー付与を調整するステップと、計算および調整に基づき、少なくとも1層の選択された区域を融合する際に意図されるビーム経路において使用される実際のビームの特定のエネルギー付与のための操作スキームを提供するステップとを備えることを特徴とする。
【0013】
「意図されるビーム経路」の用語は、選択された区域にわたって配置される走査パターンまたは線パターンに関し、また、選択された区域にわたって粉末を溶融/融合する目的でその区域をビームが掃過される際に、ビームスポットが辿るように意図される経路の少なくとも一部分のことを指す。原理上は、選択された区域内において粉末を完全に融合させる限りにおいて、意図されるビーム経路はあらゆる形態を有することができ、換言すると、例えば、分割されていても連続であってもよく、直線部分および曲線部分の両方を含むこともできる。さらに、ビーム経路は、例えば、線が異なる順番で走査される場合、または、単一の線が反対方向に走査される場合など、線パターンが同じであっても変化し得るものである。
【0014】
「意図されるビーム経路に沿って移動すると仮定される仮想のビームの特定のエネルギー付与の関数として、意図されるビーム経路に沿った少なくとも1層の粉末層内の温度を計算する」ステップとは、意図されるビーム経路の中または近傍において、その延長部に沿って、局所的な温度または局所的な温度分布が計算されることを意味している。これは例えば、意図されるビーム経路に沿って移動する間に特定のエネルギー付与を発生すると仮定される仮想のビームにより材料に付与されたエネルギーを考慮に入れて、意図されるビーム経路に沿って配置された多数の点において局所的な温度(分布)を計算することなどによりなされる。
【0015】
意図されるビーム経路沿った特定の点における(すなわち、特定の時点における)局所的な粉末層の温度は、例えば、開始時の材料層の温度分布、材料の熱的特性(熱伝導率など)、仮想のビームの特定のエネルギー付与の履歴(ビームの現在位置、および現在位置に至るまでの間のその経路において材料層に付与されたエネルギーまたは出力の量を含む)、およびビーム経路の幾何パターンに因る。
【0016】
「ビームの特定のエネルギー付与」の用語は、単位時間および層の単位面積あたりに(仮想または実際の)ビームにより付与されたエネルギー(ビーム出力およびスポットサイズ)、すなわち、単位面積あたりに付与された出力をビームの速さで除したものを指す。したがって、特定のエネルギー付与を変化させることは、層の表面上を移動するビームの速さを変化させる、またはビームの出力を変化させる、またはビームのスポットサイズ(すなわち、特定の時点においてビームに直接曝される層の表面区域)を変化させる、またはこれらの組み合わせによってなされる。計算上、仮想のビームの特定のエネルギー付与の履歴もまたこのように、速さ、出力またはスポットサイズの変化を含む。また、ビームの形状およびビーム内におけるエネルギー/出力分布も変化してもよく、計算に含まれていてもよい。
【0017】
計算は複雑で時間がかかり過ぎることもあるため、今までどおり特定のエネルギー付与の履歴(これは、ビームは未到達であるが、先の意図されるビーム経路の既に「融合された」部分からの熱伝導がある意図されるビーム経路の点における温度に強い影響を与えることもある)を考慮にいれながら、十分に正確な温度を計算できるような簡単化を様々に行うことができる。
【0018】
「計算された温度と、選択された区域を融合するステップのために設定された条件とに因って、意図されるビーム経路に沿った仮想のビームの特定のエネルギー付与を調整する」ステップとは、例えば、最大温度のために設定された条件よりも、特定の点において温度が高くなったことを計算が示す場合などに、意図されるビーム経路の特定の部分にわたって、少なくとも1つのビームのパラメータ、すなわち、ビームの速さ、出力およびスポットサイズ、またはいずれか1つが調整されることを意味している(これは、例えば、特定の点の近傍のビームの速さの増加もしくはビーム出力の低減を要求する、または、先のビーム経路の部分からの間接的な、熱伝導によるその点の加熱を低減するように、特定のエネルギー付与の履歴の変更を要求することになろう)。
【0019】
意図されるビーム経路に沿った仮想のビームの特定のエネルギー付与の調整は、経路(の部分)に沿った温度の再計算がその他のビームのパラメータを用いて行われるように扱われてもよい。別の方法として、あるいは補助として、融合される材料に関連する既定のデータセットを利用でき、前記データセットは、計算された温度および設定された条件の関数として特定のエネルギー付与の適切な値を備える。このような規定のデータは、時間がかかり過ぎる再計算を防ぐのに役立ち、例えば、意図されるビーム経路に沿って配置された多数の点において温度が計算される際に使用できる。仮想のビームの現在位置に対応する点の前方に比較的近接して位置する「次の」点において計算された温度に応じて、現在位置から「次の」点に到達するまでビームを移動する際に使用する特定のエネルギー付与の適切な値は、既定のデータから直接取得できる。意図されるビーム経路沿って配置された残りの点に対して、この手順は繰り返される。このようにして、特定のエネルギー付与は、意図されるビーム経路沿って段階的に調整される。
【0020】
(特定のエネルギー付与のための)「操作スキーム」の用語は、実際のビームの特定のエネルギー付与、すなわち、速さ、出力およびスポットサイズのそれぞれを、粉末を融合するステップの間、時間(または、時間に関係するビーム経路に沿った位置)に対してどのように変化させるべきか、その方法を指す。したがって、操作スキームは、選択された区域を融合する際にビームの速さ、出力およびスポットサイズがどのように変化すべきかについての情報を含む。この操作スキームを提供または決定/確立するステップは、先のステップからの結果の減算および加算の形である。上記の特定のエネルギー付与の段階的な調整の例において、操作スキームは、ビームのパラメータの段階的な変動を含む。操作スキームは、意図されるビーム経路の初期部分のためなど、温度計算および特定のエネルギー付与の調整が必要ないと考えられる意図されるビーム経路の部分のためのビームのパラメータの設定の情報を含むこともできる。
【0021】
材料内の温度は、そのエネルギー含量に関係する。したがって、真の温度を計算するかわりに、別のエネルギー関連パラメータおよび温度関連パラメータを計算し利用することができる。計算された温度の用語は、そのような関連のパラメータも含む。
【0022】
意図されるビーム経路を確立するステップ、意図されるビーム経路に沿って温度を計算するステップ、仮想の特定のエネルギー付与を調整するステップ、および、操作スキームを決定するステップは、一度に実行されなくてもよいし、厳密に与えられた順番で実行されなくてもよい。例えば、計算および調整は、反復するやり方で実行でき、また、操作スキームは、ビーム経路全体の断片に対して段階的に決定できる。さらに、意図されるビーム経路を確立するステップは、所与の走査方向の等間隔に配置されたまっすぐな平行線からなる既定の線パターンが選択可能であり、いくぶん単純であるが、このステップは、好ましい線パターンおよび好ましい、最終的に選択された、意図されるビーム経路を獲得するための計算および調整を備えていてもよい。
【0023】
結果、つまり、本発明は、粉末を融合する際に使用されるビームの特定のエネルギー付与が予め調整されて、異なる特定のエネルギー付与および条件におけるビーム経路に沿って結果として生じる温度を計算することにより、使用される特定の走査パターンの温度の蓄積に応じて変化するようにする方法について言及する。換言すると、本発明の方法は、計算および調整により、経路パターンに沿って通過して粉末を溶融する際に、ビームの特定のエネルギー付与が時間(または選択された区域上の位置)に対してどのように変化すべきかを予め決定できるようにする。
【0024】
特定のエネルギー付与の操作スキームを最適化するために、例えば、製造時間を最小化する、特定の最大温度を超えないようにする、特定の時間間隔の間、特定の温度を超えないようにする、取得される温度の最大値を最小化する、ビーム経路に沿った溶融した材料の幅を均等にする、および、例えば、製造時間の最小化と取得される温度の最大値との折衷案などのこれらの様々な組み合わせなど、様々な条件を計算において使用してもよい。意図されるビーム経路を選択する前に、取り得る様々なビーム経路を評価できる。
【0025】
計算を簡単化し速度を上げるために、条件は、ビームのパラメータ(速さ、出力およびスポットサイズ)のうちの1つまたは2つの既定の(予め計算された)値、および、例えば、互いに等間隔に配置された平行線のセットなどの既定のビーム経路の両方、またはいずれか一方を含むことができる。
【0026】
本発明の方法は、包括的であり、選択された区域のあらゆる幾何形状に適用可能である。粉末層は、同様または異なる幾何形状を有する複数の選択された区域を備えていてもよいことに注意されたい。
【0027】
適切な特定のエネルギー付与の操作スキームが決定されると、このスキームは、問題の層の選択された区域(の部分)の実際の溶融/融合に使用される。本発明の方法は、好ましくは、対象物が形成される層の全て、または、少なくともほとんどにおいて使用される。
【0028】
本発明の効果は、徹底的な温度制御および選択された区域の温度分布制御を提供して、洗練された方法で融合ステップを計画可能とすることにある。同様に、これは、温度が高くなり過ぎる(これは、構築中の製品を破壊することもある)のを防止するため、温度分布を均質にする(これは、歪みおよびクラック形成を減らして製品の特性を改善する)ため、および、製造を速める(これは、製造の費用効率を高める)ために使用できる。
【0029】
本発明の有利な実施形態において、本方法は、少なくとも1層の粉末層の選択された区域を融合する際に、特定のエネルギー付与のための操作スキームを用いるステップを備える。
【0030】
本発明の別の有利な実施形態において、特定のエネルギー付与は、単位時間および単位面積あたりにビームにより付与されたエネルギーをビームの速さで除したものであり、また、特定のエネルギー付与は、ビームの速さ、ビーム出力またはビームスポットサイズのいずれか1つ、またはこれらの組み合わせを変化させることによって変化できる。
【0031】
本発明の別の有利な実施形態において、本方法は、融合される材料に関連する既定のデータセットの使用を備え、前記データセットは、計算された温度および設定された条件の関数として選択される特定のエネルギー付与の値を備える。
【0032】
本発明の別の有利な実施形態において、融合するステップのために設定された条件は、少なくとも1層の粉末層に対して次の条件、最大温度、作業温度、溶融深度および溶融幅のうちの1つまたはいくつかの条件を含む。
【0033】
本発明の別の有利な実施形態において、温度を計算するステップは、時間依存熱伝導方程式を解くステップを含む。
【0034】
本発明の別の有利な実施形態において、温度を計算するステップは、意図されるビーム経路に沿った局所的な温度を計算するステップを含む。
【0035】
本発明の別の有利な実施形態において、温度を計算するステップは、意図されるビーム経路に沿って配置された多数の点の中または近傍において実行されるいくつかの計算を含む。
【0036】
この実施形態の変形において、隣接する計算点の間の最大距離は、隣接する点の間の特定のエネルギー付与の許容される変化のための制限値を設定することにより設定される。例えば、ビームの速さだけが変化される場合、ビームの速さの許容される変化の最大値が設定される。
【0037】
本発明の別の有利な実施形態において、意図されるビーム経路を確立するステップは、複数の取り得るビーム経路に沿って温度の計算を行うステップと、前記複数のビーム経路の中から意図されるビーム経路を選択するステップとを含む。
【0038】
後述の本発明の詳細な説明において、次の図面を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】本発明の方法を適用可能である、公知の三次元製品製造装置の例を示す概略図である。
図2】ビームがx軸の正の方向に進行中の場合の表面温度プロファイル、ならびに、矩形の囲み線内にて対応する溶融深度および溶融幅を示す概略図である。
図3】FEMにより計算された、いくつかの温度分布プロファイルを、式3におけるガウス関数の級数により近似された分布とともに示すグラフである。
図4】FEMにより計算された、いくつかの温度分布プロファイルを、式3におけるガウス関数の級数により近似された分布とともに示すグラフである。
図5】FEMにより計算された、いくつかの温度分布プロファイルを、式3におけるガウス関数の級数により近似された分布とともに示すグラフである。
図6】点と線との距離および点と点との距離、それぞれ
【数1】
および
【数2】
を示す図である。ここで、
【数3】
は、指数項のためのグローバル座標系における位置であり、
【数4】
および
【数5】
は、線jの線分kのためのグローバル座標系における座標である。
図7】等脚台形の形状を有する選択された区域のための意図されるビーム経路の例を示す図である。ここで、意図されるビーム経路とは、ビームが、左から右へ向かうのに続いて右から左へと方向を変えながら、底部から頂部へ向かって線を走査し始めるというようなものである。
図8図7に示す意図されるビーム経路において使用されるビームの特定のエネルギー付与に対して決定された操作スキームを示す図である。ここで、この例における特定のエネルギー付与は、ビームの速さを変化させることにより変化される。
【発明を実施するための形態】
【0040】
図1は、三次元製品を製造するための公知装置1の例を示す。装置1は、三次元製品3をその上で組み立てる上下に調整可能な作業テーブル2と、1つまたは2つ以上の粉末分配器4と、作業テーブル2上に粉末の薄い層を連続的に分布させて粉末床5を形成するように配置された手段28と、粉末床5にエネルギーを送給して、粉末床5の部分を融合させる電子銃の形態の放射銃6と、前記作業テーブル2にわたって、放射銃6により照射される電子ビームを動かし、形状を決定するための偏向コイルおよびビーム形状を決定するコイル7と、装置1の様々な部品を制御するように配置された制御ユニット8とを備える。
【0041】
一般的な作業サイクルでは、作業テーブル2が下げられ、新しい粉末層が粉末床5の上の作業領域上に塗布されて、粉末床5の上部層5´の選択された部分にわたって電子ビームが走査される。原則として、このサイクルは製品が完成されるまで繰り返される。当業者であれば、図1に概説されたタイプ、および、電子銃のかわりにレーザ銃を備える装置の両方に関して、三次元製品の製造装置の一般的な機能および構成に精通する。
【0042】
従来、電子銃を有する装置は、通常、少なくとも10−2mbar未満の真空で作動して、電子ビームが、電子銃と作業領域との間に存在する電子または分子と相互作用するのを防ぐ。
【0043】
等脚台形の形状を有する、粉末層の選択された区域の例を図7に示す。意図されるビーム経路も示す。
【0044】
ここで本発明の方法の実施形態を説明する。この実施形態の例において、意図されるビーム経路は、互いに等間隔に配置された複数の平行かつまっすぐな線(走査またはハッチングの線)を辿る。この例において調整されるビームのパラメータは、ビームの速さである。計算において、ビームの速さは、特定の深さにおける溶融された材料の幅(図2の溶融幅および溶融深度を参照)が全ビーム経路沿いで等しくなるように調整される。このことにより、ビーム経路の平行部分の間の距離を一定にして用いることができる。残るパラメータは、予め決定されている(または、その他の既定のパラメータから計算される)。
【0045】
概要として、本方法の実施形態は以下のように説明できる。
1.異なる組み合わせの材料特性、材料の温度およびビーム出力のための温度プロファイルおよび関連するビームのパラメータ(スポットサイズおよびビームの速さ)から構成されるデータは、データベースに生成されて格納される。これらのデータは、図2の試験用の直方体と同様の単純な幾何形状に基づくFEM計算により得ることができる。
2.三次元体を製造するために使用される機械装置は、時間依存熱伝導方程式を解くことにより、ビームの軌道(経路)に沿って配置された多数の点の局所的な温度分布をリアルタイムで計算する。方程式の解は、先に融合された(すなわち仮想的に融合された)ハッチング線の温度プロファイルをガウス包絡線を用いて展開することにより得られる。使用されたビームおよび材料のパラメータに対応する温度プロファイルは、データベースから取得される。
3.特定の点におけるビームのパラメータは、計算された局所的な温度分布に応じて選択され、これらは、データベース内の事前に計算されたデータから取得される(これは、計算された温度分布を、事前に計算された使用される材料の温度プロファイルと比較し、計算された分布に最適にあてはまるプロファイルに対応するビームのパラメータを選択することによりなされる)。
4.1本のハッチング線が完了した時点で、線の終端における温度プロファイルもまたガウス関数により近似され、ステップ2および3(すなわち先の2つのステップ)が次のハッチング線に対して繰り返される。
【0046】
リアルタイムで計算を行うという表現は、粉末の融合が計算と同時に行われることを意味する。一般的に、後続の層のビームのパラメータの操作スキームの計算は、先の層が融合される間に行う。原則として、第1の層の融合プロセスを開始する前に、全ての層に対する操作スキームの計算および決定を全て行うことができるが、そうすると通常、製造を開始するまでに待ち時間を生ずることになる。逆に極端な例において、実際のビームが配置される場所に非常に近接するビーム経路に沿った点に対して、操作スキームの計算および決定を行うと、計算または融合において何か不具合が起こった場合に補正や再計算をなす余裕がごくわずかになる。
【0047】
本方法の実施形態への導入
説明した方法にしたがって、溶融プロセスを制御するために要する適切なデータを得るために、熱源が無く、その領域が−∞<x<∞,−∞<y<∞および−∞<z<0である一様な材料における時間依存熱伝導方程式を考える。
式1a.
【数6】
ここで、T(x,y,z,t)は時間依存性の温度分布、λは熱伝導率、cは熱容量およびρは材料の密度である。
【0048】
境界条件は、次のように要約される。
式1b
【数7】
仮想のエネルギービームを記述するために、z=0上をx方向に移動するガウス分布型のソース項を使用する。同じ頂面を介する放射は、シュテファン・ボルツマンの法則に従うと仮定される。
式1c
【数8】
ここで、Pinは吸収されたビーム出力、vはビームの速さ、σは分散(ビームスポットサイズ)、radcoeffは表面からの放射係数、および、Tsurは表面上方の周辺温度である。
【0049】
は、作業温度、すなわち、溶融/融合する前における材料の所望の温度である。
【0050】
データ生成に要する時間を減らすため、移動するスポットの周囲の温度分布が定常状態(x=x−tv,dt=−dx/v)に達したと仮定することにより、時間依存性を除去するのが妥当であることがある。
式2a
【数9】
式2b
【数10】
式2c
【数11】
上述の熱伝導方程式は、例えば、材料特性、Tおよびビーム設定のいくつかの異なる組み合わせに対してFEM技術により解くこともできる。この手順のしくみは、図2に例示されている。
【0051】
図2は、「試験用の直方体」を表しており、ビームがx軸の正方向に移動している。表面における温度プロファイルは、溶融体積が材料の溶融温度に対応する等温曲線により表される断面とともに示されている。ここで、ビームのパラメータvおよびσは、特定の溶融体積プロファイルが得られるように、溶融深度および溶融幅に関して最適化されている。さらに、材料内の最大温度は、Tmaxに制限されている。もちろん、他にもビームのパラメータを最適化するために用いる条件はあり得る。例えば、溶融体積内の温度勾配を最小化することは、そのような条件の1つであり得る。
【0052】
ハッチング線の終端におけるエネルギー入力の記述に要する温度プロファイルは、式2aのT(x,y,z)をガウス関数の級数で近似することにより得ることができる。そうすることで、任意の数のハッチング線についても半無限領域における温度分布の解析解が後に取得可能となる。級数T´(x,y,z)は次のとおりである。
式3
【数12】
パラメータA,xpos,σxi,σyi,σziおよびaは、点別の非線形最小二乗法によるT(x,y,z)とT´(x,y,z)との間の曲線あてはめから取得可能である。ここで、xposは、指数項iのビーム経路に沿ったxの位置である。ビームの座標系において、ビームはx軸の正方向へ移動すると仮定され、x=0に位置されるため、これは負の値になる。
【0053】
図3図5において、FEMにより計算されたいくつかの温度分布が、式3により近似された分布とともに示されている。
【0054】
適合度は、使用されるガウス関数の数により主に決定される。以下の例において、Nの値は10から12であり、各温度プロファイルに対して30から36のガウス関数が使用されたことを意味する。
【0055】
材料内の時間依存性の温度分布
ビームが1本の線を走査した後の材料内の時間依存性の温度分布T´(x,y,z,t)は、グリーン関数と、式3から得られる初期条件T´(x´,y´,z´)との畳み込みにより得られる。
式4
【数13】
上式で、
【数14】
ここで、材料の温度は、Tsurfに等しく、Tとは異なると仮定する。ここでは表面を介する熱損失はゼロとする。
【数15】
ビームがM本の線を走査した際、式4の右辺は和で置き換えられる。
式5
【数16】

上式で、tは線jが完了した際の時間に等しく、Tojは線jが完了した際のスポット周辺の温度、T´(x´,y´,z´)は線jの式3による温度分布、および、H(t−t)はヘヴィサイドの階段関数であり、次のように定義される。
【数17】
【0056】
T´(x,y,z)の式(式4)を式5へ代入する際には、式5のx´およびy´座標がその部分の表面により決定されるグローバル座標系に関することに対して、式3における座標x,xposおよびyは、線jの端点を軸とし、x軸がこの線のビームの移動方向を指すローカル座標系に関することを考慮すべきである。さらに、線jのビーム経路が、それぞれ異なる方向のいくつかの線分による記述を要する場合、式3のyは、線jの線分kと点(x´,y´)との間の距離である
【数18】
により置き換えなければならず、また、x´−xposは、線分上の指数項iのxの位置と同じ線分の(x´,y´)の射影点との間の距離である
【数19】

により置き換えなければならない(図6参照)。
【0057】
この方法により、あらゆる種類のビーム経路を考慮できる。しかしながら、式3における温度分布は直線におけるシミュレーションから得られることを忘れてはならない。したがって、ビーム経路の曲率が非常に著しい場合、xpos値により決定されたものと同じ距離でこの経路に沿って式3の項を単に配置するだけでは、うまく近似できないであろう。このような場合には、曲線形状上のFEM解が必要となることもある。
【0058】
図6は、点と線との距離および点と点との距離、それぞれ
【数20】
および
【数21】
を示す。
【数22】
は、指数項のためのグローバル座標系における位置である。
【数23】
および
【数24】
は、線jの線分kのためのグローバル座標系における座標である。
【0059】
【数25】
に配置される指数項を少なくとも1つ含む線分kのそれぞれについて、距離の二乗である
【数26】
および
【数27】
は、(ax´+by´+c)項の線形結合として記述されなければならない。そうでなければ、式5の積分を解析的に解くことができない。これは、以下の式でなされる。
【数28】
ここで、ビームは点1から点2へ移動し、線分1は線jの最後の線分であると仮定する。このように、線分は逆向きに加算される。
【0060】
ここで、
【数29】
は、指数項iのxの位置の絶対値、すなわち、線jのビーム経路座標系におけるxの位置である。
【0061】
全てまとめると、ビームがM本の線を走査した際の時間依存性の温度分布のための以下の式が得られる。
式6
【数30】
上式で、
は、ハッチング経路jのまっすぐな線分の数である。
【数31】
は、各線分k上の指数項の数である。
【0062】
後続のセクションにおいて、和の中の項のための解析的表現を導く。しかしながら、上述のT´(x,y,z,t)の式を用いることにより、あらゆる種類のビーム経路に対して事実上温度を計算でき、また、計算は複数のCPU構成において効果的に行うことができて、これは、リアルタイムで計算を行うことができることを意味していることを前置きしておきたい。
【0063】
ガウス関数の性質と積分
式6の式を解くために、ガウス関数のいくつかの性質を知っておく必要がある。
1.2つのガウス関数の積は、別のガウス関数となる。
【数32】
2.1つのガウス関数の積分
【数33】
【0064】
T´(x,y,z,t)を計算するための積分
まず、z方向の積分を考える。
【数34】
上式で、
【数35】
次に、xおよびyの積分を考える。
【数36】
【0065】
全ての線分が平行である場合において、座標系を変換してハッチング線に位置を合せることは容易であるため、xとyとを区別する必要はない。したがって、以下の例において、全ての線はx軸に対して平行であると仮定される。
【数37】
上式で、
【数38】
【0066】
線分が平行でなく任意の方向を有する場合、代数表現がもう少し複雑になる。このような場合、まずxの積分を考える。
【数39】
上式で、
【数40】
したがって、
【数41】
ここでyの積分を考える。
【数42】
上式で、
【数43】
【0067】
全ての式のまとめ
【数44】
指数項の位置
【数45】
上式で、
【数46】
平行線
【数47】
上式で、
【数48】
ハッチング線の任意の方向
【数49】
上式で、
【数50】
【数51】
【0068】
ハッチング線沿ったビームのパラメータの計算
(仮想の)ビームがハッチング経路に沿って走査すると、スポット周辺の温度は、ここで式6の式から、および、先のハッチング線の温度プロファイルを予め計算したガウス関数を代入することにより計算できる。
【0069】
温度を知っておくことにより、また、異なる条件のビームのパラメータのために最適化されたデータにアクセス手段を有することにより、ビームのエネルギー入力(すなわち特定のエネルギー付与)を適切に調整できる。
【0070】
実施例
以下のハッチング例において(図7参照)、一定のビーム出力により台形部分が溶融され、ビームの速さが変化されて、一定の溶融深度および溶融幅を有するようにする。意図されるビーム経路とは、ビームが、図7において、左から右へ向かうのに続いて右から左へと方向を変えながら、底部から頂部へ向かって線を走査し始めるというようなものである。
【0071】
スポットサイズは、融合前のその部分の温度であるTsurfに最適化されて、溶融たまりの最大温度がTmaxに制限されるようにする。このことは、第1のハッチング線が、一定の速さおよびスポットサイズ固定で走査されることを意味する。その他の線は全て、同じスポットサイズおよび出力で走査されるが、速さは異なり、変化する。意図されるビーム経路に沿って配置された各計算点における速さは、まず点周辺の温度分布を計算することにより、次にデータベース内の速さ対温度データから、得ることができる。
データベース内の速さは、特定のビーム設定(出力およびスポットサイズ)および温度のために最適化されて、溶融深度および溶融幅が全ての線において同じとなるようにする。各ハッチング線の終端において、仮想のビームによって生成された温度プロファイルは、データベースから取得されたガウス関数によりモデル化される。データベースの温度の範囲は、TsurfからTmeltまでとされ、予め計算されたデータの温度ステップは、20Kに設定された。参照テーブル手順が使用されて、最も近い速さ、および、計算された温度のためのガウス関数を選んだ。
【0072】
結果として得られる各ハッチング線に沿った速さプロファイルは、図8に示されている。これらのプロファイルは、意図されるビーム経路沿った局所的な温度分布の計算に基づいており、少なくとも1層の選択された区域を融合する際に意図されるビーム経路において使用されるビームの特定のエネルギー付与に対して決定された操作スキームに対応する。ここで、この例における特定のエネルギー付与は、ビームの速さを変化させることにより変化される。
【0073】
上記の例において、段階的な手順は、線に沿った温度および速さを取得するために使用される。このことはまず、線に沿った特定の点における温度は平行線のための式6を使用して計算されることを意味する。次に、速さは、データベースを参照テーブルとして用いることにより温度から取得される。ハッチング線に沿った次の点は、固定距離Δrにて計算され得て、ここに、時間ステップはΔr/Speedに等しい。しかしながら、温度勾配は、時間および空間座標に対していくぶん劇的に変化するため、固定距離手順は十分ではなかった。ある場所において、小さいステップを要する一方で、その他の場所において、いくぶん長いステップでも十分性格であることもある。代わりに、速さにおいて許容される変化の最大値を用いた。これにより、温度の差の許容される最大値が取得でき、時間および空間の両方に関して温度の微分係数を数値的に計算することにより、空間ステップの許容される最大値が取得できる。
【0074】
導出されたアルゴリズムは非常に効率的であり、リアルタイム計算において最大数千本のハッチング線を含めるのに問題はない。リアルタイムの用語は、ハッチング線に沿った速さを計算する時間が、実際の溶融時間未満となる計算を指す。
【0075】
本発明は上で述べられた実施例に限定されないが、特許請求の範囲内で様々な方法で変更できる。例えば、ビームのパラメータを最適化し、データベースを作成する際に、より詳細かつ複雑な溶融プロセスの記述を用いることもできる。粉末は、溶融エンタルピーおよび溶融−凝固プロセスの詳細なモデルとあわせて、不均質材料としてモデル化できる。
【0076】
式6による計算は、例えば、最小の溶融/融合時間に関してハッチングの方策を最適化するために使用できる。そのような最適化のために、実用上の見地から可能である限りは、全ての計算をリアルタイムで行う必要はない。しかしながら、実行できるハッチングの方策のための計算がリアルタイムで行うことが可能ならば役立つこともある。例として、最適化ステップから取得したデータを全て保存する必要はない。かわりに、最適化ステップの間に保存すべき情報は、例えば、ハッチング角度、ハッチング線間の距離、部分に対するハッチングの位置などに制限され得る。
【0077】
上述の方法は、例えば、国際公開特許公報第2004/056511号に記述されたような、構築中の部分を特定の温度に維持するために必要なビーム出力の計算に使用される方法と組み合わせることができる。こうして、ここに記載された方法は融合中にビームにより提供される局所的なエネルギーまたは出力付与の制御に使用されるが、全体のエネルギー入力は、その部分の幾何形状を含むエネルギー平衡の計算から計算できる。
【0078】
上述の方法は、ハッチング線に沿った局所的な温度(分布)を取得するために、一様な材料のモデルを使用する。しかしながら、局所的な材料特性の差は、異なる場所に異なるDの値を用いることによりモデル化できる。例えば、非常に薄い断面は、より低い熱伝導率を有するとしてモデル化できる。そのような断面であっても、最適化されたデータによりデータベースを拡張するための方法に制限はない。同様に、粉末床の下方の層が、その熱的特性が粉末床のものとは異なることがある調整可能な作業テーブルの近くに配置されていることを考慮に入れることができる。
【0079】
操作スキームを選択された区域の当該部分に対して計算し決定する前に、選択された区域の一部分にだけ意図されるビーム経路を確立することができる。さらに、完全に確立された意図されるビーム経路の一部分のみに対して操作スキームを計算し決定できる。少なくとも1つの層の選択された区域を融合するステップは、意図されるビーム経路を確立するステップ、温度を計算するステップなどの間、選択された区域の融合されていない部分が今も進行中であることを考慮して、開始されてもよい。さらに、少なくとも1層の粉末層は、2つ以上の選択された区域を備えていてもよい。これらの選択された(部分)区域は、異なる形状を有していてもよく、別々に取り扱うことができる。
【0080】
上に説明したように、意図されるビーム経路に沿った温度の計算において、同じ時点の温度計算を行う際に、特定の時点まで経路に沿って(仮想の)ビームにより付与されたエネルギーが考慮されている。このようにして、温度の蓄積が適切に考慮に入れられている。
【0081】
記述の例において、意図されるビーム経路沿って配置された多数の位置において温度の計算が行われ、これらの位置のそれぞれにおいて局所的な温度分布が計算される。さらに、局所的な温度分布は、仮想のビームの位置の1つステップ先の位置において計算される。この単一ステップだけいくらか先の次の位置へビームを移動する際に使用される特定のエネルギー付与は、データベースから取得される。データベースは、異なる局所的な温度分布(粉末状の材料を使用および特定の融合条件用)に対する多数の予め計算された特定のエネルギー付与(すなわち上述の例におけるビームの速さ)を含む。次の位置における計算された局所的な温度分布は、適切な値またはデータベースからの値を選択するために使用される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8