【実施例】
【0020】
[焦電型赤外線センサの物理的な構成例]
まず、
図2乃至
図6を参照しながら、焦電型赤外線センサの物理的な構成例について説明する。
図2乃至
図6において、符号1は焦電型赤外線センサを示す。焦電型赤外線センサ1は、平面形状四角形のハウジング2と、底板3で、必要な部品の収納空間を形成している。ハウジング2は、
図5に示すように前端の下部が切除されて庇形になっている。底板3は、上記切除部に倣うように折れ曲がって形成され、上記切除部を含むハウジング2の底面に被せられている。
【0021】
ハウジング2内には、上記切除部の上方に焦電センサ5が検出方向を下に向けて配置されている。焦電センサ5はハウジング2内に固定された焦電センサ支持板4の下面に取り付けられている。底板3は、焦電センサ5に対向する部分が解放されて、
図6に示すように窓孔14が形成されている。この窓孔14を通して、焦電センサ5が下方の検出対象を検出することができるようになっている。焦電センサ5は、前述のとおり、強誘電体の焦電効果を利用して、赤外線を発する対象物を検出することができるものである。
【0022】
窓孔14の左右両側には、調整板10が配置されている。各調整板10は左右方向の位置を調整可能であり、調整した位置に、ねじ、プッシュリベットなどで固定することができる。各調整板10を位置調整することにより、焦電センサ5による検出範囲を調整することができる。
【0023】
既に説明したように、焦電センサ5は、検出対象に動きがないと温度が安定し、センサを構成する強誘電体の自発分極に変化が生じていないため、検出対象を検出することができない。いわゆる「ロスト」状態になる。この「ロスト」を解消するために、リセット機構9が設けられている。
【0024】
リセット機構9は、赤外線を遮断することができる板状の部材であり、リセットモータ8によって回転駆動される。リセットモータ8は回転出力軸を垂直方向に向けて基板4の上面に固定されている。基板4を突き抜けた上記回転出力軸にリセット機構9が取り付けられている。リセットモータ8の駆動によってリセット機構9が水平面内において回転すると、前記窓孔14を遮蔽し、焦電センサ5に向かう赤外線を遮断する。リセット機構9が原位置に復帰すると、焦電センサ5は検出対象から放射される赤外線を検出することができる。
【0025】
図4、
図5に示すように、焦電センサ5とほぼ同じ高さ位置に温度センサ7が取り付けられている。温度センサ7は温度センサ基板6に取り付けられている。温度センサ7は、焦電センサ5による検出範囲の温度を測定することができる。温度センサ7はまた、温度センサ7自身の表面温度を測定することができる。焦電センサ5によって検出される温度データは、後で説明する温度むらの検出に供される。
【0026】
焦電センサ5の上方において、LED12が配置されている。LED12は所定に基板に実装され、発光部がハウジング2の前面に開けられた孔に嵌められている。LED12は焦電型赤外線センサ1の動作状態を、点灯、消灯、点滅などによって表示することができる。
【0027】
本発明に係る焦電型赤外線センサは、例えば移動棚装置に取り付けて、移動棚間の作業通路内に人がいるかどうかを検出するエリアセンサとして利用することができる。このように、本発明に係る焦電型赤外線センサを移動棚とリンクさせる場合、例えば、移動棚のロック装置の作動状態、非作動状態を、LED12の点灯、消灯、点滅などによって表示することができる。また、本発明に係る焦電型赤外線センサを監視カメラと連動させた場合、監視カメラの作動状態を、LED12の点灯、消灯、点滅などによって表示することができる。
【0028】
[焦電型赤外線センサの実施例の制御系]
次に、上記焦電型赤外線センサの実施例の制御系について、
図1を参照しながら説明する。
図1において、焦電センサ制御部20は、入出力装置として、焦電センサ5、温度センサ7、リセット機構9を有している。焦電センサ制御部20は、特定の機能を果たす部分として以下の機能部を備えている。
【0029】
情報処理部22:温度センサ7からの温度情報に基づいて温度むらを演算する演算部でもある。情報処理部22は、各部の動作を制御する中枢部であり、焦電センサ5の検出範囲の温度むらに基づいて焦電センサ5の感度を調整する感度調整処理部でもある。焦電センサ5の感度を調整するといっても、直接的に焦電センサ5の感度を補正するものではなく、焦電センサ5の感度が調整されたかのようにソフト的に調整するものである。この点は後で詳細に説明する。
【0030】
外部信号入出力部24:外部からの命令信号を受け入れ、また、外部へ制御信号などの出力信号を出力する。入出力信号のインターフェースとしての機能を有する。
焦電センサ検出部26:焦電センサ5の出力信号を監視し、焦電センサ5の出力信号の変化から焦電センサ5が検出対象を検出したか否かを判断する部分である。上記情報処理部22に含まれる上記感度調整処理部からの指示によって、焦電センサ検出部26による検出感度が調整される。
【0031】
温度センサ情報検出部30:温度センサ7から出力される信号から温度を検出する部分である。温度センサ7から出力される信号には、焦電センサ5の検出範囲の温度すなわち周辺温度に関わる信号Taと、温度センサ7の表面温度に関わる信号Tsがある。温度センサ情報検出部30は、信号TaとTsから、検出範囲の温度と温度センサ7の表面温度を検出する。
【0032】
リセット機構命令部32:焦電センサ制御部20の各部からの信号により、いわゆる「ロスト」状態が生じた場合に、あるいは「ロスト」状態が生じる前に、リセット機構9を作動させる部分である。リセット機構9の作動により、焦電センサ5は再検出可能になる。
【0033】
計時部34:クロック信号を計数することにより時間の経過を計測する部分である。焦電センサ5が一定の時間間隔で検出動作するのに必要な部分である。また、時間的な要素でいずれかの部分の動作を制御する場合などに必要な部分である。
焦電センサ制御部20の各部は相互に連携している。
【0034】
[感度調整の説明]
本発明に係る焦電型赤外線センサの実施例による感度調整の基本思想について説明する。焦電センサは、一定の時間間隔で検出動作をし、所定時間内における検出回数が所定回数以上であれば、検出範囲内に赤外線を放射する検出対象が存在しているものと判断する。例えば、単位時間を50msとし、この時間内に15回以上検出すると検出対象が存在しているものと判断する、というように設定することにより、焦電センサの感度を設定することができる。上記時間内に1回でも検出すると検出対象が存在しているものと判断するように設定すると、最大感度に設定されたことになる。
【0035】
焦電センサ自体の感度は一定とし、静止人物を検出対象として、誤検出と非検出が発生しない上記単位時間内の検出回数を、実験を繰り返すことによって模索した。その結果、静止した人物を検出することができる限界の検出回数は15回程度であることがわかった。
【0036】
そこで、限界検出回数である15回をもって焦電センサの感度を設定したとする。
その場合、焦電センサの検出範囲に温度むらがあるときなどに発生しやすい誤検出は生じにくくなる。しかし、焦電センサの検出範囲の温度が人の体温に近い場合に発生する非検出を解消することができない。要するに、焦電センサの感度を、一定の検出回数、例えば上記限界検出回数に設定しても、誤検出も非検出も軽減することができない。
【0037】
図7は、温度むらによる誤検出を実験によって確認した結果を示す。横軸は温度むら(℃)、左縦軸は一定時間である50msでの焦電センサの検出回数、右縦軸は誤検出時間(ms)である。線Aは上記のように限界検出回数としての15回を示す線である。線Bは、温度むらに対応する誤検出時間を示している。誤検出時間とは、検出範囲が無人であるにもかかわらず、人がいるものと検出している時間のことである。
【0038】
図7からわかるように、温度むらが0から3(℃)程度までの範囲と、3から5(℃)程度までの範囲で生じる誤検出時間が明らかに異なっている。温度むらが0から3(℃)程度までの範囲では検出回数が0であるのに対し、温度むらが3から5(℃)程度までの範囲では誤検出時間が、約400ms以上750ms未満になっている。したがって、温度むらが3から5(℃)程度までの範囲であれば、上記のように検出回数を15回(750ms)程度に設定することにより、誤検出を防止することができる。
【0039】
このように、焦電センサの見かけ上の感度を所定時間内における検出回数で表すものとする。上記感度を15回以下に設定すると、焦電センサの見かけ上の感度は高くなる。上記感度を1回に設定すると、最大感度に設定されることになる。しかし、感度を15回以下に設定して感度を高くすると、誤検出が生じやすくなる。そこで、リセット機構が動作したときのように誤検出が生じやすい動作状況では設定感度を低く設定し、検出範囲内の検出対象の検出動作時には設定感度を高める、というように、動作状況に応じて感度を可変する仕組みにするとよい。
【0040】
焦電センサが誤検出しやすい状況は、検出範囲内での温度むらがあること、すなわち場所によって温度差があることである。
図12は、検出範囲内での温度むらが小さい場合と大きい場合の例を模式的に示している。
図12の左側に示すように、焦電センサの検出範囲内にエアコンや窓あるいは扉がない場合は検出範囲内の温度は全体的にほぼ同じの温度で、温度むらは小さい。
【0041】
図12の右側に示すように、焦電センサの検出範囲内にエアコンや窓あるいは扉があると、検出範囲内の温度は場所によって異なり、温度むらは大きい。特に、冬季においてエアコンが暖房モードで運転されていると、エアコンから吹き出される空気の温度と、窓や扉の傍の温度は大きく異なり、温度むらが大きい。加えて、エアコンから吹き出される温度の高い空気が検出範囲内を流れる。そのため、焦電センサは周辺温度よりも高い温度の空気の流れにより、検出範囲内を人が移動した場合と同様に検出動作し、検出範囲内に人がいないにも関わらず人がいるものと誤検出する。このように、検出範囲内の温度むらが大きい場合は誤検出が生じやすい。
【0042】
そこで、
図1に示す例では、検出範囲内の温度むらの大小に応じて焦電センサの感度を調整し、誤検出や非検出の低減を図っている。
図1において、温度センサ7は、焦電センサ5の検出範囲の温度に関する信号Taと温度センサ7の表面温度に関する信号Tsを検出する。温度センサ情報検出部30は、上記信号Taと信号Tsから、焦電センサ5の検出範囲の温度と、温度センサ7の表面温度を求める。演算部を含む情報処理部22で、上記検出範囲の温度と温度センサ7の表面温度の差の絶対値すなわち温度むらを演算により求める。
【0043】
しかしながら、上記温度むらを正確に測定するには工夫が必要である。
図9は、エアコンによる設定温度変化に対する市販の熱電対式温度センサの追従性と温度むらとの関係を示す。横軸は時間(分)、左縦軸は温度むら(℃)、右縦軸は温度(℃)である。時間軸において、0〜8分をエアコンの設定温度30℃、8〜18分をエアコンの設定温度15℃、18分以降は再びエアコンの設定温度30℃とした。グラフDは実際の温度むら、グラフEは熱電対式温度センサによる検出値の変化を示している。
【0044】
実際の温度むらを示すグラフDは、ピンポイントで物体から放射される赤外線や可視光線の強度を測定するセンサである放射式温度センサを用いて測定したデータから得たものである。熱電対式温度センサの設置位置と同じ位置に放射式温度センサを設置し、それぞれの設置位置における温度と、焦電センサ5自体が測定したその表面温度との差を実際の温度むらとしている。
【0045】
図9に示すグラフDおよびEからわかるように、実際の温度むらはエアコンによる急激な温度変化に対応して変化している。これに対して市販の熱電対式温度センサによる検出信号は、実際の温度むらに対する追従性が悪く、熱電対式温度センサは温度むら検出用の温度センサとして不適であることがわかった。
【0046】
そこで、本発明に係る焦電型赤外線センサの温度センサとして、赤外線サーモパイルセンサを用いた。赤外線サーモパイルセンサは、対象物とは非接触で対象物の温度を測定することができるセンサである。赤外線サーモパイルセンサは、サーモパイルを使用し、対象物から放射される赤外線エネルギーを吸収し、それに対応したサーモパイル電圧の変化により対象物の温度を計測する。赤外線サーモパイルセンサは、それ自身の表面温度と周辺温度すなわち上記検出範囲の温度を同時に検出することができる。
【0047】
図10は、前記温度センサ7として赤外線サーモパイルセンサを使用して性能を確認した結果を示している。赤外線サーモパイルセンサから出力されるそれ自身の表面温度および周辺温度信号から温度むらを演算した。温度センサを除けば、測定条件は
図9の場合と同じである。グラフDは、
図9のグラフDと同じで、実際の温度むらを示している。グラフE1は、温度センサとして赤外線サーモパイルセンサを使用して測定し演算して得た温度むらを示しており、
図9のグラフEに対応するものである。グラフTsは、赤外線サーモパイルセンサによって測定されたそれ自身の表面温度を示す。グラフTaは、赤外線サーモパイルセンサによって測定された周辺温度を示す。温度むらを示すグラフE1は、上記表面温度Tsと周辺温度Taの差の絶対値である。
【0048】
図10からわかるように、実際の温度むらを示すグラフDと、赤外線サーモパイルセンサの出力信号に基づいて得られる温度むらを示すグラフE1はほぼ一致している。したがって、本発明に係る焦電型赤外線センサに、温度センサとして赤外線サーモパイルセンサを用いることは、温度の急激な変動に対する追従性がよく、温度むらの検出に有効である。そこで、本実施例においては温度センサとして赤外線サーモパイルセンサを用いた。以上のように、検出範囲内の温度むらをリアルタイムで計測することが可能になった。ただし、本発明に赤外線サーモパイルセンサを用いることは必須ではない。温度の急激な変動に対する追従性の良好な温度センサであれば、本発明に適用することができる。
【0049】
焦電センサは、対象物の温度と周辺温度の差が4℃以下になると、対象物が存在していてもそれを検出し難くなる。特に夏季に多く見られる現象である。温度センサとして上記赤外線サーモパイルセンサを用いると、赤外線サーモパイルセンサは、周辺部すなわち焦電センサの検出範囲に人などの検出対象がいると、検出対象の温度も含めて検出範囲の温度を測定する。また、赤外線サーモパイルセンサはそれ自身の表面温度も測定する。したがって、上記検出対象も含めた上記周辺温度と上記表面温度との差の絶対値として温度むらを検出することができ、誤検出が少なく、対象物を高い精度で検出することができる。
【0050】
[感度調整の具体的手段]
図11は、上に述べたように、対象物を高い精度で検出することができる赤外線サーモパイルセンサを温度センサとして用いながら、温度むらの大小により焦電センサの感度を調整することによる効果を示す。感度補正の具体的手段は、前述のように、焦電センサが一定の時間間隔で検出動作をし、所定時間内における検出回数が所定回数以上であれば、検出対象が存在しているものと判断するものである。
【0051】
図11は、
図7のグラフに、設定感度を示すグラフCを付加したものである。グラフCは、温度むらに応じて、所定時間内における検出回数が何回であれば検出対象が存在するものと判断するかという、いわば閾値を示している。グラフCの左端は温度むらがほとんどない、すなわち周辺温度と赤外線サーモパイルセンサの表面温度との差がほとんどないない場合であって、上記検出回数は「1」である。したがって、上記所定時間内に1回でも検出すると対象物が存在しているものと判断する。焦電センサの感度が見かけ上最大の感度に設定されている。温度むらが大きくなるにつれてグラフCで示す検出回数は増える。検出回数が増えるにしたがって焦電センサの見かけ上の感度は低下する。
【0052】
図7に関して説明したように、温度むらが0から3.2(℃)程度までの範囲では、誤検出はほとんどない反面、非検出が生じやすい。しかし、
図11のグラフCに示すように、温度むらが0から3.2(℃)程度までの範囲では、所定時間内での検出回数の閾値を、基準の検出回数である15回よりも下げている。これは設定感度を上げていることを意味する。加えて、温度むらの程度によって上記閾値すなわち設定感度を変えている。こうすることにより温度むらが小さい場合であっても、前記非検出という不具合を低減できる。
【0053】
温度むらが3から5(℃)程度までといった大きな範囲では、前述のように誤検出が生じやすい。
図11にグラフCで示す例では、温度むらが3から5(℃)程度までの範囲では、上記閾値を、基準の検出回数である15回よりも上げている。これは設定感度を下げていることを意味する。加えて、温度むらの程度によって上記閾値すなわち設定感度を変えている。こうすることにより、温度むらが大きい場合に生じやすい誤検出を低減できる。
【0054】
[リセット動作と感度調整の関係]
焦電型赤外センサは、検出対象が存在していても、検出対象が一定時間静止していれば非検出すなわち前記「ロスト」状態になる不具合を生ずる。
図2乃至
図6に示す例では、ロスト状態を解消するリセット機構9を備えている。リセット機構9はリセットモータ8に駆動されて回転し、前記窓孔14を開閉して焦電センサ5が検出動作可能な状態にリセットする。このリセット動作後の焦電センサ5は動作が不安定で、誤検出が生じやすい。この誤検出は、リセット機構9が作動した後の検出範囲内の温度むらを温度センサ7が検出することにより発生ものと考えられる。
【0055】
図8は、上側に上記リセット機構9の動作状態を、下側に焦電センサ5の感度状態を、タイミングを合わせて示している。いずれも、通常の動作状態から、リセット機構9の動作、焦電センサ5の感度調整を経て、通常の動作状態に戻る一連の動作を示している。通常の動作では、焦電センサ5の感度は最大感度に設定されている。具体的には、50msの時間内に1回でも検出対象が検出されれば検出対象が存在しているものと判断するようにして、非検出を回避するように設定されている。
【0056】
図8に示す例では、通常の動作からリセット機構9の動作が始まると、リセット機構9の開から閉への動作時間、リセット機構9による遮蔽中の時間、リセット機構9の閉から開への動作時間を要する。したがって、リセット機構9の一連の動作にある程度の時間を要し、このリセット動作に要する時間は、焦電センサ5による検出は無視される。
【0057】
リセット機構9の動作後所定時間、焦電センサ5の感度を温度むらに応じて調整あるいは補正し、その後通常の動作に戻る。焦電センサ5の感度調整は、上に述べたとおりで、例えば、50msの時間内において、焦電センサ5が検出対象を検出する回数の閾値を、温度むらに応じて変えることによって行う。感度調整後の通常の動作では、焦電センサ5の感度は最大感度に設定される。
【0058】
温度むらに対応した焦電センサ5の感度設定は、検出範囲の温度と温度センサの表面温度との関係に基づいて焦電センサ5の感度を予め数値で設定したテーブルを利用した計算式を利用するとよい。上記数値は、焦電センサ5が検出対象を検出する回数の閾値に該当する。
【0059】
上記計算式は、
図1における情報処理部22に保存されていて、情報処理部22は、演算された温度むらに基づいて上記計算式で計算された設定感度を読み出す。読み出された設定感度は、焦電センサ検出部26に供される。焦電センサ検出部26は、焦電センサ5による検出回数の閾値を上記設定感度に対応して設定する。
【0060】
[焦電センサの感度自動補正]
温度むらによる焦電センサの感度調整に関しては以上述べた通りで、感度を調整することにより、温度むらが大きい場合の誤検出、温度むらが小さい場合の非検出を低減できる。焦電センサの誤検出、非検出をさらに低減するために、上記感度調整に加えて、周辺温度の高低に応じて焦電センサの感度を補正するとなおよい。夏季のように周辺温度が高い時期には人体などの検出対象の温度と周辺温度との差が小さいため、未検出が生じやすくなる。冬季は逆である。そこで、周辺温度が高い場合は焦電センサの感度を高めに補正し、周辺温度が低い場合は焦電センサの感度を低めに補正するとよい。
【0061】
図13は、焦電センサの感度調整に加えて、上記周辺温度に応じて感度補正を行う場合の例を示す。本実施例では、前述のように、所定時間内において、焦電センサが検出対象を検出する回数の閾値によって焦電センサの感度を調整している。
図13の縦軸の「焦電センサ検知感度付与値」とは、上記閾値のことであって、前述の例に合わせて、所定の時間である50ms内に焦電センサが検出する回数を示している。横軸は温度むらすなわち温度センサの表面温度と環境温度の差の絶対値を示している。グラフFは基準温度10℃での感度補正曲線、グラフGは基準温度20℃での感度補正曲線、グラフHは基準温度30℃での感度補正曲線である。上記グラフは、実際には環境温度によって無数に存在し、随時環境温度に応じた最適な感度補正曲線を描くようになっている。
【0062】
図13から明らかなように、基準温度が高い場合は、基準温度が低い場合よりも感度付与値が全体的に小さくなっている。基準温度が高い場合とは、夏季のように周辺温度が高い場合であって、検出対象である人体の体温との差が小さく非検出になりやすい。この例のように、基準温度が高い場合に焦電センサの感度を高めると、非検出を低減することができる。これらのことから、周辺温度と温度むらの状況に対応したものを上記計算式に反映させ、環境温度と温度むらに最適な感度になるように随時調整するとよい。
【0063】
[実施例の動作]
ここまで説明してきた実施例の動作について、
図14乃至
図17に示すフローチャートを参照しながら説明する。動作ステップをS1,S2,・・・のように表している。
【0064】
図14は、本実施例全体の動作を概略的に示している。
図14においてステップS1は、焦電センサが通常の検出状態にあることを示している。ステップS2では、リセット動作信号が入ったかどうかを判断する。この判断ステップS2は、
図1に示すリセット機構命令部32が情報処理部22からの演算結果に基づいて実行される。リセット動作信号が入るとリセット機構命令部32がリセット機構9にリセット動作命令を送りリセット動作を行う(S3)。リセット動作については、後でより詳細に説明する。
【0065】
リセット動作(S3)の後、感度調整動作を行う(S4)。感度調整動作についても、後でより詳細に説明する。感度調整動作(S4)の後、一定時間の経過を待ち(S5)、焦電センサを通常の検出状態に復帰させて(S6)、一連の動作を終わる。上記一定時間の経過とは、
図8について説明した感度調整動作後において、一定時間が経過することである。
【0066】
上記感度調整動作の詳細を
図15に示す。感度調整動作では、まず
図1に示す温度センサ7によりその表面温度と環境温度を計測する(S11)。環境温度とは、周辺温度のことでありまた焦電センサの検出範囲の温度である。上記表面温度と環境温度の情報は
図1に示す温度センサ情報検出部30で検出され、情報処理部22で表面温度と環境温度の差の絶対値が演算される(S12)。表面温度と環境温度の差の絶対値は温度むらであり、この温度むら情報と環境温度情報が感度調整処理ステップ(S13)に供される。
【0067】
感度調整処理ステップ(S13)では、前述のテーブルを用いて、上記表面温度と環境温度の差の絶対値から焦電センサの感度調整値を求め、さらに環境温度に応じて、
図13について説明したように感度補正値を演算する。この演算結果を焦電センサ5の感度として設定し、設定した感度で焦電センサ5を動作させる。前記情報処理部22は、焦電センサ5の感度が正しく補正されているかどうかを監視し(S14)、正しく補正されていなければステップS11に戻る。正しく補正されていれば、その感度で焦電センサ5を動作させる(S15)。
【0068】
図16は、
図14に示すリセット動作(S3)の具体例を示す。リセット動作では、まずリセット機構命令部32からリセット機構9に向けてリセット動作指令信号が出力されるのを待つ(S21)。リセット動作指令信号が出力されると、リセット動作を行うため、焦電センサ5の検出動作を無視する(S22)。この状態でリセット機構9を作動させてリセット動作を開始し(S23)、リセット機構9が所定のリセット動作を完了することによってリセットを完了する。上記焦電センサ5の検出動作無視は、
図8に示すように、リセット動作区間内において行われ、リセット動作終了とともに上記検出動作無視も終了する。
【0069】
図17は、感度調整動作の別の例を示す。この感度調整動作では、まず温度センサ7によりその表面温度と環境温度すなわち周辺温度を計測する(S31)。上記表面温度と環境温度の情報は温度センサ情報検出部30で検出され、情報処理部22で表面温度と環境温度の差の絶対値が演算される(S32)。表面温度と環境温度の差すなわち温度むらの情報と、温度計測ステップ(S31)で得られた環境温度情報が感度調整処理ステップ(S33)に供される。
【0070】
ここまでは
図15に示す動作のフローのステップS13までと同じで、感度調整処理ステップ(S33)では焦電センサの感度調整値を求め、さらに感度補正値を演算する。この演算結果を適用して焦電センサ5の感度を設定する。
図17に示す感度調整動作の例が
図15に示す感度調整動作の例と異なるのは、
図15におけるステップS15に相当する動作ステップがない点である。したがって、
図17に示す動作フローでは、感度補正処理ステップ(S33)で求めた感度調整値を焦電センサの制御(S34)に直ちに適用する。
【0071】
リセット機構9によるリセット動作中は焦電センサによる検出動作が不安定であることから、
図8に示すように、リセット機構9によるリセット動作中は焦電センサ5の検出動作を無視する。しかし、焦電センサ5を設置している環境の赤外線放射率の違いによって、リセット動作後も環境温度を適正に計測することができず、誤検出、非検出の発生確率が上昇した。ちなみに、各種素材による赤外線放射率は以下のとおりである。
布系:0.75 紙:0.92 人体:0.97
コンクリート:0.92〜0.95 鉄:0.85
【0072】
図18に示す動作例では、リセット機構9によるリセット動作終了後も一定時間だけ待機時間をおき、この待機時間中も上記リセット動作区間として扱い、焦電センサ5の感度調整動作も行わない。そして、上記一定の待機時間が終了することによって焦電センサ5による検出無視を解除し、その後一定時間だけ焦電センサ5の感度調整部が動作するようになっている。この感度調整部によって調整された感度により焦電センサ5が検出動作する。このように、リセット動作終了後も一定時間だけ待機時間をおくことにより、環境の赤外線放射率の違いによる、リセット動作後の誤検出、非検出の発生を低減することができる。
【0073】
以上説明した本発明に係る焦電型赤外線センサの実施例によれば、検出範囲の温度むらの大小によって焦電センサの検出感度を調整するようにしたため、温度むらが小さい場合は検出感度を上げて非検出を低減できる。温度むらが大きい場合は検出感度を下げて誤検出を低減できる。
【0074】
また、検出範囲の温度の大小に応じて上記検出感度を補正することにより、非検出、誤検出をさらに低減することができる。
【0075】
いわゆるロスト状態をリセットするリセット機構を備えている場合、リセット機構の動作中は焦電センサの検知動作を無視することにより、リセット機構の動作による非検出、誤検出を解消できる。
【0076】
焦電センサの感度調整は、リセット機構の動作後限られた時間内においてのみ行い、リセット機構が動作しない通常時は焦電センサの感度を最大にするとよい。こうすれば、非検出がさらに低減される利点がある。