特許第5712430号(P5712430)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5712430交通流シミュレーション装置および交通流シミュレーション方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5712430
(24)【登録日】2015年3月20日
(45)【発行日】2015年5月7日
(54)【発明の名称】交通流シミュレーション装置および交通流シミュレーション方法
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/00 20060101AFI20150416BHJP
   G09B 9/00 20060101ALI20150416BHJP
   G06Q 50/30 20120101ALI20150416BHJP
   G06F 19/00 20110101ALI20150416BHJP
【FI】
   G08G1/00 C
   G09B9/00 Z
   G06Q50/30 100
   G06F19/00 110
【請求項の数】2
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2011-289185(P2011-289185)
(22)【出願日】2011年12月28日
(65)【公開番号】特開2013-137715(P2013-137715A)
(43)【公開日】2013年7月11日
【審査請求日】2013年10月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000153443
【氏名又は名称】株式会社 日立産業制御ソリューションズ
(74)【代理人】
【識別番号】100122884
【弁理士】
【氏名又は名称】角田 芳末
(72)【発明者】
【氏名】妹尾 哲也
(72)【発明者】
【氏名】永井 徹
(72)【発明者】
【氏名】高田 集
(72)【発明者】
【氏名】大沼 康明
【審査官】 近藤 利充
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−259158(JP,A)
【文献】 特開2001−076283(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00 − 99/00
G06F 19/00
G06Q 50/30
G09B 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シミュレーションの対象となる特定区間の道路についての道路構造データと交通流パラメータと交通量パラメータとに基づいて、交通流シミュレーションを行う交通流シミュレーション装置において、
前記道路構造データと前記交通流パラメータとに基づいて、前記特定区間の道路についてシミュレーションを行い、前記特定区間を通過する旅行時間から理想旅行時間を算出する仮想旅行時間演算部と、
前記仮想旅行時間演算部で得られた理想旅行時間と、前記特定区間の道路で実測した実旅行時間とから、実交通量に近似した需要交通量を推定し、その推定した需要交通量に基づいて、前記交通量パラメータを修正した更新交通量パラメータを取得する交通量パラメータ更新部と、
道路構造データと、交通流パラメータと、前記交通量パラメータ更新部で得た更新交通量パラメータとを使用して、交通流シミュレーションを行う交通流シミュレーション部と、
備え、
前記仮想旅行時間演算部は、
前記特定区間の道路についての道路構造データと交通流パラメータと仮想旅行時間演算データから試行シミュレーション実行用パラメータを作成する試行シミュレーションパラメータ作成部と、
前記試行シミュレーション実行用パラメータを元に交通流シミュレーションを試行する試行シミュレーション実行部と、
前記試行シミュレーション実行部で交通流シミュレーションを試行して得られた仮想旅行時間データを解析して理想旅行時間を特定する仮想旅行時間データ解析部と、
を備える交通流シミュレーション装置であり、
前記試行シミュレーション実行部で交通流シミュレーションを試行して得られた仮想旅行時間データで示される仮想交通量と旅行時間との関係をグラフで作成し、
作成された仮想交通量と旅行時間との関係を多項式で近似した近似曲線によるグラフで示し、そのグラフの中に、前記仮想旅行時間データ解析部が特定した理想旅行時間のラインを示し、
そのラインで示される理想旅行時間を、外部からの入力操作で修正できるようにした
交通流シミュレーション装置。
【請求項2】
シミュレーションの対象となる特定区間の道路についての道路構造データと交通流パラメータと交通量パラメータとに基づいて、交通流シミュレーションを行う交通流シミュレーション方法において、
仮想旅行時間演算部が、前記道路構造データと前記交通流パラメータとに基づいて、前記特定区間の道路についてシミュレーションを行い、前記特定区間を通過する旅行時間から理想旅行時間を算出する仮想旅行時間演算処理ステップと、
交通量パラメータ更新部が、前記仮想旅行時間演算処理で得られた理想旅行時間と、前記特定区間の道路で実測した実旅行時間とから、実交通量に近似した需要交通量を推定し、その推定した需要交通量に基づいて、前記交通量パラメータを修正した更新交通量パラメータを取得する交通量パラメータ更新処理ステップと、
交通流シミュレーション部が、道路構造データと、交通流パラメータと、前記交通量パラメータ更新処理で得た更新交通量パラメータとを使用して、交通流シミュレーションを行う交通流シミュレーション処理ステップとを含み、
前記仮想旅行時間演算部が行う前記仮想旅行時間演算処理は、
前記特定区間の道路についての道路構造データと交通流パラメータと仮想旅行時間演算データから試行シミュレーション実行用パラメータを作成する試行シミュレーションパラメータ作成処理ステップと、
前記試行シミュレーション実行用パラメータを元に交通流シミュレーションを試行する試行シミュレーション実行処理ステップと、
前記試行シミュレーション実行処理で交通流シミュレーションを試行して得られた仮想旅行時間データを解析して理想旅行時間を特定する仮想旅行時間データ解析処理ステップとを含む交通流シミュレーション方法であり、
前記仮想旅行時間演算部での前記試行シミュレーション実行処理で交通流シミュレーションを試行して得られた仮想旅行時間データで示される仮想交通量と旅行時間との関係をグラフで作成し、
作成された仮想交通量と旅行時間との関係を多項式で近似した近似曲線によるグラフで示し、そのグラフの中に、前記仮想旅行時間データ解析処理で特定した理想旅行時間のラインを示し、
そのラインで示される理想旅行時間を、外部からの入力操作で修正できるようにした
交通流シミュレーション方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、実測した旅行時間から需要交通量を推定する交通流シミュレーション装置および交通流シミュレーション方法に関する。
【背景技術】
【0002】
交通流シミュレーション装置は、実際の道路上で起こる渋滞現象を計算機上で再現し、信号機や道路構造の変更により渋滞改善策を立案することを目的としてシミュレーションを行い、その結果を評価するものである。特許文献1には、従来の交通流シミュレーション装置についての記載がある。
【0003】
シミュレーション装置でシミュレーションを行う手順は、シミュレーションの前提となる実際の道路上で起こる渋滞現象を再現するためのシミュレーションモデルを作成し、そのモデルに対して渋滞改善を図るためのパラメータ変更を行い、シミュレーション結果を得る流れである。
交通流シミュレーション装置を用いて評価を行う際には、対象地域の道路線形を入力し、車線数,行先などの道路構造データと、交通量,信号機などの交通流パラメータを入力する。そして、交通流シミュレーション装置は、これらの入力データに基づいてシミュレーションした結果を、例えば車両1台毎の挙動としてアニメーションで表示すると共に、シミュレーションで得られた渋滞長,通過時間などの情報を表示する。
【0004】
特許文献2には、特定区間における2地点間の旅行時間より、渋滞による遅れ時間を算出する手法についての記載がある。また、非特許文献1には、旅行時間から交通需要を推定した結果を元に、信号機を制御する手法についての記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−83044号公報
【特許文献2】特開2005−135282号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】一般社団法人交通工学研究会発行、第24回交通工学研究発表会論文報告集、第101頁〜第104頁(2004年10月)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の交通流シミュレーション装置でシミュレーションする際に使用する交通量パラメータとしては、観測値から取得した、交差点における停止線での車両の通過台数が用いられる。この通過台数は、交差点の信号機が青信号のときに通過できる最大の台数である交通容量が、ほぼ上限値となる。つまり、交差点の信号機が青信号のときに通過できる通過台数は、渋滞時に上限値に近い値となる。つまり、青信号における渋滞時の通過台数が、通過台数の上限値となり、交通容量はこの上限値とほぼ一致する。
このため、該当する道路で渋滞が発生すると、渋滞の長さがどの程度であっても、該当する交差点における通過台数の観測値が、上限値(交通容量)近傍の値になる。
【0008】
ところが、交通流シミュレーション装置で正確にシミュレーションするためには、渋滞により滞留している車両数も考慮する必要がある。滞留している車両数を考慮せずに、停止線での観測値をそのまま使用したシミュレーションモデルでは、現況の再現性が低いものとなる。
【0009】
従来、渋滞が発生している道路において、渋滞の影響のない正確な需要交通量を求めるためには、該当する道路の渋滞が発生していない上流で観測値を得る必要がある。しかしながら、渋滞が発生していない上流で需要交通量を求めるためには、事前に渋滞長を把握する必要があり、通過台数を観測するための作業コストが増大する。
【0010】
また、渋滞長を自動的に検出する手法として、カメラで道路を撮影して、その撮影した画像から渋滞長を検出する手法がある。しかしながら、このカメラを使用した手法の場合、1つの撮影画像から判別できる道路の渋滞状況には限度があり、渋滞状況によっては渋滞の最後尾が判らない可能性がある。したがって、従来の渋滞長の検出装置は、渋滞長の検出精度が高くないという問題があった。
【0011】
また、先に説明した特許文献2に記載されているように、特定区間における2地点間の旅行時間より、渋滞による遅れ時間を算出する手法も存在する。
【0012】
本発明は、渋滞している状態の道路から実測した旅行時間を使用して、信頼性の高いシミュレーションモデルを作成することが可能な交通流シミュレーション装置および交通流シミュレーション方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の交通流シミュレーション装置は、シミュレーションの対象となる特定区間の道路についての道路構造データと交通流パラメータと交通量パラメータとに基づいて、交通流シミュレーションを行うものである。
そして、本発明の交通流シミュレーション装置は、道路構造データと交通流パラメータとに基づいて、特定区間の道路についてシミュレーションを行い、特定区間を通過する旅行時間から理想旅行時間を算出する仮想旅行時間演算部と、仮想旅行時間演算部で得られた理想旅行時間と、特定区間の道路で実測した実旅行時間とから、実交通量に近似した需要交通量を推定し、その推定した需要交通量に基づいて、交通量パラメータを修正した更新交通量パラメータを取得する交通量パラメータ更新部と、道路構造データと、交通流パラメータと、交通量パラメータ更新部で得た更新交通量パラメータを使用して、交通流シミュレーションを行う交通流シミュレーション部を備える。
また、仮想旅行時間演算部は、特定区間の道路についての道路構造データと交通流パラメータと仮想旅行時間演算データから試行シミュレーション実行用パラメータを作成する試行シミュレーションパラメータ作成部と、試行シミュレーション実行用パラメータを元に交通流シミュレーションを試行する試行シミュレーション実行部と、試行シミュレーション実行部で交通流シミュレーションを試行して得られた仮想旅行時間データを解析して理想旅行時間を特定する仮想旅行時間データ解析部とを備える。
そして、試行シミュレーション実行部で交通流シミュレーションを試行して得られた仮想旅行時間データで示される仮想交通量と旅行時間との関係をグラフで作成し、作成された仮想交通量と旅行時間との関係を多項式で近似した近似曲線によるグラフで示し、そのグラフの中に、仮想旅行時間データ解析部が特定した理想旅行時間のラインを示し、そのラインで示される理想旅行時間を、外部からの入力操作で修正できるようにしたものである。
【0014】
また、本発明の交通流シミュレーション方法は、シミュレーションの対象となる特定区間の道路についての道路構造データと交通流パラメータと交通量パラメータとに基づいて、交通流シミュレーションを行うものである。
そして、本発明の交通流シミュレーション方法は、仮想旅行時間演算部が、道路構造データと交通流パラメータとに基づいて、特定区間の道路についてシミュレーションを行い、特定区間を通過する旅行時間から理想旅行時間を算出する仮想旅行時間演算処理ステップと、交通量パラメータ更新部が、仮想旅行時間演算処理で得られた理想旅行時間と、特定区間の道路で実測した実旅行時間とから、実交通量に近似した需要交通量を推定し、その推定した需要交通量に基づいて、交通量パラメータを修正した更新交通量パラメータを取得する交通量パラメータ更新処理ステップと、交通流シミュレーション部が、道路構造データと、交通流パラメータと、交通量パラメータ更新部で得た更新交通量パラメータとを使用して、交通流シミュレーションを行う交通流シミュレーション処理ステップを含む。
仮想旅行時間演算部が行う仮想旅行時間演算処理は、特定区間の道路についての道路構造データと交通流パラメータと仮想旅行時間演算データから試行シミュレーション実行用パラメータを作成する試行シミュレーションパラメータ作成処理ステップと、試行シミュレーション実行用パラメータを元に交通流シミュレーションを試行する試行シミュレーション実行処理ステップと、試行シミュレーション実行処理で交通流シミュレーションを試行して得られた仮想旅行時間データを解析して理想旅行時間を特定する仮想旅行時間データ解析処理ステップとを含む。
そして、仮想旅行時間演算部での試行シミュレーション実行処理で交通流シミュレーションを試行して得られた仮想旅行時間データで示される仮想交通量と旅行時間との関係をグラフで作成し、作成された仮想交通量と旅行時間との関係を多項式で近似した近似曲線によるグラフで示し、そのグラフの中に、仮想旅行時間データ解析処理で特定した理想旅行時間のラインを示し、そのラインで示される理想旅行時間を、外部からの入力操作で修正できるようにした。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、交通流シミュレーションを行う際に必要な交通量パラメータが、実交通量に近似して推定した需要交通量に基づいて修正された更新交通量パラメータになる。このため、本発明によると、特定区間の道路で実測した実旅行時間が、渋滞した道路による旅行時間であっても、渋滞の影響のない適正な交通流シミュレーションが行える効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施の形態による交通流シミュレーション装置の全体構成の例を示すブロック図である。
図2】本発明の一実施の形態による交通容量の計算に必要なデータとその計算例を示す説明図である。
図3】本発明の一実施の形態による仮想旅行時間演算用のデータベースの例を示す説明図である。
図4】本発明の一実施の形態による仮想旅行時間演算部の例を示す構成図である。
図5】本発明の一実施の形態によるシミュレーション処理全体の例を示すフローチャートである。
図6】本発明の一実施の形態による試行シミュレーションパラメータ作成部の処理の例を示すフローチャートである。
図7】本発明の一実施の形態による仮想交通量パラメータの例を示す説明図である。
図8】本発明の一実施の形態による試行シミュレーション実行部の処理の例を示すフローチャートである。
図9】本発明の一実施の形態による仮想旅行時間データベースの例を示す説明図である。
図10】本発明の一実施の形態による仮想旅行時間データベース解析部の処理の例を示すフローチャートである。
図11】本発明の一実施の形態による仮想旅行時間データベースの平均旅行時間と仮想交通量パラメータの関係の例をグラフ化して示す図である。
図12】本発明の一実施の形態による理想旅行時間を格納した仮想旅行時間データベースの例を示す説明図である。
図13】本発明の一実施の形態による平均旅行時間と仮想交通量、理想旅行時間のグラフの表示例を示す説明図である。
図14】本発明の一実施の形態による交通流パラメータ更新処理部の処理の例を示すフローチャートである。
図15】本発明の一実施の形態による旅行時間データベースの例を示す説明図である。
図16】本発明の一実施の形態による算出した遅れ時間の例を示す説明図である。
図17】本発明の一実施の形態による渋滞発生時の交通量パラメータデータベースの例を示す説明図である。
図18】本発明の一実施の形態によるシフト経過時間を計算した例を示す説明図である。
図19】本発明の一実施の形態による経過時間、シフト経過時間、累加台数の関係の例を示す説明図である。
図20】本発明の一実施の形態による経過時間、シフト経過時間、累加台数の関係の例をグラフ化して示す図である。
図21】本発明の一実施の形態による交通量パラメータ更新用データベースの例を示す説明図である。
図22】本発明の一実施の形態によるシフト経過時間と累加台数の関係を、近似曲線を使用してグラフで示す図である。
図23】本発明の一実施の形態による更新交通量パラメータデータベースの例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施の形態の例を、添付図面を参照して説明する。
[1.本発明が適用される交通流シミュレーション装置の概要]
本実施の形態の例の交通流シミュレーション装置は、シミュレーションの対象となる特定区間の道路についての道路構造データと交通流パラメータと交通量パラメータとに基づいて、交通流シミュレーションを行う交通流シミュレーション装置である。
【0018】
交通流シミュレーション装置が扱うそれぞれのデータの概要について説明すると、道路構造データは、シミュレーションを行う区間の道路についての距離,車線数,道路形状などの道路構造の詳細を示すデータである。
交通流パラメータは、シミュレーションを行う区間の道路の交通流を決める信号機に関するデータや、道路の制限速度のデータなどである。
交通量パラメータは、シミュレーションを行う区間の道路の単位時間当たりの通行台数などの交通量のデータである。これらのデータの具体的な例は後述する。
交通流シミュレーション装置は、これらのデータに基づいて、シミュレーションを行う区間の道路に車両を通行させた際の交通流がどのようになるかの交通流シミュレーションを行う。そして、シミュレーション作業を行う者は、シミュレーション上で発生している渋滞を改善するために、信号機や道路構造をどのように変更すれば良いかをシミュレーション結果から検証する。
【0019】
[2.交通流シミュレーション装置の構成例]
図1を参照して、本発明の一実施の形態の例の交通流シミュレーション装置の構成を説明する。交通流シミュレーション装置は、電子計算機とその周辺機器で構成され、図1ではデータの流れから見た交通流シミュレーション装置の構成を示す。
【0020】
図1に示す交通流シミュレーション装置は、入力データ編集部10を備える。入力データ編集部10は、交通流シミュレーションに必要な各種データが入力され、その入力されたデータを交通流シミュレーション装置内の各部に供給する。入力データ編集部10に入力されるデータには、データベース化されたデータなどを外部から受け取る場合と、操作者の操作により入力されるデータとがある。また、入力データ編集部10は、外部から受け取ったデータに対して、操作者の操作で修正や変更などの編集を行うことが可能である。
【0021】
交通流シミュレーション装置は、入力データ編集部10に入力したデータを格納するデータベース部として、道路構造データベース部21と、交通流パラメータデータベース部22と、交通量パラメータデータベース部23と、仮想旅行時間演算用データベース部24と、交通量パラメータ更新用データベース部25と、旅行時間データベース部26とを備える。
【0022】
道路構造データベース部21には、例えば図2(a)に示すように、シミュレーション対象となる区間の道路についての長さ,線形,勾配,車線数,車線数などの、交通流シミュレーションを行う上で必要な道路構造データが格納される。
交通流パラメータデータベース部22には、シミュレーション対象となる区間の道路上に存在する信号機や制限速度などの交通流を規定するパラメータデータが格納される。信号機についてのデータとしては、例えば図2(b)に示すように、信号が変化する周期を示す信号サイクルの時間と、1サイクルの間で青信号になる時間を示す有効青時間と、1周期内で青信号になる比率を示すスプリットなどのデータがある。
【0023】
また、交通量パラメータデータベース部23には、シミュレーション対象となる区間の道路について観測した交通量が格納される。観測した交通量の例は後述する。
【0024】
仮想旅行時間演算用データベース部24には、後述する仮想旅行時間演算部30で仮想旅行時間を演算する際に必要なデータが格納される。
図3は、仮想旅行時間演算用データベース部24に格納されるデータの例である。この例では、仮想旅行時間を演算する際に必要とされるデータには、理想旅行時間を求めるための試行回数と、試行時の最小混雑度と、試行ごとの混雑度の増加幅と、演算に使用する多項式と、理想旅行時間を判断する検索交通量と、理想旅行時間の判定時間がある。これらの仮想旅行時間を演算する際に必要なデータは、シミュレーションを行う区間の道路ごとに作成される。図3の例では、道路Aのデータと、道路Bのデータを示す。これらの理想旅行時間を演算する際に必要なデータを使用した演算処理の例については後述する。
【0025】
交通量パラメータ更新用データベース部25には、後述する交通量パラメータ更新部40で交通量パラメータを更新する際に必要なデータが格納される。
旅行時間データベース部26には、シミュレーション対象となる区間の道路を走行するのに要した実旅行時間の計測値(観測値)が格納される。
【0026】
また、交通流シミュレーション装置は、仮想旅行時間演算部30を備える。仮想旅行時間演算部30は、試行シミュレーションパラメータ作成部31と試行シミュレーション実行部32と仮想旅行時間データ解析部33とを備える。試行シミュレーションパラメータ作成部31は、シミュレーション対象となる区間の道路についてシミュレーションする上で必要なパラメータを作成する。試行シミュレーションパラメータ作成部31で作成するパラメータの具体的な例については後述する。そして、試行シミュレーション実行部32が、試行シミュレーションパラメータ作成部31で作成されたパラメータを使用して、試行シミュレーションを実行して仮想旅行時間の演算処理を行い、仮想旅行時間データを作成する。作成された仮想旅行時間データは、仮想旅行時間データベース部27に格納される。
【0027】
そして、試行シミュレーション結果を解析する仮想旅行時間データ解析部33が、仮想旅行時間データベース部27に格納された仮想旅行時間データの解析を行い、理想旅行時間を取得する。理想旅行時間は、シミュレーション対象となる区間の道路を、渋滞のない状態で走行するのに要する平均的な走行時間である。仮想旅行時間データ解析部33で得られた理想旅行時間のデータは、仮想旅行時間データベース部27に格納される。
【0028】
また、交通流シミュレーション装置は、交通量パラメータ更新部40を備える。この交通量パラメータ更新部40は、交通量パラメータデータベース部23に格納されている交通量の観測値を、シミュレーション用に更新された更新交通量パラメータに変換し、その変換された更新交通量パラメータを、更新交通量パラメータデータベース部28に格納する。
この更新交通量パラメータを得る際に、交通量パラメータ更新部40は、交通量パラメータ更新用データベース部25に格納されている交通量パラメータ更新用データと、旅行時間データベース部26に格納されている実旅行時間の計測値と、仮想旅行時間データベース部27に格納されている理想旅行時間のデータとを使用する。なお、具体的な更新交通量パラメータの取得処理は後述する。
【0029】
そして、交通流シミュレーション部50は、交通流シミュレーションを行う際に、更新交通量パラメータデータベース部28に格納されている更新交通量パラメータを使用する。また、交通流シミュレーション部50は、交通流シミュレーションを行う際に、道路構造データベース部21に格納されている道路構造データと、交通流パラメータデータベース部22に格納されている交通流パラメータのデータも使用する。
【0030】
そして、表示部60が、交通流シミュレーション部50が交通流シミュレーションした結果をアニメーションで表示する。表示部60でのアニメーション表示としては、例えば車両1台毎の挙動をアニメーションで表示する。また、表示部60は、アニメーションによる交通流シミュレーション結果の表示と共に、旅行時間や通行台数などのデータの表示を行う。
【0031】
[3.試行シミュレーションパラメータを作成する構成の例]
図4は、仮想旅行時間演算部30が備える試行シミュレーションパラメータ作成部31の構成例を示す図である。
試行シミュレーションパラメータ作成部31は、道路構造データベース部21に格納されている道路構造データと、交通流パラメータデータベース部22に格納されている交通流パラメータデータと、仮想旅行時間演算用データベース部24に格納されている仮想旅行時間演算用データとから、試行シミュレーションを行うための試行シミュレーションパラメータを作成する。試行シミュレーションパラメータ作成部31は、交通容量計算部31aと、仮想交通量パラメータ作成部31bと、試行シミュレーション用パラメータ保持部31cとを備える。
【0032】
そして、交通容量計算部31aは、道路構造データと交通流パラメータデータとを使用して、シミュレーション対象となる区間の道路についての交通容量を計算する。交通容量は、対象となる道路がどれだけの車両を通し得るかという、その道路が構造上有している能力である。具体的には、交通容量は、(単位時間当たりの通行台数)×(車線数)×(スプリット)の計算式で得る。
例えば、図2(c)に示した例は、図2(a)に示す道路構造データと、図2(b)に示す交通流データとを使用して、交通容量計算部31aが交通容量を計算した例である。この図2(c)の例では、1車線当たり1時間に2000台通行できる道路で、2車線有し、信号機のスプリットが66.7%のとき、交通容量が、1時間当たり約2666台になる。
但し、図2(c)に示した計算式は、簡単に交通容量を求める式であり、シミュレーション対象となる道路の道路構造パラメータや交通流パラメータによっては、図2(c)に示した計算式で得た値に、適切な補正係数を乗算して、交通容量を求める場合もある。
【0033】
交通容量計算部31aが交通容量を計算すると、仮想交通量パラメータ作成部31bが、その計算した交通容量と、仮想旅行時間演算用データベース部24に格納されている仮想旅行時間演算用データとを使用して、特定混雑度による仮想交通量パラメータを作成する。
そして、仮想交通量パラメータ作成部31bが作成した特定混雑度による仮想交通量パラメータと、道路構造データと交通流パラメータデータとを、試行シミュレーション用パラメータ保持部31cが保持する。
【0034】
[4.シミュレーション処理全体の例]
次に、図5を参照して、本実施の形態の例の交通流シミュレーション装置が行うシミュレーション処理の全体の流れを説明する。なお、図5のフローチャートは、全体の流れの概要を示し、それぞれのステップでの処理の詳細は、図6以降の図を参照して説明する。
まず、交通流シミュレーション装置の入力データ編集部10は、シミュレーションに必要なデータを取得する(ステップS11)。具体的には、入力データ編集部10は、シミュレーション対象となる区間の道路について、道路構造データと、交通流データと、観測値による交通量データと、仮想旅行時間演算用のデータと、交通量パラメータ更新用のデータとを取得する。そして、入力データ編集部10は、取得した各データを、道路構造データベース部21と、交通流パラメータデータベース部22と、交通量パラメータデータベース部23と、仮想旅行時間演算用データベース部24と、交通量パラメータ更新用データベース部25とに格納する。また、入力データ編集部10は、シミュレーション対象となる区間の旅行時間データを取得し、この旅行時間データを旅行時間データベース部26に格納する。
【0035】
これらのデータが揃うと、仮想旅行時間演算部30は、ステップS12〜S15の処理を行い、シミュレーション対象となる道路の理想旅行時間を取得する。すなわち、試行シミュレーションパラメータ作成部31が、試行シミュレーション用パラメータを作成する(ステップS12)。そして、試行シミュレーション実行部32が、試行シミュレーションを実行し(ステップS13)、試行シミュレーションの結果となる、交通量と平均旅行時間の関係を示す仮想旅行時間データベースを作成する(ステップS14)。仮想旅行時間データベースが作成されると、仮想旅行時間データ解析部33が仮想旅行時間データベースの解析を行い、理想旅行時間を取得する(ステップS15)。
【0036】
仮想旅行時間演算部30で理想旅行時間が取得されると、交通量パラメータ更新部40での処理に移り、交通量パラメータ更新部40が交通量パラメータの更新処理を行う(ステップS16)。そして、交通量パラメータ更新部40が、更新交通量パラメータデータベースを作成する(ステップS17)。
【0037】
次に、交通流シミュレーション部50が、更新交通量パラメータなどを使用して、現況再現を目的とした交通流シミュレーションを実行する(ステップS18)。そして、表示部60が、その交通流シミュレーションの結果となる、車両1台毎の挙動などをアニメーション表示し(ステップS19)、交通流シミュレーション処理を終了する。
【0038】
[5.仮想旅行時間演算部30での処理の例]
次に、図6のフローチャートを参照して、仮想旅行時間演算部30で試行シミュレーションを行う処理の例について説明する。
試行シミュレーションでは、交通量と旅行時間の関係を求めるために、任意の変化幅を持たせた複数の交通量パラメータにてシミュレーションを行う必要がある。この交通量パラメータを仮想交通量パラメータとする。仮想交通量パラメータは、渋滞が発生しない交通量から、渋滞により旅行時間の遅れが発生する交通量までを網羅する必要がある。
仮想交通量パラメータは混雑度を元に算出される。ここで混雑度とは、道路の込み具合を示す指標であり、交通量を交通容量で割った値である。つまり、混雑度は、交通量が交通容量より少ないとき1より小さな値となり、交通量が交通容量より多く渋滞が発生している状態のとき、1より大きな値となる。
【0039】
図6のフローチャートに従って説明すると、まず、仮想旅行時間演算部30内の試行シミュレーションパラメータ作成部31が、交通容量を計算する(ステップS21)。この交通容量の計算処理は、先に図2(c)を参照して説明した通りである。
そして、試行シミュレーションパラメータ作成部31が、計算で得た交通容量と、仮想旅行時間演算用データベース部24に格納されている対象道路の最小混雑度,混雑度の増加幅,試行回数を元に、仮想交通量パラメータを作成する(ステップS22)。ここで、仮想旅行時間演算用データベース部24に格納されている仮想旅行時間演算用データは図3に示したものである。なお、図7は、作成された仮想交通量パラメータの一例を示したものである。
【0040】
そして、試行シミュレーションパラメータ作成部31は、得られた道路構造データと交通流パラメータと仮想交通量パラメータとを、試行シミュレーションパラメータとし、試行シミュレーションパラメータの作成を完了する(ステップS23)。
【0041】
ここで、図7に示した仮想交通量パラメータについて説明する。図7に示した仮想交通量パラメータは、図2および図3に示した道路Aについて、仮想交通量パラメータを算出した例である。
道路Aの交通容量は、図2(c)に示したように、1時間当たり2666台である。そして、図3に示したように、道路Aの仮想旅行時間演算用データとして、試行回数10回,試行時の最小混雑度0.225,試行ごとの混雑度の増加幅0.225,演算に使用する多項式:5次多項式,理想旅行時間を判断する検索交通量200台,理想旅行時間の判定時間30秒が設定される。
【0042】
この条件で、道路Aについて試行シミュレーションパラメータ作成部31が作成した仮想交通量パラメータの例が、図7である。
図7に示すように、混雑度0.225から、増加幅0.225にて10回試行シミュレーションを行う場合であり、混雑度に基づいて、1時間当たりの仮想交通量が算出される。この図7の例では、1回シミュレーションを行う毎に、交通量が600台ずつ増えている。
【0043】
図8は、試行シミュレーション実行部32での試行シミュレーションの実行処理例を示す図である。
まず、試行シミュレーション実行部32は、1回の試行シミュレーションを実行し(ステップS31)、その試行シミュレーションで設定された仮想交通量での平均旅行時間を算出する。そして、試行シミュレーション実行部32は、その1回の試行シミュレーションの実行後に、その試行シミュレーションの実行回数が、仮想交通量パラメータの試行回数(図7)に到達したか否かを判断する(ステップS32)。この判断で、仮想交通量パラメータの試行回数に到達していない場合には、ステップS31に戻り、試行シミュレーション実行部32が、指示された混雑度の増加幅だけ混雑度を高い値にして、次の試行シミュレーションを実行する。
そして、ステップS32で指示された試行回数に到達したと判断したとき、各回の試行結果の平均旅行時間を、仮想旅行時間データベースとして出力する(ステップS33)。
【0044】
図9は、道路Aについての、仮想旅行時間データベースである、各試行回の仮想交通量での平均旅行時間の例を示す。道路Aは、先に説明したように交通容量が1時間当たり2666台であり、その交通量以下の仮想交通量での平均旅行時間は、それほど大きな変化はない。これに対して、交通量を超えた仮想交通量での平均旅行時間は、渋滞が発生するために、交通量が増えるほど長時間化する。
【0045】
仮想旅行時間データ解析部33は、この仮想旅行時間データベースを解析する。
図10のフローチャートは、仮想旅行時間データベースの解析処理例を示した図である。
まず、仮想旅行時間データ解析部33は、得られた仮想旅行時間データベースについて、仮想交通量と平均旅行時間との関係に対して、近似曲線を作成する(ステップS41)。このときの近似曲線は、仮想旅行時間演算用データベース部24に格納されるデータ(図3)で示された多項式から作成される。例えば図3に示した道路Aでは、5次多項式が指定され、この指定された5次多項式から近似曲線が作成される。図11は、道路Aについて、仮想交通量(横軸)に対する平均旅行時間(縦軸)を5次多項式で近似した近似曲線αで示したものである。
【0046】
図11の近似曲線αを得た後、仮想旅行時間データ解析部33は、最小混雑度での仮想交通量X1と、その仮想交通量X1での平均旅行時間Y1をこの近似曲線αから検出する(ステップS42)。
次に、仮想旅行時間データ解析部33は、仮想交通量X1に対して、仮想旅行時間演算用データベース部24の理想旅行時間検索交通量の台数を加算したものを、次に判断する仮想交通量X2とする。ここで加算する理想旅行時間検索交通量の台数は、例えば図3の道路Aの場合、200台である。そして、仮想旅行時間データ解析部33は、その仮想交通量X2における平均旅行時間Y2を、近似曲線から判断する(ステップS43)。
【0047】
次に、仮想旅行時間データ解析部33は、(平均旅行時間Y2)−(平均旅行時間Y1)と、理想旅行時間判定時間とを比較し、(平均旅行時間Y2)−(平均旅行時間Y1)の値が理想旅行時間判定時間より大きいか否かを判断する(ステップS44)。ここでの理想旅行時間判定時間は、例えば図3の道路Aの場合、30秒である。
ステップS44での判断で、(平均旅行時間Y2)−(平均旅行時間Y1)の値が理想旅行時間判定時間より大きくない場合、仮想旅行時間データ解析部33は、現在の仮想交通量X2の値を、仮想交通量X1の値に設定し(ステップS45)、ステップS43の処理に戻る。そして、仮想旅行時間データ解析部33は、さらに理想旅行時間検索交通量の台数を加算した仮想交通量X2を得、その新たな仮想交通量X2に対する平均旅行時間Y2を得る。
【0048】
そして、ステップS44での判断で、(平均旅行時間Y2)−(平均旅行時間Y1)の値が理想旅行時間判定時間より大きいと判断したとき、仮想旅行時間データ解析部33は、現在の仮想交通量X1に対する平均旅行時間Y1を理想旅行時間とし(ステップS46)、仮想旅行時間データベース部27に得られた理想旅行時間を格納する。また、表示部60は、仮想交通量と平均旅行時間との関係を示したグラフ上に、解析で得た理想旅行時間を表示する。表示部60がグラフや理想旅行時間を表示する際には、例えば仮想旅行時間演算部30で得たデータを、交通流シミュレーション部50内の試行シミュレーションデータ保持部51に供給する。そして、表示部60が、この試行シミュレーションデータ保持部51が保持したデータに基づいて、グラフや理想旅行時間を表示する。
【0049】
図11に示した仮想交通量と平均旅行時間との関係の近似曲線αの場合、図12に示すように、仮想交通量が2400台のときに(平均旅行時間Y2)−(平均旅行時間Y1)の値が判定時間の30秒を越え、ステップS44での判断条件を満たすようになる。したがって、仮想旅行時間データ解析部33は、仮想交通量2400台の1つ前の仮想交通量2200台のときの平均旅行時間2分18秒を理想旅行時間と判定する。なお、図12では、旅行時間を分と秒ではなく、小数点付きの分に換算した値で示す。
【0050】
図13は、図11に示した仮想交通量と平均旅行時間との関係から、図10のフローチャートに示した処理で得た理想旅行時間を、表示部60が表示した例である。
図13の例では、表示部60が表示する1つの表示ウィンドウ61が、道路Aの区間を図形で表示する。この例では、表示ウィンドウ61として、交差点から伸びた道路の線形を示す道路図形62を簡易的に表示し、その道路図形62中に、旅行時間を示す区間62aが判る表示を行う。
そして、表示部60が表示する別の表示ウィンドウ63が、仮想旅行時間のグラフを表示する。この仮想旅行時間のグラフは、図11に示した近似曲線αのグラフ中に、図10のフローチャートで解析して得た理想旅行時間βのライン(横線)を表示し、さらに、理想旅行時間の値(図11の例では2分18秒)を表示する。
【0051】
この図13に示すように、近似曲線αのグラフ中に理想旅行時間βのラインを表示することで、その表示を見た操作者は、解析で得た理想旅行時間が、適正な値であるか表示から判断できるようになる。
具体的には、理想旅行時間が、需要交通量が道路の交通容量以下でほぼ同じ値である状態の値に近いか否かが、表示から容易に判るようになる。
【0052】
そして、本実施の形態の例の交通流シミュレーション装置は、例えば操作者の操作で、入力データ編集部10に対して指示を行うことで、表示ウィンドウ63内の理想旅行時間βのラインの位置を修正することができる。この修正操作は、例えば交通流シミュレーション装置を構成する電子計算機に接続されたマウス装置により、表示部60に表示された理想旅行時間βのラインをドラッグして動かすことで、実行できる。あるいは、操作者が、理想旅行時間の値を直接キーボードなどで入力することで、入力データ編集部10に対して指示を行うようにしてもよい。
【0053】
[6.交通量パラメータ更新部40による更新処理の例]
次に、交通量パラメータ更新部40における交通量パラメータの更新処理について、図14のフローチャートを参照して説明する。
図14のフローチャートは、交通流シミュレーション装置の全体の処理の流れを示した図5のフローチャートのステップS16およびS17での処理の詳細を示したものである。
【0054】
まず、交通量パラメータ更新部40は、旅行時間データベース部26から取得したシミュレーション対象となる道路の観測値となる旅行時間データと、仮想旅行時間データベース部27から得た理想旅行時間との差から遅れ時間を算出する(ステップS51)。旅行時間データベース部26から取得した旅行時間データは、一定周期で取得した平均旅行時間の観測値である。この旅行時間データベース部26に格納される旅行時間データは、旅行時間測定対象となっている道路区間を実際に車両で走行した時間を計測して得た観測値の場合と、道路に設置された何らかの設備を利用して人手を介することなく得られる観測値の場合がある。
【0055】
図15は、道路Aの旅行時間データの例である。この図15の例では、観測開始から600秒経過する毎に、道路Aを車両が通過するのに要する時間の平均である平均旅行時間の観測値が示される。ここで、ステップS51では、道路Aの理想旅行時間が2分18秒であるとすると、2分18秒を超える平均旅行時間の観測値がある場合に、理想旅行時間と平均旅行時間の観測値との差を、遅れ時間とする。平均旅行時間が理想旅行時間と等しいか、あるいは平均旅行時間が理想旅行時間より短い場合には、遅れ無しとする。
【0056】
図16は、図15に示した道路Aの旅行時間データから遅れ時間を算出した例である。この図16の例では、観測開始から3000秒が経過したときに12秒の遅れ時間となって、渋滞が発生した状態である。そして、4200秒の経過時に最大の5分42秒の遅れ時間となり、6600秒の経過時に遅れ時間がなくなって、渋滞が解消した状態である。
【0057】
ステップS51での遅れ時間の算出が終了すると、交通量パラメータ更新部40は、交通量パラメータデータベース部23が保持した交通量パラメータデータに遅れ時間を反映させる(ステップS52)。
この交通量パラメータ更新部40による交通量パラメータデータに遅れ時間を反映させる具体例は、次のようにして行われる。
図17は、道路Aの交通量パラメータデータの例を示す。この図17の交通量パラメータデータは、図15に示した道路Aの旅行時間の観測値と同時に観測された通行台数の観測値である。図17に示すように、交通量パラメータデータでは、600秒毎の観測交通量(台数)と、観測開始からの累加台数とが示される。
この図17に示す交通量パラメータデータを取得し、600秒間隔の経過時間毎に、ステップS51で算出した遅れ時間がある場合に、経過時間から遅れ時間を減算したシフト経過時間を求める。つまり、(経過時間)−(遅れ時間)=(シフト経過時間)の演算を、それぞれの経過時間に対して行う。遅れ時間がないときは、経過時間がそのままシフト経過時間になる。
図18は、図17に示した交通量パラメータデータに対して、図16の遅れ時間を適用して、シフト経過時間を求めた例を示す。
さらに、図19は、交通量パラメータデータで示された累加台数と、経過時間およびシフト経過時間との関係を示した図である。
【0058】
ステップS52でのシフト経過時間が求まると、交通量パラメータ更新部40は、交通量パラメータデータで示された累加台数と、シフト経過時間との関係に対して、近似曲線を作成する(ステップS53)。すなわち、交通量パラメータ更新部40は、図20に示すように、横軸を観測開始からの経過時間、縦軸を観測開始から累加通過台数としたグラフ上に、累加通過台数とシフト経過時間で決まる点T21,T22,T23,T24,T25,T26を設定する。図20は、経過時間とシフト経過時間が相違する経過時間3000秒以降を示す。なお、図20に示す点T11,T12,T13,T14,T15,T16は、累加通過台数とシフトされていない経過時間との関係を示す。
【0059】
そして、交通量パラメータ更新部40は、図20に示す累加通過台数とシフト経過時間とによる点T21〜T26を結ぶ近似曲線を算出する。このときには、図21に示すように、交通量パラメータ更新用データベース部25が格納した、道路Aについての交通量パラメータ更新用データを取得して、算出を行う。図21の例では、交通量パラメータ更新用データで4次多項式が指示され、交通量パラメータ更新部40は4次多項式を使用した演算で近似曲線を行う。
図22は、交通量パラメータ更新部40が算出した近似曲線αshiftを示した図である。なお、遅れ時間が発生していない時間帯では、近似補間を行う必要がない。このため、近似曲線で得たデータ当該データに不正な影響が出ないようにするため、近似式で補間する領域は、図22の例のように遅れ時間が発生している範囲だけとするのが好ましい。
【0060】
ステップS53で近似曲線を作成すると、交通量パラメータ更新部40は、近似曲線から、元の経過時間時の交通量を算出し、その算出した交通量で、交通量パラメータを更新する(ステップS54)。そして、交通量パラメータ更新部40が、更新した交通量パラメータを更新交通量パラメータデータベース部28に格納し、交通量パラメータの更新処理を終了する(ステップS55)。
【0061】
図23は、道路Aについて取得した更新交通量パラメータデータの例である。
この図23は、更新交通量パラメータデータとして、600秒ごとの通過台数の値である更新交通量と、その累加台数とを示す。なお、更新交通量パラメータは、図21に示したような近似曲線から得た値であるので、小数点以下の値の取り方で、更新交通量の合計と累加台数とに若干の相違が出る可能性がある。
【0062】
このようにして更新交通量パラメータデータを得ることで、図1の交通流シミュレーション部50は、この更新交通量パラメータデータを使用した交通流シミュレーションを実行する。したがって、交通流シミュレーションとして、渋滞の影響を排除した精度の高いシミュレーションが可能になる。
【0063】
[7.効果]
以上説明したように、本発明の一実施の形態の例による交通流シミュレーション装置は、シミュレーション対象となる道路の理想旅行時間を求めることにより、シミュレーション対象となる日時に道路を通行する車両の旅行時間の観測値から遅れ時間が計算できる。これにより、大量の旅行時間データを解析することなく、遅れ時間を考慮した交通量パラメータを自動で取得可能となり、現況再現性の高いシミュレーションモデルを得ることが可能となる。
また、図13に示したように、仮想旅行時間データによるグラフと理想旅行時間の関係を表示することにより、得られた仮想旅行時間データと理想旅行時間が適切であるかを、シミュレーションを実行する作業者が確認できる。さらに、この確認で作業者が適切でないと判断した場合には、手動で理想旅行時間の修正が可能であるため、パラメータなどが適切でない場合にも容易に対処できる。
【0064】
[8.変形例]
なお、図1に示した交通流シミュレーション装置は、装置が実行する機能を判りやすく説明するために、データの流れから見た装置構成を示した。したがって、電子計算機とその周辺機器で実際に交通流シミュレーション装置を構成する場合には、各データベース部を共通の記憶部で構成してもよい。また、各データの処理を実行する演算部,更新部,シミュレーション部などについても、電子計算機が備える共通の演算処理実行部が、それぞれの処理を実行するようにしてもよい。
【0065】
また、上述した実施の形態の例で説明した処理方法をコンピュータ装置に実行させるプログラムを作成し、そのプログラムを汎用のコンピュータ装置に実装することで、図1に示した交通流シミュレーション装置と同様の機能を行うようにしてもよい。
【0066】
また、上述した実施の形態の例で、各図に示した値は一例であり、本発明の処理を行う上で、各パラメータは各図に示した値に限定されるものではない。例えば、図3に示した仮想旅行時間演算用データでは、理想旅行時間検索交通量を200台、理想旅行時間判定時間を30秒または20秒とし、近似式を5次多項式とした。これらは一例であり、シミュレーションを行う道路構造などに応じて、他の値としてもよい。
【符号の説明】
【0067】
10…入力データ編集部、21…道路構造データベース部、22…交通流パラメータデータベース部、23…交通量パラメータデータベース部、24…仮想旅行時間演算用データベース部、25…交通量パラメータ更新用データベース部、26…旅行時間データベース部、27…仮想旅行時間データベース部、28…更新交通量パラメータデータベース部、30…仮想旅行時間演算部、31…試行シミュレーションパラメータ作成部、31a…交通容量計算部、31b…仮想交通量パラメータ作成部、31c…試行シミュレーション用パラメータ保持部、32…試行シミュレーション実行部、33…仮想旅行時間データ解析部、40…交通量パラメータ更新部、50…交通流シミュレーション部、51…試行シミュレーションデータ保存部、60…表示部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図10
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