【実施例】
【0047】
以下、実施例をもとに本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0048】
[セラミックスコーティング(耐アルカリコーティング)]
以下の実施例1〜4並びに比較例1及び2には、ガラス繊維として、ガラスクロス(日東紡績株式会社製 WEA7628)を用いた。
【0049】
(実施例1)
メチルセロソルブ500mlにZrブトキシド及びアセチルアセトンを、それぞれ0.03Mとなるように溶解させた。この溶液にガラスクロスを浸漬し、取り出した後、100℃で5分間乾燥させ、セラミックスコーティングしたガラスクロスを得た。
【0050】
(実施例2)
メチルセロソルブ500mlにZrブトキシド及びアセチルアセトンを、それぞれ0.03Mとなるように溶解させた。この溶液にガラスクロスを浸漬し、取り出した後、200℃で5分間乾燥させ、セラミックスコーティングしたガラスクロスを得た。
【0051】
(実施例3)
メチルセロソルブ500mlにZrブトキシド、アセチルアセトン及び酢酸を、それぞれ0.03Mとなるように溶解させ、60℃で1時間、加熱還流した。室温まで冷却したこの溶液にガラスクロスを浸漬し、取り出した後、110℃で5分間乾燥させ、セラミックスコーティングしたガラスクロスを得た。
【0052】
(実施例4)
メチルセロソルブ500mlにZrブトキシド、アセチルアセトン及び酢酸を、それぞれ0.03Mとなるように溶解させ、60℃で1時間、加熱還流した。室温まで冷却したこの溶液にガラスクロスを浸漬し、取り出した後、200℃で5分間乾燥させ、セラミックスコーティングしたガラスクロスを得た。
【0053】
(比較例1)
ガラスクロスを110℃で5分間乾燥させ、試験サンプルを得た。
【0054】
(比較例2)
メチルセロソルブ500mlにZrブトキシドを0.03Mとなるように溶解させた。この溶液にガラスクロスを浸漬し、取り出した後、110℃で5分間乾燥させ、セラミックスコーティングしたガラスクロスを得た。
【0055】
[耐アルカリ性試験]
1NのNaOH水溶液を60℃に加温し、実施例1〜4並びに比較例1及び2で用意したガラスクロスを3時間又は5時間浸漬した。
所定時間浸漬した後、侵食の程度を、電子顕微鏡(×5000倍)でガラスクロス表面を観察して評価した。ガラス表面の凹凸の程度により、凹凸の少ないものから○、△、×として、3段階で評価した(表1)。
【表1】
【0056】
図1に、実施例3のガラスクロスをアルカリ溶液に5時間浸漬した後の電子顕微鏡写真を示す。ガラスクロス表面に凹凸はまったく見られず、アルカリによる侵食を受けていないと考えられる。
図2に、実施例1のガラスクロスをアルカリ溶液に5時間浸漬した後の電子顕微鏡写真を示す。ガラスクロス表面にわずかに凹凸が見られるが、アルカリによる侵食はほとんど受けていないと考えられる。
図3に、比較例1のガラスクロスをアルカリ溶液に5時間浸漬した後の電子顕微鏡写真を示す。ガラスクロス表面はほぼ全面に渡って強い凹凸を示しており、アルカリによって侵食されていた。
【0057】
[屈曲性評価]
ガラスクロスは、アルカリによる侵食によって屈曲性が低下する。そこで、耐アルカリ性試験後のガラスクロスについて、たるみ量(屈曲性)を測定して、耐アルカリ性を評価した。
【0058】
耐アルカリ性試験後の実施例1〜4並びに比較例1及び2のガラスクロスを、10mm×50mmの大きさに切断し、評価サンプルとした。ガラスクロスのたるみ量(屈曲性)は
図4に示す装置を用いて測定した。
【0059】
図4は、ガラス繊維のたるみ量(屈曲性)を測定する屈曲性測定装置の模式図である。
図4に示す屈曲性測定装置100は、台板10と、台板10上に垂直に伸びる支持棒20と、支持棒20の先端に設けられた天板30と、ハンドル21の操作により支持棒20に沿って上下に移動する可動ステージ40と、を備える。なお、支持棒20の側面には等間隔に目盛6が刻まれている。
【0060】
以下、屈曲性測定装置100を用いて、ガラスクロスのたるみ量(屈曲性)を測定する方法について説明する。まず、天板30と可動ステージ40の上面の位置を揃えた状態で、一端が天板30上に達するように、ガラスクロス1を天板30及び可動ステージ40上に置く。この場合、ガラスクロス1の一端は天板30上に載せ、他端上にはおもり2を載せる(
図4(a))。なお、天板30と可動ステージ40の接触点から、おもり2までの距離Dは30mmとした。また、おもりの重さは0.1gとした。
【0061】
次に、ハンドル21を回転させ、可動ステージ40を鉛直方向下方に移動させる。可動ステージ40の移動に追従して、可動ステージ40に接触しながら、ガラスクロス1は屈曲し始めるが(
図4(b))、ある程度可動ステージ40が下がると、ガラスクロス1はそれ以上屈曲することができなくなり、可動ステージ40から離れる。この時の可動ステージ40の移動距離を目盛6から読み取り、測定値をガラスクロスのたるみ量とする。
【0062】
表2に耐アルカリ試験後のガラスクロスのたるみ量をまとめた。なお、耐アルカリ性試験を行っていないガラスクロスのたるみ量は12mmであった。
【表2】
【0063】
耐アルカリ試験により、ガラスクロスの屈曲性が悪くなったため、比較例1のガラスクロスのたるみ量は2mmであった。一方、実施例3や実施例4のガラスクロスでは、アルカリ水溶液に5時間浸漬した後でも、7〜12mmのたるみ量を示した。耐アルカリ試験を行っていないガラスクロスのたるみ量が12mm程度であり、十分な耐アルカリ性が得られた。
【0064】
[セラミックスコーティング(耐アルカリコーティング)溶液濃度の検討]
以下の実施例5〜9及び比較例3において、ガラスクロス(日東紡績株式会社製 WEA7628)を基材として用いた。
メチルセロソルブ500mlにZrブトキシド、アセチルアセトン及び酢酸を、それぞれ0.03Mとなるように溶解させ、60℃で1時間、加熱還流した。この溶液を室温まで冷却した後、セラミックスコーティング(耐アルカリコーティング)溶液濃度の検討に用いた。
【0065】
(実施例5)
上述した溶液をそのまま用い(Zr濃度;0.03M)、ガラスクロスを浸漬し、取り出した後、110℃で5分間乾燥させ、セラミックスコーティングしたガラスクロスを得た。
【0066】
(実施例6)
上述した溶液を、メチルセロソルブで30倍に希釈した溶液(Zr濃度;0.001M)を調整し、30倍希釈溶液にガラスクロスを浸漬し、取り出した後、110℃で5分間乾燥させ、セラミックスコーティングしたガラスクロスを得た。
【0067】
(実施例7)
上述した溶液を、メチルセロソルブで40倍に希釈した溶液(Zr濃度;7.5×10
−4M)を調整し、40倍希釈溶液にガラスクロスを浸漬し、取り出した後、110℃で5分間乾燥させ、セラミックスコーティングしたガラスクロスを得た。
【0068】
(実施例8)
上述した溶液を、メチルセロソルブで50倍に希釈した溶液(Zr濃度;6.0×10
−4M)を調整し、50倍希釈溶液にガラスクロスを浸漬し、取り出した後、110℃で5分間乾燥させ、セラミックスコーティングしたガラスクロスを得た。
【0069】
(実施例9)
上述した溶液を、メチルセロソルブで300倍に希釈した溶液(Zr濃度;1.0×10
−4M)を調整し、300倍希釈溶液にガラスクロスを浸漬し、取り出した後、110℃で5分間乾燥させ、セラミックスコーティングしたガラスクロスを得た。
【0070】
(比較例3)
セラミックスコーティングしていないガラスクロスを対照として用いた。
【0071】
[耐アルカリ性試験]
1NのNaOH水溶液を60℃に加温し、実施例5〜9及び比較例3で用意したガラスクロスを2時間、3時間又は5時間浸漬した。
【0072】
[屈曲性評価]
ガラスクロスのたるみ量(屈曲性)を
図4に示した装置を用いて、前述の通り評価した。評価試験の結果を表3に示した。
【表3】
なお、セラミックスコーティング(耐アルカリコーティング)を施さず、耐アルカリ性試験を実施していないガラスクロスのたるみ量は8mmであった。
【0073】
セラミックスコーティングを施していないガラスクロスは、2時間の浸漬でアルカリにより侵されてしまい、屈曲性が悪くなった。Zrでセラミックスコーティングしたガラスクロスでは、コーティングに用いた溶液中のZr濃度が低くなるにつれ、耐アルカリ性能は劣ってくる傾向がみられた。Zr濃度が1.0×10
−4Mのとき、ほぼ耐アルカリ性の効果が見られなくなった。また、アルカリ水溶液への浸漬が5時間のときでも、Zr濃度を0.001M以上でセラミックスコーティングしたガラスクロスは、屈曲性にほとんど変化はなく、充分な耐アルカリ性能が得られた。
【0074】
[他のキレート剤の検討]
以下の実施例10及び比較例4において、ガラスクロス(日東紡績株式会社製 WEA7628)を基材として用いた。
メチルセロソルブ500mlにZrブトキシド、エチレンジアミン及び酢酸を、それぞれ0.03Mとなるように溶解させ、60℃で1時間、加熱還流した。この溶液を室温まで冷却した後、セラミックスコーティング(耐アルカリコーティング)に用いた。
【0075】
(実施例10)
上述した溶液をそのまま用い(Zr濃度;0.03M)、ガラスクロスを浸漬し、取り出した後、110℃で5分間乾燥させ、セラミックスコーティングしたガラスクロスを得た。
【0076】
(比較例4)
セラミックスコーティングしていないガラスクロスを対照として用いた。
【0077】
[耐アルカリ性試験]
1NのNaOH水溶液を60℃に加温し、実施例10及び比較例4で用意したガラスクロスを2時間、3時間又は5時間浸漬した。
【0078】
図5に、実施例10のガラスクロスをアルカリ溶液に5時間浸漬した後の電子顕微鏡(×5000倍)写真を示す。ガラスクロス表面に凹凸は見られず、アルカリによる侵食をほとんど受けていないと考えられる。
【0079】
[屈曲性評価]
ガラスクロスのたるみ量(屈曲性)を
図4に示した装置を用いて、前述の通り評価した。評価試験の結果を表4に示した。
【表4】
なお、セラミックスコーティング(耐アルカリコーティング)を施さず、耐アルカリ性試験を実施していないガラスクロスのたるみ量は8mmであった。
【0080】
実施例10のガラスクロスは、アルカリ水溶液に5時間浸漬しても7.5mmのたるみ量を示した。耐アルカリ試験を行っていないガラスクロスのたるみ量と遜色なく、十分な耐アルカリ性が得られた。すなわち、キレート剤としてエチレンジアミンを用いた場合にも、ガラス繊維に充分な耐アルカリ性能を付与できる。