【実施例】
【0045】
(実施例1:新規デヒドロジンゲロン誘導体の生成方法検討)
デヒドロジンゲロン(和光純薬工業(株)製)100mg、p−クマル酸(和光純薬工業(株)製)100mgをエタノール2mLに溶解し、(1)ミネラルプレミックス(田辺製薬(株)製)100mg、水2mL(2)ミネラルウォーター(商品名「ゲロルシュタイナー」サッポロ飲料(株)製)2mL、(3)5%炭酸水素ナトリウム(和光純薬(株)製)水溶液2mLをそれぞれ加えて、デヒドロジンゲロン、p−クマル酸含有溶液(pH:(1)5.0、(2)4.8、(3)7.4)を3種類調製した。このデヒドロジンゲロン、p−クマル酸含有溶液をオートクレーブ(三洋電機(株)製、「SANYO LABO AUTOCLAVE」)にて130℃、30分間加熱した。得られた3種類の反応溶液からそれぞれ1mLを採取して、メタノールにて50mLにメスアップし、このうちの10μLをHPLCにより分析した。
【0046】
HPLC分析は以下条件にて行った。
カラム:逆相用カラム「Develosil(登録商標)C−30−UG−5」(4.6mmi.d.×250mm)
移動相:A・・・H
2O(0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)), B・・・アセトニトリル(0.1%TFA)
流速:1mL/min
注入:10μL
検出:254nm
勾配(容量%):100%A/0%Bから0%A/100%Bまで33分間、100%Bで7分間(全て直線)
【0047】
得られたクロマトグラムを
図1に示す。上から、反応前、(1)、(2)、(3)の反応溶液のクロマトグラムをそれぞれ示している。反応後には、デヒドロジンゲロンやp−クマル酸以外のピークが検出され、複数の化合物が生成されていることが確認された。
反応前後で生成量に顕著な差があったのが、後述する新規デヒドロジンゲロン誘導体であるAのピークである。なお、(1)、(2)、(3)の反応溶液のすべてでAのピークが確認できた。しかし、Aのピーク成分の生成量の差があった。特に、(3)の反応液において、生成量が多いことから、金属塩の中でも炭酸水素ナトリウムのような水溶液や懸濁液がアルカリ性を示す金属塩の方が新規デヒドロジンゲロンの生成量が増えることが明らかになった。
【0048】
(実施例2:新規デヒドロジンゲロン誘導体の大量生成)
デヒドロジンゲロン1g、p−クマル酸1gをエタノール20mLに溶解し、5%炭酸水素ナトリウム水溶液20mLを加えて、デヒドロジンゲロン、p−クマル酸含有溶液(pH=7.4)を得た。このデヒドロジンゲロン、p−クマル酸含有溶液をオートクレーブにて130℃、120分間加熱した。得られた反応溶液のうち1mLをメタノールにて50mLにメスアップし、実施例1と同様にHPLCにより分析し、実施例1と同様のクロマトグラムが確認できた。
【0049】
(実施例3:新規デヒドロジンゲロン誘導体の単離・構造決定)
実施例2で得られた反応物のうち、
図1のAで示したピークに含まれる化合物を分取HPLCにより単離し、常法により乾燥したところ新規化合物(以下UHA1029)を108.4mg得た。単離精製したUHA1029は、褐色粉末状物質となった。
【0050】
次いで、前記UHA1029の分子量を高分解能電子イオン化質量分析法(Electron Ionization−Mass Spectrometry)にて測定したところ、測定値は312.3593であり、理論値との比較から、以下の分子式を得た。
理論値C19H20O4(M
+):312.3597
分子式C
19H
20O
4
【0051】
次に、前記UHA1029を核磁気共鳴(NMR)測定に供し、1H−NMR、13C−NMR及び各種2次元NMRデータの解析から、前記UHA1029が式(1)で表される構造を有することを確認した。式(1)で表される新規デヒドロジンゲロン誘導体は本発明の方法で効率的に生成できることが示された。
【0052】
NMR測定値について、UHA1029を
【0053】
【化3】
【0054】
として、その
1H核磁気共鳴スペクトル、
13C核磁気共鳴スペクトルを表1に示す。
値はδ、ppmで、溶媒はメタノール−d
3で測定した。
【0055】
【表1】
【0056】
また、UHA1029の物理化学的性状は、以下のようになった。
(性状)
褐色粉末
(溶解性)
水:難溶
メタノール:溶解
エタノール:溶解
DMSO:溶解
クロロホルム:溶解
酢酸エチル:溶解
【0057】
(実施例4:UHA1029のヒト骨髄球性白血病細胞に対する抗癌作用)
次に癌細胞に対する各化合物の効果を見るため、HL−60細胞(Human promyelocytic leokemia cells:ヒト骨髄球性白血病細胞)を用いた癌細胞増殖抑制作用について試験した。
【0058】
HL−60細胞の培養には、4mMグルタミン(L−Glutamine シグマアルドリッチジャパン社製)、10%ウシ胎児血清(Foetal Bovine Serum:FBS Biological industries社製)を含む高栄養培地RPMI−1640(シグマアルドリッチジャパン社製)を使用した。試験には細胞培養用96ウェルプレート(Corning社製)を用い、5×10
5cells/mLとなるように細胞数を調整したHL−60細胞を1ウェルあたり100μLずつ播種して試験に使用した。
【0059】
試料は、p−クマル酸、デヒドロジンゲロン及び本発明品であるUHA1029の3種類を用いた。試料調製は、各々の化合物をジメチルスルホキシド(Dimethyl sulfoxide:DMSO、和光純薬工業(株)製)にて溶解し、HL−60細胞培養液中の最終濃度がそれぞれ6.3μM、12.5μM、25μM、50μM、及び100μMとなるように添加して、37℃、5%CO
2の培養条件下で試験を開始した。なお、溶媒であるDMSOのみを同量添加したものをネガティブコントロールとした。
【0060】
生存細胞数の定量はCell counting kit−8(DOJINDO社製)を用いたMTT法にて行った。つまり、試験開始より24時間後、各ウェルにCell counting kit−8溶液を10μL添加し、よく攪拌した。37℃、5%CO
2条件下で1時間の遮光反応を行った。その後にプレートリーダー(「BIO−RAD Model 680」、バイオ・ラッドラボラトリーズ社製)を用いて測定波長450nmの吸光度測定を行い、得られたデータをもとに細胞生存率を算出した。細胞生存率とは、溶媒であるDMSOのみを添加した培養液の生存細胞数を100%とし、各化合物の濃度下における細胞の生存細胞数を相対値として算出した値である。各化合物濃度と細胞生存率の関係から、細胞増殖を50%抑制する濃度IC
50(half maximal inhibitory concentration:50%阻害濃度)を算出した(表2)。これらの結果から、UHA1029に強い癌細胞増殖抑制能が認められた。この効果は、p−クマル酸、デヒドロジンゲロンには全く認められなかった。したがってp−クマル酸とデヒドロジンゲロンを新規デヒドロジンゲロン誘導体に変換する高い有意性が示された。
【0061】
【表2】
【0062】
(実施例5:UHA1029のヒト口腔癌細胞に対する抗癌作用)
次に口腔癌細胞に対する各化合物の効果を見るため、SCC−4細胞(ヒト舌扁平上皮癌細胞、ATCC社製)を用いた癌細胞増殖抑制作用について試験した。
【0063】
SCC−4細胞の培養には、400ng/mLヒドロコルチソン(Hydrocortisone、シグマアルドリッチジャパン社製)、1%アンチバイオティック−アンチマイコティック(Antibiotic−Antimycotic、ギブコ(GIBCO)社製)、10%FBS(ATCC社製)を含むDMEM/F−12(1:1)培地(ギブコ社製)を使用した。試験には細胞培養用コラーゲンIコート96ウェルプレート(日本BD社製)を用い、5×10
5cells/mLとなるように細胞数を調整したSCC−4細胞を1ウェルあたり100μLずつ播種した。これを37℃、5%CO
2条件下で24時間培養し、80%コンフルエント以上の状態で試験に使用した。
【0064】
試料は、p−クマル酸、デヒドロジンゲロン、SCC−4細胞に抗癌活性を有する天然物であるルテオリン(和光純薬工業(株)製)、及び本発明品であるUHA1029の4種類を用いた。試料調製は、各々の化合物をDMSOにて溶解し、0.63mM、1.25mM、2.5mM、5mM、10mMとなるように調製した。これをSCC−4細胞培養液中の最終濃度がそれぞれ6.3μM、12.5μM、25μM、50μM、及び100μMとなるように添加して37℃、5%CO
2培養条件下で試験を開始した。なお溶媒であるDMSOのみを同量添加したものをネガティブコントロールとした。
【0065】
生存細胞数の定量は、実施例4と同様に、「Cell counting kit−8」を用いたMTT法にて行った。つまり、試験開始より48時間後、各ウェルにCell counting kit−8溶液を10μL添加して、よく攪拌した。37℃、5%CO
2条件下で1時間の遮光反応後にプレートリーダーを用いて測定波長450nmの吸光度測定を行い、得られたデータをもとに細胞生存率を算出した。各化合物濃度と細胞生存率の関係から、細胞増殖を50%抑制する濃度IC
50を算出した(表3)。これらの結果から、UHA1029のIC
50が最も低かったことから、強い口腔癌細胞増殖抑制能が認められた。この口腔癌細胞増殖抑制能は、p−クマル酸及びデヒドロジンゲロンには全く認められず、さらにルテオリンよりも高い活性を示した。したがってp−クマル酸とデヒドロジンゲロンを新規デヒドロジンゲロン誘導体に変換する高い有意性が示された。
【0066】
【表3】
【0067】
(実施例6:加熱温度によるUHA1029の生成量の違い)
デヒドロジンゲロン100mg、p−クマル酸100mg、エタノール2mL、5%炭酸水素ナトリウム水溶液2mLの混合溶液(pH=7.4)を、オートクレーブにて70℃、90℃、110℃、130℃の各温度条件で20分間加熱した。それぞれの温度条件で得られた反応後組成物1mLをメタノールにて50mLにメスアップし、実施例1と同様にHPLCにより分析した。
【0068】
その結果、90℃以上でUHA1029の生成は確認できた。デヒドロジンゲロン及びp−クマル酸の合計量からの生成比率(重量%)は、70℃が非生成、90℃が極微量、110℃が1%、130℃が5%となり、130℃での加熱がもっとも多くUHA1029が生成していた。
【0069】
(実施例7:UHA1029含有エキスの調製)
生姜パウダー(デヒドロジンゲロン原料)10g、プロポリス抽出エキス(p−クマル酸原料)10g、エタノール10mL、5%重曹水溶液を10mL加えて調製した混合溶液を、オートクレーブにて130℃、60分間加熱した。得られた反応溶液を減圧加熱させて乾固し、UHA11029含有エキスを23g得た。得られたUHA1029エキス23g中には、実施例3と同様の手法で確認したところUHA1029が0.012g含有されていた。必要に応じてこのUHA1029含有エキスの調製作業を繰り返した。
【0070】
(実施例8:UHA1029を含有する食品)
実施例7で得たUHA1029含有エキス1gをあらかじめ100mLのエタノールに溶解させ、これに砂糖500g、水飴400gを混合溶解し、生クリーム100g、バター20g、練乳70g、乳化剤1.0gを混合した後、真空釜にて−550mmHg減圧させ、115℃の条件下で濃縮し、水分値3.0重量%のミルクハードキャンディを得た。このミルクハードキャンディは、菓子として食べ易いものであることはもちろん、癌患者における癌の拡散のリスクを低減したり、癌の発症のリスクを低減したり、癌の予防を期待した機能性食品としても利用できる。
【0071】
(実施例9:UHA1029を含有する医薬品)
実施例2,3と同様の方法で得たUHA1029をエタノールに溶解し、これを微結晶セルロースに添加して吸着させた後に、減圧乾燥させた。この吸着物を用いて常法に従い、打錠品を得た。処方は、UHA1029を10重量部、コーンスターチ23重量部、乳糖12重量部、カルボキシメチルセルロース8重量部、微結晶セルロース32重量部、ポリビニルピロリドン4重量部、ステアリン酸マグネシウム3重量部、タルク8重量部の通りである。本打錠品は、癌、特に口腔癌の治癒を目的とする医薬品として有効に利用できる。
【0072】
(実施例10:UHA1029を含有する医薬部外品)
実施例2、3の方法で得たUHA1029 1.2gを10mLのエタノールに溶解し、タウリン20g、ビタミンB1硝酸塩0.12g、安息香酸ナトリウム0.6g、クエン酸4g、砂糖60g、ポリビニルピロリドン10gを全て精製水に溶解させ、1000mLにメスアップした。なお、pHは、希塩酸を用いて3.2に調整した。得られた溶液1000mLのうち50mLをガラス瓶に充填し、80℃で30分間滅菌して、医薬部外品であるドリンク剤を完成させた。本ドリンク剤は、栄養補給の目的に加えて、癌患者における癌の拡散のリスクを低減したり、癌の発症のリスクを低減したり、癌の予防を目的とする医薬部外品として有効に利用できる。