(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記工程3における前記水性共重合体エマルションの平均滞留時間が30分間〜8時間であることを特徴とする請求項1または2に記載の水性共重合体エマルションの製造方法。
前記工程3において、前記水性共重合体エマルションの液温を40〜95℃、かつ処理槽内の気相部の圧力を水が沸騰する圧力に維持しながら水蒸気を供給し、当該水蒸気と共に揮発性有機化合物を蒸発させることにより揮発性有機化合物を除去することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の水性共重合体エマルションの製造方法。
処理槽より抜き出した前記水性共重合体エマルションにおいて、ホルムアルデヒドを除く揮発性有機化合物が50ppm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の水性共重合体エマルションの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、エマルションに水蒸気を吹き込み、当該エマルション中の揮発性有機化合物を除去する低臭気水性共重合体エマルションの製造方法に関する。
以下、本発明について詳しく説明する。尚、本願明細書においては、アクリル酸及び/又はメタクリル酸を、(メタ)アクリル酸と表す。
【0013】
本発明における水性共重合体エマルションは、水系媒体中にアクリル樹脂、酢ビ樹脂、スチレン樹脂及びアクリル/スチレン樹脂等の各種共重合体が乳化分散されたものであり、本発明では当該水系共重合体エマルションに水蒸気を吹き込むことにより、エマルション中に存在する揮発性有機化合物が除去される。ここで、揮発性有機化合物としては未反応原料単量体、重合体構成単位の分解等による副生物、及び原料不純物等が挙げられる。
また、本発明では、揮発性有機化合物の除去は少なくとも以下の工程を含む方法により行われる。
工程1:除去処理前の水性共重合体エマルションを、液温40℃未満で保管する工程。
工程2:当該エマルションの液温を予め40℃以上に加熱する工程。
工程3:当該予備加熱されたエマルションを処理槽に連続的に供給し、同槽内に貯えられた当該エマルションに水蒸気を吹き込み、当該水蒸気とともに揮発性有機化合物を除去した後、供給速度と等速で当該エマルションを抜き出す工程。
以下、各工程について具体的に説明する。
【0014】
<工程1>
本発明では、重合反応器で製造された水性共重合体エマルションは別途設置する処理槽に送液された後、水蒸気が吹き込まれることにより揮発性有機化合物が除去される。工程1は重合反応により水性共重合体エマルションを得た後、水蒸気の吹込み処理を行うまでの間、槽またはタンク等の容器に当該水性共重合体エマルションを保管する工程である。ここで、本工程ではエマルションの液温を40℃未満とすることが必要であり、35℃以下とすることが好ましく、30℃以下とすることが更に好ましい。液温が40℃以上の場合、加水分解反応によりアルコール類が副生し、系中の揮発性有機化合物量が増加する。これにより、当該揮発性有機化合物の低減に長時間を要することとなる。さらに、エマルションの種類によっては液中のホルムアルデヒド濃度が増加する場合がある。
【0015】
重合反応により水性共重合体エマルションを製造した場合、一般的には適当な温度まで冷却した後に反応器から次工程の槽または製品タンク等に送液される。ただし、実製造の場面においては、生産性の観点からエマルションが十分冷却される前に反応器より送液される場合も少なくない。工程1の期間は生産条件等にもよるが概ね数時間〜数日間であり、エマルションが保管される槽またはタンク等は比較的断熱性が良いため、当該エマルションは長時間に渡り高い温度が維持され、結果として系中の揮発性有機化合物量が増加してしまう。このため、反応器から送液前若しくは送液後速やかにエマルションの液温を40℃未満に冷却する必要がある。
【0016】
<工程2>
本工程は、工程1において保管されていたエマルションに水蒸気を吹き込む前に、予め当該エマルションの液温を40℃以上に加熱する(以後、「予備加熱」ともいう)工程である。本工程を行う理由は、予備加熱していないエマルションを工程3に供給すると、当該工程3の処理槽のジャケット温度等を高く設定する必要が生じるためエマルションの凝集や皮貼りが発生し、エマルションの安定性の低下や粒子径の増大、ラインの閉塞、処理時間の増加及び脱臭能力の減少等を引き起こすためである。
ここで、予備加熱の温度は40〜95℃の範囲が好ましく、より好ましくは40〜80℃の範囲であり、さらに好ましくは45〜75℃の範囲である。予備加熱温度が40℃未満の場合、工程3の処理槽におけるジャケット等の加熱温度を高くする必要が生じ、上記したエマルションの凝集や皮貼り等の不具合が発生し易くなる。一方、95℃を超えると本工程(工程2)における装置壁面等に重合体被膜が発生し、温度コントロールができなくなる恐れがある。また、エマルション中の揮発性有機化合物量が増加する場合があるため好ましくない。
【0017】
本工程における加熱には、加熱処理容器を用いたバッチ処理や、熱交換器を用いたライン加熱による連続処理を用いることができる。
加熱処理容器を使用する場合は、少なくとも攪拌機、温度計(熱電対)を備えることが好ましく、脱泡のための脱気装置を備えることがより好ましい。また、水蒸気吹き込み口を備えることにより、当該容器においても予備的な水蒸気処理(予備脱臭)が可能な設備にすることがさらに好ましい。当該加熱処理容器で予備脱臭をする場合、エマルション中の揮発性有機化合物の濃度を後記の工程3に供給する前において500ppm以下とすることが、当該工程3で効率よく脱臭するために好ましい。さらに好ましくは300ppm以下である。
一方、熱交換器を使用する場合はその種類に特に制限はなく、二重管式、プレート式及びスパイラル式等の公知の熱交換器を用いることができる。
上記の予備加熱方法の中では、エマルションへの熱履歴を抑えられ、生産性も良好である点から熱交換器を用いたライン加熱による連続処理が好ましい。
【0018】
工程2に熱交換器を採用する場合、エマルションの予備加熱温度および処理量等から適当な伝熱面積を有する熱交換器を設置することができる。ここで、予備加熱の時間が長すぎると分解反応等による揮発性有機化合物量の増加が懸念されるため、本工程に要する時間は1〜30分間であることが好ましく、1〜15分間であることがより好ましい。
【0019】
<工程3>
本発明では、予備加熱後のエマルションは配管を通って工程3に送られる。工程3では、工程2で加熱したエマルションを連続的に脱臭処理槽に供給し、水蒸気を供給して本格的な脱臭処理を行いながら供給量と同量のエマルションを連続的に抜き出す。
以下に工程3の条件を具体的に述べる。
工程3において処理槽内に水蒸気を導入する際には、槽内のエマルション中に直接吹き込むことが好ましい。これによりエマルションの粒子を破壊せずに、当該粒子中の揮発性有機化合物を効率よく除去することができる。
本工程では、槽内のエマルション中に水蒸気を吹き込み、これによって分離した揮発性有機化合物及び供給分と等量の水蒸気を系外に除去する。このためには、処理槽には排気ポンプが備えてあり、当該ポンプで処理槽の上部の気相部より排気して減圧にすることが好ましい。排気される揮発性有機化合物及び水蒸気の除去方法は、特に限定されないが、処理槽と排気ポンプの中間の位置に設けられるコンデンサーで凝縮して除去することが好ましい。
【0020】
工程3において処理槽内のエマルションは、水蒸気処理の期間一定の温度を維持するために、加温用ジャケットで加熱される。かかる際の処理槽内の温度は40〜95℃に設定するのが好ましい。より好ましい温度は40〜80℃であり、さらに好ましくは45〜75℃である。槽内温度が95℃を超えると槽内壁面に大量の重合体皮膜が発生し、槽内の温度が不均一になって温度コントロールができなくなる。これによりエマルションの分散安定性が破壊されて品質低下や固形分低下を生ずる。また、エマルション中の揮発性有機化合物量が増加する場合もある。一方、槽内温度が40℃未満であると、揮発性有機化合物の除去効率が低下して臭気を除くことができなくなる場合があるために好ましくない。
【0021】
本発明においては、前記のように、水蒸気処理中に処理槽内の気体を排気ポンプで系外に排気することにより、上記の槽内温度において槽内が飽和水蒸気圧すなわち槽内の水分が沸騰している状態となるようにすることが好ましい。処理槽内の気相部の具体的な圧力は7kPa〜85kPaの範囲が好ましく、12kPa〜47kPaの範囲がより好ましい。
この水蒸気の好ましい割合は、当該処理槽に供給するエマルション100質量部に対し5〜60質量部である。更に好ましい割合は、エマルション100重量部に対し10〜50質量部である。水蒸気としては、圧力150kPa〜1,000kPa、温度110〜180℃程度の飽和水蒸気が好ましく使用できる。
水蒸気の量が多量になるとコストが高くなり実用的でなく、一方、水蒸気の量が少なすぎると揮発性物質の除去が困難になる。
【0022】
工程3において当該処理槽の内容積に対してエマルションの供給量を選択することにより、エマルションの平均滞留時間(以下、滞留時間という)を適宜選択することができる。工程3におけるエマルションの滞留時間は30分〜8時間が好ましく、より好ましくは2〜6時間である。滞留時間が8時間を越えると、長時間加熱されることによりエマルションの実用性能が低下したり、分解反応等による副生物が増加する場合がある。一方、滞留時間が30分未満では、揮発性有機化合物の除去が不十分になる場合がある。
【0023】
本発明においては、処理後におけるエマルション中のホルムアルデヒドを除く揮発性有機化合物の濃度が50ppm以下となるように水蒸気処理を行うのが好ましい。かかる処理によってもなお該エマルション中に残留する揮発性有機化合物の量は、ガスクロマトグラフィーを用いて分析することができる。当該エマルション中の揮発性有機化合物の濃度は30ppm以下がより好ましく、10ppm以下が更に好ましい。揮発性有機化合物の濃度を50ppm以下とすることにより、前述の各種用途に用いられた際においても臭気を感じることなく使用することが可能となる。
【0024】
工程3においては、特に水蒸気処理中の発泡を抑えるために消泡剤を適量使用してもよい。消泡剤の種類は特に限定はなく、例えばサンノプコ社製、商品名SNデフォーマーPC等のポリエーテル系消泡剤およびシリコーン系消泡剤等が挙げられる。
【0025】
本発明では、上記工程3に供給されるエマルション中に含まれる揮発性有機化合物の濃度は500ppm以下であることが好ましく、300ppm以下であることがさらに好ましい。ここで、揮発性有機化合物濃度が異なる2種類のエマルションに本発明で記載する方法に従って水蒸気を吹き込んだ際の、水蒸気吹込み時間と揮発性有機化合物の残存量との関係を
図1に示す。図から明らかなように、水蒸気を吹き込む前のエマルション中に含まれる揮発性有機化合物濃度が低い方が、当該水蒸気処理により揮発性有機化合物濃度を効果的に低減することができる。
【0026】
工程3に供給されるエマルション中に含まれる揮発性有機化合物の濃度を上記数値以下とすることは、重合温度、重合時間、並びに開始剤の種類や量等の各種重合条件を選択することにより未反応単量体の低いエマルションを得た後、本発明の工程1および工程2を経ることにより可能となる。また、上述した通り、工程2において予備脱臭を行うことにより揮発性有機化合物濃度を上記数値以下に調整することも可能である。
【0027】
本発明の水系共重合体エマルションは、エチレン性不飽和単量体を含む単量体混合物の乳化重合、マイクロエマルション重合、ミニエマルション重合及び懸濁重合等、公知の重合方法により得られる。また、溶液重合後に脱溶剤及び中和転相を行うことによっても得ることができる
当該エチレン性不飽和単量体としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、不飽和カルボン酸、不飽和酸無水物、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、芳香族ビニル化合物、含窒素不飽和化合物、不飽和スルホン酸、不飽和アミド、ポリアルキレンオキシド骨格を含む(メタ)アクリル酸のエステル等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、アルキル基が、炭素数1〜18の炭化水素基であるものが好ましく、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec−ブチル、(メタ)アクリル酸tert−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸オクタデシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、重合性や入手容易性等の観点から、アルキル基の炭素数が1〜12であるものがより好ましく、炭素数4〜12の炭化水素基であるものが特に好ましい。
(メタ)アクリル酸アルキルエステルの含有割合は適用される用途によって適宜調整されるが、エチレン性不飽和単量体混合物の合計を100質量%とした場合、30〜100質量%が好ましく、40〜95質量%がより好ましく、50〜90質量%が更に好ましい。
【0029】
不飽和カルボン酸(カルボキシル基含有単量体)としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。重合時の安定性が高いという理由から、アクリル酸及びメタクリル酸を用いることが好ましい。
不飽和カルボン酸の含有割合は、多すぎると水系媒体の重合においては重合中にゲル化の危険性があること、また、少なすぎると重合安定性が低下する場合があるという理由から、前記エチレン性不飽和単量体混合物の合計を100質量%とした場合、0.1〜20質量%が好ましく、0.5〜10質量%がより好ましく、1〜5質量%が更に好ましい。
【0030】
(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルトルエン、β−メチルスチレン、エチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、ビニルキシレン、ビニルナフタレン等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0032】
含窒素不飽和化合物としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、ビニルピリジン、N−ビニルピロリドン等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
不飽和アミドとしては、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−アルコキシメチル(メタ)アクリルアミド(N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−エトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロポキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−イソブトキシメチル(メタ)アクリルアミド等)が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0034】
不飽和酸無水物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
不飽和スルホン酸としては、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、ビニルスルホン酸、p−スチレンスルホン酸、アクリロキシベンゼンスルホン酸、メタクリロキシベンゼンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、スルホエチルアクリレート等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0036】
ポリアルキレンオキシド骨格を含む(メタ)アクリル酸のエステルとしては、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールポリブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールポリブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールポリブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の、ポリアルキレングリコール(アルキレングリコール単位数は、2以上。)のモノ(メタ)アクリル酸エステル;メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシポリブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の、アルコキシポリアルキレングリコールのモノ(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
その他にも、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル系単量体、並びにビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルイソブチルエーテル及びビニルフェニルエーテル等のビニルエーテル系単量体等を使用することができる。
【0038】
本発明の水性共重合体エマルションは必要により架橋されていても良い。
架橋はカルボキシル基、スルホン酸基、水酸基、アミノ基及びカルボニル基等の反応性官能基が導入された重合体と架橋性官能基を有する架橋剤との間の架橋反応により行われる。この他にも1分子中に2個以上のビニル基を有する、メチレンビス(メタ)アクリルアミド、エチレンビス(メタ)アクリルアミド、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン等の架橋性単量体の共重合、又はメチロール基含有単量体及び加水分解性シリル基含有単量体等の自己架橋可能な官能基を有する単量体を導入することによっても架橋は可能である。
【0039】
上記架橋剤としては上記反応性官能基と架橋反応し得るものであれば特に限定はされないが、例えばエポキシ系、イソシアネート系、ヒドラジド系、カルボジイミド系、オキサゾリン系及び金属架橋系等の架橋剤から選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。
架橋剤の添加量は目的とする用途及び性能により適宜調整されるものであるが、重合体100質量部当たり0.05〜10質量部が好ましく、0.1〜5質量部がさらに好ましい。
【0040】
本発明の水性共重合体エマルションを乳化重合により得る際には、単量体混合物や生成した重合体粒子を乳化安定化させるために乳化剤を使用しても良い。
使用する乳化剤としては、通常の乳化重合の際に用いられる公知の乳化剤を使用することができる。例えば、アニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、カチオン性乳化剤、両性イオン性乳化剤等の各種の乳化剤を用いることができる。アニオン性乳化剤としては、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルジフェニルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸塩、ポリオキシアルキレンジスルホン酸塩、高分子乳化剤等が挙げられる。更に、ノニオン性乳化剤としては、ポリオキシエチレン高級アルコールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルジフェニルエーテル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体、アセチレンジオール系乳化剤、ソルビタン高級脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン高級脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレン高級脂肪酸エステル類、グリセリン高級脂肪酸エステル類、ポリカルボン酸系高分子乳化剤、ポリビニルアルコール等が挙げられる。また、カチオン性乳化剤としては、アルキル(アミド)ベタイン、アルキルジミチルアミンオキシド、特殊乳化剤として、フッ素系乳化剤やシリコーン系乳化剤等が挙げられる。これらの乳化剤は、1種のみ用いてもよく、2種以上を併用することもできる。
【0041】
乳化剤の使用量は、その種類及び重合条件等により選択されるが、単量体100質量部あたり通常0.01〜50質量部であり、好ましくは0.05〜20質量部、さらに好ましくは0.1〜10質量部である。乳化剤の使用量が少ない場合は製造時の安定性が不十分となり凝集物等を生じやすく、一方乳化剤が多すぎる場合は、実使用の場面でエマルションを成膜して用いた際に吸湿及び吸水し易くなり、耐水性や耐湿性の低下を引き起こす。
【0042】
前記単量体混合物を乳化する方法は公知の方法を採用することができる。具体的には、水性媒体中にて各単量体及び乳化剤等を混合した後、常圧若しくは加圧下で攪拌混合することにより乳化液が得られる。
攪拌混合を行う機器としては、ホモミキサー等の各種ミキサー、コロイドミル、高圧乳化機、及び高圧吐出型乳化機などの各種乳化機が用いられる。
【0043】
重合開始剤としては過酸化物及びアゾ系化合物等の公知のラジカル重合開始剤を使用することが可能であり、これらのラジカル重合開始剤は組み合わせて用いることもできる。また、過酸化物と、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、エリソルビン酸ナトリウム、酒石酸、クエン酸、ホルムアルデヒドスルホキシラートの金属塩、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、塩化第二鉄等の還元剤とを併用したレドックス重合開始系によっても重合させることができる。
【0044】
上記過酸化物としては、過酸化水素;過硫酸塩(過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等)等の無機過酸化物;ハイドロパーオキサイド(クメンハイドロパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイド、tert−ブチルハイドロパーオキサイド等)、ジアルキルパーオキサイド(tert−ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド等)、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル(tert−ブチルパーオキシラウレート、tert−ブチルパーオキシベンゾエート等)、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、過酢酸、過コハク酸等の有機過酸化物が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
又、上記アゾ化合物としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0045】
ラジカル重合開始剤の使用量は、その種類、及び重合条件等により選択されるが、上記単量体100質量部に対して、通常0.01〜10質量部である。
【0046】
上記乳化液の重合は、通常、攪拌及び還流冷却しながら、水性媒体中で加熱された反応系で行われる。ここで、該乳化液及び開始剤等の原料成分の添加方法は、一括添加法、連続添加法及び分割添加法のいずれでもよい。連続添加法の場合、供給速度は一定でも不定でもよい。また、分割添加法の場合、原料成分の添加間隔は一定でも、不定でもよい。
【0047】
上記水性媒体としては、水のみを、あるいは、水及び水溶性有機溶媒(アルコール、ケトン、エーテル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等)とからなる混合物を用いることができる。この水性媒体が混合物である場合、水の含有量は水系媒体を100質量%としたときに、通常30質量%以上である。
【0048】
また、上記重合においては、得られる重合体の用途等に応じて連鎖移動剤を用いることができる。
この連鎖移動剤としては、メルカプト基含有化合物(エタンチオール、ブタンチオール、ドデカンチオール、ベンゼンチオール、トルエンチオール、α−トルエンチオール、フェネチルメルカプタン、メルカプトエタノール、3−メルカプトプロパノール、チオグリセリン、チオグリコール酸、2−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプトプロピオン酸、α−メルカプトイソ酪酸、メルカプトプロピオン酸メチル、メルカプトプロピオン酸エチル、チオ酢酸、チオリンゴ酸、チオサリチル酸、オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、tert−ドデシルメルカプタン、n−ヘキサデシルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、tert−テトラデシルメルカプタン等)、キサントゲンジスルフィド化合物(ジメチルキサントゲンジスルフィド、ジエチルキサントゲンジスルフィド、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィド等)、チウラムジスルフィド化合物(テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド等)、ハロゲン化炭化水素(四塩化炭素、臭化エチレン等)、芳香族炭化水素(ペンタフェニルエタン、α−メチルスチレンダイマー等)等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0049】
上記重合における、単量体の重合温度は、単量体の種類及びラジカル重合開始剤の種類等により適宜選択されるが、通常40〜95℃である。
【0050】
本発明における揮発性有機化合物とは、当該水系共重合体エマルション中に含まれる未反応単量体、アルコール等に代表される重合反応中の分解副生物、及び原料不純物等に由来する揮発性有機化合物の総量を示す。ただし、ホルムアルデヒドは分解等により副生し易く本発明における水蒸気処理によって低減することが困難であるため、本発明における揮発性有機化合物には含まないものとする。
【0051】
ホルムアルデヒドは、N−メチロール(メタ)アクリルアミド及びN−アルコキシメチル(メタ)アクリルアミド等の架橋性単量体を共重合成分として用いた際に、水性共重合体エマルション中に含有されることが知られており、これらの単量体は不織布用バインダーや特定の塗料等に使用される場合がある。
本発明では、安全性の観点から、水蒸気処理後のエマルション中のホルムアルデヒド濃度が200ppm以下であることが好ましく、150ppm以下がより好ましい。水蒸気処理をする前のエマルション中のホルムアルデヒド濃度は、公知のホルムアルデヒド補足剤を添加する方法の他にも、特開2008−81519号公報において出願人により示された方法等によって低減することができる。
【0052】
図2には、N−アルコキシメチルアクリルアミドが共重合されたエマルションに水蒸気を吹き込んだ際の、水蒸気吹込み時間とエマルション中のホルムアルデヒド濃度との関係を示す。前述した揮発性有機化合物とは異なり、水蒸気を吹き込むに連れて液中のホルムアルデヒド濃度は増加する傾向にあることが判る。これは加熱及び水蒸気の吹込みにより加水分解が促進されることによるものと推定される。したがって、本発明の水蒸気処理によれば効果的に揮発性有機化合物の濃度を低減できるため、ホルムアルデヒドの増加も抑制される。
【0053】
また、本発明における水系樹脂エマルション組成物は、用途等により必要に応じて分散剤、消泡剤、粘着付与剤、可塑剤、潤滑剤、増粘剤、成膜助剤、繊維助剤、洗浄剤、帯電防止剤、均染剤、湿潤剤、及びレベリング剤、架橋剤等の一般的な添加剤を添加したものであっても良い
【実施例】
【0054】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。以下の記載において「部」は質量部を意味し、「%」は質量%を意味する。
また、各例において得られた水系樹脂エマルション組成物は、以下に記載の方法により評価した。
a)固形分
測定サンプル約1gを秤量(a)し、次いで、通風乾燥機155℃、30分間乾燥後の残分を測定(b)し、以下の式より算出した。測定には秤量ビンを使用した。その他の操作については、JIS K 0067−1992(化学製品の減量及び残分試験方法)に準拠した。
固形分(%)=(b/a)×100
【0055】
b)揮発性有機化合物濃度
ガスクロマトグラフィーによる測定を行い、当該水系共重合体エマルション中に含まれる未反応単量体、アルコール等に代表される重合反応中の分解副生物、及び原料不純物等に由来する揮発性有機化合物の総量を算出した。ただし、ホルムアルデヒドが検出された場合はここには含めない。
【0056】
c)ホルムアルデヒド濃度
エマルションを蒸留水で20倍に希釈し、これを限外ろ過(排除限界1,000)処理する。得られた水溶液を、アセチルアセトン、酢酸アンモニウム及び氷酢酸から調整した発色液と混合し、40℃にて30分間インキュベートした。この液を分光光度計(412nm)により定量する。事前にホルムアルデヒド、アセチルアセトン、酢酸アンモニウム及び氷酢酸からなる溶液より検量線を作成し、該検量線よりホルムアルデヒド濃度を算出する。
【0057】
製造例1(水性共重合体エマルションA1の製造)
攪拌機、還流冷却器、滴下槽及び温度計を備えた反応容器内にイオン交換水600部を仕込み、攪拌下で83℃に昇温した。滴下槽にはイオン交換水300部、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(花王社製、商品名「ネオペレックスG−15」)43部、アクリル酸n−ブチル(以下、「BA」という)500部、スチレン(以下、「St」という)340部、メタクリル酸メチル(以下、「MMA」という)150部、メタクリル酸(以下、「MAA」という)9部及びN−メトキシメチルアクリルアミド1部を仕込み、攪拌することにより乳化液を調整した。この乳化液と重合開始剤としての5%過硫酸アンモニウム(以下、「APS」という)水溶液50部を反応容器に4時間かけて連続滴下して乳化重合させた後、さらに2時間熟成を行った。熟成開始時より5%APS水溶液40部を30分間かけて滴下し、重合及び熟成の期間中、反応液の内温は83℃を維持した。熟成終了後、系を冷却し、150メッシュポリネットでろ過することにより、固形分50%の水性共重合体エマルションA1を得た。
【0058】
製造例2(水性共重合体エマルションA2の製造)
製造例1において、N−メトキシメチルアクリルアミドを用いなかった以外は製造例1と同様の操作を行い、水系共重合体エマルションA2を得た。
【0059】
実施例1
<工程1>
製造例1で得られた水性共重合体エマルション(A1)30tを、熱交換器を通して30℃に温度調整しながら50m
3の貯留タンクに移液した。2日後のタンク内液温は29.5℃であった。当該エマルション中の揮発性有機化合物濃度は299ppmであり、ホルムアルデヒド濃度は150ppmであった。
<工程2>
工程1のエマルションを伝熱面積33m
2のプレート式熱交換器に通液し、60℃まで加温した。この時、熱交換器のジャケットには62℃の温水を通液し、並流接触した。また、エマルションの熱交換器内滞留時間は15分であった。熱交換器に通液した後のエマルション中の揮発性有機化合物濃度は300ppmであり、ホルムアルデヒド濃度は151ppmであった。
<工程3>
工程2のエマルションを容積16m
3の処理層に5t送液した後、15kPaの減圧下に液温を60℃に調整した。ここへ、流量1250kg/Hrで連続的にエマルションを供給しながら、処理槽から供給量と同量のエマルションを連続的に抜き出すと共に、槽底部から150kPaの飽和水蒸気を150kg/Hrの流量で供給した。発生する蒸気はコンデンサーにて凝縮し系外に除去した。この時の槽内滞留時間は4時間であった。水蒸気処理後のエマルション中の揮発性有機化合物濃度は48ppmであり、ホルムアルデヒド濃度は166ppmであった。上記結果を表1に示す。
【0060】
参考例
水性共重合体エマルションとしてA2を使用した以外は、実施例1と同様の操作により水蒸気処理を行った。水蒸気処理後のエマルション中の揮発性有機化合物濃度及びホルムアルデヒド濃度を表2に示す。
【0061】
実施例
2
<工程2>における滞留時間を45分とした以外は、実施例1と同様の操作により水蒸気処理を行った。水蒸気処理後のエマルション中の揮発性有機化合物濃度及びホルムアルデヒド濃度を表3に示す。
実施例
3
<工程3>における滞留時間を15分とした以外は、実施例1と同様の操作により水蒸気処理を行った。水蒸気処理後のエマルション中の揮発性有機化合物濃度及びホルムアルデヒド濃度を表4に示す。
【0062】
比較例1
<工程1>
製造例で得られたエマルション30tを、60℃まで冷却した時点で50m
3の貯留タンクに移液した。2日後のタンク内液温は50℃であった。当該エマルション中の揮発性有機化合物濃度は364ppmであり、ホルムアルデヒド濃度は180ppmであった。
<工程2>
工程1のエマルションを予備加熱槽に供給し、液温を60℃まで加熱した。この時、槽のジェケット温度は90℃、エマルションの滞留時間は4時間であった。予備加熱槽出口のエマルション中の揮発性有機化合物濃度は430ppmであり、ホルムアルデヒド濃度は205ppmであった。
<工程3−1>
実施例1における<工程3>と同様の操作(滞留時間4時間)によりエマルションの水蒸気処理を行った。水蒸気処理後のエマルション中の揮発性有機化合物濃度及びホルムアルデヒド濃度を表5に示す。
<工程3−2>
前記<工程3−1>の滞留時間を8時間に変更した以外は<工程3−1>と同様の操作によりエマルションの水蒸気処理を行った。水蒸気処理後のエマルション中の揮発性有機化合物濃度及びホルムアルデヒド濃度を表5に示す。
【0063】
比較例2
実施例1における<工程2>のエマルションの予備加熱を行わなかった点以外は、実施例1と同様の操作により水蒸気処理を行った。水蒸気処理後のエマルション中の揮発性有機化合物濃度及びホルムアルデヒド濃度を表6に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
【0066】
【表3】
【0067】
【表4】
【0068】
【表5】
【0069】
【表6】
【0070】
表1〜表6で用いた化合物の詳細を以下に示す。
MMA:メタクリル酸メチル
BuOH:n−ブタノール
BAc:酢酸ブチル
BA:アクリル酸ブチル
St:スチレン
【0071】
実施例1〜
3で得られた水性共重合体エマルションは、揮発有機化合物濃度が低く、かつホルムアルデヒド濃度の上昇等も見られないものであった。
これに対して、<工程1>の保管温度が高い比較例1では揮発性有機化合物濃度が高い結果であり、これを低減するために滞留時間を延ばした場合には、ホルムアルデヒド濃度の増加が確認された。また、<工程2>を省略した比較例2では、水蒸気処理の際の液温を確保するためにジャケット温度を高くする必要があり、運転3時間後にライン閉塞により運転を中止した。処理槽の内面にはエマルションの凝集による被膜が前面に貼り付いているのが確認された。