特許第5712927号(P5712927)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5712927
(24)【登録日】2015年3月20日
(45)【発行日】2015年5月7日
(54)【発明の名称】鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20150416BHJP
   H01M 4/68 20060101ALI20150416BHJP
   H01M 2/28 20060101ALI20150416BHJP
   H01M 4/14 20060101ALI20150416BHJP
【FI】
   H01M4/62 B
   H01M4/68 A
   H01M2/28
   H01M4/14 Q
【請求項の数】5
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2011-538367(P2011-538367)
(86)(22)【出願日】2010年10月20日
(86)【国際出願番号】JP2010068426
(87)【国際公開番号】WO2011052438
(87)【国際公開日】20110505
【審査請求日】2013年8月5日
(31)【優先権主張番号】特願2009-245498(P2009-245498)
(32)【優先日】2009年10月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100127513
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 悟
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 賢
(72)【発明者】
【氏名】竹内 泰輔
【審査官】 前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−140033(JP,A)
【文献】 特開平06−140043(JP,A)
【文献】 特開2008−218258(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/62
H01M 2/28
H01M 4/14
H01M 4/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正および負極格子はSが5質量ppm未満(0の場合を含む)であるPb−Ca−Sn系合金からなり、正および負極ストラップはSbが5000質量ppm以下(の場合を含む)である鉛合金からなり、負極活物質中にカーボンを添加した鉛蓄電池において、前記カーボンの一部に膨張化黒鉛、又は膨張化黒鉛及びウィスカー状カーボンを使用したことを特徴とする鉛蓄電池。
【請求項2】
前記膨張化黒鉛、又は膨張化黒鉛及びウィスカー状カーボンの添加量の総量を負極活物質の質量に対して0.5〜3.0質量%としたことを特徴とする請求項1に記載の鉛蓄電池。
【請求項3】
前記膨張化黒鉛、又は膨張化黒鉛及びウィスカー状カーボンの含むカーボンの総量を負極活物質の質量に対して0.55質量%以上としたことを特徴とする請求項2に記載の鉛蓄電池。
【請求項4】
前記鉛蓄電池が液式鉛蓄電池であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の鉛蓄電池。
【請求項5】
前記鉛蓄電池がアイドリングストップ車用であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池、特に寿命性能の優れた鉛蓄電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池については、近年、メンテナンスフリーおよび無漏液特性が重要視されており、Pb−非Sb系合金がこれらの特性を維持するのに適していることから、正・負極格子基材ともにSbを含まない合金がよく利用されるようになってきた。Sbを含まない合金としてはPb−Ca−Sn系合金が最もよく利用されている。
【0003】
Pb−Ca−Sn系合金とは、Pb、CaおよびSnで構成されている合金であるが、その他の元素を含む場合も、合金の特性に対するCaおよびSnの影響力が大きいことから、これらを含めてPb−Ca−Sn系合金と称している。第四の元素として、Al、Ag、Bi、Ba等が挙げられる。
【0004】
このようなSbを含まない合金を正・負極格子基材に用いた鉛蓄電池は減液量が大幅に少なくなるが、ストラップとストラップから導出された極柱もしくはセル間接続体が一体化した接続部材には依然として2〜5質量%程度のSbを含むPb−Sb系合金が利用されており、主に正極接続部材に含まれるSbが電解液中へ溶出したのち負極に再析出するために減液が進行し、電解液から露出した負極部分の腐食が進行する場合がある。
【0005】
このような観点から、格子および接続部材の全てに純鉛、もしくはSbを含まない鉛合金を用いることが提案されている。このような構成の電池においては、減液が抑制され、電解液から露出した負極部分の腐食の進行も抑制されるが、負極の充電受入性が低下し、鉛蓄電池の深放電寿命が低下することがわかっている。そこで、正および負極格子、正および負極接続部材はSbを含有しない鉛もしくは鉛合金とし、負極活物質中に減液量に影響しない程度の微量のSb、BiといったPbよりも水素過電圧が低い物質を含ませることで、前記した減液量の抑制および深放電寿命の改善といった相反する課題を解決する発明が提案されている(特許文献1及び2参照)。
【0006】
また、負極格子および正極格子をいずれもPb−Ca合金とし、接続部材の電解液に接触する部分を、Sbを含まないPbもしくはPb合金とした鉛蓄電池において、特許文献1及び2の発明のように負極活物質中にSbを含ませる代わりに、負極活物質中のカーボン量を、負極活物質中のPb質量の0.3〜1.0%とすることによって、負極の耳における耳細り現象を抑制し、負極充電受入性の低下を抑制した鉛蓄電池を得る発明がある(特許文献3参照)。
これら特許文献1〜3の発明においては、鉛蓄電池のサイクル寿命が改善されるものの、より寿命性能を改善することが望まれていた。
さらに、負極活物質中のカーボンとして、通常使用されているアセチレンブラック等のカーボンを0.5%以上添加すると、電解液への遊離カーボンが増えることによる電槽汚れなどの問題があり、アセチレンブラック等では添加量を多くできないため、寿命性能の改善に限界があった。
【0007】
また、上記の課題を解決するために、「正および負極格子基材は実質的にSbを含まないPb−Ca−Sn系合金からなり、正および負極接続部材(ストラップ、極柱、およびセル間接続体)は50〜5000質量ppmのSbを含んだ鉛合金からなることを特徴とする鉛蓄電池。」の発明が提案されている(特許文献4参照)。
また、特許文献4には、「負極活物質ペーストは鉛粉に硫酸バリウム、リグニンおよびカーボンを適量加え、これらを水および希硫酸で練合することで作製し、前記負極格子に充填した後、熟成・乾燥を行うことで負極板を得た。」(段落[0030])と記載されている。
【0008】
特許文献4には、上記の発明の構成により、「正・負極セル間溶接部の強度が十分に強固で耐振動性に優れ、主に正極接続部材に含まれる微量のSbが電解液中に溶解し、負極表面に再析出することで負極の充電受入性を改善し、同時に減液を従来の2〜5質量%程度のSbを含むPb−Sb系合金からなる正・負極接続部材に比べて大幅に抑制するため、鉛蓄電池の寿命性能を改善することができる」(段落[0018])ことが示されているが、さらに寿命性能を改善することが望まれていた。
また、特許文献4の発明において、負極活物質ペーストに添加されているカーボンは、深放電後の充電回復性を得るためのものであり、寿命性能を向上させるためのものではなく、通常はアセチレンブラックであり、上記のような問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−114416号公報
【特許文献2】特開2006−114417号公報
【特許文献3】特開2008−140645号公報
【特許文献4】特開2008−218258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記先行技術の課題を解決しようとするものであり、寿命性能が顕著に向上し、減液が抑制され、負極耳痩せが抑制され、かつ、電解液への遊離カーボン量が少ない鉛蓄電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するために、以下の手段を採用する。
(1)正および負極格子はSが5質量ppm未満(0の場合を含む)であるPb−Ca−Sn系合金からなり、正および負極ストラップはSbが5000質量ppm以下(の場合を含む、以下、同じ)である鉛合金からなり、負極活物質中にカーボンを添加した鉛蓄電池において、前記カーボンの一部に膨張化黒鉛を使用したことを特徴とする鉛蓄電池。
(2)前記膨張化黒鉛、又は膨張化黒鉛及びウィスカー状カーボンの添加量の総量を負極活物質の質量に対して0.5〜3.0質量%としたことを特徴とする前記(1)の鉛蓄電池。
(3)前記膨張化黒鉛、又は膨張化黒鉛及びウィスカー状カーボンを含むカーボンの総量を負極活物質の質量に対して0.55質量%以上としたことを特徴とする前記(2)の鉛蓄電池。
(4)前記鉛蓄電池が液式鉛蓄電池であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか一項の鉛蓄電池。
(5)前記鉛蓄電池がアイドリングストップ車用であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか一項の鉛蓄電池。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、正および負極格子は実質的にSbを含まない、すなわち、Sbが5質量ppm未満(0の場合を含む)であるPb−Ca−Sn系合金からなり、正および負極ストラップはSbが5000質量ppm以下である鉛合金からなり、負極活物質中にカーボンを添加した鉛蓄電池において、前記カーボンの一部に膨張化黒鉛、又は膨張化黒鉛及びウィスカー状カーボンを使用したことにより、寿命性能が顕著に向上し、減液が抑制され、負極耳痩せが抑制され、かつ、電解液への遊離カーボン量が少なく、電槽汚れなどのない鉛蓄電池が得られるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本発明において、正および負極格子、正および負極接続部材は、特許文献4に記載された発明と同様の方法で作製する。
【0014】
本発明においては、正極格子および負極格子の基材として実質的にSbを含まないPb−Ca−Sn系合金を使用する。ただし、不可避不純物として微量のSbが含まれている場合があるが、Sb量が5質量ppm未満であれば本発明の効果が損なわれることはない。Caの含有量は、0.05〜0.1質量%、Snの含有量は、0.3〜3.0質量%とすることが好ましい。さらに、従来から活物質との密着性を改善するなどの目的で、正極格子表面にSb等を含んだ鉛合金からなる表面層を設けられることがあり、この技術を本発明に適用した場合においても、Sb量が正極格子重量に対して1000ppm未満であれば、本発明の効果が損なわれることはない。
【0015】
負極板は、網目状に展開された、上記のような実質的にSbを含まないPb−Ca−Sn系合金からなる負極格子に負極活物質を充填した構成である。正極板も、同様の正極格子に正極活物質を充填した構成である。
負極活物質ペーストは鉛粉に硫酸バリウム、リグニンおよびカーボンを必要に応じて適量加え、これらを水および希硫酸で練合することで作製し、負極格子に充填した後、熟成・乾燥を行うことで負極板を得る。正極活物質ペーストは鉛粉を水および希硫酸で練合することで作製し、前記正極格子に充填した後、熟成・乾燥を行うことで正極板を得る。
【0016】
上記のようにして作製した負極板と正極板を、従来と同様に、セパレータを介して積層し、同極性の極板同士を、ストラップで連結させて極板群とする。この極板群を電槽内に配置して未化成電池を作製する。上記未化成電池に希硫酸を入れ、化成した後に、希硫酸を一度抜き、その後、硫酸(電解液)を入れて、本発明の鉛蓄電池とする。
【0017】
本発明において、正極板および負極板から導出された正極ストラップおよび負極ストラップは、Sb濃度を5000質量ppm以下の鉛または鉛合金とすることにより、後述するように、負極活物質中に添加するカーボンの一部に膨張化黒鉛及び/又はウィスカー状カーボンを使用した場合、膨張化黒鉛を使用しない場合と比較して、寿命性能が顕著に向上する。Sb濃度が5000質量ppmを超えると寿命性能が短くなり、減液量が増加し、負極耳痩せも大きくなるから、寿命性能を向上させ、減液を抑制し、負極耳痩せを抑制するためには、正および負極ストラップを構成する鉛合金中のSb濃度を5000質量ppm以下とすることが好ましい。
また、ストラップの強度を高めるために、ストラップ合金に1.0〜3.0%程度のSn、0.1%程度のCaを添加しても良い。ただし、Caを添加する場合は腐食しやすい金属間化合物CaSbを生成するためストラップのSb濃度は100質量ppm以下とすることが好ましい。
【0018】
ストラップは、バーナー溶接法またはキャスト・オン・ストラップ(Cast on Strap、略してCOS)法により溶接する。バーナー溶接法は、極板群の極板耳部を櫛状治具に挿入し、ガスバーナーやプラズマなどの炎で、極板耳部や足鉛を溶融、凝固させることで一体化し、ストラップを形成するものである。COS法は、鋳型内に置かれた溶融鉛に、極板耳部を浸漬し、その後凝固させることで一体化して、ストラップとするものである。
【0019】
負極耳痩せに関しては、正極ストラップよりも負極ストラップの方がSbの影響が大きいので、その観点からいうと、少なくとも、負極ストラップの鉛合金のSb濃度を5000質量ppm以下にすることで効果を奏する。
但し、正極ストラップに含まれるSbが電解液中へ溶出したのち負極に再析出するために減液が進行し、電解液から露出した負極部分の腐食が進行する場合があること、ストラップの鉛合金を正負極で別々にすると、上記COS法を採用した場合には、溶湯の釜・経路が2個必要になること、上記バーナー溶接法を採用した場合には、正負極を取り違える可能性があることを考慮すると、ストラップ合金は正負極とも同じSb濃度が5000質量ppm以下の合金とすることが好ましい。
【0020】
ストラップから導出される極柱もしくはセル間接続体は、バーナー法では足鉛を用いてストラップを作製する際に、極柱もしくはセル間接続体を溶接することでストラップと一体化される。COS法ではあらかじめ設けられた鋳型に溶融鉛を注ぐことでこれらが一体化した接続部材が形成される。本発明において、極柱もしくはセル間接続体は、Sbが5000質量ppm以下の鉛または鉛合金とし、前記ストラップと同様の鉛合金で構成することが好ましい。
【0021】
鉛蓄電池の負極活物質中には、深放電後の充電回復性を得るために、通常、0.2質量%程度のカーボン(多くの場合アセチレンブラック)が添加されているが、本発明においては、寿命性能を顕著に向上させるために、上記負極活物質(負極活物質ペースト)中に添加するカーボンの一部に膨張化黒鉛及び/又はウィスカー状カーボンを使用することが重要である。
膨張化黒鉛とは、グラファイト層間に硫酸等を挿入した層間化合物を1000℃程度で急熱し、生成するガスによってグラファイト層間を押し広げて、層を剥離させたものを粉砕して得られる黒鉛である。膨張化黒鉛の製造方法としては、上記の一般的な方法以外にも特開2001−240404などがある。
ウィスカー状カーボンとは、有機化合物を還元性雰囲気化800℃程度で熱分解して得た炭素繊維を粉砕して得られるカーボン(カーボンウィスカー)あるいは前記熱分解後に不活性ガス中3000℃程度で熱処理して黒鉛化させた炭素繊維を粉砕して得られるカーボン(グラファイトウィスカー)であり、一般的には数十〜数百nmの繊維径に対して、数μm〜数十μmの繊維長であり、高アスペクト比を有することを特徴とする。グラファイトウィスカーの方が導電性が高い。これらの炭素繊維および製造方法としては例えば、特開平7−150419がある。
膨張化黒鉛とウィスカー状カーボンは、両方とも電解液に遊離しないという特徴がある。
【0022】
膨張化していない粒状の黒鉛を用いても、本発明の効果は奏さない。その理由は、かならずしも明確ではないが、(a)膨張化していない粒状の黒鉛を負極活物質中に添加すると、硫酸中でサイクルを繰り返すと層間に硫酸が進入して膨張するため、負極活物質が崩壊し、また、導電性が低下し、性能改善効果が得られないこと、(b)膨張化していない粒状のグラファイトは、粒状で表面が比較的平滑であるため、活物質との接触面積が小さく、性能改善効果が得られないことなどの理由が考えられる。
これに対して、膨張化黒鉛とウィスカー状カーボンは、上記のように膨張することはなく、膨張化黒鉛は層が剥離して表面の凹凸が多く、接触面積が大きく、ウィスカー状カーボンもアスペクト比が高く、接触面積が大きいため、本発明の効果を奏すると考えられる。
【0023】
膨張化黒鉛及び/又はウィスカー状カーボンを負極活物質中に負極活物質質量に対して0.5質量%以上添加することにより、寿命性能が顕著に向上する。添加しすぎると体積当たりのPb量が相対的に減ることにより、放電性能が低下し短寿命となるから、膨張化黒鉛及び/又はウィスカー状カーボンの添加量の総量は負極活物質質量に対して0.5〜3.0質量%とすることが好ましい。
【0024】
膨張化黒鉛及び/又はウィスカー状カーボンは、従来用いられているカーボン(アセチレンブラック)のように負極板から遊離することがないので、電解液を混濁させることがなく、電槽汚れなどがない。したがって、従来のカーボンを用いた場合よりも添加量を多くすることができ、寿命性能向上の効果を大きくできる。
また、膨張化黒鉛、ウィスカー状カーボン、アセチレンブラックを含むカーボンの総量は負極活物質の質量に対して0.55質量%以上とすることが好ましい。アセチレンブラックの添加量は負極活物質の質量に対して0.05質量%以上0.5質量%未満とすることが好ましい。
なお、以下の実施例において、膨張化黒鉛を添加しないで、ウィスカー状カーボンのみを添加したもの(実施例2、実施例4、実施例6の一部)は、参考例である。
【実施例】
【0025】
(正・負極格子の作製)
本実施例の鉛蓄電池の正・負極格子基材にはPb−Ca−Sn系合金を用いた。合金組成は正極格子基材がPb−0.06質量%Ca−1.5質量%Sn、負極格子基材がPb−0.05質量%Ca−0.5質量%Snである。上記の合金からなる正極格子基材を圧延した後にエキスパンド加工を行うことで、長さ115mm×幅137mm×厚さ1.6mmの正極格子を作製した。また、上記の合金からなる負極格子基材を圧延した後にエキスパンド加工を行うことで、長さ115mm×幅137mm×厚さ1.4mmの負極格子を作製した。
【0026】
(正極板の作製)
正極板の作製においては、まず、鉛粉に対して13質量%の水と10質量%の希硫酸(比重1.40,20℃)を加え、これを混練して正極活物質ペーストを作製した。この正極活物質ペースト94gを、上記のようにして作製した正極格子に充填して、温度40°C、湿度50RH%の雰囲気下で24時間放置して熟成した後に、温度50°Cで24時間放置して乾燥させ、未化成の正極板を作製した。
【0027】
(負極板の作製)
負極板の作製においては、まず、鉛粉に対して、0.2質量%のリグニンと0.6質量%の硫酸バリウムを添加し、混練機で混練して混合物を準備した。次に、この混合物に、鉛粉に対して13質量%の水を加えて混合し、さらに鉛粉に対して7質量%の希硫酸(比重1.40,20℃)を加えて負極活物質ペーストを作製した。この負極活物質ペースト90gを、上記のようにして作製した負極格子に充填して、自然環境下で24時間放置して熟成した後に、温度50℃で24時間放置して乾燥させ、未化成の負極板を作製した。
【0028】
(実施例1の負極板)
負極板を作製する際、負極活物質ペースト中に、負極活物質(鉛粉)の質量に対して、0.2質量%の粒径約40nmのアセチレンブラックと共に、粒径約20μmの膨張化黒鉛を、0%、0.5質量%、1.0質量%、3.0質量%、5.0質量%添加した。
【0029】
(実施例2の負極板)
負極板を作製する際、負極活物質ペースト中に、負極活物質(鉛粉)の質量に対して、0.2質量%の粒径約40nmのアセチレンブラックと共に、直径約150nm、長さ約20μmのカーボンウィスカーを、0%、0.5質量%、1.0質量%、3.0質量%、5.0質量%添加した。
【0030】
(実施例3の負極板)
負極板を作製する際、負極活物質ペースト中に、負極活物質(鉛粉)の質量に対して、0.2質量%の粒径約40nmのアセチレンブラックと共に、粒径約20μmの膨張化黒鉛及び直径約150nm、長さ約20μmのカーボンウィスカーを、等量ずつ、0%、0.5質量%、1.0質量%、3.0質量%、5.0質量%添加した。
【0031】
(実施例4の負極板)
負極板を作製する際、負極活物質ペースト中に、負極活物質(鉛粉)の質量に対して、0.2質量%の粒径約40nmのアセチレンブラックと共に、直径約150nm、長さ約20μmのグラファイトウィスカーを、0%、0.5質量%、1.0質量%、3.0質量%、5.0質量%添加した。
【0032】
(実施例5の負極板)
負極板を作製する際、負極活物質ペースト中に、負極活物質(鉛粉)の質量に対して、0.2質量%の粒径約40nmのアセチレンブラックと共に、粒径約20μmの膨張化黒鉛及び直径約150nm、長さ約20μmのグラファイトウィスカーを、等量ずつ、0%、0.5質量%、1.0質量%、3.0質量%、5.0質量%添加した。
また、実施例1〜5において、比較のために、膨張化黒鉛及び/又はカーボンウィスカーを添加しないで、アセチレンブラックを、負極活物質ペースト中に、負極活物質(鉛粉)の質量に対して、0.2質量%、0.5質量%、1.0質量%、1.5質量%添加した負極板を作製した。
【0033】
(実施例6の負極板)
負極板を作製する際、負極活物質ペースト中に、負極活物質(鉛粉)の質量に対して、上記のアセチレンブラック0.2質量%と共に、上記の膨張化黒鉛、カーボンウィスカー、グラファイトウィスカーを、それぞれ、1.0質量%添加した。
【0034】
(電池の作製および化成)
上記のようにして作製した負極板を、厚さ0.65mmの微孔性ポリエチレン製の袋状セパレータによって包み、その負極板6枚と上記正極板5枚を、両端に負極板がくるように交互に配置し、同極性の格子耳をCOS法により集合溶接し、未化成電池を作製した。
【0035】
集合溶接の際に一体化して作製された正・負極接続部材(正・負極ストラップ、極柱、およびセル間接続体)は、Pb−Sn−Sb合金からなり、実施例1及び2においてはPb−1.5質量%Sn合金にSbが0(検出限界である0.1質量ppm未満)、50質量ppm、100質量ppm、500質量ppm、1000質量ppm、5000質量ppm、10000質量ppm、25000質量ppm含まれる組成、実施例3〜5においてはPb−1.5質量%Sn合金にSbが0(検出限界である0.1質量ppm未満)、50質量ppm、500質量ppm、5000質量ppm、25000質量ppm含まれる組成とした。実施例6においては、正・負極接続部材は、Pb−1.5質量%Sn合金にSbが100質量ppm含まれる組成と共に、Pb−Ca−Sb合金からなるPb−0.1質量%Ca合金にSbが100質量ppm含まれる組成とした。
【0036】
(実施例1)
上記未化成電池に比重1.23(20℃)の希硫酸を入れ、18Aで20時間化成した後に、希硫酸を一度抜き、その後、比重1.28(20℃)の硫酸(電解液)を入れて、No.A0〜A4(ストラップ中Sb:0ppm、アセチレンブラック:0.05〜1.5質量%、膨張化黒鉛:0%)、No.B1〜B4(ストラップ中Sb:0ppm、アセチレンブラック:0.2質量%、膨張化黒鉛:0.5〜5.0質量%)、No.C1〜C5(ストラップ中Sb:50質量ppm、アセチレンブラック:0.2質量%、膨張化黒鉛:0〜5.0質量%)、No.D1〜D5(ストラップ中Sb:100質量ppm、アセチレンブラック:0.2質量%、膨張化黒鉛:0〜5.0質量%)、No.E1〜E5(ストラップ中Sb:500質量ppm、アセチレンブラック:0.2質量%、膨張化黒鉛:0〜5.0質量%)、No.F1〜F5(ストラップ中Sb:1000質量ppm、アセチレンブラック:0.2質量%、膨張化黒鉛:0〜5.0質量%)、No.G1〜G5(ストラップ中Sb:5000質量ppm、アセチレンブラック:0.2質量%、膨張化黒鉛:0〜5.0質量%)、No.H1〜H5(ストラップ中Sb:10000質量ppm、アセチレンブラック:0.2質量%、膨張化黒鉛:0〜5.0質量%)、No.J1〜J5(ストラップ中Sb:25000質量ppm、アセチレンブラック:0.2質量%、膨張化黒鉛:0〜5.0質量%)の実施例1の各鉛蓄電池を完成させた。
【0037】
(鉛蓄電池の評価)
上記のようにして作製した実施例1の各鉛蓄電池について、寿命サイクル数、減液速度、負極耳痩せを測定した。測定結果を表1に示す。
鉛蓄電池の寿命試験の条件は以下のとおりである。
放電:50A×1min
充電:14.0V(max50A)×1min
上記充放電サイクル中の放電電圧が7.2Vを下回ったときを寿命とした。
また、負極耳痩せ(量)は、寿命時の量であり、減液速度は、寿命時の減液量を寿命サイクル数で除したものである。
なお、表1には、No.A1の鉛蓄電池(ストラップ中Sb:0ppm、アセチレンブラック:0.2質量%、膨張化黒鉛:0%)の寿命サイクル数(寿命性能)、減液速度、電解液への遊離カーボン質量を100とし、No.A1以外の各鉛蓄電池についての測定結果は、No.A1に対する%で表示した。但し、放電容量は、定格5時間率容量に対する%であり、負極耳痩せは、初期の厚みに対する%である。
【0038】
【表1】
【0039】
表1より、ストラップ中のSb量が5000質量ppm以下の場合、膨張化黒鉛の添加量が負極活物質の質量に対して0.5〜3.0質量%の範囲では、Sb量が増加するにしたがって、また、膨張化黒鉛の添加量が増加するにしたがって、膨張化黒鉛を添加しないときと比較して、寿命性能が顕著に向上することが分かる(No.A1、C1、D1、E1、F1、G1とB1〜B3、C2〜C4、D2〜D4、E2〜E4、F2〜F4、G2〜G4との比較)。膨張化黒鉛の添加量が負極活物質の質量に対して3.0質量%を超えると、寿命性能の向上は頭打ちになる(No.B4、C5、D5、E5、F5、G5)が、膨張化黒鉛を添加しない場合と比較して改善されている。
ストラップ中のSb量が5000質量ppmを超えると寿命性能の向上は頭打ちになり(No.H1〜H5)、10000質量ppmを超えると負極耳痩せで寿命となる(No.J1〜J5)。
【0040】
(実施例2)
実施例1の鉛蓄電池と同様にして、No.A0〜A4(ストラップ中Sb:0ppm、アセチレンブラック:0.05〜1.5質量%、カーボンウィスカー:0%)、No.K1〜K4(ストラップ中Sb:0ppm、アセチレンブラック:0.2質量%、カーボンウィスカー:0.5〜5.0質量%)、No.C1、L1〜L4(ストラップ中Sb:50質量ppm、アセチレンブラック:0.2質量%、カーボンウィスカー:0〜5.0質量%)、No.D1、M1〜M4(ストラップ中Sb:100質量ppm、アセチレンブラック:0.2質量%、カーボンウィスカー:0〜5.0質量%)、No.E1、N1〜N4(ストラップ中Sb:500質量ppm、アセチレンブラック:0.2質量%、カーボンウィスカー:0〜5.0質量%)、No.F1、O1〜O4(ストラップ中Sb:1000質量ppm、アセチレンブラック:0.2質量%、カーボンウィスカー:0〜5.0質量%)、No.G1、P1〜P4(ストラップ中Sb:5000質量ppm、アセチレンブラック:0.2質量%、カーボンウィスカー:0〜5.0質量%)、No.H1、Q1〜Q4(ストラップ中Sb:10000質量ppm、アセチレンブラック:0.2質量%、カーボンウィスカー:0〜5.0質量%)、No.J1、R1〜R4(ストラップ中Sb:25000質量ppm、アセチレンブラック:0.2質量%、カーボンウィスカー:0〜5.0質量%)の実施例2の各鉛蓄電池を完成させた。
【0041】
上記のようにして作製した実施例2の各鉛蓄電池について、寿命サイクル数、減液速度、負極耳痩せを、実施例1と同様にして測定した。測定結果を表2に示す。
【0042】
【表2】
【0043】
表2より、ストラップ中のSb量が5000質量ppm以下の場合、カーボンウィスカーの添加量が負極活物質の質量に対して0.5〜3.0質量%の範囲では、Sb量が増加するにしたがって、また、カーボンウィスカーの添加量が増加するにしたがって、カーボンウィスカーを添加しないときと比較して、寿命性能が顕著に向上することが分かる(No.A1、C1、D1、E1、F1、G1とK1〜K3、L1〜L3、M1〜M3、N1〜N3、O1〜O3、P1〜P3との比較)。カーボンウィスカーの添加量が負極活物質の質量に対して3.0質量%を超えると、寿命性能の向上は頭打ちになる(No.K4、L4、M4、N4、O4、P4)が、カーボンウィスカーを添加しない場合と比較して改善されている。
ストラップ中のSb量が5000質量ppmを超えると寿命性能の向上は頭打ちになり(No.Q1〜Q4)、10000質量ppmを超えると負極耳痩せで寿命となる(No.R1〜R4)。
【0044】
(実施例3)
実施例1の鉛蓄電池と同様にして、No.A0〜A4(ストラップ中Sb:0ppm、アセチレンブラック:0.05〜1.5質量%、膨張化黒鉛及びカーボンウィスカー:0%)、No.S1〜S4(ストラップ中Sb:0ppm、アセチレンブラック:0.2質量%、膨張化黒鉛:0.25〜2.5質量%、カーボンウィスカー:0.25〜2.5質量%)、No.C1、T1〜T4(ストラップ中Sb:50質量ppm、アセチレンブラック:0.2質量%、膨張化黒鉛:0〜2.5質量%、カーボンウィスカー:0〜2.5質量%)、No.E1、U1〜U4(ストラップ中Sb:500質量ppm、アセチレンブラック:0.2質量%、膨張化黒鉛:0〜2.5質量%、カーボンウィスカー:0〜2.5質量%)、No.G1、V1〜V4(ストラップ中Sb:5000質量ppm、アセチレンブラック:0.2質量%、膨張化黒鉛:0〜2.5質量%、カーボンウィスカー:0〜2.5質量%)、No.J1、W1〜W4(ストラップ中Sb:25000質量ppm、アセチレンブラック:0.2質量%、膨張化黒鉛:0〜2.5質量%、カーボンウィスカー:0〜2.5質量%)の実施例3の各鉛蓄電池を完成させた。
【0045】
上記のようにして作製した実施例3の各鉛蓄電池について、寿命サイクル数、減液速度、負極耳痩せを、実施例1と同様にして測定した。測定結果を表3に示す。
【0046】
【表3】
【0047】
表3より、ストラップ中のSb量が5000質量ppm以下の場合、膨張化黒鉛及びカーボンウィスカーの添加量が負極活物質の質量に対して0.5〜3.0質量%の範囲では、Sb量が増加するにしたがって、また、膨張化黒鉛及びカーボンウィスカーの添加量が増加するにしたがって、膨張化黒鉛及びカーボンウィスカーを添加しないときと比較して、寿命性能が顕著に向上することが分かる(No.A1、C1、E1、G1とS1〜S3、T1〜T3、U1〜U3、V1〜V3との比較)。膨張化黒鉛及びカーボンウィスカーの添加量が負極活物質の質量に対して3.0質量%を超えると、寿命性能の向上は頭打ちになる(No.S4、T4、U4、V4)が、膨張化黒鉛及びカーボンウィスカーを添加しない場合と比較して改善されている。
ストラップ中のSb量が10000質量ppmを超えると負極耳痩せで寿命となる(No.W1〜W4)。
【0048】
(実施例4)
実施例1の鉛蓄電池と同様にして、No.A0〜A4(ストラップ中Sb:0ppm、アセチレンブラック:0.05〜1.5質量%、グラファイトウィスカー:0%)、No.X1〜X4(ストラップ中Sb:0ppm、アセチレンブラック:0.2質量%、グラファイトウィスカー:0.5〜5.0質量%)、No.C1、Y1〜Y4(ストラップ中Sb:50質量ppm、アセチレンブラック:0.2質量%、グラファイトウィスカー:0〜5.0質量%)、No.E1、Z1〜Z4(ストラップ中Sb:500質量ppm、アセチレンブラック:0.2質量%、グラファイトウィスカー:0〜5.0質量%)、No.G1、AA1〜AA4(ストラップ中Sb:5000質量ppm、アセチレンブラック:0.2質量%、グラファイトウィスカー:0〜5.0質量%)、No.J1、AB1〜AB4(ストラップ中Sb:25000質量ppm、アセチレンブラック:0.2質量%、カーボンウィスカー:0〜5.0質量%)の実施例4の各鉛蓄電池を完成させた。
【0049】
上記のようにして作製した実施例4の各鉛蓄電池について、寿命サイクル数、減液速度、負極耳痩せを、実施例1と同様にして測定した。測定結果を表4に示す。
【0050】
【表4】
【0051】
表4より、ストラップ中のSb量が5000質量ppm以下の場合、グラファイトウィスカーの添加量が負極活物質の質量に対して0.5〜3.0質量%の範囲では、Sb量が増加するにしたがって、また、グラファイトウィスカーの添加量が増加するにしたがって、グラファイトウィスカーを添加しないときと比較して、寿命性能が顕著に向上することが分かる(No.A1、C1、E1、G1とX1〜X3、Y1〜Y3、Z1〜Z3、AA1〜AA3との比較)。グラファイトウィスカーの添加量が負極活物質の質量に対して3.0質量%を超えると、寿命性能の向上は頭打ちになる(No.X4、Y4、Z4、AA4)が、グラファイトウィスカーを添加しない場合と比較して改善されている。
ストラップ中のSb量が、10000質量ppmを超えると負極耳痩せで寿命となる(No.AB1〜AB4)。
【0052】
(実施例5)
実施例1の鉛蓄電池と同様にして、No.A0〜A4(ストラップ中Sb:0ppm、アセチレンブラック:0.05〜1.5質量%、膨張化黒鉛及びグラファイトウィスカー:0%)、No.AC1〜AC4(ストラップ中Sb:0ppm、アセチレンブラック:0.2質量%、膨張化黒鉛:0.25〜2.5質量%、グラファイトウィスカー:0.25〜2.5質量%)、No.C1、AD1〜AD4(ストラップ中Sb:50質量ppm、アセチレンブラック:0.2質量%、膨張化黒鉛:0〜2.5質量%、グラファイトウィスカー:0〜2.5質量%)、No.E1、AE1〜AE4(ストラップ中Sb:500質量ppm、アセチレンブラック:0.2質量%、膨張化黒鉛:0〜2.5質量%、グラファイトウィスカー:0〜2.5質量%)、No.G1、AF1〜AF4(ストラップ中Sb:5000質量ppm、アセチレンブラック:0.2質量%、膨張化黒鉛:0〜2.5質量%、グラファイトウィスカー:0〜2.5質量%)、No.J1、AG1〜AG4(ストラップ中Sb:25000質量ppm、アセチレンブラック:0.2質量%、膨張化黒鉛:0〜2.5質量%、グラファイトウィスカー:0〜2.5質量%)の実施例5の各鉛蓄電池を完成させた。
【0053】
上記のようにして作製した実施例5の各鉛蓄電池について、寿命サイクル数、減液速度、負極耳痩せを、実施例1と同様にして測定した。測定結果を表5に示す。
【0054】
【表5】
【0055】
表5より、ストラップ中のSb量が5000質量ppm以下の場合、膨張化黒鉛及びグラファイトウィスカーの添加量が負極活物質の質量に対して0.5〜3.0質量%の範囲では、Sb量が増加するにしたがって、また、膨張化黒鉛及びグラファイトウィスカーの添加量が増加するにしたがって、膨張化黒鉛及びグラファイトウィスカーを添加しないときと比較して、寿命性能が顕著に向上することが分かる(No.A1、C1、E1、G1とAC1〜AC3、AD1〜AD3、AE1〜AE3、AF1〜AF3との比較)。膨張化黒鉛及びグラファイトウィスカーの添加量が負極活物質の質量に対して3.0質量%を超えると、寿命性能の向上は頭打ちになる(No.AC4、AD4、AE4、AF4)が、膨張化黒鉛及びグラファイトウィスカーを添加しない場合と比較して改善されている。
ストラップ中のSb量が10000質量ppmを超えると負極耳痩せで寿命となる(No.AG1〜AG4)
【0056】
(実施例6)
実施例1の鉛蓄電池と同様にして、No.D3(Pb−1.5質量%Sn−Sbストラップ合金中のSb:100ppm、アセチレンブラック:0.2質量%、膨張化黒鉛:1.0%)、No.M2(Pb−1.5質量%Sn−Sbストラップ合金中のSb:100ppm、アセチレンブラック:0.2質量%、カーボンウィスカー:1.0%)、No.QAH1(Pb−1.5質量%Sn−Sbストラップ合金中のSb:100ppm、アセチレンブラック:0.2質量%、グラファイトウィスカー:1.0質量%)、No.AH2(Pb−0.1質量%Ca−Sbストラップ合金中のSb:100ppm、アセチレンブラック:0.2質量%、膨張化黒鉛:1.0%)、No.AH3(Pb−0.1質量%Ca−Sbストラップ合金中のSb:100ppm、アセチレンブラック:0.2質量%、カーボンウィスカー:1.0%)、No.AH4(Pb−0.1質量%Ca−Sbストラップ合金中のSb:100ppm、アセチレンブラック:0.2質量%、グラファイトウィスカー:1.0質量%)の実施例6の各鉛蓄電池を完成させた。
【0057】
上記のようにして作製した実施例6の各鉛蓄電池について、寿命サイクル数、減液速度、負極耳痩せを、実施例1と同様にして測定した。測定結果を表6に示す。
【0058】
【表6】
【0059】
表6より、ストラップ合金が、Pb−Ca系合金であっても、Pb−Sn系合金と同等の効果を奏することが分かる。
【0060】
また、表1〜表5より、以下のようなことが分かる。
アセチレンブラック、膨張化黒鉛、カーボンウィスカー、グラファイトウィスカーともに添加量を増加すると寿命性能が向上する(No.A0〜A4、B1〜B4、K1〜K4、S1〜S4、X1〜X4、AC1〜AC4参照)が、膨張化黒鉛及び/又はカーボンウィスカーの方が、アセチレンブラックよりも、少量の添加で、寿命性能向上の効果がある(No.A3とB1、K1、S1、X1及びAC1との比較、No.A4とB2、K2、S2、X2及びAC2との比較)。
【0061】
膨張化黒鉛及び/又はカーボンウィスカー(グラファイトウィスカー)の添加量が増加すると相対的に負極活物質(鉛粉)の量が減少するので放電容量が低下する。膨張化黒鉛及び/又はカーボンウィスカー(グラファイトウィスカー)の添加量が負極活物質の質量に対して3.0質量%までは、定格5時間率容量に対して100%以上であり、定格を満たす(B1〜B3、C2〜C4、D2〜D4、E2〜E4、F2〜F4、G2〜G4、K1〜K3、L1〜L3、M1〜M3、N1〜N3、O1〜O3、P1〜P3、S1〜S3、T1〜T3、U1〜U3、V1〜V3、X1〜X3、Y1〜Y3、Z1〜Z3、AA1〜AA3、AC1〜AC3、AD1〜AD3、AE1〜AE3、AF1〜AF3)。
【0062】
膨張化黒鉛及び/又はカーボンウィスカー(グラファイトウィスカー)の添加量が増加すると減液速度はやや増加するが、ストラップ中のSb量が5000質量ppm以下の場合、膨張化黒鉛及び/又はカーボンウィスカー(グラファイトウィスカー)の添加量が負極活物質の質量に対して0.5〜3.0質量%の範囲で、減液は抑制されている(B1〜B3、C2〜C4、D2〜D4、E2〜E4、F2〜F4、G2〜G4、K1〜K3、L1〜L3、M1〜M3、N1〜N3、O1〜O3、P1〜P3、S1〜S3、T1〜T3、U1〜U3、V1〜V3、X1〜X3、Y1〜Y3、Z1〜Z3、AA1〜AA3、AC1〜AC3、AD1〜AD3、AE1〜AE3、AF1〜AF3)。膨張化黒鉛及び/又はカーボンウィスカーの添加量が、負極活物質の質量に対して3.0質量%を超えると、減液速度が増加する(No.B4、C5、D5、E5、F5、G5、K4、L4、M4、N4、O4、P4、S4、T4、U4、V4、X4、Y4、Z4、AA4、AC4、AD4、AE4、AF4)。
ストラップ中のSb量が5000質量ppmを超えると、減液速度が顕著に増加する(No.H1〜H5、J1〜J5、Q1〜Q4、R1〜R4、W1〜W4、AB1〜AB4、AG1〜AG4)ので、好ましくない。
【0063】
負極活物質中に膨張化黒鉛及び/又はカーボンウィスカー(グラファイトウィスカー)を添加した場合、アセチレンブラックを添加した場合と比べて、添加量を増加しても、電解液への遊離カーボン量は顕著に少ない(No.A1〜A4とB1〜B4、C2〜C5、D2〜D5、E2〜E5、F2〜F5、G2〜G5、K1〜K4、L1〜L4、M1〜M4、N1〜N4、O1〜O4、P1〜P4、S1〜S4、T1〜T4、U1〜U4、V1〜V4、X1〜X4、Y1〜Y4、Z1〜Z4、AA1〜AA4、AC1〜AC4、AD1〜AD4、AE1〜AE4及びAF1〜AF4との比較)。
【0064】
膨張化黒鉛及び/又はカーボンウィスカーの添加量が増加すると負極耳痩せが発生するが、ストラップ中のSb量が5000質量ppm以下の場合、膨張化黒鉛及び/又はカーボンウィスカーの添加量が負極活物質の質量に対して0.5〜3.0質量%の範囲では、初期の厚みに対して十分に少ない量である(B1〜B3、C2〜C4、D2〜D4、E2〜E4、F2〜F4、G2〜G4、K1〜K3、L1〜L3、M1〜M3、N1〜N3、O1〜O3、P1〜P3、S1〜S3、T1〜T3、U1〜U3、V1〜V3、X1〜X3、Y1〜Y3、Z1〜Z3、AA1〜AA3、AC1〜AC3、AD1〜AD3、AE1〜AE3、AF1〜AF3)。膨張化黒鉛及び/又はカーボンウィスカーの添加量が、負極活物質の質量に対して3.0質量%を超えると、負極耳痩せが増大する(No.B4、C5、D5、E5、F5、G5、K4、L4、M4、N4、O4、P4、S4、T4、U4、V4、X4、Y4、Z4、AA4、AC4、AD4、AE4、AF4)。
ストラップ中のSb量が5000質量ppmを超えると、負極耳痩せが増大し、10000ppm以上では負極耳痩せが50%以上進行する(No.H1〜H5、J1〜J5、Q1〜Q4、R1〜R4、W1〜W4、AB1〜AB4、AG1〜AG4)。この場合、高率放電時に溶断する可能性があるので、上限を5000ppmとする。
【0065】
以上のとおり、本発明においては、正および負極格子は実質的にSbを含まないPb−Ca−Sn系合金からなり、正および負極ストラップは5000質量ppm以下のSbを含んだ鉛合金からなり、負極活物質中にカーボンを添加した鉛蓄電池において、前記カーボンの一部に膨張化黒鉛及び/又はウィスカー状カーボンを使用したことにより、寿命性能が顕著に向上し、減液が抑制され、負極耳痩せが抑制され、かつ、電解液への遊離カーボン量が少なく、電槽汚れなどのない鉛蓄電池が得られる。
また、膨張化黒鉛及び/又はウィスカー状カーボンの添加量の総量は0.5〜3.0質量%とすることが好ましい。
【0066】
本発明の鉛蓄電池は、上述したように、減液が抑制されているから、液式鉛蓄電池として用いられる。また、実施例1に記載したように、未化成の正および負極板を用いて電池を作製した後、電池に所定の希硫酸を注液して通電することにより、これらの極板群を電槽内において化成する、いわゆる電槽化成法で製造される液式鉛蓄電池に適用することができる。
【0067】
また、近年、自動車には、排出ガス削減を目的に、信号待ちなどで停車中はエンジンを停止し、発進時に再起動するアイドリングストップが求められるようになっているが、エンジン停止中、電力は、発電機からではなく、鉛蓄電池から供給されるため、鉛蓄電池は従来よりも深く放電されるようになり、さらに、過充電防止システムが導入されているため、鉛蓄電池は充電不足状態で使用されることが多くなった。
上記のように深い放電と慢性的な充電不足状態で使用されると、サルフェーションが発生したり、負極格子耳部の痩せ細りが生じて、寿命性能が低下する傾向にあるが、本発明の鉛蓄電池は、前述したように、寿命性能が顕著に向上し、負極耳痩せが抑制されているから、アイドリングストップ車用として最適である。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の鉛蓄電池は、寿命性能が顕著に向上し、減液が抑制され、負極耳痩せが抑制されているから、液式鉛蓄電池、アイドリングストップ車用鉛蓄電池として利用することができる。