(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
エキスパンド格子は、主に自動車用の鉛蓄電池に用いられるものであり、製造のし易さから広く普及している。
【0003】
より具体的に述べると、鉛蓄電池は、電槽内に電解液及びこの電解液に浸漬された正極及び負極の電極が配置され、この電極の基板として、エキスパンド格子が用いられている。
【0004】
エキスパンド格子は、主に鉛を主原料とするシート状材料から製造されるものであり、その製造方法により、カッターにより切り込みを入れた後に、この切り込み部分を拡開する後拡開方式と、カッターにより切り込みを入れると同時に、この切り込み部分を拡開する同時拡開方式とに分けられ、同時拡開方式は、カッターの刃の向きにより、更に、平行カッター方式と、直角カッター方式とに分かれる。拡開した後のシート状材料は、集電部となる耳部を形成するため、打ち抜き加工が行われる。打ち抜き後は、エキスパンド格子に対しペースト状活物質を充填し、個々のエキスパンド格子に分けられ、乾燥及び熟成を経て極板となる。
【0005】
エキスパンド格子の製造装置は、特許文献1の
図3に示すように、エキスパンド部分を製造するエキスパンド加工手段3と、エキスパンド格子に挟まれた部分を耳部に形成する耳部打ち抜き手段6とを有し、この間をローラからなる送り手段4を用いて、エキスパンド格子を搬送している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に示すエキスパンド格子の製造装置は、エキスパンド加工手段3にてストリップ2(シート状材料)を拡開していることから、シート外側より順次拡開するが、中央部は未加工部分を残すため、その伸延量の差異から歪が残り、たわみ、うねりが発生する。このため、エキスパンド格子はその平坦性を確保したまま、耳部打ち抜き手段6へと搬送することが困難で、たわみや、波状にうねった状態での搬送になってしまう。
【0008】
このような平坦性を確保しないままで搬送を行った場合は、耳部打ち抜き手段6にて打ち抜いた後にも、たわみ、うねりを維持したままとなり、後のペースト状活物質充填時に規定通りの充填が行えず、極板として不良品になってしまう。
【0009】
本発明は、このような問題点に鑑み、鉛を主原料とするシート材料のエキスパンド加工手段から、耳部打ち抜き手段に到るまでのうねり及びたわみを除去し、平坦な状態で耳部打ち抜き手段へと搬送可能なエキスパンド格子製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るエキスパンド格子製造装置は、以下のものである。
【0011】
(1)鉛を主原料とするシート材料のエキスパンド加工手段と、このエキスパンド加工手段により加工されたエキスパンド格子の耳部を打ち抜き加工により形成する耳部打ち抜き手段と、前記エキスパンド加工手段から耳部打ち抜き手段へとエキスパンド格子を搬送する途中に設けられる搬送方向転換ロールと、この搬送方向転換ロールよりも下流側に設けられエキスパンド格子を通過させる上下一対の平坦化ロールとを備え、前記搬送方向転換ロールが、ロールの軸方向中央部に最大径を有する。又は、軸方向中央部から両端部へと向かう中間位置で、中央部から等しい寸法位置に最大を有することを特徴とする。
(2)上記(1)において、平坦化ロールは、上下何れか一方のロール表面が樹脂製であり、他方のロール表面が金属製であることを特徴とする。
(3)上記(2)において、表面が金属製であるロールを駆動ロールとし、表面が樹脂製であるロールを従動ロールとすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、搬送方向転換ロールを、ロールの軸方向中央部に最大径を有するものとする。又は、軸方向中央部から両端部へと向かう中間位置で、中央部から等しい寸法位置に最大を有するものとすることで、エキスパンド格子のたわみを除去し、その後の平坦化ロールにより、うねりを除去して平坦化し、平面形状を維持したまま、エキスパンド格子を耳部打ち抜き手段へと搬送できる。そのため、その後のペースト状活物質充填も不良とすることなく、確実に行うことができる。
【0013】
また、平坦化ロールが、上下何れか一方の表面を樹脂製としたものであり他方の表面を金属製としたものを使用した場合は、上下両方のロール表面を樹脂製とした場合よりも、押しつぶしの効果が高くなるため、シートが厚く剛性の高いエキスパンド格子であっても、うねりを除去して平坦化する事ができる。そして、一方の表面を樹脂製としているので、搬送に際しエキスパンド格子の滑りがない。
【0014】
更に、表面が金属製であるロールを駆動ロールとし、表面が樹脂製であるロールを従動ロールとする場合は、装置の機構上、従動ロールである表面が樹脂製であるロールの交換を行い易くなる。これは、表面を金属製とするロールに比べ、表面を樹脂製とするロールの方が、樹脂が削られ易く、交換頻度が高いためである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<エキスパンド格子基板の製造方法>
図1を用いて、エキスパンド格子の製造装置を説明する。
【0017】
エキスパンド格子製造装置は、エキスパンド加工手段1と、耳部打ち抜き手段2との間に送りロール3を挟んでいる。送りロール3は、搬送方向転換ロール5、テンションロール6、平坦化ロール7から構成されている。
【0018】
<エキスパンド加工手段>
本発明にて述べるエキスパンド加工手段1は、鉛を主原料とするシート状材料がエキスパンド加工されるものであれば特に制限はなく、先に述べた後拡開方式又は同時拡開方式の何れの方式であってもよく、同時拡開方式であれば、平行カッター方式又は直角カッター方式の何れでも用いることができる。
【0019】
また、エキスパンド加工手段1は、同時拡開方式で行うことが好ましく、シート状材料(例えば、鉛合金のストリップ)の幅方向の中央部を残しその両側に、同時拡開方式のエキスパンド加工手段1でエキスパンド加工を施して、連続したエキスパンド格子を形成する。同時拡開方式以外には、後拡開方式のものもあるが、エキスパンドの展開加工形状を変更する際に加工機の部材を交換した後、容易に高い精度を出そうとする場合は、後拡開刃の微調整を行うよりも、ユニット化された同時拡開部分を全交換する同時拡開方式が好ましい。
【0020】
<方向転換ロール>
本発明にて述べる搬送方向転換ロール5は、エキスパンド加工手段1から排出されたエキスパンド格子4の移送方向を変換するものであり、そのロールの軸方向中央部に最大径を有する。又は、軸方向中央部から両端部へと向かう中間位置で、中央部から等しい寸法位置に最大径を有するものであれば他に制限されるものではない。
【0021】
図2に、搬送方向転換ロール5の側面図を示す。ロールの軸方向中央部を最大径とするものは、
図2(a)に示すように、ロール軸方向中央部からロール両端部に向かってなだらかな曲線にて傾斜するものを用いることができる。
【0022】
尚、本図面では、なだらかな曲線を上に凸としているが、下に凸とする曲線にすることもできる。曲線ではなく直線としてもよい。
【0023】
また、軸方向中央部を最大径とするものは、
図2(b)に示すように、軸方向中央部から両端部へと向かう等しい寸法幅を最大径とし、最大径側縁から端部迄を上に凸とする曲線にて結ぶものを用いることができる。
【0024】
尚、最大径側縁から端部迄を、下に凸とする曲線で結び、凹み形状とすることもできる。曲線ではなく直線としてもよい。
【0025】
更に、軸方向中央部から両端部へと向かう中間位置で、中央部から等しい寸法位置に最大径を有するものは、
図2(c)に示すように、最大径側縁から端部迄を、上に凸とする曲線にて結ぶものを用いることができる。
【0026】
尚、最大径側縁から端部迄を、下に凸とする曲線で結び、凹み形状とすることもできる。曲線ではなく直線としてもよい。
【0027】
図3に示すように、エキスパンド格子4は、この搬送方向転換ロール5に当接されている部分において、エキスパンド格子4の幅方向中央部分又は中央近辺が押し上げられてたわみが取れ、エキスパンド格子4が全体として一様な樽型に変形する。そして、この樽型が、後述する平坦化ロール7により平坦化される。
【0028】
搬送方向転換ロール5の直径は適宜設定されるものであるが、具体的には、最大径を100〜500mmとし、最小径を10〜100mmとすることができる。
【0029】
搬送方向転換ロール5の材質は、エキスパンド格子4よりも高い高度を有するものであれば特に制限されるものではないが、具体的には、鉄、ステンレス等を用いることができ、中でもステンレスを用いることが、強度、耐食性に優れ好ましい。
【0030】
<テンションロール>
本発明にて述べるテンションロール6は、搬送方向転換ロール5から送られたシート状被加工材4を次の平坦化ロール7に送る途中に設けられる。エキスパンド加工手段1は加工速度が速いので、次の工程につなげるために、エキスパンド格子4はある程度たるませた状態で送られる。テンションロール6は上下に可動し、シート状材料4を一定のテンションかけた状態で平坦化ロール7に送る。
【0031】
<平坦化ロール>
本発明にて述べる平坦化ロール7は、搬送方向転換ロール5よりも下流側に設けられ、上下一対のロールで、この上下ロールの間にエキスパンド格子4を通過させるものである。
【0032】
平坦化ロール7は、上ロールと下ロールの間にエキスパンド格子4を通過させ挟持することで、樽型となっているエキスパンド格子材4を平坦化するもので、一方のロール表面を樹脂製とし、他方のロール表面を金属製とすることが好ましい。このようにすることで、エキスパンド加工時の凹凸と、搬送方向転換ロールで解消しきれない凹凸を取り去りさる効果がある。
【0033】
前記一方のロール表面を構成する樹脂としては、特に制限されるものではないが、ポリプロピレン、塩化ビニル樹脂、ポリエチレンテレフタレート等を用いることができ、特にポリプロピレンを用いることが、コスト面において好ましい。
【0034】
また、樹脂製のロール表面は、金属製ロールを厚み3〜30mmの樹脂層で被覆して構成することが好ましい。3mm未満であると、樹脂の弾力性が小さい為エキスパンド格子を潰しすぎてしまう。逆に30mmを超える厚みでは効果に差がなく、コストのみが上昇することになる。
【0035】
平坦化ロール表面を金属製とする際の材質は、搬送方向転換ロールの材質と同じでも異なっても良いが、熱膨張係数が同じであることが望ましいので、同じ材質のものを使用することが好ましい。
【0036】
金属としては、特に制限されるものではないが、鉄、ステンレス鋼等を用いることができ、特に鉄に鍍金加工を施した物を用いることがコスト面から好ましい。
【0037】
平坦化ロールの表面を樹脂製したものと、金属製としたものとは、どちらが上ロールでも下ロールでも良いが、表面が金属製であるロールを駆動ロールとし、樹脂製であるロールを従動ロールとすることが好ましい。これは、樹脂製のロールは、摩耗により交換しなければならない頻度が、金属製のロールよりも高いので、より交換作業を短時間で終えられる従動ロールにしたほうが、交換作業が行いやすい為である。
【0038】
<耳部打ち抜き手段>
本発明にて述べる耳部打ち抜き手段2は、型を用いたプレス加工により、エキスパンド格子の耳部の形成を行う。また、ロールの表面に打ち抜き用の加工歯を施した回転式の切断機により行うこともできる。
【実施例】
【0039】
本発明を実施例及び比較例により、好ましい実施形態を詳細に説明する。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0040】
<実施例1>
基本設計として、
図1に示すエキスパンド製造装置を使用する。このとき、搬送方向転換ロール5として、
図2(a)に示す形状のものを用いた。これは、軸方向長さ:400mm、軸方向中央部の最大径:160mm、軸方向両端部の最小径:100mmである。そして、軸方向中央と軸方向両端部とを直線的に結んだ形状ものを用いた。平坦化ロール7として、表面を金属製とした駆動ロールと、表面を金属製とした従動ロールを用いた。
【0041】
<実施例2>
実施例1において、平坦化ロール7として、表面を金属製とした駆動ロールと、表面を樹脂製(樹脂:ポリプロピレン、樹脂層厚み:20mm)とした従動ロールを用いた。従動ロールは、軸方向長さ:400mm、ロール径:100mmの金属製であり、軸方向中央部に30mmで前記樹脂層による被覆をした構成とする。
【0042】
<実施例3>
実施例1において、平坦化ロール7として、表面を金属製とした駆動ロールと、表面を樹脂製(樹脂:ポリプロピレン、樹脂層厚み:20mm)とした従動ロールを用いた。従動ロールは、軸方向長さ:400mm、ロール径:100mmの金属製であり、軸方向中央部に100mmで前記樹脂層による被覆をした構成とする。
【0043】
<実施例4>
実施例1において、平坦化ロール7として、表面を金属製とした駆動ロールと、表面を樹脂製(樹脂:ポリプロピレン、樹脂層厚み:20mm)とした従動ロールを用いた。従動ローラは、軸方向長さ:400mm、ロール径:100mmの金属製であり、軸方向全長に亘って前記樹脂層による被覆をした構成とする。
【0044】
<比較例1>
基本設計として、
図1に示すエキスパンド製造装置を使用し、搬送方向転換ロール5として、軸方向長さ:400mm、径:100mm(軸方向全長に亘って均一な径)を用いた。また、平坦化ロール7として、実施例2と同様のものを用いた。
【0045】
<評価>
前述した実施例1〜4と、比較例1とでエキスパンド格子を製造し評価した。評価方法は以下の通り。
(ア)工程の停止状況1時間の工程稼動中、うねり及びたわみによる打ちぬき加工機での異常停止の回数とし、停止無し:○、停止1〜2回:△、停止3回以上:×とした。
(イ)エキスパンド格子の寸法異常1時間の工程稼動中、うねり及びたわみによる寸法異常が発生した回数とし、異常発生無し:○、異常発生1〜2回:△、異常発生3回以上:×とした。
【0046】
なお、工程の停止が無い場合は、個別に裁断したエキスパンド格子約10000枚/時を製造できるが、1回停止すると、異常品の排除や工程チェックなどで再稼動に15分程かかってしまう。そのため、生産数量が大幅に減少し、製造歩留まりも低下する。
【0047】
上記評価結果を表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
表1の評価結果から、以下のことが言える。
【0050】
比較例1においては、エキスパンド格子にうねり及びたわみが多発し、工程の停止が多く、寸法異常も多い。対して、本発明の実施例1〜4では、それらが改善された。特に実施例4では、平坦化ロールの全表面を樹脂にて被覆したことにより、寸法異常の無いエキスパンド格子を安定して製造することができた。
【0051】
以上のように本発明では、うねり及びたわみが少なく、寸法異常の少ないエキスパンド格子を製造できることが分かる。
【0052】
上記実施例1〜4は、
図2の(a)の形状についてであるが、
図2の(b)(c)の形状においても同様の効果が得られた。