(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第1の導体パターンにて構成された第1の伝送線路と、第2の導体パターンで形成された第2の伝送線路とが、互いに並行でかつ近接して配置されて構成された結合伝送線路を有するバランであって、
前記第1の伝送線路では、第1端子は第1の負荷に接続され、第2端子は第2の負荷に接続されており、
前記第2の伝送線路では、前記第2の負荷側に対向する第3端子は前記第2の負荷とインピーダンスの等しい第3の負荷が接続され、前記第1の負荷側に対向する第4端子は短絡されており、
前記結合伝送線路における奇モード特性インピーダンスZooを、前記第1の負荷におけるインピーダンスZS、第2の負荷または第3の負荷におけるインピーダンスZLに対して、
(数1)
Zoo=√(ZS・ZL/2) 式(1)
の関係式を満足するようにし、かつ、前記結合伝送線路における偶モード特性インピーダンスZoeを、
(数2) 式(2)
1/Zoe≒0
となるようにしたことを特徴とするバラン。
線路状の形状を有する、第1の導体パターンと第2の導体パターンとが、誘電体層を挟んで、互いに並行でかつ近接して配置されて構成されたサスペンデッド線路を有するバランであって、
前記第1の導体パターンでは、第1端子は第1の負荷に接続され、第2端子は第2の負荷に接続されており、
前記第2の導体パターンでは、前記第2の負荷側に対向する第3端子は前記第2の負荷とインピーダンスの等しい第3の負荷が接続され、前記第1の負荷側に対向する第4端子は短絡されており、
前記サスペンデッド線路における特性インピーダンスZSUSを、前記第1の負荷におけるインピーダンスZS、第2の負荷または第3の負荷におけるインピーダンスZLに対して、
(数3)
ZSUS=√(2・ZS・ZL) 式(3)
の関係式を満足するようにしたことを特徴とするバラン。
【背景技術】
【0002】
バランは、平衡モードで伝播する信号と不平衡モードで伝播する信号とを変換するものであり、アンテナやミクサ、逓倍器、増幅器などの多くの回路に用いられている。バランにおいて、その高性能化、小型化、低コスト化は重要である。特に、小型化が可能なバランとして、Microwave Integrated Circuit(MIC)や、Monolithic Microwave Integrated Circuit(MMIC)などの集積回路技術により構成可能な、平面構造(プレーナタイプ)のマーチャントバランが提案され、広く用いられている。
【0003】
このようなマーチャントバランの一例として、非特許文献1に示されたマーチャントバランの等価回路図を
図13に示す。図示されたマーチャントバランは、2つの1/4波長の結合伝送線路1001,1002が組み合わされて構成されており、入力端子から入力された不平衡モード信号が、第1の結合伝送線路1001と第2の結合伝送線路1002とを順次伝播し、2つの出力端子に、逆相で同振幅の平衡モード信号が出力され、バランとして動作するとされている。
【0004】
このように、マーチャントバランでは、2つの1/4波長の結合伝送線路を組み合わせて構成されるため、特に周波数が低くなると線路長が長くなってしまう。この結果、回路が大きくなったり、線路損失が増大する問題があった。また、2つの結合伝送線路の周波数特性が重ね合わされる結果、十分な広帯域性能が得られない等の問題もあった。
【非特許文献1】K.S.Ang and I.D.Robertson: "Analysis and Design of Impedance-Transforming Planar Marchand Baluns", IEEE Trans. On MTT, Vol.49, No.2, pp402-406, Feb. 2001.
【0005】
また、特開2010−021630号公報には、広帯域バランが提案されている。当該公報の
図3に示された広帯域バランは、長さがλ/4の第1のストリップ線路と、長さが3λ/4の第2のストリップ線路とを備えている。
【特許文献1】特開2010−021630号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述したようなマーチャントバランにおける問題を解決し、小型化が可能で低損失であり、広帯域な周波数に対応できるバランを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によるバランでは、結合伝送線路またはサスペンデッド線路が1つでも、バランとして動作するように構成されたものであり、結合伝送線路は、2つの伝送線路が互いに並行でかつ近接して配置されて構成されており、サスペンデッド線路は、2つの導体パターンが空気層または誘電体層を挟んで、互いに並行でかつ近接して配置されて構成されている。線路の長さは、動作周波数帯域の中心周波数にて、1/4波長となっていることが好ましい。
【0008】
本発明のうち、結合伝送線路を有するバランは、
第1の導体パターンにて構成された第1の伝送線路と、第2の導体パターンで形成された第2の伝送線路とが、互いに並行でかつ近接して配置されて構成された結合伝送線路を有するバランであって、
前記第1の伝送線路では、第1端子は第1の負荷に接続され、第2端子は第2の負荷に接続されており、
前記第2の伝送線路では、前記第2の負荷側に対向する第3端子は前記第2の負荷とインピーダンスの等しい第3の負荷が接続され、前記第1の負荷側に対向する第4端子は短絡されており、
前記結合伝送線路における奇モード特性インピーダンスZ
ooを、前記第1の負荷におけるインピーダンスZ
S、第2の負荷または第3の負荷におけるインピーダンスZ
Lに対して、
(数1)
Z
oo=√(Z
S・Z
L/2) 式(1)
の関係式を満足するようにし、かつ、前記結合伝送線路における偶モード特性インピーダンスZ
oeを、
(数2)
1/Z
oe≒0 式(2)
となるようにしたことを特徴とする。
【0009】
本発明のうち、サスペンデッド線路を有するバランは、
線路状の形状を有する、第1の導体パターンと第2の導体パターンとが、誘電体層を挟んで、互いに並行でかつ近接して配置されて構成されたサスペンデッド線路を有するバランであって、
前記第1の導体パターンでは、第1端子は第1の負荷に接続され、第2端子は第2の負荷に接続されており、
前記第2の導体パターンでは、前記第2の負荷側に対向する第3端子は前記第2の負荷とインピーダンスの等しい第3の負荷が接続され、前記第1の負荷側に対向する第4端子は短絡されており、
前記サスペンデッド線路における特性インピーダンスZ
SUSを、前記第1の負荷におけるインピーダンスZ
S、第2の負荷または第3の負荷におけるインピーダンスZ
Lに対して、
(数3)
Z
SUS=√(2・Z
S・Z
L) 式(3)
の関係式を満足するようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によるバランでは、結合伝送線路またはサスペンデッド線路を1つのみ用いて構成できるので、結合伝送線路を2つ用いて構成される、従来のマーチャントバランに比べて、回路の小型化および低損失化を図れる効果がある。また、設計中心周波数f
dを中心にして、直流に極めて近い低周波数から、2次高調波2f
dに極めて近い高周波数までの超広帯域で、良好な性能を得られるという効果がある。
【0011】
なお、本出願書類の特許請求の範囲や明細書において、例えば、「結合伝送線路またはサスペンデッド線路の長さを、動作帯域の中心周波数において、1/4波長の長さにする」といった場合、厳密に1/4波長の長さに合致している必要はなく、例えば比帯域100%のバランを設計する場合、±25%程度の誤差があってもよい。
【0012】
また、本発明によるサスペンデッド線路を有するバランにおいて、第1の導体パターンと第2の導体パターンは、誘電体層を挟んで、互いに並行でかつ近接して配置されて構成されたサスペンデッド線路を構成しているが、本出願書類の特許請求の範囲や明細書において誘電体層とは、誘電体物質で構成される場合だけでなく、空気層で構成されてもよい。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(実施形態1)
本発明の実施形態1によるバランの等価回路図を、
図1に示す。
実施形態1によるバラン1は、第1の導体パターン101にて構成された第1の伝送線路11と、第2の導体パターン102で形成された第2の伝送線路12とが、互いに並行でかつ近接して配置されて構成された結合伝送線路13を有し、
前記第1の伝送線路11では、第1端子21は第1の負荷41に接続され、第2端子22は第2の負荷42に接続されており、
前記第2の伝送線路12では、前記第2の負荷42側に対向する第3端子23は前記第2の負荷42とインピーダンスの等しい第3の負荷43が接続され、前記第1の負荷41側に対向する第4端子24は短絡されており、
前記結合伝送線路13における奇モード特性インピーダンスZ
ooを、前記第1の負荷41におけるインピーダンスZ
S、第2の負荷42または第3の負荷43におけるインピーダンスZ
Lに対して、
(数1)
Z
oo=√(Z
S・Z
L/2) 式(1)
の関係式を満足するようにし、かつ、前記結合伝送線路13における偶モード特性インピーダンスZ
oeを、
(数2)
1/Z
oe≒0 式(2)
となるようにしたことを特徴とする。
【0015】
なお、本出願書類の特許請求の範囲や明細書において、特性インピーダンスZ
ooが関係式を満足するとは、厳密に等号が成り立っている必要はなく、例えば±25%程度の誤差があってもよい。
【0016】
以下、本発明のバランにおいて、上述した式(1)と式(2)の導出について述べる。なお、以下では、便宜上アドミタンスを用いて解析する。
図1において、結合伝送線路13の長さが設計中心周波数f
dにおいて、1/4波長の場合、各端子(21〜24)の端子電圧V
i(i=1〜4)と、端子電流I
i(i=1〜4)との間には、以下の式(4)の関係が成り立つ。
【0017】
【数4】
(数5)
I
1/V
1 =Y
in 式(5)
(数6)
−I
2/V
2 =Y
L 式(6)
(数7)
−I
3/V
3 =Y
L 式(7)
(数8)
V
4 =0 式(8)
【0018】
ただし、式(4)の行列式におけるBとCは、以下のように与えられる。
(数9)
B=−j/2(Y
oo+Y
oe) 式(9)
(数10)
C=j/2(Y
oo−Y
oe) 式(10)
【0019】
なお、ここで以下のインピーダンスとアドミタンスの関係がある。
Y
in=1/Z
in,Y
S=1/Z
S,Y
L=1/Z
L,Y
oo=1/Z
oo,Y
oe=1/Z
oe
【0020】
式(4)〜式(10)から、
(数11)
V
2 =j(Y
oo+Y
oe)・V
1/2Y
L 式(11)
(数12)
V
3 =−j(Y
oo−Y
oe)・V
1/2Y
L 式(12)
となり、V
2とV
3とは逆相になっていることが分かる。
【0021】
さらに、式(11)と式(12)とから、
(数13)
V
3/V
2 =−(Y
oo−Y
oe)/(Y
oo+Y
oe) 式(13)
【0022】
一方、バランとして動作する場合、次式が成り立つ必要がある。
(数14)
V
3/V
2 =−1 式(14)
式(13)と式(14)とから、
(数15)
Y
oe =0 式(15)
となる必要がある。
【0023】
一方、式(4)〜式(10)から、
(数16)
I
1/V
1=Y
in =(Y
oo2+Y
oe2)/2Y
L 式(16)
であり、入力側の整合条件から、
(数17)
Y
in =Y
S 式(17)
である。式(16)、式(17)、式(15)から、
(数18)
Y
oo =√(2Y
S・Y
L) 式(18)
となり、式(15)と式(18)を、それぞれインピーダンス表示すると、
(数19)
1/Z
oe =0 式(19)
(数20)
Z
oo =√((Z
S・Z
L)/2) 式(20)
となる。
以上により、式(1)と式(2)とが導出された。
【0024】
上述した式(1)と式(2)とを満足すれば、バランとして動作することを、以下のシミュレーションにより検証してみる。
【0025】
一例として、以下の条件のもとで、バラン特性をシミュレーションした結果を、
図2Aから
図2Dに示す。
f
d =50GHz
Z
S =Z
L =50Ω
Z
oo =√((Z
S・Z
L)/2)≒35.35Ω
Z
oe =100kΩ
【0026】
なお、Z
oeは理想的なシミュレーションを考えると、無限大のインピーダンスにすべきであるが、シミュレーションの収束性や実際の回路設計を考慮して、十分に大きな有限の値である100kΩとした。
【0027】
図2Aに、第1端子21からみたリターンロス|S
11|を示している。直流のごく近傍から2次高調波2f
d=100GHzのごく近傍までの超広帯域にわたり、リターンロス|S
11|≦−10dBとなっている。
【0028】
図2Bに第1端子21から第2端子22に通過する信号の通過特性|S
21|を、
図2Cに第1端子21から第3端子23に通過する信号の通過特性|S
31|を、それぞれ示している。いずれの場合も、直流のごく近傍から2次高調波2f
d=100GHzのごく近傍までの超広帯域にわたり、通過特性|S
21|=|S
31|=−3.0〜−3.5dBとなっている。
【0029】
図2Dに、第1端子21から第2端子22に通過する信号の通過位相∠S
21と、第一端子21から第3端子23に通過する信号の通過位相∠S
31を示している。直流のごく近傍から2次高調波2f
d=100GHzのごく近傍までの超広帯域にわたり、∠S
21と∠S
31の差は、∠S
31−∠S
21≒180°となっている。
【0030】
以上の示した結果より、直流に極めて近い周波数から、2次高調波2f
dに極めて近い周波数までの超広帯域にわたり、
通過特性:|S
21|=|S
31|=−3.0〜−3.5dB,
位相差:∠S
31−∠S
21≒180°,
リターンロス:|S
11|≦−10dB
の性能が得られることが示され、バランとして動作することが分かる。
【0031】
この結果から、本発明によるバランは、結合伝送線路の長さLを適当に与えた場合、その長さが1/4波長となる設計周波数f
dが決まる。もし、反射と分配特性が若干劣化してもよい場合、直流に極めて近い周波数から、2次高調波2f
dに極めて近い周波数までの超広帯域にわたり、バランとして動作するといえる。
【0032】
図2A〜
図2Dに示したシミュレーション結果から、以下のことがいえる。反射と分配特性の若干の劣化を許容できる場合、結合伝送線路部の長さLは、必ずしも動作周波数の1/4波長となるように決める必要はない。動作周波数f
mの半分の周波数、すなわちf
m/2で1/4波長となる長さL'に対し、L<L'である任意の長さLであればよい。
【0033】
(実施形態2)
一方、反射と分配特性も十分よくする必要がある場合は、結合伝送線路の長さを動作帯域の中心周波数において、1/4波長の長さにするのがよい。
【0034】
本発明による実施形態1および実施形態2のバランは、それぞれ結合伝送線路の長さが異なるだけで、基本的に同じ構造で実現できる。このようなバランを、マイクロ波集積回路技術で実現するための具体的な構造図を、
図3に示す。
【0035】
誘電体基板10の表面には、導体パターン101と102が、逆三角形の線路状に形成されている。誘電体基板10の裏面には、グランドとなる導体パターン16が形成されている。誘電体基板10としては、例えばガラスエポキシ基板などを例示でき、導体パターンとしては例えば銅箔を例示でき、さらに銅箔に金めっきを施したものも好ましく使用できる。なお、誘電体基板や導体パターンとして使用できるものであれば、これらの例示に限られない。
このような構造とすることにより、マイクロストリップ線路で構成されたマイクロ波集積回路が形成される。
【0036】
図3に示すように、実施形態1および実施形態2によるバラン1は、誘電体基板10の表面に、第1の導体パターン101にて構成された第1の伝送線路11と、第2の導体パターン102で形成された第2の伝送線路12とが、互いに並行でかつ近接して配置され、4つの端子(21,22,23,24)を有する結合伝送線路13を構成している。
【0037】
結合伝送線路13において、第1端子21は第1の負荷41に接続された第1のマイクロストリップ線路31に、第2端子22は第2の負荷42に接続された第2のマイクロストリップ線路32に、第3端子23は第3の負荷43に接続された第3のマイクロストリップ線路33にそれぞれ接続されている。
【0038】
図3(b)は、
図3(a)のA−A矢視断面を示す。
図3(b)に示すように、第4端子24は、ビアホール14などを通じて、誘電体基板10の裏面に形成された、グランドとなる面状の導体パターン16に接続される構造となっている。
【0039】
そして、誘電体基板10の裏面における面状の導体パターン16は、結合伝送線路13の形成された部分に対応する部分が削除された構造となっている。このように、結合伝送線路13の形成された部分に対応する部分が削除されることにより、結合伝送線路13の偶モード特性インピーダンスZ
oeを十分大きな値にすることができる。
なお、
図3では、誘電体基板10の裏面における面状の導体パターン16が形成されている領域に、クロスハッチングを施している(後述する、
図7,
図11および
図12においても同様である)。
【0040】
一方、結合伝送線路13を構成する、第1の導体パターン101と第2の導体パターン102との、それぞれの線幅W1,W2および間隔Sを適切に設定することにより、所望の奇モード特性インピーダンスZ
ooを実現できる。
ここで、結合伝送線路13の長さLは、動作周波数f
mの半分の周波数、すなわちf
m/2で1/4波長となる長さL'に対し、L<L'であれば、任意の長さLであっても、バランとして動作する。
【0041】
特に、結合伝送線路13の長さLを動作帯域の中心周波数において、1/4波長となる長さに選ぶと、良好な反射と分配特性を実現できることは、もちろんである。
【0042】
なお、ここで結合伝送線路13の各端子(21〜24)は、近接して配置されるとよい。こうすることにより、各端子(21〜24)に対応するグランドを高周波域においても同電位にすることが可能となり、理想的なバランとして動作させることができる。
【0043】
(実施形態3)
本発明の実施形態3によるバラン5における等価回路図を、
図4に示す。
図4に示した実施形態3によるバラン5は、上述した実施形態1によるバラン1と、等価回路図としては同様ではあるが、第1の導体パターン51と第2の導体パターン52とが、誘電体層を挟んで、互いに並行でかつ近接して配置されてサスペンデッド線路53を構成していることが、異なる点である。
【0044】
そして、サスペンデッド線路53の特性インピーダンスZ
SUSは、前記第1の負荷41のインピーダンスZ
S、第2の負荷42または第3の負荷43のインピーダンスZ
Lに対して、
(数3)
Z
SUS =√(2Z
S・Z
L) 式(3)
の関係式を満足するように選ばれ、構成されている。
【0045】
なお、本出願書類の特許請求の範囲や明細書において、特性インピーダンスZ
SUSが関係式を満足するとは、厳密に等号が成り立っている必要はなく、例えば±25%程度の誤差があってもよい。
【0046】
以下に、上述の式(3)の導出について述べる。
マイクロストリップ線路やサスペンデッド線路などの、TEMモードないしは準TEMモードで伝播する伝送線路系の特性は、単位長あたりのキャパシタンスを用いて表したキャパシタンスモデルを用いて解析できる。
【0047】
まず、結合伝送線路の場合について述べる。
図5は、結合伝送線路のキャパシタンスモデルの図であり、無限遠方にグランドを有している。このとき、偶モードにおける単位長あたりのキャパシタンスC
evenと、奇モードにおける単位長あたりのキャパシタンスC
oddとは、
図5に示されたC
1,C
1',C
2を用いて、それぞれ式(21)と式(22)とで表すことができる。
(数21)
C
even=C
1 式(21)
(数22)
C
odd =C
1'+C
2 式(22)
【0048】
さらに、偶モード特性インピーダンスZ
oeと奇モード特性インピーダンスZ
ooとは、それぞれ式(23)と式(24)とで表すことができる。
(数23)
Z
oe=1/(ν
eC
even) 式(23)
(数24)
Z
oo=1/(ν
oC
odd) 式(24)
ここで、ν
eは偶モード伝播速度、ν
oは奇モード伝播速度である。
【0049】
図5の場合、グランドは無限遠方にあるとしているので、
(数25)
C
1≒C
1'≒0 式(25)
したがって、
(数26)
Z
oe=∞ 式(26)
(数27)
Z
oo=1/(ν
oC
2) 式(27)
が導かれる。
【0050】
ただし、明細書にて使用できる文字に制限がある関係で、本出願書類の特許請求の範囲や明細書において、≒は近似的に等しいという意味で使用するものとする。
【0051】
続いて、サスペンデッド線路の場合について述べる。
図6は、サスペンデッド線路のキャパシタンスモデルである。サスペンデッド線路の単位長あたりのキャパシタンスC
SUSは、
図5との比較から、
(数28)
C
SUS=C
2/2 式(28)
で与えられ、さらに特性インピーダンスZ
SUSは次式で与えられる。
(数29)
Z
SUS=1/(ν
oC
SUS)=2/(ν
oC
2)=2Z
oo 式(29)
【0052】
すなわち、サスペンデッド線路の特性インピーダンスZ
SUSは、これと形状が等しく、かつ、グランドが無限遠方にある結合伝送線路の奇モード特性インピーダンスZ
ooの2倍の値となっている。
さらに、式(1)と式(29)の関係から、
Z
SUS=2Z
oo=2√((Z
S・Z
L)/2)=√(2Z
S・Z
L) 式(30)
となり、式(3)が導かれた。
【0053】
以上のことから、
図4に示したサスペンデッド線路53を構成する第1の導体パターン51と第2の導体パターン52とは、実施形態1に示した結合伝送線路を構成する第1の導体パターン101と第2の導体パターン102に、それぞれ相当する。したがって、
図4に示したサスペンデッド線路53は、実施形態1に示した結合伝送線路13と同等の動作をする。
【0054】
例えば、
図4に示した構成のバラン5において、
f
d =50GHz
Z
S =Z
L =50Ω
Z
SUS =√(2Z
S・Z
L)≒70.7Ω
とすると、
図2と同等のシミュレーション結果が得られ、直流に極めて近い周波数から、2次高調波2f
dに極めて近い周波数までの超広帯域にわたり、
通過特性:|S
21|=|S
31|=−3.0〜−3.5dB,
位相差:∠S
31−∠S
21≒180°,
リターンロス:|S
11|≦−10dB
の性能が得られることが示され、バランとして動作することが分かる。
【0055】
以上の結果から、反射と分配特性の若干の劣化を許容できる場合、サスペンデッド線路部の長さLは必ずしも動作周波数f
mで1/4波長となるように決める必要はなく、動作周波数f
mの半分の周波数、すなわちf
m/2で1/4波長となる長さL'に対し、L<L'であれば、任意の長さLであればよく、このことは実施形態1における説明と同様である。
【0056】
(実施形態4)
また、一方、反射と分配特性も十分よくする必要がある場合は、サスペンデッド線路の長さを動作帯域の中心周波数において、1/4波長の長さにするのがよい。その理由も実施形態2の説明と同様である。
【0057】
本発明による実施形態3および実施形態4のバランは、それぞれサスペンデッド線路の長さが異なるだけで、基本的に同じ構造で実現できる。このようなバランを、マイクロ波集積回路技術で実現するための具体的な構造図を、
図7に示す。
【0058】
実施形態3または4によるバラン5は、線路状の形状を有する、第1の導体パターン51と第2の導体パターン52とが、誘電体層501を挟んで、互いに並行でかつ近接して配置されて構成されたサスペンデッド線路53を有しており、
前記第1の導体パターン51では、第1端子21は第1の負荷41に接続され、第2端子22は第2の負荷42に接続されており、
前記第2の導体パターン52では、前記第2の負荷42側に対向する第3端子23は前記第2の負荷42とインピーダンスの等しい第3の負荷43が接続され、前記第1の負荷41側に対向する第4端子24は短絡されており、
前記サスペンデッド線路53における特性インピーダンスZ
SUSを、前記第1の負荷41におけるインピーダンスZ
S、第2の負荷42または第3の負荷43におけるインピーダンスZ
Lに対して、
(数3)
Z
SUS=√(2・Z
S・Z
L) 式(3)
の関係式を満足するようにしたことを特徴とする。
【0059】
このようなサスペンデッド線路53を構成するには、
図7に示したように、まず誘電体基板50の表面に、逆三角形で線路状の第2の導体パターン52が形成され、その上に誘電体層501が形成される。誘電体層501の表面には、上述の第2の導体パターン52に立体的に重なる位置に、逆三角形で線路状の第1の導体パターン51が形成される。誘電体基板50の裏面には、グランドとなる導体パターン56が形成されるとよい。このような構造とすることにより、マイクロストリップ線路で構成されたマイクロ波集積回路が形成される。
【0060】
なお、誘電体基板50および誘電体層501は、例えば、ガラスエポキシ基板、セラミック基板、Low Temperature Co-fiered Ceramic(LTCC)基板などを例示でき、さらにまた、Si基板や化合物半導体基板上に、多層に積層されたSiO
2やポリイミドなどの誘電体であってもよい。
【0061】
さらに、第1の導体パターン51において、第1端子21は第1のマイクロストリップ線路61を介して第1の負荷41に接続され、第2端子22は第2のマイクロストリップ線路62を介して第2の負荷42に接続されている。第2の導体パターン52において、第3端子23がビアホール54を通じて誘電体層501の表面に露出され、第3のマイクロストリップ線路63を介して第3の負荷43に接続されている。
【0062】
また、
図7(b)は、
図7(a)におけるB−B矢視断面を示している。
図7(b)に示すように、第2の導体パターン52の第4端子24は、誘電体基板50に形成されたビアホール55を通じて、グランドとなる面状の導体パターン56に接続されている。
【0063】
さらに、
図7に示したバランの斜視図を
図8に示す。
図8の斜視図では、第1の導体パターン51と第2の導体パターン52との重なり具合や、ビアホール54,55、グランドとなる面状の導体パターン56の様子がよく分かるように、部分断面としている。
【0064】
ここで、サスペンデッド線路53を構成する、第1の導体パターン51と第2の導体パターン52の、それぞれの線幅W1,W2および間隔Hを適切に設定することにより、所望のインピーダンスZ
SUSを実現できる。ここで、サスペンデッド線路53の長さLは、動作周波数f
mの半分の周波数、すなわちf
m/2で1/4波長となる長さL'に対し、L<L'であれば、任意の長さLであっても、バランとして動作する。
【0065】
特に、長さLを動作帯域の中心周波数f
dにおいて、1/4波長となる長さに選ぶと、良好な反射と分配特性を実現できることは、もちろんである。
【0066】
なお、ここでサスペンデッド線路53の各端子(21〜24)は近接して配置することにより、各端子(21〜24)に対応するグランドを高周波においても同電位にすることが可能となり、理想的なバランとして動作させることができる。
【0067】
なお、上述した実施形態1と2では基板として誘電体基板を用いた場合について説明し、実施形態3と4では基板として誘電体基板とその一主表面に誘電体層を形成したものを用いた場合について説明した。しかしこれらに限られず、半導体基板を基板として用いてもよいし、半導体基板上に多層誘電体層を形成したものを用いてもよい。
【0068】
また、それぞれの負荷に接続される線路としては、マイクロストリップ線路を用いる場合について説明した。しかしこれに限られず、負荷に接続される線路としては、コプレナ線路、グランデッドコプレナ線路、トリプレート線路、あるいは同軸線路であってもよい。これらの線路における、代表的な断面構造の例を
図9に示す。
【0069】
図9(a)に示すコプレナ線路では、1つの導体パターン71を2つのグランドパターン76,76が、間隔を開けて平面的に挟むような構造を有している。
図9(b)に示すグランデッドコプレナ線路では、コプレナ線路の誘電体基板70の裏面側に、面状のグランドパターン77を形成した構造を有している。
【0070】
図9(c)に示すトリプレート線路では、誘電体基板70の表裏面側に、それぞれ面状のグランドパターン77,77を形成し、誘電体基板の内部に導体パターン71を形成した構造を有している。
図9(d)に示す同軸線路は、文字通り、同軸の中心部の導体81が伝送線路であり、シールド部82がグランドの役割であり、中心部の導体81の周囲を誘電体80が取り囲んでいる。
【0071】
さらに、結合伝送線路としては、サイドカップル形の構造を示した。さらに、適切な結合容量を実現するために、
図10のように、フローティング電極17を多層に配置した結合伝送線路構造としてもよい。これは、誘電体基板1000の表面上にフローティング電極17を形成し、その上に誘電体層を形成し、その誘電体層の上に結合伝送線路構を構成する、第1の導体パターン101と第2の導体パターン102とを形成したものである。
【0072】
また、
図3および
図7では、結合伝送線路およびサスペンデッド線路は三角形状のループで示したが、円形状、四角形状など、任意の形状のループであってよい。また、結合伝送線路およびサスペンデッド線路は1重ループの形状で示したが、小型化のため2重以上のループとしてもよい。
【0073】
実施形態1と2において、結合伝送線路を2重ループとした場合における、導体パターンの例を
図11に示す。
図11(a)における、A−A断面図を
図11(b)に、B−B断面図を
図11(c)に、それぞれ示す。
【0074】
図示したように、結合伝送線路を構成する、第1の導体パターン101と第2の導体パターン102とは2重ループを形成している。その特徴として、2重ループの内周側にある導体パターンの2つの始点は、その外側にある2本の導体パターンの下側を2つのビアホールを介することによって通過し、それぞれ第2端子と第3端子とに接続されている(B−B断面図を参照のこと)。したがって、誘電体基板10は、図示されたように2層構造となっている。
【0075】
また、実施形態3と4において、サスペンデッド線路を2重ループとして場合における、導体パターンの例を
図12に示す。
図12(a)における、A−A断面図を
図12(b)に、B−B断面図を
図12(c)に、それぞれ示す。
【0076】
図示したように、サスペンデッド線路53は2重ループを形成している。その特徴として、2重ループの内周側にある導体パターンの始点は、その外側にある導体パターンの下側を2つのビアホールを介することによって通過し、端子に接続されている。サスペンデッド線路は、2つの導体パターンが誘電体層を介して重なるように形成されているので、外側にある導体パターンの下側を通過させるためには、2つのビアホールを介する構造も2重の構造にする必要がある(B−B断面図を参照のこと)。したがって、誘電体基板は、図示されたように4層構造となっている。