(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5713211
(24)【登録日】2015年3月20日
(45)【発行日】2015年5月7日
(54)【発明の名称】テンポリン−SHa類縁体及びその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20150416BHJP
C07K 7/08 20060101ALI20150416BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20150416BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20150416BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20150416BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20150416BHJP
A01H 1/00 20060101ALI20150416BHJP
A61K 38/00 20060101ALI20150416BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20150416BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20150416BHJP
A61P 31/10 20060101ALI20150416BHJP
A61P 33/10 20060101ALI20150416BHJP
A61P 33/02 20060101ALI20150416BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20150416BHJP
A01N 37/46 20060101ALI20150416BHJP
A61L 27/00 20060101ALI20150416BHJP
A61C 8/00 20060101ALI20150416BHJP
【FI】
C12N15/00 AZNA
C07K7/08
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/00 101
A01H1/00 A
A61K37/02
A61P31/04
A61P31/12
A61P31/10
A61P33/10
A61P33/02
A01P3/00
A01N37/46
A61L27/00 Z
A61C8/00 Z
【請求項の数】17
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2012-500299(P2012-500299)
(86)(22)【出願日】2010年3月18日
(65)【公表番号】特表2012-520665(P2012-520665A)
(43)【公表日】2012年9月10日
(86)【国際出願番号】FR2010050487
(87)【国際公開番号】WO2010106293
(87)【国際公開日】20100923
【審査請求日】2013年3月7日
(31)【優先権主張番号】0951768
(32)【優先日】2009年3月19日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】596076573
【氏名又は名称】ユニヴエルシテ・ピエール・エ・マリー・キユリー・パリ・シス
(73)【特許権者】
【識別番号】511227015
【氏名又は名称】アンスティテュ・ドゥ・ルシェルシュ・プール・ル・デヴェロップマン
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT DE RECHERCHE POUR LE DEVELOPPEMENT
(73)【特許権者】
【識別番号】595040744
【氏名又は名称】サントル・ナショナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シャンティフィク
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
(74)【代理人】
【識別番号】100078662
【弁理士】
【氏名又は名称】津国 肇
(74)【代理人】
【識別番号】100135873
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 圭子
(72)【発明者】
【氏名】ラドラン,アリ
(72)【発明者】
【氏名】セレーノ,ドゥニ
(72)【発明者】
【氏名】アバシ,フェタン
(72)【発明者】
【氏名】ウリ,ブリュノ
(72)【発明者】
【氏名】アミシュ,モハメド
(72)【発明者】
【氏名】ニコラ,ピエール
【審査官】
名和 大輔
(56)【参考文献】
【文献】
Peptides,2008,29(9),p.1526-33
【文献】
Protein Pept.Lett.,2005,12(1),p.31-9
【文献】
Methods,2007,42(4),p.349-57
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
C07K 1/00−19/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗菌活性を示し、且つ、配列F−L−X1−G−I−V−G−M−L−G−K−L−F(式中、X1は、R、H及びKからなる群より選択されるアミノ酸である)を含む、13アミノ酸のサイズのペプチド、並びに前記ペプチドの機能誘導体及び薬学的に許容しうる塩。
【請求項2】
X1がKを表す、請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】
X1がRを表す、請求項1に記載のペプチド。
【請求項4】
X1がHを表す、請求項1に記載のペプチド。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のペプチドをコードする、核酸。
【請求項6】
請求項5に記載の核酸を含む、発現カセット。
【請求項7】
請求項5に記載の核酸又は請求項6に記載の発現カセットを含む、発現ベクター。
【請求項8】
請求項5に記載の核酸、請求項6に記載の発現カセット又は請求項7に記載の発現ベクターを含む、宿主細胞。
【請求項9】
少なくとも一つの請求項1〜4のいずれか一項に記載のペプチド並びに薬学的に許容しうる補助剤及び/又は賦形剤を含む、医薬組成物。
【請求項10】
局所投与に適する、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
医薬としての、請求項1〜4のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項12】
医薬が、細菌、ウイルス、真菌又は寄生生物による感染症を処置することを目的とする、請求項11に記載のペプチド。
【請求項13】
寄生生物が、リーシュマニア(Leishmania)属に属する、請求項12に記載のペプチド。
【請求項14】
微生物感染症の処置に使用するための、請求項1〜4のいずれか一項に記載のペプチド、請求項5に記載の核酸、請求項6に記載の発現カセット又は請求項7に記載のベクター。
【請求項15】
殺菌剤、防腐剤又は殺虫剤としての、請求項1〜4のいずれか一項に記載のペプチドの使用。
【請求項16】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のペプチドでコートされた又は前記ペプチドを含有する少なくとも一つの表面を有する本体を含む、医療デバイス又はインプラント。
【請求項17】
請求項5に記載の核酸、請求項6に記載の発現カセット又は請求項7に記載のベクターを含み、且つ、請求項1〜4のいずれか一項に記載のペプチドを発現可能な又は発現するトランスジェニック植物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な抗菌ペプチド、前記ペプチドを含む医薬組成物、及び、特に、医薬又は殺菌剤としてのその使用に関するものである。本発明は、また、前記新規なペプチドを発現するトランスジェニック植物に関する。
【背景技術】
【0002】
細菌の間の抗生物質耐性の進化及び伝播は、今日の主要な公衆衛生問題であり、特に、病院における多剤耐性株の出現が問題となっている。鋭意研究努力の結果、これらの耐性株に効果的な新規な抗生物質が開発された。しかし、使用を通して、これらの薬物に対する耐性機構が出現し、その有効性が制限されている。
【0003】
この事象を考慮すると、抗菌ペプチド(AMP)は、新規な治療薬剤の設計に非常に有望であると思われる。カチオン性抗菌ペプチドは、病原体に対して第一の防衛となる多細胞生物の自然免疫系の重要な構成要素の一つと考えられる。これらのペプチドへの関心の一つは、特に、多剤耐性株により引き起こされる感染症の処置において使用可能な、非常に広範な活性スペクトルを有することである。第二に、その作用機序が、微生物膜の浸透性又は急速な分解に基づいており、これによって、耐性機構の発生につながる可能性が低い。
【0004】
抗菌ペプチドは、植物、昆虫、両生類及び哺乳類で確認されている。両生類の皮膚は、主な抗菌ペプチド源であり、カエルの全ての種が、一般に、10〜15種のAMPからなる、その特定のペプチドレパートリーを有する。
【0005】
Ranidae科のカエルは非常に数が多く、この科は、現在、16の属と338の種を数える。これらのカエルは、13ファミリーに分類される非常に多様なAMPを合成及び分泌する(Conlon et al., 2008 and 2009)。このようなファミリーの一つであるテンポリンは、小さいサイズのAMP(通常、10〜14個の残基)を含み、その配列は、種によって大きく異なる。60種類を超えるテンポリンファミリーが同定されている。これらのテンポリンは、数種類のRana種、例えば、Rana temporaria(Simmaco et al., 1996)、Rana esculenta(Simmaco et al., 1990)、Rana japonica(Isaacson et al., 2002)、Rana ornativentris(Kim et al., 2001)及びPelophylax(Rana)saharica(Abbassi et al., 2008)から単離された。
【0006】
Ranidaeペプチドの他の12ファミリーとは異なり、テンポリンは、ジスルフィド架橋で環化したC−末端ヘプタペプチドドメインである「Rana box」部分が欠損している(Mangoni, 2006)。さらに、テンポリンの大部分が、生理学的pHにおいて+2の正味荷電を付与する単一の塩基性残基を含有する。
【0007】
一般的に、テンポリンは、特に、グラム陽性細菌及び酵母に対して活性であるが、これらは、また、抗真菌特性を示し(Rollins-Smith et al., 2003)、一部は、抗ウイルス特性も示す(Chinchar et al., 2004)。
【0008】
テンポリンA、B(Mangoni et al., 2006)及びSHa(Abbassi et al., 2008)に関する最近の研究から、これらのペプチドが、リーシュマニア症の病原体であるLeishmania属に属する原生動物に対して抗寄生生物活性を示すことが明らかとなった。これらのテンポリン以外では、下記のごくわずかのAMPが抗寄生生物活性を示すだけである:デルマセプチン及びポリペプチドYY(これも、カエルの皮膚から単離);インドリシジン(ウシの好中性顆粒から単離);ゴメシン(クモのAcanthoscurria gomesianaから単離);セクロピン−メリチンハイブリッド(昆虫分子から得られた)。
【0009】
リーシュマニア症は、世界各地、実質的に、インド、南アメリカ、アフリカ及び東地中海沿岸にわたって見られる非常に広範な疾患である。その寄生生物には毎年数百万人が感染している。リーシュマニア症は、Leishmaniaの種に依存して、皮膚、皮膚粘膜又は内臓型となる。例えば、最も重篤な形態であり、未処置であれば死に至る可能性がある、内臓リーシュマニア症は、Leishmania infantum及びLeishmania donovaniの2種類のLeishmania種によって引き起こされる。Leishmaniaのライフサイクルには、2つの連続した形態学的ステージ:前鞭毛期(媒介昆虫であるサシチョウバエの腸内で遊離形態)及び無鞭毛期(哺乳類宿主の単核食細胞に感染する細胞内形態)が含まれる。
【0010】
リーシュマニア症の一次治療としては、メグルミンアンチモン(Glucantime(登録商標))又はスチボグルコン酸ナトリウム(Pentostam(登録商標))などのアンチモン化合物の使用が挙げられる。しかし、アンチモンの有効性は、地理的位置によっては60%に達する可能性がある高度耐性が出現することにより徐々に失われつつある。アンホテリシンB(Ambisome(登録商標))及びミルテホシン(Impavido(登録商標))などの代替処置があるにも関わらず、この疾患に対するための新規な薬物の発見が早急に求められている。
【発明の概要】
【0011】
本発明の目的は、テンポリン−SHa類縁体であって、特に、細菌及びLeishmania寄生生物に対して、向上した抗菌活性を示す、新規な抗菌ペプチドを提供することである。好ましくは、前記新規なペプチドは、また、テンポリン−SHaと比較して低下した溶血活性を有する。
【0012】
本発明は、まず第一に、抗菌活性を示し、且つ、配列F−L−X
1−X
2−I−V−X
3−M−L−X
4−K−L−F(式中、X
1は、S、R、H及びKからなる群より選択されるアミノ酸であり、そして、同一又は異なるX
2、X
3及びX
4は、G、R、H及びKからなる群より選択されるアミノ酸であり、ここで、X
1が、Sを表す場合、残基X
2、X
3及びX
4の少なくとも一つが、R、H及びKからなる群より選択される)を含む、13〜100アミノ酸のサイズのペプチド並びに前記ペプチドの機能誘導体及び薬学的に許容しうる塩に関する。好ましくは、X
1は、R、H及びKからなる群より選択されるアミノ酸であり、そして、X
2、X
3及びX
4はGを表す。好ましくは、X
1はKを表し、そして、X
2、X
3及びX
4はGを表す。
【0013】
別の態様においては、本発明は、本発明に係るペプチドをコードする核酸に関する。
【0014】
本発明は、また、本発明に係る核酸を含む発現カセットに関する。
【0015】
本発明は、さらに、本発明に係るペプチドをコードする核酸を含む発現ベクターに関する。
【0016】
別の態様においては、本発明は、本発明に係る核酸、カセット又は発現ベクターを含む宿主細胞に関する。
【0017】
本発明は、また、本発明に係るペプチドに特異的に結合する抗体に関する。
【0018】
さらに別の態様においては、本発明は、本発明に係る少なくとも一つのペプチド並びに薬学的に許容しうる補助剤及び/又は賦形剤を含む医薬組成物に関する。
【0019】
本発明は、さらに、医薬としての本発明に係るペプチドに関する。好ましくは、医薬は、細菌、ウイルス、真菌又は寄生生物により引き起こされる感染症を処置することを目的とする。好ましくは、寄生生物は、Leishmania属に属する。
【0020】
さらに別の態様においては、本発明は、殺菌剤、防腐剤又は殺虫剤としての本発明に係るペプチドの使用に関する。
【0021】
別の態様においては、本発明は、本発明に係るペプチドでコートされた若しくは前記ペプチドを含有する少なくとも一つの表面を有する本体を含む、医療デバイス又はインプラントに関する。
【0022】
第一の態様においては、本発明は、本発明に係る核酸、カセット又は発現ベクターを含み、且つ、本発明に係るペプチドを発現可能な又は発現するトランスジェニック植物に関する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、テンポリン−SHaのαへリックスのSchiffer-Edmunson投影図を示す。残基4、11、7、3及び10は、へリックスの極性面を構成する。残基8、1、12、5、9、2、13及び6は、へリックスの無極性面を構成する。
【
図2】
図2は、Leishmania infantumの無菌無鞭毛型(A)及び前鞭毛型(B)に対するテンポリン−SHa(■)及び類縁体[K
3]テンポリン−SHa(◆)の活性を示すグラフである。無鞭毛型及び前鞭毛型の増殖率を、ペプチド濃度の関数としてプロットする。
【
図3】
図3は、単球に対するテンポリン−SHa(■)及び類縁体[K
3]テンポリン−SHa(◆)の細胞毒性を示すグラフである。単球の増殖率を、ペプチド濃度の関数としてプロットする。
【0024】
[発明の詳細な説明]
テンポリン−SHa(以前は、テンポリン−1Saと呼ばれていた)は、北アフリカのカエルPelophylax saharicaの皮膚から単離された(Abbassi et al., 2008)。このテンポリンは、50残基の前駆体の翻訳後成熟化により得られる(GenBankデータベースナンバー:CAO77282)。この前駆体は、シグナルペプチド及び酸性残基が多い領域を含有する高度に保存されたN−末端ドメイン、並びに、テンポリン−SHa原始配列を含有する超可変C−末端ドメインを有する。in vivoでは、テンポリンの成熟型は、i)原始配列の前に位置するKRダブレットのタンパク質分解的切断、ii)カルボキシペプチダーゼの作用による原始配列からのC−末端K残基の除去、そして、iii)アミド基ドナー(ペプチジルグリシンα−アミド化モノオキシゲナーゼの基質)として作用する原始配列のC−末端G残基によるテンポリンのC−末端残基のアミド化から得られる。成熟タンパク質は、配列F−L−S−G−I−V−G−M−L−G−K−L−F(配列番号1)を有する13アミノ酸長のペプチドである。テンポリンは、水溶液では非構造体であるが、膜模倣環境ではαへリックス構造をとる。
【0025】
前記ペプチドは、グラム陽性及びグラム陰性細菌、酵母並びに寄生生物Leishmania infantumに対して抗菌活性を示す(Abbassi et al., 2008)。テンポリン−SHaは、寄生生物の前鞭毛型及び無菌無鞭毛型の両方の形態に対して、それぞれ、IC
50が18.1μM及び22.8μMの抗寄生生物活性を示す。
【0026】
抗菌ペプチド(AMP)の抗菌活性、及び哺乳類細胞に対するその細胞毒性は、正味荷電、疎水性、へリックス性及び両親媒性などのいくつかのパラメーター間の微妙な平衡を反映する(Giangaspero et al., 2001; Yeaman et al., 2003; Dennison et al., 2005)。これらのパラメーターは、非常に密接に関連しており、単に、アミノ酸残基を置換するだけで、ペプチドのいくつかの物理化学的特性を同時に改変することができる。
【0027】
本発明者等は、驚くべきことに、テンポリン−SHaのαへリックスの極性面の一以上のアミノ酸を塩基性アミノ酸で置換することで、向上した抗菌活性及び低下した細胞毒性を有する前記テンポリンの類縁体が得られることを明らかにした。
【0028】
用語「ペプチド」、「オリゴペプチド」、「ポリペプチド」及び「タンパク質」は、本明細書において互換的に使用され、これは、鎖を形成するアミノ酸の数に関係なく、ペプチド結合で連結したアミノ酸鎖を指す。
【0029】
本明細書に記載のペプチド配列において、アミノ酸は、下記の命名法に従って、一文字表記で表される:C:システイン;D:アスパラギン酸;E:グルタミン酸;F:フェニルアラニン;G:グリシン;H:ヒスチジン;I:イソロイシン;K:リシン;L:ロイシン;M:メチオニン;N:アスパラギン;P:プロリン;Q:グルタミン;R:アルギニン;S:セリン;T:トレオニン;V:バリン;W:トリプトファン及びY:チロシン。
【0030】
本明細書において使用される、用語「微生物(microbe)」又は「微生物の(microbial)」は、細菌、真菌、酵母、ウイルス及び/又は寄生生物を指す。
【0031】
本明細書において使用される、用語「微生物感染症」は、細菌、真菌、酵母、ウイルス及び/又は寄生生物により引き起こされる感染症を指す。
【0032】
本明細書において使用される、用語「抗菌活性」は、抗細菌、抗ウイルス、抗真菌及び/又は抗寄生生物活性を指す。前記活性は、IC
50、MICあるいはMBCなどの様々なパラメーターを測定することにより評価することができる。「IC
50」又は「半最大阻害濃度」は、in vitroにおいて、微生物集団の増殖を半減させるのに必要な物質の濃度である。「MIC」又は「最小阻害濃度」は、物質の存在下、通常、37℃で、18時間インキュベートした後の微生物の増殖を完全に阻害する物質の最小濃度である。「MBC」又は「最小殺菌濃度」は、物質を接触させた18〜24時間後の微生物の99.9%を殺菌する物質の最小濃度である。
【0033】
本明細書において使用される、用語「半数致死濃度、50%」又は「LC
50」は、細胞集団の半分を死滅させるのに必要な物質の濃度を指す。LC
50は、物質の細胞毒性の定量的指標である。特に、LC
50は、本明細書において、AMPの溶血活性を評価するために使用され、そしてこの場合、赤血球集団の半数で溶血を誘導するペプチドの濃度に相当する。
【0034】
本発明は、まず第一に、αへリックスの極性面の一以上のアミノ酸が塩基性アミノ酸で置換されている、テンポリン−SHaのペプチド類縁体に関する。
図1に示めすテンポリン−SHaのαへリックスのSchiffer-Edmunson投影図によれば、前記へリックスの極性面を構成するアミノ酸は、特に配列番号1で示されるような、テンポリン−SHaの残基4、11、7、3及び10である。
【0035】
従って、本発明は、抗菌活性を示し、且つ、配列F−L−X
1−X
2−I−V−X
3−M−L−X
4−K−L−F(配列番号18)(式中、X
1は、S、R、H及びKからなる群より選択されるアミノ酸であり、そして、同一又は異なるX
2、X
3及びX
4は、G、R、H及びKからなる群より選択されるアミノ酸であり、ここで、X
1が、Sを表す場合、残基X
2、X
3及びX
4の少なくとも一つが、R、H及びKからなる群より選択される)を含む、テンポリン−SHaのペプチド類縁体に関する。
【0036】
一実施態様によれば、本発明のペプチドは、下記からなる群より選択される配列を含む:
F−L−X
1−G−I−V−G−M−L−G−K−L−F(配列番号2);
F−L−S−X
2−I−V−G−M−L−G−K−L−F(配列番号3);
F−L−S−G−I−V−X
3−M−L−G−K−L−F(配列番号4);
F−L−S−G−I−V−G−M−L−X
4−K−L−F(配列番号5);
F−L−X
1−X
2−I−V−G−M−L−G−K−L−F(配列番号6);
F−L−X
1−G−I−V−X
3−M−L−G−K−L−F(配列番号7);
F−L−X
1−G−I−V−G−M−L−X
4−K−L−F(配列番号8);
F−L−S−X
2−I−V−X
3−M−L−G−K−L−F(配列番号9);
F−L−S−X
2−I−V−G−M−L−X
4−K−L−F(配列番号10);
F−L−S−G−I−V−X
3−M−L−X
4−K−L−F(配列番号11);
F−L−X
1−X
2−I−V−X
3−M−L−G−K−L−F(配列番号12);
F−L−X
1−X
2−I−V−G−M−L−X
4−K−L−F(配列番号13);
F−L−X
1−G−I−V−X
3−M−L−X
4−K−L−F(配列番号14);
F−L−S−X
2−I−V−X
3−M−L−X
4−K−L−F(配列番号15);及び
F−L−X
1−X
2−I−V−X
3−M−L−X
4−K−L−F(配列番号16)
(式中、X
1、X
2、X
3及び/又はX
4は、R、H及びKからなる群より選択される塩基性アミノ酸である。好ましくは、X
1、X
2、X
3及び/又はX
4はKを表す。特定の実施態様においては、配列番号2〜16において、X
1はKを表す)
【0037】
一実施態様によれば、ペプチドは、13〜100アミノ酸、好ましくは、13〜30、35、40、45又は50アミノ酸のサイズを有する。別の実施態様によれば、ペプチドは、13〜15、20又は25アミノ酸のサイズを有する。特定の実施態様においては、ペプチドは、13アミノ酸のサイズを有する。
【0038】
本発明に係るペプチドは、成熟抗菌ペプチドの前駆体であることができる。前記前駆体は、その後、翻訳後修飾を受けてAMPの成熟型になる。従って、これは、これらの翻訳後修飾を受けることを可能にする、移行シグナル配列並びに認識及び/又は開裂部位を含むことができる。特定の実施態様によれば、ペプチドは、成熟抗菌ペプチドの前駆体であり、且つ、配列F−L−G−T−I−N−L−S−L−C−E−Q−E−R−D−A−D−E−E−E−R−R−D−E−P−N−E−S−N−V−E−V−E−K−R−F−L−X
1−X
2−I−V−X
3−M−L−X
4−K−L−F−G−K(配列番号17)(式中、X
1は、S、R、H及びKからなる群より選択されるアミノ酸であり、そして、同一又は異なるX
2、X
3及びX
4は、G、R、H及びKからなる群より選択されるアミノ酸であり、ここで、X
1が、Sを表す場合、残基X
2、X
3及びX
4の少なくとも一つが、R、H及びKからなる群より選択される)を含む。
【0039】
本発明のペプチドを構成するアミノ酸は、L又はD立体配置、好ましくは、L立体配置であることができる。
【0040】
本発明に係るペプチドは、翻訳後修飾及び/又は化学修飾、特に、グリコシル化、アミド化、アシル化、アセチル化又はメチル化されていてもよい。
【0041】
ペプチダーゼに対する耐性を向上させてペプチドのバイオアベイラビリティを高めるために、保護基を、C−及び/又はN−末端に付加させてもよい。例えば、N−末端での保護基は、アシル化又はアセチル化にすることができ、C−末端での保護基は、アミド化又はエステル化にすることができる。また、プロテアーゼの作用を、D立体配置のアミノ酸の使用、ジスルフィド架橋、ラクタム環又はC−末端とN−末端間の結合の形成によるペプチド環化によりブロックすることができる。本発明のペプチドは、また、「従来の」CONHペプチド結合を置換して、ペプチダーゼに対して向上した耐性を付与する擬ペプチド結合、例えば、CHOH−CH2、NHCO、CH2−O、CH2CH2、CO−CH2、N−N、CH=CH、CH2NH及びCH2−Sを含むことができる。好ましくは、本発明に係るペプチドは、そのC−末端がアミド化されている。
【0042】
本発明に係るペプチドは、下記の一以上のアミノ酸を含むことができる:希アミノ酸、特に、ヒドロキシプロリン、ヒドロキシリシン、アロヒドロキシリシン、6−N−メチルリシン、N−エチルグリシン、N−メチルグリシン、N−エチルアスパラギン、アロ−イソロイシン、N−メチルイソロイシン、N−メチルバリン、ピログルタミン、アミノ酪酸;又は、合成アミノ酸、特に、オルニチン、ノルロイシン、ノルバリン及びシクロヘキシル−アラニン。
【0043】
本発明は、また、上述したような本発明に係るペプチドの機能誘導体を包含する。本明細書において使用される、用語「機能誘導体」は、実質的に同じアミノ酸配列、実質的に同じへリックス構造及び実質的に同じ抗菌活性を有するペプチドを指す。前記機能誘導体は、例えば、レトロペプチド、レトロ−インバーソペプチド、保存的置換を有するペプチド及び一以上のアミノ酸の側鎖が、本発明のペプチドの抗菌活性を改変しない基で置換されているペプチドであることができる。本明細書において使用される、用語「保存的置換」は、同様の化学的又は物理的特性(サイズ、電荷又は極性)を有する別のアミノ酸によるアミノ酸残基の置換を指す。例として、リシン、ヒスチジン及びアルギニン、又はセリン、チロシン及びトレオニン、又はシステイン及びメチオニン、又はアスパラギン、グルタミン及びトリプトファン、又はアスパラギン酸及びグルタミン酸のように、イソロイシン、ロイシン、アラニン、バリン、フェニルアラニン、プロリン及びグリシンが、相互に保存的置換することができる。用語「機能誘導体」は、また、配列が、C−末端及び/又はN−末端において、1、2、3又は4アミノ酸短い本発明に係るペプチドを指す。
【0044】
本発明は、また、本発明に係るペプチドの薬学的に許容しうる塩を包含する。薬学的に許容しうる塩は、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸及びリン酸などの薬学的に許容しうる鉱酸の塩;酢酸、クエン酸、マレイン酸、リンゴ酸、コハク酸、アスコルビン酸及び酒石酸などの薬学的に許容しうる有機酸の塩;ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム又はアンモニウム塩などの薬学的に許容しうる鉱塩基の塩;あるいは、製薬技術で一般的に使用される塩化可能な窒素を含有する有機塩基の塩であることができる。前記塩の調製方法は当業者に公知である。
【0045】
本発明に係るペプチドは、従来の化学合成(固相若しくは均一液相)又は酵素合成により得ることができる(Kullman et al., 1987)。これは、また、ペプチドをコードする導入遺伝子を含み、前記ペプチドを発現する、本明細書で後述するような宿主細胞を培養し、そして、前記ペプチドを前記宿主細胞又はペプチドが分泌された培養培地から抽出することからなる方法により得ることができる。
【0046】
本発明に係るペプチドは、抗菌活性を示す。細菌、ウイルス、真菌又は寄生生物株の少なくとも一つに対して、前記活性が、テンポリン−SHaの活性よりも優れていることが有利である。一実施態様によれば、本発明に係るペプチドは、細菌に対して、より具体的には、Escherichia coli及びPseudomonas aeruginosaなどのグラム陰性細菌に対して、テンポリン−SHaよりも高い抗菌活性を有する。特定の実施態様によれば、本発明のペプチドは、Pseudomonas aeruginosaに対しては、10μM未満のMICを有する。好ましい実施態様によれば、本発明のペプチドは、寄生生物に対して、具体的には、寄生生物Leishmania infantum、Leishmania donovani、Leishmania amazonensis、Leishmania major、Leishmania mexicana、Leishmania panamensis、Leishmania tropica、Leishmania braziliensis、Leishmania guyanensis及び/又はLeishmania peruvianaに対して、より具体的には、寄生生物Leishmania infantum、Leishmania major、Leishmania tropica及び/又はLeishmania braziliensisに対して、そして、特に好ましくは、寄生生物Leishmania infantumに対して、テンポリン−SHaよりも高い抗菌活性を有する。特定の実施態様によれば、本発明に係るペプチドは、Leishmania infantum寄生生物の前鞭毛型の形態に対して15μM未満のIC
50を有する。
【0047】
好ましい実施態様によれば、本発明に係るペプチドは、テンポリン−SHaよりも低い溶血活性を有する。特定の実施態様によれば、本発明に係るペプチドは、赤血球に対して、30μM超のLC
50を有する。
【0048】
本発明は、また、本発明に係るペプチドをコードする核酸に関する。
【0049】
本発明の精神において、「核酸」は、DNA又はRNAに基づく任意の分子を意味するものと理解される。これらは、非天然塩基を含む、場合により増幅若しくはベクターにクローニング、化学修飾された合成又は半合成の組み換え分子、あるいは、例えば、修飾結合、修飾プリン若しくはピリミジン塩基又は修飾糖を含む修飾ヌクレオチドであることができる。
【0050】
本発明に係る核酸は、一本鎖若しくは二本鎖のDNA及び/又はRNA形態であることができる。好ましい実施態様によれば、核酸は、当業者に公知の組み換え技術により合成された単離DNA分子である。
【0051】
本発明に係る核酸は、本発明に係るペプチドの配列から推定することができ、コドン使用頻度は、核酸が転写される宿主細胞に従って適合させることができる。これらの工程は、当業者に公知の方法に従って実施することができ、そのいくつかは、Sambrook等のリファレンスマニュアルに記載されている(Sambrook et al., 2001)。
【0052】
本発明は、さらに、発現に必要な配列に作動可能に連結された、本発明に係る核酸を含む発現カセットに関する。特に、核酸は、宿主細胞において発現を可能にするプロモーターの制御下であることができる。一般的に、発現カセットは、転写を開始することができるプロモーター、本発明に係る核酸及び転写ターミネータから構成されるか、あるいは、これらを含む。用語「発現カセット」は、作動可能に連結されたコード領域及び調節領域を含む核酸構築物を意味する。「作動可能に連結された」発現は、各エレメントが、コード配列(対象遺伝子)の発現及び/又はコードペプチドの標的化が、転写プロモーター及び/又はシグナルペプチドの制御下にあるように組み合わされることを示す。典型的には、プロモーター配列は、発現の制御を可能にする距離で、対象遺伝子の上流に位置する。同様に、シグナルペプチドの配列は、一般的に、対象遺伝子の配列の上流に、そして、対象遺伝子とともにリーディングフレーム内に、そして、任意のプロモーターの下流に結合される。スペーサ―配列は、発現及び/又は標的化を妨げない限りは、調節エレメントと遺伝子との間に存在してもよい。好ましい実施態様においては、前記発現カセットは、プロモーターに作動可能に連結された配列を活性化する少なくとも一つの「エンハンサー」を含む。
【0053】
本発明は、また、本発明に係る核酸又は発現カセットを含む発現ベクターに関する。前記発現ベクターを使用して宿主細胞を形質転換することができ、前記細胞において本発明の核酸の発現を可能にする。
【0054】
ベクターは、環状若しくは非環状の、一本鎖若しくは二本鎖のDNA又はRNAであることができる。ベクターは、プラスミド、ファージ、ファージミド、ウイルス、コスミド及び人工染色体の中から選択されるのが有利である。
【0055】
発現ベクターは、本発明に係る核酸を発現することができる調節エレメントを含むことが有利である。これらのエレメントは、例えば、転写プロモーター、転写アクチベーター、ターミネータ配列、開始及び終止コドンを含有することができる。発現が要求される宿主細胞に従って前記エレメントを選択する方法は、当業者に公知である。
【0056】
ベクターは、また、例えば、抗生物質耐性遺伝子又は選択遺伝子に対応する、宿主細胞ゲノムが欠失する各遺伝子を補完する、宿主細胞において選択を可能にするエレメントを含有することができる。このようなエレメントは、当業者に公知であり、文献に詳細に記載されている。
【0057】
形質転換される宿主細胞が植物細胞である場合、発現ベクターは、好ましくは、植物ベクターである。植物ベクターの例として、特に、A. tumefacienspBIN19(Bevan, 1984)、pPZP100(Hajdukewicz et al., 1994)、pCAMBIAシリーズ(R. Jefferson, CAMBIA, Australia)のT−DNAプラスミドなどが文献に記載されている。本発明のベクターは、複製起源及び/又は選択マーカー遺伝子及び/又は植物組み換え配列をさらに含むことができる。
【0058】
ベクターは、当業者に公知の従来の分子生物学技術により構築することができる。
【0059】
本発明は、細胞を形質転換又はトランスフェクトするための、本発明に係る核酸、発現カセット又は発現ベクターの使用に関する。宿主細胞は、一過性又は安定的に形質転換/トランスフェクトすることができ、核酸、カセット又はベクターは、エピソームの形態又は染色体の形態で、細胞内に含有することができる。
【0060】
本発明は、本発明に係る核酸、カセット又は発現ベクターを含む宿主細胞に関する。
【0061】
一実施態様によれば、宿主細胞は、微生物、好ましくは、細菌又は酵母である。
【0062】
別の実施態様によれば、宿主細胞は、動物細胞、例えば、COS又はCHO細胞などの哺乳動物細胞である(US 4,889,803; US 5,047,335)。特定の実施態様においては、細胞は、非ヒト及び非胚性である。
【0063】
さらに別の実施態様によれば、宿主細胞は植物細胞である。本明細書において使用される、用語「植物細胞」は、植物由来であり、且つ、カルスなどの未分化組織及び胚、植物部位、植物又は種子などの分化組織を構成することができる任意の細胞を指す。
【0064】
本発明は、また、本発明に係る抗菌ペプチドを産生するための方法であって、細胞を、本発明に係る核酸、発現カセット若しくは発現ベクターを用いて形質転換又はトランスフェクトすること;トランスフェクト/形質転換された細胞を培養すること;そして、前記細胞により産生されたペプチドを回収することを含む方法に関する。組み換えペプチドを産生するための方法は当業者に公知である。例えば、不死化ヒトセルラインでの産生については、WO 01/70968;植物での産生については、WO 2005/123928;そして、トランスジェニック動物の乳での産生については、US 2005-229261に記載されている特定の方法を引用することができる。
【0065】
本発明は、また、無細胞系とも呼ばれるin vitro発現系に本発明に係る核酸、カセット又は発現ベクターを挿入すること、そして、前記系により産生されたペプチドを回収することを含む、本発明に係る抗菌ペプチドを産生するための方法に関する。多くのin vitro又は無細胞発現系は市販されており、前記系の使用は当業者に公知である。
【0066】
本発明は、さらに、医薬、特に、微生物感染症、即ち、細菌、ウイルス、真菌又は寄生生物による感染症を処置するための医薬としての本発明に係るペプチドに関する。また、本発明は、医薬としての本発明に係る核酸、カセット又はベクターに関する。医薬は、製薬又は獣医用途を目的とすることができる。
【0067】
特定の実施態様によれば、感染症は、好ましくは、Leishmania属由来の寄生生物による感染症である。寄生生物による感染症は、皮膚リーシュマニア症、皮膚粘膜リーシュマニア症又は内臓リーシュマニア症であることができる。寄生生物は、Leishmania aethiopica、Leishmania amazonensis、Leishmania arabica、Leishmania aristedes、Leishmania braziliensis、Leishmania infantum、Leishmania colombiensis、Leishmania deanei、Leishmania donovani、Leishmania enriettii、Leishmania equatorensis、Leishmania forattinii、Leishmania garnhami、Leishmania gerbili、Leishmania guyanensis、Leishmania herreri、Leishmania hertigi、Leishmania lainsoni、Leishmania major、Leishmania mexicana、Leishmania naiffi、Leishmania panamensis、Leishmania peruviana、Leishmania pifanoi、Leishmania shawi、Leishmania turanica、Leishmania tropica及びLeishmania venezuelensisからなる群より選択することができる。好ましくは、寄生生物は、Leishmania infantum、Leishmania donovani、Leishmania mexicana、Leishmania amazonensis、Leishmania major、Leishmania tropica、Leishmania braziliensis、Leishmania guyanensis、Leishmania panamensis及びLeishmania peruvianaからなる群より選択される。特に好ましくは、寄生生物は、Leishmania infantum、Leishmania major、Leishmania tropica及びLeishmania braziliensisからなる群より選択される。最も特に好ましくは、感染症は、寄生生物Leishmania infantumによる感染症である。
【0068】
感染症は、また、Trypanosoma属由来の寄生生物による感染症であることができる。寄生生物は、Trypanosoma avium、Trypanosoma brucei、Trypanosoma cruzi、Trypanosoma congolense、Trypanosoma equinum、Trypanosoma equiperdum、Trypanosoma evansi、Trypanosoma lewisi、Trypanosoma melophagium、Trypanosoma percae、Trypanosoma rangeli、Trypanosoma rotatorium、Trypanosoma simiae、Trypanosoma suis、Trypanosoma theileri、Trypanosoma triglae及びTrypanosoma vivaxからなる群より選択することができる。好ましくは、寄生生物は、Trypanosoma brucei、Trypanosoma cruzi及び Trypanosoma congolenseからなる群より選択される。
【0069】
本発明は、抗菌剤としての本発明に係るペプチドに関する。本発明は、また、抗菌剤としての本発明に係る核酸、カセット又はベクターに関する。
【0070】
本発明は、特に、微生物感染期間中での免疫系刺激剤としての本発明に係るペプチドに関する。本発明は、また、免疫系刺激剤としての本発明に係る核酸、カセット又はベクターに関する。本発明の特定の実施態様によれば、本発明に係るペプチドは走化性を有する。本ペプチドは、感染部位への免疫細胞の動員を誘起し、感染への免疫反応の効果を増大させる。
【0071】
本発明は、また、本発明に係る少なくとも一つのペプチド並びに薬学的に許容しうる補助剤及び/又は賦形剤を含む医薬組成物に関する。本発明は、また、本発明に係る少なくとも一つの核酸、カセット又はベクター並びに薬学的に許容しうる補助剤及び/又は賦形剤を含む医薬組成物に関する。
【0072】
本発明に係る組成物において使用することができる薬学的に許容しうる賦形剤及び補助剤は、当業者に公知であり(Remington’s Pharmaceutical Sciences, 18
th edition, A. R. Gennaro, Ed., Mack Publishing Company [1990]; Pharmaceutical Formulation Development of Peptides and Proteins, S. Frokjaer and L. Hovgaard, Eds., Taylor & Francis [2000]; and Handbook of Pharmaceutical Excipients, 3
rd edition, A. Kibbe, Ed. , Pharmaceutical Press[2000])、特に、生理食塩水及びリン酸緩衝液を含む。
【0073】
本発明に係る医薬組成物は、経口、舌下、皮膚、皮下、筋肉内、静脈内、局所、局部、気管内、鼻腔内、経皮、直腸、眼球内又は耳介内投与に適しうる。好ましくは、本発明に係る医薬組成物は、皮膚、経口、筋肉内、静脈内、経皮又は皮下投与に適する。特定の実施態様によれば、本発明に係る医薬組成物は、局所投与に適する。本発明に係る医薬組成物は、錠剤、カプセル剤、軟質カプセル剤、顆粒剤、懸濁剤、乳剤、液剤、ゲル剤、ペースト剤、軟膏、クリーム剤、こう薬、水剤、坐剤、かん腸剤、注射剤、インプラント、パッチ、スプレー又はエアロゾル剤の形態とすることができる。
【0074】
一実施態様によれば、本発明に係る組成物は、1〜2000mgの本発明に係るペプチドを含む。好ましくは、本発明に係る組成物は、50〜100、150、200、250、500、750、1000又は1500mgの本発明に係るペプチドを含む。
【0075】
本発明に係る組成物は、別の抗菌剤、特に、抗菌ペプチド又は抗生物質などの追加の活性物質をさらに含むことができる。組成物は、また、本発明に係るペプチドの活性を増強することができる物質をさらに含むことができる。
【0076】
本発明は、微生物感染症を処置するための医薬を調製するための本発明に係るペプチドの使用に関する。本発明は、また、微生物感染症を処置するための医薬を調製するための本発明に係る核酸、カセット又はベクターの使用に関する。
【0077】
本発明は、微生物感染症の処置に使用するための本発明に係るペプチドに関する。本発明は、また、微生物感染症の処置に使用するための本発明に係る核酸、カセット又はベクターに関する。
【0078】
処置は、治療的又は予防的であることができる。
【0079】
処置される対象は、動物、好ましくは哺乳動物である。特定の実施態様によれば、処置される対象は、ヒトである。
【0080】
本発明は、また、治療有効量の本発明に係るペプチド、核酸、カセット又はベクターを投与することを含む、微生物感染症を処置するための方法に関する。
【0081】
本明細書において使用される、用語「治療有効量」は、感染の原因である細菌、ウイルス、真菌又は寄生生物に対する抗菌活性を観測するために必要な本発明に係るペプチド、核酸、カセット又はベクターの量を指す。投与される本発明に係るペプチド、核酸、カセット又はベクターの量及び処置期間は、処置される対象の生理学的条件、病原因子及び前記病原因子に対するペプチドの抗菌活性に従って当業者により決定される。
【0082】
特定の実施態様においては、処置される微生物感染症はリーシュマニア症である。
【0083】
本発明のペプチドの有効量は、約1〜40mg/kg体重を含むことができるが、これに限定されない。投与頻度は、例えば、4〜24時間毎、好ましくは、8〜12時間毎とすることができる。処置期間は、例えば、1〜30日、好ましくは、10〜20日、最も好ましくは、5〜10日とすることができる。
【0084】
本発明は、また、防腐剤、殺菌剤又は殺虫剤としての本発明に係るペプチドの使用に関する。
【0085】
食品を、微生物による感染のリスクを排除又は抑制するために、本発明に係るペプチドで処理することができ、これにより、その保存性を向上させることができる。この場合、ペプチドは、防腐剤として使用することができる。
【0086】
本発明に係るペプチドは、殺虫剤として使用することができる。この場合、ペプチドは、植物病原体による植物の感染症を予防又は治療するために使用される。
【0087】
本発明に係るペプチドは、また、殺菌剤として使用することができる。用語「殺菌剤」は、表面(例えば、壁、ドア、医療機器)、液体(例えば、水)又は気体(例えば、麻酔ガス)におけるペプチドの抗菌活性を指す。
【0088】
バイオフィルムは、院内感染の約60%を占める。これらは、基本的に、移植生体材料の微生物定着が原因である。通常、浮遊状態の細菌に活性である抗生物質が、バイオフィルムに組織化された構造に対してはその効果が極めて低くなることがたびたび見られることを考慮すると、細菌バイオフィルムの根絶が主要な臨床上の問題である。このタイプのバイオフィルムに及ぶす抗菌ペプチドの効果は、以前に、テンポリン−Aを用いて実施された研究で実証された(Cirioni et al., 2003)。
【0089】
一実施態様によれば、本発明に係るペプチドは、細菌バイオフィルムの除去に使用される。好ましい実施態様によれば、本発明に係るペプチドは、特に、手術用機器又は人工装具を消毒するために使用される。
【0090】
本発明は、また、本発明に係るペプチドでコートされた若しくは本発明に係るペプチドを含有する少なくとも一つの表面を有する本体を含む医療デバイス又はインプラントに関する。特に、表面を、ペプチドを用いて、0.4〜300mg/cm
2の密度でコートすることができる。ペプチドは、他の活性分子、好ましくは、抗生物質と組み合わせることができる。インプラントは、血管インプラントであることができる。
【0091】
本発明は、また、本発明に係るペプチドのコーティングを適用するか、あるいは機器又はインプラントの少なくとも一つの表面に接触させることを含む、医療デバイス又はインプラントの製造方法に関する。このタイプの医療デバイス又はインプラント並びにその使用及び製造方法は、例えば、特許出願WO 2005/006938に記載されている。
【0092】
本発明は、少なくとも一つの本発明に係るペプチドを含む食品組成物に関する。
【0093】
本発明は、また、少なくとも一つの本発明に係るペプチドを含む農薬組成物に関する。
【0094】
本発明は、本発明に係る核酸、カセット又は発現ベクターを含み、且つ、本発明に係るペプチドを発現可能な又は発現するトランスジェニック植物に関する。
【0095】
種子又は植物などの細胞又は植物組織への本発明の核酸、カセット又は発現ベクターの導入は、当業者に公知の任意の方法により行うことができる。トランスジェニック植物作製方法は、当技術分野でよく知られており、例えば、細菌Agrobacterium tumefaciensの使用(Hooykaa and Schilperoort, 1992)、植物の胚又はプロトプラストへのエレクトロポレーション、接合伝達、遺伝子銃技術(Russel et al., 1992)又はマイクロインジェクションを含む。他のトランスジェニック植物作製技術は公知であるか、あるいは、上記技術を実施する他のプロトコールが、従来技術に記載されており(Siemens and Schieder, 1996)、本発明に応用することができる。本発明に係るトランスジェニック植物は、特に、特許出願WO 00/055337に記載の方法に従って得ることができる。
【0096】
トランスジェニック植物は、任意の植物種に属することができる。それは、単子葉植物又は双子葉植物であってもよい。より具体的には、本発明のトランスジェニック植物は、トウモロコシ、小麦、菜種、大豆、アルファルファ、亜麻、米、サトウキビ、テンサイ、タバコ、綿、ヒマワリ、トマト、キャベツ、ニンジン、ジャガイモ又はレモンの木、リンゴの木、アンズの木、モモの木及びハシバミの木などの果樹などの、動物又はヒトの食用若しくは非食用の培養植物、又は、リーシュマニア症の媒介昆虫であるサシチョウバエが食餌のために舞い降りる培養植物、あるいは、Ricinus communis、Capparis spinosa、Solanum jasminoides、Solanum luteum又はBougainvillea glabraなどのサシチョウバエ用の食用糖源としてこれまでに同定された植物である。
【0097】
一実施態様によれば、本発明に係るペプチドの発現は、トランスジェニック植物が病原体、より具体的には、植物病原体に対して向上した耐性を有することを可能にする。このようなトランスジェニック植物を使用することにより、農作物への殺虫剤の噴霧又は散布を大きく低減させることが可能となり、それによって、これらの生成物の環境への有害効果を最小限にすることができる。
【0098】
別の実施態様によれば、トランスジェニック植物は、前記植物又はその汁を摂取することにより、サシチョウバエ又はヒトなどの動物に投与される本発明に係るペプチドを発現する。この場合、ペプチドは、植物病原体に対して効果を有する必要はないが、ヒト及び動物のリーシュマニア症のベクターであるサシチョウバエの腸に存在するLeishmania寄生生物などの、それが投与される動物又はヒトの一以上の病原体に対して抗菌活性を示す。サシチョウバエが、糖食としてトランスジェニック植物を摂取することにより、本発明の抗菌ペプチドが媒介昆虫の腸に直接輸送され、最終的に媒介昆虫内に存在する寄生生物を直接死滅させるか、あるいは、寄生生物の分化又は増殖に必要な媒介昆虫の腸内細菌叢の細菌を死滅させることにより寄生生物の増殖を阻害して死滅させる。つまり、トランスジェニック植物は、リーシュマニア症の感染を間接的に制御する有効な手段となる。
【0099】
本発明は、本発明に係るペプチドの特異的抗体に関する。本明細書において使用される、用語「抗体」は、特に、ポリクローナル又はモノクローナル抗体、そのフラグメント(例えば、フラグメントF(ab)’2、F(ab))、一本鎖抗体又はミニボディ、あるいは、本発明のペプチドを認識する初期抗体のドメイン、特に、CDR(相補性決定領域)を含む任意のポリペプチドを指す。例えば、これらは、キメラ、ヒト化又はヒト抗体である。モノクローナル抗体は、当業者に公知の方法に従ってハイブリドーマから調製することができる。抗体を調製する異なる方法は、当業者に公知である。
【0100】
本発明は、また、本発明に係るペプチドを検出するための本発明に係る抗体の使用に関する。本発明は、さらに、本発明に係るペプチドの定量測定を実施するための、特に、免疫アッセイのための本発明に係る抗体の使用に関する。前記測定は、特に、本発明に係る宿主細胞又はトランスジェニック植物において、本発明のペプチドの発現の測定を可能にする。
【0101】
本明細書に引用される全ての参考文献は、参照することにより本願に組み込まれる。本発明の他の特徴及び利点は、下記の実施例においてより明らかとなるであろう。これらは、例示を目的として示され、限定するものではない。
【実施例】
【0102】
材料及び方法
固相ペプチド合成
固相ペプチド合成を、Vanhoye等のプロトコールに従って(Vanhoye et al., 2004)、Fmoc−保護アミノ酸(Novabiochem, Switzerland)及びRinkアミドMBHA樹脂(Senn Chemicals, Switzerland)を使用し、自動ペプチド合成装置(Applied Biosystems 433A)により実施した。
【0103】
合成ペプチドは、0〜60%アセトニトリルグラジエント(1%/分)を使用して、8ml/分の流速で、セミ分取C18カラム(Waters RCMコンパクト分取カートリッジモジュール、300Å、25×100mm)RP−HPLCで精製した。合成ペプチドの均質性及び同定は、分析RP−HPLC(Symmetry C18カラム、5μm、4,6×250mm、Waters、流速:0.75ml/分)及びMALDI−TOF質量分析(Voyager DE-PRO, Applied Biosystems)で評価した。
【0104】
抗菌活性試験
下記の菌株を抗菌活性試験に使用した:Escherichia coli(ATCC 25922及びATCC 35218)、Staphylococcus aureus(ATCC 25923)、Enterococcus faecalis(ATCC 29212)、Bacillus megaterium及び Pseudomonas aeruginosa(ATCC 27853)。
【0105】
それぞれの菌株に対して、10
5〜10
6細菌/mL(対数増殖期)の標準的な接種材料を調製した。そのために、予め菌株の一つを植菌しておいたLB寒天上の単離コロニーを、10mLのLB増殖培地で培養した。次に、液体培養液を、細菌が対数増殖期になるまで、37℃で2〜3時間振とうしながらインキュベートした。それぞれの細菌懸濁液を、LB培地で希釈し、10
5〜10
6cfu/mL(cfu:コロニー形成単位)の濃度に相当するOD
630nm0.01にした。
【0106】
各ペプチドの最小阻害濃度(MIC)は、増殖培地中での増殖阻害試験により決定した。MICは、37℃で18時間インキュベートした後に試験した細菌株の増殖を阻害することができるペプチドの最小濃度として定義される。試験は、無菌の96ウェルマイクロタイタープレートで実施した。最初に、連続した増加濃度の各ペプチド(1〜400μM)を、5%ジメチルスルホキシド(DMSO)を含有する無菌のMilliQ水で調製した。DMSOはペプチドの可溶化を促進し、使用濃度では抗菌活性を示さない。50μLのペプチドを、50μLの細菌懸濁液(10
5〜10
6cfu/mL)と共に各ウェルに分注した。次に、マイクロタイタープレートを、37℃で18時間振とうしながらインキュベートした。細菌の増殖を、プレートリーダーで630nmのODを測定して決定した(濁度)。試験は、各ペプチド濃度について3連で実施した。
【0107】
増殖阻害のネガティブコントロールは、ペプチド含有溶液を、50μLの5%DMSOを含有する無菌のMilliQ水で交換して作製した。細菌株を完全に阻害することができるポジティブコントロールは、ペプチド含有溶液を、50μLの0.7%ホルムアルデヒドに交換して作製した。
【0108】
抗真菌活性試験
3種の酵母株を使用した:Saccharomyces cerevisiae、Candida albicans(ATCC 90028)、Candida parapsilosis(ATCC 22019)。最初に、これらの株を、YPD寒天で最低48時間増殖させた。次に、酵母懸濁液を、細菌の場合と同様に調製した後、YPD増殖培地で10
5〜10
6cfu/mLになるように調整した。
【0109】
抗真菌活性試験は、細菌の場合に用いられた増殖培地中での増殖阻害試験に相当し(上記参照)、ここでは、LB培地をYPD培地に交換した。真菌株は、30℃でインキュベートした。
【0110】
溶血試験
抗菌ペプチドの溶血活性は、健常者のヒト赤血球を使用して評価した。赤血球溶血は、ヘモグロビンが反応培地に放出されることにより生じ、その濃度は、450nmでの分光測定により決定される。
【0111】
ヒトの血液を遠心して(900g、10分間)、赤血球を血漿と白血球から分離した。赤血球を含有するペレットを、PBSバッファー(pH7.4)で3回洗浄した。Malassez細胞をカウントした後、2.10
7赤血球/mLのストック溶液を同じバッファーで調製した。試験に用いる連続した濃度のペプチドを調製した(1〜200μM)。
【0112】
試験は以下のように実施した:様々な濃度のペプチド100μLを、100μLの赤血球懸濁液に添加した。37℃で1時間インキュベートし、次いで、遠心(12,000g、15秒間)した後、上清の吸光度を450nmで測定した。この試験のネガティブコントロール(0%溶血)には、ペプチド溶液の代わりに100μLのPBSバッファーを添加した。ポジティブコントロール(100%溶血)には、ペプチド溶液の代わりに100μLの0.1%Tritonを添加した。
【0113】
得られたLC
50値は、3連で実施した3つの試験の平均であり、これは、細胞の50%で溶血を誘起するペプチド濃度に相当する。
【0114】
抗Leishmania活性試験
ペプチドの抗寄生生物活性は、寄生生物Leishmania infantumの2つの形態:前鞭毛型及び無鞭毛型で評価した。
【0115】
抗Leishmania活性試験は、Leishmania infantumセルラインαNEO−αLUCを用いて実施した。このセルラインは、Leishmania infantumの株MHOM/MA/67/ITMAP−263を、Roy等(2000)に記載されるように、ルシフェラーゼレポーター遺伝子(LUC)及びネオマイシン耐性遺伝子(NEO)を含有するベクターpGM αNEO−αLUCで形質転換することにより得た。それを、2形態の前鞭毛型及び無鞭毛型で培地中維持した。
【0116】
寄生生物培養:
Leishmania infantum前鞭毛型を、10〜20%の非働化(decomplemented)ウシ胎仔血清及び5mg/mLのブタへミンを添加したSDM79培地中、100U/mLペニシリン及び100μg/mLストレプトマイシンの存在下で、接種材料の寄生生物の数に従って1又は2週間26℃で維持した(Brun & Shonenberger, 1979)。対数増殖期の10
5細胞/mLの接種材料から開始して、前鞭毛型は、25cm
2培養フラスコで7日培養した後、静止期の細胞密度2〜3×10
8寄生生物/mLになった。細胞密度は、Facscanサイトメーター(Excalibur, Becton-Dickinson, Ivry, France)で、ヨウ化プロピジウムの存在下、フローサイトメトリーにより決定した。
【0117】
無菌無鞭毛型は、20%非働化ウシ胎仔血清及び12.5mg/mLのブタへミンを添加したMAA培地中、100U/mLペニシリン及び100μg/mLストレプトマイシンの存在下で培養した前鞭毛型を、37℃±0.1℃(H
2O飽和、5%CO
2)で分化させて得た(Sereno and Lemesre, 1997)。対数増殖期の5×10
5細胞/mLの接種材料から開始して、無鞭毛型は、25cm
2培養フラスコで7日培養した後、静止期の細胞密度2〜3×10
8寄生生物/mLになった。無菌無鞭毛型を顕微鏡で観察したところ、均一形状であり(円形〜卵形)、可視では鞭毛が確認できず、そして非可動性であった。様々なLeishmania種に由来する無菌無鞭毛型は、細胞内無鞭毛型と同じ微細構造、生物学的、生化学的及び免疫学的特性を有する。細胞密度は、また、前鞭毛型の場合に用いられた同じ手順に従い、同じパラメーターを用いてフローサイトメトリーにより決定した。
【0118】
無菌無鞭毛型に対する抗Leishmania活性試験:
対数増殖期の90%超の生存率を有する、αNEO−αLUCカセットでトランスフェクトしたLeishmania infantumセルライン由来の無菌無鞭毛型の懸濁液を、MAA/20培地で、1.25×10
6寄生生物/mLの密度に調整した。また、抗菌ペプチドの5倍濃縮溶液をこの培地で調製した(300〜4.7μM)。
【0119】
試験を実施するために、無菌無鞭毛型の懸濁液を、マイクロタイタープレートに80μL/ウェルで分注し(10
5寄生生物/ウェルに相当)、そこに、20μLの各ペプチド溶液を添加した(最終濃度、60〜0.94μM)(最終寄生生物密度、10
6寄生生物/mL)。次に、プレートを37℃で72時間インキュベートした。ネガティブコントロールについては、ペプチド溶液を20μLのMAA/20培地に交換した。ポジティブコントロールは、最もペプチド濃度の高い溶液20μLで実施した。実験を、各ペプチド濃度について3連で行った。72時間後、50μLのライシスバッファー(Steady Glo, Promega)を各ウェルに添加した。室温で、5分間インキュベートした後、細胞溶解を顕微鏡で確認した。
【0120】
放出された発光を発光プレートリーダー(Victor, PerkinElmer)で測定した。これは、培地中の生存寄生生物の数に比例する。
【0121】
増殖率を下記の式に従って計算した:
%増殖率=[(L平均−bgd)
ペプチド×100]/(L平均−bgd)
コントロール
(式中、L平均:平均発光、bgd:バックグラウンド)
【0122】
無鞭毛型の増殖を50%阻害する濃度(IC
50)を決定した。
【0123】
前鞭毛型に対する抗Leishmania活性試験:
無鞭毛型試験に関して、80μLの前鞭毛型の懸濁液(10
5寄生生物/ウェル)を、20μLのペプチド溶液(最終濃度、60〜0.94μM)と一緒にマイクロタイタープレートの各ウェルに分注した。ネガティブ及びポジティブコントロールを、無鞭毛型に対する抗Leishmania活性試験と同様のプロトコールに従って実施した。実験を、各ペプチド濃度について3連で行った。
【0124】
26℃で72時間インキュベートした後、50μLのSteady Gloライシスバッファー(Promega)を、各ウェルに添加した。室温で、5分間インキュベートした後、細胞溶解を顕微鏡で確認した。放出された発光を測定し、増殖率を上記のようにして計算した。前鞭毛型の増殖を50%阻害する濃度(IC
50)を決定した。
【0125】
単球の対する細胞毒性試験:
ヒト単球セルラインTHP−1に対する抗菌ペプチドの細胞毒性活性を決定した。細胞を、対数増殖期になるまで、RPMI培地(10%FCS、100U/mLペニシリン、100μg/mLストレプトマイシン)で培養した。Thoma血球計算盤でカウントした後、細胞密度を、RPMI1640培地で6.25×10
5細胞/mLに調整した。抗菌ペプチドの5倍濃縮溶液をこのRPMI培地で調製した(300〜4.7μM)。
【0126】
単球を、細胞懸濁液80μL/ウェルで分注し(最終、5×10
4単球/ウェル又は5×10
5細胞/mLに相当する)、20μLのペプチド溶液と混合した(最終濃度、60〜0.94μM)。ネガティブ及びポジティブコントロールを、抗Leishmania活性試験と同様のプロトコールに従って実施した。実験を、各ペプチド濃度について3連で行った。細胞を、37℃、5%CO
2雰囲気下で72時間インキュベートした。
【0127】
72時間後、生存THP−1細胞の数をMTT試験により間接的に計算した(Mosmann, 1983)。代謝的に活性な細胞のミトコンドリア呼吸鎖に存在するコハク酸塩テトラゾリウム還元酵素の作用により、黄色のMTT(又は、3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニル−テトラゾリウムブロミド)は、青色のホルマザンに還元される。青色のホルマザンを、570nmでの分光学測定により検出することができる。
【0128】
0.45μmフィルターでろ過した、10mg/mLのMTT−PBSバッファー(pH7.4)溶液を、10μL/ウェルで分注した。次に、プレートを37℃で4時間インキュベートした。100μlの50%イソプロパノール/10%SDS混合物を添加して、酵素反応を止めて、その後、プレートを、室温で30分間振とうしながらインキュベートした。次に、各ウェルの570nmにおけるODを測定し(Victorプレートリーダー、PerkinElmer)、IC
50を計算した。
【0129】
結果
テンポリン−SHa及び類縁体[K3]テンポリン−SHaの抗菌、抗真菌及び溶血活性
テンポリン−SHa(配列番号1)及び類縁体[K
3]テンポリン−SHa(配列番号19)の抗菌活性を、様々なグラム陽性及びグラム陰性細菌標準株並びに真菌株で評価した。
【0130】
また、これらの2つのペプチドの溶血活性を評価した。最小阻害濃度(MIC)及び致死濃度50(LC
50)を、下記の表1に示す。
【0131】
【表1】
【0132】
これらの結果から、類縁体[K
3]テンポリン−SHaの抗菌活性が、特に、グラム陰性株(試験した全ての菌株について、MICは3μM)及び酵母に対して、テンポリン−SHaの場合よりも顕著に高いことが示される。
【0133】
Pseudomonas aeruginosaに対する類縁体[K
3]テンポリン−SHaの抗菌活性が、テンポリン−SHaの場合よりも10倍高いことが特に注目される。この菌株がテンポリンの多くに耐性を示すことを考えれば、この知見は特に注目すべきものである。
【0134】
さらに、類縁体[K
3]テンポリン−SHaは、向上した抗菌力を示すとともに、テンポリン−SHaの場合と比較して2倍低い溶血活性を示す。
【0135】
テンポリン−SHa及び類縁体[K3]テンポリン−SHaの抗Leishmania活性
2種のテンポリンの抗Leishmania活性を、東地中海沿岸及び中南米におけるヒト内臓リーシュマニア症の主な病原体である寄生生物Leishmania infantumで評価した。
【0136】
ルシフェラーゼ遺伝子を発現するLeishmania infantum(MHOM/MA/67/ITMAP−236)の前鞭毛型及び無菌無鞭毛型の培養液を使用した。寄生生物の代謝活性の評価は、ATPの存在下でのルシフェラーゼによるルシフェリンの酸化に基づく。このプロセスにより、光子が放出され、これが非溶解寄生生物の濃度に比例する。
【0137】
これらの抗Leishmania試験の結果から、テンポリン−SHa及び類縁体[K
3]テンポリン−SHaが、寄生生物Leishmania infantumの2種の形態に対して活性であることが示される(
図2A及びB)。また、類縁体[K
3]テンポリン−SHaは、テンポリン−SHaと比べて、前鞭毛型に対する優れた抗寄生生物活性を有する。類縁体[K
3]テンポリン−SHaは、およそ10μMのIC
50で、寄生生物の前鞭毛型に作用し、一方で、テンポリン−SHaは、約20μMのIC
50を有する(
図2B)。
【0138】
テンポリン−SHa及び類縁体[K
3]テンポリン−SHaの細胞毒性効果を、ヒトTHP−1単球セルラインで評価した。単球は、寄生生物Leishmaniaの宿主細胞であるマクロファージの未分化形態である。結果(
図3)から、テンポリン−SHa及び類縁体[K
3]テンポリン−SHaが、抗菌濃度において非毒性であることが示される。
【0139】
結論
テンポリン−SHaのαへリックスの極性面において、セリンをリシンで置換することにより、特に、グラム陰性細菌及び酵母に対して、テンポリン−SHaよりもさらに強力な抗菌活性を示す類縁体[K
3]テンポリン−SHaが得られた。この類縁体は、また、寄生生物Leishmania infantum、特に、前鞭毛型に対して良好な抗寄生生物活性を有する。
【0140】
さらに、この向上した抗菌力を示すとともに、2倍低い溶血活性を示し、そして、この類縁体が、脊椎宿主での寄生生物の標的細胞である単球に対して、抗菌濃度で非毒性であることが示された。
【0141】
【表2】
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]