特許第5713304号(P5713304)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5713304
(24)【登録日】2015年3月20日
(45)【発行日】2015年5月7日
(54)【発明の名称】帯状迷彩柄織物
(51)【国際特許分類】
   D03D 15/00 20060101AFI20150416BHJP
   D03D 1/00 20060101ALI20150416BHJP
   D03D 11/00 20060101ALI20150416BHJP
【FI】
   D03D15/00 102Z
   D03D1/00 Z
   D03D11/00 A
   D03D15/00 E
【請求項の数】2
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-150502(P2014-150502)
(22)【出願日】2014年7月24日
【審査請求日】2014年7月28日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390025531
【氏名又は名称】三信製織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082669
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 賢三
(74)【代理人】
【識別番号】100095337
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100095061
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 恭介
(72)【発明者】
【氏名】可児 龍平
(72)【発明者】
【氏名】今川 博
【審査官】 松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5061256(JP,B2)
【文献】 特表2005−536660(JP,A)
【文献】 特開2007−254905(JP,A)
【文献】 特開2000−226730(JP,A)
【文献】 特開2007−197869(JP,A)
【文献】 特開平11−241272(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0242175(US,A1)
【文献】 神谷 朝夫,第IV編 顔料の用途とその応用,顔料の事典,日本,朝倉 邦造 株式会社朝倉書店,2008年,第1版,PP.578-581
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D03D 1/00−27/18
F41H 3/00−3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
引張り強度が7.0cN/dtex以上、促進耐候性試験による耐候処理500時間の強力保持率が70%以上、及び、退色堅牢度試験による評価が4級以上であって、酸化チタンを0.2重量%以上含有し、かつ顔料により着色されてなる原着糸から、ジャガード織機で多層構造を有する迷彩柄の織物に製織されて構成される帯状迷彩柄織物であって、
マンセル表色系において色相(H)が8.0±1.5YR、明度(V)が6.5±0.5、彩度(C)が1.5±0.5で表色され、波長域1000〜1200nmの光に対して35〜50%の反射率で現れるベージュの原着糸と、
マンセル表色系においてHが2.0±1.5Y、Vが5.2±0.5、Cが2.5±0.5で表色され、波長域1000〜1200nmの光に対して25〜40%の反射率で現れるサンドベージュの原着糸と、
マンセル表色系においてHが2.0±1.5YR、Vが3.5±0.5、Cが2.0±0.5で表色され、波長域1000〜1200nmの光に対して10〜25%の反射率で現れるブラウンの原着糸と、
から3層以上の多層構造の帯状に製織され、
前記迷彩柄として、前記ベージュが45〜55%、前記サンドベージュが35〜45%、前記ブラウンが10〜20%の範囲から合計100%となる面積比率で表面が構成される、
ことを特徴とする帯状迷彩柄織物。
【請求項2】
前記ベージュの原着糸、前記サンドベージュの原着糸及び前記ブラウンの原着糸のみから3〜6層構造の帯状に製織される
ことを特徴とする請求項1に記載の帯状迷彩柄織物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、砂漠及び砂漠に準じた自然環境下で、目視及び赤外線スコープにより認知されにくい帯状迷彩柄織物に関する。
【背景技術】
【0002】
戦場等で着用される衣服や様々な機器を覆うカバー用布帛の柄として、周囲の環境や物体との見分けがつきにくくなる迷彩柄が一般的に使用される。例えば、赤外線吸収色素を配合した酸性染料を用いて染色した迷彩加工ナイロン布帛に係る発明が下記特許文献1に提案されている。この布帛は600〜1200nmという赤外線の特定波長領域を一部に含む光の波長域での反射率を、自然界のそれと同レベルにする機能を備え、赤外線スコープによるサーチに対してカムフラージュ性(擬装性能)を発現することができる。また、ナイロン又はポリエステルの布帛に赤外線吸収剤を含む樹脂液のコーティング、及び迷彩柄のプリント染色を併用することで、同様な効果が発揮されることが公知である。
【0003】
下記特許文献2において、赤外線吸収剤を混合したポリマーを溶融紡糸することによって得られる繊維からなる布帛に係る発明が提案されている。この布帛に迷彩柄のプリント染色を行うことにより、目視と共に赤外線スコープによるサーチに対してもカムフラージュ性を発揮することができることとなる。
【0004】
ところが、プリント染色等の手段では、細幅ベルトのような形状品、特に厚みが1mm以上ある帯状の形状品に対し、その両端が均一に着色されないために、カムフラージュ性能を十分に達成することができない。このため、戦争地域等に出向く、必要な訓練を行うといった状況において、ベルト自身を布帛で覆ってカムフラージュ性を確保している。しかしながら、布帛とベルト本体との間で滑りが生じやすく、締め付けるためのバックルの把持力が安定し難い、布帛の脱落や破損によって容易にカムフラージュ性が損なわれる等の問題もある。
【0005】
このような問題に対し、下記特許文献3、4において、赤外線吸収剤及び着色剤を混合したポリマーを溶融紡糸して得た4色の原着糸又は、原糸染色により得た4色の着色糸をジャガード織加工し、厚みのあるベルト等においても均一な着色を果たした発明が提案されるに至っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3094130号公報
【特許文献2】特許第3088264号公報
【特許文献3】特許第4278165号公報
【特許文献4】特許第5061256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これまで、戦場等として緑地、或いはジャングルといった樹木のある環境を想定し、このような環境に対してカムフラージュ性を発揮することができる仕様(以下、「ジャングル仕様」と称する。)の迷彩柄等が開発されてきた。しかしながら、最近の世界情勢を鑑みれば、砂漠といった環境が戦場等となりうる可能性も十分に想定され、砂漠及び砂漠に準じるような自然環境下でカムフラージュ性を発揮することができる仕様(以下、「砂漠仕様」と称する。)の迷彩柄等を開発する必要が生じている。例えば、自衛隊員の海外派遣や米軍との合同演習において、ジャングル仕様の装備品では十分に対応できない現実が生まれている。米軍はすでに、砂漠仕様に準じたものを装備品の主力として備えていると伝えられている。
【0008】
砂漠等で装備されることを想定すれば、衣服、布帛、ベルト等を構成する繊維(原糸)に要求される特性等を、迷彩柄を構成する各色の色彩の特性とともに検討していくことが求められる。例えば、砂漠を想定した迷彩柄は砂色を中心として構成されるであろうし、厳しい直射日光に対しても退色し難く、耐候性能に優れた繊維(原糸)により、長期間にわたって目視及び赤外線スコープにより認知されにくい状態が維持される必要がある。
【0009】
本発明は、上記実情に鑑み提案され、砂漠及び砂漠に準じた自然環境下で、目視及び赤外線スコープにより認知されにくい帯状迷彩柄織物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
出願人は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、本発明に到達した。すなわち、本発明に係る帯状迷彩柄織物は、引張り強度が7.0cN/dtex以上、促進耐候性試験による耐候処理500時間の強力保持率が70%以上、及び、退色堅牢度試験による評価が4級以上であって、酸化チタンを0.2重量%以上含有し、かつ顔料により着色されてなる原着糸から、ジャガード織機で多層構造を有する迷彩柄の織物に製織されて構成される。
【0011】
特に、マンセル表色系において色相(H)が8.0±1.5YR、明度(V)が6.5±0.5、彩度(C)が1.5±0.5で表色され、波長域1000〜1200nmの光に対して35〜50%の反射率で現れるベージュの原着糸と、マンセル表色系においてHが2.0±1.5Y、Vが5.2±0.5、Cが2.5±0.5で表色され、波長域1000〜1200nmの光に対して25〜40%の反射率で現れるサンドベージュの原着糸と、マンセル表色系においてHが2.0±1.5YR、Vが3.5±0.5、Cが2.0±0.5で表色され、波長域1000〜1200nmの光に対して10〜25%の反射率で現れるブラウンの原着糸と、から3層以上の多層構造の帯状に製織され、前記迷彩柄として、前記ベージュが45〜55%、前記サンドベージュが35〜45%、前記ブラウンが10〜20%の範囲から合計100%となる面積比率で表面が構成されることを特徴とする帯状迷彩柄織物である。
【0012】
また、上記帯状迷彩柄織物において前記ベージュの原着糸、前記サンドベージュの原着糸及び前記ブラウンの原着糸のみから3〜6層構造の帯状に製織されることが好ましい。
【0013】
ここで、本発明は、原着糸の引張り強度が7.0cN/dtex以上であることを構成要件とする。砂漠における日射強度は通常緑地の3〜5倍程度であると予想され、これに伴う強度劣化を考慮するからである。また、原着糸は、促進耐候性試験による耐候処理500時間の強力保持率が70%以上、及び、退色堅牢度試験による評価が4級以上の性能を備える。すなわち、耐候性及び退色堅牢度を高めることはもちろん、原着糸の初期の引張り強度が高いことを構成要件としている。
【0014】
また、原着糸は、酸化チタンを0.2重量%以上含有し、かつ顔料により着色されたものであることを構成要件とする。迷色柄織物として適用を予定している迷彩柄テープ、ベルト等(帯状迷彩柄織物)に採用されるナイロン、ポリエステル等の繊維が元来、光沢感を有するので、酸化チタンを0.2重量%以上(好ましくは0.3重量%以上)含有させて光沢感を消失させる。さらに、染色により構成した着色糸が退色堅牢度に劣る傾向にあるので、本発明では、顔料を紡糸時に混合して得る原着糸を構成要件とした。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る帯状迷彩柄織物は、耐候性及び退色堅牢度が高く、かつ、原着糸の初期の引張り強度が高い。顔料により着色された原着糸を用いて更に強度の向上を果たしている。したがって、本発明は、上述した原着糸により、日射強度の大きい砂漠及び砂漠に準じた自然環境下における劣化防止が達成され、かつ、長期間にわたって目視及び赤外線スコープで認知されにくく、カムフラージュ性を発揮する迷彩柄及び赤外線反射率を備えた帯状迷彩柄織物を達成することができる。
【0016】
さらに、本発明に係る帯状迷彩柄織物は、下記[表1]に現されるパラメーターを具備する構成とすれば、各色のHVC特性、表面に現れる図柄及び各色の面積比率等の何れの観点からも、良好な擬装性能を備えることとなり、目視に対して周囲の環境との見分けをつきにくくすることができる。1000〜1200nmの赤外線波長域の光に対する反射率が、砂漠及び砂漠に準じた自然環境下の赤外線反射率に近くなるため、赤外線スコープの偵察に対する擬装を良好に発揮することができる。
【0017】
【表1】
【0018】
また、上記帯状迷彩柄織物においてベージュの原着糸、サンドベージュの原着糸及びブラウンの原着糸のみから3〜6層構造の帯状に製織されることにより、層構造の増減を利用して適用製品に応じた適切な厚さの帯状迷彩柄織物を提供することが可能となる。なお、3層構造とする場合、その積層順が下層から上層へ向けてベージュ、ブラウン、サンドベージュとなる第1の3層構造、同ベージュ、ブラウン、サンドベージュとなる第2の3層構造、同サンドベージュ、ベージュ、ブラウンとなる第3の3層構造、同サンドベージュ、ブラウン、ベージュとなる第4の3層構造、同ブラウン、サンドベージュ、ベージュとなる第5の3層構造、同ブラウン、ベージュ、サンドベージュとなる第6の3層構造の6パターンをすべて含んで製織され、本発明に係る帯状迷彩柄織物が構成される。この6パターンを使いながら、3層の積層構造のうちの真ん中の層において、ブラウンが占める面積比率を60〜70%とすることが好ましい。本発明はジャガード織機で加工されるから、両端の着色が均一にならない等の問題が一切発生しない。また、ベルト等を布帛で覆ってカムフラージュ性を確保する等の余計な作業を不要にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係る帯状迷彩柄織物の一例(擬装ベルト)を示す正面画像である。
図2】本発明に係る帯状迷彩柄織物をジャガード織加工で3層構造の帯状に製織する製織パターン(積層例)を説明する説明図であって、(a)は、その積層順が下層から上層へ向けてベージュ、ブラウン、サンドベージュとなる第1構成例を、(b)は、その積層順が下層から上層へ向けてベージュ、サンドベージュ、ブラウンとなる第2構成例を、(c)は、その積層順が下層から上層へ向けてサンドベージュ、ベージュ、ブラウンとなる第3構成例を、(d)は、その積層順が下層から上層へ向けてサンドベージュ、ブラウン、ベージュとなる第4構成例を、(e)は、その積層順が下層から上層へ向けてブラウン、サンドベージュ、ベージュとなる第5構成例を、(f)は、その積層順が下層から上層へ向けてブラウン、ベージュ、サンドベージュとなる第6構成例を、それぞれ示す説明図である。
図3】本実施形態に係る擬装ベルトの表面がベージュである部分と、比較例2のベージュの原着糸とで、1000〜1200nm付近の赤外線波長域における光の反射率を比較して示すグラフである。
図4】本実施形態に係る擬装ベルトの表面がサンドベージュである部分の1000〜1200nm付近の赤外線波長域における光の反射率を示すグラフである。
図5】本実施形態に係る擬装ベルトの表面がブラウンである部分の1000〜1200nm付近の赤外線波長域における光の反射率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る帯状迷彩柄織物に関し、具現化した一実施形態を図面に基づいて説明する。この一実施形態は、本発明の一例に過ぎず、本発明は、特許請求の範囲に記載した事項を逸脱することがなければ、種々の設計変更を行うことができる。
【0021】
本発明に係る迷彩柄織物は、例えば、細幅ベルトや、迷彩柄テープやといった厚み(例えば、1mm以上の厚み)のある帯状の織物を、その適用対象にする帯状迷彩柄織物である。その一例として、本実施形態に係る擬装ベルト1は、ベージュの原着糸、サンドベージュの原着糸、ブラウンの原着糸からなる3種の原着糸が、ジャガード織機で3層に、かつ迷彩柄を有する帯状に製織されて構成されている。
【0022】
図1に示すように、その表面には、迷彩柄としてベージュ領域BEが45〜55%、サンドベージュ領域SBが35〜45%、ブラウン領域BRが10〜20%の範囲から合計100%となる面積比率で形成されている。面積比率は図1において、ベージュ領域BEが45%、サンドベージュ領域SBが40%、ブラウン領域BRが15%である。表面をそのような面積比率の迷彩柄とするにより、目視において良好な擬装性能を備え、砂漠及び砂漠に準じた自然環境下で周囲の環境との見分けをつきにくくすることができる。
【0023】
各色の原着糸は後述するように、ポリマーで溶融紡糸する紡糸時に各色顔料を混合することで得ることができる。そのときに同時に、赤外線吸収剤と赤外線反射材をさらに混合することが好ましい。
【0024】
本実施形態に係る擬装ベルト1は、下記[表2]で示す各色のHVC特性、各色の面積比率に基づいて表面に現れる迷彩柄により、目視において良好な擬装性能を備え、砂漠及び砂漠に準じた自然環境下で周囲の環境との見分けをつきにくくすることができる。また、下記[表2]で示す1000〜1200nmの赤外線波長域の光に対する各色の反射率は、砂漠及び砂漠に準じた自然環境下での赤外線反射率に近くなるため、赤外線スコープの偵察に対する擬装を良好に発揮することができる。
【0025】
【表2】
【0026】
なお、各色のHVCの特定及び赤外線波長域における反射率測定は、株式会社島津製作所製の自記分光光度計UV3100を用いて行った。
【0027】
次に、本実施形態に係る擬装ベルト1は、各色の原着糸の引張り強度がいずれも7.0cN/dtex以上であり、促進耐候性試験による耐候処理500時間後の強力保持率がいずれも70%以上の値を示す。また、退色堅牢度試験による評価が、いずれも4級以上となる。引張り強度の7.0cN/dtex以上という値は、各種の試験前又は製品完成時の引張り強度の値(初期値)である。砂漠等で装備されることを想定し、厳しい直射日光に対して耐候性能に優れた繊維(原糸)であることを表すのに十分な強度として、本願において引張り強度が7.0cN/dtex以上であることを備えるべき要件と定めた。
【0028】
促進耐候性試験及び退色堅牢度試験とは、それぞれカーボンアークを光源としたサンシャインウェザーメーターと呼ばれる促進耐候性試験機を用いた試験を指す。強力保持率(%)は、耐候処理前の擬装ベルトを解いて得た原着糸の破断強力(キロニュートン:KN)と、サンシャインウェザーメーターで500時間処理した擬装ベルトを解いて得た原着糸の破断強力(KN)を、JIS L 1013に準じた糸長25cm、初荷重0.05kN、引張速度30cm/minの条件下で測定し、これを下記[数1]の式を用いて算出したものである。
【0029】
【数1】
【0030】
退色堅牢度は、擬装ベルトを構成する各色について、JIS L 0842で規格された方法に準じて、上記促進耐候性試験機で500時間の耐候処理を行い、処置後の変退色を、グレースケールを使って1〜5級で評価した。なお、グレースケールを使った1〜5級の評価は次のとおりである。1級がもっとも変退色しやすく、5級がもっとも変退色しにくい。1級が、無色に近い状態まで退色している。2級が、顕著に退色が確認できる。離れてみても明らかに判別できる。3級が、明らかに退色が確認できる。離れてみても判別できる。4級が、わずかに退色が確認できる。離れてみると判別しにくい。5級が、処理前後で退色が見られない、とそれぞれ評価される。
【実施例】
【0031】
以下、本発明の一例として擬装ベルトを作製し、これを実施例として性能評価をしたので説明していく。
【0032】
まず、ベージュ、サンドベージュ、ブラウンの各色について、あらかじめ目的とする着色を得るための着色料(顔料)、赤外線吸収剤、赤外線反射剤及び耐候堅牢度向上剤を、高粘度(イーター1.45〜1.47レベル)バージンチップ(本実施形態では、ポリエステルチップ)と混合し、原着糸を得るためのマスターチップを作成する。このとき、着色料(顔料)の濃度は、マスターチップを25倍希釈して原着糸の繊維にしたときに上記[表2]におけるHVC特性の値を満足させるように調整される。赤外線吸収剤は0.010重量%を、光沢感の消失とともに赤外線反射剤の機能を併せ持つ酸化チタンは5.0重量%を、退色堅牢度向上剤は10.0重量%をそれぞれ添加する。
【0033】
次に、マスターチップを作成するのに使用したものと同種のバージンチップを、バージンチップ:マスターチップの比が、24:1となるように混合し、290〜300℃で溶融し、紡糸装置で紡糸し、その紡糸を4.5〜5倍で延伸しながら巻き取り、マスターチップを25倍希釈した原着糸とする。ベージュ、サンドベージュ、ブラウンの各色について、それぞれ同じ方法で原着糸を製造することができる。
【0034】
このようにして製造された3種(3色)の原着糸を、擬装ベルトの表側(外側)となる表面と裏側(身体側)となる表面とで部分的に迷彩柄を相違させ、かつ表面に現れる面積比率が上記[表2]に規定する範囲を満たし、全体で100%となるようにしてジャガード織加工を行う。なお、本発明において、表面とは上述のように擬装ベルト(帯状迷彩柄織物)の外面をいい、身につけたときに身体側となる面、及び外側を向く面のいずれの面も表面として扱う。
【0035】
ジャガード織加工の際には、図2(a)〜(f)に示すように、その積層順が下層から上層へ向けてベージュ、ブラウン、サンドベージュとなる第1構成例A、同ベージュ、サンドベージュ、ブラウンとなる第2構成例B、同サンドベージュ、ベージュ、ブラウンとなる第3構成例C、同サンドベージュ、ブラウン、ベージュとなる第4構成例D、同ブラウン、サンドベージュ、ベージュとなる第5構成例E、同ブラウン、ベージュ、サンドベージュとなる第6構成Fの6パターンの織加工が存在する。本発明では、この6パターンをすべて用い、上記[表2]における各色の表面の面積比率の値をその範囲内とし、ジャガード織加工を行い、擬装ベルトを構成する。さらに、この6パターンを使いながら、3層の積層構造のうちの真ん中の層においてブラウンが占める面積比率を60〜70%とし、ベージュ、サンドベージュの多くが表面に現れるようにして、上記[表2]に示した面積比率を確実に具備するようにしている。
【0036】
なお、擬装ベルトを構成する着色糸の素材としての繊維に用いられる重合体(バージンチップ)は、繊維形成可能なポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィン等の重合体が好適である。具体的には、ナイロン6、ナイロン66、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン等を例示することができる。また、これらの重合体の性質を本質的に変化させない範囲で、第3成分を共重合したり、混合したりすることができる。
【0037】
混合する赤外線吸収剤は、カーボンブラック、チタンブラック、炭化ジルコニウム等を例示することができる。フタロシアニン化合物を含有した赤外線吸収剤は、特定波長域の反射率をコントロールしやすい。例えば、FujiFilm社製のPRO−JET925NP等が挙げられる。これらの化合物は単独又は複数で使用することができる。925NPを用いる場合、0.001〜0.01重量%の濃度で用いればよい。0.001重量%未満になれば赤外線吸収能が劣ってカムフラージュ性能が不十分となる可能性があり、0.01重量%より大きくなると、着色効果よりもコストが嵩んで非効率となってしまう。
【0038】
赤外線反射剤は、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、硫酸バリウム等を例示することができる。これらの化合物は、酸化チタン単独又は酸化チタンとその他とを組み合わせた複数で使用することができる。例えば、酸化チタンを用いる場合、0.2〜0.5重量%の濃度で用いればよい。0.2重量%未満になればカムフラージュ性能が不十分となる可能性があり、0.5重量%より大きくなると、溶融紡糸時に糸切れが発生しやすくなるおそれがある。
【0039】
さらに、酸化チタンには繊維の光沢感を消失させる効果があるので、カムフラージュ性能をより高めるのに有効である。本実施形態では、石原産業社製の酸化チタンを用い、これに赤外線反射剤及び光沢感消失剤としての機能を発揮させた。また、例えば、本発明では、酸化チタンを含み、更に酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、硫酸バリウムの1又は2以上を更に含んで合計0.2〜0.5重量%の濃度となるようにして用いることができる。
【0040】
本実施形態の擬装ベルトを構成するのに用いる退色堅牢度向上剤として、例えば、BASF社のTINUVIN1577(登録商標)を例示することができる。その濃度は、5.0〜15.0重量%とすればよい。
【0041】
このほか、赤外線吸収剤や赤外線反射剤、退色堅牢度向上剤以外に、制電性、耐光性、耐熱性等を付与する添加剤を0.1〜0.5重量%の範囲で含有させてもよい。
【0042】
本実施例において採用した着色剤である顔料を下記[表3]に示した。それぞれ大日精化社製であり、各色2種のものを混合して顔料とする。原着糸を得るためのマスターチップを作成するときに着色料(顔料)を混合するが、上述のとおり、マスターチップを25倍希釈して原着糸の繊維にしたときに上記[表2]におけるHVC特性の値を満足させるように、顔料の濃度を調整する。
【0043】
【表3】
【0044】
ここで、上述したとおりに作成したベージュ、サンドベージュ、ブラウンの各色の原着糸及びその比較例1〜3の強力保持率及び退色堅牢度の性能評価をしたので、その結果を下記[表4]に示す。
【0045】
【表4】
【0046】
なお、比較例1は、本実施例と同様な方法でマスターチップを作成しつつ、混合するサンドベージュの着色料に所定の染料を用いた例(比較例1において、サンドベージュのHVC特性は上記[表2]に記載した値を満足するように調整している。)である。比較例2は、本実施例と同様な方法でマスターチップを作成しつつ、赤外線吸収剤を不使用としてベージュの原着糸を構成した例である。
【0047】
比較例3−1は、本実施例と同様な方法でマスターチップを作成しつつ、退色堅牢度向上剤としてのBASF社のTINUVIN1577(登録商標)を不使用としてベージュの原着糸を構成した例である。比較例3−2は、本実施例と同様な方法でマスターチップを作成しつつ、TINUVIN1577(登録商標)を不使用としてサンドベージュの原着糸を構成した例である。比較例3−3は、本実施例と同様な方法でマスターチップを作成しつつ、TINUVIN1577(登録商標)を不使用としてブラウンの原着糸を構成した例である。
【0048】
また、上述したとおりに作成したベージュ、サンドベージュ、ブラウンの各色の原着糸から単色でジャガード織加工して厚み1.5mmの擬装ベルト(実施例1)を構成し、そのHVC特性を各色で調べた結果を下記[表5]に示す。なお、実施例1の擬装ベルトの面積比率は、図1に示すように、ベージュ領域BE45%であり、サンドベージュ領域SBが40%であり、ブラウン領域BRが15%である。
【0049】
【表5】
【0050】
実施例1の表面がベージュである部分と、比較例2のベージュの原着糸とで、1000〜1200nm付近の赤外線波長域における光の反射率を比較して示すグラフを図3に示す。また、図4は、実施例1の表面がサンドベージュである部分の1000〜1200nm付近の赤外線波長域における光の反射率を示し、図5は、実施例1の表面がブラウンである部分の1000〜1200nm付近の赤外線波長域における光の反射率を示す。
【0051】
上記[表4]、[表5]及び図3図5から、実施例1の擬装ベルトは、各色の原着糸の引張り強度が7.0cN/dtex以上であり、各色の原着糸が、それぞれ促進耐候性試験による耐候処理500時間後の強力保持率が70%以上の値を示して良好な耐候性を示すことが分かる。退色堅牢度試験による評価が4級以上の性能を備えて変退色に対する耐性も備える。また、実施例1の擬装ベルトは、上記[表2]で示す各色のHVC特性、各色の面積比率に基づいて表面に現れる迷彩柄により、目視において良好な擬装性能を備える。図3図5から、1000〜1200nmの赤外線波長域における各色の反射率は、基準を満たしていることが把握され、砂漠及び砂漠に準じた自然環境下での赤外線反射率に近く、赤外線スコープの偵察に対する擬装を良好に発揮できることが理解される。
【0052】
一方、上記[表4]に基づけば、比較例1のサンドベージュの原着糸は、染料を使用したために、処理後強力(KN)の値が悪く、強力保持率(%)及び退色堅牢度の値も悪い。したがって、本願の課題を解決するためには、着色料に顔料を使用する必要があることが分かる。また、比較例2のベージュの原着糸は、赤外線吸収剤を不使用としたために、図3及び[表4]に示すように、1200nmの赤外線反射率が52.4%と規格外となり、赤外線スコープの偵察に対する擬装に問題が生じる虞がある。したがって、本願の課題を解決するためには、赤外線吸収剤の使用が不可欠である。
【0053】
さらに、比較例3−1〜比較例3−3の各色の原着糸は、退色堅牢度向上剤を不使用としたために、退色堅牢度の値が悪いほか、処理後強力(KN)の値、強力保持率(%)の値も悪い。したがって、本願の課題を解決するためには、退色堅牢度向上剤を使用する必要があることが分かる。
【0054】
なお、初期(各種の試験前及び製品完成時を意味する。)の引張り強度が7.0cN/dtex以上であることは、砂漠等で装備されることを想定したときの前提として備えるべき原着糸の強度であるとして捕らえたため、上記[表4]に示す試験結果では、実施例及び比較例のすべての原着糸に引張り強度7.0cN/dtex以上のスペックを備えさせている。同様に、酸化チタンは、繊維の光沢感を消失させる効果によってカムフラージュ性能をより高めるのに有効であるので、実施例及び比較例のすべてに0.5重量%含むスペックを備えさせている。
【0055】
したがって、本発明は、表面に現れる各色のHVC特性や各色の面積比率、赤外線波長域に対する光の反射率等において、砂漠及び砂漠に準じた環境下で良好な擬装性能を備え、目視に対して周囲の環境との見分けをつきにくくすることができ、赤外線スコープの偵察に対する擬装を良好に発揮させることができる。さらに、引張り強度が7.0cN/dtex以上、促進耐候性試験による耐候処理500時間の強力保持率が70%以上、及び、退色堅牢度試験による評価が4級以上の性能を備え、酸化チタンを0.2重量%以上含有し、かつ顔料により着色された原着糸からなる構成により、砂漠及び砂漠に準じた環境下で良好な耐候性を備えていると認められる。
【0056】
ここで、上記実施形態では、ベージュの原着糸、サンドベージュの原着糸及びブラウンの原着糸から3層構造の帯状に製織される帯状迷彩柄織物について説明した。さらに、本発明は、これらの3色の原着糸から4層、5層又は6層の層構造を有する帯状にジャガード織機で製織した帯状迷彩柄織物も、その技術的範囲に含んでいる。
【0057】
すなわち、上述したとおりに作成したベージュの原着糸、サンドベージュの原着糸及びブラウンの原着糸から、3〜6層の多層構造を有する帯状迷彩柄織物を構成することで、様々な用途に適切な厚みの帯状迷彩柄織物を提供することができる。このとき、帯状迷彩柄織物を上記[表2]で示される各色のHVC特性、各色の面積比率を有する迷彩柄の表面とすることにより、目視において良好な擬装性能を備える。また、上述したとおりに作成した3色の原着糸から製織されるので、赤外線スコープの偵察に対する擬装も良好に発揮させることができる。さらに、引張り強度が7.0cN/dtex以上、促進耐候性試験による耐候処理500時間の強力保持率が70%以上、及び、退色堅牢度試験による評価が4級以上の性能を備え、砂漠及び砂漠に準じた環境下で良好な耐候性を備えることが認められる。
【0058】
以上、本発明について出願人が最良であると信じる実施形態の1つを詳述したが、本発明は、特許請求の範囲に記載された事項を逸脱することがなければ、上記実施形態に限定されることなく、種々の設計変更を行う事が可能である。例えば、上記実施形態では、擬装ベルトについて例示して説明したが、片面に粘着層を配した迷彩柄テープであっても同様な性能を具備させて構成することができる。
【0059】
また、例えば、特許請求の範囲に記載された事項を逸脱することがなければ、帯状のものに限られず、迷彩柄織物製品の全般に適用することができる。そのような織物であっても、表面に現れる各色のHVC特性や各色の面積比率、赤外線波長域の光に対する反射率等において、砂漠及び砂漠に準じた環境下で良好な擬装性能を備え、目視に対して周囲の環境との見分けをつきにくくすることができ、赤外線スコープの偵察に対する擬装を良好に発揮させることができる。さらに、砂漠及び砂漠に準じた環境下で良好な耐候性を備えるものとなる。
【0060】
さらに、例えば、4〜6層の多層構造を有する帯状迷彩柄織物を構成する場合、黒色等の上述した3色以外の原着糸が表面に現れない限り、上述した3色以外の原着糸を含めて4〜6層のうちの中間となる層(表面となる最上層、最下層を除く層のことである。)を製織し、本発明に係る帯状迷彩柄織物を構成することが可能である。4〜6層のうちの中間となる層のいずれかにおいてブラウンが占める面積比率を60〜70%とすることで、ベージュ、サンドベージュの多くが表面に現れるようにして、上記[表2]に示した面積比率を確実に具備することができる。これにより、製織する方法のバリエーションは増えるほか、コストや製品の厚み等においても、バリエーションを増やすことが可能となる。
【符号の説明】
【0061】
1・・擬装ベルト
BE・ベージュ領域
SB・サンドベージュ領域
BR・ブラウン領域
A・・第1構成例
B・・第2構成例
C・・第3構成例
D・・第4構成例
E・・第5構成例
F・・第6構成例
【要約】
【課題】砂漠及び砂漠に準じた自然環境下において、目視及び赤外線スコープにより認知されにくい擬装ベルトを提供する。
【解決手段】所定量の耐候堅牢度向上剤を加えるとともに、各色に必要な着色剤として顔料を用い、赤外線吸収剤と赤外線反射剤を混合したマスターチップから溶融紡糸し、所定のHVC特性を示すベージュ、サンドベージュ及びブラウンの原着糸を作製し、ジャガード織機で3層に織って、表面にベージュ領域BEが45〜55%、サンドベージュ領域SBが35〜45%、ブラウン領域BRが10〜20%の範囲から合計100%となる面積比率で現れ、各色の各波長域における反射率が所定値の範囲に収まる迷彩柄を有する帯状の擬装ベルト1を製造する。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5