【実施例】
【0031】
以下、本発明の一例として擬装ベルトを作製し、これを実施例として性能評価をしたので説明していく。
【0032】
まず、ベージュ、サンドベージュ、ブラウンの各色について、あらかじめ目的とする着色を得るための着色料(顔料)、赤外線吸収剤、赤外線反射剤及び耐候堅牢度向上剤を、高粘度(イーター1.45〜1.47レベル)バージンチップ(本実施形態では、ポリエステルチップ)と混合し、原着糸を得るためのマスターチップを作成する。このとき、着色料(顔料)の濃度は、マスターチップを25倍希釈して原着糸の繊維にしたときに上記[表2]におけるHVC特性の値を満足させるように調整される。赤外線吸収剤は0.010重量%を、光沢感の消失とともに赤外線反射剤の機能を併せ持つ酸化チタンは5.0重量%を、退色堅牢度向上剤は10.0重量%をそれぞれ添加する。
【0033】
次に、マスターチップを作成するのに使用したものと同種のバージンチップを、バージンチップ:マスターチップの比が、24:1となるように混合し、290〜300℃で溶融し、紡糸装置で紡糸し、その紡糸を4.5〜5倍で延伸しながら巻き取り、マスターチップを25倍希釈した原着糸とする。ベージュ、サンドベージュ、ブラウンの各色について、それぞれ同じ方法で原着糸を製造することができる。
【0034】
このようにして製造された3種(3色)の原着糸を、擬装ベルトの表側(外側)となる表面と裏側(身体側)となる表面とで部分的に迷彩柄を相違させ、かつ表面に現れる面積比率が上記[表2]に規定する範囲を満たし、全体で100%となるようにしてジャガード織加工を行う。なお、本発明において、表面とは上述のように擬装ベルト(帯状迷彩柄織物)の外面をいい、身につけたときに身体側となる面、及び外側を向く面のいずれの面も表面として扱う。
【0035】
ジャガード織加工の際には、
図2(a)〜(f)に示すように、その積層順が下層から上層へ向けてベージュ、ブラウン、サンドベージュとなる第1構成例A、同ベージュ、サンドベージュ、ブラウンとなる第2構成例B、同サンドベージュ、ベージュ、ブラウンとなる第3構成例C、同サンドベージュ、ブラウン、ベージュとなる第4構成例D、同ブラウン、サンドベージュ、ベージュとなる第5構成例E、同ブラウン、ベージュ、サンドベージュとなる第6構成Fの6パターンの織加工が存在する。本発明では、この6パターンをすべて用い、上記[表2]における各色の表面の面積比率の値をその範囲内とし、ジャガード織加工を行い、擬装ベルトを構成する。さらに、この6パターンを使いながら、3層の積層構造のうちの真ん中の層においてブラウンが占める面積比率を60〜70%とし、ベージュ、サンドベージュの多くが表面に現れるようにして、上記[表2]に示した面積比率を確実に具備するようにしている。
【0036】
なお、擬装ベルトを構成する着色糸の素材としての繊維に用いられる重合体(バージンチップ)は、繊維形成可能なポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィン等の重合体が好適である。具体的には、ナイロン6、ナイロン66、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン等を例示することができる。また、これらの重合体の性質を本質的に変化させない範囲で、第3成分を共重合したり、混合したりすることができる。
【0037】
混合する赤外線吸収剤は、カーボンブラック、チタンブラック、炭化ジルコニウム等を例示することができる。フタロシアニン化合物を含有した赤外線吸収剤は、特定波長域の反射率をコントロールしやすい。例えば、FujiFilm社製のPRO−JET925NP等が挙げられる。これらの化合物は単独又は複数で使用することができる。925NPを用いる場合、0.001〜0.01重量%の濃度で用いればよい。0.001重量%未満になれば赤外線吸収能が劣ってカムフラージュ性能が不十分となる可能性があり、0.01重量%より大きくなると、着色効果よりもコストが嵩んで非効率となってしまう。
【0038】
赤外線反射剤は、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、硫酸バリウム等を例示することができる。これらの化合物は、酸化チタン単独又は酸化チタンとその他とを組み合わせた複数で使用することができる。例えば、酸化チタンを用いる場合、0.2〜0.5重量%の濃度で用いればよい。0.2重量%未満になればカムフラージュ性能が不十分となる可能性があり、0.5重量%より大きくなると、溶融紡糸時に糸切れが発生しやすくなるおそれがある。
【0039】
さらに、酸化チタンには繊維の光沢感を消失させる効果があるので、カムフラージュ性能をより高めるのに有効である。本実施形態では、石原産業社製の酸化チタンを用い、これに赤外線反射剤及び光沢感消失剤としての機能を発揮させた。また、例えば、本発明では、酸化チタンを含み、更に酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、硫酸バリウムの1又は2以上を更に含んで合計0.2〜0.5重量%の濃度となるようにして用いることができる。
【0040】
本実施形態の擬装ベルトを構成するのに用いる退色堅牢度向上剤として、例えば、BASF社のTINUVIN1577(登録商標)を例示することができる。その濃度は、5.0〜15.0重量%とすればよい。
【0041】
このほか、赤外線吸収剤や赤外線反射剤、退色堅牢度向上剤以外に、制電性、耐光性、耐熱性等を付与する添加剤を0.1〜0.5重量%の範囲で含有させてもよい。
【0042】
本実施例において採用した着色剤である顔料を下記[表3]に示した。それぞれ大日精化社製であり、各色2種のものを混合して顔料とする。原着糸を得るためのマスターチップを作成するときに着色料(顔料)を混合するが、上述のとおり、マスターチップを25倍希釈して原着糸の繊維にしたときに上記[表2]におけるHVC特性の値を満足させるように、顔料の濃度を調整する。
【0043】
【表3】
【0044】
ここで、上述したとおりに作成したベージュ、サンドベージュ、ブラウンの各色の原着糸及びその比較例1〜3の強力保持率及び退色堅牢度の性能評価をしたので、その結果を下記[表4]に示す。
【0045】
【表4】
【0046】
なお、比較例1は、本実施例と同様な方法でマスターチップを作成しつつ、混合するサンドベージュの着色料に所定の染料を用いた例(比較例1において、サンドベージュのHVC特性は上記[表2]に記載した値を満足するように調整している。)である。比較例2は、本実施例と同様な方法でマスターチップを作成しつつ、赤外線吸収剤を不使用としてベージュの原着糸を構成した例である。
【0047】
比較例3−1は、本実施例と同様な方法でマスターチップを作成しつつ、退色堅牢度向上剤としてのBASF社のTINUVIN1577(登録商標)を不使用としてベージュの原着糸を構成した例である。比較例3−2は、本実施例と同様な方法でマスターチップを作成しつつ、TINUVIN1577(登録商標)を不使用としてサンドベージュの原着糸を構成した例である。比較例3−3は、本実施例と同様な方法でマスターチップを作成しつつ、TINUVIN1577(登録商標)を不使用としてブラウンの原着糸を構成した例である。
【0048】
また、上述したとおりに作成したベージュ、サンドベージュ、ブラウンの各色の原着糸から単色でジャガード織加工して厚み1.5mmの擬装ベルト(実施例1)を構成し、そのHVC特性を各色で調べた結果を下記[表5]に示す。なお、実施例1の擬装ベルトの面積比率は、
図1に示すように、ベージュ領域BE45%であり、サンドベージュ領域SBが40%であり、ブラウン領域BRが15%である。
【0049】
【表5】
【0050】
実施例1の表面がベージュである部分と、比較例2のベージュの原着糸とで、1000〜1200nm付近の赤外線波長域における光の反射率を比較して示すグラフを
図3に示す。また、
図4は、実施例1の表面がサンドベージュである部分の1000〜1200nm付近の赤外線波長域における光の反射率を示し、
図5は、実施例1の表面がブラウンである部分の1000〜1200nm付近の赤外線波長域における光の反射率を示す。
【0051】
上記[表4]、[表5]及び
図3〜
図5から、実施例1の擬装ベルトは、各色の原着糸の引張り強度が7.0cN/dtex以上であり、各色の原着糸が、それぞれ促進耐候性試験による耐候処理500時間後の強力保持率が70%以上の値を示して良好な耐候性を示すことが分かる。退色堅牢度試験による評価が4級以上の性能を備えて変退色に対する耐性も備える。また、実施例1の擬装ベルトは、上記[表2]で示す各色のHVC特性、各色の面積比率に基づいて表面に現れる迷彩柄により、目視において良好な擬装性能を備える。
図3〜
図5から、1000〜1200nmの赤外線波長域における各色の反射率は、基準を満たしていることが把握され、砂漠及び砂漠に準じた自然環境下での赤外線反射率に近く、赤外線スコープの偵察に対する擬装を良好に発揮できることが理解される。
【0052】
一方、上記[表4]に基づけば、比較例1のサンドベージュの原着糸は、染料を使用したために、処理後強力(KN)の値が悪く、強力保持率(%)及び退色堅牢度の値も悪い。したがって、本願の課題を解決するためには、着色料に顔料を使用する必要があることが分かる。また、比較例2のベージュの原着糸は、赤外線吸収剤を不使用としたために、
図3及び[表4]に示すように、1200nmの赤外線反射率が52.4%と規格外となり、赤外線スコープの偵察に対する擬装に問題が生じる虞がある。したがって、本願の課題を解決するためには、赤外線吸収剤の使用が不可欠である。
【0053】
さらに、比較例3−1〜比較例3−3の各色の原着糸は、退色堅牢度向上剤を不使用としたために、退色堅牢度の値が悪いほか、処理後強力(KN)の値、強力保持率(%)の値も悪い。したがって、本願の課題を解決するためには、退色堅牢度向上剤を使用する必要があることが分かる。
【0054】
なお、初期(各種の試験前及び製品完成時を意味する。)の引張り強度が7.0cN/dtex以上であることは、砂漠等で装備されることを想定したときの前提として備えるべき原着糸の強度であるとして捕らえたため、上記[表4]に示す試験結果では、実施例及び比較例のすべての原着糸に引張り強度7.0cN/dtex以上のスペックを備えさせている。同様に、酸化チタンは、繊維の光沢感を消失させる効果によってカムフラージュ性能をより高めるのに有効であるので、実施例及び比較例のすべてに0.5重量%含むスペックを備えさせている。
【0055】
したがって、本発明は、表面に現れる各色のHVC特性や各色の面積比率、赤外線波長域に対する光の反射率等において、砂漠及び砂漠に準じた環境下で良好な擬装性能を備え、目視に対して周囲の環境との見分けをつきにくくすることができ、赤外線スコープの偵察に対する擬装を良好に発揮させることができる。さらに、引張り強度が7.0cN/dtex以上、促進耐候性試験による耐候処理500時間の強力保持率が70%以上、及び、退色堅牢度試験による評価が4級以上の性能を備え、酸化チタンを0.2重量%以上含有し、かつ顔料により着色された原着糸からなる構成により、砂漠及び砂漠に準じた環境下で良好な耐候性を備えていると認められる。
【0056】
ここで、上記実施形態では、ベージュの原着糸、サンドベージュの原着糸及びブラウンの原着糸から3層構造の帯状に製織される帯状迷彩柄織物について説明した。さらに、本発明は、これらの3色の原着糸から4層、5層又は6層の層構造を有する帯状にジャガード織機で製織した帯状迷彩柄織物も、その技術的範囲に含んでいる。
【0057】
すなわち、上述したとおりに作成したベージュの原着糸、サンドベージュの原着糸及びブラウンの原着糸から、3〜6層の多層構造を有する帯状迷彩柄織物を構成することで、様々な用途に適切な厚みの帯状迷彩柄織物を提供することができる。このとき、帯状迷彩柄織物を上記[表2]で示される各色のHVC特性、各色の面積比率を有する迷彩柄の表面とすることにより、目視において良好な擬装性能を備える。また、上述したとおりに作成した3色の原着糸から製織されるので、赤外線スコープの偵察に対する擬装も良好に発揮させることができる。さらに、引張り強度が7.0cN/dtex以上、促進耐候性試験による耐候処理500時間の強力保持率が70%以上、及び、退色堅牢度試験による評価が4級以上の性能を備え、砂漠及び砂漠に準じた環境下で良好な耐候性を備えることが認められる。
【0058】
以上、本発明について出願人が最良であると信じる実施形態の1つを詳述したが、本発明は、特許請求の範囲に記載された事項を逸脱することがなければ、上記実施形態に限定されることなく、種々の設計変更を行う事が可能である。例えば、上記実施形態では、擬装ベルトについて例示して説明したが、片面に粘着層を配した迷彩柄テープであっても同様な性能を具備させて構成することができる。
【0059】
また、例えば、特許請求の範囲に記載された事項を逸脱することがなければ、帯状のものに限られず、迷彩柄織物製品の全般に適用することができる。そのような織物であっても、表面に現れる各色のHVC特性や各色の面積比率、赤外線波長域の光に対する反射率等において、砂漠及び砂漠に準じた環境下で良好な擬装性能を備え、目視に対して周囲の環境との見分けをつきにくくすることができ、赤外線スコープの偵察に対する擬装を良好に発揮させることができる。さらに、砂漠及び砂漠に準じた環境下で良好な耐候性を備えるものとなる。
【0060】
さらに、例えば、4〜6層の多層構造を有する帯状迷彩柄織物を構成する場合、黒色等の上述した3色以外の原着糸が表面に現れない限り、上述した3色以外の原着糸を含めて4〜6層のうちの中間となる層(表面となる最上層、最下層を除く層のことである。)を製織し、本発明に係る帯状迷彩柄織物を構成することが可能である。4〜6層のうちの中間となる層のいずれかにおいてブラウンが占める面積比率を60〜70%とすることで、ベージュ、サンドベージュの多くが表面に現れるようにして、上記[表2]に示した面積比率を確実に具備することができる。これにより、製織する方法のバリエーションは増えるほか、コストや製品の厚み等においても、バリエーションを増やすことが可能となる。