特許第5713360号(P5713360)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5713360
(24)【登録日】2015年3月20日
(45)【発行日】2015年5月7日
(54)【発明の名称】円偏光発光性希土類錯体
(51)【国際特許分類】
   C07D 413/14 20060101AFI20150416BHJP
   C07C 49/92 20060101ALI20150416BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20150416BHJP
   C07F 5/00 20060101ALN20150416BHJP
【FI】
   C07D413/14CSP
   C07C49/92
   G02B5/30
   !C07F5/00 D
【請求項の数】11
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2012-504424(P2012-504424)
(86)(22)【出願日】2011年3月3日
(86)【国際出願番号】JP2011054956
(87)【国際公開番号】WO2011111607
(87)【国際公開日】20110915
【審査請求日】2014年2月28日
(31)【優先権主張番号】特願2010-52358(P2010-52358)
(32)【優先日】2010年3月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504143441
【氏名又は名称】国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 順平
(72)【発明者】
【氏名】宮田 康平
(72)【発明者】
【氏名】妻鳥 紘之
(72)【発明者】
【氏名】原田 聖
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 靖哉
(72)【発明者】
【氏名】河合 壯
【審査官】 黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】 特表2006−512755(JP,A)
【文献】 特開2009−057367(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/111293(WO,A1)
【文献】 特開2005−097240(JP,A)
【文献】 Journal of Alloys and Compounds,2004年,380(1-2),p.352-6
【文献】 Tetrahedron Letters,2009年,50(46),p.6252-5
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 413/14
C07C 49/92
C07F 5/00
C09K 11/06
G02B 5/30
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2,6-ビス(2-オキサゾリン-2-イル)ピリジンとアセチルアセトン誘導体から成る配位子が希土類イオンに配位して成る円偏光発光性希土類錯体。
【請求項2】
一般式(6)
【化6】
(式中、Ln(III)は3価の希土類イオンを表し、Xは同一又は異なる水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、C1〜C20の基、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、ホスホン酸基、ジアゾ基、メルカプト基のいずれかを表し、Yは酸素原子を表し、Zは5員の芳香族複素環を形成するのに必要な原子群を表し、R1は同一又は異なるC1〜C20の基、水素原子、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、ホスホン酸基、ジアゾ基、メルカプト基のいずれかを表し、R2は同一又は異なるC1〜C20の基、水素原子、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、ホスホン酸基、ジアゾ基、メルカプト基のいずれかを表し、L1〜L3は同一又は異なる水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、C1〜C20の基、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、メルカプト基のいずれかを表す。)
で表されることを特徴とする請求項1に記載の円偏光発光性希土類錯体。
【請求項3】
一般式(7)
【化7】
で表されることを特徴とする請求項2に記載の円偏光発光性希土類錯体。
【請求項4】
一般式(8)
【化8】
で表されることを特徴とする請求項2に記載の円偏光発光性希土類錯体。
【請求項5】
一般式(9)
【化9】
で表されることを特徴とする請求項2に記載の円偏光発光性希土類錯体。
【請求項6】
一般式(10)
【化10】
で表されることを特徴とする請求項2に記載の円偏光発光性希土類錯体。
【請求項7】
前記希土類イオンが、Nd、Sm、Eu、Tb、Ybのいずれかのイオンであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の円偏光発光希土類錯体。
【請求項8】
一般式(11)
【化11】
(式中、Ln(III)は3価の希土類イオンを表し、Xは同一又は異なる水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、C1〜C20の基、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、ホスホン酸基、ジアゾ基、メルカプト基のいずれかを表し、Y及びZは5員の芳香族複素環を形成するのに必要な原子群を表し、R1は同一又は異なるC1〜C20の基、水素原子、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、ホスホン酸基、ジアゾ基、メルカプト基のいずれかを表し、R2は同一又は異なるC1〜C20の基、水素原子、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、ホスホン酸基、ジアゾ基、メルカプト基のいずれかを表す。)
で表されることを特徴とする請求項1に記載の円偏光発光性希土類錯体。
【請求項9】
請求項1〜のいずれかに記載の円偏光発光性希土類錯体を含むことを特徴とする光学機能材料。
【請求項10】
請求項1〜のいずれかに記載の円偏光発光性希土類錯体を含むことを特徴とする円偏光フィルタ。
【請求項11】
請求項1〜のいずれかに記載の円偏光発光性希土類錯体を含むことを特徴とするセキュリティインク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円偏光発光を示す希土類錯体及びそれを利用した光機能材料及びセキュリティー技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光通信技術、光記録をはじめとするIT技術、光を用いた材料の作製・計測・評価技術、光の医療への応用、更には光エネルギーの他のエネルギーへの変換など、光を利用した技術が重要になっている。そこで、光をより有効に活用するために、より高性能な光学機能材料の開発が求められている。このような光学機能材料の一つに希土類錯体がある。希土類錯体は、非線形光学素子、光記録材料、発光材料、イムノアッセイなどの分析・測定用に用いられる標識剤(ラベリング剤)、センシング材料及びセキュリティー材料など種々の分野において、光機能材料として利用可能な化合物である。
【0003】
例えば、BINAPOをはじめとするビナフチル構造配位子とfacam誘導体の両方が希土類イオンに配位した希土類錯体、TPPOをはじめとするホスフィンオキシド誘導体とfacam誘導体の両方が希土類イオンに配位した希土類錯体が報告されている(特許文献1〜3)。この希土類錯体は、ビナフチル構造配位子やホスフィンオキシド誘導体のジアステレオマー構造に由来する不斉配位子場により、右回りと左回りの円偏光を選択的に吸収することが円偏光二色性スペクトル(CDスペクトル)から示されている。一方、不斉配位子場環境下における希土類錯体は円偏光発光スペクトル(CPLスペクトル)を示すことが報告されている(非特許文献1)。
【0004】
分子の円偏光発光特性はg値(異方性因子)で示すことができる。g値は次のように定義される値である。
CDスペクトルからのg値=Δε/ε=2(ε−ε)/(ε+ε
(式中、εは左回りの円偏光における吸収係数、εは右回りの円偏光における吸収係数を表す。)
CPLスペクトルからのg値=ΔI/I=2(I−I)/(I+I
(式中、Iは左回りの円偏光発光強度、Iは右回りの円偏光発光強度を表す。)
【0005】
従来の有機化合物のCPLスペクトルにおけるg値は0.001(0.1%)である。これに対して、ビナフチル構造配位子とfacam誘導体の両方が配位した希土類錯体のg値は0.01(1%)程度であり、ホスフィンオキシド誘導体とfacam誘導体の両方が配位した希土類錯体のg値は0.44(44%)であることが報告されている。従って、これら希土類錯体のg値は従来の有機化合物のg値に比較すると格段に高く、円偏光発光特性に優れているといえる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−327590号公報
【特許文献2】特開2005−097240号公報
【特許文献3】WO2008/111293
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J. Sokolnicki, J. Legendziewicz, J. P. Riehl: J. Phys. Chem. B 106 (2002) 1508.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上述した希土類錯体は円偏光発光性に優れるものの、励起光(紫外光)を照射したときの発光強度が低い。希土類錯体を光機能材料として用いるためには、円偏光発光性だけでなく、発光強度が大きいことが求められる。特に、大きなg値を示し、且つ発光強度が大きい希土類錯体は、円偏光発光を利用したセキュリティー材料、センサー、円偏光光源など様々な応用への展開が期待される。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、円偏光発光性を有し、且つ発光強度が大きい希土類錯体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために成された本発明に係る円偏光発光性希土類錯体は、不斉ビスオキサゾリンピリジン骨格を有する配位子とアセチルアセトン誘導体から成る配位子が希土類イオンに配位して成ることを特徴とする。
【0011】
アセチルアセトン誘導体は光増感機能を有する配位子として知られている。「光増感機能」とは、照射されたエネルギーを効率よく希土類イオンに移動させて当該希土類イオンを増感発光させることができる機能をいう。アセチルアセトン誘導体には種々のものが知られており、例えば一般式(1)
【化1】
(式中、L〜Lは同一又は異なる水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、C1〜C20の基、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、メルカプト基のいずれかを表す。)
で表されるものや、一般式(2)
【化2】
(R3は同一または異なる水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、C1からC20の基、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、メルカプト基のいずれかを表す。)
で表されるものが挙げられる。上記の一般式(2)で表されるアセチルアセトン誘導体はカンファー誘導体としても知られている。
【0012】
また、アセチルアセトン誘導体の具体例として、化学式(3)
【化3】
で表されるヘキサフルオロアセチルアセトン(hexafluoroacetylacetone、以下、略語「hfa」と表記する)が挙げられる。
【0013】
また、本発明の円偏光発光性希土類錯体は、一般式(4)
【化4】
(式中、Ln(III)は3価の希土類イオン、Xは同一又は異なる水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、C1〜C20の基、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、ホスホン酸基、ジアゾ基、メルカプト基のいずれかを表し、Y及びZは5員の芳香族複素環を形成するのに必要な原子群を表し、Rは同一又は異なるC1〜C20の基、水素原子、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、ホスホン酸基、ジアゾ基、メルカプト基のいずれかを表し、Rは同一又は異なるC1〜C20の基、水素原子、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、ホスホン酸基、ジアゾ基、メルカプト基のいずれかを表し、L〜Lは同一又は異なる水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、C1〜C20の基、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、メルカプト基のいずれかを表す。)
で表される希土類錯体を用いることができる。
【0014】
上記希土類イオンはNd、Sm、Eu、Tb、Ybのいずれかのイオンであることが好ましく、特に好ましくはEu又はTbである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、円偏光発光性を有し、且つ高い発光特性を有する希土類錯体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る円偏光発光性希土類錯体(Ln(III)錯体)の合成手順の一例を示す図。
図2A】本発明の実施例1に係る円偏光発光性希土類錯体のうち中心イオンをEu(III)とする円偏光発光性希土類錯体の化学式を示す図。
図2B】実施例1に係る円偏光発光性希土類錯体のうち中心イオンをTb(III)とする円偏光発光性希土類錯体の化学式を示す図。
図3A】中心イオンをEu(III)とする円偏光発光性希土類錯体のX線結晶構造を示す図。
図3B】中心イオンをTb(III)とする円偏光発光性希土類錯体のX線結晶構造を示す図。
図4】実施例1に係る円偏光発光性希土類錯体の吸収スペクトル。
図5】実施例1に係る円偏光発光性希土類錯体の発光スペクトル。
図6】中心イオンをEu(III)とする円偏光発光性希土類錯体の発光量子収率を示す表。
図7】中心イオンをTb(III)とする円偏光発光性希土類錯体の発光量子収率を示す表。
図8】実施例1に係る円偏光発光性希土類錯体の円偏光二色性スペクトル(CDスペクトル)。
図9】実施例1に係る円偏光発光性希土類錯体の円偏光発光スペクトル(CPLスペクトル)。
図10】中心イオンをEu(III)とする円偏光発光性希土類錯体のg値を示す表。
図11】中心イオンをTb(III)とする円偏光発光性希土類錯体のg値を示す表。
図12】本発明の実施例2に係るEu(III)錯体とTb(III)錯体の混合溶液1〜9の色度座標を示す表。
図13】Eu(III)錯体及びTb(III)錯体の混合溶液1〜9の発光スペクトルを示す図。
図14】Eu(III)錯体及びTb(III)錯体の混合溶液1〜3のCDスペクトル及びCPLスペクトルを示す図。
図15】Eu(III)錯体及びTb(III)錯体の混合溶液4〜6のCDスペクトル及びCPLスペクトルを示す図。
図16】Eu(III)錯体及びTb(III)錯体の混合溶液7〜9のCDスペクトル及びCPLスペクトルを示す図。
図17】色度図。
図18】本発明の実施例3に係るEu(III)錯体、Tb(III)錯体及びアントラセンの混合溶液の色度座標を示す表。
図19】Eu(III)錯体、Tb(III)錯体及びアントラセンの混合溶液の発光スペクトルを示す図。
図20】本発明の実施例4を説明するための図であり、実施例2で得られた混合溶液を含有する樹脂成形体の温度による発光色調の変化を示す図。
図21】[Eu(D-facam)3]に種々の配位子を付加するための合成手順の一例を示す図。
図22図21に示す合成手順にて得られた結晶(1)〜(4)の単結晶X線構造解析結果を示す図。
図23図21に示す合成手順にて得られた結晶(1)〜(4)の化学構造同定結果を示す図。
図24A】Eu(facam)3錯体を構成するPybox配位子及びPhen配位子のCDスペクトル及び吸収スペクトル。
図24B】Eu(facam)3錯体(1)〜(4)のCDスペクトル及び吸収スペクトル。
図25】Eu(facam)3錯体(1)〜(4)のCPLスペクトル及び発光スペクトル。
図26】Eu(facam)3錯体(1)〜(4)の発光量子収率等を示す表。
図27】Eu(facam)3錯体(1)〜(4)のg値を示す表。
【発明を実施するための形態】
【0017】
希土類錯体とは、希土類元素の2価、3価又は4価のイオンを中心イオンとして、1ないし複数の各種配位子が配位した有機錯体である。このような錯体としては、希土類イオンが他の化学種に取り囲まれてホスト−ゲスト構造をとった包接化合物や、単に中心の希土類イオンに配位子が配位したのみ(希土類イオンが他の化学種に包接されていない)のものがある。包接化合物構造は、一般的に不斉部位が希土類イオンから離れているため、希土類イオンのキラリティの影響が少ない。また、錯体がデルタ体及びデルタ体の光学異性体混合物になる可能性が高く、キラリティの低下が考えられる。このことから、本発明に係る希土類錯体においては、他の化学種に包接されていない錯体構造を採用した。
【0018】
具体的には、本発明に係る希土類錯体は、希土類元素のうち特に3価のイオンを中心イオンとして、不斉ビスオキサゾリンピリジン骨格を有する配位子と、光増感機能を有する配位子が配位した錯体構造を有する。
不斉配位子が希土類錯体に組み込まれることによって、円偏光発光が生じる。円偏光発光は、中心イオンである希土類イオンの4f軌道内での遷移により放射される円偏光成分を有する発光である。希土類イオンの4f軌道は7つある。1つの軌道に最大2個の電子が入るため、4f軌道全体で最大14個の電子が入る。入る電子の個数は希土類イオンの種類によって異なる。Eu3+イオンの場合、4f軌道全体で6個の電子が存在する。上記4f軌道の準位は、通常、結晶場の存在などにより縮退しない。その準位間のエネルギー差に対応した光を照射すれば、4f軌道の準位間における電子の遷移により発光が生じ、尖鋭な発光スペクトルが得られる。上記のような4f軌道の準位間における電子の遷移を、以後f−f遷移と呼ぶ。
【0019】
一般に希土類元素の特性(イオン半径、配位形態等)は非常に類似しており、従って本発明の円偏光発光性希土類錯体の中心イオンとして、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Ybのいずれかの3価の希土類イオンを用いれば、同様の円偏光発光が得られる。特に、本発明に係る希土類錯体では、中心イオンとしてNd、Sm、Eu、Tb、Ybのいずれかの3価のイオンが好ましく、さらに好ましくはEu又はTbである。なお、中心イオンとしてNd、Ybなどを用いることにより、本発明に係る希土類錯体は近赤外領域での発光を生じる。
【0020】
本発明に係る光学機能材料に使用し得る希土類錯体には種々のものが考えられる。前段落に記したように、中心となる希土類イオンだけでも十数種類存在し、それらと不斉配位子との組み合わせは多数存在する。上記の希土類イオンにおける4f軌道の準位間のエネルギー差が周囲の配位子の種類にも依存するため、上記希土類イオンの変化のみならず、配位子の組み合わせを変化させることによっても、様々な波長域の円偏光発光を得ることができる。
【0021】
光増感機能を有する配位子には様々なものがあるが、本発明ではアセチルアセトン誘導体を用いた。上記アセチルアセトン誘導体としては、一般式(1)
【化1】
(式中、L〜Lは同一又は異なる水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、C1〜C20の基、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、メルカプト基のいずれかを表す。)
で表されるものや、以下の一般式(2)
【化2】
(R3は同一または異なる水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、C1からC20の基、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、メルカプト基のいずれかを表す。)
で表されるカンファー誘導体が挙げられる。光増感機能を有する配位子としては上記カンファー誘導体のように、不斉炭素を持つものも選択することができる。
【0022】
特に、一般式(5)
【化5】
(式中、Ln(III)は3価の希土類イオンを表し、Xは同一又は異なる水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、C1〜C20の基、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、ホスホン酸基、ジアゾ基、メルカプト基のいずれかを表し、Y及びZは5員の芳香族複素環を形成するのに必要な原子群を表し、Rは同一又は異なるC1〜C20の基、水素原子、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、ホスホン酸基、ジアゾ基、メルカプト基のいずれかを表し、Rは同一又は異なるC1〜C20の基、水素原子、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、ホスホン酸基、ジアゾ基、メルカプト基のいずれかを表す。)
で表される不斉ビスオキサゾリンピリジン(Bis (oxazolinyl) pyridine)骨格を有する配位子(以下、「ビスオキサゾリンピリジン配位子」、又は略語「pybox」と表記する)とヘキサフルオロアセチルアセトン(hfa)が希土類イオンに配位した希土類錯体は優れた円偏光発光性を有し、且つ高い発光特性を有する。これは、pyboxの2箇所のオキサゾリン環と各hfaのフッ化炭素基(-CF3)の間で化学的なインターラクション(π-π相互作用)が働き、希土類錯体の結晶構造に不斉を誘起するようなゆがみを与えることによると思われる。
【0023】
上記のような相互作用を得るためには、ビスオキサゾリンピリジン配位子について、一般式(5)中、Rがイソプロピル基、フェニル基などの比較的かさ高いものを選択することが好ましい。この場合、ビスオキサゾリンピリジン配位子の2箇所のオキサゾリン環に結合するそれぞれのRが異なる官能基であってもよい。
以下、本発明に係る希土類錯体(Ln(III)錯体)の具体的な実施例について述べる。
【実施例1】
【0024】
1.Ln(III)錯体の合成
図1に示す合成手順に従いLn(III)錯体を合成した。図1及び以下の説明では、LnはEu(ユーロピウム)又はTb(テルビウム)を示し、Meはメチル基を示す。また、Phはフェニル基、iPrはイソプロピル基を示す。
まず、pybox系配位子を1等量、及びLn(hfa)3(H2O2)2 1.2等量をMeOHに溶かし、80℃で8時間加熱還流を行った。減圧下でMeOHを留去した後、得られた固体をクロロホルムで洗い、不純物(未反応のLn(hfa)3(H2O2)2 )をろ過により取り除いた。ろ液中の溶媒を留去し、黄白色の粉末を得た。メタノールで再結晶を行うことで無色の結晶を得た。
【0025】
2.Ln(III)錯体の同定
得られた無色の結晶をESI-Mass(エレクトロスプレー質量分析)及びX線結晶構造解析で同定した。ESI-MASSは日本電子株式会社(JEOL)製のJMS-700、MStationを用いた。また、X線結晶構造解析は株式会社リガク製の有機低分子X線構造解析装置(Rapid)を用いた。
ESI-MASSの結果を以下に示す。
【0026】
(1) [(R,R)-Ph-pybox]Eu(hfa-H)3錯体及び[(S,S)-Ph-pybox]Eu(hfa-H)3錯体
ESI-MASS(m/z):[M-(hfa)]+ calcd. for C33H21EuF12N3O6+, 936.04542、found, 936.04466
(2) [(R,R)-iPr-pybox]Eu(hfa-H)3錯体及び[(S,S)-iPr-pybox]Eu(hfa-H)3錯体
ESI-MASS(m/z):[M-(hfa)]+ calcd. for C27H25EuF12N3O6+, 868.07663、found, 868.07707
(3) [(R,R)-Me-Ph-pybox]Eu(hfa-H)3錯体及び[(S,S)-Me-Ph-pybox]Eu(hfa-H)3錯体
ESI-MASS(m/z):[M-(hfa)]+ calcd. for C35H25EuF12N3O6+, 964.07675、found, 964.07681
(4) [(R,R)-Ph-pybox]Tb(hfa-H)3錯体及び[(S,S)-Ph-pybox]Tb(hfa-H)3錯体
ESI-MASS(m/z):[M-(hfa)]+ calcd. for C33H21F12N3O6Tb+, 942.04922、found, 942.04901
(5) [(R,R)-iPr-pybox]Tb(hfa-H)3錯体及び[(S,S)-iPr-pybox]Tb(hfa-H)3錯体
ESI-MASS(m/z):[M-(hfa)]+ calcd. for C27H25F12N3O6Tb+, 874.08052、found, 874.08060
(6) [(R,R)-Me-Ph-pybox]Tb(hfa-H)3錯体及び[(S,S)-Me-Ph-pybox]Tb(hfa-H)3錯体
ESI-MASS(m/z):[M-(hfa)]+ calcd. for C35H25F12N3O6Tb+, 970.08052、found, 970.08062
【0027】
また、12種類のLn(III)錯体のX線結晶構造解析の結果を図3A及び図3Bに示す。
ESI-MASSの結果及びX線結晶構造解析の結果から、得られた結晶はそれぞれ図2A及び図2Bに示す12種類のLn(III)錯体であるといえる。
【0028】
3.各Ln(III)錯体の発光量子収率
各Ln(III)錯体の発光量子収率を求めるために、吸収スペクトル及び発光スペクトルを測定した。吸収スペクトルの測定には日本分光株式会社製の紫外可視分光光度計(JASCO-V660)、発光スペクトルの測定には日立製作所製の分光蛍光光度計(HITACHI F-4500)を用いた。吸収スペクトル及び発光スペクトルの測定は、各Ln(III)錯体の重アセトニトリル溶液(1.0×10-2M)を調製し、溶存酸素による消光を防ぐためにArバブリングを10分間行った後、測定した。励起波長は465nm(Eu(III)錯体),487nm(Tb(III)錯体)に設定した。各Ln(III)錯体の吸収スペクトル及び発光スペクトルをそれぞれ図4及び図5に示す。
【0029】
得られた吸収スペクトル及び発光スペクトルから各Ln(III)錯体の発光量子収率(Φ%)を求めた。発光量子収率はJASCO V-660を用い、絶対法により求めた。各Ln(III)錯体の発光量子収率を図6及び図7に示す。図6及び図7から本実施例に係るLn(III)錯体はいずれも優れた発光量子収率を示し、特にEu(III)錯体については非常に高い発光量子収率を示した。
【0030】
4.Ln(III)錯体の円偏光性
各Ln(III)錯体の円偏光性を調べるために、円偏光二色性スペクトル(CDスペクトル)及び円偏光発光スペクトル(CPLスペクトル)を測定した。CDスペクトル及びCPLスペクトルは、各Ln(III)錯体の重アセトニトリル溶液(1.0×10-2M)を調製し、Arバブリングを10分間行った後、測定した。
各Ln(III)錯体のCDスペクトル及びCPLスペクトルを図8及び図9に示す。
【0031】
図9に示すCPLスペクトルの結果を基に、以下の式を用いてg値を計算した。なお、発光バンドの存在しない波長域での値は無視した。
g値=ΔI/I=2(I−I)/(I+I
(式中、Iは左回りの円偏光発光強度、Iは右回りの円偏光発光強度を表す。)
g値の計算結果を図10及び図11に示す。
図10及び図11から明らかなように、本実施例のLn(III)錯体は円偏光発光を示す。特に、Eu(III)錯体については発光波長が594nmにおけるg値(絶対値)は0.13〜0.5(13%〜50%)であり、いずれも高かった。なお、発光波長が615nmにおけるg値(絶対値)は0.019〜0.035(1.9%〜3.5%)であった。
【実施例2】
【0032】
テルビウムは緑色の波長領域に発光を示し、ユーロピウムは赤色の波長領域に発光を示す。そこで、実施例1で得られたEu(III)錯体とTb(III)錯体の混合溶液を調製し、その発光を確認した。
混合溶液は、アセトニトリル2mLに、1mMのEu(III)錯体アセトニトリル溶液約20μL、10mMのTb(III)錯体アセトニトリル溶液200μLを加えて作製した。
【0033】
図12に、Eu(III)錯体及びTb(III)錯体の各溶液の添加量、混合溶液を波長365nmで励起したときの発光の色度座標(x,y)(計算値)を示す。以下では、これら混合溶液を図12の左端に示した白抜き数字の番号を付して混合溶液1〜9と称する。図13に混合溶液1〜9の蛍光発光スペクトルを、図14図16に各混合溶液1〜9のCDスペクトル及びCPLスペクトルを示す。
【0034】
各混合溶液1〜9は、波長365nmで励起すると黄色の発光を示した。また、その色度座標(計算値)は、図17の色度図において丸(○)で印を付けた領域内に位置する。従って、色度座標からも、混合溶液1〜9が黄色の発光を示すことがわかる。
また、図14図16から、混合溶液1〜9はいずれもの円偏光特性を示すことが分かる。
【実施例3】
【0035】
上述したように実施例2で得られた混合溶液1〜9はいずれも紫外光で励起したとき黄色の発光を示す。そこで、紫外光を照射したときに青色の発光を示す有機化合物であるアントラセンを前記混合溶液1〜9に添加し、白色の発光を示す溶液を調製した。溶液の調製は、混合溶液1〜9を約2070μLにアントラセン溶液(0.05mM)を約10μL添加することで行った。
【0036】
図18に各混合溶液1〜9に添加したアントラセンの量、アントラセン添加後の混合溶液(以下、混合溶液11〜19と呼ぶ)を波長360nmで励起したときの発光の色度座標(x,y)(計算値)を示す。また、図19に混合溶液11〜19の発光スペクトルを示す。
【0037】
各混合溶液11〜19を波長360nmで励起すると、白色の発光を示した。また、図18に示す色度座標の値から明らかなように、本実施例に係る混合溶液11〜19は白色の発光を示すことが分かる。
【実施例4】
【0038】
実施例2で得られた混合溶液をシクロオレフィンポリマー樹脂(商品名「ゼオネックス(ZEONEX)」(登録商標)、日本ゼオン株式会社)に均一に分散させ、樹脂成形体を作製した。この樹脂成形体を加熱、或いは冷却して紫外光を照射し、そのときの発光色を調べた。図20に、-20℃に冷却したとき、室温、60℃に加熱したときの発光の様子を示す。
【0039】
図20に示すように、室温では黄色の発光を示したのに対して、-20℃に冷却したときは緑色の発光を示し、60℃に加熱したときは赤色の発光を示した。このことから、温度が低いときは、テルビウムの発光色が強く表れ、温度が高いときはユーロピウムの発光色が強く表れるものと思われる。なお、加熱による温度変化には可逆性があり、60℃に加熱後あるいは-20℃に冷却後、室温に戻った樹脂形成体は黄色の発光を示した。
このように、Eu(III)錯体とTb(III)錯体の混合溶液を用いて作製した樹脂成形体は、温度を変化させることにより、紫外光を照射したときに発光する色調を変化させることができる。また、Eu(III)錯体とTb(III)錯体の混合比を変化させることによって、発光する色調が変化する温度が異なることも確認した。
【実施例5】
【0040】
本発明に係る希土類錯体のうち、光増感機能を有する配位子としてカンファー誘導体を採用した実施例について、以下詳細に述べる。
【0041】
本実施例における希土類錯体は、Euに不斉ビスオキサゾリンピリジン骨格又はフェナントロリン骨格を有する配位子を採用し、さらに光増感機能を有する配位子として、一般式(2)
【化2】
においてR3として水素原子を有する誘導体(3-trifluoroacetyl-D-camphorate)を採用したものである。これを以下、Eu(facam)3錯体と呼ぶ。なお、以下の説明においてfacamは3-trifluoroacetyl-d-camphorate基を、Phenはフェナントロリン骨格を有する1,10-phenanthroline基を指すものとする。
【0042】
1.Eu(facam)3錯体の合成
図21(a)、(b)、(c)及び(d)に示す計4種の合成手順に従い、Eu(facam)3錯体の結晶(1)、(2)、(3)及び(4)を得た。
まず図21(a)に示す[Eu(D-facam)3](0.43g、0.46mmol)及びR-iPr-Pybox(0.14g、0.46mmol)をメタノール(50mL)に溶解させ、還流条件下、12時間撹拌した。反応溶液をろ過した後数日静置し、黄色の菱形結晶(1)を得た。収率は46%であった。
図21(b)においては上記と同じ手法を用いた。R-iPr-Pyboxの替わりにS-iPr-Pybox(0.14g、0.46mmol)を用い、黄色の菱形結晶(2)を得た。収率は34%であった。
さらに図21(c)に示す[Eu(D-facam)3](0.26g、0.29mmol)及びR,R-Me-Ph-Pybox(0.12g、0.29mmol)を予め攪拌子を入れたナス型フラスコに加え、アセトニトリル(20mL)、MeOH(20mL)の順に溶媒を加え溶解させた。この溶液を還流条件下、12時間撹拌させた。反応溶液をろ過し数日静置し、黄色の板状結晶(3)を得た。収率は73%であった。
最後に図21(d)においては図21(a)と同じ手法を用いた。R-iPr-Pyboxの替わりに1,10-Phenanthroline・一水和物(0.045g、0.26mmol)を用い、[Eu(D-facam)3](0.21g、0.23mmol)と反応させ黄色の菱形結晶(4)を得た。収率は72%であった。
なお、いずれの合成手順においても、試薬はナカライテスク、和光純薬工業、東京化成工業、Aldrich、CILより購入した。溶媒は適宜蒸留したものを用いた。
【0043】
2.Eu(facam)3錯体の同定
上記計4種の合成手順によって得られた黄色の結晶(1)、(2)、(3)及び(4)をESI-Mass(エレクトロスプレー質量分析)、NMR分析、FT-IR分析、元素分析及び単結晶X線結晶構造解析で同定した。ESI-MASSは日本電子株式会社(JEOL)製のJMS-700を、NMRは同じく日本電子株式会社(JEOL)製のAL-300(1H-NMR、300MHz)を、FT-IR分析は日本分光株式会社製のFT/IR-4200を、元素分析はPerkin Elmer社の2400IIを、単結晶X線結晶構造解析は株式会社リガク製のRigaku Valimax RAPID RA-Macro7HFMを用いた。
【0044】
ESI-MASSの結果を以下に示す。
結晶(1) ESI-MS(ESI+): 946.288([M-(D-facam)]+) m/z.
結晶(2) ESI-MS(ESI+): 946.288([M-(D-facam)]+) m/z.
結晶(3) ESI-MS(ESI+): 1042.288([M-(D-facam)]+) m/z.
結晶(4) ESI-MS(ESI+): 825.177([M-(D-facam)]+) m/z.
【0045】
NMR分析(1H-NMR)の結果を以下に示す。なお、測定試料調製用の溶媒として重水素化クロロホルムを使用した。括弧の前の数字はケミカルシフト(ppm)を、括弧内のアルファベットはスペクトルの多重線形状を示す。
結晶(1) 1H-NMR(CDCl3, 300MHz, 298K) δ: 12.6-11.0(br), 9.0-7.6(br), 6.8-5.8(br), 1.89(br), -1.0 - -2.2(br), -2.8 - -3.4(br), -3.8 - -5.0(br)
結晶(2) 1H-NMR(CDCl3, 300MHz, 298K) δ: 9.2-7.8(br), 6.6-5.6(br), 2.04(s, br), -0.4 - -2.0(br), -3.0 - -4.0(br)
結晶(3) 1H-NMR(CDCl3, 300MHz, 298K) δ: 12.0-11.2(s, br), 9.03(s, br), 8.5-7.8(br), 7.7-7.4(d, br), 2.6-2.0(br), 1.5-0.5(br), -1.39(br), -1.78(br), -2.61(br), -3.36(br), -4.64(br)
結晶(4)(括弧内のアルファベットはスペクトルの多重線形状並びに対応するプロトン数を示す)1H-NMR(CDCl3, 300MHz, 298K) δ: 10.49(d, Aromatic, 2H), 10.23(s, Ar, 2H), 7.97(d, Ar, 2H), 4.92(s, Ar, 2H), 2.56(s, 3H), 2.06(s, 9H), 1.23(t, 3H), 0.52(t, 3H), -0.09(s, 9H), -0.71(s, 3H), -0.83(s, 9H), -1.62(t, 3H)
【0046】
FT-IR分析の結果を以下に示す。なお、括弧の前の数値は赤外線の波数(cm-1)を、括弧内のアルファベットは吸収スペクトルの形状、大きさ並びに前記吸収スペクトルに対応する特定基を示す。
結晶(1) FT-IR(ATR): 3010-2810(w, br, C-H), 1651(s, sh, C=O), 1585(w), 1522(s), 1483(w), 1441(w), 1371(m), 1329(m, CF3), 1294(w, CF3), 1267(s, CF3), 1225(s, CF3), 1200(m, CF3), 1182(s, CF3), 1122(s, CF3), 1111(m), 1082(m), 1051(m), 1009(s), 972(m), 922(w), 891(w), 850(w), 829(w), 802(m), 746(m), 714(w), 683(m), 644(w)
結晶(2) FT-IR(ATR): 3010-2810(w, br, C-H), 1651(s, sh, C=O), 1585(w), 1522(s), 1481(w), 1439(w), 1369(m), 1327(m, CF3), 1294(w, CF3), 1267(s, CF3), 1225(s, CF3), 1200(m, CF3), 1182(s, CF3), 1109(s, CF3), 1080(w), 1049(w), 1005(s), 970(m), 922(w), 891(w), 850(w), 829(w), 802(m), 746(m), 714(w), 683(m), 644(w)
結晶(3) FT-IR(ATR): 3050-2800(br, w, C-H), 1658(sh, s, C=O), 1581(w), 1527(s), 1427(m), 1377(w), 1331(w), 1265(s, CF3), 1223(s, CF3), 1184(s, CF3), 1126(s, CF3), 1080(w), 1049(w), 1011(w), 949(m), 837(w), 802(m), 748(m), 690(m), 644(w)
結晶(4) FT-IR(ATR): 3025-2800(br, w, C-H), 1647(sh, s, C=O), 1535(m), 1423(m), 1327(m), 1294(w), 1265(s, CF3), 1222(s, CF3), 1198(s, CF3), 1180(s, CF3), 1124(s, CF3), 1107(m), 1078(m), 1049(m), 920(w), 847(m), 802(m), 729(m), 681(w), 642(w)
【0047】
元素分析の結果を以下に示す。
結晶(1) Anal. Found: C, 52.98 %; H, 5.24 %; N, 3.66 %. Calcd. for EuC53H65N3O8F9: C, 53.27 %; H, 5.48 %; N, 3.52 %.
結晶(2) Anal. Found: C, 53.12 %; H, 5.34 %; N, 3.59 %. Calcd. for EuC53H65N3O8F9: C, 53.27 %; H, 5.48 %; N, 3.52 %.
結晶(3) Anal. Found: C, 56.09 %; H, 4.84 %; N, 3.41 %. Calcd. for EuC61H65N3O8F9・0.5H2O: C, 53.65 %; H, 5.12 %; N, 3.23 %.
結晶(4) Anal. Found: C, 53.69 %; H, 4.57 %; N, 2.61 %. Calcd. for EuC48H50N2O6F9: C, 53.69 %; H, 4.69 %; N, 2.61 %.
【0048】
4種類のEu(facam)3錯体の黄色結晶(1)〜(4)の単結晶X線構造解析の結果を図22に示す。黄色結晶(3)に関し、単結晶X線構造解析によりR,R-Me-Ph-Pyboxのメチル基及びフェニル基の絶対配置が4S及び5S体であると判断した。この時、D-facamの絶対配置が変化していないことを確認した。またflack parameterは-0.006(5)(Friedel pairs: 6384)であった。
【0049】
上述した各種分析の結果から、得られた黄色結晶(1)〜(4)はそれぞれ図23に示すEu(facam)3錯体であり、(1)[Eu(R-iPr-Pybox)(D-facam)3]錯体、(2)[Eu(S-iPr-Pybox)(D-facam)3]錯体、(3)[Eu(S,S-Me-Ph-Pybox)(D-facam)3]錯体、(4)[Eu(Phen)(D-facam)3]錯体であると同定された。
【0050】
3.Eu(facam)3錯体及びEu(facam)3錯体を構成する配位子のCDスペクトル及び吸収スペクトル
各Eu(facam)3錯体の円偏光発光特性を求めるために、Eu(facam)3錯体(1)〜(4)及び各Eu(facam)3錯体を構成する配位子のCDスペクトル及び吸収スペクトルを測定した。
いずれの測定においても、各Eu(facam)3錯体及び各Eu(facam)3錯体を構成する配位子の重アセトニトリル溶液(1.0×10-2M)を調製し、溶存酸素による消光を防ぐためにArバブリングを10分間行った後、測定した。
Eu(facam)3錯体を構成するPybox配位子及びPhen配位子のCDスペクトル及び吸収スペクトルを図24Aに、Eu(facam)3錯体(1)〜(4)のCDスペクトル及び吸収スペクトルを図24Bに示す。
【0051】
4.Eu(facam)3錯体のCPLスペクトル及び発光スペクトル
さらに、Eu(facam)3錯体(1)〜(4)のCPLスペクトル及び発光スペクトルを測定した。
測定試料の調製方法は、上述したCDスペクトル及び吸収スペクトルの測定時と同じである。
Eu(facam)3錯体(1)〜(4)のCPLスペクトル及び発光スペクトルを図25に示す。
【0052】
5.Eu(facam)3錯体の発光量子収率
得られた吸収スペクトル及び発光スペクトルから各Eu(facam)3錯体(1)〜(4)の発光量子収率(Φ%)を求めた。発光量子収率はJASCO V-660を用い、絶対法により求めた。また併せて、試料に励起光として窒素レーザ(Usho KEC-160; wavelength、337nm; pulse width、600 ps; 10Hz)を照射し、発光をストリークカメラ(Hamamatsu、picosecond fluorescence measurement system、C4780)によって計測することにより、発光寿命(τ)を求めた。さらに、放射速度定数(kr)及び無放射速度定数(knr)をそれぞれ以下の式により算出した。
放射速度定数(kr)= Φ/100τ
無放射速度定数(knr)= (1-Φ)/100τ
これらを図26にまとめて示す。
【0053】
6.Eu(facam)3錯体及びEu(facam)3錯体を構成する配位子の円偏光性
図24Bに示すCDスペクトルの結果を基に、以下の式を用いてg値(gCD)を計算した。
CDスペクトルからのg値=Δε/ε=2(ε−ε)/(ε+ε
(式中、εは左回りの円偏光における吸収係数、εは右回りの円偏光における吸収係数を表す。)
g値の計算結果を図27に示す。
【0054】
これらの結果から明らかなように、本実施例に係るEu(facam)3錯体の発光量子収率はLn(III)錯体に比べて相対的に低い。換言すれば、hfaの方がLn(III)を発光させる上で適しているということができる。
【0055】
次に、本発明の円偏光発光性希土類錯体を利用した光機能材料の実施例をいくつか述べる。
本発明に係る希土類錯体に一方の円偏光を吸収させれば、他方の円偏光を得ることができる。円偏光板などの円偏光フィルタと同じ役割を果たすことから、本発明に係る希土類錯体を円偏光フィルタに適用することが可能である。この円偏光フィルタは光多重通信など、広範な用途への適用が可能である。
【0056】
本発明に係る希土類錯体では、旋光性の違いのみを有する配位子をそれぞれ(別個に)用いて錯体を合成することにより、同じ組成であっても左巻きの円偏光を強く吸収するものと、右巻きの円偏光を強く吸収するものの両方が得られる。また、一つの希土類錯体においても、波長に応じて左巻きの円偏光を強く吸収する場合と右巻きの円偏光を強く吸収する場合がある。そこで、一方の性質を示すものを「+1」、他方の性質を有するものを「−1」と定義すれば、この錯体、或いはこの錯体を含む光学機能材料を並べて情報を記録することができ、そこへ、円偏光を当てることにより情報を読み出すことができる。
本発明に係る希土類錯体をセキュリティー用途へ適用する場合には、励起による発光、円偏光及び温度による変色の3つの情報を保持することができるので、簡便により高度なセキュリティを実現することができる。
【0057】
本発明の希土類錯体を光学機能材料として用いる際は、その錯体の結晶を直接用いてもよいし、その錯体を透明ポリマーや透明ガラスなどの透明固体担体に含有させてもよい。また、その錯体を溶媒に溶解、分散などさせて塗料とすることもできる。
本発明の希土類錯体は単独で、又は2種以上を混合して用いても良く、発光色を変化させるために有機色素を混合しても良い。本発明の希土類錯体は、その中心イオンとしての希土類イオンの種類や配位子の種類によって発光色が異なる。従って、本発明の希土類錯体の中心イオンや有機色素等の種類や混合比を適宜選択することにより、様々な色の発光を示す光機能性材料を作製することができる。
【0058】
本発明に係る希土類錯体を含有させる透明ポリマーとしては、ポリメチルメタクリレート、含フッ素ポリメタクリレート、ポリアクリレート、含フッ素ポリアクリレート、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン等のポリオレフィン、含フッ素ポリオレフィン、ポリビニルエーテル、含フッ素ポリビニルエーテル、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、及びそれらの共重合体、セルロース、ポリアセタール、ポリエステル、ポリカーボネイト、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリウレタン、ナフィオン、石油樹脂、ロジン、ケイ素樹脂などが例示され、好ましくはポリメチルメタクリレート、含フッ素ポリメタクリレート、ポリアクリレート、含フッ素ポリアクリレート、ポリスチレン、ポリオレフィン、ポリビニルエーテル、及びそれらの共重合体、エポキシ樹脂等を使用することができる。もちろん、これらの2種以上を組み合わせたものであってもよい。
なお、本発明に係る希土類錯体を含む透明ポリマーは、公知の文献(Hasegawa, et al. Chem. Lett. 1999, 35.)に従い調製することができる。
【0059】
本発明に係る希土類錯体を溶解、分散させることのできる溶剤は、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、ニトリル系溶剤あるいはこれらの混合物である。好ましくは、アセトニトリルやメタノールを使用することができる。
【0060】
本発明に係る希土類錯体と共に溶解、分散させることのできる色素は、緑色系の色素としては、アルカリ土類シリコンオキシナイトライド系蛍光体、及びピリジン−フタルイミド縮合誘導体、ベンゾオキサジノン系、キナゾリノン系、クマリン系、キノフタロン系、ナルタル酸イミド系等の蛍光色素、テルビウム錯体等の有機蛍光体などが挙げられる。また、赤色系の色素としては、アルファサイアロン構造をもつ酸窒化物を含有する蛍光体、及びβ−ジケトネート、β−ジケトン、芳香族カルボン酸、又は、ブレンステッド酸等のアニオンを配位子とする希土類元素イオン錯体からなる赤色有機蛍光体などが挙げられる。さらに青色系の色素としては、アルカリ土類アルミネート系蛍光体、ナフタル酸イミド系、ベンゾオキサゾール系、スチリル系、クマリン系、ピラリゾン系、トリアゾール系化合物の蛍光色素、ツリウム錯体等の有機蛍光体などが挙げられる。
希土類錯体は一般にカチオン性であるので、本発明に係る希土類錯体と共存させる色素としては、例えばアントラセン系色素のように炭素と水素だけで構成されている色素を用いることが好ましい。
図1
図2A
図2B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図14
図15
図16
図18
図21
図22
図23
図24A
図24B
図25
図26
図27
図3A
図3B
図13
図17
図19
図20