【実施例1】
【0024】
1.Ln(III)錯体の合成
図1に示す合成手順に従いLn(III)錯体を合成した。
図1及び以下の説明では、LnはEu(ユーロピウム)又はTb(テルビウム)を示し、Meはメチル基を示す。また、Phはフェニル基、iPrはイソプロピル基を示す。
まず、pybox系配位子を1等量、及びLn(hfa)
3(H
2O
2)
2 1.2等量をMeOHに溶かし、80℃で8時間加熱還流を行った。減圧下でMeOHを留去した後、得られた固体をクロロホルムで洗い、不純物(未反応のLn(hfa)
3(H
2O
2)
2 )をろ過により取り除いた。ろ液中の溶媒を留去し、黄白色の粉末を得た。メタノールで再結晶を行うことで無色の結晶を得た。
【0025】
2.Ln(III)錯体の同定
得られた無色の結晶をESI-Mass(エレクトロスプレー質量分析)及びX線結晶構造解析で同定した。ESI-MASSは日本電子株式会社(JEOL)製のJMS-700、MStationを用いた。また、X線結晶構造解析は株式会社リガク製の有機低分子X線構造解析装置(Rapid)を用いた。
ESI-MASSの結果を以下に示す。
【0026】
(1) [(R,R)-Ph-pybox]Eu(hfa-H)
3錯体及び[(S,S)-Ph-pybox]Eu(hfa-H)
3錯体
ESI-MASS(m/z):[M-(hfa)]
+ calcd. for C
33H
21EuF
12N
3O
6+, 936.04542、found, 936.04466
(2) [(R,R)-iPr-pybox]Eu(hfa-H)
3錯体及び[(S,S)-iPr-pybox]Eu(hfa-H)
3錯体
ESI-MASS(m/z):[M-(hfa)]
+ calcd. for C
27H
25EuF
12N
3O
6+, 868.07663、found, 868.07707
(3) [(R,R)-Me-Ph-pybox]Eu(hfa-H)
3錯体及び[(S,S)-Me-Ph-pybox]Eu(hfa-H)
3錯体
ESI-MASS(m/z):[M-(hfa)]
+ calcd. for C
35H
25EuF
12N
3O
6+, 964.07675、found, 964.07681
(4) [(R,R)-Ph-pybox]Tb(hfa-H)
3錯体及び[(S,S)-Ph-pybox]Tb(hfa-H)
3錯体
ESI-MASS(m/z):[M-(hfa)]
+ calcd. for C
33H
21F
12N
3O
6Tb
+, 942.04922、found, 942.04901
(5) [(R,R)-iPr-pybox]Tb(hfa-H)
3錯体及び[(S,S)-iPr-pybox]Tb(hfa-H)
3錯体
ESI-MASS(m/z):[M-(hfa)]
+ calcd. for C
27H
25F
12N
3O
6Tb
+, 874.08052、found, 874.08060
(6) [(R,R)-Me-Ph-pybox]Tb(hfa-H)
3錯体及び[(S,S)-Me-Ph-pybox]Tb(hfa-H)
3錯体
ESI-MASS(m/z):[M-(hfa)]
+ calcd. for C
35H
25F
12N
3O
6Tb
+, 970.08052、found, 970.08062
【0027】
また、12種類のLn(III)錯体のX線結晶構造解析の結果を
図3A及び
図3Bに示す。
ESI-MASSの結果及びX線結晶構造解析の結果から、得られた結晶はそれぞれ
図2A及び
図2Bに示す12種類のLn(III)錯体であるといえる。
【0028】
3.各Ln(III)錯体の発光量子収率
各Ln(III)錯体の発光量子収率を求めるために、吸収スペクトル及び発光スペクトルを測定した。吸収スペクトルの測定には日本分光株式会社製の紫外可視分光光度計(JASCO-V660)、発光スペクトルの測定には日立製作所製の分光蛍光光度計(HITACHI F-4500)を用いた。吸収スペクトル及び発光スペクトルの測定は、各Ln(III)錯体の重アセトニトリル溶液(1.0×10
-2M)を調製し、溶存酸素による消光を防ぐためにArバブリングを10分間行った後、測定した。励起波長は465nm(Eu(III)錯体),487nm(Tb(III)錯体)に設定した。各Ln(III)錯体の吸収スペクトル及び発光スペクトルをそれぞれ
図4及び
図5に示す。
【0029】
得られた吸収スペクトル及び発光スペクトルから各Ln(III)錯体の発光量子収率(Φ%)を求めた。発光量子収率はJASCO V-660を用い、絶対法により求めた。各Ln(III)錯体の発光量子収率を
図6及び
図7に示す。
図6及び
図7から本実施例に係るLn(III)錯体はいずれも優れた発光量子収率を示し、特にEu(III)錯体については非常に高い発光量子収率を示した。
【0030】
4.Ln(III)錯体の円偏光性
各Ln(III)錯体の円偏光性を調べるために、円偏光二色性スペクトル(CDスペクトル)及び円偏光発光スペクトル(CPLスペクトル)を測定した。CDスペクトル及びCPLスペクトルは、各Ln(III)錯体の重アセトニトリル溶液(1.0×10
-2M)を調製し、Arバブリングを10分間行った後、測定した。
各Ln(III)錯体のCDスペクトル及びCPLスペクトルを
図8及び
図9に示す。
【0031】
図9に示すCPLスペクトルの結果を基に、以下の式を用いてg値を計算した。なお、発光バンドの存在しない波長域での値は無視した。
g値=ΔI/I=2(I
L−I
R)/(I
L+I
R)
(式中、I
Lは左回りの円偏光発光強度、I
Rは右回りの円偏光発光強度を表す。)
g値の計算結果を
図10及び
図11に示す。
図10及び
図11から明らかなように、本実施例のLn(III)錯体は円偏光発光を示す。特に、Eu(III)錯体については発光波長が594nmにおけるg値(絶対値)は0.13〜0.5(13%〜50%)であり、いずれも高かった。なお、発光波長が615nmにおけるg値(絶対値)は0.019〜0.035(1.9%〜3.5%)であった。
【実施例5】
【0040】
本発明に係る希土類錯体のうち、光増感機能を有する配位子としてカンファー誘導体を採用した実施例について、以下詳細に述べる。
【0041】
本実施例における希土類錯体は、Euに不斉ビスオキサゾリンピリジン骨格又はフェナントロリン骨格を有する配位子を採用し、さらに光増感機能を有する配位子として、一般式(2)
【化2】
においてR
3として水素原子を有する誘導体(3-trifluoroacetyl-D-camphorate)を採用したものである。これを以下、Eu(facam)
3錯体と呼ぶ。なお、以下の説明においてfacamは3-trifluoroacetyl-d-camphorate基を、Phenはフェナントロリン骨格を有する1,10-phenanthroline基を指すものとする。
【0042】
1.Eu(facam)
3錯体の合成
図21(a)、(b)、(c)及び(d)に示す計4種の合成手順に従い、Eu(facam)
3錯体の結晶(1)、(2)、(3)及び(4)を得た。
まず
図21(a)に示す[Eu(D-facam)
3](0.43g、0.46mmol)及びR-iPr-Pybox(0.14g、0.46mmol)をメタノール(50mL)に溶解させ、還流条件下、12時間撹拌した。反応溶液をろ過した後数日静置し、黄色の菱形結晶(1)を得た。収率は46%であった。
図21(b)においては上記と同じ手法を用いた。R-iPr-Pyboxの替わりにS-iPr-Pybox(0.14g、0.46mmol)を用い、黄色の菱形結晶(2)を得た。収率は34%であった。
さらに
図21(c)に示す[Eu(D-facam)
3](0.26g、0.29mmol)及びR,R-Me-Ph-Pybox(0.12g、0.29mmol)を予め攪拌子を入れたナス型フラスコに加え、アセトニトリル(20mL)、MeOH(20mL)の順に溶媒を加え溶解させた。この溶液を還流条件下、12時間撹拌させた。反応溶液をろ過し数日静置し、黄色の板状結晶(3)を得た。収率は73%であった。
最後に
図21(d)においては
図21(a)と同じ手法を用いた。R-iPr-Pyboxの替わりに1,10-Phenanthroline・一水和物(0.045g、0.26mmol)を用い、[Eu(D-facam)
3](0.21g、0.23mmol)と反応させ黄色の菱形結晶(4)を得た。収率は72%であった。
なお、いずれの合成手順においても、試薬はナカライテスク、和光純薬工業、東京化成工業、Aldrich、CILより購入した。溶媒は適宜蒸留したものを用いた。
【0043】
2.Eu(facam)
3錯体の同定
上記計4種の合成手順によって得られた黄色の結晶(1)、(2)、(3)及び(4)をESI-Mass(エレクトロスプレー質量分析)、NMR分析、FT-IR分析、元素分析及び単結晶X線結晶構造解析で同定した。ESI-MASSは日本電子株式会社(JEOL)製のJMS-700を、NMRは同じく日本電子株式会社(JEOL)製のAL-300(
1H-NMR、300MHz)を、FT-IR分析は日本分光株式会社製のFT/IR-4200を、元素分析はPerkin Elmer社の2400IIを、単結晶X線結晶構造解析は株式会社リガク製のRigaku Valimax RAPID RA-Macro7HFMを用いた。
【0044】
ESI-MASSの結果を以下に示す。
結晶(1) ESI-MS(ESI
+): 946.288([M-(D-facam)]
+) m/z.
結晶(2) ESI-MS(ESI
+): 946.288([M-(D-facam)]
+) m/z.
結晶(3) ESI-MS(ESI
+): 1042.288([M-(D-facam)]
+) m/z.
結晶(4) ESI-MS(ESI
+): 825.177([M-(D-facam)]
+) m/z.
【0045】
NMR分析(
1H-NMR)の結果を以下に示す。なお、測定試料調製用の溶媒として重水素化クロロホルムを使用した。括弧の前の数字はケミカルシフト(ppm)を、括弧内のアルファベットはスペクトルの多重線形状を示す。
結晶(1)
1H-NMR(CDCl
3, 300MHz, 298K) δ: 12.6-11.0(br), 9.0-7.6(br), 6.8-5.8(br), 1.89(br), -1.0 - -2.2(br), -2.8 - -3.4(br), -3.8 - -5.0(br)
結晶(2)
1H-NMR(CDCl
3, 300MHz, 298K) δ: 9.2-7.8(br), 6.6-5.6(br), 2.04(s, br), -0.4 - -2.0(br), -3.0 - -4.0(br)
結晶(3)
1H-NMR(CDCl
3, 300MHz, 298K) δ: 12.0-11.2(s, br), 9.03(s, br), 8.5-7.8(br), 7.7-7.4(d, br), 2.6-2.0(br), 1.5-0.5(br), -1.39(br), -1.78(br), -2.61(br), -3.36(br), -4.64(br)
結晶(4)(括弧内のアルファベットはスペクトルの多重線形状並びに対応するプロトン数を示す)
1H-NMR(CDCl
3, 300MHz, 298K) δ: 10.49(d, Aromatic, 2H), 10.23(s, Ar, 2H), 7.97(d, Ar, 2H), 4.92(s, Ar, 2H), 2.56(s, 3H), 2.06(s, 9H), 1.23(t, 3H), 0.52(t, 3H), -0.09(s, 9H), -0.71(s, 3H), -0.83(s, 9H), -1.62(t, 3H)
【0046】
FT-IR分析の結果を以下に示す。なお、括弧の前の数値は赤外線の波数(cm
-1)を、括弧内のアルファベットは吸収スペクトルの形状、大きさ並びに前記吸収スペクトルに対応する特定基を示す。
結晶(1) FT-IR(ATR): 3010-2810(w, br, C-H), 1651(s, sh, C=O), 1585(w), 1522(s), 1483(w), 1441(w), 1371(m), 1329(m, CF3), 1294(w, CF3), 1267(s, CF3), 1225(s, CF3), 1200(m, CF3), 1182(s, CF3), 1122(s, CF3), 1111(m), 1082(m), 1051(m), 1009(s), 972(m), 922(w), 891(w), 850(w), 829(w), 802(m), 746(m), 714(w), 683(m), 644(w)
結晶(2) FT-IR(ATR): 3010-2810(w, br, C-H), 1651(s, sh, C=O), 1585(w), 1522(s), 1481(w), 1439(w), 1369(m), 1327(m, CF3), 1294(w, CF3), 1267(s, CF3), 1225(s, CF3), 1200(m, CF3), 1182(s, CF3), 1109(s, CF3), 1080(w), 1049(w), 1005(s), 970(m), 922(w), 891(w), 850(w), 829(w), 802(m), 746(m), 714(w), 683(m), 644(w)
結晶(3) FT-IR(ATR): 3050-2800(br, w, C-H), 1658(sh, s, C=O), 1581(w), 1527(s), 1427(m), 1377(w), 1331(w), 1265(s, CF3), 1223(s, CF3), 1184(s, CF3), 1126(s, CF3), 1080(w), 1049(w), 1011(w), 949(m), 837(w), 802(m), 748(m), 690(m), 644(w)
結晶(4) FT-IR(ATR): 3025-2800(br, w, C-H), 1647(sh, s, C=O), 1535(m), 1423(m), 1327(m), 1294(w), 1265(s, CF3), 1222(s, CF3), 1198(s, CF3), 1180(s, CF3), 1124(s, CF3), 1107(m), 1078(m), 1049(m), 920(w), 847(m), 802(m), 729(m), 681(w), 642(w)
【0047】
元素分析の結果を以下に示す。
結晶(1) Anal. Found: C, 52.98 %; H, 5.24 %; N, 3.66 %. Calcd. for EuC
53H
65N
3O
8F
9: C, 53.27 %; H, 5.48 %; N, 3.52 %.
結晶(2) Anal. Found: C, 53.12 %; H, 5.34 %; N, 3.59 %. Calcd. for EuC
53H
65N
3O
8F
9: C, 53.27 %; H, 5.48 %; N, 3.52 %.
結晶(3) Anal. Found: C, 56.09 %; H, 4.84 %; N, 3.41 %. Calcd. for EuC
61H
65N
3O
8F
9・0.5H
2O: C, 53.65 %; H, 5.12 %; N, 3.23 %.
結晶(4) Anal. Found: C, 53.69 %; H, 4.57 %; N, 2.61 %. Calcd. for EuC
48H
50N
2O
6F
9: C, 53.69 %; H, 4.69 %; N, 2.61 %.
【0048】
4種類のEu(facam)
3錯体の黄色結晶(1)〜(4)の単結晶X線構造解析の結果を
図22に示す。黄色結晶(3)に関し、単結晶X線構造解析によりR,R-Me-Ph-Pyboxのメチル基及びフェニル基の絶対配置が4S及び5S体であると判断した。この時、D-facamの絶対配置が変化していないことを確認した。またflack parameterは-0.006(5)(Friedel pairs: 6384)であった。
【0049】
上述した各種分析の結果から、得られた黄色結晶(1)〜(4)はそれぞれ
図23に示すEu(facam)
3錯体であり、(1)[Eu(R-iPr-Pybox)(D-facam)
3]錯体、(2)[Eu(S-iPr-Pybox)(D-facam)
3]錯体、(3)[Eu(S,S-Me-Ph-Pybox)(D-facam)
3]錯体、(4)[Eu(Phen)(D-facam)
3]錯体であると同定された。
【0050】
3.Eu(facam)
3錯体及びEu(facam)
3錯体を構成する配位子のCDスペクトル及び吸収スペクトル
各Eu(facam)
3錯体の円偏光発光特性を求めるために、Eu(facam)
3錯体(1)〜(4)及び各Eu(facam)
3錯体を構成する配位子のCDスペクトル及び吸収スペクトルを測定した。
いずれの測定においても、各Eu(facam)
3錯体及び各Eu(facam)
3錯体を構成する配位子の重アセトニトリル溶液(1.0×10
-2M)を調製し、溶存酸素による消光を防ぐためにArバブリングを10分間行った後、測定した。
Eu(facam)
3錯体を構成するPybox配位子及びPhen配位子のCDスペクトル及び吸収スペクトルを
図24Aに、Eu(facam)
3錯体(1)〜(4)のCDスペクトル及び吸収スペクトルを
図24Bに示す。
【0051】
4.Eu(facam)
3錯体のCPLスペクトル及び発光スペクトル
さらに、Eu(facam)
3錯体(1)〜(4)のCPLスペクトル及び発光スペクトルを測定した。
測定試料の調製方法は、上述したCDスペクトル及び吸収スペクトルの測定時と同じである。
Eu(facam)
3錯体(1)〜(4)のCPLスペクトル及び発光スペクトルを
図25に示す。
【0052】
5.Eu(facam)
3錯体の発光量子収率
得られた吸収スペクトル及び発光スペクトルから各Eu(facam)
3錯体(1)〜(4)の発光量子収率(Φ%)を求めた。発光量子収率はJASCO V-660を用い、絶対法により求めた。また併せて、試料に励起光として窒素レーザ(Usho KEC-160; wavelength、337nm; pulse width、600 ps; 10Hz)を照射し、発光をストリークカメラ(Hamamatsu、picosecond fluorescence measurement system、C4780)によって計測することにより、発光寿命(τ)を求めた。さらに、放射速度定数(k
r)及び無放射速度定数(k
nr)をそれぞれ以下の式により算出した。
放射速度定数(k
r)= Φ/100τ
無放射速度定数(k
nr)= (1-Φ)/100τ
これらを
図26にまとめて示す。
【0053】
6.Eu(facam)
3錯体及びEu(facam)
3錯体を構成する配位子の円偏光性
図24Bに示すCDスペクトルの結果を基に、以下の式を用いてg値(g
CD)を計算した。
CDスペクトルからのg値=Δε/ε=2(ε
L−ε
R)/(ε
L+ε
R)
(式中、ε
Lは左回りの円偏光における吸収係数、ε
Rは右回りの円偏光における吸収係数を表す。)
g値の計算結果を
図27に示す。
【0054】
これらの結果から明らかなように、本実施例に係るEu(facam)
3錯体の発光量子収率はLn(III)錯体に比べて相対的に低い。換言すれば、hfaの方がLn(III)を発光させる上で適しているということができる。
【0055】
次に、本発明の円偏光発光性希土類錯体を利用した光機能材料の実施例をいくつか述べる。
本発明に係る希土類錯体に一方の円偏光を吸収させれば、他方の円偏光を得ることができる。円偏光板などの円偏光フィルタと同じ役割を果たすことから、本発明に係る希土類錯体を円偏光フィルタに適用することが可能である。この円偏光フィルタは光多重通信など、広範な用途への適用が可能である。
【0056】
本発明に係る希土類錯体では、旋光性の違いのみを有する配位子をそれぞれ(別個に)用いて錯体を合成することにより、同じ組成であっても左巻きの円偏光を強く吸収するものと、右巻きの円偏光を強く吸収するものの両方が得られる。また、一つの希土類錯体においても、波長に応じて左巻きの円偏光を強く吸収する場合と右巻きの円偏光を強く吸収する場合がある。そこで、一方の性質を示すものを「+1」、他方の性質を有するものを「−1」と定義すれば、この錯体、或いはこの錯体を含む光学機能材料を並べて情報を記録することができ、そこへ、円偏光を当てることにより情報を読み出すことができる。
本発明に係る希土類錯体をセキュリティー用途へ適用する場合には、励起による発光、円偏光及び温度による変色の3つの情報を保持することができるので、簡便により高度なセキュリティを実現することができる。
【0057】
本発明の希土類錯体を光学機能材料として用いる際は、その錯体の結晶を直接用いてもよいし、その錯体を透明ポリマーや透明ガラスなどの透明固体担体に含有させてもよい。また、その錯体を溶媒に溶解、分散などさせて塗料とすることもできる。
本発明の希土類錯体は単独で、又は2種以上を混合して用いても良く、発光色を変化させるために有機色素を混合しても良い。本発明の希土類錯体は、その中心イオンとしての希土類イオンの種類や配位子の種類によって発光色が異なる。従って、本発明の希土類錯体の中心イオンや有機色素等の種類や混合比を適宜選択することにより、様々な色の発光を示す光機能性材料を作製することができる。
【0058】
本発明に係る希土類錯体を含有させる透明ポリマーとしては、ポリメチルメタクリレート、含フッ素ポリメタクリレート、ポリアクリレート、含フッ素ポリアクリレート、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン等のポリオレフィン、含フッ素ポリオレフィン、ポリビニルエーテル、含フッ素ポリビニルエーテル、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、及びそれらの共重合体、セルロース、ポリアセタール、ポリエステル、ポリカーボネイト、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリウレタン、ナフィオン、石油樹脂、ロジン、ケイ素樹脂などが例示され、好ましくはポリメチルメタクリレート、含フッ素ポリメタクリレート、ポリアクリレート、含フッ素ポリアクリレート、ポリスチレン、ポリオレフィン、ポリビニルエーテル、及びそれらの共重合体、エポキシ樹脂等を使用することができる。もちろん、これらの2種以上を組み合わせたものであってもよい。
なお、本発明に係る希土類錯体を含む透明ポリマーは、公知の文献(Hasegawa, et al. Chem. Lett. 1999, 35.)に従い調製することができる。
【0059】
本発明に係る希土類錯体を溶解、分散させることのできる溶剤は、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、ニトリル系溶剤あるいはこれらの混合物である。好ましくは、アセトニトリルやメタノールを使用することができる。
【0060】
本発明に係る希土類錯体と共に溶解、分散させることのできる色素は、緑色系の色素としては、アルカリ土類シリコンオキシナイトライド系蛍光体、及びピリジン−フタルイミド縮合誘導体、ベンゾオキサジノン系、キナゾリノン系、クマリン系、キノフタロン系、ナルタル酸イミド系等の蛍光色素、テルビウム錯体等の有機蛍光体などが挙げられる。また、赤色系の色素としては、アルファサイアロン構造をもつ酸窒化物を含有する蛍光体、及びβ−ジケトネート、β−ジケトン、芳香族カルボン酸、又は、ブレンステッド酸等のアニオンを配位子とする希土類元素イオン錯体からなる赤色有機蛍光体などが挙げられる。さらに青色系の色素としては、アルカリ土類アルミネート系蛍光体、ナフタル酸イミド系、ベンゾオキサゾール系、スチリル系、クマリン系、ピラリゾン系、トリアゾール系化合物の蛍光色素、ツリウム錯体等の有機蛍光体などが挙げられる。
希土類錯体は一般にカチオン性であるので、本発明に係る希土類錯体と共存させる色素としては、例えばアントラセン系色素のように炭素と水素だけで構成されている色素を用いることが好ましい。