特許第5713393号(P5713393)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5713393
(24)【登録日】2015年3月20日
(45)【発行日】2015年5月7日
(54)【発明の名称】防草構造体とその施工方法及び防草方法
(51)【国際特許分類】
   A01M 21/00 20060101AFI20150416BHJP
【FI】
   A01M21/00 A
【請求項の数】12
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-70074(P2011-70074)
(22)【出願日】2011年3月28日
(65)【公開番号】特開2012-200234(P2012-200234A)
(43)【公開日】2012年10月22日
【審査請求日】2014年3月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】501497264
【氏名又は名称】西日本高速道路エンジニアリング四国株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
(74)【代理人】
【識別番号】100071054
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 高久
(74)【代理人】
【識別番号】100106068
【弁理士】
【氏名又は名称】小幡 義之
(72)【発明者】
【氏名】明石 行雄
(72)【発明者】
【氏名】橋本 和明
(72)【発明者】
【氏名】永井 基貴
(72)【発明者】
【氏名】馬 建鋒
【審査官】 村田 泰利
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−196910(JP,A)
【文献】 特開2003−192512(JP,A)
【文献】 特開昭61−047131(JP,A)
【文献】 特開2001−320984(JP,A)
【文献】 実開平06−012401(JP,U)
【文献】 簗瀬 知史,植生のり面の草地管理,ハイウェイ技術,日本,日本道路公団試験研究所,1996年12月25日,No.6,p.104−109
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01M 1/00−99/00
A01G 1/00
A01G 13/00
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
CiNii
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面側から裏面側に貫通する孔が形成されており地表に敷設されて地表における植物の成長を抑制するシートと、
前記シートの表面側から前記孔に挿通されて地中に設けられる留具胴部と前記シートの表面側に設けられる留具頭部とを有し前記シートを地表に固定する留具と、
を備えた防草構造体において、
前記孔及び前記留具頭部の周囲に水を溜める水溜部と、
前記水溜部に溜めた水に植物の成長を抑制する物質を添加して水溶液を生成する水溶液生成部と、
を備え、前記シートと前記留具との間から地表に前記水溶液を供給して前記留具の周囲における植物の成長を抑制する
ことを特徴とする防草構造体。
【請求項2】
前記シートは防水性である請求項1に記載の防草構造体。
【請求項3】
前記孔は予め前記留具胴部の直径よりも細く形成されており、前記留具胴部が前記シートの表面側から当該孔に挿通されるに応じて孔周縁の前記シートが裏面側に撓り、孔周縁の前記シートと前記留具胴部とが密接する請求項1または2に記載の防草構造体。
【請求項4】
前記水溶液生成部は前記物質を前記留具頭部から前記水溜部に溜めた水に溶出させて添加する請求項1から3のいずれか一項に記載の防草構造体。
【請求項5】
前記水溶液生成部は前記物質を前記シートから前記水溜部に溜めた水に溶出させて添加する請求項1から3のいずれか一項に記載の防草構造体。
【請求項6】
前記植物の成長を抑制する物質は亜鉛又はアルミニウムである請求項1から5のいずれか一項に記載の防草構造体。
【請求項7】
前記水溜部は外周に堤部を有する形状である請求項1から6のいずれか一項に記載の防草構造体。
【請求項8】
前記水溜部は地表側に窪む形状である請求項1から6のいずれか一項に記載の防草構造体。
【請求項9】
前記堤部の高さは前記留具頭部の径以上である請求項7に記載の防草構造体。
【請求項10】
表面側から裏面側に貫通する孔が形成されており地表に敷設されて地表における植物の成長を抑制するシートと、
前記シートの表面側から前記孔に挿通されて地中に設けられる留具胴部と前記シートの表面側に設けられる留具頭部とを有し前記シートを地表に固定する留具と、
を備えた防草構造体において、
前記孔及び前記留具頭部の周囲に水を溜める水溜部と、
前記留具の表面に形成された亜鉛層と、
を備え、前記留具の周囲における植物の成長を抑制する
ことを特徴とする防草構造体。
【請求項11】
地表における植物の生長を抑制するようにした防草構造体の施工方法において、
表面側から裏面側に貫通する孔が形成された防草用のシートを地表に敷設し、
植物の生長を抑制する物質を含む留具を用い、留具胴部を前記シートの表面側から前記孔に挿通して地中に設けると共に留具頭部を前記シートの表面側に設けて前記シートを地表に固定し、
前記孔及び前記留具頭部の周囲に水を溜める水溜部を設ける
ことを特徴とする防草構造体の施工方法。
【請求項12】
表面側から裏面側に貫通する孔が形成されており地表に敷設されて地表における植物の成長を抑制するシートと、
前記シートの表面側から前記孔に挿通されて地中に設けられる留具胴部と前記シートの表面側に設けられる留具頭部とを有し前記シートを地表に固定する留具と、
を備えた防草構造体に用いる防草方法において、
前記孔及び前記留具頭部の周囲に水を溜め、
前記孔の周囲に溜めた水に植物の成長を抑制する物質を添加して水溶液を生成し、
前記シートと前記留具との間から地表に前記水溶液を供給して前記留具の周囲における植物の成長を抑制する
ことを特徴とする防草方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地表に敷設した防草用のシートを留具で固定した防草構造体とその施工方法及びこうした防草構造体に用いる防草方法に関し、特に留具の周囲における植物の生長を抑制するものである。
【背景技術】
【0002】
道路脇の路肩や空き地などの地表を何ら手入れしないと雑草が繁茂する。任意の範囲における植物の生長を抑制する手段としては防草用のシートを用いた防草構造体がある。図1に示す防草構造体10は、地表1に敷設される防草用のシート20とこのシート20を地表に固定するピン状の留具30とを備える。留具30の胴部がシート20の孔に挿通されて地中に設けられると共に留具30の頭部がシート20の表面側に設けられて、シート20は地表に固定される。防草構造体10はシート20が敷設された地表の大部分で植物の成長を抑制する。
【0003】
しかしながら、こうした防草構造体であっても時間の経過と共に留具の周囲に雑草が発生することが確認されている。留具の周囲すなわちシートと留具胴部の間には隙間が形成されており、その隙間の下の地表が地上に露出するため、そこで植物が成長する。こうした植物の成長を抑制する手段としては、シートと留具胴部の間の隙間を地上から遮蔽するワッシャーやシールが公知である。
【0004】
ワッシャーは例えば下記特許文献1で開示されている。ワッシャーには予め留具胴部の直径に相当する小さな孔が形成される。留具胴部はこの孔に挿通され、次いでシートの孔に挿通されて地中に設けられる。留具頭部はワッシャーの表面側に設けられる。ワッシャーはシートの表面と留具頭部の間に介在し、シートと留具胴部の間の隙間を覆う。その結果、シートと留具胴部の間の隙間は地上から概ね遮蔽される。
【0005】
シールは裏面に接着材が塗布されており、シートと留具頭部を覆うようにシート表面に貼り付けられる。シールはシートと留具胴部の間の隙間を地上から完全に遮蔽する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−202539号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ワッシャーを用いた場合に、シートと留具胴部の間の隙間下の地表には留具胴部を伝って水が流れ落ち、また僅かながら光が射し込む。雑草はこの程度の水と光で成長する。さらにワッシャー裏面とシート表面は接着されるのではなく単に接触するだけである。このため植物が地表からシートと留具胴部の間の隙間及びワッシャー裏面とシート表面の間を経由して地上に伸びてくる場合がある。つまり植物の出現箇所が留具の周囲からワッシャーの周囲に変わるだけである。以上のようにワッシャーには植物の成長を抑制する効果が低いという問題がある。
【0008】
シールを用いた場合、シール接着当初は留具周囲に水が供給されたり光が差し込むことはない。したがってシールはワッシャーよりも植物の成長を抑制する効果が高い。しかしながらシールは耐用期間が短いという難点がある。接着剤は時間の経過に伴い劣化し接着力が低下しやすい。接着力が低下すると、シールはシートから剥離する虞がある。シールが剥離した留具周囲には雑草が繁茂する。
【0009】
本発明はこうした実状に鑑みてなされたものであり、留具の周囲における植物の成長を高水準で抑制するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1発明は、
表面側から裏面側に貫通する孔が形成されており地表に敷設されて地表における植物の成長を抑制するシートと、
前記シートの表面側から前記孔に挿通されて地中に設けられる留具胴部と前記シートの表面側に設けられる留具頭部とを有し前記シートを地表に固定する留具と、
を備えた防草構造体において、
前記孔及び前記留具頭部の周囲に水を溜める水溜部と、
前記水溜部に溜めた水に植物の成長を抑制する物質を添加して水溶液を生成する水溶液生成部と、
を備え、前記シートと前記留具との間から地表に前記水溶液を供給して前記留具の周囲における植物の成長を抑制する
ことを特徴とする。
【0011】
第1発明は防草用のシートとシート固定用の留具とを備える防草構造体である。留具胴部がシートの表面側からシートの孔に挿通されて地中に設けられ、留具頭部がシートの表面側に設けられることでシートは地表に固定される。シートの孔及び留具頭部の周囲には水溜部が形成される。シートと留具胴部は互いに僅かに離隔するか或いは接触するが、互いに接着はしていない。このため両者の間には水が浸透する程度の隙間が形成される。
【0012】
第1発明によれば、水溜部に水が溜まり、その水溜部に溜めた水に例えば留具頭部から植物の成長を抑制する物質が添加されて水溶液が生成される。水溶液はシートと留具胴部の間の隙間から留具の周囲の地表に供給される(漏洩する)。
【0013】
第2発明は第1発明において、
前記シートは防水性である。
【0014】
第2発明によれば、シートが防水であることから、シート表面に水が溜まりやすくなることから、水溜部にも水が溜まりやすくなる。
【0015】
第3発明は第1発明または第2発明のいずれかにおいて、
前記孔は予め前記留具胴部の直径よりも細く形成されており、前記留具胴部が前記シートの表面側から当該孔に挿通されるに応じて孔周縁の前記シートが裏面側に撓り、孔周縁の前記シートと前記留具胴部とが密接する。
【0016】
第3発明によれば、シートと留具胴部とが密接することから、シートと留具胴部との間の隙間が極めて狭くなり、隙間から地表に漏洩する水溶液の量が少なくなることから、水溜部に水が溜まりやすくなる。
【0017】
第4発明は第1発明から第3発明のいずれかにおいて、
前記水溶液生成部は前記物質を前記留具頭部から前記水溜部に溜めた水に溶出させて添加する。
【0018】
第5発明は第1発明から第3発明のいずれかにおいて、
前記水溶液生成部は前記物質を前記シートから前記水溜部に溜めた水に溶出させて添加する。
【0019】
第6発明は第1発明から第5発明のいずれかにおいて、
前記植物の成長を抑制する物質は亜鉛又はアルミニウムである。
【0020】
第7発明は第1発明から第6発明のいずれかにおいて、
前記水溜部は外周に堤部を有する形状である。
【0021】
第8発明は第1発明から第6発明のいずれかにおいて、
前記水溜部は地表側に窪む形状である。
【0022】
第9発明は第7発明において、
前記堤部の高さは前記留具頭部の径以上である。
【0023】
第10発明は、
表面側から裏面側に貫通する孔が形成されており地表に敷設されて地表における植物の成長を抑制するシートと、
前記シートの表面側から前記孔に挿通されて地中に設けられる留具胴部と前記シートの表面側に設けられる留具頭部とを有し前記シートを地表に固定する留具と、
を備えた防草構造体において、
前記孔及び前記留具頭部の周囲に水を溜める水溜部と、
前記留具の表面に形成された亜鉛層と、
を備え、前記留具の周囲における植物の成長を抑制する
ことを特徴とする。
【0024】
第11発明は、
地表における植物の生長を抑制するようにした防草構造体の施工方法において、
表面側から裏面側に貫通する孔が形成された防草用のシートを地表に敷設し、
植物の生長を抑制する物質を含む留具を用い、留具胴部を前記シートの表面側から前記孔に挿通して地中に設けると共に留具頭部を前記シートの表面側に設けて前記シートを地表に固定し、
前記孔及び前記留具頭部の周囲に水を溜める水溜部を設ける
ことを特徴とする。
【0025】
第12発明は、
表面側から裏面側に貫通する孔が形成されており地表に敷設されて地表における植物の成長を抑制するシートと、
前記シートの表面側から前記孔に挿通されて地中に設けられる留具胴部と前記シートの表面側に設けられる留具頭部とを有し前記シートを地表に固定する留具と、
を備えた防草構造体に用いる防草方法において、
前記孔及び前記留具頭部の周囲に水を溜め、
前記孔の周囲に溜めた水に植物の成長を抑制する物質を添加して水溶液を生成し、
前記シートと前記留具との間から地表に前記水溶液を供給して前記留具の周囲における植物の成長を抑制する
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、留具の周囲の地表に植物の生長を抑制する物質が供給され地中に浸透する。すると、その物質が植物の生長を抑制するように作用するため、留具の周囲における植物の生長を高水準で抑制することができる。
【0027】
また本発明によれば、留具頭部などに亜鉛のような植物の生長を抑制する物質を含有させておき、その周囲に水を溜めるような構造であり、例えばシールの剥離のような時間経過に伴う構造劣化が起こりにくい。したがって植物の生長を抑制する効果を長時間安定して得ることができる。
【0028】
さらに本発明によれば、防水性のシートを用いたりシートと留具胴部とを密接させることで、少量の降雨などでも留具の周囲に効率的に水を溜めることができる。言い換えると、水を長時間溜めることが可能になる。例えば留具頭部に植物の生長を抑制する物質が含まれていると、留具頭部の浸水時間が長くなることから、水溶液が生成され易くなる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は地表に防草用のシートを敷設した防草構造体の外観を示す模式図である。
図2図2(a)はシートの孔に留具が挿通されていない水溜部の平面図であり、図2(b)は図2(a)のA−A断面図である。
図3図3(a)はシートの孔に留具が挿通されている水溜部の平面図であり、図3(b)は図3(a)のA−A断面図である。
図4図4は本発明者らが行った植物成長試験の結果を示す図である。
図5図5は本発明者らが行った亜鉛溶出試験の結果を示す図である。
図6図6(a)〜(c)は水溜めから地表への亜鉛の供給までの水の遷移を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0031】
本発明はシートを固定する留具の周囲に水を溜め、その水に植物の成長を抑制する物質を添加して水溶液を生成し、その水溶液をシートと留具胴部の間の隙間から地表に供給するものである。
【0032】
[防草構造体の構成]
図2図3を用いて留具の周囲の構成を中心に、本実施例の防草構造体の構成を説明をする。
【0033】
図2(a)はシートの孔に留具が挿通されていない水溜部の平面図であり、図2(b)は図2(a)のA−A断面図である。図3(a)はシートの孔に留具が挿通されている水溜部の平面図であり、図3(b)は図3(a)のA−A断面図である。シート20の表面であって地表1にシート20を固定する留具30の周囲には、雨水や露などの水を溜める水溜部40が形成される。
【0034】
シート20は防草用のシート状部材であって、地表1の形状に合わせるために柔軟性を有し、また地表1への光を遮断するために遮光性を有し、またシート表面22に水を溜めるために防水性を有する。例えばシート20はゴムで製造される。シート20にはシート表面22側からシート裏面24側に貫通する複数のシート孔26が形成される。
【0035】
留具30はL字状に加工された金属製のピン部材であって、下端(先端)が細い留具胴部32とこの留具胴部32の上端に連なり留具胴部32と略90度の角度をなす留具頭部34とを有する。留具30は植物の成長を抑制する物質として亜鉛を含む。留具30は外周面に亜鉛メッキを施され、亜鉛メッキ層(図示せず)を有する。なお留具頭部34のみが亜鉛メッキ層を有していてもよい。留具胴部32はシート孔26にシート表面22側から挿通されて地中に設けられ、留具頭部34はシート表面22側に設けられる。
【0036】
留具胴部32が挿通される前のシート孔26の直径Rは留具胴部32の直径Rbよりも細い。このため図3(b)に示すように、留具胴部32がシート表面22側からシート孔26に挿通されるに応じて、シート孔26の周縁のシート20はシート裏面24側に撓りつつ留具胴部32に追従する。するとシート20と留具胴部32とが密接するので、シート20と留具胴部32の間の隙間が極めて狭くなり、その隙間から地表1への水の漏洩量が少なくなる。言い換えると、水溜部40に水が溜まりやすくなる。
【0037】
水溜部40はシート表面22を底面として有し、またシート孔26及び留具頭部34を略中心としてシート表面22に沿って環状に形成される堤部42を有する。堤部42は予めシート表面22に形成される。堤部42の高さHは、留具頭部34の高さすなわち留具頭部34の直径Rh以上である。なお、可能であれば、堤部42の根元からシート孔26に向かって底面が下降するような形状であると、より効率的に水が溜まる。
【0038】
なお、本発明者らは、シート20の厚みを1.3mmとし、留具胴部32の直径Rb及び留具頭部34の直径Rhを9mmとし、環状の堤部42の直径を最大10cmとし、堤部42の高さHを最大2cmとした。勿論、防草構造体10の各部はこのサイズに限定されるものではない。但し、シート20が薄すぎると留具胴部32の挿通の際にシート孔26周縁のシート20がシート裏面24側に上手く撓らないので、シート20と留具胴部32とが密接しない。したがって、本実施例のようにシート20と留具胴部32とを密接させるのであれば、シート20にある程度の厚みを持たせる方が良い。
【0039】
[防草構造体の施工手順]
防草構造体10の施工手順は以下の通りである。
地表1にシート20を敷設する。留具胴部32をシート表面22側からシート孔26に挿通して地中に設けると共に留具頭部24をシート表面22側に設けて、シート20を地表1に固定する。このとき留具頭部34の外周面がシート表面22に接触するか近接する程度まで留具胴部32の先端を地中に差し込む。するとシート孔26及び留具頭部34を囲む水溜部40が形成される。
【0040】
[植物生長抑制のメカニズム]
次に本実施例の植物の生長を抑制するメカニズムを説明する。
【0041】
1970年代以前は植物の成長に亜鉛は必須元素であると考えられていた。ところが近年は亜鉛の過剰な摂取はむしろ植物の成長を低下させるという報告が有る。本実施例はこの考えを応用したものである。
【0042】
図4は本発明者らが行った植物成長試験の結果を示す図であり、亜鉛を含有する水溶液を供給した植物と脱塩水を供給した植物の根の長さ(単位:cm/24時間経過)を示している。図4は20個のサンプルの平均値をそれぞれ示している。この結果からは、3種の亜鉛濃度(132ppb、154ppb、196ppb)の水溶液は脱塩水と比較して根の長さを1/3程度に抑制することが判る。
【0043】
図4の結果は亜鉛に植物の成長を抑制する効果があるという上記報告を裏付けている。しかしながら本発明者らは別の実証実験によって、亜鉛メッキを施した留具を単に地表に差し込んで水を与えただけでは植物の成長を抑制できないことを確認している。本発明者らはその原因として、与えた水に亜鉛が十分に溶出していない点にあると推測した。そして、植物の生長を抑制する十分な効果を得るためには、亜鉛メッキを施した留具をある程度の時間だけ浸水させて亜鉛を水に十分溶出させる必要があると考察した。
【0044】
図5は本発明者らが行った亜鉛溶出試験の結果を示す図であり、亜鉛が浸水してからの経過時間と亜鉛(Zn)の溶出量(単位:ppb)と標準偏差(SD)をそれぞれ示している。図5からは10分といった短い浸水時間でも亜鉛は水に溶出することが判り、また浸水時間の増加に伴い溶出量も増加することが判る。言い換えると、亜鉛の溶出にはある程度の時間だけ亜鉛を浸水させる必要が有ると言える。つまり留具の周囲に出来るだけ長く水を溜めておくことが亜鉛溶出量を多くすることになり、植物の生長を抑制する効果を大きくすることになる。
【0045】
こうしたことから、本実施例ではシート20を防水性にしてシート表面22側に水が溜まりやすくしている。また、シート孔26の直径Rを留具胴部32の直径Rbよりも細くして、水溜部40からの水の漏洩量を少なくしている。また、(堤部42の高さH)≧(留具頭部34の直径Rh)となるようにして、留具頭部34の外周全面を水溜部40に溜めた水に浸水可能とし、水と亜鉛との接触面積を大きくして水に多くの亜鉛が溶出しやすくなるようにしている。
【0046】
図6(a)〜(c)は水溜めから地表への亜鉛の供給までの水の遷移を示す図である。図6(a)に示すように、例えば降雨によって水溜部40に水Wが溜まると、留具頭部34は浸水する。図6(b)に示すように、留具頭部34が浸水すると、留具頭部34に形成される亜鉛メッキ層から水Wに亜鉛Znが溶出して添加される。すると亜鉛Znを含む水溶液W′が生成される。図6(c)に示すように、水溜部40で生成された水溶液W′はシート孔26すなわち互いに密接するシート20と留具胴部32の間の隙間から地表1に徐々に漏洩して地中に浸透する。こうして水溜部40から留具30の周囲の地表1に亜鉛を含む水溶液W′が供給され、水溶液W′が地中に浸透する。亜鉛の溶出量にもよるが、水溶液W′の供給によって留具30の周囲の地表1に亜鉛が供給されることとなり、植物の生長が抑制される。
【0047】
[他の実施形態]
以下で実施例1の別の実施形態をまとめて説明する。
シート20はゴムでなくてもよい。例えば柔軟性、遮光性及びある程度の防水性を有するのであれば他の部材、例えば合成樹脂や繊維状の部材であってもよい。またゴムよりは防水性及びその耐久性が劣るものの、シート表面22に防水加工が施された部材でも実施は可能である。
【0048】
シート孔26の直径Rは留具胴部32の直径Rbと同等又は若干大きくてもよい。この場合、シート20と留具胴部32との間の隙間が広くなり、水を溜める効率は悪くなるものの、雨水の量次第である程度の水溜効果は期待できる。
【0049】
留具30はL字状のピン部材でなくてもよい。例えば2本の留具胴部とこれらの留具胴部の上端に連なる1本の留具頭部とを有するU字状のピン部材でもよい。また、留具頭部が円板状又は円柱状のピン部材でもよい。また、楔のように留具上端から下端(先端)に向かうテーパを呈するピン部材でもよい。
【0050】
留具30は金属製でなくてもよい。ある程度の剛性を有する部材、例えば硬質の合成樹脂でもよい。
【0051】
亜鉛はメッキで設けられなくてもよい。亜鉛は水に溶出できる形態で留具30に含まれていればよく、例えば留具30の表面に蒸着で設けられてもよい。
【0052】
亜鉛は留具30に含有されるのではなく、水溜部40内の他の部材、例えばシート表面22や堤部42に含有されてもよい。
【0053】
水溜部40は堤部42を有さなくてもよい。例えば水溜部40は地表1側に窪む形状でもよい。窪み形状の水溜部40は予めシート20に堤部42を必要としないため、シート20の製造が容易になる反面、地表1を窪ませる必要があるため、施工に手間がかかる。
【0054】
水溜部40は予めシート表面22に形成されてなくてもよい。例えば堤部を有する水溜部材がシート表面22と留具頭部34との間に介在するようにしてもよい。
【0055】
なお実施例1では水溜部40に水を供給する手段として降雨を利用するようにしているが、高架下などのように降雨を期待できないような範囲に防草構造体10を設ける場合は、人為的に水を供給すればよい。例えば作業員が撒水してもよく、また水溜部40の近辺に散水装置を配置して撒水するようにしてもよい。撒水する場合はその水に予め亜鉛を添加してもよい。
【0056】
また、上記各実施形態を適宜組み合わせてもよい。
【実施例2】
【0057】
実施例2は植物の生長を抑制する物質としてアルミニウムを使用する。防草構造体の構成や施工手順は実施例1と概ね同じである一方で、亜鉛とアルミニウムとは植物の生長を抑制するメカニズムが若干相違する。以下では実施例1と相違する部分のみを説明する。
【0058】
亜鉛の場合は過剰摂取によって植物の生長を抑制する効果が得られるが、アルミニウムの場合は水に溶けたアルミニウムイオン(Al3+)自体に植物の生長を抑制する効果が有る。このため水にマイクロモルレベルの僅かなアルミニウムイオンが含有されていればよく、アルミニウムイオンの過剰な溶出量は必要無い。
【0059】
水へのアルミニウムの添加方法としては、実施例1と同様に留具の表面にアルミニウム層を形成し、そこから水に溶出するようにしてもよい。しかし、亜鉛と違いアルミニウムは固体自体が剛性を有するので、留具自体をアルミニウムで製造し、その表面からアルミニウムが溶出するようにしてもよい。留具の表面にアルミニウム層を形成するよりも留具自体をアルミニウムで製造する方がトータルの製造工程が少なく済む。また、実施例1と同様に、アルミニウムが留具に含まれるのではなく、シートに含まれていてもよい。
【実施例3】
【0060】
以下の条件を満たす物質であれば、そうした物質を実施例1の亜鉛や実施例2のアルミニウムと同様に使用することができる。
【0061】
・植物の生長を抑制する効果を有する。
【0062】
・水に溶出する。
【0063】
・環境基準をクリアできる。
【0064】
こうした物質を用いて留具を製造したり、留具の表面に塗布したりすればよい。
【符号の説明】
【0065】
1 …地表、
10…防草構造体、
20…シート、
22…シート表面、
24…シート裏面、
26…シート孔、
30…留具、
32…留具胴部、
34…留具頭部、
40…水溜部、
42…堤部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6