【実施例1】
【0031】
本発明はシートを固定する留具の周囲に水を溜め、その水に植物の成長を抑制する物質を添加して水溶液を生成し、その水溶液をシートと留具胴部の間の隙間から地表に供給するものである。
【0032】
[防草構造体の構成]
図2、
図3を用いて留具の周囲の構成を中心に、本実施例の防草構造体の構成を説明をする。
【0033】
図2(a)はシートの孔に留具が挿通されていない水溜部の平面図であり、
図2(b)は
図2(a)のA−A断面図である。
図3(a)はシートの孔に留具が挿通されている水溜部の平面図であり、
図3(b)は
図3(a)のA−A断面図である。シート20の表面であって地表1にシート20を固定する留具30の周囲には、雨水や露などの水を溜める水溜部40が形成される。
【0034】
シート20は防草用のシート状部材であって、地表1の形状に合わせるために柔軟性を有し、また地表1への光を遮断するために遮光性を有し、またシート表面22に水を溜めるために防水性を有する。例えばシート20はゴムで製造される。シート20にはシート表面22側からシート裏面24側に貫通する複数のシート孔26が形成される。
【0035】
留具30はL字状に加工された金属製のピン部材であって、下端(先端)が細い留具胴部32とこの留具胴部32の上端に連なり留具胴部32と略90度の角度をなす留具頭部34とを有する。留具30は植物の成長を抑制する物質として亜鉛を含む。留具30は外周面に亜鉛メッキを施され、亜鉛メッキ層(図示せず)を有する。なお留具頭部34のみが亜鉛メッキ層を有していてもよい。留具胴部32はシート孔26にシート表面22側から挿通されて地中に設けられ、留具頭部34はシート表面22側に設けられる。
【0036】
留具胴部32が挿通される前のシート孔26の直径Rは留具胴部32の直径Rbよりも細い。このため
図3(b)に示すように、留具胴部32がシート表面22側からシート孔26に挿通されるに応じて、シート孔26の周縁のシート20はシート裏面24側に撓りつつ留具胴部32に追従する。するとシート20と留具胴部32とが密接するので、シート20と留具胴部32の間の隙間が極めて狭くなり、その隙間から地表1への水の漏洩量が少なくなる。言い換えると、水溜部40に水が溜まりやすくなる。
【0037】
水溜部40はシート表面22を底面として有し、またシート孔26及び留具頭部34を略中心としてシート表面22に沿って環状に形成される堤部42を有する。堤部42は予めシート表面22に形成される。堤部42の高さHは、留具頭部34の高さすなわち留具頭部34の直径Rh以上である。なお、可能であれば、堤部42の根元からシート孔26に向かって底面が下降するような形状であると、より効率的に水が溜まる。
【0038】
なお、本発明者らは、シート20の厚みを1.3mmとし、留具胴部32の直径Rb及び留具頭部34の直径Rhを9mmとし、環状の堤部42の直径を最大10cmとし、堤部42の高さHを最大2cmとした。勿論、防草構造体10の各部はこのサイズに限定されるものではない。但し、シート20が薄すぎると留具胴部32の挿通の際にシート孔26周縁のシート20がシート裏面24側に上手く撓らないので、シート20と留具胴部32とが密接しない。したがって、本実施例のようにシート20と留具胴部32とを密接させるのであれば、シート20にある程度の厚みを持たせる方が良い。
【0039】
[防草構造体の施工手順]
防草構造体10の施工手順は以下の通りである。
地表1にシート20を敷設する。留具胴部32をシート表面22側からシート孔26に挿通して地中に設けると共に留具頭部24をシート表面22側に設けて、シート20を地表1に固定する。このとき留具頭部34の外周面がシート表面22に接触するか近接する程度まで留具胴部32の先端を地中に差し込む。するとシート孔26及び留具頭部34を囲む水溜部40が形成される。
【0040】
[植物生長抑制のメカニズム]
次に本実施例の植物の生長を抑制するメカニズムを説明する。
【0041】
1970年代以前は植物の成長に亜鉛は必須元素であると考えられていた。ところが近年は亜鉛の過剰な摂取はむしろ植物の成長を低下させるという報告が有る。本実施例はこの考えを応用したものである。
【0042】
図4は本発明者らが行った植物成長試験の結果を示す図であり、亜鉛を含有する水溶液を供給した植物と脱塩水を供給した植物の根の長さ(単位:cm
2/24時間経過)を示している。
図4は20個のサンプルの平均値をそれぞれ示している。この結果からは、3種の亜鉛濃度(132ppb、154ppb、196ppb)の水溶液は脱塩水と比較して根の長さを1/3程度に抑制することが判る。
【0043】
図4の結果は亜鉛に植物の成長を抑制する効果があるという上記報告を裏付けている。しかしながら本発明者らは別の実証実験によって、亜鉛メッキを施した留具を単に地表に差し込んで水を与えただけでは植物の成長を抑制できないことを確認している。本発明者らはその原因として、与えた水に亜鉛が十分に溶出していない点にあると推測した。そして、植物の生長を抑制する十分な効果を得るためには、亜鉛メッキを施した留具をある程度の時間だけ浸水させて亜鉛を水に十分溶出させる必要があると考察した。
【0044】
図5は本発明者らが行った亜鉛溶出試験の結果を示す図であり、亜鉛が浸水してからの経過時間と亜鉛(Zn)の溶出量(単位:ppb)と標準偏差(SD)をそれぞれ示している。
図5からは10分といった短い浸水時間でも亜鉛は水に溶出することが判り、また浸水時間の増加に伴い溶出量も増加することが判る。言い換えると、亜鉛の溶出にはある程度の時間だけ亜鉛を浸水させる必要が有ると言える。つまり留具の周囲に出来るだけ長く水を溜めておくことが亜鉛溶出量を多くすることになり、植物の生長を抑制する効果を大きくすることになる。
【0045】
こうしたことから、本実施例ではシート20を防水性にしてシート表面22側に水が溜まりやすくしている。また、シート孔26の直径Rを留具胴部32の直径Rbよりも細くして、水溜部40からの水の漏洩量を少なくしている。また、(堤部42の高さH)≧(留具頭部34の直径Rh)となるようにして、留具頭部34の外周全面を水溜部40に溜めた水に浸水可能とし、水と亜鉛との接触面積を大きくして水に多くの亜鉛が溶出しやすくなるようにしている。
【0046】
図6(a)〜(c)は水溜めから地表への亜鉛の供給までの水の遷移を示す図である。
図6(a)に示すように、例えば降雨によって水溜部40に水Wが溜まると、留具頭部34は浸水する。
図6(b)に示すように、留具頭部34が浸水すると、留具頭部34に形成される亜鉛メッキ層から水Wに亜鉛Znが溶出して添加される。すると亜鉛Znを含む水溶液W′が生成される。
図6(c)に示すように、水溜部40で生成された水溶液W′はシート孔26すなわち互いに密接するシート20と留具胴部32の間の隙間から地表1に徐々に漏洩して地中に浸透する。こうして水溜部40から留具30の周囲の地表1に亜鉛を含む水溶液W′が供給され、水溶液W′が地中に浸透する。亜鉛の溶出量にもよるが、水溶液W′の供給によって留具30の周囲の地表1に亜鉛が供給されることとなり、植物の生長が抑制される。
【0047】
[他の実施形態]
以下で実施例1の別の実施形態をまとめて説明する。
シート20はゴムでなくてもよい。例えば柔軟性、遮光性及びある程度の防水性を有するのであれば他の部材、例えば合成樹脂や繊維状の部材であってもよい。またゴムよりは防水性及びその耐久性が劣るものの、シート表面22に防水加工が施された部材でも実施は可能である。
【0048】
シート孔26の直径Rは留具胴部32の直径Rbと同等又は若干大きくてもよい。この場合、シート20と留具胴部32との間の隙間が広くなり、水を溜める効率は悪くなるものの、雨水の量次第である程度の水溜効果は期待できる。
【0049】
留具30はL字状のピン部材でなくてもよい。例えば2本の留具胴部とこれらの留具胴部の上端に連なる1本の留具頭部とを有するU字状のピン部材でもよい。また、留具頭部が円板状又は円柱状のピン部材でもよい。また、楔のように留具上端から下端(先端)に向かうテーパを呈するピン部材でもよい。
【0050】
留具30は金属製でなくてもよい。ある程度の剛性を有する部材、例えば硬質の合成樹脂でもよい。
【0051】
亜鉛はメッキで設けられなくてもよい。亜鉛は水に溶出できる形態で留具30に含まれていればよく、例えば留具30の表面に蒸着で設けられてもよい。
【0052】
亜鉛は留具30に含有されるのではなく、水溜部40内の他の部材、例えばシート表面22や堤部42に含有されてもよい。
【0053】
水溜部40は堤部42を有さなくてもよい。例えば水溜部40は地表1側に窪む形状でもよい。窪み形状の水溜部40は予めシート20に堤部42を必要としないため、シート20の製造が容易になる反面、地表1を窪ませる必要があるため、施工に手間がかかる。
【0054】
水溜部40は予めシート表面22に形成されてなくてもよい。例えば堤部を有する水溜部材がシート表面22と留具頭部34との間に介在するようにしてもよい。
【0055】
なお実施例1では水溜部40に水を供給する手段として降雨を利用するようにしているが、高架下などのように降雨を期待できないような範囲に防草構造体10を設ける場合は、人為的に水を供給すればよい。例えば作業員が撒水してもよく、また水溜部40の近辺に散水装置を配置して撒水するようにしてもよい。撒水する場合はその水に予め亜鉛を添加してもよい。
【0056】
また、上記各実施形態を適宜組み合わせてもよい。