(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
該重合工程が、アルカリ金属硫化物及びアルカリ金属水硫化物からなる群より選ばれる少なくとも一種の硫黄源とジハロ芳香族化合物との重合反応開始後、相分離剤の存在下、重合反応系内に生成ポリマー濃厚相と生成ポリマー希薄相とが混在する相分離状態で重合反応を継続させる相分離重合工程を含み、かつ、
該反応工程が、該相分離重合工程後、相分離状態にある重合反応系内に、該ヒドロキシル基含有有機化合物を加えて、相分離状態を維持させながら該生成ポリマーと該ヒドロキシル基含有有機化合物とを反応させる工程である
請求項1記載の製造方法。
該ヒドロキシル基含有有機化合物が、ベンジルアルコール、o−トリルメタノール、m−トリルメタノール、p−トリルメタノール、p−イソプロピルベンジルアルコール、1−フェニルエタノール、2−フェニルエタノール、1−フェニル−1−プロパノール、1−フェニル−2−プロパノール、及び3−フェニル−1−プロパノールからなる群より選ばれる少なくとも一種の芳香族アルコールである請求項1記載の製造方法。
有機アミド溶媒中で、アルカリ金属硫化物及びアルカリ金属水硫化物からなる群より選ばれる少なくとも一種の硫黄源とジハロ芳香族化合物とを重合反応させて得られたポリアリーレンスルフィドであって、
(a)該ポリアリーレンスルフィドが、重合反応後、1個のヒドロキシル基を含有し、かつ、結合ハロゲン原子を含有しないヒドロキシル基含有有機化合物との、170〜290℃の範囲内の温度、かつ、5分間から3時間の範囲内の反応時間の反応で得られた反応生成物であって、その結合ハロゲン原子の少なくとも一部が該ヒドロキシル基含有有機化合物との反応により除去されたものであり、その際、該ヒドロキシル基含有有機化合物が、脂肪族アルコール、脂環式アルコール、及び芳香族アルコールからなる群より選ばれる少なくとも一種のヒドロキシル基含有有機化合物であり、
(b)温度310℃及び剪断速度1,216sec−1で測定した溶融粘度が1〜100Pa・s、
(c)ゲルパーミエーションクロマトグラフィにより測定した重量平均分子量が10,000〜60,000、
(d)篩分法により測定した平均粒径が100〜1,000μm、並びに
(e)燃焼フラスコ法により測定した結合ハロゲン原子の含有量が4,000ppm未満
であるポリアリーレンスルフィド。
【発明を実施するための形態】
【0021】
1.硫黄源
本発明では、硫黄源としてアルカリ金属硫化物及びアルカリ金属水硫化物からなる群より選ばれる少なくとも一種の硫黄源を使用する。アルカリ金属硫化物としては、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウム、及びこれらの2種以上の混合物などを挙げることができる。アルカリ金属水硫化物としては、水硫化リチウム、水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化ルビジウム、水硫化セシウム、及びこれらの2種以上の混合物などを挙げることができる。
【0022】
アルカリ金属硫化物は、無水物、水和物、水溶液のいずれを用いてもよい。これらの中でも、工業的に安価に入手できる点で、硫化ナトリウム及び硫化リチウムが好ましい。アルカリ金属硫化物は、水溶液などの水性混合物(すなわち、流動性のある水との混合物)として用いることが、処理操作や計量などの観点から好ましい。
【0023】
アルカリ金属水硫化物は、無水物、水和物、水溶液のいずれを用いてもよい。これらの中でも、工業的に安価に入手できる点で、水硫化ナトリウム及び水硫化リチウムが好ましい。アルカリ金属水硫化物は、水溶液または水性混合物(すなわち、流動性のある水との混合物)として用いることが、処理操作や計量などの観点から好ましい。
【0024】
アルカリ金属硫化物の製造工程では、一般に、少量のアルカリ金属水硫化物が副生する。本発明で使用するアルカリ金属硫化物の中には、少量のアルカリ金属水硫化物が含有されていてもよい。この場合、アルカリ金属硫化物とアルカリ金属水硫化物との総モル量が、脱水工程後の仕込み硫黄源になる。
【0025】
他方、アルカリ金属水硫化物の製造工程では、一般に、少量のアルカリ金属硫化物が副生する。本発明で使用するアルカリ金属水硫化物の中には、少量のアルカリ金属硫化物が含有されていてもよい。この場合、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属硫化物との総モル量が、脱水工程後の仕込み硫黄源になる。アルカリ金属硫化物とアルカリ金属水硫化物とを混合して用いる場合には、当然、両者が混在したものが仕込み硫黄源となる。
【0026】
硫黄源がアルカリ金属水硫化物を含有するものである場合、アルカリ金属水酸化物を併用する。アルカリ金属水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、及びこれらの2種以上の混合物が挙げられる。これらの中でも、工業的に安価に入手できる点で水酸化ナトリウム及び水酸化リチウムが好ましい。アルカリ金属水酸化物は、水溶液または水性混合物として用いることが好ましい。
【0027】
本発明の製造方法において、脱水工程で脱水されるべき水分とは、水和水、水溶液の水媒体、及びアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物との反応などにより副生する水などである。
【0028】
2.ジハロ芳香族化合物
本発明で使用するジハロ芳香族化合物は、芳香環に直接結合した2個のハロゲン原子を有するジハロゲン化芳香族化合物である。ジハロ芳香族化合物の具体例としては、例えば、o−ジハロベンゼン、m−ジハロベンゼン、p−ジハロベンゼン、ジハロトルエン、ジハロナフタレン、メトキシ−ジハロベンゼン、ジハロビフェニル、ジハロ安息香酸、ジハロジフェニルエーテル、ジハロジフェニルスルホン、ジハロジフェニルスルホキシド、ジハロジフェニルケトン等が挙げられる。これらの中でも、p−ジハロベンゼン、m−ジハロベンゼン、及びこれら両者の混合物が好ましく、p−ジハロベンゼンがより好ましい。
【0029】
ハロゲン原子とは、フッ素、塩素、臭素、及びヨウ素の各原子を指し、同一ジハロ芳香族化合物において、2つのハロゲン原子は、同じでも異なっていてもよい。これらのジハロ芳香族化合物は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
ジハロ芳香族化合物の仕込み量は、脱水工程後に系内に残存する硫黄源(アルカリ金属硫化物及び/またはアルカリ金属水硫化物)1モルに対し、通常0.90〜1.50モル、好ましくは1.00〜1.10モル、より好ましくは1.00〜1.09モル、特に好ましくは1.00モル超過1.09モル以下である。多くの場合、該ジハロ芳香族化合物の仕込み量が1.01〜1.09モルの範囲内で、良好な結果を得ることができる。硫黄源に対するジハロ芳香族化合物の仕込みモル比が大きくなりすぎると、高分子量ポリマーを生成させることが困難になる。他方、硫黄源に対するジハロ芳香族化合物の仕込みモル比が小さくなりすぎると、分解反応が生じ易くなり、安定的な重合反応の実施が困難となる。しかし、ジハロ芳香族化合物のモル比を大きくすると、一般に、末端ハロゲン基の含有量が多くなる。
【0031】
3.分岐・架橋剤
生成PASに分岐または架橋構造を導入するために、3個以上のハロゲン原子が結合したポリハロ化合物(必ずしも芳香族化合物でなくてもよい)、活性水素含有ハロゲン化芳香族化合物、ハロゲン化芳香族ニトロ化合物等を併用することができる。分岐・架橋剤としてのポリハロ化合物として、好ましくはトリハロベンゼンが挙げられる。
【0032】
4.有機アミド溶媒
本発明では、脱水反応及び重合反応の溶媒として、非プロトン性極性有機溶媒である有機アミド溶媒を用いる。有機アミド溶媒は、高温でアルカリに対して安定なものが好ましい。有機アミド溶媒の具体例としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド化合物;N−メチル−ε−カプロラクタム等のN−アルキルカプロラクタム化合物;N−メチル−2−ピロリドン、N−シクロヘキシル−2−ピロリドン等のN−アルキルピロリドン化合物またはN−シクロアルキルピロリドン化合物;1,3−ジアルキル−2−イミダゾリジノン等のN,N−ジアルキルイミダゾリジノン化合物;テトラメチル尿素等のテトラアルキル尿素化合物;ヘキサメチルリン酸トリアミド等のヘキサアルキルリン酸トリアミド化合物等が挙げられる。これらの有機アミド溶媒は、それぞれ単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
これらの有機アミド溶媒の中でも、N−アルキルピロリドン化合物、N−シクロアルキルピロリドン化合物、N−アルキルカプロラクタム化合物、及びN,N−ジアルキルイミダゾリジノン化合物が好ましく、特に、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチル−ε−カプロラクタム、及び1,3−ジアルキル−2−イミダゾリジノンが好ましく用いられる。本発明の重合反応に用いられる有機アミド溶媒の使用量は、硫黄源1モル当たり、通常0.1〜10kgの範囲である。
【0034】
5.重合助剤
本発明では、重合反応を促進させるために、必要に応じて、各種重合助剤を用いることができる。重合助剤の具体例としては、一般にPASの重合助剤として公知の水、有機カルボン酸金属塩、有機スルホン酸金属塩、ハロゲン化リチウムなどのアルカリ金属ハライド、アルカリ土類金属ハライド、芳香族カルボン酸のアルカリ土類金属塩、リン酸アルカリ金属塩、アルコール類、パラフィン系炭化水素類、及びこれらの2種以上の混合物などが挙げられる。有機カルボン酸金属塩としては、アルカリ金属カルボン酸塩が好ましい。アルカリ金属カルボン酸塩としては、例えば、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、プロピオン酸ナトリウム、吉草酸リチウム、安息香酸リチウム、安息香酸ナトリウム、フェニル酢酸ナトリウム、p−トルイル酸カリウム、及びこれらの2種以上の混合物を挙げることができる。アルカリ金属カルボン酸塩としては、安価で入手しやすいことから、酢酸ナトリウムが特に好ましい。重合助剤の使用量は、化合物の種類により異なるが、仕込み硫黄源1モルに対し、通常0.01〜10モル、好ましくは0.1〜2モル、より好ましくは0.2〜1.8モル、特に好ましくは0.3〜1.7モルの範囲内である。重合助剤が、有機カルボン酸金属塩、有機スルホン酸塩、及びアルカリ金属ハライドである場合には、その使用量の上限は、仕込み硫黄源1モルに対し、好ましくは1モル以下、より好ましくは0.8モル以下であることが望ましい。
【0035】
6.相分離剤
本発明では、重合反応を促進させ、高重合度のPASを短時間で得るために、各種相分離剤を用いることが好ましい。相分離剤とは、それ自身でまたは少量の水の共存下に、有機アミド溶媒に溶解し、PASの有機アミド溶媒に対する溶解性を低下させる作用を有する化合物である。相分離剤自体は、PASの溶媒ではない化合物である。
【0036】
相分離剤としては、一般にPASの技術分野において、相分離剤として機能することが知られている化合物を用いることができる。相分離剤には、前記の重合助剤として使用される化合物も含まれるが、ここでは、相分離剤とは、相分離重合工程で相分離剤として機能し得る量比で用いられる化合物を意味する。相分離剤の具体例としては、水、有機カルボン酸金属塩、有機スルホン酸金属塩、ハロゲン化リチウムなどのアルカリ金属ハライド、アルカリ土類金属ハライド、芳香族カルボン酸のアルカリ土類金属塩、リン酸アルカリ金属塩、アルコール類、パラフィン系炭化水素類などが挙げられる。有機カルボン酸金属塩としては、例えば、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、プロピオン酸ナトリウム、吉草酸リチウム、安息香酸リチウム、安息香酸ナトリウム、フェニル酢酸ナトリウム、p−トルイル酸カリウムなどのアルカリ金属カルボン酸塩が好ましい。これらの相分離剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの相分離剤の中でも、水及びアルカリ金属カルボン酸塩が安価であるため好ましく、水が特に好ましい。相分離剤の使用量は、用いる化合物の種類により異なるが、仕込み硫黄源1モルに対し、通常0.01〜10モルの範囲内である。
【0037】
本発明の製造方法が、相分離重合工程を含む場合、当該相分離重合工程において、相分離剤として、水を、仕込み硫黄源1モルに対し、2.0モル超過10モル以下、好ましくは2.2〜7モル、より好ましくは2.5〜5モルの割合で重合反応系内に存在させることが好ましい。有機カルボン酸金属塩などの水以外の他の相分離剤は、仕込み硫黄源1モルに対し、好ましくは0.01〜3モル、より好ましくは0.02〜2モル、特に好ましくは0.03〜1モルの範囲内で使用する。
【0038】
相分離剤として水を使用する場合でも、相分離重合を効率的に行う観点から、水以外の他の相分離剤を重合助剤として併用することができる。相分離重合工程において、水と他の相分離剤とを併用する場合、その合計量は、相分離を起こすことができる量であればよい。相分離重合工程において、仕込み硫黄源1モルに対し、水を2.0モル超過10モル以下、好ましくは2.2〜7モル、より好ましくは2.5〜5モルの割合で重合反応系内に存在させるとともに、他の相分離剤を好ましくは0.01〜3モル、より好ましくは0.02〜2モル、特に好ましくは0.03〜1モルの範囲内で併用することができる。水と他の相分離剤とを併用する場合、少量の相分離剤で相分離重合を実施するために、仕込み硫黄源1モルに対して、水を0.5〜10モル、好ましくは0.6〜7モル、特に好ましくは0.5〜5モルの範囲内で使用するとともに、アルカリ金属カルボン酸塩などの他の相分離剤を0.001〜0.7モル、好ましくは0.02〜0.6モル、特に好ましくは0.05〜0.5モルの範囲内で併用してもよい。
【0039】
7.脱水工程
重合工程の前工程として、脱水工程を配置して反応系内の水分量を調節することが好ましい。脱水工程は、望ましくは不活性ガス雰囲気下、有機アミド溶媒とアルカリ金属硫化物とを含む混合物を加熱して反応させ、蒸留により水を系外へ排出する方法により実施する。硫黄源としてアルカリ金属水硫化物を用いる場合には、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物とを含む混合物を加熱して反応させ、蒸留により水を系外へ排出する方法により実施する。
【0040】
脱水工程では、水和水(結晶水)や水媒体、副生水などからなる水分を必要量の範囲内になるまで脱水する。脱水工程では、重合反応系の共存水分量が、硫黄源1モルに対して、通常0.02〜2.0モル、好ましくは0.05〜2.0モル、より好ましくは0.5〜2.0モルになるまで脱水する。脱水工程後の硫黄源を「仕込み硫黄源」と呼ぶ。脱水工程で水分量が少なくなり過ぎた場合は、重合工程の前に水を添加して所望の水分量に調節してもよい。
【0041】
硫黄源としてアルカリ金属水硫化物を用いる場合、脱水工程において、有機アミド溶媒、アルカリ金属水硫化物、及び該アルカリ金属水硫化物1モル当たり0.95〜1.05モルのアルカリ金属水酸化物を含有する混合物を加熱して、反応させ、該混合物を含有する系内から水を含む留出物の少なくとも一部を系外に排出することが好ましい。
【0042】
脱水工程でのアルカリ金属水硫化物1モル当たりのアルカリ金属水酸化物のモル比が小さすぎると、脱水工程で揮散する硫黄成分(硫化水素)の量が多くなりすぎて、硫黄源量の低下による生産性の低下を招いたり、脱水後に残存する仕込み硫黄源に多硫化成分が増加することによる異常反応、生成PASの品質低下が起こり易くなる。アルカリ金属水硫化物1モル当たりのアルカリ金属水酸化物のモル比が大きすぎると、有機アミド溶媒の変質が増大したり、重合反応を安定して実施することが困難になったり、生成PASの収率や品質が低下することがある。脱水工程でのアルカリ金属水硫化物1モル当たりのアルカリ金属水酸化物の好ましいモル比は、0.97〜1.04、より好ましくは0.98〜1.03である。
【0043】
アルカリ金属水硫化物には、多くの場合、少量のアルカリ金属硫化物が含まれており、硫黄源の量は、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属硫化物との合計量になる。アルカリ金属水硫化物は、アルカリ金属硫化物を含有していても、PASの原料としては問題ないが、本発明の高品質PASを製造するためには、その含有量は、少ないほど好ましい。また、少量のアルカリ金属硫化物が混入していても、本発明では、アルカリ金属水硫化物の含有量(分析値)を基準に、アルカリ金属水酸化物とのモル比を算出し、そのモル比を調整する。
【0044】
脱水工程での各原料の反応槽への投入は、一般的には、常温(5〜35℃)から300℃、好ましくは常温から200℃の温度範囲内で行われる。原料の投入順序は、任意に設定することができ、さらには、脱水操作途中で各原料を追加投入してもかまわない。脱水工程に使用される溶媒としては、有機アミド溶媒を用いる。この溶媒は、重合工程に使用される有機アミド溶媒と同一であることが好ましく、N−メチル−2−ピロリドンが特に好ましい。有機アミド溶媒の使用量は、反応槽に投入する硫黄源1モル当たり、通常0.1〜10kg程度である。
【0045】
脱水操作は、反応槽内へ原料を投入後の混合物を、通常、300℃以下、好ましくは100〜250℃の温度範囲で、通常、15分間から24時間、好ましくは30分間〜10時間、加熱して行われる。加熱方法は、一定温度を保持する方法、段階的または連続的な昇温方法、あるいは両者を組み合わせた方法がある。脱水工程は、バッチ式、連続式、または両方式の組み合わせ方式などにより行われる。
【0046】
脱水工程を行う装置は、後続する重合工程に用いられる反応槽(反応缶)と同じであっても、あるいは異なるものであってもよい。また、装置の材質は、チタンのような耐食性材料が好ましい。脱水工程では、通常、有機アミド溶媒の一部が水と同伴して反応槽外に排出される。その際、硫化水素は、ガスとして系外に排出される。
【0047】
8.仕込み工程
本発明では、脱水工程後、系内に残存する混合物に、必要に応じてアルカリ金属水酸化物及び水を添加することができる。特に、硫黄源としてアルカリ金属水硫化物を用いる場合には、脱水時に生成した硫化水素に伴い生成するアルカリ金属水酸化物のモル数と脱水前に添加したアルカリ金属水酸化物のモル数と脱水後に添加するアルカリ金属水酸化物のモル数の総モル数が、硫黄源として脱水後に系内に存在するアルカリ金属水硫化物を含む仕込み硫黄源1モル当たり好ましくは1.00〜1.09モル、より好ましくは1.00超過1.09モル以下となり、かつ、水のモル数が仕込み硫黄源1モル当たり通常0.02〜2.0モル、好ましくは0.05〜2.0モル、より好ましくは0.5〜2.0モルとなるように調整することが望ましい。仕込み硫黄源の量は、[仕込み硫黄源]=[総仕込み硫黄モル]−[脱水後の揮散硫黄モル]の式により算出される。
【0048】
脱水工程で硫化水素が揮散すると、平衡反応により、アルカリ金属水酸化物が生成し、系内に残存することになる。したがって、揮散する硫化水素量を正確に把握して、仕込み工程でのアルカリ金属水酸化物の硫黄源に対するモル比を決定する必要がある。
【0049】
仕込み硫黄源1モル当たり、アルカリ金属水酸化物のモル比が大きすぎると、有機アミド溶媒の変質を増大させたり、重合時の異常反応や分解反応を引き起こしやすい。また、生成PASの収率の低下や品質の低下を引き起こすことが多くなる。仕込み硫黄源1モル当たりのアルカリ金属水酸化物のモル比は、好ましくは1.01〜1.08モル、より好ましくは1.015〜1.075モルである。アルカリ金属水酸化物が少過剰の状態で重合反応を行うことが、重合反応を安定的に実施し、高品質のPASを得る上で好ましい。
【0050】
本発明では、脱水工程で使用する硫黄源と区別するために、仕込み工程での硫黄源を「仕込み硫黄源」と呼ぶこととする。その理由は、脱水工程で反応槽内に投入する硫黄源の量は、脱水工程で変動するためである。仕込み硫黄源は、重合工程でのジハロ芳香族化合物との反応により消費されるが、仕込み硫黄源のモル量は、仕込み工程でのモル量を基準とする。
【0051】
9.重合工程
重合工程は、脱水工程終了後の混合物にジハロ芳香族化合物を仕込み、有機アミド溶媒中で硫黄源とジハロ芳香族化合物を加熱することにより行われる。脱水工程で用いた反応槽とは異なる重合槽を使用する場合には、重合槽に脱水工程後の混合物とジハロ芳香族化合物を投入する。脱水工程後、重合工程前には、必要に応じて、有機アミド溶媒量や共存水分量などの調整を行ってもよい。また、重合工程前または重合工程中に、重合助剤その他の添加物を混合してもよい。
【0052】
脱水工程終了後に得られた混合物とジハロ芳香族化合物との混合は、通常、100〜350℃、好ましくは120〜330℃の温度範囲内で行われる。重合槽に各成分を投入する場合、投入順序は、特に制限なく、両成分を部分的に少量ずつ、あるいは一時に投入することにより行われる。
【0053】
重合反応は、一般的に170〜290℃の範囲で、前段重合工程と後段重合工程の2段階工程で行うことが好ましい。加熱方法は、一定温度を保持する方法、段階的または連続的な昇温方法、あるいは両方法の組み合わせが用いられる。重合反応時間は、一般に10分間〜72時間の範囲であり、望ましくは30分間〜48時間である。
【0054】
重合工程に使用される有機アミド溶媒は、重合工程中に存在する仕込み硫黄源1モル当たり、通常、0.1〜10kg、好ましくは0.15〜5kgである。この範囲であれば、重合反応途中でその量を変化させてもかまわない。重合反応開始時の共存水分量は、仕込み硫黄源1モルに対して、通常0.02〜2.0モル、好ましくは0.05〜2.0モル、より好ましくは0.5〜2.0モルの範囲内とすることが望ましい。重合反応の途中で共存水分量を増加させることが好ましい。
【0055】
本発明の製造方法では、重合工程において、
i)有機アミド溶媒中で、アルカリ金属硫化物及びアルカリ金属水硫化物からなる群より選ばれる少なくとも一種の硫黄源とジハロ芳香族化合物とを重合反応させて、該ジハロ芳香族化合物の転化率が80〜99%のポリマーを生成させる前段重合工程;並びに、
ii)相分離剤の存在下、重合反応系内に生成ポリマー濃厚相と生成ポリマー希薄相とが混在する相分離状態で重合反応を継続させる後段重合工程;
を含む少なくとも2段階の重合工程により重合反応を行うことが好ましい。
【0056】
本発明の製造方法では、重合工程において、
I)有機アミド溶媒中で、アルカリ金属硫化物及びアルカリ金属水硫化物からなる群より選ばれる少なくとも一種の硫黄源とジハロ芳香族化合物とを、仕込み硫黄源1モル当たり0.02〜2.0モルの水が存在する状態で、170〜270℃の温度で重合反応させて、該ジハロ芳香族化合物の転化率が80〜99%のポリマーを生成させる前段重合工程;並びに、
II)仕込み硫黄源1モル当たり2.0モル超過10モル以下の水が存在する状態となるように重合反応系内の水分量を調整するとともに、245〜290℃の温度に加熱することにより、重合反応系内に生成ポリマー濃厚相と生成ポリマー希薄相とが混在する相分離状態で重合反応を継続させる後段重合工程;
を含む少なくとも2段階の重合工程により重合反応を行うことがより好ましい。
【0057】
前段重合工程における反応系の共存水分量は、仕込み硫黄源1モル当たり、通常0.02〜2.0モル、好ましくは0.05〜2.0モル、より好ましくは0.5〜2.0モル、特に好ましくは1.0〜1.9モルの範囲である。前段重合工程での共存水分量は、少なくてもよいが、過度に少なすぎると、生成PASの分解等の望ましくない反応が起こり易くなることがある。共存水分量が2.0モルを超過すると、重合速度が著しく小さくなったり、有機アミド溶媒や生成PASの分解が生じ易くなるので、いずれも好ましくない。重合は、170〜270℃、好ましくは180〜265℃の温度範囲内で行なわれる。重合温度が低すぎると、重合速度が遅くなり過ぎ、逆に、270℃を越える高温になると、生成PASと有機アミド溶媒が分解を起こし易く、生成するPASの重合度が極めて低くなる。
【0058】
後段重合工程において、反応系中の共存水分量が仕込み硫黄源1モル当り2.0モル以下または10モル超過になると、生成PASの重合度が低下する。特に、共存水分量が2.2〜7モルの範囲で後段重合を行なうと、高重合度のPASが得られ易いので好ましい。後段重合工程での重合温度が245℃未満では、高重合度のPASが得られにくく、290℃を越えると、生成PASや有機アミド溶媒が分解するおそれがある。特に、250〜270℃の温度範囲が高重合度のPASが得られ易いので好ましい。本発明における後段重合工程は、前段重合工程で生成したポリマー(「プレポリマー」と呼ぶことがある)の単なる分別・造粒の工程ではなく、該ポリマーの重合度の上昇を起こさせるためのものである。後段重合工程では、相分離剤として水を使用することが好ましいが、水に代えて、あるいは水と共に他の相分離剤(重合助剤;例えば、有機カルボン酸金属塩)を、仕込み硫黄源1モル当り、好ましくは0.01〜3モルの範囲内で用いることができる。
【0059】
硫黄源としてアルカリ金属水硫化物を用いる場合には、重合工程において、
(1)有機アミド溶媒と硫黄源とジハロ芳香族化合物と所定モル比のアルカリ金属水酸化物とを含有する反応混合物を、仕込み硫黄源1モルに対して、通常0.02〜2.0モル、好ましくは0.05〜2.0モル、より好ましくは0.5〜2.0モルの水の存在下に、170〜270℃に加熱して重合反応を行い、ジハロ芳香族化合物の転化率80〜99%でポリマーを生成させる前段重合工程;及び
(2)仕込み硫黄源1モル当たり2.0モルを超え、10モル以下の水が存在する状態となるように反応系内の水量を調整するとともに、245〜290℃に加熱して、重合反応を継続する後段重合工程;
を含む少なくとも2段階の重合工程により重合反応を行うことが好ましい。後段重合工程では、相分離剤として水を使用することが好ましいが、水に代えて、あるいは水と共に他の相分離剤(重合助剤;例えば、有機カルボン酸金属塩)を、仕込み硫黄源1モル当り、好ましくは0.01〜3モルの範囲内で用いることができる。
【0060】
前段重合工程において、温度310℃、剪断速度1,216sec
−1で測定した溶融粘度が、通常0.5〜30Pa・sのポリマー(プレポリマー)を生成させることが望ましい。
【0061】
生成ポリマー中の副生アルカリ金属塩(例えば、NaCl)や不純物の含有量を低下させたり、ポリマーを粒状で回収する目的で、重合反応後期あるいは終了時に水を添加し、水分を増加させることができる。重合反応方式は、バッチ式、連続式、あるいは両方式の組み合わせでもよい。バッチ式重合では、重合サイクル時間を短縮する目的のために、所望により2つ以上の反応槽を用いる方式を用いることができる。
【0062】
前段重合工程におけるジハロ芳香族化合物の転化率は、以下の式により算出した値である。ジハロ芳香族化合物(「DHA」と略記)を硫黄源よりモル比で過剰に添加した場合は、下記式
転化率=[〔DHA仕込み量(モル)−DHA残存量(モル)〕/〔DHA仕込み量(モル)−DHA過剰量(モル)〕]×100
によって転化率を算出する。それ以外の場合には、下記式
転化率=[〔DHA仕込み量(モル)−DHA残存量(モル)〕/〔DHA仕込み量(モル)〕]×100
によって転化率を算出する。
【0063】
10.ヒドロキシル基含有有機化合物との反応
本発明では、前記の如き重合工程の後、有機アミド溶媒及び生成ポリマーを含有する重合反応系内に、結合ハロゲン原子を含有しないヒドロキシル基含有有機化合物を、仕込み硫黄源100モルに対して、0.01〜20モルの割合で加えて、該生成ポリマーと該ヒドロキシル基含有有機化合物とを反応させる反応工程を配置する。この反応工程後に、重合反応系内からポリマーを取得する回収工程を配置する。
【0064】
ヒドロキシル基含有有機化合物としては、それぞれ結合ハロゲン原子を含有しない、脂肪族アルコール、脂環式アルコール、芳香族アルコール、及びフェノール化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種の有機化合物を使用する。ヒドロキシル基含有有機化合物は、沸点が100℃以上で、1個のヒドロキシル基を含有する有機化合物であることが好ましい。
【0065】
脂肪族アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−2−プロパノール、2−メチル−1−プロパノール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、2−メチル−1−ブタノール、3−メチル−1−ブタノール、3−メチル−2−ブタノール、2−メチル−2−ブタノール、2,2−ジメチル−1−プロパノール、1−ヘキサノール、2−ヘキサノール、3−ヘキサノール、2−メチル−1−ペンタノール、2−メチル−2−ペンタノール、4−メチル−1−ペンタノール、4−メチル−2−ペンタノール、3−メチル−1−ペンタノール、3−メチル−2−ペンタノール、3−メチル−3−ペンタノール、2,3−ジメチル−1−ブタノール、3,3−ジメチル−2−ブタノール、1−ヘプタノール、2−ヘプタノール、3−ヘプタノール、4−ヘプタノール、3−エチル−3−ペンタノール、2,4−ジメチル−3−ペンタノール、2,3,3−トリメチル−2−ブタノール、1−オクタノール、2−オクタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、1−ノナノール、2−ノナノール、2,6−ジメチル−4−ヘプタノール、1−デカノール、1−ウンデカノール、1−トリデカノール、1−テトラデカノール、1−ペンタデカノール、1−ヘキサデカノール、1−ヘプタデカノール、1−オクタデカノール、1−ヘキサコサノール、1−トリアコンタノール、1−ヘントリアコンタノールなどの1価の飽和脂肪族アルコール;アリルアルコール、trans−2−ブテン−1−オール、3−ブテン−1−オールなどの1価の不飽和脂肪族アルコール;エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオールなどの2価アルコール;グリセリン、ペンタエリトリトールなどの多価アルコール;などが挙げられる。これらの脂肪族アルコールは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0066】
脂環式アルコールとしては、例えば、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、1−メチルシクロヘキサノール、cis−2−メチルシクロヘキサノール、trans−2−メチルシクロヘキサノール、cis−3−メチルシクロヘキサノール、trans−3−メチルシクロヘキサノール、cis−4−メチルシクロヘキサノール、trans−4−メチルシクロヘキサノールなどの1価の脂環式アルコールを挙げることができる。これらの脂環式アルコールは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0067】
芳香族アルコールは、芳香環を有し、かつ、芳香環以外の炭素原子にヒドロキシル基が結合したアルコールである。芳香族アルコールとしては、例えば、ベンジルアルコール、o−トリルメタノール、m−トリルメタノール、p−トリルメタノール、p−イソプロピルベンジルアルコール、1−フェニルエタノール、2−フェニルエタノール、1−フェニル−1−プロパノール、1−フェニル−2−プロパノール、3−フェニル−1−プロパノールなどの1価の芳香族アルコールを挙げることができる。これらの芳香族アルコールは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0068】
フェノール化合物は、芳香環の炭素原子にヒドロキシル基が結合したアルコールである。フェノール化合物としては、例えば、フェノール、クレゾール、エチルフェノール、p−t−ブチルフェノール、p−t−ペンチルフェノール、キシレノール、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタメチルフェノール、フェノキシフェノールなどの1価のフェノール化合物を挙げることができる。これらのフェノール化合物は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0069】
本発明では、これらのヒドロキシル基含有有機化合物の少なくとも一種が用いられる。ヒドロキシル基含有有機化合物は、沸点が100℃以上で、1個のヒドロキシル基を含有する有機化合物であることが好ましい。ヒドロキシル基含有有機化合物の沸点は、好ましくは100〜290℃の範囲内である。ヒドロキシル基含有有機化合物は、取り扱い上の観点から、常温(23℃)で液体であるものが好ましい。ヒドロキシル基含有有機化合物が常温で固体である場合には、その融点は、100℃以下であることが好ましい。ヒドロキシル基含有有機化合物の融点が高すぎると、重合反応系内への圧入の際の取り扱いが困難になったり、液状にするための溶媒を必要としたりする。
【0070】
ヒドロキシル基含有有機化合物の中でも、ベンジルアルコールなどの芳香族アルコール、及びフェノキシアルコールなどのフェノール化合物が好ましく、結合ハロゲン原子の低減化効果に優れる点で、ベンジルアルコールなどの芳香族アルコールがより好ましい。
【0071】
ヒドロキシル基含有有機化合物は、重合工程後に、有機アミド溶媒と生成ポリマーとを含有する重合反応系内に添加する。ヒドロキシル基含有有機化合物の添加割合は、仕込み硫黄源100モル当たり、0.001〜20モル、好ましくは0.01〜10モル、より好ましくは0.05〜5モルの範囲内である。
【0072】
重合反応系内にヒドロキシル基含有有機化合物を添加した後、通常170〜290℃、好ましくは200〜280℃、より好ましくは245〜270℃の範囲内の温度で、通常5分間から3時間、好ましくは30分間から2時間の範囲内の反応時間で、生成ポリマーとヒドロキシル基含有有機化合物との反応を行う。この反応により、ポリアリーレンスルフィドとヒドロキシル基含有有機化合物との反応生成物が生成するが、それによって、ポリマー鎖末端に結合したハロゲン原子を含む結合ハロゲン原子の少なくとも一部が除去される。該反応生成物は、ヒドロキシル基含有有機化合物とハロゲン原子との反応により生成したヒドロキシル基含有有機化合物の残基(例えば、エーテル基)が結合していると推定することができる。この反応工程では、生成PASのさらなる高分子量化が進行してもよい。重合工程とその後の反応工程での反応条件によっては、ヒドロキシル基含有有機化合物との反応工程で、生成PASの低分子量化が進むこともある。
【0073】
本発明の製造方法は、重合工程で、アルカリ金属硫化物及びアルカリ金属水硫化物からなる群より選ばれる少なくとも一種の硫黄源とジハロ芳香族化合物との重合反応開始後、相分離剤の存在下、重合反応系内に生成ポリマー濃厚相と生成ポリマー希薄相とが混在する相分離状態とし、この相分離状態で重合反応を継続させる相分離重合工程を含むことが好ましい。
【0074】
相分離剤の存在下に、重合反応系(液相)内に生成ポリマー濃厚相と生成ポリマー希薄相とが混在する相分離状態とした場合には、濃厚相のPAS濃度は、通常30〜70質量%、好ましくは40〜60質量%、より好ましくは45〜55質量%であり、希薄相のPAS濃度は、通常0〜10質量%、好ましくは0〜8質量%、より好ましくは0〜5質量%である。重合工程では、通常、重合反応系(液相)を撹拌するため、生成ポリマー濃厚相が生成ポリマー希薄相中に液滴として分散した状態で重合反応が進行する。
【0075】
重合工程が相分離重合工程を含む場合には、相分離重合工程後、相分離状態にある重合反応系内に、ヒドロキシル基含有有機化合物を加えて、相分離状態を維持させながら生成ポリマーとヒドロキシル基含有有機化合物とを反応させることが、反応効率を上げるために好ましい。撹拌下に生成ポリマー濃厚相が生成ポリマー希薄相中に液滴として分散した状態を維持したまま、ヒドロキシル基含有有機化合物を加えると、ヒドロキシル基含有有機化合物が生成ポリマー濃厚相中に移行し、その中で効率的に生成ポリマーと反応する。
【0076】
本発明の製造方法の好ましい態様としては、以下のような相分離重合工程を含む製造方法を挙げることができる。
【0077】
第一の製造方法として、該重合工程が、アルカリ金属硫化物及びアルカリ金属水硫化物からなる群より選ばれる少なくとも一種の硫黄源とジハロ芳香族化合物との重合反応開始後、相分離剤の存在下、重合反応系内に生成ポリマー濃厚相と生成ポリマー希薄相とが混在する相分離状態で重合反応を継続させる相分離重合工程を含み、該反応工程が、該相分離重合工程後、相分離状態にある重合反応系内に、該ヒドロキシル基含有有機化合物を加えて、相分離状態を維持させながら該生成ポリマーと該ヒドロキシル基含有有機化合物とを反応させる工程であり、かつ、該回収工程が、該反応工程後、該反応工程で生成したポリマーを含有する重合反応系内から該ポリマーを回収する回収工程である製造方法を挙げることができる。
【0078】
第二の製造方法として、該重合工程が、
i)有機アミド溶媒中で、アルカリ金属硫化物及びアルカリ金属水硫化物からなる群より選ばれる少なくとも一種の硫黄源とジハロ芳香族化合物とを重合反応させて、該ジハロ芳香族化合物の転化率が80〜99%のポリマーを生成させる前段重合工程;並びに、
ii)相分離剤の存在下、重合反応系内に生成ポリマー濃厚相と生成ポリマー希薄相とが混在する相分離状態で重合反応を継続させる後段重合工程;
を含み、
該反応工程が、該後段重合工程後、相分離状態にある重合反応系内に、該ヒドロキシル基含有有機化合物を加えて、相分離状態を維持させながら該生成ポリマーと該ヒドロキシル基含有有機化合物とを反応させる工程であり、かつ、
該回収工程が、該反応工程後、該反応工程で生成したポリマーを含有する重合反応系内から該ポリマーを回収する回収工程である製造方法を挙げることができる。
【0079】
第三の製造方法として、該重合工程が、
I)有機アミド溶媒中で、アルカリ金属硫化物及びアルカリ金属水硫化物からなる群より選ばれる少なくとも一種の硫黄源とジハロ芳香族化合物とを、仕込み硫黄源1モル当たり、通常0.02〜2.0モル、好ましくは0.05〜2.0モル、より好ましくは0.5〜2.0モルの水が存在する状態で、170〜270℃の温度で重合反応させて、該ジハロ芳香族化合物の転化率が80〜99%のポリマーを生成させる前段重合工程;並びに、
II)仕込み硫黄源1モル当たり2.0モル超過10モル以下の水が存在する状態となるように重合反応系内の水分量を調整するとともに、245〜290℃の温度に加熱することにより、重合反応系内に生成ポリマー濃厚相と生成ポリマー希薄相とが混在する相分離状態で重合反応を継続させる後段重合工程;
を含み、
該反応工程が、該後段重合工程後、相分離状態にある重合反応系内に、該ヒドロキシル基含有有機化合物を加えて、相分離状態を維持させながら該生成ポリマーと該ヒドロキシル基含有有機化合物とを反応させる工程であり、かつ、
該回収工程が、該反応工程後、該反応工程で生成したポリマーを含有する重合反応系内から該ポリマーを回収する回収工程である製造方法を挙げることができる。後段重合工程では、相分離剤として水を使用することが好ましいが、水に代えて、あるいは水と共に他の相分離剤(重合助剤;例えば、有機カルボン酸金属塩)を、仕込み硫黄源1モル当り、好ましくは0.01〜3モルの範囲内で用いることができる。
【0080】
第四の製造方法としては、
1)有機アミド溶媒、アルカリ金属水硫化物を含有する硫黄源、及び該アルカリ金属水硫化物1モル当たり0.95〜1.05モルのアルカリ金属水酸化物を含有する混合物を加熱して、該混合物を含有する系内から水を含む留出物の少なくとも一部を系外に排出する脱水工程;
2)脱水工程の後、系内に残存する混合物に、必要に応じてアルカリ金属水酸化物及び水を添加して、脱水時に生成した硫化水素に伴い生成するアルカリ金属水酸化物のモル数と脱水前に添加したアルカリ金属水酸化物のモル数と脱水後に添加するアルカリ金属水酸化物のモル数の総モル数が、脱水工程後に系内に存在する仕込み硫黄源1モル当たり1.00〜1.09モル、好ましくは1.00モル超過1.09モル以下となり、かつ、水のモル数が該仕込み硫黄源1モル当たり、通常0.02〜2.0モル、好ましくは0.05〜2.0モル、より好ましくは0.5〜2.0モルとなるように調整する仕込み工程;
3)該混合物にジハロ芳香族化合物を添加し、有機アミド溶媒中で硫黄源とジハロ芳香族化合物とを170〜270℃の温度で重合反応させて、該ジハロ芳香族化合物の転化率が80〜99%のポリマーを生成させる前段重合工程;
4)仕込み硫黄源1モル当たり2.0モル超過10モル以下の水が存在する状態となるように重合反応系内の水量を調整するとともに、245〜290℃の温度に加熱することにより、重合反応系内に生成ポリマー濃厚相と生成ポリマー希薄相とが混在する相分離状態で重合反応を継続させる後段重合工程;
5)該後段重合工程後、相分離状態にある重合反応系内に、該ヒドロキシル基含有有機化合物を加えて、相分離状態を維持させながら該生成ポリマーと該ヒドロキシル基含有有機化合物とを反応させる工程;並びに、
6)該反応工程後、該反応工程で生成したポリマーを含有する重合反応系内から該ポリマーを回収する回収工程;
を含む製造方法を挙げることができる。後段重合工程では、相分離剤として水を使用することが好ましいが、水に代えて、あるいは水と共に他の相分離剤(重合助剤;例えば、有機カルボン酸金属塩)を、仕込み硫黄源1モル当り、好ましくは0.01〜3モルの範囲内で用いることができる。
【0081】
本発明の重合工程で、相分離剤として水を用いる場合、前記の如き2段階重合法を採用することが好ましい。前記の後段重合工程は、いずれも相分離重合工程である。前記の前段重合工程では、相分離状態は現れない。水を添加した後段重合工程では、重合反応系(液相)内は、前段重合により生成したポリマーの含有量が多いポリマー濃厚相と該ポリマーの含有量が少ないポリマー希薄相とに相分離する。相分離状態は、目視によって明瞭に観察することができる。後段重合工程では、相分離剤として水を使用する場合でも、アルカリ金属カルボン酸塩などの他の相分離剤(重合助剤;例えば、有機カルボン酸金属塩)を、仕込み硫黄源1モル当り、好ましくは0.01〜3モルの範囲内で用いることができる。
【0082】
ヒドロキシル基含有有機化合物を重合反応の初期、例えば、仕込み工程で添加すると、生成PASが低分子量化(低溶融粘度化)して、高分子量PASを得ることが困難となる。ヒドロキシル基含有有機化合物を相分離重合工程より前の工程(前段重合工程)で添加しても、同様に、生成PASが低分子量化(低溶融粘度化)する。本発明の製造方法では、後段重合工程後、相分離状態にある重合反応系内に、ヒドロキシル基含有有機化合物を加えて、相分離状態を維持させながら生成ポリマーとヒドロキシル基含有有機化合物とを反応させる方法を採用することが、生成ポリマーの末端ハロゲン原子とヒドロキシル基含有有機化合物とを効率良く反応させることができるので、好ましい。この相分離状態とは、液−液相分離状態を意味している。重合反応系内の温度が低下しすぎると、生成ポリマーが固化して析出するようになるが、このような固−液相分離状態では、ヒドロキシル基含有有機化合物と生成PASとの反応効率が著しく低下する。
【0083】
11.回収工程
本発明の製造方法において、反応後の後処理は、通常の重合反応後の後処理工程と同様の方法により行うことができる。例えば、反応終了後、冷却した生成物スラリーをそのまま、あるいは水などで希釈してから、濾別し、次いで、洗浄と濾過を繰り返してから、乾燥することにより、PASを回収することができる。洗浄は、水洗、有機溶媒洗浄、酸洗浄などを適宜組み合わせて、副生アルカリ金属塩やオリゴマーが残存しなくなるまで行うことが好ましい。
【0084】
相分離重合工程を含む製造方法によれば、粒状PASを生成させることができるため、スクリーンを用いて篩分する方法により粒状PASを反応液から分離する方法を採用することが、副生物やオリゴマーなどから容易に分離することができるため好ましい。生成物スラリーから高温状態でポリマーを篩分してもよい。
【0085】
上記濾別後、PASを重合溶媒と同じ有機アミド溶媒やケトン類(例えば、アセトン)、アルコール類(例えば、メタノール)等の有機溶媒で洗浄することが好ましい。PASを高温水などで洗浄してもよい。生成PASを、酸や塩化アンモニウムのような塩で処理することもできる。
【0086】
12.ポリアリーレンスルフィド
本発明の製造方法によれば、主として末端ハロゲン基からなる結合ハロゲン原子の含有量(単に「ハロゲン含有量」ともいう)が低減したPASを製造することができる。結合ハロゲン原子の含有量は、通常4,000ppm未満、好ましくは3,900ppm以下、より好ましくは3,800ppm以下である。多くの場合、結合ハロゲン原子の含有量を2,000ppm以下、さらには1,500ppm以下にまで低減させることができる。結合ハロゲン原子の含有量の下限値は、通常50ppm、多くの場合100ppmまたは200ppmである。
【0087】
PASの結合ハロゲン原子の含有量をさらに低減させるために、例えば、特許文献2に開示されているPASの処理法などを追加することができる。しかし、本発明のPASを電子部品の封止剤として使用する場合、多量の充填剤を添加するため、結合ハロゲン原子の含有量が前記の範囲内であっても、実際の使用に際し、不都合を生じることがなく、また、製品中のハロゲン含有量に関する各界の要求水準を満たすことができる。本発明のPASは、多量の充填剤を含有させたコンパウンドとして電子部品の封止剤として使用することができる。充填剤の添加により、コンパウンド中のPPS含有量が低下するので、結合ハロゲン原子の含有量も50〜60質量%程度にまで低下する。コンパウンドのハロゲン含有量は、800〜900ppmまたはそれ以下であれば、例えば、欧州での規制値や電子部品関連業界の要求値に対応することができる。そのため、PASの結合ハロゲン原子の含有量が1,500ppm以下であることが特に望ましい。
【0088】
後記の実施例1に示すように、本発明の製造方法において、例えば、ジハロ芳香族化合物の仕込み量を、脱水工程後に系内に残存する硫黄源(アルカリ金属硫化物及び/またはアルカリ金属水硫化物)1モルに対し、1.00モル超過1.06モル未満、好ましくは1.01〜1.05モルの範囲内に制御し、かつ、ヒドロキシル基含有有機化合物としてベンジルアルコールの如き芳香族アルコールを用いることによって、平均粒径、収率などを低下させることなく、結合ハロゲン原子の含有量を2,000ppm以下、さらには1,500ppm以下にまで低減させることができる。
【0089】
後記の実施例2に示すように、本発明の製造方法において、例えば、ジハロ芳香族化合物の仕込み量を、脱水工程後に系内に残存する硫黄源(アルカリ金属硫化物及び/またはアルカリ金属水硫化物)1モルに対し、1.06〜1.09モルの範囲内に制御し、かつ、ヒドロキシル基含有有機化合物としてベンジルアルコールの如き芳香族アルコールを用いることによって、結合ハロゲン原子の含有量を1,500ppm以下、さらには1,000ppm以下にまで低減させることができる。この場合、PASの溶融粘度が低下傾向を示すが、それによって、充填剤を高充填することができるため、該PASを封止剤用コンパウンドなどの用途に好適に適用することができる。
【0090】
本発明の製造方法によれば、温度310℃、剪断速度1,216sec
−1で測定した溶融粘度が、通常1〜100Pa・s、好ましくは2〜80Pa・s、特に好ましくは3〜70Pa・sのPASを得ることができる。本発明の製造方法によれば、重量平均分子量が、通常10,000〜60,000、好ましくは13,000〜55,000、特に好ましくは14,000〜50,000のPASを得ることができる。
【0091】
本発明の製造方法によれば、目開き径150μm(100メッシュ)のスクリーンで捕集した粒状ポリマーを、通常80〜98%、好ましくは83〜97%、特に好ましくは85〜95%の収率で回収することができる。本発明の製造方法によれば、平均粒径が100〜1,000μm、好ましくは150〜800μm、より好ましくは200〜500μmの粒状PASを得ることができる。
【0092】
以上の特徴点をまとめると、本発明の製造方法によれば、有機アミド溶媒中で、アルカリ金属硫化物及びアルカリ金属水硫化物からなる群より選ばれる少なくとも一種の硫黄源とジハロ芳香族化合物とを重合反応させて得られたポリアリーレンスルフィドであって、
(a)ポリマー鎖末端のハロゲン原子の少なくとも一部がヒドロキシル基含有有機化合物との反応により除去されており、
(b)温度310℃及び剪断速度1,216sec
−1で測定した溶融粘度が1〜100Pa・s、
(c)ゲルパーミエーションクロマトグラフィにより測定した重量平均分子量が10,000〜60,000、
(d)篩分法により測定した平均粒径が100〜1,000μm、並びに
(e)燃焼フラスコ法により測定した結合ハロゲン原子の含有量が4,000ppm未満
であるポリアリーレンスルフィドを得ることができる。
【0093】
本発明の製造方法により得られるPASは、そのままあるいは酸化架橋させた後、単独でまたは各種無機充填剤、繊維状充填剤、各種合成樹脂を配合し、種々の射出成形品(射出による封止成形品を含む)や、シート、フィルム、繊維、パイプ等の押出成形品に成形することができる。PASを被覆剤として用いることもできる。PASとしては、PPSが特に好ましい。
【実施例】
【0094】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。本発明における物性及び特性の測定方法は、次のとおりである。
【0095】
(1)収率
反応後、反応混合物を目開き径の異なる複数のスクリーンで篩別して分別し、洗浄した。目開き径150μm(100メッシュ)のスクリーンで捕集したものを「粒状ポリマー」とした。粒状ポリマーの収率は、脱水工程後の反応缶中に存在する仕込み硫黄源中の有効硫黄成分の全てがポリマーに転換したと仮定したときのポリマー質量(理論量)を基準とした。仕込み硫黄源がジハロ芳香族化合物よりも過剰のモル比で仕込まれた場合は、仕込み硫黄源の全てがポリマーに転換することはあり得ない場合もあるが、その場合でも、一応仕込み硫黄源の量を基準として収率を算出することとする。
【0096】
(2)平均粒径
回収したポリマーの平均粒径は、使用篩として、メッシュ#7(目開き径2,800μm)、#12(目開き径1,410μm)、#16(目開き径1,000μm)、#24(目開き径710μm)、#32(目開き径500μm)、#60(目開き径250μm)、#100(目開き径150μm)、#145(目開き径105μm)、#200(目開き径75μm)を用いた篩分法により測定した。
【0097】
(3)結合ハロゲン原子の含有量
洗浄により副生アルカリ金属塩の全てを実質的に除去したポリマー試料を用いて、燃焼フラスコ法によりハロゲン(塩素)原子の含有量の測定を行った。
【0098】
(4)重量平均分子量
ポリマーの重量平均分子量(Mw)は、株式会社センシュー科学製の高温ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)SSC−7000を用いて、以下の条件で測定した。重量平均分子量は、ポリスチレン換算値として算出した。
【0099】
溶媒: 1−クロロナフタレン、
温度: 210℃、
検出器: UV検出器(360nm)、
サンプル注入量: 200μl(濃度:0.05質量%)、
流速: 0.7ml/分、
標準ポリスチレン: 616,000、113,000、26,000、8,200、及び600の5種類の標準ポリスチレン。
【0100】
(5)溶融粘度
乾燥した粒状ポリマー約20gを用いて、東洋精機製キャピログラフ1−C(登録商標)により溶融粘度を測定した。キャピラリーとして1mmφ×10mmLのフラットダイを使用し、設定温度を310℃とした。ポリマー試料を装置内に導入し、5分間保持した後、剪断速度1,216sec
−1で溶融粘度を測定した。
【0101】
[比較例1]
20リットルのオートクレーブに、N−メチル−2−ピロリドン(以下、「NMP」と略記)5,999g、水硫化ナトリウム(NaSH;純度62質量%、Na
2Sを15g含む)2,000g、水酸化ナトリウム(NaOH;純度73.5質量%)1,192gを仕込んだ。水酸化ナトリウム/硫黄源(NaOH/S)のモル比は、0.978であり、NaOH/NaSHのモル比は、0.990であった。これら各純度の水硫化ナトリウム及び水酸化ナトリウムは、残りの成分として、水和水などの水分を含有するものである。
【0102】
該オートクレーブ内を窒素ガスで置換後、約4時間かけて撹拌しながら、徐々に200℃まで昇温して、水(H
2O)997g、NMP1,244g、及び硫化水素(H
2S)12gを留出させた。
【0103】
上記脱水工程後、オートクレーブの内容物を150℃まで冷却し、p−ジクロロベンゼン(以下、「pDCB」と略記)3,416g、NMP3,464g、水酸化ナトリウム(高純度品)40g、及び水145gを加えた。缶内のNMP/仕込み硫黄源(以下、「仕込みS」と略記)の比率(NMP/仕込みS;g/モル)は、375、pDCB/仕込みS(モル/モル)は、1.06、H
2O/仕込みS(モル/モル)は、1.50、かつ、NaOH/仕込みS(モル/モル)は、1.07であった。
【0104】
オートクレーブの内容物を、攪拌機の回転数250rpmで撹拌しながら、220℃で3時間反応させて、前段重合を行った。前段重合での重合転化率は、93%であった。続いて、攪拌機の回転数を400rpmに上げ、撹拌を続けながら水454gを圧入した。H
2O/仕込みS(モル/モル)は、2.65であった。オートクレーブの内容物を255℃に昇温して、4時間反応させて、後段重合を行った。
【0105】
後段重合終了後、室温付近まで冷却してから、内容物を100メッシュのスクリーンに通して粒状ポリマーを篩別した。粒状ポリマーを、アセトン洗3回、水洗3回、pH4に調整した酢酸水溶液洗1回、その後再び水洗4回を行い、洗浄した粒状ポリマーを得た。粒状ポリマーを100℃の恒温室で一昼夜乾燥した。このようにして得られた粒状ポリマーは、その収率が88%、平均粒子径が350μm、溶融粘度が30Pa・s、重量平均分子量Mwが46,000であり、塩素含有量が4,000ppmであった。結果を表1に示す。
【0106】
[実施例1]
20リットルのオートクレーブに、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)6,002g、水硫化ナトリウム(NaSH;純度62質量%、Na
2Sを25g含む)2,000g、水酸化ナトリウム(NaOH;純度73.5質量%)1,188gを仕込んだ。水酸化ナトリウム/硫黄源(NaOH/S)のモル比は、0.967であり、NaOH/NaSHのモル比は、0.987であった。
【0107】
該オートクレーブ内を窒素ガスで置換後、約4時間かけて撹拌しながら、徐々に200℃まで昇温して、水(H
2O)983g、NMP1,019g、及び硫化水素(H
2S)13gを留出させた。
【0108】
上記脱水工程後、オートクレーブの内容物を150℃まで冷却し、p−ジクロロベンゼン(pDCB)3,287g、NMP3,197g、水酸化ナトリウム(高純度品)9g、及び水133gを加えた。缶内のNMP/仕込み硫黄源(仕込みS)の比率(NMP/仕込みS;g/モル)は、375、pDCB/仕込みS(モル/モル)は、1.025、H
2O/仕込みS(モル/モル)は、1.50、かつ、NaOH/仕込みS(モル/モル)は、1.05であった。
【0109】
オートクレーブの内容物を、攪拌機の回転数250rpmで撹拌しながら、220℃で3時間反応させて、前段重合を行った。前段重合での重合転化率は、94%であった。続いて、攪拌機の回転数を400rpmに上げ、撹拌を続けながら水452gを圧入した。H
2O/仕込みS(モル/モル)は、2.65であった。オートクレーブの内容物を255℃に昇温して、4時間反応させて、後段重合を行った。後段重合終了後、反応系内に、仕込み硫黄源100モルに対して0.1モルのベンジルアルコールをポンプで圧入し、さらに1時間反応させた。
【0110】
反応系を室温付近まで冷却してから、内容物を比較例1と同様の条件で処理した。このようにして得られた粒状ポリマーは、その収率が92%、平均粒子径が400μm、溶融粘度が31Pa・s、重量平均分子量Mwが48,000であり、塩素含有量が1,200ppmであった。結果を表1に示す。
【0111】
[実施例2]
比較例1と同じ条件で、前段重合及び後段重合を行った。後段重合終了後、反応系内に、仕込み硫黄源100モルに対して0.1モルのベンジルアルコールをポンプで圧入し、さらに1時間反応させた。反応系を室温付近まで冷却してから、内容物を比較例1と同様の条件で処理した。このようにして得られた粒状ポリマーは、その収率が87%、平均粒子径が250μm、溶融粘度が5Pa・s、重量平均分子量Mwが18,000であり、塩素含有量が800ppmであった。結果を表1に示す。
【0112】
[実施例3]
(本発明の参考例である。)
比較例1と同じ条件で、前段重合及び後段重合を行った。後段重合終了後、反応系内に、仕込み硫黄源100モルに対して0.1モルのフェノキシフェノールをポンプで圧入し、さらに1時間反応させた。反応系を室温付近まで冷却してから、内容物を比較例1と同様の条件で処理した。このようにして得られた粒状ポリマーは、その収率が90%、平均粒子径が350μm、溶融粘度が22Pa・s、重量平均分子量Mwが33,000であり、塩素含有量が3,700ppmであった。結果を表1に示す。
【0113】
【表1】