(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物では、経年劣化によりひび割れや内蔵している鉄筋の腐食が進行すると、構造物の耐力が低下して、コンクリート塊の剥離や剥落の事故を招くことがあるため、従来からコンクリート構造物の補強が行われている。このコンクリート構造物の補強方法としては以下の〈1〉、〈2〉がある。
【0003】
〈1〉鋼板接着工法:予め工場で加工した鋼板を、コンクリート構造物の表面にアンカーボルトで固定し、コンクリートと鋼板との間隙に充填剤としてモルタルやエポキシ樹脂を注入して固化させ、一体化する方法。
【0004】
〈2〉炭素繊維含浸接着工法:コンクリート構造物の表面に、炭素繊維シートをエポキシ樹脂で含浸接着して被覆し、その上から防護用のエポキシ樹脂を塗布する方法。
【0005】
しかしながら、上記〈1〉の鋼板接着工法は、鋼板が重量物であるため、鋼板の搬入、施工時に重機が必要となり、手間と労力がかかり、特に施工期間が限られている場合には不向きである。さらに、補強が必要なコンクリート構造物に重量の嵩む鋼板で更なる荷重を与えることになるため、十分な補強効果が得られない場合もあり得る。
【0006】
また、上記〈2〉の炭素繊維含浸接着工法は、補強するコンクリート構造物に直接炭素繊維シートを含浸接着するため、作業員の熟練度により品質がばらつく恐れがある。さらに、表面仕上げが必要な場合は、塗り重ね間隔が必要となり、工期が長くなるという不具合がある。
【0007】
そのため、以下の〈3〉、〈4〉の補強方法が提案されている。
【0008】
〈3〉特許文献1に記載の方法:繊維補強セメント板の一方の面に繊維補強シートを接着剤で接着した積層パネルを、コンクリート構造物の表面にアンカーボルトで固定し、コンクリートと積層パネルとの間隙に充填剤としてエポキシ樹脂を注入して固化させ、一体化する方法。
【0009】
〈4〉特許文献2に記載の方法:繊維補強セメントモルタル板に炭素繊維シートを接着して、その上に繊維補強セメントモルタル層を設けた積層パネルを、コンクリート構造物の表面にアンカーボルトで固定し、コンクリートと積層パネルとの間隙に充填剤としてセメントモルタルを注入して固化させ、一体化する方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、上記〈3〉の補強方法においては、繊維補強シートは連続補強繊維を含浸接着樹脂で含浸接着したものであり、積層パネルの接着性を担保するためには、この含浸接着樹脂と充填剤とを同種の樹脂にする必要がある。しかし、含浸接着樹脂と充填剤とを同種の樹脂にした場合でも、硬化した樹脂の表面は経時により変性することがあり、付着力が低下する恐れがある。また、含浸接着樹脂と充填剤とが同種の樹脂でなくてはならないため、充填剤の選定の幅が少なくなり、安価な他の材料の充填剤を使用できず、経済性に欠けるという不具合もある。
【0012】
また、上記〈4〉の補強方法においては、炭素繊維シートの両面に繊維補強セメントモルタルを設ける積層パネルであるため、曲げ弾性率が高く、例えば曲面状の設置面になるトンネルでは、曲面に沿わせて積層パネルを湾曲してアンカーボルトで固定する工程に大きな労力がかかる。また、曲面に沿わせるために積層パネルに荷重をかけることにより、積層パネルが破損する場合も生ずる。
【0013】
本発明は上記課題を解消するために提案するものであり、積層パネルと充填剤を安定して接着することができ、確実な補強を行うことができると共に、経済性にも優れるコンクリート構造物の補強用積層パネル、コンクリート構造物の補強構造及び補強方法を提供することを目的とする。また、本発明の他の目的は、軽量で、作業性が良好であると共に、曲面状の設置面に対しても良好な追従性で設置することができるコンクリート構造物の補強用積層パネル、コンクリート構造物の補強構造及び補強方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のコンクリート構造物の補強用積層パネルは、繊維補強セメント板と、前記繊維補強セメント板の一方の面に設けられ、連続補強繊維が含浸接着剤で含浸接着された補強繊維層と、前記補強繊維層の上に設けられ、表面に未含浸付着用繊維部を有する付着層とを備えることを特徴とする。前記繊維補強セメント板は、例えば厚さが4mm〜9mmのフレキシブルボード、又、連続補強繊維の含浸接着剤は引張強さ30N/mm
2以上、曲げ強さ40N/mm
2以上、引張剪断強さ10N/mm
2以上のもの等とすると好適である。また、補強用積層パネルには、アンカーボルト孔と注入孔が予め形成されているものとすると好適である。
この構成によれば、付着層により、補強用積層パネルと充填剤を安定して接着することができ、確実な補強を行うことができると共に、充填剤の選定の幅が広くなって安価な充填剤を使用することが可能となり、優れた経済性を発揮することができる。また、補強用積層パネルを軽量化することが可能となり、良好な作業性を得ることができる。また、補強用積層パネルは曲面状の設置面に対しても良好な追従性で設置することができる。
【0015】
本発明のコンクリート構造物の補強用積層パネルは、前記付着層が、前記表面の未含浸付着用繊維部と、付着用繊維が含浸接着剤で含浸接着され、前記補強繊維層と接着されている含浸接着部とから構成されることを特徴とする。前記付着層の付着用繊維は、例えば重量が15g/m
2〜300g/m
2のポリエステル不織布等とすると好適である。
この構成によれば、より簡易な製造作業で、表面に未含浸付着用繊維部を有する付着層を形成することができる。
【0016】
本発明のコンクリート構造物の補強用積層パネルは、前記付着層が、前記補強繊維層の上に積層されるセパレート層と、前記セパレート層に固着される前記未含浸付着用繊維部とから構成されることを特徴とする。前記付着層の未含浸付着用繊維部の付着用繊維は、例えば重量が10g/m
2〜300g/m
2のポリエステル不織布等とすると好適である。
この構成によれば、セパレート層により、表面に未含浸付着用繊維部を確実に一定量形成することができる。
【0017】
本発明のコンクリート構造物の補強構造は、本発明によるコンクリート構造物の補強用積層パネルが、コンクリート構造物の表面に前記付着層が対向するように配置して固定され、前記補強用積層パネルとコンクリート構造物の表面の間隙に充填剤が充填され固化されていることを特徴とする。前記補強用積層パネルとコンクリート構造物の表面との間隙は、例えば1mm〜50mmとすると好適である。
この構成によれば、付着層により、補強用積層パネルと充填剤を安定して接着することができ、確実な補強を行うことができると共に、充填剤の選定の幅が広くなって安価な充填剤を使用することが可能となり、優れた経済性を発揮することができる。また、補強用積層パネルを軽量化することが可能となり、良好な作業性で設置することができる。また、補強用積層パネルは曲面状の設置面に対しても良好な追従性で設置することができる。
【0018】
本発明のコンクリート構造物の補強方法は、本発明のコンクリート構造物の補強用積層パネルを、コンクリート構造物の表面に前記付着層を対向配置して固定する工程と、前記補強用積層パネルの周囲とコンクリート構造物の表面とを封止する工程と、前記補強用積層パネルとコンクリート構造物の表面の間隙に充填剤を注入して固化する工程とを備えることを特徴とする。前記補強用積層パネルとコンクリート構造物の表面との間隙は、例えば1mm〜50mmとすると好適である。
この構成によれば、付着層により、補強用積層パネルと充填剤を安定して接着することができ、確実な補強を行うことができると共に、充填剤の選定の幅が広くなって安価な充填剤を使用することが可能となり、優れた経済性を発揮することができる。また、補強用積層パネルを軽量化することが可能となり、良好な作業性で設置することができる。また、補強用積層パネルは曲面状の設置面に対しても良好な追従性で設置することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、補強用積層パネルと充填剤を安定して接着することができ、確実な補強を行うことができると共に、優れた経済性を発揮することができる。また、補強用積層パネルは軽量であり、良好な作業性を得ることができる。また、補強用積層パネルを曲面状の設置面に対しても良好な追従性で設置することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明による実施形態のコンクリート構造物の補強用積層パネル、コンクリート構造物の補強構造及び補強方法について説明する。
【0022】
〔第1実施形態のコンクリート構造物の補強用積層パネル、補強構造及び補強方法〕
第1実施形態のコンクリート構造物の補強用積層パネル1は、
図1に示すように、繊維補強セメント板2と、繊維補強セメント板2の一方の面に設けられている補強繊維層3と、補強繊維層3の上に設けられ、表面に未含浸付着用繊維部42を有する付着層4とから構成される。
【0023】
繊維補強セメント板2は、補強繊維を混入して成形されたセメント板であり、補強用積層パネル1がコンクリート構造物100に設置された時に表面に露出するため、耐候性、耐久性、耐燃性を有することが求められ、又、コンクリート構造物100に設置する前には、補強用積層パネル1の曲げ易さや軽さ等のハンドリング性を創出する。トンネル補強用等の繊維補強セメント板2は、例えばJISA5430「繊維補強セメント板」に規定されるフレキシブルボードで、厚さが4mm〜9mmのものとすると好適である。4mm未満の場合は、軽量でハンドリング性に優れるが、曲げ弾性が低いため、充填剤10の注入時に変形する恐れがあり、又、9mmを超えると重量が重くなり、曲げ弾性が高くなるためハンドリング性に劣る。
【0024】
補強繊維層3は、連続補強繊維31を含浸接着剤32で含浸接着して、繊維補強セメント板2の一方の面に積層されている。連続補強繊維31には、例えば炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、ビニロン繊維、超高密度ポリエチレン繊維、ポリエステル繊維、脂肪族ポリアミド繊維等を用いることが可能であり、補強に必要な強度に合わせて、適宜の繊維を選定して用いることが可能である。また、補強の方向性がある場合には、例えば1方向から4方向に補強繊維に方向性があるメッシュ状の補強繊維を使用すると好適である。
【0025】
含浸接着剤32は、連続補強繊維31の補強繊維間に十分に含浸し、補強繊維間に空気の残留が無く、付着されるものであることが必要であり、例えばエポキシ樹脂、アクリル樹脂等の接着樹脂とされ、又、この含浸接着剤32のエポキシ樹脂、アクリル樹脂等は、引張強さ30N/mm
2以上、曲げ強さ40N/mm
2以上、引張剪断強さ10N/mm
2以上をそれぞれ充足するものであることが好ましい。
【0026】
付着層4は、その厚さ方向の半分程度が未含浸になるように積層されたものであり、付着用繊維が含浸接着剤で含浸接着され、この含浸接着剤で補強繊維層3と接着されている含浸接着部41と、未含浸の付着用繊維で構成され、含浸接着部41の上に設けられている未含浸付着用繊維部42とを有する。付着層4は、後述する充填剤10が厚さ方向の一部である未含浸付着用繊維部42に含浸されることにより、付着強度を創出する。
【0027】
付着層4の付着用繊維は、例えば布帛又は紙とすると好適である。この付着用繊維を布帛とする場合、充填剤10がエポキシ樹脂、アクリル樹脂の場合には、ポリエステル繊維の布帛とすると良好であり、又、充填剤10との付着性を向上するためには、布帛として不織布を用いると良好である。更に、布帛をポリエステル繊維の不織布とする場合等には、その重量を15g/m
2〜300g/m
2とすると一層良好である。この重量が15g/m
2未満であると、含浸接着部41の含新接着剤と付着させた時に、付着層4の厚さ方向の全体に亘って含浸接着剤が含浸し、未含浸付着用繊維部42が少なく或いは無くなって充填剤10との付着力が低下する可能性を生じ、又、300g/m
2を超えると、付着用繊維が密になって充填剤10が未含浸付着用繊維部42に含浸し難くなり、付着力が低下する可能性を生ずる。
【0028】
また、付着層4或いはその未含浸付着用繊維部42は、充填剤10がセメント系の材料の場合、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、タルクなどの無機粉体や自己固結性のあるケイ酸カルシウム、含水ケイ酸マグネシウムなどの微細繊維を高充填した混抄の布帛や混抄の紙で構成すると好適である。
【0029】
図2は補強用積層パネル1の斜視図であり、手前側が繊維補強セメント板2、奥側が付着層4になっている。補強用積層パネル1には、
図2に示すように、所定箇所にアンカーボルト孔6と注入孔7が設けられている。
【0030】
アンカーボルト孔6は、後述するコンクリート構造物100に補強用積層パネル1を固定するアンカーボルト8を通す孔であり、図示例では矩形の繊維補強セメント板2の四隅近傍と繊維補強セメント板2の長辺の略中央の2箇所に形成されている。注入孔7は、後述する充填剤10を注入する孔であり、図示例では矩形の繊維補強セメント板2の短辺の略中央の2箇所と繊維補強セメント板2の略中央に形成されている。アンカーボルト孔6と注入孔7は、それぞれ補強用積層パネル1に予め形成しておくと、作業性が向上して好適であるが、現場で形成することも可能である。
【0031】
また、図示例の補強用積層パネル1には、繊維補強セメント板2の長辺方向の両側にそれぞれ突出するようにして接続フラップ5・5が設けられている。接続フラップ5は、補強用積層パネル1を連続してコンクリート構造物100に設置し、補強の連続性が必要な場合に、補強繊維層3の連続補強繊維31だけを繊維補強セメント板2から補強方向にはみ出すようにして設けられる。接続フラップ5・5は、互いに重なるようにして連続補強繊維31・31同士を輻輳して、コンクリート構造物100に重ねて設けられ、接続部含浸接着剤11で含浸接着された後、接続部保護材12を重ねて設置固定される。(
図6参照)又は、接続部フラップ5・5は、突き合わせるように配置し、その接続部に重なり、補強方向が同一な連続補強繊維を重ねて接続部含浸接着剤11で含浸接着された後、接続部保護材12を重ねて設置固定するか、予め接続部保護材12に連続補強繊維を含浸接着させた連続補強繊維積層接続部保護材を接続部に重ねて設置することも可能である。
【0032】
次に、第1実施形態の補強用積層パネル1をコンクリート構造物100に設置した補強構造の例を
図3に示す。この補強構造は、補強用積層パネル1が、コンクリート構造物100の表面に付着層4が対向するように間隙を開けて配置され、アンカーボルト8で固定されており、更に、補強用積層パネル1とコンクリート構造物100の表面の間隙に充填剤10が充填されて固化され、補強用積層パネル1とコンクリート構造物100が一体化されているものである。
【0033】
この補強構造を形成する際には、補強が必要なコンクリート構造物100に、設置する補強用積層パネル1のアンカーボルト孔6と重なる位置に削孔し、補強用積層パネル1を、付着層4がコンクリート構造物100の表面と対向するように間隙を開けて配置し、アンカーボルト孔6とこれと重なる位置のコンクリート構造物100の孔にアンカーボルト8を打設し、補強用積層パネル1をコンクリート構造物100に固定する。
【0034】
そして、補強用積層パネル1の周囲とコンクリート構造物100の表面とをシール材9で塞いで封止し、シール材9の硬化養生後に、補強用積層パネル1とコンクリート構造物100の表面との間隙に注入孔7から充填剤10を注入して固化させ、補強構造の設置が完了する。尚、補強用積層パネル1が設置されるコンクリート構造物100の表面は、充填剤10とコンクリート構造物100との付着力を高めるために、既知の下地処理を施し、その後に補強用積層パネル1を設置してもよい。また、本例では接続フラップ5は
図3の図視方向の前後に配置され、特に使用されていない。
【0035】
上記補強構造で用いるアンカーボルト8は、充填剤10の注入圧力により補強用積層パネル1がコンクリート構造物100から剥がれようとする力、更に、補強するコンクリート構造物100がトンネル内面のように湾曲している場所である場合には、補強用積層パネル1を固定した際に、補強用積層パネル1が固有の曲げ弾性率により平面に戻ろうとする力に対する引き抜き耐力が十分にあるアンカーボルト8を選定するとよい。
【0036】
また、アンカーボルト8の締め付けにより決定される補強用積層パネル1とコンクリート構造物100の表面との間隙は、1mm〜50mmとすると好適である。1mm未満であると、間隙に充填される充填剤10の充填性が悪くなり、充填されない箇所が発生する可能性を生じ、又、50mmを超えると、コンクリート構造物100の動きが充填剤10を介して接着される補強用積層パネル1に伝達され難くなり、補強効果が損なわれる可能性を生ずる。
【0037】
シール材9は、コンクリート構造物100と補強用積層パネル1との両方に接着して封止し、充填剤10を周囲に漏洩させないものであることが必要であり、例えば2液混合エポキシパテ等の反応型シール材を用いると好適である。
【0038】
充填剤10は、コンクリート構造物100を補強用積層パネル1との接着力が高く、コンクリート構造物100の動きを緩衝することなく補強用積層パネル1に伝達する弾性率の高いものとするとよく、例えばエポキシ樹脂、アクリル樹脂、セメント系材料とすると好適である。
【0039】
上記第1実施形態によれば、補強用積層パネル1の充填剤10と接触する面には付着層4が積層されているため、補強用積層パネル1と充填剤10とを安定して接着することができ、確実な補強を行うことができる。例えば充填剤10としてエポキシ樹脂を用いる場合、付着層4が介在する付着により、連続補強繊維31の含浸接着剤32のエポキシ樹脂や充填剤10のエポキシ樹脂の硬化してからの経過時間にかかわらず、確実に且つ安定性の高い接着を行うことができる。
【0040】
また、充填剤10の選定の幅が広くなって安価な充填剤10を使用することが可能となり、優れた経済性を発揮することができる。例えば安価なセメントモルタル等の無機系充填剤を充填剤10に用いても、付着層4により、確実に接着することが可能であり、充填剤10の種類にかかわらずに安定した補強を行うことができ、大幅なコストダウンを図ることができる。
【0041】
また、補強用積層パネル1は、繊維補強セメント板2の一方の面に補強繊維層3及び付着層4が設けられているだけの構成のため、軽量な補強用積層パネル1を用いることが可能となり、良好な作業性を得ることができると共に、トンネル等の湾曲する設置面に対しても良好な追従性で設置することが可能である。また、付着用繊維が含浸接着剤で含浸接着された含浸接着部41と、未含浸の付着用繊維で構成される未含浸付着用繊維部42とで付着層4を形成することにより、より簡易な製造作業で付着層4を形成することができる。
【0042】
〔第2実施形態のコンクリート構造物の補強用積層パネル、補強構造及び補強方法〕
第2実施形態のコンクリート構造物の補強用積層パネル1aは、
図4及び
図5に示すように、繊維補強セメント板2と、繊維補強セメント板2の一方の面に設けられている補強繊維層3と、補強繊維層3の上に設けられ、表面に未含浸付着用繊維部42を有する付着層4aとから構成され、繊維補強セメント板2と補強繊維層3は第1実施形態と同一である。更に、連続補強繊維31で構成される接続フラップ5が第1実施形態の補強用積層パネル1と同様に形成され、又、第1実施形態と同一構成のアンカーボルト孔6と注入孔7が所定箇所に形成されている。
【0043】
付着層4aは、補強繊維層3の上に積層されるポリエステルフィルム等のセパレート層43と、セパレート層43の上に積層して固着される未含浸付着用繊維部42とを有する。未含浸付着用繊維部42は、第1実施形態と同様に未含浸の付着用繊維で構成され、セパレート層43の片面に積層されて接着剤による接着或いは熱溶着によりセパレート層43に固着されている。補強繊維層3に積層されているセパレート層43は、補強繊維層3の含浸接着剤32による接着、別途の接着剤による接着、或いは熱溶着で、補強繊維層3に接着されている。
【0044】
付着層4aも、充填剤10が厚さ方向の一部である未含浸付着用繊維部42に含浸されることにより、付着強度を創出する。また、未含浸付着用繊維部42がセパレート層43に積層されて分離された付着層4aとすることにより、例えば含浸接着部41の含浸接着剤が未含浸付着溶繊維部42に含浸することが無くなり、未含浸付着用繊維部42を確実に一定量確保することが可能となる。
【0045】
付着層4aの未含浸付着用繊維部42の付着用繊維も、例えば布帛又は紙とすると好適である。この付着用繊維を布帛とする場合、充填剤10がエポキシ樹脂、アクリル樹脂の場合には、ポリエステル繊維の布帛とすると良好であり、又、充填剤10との付着性を向上するためには、布帛として不織布を用いると良好である。更に、布帛をポリエステル繊維の不織布とする場合等には、その重量を10g/m
2〜300g/m
2とすると一層良好である。この重量が10g/m
2未満であると、未含浸付着用繊維部42が少なくなって充填剤10との付着力が低下する可能性を生じ、又、300g/m
2を超えると、付着用繊維が密になって充填剤10が未含浸付着用繊維部42に含浸し難くなり、付着力が低下する可能性を生ずる。
【0046】
また、付着層4aの未含浸付着用繊維部42は、充填剤10がセメント系の材料の場合、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、タルクなどの無機粉体や自己固結性のあるケイ酸カルシウム、含水ケイ酸マグネシウムなどの微細繊維を高充填した混抄の布帛や混抄の紙で構成すると好適である。
【0047】
次に、第2実施形態の補強用積層パネル1aをコンクリート構造物100に設置した補強構造の例を
図6に示す。この補強構造では、補強用積層パネル1aがコンクリート構造物100の表面に付着層4aが対向するように間隙を開けて配置され、アンカーボルト8で固定されており、補強用積層パネル1a・1aの接続部においては、複数の補強用積層パネル1a・1aの接続フラップ5・5が互いに重なるようにして配置されている。
【0048】
更に、重なっている接続フラップ5・5は2液エポキシ樹脂等の接続部含浸接着剤11で含浸接着されていると共に、補強用積層パネル1a・1aの接続部以外の部分においては、補強用積層パネル1aの周囲がシール材9で封止され(図示省略)、補強用積層パネル1aとコンクリート構造物100の表面の間隙に充填剤10が充填されて固化され、補強用積層パネル1aとコンクリート構造物100が一体化されている。更に、補強用積層パネル1a・1aの接続部には、繊維補強セメント板或いはセメントモルタル等の湿式材料等の接続部保護材12が被覆され保護されている。
【0049】
この補強構造を形成する際には、補強が必要なコンクリート構造物100に、設置する補強用積層パネル1aのアンカーボルト孔6と重なる位置に削孔し、補強用積層パネル1を、付着層4aがコンクリート構造物100の表面と対向するように間隙を開けて配置すると共に、補強用積層パネル1a・1aを間隔を開けて配置し、補強用積層パネル1a・1aの接続フラップ5・5が互いに重なるようにする。そして、アンカーボルト孔6とこれと重なる位置のコンクリート構造物100の孔にアンカーボルト8を打設し、補強用積層パネル1をコンクリート構造物100に固定する。
【0050】
次いで、補強用積層パネル1a・1aの接続部において、接続フラップ5・5を接続部含浸接着剤11で含浸接着すると共に、補強用積層パネル1a・1aの接続部以外の部分において、補強用積層パネル1aの周囲をシール材9で塞いで封止する。シール材9の硬化養生後には、補強用積層パネル1aとコンクリート構造物100の表面との間隙に注入孔7から充填剤10を注入して固化させる。尚、充填剤10の注入は、一度に注入すると注入圧力により補強用積層パネル1aの膨れや破損、シール材9の破壊が発生する恐れがあることから、複数ある注入孔7の下側に配置される注入孔7から注入し、先に注入した充填剤10が硬化した後に、それより上側に配置される注入孔7から注入するようにして、複数回に分けて行うと好適である。また、接続部には接続部保護材12を被覆して保護する。これにより補強構造の設置が完了する。
【0051】
尚、補強用積層パネル1aが設置されるコンクリート構造物100の表面の下地処理、アンカーボルト8の選定、補強用積層パネル1aとコンクリート構造物100の表面との間隙の大きさの設定、シール材9や充填剤10の選定は、第1実施形態と同様に適宜行うことが可能である。
【0052】
上記第2実施形態によれば、第1実施形態と対応する構成により第1実施形態と対応する効果が得られると共に、セパレート層43により、付着層4aの表面に未含浸付着用繊維部42を確実に一定量形成することができ、補強用積層パネル1aの品質をより安定化させることができる。
【0053】
〔実施例のトンネル補強構造〕
次に、第2実施形態のコンクリート構造物の補強用積層パネル1aを設置した補強構造の実施例について説明する。
【0054】
実施例における補強用積層パネル1aは、以下の工程により得た。先ず、JISA5430の6mm厚のフレキシブルボード(2000mm×1000mm)を繊維補強セメント板2とし、2液混合エポキシ樹脂の含浸接着剤32で連続補強繊維31(高強度炭素繊維200g/m
2、補強1方向)を含浸接着した。連続補強繊維31は、補強方向となる繊維補強セメント板2の長手方向の両側にそれぞれ100mm突出するようにして含浸接着した。
【0055】
更に、ポリエステルフィルム25μmのセパレート層43と、ポリエステル繊維不織布25g/m
2の未含浸付着用繊維部42とを積層した付着層4aを、連続補強繊維31と含浸接着剤32とから構成される補強繊維層3と貼り合わせし、含浸接着剤32の硬化養生後に、アンカーボルト孔6、注入孔7を形成して補強用積層パネル1aを得た。
【0056】
そして、被補強体であるコンクリート構造物100をトンネルとし、その周長方向を補強方向として補強用積層パネル1aを設置した。繊維補強セメント板2の寸法が2m×1mである補強用積層パネル1aは、その長手方向である2mの方向が周長方向となるようにして取り付けた。補強用積層パネル1aは、連続補強繊維31の突出量だけ間隔を離して周長方向に6枚並べて設置し、この一補強ユニットで12.5mの周長を補強した。補強量は、連続補強繊維31である炭素繊維に換算して200g/m
2分である。
【0057】
コンクリート構造物100であるトンネルの表面に補強用積層パネル1aを固定する際には、補強用積層パネル1a・1aの接続フラップ5・5が互いに重なるようにし、且つトンネルの表面と補強用積層パネル1aとの間隙が約3〜5mmとなるように配置し、アンカーボルト8を打設して固定した。
【0058】
その後、補強用積層パネル1a・1aの接続部において、接続フラップ5・5の連続補強繊維31・31を、2液エポキシ樹脂の接続部含浸接着剤11で輻輳するように含浸接着すると共に、補強用積層パネル1a・1aの接続部以外の部分において、補強用積層パネル1aの周囲を2液混合エポキシパテのシール材9で塞いで封止した。シール材9の硬化養生後には、注入孔7から2液混合エポキシ樹脂の充填剤10を注入した。その後、繊維補強セメント板である接続部保護材12を接続部に被覆して保護した。
【0059】
補強用積層パネル1aを設置して補強構造を形成した後、補強用積層パネル1aのコンクリート構造物100であるトンネルとの付着力を確認するために、建研式接着力試験器による引っ張り試験を実施した。試験数3(2.4N/mm
2、2.9N/mm
2、3.8N/mm
2)の全ての試験でコンクリート凝集破壊となり、補強用積層パネル1aがコンクリート構造物100であるトンネルと一体化されていることを確認した。
【0060】
〔実施形態の変形例等〕
本明細書開示の発明は、各発明や各実施形態の構成の他に、適用可能な範囲で、これらの部分的な構成を本明細書開示の他の構成に変更して特定したもの、或いはこれらの構成に本明細書開示の他の構成を付加して特定したもの、或いはこれらの部分的な構成を部分的な作用効果が得られる限度で削除して特定した上位概念化したものを含むものであり、下記変形例も包含する。
【0061】
例えば上記第2実施形態では、連続補強繊維31と含浸接着剤32とから構成される補強繊維層3の上に、セパレート層43を直接固着する構成としたが、補強繊維層3とセパレート層43との間に固着力を強化する固着強化層を設ける構成としてもよい。この固着強化層としては、例えば未含浸付着用繊維部42に用いられるポリエステル不織布等と同様の材料を用いることが可能である。また、補強用積層パネル1、1aを接続部で接続して並置する際の接続フラップ5・5の重なり量は必要に応じて適宜であり、又、接続フラップ5・5が重ならない程度に間隔を開けて対向させる等で補強用積層パネル1、1aを並置することも可能である。