特許第5713503号(P5713503)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5713503
(24)【登録日】2015年3月20日
(45)【発行日】2015年5月7日
(54)【発明の名称】無線通信システム
(51)【国際特許分類】
   H04W 64/00 20090101AFI20150416BHJP
   H04W 84/10 20090101ALI20150416BHJP
【FI】
   H04W64/00 160
   H04W84/10 110
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2011-205709(P2011-205709)
(22)【出願日】2011年9月21日
(65)【公開番号】特開2013-70135(P2013-70135A)
(43)【公開日】2013年4月18日
【審査請求日】2014年2月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100084870
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 香樹
(74)【代理人】
【識別番号】100119688
【弁理士】
【氏名又は名称】田邉 壽二
(74)【代理人】
【識別番号】100092772
【弁理士】
【氏名又は名称】阪本 清孝
(72)【発明者】
【氏名】呉 剣明
(72)【発明者】
【氏名】加藤 恒夫
【審査官】 伊東 和重
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−153327(JP,A)
【文献】 特開2007−251652(JP,A)
【文献】 特開2004−289461(JP,A)
【文献】 特開2010−087952(JP,A)
【文献】 特開2008−017118(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/24−7/26
H04W 4/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の無線アクセスポイントを備えた無線通信装置とモバイル端末とが無線通信する無線通信システムにおいて、
前記モバイル端末が、
前記無線通信装置と前記モバイル端末間での通信に利用可能な全ての通信チャネルでの順次の送受信が終わる期間を探索周期として、前記無線通信装置の各無線アクセスポイントが利用する通信チャネルでの問い合わせ要求を、前記探索周期内において所定の間隔で順次に送信する手段と、
前記問い合わせ要求に応答して前記無線通信装置の各無線アクセスポイントから順次に返信される各問い合わせ応答の電波強度を計測する手段と、
前記各問い合わせ応答の電波強度の時系列に基づいて、前記無線通信装置に対するモバイル端末の移動状況を推定する手段と、
前記移動状況の推定結果に基づいて、前記無線通信装置の無線アクセスポイントとの接続を制御する手段とを具備したことを特徴とする無線通信システム。
【請求項2】
前記無線通信装置が複数のUSBポートを備え、
前記無線アクセスポイントは、前記各USBポートに装着されたUSB型の無線APモジュールであることを特徴とする請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項3】
前記無線APモジュールが、無線LANモジュールであることを特徴とする請求項2に記載の無線通信システム。
【請求項4】
前記無線APモジュールが、Bluetoothモジュールであることを特徴とする請求項2に記載の無線通信システム。
【請求項5】
前記移動状況を推定する手段は、前記無線通信装置が備える複数の無線アクセスポイントに関して計測された電波強度を統計的に処理して該無線通信装置に対する移動状況を推定することを特徴とする請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項6】
前記移動状況を推定する手段は、計測された電波強度の時系列に基づいて、前記モバイル端末が前記無線通信装置に対して静止中であるか否かを推定し、
前記接続を制御する手段は、前記モバイル端末が前記無線通信装置に対して所定時間以上継続して静止中と判定されると、前記無線通信装置との無線接続を確立することを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の無線通信システム。
【請求項7】
前記移動状況を推定する手段は、計測された電波強度の時系列に基づいて、前記モバイル端末が前記無線通信装置に接近中であるか否かを推定し、
前記接続を制御する手段は、前記モバイル端末が前記無線通信装置に接近中と判定されると、前記無線通信装置との距離が所定の基準値よりも接近するタイミングを待って前記無線通信装置との無線接続を確立することを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の無線通信システム。
【請求項8】
前記移動状況を推定する手段は、計測された電波強度の時系列に基づいて、前記モバイル端末が前記無線通信装置から離脱中であるか否かを推定し、
前記接続を制御する手段は、前記モバイル端末が前記無線通信装置から離脱中と判定されると、前記無線通信装置との距離が所定の基準値よりも離れるタイミングを待って前記無線通信装置との無線接続を切断することを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の無線通信システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信システムに係り、特に、複数の無線アクセスポイントを備えた無線通信装置と、この無線通信装置に無線接続して通信するモバイル端末とを含む無線通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、デジタルサイネージが注目されており、スーパー、モール、展示会、オフィスなどに設置されたサイネージのディスプレイに、映像や情報などのコンテンツをタイムリーに配信するサービスの普及が始まっている。
【0003】
一方、現在のデジタルサイネージは、各種の案内や広告などをディスプレイに表示するものが主流であるが、商品やキャンペーンの情報をユーザが携帯するモバイル端末(携帯電話、スマートフォン、タブレットなど)へ配信することで店舗に誘導するなどのモバイル連携機能が求められている。
【0004】
しかしながら、モバイル端末とデジタルサイネージとの間で無線接続を確立する際には、ユーザに対して何らかの操作が要求され、多くのユーザが煩わしさを感じることから、このような操作が不要な無線接続の手法が従来から研究されている。
【0005】
特許文献1には、撮像部を介して二次元コードを読み取ることにより、無線通信デバイス間に無線接続を自動で確立する技術が開示されている。この方式では、車載装置が認証鍵を生成し、生成された認証鍵およびネットワーク上における所定のWEBページを指すURLを含んだ二次元コードを表示部へ表示し、携帯端末装置が撮像部を介して二次元コードを読み取ることによって二次元コードから認証鍵およびURLを取得し、URLに係るWEBページから車載装置と通信するための通信プログラムをダウンロードし、ダウンロードされた通信プログラムが認証鍵を車載装置へ送信することで無線接続が確立される。
【0006】
特許文献2には、デバイスに専用の接触面を設置し、無線接続を確立する前に、二つのデバイスの接触面を互いに物理的または光学的に接触させることで無線接続を確立する技術が開示されている。
【0007】
特許文献3には、ユーザがデジタル複合機に近づくと、ユーザが携帯している識別情報送信装置がデジタル複合機からの電波を受信して電界強度を測定し、測定データをユーザの識別情報とともにデジタル複合機へ送信する一方、デジタル複合機は、記憶した送信電界強度、識別情報送信装置から取得した受信電界強度、および予め作成・保存した相関データに基づいて、デジタル複合機と識別情報送信装置との間の相対距離を算出して無線接続を自動的に確立する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009-135688号公報
【特許文献2】特表2007-513532号公報
【特許文献3】特開2010-166369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1では、二次元コードを介して無線接続に必要な情報が通信相手に通知されるが、二次元コードの読み取りには、携帯電話のカメラを起動し、ピントを合わせ、撮影するという手順を踏む必要があり、ユーザの操作負担が少なくない。
【0010】
特許文献2では、無線接続情報が専用の接触面(RFID、Felica、NFCなど)を介して通信相手に通知されるが、通信距離が数cmと短いので、端末同士を近接タッチさせる必要があるなど、利用者の動作に制限を付ける必要があり、また利用者がデジタルサイネージから離れてしまうと利用できない。
【0011】
特許文献3では、受信電波強度により距離が推定され、ユーザがデジタル複合機に近付いたと判定されると自動的に無線接続が確立される。しかしながら、1回の電波強度測定に約数秒〜十数秒を要するために接続タイミングが遅れ、デジタルサイネージの前に到達したユーザを迷わせてしまう。また、実際の環境では、遮蔽物、反射物、ノイズあるいはユーザの移動等の影響により検出結果が変動し、距離の推定結果が不安定となってしまう。
【0012】
本発明の目的は、上記した従来技術の課題を解決し、無線通信装置とモバイル端末との相対的な位置関係を従来よりも短い間隔で、かつ正確に推定し、この推定結果に基づいて両者の無線接続を制御することで、ユーザに特別な接続操作を要求することなく、無線接続を最適なタイミングで自動的に確立、切断できる無線通信システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するために、本発明は、複数の無線アクセスポイントを備えた無線通信装置とモバイル端末とが無線通信する無線通信システムにおいて、モバイル端末が以下のような構成を具備した点に特徴がある。
【0014】
(1)無線通信装置とモバイル端末間での通信に利用可能な全ての通信チャネルでの順次の送受信が終わる期間を探索周期として、無線通信装置の各無線アクセスポイントが利用する通信チャネルでの問い合わせ要求を、探索周期内において所定の間隔で順次に送信する手段と、問い合わせ要求に応答して無線通信装置の各無線アクセスポイントから順次に返信される各問い合わせの電波強度を計測する手段と、各問い合わせ応答の電波強度の時系列に基づいて、無線通信装置に対する移動状況を推定する手段と、移動状況の推定結果に基づいて、無線通信装置の無線アクセスポイントとの接続を制御する手段とを具備した。
【0015】
(2)電波強度の時系列に基づいて、モバイル端末が無線通信装置に対して静止中であるか否かを推定し、モバイル端末が無線通信装置に対して所定時間以上継続して静止中と判定されると無線接続が確立されるようにした。
【0016】
(3)電波強度の時系列に基づいて、モバイル端末が無線通信装置に接近中であるか否かを推定し、モバイル端末が無線通信装置に接近中と判定されると、無線通信装置との距離が所定の基準値よりも接近するタイミングを待って無線接続が確立されるようにした。
【0017】
(4)電波強度の時系列に基づいて、モバイル端末が無線通信装置から離脱中であるか否かを推定し、モバイル端末が無線通信装置から離脱中と判定されると、無線通信装置との距離が所定の基準値よりも離れるタイミングを待って無線接続が切断されるようにした。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、以下のような効果が達成される。
【0019】
(1) 無線通信装置に設けられた複数の無線APとモバイル端末との距離を順番に短い周期で繰り返し計測できるので、無線通信装置に対するモバイル端末の移動状況を正確に推定できるようになる。そして、この推定結果に応じて両者の無線接続が制御されるので、ユーザに特別な接続操作を要求することなく、無線通信装置との無線接続を最適なタイミングで自動的に確立または切断できるようになる。
【0020】
(2) 無線通信装置に対してモバイル端末が「静止中」であるか否かを判定し、「静止中」と判定されると、モバイル端末と無線通信装置との無線接続が直ちに確立される。したがって、モバイル端末のユーザが無線通信装置に興味を示して立ち止まるだけで無線接続が確立されるので、その後、ユーザが無線通信装置に対してコンテンツの提供等を要求すると、当該コンテンツを直ちに配信できるようになる。
【0021】
(3) 無線通信装置に対してモバイル端末が「接近中」であるか否かを判定し、「接近中」と判定されると、モバイル端末が無線通信装置との無線通信に適した位置に到達するタイミングを待って無線接続が確立される。したがって、モバイル端末が無線通信に適した位置に到達するよりも前に無線接続が確立されることで無線リソースが無駄に消費されたり、あるいはモバイル端末が無線通信に適した位置に到達しても無線接続が未だ確立されないために無線通信を開始できないといった不都合を回避できるようになる。
【0022】
(4) 無線通信装置に対してモバイル端末が「離脱中」であるか否かを判定し、「離脱中」と判定されると、モバイル端末が無線通信装置との無線通信に不適な位置まで離れるタイミングを待って無線接続が切断される。したがって、モバイル端末が無線通信に不適な位置まで既に離れているのに無線接続が切断されずに無線リソースが無駄に消費されたり、あるいはモバイル端末が未だ無線通信に適した位置に存在するにもかかわらず無線接続が切断されたりする不都合を回避できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明を適用した無線通信システムの構成を示したブロック図である。
図2】電波強度計測の手順を示したシーケンスフローである。
図3】RSSIの取得方法を示したシーケンスフローである。
図4】RSSIの集計結果の一例を示した図である。
図5】本発明の一実施形態の動作を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明する。図1は、本発明を適用した無線通信システムの主要部の構成を示したブロック図であり、本発明の説明に不要な構成は図示が省略されている。ここでは、無線通信装置としてのデジタルサイネージ1と、このデジタルサイネージ1に無線接続して通信するモバイル端末2との組み合わせを例にして説明する。また、本発明では無線通信の方式としてはBluetoothおよびWi-Fi(または、無線LAN)のいずれも利用可能であるが、ここではBluetoothによる無線通信を例にして説明する。
【0025】
デジタルサイネージ1は、複数のUSBポート(図示省略)を備え、各USBポートには、Bluetoothのアクセスポイントとして機能するUSB型のBluetoothモジュールが装着され、それぞれ無線アクセスポイントAP(AP1,AP2…APn)として機能する。
【0026】
AP管理部101は、各USBポートに接続された全ての無線APを一元管理する。無線接続部102は、モバイル端末2から送信された接続要求に応答して、いずれかの無線APを制御することでBluetoothによる無線接続を確立する。
【0027】
本実施形態では、BluetoothモジュールがUSBポートに装着されるとUSBデバイスとして認識される。さらに、デバイスの種類を探索するUSBのProbeコマンドによりBluetoothの無線APと判定されると、HCIコマンド(hci_register_dev)により該当無線APがOSに登録され、前記AP管理部101が制御プロセスを起動して該当無線APに割り当てる。このとき、無線APのデバイス名を識別するために、各無線APは、プリフィクス_情報端末名_BTUSB00、BTUSB01のような連番で管理される。
【0028】
登録完了後、HCIインタフェースを使用することで、各無線APは独立してモバイル端末2とHCIレベルでの入出力を行えるようになる。これらの制御プロセスを協調動作させるため、複数の制御プロセス間でコンテキストスイッチ(CPUの状態を保存したり復元したりする過程)を行い、多くの制御プロセスが同じモバイル割当情報のメモリ上のコピーを共有できるようにすることで一元的な管理が可能となる。
【0029】
モバイル端末2において、電波強度計測部201は、各無線APとの距離を当該各無線APから受信した信号に基づいて計測する。Wi-FiやBluetoothを用いた位置検出では、モバイル端末から複数の無線APへの信号の到達時間差から三点測量により測位を行うTDOA方式や、複数の無線APから送信されたビーコン信号のRSSI (Received Signal Strength Indicator)をモバイル端末で取得し、統計モデルを作成・利用することにより三点測量により測位を行うRSSI方式が提案されている。
【0030】
TDOA方式では高精度な測位が可能であるものの、到達時間差を測定するための専用機能を実装する必要があり、モバイル端末への搭載は困難である。RSSI電波強度の測定方式は、TDOA方式に較べて精度が低下するものの、市販の無線機器にはRSSI発信・検出機能が標準的に搭載されているので特別なハードウェアを用意する必要がない。そこで、本発明ではRSSI方式の採用を前提としている。Bluetoothでは、Bluetooth通信機能を有する情報端末の電波強度を探索するために、非同期通信であって応答性のある"Inquiry With RSSI"コマンドが用意されている。
【0031】
本実施形態では、前記電波強度計測部201が、無線APの利用可能な通信チャネルごとに、RSSI要求の記述された問い合わせ要求(Inquiry With RSSI)を、周波数の低いチャネルから高いチャネルまで所定の間隔で順次に繰り返し送信する。そして、デジタルサイネージ1の各無線APから返信されるRSSI計測用の信号およびMACアドレスを取得し、無線APごとにRSSIを計測する。
【0032】
図2、3は、前記電波強度計測部201によるRSSI計測の手順を示したシーケンスフローである。
【0033】
図2において、電波強度計測部201からは、所定の時間間隔Δt(例えば、1sec)ごとに通信チャネルchx(ch1,ch2…chn)の異なるInquiry With RSSIが順次に送信される。各Inquiry With RSSIは、デジタルサイネージ1の対応する(利用チャネルが同じ)無線APにより受信され、当該無線APからInquiry応答(Inquiry Rep)が返信される。なお、Inquiry応答は、Inquiry With RSSIの送信からΔt以内に受信されたものだけが受信され、それ以降に受信されたInquiry応答は破棄される。
【0034】
Bluetoothでは一般的に、全ての通信チャネル(最大で、79チャネル)でInquiry With RSSIを送信終える探索周期ΔTに10秒程度を要する。したがって、デジタルサイネージ1に無線APが一つしか設けられていないと、Inquiry Repを10秒程度の探索周期でしか受信できない。
【0035】
これに対して、本実施形態ではデジタルサイネージ1に通信チャネルの異なる複数の無線APを設けたので、前記探索周期ΔT内にInquiry Repを複数回受信できる。したがって、モバイル端末2ではデジタルサイネージ1との距離を、無線APの探索周期ΔTよりも十分に短い時間間隔で計測できるようになる。
【0036】
なお、Inquiry With RSSIは低い周波数から順次に送信されるので、各無線APからInquiry Repが周期的に返信されるようにするためには、各無線APの通信チャネルを均一に分散させることが望ましい。例えば、無線AP数が8台であれば、探索周期ΔTが8等分されるように、それぞれの通信チャネルを、例えばch1,ch11,ch21,ch31…ch71と設定しておくことが望ましい。
【0037】
このとき、モバイル端末2では前記Inquiry With RSSIの送信周期ごとに、図3に示したように、手順1において、アプリレイヤー(電波強度計測部201)からRSSI電波強度信号を受信可能なregister Receiver()関数が呼び出され、CALLBACK関数on Receive()がOSに登録される。
【0038】
手順2では、アプリレイヤーからstart Discovery()関数によりハードレイヤーに探索開始のコマンドが送信されて周辺探索が開始される。デジタルサイネージ1の各無線APにおいて前記Discovery要求が受信され、RSSI情報応答が返信されると、モバイル端末2では、手順3において、前記各無線APから返信されたRSSI情報応答が受信される。これにより、on Receive関数がアクティブになり、取得された信号をアプリレイヤーに通知する。本実施形態では、このような手順1〜3が、通信チャネルごとに、すなわちデジタルサイネージ1の無線APごとに繰り返される。
【0039】
なお、本実施形態は、無関係なデジタルサイネージを排除するため、全てのデジタルサイネージのBluetooth APの初期識別IDにプリフィクス(Prefix)のベンダ識別情報も含める。発見された新たなBluetooth APのベンダ識別情報と、自ら記憶しているベンダ識別情報とが一致するか否かを判断し、一致しない場合その情報を無視される。
【0040】
図1へ戻り、モバイル端末2の電波強度集計部202は、デジタルサイネージ1ごとに、その複数の無線APに関するRSSIの計測結果をMACアドレスと対応付けて時系列で集計する。
【0041】
図4は、RSSIの集計結果の一例を示した図であり、応答した無線APのMACアドレスごとに、当該無線APから受信した無線信号のRSSI(行末の括弧内の数字)が記録されている。このRSSIは、その値が大きいほど受信電波強度が強く、通信距離が短いことを意味する。Bluetooth Class 1規格のRSSI範囲は-127dBm〜20dBmであり、半径数十メートル程度の無線APからMACアドレスおよびRSSI応答情報が得られる。
【0042】
移動状況推定部203は、前記RSSIの時系列データに基づいて、デジタルサイネージ1に対するモバイル端末2の相対的な移動状況を繰り返し推定する。本実施形態では、デジタルサイネージ1に対するモバイル端末2の移動状況をRSSIの時系列から推定する学習モデルが予め構築されており、前記検知されたRSSIの時系列を前記学習モデルに適用することで、デジタルサイネージ1に対するモバイル端末2と移動状況が推定される。
【0043】
無線接続制御部204は、前記移動状況推定部203により推定された移動状況が所定の接続条件を満足すると、前期電波強度計測部201より取得された各無線APのMACアドレスを用いて、該当デジタルサイネージ1への接続を要求するリクエストを送信し、無線接続が確立されると双方向のデータ通信を開始する。また、前記移動状況が所定の切断条件を満足すると、デジタルサイネージ1との無線接続を切断する。
【0044】
次いで、図5のフローチャートを参照してモバイル端末2の一実施形態の動作を説明する。ステップS1では、RSSI要求を含むBluetooth規格の問い合わせコマンド(Inquiry With RSSI)が、前記電波強度計測部201からブロードキャストで送信される。本実施形態では、デジタルサイネージ1に実装されている全ての無線APからInquiry応答が順次に返信されるように、通信チャネルを切り替えながらInquiry With RSSIの送信が繰り返される。
【0045】
ステップS2では、前記各Inquiry With RSSIコマンドに対して、通信チャネルが同じ無線APからMACアドレスの記述されたInquiry応答が返信されたか否かが、前記電波強度計測部201において判定される。Inquiry応答が受信されると、ステップS3では、今回のInquiry With RSSIコマンドに対する正規のInquiry応答であるか否かが判定される。今回以前に送信されたInquiry With RSSIコマンドに対するInquiry応答であれば、ステップS5へ進んで破棄される。また、Inquiry応答が受信されることなく、ステップS6でタイムアウトと判定されると、ステップS1へ戻って次の通信タイミングに備える。
【0046】
前記ステップS3において、正規のInquiry応答が受信されたと判定されるとステップS4へ進む。ステップS4では、当該応答信号に基づいてRSSIが計測され、この計測結果が無線APのMACアドレスと紐付けられて、前記電波強度集計部202により集計される。
【0047】
ステップS7では、前記Inquiry応答およびそのRSSIに基づいて、無線接続の可能なデジタルサイネージ1を発見できたか否かが判定される。発見できれば、そのデジタルサイネージ1が「最近傍」として登録され、発見できなければステップS1へ戻る。なお、複数のデジタルサイネージ1が発見された場合には、その中でRSSI値(デジタルサイネージ1ごとに、その複数の無線APについて計測されたRSSI値の統計値、例えば平均値)が最大のデジタルサイネージが「最近傍」として登録される。
【0048】
ステップS8では、前記「最近傍」と判定されたデジタルサイネージ1と既に接続済みであるか否かが判定され、最初は未接続と判定されるのでステップS9へ進む。ステップS9では、前記「最近傍」以外のデジタルサイネージと既に接続中であるか否かが判定される。接続中であればステップS10へ進み、その接続を切断した後にステップS11以降へ進む。
【0049】
これに対して、前記ステップS8において、前記「最近傍」と判定されたデジタルサイネージ1と既に接続済みであると判定されるとステップS16へ進む。ステップS16では、RSSI値が所定時間以上継続して閾値を下回るなどの切断条件が満足されるとステップS15へ進む。ステップS15では無線接続が切断される。
【0050】
ステップS11では、前記移動状況推定部203において、デジタルサイネージ1に対するモバイル端末2の移動状況が判定される。本実施形態では、モバイル端末2がデジタルサイネージ1に対して、「静止」、「接近」および「離脱」のいずれの状態にあるかが判定される。
【0051】
本実施形態では、移動状況の判定アルゴリズムにk近傍法(k-Nearest Neighbor)が採用される。k近傍法では、あるオブジェクト(本実施形態では、RSSI時系列データの特徴ベクトルに相当)の分類が、その特徴ベクトル近傍のオブジェクト群の投票によって決定される。
【0052】
判定アルゴリズムの訓練段階では、RSSI時系列データを多数収集した既知の特徴ベクトルとクラスラベル(本実施例は:静止、接近、離脱)だけを保持している。実際の分類段階では、クラスラベルが未知である実測のRSSI時系列データの特徴ベクトルに対して、既知の特徴ベクトル群との距離を計算し、k個の候補が選択されると、これらの候補のクラスラベルの多数決で実測データのクラスラベルが与えられる。
【0053】
これにより、本実施形態では、複数の無線APに関して計測されたRSSIの時系列データから、学習モデルを使ってデジタルサイネージ1に対するモバイル端末2の移動状況(クラスラベル)が推定される。具体的には、デジタルサイネージ1から既知の距離に設置した無線式のモバイル端末と各無線APとの間で前もってRSSIを計測し、その平均値、最大値、最小値、中央値、初期値および終了値と前記既知の距離と対応付ける。更に、前記モバイル端末をデジタルサイネージ1に対して「静止」、「接近」および「離脱」させながら、前記対応付けを時系列で集計し、その集計結果を教師データとして学習モデルを構築する。そして、実計測された各RSSI値の平均値、最大値、最小値、中央値、初期値および終了値を前記学習モデルに適用し、識別器にk近傍法を用いることでユーザの移動状況(静止、接近、離脱)が判定される。
【0054】
(1)静止判定
【0055】
前記K近傍法に基づいて、モバイル端末2がデジタルサイネージ1の前に到達して立ち止まったと判定されるとステップS12へ進み、前記無線接続制御部204により直ちに無線接続が確立される。なお、無線接続の確立後にRSSIが所定時間以上継続して所定の閾値を下回ると、前記「最近傍」の判定が直ちに解除され、無線接続が解除される。
【0056】
(2)接近判定
【0057】
前記K近傍法に基づいて、デジタルサイネージ1に対するモバイル端末2の距離およびその移動速度が算出される。その結果、モバイル端末2が所定時間(たとえば2秒)以内にデジタルサイネージ1の前に到達できると推定されると、モバイル端末2が接近中であると判定してステップS13へ進む。ステップS13では接続タイマがスタートし、そのタイムアウトを待ってステップS12へ進む。前記接続タイマは、モバイル端末2がデジタルサイネージ1の前に到着すると予測されるタイミングまたはその直前のタイミングでタイムアウトするように、ある程度のタイムラグを見込んで設定される。
【0058】
(3)離脱判定
【0059】
前記K近傍法に基づいて、デジタルサイネージ1に対するモバイル端末2の距離および移動速度が算出され、所定時間(たとえば、2秒)以内に無線通信圏内から外れると推定されると、モバイル端末2が離脱中であると判定してステップS14進む。ステップS14では切断タイマが起動され、そのタイムアウト後にステップS15へ進む。ステップS15では、無線接続が切断される。前記切断タイマは、モバイル端末2が無線通信圏内から外れるタイミングまたはその直前のタイミングでタイムアウトするように、ある程度のタイムラグを見込んで設定される。
【0060】
このように、本実施形態によれば、デジタルサイネージ1に複数の無線APを設け、各無線APとモバイル端末2との距離を順番に短い周期で繰り返し計測できるので、デジタルサイネージ1に対するモバイル端末2の移動状況を正確に推定できるようになる。そして、この推定結果に応じて両者の無線接続が制御されるので、ユーザに特別な接続操作を要求することなく、無線接続を最適なタイミングで自動的に確立、切断できるようになる。
【0061】
また、本実施形態によれば、モバイル端末2がデジタルサイネージ1に対して「静止中」と判定されると、モバイル端末2とデジタルサイネージ1との無線接続が直ちに確立される。したがって、モバイル端末2のユーザがデジタルサイネージ1に興味を示して立ち止まるだけで無線接続が確立されるので、その後、ユーザがデジタルサイネージ1に対してコンテンツの提供等を要求すると、当該コンテンツを直ちに配信できるようになる。
【0062】
さらに、本実施形態によれば、モバイル端末2がデジタルサイネージ1に対して「接近中」と判定されると、モバイル端末2がデジタルサイネージ1との無線通信に適した位置に到達するタイミングを待って無線接続が確立される。したがって、モバイル端末2が無線通信に適した位置に到達するよりも前に無線接続が確立されることで無線リソースが無駄に消費されたり、あるいはモバイル端末2が無線通信に適した位置に到達しても無線接続が未だ確立されないために無線通信を開始できないといった不都合を回避できるようになる。
【0063】
さらに、本実施形態によれば、モバイル端末2がデジタルサイネージ1に対して「離脱中」と判定されると、モバイル端末2がデジタルサイネージ1との無線通信に不適な位置まで離れるタイミングを待って無線接続が切断される。したがって、モバイル端末2が無線通信に不適な位置まで既に離れているのに無線接続が切断されずに無線リソースが無駄に消費されたり、あるいはモバイル端末2が未だ無線通信に適した位置に存在するにもかかわらず無線接続が切断されたりする不都合を回避できるようになる。
【符号の説明】
【0064】
1…デジタルサイネージ,2…モバイル端末,101…AP管理部,102…無線接続部,201…電波強度計測部,202…電波強度集計部,203…移動状況推定部,204…無線接続制御部
図1
図2
図3
図4
図5