特許第5713512号(P5713512)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5713512単結晶合成ダイヤモンド材料における転位工学
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5713512
(24)【登録日】2015年3月20日
(45)【発行日】2015年5月7日
(54)【発明の名称】単結晶合成ダイヤモンド材料における転位工学
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/04 20060101AFI20150416BHJP
【FI】
   C30B29/04 A
【請求項の数】12
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2013-545233(P2013-545233)
(86)(22)【出願日】2011年12月16日
(65)【公表番号】特表2014-500226(P2014-500226A)
(43)【公表日】2014年1月9日
(86)【国際出願番号】EP2011073147
(87)【国際公開番号】WO2012084750
(87)【国際公開日】20120628
【審査請求日】2013年8月19日
(31)【優先権主張番号】1021985.5
(32)【優先日】2010年12月24日
(33)【優先権主張国】GB
(31)【優先権主張番号】61/430,751
(32)【優先日】2011年1月7日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】503458043
【氏名又は名称】エレメント シックス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103609
【弁理士】
【氏名又は名称】井野 砂里
(74)【代理人】
【識別番号】100095898
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123630
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 誠
(72)【発明者】
【氏名】ディロン ハープリート カウア
(72)【発明者】
【氏名】デイヴィーズ ニコラス マシュー
(72)【発明者】
【氏名】カーン リズワン ウディン アーマッド
(72)【発明者】
【氏名】トゥウィッチェン ダニエル ジェイムズ
(72)【発明者】
【氏名】マルティノー フィリップ モーリス
【審査官】 國方 恭子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2006−508881(JP,A)
【文献】 P M Martineau etc.,High crystalline quality single crystal chemical vapour deposition diamond,Journal of Physics Condensed Matter,2009年,21 ,364205
【文献】 Philip Martineau etc.,Effect of steps on dislocations in CVD diamond grown on {001}substrates ,Phys.Status Solidi C,2009年,6, No.8,1953-1957
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00−35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非平行転位アレイを有する単結晶CVD合成ダイヤモンド層であって、前記非平行転位アレイは、X線トポグラフィ断面図又はルミネッセント条件下で見て相互交差転位のアレイを形成する複数の転位を含み、前記単結晶CVD合成ダイヤモンド層の厚さは、1μm以上であり、前記非平行転位アレイは、前記単結晶CVD合成ダイヤモンド層の全体積の少なくとも30%を占め、転位が伝搬する方向は、前記転位の全長の少なくとも30%にわたる平均方向で表して測定される、単結晶CVD合成ダイヤモンド層。
【請求項2】
前記単結晶CVD合成ダイヤモンド層の厚さは、10μm以上ある、請求項1記載の単結晶CVD合成ダイヤモンド層。
【請求項3】
10cm-2〜1×108cm-2転位密度を有する、請求項1又は2記載の単結晶CVD合成ダイヤモンド層。
【請求項4】
5×104以下複屈折性を有する、請求項1〜3のうちいずれか一に記載の単結晶CVD合成ダイヤモンド層。
【請求項5】
前記単結晶CVD合成ダイヤモンド層は、{110}又は{113}方位の層である、請求項1〜4のうちいずれか一に記載の単結晶CVD合成ダイヤモンド層。
【請求項6】
前記非平行転位アレイは、前記単結晶CVD合成ダイヤモンド層の全体積の少なくとも40%占める体積にわたって延びている、請求項1〜5のうちいずれか一に記載の単結晶CVD合成ダイヤモンド層。
【請求項7】
前記非平行転位アレイは、前記単結晶CVD合成ダイヤモンド層を通って第1の方向に伝搬する第1の組をなす転位及び前記単結晶CVD合成ダイヤモンド層を通って第2の方向に伝搬する第2の組をなす転位を含み、前記第1の方向と前記第2の方向のなす角度は、X線トポグラフィ断面図又はルミネッセント条件下で見て40°〜100°ある、請求項1〜6のうちいずれか一に記載の単結晶CVD合成ダイヤモンド層。
【請求項8】
転位が伝搬する方向は、前記転位の有意長さにわたる平均方向で表して測定され、前記有意長さは、転位の全長の少なくとも40%あると共に/或いは少なくとも50μmある、請求項1〜7のうちいずれか一に記載の単結晶CVD合成ダイヤモンド層。
【請求項9】
前記非平行転位アレイは、X線トポグラフィ断面図は見えるが、ルミネッセント条件下では見えず、或いはその代わりに、前記非平行転位アレイは、ルミネッセント条件下で見えるが、X線トポグラフィ断面図では見えない、請求項1〜のうちいずれか一に記載の単結晶CVD合成ダイヤモンド層。
【請求項10】
少なくとも100GPa硬さを有する、請求項1〜のうちいずれか一に記載の単結晶CVD合成ダイヤモンド層。
【請求項11】
請求項1〜10のうちいずれか一に記載の単結晶ダイヤモンド層を含む単結晶CVD合成ダイヤモンド物体であって、前記単結晶ダイヤモンド層は、前記単結晶CVD合成ダイヤモンド物体の全体積の少なくとも30%占める、単結晶CVD合成ダイヤモンド物体。
【請求項12】
前記単結晶CVD合成ダイヤモンド物体は、宝石形態にカットされている、請求項11記載の単結晶CVD合成ダイヤモンド物体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学気相成長(CVD)技術により単結晶ダイヤモンド材料を製造する方法に関する。或る特定の実施形態は、単結晶CVDダイヤモンド材料中の転位の個数、分布状態、方向及び/又はタイプの制御を可能にする方法に関する。或る特定の実施形態は又、本明細書において説明する方法に従って製造できる単結晶ダイヤモンド材料に関する。本発明の或る特定の実施形態は又、光デバイス、機械デバイス、ルミネッセントデバイス及び/又は電子デバイスへのこれら材料の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
転位は、結晶ダイヤモンド固体の物理的及び電気光学的(光電子)性質に大幅に且つ多くの場合好ましからざる影響を及ぼす。例えば、靱性及び/又は耐摩耗性が転位密度及び転位方向によって影響を受ける場合がある。加うるに、転位は、結晶ダイヤモンド材料を利用した光デバイス又は電子デバイスの性能に悪影響を及ぼす場合がある。
ダイヤモンドは、その並外れた硬さ及び機械的性質によって有名な材料であり、この結果、ダイヤモンドは、幾つかの用途(例えば、穴あけ)に用いられている。転位は、これらの性質、特にホモエピタキシャルCVD合成ダイヤモンド材料に悪影響を及ぼすことが知られており、転位は、通常、材料の成長方向とほぼ平行な方向に伝搬する。結果的に生じる転位の平行アレイは、材料の機械的性質に悪影響を及ぼす恐れが多分にある。
【0003】
有意密度の平行転位、例えば(001)基板上でホモエピタキシャル成長した合成ダイヤモンド結晶の<001>方向に伝搬した平行転位の結果として、合成ダイヤモンド材料中に相当大きな歪が生じ、従って複屈折が生じ、これは、或る特定の光学用途、例えばラマンレーザに関してその性能を低下させることが判明している(これについては、例えば、ウォルター・ルーベイ他(Walter Lubeigt et al.),「アン・イントラ‐キャビティ・ラマン・レーザ・ユージング・シンセティック・シングル‐クリスタル・ダイヤモンド(An intra-cavity Raman laser using synthetic single-crystal diamond)」,オプティックス・エクスプレス(Optics Express),2010年,第18巻,第16号を参照されたい)。したがって、良好な光学性能を提供するために材料中の全歪を減少させ又は少なくとも歪の良好な分布を達成することが望ましい。光学観察軸線が平行転位の線方向と同一方向であり、即ち、成長方向に平行である場合に高い複屈折性が観察される。光学用途では、単純な工学(エンジニアリング)的検討事項(例えば、面積最大化)に関し、材料を成長方向に垂直な主要面に関して処理するのが従来的やり方である。この結果、材料の主要面に垂直であり且つ観察軸線に平行な転位が生じ、その結果高い複屈折性が生じる。
【0004】
また、互いに異なる転位タイプ及び方向は、CVD合成ダイヤモンドデバイスの性能に異なるように悪影響を及ぼすことが考えられる。他でもなく転位の或る特定の線方向(正確に言えば、「転位の線方向」)を選択できるようにすることにより、ダイヤモンド利用デバイスの光学的性質及び/又は電子的性質に影響を及ぼして所望の特定の用途について最適化することができると想定される。
【0005】
上述したことに照らして、解決すべき一問題は、特に光学用途、機械的用途、ルミネッセント用途及び電気的用途に関して単結晶CVD合成ダイヤモンド材料の或る特定の転位タイプ及び/又は方向の悪影響を軽減することにある。
【0006】
上述の問題は、過去において、転位の好ましからざる影響を最小限に抑えるために転位の数を減少させる方法を開発することによって少なくとも部分的に解決された。例えば、国際公開第2004/027123号パンフレット及び同第2007/066215号パンフレットは、高品質光学、電子及び/又は検出器等級のダイヤモンド材料を提供するよう低い転位濃度を有するCVD合成ダイヤモンド材料を形成する方法を開示している。しかしながら、低い転位密度を有するCVD合成ダイヤモンド材料を形成することは、比較的困難であり、時間がかかりしかもコスト高であると言える。
【0007】
他の転位源があるにはあるが、2つの主要な転位源としては、(i)基板からCVD層への貫通転位及び(ii)基板とCVD層との間のインターフェースのところに生じる転位が挙げられる。(i)に関し、一次CVD層を垂直方向にスライシングして(001)面を露出させ、そしてこの(001)面上に二次層を成長させると、その結果として、一次層から二次層への貫通転位が生じる(この場合、バーガースベクトルが保存される)。一次層中の転位が<001>方向のものであり且つ刃状45°混合タイプのものであると仮定すると、二次CVD層中には貫通転位の多くの順列が存在する(表1参照)。しかしながら、貫通転位の全ては、<100>方向であり且つ刃状タイプか45°混合タイプかのいずれかである。したがって、この作業は、或る程度の転位エンジニアリングを実証しているが、これは、転位線方向と転位タイプの両面で制限がある。(ii)に関し、過去の研究(例えば、エム・ピー・ゴウクロジャー,他(M. P. Gaukroger et al.),「ダイヤモンド・アンド・リレイテッド・マテリアルズ(Diamond and Related Materials)」,第17巻,2008年,p.262‐269を参照されたい)の示すところによれば、基板前処理は、標準(001)基板上に成長させるCVD層中の転位タイプを決定する役割を有する。表面欠陥(例えば、大雑把に研磨された基板)から伝搬する転位は、一般に、45°混合タイプのものであり、即ち、(001)成長の際の最も安定した転位タイプである。

表1:(001)成長後の垂直方向にスライシングされた一次CVD層上の[001]成長は、二次層の貫通転位が[010]線方向である場合に種々の転位タイプを示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2004/027123号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2007/066215号パンフレット
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】ウォルター・ルーベイ他(Walter Lubeigt et al.),「アン・イントラ‐キャビティ・ラマン・レーザ・ユージング・シンセティック・シングル‐クリスタル・ダイヤモンド(An intra-cavity Raman laser using synthetic single-crystal diamond)」,オプティックス・エクスプレス(Optics Express),2010年,第18巻,第16号
【非特許文献2】エム・ピー・ゴウクロジャー他(M. P. Gaukroger et al.),「ダイヤモンド・アンド・リレイテッド・マテリアルズ(Diamond and Related Materials)」,第17巻,2008年,p.262‐269
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述のことに照らして、理解されるべきこととして、転位密度の全体的減少と一致している場合があり又はそうではない場合がある特定の性質、例えば電子的性質及び光学的性質に対する転位の影響を最小限に抑える手法を見出すという要望が存在する。例えば、幾つかの用途(例えば、機械的靱性を必要とする用途)では、高い転位密度は、事実上、好ましいかもしれないが、転位の方向及び/又はタイプは、材料の機能的性能にとって重要である場合がある。それ故、ホモエピタキシャル成長した単結晶CVD合成ダイヤモンド中の転位のタイプ及び/又は方向をエンジニアリングする(操る)手法を見出す必要がある。
【0011】
本発明の或る特定の実施形態の目的は、上述の問題を少なくとも部分的に解決することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の観点によれば、非平行転位アレイを有する単結晶CVD合成ダイヤモンド層であって、非平行転位アレイは、X線トポグラフィ断面図又はルミネッセント条件下で見て相互交差転位のアレイを形成する複数の転位を含むことを特徴とする単結晶CVD合成ダイヤモンド層が提供される。
【0013】
或る特定の用途に関し、好ましくは、単結晶CVD合成ダイヤモンド層の厚さは、1μm以上、10μm以上、50μm以上、100μm以上、500μm以上、1mm以上、2mm以上又は3mm以上である。代替的に又は追加的に、単結晶CVD合成ダイヤモンド層は、10cm-2〜1×108cm-2、1×102cm-2〜1×108cm-2又は1×104cm-2〜1×107cm-2の転位密度及び/又は5×104以下、5×10-5以下、1×10-5以下、5×10-6以下又は1×10-6以下の複屈折性を有するのが良い。本発明の実施形態を所与の範囲の考えられる非{100}方位の単結晶ダイヤモンド基板、例えば{110}、{113}及び{111}方位の基板に提供することができるが、或る特定の用途に関し、{110}又は{113}方位の基板の使用が好ましい。これら特徴のうちの1つ又は2つ以上は、単結晶CVD合成ダイヤモンドの比較的厚く且つ/或いは高品質の層を達成する上で有利である。例えば、単結晶CVD合成ダイヤモンド層中に形成される高濃度の転位を含む{111}方位の基板上の成長の結果として、破損なく大きな厚さまで容易には成長させることができない不良品質の且つ歪の大きい材料が生じる場合がある。
【0014】
好ましくは、非平行転位アレイは、単結晶CVD合成ダイヤモンド層の有意体積にわたって延び、有意体積は、単結晶CVD合成ダイヤモンド層の全体積の少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%又は少なくとも90%を占める。非平行転位アレイは、単結晶CVD合成ダイヤモンド層を通って第1の方向に伝搬する第1の組をなす転位及び単結晶CVD合成ダイヤモンド層を通って第2の方向に伝搬する第2の組をなす転位を含み、第1の方向と第2の方向のなす角度は、X線トポグラフィ断面図又はルミネッセント条件下で見て40°〜100°、50°〜100°又は60°〜90°である。転位は、完全に真っ直ぐな線の状態では伝搬しないことが知られているので、転位が伝搬する方向は、転位の有意長さにわたる平均方向で表して測定され、有意長さは、転位の全長の少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%又は少なくとも90%であると共に/或いは少なくとも50μm、少なくとも100μm、少なくとも250μm、少なくとも500μm、少なくとも1000μm、少なくとも1500μm又は少なくとも2000μmである。
【0015】
或る特定の実施形態によれば、材料中の全ての転位が上述の仕方で伝搬するわけではない。しかしながら、或る特定の実施形態では、単結晶CVD合成ダイヤモンド層の有意体積内の目に見える転位の総数の少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%又は少なくとも90%がX線トポグラフィ断面図又はルミネッセント条件下で見て非平行転位アレイを形成し、有意体積は、単結晶CVD合成ダイヤモンド層の全体積の少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%又は少なくとも90%を占める。
【0016】
或る特定の実施形態、例えば{110}方位の材料では、非平行転位アレイは、X線トポグラフィ断面図では見えるが、ルミネッセント条件下では見えない。或る特定の変形実施形態、例えば{113}方位の材料では、非平行転位アレイは、非平行転位アレイは、ルミネッセント条件下で見えるが、X線トポグラフィ断面図では見えない。これは、或る特定の線方向における転位が青色のルミネッセント光を放出し(青色の発光を生じ)他方、他の線方向では、転位がそのようには発光しないからである。
【0017】
上述のことに加えて、本明細書において説明する非平行転位アレイを有する材料は、硬さの増大(例えば、少なくとも100GPa、より好ましくは少なくとも120GPa)と組み合わされた良好な耐摩耗性を有することが判明した。
【0018】
本発明の別の観点によれば、上述の単結晶ダイヤモンド層を含む単結晶CVD合成ダイヤモンド物体であって、単結晶ダイヤモンド層は、単結晶CVD合成ダイヤモンド物体の全体積の少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%又は少なくとも90%を占めることを特徴とする単結晶CVD合成ダイヤモンド物体が提供される。かかる物体を光デバイス又は用途、機械デバイス又は用途、ルミネッセントデバイス又は用途ならびに/或いは電子デバイス又は用途に用いることができる。変形例として、単結晶CVD合成ダイヤモンド物体は、宝石形態にカットされても良い。
【0019】
本発明の更に別の観点によれば、単結晶CVD合成ダイヤモンド層を形成する方法であって、この方法は、
プラズマ暴露エッチングによって明らかにして5×103個/mm2以下の欠陥密度を有する成長面を備えた単結晶ダイヤモンド基板を用意するステップと、
成長面上に請求項1〜12のうちいずれか一に記載の単結晶CVD合成ダイヤモンド層を成長させるステップとを含むことを特徴とする方法が提供される。
【0020】
単結晶ダイヤモンド基板の成長面は、上述の理由で{110}又は{113}方位を有する単結晶CVD合成ダイヤモンド材料の層を形成するよう{110}又は{113}結晶方位を有するのが良い。単結晶CVD合成ダイヤモンド層の成長速度は、非平行転位アレイが形成されるのに十分低いように制御される。この点に関し、{110}方位の基板上における低成長速度では、転位は、非平行転位アレイを形成し、これに対し、成長速度を増大させた場合、転位の平行ネットワークが形成されることが判明した。{110}方位の場合、単結晶CVD合成ダイヤモンド層を{110}成長面上で或る特定の限度を下回る<110>成長速度と<001>成長速度の比で成長させることによって、非平行転位アレイを形成することが可能である。同様な説明は、{113}方位にも当てはまると考えられる。ただし、初期の結果の示すところによれば、比較的高い成長速度を{113}方位の基板を用いて利用することができ、他方、非平行転位アレイを依然として達成することができる。
【0021】
或る特定の実施形態によれば、非平行転位アレイは、単結晶CVD合成ダイヤモンド層の成長方向に対して少なくとも20°の鋭角をなして伝搬する有意数の転位を含み、有意数は、X線トポグラフィ断面図又はルミネッセント条件下で見える転位の総数の少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%又は少なくとも90%である。より好ましくは、有意数の転位は、単結晶CVD合成ダイヤモンド層の成長方向に対して20°〜60°、20°〜50°又は30°〜50°の鋭角をなして伝搬する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】転位の種々のタイプ及び方位をCVD合成ダイヤモンド中にどのようにして実現することができるかを示す流れ図であり、特に、CVD合成ダイヤモンド材料中に転位の非平行アレイを達成することができる手法を強調して示す図である。
図2】本発明の実施形態に従って非平行転位アレイを有するCVD合成ダイヤモンド材料を形成する際に行われる方法ステップ及び結果として転位の平行アレイを生じさせる考えられる別の合成手法を示す図である。
図3】(110)成長CVD合成ダイヤモンド層中の成長方向に平行な方向に伝搬する転位タイプを示す図である。
図4】(110)成長CVD合成ダイヤモンド層中の成長方向に対して鋭角をなして伝搬する転位タイプを示す図である。
図5】転位の平行アレイを含む単結晶CVD合成ダイヤモンド層を示す図である。
図6】転位の非平行アレイを含む単結晶CVD合成ダイヤモンド層を示す図である。
図7図6のCVD合成ダイヤモンド材料に関する複屈折顕微鏡写真図を示す図であり、このサンプルに関する大きな転位密度を考慮して比較的小さい歪を示す図である。
図8】X線トポグラフィ断面図且つルミネッセント条件下における{110}及び{113}方位の基板上に成長させた単結晶CVD合成ダイヤモンド層を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の或る特定の実施形態によれば、本発明者は、非平行転位アレイを有する単結晶CVD合成ダイヤモンド、特に高品質の単結晶CVD合成材料を製造する技術を開発した。これは、転位の平行アレイがCVD合成ダイヤモンド膜の成長方向に生じるCVD合成ダイヤモンドの製造であるという点で従来の技術とは異なっている。転位の平行アレイは、幾つかの問題となる影響源であると判明した。例えば、有意密度の転位の平行アレイの結果として、材料中の歪及び複屈折性が光学用途、例えばラマンレーザに関してその性能を減少させる。転位の平行アレイは、ダイヤモンド材料の靱性及び/又は耐摩耗性に悪影響を及ぼす場合がある。さらに、転位の平行アレイは又、CVD合成ダイヤモンドのルミネッセンス並びに電子的及び電気光学的(光電子)性質にも悪影響を及ぼす場合がある。さらに、ダイヤモンド検出器の場合、作業者の中には、転位の或る特定のタイプがキャリヤトラップとして働くと共に破壊電圧を減少させることができると推測している人が存在する。
【0024】
従来の作業は、CVD合成ダイヤモンド材料中の転位の密度を最小限に抑えることを目的としていた。これとは対照的に、本発明は、転位の十字形アレイを形成する種々の方向に伝搬する転位の非平行アレイを提供することに的を絞った。非平行転位アレイの存在は、或る特定のタイプの光デバイスにとって有益であると言える。というのは、それにより、低全歪(lower overall strain)形態が得られ、それによりCVD合成ダイヤモンド層中の複屈折性が減少するからである。非平行転位アレイの存在は又、CVD合成ダイヤモンド材料の靱性及び/又は耐摩耗性を増大させることができる。さらに又、非平行転位アレイの存在は、電子的性能をも向上させることができる。例えば、或る特定のタイプの転位は、他のタイプよりも優先して伝搬することができ、かかる或る特定のタイプの転位は、キャリヤトラップとして働くと共に破壊電圧を減少させる。
【0025】
本発明の或る特定の実施形態を種々の化学的タイプのCVD合成ダイヤモンド材料に利用することができ、かかる化学的タイプの材料としては、窒素ドープ、燐ドープ、ホウ素ドープ及び非ドープCVD合成ダイヤモンド材料が挙げられるが、これらには限定されない。ダイヤモンド材料が元来CVD合成であることを示すために幾つかの実験的技術を利用することができる。実施例としては、(しかしながら、以下には限定されない)、77Kにおいて325nm、458nm又は514nm連続波レーザ励振を利用して測定して光ルミネッセンススペクトルにおいて466nm及び/又は533nm及び/又は333nmのところにおける発光特徴の存在又は赤外線吸収スペクトルにおける3123cm-1のところの吸光特徴の存在が挙げられる。ピー・エム・マーティ,他(P. M. Martineau et al.),「ジェムズ・アンド・ジェモロジー(Gems & Gemology)」,40(1)2,2004年による刊行物は、ダイヤモンド材料がCVD合成であるかどうかを突き止める基準の概要を記載しており、多種多様な条件下において成長させられると共に/或いは焼きなましされたCVD合成ダイヤモンド材料の例を与えている。
【0026】
「層」という用語は、CVD合成ダイヤモンドの任意の成長領域を意味し、更に又、基板及びオプションとして後で除去される基板上への層の析出によってもともと作られた自立型CVD合成ダイヤモンド材料を意味している。上述の単結晶ダイヤモンド層を含む単結晶CVD合成ダイヤモンド物体を提供することができ、単結晶ダイヤモンド層は、単結晶CVD合成ダイヤモンド物体の全体積の少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%又は少なくとも90%を占める。
【0027】
非平行転位アレイは、CVD合成ダイヤモンド材料の有意体積中の転位を断面図で画像化することができる技術(例えば、X線トポグラフィ、電子顕微鏡又はルミネッセントイメージング)を用いることによって、以下の事柄、即ち、(i)1つの組をなす転位が単結晶CVD合成ダイヤモンド層中を第1の方向に伝搬し、別の組をなす転位が単結晶CVD合成ダイヤモンド層中を第2の方向に伝搬するような2つ又は3つ以上の線方向の(即ち、全てが同一の線方向を備えている訳ではない)転位が存在すること、(ii)第1及び第2の組に属する転位が互いに相互交差するように見えること、(iii)第1の方向と第2の方向とのなす角度が断面図で見て40°〜100°、50°〜100°又は60°〜90°にあることが観察されることを意味する。CVD合成ダイヤモンド材料の有意体積は、好ましくは、CVD合成ダイヤモンド材料の全体積の少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%又は少なくとも90%である。有意体積中において、CVD合成ダイヤモンド層中の転位のうちの好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも70%、最も好ましくは少なくとも90%が上述したように伝搬する。
【0028】
非平行転位の線方向を、結晶格子内の或る特定の点欠陥の方位を調べることによって定めることができるCVD合成ダイヤモンド成長方向と比較することによって非平行転位を特徴付けることが有用な場合がある。例えば、欠陥、例えば窒素‐空孔(NV)及び窒素‐空孔‐水素(NVH)錯体は、<111>方向に沿って整列し、8つの考えられる形態(+ve線方向)を与え、これら形態の相対的な母集団(population)は、成長方向に対して優先的な方位を示す場合がある。磁界の角度的整列状態を変える電子常磁性共鳴測定値は、これら欠陥の方位を調べるために使用されている。例えば、本発明者は、(110)表面上の成長の際、これら欠陥の両方が(110)成長面に対して面外に位置した2つの<111>方位に沿って配向された大部分(50%以上、60%以上、80%以上、95%以上又はそれどころか99%以上)と整列していることを観察した。この優先的欠陥整列は、実質的に{100}方位との基板上で成長させたサンプル中の同一の欠陥(例えば、NV)については観察されない。これら欠陥が位置する<111>方向と{100}、{110}及び{111}を含むCVDダイヤモンドのための主要成長面との間の関係の対称性が一義的なので、欠陥母集団分布の特徴付けを利用すると成長方向を一義的に定めることができ、特に、成長が{110}平面上で起こったかどうかを判定すると共にこの材料中の成長の正確な{110}平面を特定することができる。非平行転位は、成長方向(成長方向は、典型的には基板に平行であるが、常にそうであるとは限らない主{110}CVD成長面に実質的に垂直である)に対して20°〜60°又は好ましくは20°〜50°又はより好ましくは30°〜50°の鋭角をなして伝搬することができ、有意体積は、CVD合成ダイヤモンド材料の全体積の30%、40%、50%、60%、70%、80%又は90%である。
【0029】
成長の2つ又は3つ以上の互いに異なる別々の領域を有するCVDダイヤモンドを製造する方法が既に存在し、かかる別々の領域は、各領域が或る特定の線方向に伝搬する平行転位を有すると共に見かけ上別の方向に平行に別の領域の転位まで伝搬する一領域中の転位を有することによって定められる。したがって、一領域内の転位が別の領域内の転位に平行ではないことが示唆される。2つの互いに異なる領域の一例は、二次CVD合成ダイヤモンド層をCVD合成ダイヤモンド基板上に成長させると共に基板の初期成長方向と二次CVD合成ダイヤモンド層の初期成長方向が互いに異なる場合である(これについては、例えば、エム・ピー・ゴウクロジャー,他(M. P. Gaukroger et al.)著,「ダイヤモンド・アンド・リレイテッド・マテリアルズ(Diam. Relat. Mater.)」,第17巻,2008年,p.262を参照されたい)。この場合、基板と二次層は、2つの互いに異なる領域である。互いに異なる領域のもう1つの例は、互いに異なる成長疑似セクタ(pseudosector)を交差することによって個々の転位がこれらの線方向に実質的に且つ急激に変化する軸外し基板上におけるCVD合成ダイヤモンドの成長の場合であり、一疑似セクタ中の転位は、一領域中の転位に該当し、別の疑似セクタ中の転位は、別の領域中の転位に該当する。材料の同一領域内において互いに平行ではない転位、即ち、材料の互いに異なる領域中で相互交差しないで2つの別々の平行アレイを効果的に形成するCVD合成ダイヤモンド材料の互いに異なる領域中の転位ではなく、非平行アレイを形成するよう相互交差する転位の提供に関する本発明の観点とは異なる。
【0030】
X線発生器に取り付けられたラングカメラを用いて記録されたX線トポグラフを用いると、ダイヤモンド中の転位を突き止めることができる。{533}結晶面のブラッグ反射を用いて記録された断面トポグラフにより、X線ビームによりサンプリングされた平面が2{001}平面度内に位置するようにサンプルをセットアップすることができる。ブラッグ{008}反射を利用して記録された断面トポグラフにより、{110}平面をサンプリングすることができる。X線断面及び投影トポグラフィは、ラングその他によってダイヤモンドに大々的に利用された(これについては、例えば、アイ・キフラウィ,他(I. Kiflawi et al.),「フィロソフィカル・マガジン(Phil. Mag.)」,第33巻,第4号,1976年,p.697及びエー・アール・ラング(A. R. Lang),ジェイ・イー・フィールド(J. E. Field)編,「ザ・プロパティーズ・オブ・ダイヤモンド(The Properties of Diamond)」,ロンドン,アカデミック・プレス(Academic Press),1979年,p.425−469を参照されたい)。断面X線トポグラフィ画像と投影X線トポグラフィ画像を利用すると、転位線方向及び転位が占める大部分の体積を測定することができる。例えば{100}平面及び{110}平面を画像化することによって(これには限定されない)2つ又は3つ以上の断面トポグラフを画像化することによって転位自体が互いになす角度及び成長方向と転位線方向のなす角度を定めることができる。投影トポグラフか2つ若しくは3つ以上の断面トポグラフかのいずれかによって大部分の体積を定めることができる。
【0031】
X線トポグラフで見えるコントラストは、転位又は転位の束によって結晶格子上に加えられる歪に起因している。有利には、非平行転位を含む単結晶CVD合成ダイヤモンド物品の10nm2〜1mm2の面積をサンプリングすることにより、この面積が10〜1×108cm-2の転位/転位束密度を有していることを確かめることができる。X線トポグラフ中では、転位と転位の束を見分けることが困難であるが、画像中の強いコントラストは、通常、後者の転位の束を意味する。したがって、「転位」及び「転位の束」は、互いに区別なく用いられる場合が多い。サンプルをX線ビーム中に並進させることにより記録された投影トポグラフを分析すると、サンプル全体にわたって転位の個数に関する情報を提供することができる(これについては、例えば、エム・ピー・ゴウクロジャー,他(M. P. Gaukroger et al.)著,「ダイヤモンド・アンド・リレイテッド・マテリアルズ(Diamond and Related Materials)」,第17巻,2008年,p.262‐269を参照されたい)。
【0032】
転位濃度に加えて、線方向及び/又はバーガースベクトル(即ち、転位のタイプ)も又、重要な役割を果たすと言える。注目されるべきこととして、転位のタイプと言った場合、これは、転位線方向に対するバーガースベクトルの角度を意味している。刃状転位では、バーガースベクトルと転位線は、互いに直角(即ち、90°)をなしている。螺旋転位ではバーガースベクトルと転位線は、互いに平行(即ち、0°)である。混合転位では、バーガースベクトルは、0°と90°との間の鋭角をなして差し向けられている。ディスロケーションのタイプは、多種多様な反射について記憶されたX線トポグラフの分析により確認される(これについては、例えば、エム・ピー・ゴウクロジャー,他(M. P. Gaukroger et al.)著,「ダイヤモンド・アンド・リレイテッド・マテリアルズ(Diamond and Related Materials)」,第17巻,2008年,p.262‐269を参照されたい)。この種の分析は、単一転位を特徴付ける際に利用できるが、束が存在している場合、分析は、束が2つ以上のタイプの転位を含む場合があるので複雑であると言える。この場合、別のタイプの転位の束(単一の主要なタイプを含んでいない)は、特定の転位形式には特徴付けることができず、分析から外される。
【0033】
互いに異なる転位タイプは、互いに異なる原子再結合度を有し、従って、ダングリングボンドを多少なりとも与え、かかるダングリングボンドは、光電子特性の一因となる場合があり又はこれに影響を及ぼす場合がある。例えば、CVD合成ダイヤモンド材料中に存在する青色転位光ルミネッセンスの存否は、転位線方向とそのバーガースベクトルの両方によって決まる可能性が多分にあり、即ち、或る特定の転位タイプは、発光ルミネッセンスを呈するが、それ以外のものはそうではない。これは更に、CVD合成ダイヤモンド材料中の転位タイプを選択したり制御したりすることができるという本発明者の興味を一段とそそる。
【0034】
理解されるように、各転位は、完全に真っ直ぐな直線に沿って伝搬する傾向がなく、これとは異なり、テラス及びライザの生成の原因となるCVD合成ダイヤモンド層の成長中に生じる段部に起因してかかる完全な直線から逸れる。CVD合成ダイヤモンド中の転位に対する段部の作用効果についてはマーティ,他(Martineau et al.),「フィジカ・ステイタス・ソリディ・シー6(Phys. Status Solidi C6)」,第8号,2009年,p.1953−1957で説明されている。したがって、理解されるように、転位が伝搬する方向は、本明細書においては、転位の有意長さにわたる平均方向という用語で説明され、有意長さは、転位の全長の少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%又は少なくとも90%であると共に/或いは少なくとも50μm、少なくとも100μm、少なくとも250μm、少なくとも500μm、少なくとも1000μm、少なくとも1500μm又は少なくとも2000μmである。
【0035】
単結晶CVD合成ダイヤモンド層(例えば、(110)方位)は、<100>線方向の20°、10°又は5°の範囲内で配向された有意な数の非平行転位を有する場合があり、有意数は、例えば断面トポグラフか投影トポグラフかのいずれかにおいて転位の目に見える総数の少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%又は少なくとも90%である。オプションとして、単結晶CVD合成ダイヤモンド層の有意体積内の転位の70%未満、60%未満、50%未満、40%未満、30%未満、20%未満又は10%未満が<110>線方向の20°、10°又は5°の範囲内に配向され、有意数は、例えば断面トポグラフか投影トポグラフかのいずれかにおいて転位の目に見える総数の少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%又は少なくとも90%である。<100>転位は、45°混合タイプか刃状タイプかのいずれかであるのが良い。或る特定の構成例によれば、(110)方位層中の特徴付け可能な転位の総数の少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%又は少なくとも90%が混合45°タイプ及び/又は刃状タイプのものである。或る特定の構成例によれば、単結晶CVD合成ダイヤモンド層の有意体積中の特徴付け可能な転位の70%未満、60%未満、50%未満、40%未満、30%未満、20%未満、10%未満又は5%未満は、<110>混合60°タイプのものである。さらに、或る特定の構成例によれば、単結晶CVD合成ダイヤモンド層の有意体積中の特徴付け可能な転位の70%未満、60%未満、50%未満、40%未満、30%未満、20%未満、10%未満又は5%未満は、<110>螺旋型又は<110>刃状型のものであるのが良い。
【0036】
転位タイプの上述の割合は、所与の分析方法において特定のタイプを有するものとして特徴付け可能な転位の総数に対するものであることに注目することが重要である。例えば、上述したように、多種多様な転位タイプを有する転位の束(単一の主要なタイプを含んでいない)は、トポグラフィ分析方法を用いても特徴付け可能ではなく、かくして、特徴付け不能として破棄される。これは、当業者によって理解されており、以下に詳細に説明する。
【0037】
転位のバーガースベクトルを多種多様な投影X線トポグラフを収集することによってカテゴリ化することができる。投影トポグラフを作るためには、サンプルをX線ビーム中に並進させてその完全な体積を露出させると共に膜をそれに従って並進させてサンプルに対するその位置を維持することが必要である。種々のブラッグ反射を用いたX線投影トポグラフは、X線トポグラフ中の転位関連特徴のバーガースベクトルをカテゴリ化するために用いられる。この方法の概要は、エム・ピー・ゴウクロジャー,他(M. P. Gaukroger et al.)著,「ダイヤモンド・アンド・リレイテッド・マテリアルズ(Diamond and Related Materials)」,第18巻,2008年,p.262‐269に記載されている。ダイヤモンドでは、<110>バーガースベクトルが仮定される。一般に、転位関連特徴のコントラストは、そのバーガースベクトルとその回折の原因となる原子層とのなす角度で決まる。良好な近似として、転位関連特徴は、バーガースベクトルが回折面に平行に位置する場合には所与のX線トポグラフ内では目に見えず、そのバーガースベクトルが回折面に垂直に位置する場合には強いコントラストを有し、そのバーガースベクトルが回折面に対して0°〜90°の中間角度をなして位置する場合には中程度のコントラストを有し、このコントラストは、バーガースベクトルが90°に近い場合には強く、バーガースベクトルが0°に近い場合には弱い。このことは、互いに異なるバーガースベクトル方向を有する互いに異なる転位タイプが特定のトポグラフィ画像中に互いに異なるコントラストを有することを意味する。さらに、特定のバーガースベクトル方向を有する単一の転位特徴は、そのバーガースベクトルに対して互いに異なる方向で撮られたトポグラフィ画像中に異なるコントラストを呈する。
【0038】
この方法により、所与の回折関連特徴のバーガースベクトルを突き止め、かくしてそのタイプを特徴付けることが可能である。種々のバーガースベクトルを有する多数の転位(主要な方向を備えていない)を含む転位特徴は、種々の方向で撮られた種々のトポグラフィ画像中の中程度のコントラストを有する傾向があり、これを特徴付けることができないであろう。
【0039】
実際には、他の要因を考慮に入れなければならない。転位を明確に画像化することを目的として適当な透視図を作製すると共に互いに異なるトポグラフ相互間の転位の位置を正確に求めるために反射も又選択されなければならない。{111}反射は、(100)基板上における従来型成長に良好な反射であるが、これは、他の場合には最適な反射であるとは言えない。この作業のため、適当な透視図を作製して個々の転位関連特徴が正確に解像されるようにするために{111}反射を用いることは、問題であることが判明した。したがって、{220}反射が選択される。というのは、これは、サンプルのほぼ「平面」図(約14°軸外し)を提供し、これにより、別の図で同一の転位を認識することが容易だからである。成長方向を[110]と定めて{220}反射を採用した4つの投影トポグラフが用いられる場合、(202)平面、(022)平面、(02‐2)平面及び(20‐2)平面からの反射を用いて4つのトポグラフを記録する。バーガースベクトルが回折{220}平面のうちの1つの中に位置している場合、転位は、1つのトポグラフ中では強いコントラストを有し、隣りのトポグラフでは中程度のコントラストを有し、第4のトポグラフでは目に見えないことが予想される。転位関連特徴が純粋に刃状タイプ又は純粋に螺旋タイプである場合、4つ全てのトポグラフ中には中程度のコントラストが存在すると予想される。この場合、2つを見分けるには(110)成長面中の反射を用いてトポグラフを撮る必要がある。この方法を用いると、互いに異なるタイプの転位を特徴付けることができる。互いに異なる転位タイプを含む転位の束の場合、束は、全てのトポグラフィ画像中に中程度のコントラストを有する傾向があり、これを特徴付けることができない。かかる転位特徴は、分析から破棄される。主として1つのタイプの転位の束の場合、束は、束内の転位の主要なタイプに従って互いに異なるトポグラフ中に異なるコントラストを有し、これは、特徴付け可能であろう。かかる転位特徴は、多くの分析の目的で単一の転位としてみなされる。幾つかのX線トポグラフ中に転位関連特徴の存否を突き止めるためには、互いに異なる画像中の転位関連コントラストを正確にマッチングさせる必要がある。これは、目視検査によって手動で実施でき又は適当なコンピュータアルゴリズムを用いて自動化できる。
【0040】
本発明の実施形態は、CVD合成ダイヤモンド中の次の転位の源、即ち(i)一次(基板)層から二次CVD合成ダイヤモンド層への貫通転位及び(ii)表面欠陥又は他の理由(例えば、格子ミスマッチ)に起因して基板表面とCVD合成ダイヤモンド層との間のインターフェースのところに核として生じる転位を突き止めることができる2つの仕組みが存在するという本発明者の理解に基づいている。本発明の或る特定の実施形態を導いたものは、(110)表面上の成長により(i)と(ii)の両方について極めて多大な転位エンジニアリング手法が得られるという知見である。
【0041】
項目(i)に関し、本発明の或る特定の実施形態は、一次(001)CVD層を垂直方向にスライシングして(110)成長面を形成し、そしてこの成長面上で成長させることによって(110)表面上の成長を調べる際に本発明者によって実施された研究に基づいている。本発明者は、表2に示されているように線方向を変化させるが、バーガースベクトルを維持することによって、結果的に一次(001)成長層中の転位の一タイプが二次(110)成長層中に貫通してこの中に第2のタイプの転位に変換されるような数学的議論が存在することを認識した。この表から、特定の転位タイプ及び/又は線方向だけを含む二次CVD層を形成することが可能であることが観察される。例えば、一次(110)成長層が45°混合転位を含む場合、60°混合<110>転位を含むCVD層を形成することが可能である。これとは逆に、一次(001)成長層が刃状転位を含む場合、45°混合<100>転位を含む二次(110)成長層を作ることが可能である。したがって、一次層中の転位タイプにより定められる二次CVD層中の特定の転位線方向及びタイプをエンジニアリングすることが可能であることが実証された。他でもなく貫通転位の幾つかのタイプ/線方向を成長させるこの可能性により、互いに異なるタイプの転位(刃状転位、螺旋転位又は混合転位)を分離して研究する可能性が得られる。これにより、転位エンジニアリングの面で、(001)基板上の標準成長よりもはるかに広い適用範囲が得られる。

表2:(001)成長後の垂直方向にスライシングされた一次CVD層上の(001)成長は、転位がそれぞれ[110]及び[010]線方向である場合に種々の貫通転位タイプを示す。
【0042】
上述の項目(ii)と関連して、本発明者は、(110)表面上の成長により、CVD/基板インターフェースのところで生じる転位について転位エンジニアリングを可能にするより広い適用範囲が与えられることを観察した。本発明者は、良好な(110)表面仕上げが(110)成長に採用される場合、後で説明する特定の成長条件下において<100>方向を有する転位の非平行アレイを作ることができ、これら転位のうちの幾つかは、(110)基板と二次層との間のインターフェースのところで核形成されることを観察した。しかしながら、貧弱な又は不良の基板表面仕上げが採用された場合、成長条件の如何にかかわらず、<110>方向を有する転位の平行アレイが観察される。不良の基板表面仕上げにより、転位源として働くマイクロスケール亀裂が基板表面上に生じ、本発明者は、表面欠陥のところで核形成されたこれら転位が平行<110>形態で成長する特定のタイプのものであることを観察した。しかしながら、これら平行転位の核形成を回避するよう基板表面を注意深く処理することが必要不可欠である。
【0043】
単結晶CVD合成ダイヤモンド層を形成する或る特定の方法では、プラズマ暴露エッチングによって明らかにして5×103個/mm2以下の欠陥密度を有する(110)成長面を備えた単結晶ダイヤモンド基板を用意し、(110)成長面上に限度未満の<110>成長速度と<001>成長速度の比で単結晶CVD合成ダイヤモンド層を成長させ、それにより非平行転位アレイが単結晶CVD合成ダイヤモンド層中に生じるようにする。(110)成長面を単結晶CVD合成ダイヤモンド、単結晶天然ダイヤモンド又は単結晶HPHT(高圧高温)合成ダイヤモンドから形成することができる。例えば、単結晶CVD合成ダイヤモンドプレート、単結晶天然ダイヤモンド又は単結晶HPHT合成ダイヤモンドプレートを処理してプラズマ暴露エッチングによって明らかにして5×103個/mm2以下の欠陥密度を有する(110)成長面を形成することができる。処理としては、例えば、スライシング及び研磨及び/又はプラズマエッチングが挙げられる。
【0044】
或る特定の実施形態によれば、多段成長プロセスを利用することができる。例えば、或る特定の方法は、
プラズマ暴露エッチングによって明らかにして5×103個/mm2以下の欠陥密度を有する(001)成長面を備えた単結晶ダイヤモンド基板を用意するステップと、
(001)成長面上に第1の単結晶CVD合成ダイヤモンド層を成長させるステップと
第1の単結晶CVD合成ダイヤモンド層を垂直方向にスライシングして(110)成長面を形成するステップと、
(110)成長面をこれがプラズマ暴露エッチングによって明らかにして5×103個/mm2未満の欠陥密度を有するよう処理するステップと、
(110)成長面上に限度未満の<110>成長速度と<001>成長速度の比で第2の単結晶CVD合成ダイヤモンド層を成長させ、それにより非平行転位アレイが第2の単結晶CVD合成ダイヤモンド層中に生じるようにする。
【0045】
図1は、転位の種々のタイプ及び方位をCVD合成ダイヤモンド中にどのようにして実現することができるかを示す流れ図であり、特に、CVD合成ダイヤモンド材料中に転位の非平行アレイを達成することができる手法を強調して示す図である。図1では、一次層は、(001)単結晶ダイヤモンド基板上に成長させた(001)単結晶CVD合成ダイヤモンド層を意味している。次に、一次層を対角線に沿って垂直方向にスライシングして(110)単結晶ダイヤモンド基板を形成し、(110)単結晶CVD合成ダイヤモンドの二次層をこの上に成長させる。
【0046】
注目されるべきこととして、(001)単結晶ダイヤモンド基板について説明する際、基板は、成長面のところに(001)結晶面を有するよう配向されていることを意味している。しかしながら、成長面は、(001)方位の平面と完全には整列していない場合がある。処理上の制約に起因して、実際の成長面方位は、最大5°まで、場合によっては最大10°までこの理想的な方位と異なっている場合がある。ただし、これは、これが再現性に悪影響を及ぼすので望ましさの度合いが低い。同様な説明は、(110)単結晶ダイヤモンド基板にも当てはまる。
【0047】
図1は、一次層中に見出される転位タイプが一次層を成長させた(001)基板成長面の品質で決まることを強調して示している。(001)基板成長面の表面仕上げが貧弱又は不良である場合、混合45°転位が<001>方向に形成される(即ち、混合45°方位の平行アレイが成長方向に垂直に整列する)。(001)基板成長面の表面仕上げが良好である場合、刃状転位は、<001>方向に形成される主要なタイプである(即ち、平行アレイは、成長方向に垂直に整列する)。
【0048】
図1は、二次層中に見受けられる転位のタイプ及び方位が(i)一次層中の転位のタイプ、(ii)一次層から作られた(110)基板の表面仕上げ及び(iii)二次層のために用いられる成長速度に依存する場合があることも又示している。
【0049】
不良の基板成長面仕上げが最初に一次層の成長に施されてその結果として<100>混合45°方位の平行アレイが生じ、次に一次層を対角線に沿って垂直方向にスライシングして(110)単結晶ダイヤモンド基板を形成し、二次層をこの上に成長させた場合、混合60°タイプの<110>方位の転位の平行アレイが作られる。これは、望ましくないやり方である。
【0050】
これとは対照的に、良好な基板成長面仕上げが当初、一次層の成長のために施された場合、結果として、<100>刃状転位の平行アレイが生じ、次に、一次層を対角線に沿って垂直方向にスライシングして(110)単結晶ダイヤモンド基板を形成し、二次層をこの上に成長させる場合、本発明者は、図1に示されているように多くの可能性が利用できることを見出した。(110)単結晶ダイヤモンド基板(この上に二次層を成長させる)の表面仕上げが貧弱又は不良である場合、この場合も又、表面欠陥により、混合60°タイプの平行<110>方位の転位が生じる。(110)単結晶ダイヤモンド基板が十分に前処理された場合、驚くべきこととして、二次層の成長速度に依存する2つの可能性が存在する。比較的高い<110>成長速度と<001>成長速度の比が二次層に用いられた場合、<110>方位の螺旋及び/又は刃状タイプの転位の平行アレイが作られる。変形例として、比較的低い<110>成長速度と<001>成長速度の比が二次層について用いられた場合、<100>方位の混合45°及び/又は刃状タイプの転位の非平行アレイが作られる。
【0051】
(110)基板上の表面欠陥を回避することが重要な場合がある。というのは、これら表面欠陥の結果として、低コアエネルギー形態、即ち、<110>混合60°(前処理の具合が不良の標準(001)基板上における成長の際に形成される<100>混合45°転位に類似している)を呈する新たな転位の核形成が二次層中に生じるからである。二次層中における<110>混合60°転位の核形成を回避するには、例えばスカイフ研磨による且つ肉眼的ピットの発生を回避する成長に先立つ予備エッチングの利用により良好に前処理された(110)基板上での成長が必要である。
【0052】
二次層のための(110)基板が完全に前処理されると共に表面欠陥が無視できるほどの場合であっても、(110)基板と二次CVD合成ダイヤモンド層との間のインターフェースのところに端を発する更に幾分かの非貫通転位が存在する。理論によって束縛されるものではないが、転位核形成の上述の仕組みを除外して、これら欠陥は、一次層と二次層との間の格子パラメータミスマッチに起因している場合があると考えられる。観察されたこととして、これら転位が基板前処理の不良に起因して生じる転位と同様な仕方でインターフェースのところに端を発していても、これら転位は、基板前処理の不良に起因して生じる転位とは異なり、<100>方位の混合45°又は刃状タイプ形態の非平行アレイを呈する。したがって、これら転位は、本発明の実施形態を達成するために除去する必要はない。
【0053】
上述したことに照らして、本発明の或る特定の実施形態に従って単結晶CVD合成ダイヤモンド中に転位の非平行アレイを達成するためには、(i)一次(001)ダイヤモンド層の成長に先立って初期(001)基板の注意深い前処理、(ii)一次層から形成される(110)基板の注意深い前処理及び(iii)二次(110)ダイヤモンド層の成長速度の注意深い制御が必要であることは明らかである。
【0054】
理論によって束縛される訳ではないが、上述の結果は、次のように正当化できる。
【0055】
CVD単結晶ダイヤモンド成長は、通常、熱力学的プロセスではなく運動学によって定まる。しかしながら、運動学と熱力学的に行われるプロセスとのバランスを成長パラメータの変化によって変化させることができる。例えば、低<110>成長速度と<001>成長速度の比で成長させることによって、成長は、運動学的要因ではなく熱力学的要因によって支配される可能性が多分にあり、高い<110>成長速度と<001>成長速度の比が高い場合にはその逆の関係が成り立つ。
【0056】
上述したことに加えて、本発明者は、<110>成長速度と<001>成長速度の「低」比が1.0を下回る比であるのが良く、「高」比は、1.0を超えるのが良いことを見出した。<110>成長速度と<001>成長速度の比を1.0以下、0.8以下、0.6以下、0.4以下又は0.2以下であるように制御するのが良い。しかしながら、当業者であれば、種々の条件、例えば異なるダイヤモンド成長面温度は、詳細な運動学/熱力学に影響を及ぼし、実質的に「低」及び「高」のこの定義を実質的に変更する場合があることを認識するであろう。<110>成長速度と<001>成長速度の比は、<110>成長速度により強い影響を受ける。
【0057】
<110>:<001>成長速度の比を上述したような仕方で変更することは、当業者にとっては達成可能である。従来公開された研究は、成長パラメータ、例えば窒素ドープ、ホウ素ドープ並びに基板温度及び互いに異なる結晶方向における成長速度に対するこれらの相対的な作用効果の変更について議論している。かかる成長速度の比は、通常、αパラメータ、βパラメータ及びγパラメータによって特徴付けられる。しかしながら、本発明の目的上、これは、複雑なテーマであり、単に<110>:<100>という成長速度の比に言及する必要があるに過ぎない。
【0058】
(110)CVD合成ダイヤモンドの二次層を十分に低い<110>:<100>成長速度の比で成長させることにより、転位は、単位長さ当たりのこれらの全エネルギーを最小限に抑える形態を採用することができる。すなわち、単位長さ当たり低いコアエネルギー(より熱力学的に望ましい)転位を成長させる。<110>混合60°転位が単位長さ当たり最も低いエネルギーを有することが期待される。したがって、低い<110>:<100>成長速度の比の下では、一次層中の<100>混合45°転位を二次層に貫通させるか一次層から作られた(110)基板の表面前処理の不良によるかのいずれかによってこれら<110>混合60°転位を生じさせることができる場合、かかる<110>混合60°転位を依然として成長させる。それ故、<110>混合60°転位の全ての源を除くことが望ましい。上述したように、これは、一次層中の<100>混合45°転位を最小限に抑えるために一次層を成長させる基板の正確な前処理と一次層から作られた(110)基板の良好な表面前処理の両方によって行われる。
【0059】
作られるべき<110>混合60°転位が存在しない状態で、<100>方位の刃状転位及び混合45°転位の非平行アレイを成長させる。<100>方位の刃状転位及び混合45°転位は、成長方向から約45°の鋭角をなして伝搬し、その結果、非平行転位アレイが得られる。これは、正確な一次及び二次基板処理と二次層成長パラメータの組み合わせによって達成された。
【0060】
高い<110>:<100>成長速度比では、成長プロセスの運動学的特徴は、熱力学的特徴を凌駕する。成長プロセスが熱力学によってではなく運動学によって支配される場合、転位は、最も短い長さの形態に戻るに過ぎず、このことは、これらが成長方向、即ち二次層に関するこの場合には<110>方向を辿ることを意味する。したがって、高成長速度では、高コアエネルギー転位が優先的に成長する。これら転位としては、図1に示されているような<110>螺旋転位及び<110>刃状転位が挙げられる。
【0061】
本発明を達成するよう成長面をどのように前処理するか及び成長速度をどのように制御するかに関する詳細が本明細書において後に記載されている。注目されるべきこととして、転位の非平行アレイを達成するのに必要な特定の成長速度比は、CVDプロセスにおいて用いられる成長に関する化学的性質で決まると共に用いられる特定の成長に関する化学的性質に従って幾分ばらつきがあるであろう。しかしながら、理解されるように、当業者であれば、特定のプロセスセットアップについて互いに異なる成長速度の比で一連の試験を実施することによって成長速度比を最適にすることができ、その目的は、転位が<100>方位の刃状タイプ転位を含む(110)基板に基づいて熱力学的に安定した<100>方位から二次成長段中における運動学的に引き起こされる<110>方位に切り替わる熱力学的限度の近くに位置するがこれを超えることがない成長速度比を見出すことにある。当業者は、成長速度比を変える要因を知っている。これらとしては、例えば、ダイヤモンド成長温度、気相における炭素分率及び或る特定の不純物、例えば窒素及びホウ素の存在が挙げられる。
【0062】
図2は、本発明の実施形態に従って非平行転位アレイを有するCVD合成ダイヤモンド材料を形成する際に行われる方法ステップ及び結果として転位の平行アレイを生じさせる考えられる別の合成手法を示している。当初、(001)単結晶ダイヤモンド基板2を用意する。これを天然ダイヤモンド材料、HPHT又はCVD合成ダイヤモンド材料で作ることができる。これら互いに異なるタイプのダイヤモンド材料の各々は、これら自体の別個の特徴を有し、かくして、別個のものとして識別可能であるが、この基板の重要な特徴は、成長面が良好な表面仕上げを有するよう注意深く前処理されていることにある。
【0063】
良好な表面仕上げという用語は、プラズマ暴露エッチングによって明らかにして5×103個/mm2以下の欠陥密度を有する表面を有する。欠陥密度は、最も容易には、例えば後述の形式の短時間のプラズマエッチングを用いて欠陥を明らかにするよう最適化されたプラズマ又は化学エッチング(プラズマ暴露エッチングと呼ばれている)を用いた後の光学的評価によって特徴付けられる。
【0064】
2つの形式の欠陥を次によって明らかにすることができる。
【0065】
1)基板材料品質に固有の欠陥。選択した天然ダイヤモンドでは、これら欠陥の密度は、50/mm2という低いものである場合があり、より代表的な値は、102/mm2であり、他のものにおいては、かかる値は、106/mm2以上である場合がある。
2)研磨の結果として生じた欠陥(研磨線に沿ってチャター軌道を形成する転位構造及び微小割れを含む)。これらの密度は、サンプルによって相当なばらつきがある場合があり、代表的な値は、約102/mm2から研磨度が貧弱な領域又はサンプルでは最高104/mm2以上までである。
【0066】
好ましい低い欠陥密度は、欠陥に関連付けられた表面エッチング特徴部の密度が5×103/mm2未満、より好ましくは102/mm2未満であるようなものである。注目されるべきこととして、低い表面粗さを有するよう表面を単に研磨することによっては、これら基準を必ずしも満たすものではないということに注目されるべきである。というのは、プラズマ暴露エッチングは、表面のところ及びその直ぐ真下のところの欠陥を露出させるからである。さらに、プラズマ暴露エッチングは、表面欠陥、例えば微小割れ及び単純な研磨により除去できる表面特徴部に加えて、固有の欠陥、例えば転位を明らかにすることができる。
【0067】
かくして、CVD成長が起こる基板表面のところ及びその下の欠陥レベルを基板の注意深い選択及び前処理によって最小限に抑えることができる。「前処理」と呼ばれているプロセスは、鉱山採収(天然ダイヤモンドの場合)又は合成(合成材料の場合)に基づいて材料に適用されるプロセスである。というのは、各段は、基板としての前処理が完了したときに最終的に基板表面を形成する平面のところの材料中の表面欠陥密度に影響を及ぼす場合があるからである。特定の処理ステップとしては、従来型ダイヤモンドプロセス、例えば機械的鋸引き、ラップ仕上げ及び研磨(この用途では、低い欠陥レベルが得られるよう特別に最適化されている)並びにそれほど従来技術ではない技術、例えばレーザ加工、反応性イオンエッチング、イオンビームフライス加工又はイオン打ち込み及びリフトオフ技術、化学的/機械的研磨並びに液体化学処理とプラズマ処理技術の両方が挙げられる。加うるに、好ましくは、0.08mm長さにわたってスタイラスプロフィルメータにより測定された表面RQは、最小限に抑えられるべきであり、プラズマエッチングに先立つ代表的な値は、数ナノメートル以下、即ち、10ナノメートル未満である。RQは、平坦からの表面プロフィールの二乗平均偏差である(表面高さのガウス分布に関し、RQ=1.25Raである。定義に関しては、例えば、アイ・エム・ハッチング(IM Hutchings)著,「トライボロジー:フリクション・アンド・ウェア・オブ・エンジニアリング・マテリアルズ(Tribology: Friction and Wear of Engineering Materials)」,エドワード・アーノルド出版社(Edward Arnold),1992年,ISBN0−340−56184を参照されたい)。
【0068】
基板の表面損傷を最小限に抑える特定の一方法は、ホモエピタキシャルダイヤモンド成長が起こる予定の表面上に現場プラズマエッチングを行うことである。原理的には、このエッチングは、現場である必要はなく、成長プロセスの直前である必要もないが、最も大きな利点は、これが現場である場合に達成される。というのは、これにより、それ以上の物理的損傷又は化学汚染の恐れが回避されるからである。現場エッチングは又、一般的に、成長プロセスも又プラズマを利用している場合に最も好都合である。プラズマエッチングは、析出又はダイヤモンド成長プロセスに類似の条件であるが、原料ガスを含んでいる炭素が存在せずしかも一般にエッチング速度の良好な制御を与えるよう僅かに低い温度での条件を用いるのが良い。例えば、プラズマエッチングは、以下の技術のうちの1つ又は2つ以上から成るのが良い。
(i)主として水素を用いるが、オプションとして少量のAr及び必要な少量のO2を用いる酸素エッチング。典型的な酸素エッチング条件は、50〜450×102Paという圧力、1〜4パーセントの酸素含有量を含むエッチングガス、0〜30パーセントのアルゴン含有量及び残部水素であり、全ての割合は、体積による割合であり、基板温度は、600〜1100℃(より代表的には800℃)、代表的な持続時間は、3〜60分である。
(ii)(i)に類似しているが、酸素が存在していない水素エッチング。
(iii)アルゴン、水素及び酸素だけを利用している訳ではない別のエッチング方法、例えばハロゲン、他の不活性ガス又は窒素を利用したエッチング方法を利用することができる。
【0069】
典型的には、かかるエッチングでは、酸素エッチングを行い、次に水素エッチングを行い、次に炭素原料ガスの導入によって直接合成に進む。エッチング時間/温度は、処理に起因して生じた残りの表面損傷を除去することができ、しかも表面汚染物を除去することができるが、非常に粗い表面を生じさせず、しかも表面と交差し、かくして深いピットを生じさせる長い欠陥、例えば転位に沿って広範囲にエッチングを行わないように選択される。エッチングが強力なので、この段階に関しては、チャンバ設計及びそのコンポーネントの材料選択がプラズマによってチャンバから気相に又は基板表面に移送される材料がないようなものであることが特に重要である。酸素エッチングに続く水素エッチングは、結晶結果に対する特異性が低く、かかる欠陥を激しく攻撃する酸素エッチングによって引き起こされる角精度を四捨五入し(丸め)、次の成長のための滑らかで良好な表面を提供する。
【0070】
図2に示されているように(001)単結晶ダイヤモンド基板2の成長面を適切に前処理して、ステップAでは基板2上に(001)方位の単結晶CVD合成ダイヤモンド材料の一次層4のCVD成長を行う。この層は、図1と関連して上述したように<100>方位の刃状タイプの転位を含むであろう。
【0071】
ステップBでは、(001)方位の単結晶CVD合成ダイヤモンド材料の一次層4を対角線(図1に点線で示されている)に沿って垂直方向にスライシングしてステップCで示されているように(110)単結晶ダイヤモンドプレート6を得る。これは、レーザを用いて達成できる。次に、(110)単結晶ダイヤモンドプレート6を基板として使用するのが良く、この基板上に単結晶CVD合成ダイヤモンド材料の二次層8を成長させる。次に、単結晶CVD合成ダイヤモンド材料の二次層を(110)基板の成長面上に成長させることができる。
【0072】
(110)基板6の成長面は、良好な表面仕上げが得られるよう(001)基板に関連して説明したのと同様な仕方で処理されなければならない。良好な表面仕上げという表現は、この場合も又、プラズマ暴露エッチングによって明らかにして5×103個/mm2以下、より好ましくは102個/mm2以下の欠陥密度を有する表面であることを意味している。しかしながら、基板を過剰にエッチングすると、その結果として、ピットが基板表面上に生じる。代表的には、これらピットは、(001)及び(111)結晶面から成り、これらピットが5μmを超える深さのものである場合、ピットの結果として、低エネルギー(即ち、<110>混合60°)形態を採用する新たな転位の核形成が(110)層中に生じることになる。これは又、最終の成長面上のピットとなって顕在化する。過剰エッチングが起こる条件は、反応器の幾何学的形状に応じて大幅に変わるが、過剰の持続時間(数時間)又は過剰の電力及び/又は温度によってエッチングした場合に生じる。
【0073】
転位のタイプ及び方位に関する種々の可能性が図2のステップD,E,Fに示されている。ステップDによれば、初期(001)ダイヤモンド基板を良好に前処理しなかった場合であって、その結果として、一次層中に<100>混合45°転位が生じた場合、<110>方位の混合60°転位の並列アレイ10を二次層中に核形成するのが良い。ステップEによれば、初期(001)ダイヤモンド基板を良好に前処理し、その結果として、<100>刃状転位が一次層中に生じるが、高い<110>成長速度と<001>成長速度の比が二次層8を形成するために用いられる場合、<100>方位の螺旋及び刃状転位の平行アレイ12が二次層中に形成される。これとは対照的に、ステップFによれば、初期(001)ダイヤモンド基板を良好に前処理し、その結果として、<100>刃状転位が一次層中に生じるが、比較的低い<110>成長速度と<001>成長速度の比が二次層8を形成するために用いられる場合、<100>方位の混合45°及び刃状転位の非平行アレイ14が二次層中に形成される。
【0074】
上述したような(110)基板上の成長は、(001)表面上の成長よりも二次層中に多種多様な転位タイプを生じさせるやり方を提供する。二次(110)層中の転位の考えられる方位及びタイプが以下にまとめて示されている。
線方向 転位タイプ(<110>バーガースベクトルを仮定する)
[100] → 刃状
[100] → 混合45°
[110] → 混合60°(コアエネルギーの面最も望ましい)
[110] → 刃状
[110] → 混合45°
[110] → 螺旋(コアエネルギーの面では好ましさの度合いが最も低い)
【0075】
二次層中の転位のこれらの種々のタイプ及び方位も又図3及び図4に示されている。図3は、(110)成長CVD合成ダイヤモンド層中の成長方向に平行な方向に伝搬する転位タイプを示す図である。成長方向は、図において垂直方向である<110>方向に一致している。転位は、一次CVD層(図の各々中の下側の層)中において刃状又は45°混合転位から伝搬する。図4は、(110)CVD合成ダイヤモンド層中を成長方向に対して鋭角をなして伝搬する転位タイプを示している。これら転位は、垂直方向に対して約45°の角度をなして<100>方向に伝搬する。この場合も又、転位は、一次CVD層中を刃状又は45°混合転位から伝搬する。したがって、図3は、図2と関連して上述したようにステップD,Eに従って生じる転位を示し、これに対し、図4は、図2と関連して上述したようにステップFに従って生じる転位を示している。
【0076】
エネルギー的に見て、二次層中の最も望ましい転位(最も低いコアエネルギー)は、<110>混合60°転位である。二次層中の<110>混合60°転位は、一次層中の<100>混合45°転位の結果であり又は一次層から形成された(110)基板の表面前処理の不良によるものである。一般的に言えば、混合転位タイプは、刃状又は螺旋転位よりも低いエネルギーのものである傾向がある。一次層中の<100>混合45°転位は、前処理が不良である基板上の成長に起因して生じる。一次層を良好に前処理された(001)基板表面上に良好な仕上げで成長させると、それにより、一次層中に極めて僅かな<100>混合45°転位が生じ、従って、二次層中の<110>混合60°転位の個数を最小限に抑えることが助けられる。転位は又、二次層と一次層から作られた(110)基板との間のインターフェースのところに作られる。(110)基板の表面前処理が良好である場合、インターフェースのところで生じる転位は、<100>刃状又は混合45°タイプのものであるに過ぎない。(110)基板の表面前処理が不良である場合、<110>混合60°転位が更に作られることになる。したがって、インターフェースのところで作られる二次層中の<110>混合60°転位の個数を最小限に抑えることは、(110)基板を高い規格に合わせて処理することによって達成できる。これらステップの両方が<110>混合60°転位をなくすために実施された場合、<110>若しくは<100>刃状、<100>混合45°又は<110>螺旋転位の成長が行われ、そして成長プロセスパラメータの調節によって選択される。
【0077】
上述したことに加えて、本発明の実施形態は、(i)二次層中の<110>混合60°転位を除去するために<100>混合45°転位を除去するような一次層の制御及び(ii)基板と二次層との間のインターフェースのところでの<110>混合60°転位の生成を回避するための一次層から作られた(110)基板の表面前処理の制御を可能にすることが明らかである。この場合、二次層中の成長速度を制御するのが良く、その結果としての単結晶CVD合成ダイヤモンド材料は、<100>混合45°及び/又は<100>刃状転位を含む非平行転位アレイを有するようになる。
【0078】
基板表面処理を利用すると共にCVD成長パラメータを制御することによる単結晶CVD合成ダイヤモンド材料中に提供できる転位の方位及びタイプを制御することに加えて、材料中に形成される転位の密度を制御することも又可能である。一般に、基板の成長面のところの欠陥の濃度が低いと、それにより、基板上に成長させたCVD合成ダイヤモンド材料中の欠陥の密度が低くなる。さらに、CVD化学的性質及びプロセスパラメータ、例えば圧力、基板温度、反応体の流量及びプラズマ温度の注意深い制御により、CVD合成ダイヤモンド材料中に成長する欠陥の密度を減少させることができる。例えば、(001)単結晶CVD合成ダイヤモンドの一次層は、10cm-2〜1×108cm-2の転位密度を有するのが良い。さらに、(110)単結晶CVD合成ダイヤモンドの二次層は、10cm-2〜1×108cm-2の転位密度を有するのが良い。
【0079】
本発明の実施形態は又、単一タイプの転位(例えば、<110>60°混合転位又は<100>45°混合転位)を分離して調べ、これらの基本的特性を評価し、そして装置性能の面で多少の損失を生じさせるのがどのタイプの転位であるかを研究することができる。したがって、本発明の実施形態は、転位の濃度、分布、方位及びタイプが選択されて材料特性に対するこれらの影響を最小限に抑え又はそれどころか材料特性を向上させるよう制御されている単結晶CVD合成ダイヤモンド製品を提供するという可能性を拓く。これら材料特性としては、光学複屈折性、電気的(絶縁破壊及びμ)、ルミネッセンス及び機械的(耐摩耗性及び靱性)があげられる。
【0080】
本発明の実施形態は、10cm-2〜1×108cm-2、1×102cm-2〜1×108cm-2又は1×104cm-2〜1×107cm-2の転位密度を有する有意体積を備えた単結晶CVD合成ダイヤモンド製品を提供することができる。代替的に又は追加的に、単結晶CVD合成ダイヤモンド製品は、5×104以下、5×10-5以下、1×10-5以下、5×10-6以下又は1×10-6以下の複屈折性を有するのが良い。この材料は又、0.001〜20ppm、好ましくは0.01〜0.2ppmの濃度範囲の単一の置換原子窒素を含むのが良い。
【0081】
本発明の説明は、主として、{110}方位成長に関するが、本発明者は又、同様な説明が{113}方位基板上におけるCVD成長に関して適用されることを見出した。事実、初期結果の示すところによれば、{113}方位基板上で本発明を実施した場合の利点が幾つか存在する。というのは、非平行転位アレイを依然として保持しながら成長速度を押し上げることができるからである。判明したこととして、{113}結晶方位を有する非平行転位アレイを含む厚くて高品質の単結晶CVD合成ダイヤモンド材料を作製することができる。{110}方位と{113}方位の著しい差の1つは、或る特定の{110}実施形態に関し、非平行転位アレイがX線トポグラフィ断面図では見えるが、ルミネッセント条件下では見えず、これに対し、或る特定の{113}実施形態に関し、非平行転位アレイは、ルミネッセント条件下では見えるが、X線トポグラフィ断面図では見えないということにある。これは、或る特定の線方向における転位が青色のルミネッセント光を放出し(青色の発光を生じ)他方、他の線方向では、転位がそのようには発光しないからである。{113}実施形態に関し、非平行転位アレイに属する転位の結晶線方向は、これらが青色ルミネッセント光を放出しないようなものである。
【0082】
本明細書において説明した方法に従って形成された単結晶CVD合成ダイヤモンド層の幾つかの実施例が図5から図8に示されており、以下これらについて説明する。
【0083】
実施例1
【0084】
(001)方位の約5°以内の1対の互いにほぼ平行な主要面を備えた合成タイプ1bHPHTダイヤモンドプレートを選択した。このプレートを以下のステップを含むプロセスによって単結晶CVD合成ダイヤモンド材料のホモエピタキシャル合成に適した正方形基板に二次加工した。
i)基板をレーザ切断して全て<100>エッジを備えたプレートを作製するステップ、及び
ii)成長が起こる主要面をラップ仕上げして研磨するステップ。ラップ仕上げされて研磨された部品は、全ての面{100}を備えた約6.0mm×6.0mmの厚さ400μmの寸法を有する。
【0085】
欧州特許第1,292,726号明細書及び同第1,290,251号明細書に開示されているように基板の注意深い前処理によって基板表面のところ又はその下の欠陥レベルを最小限に抑えた。プラズマ暴露エッチングを用いることによってこの処理により導入された欠陥レベルを明らかにすることが可能である。暴露エッチング後に測定可能な欠陥密度が主として材料品質で決まり、5×103mm-2未満であり、通常は102mm-2未満である基板を作製することが日常的に可能である。この段階での表面粗さは、少なくとも50μm×50μmの測定面積にわたり10nm未満であった。基板を基板キャリヤ上に載せた。次に、基板及びそのキャリヤをCVD反応器チャンバ内に導入し、ガスを以下のようにチャンバ中に送り込むことによってエッチング及び成長サイクルを開始させた。
【0086】
まず最初に、230トルの圧力の16/20/600sccm(毎分の標準立方センチメートル)のO2/Ar/H2、2.45GHzのマイクロ波周波数及び780℃の基板温度を用いて現場酸素プラズマエッチングを実施し、その後水素エッチングを実施し、酸素がこの段階でガス流から除去される。次に、第1段成長プロセスを22sccmのメタンの添加によって開始させた。気相中に800ppbのレベルを達成するよう窒素を添加した。水素も又、プロセスガス中に存在した。この段階で基板温度は、827℃であった。次の24時間をかけて、メタン含有量を32sccmに増大させた。これら成長条件は、先の試験に基づいて2.0±0.2のαパラメータ値を与えるよう選択されており、結晶学的検査によってこれら成長条件を訴求的に確認した。成長期間の完了時、基板を反応器から取り出し、CVD合成ダイヤモンド層をレーザ鋸引き及び機械的研磨技術によって基盤から取り出した。
【0087】
成長後のCVD合成ダイヤモンドプレートの研究の結果として明らかになったこととして、この成長後のCVD合成ダイヤモンドプレートには(001)面に双晶及び割れがなく、且つ成長後のCVD合成ダイヤモンドプレートが<110>側部によって境界付けられ、双晶のない頂(001)面の合成後寸法を8.7mm×8.7mmに増大させた。
【0088】
次に、1bHPHTプレートの製作のために上述したのと同一の技術(切断、ラップ仕上げ、研磨及びエッチング)を用いてこのブロックを処理して主要面(110)及び寸法3.8×3.2mm、厚さ200μmの良好に前処理された表面を有するプレートを製作した。次に、合成段階中、基板温度が800℃であり、窒素をドーパントガスとして導入しなかったことを除き、上述したのと同一の条件を用いてこれを取り付けて成長させた。これにより、(110)主要面を備えたCVDサンプルが作られ、CVDブロックは、5.0×4.1mm、厚さ1.6mmの代表的な寸法を有していた。
【0089】
この実施例に関して、転位構造を研究するため、ブラッグ{533}反射を利用してX線断面トポグラフを記録した((100)断面に対応している)。X線トポグラフが図5に示されている。図5は、転位の平行アレイを含む本発明の実施形態に従って垂直にスライシングされた(110)CVD合成基板上に成長させた単結晶CVD合成ダイヤモンド層を示している。この断面で見て、転位は、成長方向、即ち[110]方向を辿る平行配列体を形成している。かかる形態は、図2に示されているステップD又はステップEに対応していると言える。
【0090】
図5に示されている実施例に関し、<110>:<001>成長速度比は、1.1であり、従って、成長が熱力学的要因ではなく、運動学的要因によって支配される可能性が多分にある「高」範囲内に収まっている。この画像から明らかなこととして、実施例1の転位は、平行アレイを形成している。X線トポグラフで画像化された転位の85%は、<110>成長方向の0°〜2°にあることが理解できる。
【0091】
実施例2
【0092】
(110)基板を実施例1において説明したやり方と同一のやり方で作製した。第2成長段に関する成長条件は、基板温度を約730℃まで70℃減少させたことを除き、実施例1の成長条件と同一であった。これにより、5.7×3.5mm、厚さ1.4mmの寸法を備えたCVDサンプルが作られた。基板温度に対する見た目に小さい変化は、成長速度比<110>:<001>を高い値から低い値(約0.4)に減少させた。
【0093】
この実施例に関して、転位構造を研究するため、ブラッグ{533}反射を利用してX線断面トポグラフを記録した((100)断面に対応している)。X線トポグラフが図6に示されている。図6は、転位の非平行アレイを含む本発明の実施形態に従って垂直にスライシングされた(110)CVD合成基板上に成長させた単結晶CVD合成ダイヤモンド層を示している。転位は、非平行アレイを形成し、[110]方向に近い方向に伝搬していることが容易に理解できる。かかる形態は、図2に示されているステップFに対応していると言える。
【0094】
図6に示されている実施例の場合、<110>:<001>成長速度比は、0.4であり、従って、成長が運動学的要因ではなく、熱力学的要因によって支配される可能性が多分にある「低」範囲内に収まっている。図6から理解できるように、実施例2の転位は、非平行アレイを含む。転位は、単結晶CVD合成ダイヤモンド層の全体積にわたって相互交差転位のアレイを形成している。転位は、2つの方向に伝搬し、第1の方向と第2の方向のなす角度は、66°〜72°である。サンプルの全体積中に存在する転位の95%は、<100>線方向の9°〜12°の間に配向されている。さらに、サンプルの全体積中に存在する転位の95%は、<110>成長方向から33°〜36°である。12個のNV中心の分析結果の示すところによれば、これらNV中心は全て、優先的方位が(110)成長面に対して面外の<111>方向にある状態で成長していた。
【0095】
図7は、図6のCVD合成ダイヤモンド材料に関する複屈折顕微鏡写真図を示す図であり、このサンプルに関する大きな転位密度を考慮して比較的小さい歪を示す図である。また、初期データの示すところによれば、図6及び図7に示されているCVD合成ダイヤモンド材料は、材料硬さが増大している。バルマー,他(Balmer et al.),「ジャーナル・オブ・フィジックス:コンデンスド・マター(J. Phys.: Condensed Matter)」,2009年,第21巻,364221による初期総括論文は既に、(110)方位を用いて作られたツールが(001)平面を備えたツールよりも摩耗が少なく且つ耐衝撃性が高いことを開示している。本明細書において説明する新材料の初期データの示すところによれば、新材料は、耐摩耗性の面での(110)ダイヤモンドの利点と硬さの増大(例えば、少なくとも100GPa、より好ましくは少なくとも120GPa)を組み合わせて備えている。
【0096】
実施例3
【0097】
合成タイプ1bHPHTダイヤモンドを切断して(113)方位の約5°の範囲内に1対の互いにほぼ平行な主要面を備えたプレートを形成した。成長が行われる主要面をラップ仕上げ及び研磨によって更に処理した。
【0098】
基板を基板キャリヤ上に載せた。次に、基板及びそのキャリヤをCVD反応器チャンバ内に導入した。基板温度を実施例2に記載されているように約730℃まで70℃減少させたことを除き、エッチング及び成長サイクルを実施例1に記載したように実施した。
【0099】
結果的に得られた単結晶CVD合成ダイヤモンド材料は、ルミネッセント条件(或る特定の結晶線方向の転位の青色ルミネッセント光特性を放出する)下で見えるが、X線トポグラフィ断面図では見えない非平行転位アレイを含むことが判明した。
【0100】
図8は、X線トポグラフィ断面図(上側)及びルミネッセント条件(下側)下における{110}及び{113}方位の基板(実施例2及び実施例3において説明した)上に成長させた単結晶CVD合成ダイヤモンド層を示している。図で理解できるように、{110}実施例に関し、非平行転位アレイは、X線トポグラフィ断面画像では見えるが、ルミネッセント画像では見えず、これに対し、{113}実施例に関し、非平行転位アレイは、ルミネッセント画像では見えるが、X線トポグラフィ断面画像では見えない。
【0101】
本発明を好ましい実施形態に関して具体的に図示すると共に説明したが、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲から逸脱することなく形態及び細部における種々の変更を実施できることは当業者には理解されよう。
図1
図2-1】
図2-2】
図3
図4
図5
図6
図7
図8