(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
燃料電池と、この燃料電池を冷却する冷却液の循環流路と、この循環流路に設けられ、前記冷却液の導電性を維持するイオン交換樹脂とを備えた燃料電池システムであって、前記冷却液が添加剤を含有するものであり、前記イオン交換樹脂が、前記添加剤に由来するイオンのみ、前記イオン交換樹脂への吸着を飽和状態に調製したものである燃料電池システム。
前記イオン交換樹脂の調製が、前記イオン交換樹脂に前記添加剤を含有する溶液を通液するか又は前記添加剤を含有する溶液に前記イオン交換樹脂を浸漬することによって行う請求項1に記載の燃料電池システム。
【背景技術】
【0002】
燃料電池車では、燃料電池の発熱反応によって燃料電池が温度上昇するため、冷却液で燃料電池を冷却する一方、冷却液は、冷却系統中に設置したラジエータによって放熱することで、燃料電池の作動温度を最適値(例えば80℃)に維持している。
【0003】
燃料電池の冷却液は、燃料電池スタック内を流れているため、冷却液の導電性が高いと、電池の短絡や漏電のおそれがある。よって、冷却液としては、イオン交換水(導電率は1mS/m以下)や、低導電性の不凍液(例えば、導電率10mS/m以下)が用いられる(特開2000−208157号公報、特開2001−164244号公報)。
【0004】
燃料電池車の場合、気温零度以下の環境で使われることが想定され、凍結のおそれがあるイオン交換水の使用は好ましくない。よって、燃料電池の冷却液としては、自動車用不凍液の凝固点降下剤としてよく用いられるグリコール類を使用することが好ましい。しかし、このグリコール類は、熱劣化により有機酸などの腐食性物質を生成して金属部品を腐食することが知られている。したがって、グリコール類を冷却液に使用する場合、通常、防食剤や酸化防止剤などのインヒビタが冷却液に添加される(特開2001−164244号公報、再表03/094271号公報)。
【0005】
また、冷却液は、このような有機酸などの熱劣化による生成物がイオン化したり、冷却系統の部品材料(ゴム、金属など)からイオンが溶出したりすることから、冷却液の導電性が高くなるという問題がある。そこで、燃料電池の冷却系統にイオン交換樹脂を設置してイオンを除去し、冷却液の導電性を低く維持することが行われている(特開2002−172391号公報、特開2004−192959号公報)。イオン交換樹脂としては、陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂の双方を混合した混床式のものが用いられている(特開2007−299574号公報)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、本発明の一実施の形態について説明する。
図1に示すように、燃料電池車10は、燃料電池スタック20と、この燃料電池スタックを冷却する冷却液1の放熱を行うラジエータ11を備えている。この燃料電池車10は、燃料電池スタック20に酸素を供給するため、車外から空気2を取り込む。また、燃料電池車10は、燃料電池スタック20に水素4を供給する水素タンク15を備えている。
【0016】
燃料電池車10は、燃料電池スタック20で発電した電力3を駆動力として使うためのインバータ12および駆動モータ13を備えている。さらに、燃料電池車10は、バッテリやキャパシタなどの二次電池14を、インバータ12に対して燃料電池スタック20と並列に備えている。インバータ12は、燃料電池スタック20の発電電力のうち余剰分の電力3を二次電池14にチャージしたり、始動時など燃料電池スタック20の発電電力の不足分の電力3を二次電池14から補ったりするように動作する。
【0017】
次に、燃料電池スタック20とその冷却系統を含む燃料電池システムについて詳しく説明する。
図2に示すように、燃料電池スタック20は、単セル30が複数直列に積層したものである。単セル30は、固体高分子形燃料電池を例として挙げると、膜電極接合体31の両面にアノード側ガス拡散層32とカソード側ガス拡散層33を積層し、さらにその外側面にアノード側セパレータ34とカソード側セパレータ35を積層したものである。単セル30は、全体として平板状の形状を有している。
【0018】
アノード側ガス拡散層32に水素を供給し、カソード側ガス拡散層33に空気を供給することで、膜電極接合体31で電気化学反応が起こり、電気エネルギーが発生する。この発電により各単セル30で熱が生じる。よって、この熱を冷却するため、燃料電池スタック20には、冷却液が流れる冷却液流路21を配設している。冷却液流路21は、冷却液を繰り返し利用するために、循環路となっている。冷却液流路21には、循環利用しても冷却液の導電性を維持するためのイオン交換樹脂22と、熱をもった冷却液を冷却する熱交換器23と、冷却液を循環させるポンプ24を配置している。熱交換器23は、
図1に示すようにラジエータ11でよい。冷却液流路21は、各単セル30を効率的に冷却するため、単セル30間に冷却液が流れる複数の流路21aに分岐している。
【0019】
冷却液の主成分である基材としては、低導電率で、不凍性を有するものが望ましく、具体的には、水、アルコール類、グリコール類、及びグリコールエーテル類の中から選ばれる1種若しくは2種以上の混合物を用いることができる。
【0020】
アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノールの中から選ばれる1種若しくは2種以上の混合物を挙げることができる。
【0021】
グリコール類としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ヘキシレングリコールの中から選ばれる1種若しくは2種以上の混合物を挙げることができる。
【0022】
グリコールエーテル類としては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテルの中から選ばれる1種若しくは2種以上の混合物を挙げることができる。
【0023】
これらの中でも、冷却液の基材としては、自動車用冷却液の凝固点降下剤としてよく用いられるグリコール類、特に、エチレングリコールやプロピレングリコールを用いることが好ましい。
【0024】
本発明の冷却液は、上記の基材の他、添加剤を含有するものであるが、本発明の対象となる添加剤としては、冷却液に添加するとイオン化する添加剤である。この添加剤が有する効果は、特に限定されないが、以下に挙げるものが好ましい。
【0025】
添加剤としては、先ず、防食剤または酸化防止剤といったインヒビタが挙げられる。冷却液は、循環利用により熱劣化または酸化して腐食性物質を生成するが、インヒビタは、この腐食性物質による金属の腐食抑制や腐食性物質の生成を抑えることができる。このようなインヒビタとして、具体的には、アゾール類、脂肪族カルボン酸、芳香族カルボン酸、リン酸、ケイ酸、硝酸、亜硝酸、ホウ酸、モリブテン酸、及びそれらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩、並びにアミン類を挙げることができる。
【0026】
アゾール類として、トリアゾール類、ジアゾール類、チアゾール類が挙げられる。トリアゾール類としては、例えば、ベンゾトリアゾール、メチルベンゾトリアゾール、シクロベンゾトリアゾールおよび4−フェニル−1,2,3−トリアゾールが挙げられる。ジアゾール類としては、例えば、イミダゾリン、イミダゾール、メルカプトイミダゾリン、メルカプトイミダゾール、ベンズイミダゾール、メチルイミダゾールなどが挙げられる。チアゾール類としては、例えば、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾチアゾール及びそれらのアルカリ金属塩が挙げられる。2−メルカプトベンゾチアゾールの構造およびイオン化を以下に示す。
【0028】
この化合物のイオン化は、化合物中のSHのイオン化に起因するものである。通常、イオン交換樹脂が吸着除去の対象にしているイオンは、腐食性生成物である有機酸イオン(カルボキシルイオン)や、冷却系統部品からの溶出イオンである金属イオンであるので、このようなSHなどがイオン化する添加剤についてその吸着を飽和状態にしても、有機酸や金属イオン等のイオン交換樹脂が対象とするイオンを全て吸着除去することができる。
【0029】
脂肪族カルボン酸としては、例えば、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、2−エチルヘキサン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、リシノール酸、ステアリン酸などの脂肪族一塩基酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピペリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン2酸、ドデカン2酸、ブラシル酸、タプチン酸などの脂肪族二塩基酸が挙げられる。
【0030】
芳香族カルボン酸としては、例えば、安息香酸、ニトロ安息香酸、ヒドロキシ安息香酸などの安息香酸類、p−トルイル酸、p−エチル安息香酸、p−プロピル安息香酸、p−イソプロピル安息香酸、p−tertブチル安息香酸などのアルキル安息香酸、一般式RO−C
6H
4−COOH(RはC
1〜C
5のアルキル基)で表されるアルコキシ安息香酸、一般式R−C
6H
4−CH=COOH(RはC
1〜C
5のアルキル基またはアルコキシ基)で表されるケイ皮酸、アルキルケイ皮酸、アルコキシケイ皮酸などが挙げられる。
【0031】
リン酸としては、例えば、正リン酸、ピロリン酸、トリメタリン酸、テトラメタリン酸などが挙げられる。
【0032】
また、添加剤として、分散性向上のため、界面活性剤を添加することができる。界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤が挙げられる。アニオン系界面活性剤としては、例えば、カルボン酸塩、スルホン酸塩、硫酸エステル塩、リン酸エステル塩などが挙げられる。カチオン系界面活性剤としては、例えば、脂肪族アミン、ピリジニウム塩などが挙げられる。ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステルなどが挙げられる。
【0033】
さらに、添加剤として、冷却液に泡が発生するのを抑えるために、消泡剤を添加することができる。消泡剤としては、例えば、シリコン系消泡剤が挙げられる。
【0034】
イオン交換樹脂22は、腐食性生成物の有機酸イオンや、冷却系統用部品からの溶出イオンである金属イオンなどを幅広く除去するため、陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂との双方を混合して混床式としたものを用いることが好ましい。もちろん、陽イオン交換樹脂のみでも、陰イオン交換樹脂のみでもよい。
【0035】
イオン交換樹脂22は、冷却液に添加する添加剤の効果を長期間にわたり維持するため、この冷却液に添加する所定の添加剤の吸着を飽和状態に調製したものを用いる。このイオン交換樹脂22の調製は、イオン交換樹脂22に、添加剤を含有する溶液を通液することで行うことができる。
【0036】
より詳細に説明すると、
図3に示すように、イオン交換樹脂の調製用装置40は、所定の添加剤を含有する溶液を供給する供給タンク41と、この添加剤溶液をイオン交換樹脂22に通液する溶液流路42と、イオン交換樹脂に通液した後の添加剤溶液を回収する回収タンク44とを備えている。溶液流路42には、添加剤溶液の時間当たりの流量を測定する流量計43と、添加剤溶液を供給タンク41から回収タンクまで送液するポンプ45とを配置する。添加剤溶液が接触する全ての部品には、イオン溶出の少ない材料、例えば、ホウケイ酸ガラス、オレフィン系樹脂、フッ素樹脂などを使用することが好ましい。
【0037】
この調製用装置によれば、溶液流路42に、調製の対象となるイオン交換樹脂22を装着し、ポンプ45を起動することで、イオン交換樹脂に添加剤溶液が通液する。そして、イオン交換樹脂に所定の添加剤が吸着しなくなるまで、すなわち、吸着が飽和状態になるまで通液を行う。このように添加剤由来の所定のイオンのみ、吸着を飽和させておくことで、燃料電池システムにおいて、イオン交換樹脂22は、冷却液の熱劣化により生じる有機酸イオンや、冷却系統用部品の溶出イオンである金属イオンなどを吸着し、冷却液の導電率を低く維持することができるともに、冷却液に含まれる添加剤は吸着しないので、防食性能や耐酸化性能といったインヒビタなどの添加剤の効果を十分に発揮することができる。
【0038】
また、有機酸生成による悪影響は、導電率の上昇のみではなく、冷却液のpH低下(例えばpH3程度まで低下)も招くので、ラジエータ等の冷却系部品に使われているアルミニウムを腐食する可能性がある(アルミニウムの不働態域はpH4〜9であり、防食剤が無い場合、腐食が起こる可能性がある)。よって、有機酸イオンをイオン交換樹脂で吸着除去することで、防食性の効果も発揮することができる。
【0039】
添加剤溶液の溶媒としては、添加剤がイオン化するものであれば、特に限定されないが、冷却液の主成分であるグリコール類などの基材を用いてもよいし、イオン交換水などでもよい。添加剤溶液中の添加剤濃度は、特に限定されないが、高濃度である程、イオン交換樹脂への吸着量が多いため、添加剤溶液の通液量を少なくし、また通液時間を短縮することができる。
【0040】
添加剤溶液のイオン交換樹脂への時間当たりの通液量は、多い程、飽和状態までの通液時間を短縮することができる。但し、時間当たりの通液量が多すぎると、圧力損失も増加することから、イオン交換樹脂の体積当たりの添加剤溶液の流量である空間速度SVは10〜50の範囲にすることが好ましい。
【0041】
イオン交換樹脂の調製は、上述したような通液式によるものに限定されるものではなく、例えば、添加剤溶液中にイオン交換樹脂を浸漬することでも、添加剤由来の所定のイオンのみ、吸着を飽和させることができる。
【実施例】
【0042】
(イオン交換樹脂へのインヒビタの吸着試験)
以下、添加剤としてインヒビタを用いた実施例および予備的な試験例について述べる。冷却液中のインヒビタがイオン交換樹脂に吸着され、インヒビタが減少する現象が発生しているかを確認する試験を行った。インヒビタとして2−メルカプトベンゾチアゾールを用い、初期導電率が1.5mS/mの冷却液(50%v/v水溶液)を、150mLの容量のイオン交換樹脂に、空間速度SV=10、温度25℃で通液した。その結果、通液後の冷却液の導電率は0.5mS/mまで低下し、インヒビタ濃度は初期の10%にまで減少した。これにより、インヒビタがイオン交換樹脂に吸着してしまうことが確認された。
【0043】
(インヒビタが減少した冷却液の熱劣化性試験)
イオン交換樹脂にインヒビタが吸着した冷却液は、耐酸化性能および防食性能が低下するかを確認する試験をさらに行った。上記試験で得た冷却液を、90℃で2000hにわたり恒温槽内に保管する熱劣化試験を行った。その結果、比較として、イオン交換樹脂への通液をしなかった無処理の冷却液と比べて、表1に示すように、導電率が劇的に上昇した。
【0044】
【表1】
【0045】
熱劣化試験後の冷却液をイオンクロマトグラフィで分析したところ、冷却液中にギ酸イオン、酢酸イオン、乳酸イオンが検出された。これら有機酸は、グリコール系の冷却液の熱劣化生成物として知られており、イオン化することで冷却液の導電率を高くする。冷却液中の各有機酸イオンの濃度と冷却液の導電率との関係を求めたところ、
図4に示すように、いずれの有機酸イオンについても相関性があることを確認した。よって、表1に示すように、インヒビタが減少した冷却液は、熱劣化により多量の有機酸が発生したことから、耐酸化性能が大幅に低下していることが確認された。
【0046】
(吸着等温線の作成試験)
JIS K1474「活性炭試験方法」に基づき、250mLの冷却液中に5〜30mL(体積)のイオン交換樹脂を添加し、25℃、24hの振とう吸着試験を行い、試験後の冷却液中のインヒビタ残留率を求めた。その結果を
図5に示す。
図5に示すように、イオン交換樹脂の添加量が増加する程、冷却液中のインヒビタ残留率は減少した。また、このイオン交換樹脂添加量とインヒビタ残留率の結果から、イオン交換樹脂単位体積(1000mL)当たりのインヒビタ吸着量を求め、吸着等温線を作成した(
図6)。なお、冷却液1000mL当たりのインヒビタ量は300単位である。
図6に示すように、飽和平衡状態の時のイオン交換樹脂単位体積当たりのインヒビタ吸着量は、イオン交換樹脂の添加量に関わらずほぼ一定であることが確認された。
【0047】
(飽和状態のイオン交換樹脂の調製)
イオン交換樹脂として、マクロポーラス構造の陽イオン交換樹脂(PUROLITE社製のC160)とマクロポーラス構造の陰イオン交換樹脂(PUROLITE社製のA500)を3:7の割合で混合して混床式のものを用いた。このイオン交換樹脂40mLを、内径18mmφのホウケイ酸ガラス製のカラムに充填した。
【0048】
イオン交換樹脂に通液するインヒビタ溶液として、冷却液と同様の組成のものを用いた。すなわち、インヒビタ溶液は、冷却材の基材である凝固点降下剤としてプロピレングリコールを用い、濃度50%v/vの水溶液とした。インヒビタとして、2−メルカプトベンゾチアゾールを用いた。
【0049】
インヒビタの濃度を1%v/vとなるように添加したところ、添加前後で、プロピレングリコール水溶液の導電率は0.5mS/mから0.9mS/mに上昇した。そして、この初期導電率0.9mS/mのインヒビタ溶液を、
図3に示す調製用装置を用いて、25℃で40mLのイオン交換樹脂にSV=10で通液した。その結果を表4に示す。表2に示すように、通液量が400mL、800mLと増える毎に回収したインヒビタ溶液のインヒビタ残留率は高くなり、2400mLの時にインヒビタ残留率が100%となった。すなわち、このイオン交換樹脂は、インヒビタの吸着が飽和状態になった(実施例1)。
【0050】
【表2】
【0051】
同様の条件で再び初期導電率0.9mS/mの冷却液を、25℃で40mLのイオン交換樹脂にSV=10で通液した。その結果を表3に示す。表3に示すように、通液量が1000mL、1500mL、2000mLと増える毎にインヒビタ残留率が高くなり、2500mLの時にインヒビタ残留率が100%となった。
【0052】
【表3】
【0053】
インヒビタ溶液のインヒビタ(アゾール類)濃度が、表4に示すように、2、4、10%v/vとなるように添加したこと以外は実施例1と同様にして、イオン交換樹脂を飽和状態に調製した(実施例2〜4)。その結果を表5〜表7に示す。また、これらの結果から、インヒビタ濃度と飽和通液量との関係を示すグラフを
図7に示す。
図7に示すように、インヒビタ溶液の濃度が高くなる程、イオン交換樹脂を飽和状態にするまでのインヒビタ溶液の通液量は少なくなったが、その傾向は、あるインヒビタ濃度までは強く、それを超えると弱いことが確認された。
【0054】
【表4】
【0055】
【表5】
【0056】
【表6】
【0057】
【表7】
【0058】
(飽和状態のイオン交換樹脂のイオン交換能)
このようにインヒビタの吸着が飽和状態に達したイオン交換樹脂のイオン交換能を確認する試験を行った。導電率が0.1mS/mの回収したインヒビタ溶液にギ酸カリウムを4mg添加して導電率を0.3mS/mとした。この溶液を、25℃で40mLの飽和状態のイオン交換樹脂にSV=10で通液した。その結果を表8に示す。表8に示すように、インヒビタは吸着しなかったものの、導電率が低下し、ギ酸イオンおよびカリウムイオンを吸着したことが確認された。
【0059】
【表8】
【0060】
同様に、導電率が0.1mS/mの回収したインヒビタ溶液にギ酸カリウムを40mg添加して導電率を7.0mS/mとした。この溶液を、25℃で40mLの飽和状態のイオン交換樹脂にSV=10で通液した。その結果を表9に示す。表9に示すように、インヒビタは吸着しなかったものの、導電率が低下し、ギ酸イオンおよびカリウムイオンを吸着したことが確認された。
【0061】
【表9】
【0062】
燃料電池の冷却系統用のゴムホースの評価試験に使用して、導電率が5.1mS/mと上昇した使用済み冷却液を、25℃で40mLの飽和状態のイオン交換樹脂にSV=10で通液した。その結果を表10に示す。なお、この使用済み冷却液をイオンクロマトグラフィで分析したところ、ギ酸イオン、酢酸イオン、乳酸イオン、カルシウムイオン、カリウムイオン、ナトリウムイオン、亜鉛イオンが検出された。これらのうち、有機酸イオンは冷却液の熱劣化生成物、金属イオンは燃料電池の冷却系統用部品からの溶出物であると考えられる。表10に示すように、インヒビタは吸着しなかったものの、導電率が低下し、上述の有機酸イオンおよび金属イオンを吸着したことが確認された。
【0063】
【表10】