(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、添付図を参照して本発明の好適な実施形態を説明する。
【0028】
図1に、本発明の一実施形態におけるMOPA方式ファイバレーザ加工装置の構成を示す。このファイバレーザ加工装置は、シード光発生部10、第1および第2の増幅用光ファイバ(以下「アクティブファイバ」と称する)12,14および光ビーム照射部16をアイソレータ18,20,22および光結合器24,26を介して光学的に縦続接続している。
【0029】
シード光発生部10は、シード用のレーザダイオード(以下「シードLD」と称する。)30と、このシードLD30をパルス波形の電流で駆動してパルス発振させるシードLD電源回路32と、シードLD30の温度を制御するLD温調部34とを有している。シードLD30は、ファイバカップリングLDとして構成されている。
【0030】
シード光発生部10と第1のアクティブファイバ12との間に設けられる光結合器24は、複数たとえば3つの入力ポート24IN(1),24IN(2),24IN(3)と1つの出力ポート24OUTとを有している。第1の入力ポート24IN(1)には、アイソレータ18を介してシードLD30が接続される。第2の入力ポート24IN(2)には、第1のアクティブファイバ12のコアを励起するための励起用LD(以下「ポンプLD」と称する。)36が接続される。第3の入力ポート24IN(3)は、増設ポートであり、ここに別のポンプLD36(図示せず)を接続することも可能となっている。出力ポート24OUTには、アクティブファイバ12の入力端が接続される。
【0031】
シード光発生部10、アイソレータ18および光結合器24によって、第1のアクティブファイバ12に対するシード光注入部が構成されている。また、ポンプLD36および光結合器24によって、第1のアクティブファイバ12に対する励起光注入部が構成されている。
【0032】
第1のアクティブファイバ12は、少なくともYbイオンを添加した石英からなるコアと、このコアを同軸に取り囲むたとえば石英からなるクラッドとを有しており、全長(ファイバ長)がたとえば3〜15mに選ばれている。第1のアクティブファイバ12(第1段アンプ)の利得は、ポンプLD36の総合出力によりたとえば10〜40dBの範囲で調節可能となっている。
【0033】
第1のアクティブファイバ12と第2のアクティブファイバ14との間に設けられる光結合器26は、複数たとえば7つの入力ポート26IN(1),26IN(2)〜26IN(7)と1つの出力ポート26OUTとを有している。第1の入力ポート26IN(1)には、アイソレータ20を介して第1のアクティブファイバ12の出力端が接続される。第2〜第5の入力ポート26IN(2) 〜26IN(5)には、第2のアクティブファイバ14のコアを励起するためのポンプLD38がそれぞれ接続される。第6および第7の入力ポート26IN(2),26IN(7)は空きポートとなっているが、必要に応じてポンプLDを増設することもできる。出力ポート26OUTには、第2のアクティブファイバ14の入力端が接続される。
【0034】
第2のアクティブファイバ14も、第1のアクティブファイバ12と同様に、少なくともYbを添加した石英からなるコアと、このコアを同軸に取り囲むたとえば石英からなるクラッドとを有しており、全長(ファイバ長)がたとえば3〜15mに選ばれている。第2のアクティブファイバ14(第2段アンプ)の利得は、ポンプLD38の総合出力によりたとえば10〜40dBの範囲で調節可能となっている。
【0035】
光ビーム照射部16は、第2のアクティブファイバ14の出力端より取り出されるパルス波形の加工用光ビームLBをたとえばコリメータ39、ベントミラー40等の光伝送系を介して受け取り、受け取った光ビームLBをステージ42上の被加工物W表面の所望の位置に集光照射するようになっている。たとえば、マーキング加工を行う場合、光ビーム照射部16にはガルバノスキャナが搭載される。
【0036】
主制御部44は、キーボードあるいはマウス等の入力装置46およびディスプレイ(図示せず)等と接続するマイクロコンピュータからなり、メモリに格納された制御プログラムに基づいて上述した装置内の各部および装置全体の制御を行う。
【0037】
このMOPA方式ファイバレーザ加工装置においてマーキング加工を行う場合、シード光発生部10は、所定の波長を有するパルス波形のシード光(LD光)を所望のパルス幅(たとえば0.1〜200ns)、所望のピークパワー(たとえば10〜100mW)および所望の繰り返し周波数(たとえば20〜500kHz)で出力するように構成されている。なお、繰り返し周波数は、10kHz〜1MHzの範囲で出力するように構成することができる。シード光発生部10より出力されたパルス波形のシード光は、アイソレータ18および光結合器24を介して第1のアクティブファイバ12のコアに注入される。
【0038】
一方、ポンプLD36は、所定の波長を有する連続波(cw)の励起光を出力するように構成されている。ポンプLD36より出力される連続波の励起光は光結合器24を介して第1のアクティブファイバ12のコアに注入される。
第1のアクティブファイバ12の中で、シード光は、コアとクラッドとの境界面での全反射によって閉じ込められながらコアの中を軸方向にファイバ出力端側に向って伝搬する。一方、励起光は、クラッド外周界面の全反射によって閉じ込められながらアクティブファイバ12の中を軸方向に伝搬し、その伝搬中にコアを何度も横切ることでコア中のYbイオンを光励起する。
【0039】
こうして、シード光と励起光がアクティブファイバ12を伝搬する間に、そのYb添加コアにおいて励起光スペクトルの吸収とシード光スペクトルの誘導放出とが繰り返し行われ、アクティブファイバ12の出力端より所望のパワー(たとえば200Wのピークパワー)を有するまでに増幅されたシード光つまり第1段増幅パルスの光ビームが出される。
【0040】
第1のアクティブファイバ12の出力端から出た第1段増幅パルスの光ビームは、アイソレータ20および光結合器26を介して第2のアクティブファイバ14のコアに注入される。一方で、ポンプLD38からの連続波(cw)の励起光が光結合器26を介して第2のアクティブファイバ14のコアに注入される。
【0041】
第2のアクティブファイバ14においても、増幅対象の光ビームが異なるだけで、つまりシード光が第1段増幅光ビームに置き換わるだけで、第1のアクティブファイバ12と同様の誘導放出機構による光増幅が行われ、アクティブファイバ14の出力端より所望のパワー(たとえば20kWのピークパワー)を有する第2段増幅パルスの光ビームが出される。
【0042】
こうして、第2のアクティブファイバ14の出力端から取り出された第2段増幅パルスの光ビームが、加工用の光ビームLBとして、たとえばコリメータ39、ベントミラー40を介して光ビーム照射部16へ送られる。
【0043】
光ビーム照射部16は、マーキング加工用のガルバノスキャナおよびfθレンズを備えている。ガルバノスキャナは、直交する2方向に首振り運動の可能な一対の可動ミラーを有しており、制御部44の制御の下でシード光発生部10のパルス発振動作に同期して両可動ミラーの向きを所定角度に制御することで、加工用光ビームLBをステージ42上の被加工物W表面の所望の位置に集光照射する。被加工物Wの表面に施されるレーザ加工は、典型的には文字や図形等を描画するマーキング加工であるが、トリミング等の他の表面除去加工等も可能であ
る。
【0044】
このMOPA方式ファイバレーザ加工装置において、第1および第2のアクティブファイバ12,14のポンピングに用いられる各々のポンプLD36,38は、主制御部44の制御(制御信号PC)の下でポンプLD電源回路50によって駆動される。
【0045】
以下、この実施形態におけるポンプLD電源回路50の構成および作用を説明する。
【0046】
図2に示すように、このポンプLD電源回路50は、ポンプLD36(38)に電力を供給するための直流電源52と、この直流電源52とポンプLD36(38)との間に直列に接続されるスイッチング素子54およびチョークコイル56を有している。さらに、直流電源52と並列に平滑用のコンデンサ58を接続するとともに、チョークコイル56およびポンプLD36(38)と並列にフライホイール・ダイオード60を接続し、駆動電流I
dが流れる電流路(導体)にたとえばホール素子からなる電流センサ62を取り付けている。
【0047】
直流電源52は、たとえばAC−DCコンバータ、DC−DCコンバータあるいはバッテリからなり、一定レベルの直流電圧を安定に出力するようになっている。スイッチング素子54は、応答速度の高いトランジスタ、たとえば電界効果型トランジスタ(FET)からなる。
【0048】
制御部64は、主制御部44からの制御信号PCにしたがって、ポンプLD36(38)の発振出力持続時間およびピークパワーを制御し、たとえばパルス幅制御(PWM)方式によりスイッチング素子54を一定の高い周波数でスイッチング制御する。スイッチング素子54がスイッチング・オフしている期間中は、チョークコイル56に蓄積されていた電磁エネルギーが駆動電流I
dとなってポンプLD36(38)およびフライホイール・ダイオード60を還流するようになっている。
【0049】
こうして、スイッチング素子54がスイッチング動作を行っている間は、ポンプLD36(38)に直流の駆動電流I
dが持続的に流れ、ポンプLD36(38)より駆動電流I
dの電流値に応じた光出力を有するLD光が励起光として生成される。
【0050】
たとえばマーキング加工が行われる場合は、1回の連続したストロークの描画が終了すると、いったんそこでスイッチング素子54のスイッチング動作つまりポンプLD36(38)の駆動が停止し、次のストロークの描画が開始すると、スイッチング素子54のスイッチング動作つまりポンプLD36(38)の駆動が再開する。その際、制御信号PCにしたがって、ポンプLD36(38)に供給する駆動電流I
dの電流値および/または持続時間は随時可変されるようになっている。
【0051】
もっとも、ポンプLD36(38)に流せる駆動電流I
dには許容限界つまり定格がある。このMOPA方式ファイバレーザ加工装置で用いるポンプLD36(38)は、通常定格電流I
RSおよび絶対最大定格電流I
RMの2種類の定格電流を有している。ここで、通常定格電流I
RSは、これを少しでも超えたならだめというわけではなく、所定時間T
S以上連続して超えてはならないという意味の定格電流である。特に、この種のLDは、所定時間T
G(たとえば10ms)以上の時間間隔を空ければ、通常定格電流I
RSを超える所定時間T
S以内の通電を何度続けても故障しないことが本発明者によって確認されている。一方、絶対最大定格電流I
RMは、いかなる使用条件でも瞬時たりとも超えてはならないという意味の定格電流である。
【0052】
このポンプLD電源回路50は、ポンプLD36(38)を過大な駆動電流I
dから保護するために、通常定格電流I
RSおよび絶対最大定格電流I
RMのそれぞれの性質を踏まえて駆動電流I
dを監視する駆動電流監視部66を備えている。
【0053】
駆動電流監視部66は、電流センサ62より駆動電流I
dの電流値を表わす電圧信号(駆動電流検出信号)MI
dを受け取り、通常定格電流I
RSおよび絶対最大定格電流I
RMに照らして駆動電流I
dが過大になっていると判定したときは、その二値出力信号をたとえばLレベルに下げて、これを過電流検出信号ES
-とするようになっている。制御部64は、駆動電流監視部66より過電流検出信号ES
-が発生された時は、それに応答して、スイッチング素子54のスイッチング動作を止めて駆動電流I
dを切るようにしている。
【0054】
図3に示すように、この駆動電流監視部66は、絶対最大定格電流用の第1監視部68と通常定格電流用の第2監視部70とを有している。第1監視部68は、絶対最大定格電流I
RMに照らして駆動電流I
dが過大であるか否かを監視し、過大であると判定したときはLレベルの出力信号を第1過電流検出信号ES
1-として発生するようになっている。一方、第2監視部70は、通常定格電流I
RSに照らして駆動電流I
dが過大であるか否かを監視し、過大であると判定したときはLレベルの出力信号を第2過電流検出信号ES
2-として発生するようになっている。第1過電流検出信号ES
1-または第2過電流検出信号ES
2-のいずれかが発生されたときは、ANDゲートからなる出力回路72よりLレベルの過電流検出信号ES
-が出力されるようになっている。
【0055】
図4に、一実施例における第1監視部68および第2監視部70の回路構成を示す。
【0056】
第1監視部68は、第1基準値発生部74および第1コンパレータ76を有している。第1基準値発生部74は、抵抗分圧回路からなり、一定の電源電圧V
BBに対して所望の比率A
1(ただし、0<A
1<1)を有する分圧電圧A1*V
BBを第1監視値I
K1に対応する第1基準値K
1として発生する。ここで、第1監視値I
K1は、ポンプLD36(38)の絶対最大定格電流I
RM(たとえば200A)に照らし、好ましくは絶対最大定格電流I
RMよりも幾らか低い電流値(たとえば195A)に選ばれる。
【0057】
コンパレータ76は、演算増幅器からなり、その非反転入力端子(+)に第1基準値発生部74からの第1基準値K
1を入力し、その反転入力端子(-)に電流センサ62の出力信号(駆動電流検出信号)MI
dを入力し、それら両入力信号の大小関係に応じて、MI
d≦K
1のときはHレベルの出力信号を発生し、MI
d>K
1のときはLレベルの出力信号を第1過電流検出信号ES
1-として発生するようになっている。なお、コンパレータ74の出力端子は、プルアップ抵抗78を介してHレベルの電源電圧V
BBに接続されている。
【0058】
このように、第1監視部68は、ポンプLD36(38)を流れる駆動電流I
dが第1監視値I
K1を超えたことを検出した時に、第1過電流検出信号ES
1-を発生するようになっている。そして、第1監視部68より第1過電流検出信号ES
1-が発生されると、制御部64が直ちにスイッチング素子54のスイッチング動作を止めて駆動電流I
dを切るようになっている。その際、駆動電流I
dが第1監視値I
K1を超えた時から駆動電流I
dが切られる時までに一定の時間遅れがある場合は、この時間遅れの間に駆動電流I
dが絶対最大定格電流I
RMを超えることがないように、第1監視値I
K1を選定するのが好ましい。
【0059】
こうして、駆動電流I
dは絶対最大定格電流I
RMを瞬時たりとも超えることはない。したがって、ポンプLD36(38)に供給する駆動電流I
dを常に絶対最大定格電流I
RM以下に保持することができる。
【0060】
第2監視部70は、第2基準値発生部80、ローパス・フィルタ82および第2コンパレータ84を有している。
【0061】
ここで、第2基準値発生部80は、抵抗分圧回路からなり、一定の電源電圧V
BBに対して所望の比率A
2(ただし、0<A
2<1)を有する分圧電圧A
2*V
BBを第2監視値I
K2に対応する第2基準値K
2として発生する。ここで、第2監視値I
K2は、ポンプLD36(38)の通常定格電流I
RS(たとえば100A)に照らし、好ましくは通常定格電流I
RS(100A)と同じか、またはその付近の電流値に選ばれる。
【0062】
ローパス・フィルタ82は、たとえば抵抗86およびコンデンサ88からなるRCフィルタ回路として構成されており、通常定格電流I
RSに係わる上記所定時間T
S(たとえば1ms)に照らし、好ましくは上記所定時間T
Sよりも幾らか短い設定時間T
S'(たとえば0.95ms)に対応するカットオフ周波数または遅延時定数を有している。
【0063】
ローパス・フィルタ82は、電流センサ62からの駆動電流検出信号MI
dを入力し、この信号MI
dを上記設定時間T
S'に対応したカットオフ周波数または遅延時定数でなまらせた信号MI
d'を出力するようになっている。
【0064】
すなわち、
図5に示すように、あるストロークの描画において、第2監視値I
K2に等しいピーク値を有する駆動電流I
dがポンプLD36(38)に供給されたときは、通電開始時点t
0から上記設定時間T
S'を経過した時点t
Sでローパス・フィルタ82の出力信号MI
d'が第2基準値K
2付近まで立ち上がり、かつそのレベルで飽和するようになっている。
【0065】
コンパレータ84は、演算増幅器からなり、その非反転入力端子(+)に第2基準値発生部80からの第2基準値K
2を入力し、その反転入力端子(-)にローパス・フィルタ82の出力信号MI
d'を入力し、それら両入力信号の大小関係に応じて、MI
d'<K
2のときはHレベルの出力信号を発生し、MI
d'≧K
2のときはLレベルの出力信号を第2過電流検出信号ES
2-として発生するようになっている。なお、コンパレータ84の出力端子は、プルアップ抵抗90を介してHレベルの電源電圧V
BBに接続されている。
【0066】
上記のような第2監視値I
K2に等しいピーク値を有する駆動電流I
dがポンプLD36(38)に供給されたときは、通電開始時点t
0から上記設定時間T
S'を経過した時点t
Sでローパス・フィルタ82の出力信号MI
d'が飽和レベルの第2基準値K
2付近まで立ち上がり、コンパレータ84より第2過電流検出信号ES
2-が発生される。そして、第2監視部70より第2過電流検出信号ES
2-が発生されると、制御部64がスイッチング素子54のスイッチング動作を止めて駆動電流I
dを切るようになっている。その際、上記設定時間T
S'を経過した時点から駆動電流I
dが切られる時までに時間遅れがあっても、ポンプLD36(38)の通常定格電流I
RSに係わる上記所定時間T
Sを超えるまでは至らないように上記設定時間T
S'を選定するのが好ましい。
【0067】
別の例として、
図6に示すように、第2監視値I
K2より低いピーク値を有する駆動電流I
dがポンプLD36(38)に供給されたとする。この場合は、通電開始時点t
0から上記設定時間T
S'を経過した時点t
Sはもちろんその後もローパス・フィルタ82の出力信号MI
d'が第2基準値K
2には届かず、したがってコンパレータ84より第2過電流検出信号ES
2-が発生されることはない。
【0068】
別の例として、
図7に示すように、第1監視値I
K1よりは低くて第2監視値I
K2よりも高いピーク値を有する駆動電流I
dがポンプLD36(38)に供給されたとする。この場合は、通電開始時点t
0から上記設定時間T
S'を経過する前にローパス・フィルタ82の出力信号MI
d'が第2基準値K
2を超えてしまい、その時点t
eでコンパレータ84より第2過電流検出信号ES
2-が発生され、駆動電流I
dが切られる。
【0069】
しかし、
図8に示すように、同じ高いピーク値を有する駆動電流I
dがポンプLD36(38)に供給される場合でも、元々の持続時間T
fが通電開始時点t
0から上記時点t
eに達するまでの時間よりも短いときは、ローパス・フィルタ82の出力信号MI
d'は第2基準値K
2を超えないので、コンパレータ84より第2過電流検出信号ES
2-が発生されることはない。
【0070】
このように、第2監視部70は、ポンプLD36(38)を流れる駆動電流I
dの電流値が第2監視値I
K2以上の値を設定時間T
S'以上持続した時に、第2過電流検出信号ES
2-を発生するようになっている。そして、第2監視部70より第2過電流検出信号ES
2-が発生されると、制御部64がスイッチング素子54のスイッチング動作を止めて駆動電流I
dを切るようになっている。
【0071】
こうして、駆動電流I
dがたとえ通常定格電流I
RS(100A)以上になったとしても、その状態が所定時間(1ms)以上持続することはない。したがって、ポンプLD36(38)に供給する駆動電流I
dを常に通常定格電流I
RSの許容限界内に保持することができる。
【0072】
なお、上記のように、この実施形態で用いるポンプLD36(38)は、所定時間T
G(たとえば10ms)以上の時間間隔を空ければ、通常定格電流I
RSを超える所定時間T
S以内の通電を何度続けても故障しないことが本発明者によって確認されている。この所定時間T
Gの時間管理は、主制御部44ないし制御部64においてソフトウェア的に行うのが好ましい。
【0073】
この実施形態におけるポンプLD電源回路50は、上記のような構成および機能を有する駆動電流監視部66を備えることにより、ポンプLD36(38)の光出力を十二分に発揮させ、かつ過大な駆動電流I
dからポンプLD36(38)を適確に保護することができる。
【0074】
また、この実施形態のMOPA方式ファイバレーザ加工装置は、上記のようなポンプLD電源回路50によってポンプLD36(38)を駆動するので、マーキングやトリミング等の表面除去加工における加工能力および信頼性を向上させることができる。
【0075】
以上、本発明の好適な一実施形態について説明したが、上述した実施形態は本発明を限定するものではない。当業者にあっては、具体的な実施態様において本発明の技術思想および技術範囲から逸脱せずに種々の変形・変更を加えることが可能である。
【0076】
たとえば、駆動電流監視部66の第2監視部70について、
図9に示すような別の実施例も可能である。この実施例における第2監視部70は、コンパレータ92、タイマ94、ORゲート96およびラッチ回路98を有している。
【0077】
コンパレータ92は、演算増幅器からなり、その反転入力端子(-)に第2基準値発生部(図示せず)からの第2基準値K
2を入力し、その非反転入力端子(+)にローパス・フィルタ82の出力信号MI
d'を入力し、それら両入力信号の大小関係に応じて、MI
d'<K
2のときはLレベルの出力信号を発生し、MI
d'≧K
2のときはHレベルの出力信号を発生するようになっている。コンパレータ92の出力端子は、タイマ94の入力端子に接続されるとともに、タイマ94のデータ入力端子(D)に接続されている。
【0078】
タイマ94は、たとえばモノマルチからなり、コンパレータ92よりHレベルの出力信号が発生された時は、その立ち上がりエッジに応動して、一定時間つまり上記設定時間T
S'のパルス幅を有するHレベルのパルスを出力するようになっている。タイマ94の出力端子は、ORゲート96を介してラッチ回路98のクロック端子(CL)に接続されている。
【0079】
ラッチ回路98は、たとえばD型フリッブプフロップ回路からなり、クロック端子(CL)に入力されるパルスの立下りエッジに応動して、その時データ入力端子(D)に入力されている信号を取り込み、反転出力端子(Q
-)に入力信号と逆論理値の信号を出力するようになっている。つまり、ラッチ回路98は、タイマ94が設定時間T
S'を計時した時に、コンパレータ92の出力信号(H/Lレベル)に応じて反転出力端子(Q
-)よりLレベルの第2過電流検出信ES
2-を条件的に発生する判定回路として機能するようになっている。
【0080】
図10に、この実施例における第2監視部70の作用の一例を示す。たとえば、第1監視値I
K1よりは低くて第2監視値I
K2よりも高いピーク値を有する駆動電流I
dがポンプLD36(38)に供給されたとする。この場合、コンパレータ84よりHレベルの出力信号が発生され、それに応動してタイマ94よりHレベルのパルスが発生される。そして、設定時間T
S'が経過した時点で、つまりタイマ出力パルスの立下りエッジでコンパレータ84のHレベルの出力信号がラッチ回路98に取り込まれ、ラッチ回路98の反転出力端子(Q
-)よりLレベルの出力信号が第2過電流検出信号ES
2-として発生される。
【0081】
なお、制御部64は、第2監視部70より第2過電流検出信号ES
2-を受け取って駆動電流I
dを切った後に、ラッチ回路98のクロック端子(CL)にORゲート96を介してリセットパルスを与え、ラッチ回路98の反転出力をHレベルに戻しておく。
【0082】
上述した実施形態では、ポンプ用LD電源回路50において、直流電源52とポンプLD36(38)との間にスイッチング素子54を接続して、これを電流制御素子とした。しかし、スイッチング素子54に代えて、たとえば
図11に示すように駆動トランジスタ100を電流制御素子に用いることも可能である。
図11の構成例における駆動トランジスタ100は、たとえばNPN型のバイポーラトランジスタからなり、コレクタ接地のアナログ増幅回路を形成している。なお、駆動トランジスタ100は、バイポーラトランジスタに限らず、電界効果型トランジスタ(FET)等も好適に使用できる。
【0083】
上記実施形態では、駆動電流監視部66より過電流検出信号ES
-が発生された時は、制御部64が電流制御素子(スイッチング素子54、駆動トランジスタ100)を通じて駆動電流I
dを切るようにした。しかし、駆動電流I
dを切らずに、一定の割合で、あるいは一定のレベルまで減少させるようにしてもよい。また、駆動電流監視部66より過電流検出信号ES
-が発生された時は、制御部64あるいは電流制御素子とは別個のインターロック回路または安全回路が働いて駆動電流I
dを切るか、あるいは減少させるようにしてもよい。
【0084】
また、第1監視部68より発生される第1過電流検出信号ES
1-と第2監視部70より発生される第2過電流検出信号ES
2-とを個別に制御部64またはインターロック回路に与えるようにしてもよい。
【0085】
なお、電流センサ62の出力信号(駆動電流検出信号)MI
dを制御部64にフィードバックし、駆動電流測定値が設定値に一致するように制御部64がスイッチング素子54または駆動トランジスタ100を制御する構成とすることも可能である。
【0086】
上記実施形態のMOPA方式ファイバレーザ加工装置(
図1)は、第1のアクティブファイバ12に第2のアクティブファイバ14を従続接続して2段アンプとしている。しかし、第2のアクティブファイバ14を省いて一段(単)アンプの構成とすることや、あるいは第2のアクティブファイバ14の後段に第3のアクティブファイバを接続して3段アンプの構成とすることも可能である。
【0087】
上記実施形態はMOPA方式のファイバレーザ加工装置に係わるものであったが、本発明はMOPA方式以外のファイバレーザ加工装置にも適用可能であり、たとえば
図12に示すようなファイバレーザ加工装置にも適用可能である。
【0088】
このファイバレーザ加工装置は、ロンクパルスのファイバレーザ光を用いるレーザ加工たとえばレーザ溶接に好適に使用可能なレーザ加工機であり、主としてファイバレーザ発振器100、励起用LD102、励起用LD電源回路104、ファイバ伝送系106、レーザ出射部108、主制御部110、タッチパネル112等で構成されている。
【0089】
ファイバレーザ発振器100は、発振用の光ファイバ(以下「発振ファイバ」と称する。)114と、この発振ファイバ114を介して光学的に相対向する一対の光共振器ミラー116,118とを有している。
【0090】
励起用のLD102は、励起用LD電源回路104より供給されるパルス状の駆動電流I
dによって発光駆動され、ファイバレーザ発振器100内のレーザ励起(ポンピング)に用いるロングパルスのLD光つまり励起光MBを発振出力する。LD102を構成するLD素子の個数は任意であり、アレイ構造またはスタック構造をとることも可能である。
【0091】
ファイバレーザ発振器100内の光学レンズ120は、LD102からの励起光MBを発振ファイバ112の一端面に集光入射させる。LD102と光学レンズ120との間に配置される光共振器ミラー116は、LD102側から入射した励起光MBを透過させ、発振ファイバ114側から入射した発振光線を共振器の光軸上で全反射するようにコーティングがなされている。
【0092】
発振ファイバ114は、希土類元素をドープしたコアと、このコアを同軸に取り囲むクラッドとを有しており、コアを活性媒体とし、クラッドを励起光の伝搬光路としている。上記のようにして発振ファイバ114の一端面に入射した励起光MBは、クラッド外周境界面の全反射によって閉じ込められながら発振ファイバ114の中を軸方向に伝搬し、その伝搬中にコアを何度も横切ることでコア中の発光元素を光励起する。こうして、コアの両端面から軸方向に所定波長の発振光線が放出され、この発振光線が光共振器ミラー116,118の間を何度も行き来して共振増幅され、部分反射ミラーからなる片側の光共振器ミラー118より該所定波長を有するパルスのファイバレーザ光FBが取り出される。
【0093】
なお、ファイバレーザ発振器100内の光学レンズ122は、発振ファイバ114の端面から放出されてきた発振光線を平行光にコリメートして光共振器ミラー118へ通し、光共振器ミラー118で反射して戻ってきた発振光線を発振ファイバ114の端面に集光させる。また、発振ファイバ114を通り抜けた励起用レーザ光MBは、光学レンズ122および光共振器ミラー118を透過したのち折り返しミラー124にて側方のレーザ吸収体126に向けて折り返される。光共振器ミラー118より出力されたファイバレーザ光FBは、この折り返しミラー124をまっすぐ透過し、次いでビームスプリッタ128を通ってからファイバ伝送系106のレーザ入射部130に入る。
【0094】
ビームスプリッタ128は、入射したファイバレーザ光FBの一部(たとえば1%)を所定方向つまりパワーモニタ用の受光素子たとえばフォトダイオード(PD)132側へ反射する。フォトダイオード(PD)132の正面に、ビームスプリッタ128からの反射光またはモニタ光R
FBを集光させる集光レンズ134が配置されてよい。
【0095】
フォトダイオード(PD)132は、ビームスプリッタ128からのモニタ光R
FBを光電変換して、ファイバレーザ光FBのレーザ出力(レーザパワー)を表す電気信号(レーザ出力測定信号)を出力する。レーザ出力測定回路136は、フォトダイオード132の出力信号を基に、アナログ信号処理によってファイバレーザ光FBのレーザ出力測定値M
FBを求める。レーザ出力測定回路136で得られたレーザ出力測定値M
FBは、パワーフィードバック制御用のフィードバック信号として励起用LD電源回路104に与えられる。
【0096】
ビームスプリッタ128をまっすぐ透過してレーザ入射部130に入ったファイバレーザ光FBは、最初にベントミラー138で所定方向に折り返され、次いで入射ユニット140内で集光レンズ142により集光されてファイバ伝送系106の伝送用光ファイバ(以下「伝送ファイバ」と称する。)144の一端面に入射する。伝送用光ファイバ144は、たとえばSI(ステップインデックス)形ファイバからなり、入射ユニット140内で入射したファイバレーザ光FBをレーザ出射部108の出射ユニット146まで伝送する。出射ユニット146は、伝送ファイバ52の終端面より出たファイバレーザ光FBを平行光にコリメートするコリメートレンズ148と、平行光のファイバレーザ光FBを所定の焦点位置に集光させる集光レンズ150とを有している。
【0097】
レーザ溶接加工が行われる時は、励起用LD電源回路104より波形制御された駆動電流I
dがLD102に供給(注入)され、ファイバレーザ発振器100内でLD102より駆動電流I
dの波形に対応した出力波形の励起光MBが発振ファイバ104に供給(注入)され、ファイバレーザ発振器100よりLD出力波形に対応したレーザ出力波形を有するファイバレーザ光FBが発振出力される。この波形制御されたファイバレーザ光FBが、レーザ入射部130、ファイバ伝送系106およびレーザ出射部108を介して被加工物Wの溶接ポイントまたは溶接ラインに集光照射される。該溶接ポイントまたは溶接ラインにおいては、ファイバレーザ光FBのエネルギーにより被加工材質が溶融し、パルス照射終了後に凝固してナゲットが形成される。
【0098】
このファイバレーザ加工装置においては、励起用LD電源回路104に本発明を適用することができる。この励起用LD電源回路104は、上記実施形態におけるポンプLD電源回路50と同様の構成を有してよく、直流電源52、スイッチング素子54、電流センサ62、制御部64等を備えている(
図2)。
【0099】
この場合、パワーフィードバック制御を行うために、励起用LD電源回路104内の制御部64は、レーザ出力測定回路136からのレーザ出力測定値M
FBをフィードバック信号として入力するとともに、主制御部44からファイバレーザ光FBに係るレーザパワーの基準値または設定値を入力して、PWM方式のスイッチング制御信号を生成する。
【0100】
この励起用LD電源回路104も、上記実施形態と同様の駆動電流監視部66(
図2〜
図4)を備えており、上記と同様の作用により通常定格電流および絶対最大定格電流のそれぞれの性質を踏まえて励起用LD102の光出力を十二分に発揮させ、かつ過大な駆動電流I
dから励起用LD102を適確に保護することができる。
【0101】
また、この実施形態の方式ファイバレーザ加工装置は、上記のような励起用LD電源回路104によって励起用LD102を駆動するので、ロンクパルスのファイバレーザ光を用いるレーザ加工たとえばレーザ溶接における加工能力および信頼性を向上させることができる。
【0102】
なお、本発明のファイバレーザ加工装置は、マーキング等の表面除去加工や溶接加工に限るものではなく、穴あけ、切断等の他のレーザ加工にも使用可能である。