特許第5713631号(P5713631)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5713631
(24)【登録日】2015年3月20日
(45)【発行日】2015年5月7日
(54)【発明の名称】デファレンシャル装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 48/08 20060101AFI20150416BHJP
【FI】
   F16H48/08
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2010-250171(P2010-250171)
(22)【出願日】2010年11月8日
(65)【公開番号】特開2012-102772(P2012-102772A)
(43)【公開日】2012年5月31日
【審査請求日】2013年8月26日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000225050
【氏名又は名称】GKNドライブラインジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110629
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 雄一
(72)【発明者】
【氏名】相場 智
(72)【発明者】
【氏名】島田 彰久
【審査官】 増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭57−196844(JP,U)
【文献】 米国特許第3930424(US,A)
【文献】 特開2003−294109(JP,A)
【文献】 特表2005−504249(JP,A)
【文献】 実開平3−69735(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 48/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転自在に支持されるデフ・ケースと、このデフ・ケース内に自転可能に支持されたピニオン・ギヤと、前記デフ・ケース内に相対回転自在に支持され前記ピニオン・ギヤに噛み合う一対のサイド・ギヤとを備え、
前記デフ・ケースの内面に、前記ピニオン・ギヤ及びサイド・ギヤの球面状の凸背面部をそれぞれ自転摺動可能に支持する球面状のピニオン・ギヤ凹支持面部及びサイド・ギヤ凹支持面部を形成し、
前記デフ・ケースのサイド・ギヤ凹支持面部側に摺動する前記サイド・ギヤの凸背面部を前記サイド・ギヤの個々の歯部に形成した、
ことを特徴とするデファレンシャル装置。
【請求項2】
請求項1記載のデファレンシャル装置であって、
前記デフ・ケースのサイド・ギヤ凹支持面部側と摺動する前記サイド・ギヤの凸背面部の有効摩擦半径を、前記サイド・ギヤの歯部の外径側歯底径及び外径側歯先径の間に設定した、
ことを特徴とするデファレンシャル装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載のデファレンシャル装置であって、
前記デフ・ケースのサイド・ギヤ凹支持面部側と摺動する前記サイド・ギヤの凸背面部は、前記サイド・ギヤの歯部の外径側歯底径の内径側に延設された環状基部を備えた
ことを特徴とするデファレンシャル装置。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載のデファレンシャル装置であって、
前記サイド・ギヤの凸背面部は、前記歯部の外径側歯底径から外径側へピッチ円錐線を越えて形成された、
ことを特徴とするデファレンシャル装置。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載のデファレンシャル装置であって、
前記サイド・ギヤに、前記凸背面部よりも内径側に前記サイド・ギヤ凹支持面部との間に空間を周回状に形成する環状凹部を形成した、
ことを特徴とするデファレンシャル装置。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載のデファレンシャル装置であって、
前記デフ・ケースのサイド・ギヤ凹支持面部側と前記サイド・ギヤの凸背面部との間に、球面状のサイド・ワッシャを介設した
ことを特徴とするデファレンシャル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などに供されるデファレンシャル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、簡易な構造で低コストのデファレンシャル装置が普及しつつある。特許文献1は、デフ・ケースを一部材で形成し、デフ・ケースの開口から加工工具を挿入し、デフ・ケース内を球状内面に加工し、ピニオン・ギヤ及び一対のサイド・ギヤを挿入し、それらのギヤの背面を球状内面で支持した構成である。ギヤの背面と球状内面との間には、球状ワッシャが介設されている。
【0003】
このデファレンシャル装置では、デフ・ケースの外形・内径形状を単純化でき、加工が容易で、ピニオン・ギヤ及び一対のサイド・ギヤもコンパクトに組合わされてデフ・ケース内に配置することができる。
【0004】
また、ピニオン・ギヤ及び一対のサイド・ギヤの噛合い反力は、それぞれ球状のギヤ背面で摺動支持されるので、摺動摩擦特性が安定しており、耐久性も高い。
【0005】
しかし、かかるデファレンシャル装置を車両に搭載した場合は、左右車輪と走行路面との間で互いの摩擦抵抗が異なると、デファレンシャル装置の特性上、低摩擦抵抗側の車輪の駆動力以上の駆動力を伝達することが困難になる。
【0006】
これは、差動制限機能を持たないデファレンシャル装置(いわゆる、「コンべンショナル・デフ」と称される。)の構成・機能として従来から技術的に理解されている。
【0007】
これに対し、スポーツタイプや4WDタイプの車両では、差動制限機能を付加した多様な形式のデファレンシャル装置(いわゆる、「LSD−リミット・スリップ・デフ」と称する。)が普及している。
【0008】
コンべンショナル・デフを搭載した一般車両においても、良路のみの走行状態はあり得ず、少なくとも発進性や登坂性の向上のために差動制限は必要である。
【0009】
一方で、一般車両においては、差動制限機能を付加するにしても、走行状態におけるハンドリングを改善すべく既存のLSD程の差動制限力を必要としない状況が多々生じており、かかる状況に応ずる意味において複雑な制御を付加した左右車輪のブレーキ制御による車両挙動の改善も考え得る。
【0010】
しかし、コスト高及び運転者と車両との相関に関する違和感は拭いきれないため、やはり一般車両においても、既存のLSD程の差動制限力を必要としないまでも、動力系と連動したレスポンスの良いLSDが有用と考えられる。
【0011】
特許文献2のデファレンシャル装置は、デフ・ケースを一部材で形成し、デフ・ケースの開口からピニオン・ギヤ及び一対のサイド・ギヤを挿入配置し、一対のサイド・ギヤとデフ・ケースとの間に形成したテーパ面により差動制限機能を持たせている。
このデファレンシャル装置は、既存のLSDにおいては、最もシンプルな構成である。
【0012】
しかし、簡易な構造で低コストのデファレンシャル装置の普及という技術的背景を考慮すると、デフ・ケース及び一対のサイド・ギヤにテーパ面を形成する必要があり、下記のような問題を生じている。
【0013】
第1に、テーパ面形状は、テーパ角の加工精度がシビアであり、加工工数や組付け工数が嵩む。
【0014】
第2に、サイド・ギヤの外形側にテーパ面を特別に設定しているので、径方向及び軸方向共に装置が大型化する。
【0015】
第3に、他の実施例として、差動制限機能部分として多板クラッチを用いる機構が開示されているが、部品点数が増加し、装置が大型化するのは明らかである。
【0016】
したがって、簡易な構造で低コストのデファレンシャル装置の普及という技術的背景を踏襲しつつ、差動制限機能を有したデファレンシャル装置が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2009−250320号公報
【特許文献2】特開2003−294109号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
解決しようとする問題点は、簡易な構造で低コストのデファレンシャル装置の普及と動力系と連動したレスポンスの良いLSDとの両立ができなかった点である。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本願発明は、簡易な構造で低コストのデファレンシャル装置の普及と動力系と連動したレスポンスの良いLSDを得ることを可能とするため、回転自在に支持されるデフ・ケースと、このデフ・ケース内に自転可能に支持されたピニオン・ギヤと、前記デフ・ケース内に相対回転自在に支持され前記ピニオン・ギヤに噛み合う一対のサイド・ギヤとを備え、前記デフ・ケースの内面に、前記ピニオン・ギヤ及びサイド・ギヤの球面状の凸背面部をそれぞれ自転摺動可能に支持する球面状のピニオン・ギヤ凹支持面部及びサイド・ギヤ凹支持面部を形成し、前記デフ・ケースのサイド・ギヤ凹支持面部側に摺動する前記サイド・ギヤの凸背面部を前記サイド・ギヤの個々の歯部に形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本願発明は、上記構成であるため、ギヤとケース間に球面状の支持部を備えたデファレンシャル装置において、デフ・ケースのサイド・ギヤ凹支持面部とサイド・ギヤの凸背面部間の有効摩擦半径を大径にすることができ、簡単な構造で動力系と連動したレスポンスの良いLSDを得ることができ、簡易な構造で低コストのデファレンシャル装置の普及を満足させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】上下半断面が90度異なる位置におけるデファレンシャル装置の断面図である。(実施例1)
図2】サイド・ギヤの断面図である。(実施例1)
図3】サイド・ギヤの側面図である。(実施例1)
図4】サイド・ギヤの背面図である。(実施例1)
図5】サイド・ギヤの背面側斜視図である。(実施例1)
図6】デファレンシャル・ギヤ組み込み途中におけるデファレンシャル装置の斜視図である。(実施例1)
図7】デファレンシャル・ギヤ組み込み途中におけるデファレンシャル装置の平面図である。(実施例1)
【発明を実施するための形態】
【0022】
簡易な構造で低コストのデファレンシャル装置の普及と動力系と連動したレスポンスの良いLSDを得ることを可能とするという目的を、球面状のサイド・ギヤの凸背面部をサイド・ギヤの歯部に形成することにより実現した。
【実施例1】
【0023】
[デファレンシャル装置の全体構成]
図1は、本発明の実施例1に係り、上下半断面が90度異なる位置におけるデファレンシャル装置の断面図である。
【0024】
デファレンシャル装置1のデフ・ケース3は、ケース壁部5の外面にリング・ギヤ取り付け用のフランジ部7を周回状に一体に有している。このデフ・ケース3の内面には、ピニオン・ギヤ凹支持面部9,11(但し、ピニオン・ギヤ凹支持面部11は、図1の下方のピニオン・ギヤ17の背面に位置するので引き出し線を点線で示す)及びサイド・ギヤ凹支持面部13,15が形成されている。ピニオン・ギヤ凹支持面部9,11及びサイド・ギヤ凹支持面部13,15は、デフ・ケース3内のピニオン・ギヤ17及びサイド・ギヤ23,25の回転軸心の交点を曲率中心Cとする同心球面の一部を構成する。
【0025】
前記「同心球面の一部を構成する」とは、ピニオン・ギヤ凹支持面部9,11及びサイド・ギヤ凹支持面部13,15を必要な面積で球面加工すれば良いので、それ以外の内壁面は僅かに大径に鋳抜いておき、加工逃げとしてあるためである。
【0026】
しかしながら、特許文献2に開示されているがごとく、一対のサイド・ギヤの背面にテーパー面による特別な摩擦面を設けたのではなく、デフ・ケースの内壁面にテーパ面による特別な摩擦面を組み合わせたものでなく、デフ・ケース3内にピニオン・ギヤ17及びサイド・ギヤ23,25を滑動支持可能な球面加工を施したにすぎなく、引用文献2と本願発明との技術的構成及びその意義はまたく異なるものである。
【0027】
なお、ピニオン・ギヤ17は、図面では1個のみが断面で、もう一個が軸心方向に見た外形の2ピニオンタイプを示すが、デファレンシャル装置1の一対のピニオンは、後述する図6に開示されているように、対向して2個備えられている。
【0028】
また、ピニオン・ギヤ17,17と、サイド・ギヤ23,25は、デフ・ケース3の球面状の凹支持面部9,11及び凹支持面部13,15に支持される、かさ歯車を用いたギヤ組である。
【0029】
ケース壁部5の回転軸方向両側には、サイド・ギヤ凹支持面部13,15の外側においてボス部27,29が形成され、図示しない静止側部材としてのデフ・キャリヤにベアリングを介して回転自在に支持可能となっている。ボス部27,29の内周には、各々逆方向に向けてデフ・キャリヤ内に封入された潤滑用のオイルを導入する2条の螺旋溝27a,29aが形成されている。
【0030】
ケース壁部5の対向する一対のピニオン・ギヤ凹支持面部9,11の中央には、ピニオン・シャフト35の支持穴37,39が同軸芯に貫通形成されている。
【0031】
ケース壁部5には、一対の窓41(但し、図1では、下部の判断面にのみ図示している。)がフランジ部7に隣接して形成されている。
【0032】
一対の窓41は、回転半径方向に対向するように形成され、重量バランスが採られている。この窓41は、何れからも旋削工具を挿入させ且つ該旋削工具回りで前記曲率中心Cを通る加工回転軸中心線C−Yを中心にデフ・ケース3を回転させることが可能である。窓41には、ピニオン・ギヤ17の組み込みを容易にするため、ピニオン・ギヤ17の一歯(必要に応じて、二歯以上でもよい)に対応した形状の切欠き凹部41aが形成されている。
【0033】
デフ・ケース3は、旋盤のチャック治具で挟み込み、加工回転軸中心線C−Yを中心に回転させ、ピニオン・ギヤ凹支持面部9,11及びサイド・ギヤ凹支持面部13,15を旋削し得る構成となっている。
【0034】
ピニオン・ギヤ17は、球面状の凸背面部17aが同心球面状のピニオン・ギヤ凹支持面部9に球面状のピニオン・ワッシャ45を介して摺動回転可能に支持されている。
【0035】
ピニオン・ギヤ17は、ピニオン・シャフト35に回転自在に支持され、ピニオン・シャフト35は、支持穴37,39に嵌合支持され、スプリング・ピン50により抜け止め、回り止めが行われている。
【0036】
サイド・ギヤ23,25は、ピニオン・ギヤ17に噛み合い、球面状の凸背面部23a,25aが同心球面状のサイド・ギヤ凹支持面部13,15に球面状のサイド・ワッシャ47,49を介して摺動回転可能に支持されている。
【0037】
[凸背面部及びサイド・ワッシャ]
図2は、サイド・ギヤの断面図、図3は、サイド・ギヤの側面図、図4は、サイド・ギヤの背面図、図5は、サイド・ギヤの背面側斜視図である。
【0038】
図1図5のように、サイド・ギヤ23,25は同一形状のかさ歯車であり、ボス部51の外周側に歯部53が形成されている。ボス部51の内周には、インナー・スプライン52が形成されている。
【0039】
歯部53の歯底径55は軸方向に曲折する内径側から径方向に曲折する外径側の間で円錐状に形成され、歯部53の歯先径57は内径側から外径側へ円錐状に形成されている。円錐状に形成された歯底径55と円錐状に形成された歯先径57との中間径に、円錐状に形成されたピッチ円錐線59が位置している。
【0040】
凸背面部23a,25aは、歯部53に形成され、歯部53の歯底径55における外径側の歯底径56側から歯先径57における外径側の歯先径58側に渡り内径側から外径側へピッチ円錐線59を越えて形成されている。この凸背面部23a,25aは、歯部53の歯底径55における外径側の歯底径56よりも内径側に環状基部としての部分61を延長形成している。部分61の径方向の延長幅L1は、歯部53での径方向の幅L2よりも小さく設定されている。なお、部分61は省略することもできる。
【0041】
この凸背面部23a,25aよりも内径側にサイド・ギヤ凹支持面部13,15との間に空間を周回状に形成する環状凹部63が形成されている。
【0042】
サイド・ワッシャ47,49は、凸背面部23a,25aの全体幅に対応した径方向の幅で形成され、内径端縁47a,49aが、環状凹部63内へ屈曲形成され、縦背面63aに微少な間隔を有して係合可能に配置されている。サイド・ワッシャ47,49の最外径縁は、ピッチ円錐線59を越えて延設されており、デフ・ケース3に形成された切欠き41aと対応した形状の切欠き47bが径方向に対応して2箇所形成され、ピニオン・ギヤ17の組み込みを容易にしている。
【0043】
したがって、凸背面部23a,25a及びサイド・ワッシャ47,49間の有効摩擦半径Rが、サイド・ギヤ23,25の歯部53の外径側の歯底径56及び外径側の歯先径58の間に設定されている。
【0044】
差動回転時は、凸背面部23a,25a及びサイド・ワッシャ47,49間の有効摩擦半径Rが、サイド・ギヤ23,25の外径側の歯底径56及び外径側の歯先径58の間となることで、動力系と連動したレスポンスの良い差動制限を行わせることができ、一般車両における発進性や登坂性が向上可能な適度な差動制限機能を有したデファレンシャル装置が成立させることができる。本願発明の本実施形態のデファレンシャル装置によれば、トルクバイアスレシオ(TBRと称される)=1.4〜1.8程度の特性を容易に、かつ個体差がなく安定して供給することができ、耐久性も従来のコンベンショナル・デフ同等以上に確保することができる。
【0045】
さらに、サイド・ギヤ23,25のギヤ形状について説明すると、歯部53の歯先径57の回転方向端部54a,54b(歯先端部)には、R形状又は、15°〜45°の面取り形状に形成され、摺動時に個々の歯部53間に滞留する潤滑オイルを、サイド・ワッシャ47,49との摺動部へ回転方向に向けて導入を容易にすると共に、サイド・ギヤ23,25とサイド・ワッシャ47,49との摺動部間の貼り付きを防止している。これにより、摺動レスポンスが良く、摩擦特性の安定化が図れる。
【0046】
サイド・ギヤ23,25の歯部53の外径側の歯先径58側には、平面部60が形成されている。ピニオン・ギヤ17,17との噛合いにより、又は図示外の車軸側のサイド・シャフトとの連結により、サイド・ギヤ23,25の微少な軸心ずれが生じた際にも、歯部53の外径側先端がサイド・ワッシャ47,49と干渉するのを防止し、摩擦特性の安定化が図れる。
[デファレンシャル・ギヤの組み込み]
図6は、デファレンシャル・ギヤ組み込み途中におけるデファレンシャル装置の斜視図、図7は、デファレンシャル・ギヤ組み込み途中におけるデファレンシャル装置である。
【0047】
図1図6図7のように、デフ・ケース3に対して、サイド・ワッシャ47,49を凸背面部23a,25aに配置させたサイド・ギヤ23,25を窓41の何れかから挿入し、このサイド・ギヤ23,25を、サイド・ワッシャ47,49を介してサイド・ギヤ凹支持面部13,15に配置する。
【0048】
ついで、ピニオン・ワッシャ45を凸背面部17aに係合させたピニオン・ギヤ17,19を双方の窓41から各別に挿入して両サイド・ギヤ23,25に噛み合わせる。このとき、切欠き凹部41a,49bがピニオン・ギヤ17の歯部53との干渉を回避し、組み込みを容易にする。
【0049】
このピニオン・ギヤ17及びサイド・ギヤ23,25からなるデファレンシャル・ギヤをデフ・ケース3の回転軸心回りでデフ・ケース3に対し90°回転させ、図1の上半部の配置状態とする。
【0050】
図1の配置状態において、ピニオン・シャフト35を組み付け、デファレンシャル・ギヤの組み込みが完了する。その後、デフ・ケース3とピニオン・シャフト35との間に、スプリング・ピン50を組み付け、ピニオン・シャフト35の抜け止め、回り止めが行われる。
【0051】
なお、サイド・ワッシャ47,49のうち、少なくとも何れか一方に、デフ・ケース3側へ係合する係合部(好ましくは、ピニオン・シャフト35の軸周りの方向への回転を規制する係合部)を設けることにより、デファレンシャル装置のデフ・ケース3と内部に組付けられた部材との係合状態を保持することができ、搬送性が向上する。それと共に、サイド・ワッシャ47,49とサイド・ギヤ23,25との間の摺動状態を安定させることができる。
【0052】
このように組み上げられたデファレンシャル装置1は、自動車への組み付けに際し、デフ・ケース3のボス部27,29の内周に車軸側のサイド・シャフトを挿入してサイド・ギヤ23,25にスプライン結合させる。
[実施例1の効果]
本発明実施例1のデファレンシャル装置1は、回転自在に支持されるデフ・ケース3と、デフ・ケース3内に自転可能に支持されたピニオン・ギヤ17,19と、デフ・ケース3内に相対回転自在に支持されピニオン・ギヤ17に噛み合う一対のサイド・ギヤ23,25とを備え、デフ・ケース3の内面に、ピニオン・ギヤ17,19及びサイド・ギヤ23,25の球面状の凸背面部17a,19a、23a,25aをそれぞれ自転摺動可能に支持する球面状のピニオン・ギヤ凹支持面部9,11及びサイド・ギヤ凹支持面部13,15を形成し、デフ・ケース3のサイド・ギヤ凹支持面部13,15側に摺動するサイド・ギヤ23,25の凸背面部23a,25aをサイド・ギヤ23,25の歯部53に形成した。
【0053】
このため、凸背面部23a,25aの有効摩擦半径Rを既存のコンべンショナル・デフよりも大きくする設定することができ、簡単な構造で動力系と連動したレスポンスの良いLSDを得ることができ、簡易な構造で低コストのデファレンシャル装置の普及を満足させることができる。
【0054】
凸背面部23a,25aの有効摩擦半径Rを、サイド・ギヤ23,25の歯部53の外径側の歯底径56及び外径側の歯先径58の間に設定した。
【0055】
このため、デファレンシャル装置の構成上、コンべンショナル・デフと同等のサイズを用いて、大きな差動制限機能を付加することができ、簡単な構造で動力系と連動したレスポンスの良いLSDを確実に得ることができる。
【0056】
デフ・ケース3のサイド・ギヤ凹支持面部13,15側と摺動するサイド・ギヤ23,25の凸背面部23a,25aは、サイド・ギヤ23,25の歯部53の歯部の外径側歯底径56の内径側に延設された部分61備えた。
【0057】
このため、凸背面部23a,25a及びサイド・ワッシャ47,49間(但し、デフ・ケース3と直接摺動する場合には、サイド・ギヤ凹支持面部13,15間)の面圧を下げながら、有効摩擦半径Rを確実に大きく維持することができる。加えて、部分61は歯部の外径側歯底径56の内径側に環状に形成されているので、サイド・ギヤ23,25の安定した摺動回転により、摩擦特性を安定させることができる。
【0058】
サイド・ギヤ23,25の凸背面部23a,25aは、歯部53の外径側歯底径56から外径側の歯先径58に渡り内径側から外径側へピッチ円錐線59を越えて形成された。
【0059】
このため、凸背面部23a,25aの有効摩擦半径Rを既存のコンべンショナル・デフと同等のサイズで最大限に大きく設定することができる。加えて、凸背面部23a,25aにピッチ円錐線59ビ対応した摺動面を備えることで、ピニオン・ギヤ17とサイド・ギヤ23,25との噛合い部に生じるピッチ円錐線方向の分力も確実に受け止めることができる。
【0060】
サイド・ギヤ23,25に、凸背面部23a,25aよりも内径側でサイド・ギヤ凹支持面部13,15との間に空間を周回状に形成する環状凹部63を形成した。
【0061】
このため、環状凹部63に周回状に潤滑オイルを滞留させることができ、凸背面部23a,25a側の摺動個所に常時必要なオイルを供給することができる。また、不要な部分の肉を無くし、軽量化を図ることができる。
【0062】
デフ・ケース3のサイド・ギヤ凹支持面部13,15側とサイド・ギヤ23,25の凸背面部23a,25aとの間に、球面状のサイド・ワッシャ47,49を介設した。
【0063】
このため、デフ・ケース3側に高価な硬化処理を施す必要がなくなり、製造コストを低減することができる。
[考え得る追加的な実施形態]
実施例1で配設されたサイド・ワッシャ47,49は必須の構成部材ではなく、デフ・ケース3のサイド・ギヤ凹支持面部13,15とサイド・ギヤ23,25の凸背面部23a,25aとを直接摺動させても良い。この場合には、摺動摩擦時の摩耗を考慮し、デフ・ケース3側に、高加熱処理や硬化コーティングなどを施すことが好ましい。
【0064】
摺動面となるサイド・ギヤ23,25の凸背面部23a,25a(具体的には、歯部53や部分61)や、サイド・ワッシャ47,49、或いはデフ・ケース3のサイド・ギヤ凹支持面部13,15には、摩擦特性を安定させるために種々形状の油溝、油孔、又は表面凹凸処理などを形成することができる。
【0065】
配置が可能であれば、一対のサイド・ギヤと噛合うピニオン・ギヤは、デフ・ケース3内に3個以上配置しても良い。
【符号の説明】
【0066】
1 デファレンシャル装置
3 デフ・ケース
9,11 ピニオン・ギヤ凹支持面部
13,15 サイド・ギヤ凹支持面部
17 ピニオン・ギヤ
17a,23a,25a 凸背面部
23,25 サイド・ギヤ
47,49 サイド・ワッシャ
56 外径側歯底径
58 外径側歯先径
59 ピッチ円錐線
61 部分(環状基部)
63 環状凹部
L1 凸背面部の延長幅
L2 凸背面部の歯部での幅
R 有効摩擦半径
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7