特許第5713664号(P5713664)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5713664
(24)【登録日】2015年3月20日
(45)【発行日】2015年5月7日
(54)【発明の名称】摩擦攪拌接合装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/12 20060101AFI20150416BHJP
【FI】
   B23K20/12 340
   B23K20/12 368
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2010-289081(P2010-289081)
(22)【出願日】2010年12月27日
(65)【公開番号】特開2012-135785(P2012-135785A)
(43)【公開日】2012年7月19日
【審査請求日】2013年10月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004765
【氏名又は名称】カルソニックカンセイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119644
【弁理士】
【氏名又は名称】綾田 正道
(72)【発明者】
【氏名】竹間 浩
(72)【発明者】
【氏名】灘本 浩康
(72)【発明者】
【氏名】中野 忍
【審査官】 山崎 孔徳
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−178760(JP,A)
【文献】 特開2009−190040(JP,A)
【文献】 米国特許第05794835(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒体となる一対の被接合部材同士の円周状の被接合箇所に押圧可能なピンを先端部に有し、軸心が水平面上で回転可能でかつ前記軸心に沿って進退可能な回転ツールと、
前記被接合部材の半径方向外側に複数個配置されて前記被接合部材の外周面に当接し、前記被接合部材を、該軸心が水平面上で回転可能となるように支持するワーク受けローラと、
前記被接合部材を前記軸心まわりに回転させる回転手段と、
を備え、
前記ピンを前記被接合部材同士の被接合箇所に挿入した状態で回転させながらこれらを相対移動させることにより発生した摩擦熱で前記被接合部材の被接合箇所を塑性流動させて該被接合箇所を接合する摩擦攪拌接合装置において、
前記回転ツールが回転可能に貫通可能な貫通孔を有し前記被接合部材の外側に板状で垂直方向に延びる巻き付き防止面が配置され、摩擦攪拌接合時に前記被接合部材の被接合箇所から発生する接合くずが前記巻き付き防止面に当接することにより該接合くずが前記回転ツールの軸心に沿って伸びるのを阻止する巻き付き防止手段を備えた、
ことを特徴とする摩擦攪拌接合装置。
【請求項2】
請求項1に記載の摩擦攪拌接合装置において
記巻き付き防止手段は前記被接合箇所から一定距離離れた位置に保持されている、
ことを特徴とする摩擦攪拌接合装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の摩擦攪拌接合装置において、
前記巻き付き防止手段は、前記回転ツールの移動に伴って該回転ツールと一体的に移動する、
ことを特徴とする摩擦攪拌接合装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに接合しようとする被接合部材の被接合箇所を攪拌して摩擦熱により被接合箇所の母材組織を塑性流動させ、その冷却後に母材組織を一体化させて接合を行う摩擦攪拌接合装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の摩擦攪拌接合装置としては、被接合部材同士の被接合箇所に、回転ツールの先端に設けたピンを押圧・回転させながら被接合部材に対し相対移動させることで発生した摩擦熱を利用して、被接合部材の被接合箇所を塑性流動させて被接合箇所を接合するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような従来の摩擦攪拌接合装置は、回転ツールをこの軸心が略垂直方向になるように配置される、いわゆる縦型のものがよく用いられる。この型式のものにあっては、一方の被接合部材を回転可能にその外周面に接触して保持するローラがピンの接合箇所より下に位置し、かつ被接合部材のほぼすべての被接合箇所はピンが押圧されている被接合箇所よりも下側にも位置するので、摩擦攪拌接合中に被接合部材の被接合箇所から発生した接合くずが被接合部材に付着したり、あるいはピンで押圧されている被接合箇所より下方へ落下してローラの外表面上にくっついたりすることがある。これらの接合くずにより、被接合部材の接合不良や打痕が付くなどの不具合が発生しやすい。
そこで、回転ツールをこれらの軸心が水平面上にあるようにした、いわゆる横型のものが用いられることもある。この横型の場合、被接合部材やこれを支持するローラはピンが押圧している被接合箇所から横方向の位置にあるので、落下する接合くずがそれらに付着しにくくなり、上記不具合は軽減できるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−158153号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の横型の摩擦攪拌接合装置にあっては、上記下方に落下する接合くずに対しては対策可能なものの、摩擦攪拌接合中に被接合箇所から発生した接合くずが横方向に伸び、ピンで押圧している接合箇所の側方に配置されて回転している回転ツールに巻き付いてしまうといった不具合が生じることがある。これらの接合くずはエアを吹き付けても容易に除去できない。
【0006】
本発明の目的は、上記不具合に鑑みなされたもので、その目的は横型の摩擦攪拌接合装置において、摩擦攪拌接合中に被接合部材の被接合箇所から発生する接合くずが、回転ツールに巻き付くといった上記不具合を解決できる摩擦攪拌接合装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的のため、請求項1に記載の本発明による摩擦攪拌接合装置は、
円筒体となる一対の被接合部材同士の円周状の被接合箇所に押圧可能なピンを先端部に有し、軸心が水平面上で回転可能でかつ前記軸心に沿って進退可能な回転ツールと、
前記被接合部材の半径方向外側に複数個配置されて前記被接合部材の外周面に当接し、前記被接合部材を、該軸心が水平面上で回転可能となるように支持するワーク受けローラと、
前記被接合部材を前記軸心まわりに回転させる回転手段と、
を備え、
前記ピンを前記被接合部材同士の被接合箇所に挿入した状態で回転させながらこれらを相対移動させることにより発生した摩擦熱で前記被接合部材の被接合箇所を塑性流動させて該被接合箇所を接合する摩擦攪拌接合装置において、
前記回転ツールが回転可能に貫通可能な貫通孔を有し前記被接合部材の外側に板状で垂直方向に延びる巻き付き防止面が配置され、摩擦攪拌接合時に前記被接合部材の被接合箇所から発生する接合くずが前記巻き付き防止面に当接することにより該接合くずが前記回転ツールの軸心に沿って伸びるのを阻止する巻き付き防止手段を備えた、
構成とする。
【0008】
請求項2に記載の本発明による摩擦攪拌接合装置は、請求項1の発明にあって、巻き付き防止手段が被接合箇所から一定距離離れた位置に保持されている、ことを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の本発明による摩擦攪拌接合装置は、請求項1または2の発明にあって、巻き付き防止手段が、回転ツールの移動に伴って回転ツールと一体的に移動する、ことを特徴とする
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載の発明にあっては、回転ツールが貫通可能に被接合部材の外側に配置され、摩擦攪拌接合時に被接合部材の被接合箇所から発生する接合くずの回転ツールへの巻き付きを防止する巻き付き防止手段を設けたので、回筒体となる被接合部材を水平面でその軸心回りに回転させながら、水辺面上で軸心が回転する回転ツールにより、円周状になる被接合部材の接合箇所を摩擦撹拌溶接する、いわゆる横型の摩擦撹拌接合装置であっても、摩擦攪拌接合中に発生した接合くずが回転ツールに巻き付くのを抑制することができる。
しかもこの場合、切り離された接合くずが落下して接合箇所近くに配置されるローラの外表面に付着して被接合部材の接合不良や被接合部材に打痕がつくといった不具合をなくすことができる。
また、巻き付き防止手段を、接合くずに当接することにより接合くずが回転ツールの軸心に沿って伸びるのを阻止する巻き付き防止面で構成したので、簡単、安価な構成とすることができる。
【0012】
請求項2に記載の発明にあっては、被接合部材が円筒体であるので、回転ツールは円筒体の軸心から一定の距離に保持すればよく、したがって巻き付き防止手段も被接合箇所から一定距離離れた位置に保持すればよい。この場合、巻き付き防止手段の取り付け箇所は装置の非移動部位であればよく安価かつ容易に巻き付き防止手段を設けることができる。
【0013】
請求項3に記載の発明にあっては、巻き付き防止手段が、回転ツールの移動に伴って回転ツールと一体的に移動するので、回転ツールが被接合箇所の形状に応じて前後および上下左右方向に移動する場合であっても、常に最適一を確保でき確実に接合くずの巻き付けを防止することができる。すなわち、被接合部材が円筒体でなくとも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施例1の摩擦攪拌接合装置を示す平面図である。
図2図1のS2−S2線における拡大縦断面図である。
図3】本発明の実施例1の摩擦攪拌接合装置による摩擦攪拌接合作業中の状態を示す平面図である。
図4図3のS4−S4線における拡大縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。
【実施例1】
【0017】
まず、実施例1の摩擦攪拌接合装置の全体構成を説明する。
なお、この実施例1の摩擦攪拌接合装置は、回転ツールをこれらの軸心が水平面上にあるようにした、いわゆる横型のもので、図1に示すように、一対の被接合部材として円筒状タンク(本発明の円筒体に相当)1における一端を閉塞したタンク本体1aの開口部に蓋体1bを摩擦攪拌接合して閉塞する場合を例にとって説明する。
【0018】
この実施例1の摩擦攪拌接合装置は、図1、2に示すように、タンク本体1aの開口端部付近の外周面に当接し、タンク本体1aをこの軸心が水平面上で回転可能に支持する3つのワーク受けローラ2と、タンク本体1aの芯出しをした状態でタンク本体1aの閉塞側端部を回転自在に支持するセンター出し治具3と、タンク本体1aの開口端部に予め仮止めされた蓋体1bをチャック装置4で挟持して円筒状タンク1を軸心Qまわりに回転させる電動モータ(本発明の回転手段に相当)5と、回転ツール6と、接合くずDの巻き付き防止手段7と、を備えている。なお、ワーク受けローラ2は、3個に限らず1個でも2個以上でもよい。
【0019】
回転ツール6は、これより小径で先端部に一体に設けられたピン6aを、タンク本体1aと蓋体1bの被接合箇所Pに対し、その側面から水平面上で押圧しながら、回転ツール6を介してピン6aを電動モータ6aで高速回転させながら円筒状タンク1を回転(回転ツール6との相対移動)させることにより、発生した摩擦熱で円筒状タンク1の被接合箇所Pを塑性流動させて該被接合箇所Pを接合する。
すなわち、この実施例1では、回転ツール6は、一定の高さ位置に固定された状態でその軸心方向(水平方向)に進退可能かつ回転可能な状態に設けられている。なお、回転ツール6の軸心方向の進退は、図示しない電気モータにて行う。
【0020】
巻き付き防止手段7は、タンク本体1aと蓋体1bの摩擦攪拌接合時に被接合箇所から発生する接合くずD(図3、4を参照)の回転ツール6への巻き付きを防止する役目をなす。
すなわち、この巻き付き防止手段7は、この実施例1では、板状でほぼ垂直な巻き付き防止面7cを有し、円筒状タンク1の被接合箇所Pと回転ツール6との間に、被接合箇所から所定の隙間Wを有して配置されている。
そして、この巻き付き防止手段7の巻き付き防止面7cには、回転ツール6がスムーズに貫通可能でかつ回転に支障のない程度でできるだけ小さな径の貫通穴7aが設けられることにより、図3、4に示すように、回転ツール6がこの貫通穴7aを貫通してピン6aを被接合箇所Pに押圧しながら回転可能となっている。
また、この巻き付き防止手段7は、その下端の水平片7bを基台8にボルトなどで固定されることにより、一定の高さ、かつ被接合箇所Pから一定距離離れた位置に固定されている。
【0021】
次に、この実施例1の摩擦攪拌接合装置の作用を説明する。
この実施例1の摩擦攪拌接合装置では、上述のように構成されるため、図1、2に示すように、円筒状タンク1は、タンク本体1aの開口端部に蓋体1bを予め仮止めした状態で、タンク本体1aの閉塞側端部をセンター出し治具3で回転自在に支持する一方、蓋体1bをチャック装置4で挟持するとともに、タンク本体1aの開口端部付近を3つのワーク受けローラ2で回転自在に支持した状態でセットされる。
【0022】
次に、図3、4に示すように、回転ツール6を軸方向に進め、巻き付き防止手段7に設けられた貫通穴7aを貫通して先端のピン6aをタンク本体1aと蓋体1bの被接合箇所Pに対し、その側面から押圧する。
そして、この状態で電動モータ6aを駆動して回転ツール6およびピン6aを高速回転させながら、電動モータ5を駆動して円筒状タンク1を回転(回転ツール6との相対移動)させていくことにより、発生した摩擦熱で円筒状タンク1の被接合箇Pを塑性流動させ、これにより被接合箇所Pを摩擦攪拌接合する。
【0023】
また、摩擦攪拌接合中に被接合箇所から発生した接合くずDが側方に伸びていくが、この場合、被接合箇所Pの側方に配置された回転ツール6が回転しているのでこれに巻き付こうとする。しかしながら、接合くずDが巻き付き防止手段7の巻き付き防止面7cの貫通穴7aの開口縁部等に当接することで回転ツール6から順次折り取られて下方へ落下して行く。これにより、摩擦攪拌接合中の接合くずDが回転ツール6に伸びて行って巻き付くのが抑止される。
【0024】
以上のように、実施例1の摩擦攪拌接合装置にあっては、以下の効果を得ることができる。
(1) 本実施例の摩擦攪拌接合装置にあっては、回転ツール6が貫通可能に円筒状タンク1の側方に配置され、摩擦攪拌接合時に円筒状タンク1の被接合箇所Pから発生する接合くずDの回転ツール6への巻き付きを防止する巻き付き防止手段7を設けたので、摩擦攪拌接合中の接合くずDが回転ツール6に巻き付くといった不具合を解決することができる。
【0025】
(2) また、本実施例の摩擦攪拌接合装置にあっては、巻き付き防止手段7を巻き付き防止面7cを有する構成としたので、安価かつ容易に巻き付き防止手段7を得ることができる。
【0026】
(3) また、本実施例の摩擦攪拌接合装置にあっては、円筒状タンク1を水平状態で回転可能に配置し、回転ツール6を巻き付き防止手段7を貫通した一定の高さで被接合箇所Pから一定距離離れた位置に固定可能とすることで、被接合部材が円筒体である場合に、この円周方向に沿って用意かつ安価に摩擦攪拌接合することが可能になる。
【0027】
以上、本発明を上記各実施例に基づき説明してきたが、本発明はこれらの実施例に限られず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で設計変更等があった場合でも、本発明に含まれる。
【0028】
たとえば、巻き付き防止手段7を回転ツール6の進退および上下左右方向の移動に同期させて、回転ツール6の一体的に移動可能とすることで、被接合部材が円等体ではなくこの被接合箇所Pが非円形の場合であっても、上記実施例同様に摩擦各版接合を行うことができる。この場合、巻き付き防止手段7は、回転ツール6を進退させる部材に固定するのが望ましい。
【符号の説明】
【0029】
1 円筒状タンク(被接合部材)
1a タンク本体
1b 蓋体
2 ワーク受けローラ
3 センター出し治具
4 チャック装置
5 電動モータ(回転手段)
6 回転ツール
6a ピン
巻き付き防止手段
7a 貫通穴
7b 水平片
7c 巻き付き防止面
8 基台
D 接合くず
P 被接合箇所
Q 軸心
W 所定隙間
図1
図2
図3
図4