(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5713779
(24)【登録日】2015年3月20日
(45)【発行日】2015年5月7日
(54)【発明の名称】ロボットシステムの教示データ作成方法及びロボットシステムでの溶接方法
(51)【国際特許分類】
G05B 19/18 20060101AFI20150416BHJP
G05B 19/42 20060101ALI20150416BHJP
B25J 9/22 20060101ALI20150416BHJP
B23K 9/12 20060101ALI20150416BHJP
B23K 9/127 20060101ALI20150416BHJP
B23K 9/095 20060101ALI20150416BHJP
【FI】
G05B19/18 C
G05B19/42 J
B25J9/22 Z
B23K9/12 331K
B23K9/127 509B
B23K9/095 505C
B23K9/095 505B
【請求項の数】2
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2011-93194(P2011-93194)
(22)【出願日】2011年4月19日
(65)【公開番号】特開2012-226536(P2012-226536A)
(43)【公開日】2012年11月15日
【審査請求日】2013年9月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100061745
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 敏雄
(74)【代理人】
【識別番号】100120341
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】山崎 雄幹
(72)【発明者】
【氏名】飛田 正俊
【審査官】
鈴木 崇文
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−353574(JP,A)
【文献】
特開2000−084877(JP,A)
【文献】
特開平04−242802(JP,A)
【文献】
特開2007−000954(JP,A)
【文献】
特開昭63−108972(JP,A)
【文献】
特開2000−075914(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00−21/02
B23K 9/095
B23K 9/12
B23K 9/127
G05B 19/18−19/416
G05B 19/42−19/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多関節型の溶接ロボットと当該溶接ロボットを載置し且つ水平方向に移動可能とするスライダとを有し、且つ前記スライダを動作させながら溶接ロボットによりワークに対して断続溶接を行うロボットシステムのオフライン教示データの作成方法であって、
溶接予定線に沿って設定されている溶接区間及び非溶接区間の順番及び区間長さ比を、前記溶接予定線を溶接する際にスライダが移動するスライダ移動線に適用することで、当該スライダ移動線上に、溶接区間に対応する第1スライダ移動区間と、非溶接区間に対応する第2スライダ移動区間とを設定しておき、
前記溶接区間での溶接が終わると同時に前記スライダが当該溶接区間に対応する第1スライダ移動区間の終点に達するようなスライダ移動速度を算出しておき、
少なくとも1つ以上の第1スライダ移動区間における実際のスライダ移動速度が、前記算出されたスライダ移動速度より大となるように教示データを作成する
ことを特徴とするロボットシステムのオフライン教示データの作成方法。
【請求項2】
多関節型の溶接ロボットと当該溶接ロボットを載置し且つ水平方向に移動可能とするスライダとを有し、且つ前記スライダを動作させながら溶接ロボットによりワークに対して断続溶接を行うロボットシステムでの溶接方法であって、
溶接予定線に沿って設定されている溶接区間及び非溶接区間の順番及び区間長さ比を、前記溶接予定線を溶接する際にスライダが移動するスライダ移動線に適用することで、当該スライダ移動線上に、溶接区間に対応する第1スライダ移動区間と、非溶接区間に対応する第2スライダ移動区間とを設定しておき、
前記溶接区間での溶接が終わると同時に前記スライダが当該溶接区間に対応する第1スライダ移動区間の終点に達するようなスライダ移動速度を算出しておき、
少なくとも1つ以上の第1スライダ移動区間における実際のスライダ移動速度が、前記算出されたスライダ移動速度より大となるように、スライダを移動させつつ溶接を行う
ことを特徴とするロボットシステムでの溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スライダを動作させながら溶接ロボットによりワークに対して溶接、非溶接を交互に繰り返して行う断続溶接を行うロボットシステムに関するものであって、ロボットシステムのオフライン教示データの作成方法、及びこのロボットシステムでの溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶接対象(ワーク)を断続的に溶接する「断続溶接」という溶接方法がある。この方法は、長い距離のワークに対して全ての部位を溶接せず、溶接する部分と溶接しない部分とを交互に溶接する方法である。この断続溶接は、比較的強度を要さない部位に用いられる方法であり、溶接ロボットを用いた溶接の場合、ロボット動作中にアークON/OFF命令を断続的に与え、溶接予定線に沿って断続的にワークを溶接する。
【0003】
溶接ロボットを用いた断続溶接の例として、特許文献1に開示された技術がある。
特許文献1は、産業用ロボットのアーム先端手首に取付けたエンドエフェクタにより、該エンドエフェクタの移動軌跡に沿ってワーク上に断続的に加工を施すステッチ加工方法において、ロボット制御装置に断続的加工の加工、非加工を1周期とする加工距離、非加工距離を設定しておき、ステッチ加工を開始してからのエンドエフェクタの移動距離に応じて設定加工距離、非加工距離だけ交互に加工、非加工を行なう産業用ロボットによるステッチ加工方法を開示する。
【0004】
すなわち、特許文献1には、教示時に溶接、非溶接の切替位置、溶接区間距離と非溶接区間距離をロボット制御装置に設定し、ロボット制御装置に移動距離を監視させ、溶接区間距離、非溶接区間距離を移動する毎にそれぞれ溶接、非溶接に切替えていくことで断続的に溶接を行う方法が開示されている。
一方、多関節型の溶接ロボットがスライダ上に載置されている場合においては、溶接ロボットの溶接動作の他に、スライダ位置を設定する必要がある。
【0005】
スライダ位置を設定する方法として、
図2(a)に示す如く、溶接開始位置と終了位置でのスライダの位置が与えられた場合、スライダの位置にロボットのエンドエフェクタ(溶接ツール)の先端の移動量に比例した位置に補間位置を与える手法を用いることが多かった。また、
図2(b)に示すように、溶接区間ではスライダを動かさずに溶接を行い、エンドエフェクタが非溶接区間に達した後、スライダを高速で動かすようにする方法も採用されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−58362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記した方法で断続溶接作業に対する教示データを作成し、溶接ロボットに作業を行わせた場合、作業時間(タクトタイム)は溶接区間(アークON位置〜OFF位置間)での溶接作業時間と、非溶接区間(アークOFF位置〜ON位置間)でのスライダの移動時間の和となる。
溶接区間におけるスライダは溶接速度と略同じ速度で動作しており、非溶接区間におけるスライダは比較的高速(溶接区間の約10倍程度)で移動する。このように、溶接区間での溶接速度を保ちつつ、スライダの動作速度を溶接速度よりも上げて動作させるようにすると、非溶接区間でのスライダ動作時間が減少し、よりタクトタイムを減らすことが可能であると考えられる。
【0008】
ところが、
図2(a)に示した如く、非溶接区間に対応するスライダ移動区間が長い状況下では、仮にスライダの移動速度が速いとしても、タクトタイムを短くできない状況を回避できないことがあった。非溶接区間に対応するスライダ移動区間が非常に長い
図2(b)の技術では、なおさらタクトタイムを短くできない状況を回避できない。
そこで、本発明は、上記問題点を鑑み、断続溶接を確実に行うことができると共に、溶接作業時間を可及的に短くすることのできるロボットシステムの教示データ作成方法及びロボットシステムを用いた溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の目的を達成するため、本発明においては以下の技術的手段を講じた。
すなわち、本発明に係るロボットシステムのオフライン教示データの作成方法は、多関節型の溶接ロボットと当該溶接ロボットを載置し且つ水平方向に移動可能とするスライダとを有し、且つ前記スライダを動作させながら溶接ロボットによりワークに対して断続溶接を行うロボットシステムのオフライン教示データの作成方法であって、溶接予定線に沿って設定されている溶接区間及び非溶接区間の順番及び区間長さ比を、前記溶接予定線を溶接する際にスライダが移動するスライダ移動線に適用することで、当該スライダ移動線上に、溶接区間に対応する第1スライダ移動区間と、非溶接区間に対応する第2スライダ移動区間とを設定しておき、少なくとも1つ以上の溶接区間での溶接が終わった際に、前記スライダが当該溶接区間に対応する第1スライダ移動区間に隣接する第2スライダ移動区間内に位置するように、教示データを作成することを特徴とする。
【0010】
言い換えれば、本発明のオフライン教示データの作成方法は、断続溶接における溶接長、非溶接長を用いて、断続溶接の開始位置でのスライダ位置から終了位置の間に溶接位置に比例した補間位置を計算すると共に、非溶接区間でのスライダ補間位置を決定し、決定した各スライダ補間位置間で、溶接区間及び非溶接区間でスライダを動かすようなオフライン教示データを作成するものである。
【0011】
好ましくは、少なくとも1つ以上の溶接区間での溶接が終わった際に、前記スライダが当該溶接区間に対応する第1スライダ移動区間に隣接する第2スライダ移動区間の略中央位置に達するように、教示データを作成するとよい。
本発明に係るロボットシステムのオフライン教示データの他の作成方法は、多関節型の溶接ロボットと当該溶接ロボットを載置し且つ水平方向に移動可能とするスライダとを有し、且つ前記スライダを動作させながら溶接ロボットによりワークに対して断続溶接を行うロボットシステムのオフライン教示データの作成方法であって、溶接予定線に沿って設定されている溶接区間及び非溶接区間の順番及び区間長さ比を、前記溶接予定線を溶接する際にスライダが移動するスライダ移動線に適用することで、当該スライダ移動線上に、溶接区間に対応する第1スライダ移動区間と、非溶接区間に対応する第2スライダ移動区間とを設定しておき、前記溶接区間での溶接が終わると同時に前記スライダが当該溶接区間に対応する第1スライダ移動区間の終点に達するようなスライダ移動速度を算出しておき、少なくとも1つ以上の第1スライダ移動区間における実際のスライダ移動速度が、前記算出されたスライダ移動速度より大となるように教示データを作成することを特徴とする。
【0012】
本発明に係るロボットシステムでの溶接方法は、多関節型の溶接ロボットと当該溶接ロボットを載置し且つ水平方向に移動可能とするスライダとを有し、且つ前記スライダを動作させながら溶接ロボットによりワークに対して断続溶接を行うロボットシステムでの溶接方法であって、溶接予定線に沿って設定されている溶接区間及び非溶接区間の順番及び区間長さ比を、前記溶接予定線を溶接する際にスライダが移動するスライダ移動線に適用することで、当該スライダ移動線上に、溶接区間に対応する第1スライダ移動区間と、非溶接区間に対応する第2スライダ移動区間とを設定しておき、少なくとも1つ以上の溶接区間での溶接が終わった際に、前記スライダが当該溶接区間に対応する第1スライダ移動区間に隣接する第2スライダ移動区間内に位置するように、スライダを移動させつつ溶接を行うことを特徴とする。
【0013】
好ましくは、少なくとも1つ以上の溶接区間での溶接が終わった際に、前記スライダが当該溶接区間に対応する第1スライダ移動区間に隣接する第2スライダ移動区間の略中央位置に達するように、スライダを移動させつつ溶接を行うとよい。
本発明に係るロボットシステムでの他の溶接方法は、多関節型の溶接ロボットと当該溶接ロボットを載置し且つ水平方向に移動可能とするスライダとを有し、且つ前記スライダを動作させながら溶接ロボットによりワークに対して断続溶接を行うロボットシステムでの溶接方法であって、溶接予定線に沿って設定されている溶接区間及び非溶接区間の順番及び区間長さ比を、前記溶接予定線を溶接する際にスライダが移動するスライダ移動線に適用することで、当該スライダ移動線上に、溶接区間に対応する第1スライダ移動区間と、非溶接区間に対応する第2スライダ移動区間とを設定しておき、前記溶接区間での溶接が終わると同時に前記スライダが当該溶接区間に対応する第1スライダ移動区間の終点に達するようなスライダ移動速度を算出しておき、少なくとも1つ以上の第1スライダ移動区間における実際のスライダ移動速度が、前記算出されたスライダ移動速度より大となるように、スライダを移動させつつ溶接を行うことを特徴とする。
なお、本発明にかかるロボットシステムのオフライン教示データの作成方法の最も好ましい形態は、
多関節型の溶接ロボットと当該溶接ロボットを載置し且つ水平方向に移動可能とするスライダとを有し、且つ前記スライダを動作させながら溶接ロボットによりワークに対して断続溶接を行うロボットシステムのオフライン教示データの作成方法であって、溶接予定線に沿って設定されている溶接区間及び非溶接区間の順番及び区間長さ比を、前記溶接予定線を溶接する際にスライダが移動するスライダ移動線に適用することで、当該スライダ移動線上に、溶接区間に対応する第1スライダ移動区間と、非溶接区間に対応する第2スライダ移動区間とを設定しておき、前記溶接区間での溶接が終わると同時に前記スライダが当該溶接区間に対応する第1スライダ移動区間の終点に達するようなスライダ移動速度を算出しておき、少なくとも1つ以上の第1スライダ移動区間における実際のスライダ移動速度が、前記算出されたスライダ移動速度より大となるように教示データを作成することを特徴とする。
本発明にかかるロボットシステムでの溶接方法の最も好ましい形態は、多
関節型の溶接ロボットと当該溶接ロボットを載置し且つ水平方向に移動可能とするスライダとを有し、且つ前記スライダを動作させながら溶接ロボットによりワークに対して断続溶接を行うロボットシステムでの溶接方法であって、溶接予定線に沿って設定されている溶接区間及び非溶接区間の順番及び区間長さ比を、前記溶接予定線を溶接する際にスライダが移動するスライダ移動線に適用することで、当該スライダ移動線上に、溶接区間に対応する第1スライダ移動区間と、非溶接区間に対応する第2スライダ移動区間とを設定しておき、前記溶接区間での溶接が終わると同時に前記スライダが当該溶接区間に対応する第1スライダ移動区間の終点に達するようなスライダ移動速度を算出しておき、少なくとも1つ以上の第1スライダ移動区間における実際のスライダ移動速度が、前記算出されたスライダ移動速度より大となるように、スライダを移動させつつ溶接を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るロボットシステムの教示データ作成方法及びロボットシステムを用いた溶接方法によれば、断続溶接を確実に行うことができると共に溶接作業時間を可及的に短くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明のロボットシステムを示した概略図である。
【
図2】(a),(b)は従来技術におけるスライダの動かし方を示したものであり、(c)は本発明のスライダの動かし方を示したものである。
【
図3】(a)は従来技術におけるスライダの動かし方を示した拡大図であり、(b)は本発明におけるスライダの動かし方を示した拡大図であり、(c)は本発明のスライダの動かし方(変形例)を示した拡大図である。
【
図4】本発明に基づきスライダの位置を設定する方法を示したフローチャートである。
【
図5】本発明に基づき、実際にワークを溶接する状況を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を、図を基に説明する。
図1を参照して、本実施形態に係るロボットシステム1の全体構成について説明する。
この図に示すように、ロボットシステム1は、溶接ロボット2と、教示ペンダント3を備えた制御装置4と、教示データ作成装置5とを含む。溶接ロボット2は垂直多関節型の6軸の産業用ロボットであり、その先端に溶接トーチなどから構成される溶接ツール6が設けられている。この溶接ロボット2はそれ自体を水平方向に移動させるスライダ7に搭載されている。なお、本発明における溶接ロボット2の型式又は軸数に関しては、垂直多関節型の6軸ロボットに限定はされない。
【0017】
本実施形態の場合、溶接ロボット2は、先端に設けられた溶接ツール6により、長尺のワークWに対して全ての部位を溶接せず、断続的に(溶接する部分と溶接しない部分とを交互に)溶接することを想定している。この断続溶接は、比較的強度を要さない部位に用いられる溶接手法であり、溶接ロボット2を用いた断続溶接の場合、ロボット動作中にアークON/OFF命令を断続的に与え、溶接線に沿って断続的にワークWを溶接する。断続溶接を行うに際しては、溶接ロボット2の各リンクを動かすと共に、スライダ7を溶接予定線に沿わせる形で水平方向に移動させるようにする。
【0018】
制御装置4は、溶接ロボット2を、予め教示した教示データ(オフライン教示データ)に従って制御する。教示データは、制御装置4に接続された教示ペンダント3を使用して作成する場合や、パソコンを利用した教示データ作成装置5を使用して作成する場合がある。いずれの場合であっても、教示データは、実際の動作の前に予め作成される。パソコンにより作成された教示データは、磁気的にデータを記憶した媒体等を介して制御装置4に受渡しされたり、データ通信により制御装置4に転送されたりする。
【0019】
教示データ作成装置5は、表示装置としてグラフィック表示可能なディスプレイを備え、入力装置としてキーボード又はマウスを備える。また、ワークWのCAD情報を取込むために、磁気記憶装置又は通信装置が設けられている。
本実施形態の場合、この教示データ作成装置5内には、断続溶接を確実に行うことができると共に、溶接作業時間を可及的に短くすることのできる教示データ、特に溶接中におけるスライダ7の位置を与える教示データを作成可能とする処理アルゴリズムがプログラムの形で格納されている。
【0020】
以下、教示データ作成装置5において実行されるロボットシステム1の教示データ作成方法について述べる。
図4に示すように、この教示データ作成方法は、ステップ1(S1)〜ステップ3(S3)を有している。
まず、ステップ1では、予め設定された溶接開始、終了位置に対応するスライダ位置、ならびに溶接区間の長さ、非溶接区間の長さから、溶接アークを点火する位置(アークON位置)及び溶接アークを消火する位置(アークOFF位置)におけるスライダ位置を計算する。
【0021】
言い換えるならば、
図3(a)に示す如く、ワークW上の溶接予定線に沿って設定されている溶接区間及び非溶接区間の順番及び区間長さ比を、溶接予定線を溶接する際にスライダ7が移動するスライダ移動線に適用する。ここでいう適用とは、溶接区間及び非溶接区間の順番及び区間長さ比を利用して、スライダ移動線上に、溶接区間に対応する第1スライダ移動区間と、非溶接区間に対応する第2スライダ移動区間とを設定することである。溶接予定線とスライダ移動線とが同一長さであれば、溶接区間と第1スライダ移動区間とは同じ長さとなり、非溶接区間と第2スライダ移動区間とは同じ長さとなる。スライダ移動線が溶接予定線の1/2の長さであれば、第1スライダ移動区間は溶接区間の半分の長さ、第2スライダ移動区間は非溶接区間の半分の長さとなる。
【0022】
図3(a)から明らかなように、スライダ7が第1スライダ移動区間の終点に移動した際には、溶接ツール6は溶接区間の終点に達し、溶接ツール6のアークがOFFとされる。それ故、第1スライダ移動区間の終点の位置が、アークOFFのスライダ位置sldOFFiである。同様に、スライダ7が第2スライダ移動区間の終点に移動した際には、溶接ツール6は非溶接区間を挟んだ次の溶接区間の始点に達し、溶接ツール6のアークがONとされる。それ故、第2スライダ移動区間の終点の位置が、アークONのスライダ位置sldON(i+1)である。
【0023】
具体的には、溶接開始位置でのスライダ位置をsldSとし、溶接終了位置でのスライダ位置をsldEとし、断続溶接長をLW1,LW2,・・・,LWn、非溶接長をLNW1,LNW2,・・・,LNWnとして(nは断続溶接の回数)、式(1)にて、各アークON位置におけるスライダ移動線上でのスライダ位置(第2スライダ移動区間の終点の位置)sldON1〜sldONnを求める。
【0024】
同じく、式(1)にて、各アークOFF位置におけるスライダ移動線上でのスライダ位置(第1スライダ移動区間の終点の位置)sldOFF1〜sldOFFnを求める。
【0026】
式(1)にて求められた、スライダ位置sldOFF1〜sldOFFnは、
図3(a)に示す従来手法におけるスライダ位置である。
次に、ステップ2で、第2非溶接区間におけるスライダ7の位置、本願発明に基づいて算出されるスライダ位置(スライダ補間位置)sldMIDiを決定する。
このスライダ補間位置sldMIDiは、断続溶接を確実に行うことができると共に、溶接作業時間を可及的に短くすることのできるスライダ位置であり、オフライン教示データである。
【0027】
スライダ補間位置sldMIDiを求めるに際しては、第1スライダ移動区間の終点の位置をsldOFFiとし、再びアークを点火させる際にスライダ7が位置する場所、すなわち第2スライダ移動区間の始点の位置をsldON(i+1)とし、式(2)により算出する。
【0029】
図3(b)に示す如く、式(2)は、溶接区間での溶接が終わった際に、前記スライダ7が、当該溶接区間に対応する第1スライダ移動区間に隣接する第2スライダ移動区間の略中央位置に達するように、教示データを作成することを意味する。
なお、スライダ補間位置を決定する他の方法として、
図3(c)に示すように、例えば、溶接区間に対応する第1スライダ移動区間に隣接する第2スライダ移動区間の1/3の位置をスライダ補間位置sldMIDiとし、隣接する第2スライダ移動区間の2/3の位置をスライダ補間位置sldMID(i+1)としてもよい。スライダ補間位置sldMIDi→スライダ補間位置sldMID(i+1)は、高速にスライダ7を移動させるとよい。スライダ7がスライダ補間位置sldMID(i+1)に到達するまでの間に、溶接ツール6も次の溶接区間の始点(アークONの位置)に高速に移動させる。
【0030】
当然ながら、上記した1/3の位置、2/3の位置は例示であってこれに限定されない。例えば、隣接する第2スライダ移動区間の1/4の位置や1/5の位置をスライダ補間位置sldMIDiとし、当該第2スライダ移動区間の3/4の位置や4/5の位置をスライダ補間位置sldMID(i+1)としてもよい。
隣接する第2スライダ移動区間の始点を少し超えた位置(0近傍の位置)をスライダ補間位置sldMIDiとし、このスライダ補間位置sldMIDiより少し進んだ位置をスライダ補間位置sldMID(i+1)としてもよい。逆に、隣接する第2スライダ移動区間の終点近くの位置(1近傍の位置)をスライダ補間位置sldMIDiとし、このスライダ補間位置sldMIDiより少し進んだ位置であって終点の手前位置をスライダ補間位置sldMID(i+1)としてもよい。
【0031】
とはいえ、いずれの場合であっても、スライダ補間位置sldMIDi、sldMID(i+1)は、ロボットの動作範囲の限界位置を超えない位置とすべきである。
このように、
図3(b)のようにスライダ補間位置sldMIDiを第2スライダ移動区間の略中央位置とせず、
図3(c)のケースのようにする典型的なケースとしては、非溶接区間すなわち第2スライダ移動区間が長く、第2スライダ移動区間の略中央位置に位置するロボットがアームを移動させるだけでは次の溶接区間に届かない場合などが該当する。
【0032】
また、スライダ補間位置を決定するもう一つの方法として、溶接時間をt
1〜t
n、溶接区間のスライダ7の速度をvWsld1〜vWsldn、非溶接区間でのスライダ7の速度をvNWsld1〜vNWsld(n−1)とすると、タクトタイムは、式(3)で表わされる。
【0034】
式(3)を最小化するような第1スライダ移動区間(溶接区間に対応)、及び第2スライダ移動区間(非溶接区間に対応)でのスライダ速度を決定し、決定したスライダ速度及び溶接時間からスライダ7の各位置を求めて決定してもよい。
最後に、ステップ3ではステップ2で求めた位置を新たなスライダ7の補間位置sldMIDiとして設定する。その後、溶接ツール6が溶接区間の始点から終点まで移動する間に、スライダ7がsldONi→sldMIDiへと移動するようにする。その後、溶接ツール6が非溶接区間の始点から終点まで移動し、さらに、溶接ツール6が非溶接区間に続く溶接区間の始点から終点まで移動する間に、スライダ7がsldMIDi→sldOFF(i+1)へと移動する。
【0035】
以上述べた、教示データの作成方法をまとめれば、溶接予定線に沿って設定されている溶接区間及び非溶接区間の順番及び区間長さ比を、溶接予定線を溶接する際にスライダ7が移動するスライダ移動線に適用することで、当該スライダ移動線上に、溶接区間に対応する第1スライダ移動区間と、非溶接区間に対応する第2スライダ移動区間とを設定しておき、溶接区間での溶接が終わった際に、スライダ7が、当該溶接区間に対応する第1スライダ移動区間に隣接する第2スライダ移動区間内に位置するように、教示データを作成するものといえる。
【0036】
なお、スライダ7を隣接する第2スライダ移動区間へ「過移動」させる動作は、溶接予定線上の少なくとも1つ以上の溶接区間で行うとよい。全ての溶接区間(最終端に存在する溶接区間は除く)に対して、本実施形態の処理を行うことで、タクトタイムが最も短くなる教示データを作成する乃至は溶接作業を行うことができる。
この技術を別の側面で捉えれば、溶接区間での溶接が終わると同時に前記スライダ7が第1スライダ移動区間の終点に達するようなスライダ移動速度(平均速度)を算出しておき、算出されたスライダ移動速度より、第1スライダ移動区間における実際のスライダ移動速度vWsldn(平均速度)が大となるように教示データを作成するものになる。この実際のスライダ移動速度でスライダ7を移動させると、溶接区間での溶接が終わった際には、スライダ7が第2スライダ移動区間内に位置するようになり、例えば、
図3(b)(c)の状況となる。
【実施例】
【0037】
表1には、本実施形態の手法で求めた教示データにより溶接を行った場合(
図5)と、従来手法による教示データで溶接を行った場合を比較した結果が示されている。
【0038】
【表1】
【0039】
図5のように、本実施例は、全長1000mmの溶接線に、スライダ7の動作量1000mm、断続溶接回数11回、断続溶接長20mm、ピッチ98mm、溶接速度30cm/minでロボットが断続溶接する教示データをそれぞれ作成し、動作時のタクトタイムをそれぞれ測定した結果である。表1から明らかなように、本発明を適用した場合で1割近くタクトタイムが短くなっていることが確認できる。
【0040】
上記実施例を精説すれば、非溶接区間に対応する第2スライダ移動区間(98−20=78mm)の中間位置がスライダ補間位置sldMIDiであるため、溶接区間の溶接終了までにスライダ7は20+(78/2)=59mm移動する。溶接速度は30cm/minであるため、溶接区間20mmを溶接するのに要する時間は、0.067min(4.0sec)であり、このときのスライダ7の移動速度は、59mm/0.067min=881mm/min(88cm/min)となる。
【0041】
一方、従来のスライダ7の動きである「溶接区間での溶接が終わると同時にスライダ7が第1スライダ移動区間の終点に達するようなスライダ移動速度」は、溶接区間とスライダの移動区間が同じ長さなので30cm/minである。
つまり、本実施例は、少なくとも1つ以上の第1スライダ移動区間における実際のスライダ移動速度(88cm/min)が、算出されたスライダ移動速度(30cm/min)より大となるように、スライダ7を移動させつつ溶接を行うことになっている。このようなスライダ7の動き(移動速度)により、タクトタイムを短縮することが可能となる。
【0042】
すなわち、本発明の技術により教示データを作成し、得られた教示データをロボット実機に適用した時、溶接ツール6の動作量に比例した補間値を与える従来の方法よりも短いタクトタイムで作業が可能となり、断続溶接作業の効率化を図ることが可能となる。
ところで、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0043】
例えば、ロボット2の行う作業として、溶接作業を例示して説明を行ったが、ワークWにシール剤を添付するシーリング加工、塗料を塗布する塗装加工などのステッチ作業においても本発明を適用することが可能である。
【符号の説明】
【0044】
1 ロボットシステム
2 溶接ロボット
3 教示ペンダント
4 制御装置
5 教示データ作成装置
6 溶接ツール
7 スライダ
W ワーク