(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記反応の開始時点において、気相および液相に含まれる硫化水素量が、上記(1)式で示されるα,β-不飽和カルボン酸の2〜30モル倍量であることを特徴とする請求項1に記載の3−メルカプトカルボン酸の製造方法。
前記α,β-不飽和カルボン酸と硫化水素との反応を、反応温度が80〜200℃の条件下で行うことを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載の3−メルカプトカルボン酸の製造方法。
前記塩基性化合物の使用量が原料α,β-不飽和カルボン酸の0.01〜3モル倍量であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の3−メルカプトカルボン酸の製造方法。
前記塩基性化合物がアルカリ金属水酸化物もしくはアルカリ土類金属水酸化物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の3−メルカプトカルボン酸の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための最良の形態について具体的に説明する。
[反応]
本発明で用いられる反応は、下記式(1)で表されるα,β-不飽和カルボン酸と硫化水素とを、塩基性化合物の存在下、反応圧力3.5〜20.0MPaG(ゲージ圧)の条件にて水溶媒中で反応させ、下記式(2)で表される3−メルカプトカルボン酸を製造するものである。
【0020】
(式(1)中、Rは炭素数1〜6の直鎖状または分岐状のアルキル基を示す。)
【0022】
(式(2)中、Rは上記式(1)中のそれと同義である。)
なお、上記反応の好適例として、クロトン酸(以下、「CA」ともいう)と硫化水素(H
2S)とを、水酸化ナトリウム(NaOH)の存在下で反応させて3−メルカプトブタン酸(以下、「3MBA」ともいう)を製造する例を示すと以下の通りとなる。
【0024】
ここで、反応圧力とは、α、β−不飽和カルボン酸と硫化水素とが反応する際の反応系内の全圧(ゲージ圧)を言う。
また、硫化水素分圧とは、α,β-不飽和カルボン酸と硫化水素とが反応する際の反応系内の気相部の全圧(以下、全圧、反応全圧などともいう)に対する硫化水素の分圧をいう。反応系内の気相には通常、硫化水素以外に不活性ガスや水蒸気などが含まれる。
【0025】
上記反応においては、下記に示すモノスルフィド体(以下、MSあるいはMS体などともいう)やジスルフィド体(以下、DSあるいはDS体ともいう)を副生成物(不純物)として生成することがある。
【0028】
本発明で用いられる上記反応は、バッチ法や連続法を採用することができる。バッチ法とは、α,β−不飽和カルボン酸と溶媒、硫化水素、アルカリの各原料を予め反応器に投入しておく方法である。連続法とは、各原料を混合状態であるいはそれぞれ別個に反応器へ連続的に投入し、反応液を連続的に抜き出す方法である。バッチ法、連続法ともに反応形式、基本工程は同等であり、下記のフロー図で示される。
【0030】
以下、(イ)使用する化合物類(原料など)、(ロ)生成物、(ハ)反応条件、(ニ)生成物の精製方法、(ホ)バッチ法と連続法の順に、具体的に説明する。
(イ)使用する化合物類(原料など)
[α,β-不飽和カルボン酸]
本発明の方法において、原料化合物として用いるα,β-不飽和カルボン酸は、下記式(1)で表されるα,β-不飽和カルボン酸である。
【0032】
(式(1)中、Rは炭素数1〜6の直鎖状または分岐状のアルキル基を示す。)
ここで、α,β-不飽和とは、カルボニル基(C=O)を構成している炭素に隣接するα位の炭素と、その隣のβ位の炭素とが二重結合で結合していることを示す。
【0033】
上記式(1)中、炭素数1〜6の直鎖状アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基などが挙げられる。
上記式(1)中、炭素数1〜6の分岐状アルキル基としては、イソプロピル基、イソブチル基、1−メチルプロピル基、tert−ブチル基、イソペンチル基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、1−エチルプロピル基、イソヘキシル基、1−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、1−エチルブチル基、2−エチルブチル基などが挙げられる。
【0034】
これら炭素数1〜6の直鎖状または分岐状のアルキル基の中では、原料入手の容易性の観点より、メチル基、エチル基、イソプロピル基が好ましく、特にメチル基が好ましい。
なお、目的とする3−メルカプトカルボン酸(上記式(2)中、特定のRを有する3−メルカプトカルボン酸)を製造するには、対応するα,β-不飽和カルボン酸{上記式(1)中のRが上記式(2)中のものと同一のもの。}を原料化合物として選定すればよい。
【0035】
α,β-不飽和カルボン酸の具体例としては、クロトン酸、2−ペンテン酸、2−ヘキセン酸、4−メチル−2−ペンテン酸などが挙げられる。
これらの中では、原料入手の容易性の面から、クロトン酸、2−ペンテン酸などが好ましく、クロトン酸が特に好ましい。
[硫化水素(H
2S)]
本発明の方法で用いる硫化水素は、石油精製に由来する硫化水素ガスでもよいし、硫黄を水素化した合成硫化水素でもよい。
【0036】
硫化水素は、ガス状のまま反応装置に供給してもよく、反応に使用する溶媒に溶解して供給してもよく、液化硫化水素を供給してもよい。
これらのうち、液化硫化水素が保存性に優れており、工業的な観点で好ましい。
【0037】
前記硫化水素をガス状で供給する場合は、硫化水素ガスを加圧して反応液の上層に供給してもよく、硫化水素ガスをガス分散装置に通して反応液中に供給してもよい。
溶媒に溶解して供給する場合は、硫化水素ガスを溶媒に溶解させるミキサーへ供給して反応液中に溶解させることが、取り扱いを容易にできる観点から望ましい。また、反応前に硫化水素ガスを溶媒に溶解させておく場合には、反応液の温度を10℃以下に保ちながら硫化水素ガスを反応液中に供給して溶解させておくことが、硫化水素の溶解度を高くできる観点から好ましい。
【0038】
液化硫化水素を液体のまま供給する場合には、反応液へ直接供給することが望ましい。また、加圧あるいは冷却により液化した硫化水素を、α、β−不飽和カルボン酸と硫化水素が反応する際の圧力条件(反応圧力)まで昇圧して供給することが、保存性に優れた液化硫化水素を直接使用できる観点から望ましい。
【0039】
硫化水素が液化硫化水素として供給される場合には、反応液との混合前に液化硫化水素を反応温度まで加熱しても良いし、反応液との混合後に液化硫化水素を含む反応液を反応温度まで加熱してもよい。
【0040】
なお、取り扱い性を改善する目的で、反応液中で硫化水素ガスを発生させることで硫化水素を供給してもよい。
すなわち、硫化ナトリウムや水硫化ナトリウム、硫化アンモニウムなどの硫化塩、水硫化塩を反応液中で中和して硫化水素ガスを発生させて、反応液中に硫化水素ガスを供給してもよい。
【0041】
使用する硫化水素の量は、α,β-不飽和カルボン酸に対して、理論的には、等モル量で用いればよいが、通常2〜30モル倍量、好ましくは2〜15モル倍量、より好ましくは3〜8モル倍量であることが反応効率、コスト、環境負荷などの観点から好ましい。
【0042】
なお、本発明の方法をバッチ法で行う場合、上記硫化水素量は反応開始時の量である。一方、本発明の方法を連続工程で行う場合、上記硫化水素量は、定常状態において反応液中の硫化水素量が、常に上記範囲内にあるように制御される。
【0043】
上記α,β-不飽和カルボン酸に対する硫化水素の量が2モル倍量未満であると、反応時間が長くなる傾向にある。さらには、生成した3−メルカプトカルボン酸が原料であるα,β-不飽和カルボン酸と反応するために、3−メルカプトカルボン酸の収率が低下する傾向にある。
【0044】
上記α,β-不飽和カルボン酸に対する硫化水素の量が30モル当量を超えると、反応後の硫化水素回収工程での回収設備が過大となるか、もしくは廃棄での負荷が増加する傾向にある。
[塩基性化合物]
本発明に用いる塩基性化合物は、本発明の効果を損なわないものであれば特に限定はされず、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属を含有する塩基性物質あるいはアンモニア、有機塩基物質などが挙げられる。
【0045】
上記塩基性物質が含有するアルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、あるいはカリウムが好ましい。上記塩基性物質が含有するアルカリ土類金属としては、マグネシウムとカルシウムとが好ましい。これらの金属は、1種のみで使用してもよいし、2種類以上が混合されて使用してもよい。
【0046】
上記アルカリ金属あるいは上記アルカリ土類金属は、水酸化物、酸化物、有機金属、アルコキシド化合物、硝酸塩、硫酸塩、シアン化物、硫化物、水硫化物として入手可能であり、いずれも使用することができる。
【0047】
これらの中でも、アルカリ金属あるいは上記アルカリ土類金属の水酸化物、酸化物、アルカリ金属あるいは上記アルカリ土類金属が含まれた有機金属、アルカリ金属あるいは上記アルカリ土類金属のアルコキシド化合物、硫化物、水硫化物のいずれかを使用することが好ましい。
【0048】
上記の中でも、水酸化物としては、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)、水酸化カルシウム(Ca(OH)
2)が好ましく、
アルコキシドとしては、ナトリウムメトキサイド、カリウムメトキサイド、ナトリウムt−ブトキサイドが好ましく、
硫化物としては、硫化ナトリウム、硫化カリウムが好ましく、
水硫化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましい。
【0049】
有機塩基物質としては、一般的にアミン類が使用可能であり、一般式H
3-n−N−(R
1)
n(R
1:C1〜C6の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基、n:1〜3の整数。)で表される鎖状アミン類、例えば、エチルアミン、プロピルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジイソプロピルアミン、ジプロピルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン;
環状アミン類としては、例えば、ピリジン、モルフォリン、プロリンなどが使用可能であり、好ましくは、上記鎖状アミン類、中でも、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミンが望ましい。
【0050】
これらの中でも、3−メルカプトカルボン酸の収率および生産性の観点より、塩基性化合物としては、アルカリ金属水酸化物もしくはアルカリ土類金属水酸化物が好ましく、水酸化ナトリウムおよび水酸化カルシウムが特に好ましい。
【0051】
上記塩基性化合物の量は、α,β-不飽和カルボン酸の量に対して、通常0.01〜3モル倍量、好ましくは0.02〜1.5モル倍量、より好ましくは0.03〜1.0モル倍量であるが、0.1〜3モル倍量でもよい。
【0052】
なお、後述の第2の態様では、上記塩基性化合物の量は、α,β-不飽和カルボン酸の量に対して、通常0.1〜3モル倍量、好ましくは0.3〜2.5モル倍量、より好ましくは0.5〜2.0モル倍量でもよい。
【0053】
α,β-不飽和カルボン酸の量に対する塩基性化合物の量が過少であると、反応速度が低下して反応時間が長くなって、反応完了までに長時間を要する傾向にある。
α,β-不飽和カルボン酸に対する塩基性化合物の量が3モル倍量を越えると、副反応が増加して目的物の収率が低下する傾向があると共に、後工程において塩基性化合物の回収や廃棄にかかる負荷が増大して工業的に問題となる傾向にある。
[溶媒]
本発明の反応では、水を溶媒として使用する。使用する水としては、本発明の効果を損なわない限り特に制限はないが、生成する3−メルカプトカルボン酸の収率、純度などの観点からイオン交換水、蒸留水が好ましい。
【0054】
本発明では、溶媒として水を用いるため、溶媒として有機溶媒を大量に使用する従来の方法に比べると、環境に対して過度の負荷をかけることなく3−メルカプトカルボン酸を高収率で生産性良く製造することができるという利点を有する。
【0055】
なお、本発明の方法では、本発明の効果を損なわない範囲で、上記水溶液に水以外の溶媒が少量含まれていてもよい。
水以外の溶媒としては、水溶性の溶媒が好ましく、例えば、N−アセチルモルフォリン、N−アセチルピペリジン、N−アセチルピロリジン、N−アセチルピペラジン、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N−エチル−2−ピロリドン、N−ブチル−2−ピロリドン、N−アセチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、1−エチル−2−ピロリジノン、1−メチル−2−ピペリドン、1−ブチル−2−ピロリジノン、1−エチル−2−ピペリドン、1,3−ジメチルピペリドン、1,3−ジメチル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2(1H)−ピリミジノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI)、1,3−ジエチル−2−イミダゾリジノン、2−ピロリジノン、γ−ブチロラクタム、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N−エチルホルムアミド、アセトアミド、N−メチルアセトアミド、N−エチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチルプロパンアミド、N−エチルプロパンアミドなどが挙げられる。
【0056】
このような水以外の溶媒は、上記溶媒に1種単独で含まれていてもよく、2種以上が含まれていてもよい。
上記溶媒として、上記水以外の溶媒が含まれている場合、上記溶媒(水とそれ以外の溶媒の合計100質量%)中の水以外の溶媒の量は、0質量%(全く含まない)であるか、もし、含むとしても少ないほど望ましい。上記水以外の溶媒を含む場合には、これら水以外の溶媒は、例えば、5〜30質量%であることが好ましく、さらに好ましくは5〜20質量%であることが好ましい。
【0057】
また、副反応が抑制でき、3−メルカプトカルボン酸の収率が高く、生産性に優れる、などの観点から、水などの溶媒は合計で、α,β-不飽和カルボン酸100質量部に対して、100〜2500質量部の割合で使用することが好ましく、400〜1500質量部の割合で使用することがより好ましい。
【0058】
また、溶媒の使用量がα,β-不飽和カルボン酸100質量部に対して100質量部未満であると副反応が進行しやすい傾向にあり、その場合には3−メルカプトカルボン酸の収率が低下するおそれがある。
【0059】
溶媒の使用量がα,β-不飽和カルボン酸100質量部に対して2500質量部を超えると副反応は抑制され、3−メルカプトカルボン酸の収率は向上する傾向にあるが、反応液の濃度が希釈されるため、生産性は低下する傾向がある。
【0060】
そのため、溶媒の使用量は、反応収率と生産性との兼ね合いで決定することが好ましい。
(ロ)生成物
[3−メルカプトカルボン酸]
本発明により得られる3−メルカプトカルボン酸は、式(2)で示されるように、前記式(1)のα,β-不飽和カルボン酸のα位に水素原子が結合し、また、β位にメルカプト基が結合したものである。
【0061】
前述のように、目的とする3−メルカプトカルボン酸を得るには対応するα,β-不飽和カルボン酸を原料化合物として選定すればよい。
[モノスルフィド体(MS)およびジスルフィド体(DS)]
本発明の方法においては、目的物質である前記式(2)の3−メルカプトカルボン酸以外の生成物(すなわち副生成物)として、モノスルフィド体(MS)やジスルフィド体(DS)が生成することがある。
【0062】
本発明においては、下記「(ハ)反応条件」の項目で後述する条件下で反応を行うことにより、上記MSの生成量を通常、収率15%以下、好ましくは10%以下に抑制することができ、かつ、上記DSの生成量を通常、収率5%以下、好ましくは2%以下に抑制することができる。その結果、目的物質である前記式(2)の3−メルカプトカルボン酸を高収率で生産性よく得ることが可能となる。
(ハ)反応条件
[反応濃度]
前記式(1)のα,β-不飽和カルボン酸の反応溶液中の濃度は、3〜50質量%であることが好ましく、5〜20質量%であることがより好ましい。
【0063】
前記式(1)のα,β-不飽和カルボン酸の反応溶液中の濃度が、3質量%未満では、工業的な生産性に劣る傾向にあり、また、50質量%より高いと、副反応により収率の低下を招く傾向にある。
[反応温度]
反応温度は、通常80〜200℃、好ましくは90〜180℃、より好ましくは100〜160℃である。後述の第2の態様では、通常50〜150℃であり、好ましくは80〜130℃であり、より好ましくは90〜110℃である。
【0064】
反応温度が過少であると、反応速度の低下により反応時間が長くなってしまう傾向にある点で実用的ではなくなる傾向にあり、また、反応温度が過大であるとMS,DS等の副生成物(不純物)の生成量が増加して、目的化合物である3−メルカプトカルボン酸(2)の収率が低下する傾向にある。
【0065】
使用する溶剤系に対する硫化水素の溶解度によっては、加熱により有機溶剤や硫化水素などのガスが発生するため、ガス状有機溶剤や硫化水素ガスの系外放出を防ぐ目的で閉鎖系の反応器を用いることが好ましい。
【0066】
理由は定かではないが、反応温度が過少である場合には、反応の活性化エネルギーを超えることが困難であり、その結果、反応の進行が効率よく進行しないものと推察される。
反応温度が過大である場合には、3−メルカプトカルボン酸の反応収率が低くなる傾向がある。
【0067】
その理由は、硫化水素のα,β-不飽和カルボン酸への付加反応と反応により生成するβ−メルカプトカルボン酸のα,β-不飽和カルボン酸への付加反応とのいずれもが活性化エネルギーを超えるために、両反応が同時に進行し、その結果、両反応の競争反応となり3−メルカプトカルボン酸の反応収率が低くなるのであろうと推察される。
[反応圧力(反応全圧)]
本発明における反応圧力(反応全圧)は、バッチ反応の場合には反応開始時の圧力を示し、連続式の場合には定常状態での圧力を示す。
【0068】
本発明において、連続式で上記反応を行なう場合などには、例えば、反応器に背圧弁を設置して反応圧力を調節するなどして、反応圧力を一定に保つことができる。
その一方で、本発明において、反応器として耐圧性の密閉容器(例えばオートクレーブ)を使用し、反応器内に気相が存在する条件で反応を行った場合には、反応圧力(反応全圧)は例えば次に挙げるような要因によっても変動する。反応温度を固定して考えると、反応圧力(反応全圧)を決定する要因としては、硫化水素および不活性ガスや水蒸気などを含むガスの成分量および反応器内の気相容積率が挙げられる。
【0069】
なお、本明細書における反応器内の気相容積率とは、反応器内の容積を100%とした時に、反応器内の容積において気相が占める容積の割合である。
気相容積率は、通常65%以下、好ましくは30%以下の条件に調整することが生産性などの点で好ましい。
【0070】
また、気相の存在しない反応様式の場合には、反応圧力は液相に直接かかる圧力を示す。
気相容積率は、「反応温度での反応液の重量:密度」より計算する。
【0071】
上記反応圧力(反応全圧)を決定する要因を考慮した本発明の圧力条件は次のとおりである。
反応圧力(反応全圧)は、3.5MPaG以上であれば特に上限値はないが、装置材質への影響を考慮して、通常3.5〜20.0MPaG、好ましくは5.0〜15.0MPaG(ゲージ圧)である。第2の態様では、通常3.5〜20.0MPaG、好ましくは4.0〜9.6MPaG(ゲージ圧)である。
【0072】
また、本発明においては、反応器内に気相が存在する場合、反応圧力(反応全圧)に対する硫化水素の分圧は、副生成物の生成を抑制しながら目的物質である3−メルカプトカルボン酸を高収率で生産性よく得るうえで重要となることが多い。
【0073】
気相が存在する反応様式の場合、硫化水素の分圧と反応圧力(反応全圧)との関係は、硫化水素の分圧が、通常、全圧の85%以上であり、好ましくは全圧の95%以上であることが、3−メルカプトカルボン酸の収率がよい、副生成物を抑制できる、などの点で望ましい。全圧に対する硫化水素の分圧が85%未満であると、反応溶液中の硫化水素濃度が低下して、3−メルカプトカルボン酸の反応収率が低下する傾向にある。
【0074】
また、硫化水素の分圧は、通常3.5〜20.0MPaG、好ましくは、4.0〜15.0MPaであることが、反応設備への過度の負荷がなく、効率よく3−メルカプトカルボン酸を製造できる、などの点で望ましい。
【0075】
反応圧力(反応全圧)が3.5MPaG未満であると、溶液中の硫化水素濃度が低下して、3−メルカプトカルボン酸の反応収率が低下する傾向にある。
反応圧力(反応全圧)が過大であると、反応を行うための設備への負荷が高くなる傾向にある。
【0076】
なお、反応温度にも依るが、全圧が9MPaGを超える超臨界状態となる場合がある。本発明においては、上記反応をこのような超臨界状態で行っても構わない。
なお、気相容積率が0%より大きい場合には、気相部の気体の分圧の総和(全圧)を調整することで反応圧力を調整してよく、気相容積率が0%の場合は、ポンプ等により所定の圧力まで昇圧することで反応圧力を調整してもよい。
【0077】
このような圧力条件の下、α,β-不飽和カルボン酸を硫化水素と反応させると、副生成物の生成を抑制しながら3−メルカプトカルボン酸を高収率で生産性よく得ることができる。
【0078】
これらの反応条件の中でも、反応温度が100〜160℃、気相容積率0〜30%、反応圧力が5〜15MPaであり、硫化水素のα,β−不飽和カルボン酸に対するモル倍量が3〜8モル倍量である反応条件が特に好ましい。
【0079】
なお、上記態様において、反応全圧を3.5MPaG以上とする代わりに、硫化水素の分圧を3.5〜20.0MPaGとしてもよい。
すなわち、本発明のもう1つの態様(以下、第2の態様ともいう)は、下記式(1)
【0081】
(式(1)中、Rは炭素数1〜6の直鎖状または分岐状のアルキル基を示す。)
で表されるα,β-不飽和カルボン酸と硫化水素とを塩基性化合物の存在下、水溶液(以下、「液相」ということがある。)中で反応させ、下記式(2)
【0083】
(式(2)中、Rは上記式(1)中のそれと同義である。)
で表される3−メルカプトカルボン酸を製造する方法であって、上記反応を気相部の硫化水素分圧が3.5〜20.0MPaGの圧力条件下で行うことを特徴とする3−メルカプトカルボン酸の製造方法である。
【0084】
第2の態様では、硫化水素の分圧は、ゲージ圧、水の蒸気圧より計算してもよいし、気相部の成分分析によりモル比を求めて分圧を計算する方法などにより測定してもよい。
第2の態様では、硫化水素の分圧が85%未満であると、反応溶液中の硫化水素濃度が低下し、3−メルカプトカルボン酸の反応収率が低下する傾向にある。
【0085】
全圧に対する硫化水素の分圧が3.5MPaG未満であると、溶液中の硫化水素濃度が低下し、3−メルカプトカルボン酸の反応収率が低下する傾向にある。
硫化水素の分圧が20.0MPaGを越えると、反応を行うための設備への負荷が高くなる傾向にある。
【0086】
なお、第2の態様では、上記反応圧力(反応全圧、MPaG)、全圧に対する硫化水素の分圧(%)および硫化水素の分圧(MPaG)の範囲は、それぞれ、反応温度が通常50〜150℃、好ましくは80〜130℃、より好ましくは90〜100℃であり、上記気相容積率が通常1〜65%、好ましくは1〜30%である条件の下で調整することが、生産性などの点で好ましい。
【0087】
第2の態様では、これら条件の中でも、反応温度が90〜110℃、気相容積率1〜30%、硫化水素分圧が4.0〜7.5MPaである条件下で、硫化水素のα、β−不飽和カルボン酸に対するモル倍量が3〜8モル倍量であることが特に好ましい。
[反応時間]
反応時間は、0.08〜5.0時間、好ましくは0.1〜5.0時間とすることができる。一般的には、0.3〜3.0時間、好ましくは0.5〜3.0時間で反応は終了する。
【0088】
反応の終点は、原料化合物の転化率および3−メルカプトカルボン酸の反応液中の濃度を、例えば高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、ガスクロマトグラフィー(GC)などで分析することにより判断してもよい。
[水素イオン濃度(pH)]
本発明で用いられる反応において、反応液中の水素イオン濃度(反応液のpH)は、主に塩基性化合物量およびα、β−不飽和カルボン酸の使用量により決定され、概ね、下記の条件を満たすことが好ましい。
【0089】
なお、反応液中の水素イオン濃度(反応液のpH)については、次の通り測定することとする。
反応後の反応液のpHは、反応容器を開け、加圧下で反応溶液に溶解していた過剰の硫化水素ガスが気化して1気圧での飽和溶解状態になるまで反応溶液を25℃で十分放置したあとに、反応溶液の温度が25℃の条件下で測定する。
【0090】
反応後のpHは、反応速度、収量、収率などの観点から、pH2.0〜9.0であることが好ましく、pH2.5〜8.0であることがより好ましい。第2の態様では、pH3.0〜9.0であることが好ましく、pH4.0〜8.0であることが好ましい。
【0091】
pHが過少の時には、反応の進行が遅くなる傾向にあり、pHが過大の時には、副反応の進行が早くなる傾向があり、いずれの場合も目的物の収量が低下する傾向にある。
理由は定かでは無いが、反応液のpHが過少の場合には、硫化水素の酸解離定数(pKa)よりも前記pHに対応する反応液のpKaが低いために活性種である硫黄アニオン(HS
-)の生成が少なくなり、目的物質である3−メルカプトカルボン酸の収率が低下すると推察される。
【0092】
反応液のpHが過大の時には、硫化水素由来の硫黄アニオンと生成物であるβ−メルカプトカルボン酸類に由来する硫黄アニオンの両者のpKaよりも前記pHに対応する反応液のpKaが高くなり、いずれのアニオンも原料化合物であるα,β-不飽和カルボン酸類と反応してしまい、硫化水素と反応するα,β-不飽和カルボン酸類の量が低下するために収率が低下すると推察される。
(ニ)生成物の精製方法
[精製]
反応終了後の系から3−メルカプトカルボン酸を精製(単離)する方法としては、特に制限はなく、例えば以下の方法を採用することができる。
【0093】
例えば、生成物の3−メルカプトカルボン酸が含まれた溶液(反応混合物)から、溶媒に不溶な固形成分をろ過により除去した後、反応混合物を蒸留することにより、3−メルカプトカルボン酸を精製(単離)する方法(直接蒸留法)を採用することができる。その他の方法としては、例えば、反応混合物に酢酸エチル、トルエンあるいはエーテル系溶媒などの有機溶剤を加えてβ−メルカプトカルボン酸類を抽出し、次いで有機相と水相とに分離して、有機相分を蒸留する方法(抽出蒸留法)等を採用することができる。
【0094】
蒸留精製の場合、蒸留に用いる蒸留装置は特に制限されず、回分式蒸留装置、連続式蒸留装置、塔型式蒸留装置などの公知の蒸留装置を使用することができる。
工業的に大量に蒸留する場合には、品質の安定化や生産性向上などの観点より、加熱器、精留塔および凝縮器からなる連続精留装置を使用することが好ましい。
【0095】
目的とする3−メルカプトカルボン酸が常温で固体の化合物である場合には、通常、再結晶法が適用可能である。
再結晶法としては、3−メルカプトカルボン酸の溶解度が低い貧溶媒を利用する貧溶媒晶析、酸若しくは塩基を系内に添加して系内を中和することを利用する中和晶析、または反応液の冷却を利用する冷却晶析など、いずれの形態でもよい。
【0096】
本発明は、以上のような条件を満たしているので、3−メルカプトカルボン酸を高収率で生産性よく得ることができ、しかも、副生成物である(ジ)スルフィド化合物の生成を抑制することができる。
【0097】
また、本発明によれば、溶剤として水を使用していることから環境に大きな負荷をかけることなく、3−メルカプトカルボン酸を製造できる。
(ホ)バッチ法と連続法
本発明においては、α,β−不飽和カルボン酸と溶媒、硫化水素、アルカリの各原料を予め反応器に投入しておくバッチ法や、各原料を混合液の状態でもしくはそれぞれ別個に連続的に投入して反応液を連続的に抜き出す連続法を採用することができる。
【実施例】
【0098】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、反応開始時間は所定の反応温度になった時を示し、反応開始圧力はそのときの圧力を示す。
【0099】
反応時間は、所定温度になった時点からの時間を示す。
H
2S当量数とは、クロトン酸1当量に対するH
2Sの当量数を示す。
NaOH当量数とは、クロトン酸1当量に対するNaOHの当量数を示す。
【0100】
気相容積率とは、耐圧反応器内の容積を100%とした時の耐圧反応器中の気相が占める容積の割合を示す。
気相容積率は、反応液の密度と重量より反応液の体積を計算することにより求めた。
【0101】
具体的には、反応器の容積を予め量っておき、反応器の容積と反応液の体積の差から気相容積を求めた。
硫化水素分圧は、次の通り求めた。
【0102】
反応液が所定の反応温度に達した時の反応全圧(ゲージ圧)を測定し、反応温度での水の蒸気圧(文献値、例えば、化学便覧基礎編II、改定5版(社団法人日本化学会編集、丸善株式会社発行(平成16年2月20日発行))の182頁に記載の値)を差し引いて硫化水素の分圧とした。
【0103】
なお、原料であるクロトン酸及び生成物である3−メルカプトブタン酸の蒸気圧は非常に低いので、これら蒸気圧は無視して上記計算を行った。
「pH」は、参考値であり、以下の構成のpHメーターを用いて25℃で測定した。
【0104】
pH計: 東京硝子器械株式会社製、デジタルpHコントローラー 型式FD-02
pH電極: 東京硝子器械株式会社製、pHコントローラー用電極 型式:CE-108C
実施例中の各成分は高速液体クロマトグラフィー分析(以下、「HPLC分析」という。)で測定した。その分析条件は以下の通りである。
【0105】
カラム:昭和電工株式会社製 Shodex NN−814(長さ20cm、内径0.5cm)、
カラム温度:40℃、
溶離液:0.1%H
3PO
4、8mM−KH
2PO
4、
流量:1.5mL/ min、
検出:RI、UV(検出波長210nm)。
【0106】
なお、バッチ法による下記実施例、比較例においては、反応器として密閉容器(オートクレーブ)を使用しているため、反応温度を固定した場合には、反応圧力を決定する要因として、「ガス成分の量」および「反応器内の気相容積率」の2つが挙げられる。
【0107】
これら2つの要因が作用することを考慮して、下記の通り実施例、比較例を実施した。
○バッチ法の実施例
「クロトン酸1当量に対するH
2Sの当量比を一定としたとき」
[実施例1]
材質が「ハステロイC」(登録商標、ヘインズ社(Haynes International)製)であり内容積が500mlであるオートクレーブ(耐圧硝子社製)に液化H
2S(41.5g(1.22mol)、住友精化社製)を投入し、その後クロトン酸(26.4g(0.30mol)、東京化成社製)とNaOH(18.4g(0.46mol)、純正化学社製)を精製水(イオン交換水を蒸留したもの、325g)に溶かした液を投入した。この際、前述の方法で気相容積率を測定したところ約20%であった。
【0108】
次いで、オートクレーブを密閉状態とし、攪拌しながら耐圧反応器を内温が100℃になるように加熱した。耐圧反応器の内温が100℃に達したときの内圧は4.7MPaG(ゲージ圧)であり、硫化水素の分圧は(4.6MPaG)であった。その後2時間反応させた。
【0109】
反応終了後、耐圧反応器を25℃まで冷却し、次いでオートクレーブの密閉状態を開放して耐圧反応器内の圧力を大気圧(ゲージ圧0.0MPaG)まで25℃で30分間かけて戻し、さらに、25℃で10分間攪拌して過剰のH
2Sを除去した。
【0110】
次いで、このようにして得られたオートクレーブ内の反応液をサンプリングし、HPLCを用いて前述の条件でサンプリング液を分析した結果、得られた3MBAの量は35.3g(0.29mol、収率96%)であった。また副生成物として、MS体が1.2g(0.006mol、収率4%)の量で生成していることが確認された。また、DS体については検出されなかった(収率0%)。
【0111】
結果を表1に示す。なお、収率の算出について、3MBAについては、原料CAのモル数から算出した。MS、DSについては、CA:2分子からMS:1分子が生成し、また、CA:2分子からDS:1分子が生成するため、それぞれにおいて、生成モル数を2倍にして計算した。後述する実施例および比較例においても、前記と同様の方法で3MBA、MSおよびDSの収率をそれぞれ求めた。
[実施例2〜5]
実施例1において、原料の仕込み量、H
2S当量、気相容積率および反応圧力を表1の通りに変えた以外は、実施例1と同様の方法で反応を行った。
【0112】
結果を表1に示す。
[比較例1]
200mlのナスフラスコに、70%水硫化ナトリウム(硫化水素ナトリウム、NaSH)(24.8g(0.31mol)、純正化学社製)とクロトン酸(9.0g(0.10mol)、東京化成社製)を加え、精製水(イオン交換水を蒸留したもの)68gをさらに加えて、精製水に70%水硫化ナトリウムおよびクロトン酸を溶解した。
【0113】
得られた水溶液を攪拌しながら、常圧下、100℃で5時間反応を行った。
得られた反応液をサンプリングし、HPLCを用いて前述の条件でサンプリング液を分析した結果、得られた3MBAの量は4.65g(0.04mol、37%)であった。
【0114】
また副生成物として、MS体が6.3g(0.03mol、59%)、DS体が0.5g(0.002mol、4%)の量で生成していることが確認された。
[比較例2、3]
実施例1において、原料の仕込み量、H
2S当量、気相容積率および反応圧力を表1の通りに変えた以外は、実施例1と同様の方法で反応を行った。
【0115】
結果を表1に示す。
【0116】
【表1】
【0117】
「反応圧力を一定としてH
2S当量を変化させたとき」
[実施例6]
実施例1において、原料の仕込み量、H
2S当量、気相容積率および反応圧力を表2の通りに変えた以外は、実施例1と同様の方法で反応を行った。
【0118】
結果を表2に示す。
なお、表2内で比較検討が行いやすいように、前述の実施例2の結果についても併せて表2に示す。
【0119】
【表2】
【0120】
「気相容積率を一定としたとき」
[実施例7,8]
実施例1において、原料の仕込み量、H
2S当量、気相容積率および反応圧力を表3の通りに変えた以外は、実施例1と同様の方法で反応を行った。
【0121】
結果を表3に示す。
[比較例4]
実施例1において、原料の仕込み量、H
2S当量、気相容積率および反応圧力を表3の通りに変えた以外は、実施例1と同様の方法で反応を行った。
【0122】
結果を表3に示す。
なお、表3内で比較検討が行いやすいように、前述の実施例2および3の結果についても併せて表3に示す。
【0123】
【表3】
【0124】
「塩基性化合物をNaOHからCa(OH)
2に変更したとき」
[実施例9]
材質が「ハステロイC」(登録商標、ヘインズ社(Haynes International)製)であり内容積が500mlのオートクレーブ(耐圧硝子社製)に液化H
2S(46.7g(1.37mol)、住友精化社製)を投入し、その後クロトン酸(29.7g(0.35mol)、東京化成社製)とCa(OH)
2(19.2g(0.26mol)、純正化学社製)を精製水(イオン交換水を蒸留したもの、325g)に溶かした液を投入した。この際、前述の方法で気相容積率を測定したところ約20%であった。
【0125】
次いで、オートクレーブを密閉状態とし、攪拌しながら耐圧反応器を内温が100℃になるように加熱した。耐圧反応器の内温が100℃に達したときの内圧は7.0MPaG(ゲージ圧)であり、硫化水素の分圧は(6.9MPaG)であった。その後2時間反応させた。
【0126】
反応終了後、耐圧反応器を25℃まで冷却し、次いでオートクレーブの密閉状態を開放してオートクレーブ(耐圧反応器)内の圧力を大気圧(ゲージ圧0.0MPaG)まで25℃で30分間かけて戻し、さらに25℃で10分間攪拌して過剰のH
2Sを除去した。
【0127】
次いで、このようにして得られたオートクレーブ内の反応液をサンプリングし、HPLCを用いて前述の条件でサンプリング液を分析した結果、得られた3MBAの量は37.7g(0.31mol、91%)であった。また副生成物として、MS体が3.1g(0.015mol、9%)の量で生成していることが確認された。また、DS体については検出されなかった(収率0%)。
【0128】
結果を表4に示す。
【0129】
【表4】
【0130】
○連続法の実施例
「連続法においてH
2S当量数を変化させたとき」
[実施例10]
材質が「SUS316」であり内容積が53mlであるステンレスチューブ316(GL Sciences社製)を160℃に予熱した。
【0131】
次いで、6.78質量%のクロトン酸(東京化成社製)、0.33質量%の48%NaOH水溶液および92.89質量%の精製水(イオン交換水を蒸留したもの)を混合して調節した液(液全体量を100質量%とする)と、液化H
2S(住友精化社製)とを、それぞれ供給量1.59g/minおよび0.14g/min(4.12mmol/min)の条件で、ステンレスチューブの入り口部分に設置されたスタティックミキサーを介して均一に混合しながら上記ステンレスチューブに連続的に注入した。
【0132】
次いで、ステンレスチューブの出口に設置した背圧弁で反応圧力を12.0MPaG(ゲージ圧)に調節し、次いで、滞留時間が30分となるように、原料を上記供給量(g/min)でステンレスチューブに連続的に投入すると共に、反応液をステンレスチューブから連続的に抜出した。
【0133】
連続的に抜出している反応液をサンプリングし、HPLCを用いて前述の条件でサンプリング液を分析した結果、滞留時間内で得られた3MBAの量は3.97g(0.033mol、88%)であった。また副生成物として、MS体が0.39g(0.002mol、10%)の量で生成していることが確認された。また、DS体は検出されなかった(収率0%)。反応後の反応液のpHは3.5であった。
【0134】
結果を表5に示す。
[実施例11、12]
実施例10において、硫化水素の当量数を表5の通りに変えた以外は、実施例10と同様の方法で反応を行った。
【0135】
結果を表5に示す。
[実施例13]
材質が「SUS316」であり内容積が108mlであるステンレスチューブ316(GL Sciences社製)を160℃に予熱した。
【0136】
次いで、6.78質量%のクロトン酸(東京化成社製)、0.98質量%の48%NaOH水溶液および92.24質量%精製水(イオン交換水を蒸留したもの)を混合して調製した液(液全体量を100質量%とする)と、液化H
2S(住友精化社製)とを、それぞれ供給量3.5g/minおよび0.263g/min(7.74mmol/min)の条件で、ステンレスチューブの入り口部分に設置されたスタティックミキサーを介して均一に混合しながら上記ステンレスチューブに連続的に注入した。
【0137】
次いで、ステンレスチューブの出口に設置した背圧弁で反応圧力を7.0MPaG(ゲージ圧)に調節し、次いで、滞留時間30分となるように、原料を上記供給量(g/min)でステンレスチューブに連続的に投入すると共に、反応液をステンレスチューブから連続的に抜出した。
【0138】
連続的に抜出している反応液をサンプリングし、HPLCを用いて前述の条件でサンプリング液を分析した結果、滞留時間内で得られた3MBAの量は8.18g(0.068mol、93%)であった。また副生成物として、MS体が0.53g(0.003mol、7%)、また、DS体は検出されなかった(収率0%)。反応後の反応液のpHは7.7であった。
【0139】
結果を表5に示す。
[実施例14−16]
実施例13において、硫化水素の当量数を表5の通りに変えた以外は、実施例13と同様の方法で反応を行った。
【0140】
結果を表5に示す。
【0141】
【表5】
【0142】
「連続法においてNaOH当量数を変化させたとき」
[実施例17]
材質が「SUS316」であり内容積が53mlであるステンレスチューブ316(GL Sciences社製)を160℃に予熱した。
【0143】
次いで、6.78質量%のクロトン酸(東京化成社製)、0.17質量%の48%NaOH水溶液および93.05質量%の精製水(イオン交換水を蒸留したもの)を混合して調整した液(液全体量を100質量%とする)と、液化H
2S(住友精化社製)とを、それぞれ供給量2.39g/minおよび0.27g/min(7.94mmol/min)の条件で、ステンレスチューブの入り口部分に設置されたスタティックミキサーを介して均一に混合しながら上記ステンレスチューブに注入した。
【0144】
次いで、反応器出口に設置した背圧弁で反応圧力を12.0MPaG(ゲージ圧)に調節し、次いで、滞留時間20分となるように、原料を上記供給量(g/min)でステンレスチューブに連続的に投入すると共に、反応液をステンレスチューブから連続的に抜出した。
【0145】
連続的に抜出している反応液をサンプリングし、HPLCを用いて前述の条件でサンプリング液を分析した結果、滞留時間内で得られた3MBAの量は3.75g(0.031mol、83%)であった。また副生成物として、MS体が0.19g(0.001mol、5%)、また、DS体は検出されなかった(収率0%)。また、反応後の反応液のpHは3.1であった。
【0146】
結果を表6に示す。
[実施例18-20]
実施例17において、NaOHの当量数を表6の通りに変えた以外は、実施例17と同様の方法で反応を行った。
【0147】
結果を表6に示す。
【0148】
【表6】
【0149】
「連続法において反応温度を変化させたとき」
[実施例21]
材質が「SUS316」であり内容積が118mlであるステンレスチューブ316(GL Sciences社製)を180℃に予熱した。
【0150】
次いで、6.78質量%のクロトン酸(東京化成社製)、0.32質量%の48%NaOH水溶液および92.90質量%の精製水(イオン交換水を蒸留したもの)を混合して調整した液(液全体量を100質量%とする)と、液化H
2S(住友精化社製)とを、それぞれ供給量3.33g/minおよび0.37g/min(10.9mmol/min)の条件で、ステンレスチューブの入り口部分に設置されたスタティックミキサーを介して均一に混合しながら上記ステンレスチューブに連続的に注入した。
【0151】
尚、上記操作においては、ステンレスチューブの入り口部分にスタティックミキサーを設置して、均一に混合された硫化水素とクロトン酸調製液をステンレスチューブに注入した。
【0152】
次いで、反応器出口に設置した背圧弁で反応圧力を12.0MPaG(ゲージ圧)に調節し、次いで、滞留時間30分となるように、原料を上記供給量(g/min)でステンレスチューブに連続的に投入すると共に、反応液をステンレスチューブから連続的に抜出した。
【0153】
連続的に抜出している反応液をサンプリングし、HPLCを用いて前述の条件でサンプリング液を分析した結果、滞留時間内で得られた3MBAの量は8.79g(0.073mol、93%)であった。また副生成物として、MS体が0.57g(0.003mol、7%)の量で生成していることが確認された。また、DS体は検出されなかった(収率0%)。反応後の反応液のpHは3.5であった。
[実施例22−27]
実施例21において、反応温度または滞留時間を表6の通りに変えた以外は、実施例21と同様の方法で反応を行った。
【0154】
結果を表7に示す。
【0155】
【表7】