(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5713957
(24)【登録日】2015年3月20日
(45)【発行日】2015年5月7日
(54)【発明の名称】換気ダクト用サイレンサ
(51)【国際特許分類】
F24F 13/02 20060101AFI20150416BHJP
G10K 11/16 20060101ALI20150416BHJP
E04B 1/82 20060101ALI20150416BHJP
【FI】
F24F13/02 H
G10K11/16 B
E04B1/82 S
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-108212(P2012-108212)
(22)【出願日】2012年5月10日
(65)【公開番号】特開2013-234808(P2013-234808A)
(43)【公開日】2013年11月21日
【審査請求日】2014年1月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀧山 翔太
【審査官】
佐藤 正浩
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−170737(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3146817(JP,U)
【文献】
特開2002−303117(JP,A)
【文献】
実開昭56−138110(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 13/02
E04B 1/82
G10K 11/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
屋内から屋外へ通じる、換気装置と換気口との間を連通させる換気ダクトに連結される内筒と、
上記内筒の外側を密閉状に囲む外筒とを備えた換気ダクト用サイレンサであって、
上記外筒は、消音部材が内蔵される第1消音室と、該第1消音室に軸方向に並んで設けられて該消音部材が内蔵されない第2消音室とを有し、
上記内筒は、
上記第1消音室との間を連通させ、上記換気口からの騒音を上記消音部材へ送る複数の第1連通孔と、
上記第2消音室との間を連通させる軸方向に並んだ複数の第2連通孔とを有し、
上記第1消音室の下面側には、上記第1連通孔が設けられない液体ガイド部が形成され、
上記第2連通孔は、上記液体ガイド部の軸方向延長線上に上記内筒の軸方向に沿って配列されている
ことを特徴とする換気ダクト用サイレンサ。
【請求項2】
請求項1に記載の換気ダクト用サイレンサにおいて、
上記第1消音室は、上記換気装置側に配置され、
上記第2消音室は、上記換気口側に配置されるように構成されている
ことを特徴とする換気ダクト用サイレンサ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の換気ダクト用サイレンサにおいて、
上記第1消音室と上記第2消音室との間に消音部材が内蔵される第3消音室が設けられ、
上記内筒において、上記第3消音室の上記第1消音室側には、円周方向に上記第1連通孔が配置され、該第3消音室の下面側に該第1連通孔のない上記液体ガイド部が延びると共に、上記第3消音室の第2消音室側には、上記液体ガイド部の軸方向延長線上に上記内筒の軸方向に沿って上記第2連通孔が延びてきている
ことを特徴とする換気ダクト用サイレンサ。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1つに記載の換気ダクト用サイレンサにおいて、
上記外筒は、断面がオーバル型であり、
上記第2連通孔及び上記液体ガイド部は、上記内筒の下面側に位置する短軸部分に該内筒の軸方向に沿って配列されている
ことを特徴とする換気ダクト用サイレンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、換気口から屋内に入ってくる騒音を消音する換気ダクト用サイレンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、住宅や店舗には、厨房の空気を屋外へ強制的に排出する換気ダクトが設けられている。この換気ダクトは、換気装置と屋外へ連通する換気口とをつなぐため、屋外の騒音が屋内に伝わるという問題がある。
【0003】
そこで、例えば、特許文献1のように、内筒と外筒との間に空気層と吸音材とを備えたダクト用サイレンサを換気ダクトに接続することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−170739号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1のサイレンサでは、騒音の250Hzの消音量は、5dB未満であるが、高周波域を吸音体によって30dB以上消音しており、過剰性能と考えられる。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、換気ダクトに屋外から伝わる騒音の高周波域と低周波域とをバランスよく消音することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、この発明では、サイレンサに高周波域を消音する消音室と低周波域を消音する消音室とを設けた。
【0008】
具体的には、第1の発明では、屋内から屋外へ通じる
、換気装置と換気口との間を連通させる換気ダクトに連結される内筒と、
上記内筒の外側を密閉状に囲む外筒とを備えた換気ダクト用サイレンサであって、
上記外筒は、消音部材が内蔵される第1消音室と、該第1消音室に軸方向に並んで設けられて該消音部材が内蔵されない第2消音室とを有し、
上記内筒は、
上記第1消音室との間を連通させ、上記換気口からの騒音を上記消音部材へ送る複数の第1連通孔と、
上記第2消音室との間を連通させる軸方向に並んだ複数の第2連通孔とを有
し、
上記第1消音室の下面側には、上記第1連通孔が設けられない液体ガイド部が形成され、
上記第2連通孔は、上記液体ガイド部の軸方向延長線上に上記内筒の軸方向に沿って配列されている。
【0009】
上記の構成によると、第1連通孔を通った音は、第1消音室に至って消音部材にて高周波域が消音される。消音部材の量を調整することで、高周波域の消音度合いの調整が可能である。そして、軸方向に並んだ第2連通孔を通った音は、第2消音室内へ急激に広がることで、低周波域の音が消音される。このように、高周波域及び低周波域の音が適度に消音されるので、屋内へ騒音が伝わりにくい
。また、第1連通孔が設けられない液体ガイド部を設けることで、内筒内を伝わってきた液体が第1消音室内に入り込んで消音部材に吸収されるのが避けられる。
【0010】
第
2の発明では、第
1の発明において、
上記第1消音室は、上記換気装置側に配置され、
上記第2消音室は、上記換気口側に配置されるように構成されている。
【0011】
すなわち、通常は換気ダクトは、内部の液体を排出するために換気装置側から換気口側へ若干下向きに傾けられているので、換気ダクト内に水分や油分が溜まると、換気口側へ流れるようになっている。しかし、上記の構成によると、消音部材のある第1消音室よりも換気口側へ第2消音室を配置しているので、消音部材が液体を吸収しない。
【0012】
第
3の発明では、第
1又は第2の発明において、
上記第1消音室と上記第2消音室との間に消音部材が内蔵される第3消音室が設けられ、
上記内筒において、上記第3消音室の上記第1消音室側には、円周方向に上記第1連通孔が配置され、該第3消音室の下面側に該第1連通孔のない上記液体ガイド部が延びると共に、上記第3消音室の第2消音室側には、上記液体ガイド部の軸方向延長線上に上記内筒の軸方向に沿って上記第2連通孔が延びてきている。
【0013】
上記の構成によると、第3消音室において、第2連通孔からの空間の急拡大と消音部材による吸音との両方の消音効果により、中周波域の騒音も低下させることができる。
【0014】
第4の発明では、第1乃至第3のいずれか1つの発明において、
上記外筒は、断面がオーバル型であり、
上記第2連通孔
及び上記液体ガイド部は、上記内筒の下面側に位置する短軸部分に該内筒の軸方向に沿って配列されている。
【0015】
上記の構成によると、第2連通孔を通った音が長軸側の左右のより広い空間へ一気に広がることにより、低周波域の消音効果が有効に発揮される。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明によれば、内筒の外周に、消音部材が内蔵される第1消音室と、消音部材が内蔵されない第2消音室とを軸方向に並べて設け、複数の第1連通孔によって第1消音室との間を連通させて換気口からの騒音を消音部材へ送ると共に、軸方向に並んだ複数の第2連通孔によって第2消音室との間を連通させることにより、換気ダクトに屋外から伝わる騒音の高周波域と低周波域とをバランスよく消音することができる。
また、第1連通孔が設けられない液体ガイド部により、内筒内を伝わってきた液体が第1消音室内に入り込んで消音部材に吸収されるのを効果的に避けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】外筒の一部を破断した、本発明の実施形態にかかる換気ダクト用サイレンサを示す底面図である。
【
図2】換気ダクト用サイレンサが連結された換気ダクトシステムの概略を示す正面図である。
【
図3】換気ダクト用サイレンサを示す斜視図である。
【
図4】第1消音室が見えるように一部破断した換気ダクト用サイレンサを示す斜視図である。
【
図5】内筒及び仕切板の下面側を示す斜視図である。
【
図6】内筒、仕切板及び消音部材の下面側を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
図2は本発明の実施形態の換気ダクト用サイレンサ1が連結された厨房の換気システム2の概略を示す。この換気システム2は、換気扇を内蔵した換気装置3を有し、この換気装置3と屋外へ通じる換気口4との間が円管状の換気ダクト5によって連結されている。換気ダクト5は、換気装置3側から換気口4側へ若干下向きに傾けられている。
【0020】
そして、この換気ダクト5の換気装置3と換気口4との間には、換気ダクト用サイレンサ1が連結されている。
【0021】
図3〜
図5に示すように、換気ダクト用サイレンサ1は、換気ダクト5に連結される円管状の内筒7と、この内筒7の外側を密閉状に囲む断面が左右対称のオーバル型(長円形)の外筒8とを備えている。内筒7及び外筒8は、例えば、亜鉛鋼板、ステンレス鋼板等の製缶品よりなる。
【0022】
図1に示すように、外筒8の内部を下面側から見ると、外筒8は、内部に第1消音室10と第2消音室11とを有する。例えば、第1消音室10は、換気装置3側に配置され、仕切板12により、軸方向(長手方向)に2つに分割されている。この分割された各第1消音室10内に撥水性のガラスウール、ロックウールなどよりなる消音部材13が内蔵されている。なお、消音部材13の材料や量を調整することで、高周波域の消音度合いの調整が可能である。
【0023】
一方、第2消音室11は、第1消音室10に軸方向に並んで換気口4側に設けられ、消音部材13は内蔵されていない。
【0024】
そして、
図5にも示すように、内筒7は、第1消音室10との間を連通させ、換気口4からの騒音を消音部材13へ送る複数の第1連通孔15を備えている。第1連通孔15は第1消音室10に対応する領域の円周の大部分にわたって設けられているが、第1消音室10の下面側には、第1連通孔15が設けられない液体ガイド部16が形成されている。第1連通孔15の内径や個数については特に制限はなく、換気ダクト用サイレンサ1の大きさ、消音部材13の特性、騒音の程度等にあわせて設ければよい。
【0025】
一方、第2消音室11に対応する内筒7の部分には、第2消音室11との間を連通させる軸方向に並んだ複数の第2連通孔17が設けられている。これら第2連通孔17は、内筒7の下面側の外筒8の短軸部分に相当する位置(つまり下面)に内筒7の軸方向に沿って配列されている。第1連通孔15の内径や個数についても特に制限はない。
【0026】
このように構成することにより、換気口4から入ってきた騒音は、換気ダクト用サイレンサ1の内筒7を通り、まず、第2連通孔17に至る。騒音は、下面側に位置する軸方向の狭い範囲に並んだ第2連通孔17を通って第2消音室11内で広がる。このとき、第2連通孔17を通った音が長軸側の左右の広い空間へ一気に広がることにより、低周波域の音が消音される。
【0027】
さらに内筒7を進んだ騒音は、第1連通孔15を通り、第1消音室10に至って消音部材13にて高周波域が消音される。
【0028】
このように、高周波域及び低周波域の音が適度に消音されるので、換気装置3の部分から屋内へ騒音が伝わりにくい。
【0029】
なお、製作都合上の隙間により、第1消音室10及び第2消音室11が完全に密閉されない場合があるが、消音機能に影響はない。
【0030】
また通常、換気ダクト5は換気装置3側から換気口4側へ若干下向きに傾けられているので、換気ダクト5内に水分や油分が溜まると、換気口4側へ流れるようになっている。しかし、第1消音室10に第1連通孔15が設けられない液体ガイド部16を設けたので、内筒7内を伝わってきた液体は、液体ガイド部16を伝って第2消音室11側へ流れる。このため、液体が第1消音室10内に入り込んで消音部材13に吸収されることはない。
【0031】
したがって、本実施形態にかかる換気ダクト用サイレンサ1によると、換気ダクト5に屋外から伝わる騒音の高周波域と低周波域とをバランスよく消音することができる。
【0032】
−実施例−
実施例及び比較例の換気ダクト用サイレンサのために、長さ500mm、短軸152及び長軸272mmの外筒8と、直径148mmの内筒7とをそれぞれ用意する。
【0033】
(1)実施例
液体ガイド部16の幅を91mmとし、それ以外の部分に第1連通孔15を設けた。2つの第1消音室10の長さをそれぞれ150mmとし、それぞれに消音部材13を詰め込んだ。
【0034】
また、第2消音室11の長さを200mmとし、第2連通孔17の幅を37mmとし、それ以外の部分には第2連通孔17を設けなかった。
【0035】
このように構成して上記実施形態と同様の換気ダクト用サイレンサ1を用意した。
【0036】
(2)比較例
外筒8内に仕切板12を設けず、内筒7の対応部分の全面に第1連通孔15を設け、外筒8の全体に消音部材13を詰め込んで、比較例の換気ダクト用サイレンサを用意した。
【0037】
(3)試験方法
半無響室に換気ダクト5に連結された実施例又は比較例の換気ダクト用サイレンサを配置し、換気ダクト5の換気口4と反対側を残響室まで延ばし、半無響室で発生させたノイズが換気ダクト用サイレンサを通った後、残響室においてどのように変化したかを複数のマイクから測定した。
【0038】
(4)試験結果
250Hz、500Hz、1kHzでの消音効果が10dB以上であることを合格基準とした。
図7では、挿入損失が大きいほど消音効果が高いことを意味する。
【0039】
図7に示すように、比較例では2kHzでの消音効果が過剰によいが、250Hz及び500Hzでは合格基準を満たさない。
【0040】
一方、実施例では、比較例に比べて2kHzの消音効果が減っているが、250Hz及び500Hzの消音効果が改善しており、全て合格基準を満たすことがわかった。
【0041】
−実施形態の変形例−
図8及び
図9は本発明の実施形態の変形例にかかる換気ダクト用サイレンサ101を示し、第3消音室20を有する点で上記実施形態と異なる。なお、本変形例では、
図1〜
図6と同じ部分については同じ符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0042】
本変形例の換気ダクト用サイレンサ101では、第1消音室10と第2消音室11との間に、中周波域に対する消音効果を奏する第3消音室20が設けられている。
【0043】
具体的には、内筒107において、第3消音室20の第1消音室10側には、第1消音室10に設けた第1連通孔15と同様に円周方向に第1連通孔15が配置され、第1連通孔15のない液体ガイド部16も延びてきている。そして、内筒107における第3消音室20の第2消音室11側には、第2消音室11に設けた第2連通孔17と同じ幅で第2連通孔17が延びてきている。
【0044】
また、第1消音室10と第3消音室20のほぼ全体に消音部材13が配置されている。
【0045】
このように構成することにより、第1消音室10及び第2消音室11では、上記実施形態と同様の作用効果が得られる。また、第3消音室20においては、第
2連通孔1
7からの空間の急拡大と消音部材13による吸音との両方の消音効果により、中周波域の騒音も低下させることができる。
【0046】
(その他の実施形態)
本発明は、上記実施形態について、以下のような構成としてもよい。
【0047】
すなわち、上記実施形態では、第1消音室10側を換気装置3側に配置したが、第2消音室11側を換気装置3側に配置してもよい。しかし、液体の排出を考えると、上記実施形態のように第1消音室10側を換気装置3側に配置するのがよい。なお、上記実施形態では、屋内に強制的に換気を行う換気装置3を設ける例を示したが、換気装置3のない、単純に通気だけを行う場合にも、本発明は適用可能である。
【0048】
また、上記実施形態では、第2消音室11内で第2連通孔17を内筒7,107の下面側に配置したが、上面側、又は上面側と下面側に配置してもよい。
【0049】
上記実施形態では、外筒8の断面形状をオーバル型(長円形)としたが、楕円形としてもよい。また、円形としてもよいが、第1連通孔15からの空間の急拡大の効果を考えると、オーバル型が望ましい。
【0050】
上記実施形態では、第1消音室10内を1枚の仕切板12で仕切ったが、2枚以上の仕切板12で仕切ってもよく、仕切板12で仕切らなくてもよい。
【0051】
さらに、上記実施形態では、換気ダクト用サイレンサ1,101を厨房の換気システム2に設けたが、これに限定されず、トイレ、寝室、風呂等の換気システムに設けてもよい。
【0052】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物や用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0053】
以上説明したように、本発明は、厨房の換気システムなどに使用される換気ダクト用サイレンサについて有用である。
【符号の説明】
【0054】
1 換気ダクト用サイレンサ
2 換気システム
3 換気装置
4 換気口
5 換気ダクト
7 内筒
8 外筒
10 第1消音室
11 第2消音室
12 仕切板
13 消音部材
15 第1連通孔
16 液体ガイド部
17 第2連通孔
20 第3消音室
101 換気ダクト用サイレンサ
107 内筒